説明

不飽和ポリエステル樹脂組成物及び封入モータ

【課題】収縮率及び線膨張率が小さく且つ熱伝導率が高い硬化物を与えると共に、型内流動性及び硬化性に優れた不飽和ポリエステル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、(a)不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して、(b)熱伝導率が20W/m・K以上の無機充填材と(c)水酸化アルミニウムとの混合物を400〜1000質量部、(d)繊維長が1.5mm以下のガラス繊維を20〜300質量部、(e)低収縮剤を15〜50質量部含有し、且つ前記(b)無機充填材と前記(c)水酸化アルミニウムとの質量比が80:20〜20:80である不飽和ポリエステル樹脂組成物であって、(f)下記式(1):
【化1】


(式中、Rはアルキル基、R'は炭素数が3以上のアルキル基)で示されるアルキルパーオキシアルキレート系硬化剤と、(g)重合禁止剤とをさらに含有することを特徴とする不飽和ポリエステル樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、OA機器、一般産業機械部品分野、自動車分野及び重電分野などで用いられる不飽和ポリエステル樹脂組成物及び封入モータに関する。より詳細には、本発明は、モータやコイル等の電気・電子部品を封入するのに用いられる不飽和ポリエステル樹脂組成物、及びこれを用いて得られる封入モータに関する。
【背景技術】
【0002】
不飽和ポリエステル樹脂組成物、特にバルクモールディングコンパウンド(BMC)は、寸法精度、機械的特性及び流動性に優れた硬化物を与えるため、各種分野において使用されるモータや発電機などの封入材料として広く使用されている。
また、発熱による性能低下が問題となっているモータなどの製品については、熱放散性を向上させる観点から、熱伝導率の高い無機充填材を含むエポキシ樹脂組成物を封入材料として使用する方法も知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。しかしながら、エポキシ樹脂組成物は、配合可能な無機充填材の量が不飽和ポリエステル樹脂組成物よりも少ないために十分な熱伝導率が得られなかったり、アフターキュアが必要であったり、硬化物の成形収縮率が大きく、クラックが生じ易いなどの問題がある。このように、エポキシ樹脂組成物は、不飽和ポリエステル樹脂組成物に比べて、成形性、作業性及び硬化物の物性などの面で多くの問題がある。
【0003】
これに対して、不飽和ポリエステル樹脂組成物は、高負荷の製造装置で容易に混練・製造することが可能であるため、エポキシ樹脂組成物に比べて熱伝導率の高い無機充填材を多量に配合させることができる。また、不飽和ポリエステル樹脂組成物は、成形機(例えば、射出成形機やトランスファー成形機)及び金型を用いたクローズド成形が可能であり、アフターキュアなどの後工程を必要としないという利点もある。
封入材料に使用可能な不飽和ポリエステル樹脂組成物としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、無機充填材、ガラス繊維及び低収縮剤を含有するものが特許文献3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−330390号公報
【特許文献2】特開2008−222824号公報
【特許文献3】特開2001−226573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献3の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、型内流動性に優れると共に、成形収縮率及び線膨張率が小さく且つ熱伝導率が高い硬化物を与えることができるものの、硬化速度が遅いために硬化物(例えば、封入製品など)の生産性が低いという問題がある。
また、硬化性を改善するためには、硬化速度を高める硬化剤を使用すれば良いとも考えられるが、硬化速度を高める硬化剤を単に使用しただけでは、型内流動性(特に、薄肉部の流動性)が低下して成形性が悪くなり、作業性が低下するという問題がある。
【0006】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、成形収縮率及び線膨張率が小さく且つ熱伝導率が高い硬化物を与えると共に、型内流動性及び硬化性に優れた不飽和ポリエステル樹脂組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、作業性及び生産性良く製造することができ、且つ熱放散性に優れた封入モータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記の問題を解決すべく鋭意研究した結果、特定の硬化剤及び重合禁止剤を、所定の組成を有する不飽和ポリエステル樹脂組成物に配合することで、硬化速度を高めつつ、良好な型内流動性を保持させ得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、(a)不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して、(b)熱伝導率が20W/m・K以上の無機充填材と(c)水酸化アルミニウムとの混合物を400〜1000質量部、(d)繊維長が1.5mm以下のガラス繊維を20〜300質量部、(e)低収縮剤を15〜50質量部含有し、且つ前記(b)無機充填材と前記(c)水酸化アルミニウムとの質量比が80:20〜20:80である不飽和ポリエステル樹脂組成物であって、(f)下記式(1):
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、Rはアルキル基、R'は炭素数が3以上のアルキル基)で示されるアルキルパーオキシアルキレート系硬化剤と、(g)重合禁止剤とをさらに含有することを特徴とする不飽和ポリエステル樹脂組成物である。
また、本発明は、上記の不飽和ポリエステル樹脂組成物でモータ構成部品を封入成形してなることを特徴とする封入モータである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、成形収縮率及び線膨張率が小さく且つ熱伝導率が高い硬化物を与えると共に、型内流動性及び硬化性に優れた不飽和ポリエステル樹脂組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、作業性及び生産性良く製造することができ、且つ熱放散性に優れた封入モータを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、(a)不飽和ポリエステル樹脂、(b)無機充填材、(c)水酸化アルミニウム、(d)ガラス繊維、(e)低収縮剤、(f)アルキルパーオキシアルキレート系硬化剤、及び(g)重合禁止剤を含有する。以下、各成分について説明する。
【0012】
(a)不飽和ポリエステル樹脂
本発明に用いられる(a)不飽和ポリエステル樹脂としては、特に限定されることはなく、当該技術分野において成形材料として使用されている公知のものを用いることができる。(a)不飽和ポリエステル樹脂は、一般的に、多価アルコールを不飽和多塩基酸や飽和多塩基酸と重縮合(エステル化)させて得られた化合物(不飽和ポリエステル)を、架橋剤に溶解させて得られる樹脂である。なお、(a)不飽和ポリエステル樹脂の一部にビニルエステル樹脂を用いることもできる。
【0013】
不飽和ポリエステルの合成に用いられる多価アルコールとしては、特に限定されることはなく、公知のものを用いることができる。多価アルコールの例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンタンジオール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールA、及びグリセリンなどが挙げられる。これらは、単独又は複数を組み合わせて用いることができる。
【0014】
不飽和ポリエステルの合成に用いられる不飽和多塩基酸としては、特に限定されることはなく、公知のものを用いることができる。不飽和多塩基酸の例としては、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、及びイタコン酸などが挙げられる。これらは、単独又は複数を組み合わせて用いることができる。
不飽和ポリエステルの合成に用いられる飽和多塩基酸としては、特に限定されることはなく、公知のものを用いることができる。飽和多塩基酸の例としては、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘット酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、テトラクロロ無水フタル酸、テトラブロモ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸などが挙げられる。これらは、単独又は複数を組み合わせて用いることができる。
【0015】
不飽和ポリエステルは、上記のような原料を用いて公知の方法で合成することができる。この合成における各種条件は、使用する原料やその量に応じて適宜設定する必要があるが、一般的に、窒素等の不活性ガス気流中、140〜230℃の温度にて加圧又は減圧下でエステル化させればよい。このエステル化反応では、必要に応じてエステル化触媒を使用することができる。触媒の例としては、酢酸マンガン、ジブチル錫オキサイド、シュウ酸第一錫、酢酸亜鉛、及び酢酸コバルトなどの公知の触媒が挙げられる。これらは、単独又は複数を組み合わせて用いることができる。
【0016】
(a)不飽和ポリエステル樹脂に用いられる架橋剤としては、不飽和ポリエステルと重合可能な重合性二重結合を有しているものであれば特に限定されることはない。架橋剤の例としては、スチレンモノマー、ジアリルフタレートモノマー、ジアリルフタレートプレポリマー、メタクリル酸メチル、及びトリアリルイソシアヌレートなどが挙げられる。これらは、単独又は複数を組み合わせて用いることができる。
(a)不飽和ポリエステル樹脂における架橋剤の含有量は、好ましくは25〜70質量%、より好ましくは35〜65質量%である。架橋剤の含有量が25質量%未満であると、樹脂粘度の上昇によって作業性が低下してしまうことがある。一方、架橋剤の含有量が70質量%を超えると、所望の物性を有する硬化物が得られないことがある。
【0017】
(b)無機充填材
本発明に用いられる(b)無機充填材は、20W/m・K以上、好ましくは30W/m・K以上の熱伝導率を有する。熱伝導性の観点から(b)無機充填材の熱伝導率の上限は特に限定されることはないが、一般に200W/m・Kである。(b)無機充填材の熱伝導率が20W/m・K未満であると、所望の熱伝導率を有する硬化物が得られない。
上記範囲の熱伝導率を有する(b)無機充填材の例としては、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化チタン、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、ホウ化チタン等が挙げられる。これらは、単独又は複数を組み合わせて用いることができる。
また、(b)無機充填材は、不飽和ポリエステル樹脂組成物中で均一に分散させる観点から、好ましくは0.5〜30μm、より好ましくは1〜10μmの平均粒径を有し、その粒子形状は不定形又は球状の粉末状であることが望ましい。
【0018】
(c)水酸化アルミニウム
本発明に用いられる(c)水酸化アルミニウムとしては、特に限定されることはなく、公知のものを用いることができる。また、(c)水酸化アルミニウムは、不飽和ポリエステル樹脂組成物中で均一に分散させる観点から、好ましくは0.5〜100μm、より好ましくは5〜30μmの平均粒径を有し、その粒子形状は不定形又は球状の粉末状であることが望ましい。
【0019】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物における(b)無機充填材及び(c)水酸化アルミニウムの配合量は、(a)不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して、(b)無機充填材及び(c)水酸化アルミニウムの合計量が400〜1000質量部、好ましくは500〜900質量部である。(b)無機充填材及び(c)水酸化アルミニウムの合計量が400質量部未満であると、硬化物の熱伝導率が低くなり、所望の熱放散性が得られない。一方、合計量が1000質量部を超えると、不飽和ポリエステル樹脂組成物の粘度が上昇して型内流動性が著しく低下したり、不飽和ポリエステル樹脂組成物を製造する際に各成分の混合が困難になる。
【0020】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物における(b)無機充填材と(c)水酸化アルミニウムとの質量比は、80:20〜20:80、好ましくは70:30〜30:70である。(b)無機充填材と(c)水酸化アルミニウムとの質量比が上記範囲外であると、不飽和ポリエステル樹脂組成物の型内流動性が著しく低下したり、不飽和ポリエステル樹脂組成物を製造する際に各成分の混合が困難になる。
【0021】
なお、上記の(b)無機充填材及び(c)水酸化アルミニウム以外の充填材(例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、シリカ等)を、(b)無機充填材や(c)水酸化アルミニウムの変わりに使用すると、所望の熱伝導率及び型内流動性を有する硬化物が得られないが、本発明の効果を阻害しない範囲において、(b)無機充填材及び(c)水酸化アルミニウム以外の充填材を(b)無機充填材及び(c)水酸化アルミニウムと共に配合することは可能である。この場合、(b)無機充填材及び(c)水酸化アルミニウム以外の充填材の配合量は、(c)水酸化アルミニウム100質量部に対して、80質量部以下であることが好ましい。
【0022】
(d)ガラス繊維
本発明に用いられる(d)ガラス繊維は、短繊維のものである必要があり、1.5mm以下、好ましくは100〜500μmの繊維長を有する。繊維長が1.5mmを超えると、不飽和ポリエステル樹脂組成物の型内流動性が著しく低下する。
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物における(d)ガラス繊維の配合量は、(a)不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して、20〜300質量部、好ましくは50〜250質量部である。(d)ガラス繊維の配合量が20質量部未満であると、硬化物の線膨張係数が大きくなってしまう。一方、(d)ガラス繊維の配合量が300質量部を超えると、不飽和ポリエステル樹脂組成物の型内流動性が著しく低下する。
【0023】
(e)低収縮剤
本発明に用いられる(e)低収縮剤としては、特に限定されることはなく、公知のものを用いることができる。(e)低収縮剤の例としては、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリ酢酸ビニル、飽和ポリエステル、スチレン−ブタジエン系ゴムなどの低収縮剤として一般に用いられている熱可塑性ポリマーが挙げられる。これらは、単独又は複数を組み合わせて用いることができる。また、(e)低収縮剤は、低収縮化の観点から、ポリスチレンを用いることが好ましい。
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物における(e)低収縮剤の配合量は、(a)不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して、15〜50質量部である。(e)低収縮剤の配合量が15質量部未満であると、硬化物の成形収縮率が大きくなる。一方、(e)低収縮剤の配合量が50質量部を超えると、不飽和ポリエステル樹脂組成物の型内流動性が著しく低下する。
【0024】
(f)アルキルパーオキシアルキレート系硬化剤
本発明に用いられる(f)アルキルパーオキシアルキレート系硬化剤は、下記式(1)で示される。
【0025】
【化2】

【0026】
上記式(1)中、Rはアルキル基、R'は炭素数が3以上のアルキル基である。R'の炭素数が3未満であると、所望の硬化速度が得られないことがある。
Rは、炭素数が1〜5の直鎖又は分岐のアルキル基であることが好ましい。Rの例としては、メチル基、エチル基、ブチル基などが挙げられる。分岐のアルキル基としては、2,2−ジメチルプロピル基などが挙げられる。R'は、炭素数が3〜9の直鎖又は分岐のアルキル基であることが好ましい。R'の例としては、ブチル基などが挙げられる。分岐のアルキル基としては、2,2−ジメチルプロピル基、1−エチルペンチル基などが挙げられる。
【0027】
上記式(1)で示される(f)アルキルパーオキシアルキレート系硬化剤の具体例としては、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデノエート、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、1,1,1,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどが挙げられる。これらは、単独又は複数を組み合わせて用いることができる。
【0028】
(f)アルキルパーオキシアルキレート系硬化剤は、10時間半減期温度が80℃以下であることが好ましい。ここで、10時間半減期温度とは、有機過酸化物0.1モル/リットルのクメン溶液を熱分解させた際に、10時間で有機過酸化物の半減期に達する分解温度のことを意味する。(f)アルキルパーオキシアルキレート系硬化剤の10時間半減期温度が80℃を超えると、熱分解温度が高すぎるために、所望の硬化速度が得られないことがある。
【0029】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物における(f)アルキルパーオキシアルキレート系硬化剤の配合量は、(a)不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1〜8質量部、より好ましくは2〜6質量部である。(f)アルキルパーオキシアルキレート系硬化剤の配合量が0.1質量部未満であると、硬化時間が長くなるか、又は硬化が十分でないことがある。一方、(f)アルキルパーオキシアルキレート系硬化剤の配合量が8質量部を超えると、(f)アルキルパーオキシアルキレート系硬化剤の増量による効果が得られず、(f)アルキルパーオキシアルキレート系硬化剤の多くが無駄になることがある。
【0030】
(g)重合禁止剤
本発明に用いられる(g)重合禁止剤としては、特に限定されることはなく、公知のものを用いることができる。(g)重合禁止剤の例としては、パラベンゾキノン、トルキノン、ナフトキノン、フェナンスラキノン、及び2,5ジフェニルパラベンゾキノンなどのキノン類;トルハイドロキノン、ハイドロキノン、ターシャリブチルカテコール、モノターシャリブチルハイドロキノン、及び2,5ジターシャリブチルハイドロキノンなどのハイドロキノン類;並びにハイドロキノンモノメチルエーテル、及び2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾールなどのモノフェノール類などが挙げられる。これらは、単独又は複数を組み合わせて用いることができる。また、これらの中でも、ゲル化抑制の観点からキノン類を用いることが好ましい。
【0031】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物における(g)重合禁止剤の配合量は、(a)不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して、好ましくは0.005〜0.2質量部、より好ましくは0.01〜0.1質量部である。(g)重合禁止剤の配合量が0.005質量部未満であると、所望の型内流動性を有する不飽和ポリエステル樹脂組成物が得られないことがある。一方、(g)重合禁止剤の配合量が0.2質量部を超えると、硬化時間が長くなるか、又は硬化が十分でないことがある。
【0032】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、各種物性を改良する観点から、離型剤、増粘剤、顔料等の任意成分を必要に応じて含有することができる。
離型剤、増粘剤及び顔料の種類は、特に限定されることはなく、公知のものを用いることができる。離型剤の例としては、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、及びカルナバワックスなどが挙げられる。増粘剤の例としては、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、及び酸化カルシウムなどの金属酸化物、並びにイソシアネート化合物が挙げられる。これらの成分は、単独又は複数を組み合わせて用いることができる。
なお、上記の任意成分の配合量は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に限定されない。
【0033】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、上記のような所定量の各成分を、常法により配合・混練することにより製造することができる。例えば、所定量の各成分をニーダ等に投入して混合することにより不飽和ポリエステル樹脂組成物を得ることができる。
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、型内流動性及び硬化性の両方に優れているため、所望形状の硬化物を製造する際の作業性及び生産性を向上させることが可能となる。
【0034】
また、本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、成形収縮率及び線膨張率が小さく且つ熱伝導率が高い硬化物を与えるため、モータやコイル等の電気・電子部品の封入材料として用いることが可能である。特に、本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、熱伝導率が高い硬化物を与えるため、高度な熱放散性が要求されるモータの封入材料として用いるのに最適である。
【0035】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物でモータ構成部品を封入成形してなる封入モータは、熱放散性に優れていると共に、作業性及び生産性良く製造することができる。
ここで、封入成形の方法としては、特に限定されることはなく、常法により行うことができる。例えば、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形等を用いればよい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例により本発明を詳細に説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。
下記の実施例及び比較例の不飽和ポリエステル樹脂組成物及びその硬化物における各種物性は、次のようにして評価した。
【0037】
(1)成形収縮率
JIS K6911に規定される収縮円盤を、成形温度150℃、成形圧力10MPa、成形時間3分で圧縮成形を行い、JIS K6911に基づいて成形収縮率を算出した。ここで、封入モータなどは過酷な環境下で使用されるため、熱による膨張及び収縮によるクラックの発生を防止する観点から、この評価における成形収縮率は−0.05%〜0.05%の範囲でなければならない。
(2)熱伝導率
成形温度150℃、成形圧力10MPa、成形時間3分で圧縮成形により150×150×厚さ20mmの平板を成形し、QTM法(測定機:SDK製QTM−DII)により熱伝導率を測定した。ここで、封入モータなどは高度な熱放散性が要求されるため、この評価における熱伝導率は1.0W/m・K以上でなければならない。
【0038】
(3)線膨張率
成形温度150℃、成形圧力10MPa、成形時間3分で圧縮成形により90×10×厚さ4mmの平板を成形し、20×4×4mmのテストピースを切り出し、TMA法(測定機:リガク製TMA8310)により線膨張率を測定した。ここで、封入モータなどは過酷な環境下で使用されるため、熱による膨張及び収縮によるクラックの発生を防止する観点から、この評価における線膨張率は1.5×10−5/℃以下でなければならない。
【0039】
(4)型内流動性
ASTM法に準拠し、断面形状がφ3mmの半円状のスパイラルフロー金型を用いて金型温度150℃、注入圧力10MPa、注入時間30秒、硬化時間90秒、成形品の肉厚3mmの条件下でスパイラルフロー試験を行い、流動長さを測定した。この試験において、流動長が55mm以上のものを◎(非常に良好)、45mm以上55mm未満のものを○(良好)、35mm以上45mm未満のものを△(やや劣る)、25mm以上35mm未満のものを×(不良)、25mm未満のものを××(流動せず、製造不可)として表した。
また、成形品の肉厚を100μmに変えて上記と同様のスパイラルフロー試験を行った。この試験において、流動長が45mm以上のものを◎(非常に良好)、35mm以上45mm未満のものを○(良好)、25mm以上35mm未満のものを△(やや劣る)、15mm以上25mm未満のものを×(不良)、15mm未満のものを××(流動せず、製造不可)として表した。
【0040】
(5)硬化性
キュラストメータ(JSRトレーディング株式会社製WP型)を用いて硬化試験を行い、硬化過程におけるトルクの変化を測定し、最大トルクの10%が得られるまでの時間(以下、tc10と表す)、最大トルクの90%が得られるまでの時間(以下、tc90と表す)を評価した。なお、tc10はゲル化時間の指標、tc90は脱型可能時間の指標、tc90−tc10は硬化の立ち上がり時間の指標となる。
(6)混練性
混練性は、各成分を双碗型ニーダを用いて混練した際に、混練が可能であったものを○、混練ができなかったものを×として表した。
【0041】
(実施例1〜13)
温度計、攪拌機、不活性ガス導入口及び還流冷却器を備えた四口フラスコに、100モルのフマル酸、80モルのプロピレングリコール、20モルの水素化ビスフェノールAを入れ、窒素気流下で加熱撹拌しながら200℃まで昇温して、常法の手順によりエステル化反応を行なうことで不飽和ポリエステルを得た。この不飽和ポリエステルをスチレンモノマー(架橋剤)に溶解させることにより、不飽和ポリエステル樹脂を得た。ここで、不飽和ポリエステル樹脂におけるスチレンモノマーの含有量を40質量%とした。
この不飽和ポリエステル樹脂を用い、表1及び表2に示す配合組成の各成分を、双碗型ニーダを用いて混練することによって不飽和ポリエステル樹脂組成物を得た。なお、アルキルパーオキシアルキレート系硬化剤であるt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートの10時間半減期温度は72℃、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートの10時間半減期温度は65.3℃である。また、アルミナの熱伝導率は36W/m・K、窒化アルミニウムの熱伝導率は200W/m・Kである。
得られた不飽和ポリエステル樹脂組成物及びその硬化物について、上記の物性を評価した。その結果を表1及び2に示す。
【0042】
(比較例1〜12)
実施例1〜13で用いた不飽和ポリエステル樹脂を用い、表3及び表4に示す配合組成の各成分を、双碗型ニーダを用いて混練することによって不飽和ポリエステル樹脂組成物を得た。得られた不飽和ポリエステル樹脂組成物及びその硬化物について、上記の物性を評価した。その結果を表3及び4に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

【0047】
表1及び2の結果に示されているように、実施例1〜13の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、ゲル化時間(tc10)が長く且つ型内流動性に優れているので、成形性が高く、作業性に優れていた。また、実施例1〜13の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、硬化の立ち上がり時間(tc90−tc10)や脱型可能時間(tc90)が短く、硬化速度が速いので、生産性に優れていた。さらに、実施例1〜13の不飽和ポリエステル樹脂組成物から得られた硬化物は、熱伝導率、成形収縮率及び線膨張率の全てが優れていた。
【0048】
一方、表3及び4の結果に示されているように、所定のアルキルパーオキシアルキレート系硬化剤及び重合禁止剤を含有しない不飽和ポリエステル樹脂組成物(比較例1)は、硬化の立ち上がり時間や脱型可能時間が長く、硬化速度が遅いので、生産性が十分でない。また、重合禁止剤のみを含有しない不飽和ポリエステル樹脂組成物(比較例2)は、硬化速度は速いものの、流動性が悪いため、作業性が十分でない。各成分の含有量等が所定の範囲を外れる不飽和ポリエステル樹脂組成物(比較例3〜6、8〜11)や、所定の熱伝導率を有さない無機充填材を用いた不飽和ポリエステル樹脂組成物(比較例7)は、混練ができなかったり、硬化物の熱伝導率、成形収縮率及び線膨張率のいずれかが十分でない。さらに、式(1)のR'が3未満のアルキルパーオキシアルキレート系硬化剤(t−ヘキシルパーオキシアセテート)を用いた不飽和ポリエステル樹脂組成物(比較例12)は、硬化速度が遅かった。
【0049】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、成形収縮率及び線膨張率が小さく且つ熱伝導率が高い硬化物を与えると共に、型内流動性及び硬化性に優れた不飽和ポリエステル樹脂組成物を提供することができる。また、本発明によれば、作業性及び生産性良く製造することができ、且つ熱放散性に優れた封入モータを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して、(b)熱伝導率が20W/m・K以上の無機充填材と(c)水酸化アルミニウムとの混合物を400〜1000質量部、(d)繊維長が1.5mm以下のガラス繊維を20〜300質量部、(e)低収縮剤を15〜50質量部含有し、且つ前記(b)無機充填材と前記(c)水酸化アルミニウムとの質量比が80:20〜20:80である不飽和ポリエステル樹脂組成物であって、(f)下記式(1):
【化1】

(式中、Rはアルキル基、R'は炭素数が3以上のアルキル基)で示されるアルキルパーオキシアルキレート系硬化剤と、(g)重合禁止剤とをさらに含有することを特徴とする不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記(f)アルキルパーオキシアルキレート系硬化剤は、10時間半減期温度が80℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記(f)アルキルパーオキシアルキレート系硬化剤は、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデノエート、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、1,1,1,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートからなる群より選択される1種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記(g)重合禁止剤は、キノン類、ハイドロキノン類及びモノフェノール類からなる群より選択される1種以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物でモータ構成部品を封入成形してなることを特徴とする封入モータ。

【公開番号】特開2011−6542(P2011−6542A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−149792(P2009−149792)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】