説明

不透明な被膜用の組成物、被膜を持つランプ、及びその形成方法

【課題】 ランプのガラス面上に不透明な銀白色の被膜を形成する。
【解決手段】 キャリア液体の中にカルボニル鉄粉末及びアルミニウム粉末の混合物を有する懸濁液を、ランプの外囲器に適用する。次いで懸濁液を乾燥させ、その後、懸濁液から残留する組成物を500℃を越える温度で焼成する。また、ガラス外囲器と、該ガラス外囲器の少なくとも一部分を被覆する単一層の不透明な被膜とを持つランプも開示する。不透明な被膜は50〜80重量%のカルボニル鉄と20〜50重量%の元素アルミニウムとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス面上に、特にランプ上に、不透明な銀白色の被膜を形成するための組成物、及びこのような不透明な銀白色の被膜を形成するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガラス外囲器を持つランプの様々な部分に不透明な被膜を適用することが当該技術分野において公知である。典型的な例は、車両の前照灯からの直接的な(すなわち、反射されていない)光ビームの放出を防止するために、自動車用ランプの先端部を被覆することである。車両の前照灯内のランプから放出される光は、他の運転者の目をくらますことがないように、制御された態様で道路上へ投射される。従って、投射用光学装置によって制御されることなくランプから直接に前方へ放出される光は、金属被覆遮蔽体によって、或いはランプ表面に直接適用された不透明な層又は被膜によって、ランプから出て行かないようにされている。
【0003】
このような不透明な層の使用法が、とりわけ、米国特許第4305016号及び同第6270237号に記載されている。例えば、米国特許第4305016号には、不透明な層を形成するための適当な組成物を得るために、カルボニル鉄及びシリコン粉末を混合し、更にキャリア液体としてブタノールを用いて懸濁液を形成することが開示されている。懸濁液を乾燥させて、その金属粉末混合物を焼成することにより、安定で硬い不透明な被膜が形成される。しかしながら、この被膜はほぼ黒色である。近年では、主に審美的な理由により、黒色被膜の代わりに銀白色の被膜をランプに設けることが要求されている。
【0004】
この要求を満すために、米国特許第6270237号ではランプ上に二重層を設けることが提案されている。銀白色の外観を与える金属層を様々な金属、例えば、Ag,Al,Niなど、及びそれらの混合物で作ることが提案されている。この金属層とガラスとの間には光吸収特性を持つ別の層が配置される。この層は本質的の黒色であり、Fe,Mn,Ti又はSiで作ることができる。米国特許第6270237号の開示によれば、この光吸収層の目的は金属層から反射器へ向かう光の反射を防止することである。この配置構成には、付加的な層について必要とされる形成工程により生産費用が高くなると云う欠点がある。
【特許文献1】米国特許第4305016号
【特許文献2】米国特許第6270237号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、単一の層だけで適用することができ、且つ不透明な層の所要の特性、すなわち、銀白色の外観、充分な不透明性、小さい後方散乱を、長期間の安定性及び形成の容易さと共に保証するような、組成物を提供することが望ましい。更に、このような不透明な層を形成するための適切な方法を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の模範的な実施形態では、ガラス面上に不透明な銀白色の被膜を形成するための組成物を提供する。組成物は少なくとも2種類の金属粉末の混合物を有する。この金属粉末混合物はカルボニル鉄を含み、キャリア液体により金属粉末混合物の懸濁液が作られる。カルボニル鉄に加えて、金属粉末混合物はまたアルミニウムも含有している。
【0007】
本発明の別の面の模範的な実施形態では、ガラス外囲器を持つランプに不透明な銀白色の被膜を形成するための方法を提供する。先ず、キャリア液体の中にカルボニル鉄粉末及びアルミニウム粉末の混合物を有する懸濁液を、ランプの外囲器に適用する。次いで懸濁液を乾燥させ、その後、懸濁液から残留する組成物を、500℃を越える温度で焼成する。
【0008】
開示した組成物は、焼成したとき、ガラス上に不透明な被膜を構成し、この不透明な被膜は純粋なアルミニウムに近い銀白色の外観を呈する。この被膜は非常に安定であって、機械的又は光学的特性に何らかの有意な劣化を生じることなく550℃までの温度に耐える。これはまた、被膜が無機成分のみを含有していることによる。驚いたことに、公知の鉄をベースとした被膜が光沢のない黒色に見えるときでさえ、この提案した組成物から作った被膜は人間の目にには非常に感じの良い銀白色の外観を有するように見え、更には或る程度艶があるようにさえ見える。しかしながら、この銀白色の面は全く光沢がなく(すなわち、くすんでおり)、実際には比較的低い屈折率を持つ拡散面である。これは、ランプの基部(口金)へ向かって実質的に何ら光が反射されないことを意味しており、従って、どんな寄生光効果も、ランプ自体を装着した自動車用反射器から投射される光ビームを妨害しない。
【0009】
同時に、被膜を形成するための本方法は、組成物の構成要素及び用いられる形成工程の両方に関して非常に簡単である。被膜のランプへの適用及びそれらの仕上げ処理は、標準的な、或いは少なくとも非常に類似した構成の又はほんの僅か修正したランプ製造設備で実行することができる。
【0010】
以下に、添付の図面を参照して本発明を説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
先ず図1について説明すると、自動車用ランプ1を示している。ランプ1はガラス製の密封したランプ外囲器2を有する。外囲器2は金属のランプ口金3によって支持されており、また外囲器2は密封した内部空間4を画成しており、内部空間4にはアルゴン、クリプトン又はキセノンのような適当なガスが充填されている。内部空間4は、白熱光源の場合に通例のように、タングステン・フィラメント5を収容している。一対の接触部8,9がランプ口金3の下側部分に配置されている。図1に示されているランプはH7型の標準的な自動車用ランプであるが、提案した被膜及び方法は、1つ又は複数のフィラメントを持ち且つガラス外囲器を有する全ての種類のランプに適用可能である。
【0012】
ランプ1の頂部には、耐熱性の不透明な被膜10が設けられており、この被膜10は図2を参照して説明する方法に従って形成される。不透明な被膜10は単一の層に形成され、これにより複数の機能を実行する。その主な機能は、フィラメント5から或る特定の方向に放出された光を遮蔽することである。第2には、不透明な被膜10はまた審美的な機能を持つ、すなわち、ランプ1が自動車用反射器内に装着されたときに外部に対して色のない、又はむしろ金属的な外観を呈する。
【0013】
ここで図2について説明すると、ランプ1に対して不透明な銀白色の被膜を形成するための方法の様々な工程を象徴的にのみ示している。本方法は、被膜の機械的特性及び長期間安定性が部分的に被膜中の鉄とガラスとの良好な結合に基づいているので、ガラス外囲器2を持つ様々なランプ1に適用可能である。
【0014】
被膜10は通常ランプ製造プロセスの最終工程としてランプ1の外囲器2に適用され、そのとき、外囲器2、従ってフィラメント5も、ランプ口金3の基部平面Pとランプ1の中心軸線とに対して整列させている。
【0015】
例示している実施形態では、工程20で、本書で提案した組成物を持つ懸濁液22の中にランプ1を浸漬することによって、被膜10がランプ1上に適用される。
【0016】
懸濁液22は2種類の金属粉末の混合物を含有している。金属粉末の一方はカルボニル鉄であり、他方はアルミニウムである。これらの2種類の粉末は混合され、適当なキャリア液体を用いて懸濁液22が調製される。懸濁液中のカルボニル鉄の含有量は30〜50重量%、好ましくは33〜39重量%である。懸濁液中のアルミニウムの含有量は15〜30重量%、好ましくは19〜24重量%である。このような金属粉末混合物及びその懸濁液の調製法は当該技術分野において公知であり、例えば、米国特許第4305016号に記載されているプロセスと同様に、ボールミル内で金属粉末構成材料を微粉砕することによって、実行することができる。
【0017】
懸濁液中のキャリア液体の含有量は30〜50重量%、好ましくは40〜45重量%である。キャリア液体は、エタノール、ブタノール又はブチルグリコールのような有機液体であるのが有利である。好ましくは、キャリア液体はn−ブタノールであり、これは、沸点が比較的低く、エタノールのような他の同様な液体よりも幾分ゆっくりと蒸発する。
【0018】
前に述べたように、カルボニル鉄粉末及びアルミニウム粉末の混合物を有する懸濁液22は、ランプ1を懸濁液22の中に浸漬することによって、ランプ1の外囲器に適用される。ランプ1の移動は適当なランプ運搬及び取扱いコンベア・システム(線12で表して、詳細は図示していない)によって行われる。このようなコンベア・システム自体はまた公知である。
【0019】
代替案として、外囲器2の下側部分を保護するマスクを使用して、ランプの外囲器2へ懸濁液を吹き付けることも可能である。
【0020】
工程30で過剰な懸濁液22を滴下させた後、被膜10を形成する懸濁液22を、工程40で適当な公知の加熱装置42により乾燥させる。加熱の際、被膜10を400〜450℃を越えない温度まで、好ましくは200〜250℃の温度まで加熱する。一般に、被膜10を形成する懸濁液22は、キャリア液体が実質的に完全に蒸発するまで乾燥させる。
【0021】
乾燥後、工程50で、懸濁液から残留する組成物を500℃を超える温度、好ましくは600〜650℃の温度で焼成する。これはまた、電気炉52のような公知の装置により行うことができる。懸濁液22の粘性に依存して、被膜10の厚さは10〜40ミクロンにして、焼成が30〜200秒のような比較的短い時間で完了するようにする。焼成の際、カルボニル鉄は酸化鉄に変化し、これは実質的に無定形又は多結晶質の母材の中でアルミニウム粒子を取り囲む。別の方法では、アルミニウムと鉄は化合物を形成せず、また鉄とアルミニウムとの間には何ら化学結合が生成されない。しかしながら、酸化鉄は外囲器2のガラス材に強力に結合(接着)される。
【0022】
工程50の焼成の後に、被膜10もランプ1も準備ができている。必要なら、ランプ1は、工程60で示すように、例えば、被膜10の光遮蔽特性を検査するために、更なる試験を受けることができる。
[実施例]
100部のアルミニウムと170部のカルボニル鉄と200部のn−ブタノールを含む懸濁液を調製した。n−ブタノールと鉄とをボールミルの中で48時間にわたって粉砕混合した。次いでアルミニウムを追加し、その混合物を更に2時間にわたって粉砕混合した。その後、懸濁液の中に浸漬することによってH4型自動車用ランプに懸濁液を適用し、次いで30秒間にわたって260℃の温度の高温空気を強制的に当てて懸濁液を乾燥させた。乾燥に続いて、100秒間にわたってFe−Al混合物を焼成した。焼成は、260℃から始めて640℃に至るまで温度を連続的に上昇させながら行った。
【0023】
完成したランプに老化試験を行い、そのために300時間にわたって高くした電圧(14V)でランプを動作させた。不透明な銀白色の層は何らの有意な変化又は劣化を示さなった。その層は機械的に安定な状態に留まって、ガラスから剥がれ落ちることもなく、またその銀白色の外観も維持した。
【0024】
本発明は図示し開示した実施形態に限定されるものではなく、様々な他の要素、改良及び変形も本発明の範囲内にある。例えば、当業者には明らかなように、組成物の基本的な構成要素に加えて、被膜の光学的、視覚的、機械的又は老化特性を向上させるために更なる添加材を使用することができる。更に、多数の他の有機キャリア液体が懸濁液を調製するのに適していることがある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】頂部に不透明な被膜を設けた自動車用ランプの側面図である。
【図2】図1に示した被膜を形成するための方法の幾つかの工程を例示する概要図である。
【符号の説明】
【0026】
1 自動車用ランプ
2 ランプ外囲器
3 ランプ口金
4 内部空間
5 タングステン・フィラメント
8、9 一対の接触部
10 不透明な被膜
12 ランプ運搬及び取扱いコンベア・システム
20、30、40、50、60 工程
22 懸濁液
42 加熱装置
52 電気炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス面上に不透明な銀白色の被膜(10)を形成するための組成物であって、
カルボニル鉄を含む、少なくとも2種類の金属粉末の混合物と、
前記金属粉末混合物の懸濁液(22)を作るためのキャリア液体とを有し、
前記金属粉末混合物が更にアルミニウムを含有していることを特徴とする、組成物。
【請求項2】
前記懸濁液(22)中のカルボニル鉄の含有量が30〜50重量%である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記懸濁液(22)中のアルミニウムの含有量が15〜30重量%である、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記懸濁液(22)中の前記キャリア液体の含有量が30〜50重量%である、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
前記キャリア液体は有機液体である、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
前記キャリア液体はエタノール、ブタノール又はブチルグリコールを含む群から選択される、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
前記キャリア液体はn−ブタノールである、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
ガラス外囲器(2)を持つランプ(1)に不透明な銀白色の被膜(10)を形成するための方法であって、
キャリア液体の中にカルボニル鉄粉末及びアルミニウム粉末の混合物を有する懸濁液(22)を、前記ランプ(1)の前記外囲器(2)に適用する工程と、
前記懸濁液(22)を乾燥させる工程と、
前記懸濁液(22)から残留する組成物を、500℃を越える温度で焼成する工程と、
を含んでいる方法。
【請求項9】
ガラス外囲器(2)と、該ガラス外囲器(2)の少なくとも一部分を被覆する耐熱性の単一の層より成る不透明な被膜(10)とを有するランプであって、前記不透明な被膜(10)が50〜80重量%のカルボニル鉄を含んでおり、また前記不透明な被膜(10)は更に20〜50重量%の元素アルミニウムを含んでいることを特徴とする、ランプ。
【請求項10】
前記不透明な被膜(10)は60〜65重量%のカルボニル鉄を含むと共に、更に35〜40重量%の元素アルミニウムを含んでいる、請求項9記載のランプ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−37073(P2006−37073A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−163447(P2005−163447)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】