説明

両極性縦型有機電界効果トランジスタ

【課題】両極性縦型有機電界効果トランジスタを提供する。
【解決手段】両極性縦型有機電界効果トランジスタは、ドレイン電極と、ドレイン電極から離間したゲート電極と、ドレイン電極とゲート電極との間に配置される電荷注入層と、ゲート電極と電荷注入層との間に配置される誘電層と、ドレイン電極と電荷注入層との間に配置される半導体層とを有する。動作時に、電荷注入層は、正孔及び電子それぞれの注入障壁高さを均衡させて、N型トランジスタ動作モードとP型トランジスタ動作モードの両方を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本発明は、2006年10月21日出願の米国仮出願第60/728,742号の優先権を主張し、その全内容を参照により本明細書に取り込むものとする。
【0002】
本発明は、縦型電界効果トランジスタ、縦型電界効果トランジスタを含むデバイス、及びそれらの製造・使用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
有機発光ダイオード(OLED)、電界効果トランジスタ、メモリ装置等の有機半導体デバイスは、低価格であり、柔軟かつ広範囲の用途が可能である等の利点により大規模に研究されてきた。(C.W.Tang及びS.A.VanSlykeによるAppl.Phys.Lett.51、913−915(1987);J.H.Burroughes、D.D.C.Bradley、A.R.Brown、R.N.Marks、K.Mackay、R.H.Friend、P.L.Burns、及びA.B.HolmesによるNature347、539−541(1990);G.HorowitzによるAdv.Mater.(Weinheim、Ger.)、10、365−377(1998);及びL.P.Ma、J.Liu、及びY.YangによるAppl.Phys.Lett.80、2997−2999(2002)を参照されたい。)本明細書の所々に引用する文献の全てを本明細書に参照により取り込むものとする。有機電界効果トランジスタ(OFET)からは、アクティブマトリクス型OLEDディスプレイ、ローエンドのスマートカード、及びIDタグ用のスイッチング装置が製造される高い可能性がある。しかし、横型構造のOFETには、二つの大きな制約があり、それらは、(1)低電流出力、高使用電圧等のデバイス性能、及び(2)単極性である。チャネル長を減少させたり、ゲート材料を誘電率の高いものにして使用電圧を減少させる等のいくつかの方法においては、電流出力は依然として低くても、(C.D.Dimitrakopoulos、S.Purushothaman、J.Kymissis、A.Callegari、及びJ.M.ShawによるScience283、822−824(1999);Matthew J.Panzer、Christopher R.Newman、及びC.Daniel FrisbieによるAppl.Phys.Lett.86、103503(2005))。Maらにより、有機アクティブセルが積層されたキャパシタセルから構成される縦型有機電界効果トランジスタ(VOFET)が報告されている(L.P.Ma及びY.YangによるAppl.Phys.Lett.85、5084−5086(2004))。キャパシタセルは共通電極をアクティブセルと共有しており、これはソース電極と定義された。VOFETは、使用電圧が低く、電流出力が高い。この新たな型のトランジスタにより、低電流出力問題は解決することができるであろう。
【0004】
更なる課題として、単極性がある。大抵のOFETは、NチャネルとPチャネルのいずれかの挙動を示す。集積回路システム、特に相補型酸化金属半導体(CMOS)回路においては、通常、N型トランジスタとP型トランジスタの両方が動作する必要がある。いくつかの方法においては多数の有機ユニポーラデバイスを用いてCMOS設計を実現しているが、両極性のOFETを用いることによりCMOSの設計と製造を簡易化することができる。混合物(J.Meijer、D.M.de Leeuw、S.Setayesh、E.van Veenendaal、B.−H.Huisman、P.W.M.Blom、J.C.Hummelen、U.Scherf、及びT.M.KlapwijkによるNat.Mater.2、678−682(2003))、キャリア運搬物質の二重層(A.Dodabalapur、H.E.Katz、L.Torsi、及びR.C.HaddonによるAppl.Phys.Lett.68、1108−1110(1996))、及び電子注入電極(Takeshi Yasuda、Takeshi Goto、Katsuhiko Fujita、及びTetsuo TsutsuiaによるAppl.Phys.Lett.85、2098−2100(2004))を用いて、両極性OFETは製造されてきた。しかし、これらの技術における動作電圧は、やはり十分に低くない。
【発明の開示】
【0005】
両極性縦型有機電界効果トランジスタは、ドレイン電極と、ドレイン電極から離間したゲート電極と、ドレイン電極とゲート電極との間に配置される電荷注入層と、ゲート電極と電荷注入層との間に配置される誘電層と、前記ドレイン電極と前記電荷注入層との間に配置される半導体層とを有する。動作時に、電荷注入層は、正孔及び電子それぞれの注入障壁高さを均衡させて、N型トランジスタ動作モードとP型トランジスタ動作モードの両方を実現する。電子デバイス及び/又は電気光学デバイスは、このような両極性縦型電界効果トランジスタを含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
本発明のより良い理解は、添付の図面を参照して以下の詳細な記載を読むことにより得られる。
【0007】
【図1(a)−1(b)】図1(a)は、本発明に係るデバイス構造の実施形態の概略断面図であり、図1(b)は、図1(a)のデバイスの両極性動作モードを示す。
【0008】
【図2(a)−2(c)】異なるデバイス構造の、多様な動作条件下での出力特性を示している。図2(a)は、電荷注入層としてVを有し、P型動作を行うVOFET(トランジスタ1)を示している。ゲート電圧は、0乃至−5Vの範囲で1Vずつ段階的に変化させる。差し込み図は、対数尺度で同一データを示しており、オン/オフ比率を導出するべく用いた。図2(b)は、N型動作時のトランジスタ1を示す。図2(c)は、P型動作時における、Al単層電極を有するVOFET(トランジスタ2)を示す。図2(d)は、N型動作時のトランジスタ2を示す。
【0009】
【図3(a)】異なる厚さのAlで被覆したペンタセンのC ls XPSスペクトルを示す。内殻準位シフトは、バンド曲がりV、V=0.33eVの結果として処理できる。
【0010】
【図3(b)】金属膜の厚さを増大させていく場合のUPSスペクトル(He I)を示す。仕事関数差△Φは、0.34eVである。
【0011】
【図3(c)】Alとペンタセンの界面のバンド図である。電子注入障壁は、0.76eVである。正孔注入障壁は、1.04eVである。
【0012】
【図3(d)】Al、V、及びペンタセンのエネルギー準位図である。
【0013】
【図4】P型挙動とN型挙動について、酸化物の厚さに関してデバイスの出力電流をプロットしたものである。鎖線は、N型挙動を示す。実線は、P型挙動を示す。
【0014】
【図5】本発明の実施形態に係る両極性縦型OFETインバータの伝達特性を示す。各等価回路と微分曲線を差し込み図示する。
【0015】
【図6】電荷注入層として酸化モリブデン(MoO)を有し、P型動作を行うVOFETを示す。
【0016】
【図7】電荷注入層として酸化モリブデン(MoO)を有し、N型動作を行う図6のVOFETを示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図面に示す本発明の実施形態を記載するにあたり、明瞭性を期して特定の用語を用いる。しかし、このように選んだ特定の用語に本発明を限定することを意図したものでない。特定の要素のそれぞれが、同様の目的を達するべく同様の態様にて動作する技術的均等物の全てを含むことは理解されよう。
【0018】
有機電界効果トランジスタは、その固有の特性により近年、多くの研究の主題となっている。しかし、動作電圧が高く、電流出力が低く、かつ単極性挙動を示すことは、多くの用途において大きな制約である。ここでは、両極性縦型有機電界効果トランジスタを開示する。本発明の実施形態に係る両極性縦型有機電界効果トランジスタは、有機アクティブセルが垂直方向に積層されたキャパシタセルを含む。(VOFET構造についてのいくつかの詳細については、2005年3月17日にWO2005/024907 A2として公開されたPCT/US2004/027579号を参照されたい。その全内容を、本明細書に参照により取り込むものとする。)ソースと有機物の界面における遷移金属酸化物層を、電荷注入層として設ける。このような構造により、動作電圧が低く、電流出力が高いのみならず両極性挙動を示す有機トランジスタが得られる。デバイスの両極性メカニズムを説明するモデルも提示する。極薄の遷移金属酸化物層は、本発明の実施形態において、ソースと有機物の接触面における正孔と電子の注入障壁の高さを均衡させることにより、デバイスの動作において役割を果たす。本発明に係る有機相補型酸化金属半導体インバータの実施形態を、ゲインが6.7である実施例においても開示する。本発明に係る両極性縦型有機トランジスタにより、有機トランジスタの多くの新たな用途が導き出されることが期待される。
【0019】
本発明によると、両極性VOFETは、ソースと有機物の界面に遷移金属酸化物層を備えており、それは電荷注入層として機能し、N型とP型の両方の動作モードにおいて高出力電流を実現する。遷移金属酸化物は、遷移金属の酸化生成物であると定義される。遷移金属は、周期表において「B系列」元素に属しており、最外から二番目の電子殻と最外電子殻とを用いて他の物質と結合することができる元素群である。これらは、遷移金属酸化物の異なる状態を異なる「d」電子により形成することができる。たとえば、酸化バナジウムは、バナジウム(II)モノオキサイド(VO)、バナジウム(IV)オキサイド(VO)、バナジウム(III)オキサイド(V)、及びバナジウムペントオキサイド(V)になることができる。遷移金属酸化物バッファ層は、たとえば:
a.V、酸化タングステン(WO)、酸化モリブデン(MoO)等の単一種の遷移金属酸化物から構成することができ;
b.VのVO、WO、及びVとの混合体、MoOのVとの混合体等の、異種の遷移金属酸化物の混合体から構成することができ;及び/又は
c.バナジウムペントオキサイドとアルミニウム等の、遷移金属酸化物と金属との混合層から構成することができるが、
これらに限定されない。
【0020】
本発明の実施形態に係る、(図1(a))に概略を示すデバイス構造は、キャパシタセルを積層したアクティブセルを有する。中央の電極は、共通−ソース電極と定義され、極薄であり、粗い。上部の電極と底部の電極は、それぞれドレイン電極、ゲート電極と定義される。電荷注入層が有機層と各電極との間に挿入される。デバイス面積は2.4mmであり、ドレイン電極とソース電極とのクロスオーバにより画定される。このデバイスは、ソース電極から有機層への電荷注入を制御することにより動作させることができる。図1(b)は、図1(a)に示すデバイスの動作モードを概略的に示す。ソース電極は接地されている。異なる極性の電圧バイアスをゲート電極とドレイン電極に印加することにより、両極性挙動が得られる。負のバイアスをドレイン電極とゲート電極に印加した場合、P型導電が得られる。(図1(b)の左側参照。)これら電極に正のバイアスを印加すると、N型導電が得られる。(図1(b)の右側参照。)
【0021】
図1(a)の実施形態の構造に係る両極性トランジスタの例を、本明細書においてはトランジスタ1と呼ぶ。この例のトランジスタは、基本的に、(底部から上方向に)ガラス/アルミニウム(Al)(35nm)/フッ化リチウム(LiF)(350nm)/Al(18nm)/バナジウムペントオキサイド(V)(7.5nm)/ペンタセン(230nm)/V(7.5nm)/Al(35nm)から成る。しかし、本発明の全般的な構想は、これらの特定的材料と特定的寸法に限定されないことに注意すべきである。図2(a)と2(b)において、バイアス電圧(VSD)に関してトランジスタ1のソース−ドレイン電流(ISD)を、異なる動作条件下でのP型挙動とN型挙動について、プロットする。P型デバイスとして動作させた場合、VSDとゲート電圧(V)がともにマイナス5ボルトであるときに出力電流は1.8mAであった。オン/オフ比率は10に近接していた。N型デバイスとして動作させた場合、VSDとVがともに5ボルトであるときにトランジスタ1の出力電流は約300μAであった。オン/オフ比率は10に近接していた。ゲート電極からソース電極への電流であるリーク電流は、5μA未満であった。これは、本発明のある実施形態に対応する一例である。本発明の広範なコンセプトは、この特定的例に限定されない。さらに、本明細書に提示する特定の例においては、アクティブセルとして有機半導体が備えられるが、全般的な構想においては、無機半導体を含むあらゆる種類の半導体が含められていることが意図される。
【0022】
電荷注入層を備えないデバイス(トランジスタ2)も製造した。図2Iと2(d)は、異なる動作条件下におけるトランジスタ2の出力特性を示す。明らかに、トランジスタ2にP型挙動は観察できなかった。N型の用途においては、出力電流は271μAであり、オン/オフ比率は18に近接していた。トランジスタ1とトランジスタ2の両デバイスは、トランジスタ2のオン/オフ比率が低いことを除いては、類似したN型出力特性を有する。デバイスのP型挙動を比較してみると、V層を追加することで、P型動作メカニズムにおいて非常に重要な役割が果たされることが期待できる。
【0023】
VOFET動作メカニズムは、ゲート電界により障壁を修正してソース電極から有機層へと電荷を注入することである。V膜を備えないデバイスにはN型モードしか存在しない理由を理解するべく、X線と紫外線による光電子分光法(XPSとUPS)を用いてペンタセンとAl、つまり有機層とソース電極との間の界面形成を研究した。UPS計測と併用したXPS計測により、金属と半導体の界面あるいは半導体と半導体の界面におけるエネルギー準位のアライメントを測定することができた。XPSとUPSを用いてこれら界面におけるエネルギー準位アライメントを測定する手順の詳細は、他において記載されている(Li Yan、M.G.Mason、C.W.Tang、及びYongli GaoによるAppl.Surf.Sci.175−176、412−418(2001);P.G.Schroeder、C.B.France、J.B.Park、及びB.A.ParkinsonaによるJ.Appl.Phys.91、3010−3014(2002))。図3(a)において、ペンタセン膜の上面のAlカバレッジを変化させつつXPSにより測定したペンタセンのC 1s内殻準位の推移を示す。これらC 1sピークは、単により高準位の結合エネルギーへのシフトを示すのであり、エネルギー幅の拡大を示すのではない。内殻準位結合エネルギーの変化は、バンド曲がりVの結果であると見ることができる(Li Yan、M.G.Mason、C.W.Tang、及びYongli GaoによるAppl.Surf.Sci.175−176、412−418(2001))。UPSの結果により、図3(b)に示す0.33eVの強度のシフトが、むき出しのペンタセン膜と1.4nm厚のAl膜との第二のカットオフエッジに生じたことが明らかになり、これは、顕著な表面双極子が存在することを示す。UPSにおける第二のカットオフ差は、仕事関数変化△Φと定義することができる。最低空分子軌道(LUMO)位置は、XPSあるいはUPSにより測定することはできない。ここで、光バンドギャップがLUMOと最高被占分子軌道(HOMO)との差に等しいと想定すると、LUMO位置を推定することができる(P.G.Schroeder、C.B.France、J.B.Park、及びB.A.ParkinsonaによるJ.Appl.Phys.91、3010−3014(2002))。
【0024】
、△Φ、及びHOMOとLUMOの推定位置がわかると、図3Iに示すエネルギー図をプロットすることができる。XPSで測定したC 1s内殻準位エネルギーシフトのみならず、電子と正孔それぞれの注入障壁の大きさも測定する。界面の電子注入障壁(E)は、等式E=ELUMO−Vを用いて算出することができ、ELUMOは、電極のフェルミ準位を基準としたペンタセンのLUMOのエネルギー準位である。同様に正孔注入障壁を算出することができるが、有機材料のLUMOエネルギー準位でなくHOMOエネルギー準位を用いる。ペンタセンとAlの界面における電荷注入エネルギー障壁は、電子と正孔に対してそれぞれ0.76eVと1.04eVと算出された。LiFを誘電層として用いたVOFETにおいて、ゲートにより修正できる最大の障壁高さは1.0eV未満である。しかし、正孔注入障壁は1.04eVであり、したがって注入障壁が高いことによりAl電極デバイスにおいてはP型挙動を観察することができない。Al、V、及びペンタセンのエネルギー準位図を図3(d)に示す。UPSによりVの価電子帯は4.7eVと推定された。ある文献によると、Vのバンドギャップは2.2eVである(Transition Metal Oxide;An Introduction to their Electronic structure and Properties、P.A.Cox、(Clarendon Press、Oxford、1992))。等式E=E−Eから、伝導帯は2.5eVと算出でき、ここでEとEはそれぞれVの伝導帯と価電子帯であり、Eはバンドギャップである。トランジスタ1において、遷移金属酸化物と有機物の界面に正孔注入障壁が存在するはずである。簡易なバンドモデルを適用することにより、トランジスタ1においては、ソースと有機物の界面を修正するべく電荷注入層を用いると正孔注入障壁は0.3eVとなる。この障壁高さは、ゲートバイアスを印加することにより調節できる。N型動作においては、ソース電極の電子は、有機膜中へ向けて遷移金属酸化物の薄層をトンネルすることができるので、注入障壁はまだAl電極より制御される。Alとペンタセンにおける電子注入障壁高さとAl、V、及びペンタセンにおける電子注入障壁高さは、トンネル効果によりほぼ等しいはずである。
【0025】
を膜積層体に含めた場合のデバイスの動作メカニズムは以下の通りに記載できる。ISDは、ソース電極から有機膜へのキャリアの注入により制御されるはずである。ゲートバイアスがゼロであるとき、注入障壁は、ソースから有機物へと注入されるキャリアを閉じ込める十分な高さがあり、したがってISDはゲートバイアスがゼロのとき極めて小さい。しかし、ゲートが正または負にバイアスされると、キャパシタの全容量が帯電する。これらの電荷は、ソース電極内にその粗く部分的に酸化した界面により蓄積される(L.P.Ma及びY.YangによるAppl.Phys.Lett.87、123503(2005))。ゲートバイアスにより電荷の蓄積を変調する。すると、注入障壁高さも同様に修正され、ゲートバイアスを増加させるにともない注入障壁高さは減少する。したがって、実効の注入障壁高さがゲートバイアスの印加により減少し、ISDが増加する。トランジスタ2においては、正孔注入障壁高さ1.04eVは、負のゲートバイアス下であってさえも電流の流れを止めさせる大きさである。これが、N型挙動だけが観察される理由である。極薄のV電荷注入層を導入することにより、電子注入特性にほぼ影響を与えることなく正孔注入障壁高さを0.3eVへと減少させることができる。したがって、トランジスタはN型モードとP型モードの両方で動作する。V層の影響を検証するべく、最大ISDに関してソースと遷移金属酸化物の厚さを(VSDとVの両方を5ボルトとして)プロットした図4を参照されたい。
【0026】
トランジスタをP型デバイスとして動作させたとき、ソース電極から有機層への正孔注入によりソース−ドレイン電流が決定される。図4に示すように、実線の曲線に示すISDは、V電荷注入層の厚さを増加させるにつれ50nAから2mAへと増加している。この結果により、電荷注入層はデバイス性能を決定することも示される。V層がなければ、注入障壁が高すぎてキャパシタを修正できない。V層の厚さが2.5nmしかなければ、ソース電極の表面はVにより完全に被覆されず、結果として正孔注入の実効面積(Vにより被覆される面積)は小さい。V層の厚さを増大させるにしたがい、正孔注入の実効面積もデバイスの幾何学的面積に達するまで増大し、デバイスの幾何学的面積に達すると、AlとVとの接触が正孔に関してオーム接触となると考えられるがゆえに、ISDはVとペンタセンとの間の注入障壁により制御されるようになる(C.W.Chu、S.H.Li、C.W.Chen、V.Shrotriya、及びY.YangによるAppl.Phys.Lett.(Accepted))。図4の実線曲線から、Vの厚さが5nmを超えた後、ISDは飽和傾向を示すことがわかる。Vが10nmを超えたところでIsdが僅かに減少するのは、V層の抵抗が増大したものと理解できる。
【0027】
トランジスタのN型動作においては、ソース電極から有機層への電子注入によりソース−ドレイン電流が決定される。図4の鎖線の曲線に示すように、N型モードとP型モードとの間には完全に異なる傾向が観察された。V層の厚さを増大させるにつれ、ISDは減少する。図3(d)からわかるように、AlからVの伝導帯への電子注入に対しては大きなエネルギー障壁が存在する。したがって、N型動作の最中、電子はトンネリングによりV層を通過する。酸化層が極薄あるいは不連続である場合、電子注入障壁高さは、Alとペンタセンとの接触により決定される。酸化物の厚さが増大すると、トンネル電流と、Alとペンタセンとの接触面積とは減少するはずであり、全出力電流は減少する。V層の厚さが20nmを超えると、N型挙動は観察されない。遷移金属酸化物VOFETにおいては、デバイスの製造と動作を決定する要因は、ソース電極と有機層との界面をいかに制御するかである。
【0028】
OFET回路設計においては、CMOS技術が非常に電力消費が低く、デバイス許容誤差を補償する効果があるので推奨されている。最高度の性能を達成するには、同一の半導体層を用いてN型とP型のOFETを一体化することが重要な要件である。新規な本両極性VOFETにより、この基本的要請を満たす優秀な基礎的要素(building block)が提供される。図5に、相補型インバータの伝達特性を示す。等価回路も図5に差し込み図示する。インバータの動作電圧は、明らかに5V未満である。
【0029】
まとめると、電荷注入材料としてVをペンタセンとともに用いた縦型有機電界効果トランジスタの両極特性を研究した。遷移金属酸化物を加えることの格別な意義は、それにより有機物界面における正孔注入障壁が低下することである。電子注入障壁はやはり、Alとペンタセンとの接触、あるいはソースから有機層へのトンネル電流により制御される。酸化物の厚さ、デバイスの構造等の多様な要因の効果についても検査し、本発明の実施形態において最大電流出力を得るためのVの最適厚さを示した。デバイス性能を検証するべく、対称的なソース電極及びドレイン電極を有する単一の半導体層を用いて縦型有機CMOSインバータを製造した。この両極性挙動により、記載のデバイスは、有機電界効果トランジスタの新たな用途の方向性を開く可能性がある。
【0030】
実施例
電荷注入層としてVを含む両極性縦型有機トランジスタ
本発明の特定の実施形態に係るデバイス製造に真空熱蒸着法を用いた。堆積処理(deposition processes)における圧力は、4×10−6torr未満に維持した。ペンタセンとVは、ALDRICH社から購入し、受け取った状態で用いた。予め洗浄したガラス基板上に、まず底部のゲート電極として、アルミニウムを堆積した。次に、ゲート誘電層として350nm厚さのフッ化リチウム層が続き、その後、アルミニウムのソース電極の堆積を実行した。ソース電極の表面上に電荷注入層であるバナジウムペントオキサイドを堆積し、次にペンタセン層の堆積を行った。最後に、上部電極、つまりドレイン電極を堆積してデバイスの製造を完了した。キャパシタの容量を大きくするには、デバイスを湿潤環境で試験すべきである。45%の大気相対湿度において、AGILENT社の4156C精密半導体パラメータ分析器(precision semiconductor parameter analyzer)を用いて本明細書で述べたデバイスサンプルの全てを検査した。
【0031】
界面におけるバンド曲がりのXPS/UPSによる分光分析
OMICRON社のナノテクノロジー(NanoTechnology)システムを用い、XPSスペクトルにおいてはAlのK励起(1486.6eV)により、UPSスペクトルにおいてはHeのI励起(21.2eV)により表面状態を測定した。銀をコーティングした100nmのシリコン基板にペンタセン膜を堆積した。次に、内部で種々のAl薄層を超高真空環境で堆積させることができる前処理チャンバにサンプルを移した。前処理チャンバと分析器チャンバにおけるベース圧力は、それぞれ6×10−10mbarと2×10−10mbarであった。サンプルバイアスを−5VとしてUPSスペクトルを記録した。
【0032】
別の例においては、本発明の実施形態に係る両極性縦型有機電界効果トランジスタのバッファ層として酸化モリブデンを用いる。この場合のデータを図6と図7に示す。出力性能は、以下の通りに要約できる:
P型:0.12A/cm(V=−5Vのとき)
N型:0.07A/cm(V=5Vのとき)
【0033】
上記のようなバナジウムペントオキサイドのサンプルと比較すると、このデバイスはより高い性能を有している。このデバイスは、電流出力、オン/オフ比率、及び飽和領域が高い。
【0034】
また、無機半導体材料、有機半導体材料、絶縁材料、導電性材料、及びこれらの組み合わせから、電荷注入層を選択してよい。
【0035】
本発明は、本明細書に例として説明した本発明の特定の実施形態に限定されず、請求項によって定義される。本発明の範囲と趣旨から逸脱することなく、本明細書に記載した例に対して多様な修正と代替が可能であることは当業者には理解されよう。
【図1a】

【図1b】

【図2a】

【図2b】

【図2c】

【図2d】

【図3a】

【図3b】

【図3c】

【図3d】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドレイン電極と、
前記ドレイン電極から離間したゲート電極と、
前記ドレイン電極と前記ゲート電極との間に配置されるソース電極と、
前記ゲート電極と前記ソース電極との間に配置される誘電層と、
前記ドレイン電極と前記ソース電極との間に配置される有機半導体層と、
前記有機半導体層と前記ソース電極との間にこれらに接触して配置される電荷注入層と
を含み、
動作時に、前記電荷注入層が正孔及び電子それぞれの注入障壁高さを均衡させて、N型トランジスタ動作モードとP型トランジスタ動作モードの両方を提供する、
両極性縦型有機電界効果トランジスタ。
【請求項2】
前記電荷注入層は、遷移金属酸化物材料を含む、
請求項1に記載の両極性縦型有機電界効果トランジスタ。
【請求項3】
前記電荷注入層は、基本的にVから成る、
請求項1に記載の両極性縦型有機電界効果トランジスタ。
【請求項4】
前記電荷注入層は、基本的にMoOから成る、
請求項1に記載の両極性縦型有機電界効果トランジスタ。
【請求項5】
前記電荷注入層は、基本的にWOから成る、
請求項1に記載の両極性縦型有機電界効果トランジスタ。
【請求項6】
前記電荷注入層は、VのVO、WO、及びVとの混合体、及びMoOのVとの混合体の少なくとも一つから基本的に成る、
請求項1に記載の両極性縦型有機電界効果トランジスタ。
【請求項7】
前記電荷注入層は、遷移金属酸化物材料と金属の混合体を含む、
請求項1に記載の両極性縦型有機電界効果トランジスタ。
【請求項8】
前記金属は、アルミニウムである、
請求項7に記載の両極性縦型有機電界効果トランジスタ。
【請求項9】
前記有機半導体層は、有機トランジスタ材料、有機発光材料、有機光起電材料、及びこれらの組み合わせからなる材料群から選択される、
請求項1に記載の両極性縦型有機電界効果トランジスタ。
【請求項10】
前記有機半導体層は、基本的にペンタセンから成る、
請求項1に記載の両極性縦型有機電界効果トランジスタ。
【請求項11】
前記有機半導体層と前記ドレイン電極との間にこれらに接触して配置される電荷注入層を更に含む請求項1に記載の両極性縦型有機電界効果トランジスタ。
【請求項12】
両極性縦型電界効果トランジスタを含む電子デバイス又は電気光学デバイスであって、
前記両極性縦型電界効果トランジスタは、
ドレイン電極と、
前記ドレイン電極から離間したゲート電極と、
前記ドレイン電極と前記ゲート電極との間に配置されるソース電極と、
前記ゲート電極と前記ソース電極との間に配置される誘電層と、
前記ドレイン電極と前記ソース電極との間に配置される有機半導体層と、
前記有機半導体層と前記ソース電極との間にこれらに接触して配置される電荷注入層と
を含み、
該電子デバイス又は電気光学デバイスは、
前記ドレイン電極と電気的に接続し、該ドレイン電極と前記ソース電極との間にバイアス電圧を供給する電源と、
前記ゲート電極と電気的に接続し、該ゲート電極と前記ソース電極との間にバイアス電圧を供給する電源と
を含み、
動作時に、前記電荷注入層は、正孔及び電子それぞれの注入障壁高さを均衡させて、N型トランジスタ動作モードとP型トランジスタ動作モードの両方を提供する、
電子デバイス又は電気光学デバイス。
【請求項13】
ドレイン電極と、
前記ドレイン電極から離間したゲート電極と、
前記ドレイン電極と前記ゲート電極との間に配置される電荷注入層と、
前記ゲート電極と前記電荷注入層との間に配置される誘電層と、
前記ドレイン電極と前記電荷注入層との間に配置される半導体層と
を含み、
動作時に、前記電荷注入層は、正孔及び電子それぞれの注入障壁高さを均衡させて、N型トランジスタ動作モードとP型トランジスタ動作モードの両方を提供する、
両極性縦型電界効果トランジスタ。
【請求項14】
前記電荷注入層は、遷移金属酸化物材料を含む、
請求項13に記載の両極性縦型有機電界効果トランジスタ。
【請求項15】
前記電荷注入層は、基本的にVから成る、
請求項13に記載の両極性縦型有機電界効果トランジスタ。
【請求項16】
前記電荷注入層は、基本的にMoOから成る、
請求項13に記載の両極性縦型有機電界効果トランジスタ。
【請求項17】
前記電荷注入層は、基本的にWOから成る、
請求項13に記載の両極性縦型有機電界効果トランジスタ。
【請求項18】
前記電荷注入層は、VのVO、WO、及びVとの混合体、及びMoOのVとの混合体の少なくとも一つから基本的に成る、
請求項13に記載の両極性縦型有機電界効果トランジスタ。
【請求項19】
前記電荷注入層は、遷移金属酸化物材料と金属の混合体を含む、
請求項13に記載の両極性縦型有機電界効果トランジスタ。
【請求項20】
前記金属は、アルミニウムである、
請求項19に記載の両極性縦型有機電界効果トランジスタ。
【請求項21】
前記半導体層は、有機半導体材料と無機半導体材料からなる材料群から選択される、
請求項13に記載の両極性縦型有機電界効果トランジスタ。
【請求項22】
前記半導体層は、有機トランジスタ材料、有機発光材料、及び有機光起電材料からなる材料群から選択される、
請求項13に記載の両極性縦型有機電界効果トランジスタ。
【請求項23】
前記半導体層は、基本的にペンタセンから成る、
請求項13に記載の両極性縦型有機電界効果トランジスタ。
【請求項24】
前記有機半導体層と前記ドレイン電極との間にこれらに接触して配置される電荷注入層を更に含む請求項13に記載の両極性縦型有機電界効果トランジスタ。
【請求項25】
前記ドレイン電極と前記ゲート電極との間に配置されるソース電極を更に含む、
請求項13に記載の両極性縦型有機電界効果トランジスタ。
【請求項26】
前記電荷注入層は、無機半導体材料、有機半導体材料、絶縁材料、導電性材料、及びこれらの組み合わせからなる材料群から選択される、
請求項13に記載の両極性縦型有機電界効果トランジスタ。

【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−513022(P2009−513022A)
【公表日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−536866(P2008−536866)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【国際出願番号】PCT/US2006/041283
【国際公開番号】WO2007/048041
【国際公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(506064119)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ カリフォルニア (15)
【Fターム(参考)】