説明

両面接着性感圧接着シートの製造方法

【課題】水分散型の粘着剤組成物を用いて該粘着剤本来の性能をより適切に発揮することのできる不織布基材の両面粘着シートを製造する方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る両面粘着シート製造方法は、水分散型の粘着剤組成物および支持体としての不織布基材を用意することを含む。また、該不織布基材に含浸して設けられた粘着剤層であって上記組成物を乾燥させてなる粘着剤層を形成することを含む。ここで、上記粘着剤層は、上記不織布基材の流れ方向と直交する縦断面において観察される空隙の面積が凡そ500μm2/400μm以下となるように該不織布基材に含浸して設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分散型の感圧接着剤組成物を用いて不織布を基材とする両面接着性感圧接着シートを製造する方法に関し、詳しくは、感圧接着剤本来の性能がより適切に発揮される感圧接着シートを製造することのできる両面接着性感圧接着シート製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不織布を基材(支持体)とする両面接着型の感圧接着シート(両面粘着シート)は、作業性がよく接着の信頼性の高い接合手段として家電製品から自動車、OA機器等の各種産業分野において広く利用されている。このような両面粘着シートに関する従来技術文献として特許文献1〜4が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−067875号公報
【特許文献2】特開2002−356660号公報
【特許文献3】特開2006−143856号公報
【特許文献4】特開2001−152111号公報
【0004】
上記のような使用態様から、両面粘着シートには、被着体の表面形状(凹凸、曲がり等)に対して良好に追随する性質(曲面接着性の高さまたは反撥性の低さとしても把握され得る。)が要求されることが多い。かかる追随性が不足すると、該両面粘着シートを車両内装材等のように複雑な表面形状を有する被着体への貼り付けに使用した場合に、接合部の浮き、剥がれ等が生じやすくなるためである。
【0005】
これまで両面粘着シートの製造に使用される感圧接着剤組成物としては、有機溶剤に感圧接着成分(ポリマー等)を溶解させた溶剤型の組成物が主流であった。しかし近年では、環境への配慮、両面粘着シートから放散する揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds;VOC)量の低減等の観点から、感圧接着成分が水に分散した態様の水分散型(水性)感圧接着剤組成物の使用が好まれる傾向にある。このような水分散型の感圧接着剤組成物への転換は両面粘着シート用の感圧接着剤組成物に限らず種々の分野で検討されており、溶剤型の感圧接着剤組成物に匹敵するかあるいはこれを上回る粘着性能(上記追随性等)を実現し得る水分散型感圧接着剤組成物を目指して開発が進められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、水分散型(典型的にはエマルジョン型)の感圧接着剤組成物を用いて形成された感圧接着剤層を備える不織布基材の両面粘着シートでは、溶剤型の感圧接着剤組成物を用いてなる両面粘着シートに比べて、感圧接着剤本来の性能が両面粘着シートとしての性能に適切に反映されにくい場合がある。より具体的には、例えば、感圧接着剤層自体の(すなわち、不織布基材を有しない粘着剤膜としての)性能評価では被着体の表面形状に対して良好な追随性を示す感圧接着剤層を形成し得る水分散型の感圧接着剤組成物であっても、該組成物を用いて不織布基材の両面粘着シートを形成すると上記追随性が大きく低下してしまう場合がある。このことが両面粘着シートの分野において溶剤型の感圧接着剤組成物から水分散型への転換を妨げる一因ともなっていた。
【0007】
本発明は、水分散型の感圧接着剤組成物を用いて不織布を基材とする両面接着性感圧接着シートを製造する方法であって、感圧接着剤本来の感圧接着性能(例えば被着体の表面形状への追随性)をより適切に発揮することのできる製造方法の提供を目的とする。本発明の他の目的は、かかる方法を適用して製造された両面接着性感圧接着シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によると、水分散型の感圧接着剤(以下、「粘着剤」ともいう。)組成物を用いて、該組成物から形成された感圧接着剤層(粘着剤層)と該感圧接着剤層を支持する不織布基材とを備える両面接着性の感圧接着シート(以下、「両面粘着シート」ともいう。)を製造する方法が提供される。その方法は、水分散型の感圧接着剤組成物を用意することを含む。また、支持体としての不織布基材を用意することを含む。また、前記感圧接着剤組成物を乾燥させてなる感圧接着剤層であって該不織布基材に含浸して設けられた感圧接着剤層を形成することを含む。ここで、前記感圧接着剤層は、前記不織布基材の流れ方向と直交する縦断面において観察される空隙の面積が凡そ500μm2/400μm以下(典型的には、略0μm2/400μm〜凡そ500μm2/400μm)となるように該不織布基材に含浸して設けられる。
上記空隙面積が実現される程度に不織布基材によく含浸させて粘着剤層を形成することにより、水分散型(水性)の粘着剤組成物を用いても、粘着剤本来の性能(例えば被着体表面への追随性)をよりよく反映した両面粘着シートを効率よく製造することができる。
【0009】
前記不織布基材としては、坪量が凡そ5〜25g/m2の不織布基材を好ましく採用することができる。該不織布基材の厚さは凡そ15〜70μmの範囲にあることが好ましい。また、嵩密度(上記坪量を上記厚さで除して算出され得る。)が凡そ0.2〜0.5g/cm3の範囲にある不織布基材の使用が好ましい。かかる性状の不織布基材は、上記空隙面積が実現される程度によく含浸された粘着剤層を形成しやすいことから、本発明の方法に使用する不織布基材として好適である。また、該不織布基材を用いてなる両面粘着シートは、上記表面形状への追随性がより良好な(より低反撥性の)両面粘着シートとなり得るので好ましい。
【0010】
ここに開示される方法の好ましい一態様では、前記水分散型感圧接着剤組成物を乾燥させてなる感圧接着剤膜を前記不織布基材の両面にそれぞれ積層して前記感圧接着剤層を形成する。かかる態様は、両面粘着シートの生産効率に優れ、また比較的坪量の小さいおよび/または嵩密度の低い不織布基材にも容易に適用し得るという利点を有する。
【0011】
前記感圧接着剤層を形成するにあたっては、必要に応じて、前記水分散型感圧接着剤組成物の希釈液を前記不織布基材に含浸させて乾燥させる予備含浸処理を行うことができる。かかる処理を行うことにより、上記空隙面積がより低減された両面粘着シートを製造することができる。また、上記予備含浸処理を行うことにより、不織布基材の種類、感圧接着剤組成物の種類、感圧接着剤層の形成条件等をより広い範囲から選択することが可能となる。換言すれば、上記空隙面積を実現可能な材料および/または製造条件の選択自由度を高めることができる。
【0012】
上記水分散型感圧接着剤組成物としては、例えば、アクリル系ポリマーを主体とし、該アクリル系ポリマーが水に分散している水性エマルジョン型の感圧接着剤組成物を好ましく採用することができる。
【0013】
本発明によると、また、ここに開示されるいずれかの方法により製造された両面接着性感圧接着シート(両面粘着シート)が提供される。かかる両面粘着シートは、被着体の表面形状への追随性に優れたものであり得る。換言すれば、非平面的な表面形状の被着体に貼り付けた場合にも、該表面形状からの浮きや剥がれ等を生じにくい(すなわち低反撥性の)両面粘着シートであり得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】両面粘着シートの代表的な構成例を模式的に示す断面図である。
【図2】両面粘着シートの他の代表的な構成例を模式的に示す断面図である。
【図3】両面粘着シートの空隙面積と耐反撥性との関係を示す特性図である。
【図4】例1に係る両面粘着シートの断面を示すSEM像である。
【図5】例2に係る両面粘着シートの断面を示すSEM像である。
【図6】例7に係る両面粘着シートの断面を示すSEM像である。
【図7】例9に係る両面粘着シートの断面を示すSEM像である。
【図8】例10に係る両面粘着シートの断面を示すSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0016】
本発明に係る方法を適用して製造される両面粘着シート(テープ状等の長尺状のものであり得る。)は、例えば、図1または図2に模式的に示される断面構造を有するものであり得る。図1に示す粘着シート11は、不織布基材1の両面に粘着剤層2が設けられ、それらの粘着剤層2が、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー3によってそれぞれ保護された構成を有している。図2に示す粘着シート12は、不織布基材1の両面に粘着剤層2が設けられ、それらの粘着剤層のうち一方が、両面が剥離面となっている剥離ライナー3により保護された構成を有している。この種の粘着シート12は、該粘着シート12を巻回することにより他方の粘着剤層を剥離ライナー3の裏面に当接させ、該他方の粘着剤層もまた剥離ライナー3によって保護された構成とすることができる。なお、図1および図2では図解の便宜のため粘着剤層2と不織布基材1との界面を直線で表しているが、実際には不織布基材1の両面に設けられた粘着剤層2の下部(不織布基材1側)はそれぞれ不織布基材1に含浸している。
【0017】
ここに開示される両面粘着シート製造方法は、水分散型(典型的にはエマルジョン型)の粘着剤組成物を用いて、該組成物から形成される粘着剤層(図1,2に示す符号2)を、空隙面積が凡そ500μm2/400μm以下となる程度に不織布基材(同符号1)によく含浸した状態で設けることによって特徴づけられる。該空隙面積が凡そ250μm2/400μm以下(より好ましくは凡そ100μm2/400μm以下)となるように粘着剤層を形成することが好ましい。空隙面積の下限は特に限定されない。通常は、耐反撥性以外の性能(両面粘着テープの強度、耐反撥性以外の粘着性能等)とのバランス、材料コスト、製造効率等を勘案した上で、なるべく空隙面積が少なくなるように設定することが適当である。
【0018】
ここで「空隙面積」とは、両面粘着シートを構成する不織布基材の流れ方向(MD方向、典型的にはシートの長手方向)と直交する切断線に沿って該両面粘着シートを厚み方向に切断した断面(縦断面)において、該断面の長さ(典型的には、不織布基材の幅方向の長さに相当する。)400μm当たりに観察される空隙の面積(該断面への開口面積)をいう。この空隙面積は、例えば、上記断面を倍率100〜1000倍程度(例えば300倍)の走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して得られた像(SEM像)を解析することにより把握することができる。SEM観察用の試料の調整(作製)は常法により行えばよく、例えば後述する実施例に記載の調整方法(基材含浸性評価方法)を好ましく採用することができる。SEM観察条件(測定条件)および得られたSEM像の解析方法についても同様である。不織布基材の流れ方向に切断位置を異ならせて少なくとも3箇所(より好ましくは5箇所以上、例えば5〜10箇所)の断面について空隙面積を求め、それらの平均値を採用することが好ましい。
【0019】
かかる空隙面積が実現される限りにおいて、使用する粘着剤組成物や不織布基材の種類(製造方法、組成、性状等)、粘着剤層を形成する具体的な方法等に特に制限はない。
例えば不織布基材としては、水分散型粘着剤組成物から形成された粘着剤層を所定の空隙面積となるように形成し得る限り、両面粘着シートの分野において周知ないし慣用の不織布基材またはその他の不織布基材を適宜選択して使用することができる。木材繊維、綿、マニラ麻等の天然繊維から構成される不織布基材;レーヨン、アセテート繊維、ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール(PVA)繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ポリウレタン繊維等の化学繊維から構成される不織布基材;材質の異なる二種以上の繊維を併用して構成された不織布基材;等のいずれも使用可能である。ビスコース、PVA、ポリアクリルアミド等の樹脂(バインダ)が含浸された不織布基材を用いてもよい。本発明にとり好ましい不織布として、ビスコース加工が施された繊維を用いて形成された不織布基材または不織布形成後にビスコース加工(ビスコースレーヨン含浸処理)を施した不織布基材が例示される。
なお、ここでいう「不織布」は、主として粘着テープその他の粘着シート(感圧接着シート)の分野において使用される粘着シート用不織布を指す概念であって、典型的には一般的な抄紙機を用いて作製されるような不織布(いわゆる「紙」と称されることもある。)をいう。
【0020】
ここに開示される技術において不織布基材に含浸して設けられた粘着剤層を形成するために採用し得る手法の好適例として、(1)水分散型粘着剤組成物を剥離ライナーに付与(典型的には塗布)して乾燥させることにより該剥離ライナー上に粘着剤膜を形成し、その粘着剤膜付き剥離ライナーを不織布基材に貼り合わせて該粘着剤膜を不織布基材に転写(積層)する方法(以下、この方法を「転写法」ということもある。);(2)水分散型粘着剤組成物を不織布基材に直接付与(典型的には塗布)して乾燥させる方法(以下、この方法を「直接法」または「直接塗布法」ということもある。);等が挙げられる。これらの方法を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
両面粘着シートの製造効率等の観点から、不織布基材の一方の面および他方の面の両方に転写法によって粘着剤膜を積層する方法(以下、「両面転写法」ということもある。)を特に好ましく採用し得る。このため、かかる両面転写法によっても所望の空隙面積を実現し得る不織布基材、すなわち粘着剤組成物をあらかじめ乾燥させて形成された粘着剤膜(粘着剤)の含浸性に優れた不織布基材を採用することが好ましい。該不織布基材に上記両面転写法をそのまま(すなわち、後述する予備含浸処理等の前処理を特に施すことなく)適用することによって所望の(典型的には凡そ500μm2/400μm以下の)空隙面積の両面粘着シートを形成し得る不織布基材を選択して使用することが特に好ましい。
【0022】
したがって、ここに開示される発明の他の側面は、水分散型の粘着剤組成物を用いて形成された粘着剤層および該粘着剤層を支持する不織布基材を備える両面粘着シートを製造する方法であって:水分散型粘着剤組成物を用意すること;両面転写法をそのまま(予備含浸処理等の前処理を施すことなく)適用して粘着剤層を形成した場合において500μm2/400μm以下の空隙面積を実現可能な不織布基材を選択すること;および、その選択した不織布基材に、上記粘着剤組成物を乾燥させてなる感圧接着剤層を、空隙面積が500μm2/400μm以下となるように含浸して形成すること;を包含する両面粘着シートの製造方法である。なお、上記選択した不織布基材を用いて実際に両面粘着シートを製造する際に採用する粘着剤層形成方法は両面転写法に限定されない。例えば一方の面を転写法、他方の面を直接法により形成してもよい。また、上記選択した不織布基材を用いて実際に両面粘着シートを製造する際には、不織布基材に予備含浸処理等の前処理を施してもよい。
【0023】
特に限定するものではないが、転写法(典型的には両面転写法)を適用して両面粘着シートを製造する場合における粘着剤(粘着剤膜)の含浸性の観点からは、坪量が凡そ5〜25g/m2(より好ましくは凡そ5〜15g/m2)の不織布基材を好ましく採用することができる。該不織布基材の厚さは凡そ15〜70μm(より好ましくは凡そ15〜50μm)の範囲にあることが好ましい。また、嵩密度(上記坪量を上記厚さで除して算出され得る。)が凡そ0.2〜0.5g/cm3(例えば凡そ0.25〜0.4g/cm3)の範囲にある不織布基材の使用が好ましい。上記範囲よりも嵩密度が大きすぎると粘着剤膜の含浸性が不足しがちである。また、上記範囲よりも嵩密度が小さすぎても粘着剤膜の含浸性が不足しやすくなる。これは、嵩密度が小さすぎると粘着剤膜の積層によって不織布基材が過度に潰れてしまう(厚み方向に圧縮される)結果、該不織布基材を構成する繊維の間に粘着剤が浸入し難くなるためではないかと考えられる。
【0024】
また、不織布基材の選択、粘着剤組成物の選択およびこれらの組み合わせ等によっては、上記両面転写法を不織布基材にそのまま(すなわち、特に前処理を施すことなく)適用することによっては空隙面積が十分に低減されない場合があり得る。このような場合には、不織布基材の一方または両方の面(好ましくは一方の面)については上記直接法を適用して粘着剤層を形成することにより、より空隙面積の小さい(換言すれば、粘着剤層の含浸の程度が高められた)両面粘着シートが作製され得る。例えば、不織布基材の一方の面に転写法によって粘着剤膜を積層し、次いで、該不織布基材の他方の面に粘着剤組成物を塗布して(すなわち直接塗布法により)粘着剤層を形成するとよい。なお、両面転写法によって空隙面積が十分に低減された(典型的には、空隙面積500μm2/400μm以下の)両面粘着シートを作製し得る場合であっても、上記直接法を不織布基材の一方の面または両方の面に適用することはもちろん可能である。このことによって、より空隙面積の小さい両面粘着シートが製造され得る。
【0025】
粘着剤組成物の塗布は、例えば、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター等の慣用のコーターを用いて行うことができる。特に限定するものではないが、粘着剤組成物の塗布量(ここでは、不織布基材の片面側に設けられる粘着剤層当たりの塗布量をいう。)は、粘着剤の固形分換算で例えば凡そ20〜150μm(典型的には凡そ40〜100μm)の粘着剤層が形成される程度の量とすることができる。好ましい塗布量の下限は、使用する不織布基材の性状によっても異なり得る。通常は、不織布基材の片面当たり、該不織布基材の厚さに対して凡そ0.5倍〜10倍(好ましくは凡そ1倍〜5倍)の厚さの粘着剤層が形成される程度の塗布量とすることが適当である。この塗布量が少なすぎると所望の空隙面積が達成され難くなることがある。架橋反応の促進、製造効率向上等の観点から、粘着剤組成物の乾燥は加熱下で行うことが好ましい。被塗布物(剥離ライナーおよび/または不織布基材)の材質にもよるが、通常は例えば凡そ40〜120℃程度の乾燥温度を好ましく採用することができる。
【0026】
上記直接法または転写法による粘着剤層の形成に先立って、必要に応じて、粘着剤組成物の希釈液を前記不織布基材に含浸させて乾燥させる予備含浸処理を行うことができる。この予備含浸処理用の希釈液としては、水分散型粘着剤組成物、水溶性粘着剤組成物等のような、水性の(有機溶剤を含まない)粘着剤組成物を適当な溶媒(典型的には水)で希釈して調整したものを好ましく使用することができる。これらのうち水分散型(典型的にはエマルジョン型)粘着剤組成物を水で希釈した希釈液の使用が好ましい。上記希釈液の調整に用いる水分散型粘着剤組成物と、該処理が施された不織布基材に粘着剤層を形成する(例えば直接法または転写法により形成する)際に使用する水分散型粘着剤組成物とは、同一の組成物であってもよく異なる組成物であってもよい。通常は、粘着剤層の形成に使用する水分散型粘着剤組成物を適当な溶媒(典型的な水)で希釈することにより予備含浸処理用の希釈液を調整することが簡便であり好ましい。予備含浸処理に使用する希釈液の固形分濃度は特に限定されず、例えば凡そ5〜50%程度であり得る。通常は、該固形分濃度が凡そ10〜40%程度(例えば凡そ20〜35%程度)の希釈液を好ましく使用することができる。
【0027】
かかる予備含浸処理は、いずれの面にも粘着剤層が形成されていない状態の不織布基材に対して行ってもよく、いずれか一方の面に粘着剤層が(例えば転写法または直接法により)形成された状態の不織布基材に対して行ってもよい。このような予備含浸処理が施された不織布基材に転写法、直接法等の任意の方法またはこれらを組み合わせた方法で粘着剤層を形成することにより、該予備含浸処理を行わない場合に比べて空隙面積がより低減された両面粘着シートを製造することができる。また、上記予備含浸処理を行うことにより、不織布基材の種類、感圧接着剤組成物の種類、感圧接着剤層の形成条件等をより広い範囲から選択することが可能となる。換言すれば、ここに開示される好ましい空隙面積(例えば凡そ500μm2/400μm以下)を実現可能な材料および/または製造条件の選択自由度を高めることができる。
【0028】
ここに開示される方法に使用する水分散型粘着剤組成物としては、粘着成分として機能し得るアクリル系、ポリエステル系、ウレタン系、ポリエーテル系、ゴム系、シリコーン系、ポリアミド系、フッ素系等の公知の各種ポリマーが水に分散した形態の水分散型(典型的にはエマルジョン型)粘着剤組成物を適宜選択することができる。好ましく使用される粘着剤組成物として、アクリル系ポリマーを主体とし(すなわち、該粘着剤組成物に含まれる不揮発分(固形分)に占めるアクリル系ポリマーの質量割合が50質量%を超える割合であり)、該アクリル系ポリマーが水に分散した形態の水性エマルジョン型粘着剤組成物が例示される。
【0029】
上記アクリル系ポリマーは、アルキル(メタ)アクリレート、すなわちアルキルアルコールの(メタ)アクリル酸エステルを主モノマー(主構成単量体)とするモノマー原料を重合(典型的にはエマルジョン重合)してなる重合体であり得る。該モノマー原料を構成するアルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素原子数2〜20(より好ましくは4〜10)のアルキルアルコールの(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。該アルキルアルコールにおけるアルキル基の具体例としては、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、イソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基等が挙げられる。特に好ましいアルキル(メタ)アクリレートとしてブチル(メタ)アクリレートおよび2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートが例示される。
【0030】
上記モノマー原料は、主モノマーとしてのアルキル(メタ)アクリレートに加えて、任意成分としてその他のモノマー(共重合成分)を含有することができる。当該「その他のモノマー」は、ここで使用するアルキル(メタ)アクリレートと共重合可能な種々のモノマーから選択される一種または二種以上であり得る。例えば、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、アミド基、エポキシ基、アルコキシシリル基等から選択される一種または二種以上の官能基を有するエチレン性不飽和単量体(官能基含有モノマー)を使用することができる。なかでもアクリル酸および/またはメタクリル酸の使用が好ましい。上記官能基含有モノマーは、主モノマーたるアルキル(メタ)アクリレートとともにモノマー原料の構成成分として用いられて、該モノマー原料から得られるアクリル系ポリマーに架橋点を導入するのに役立ち得る。上記官能基含有モノマーの種類およびその含有割合(共重合割合)は、使用する架橋剤の種類およびその量、架橋反応の種類、所望する架橋の程度(架橋密度)等を考慮して適宜設定することができる。
【0031】
本発明の方法に使用する水分散型粘着剤組成物は、上記のようなモノマー原料をエマルジョン重合に付して得られたものであり得る。上記エマルジョン重合の態様は特に限定されず、従来公知の一般的な乳化重合と同様の態様により、例えば公知の各種モノマー供給方法、重合条件(重合温度、重合時間、重合圧力等)、使用材料(重合開始剤、界面活性剤等)を適宜採用して行うことができる。例えば、モノマー供給方法としては、全モノマー原料を一度に重合容器に供給する一括仕込み方式、連続供給(滴下)方式、分割供給(滴下)方式等のいずれも採用可能である。モノマー原料の一部または全部をあらかじめ水と混合して乳化し、その乳化液を反応容器内に供給してもよい。
【0032】
重合温度としては、例えば20〜100℃(典型的には40〜80℃)程度の温度を採用することができる。重合開始剤としては、アゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤等が例示されるが、これらに限定されない。重合開始剤の使用量は、モノマー原料100質量部に対して、例えば0.005〜1質量部程度とすることができる。
乳化剤(界面活性剤)としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム等のアニオン系乳化剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のノニオン系乳化剤;等を使用できる。かかる乳化剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。乳化剤の使用量は、モノマー原料100質量部に対して、例えば凡そ0.2〜10質量部程度(好ましくは0.5〜5質量部程度)とすることができる。
【0033】
上記重合には、必要に応じて、従来公知の各種の連鎖移動剤(分子量調節剤あるいは重合度調節剤としても把握され得る。)を使用することができる。かかる連鎖移動剤は、例えば、ドデシルメルカプタン(ドデカンチオール)、グリシジルメルカプタン、2−メルカプトエタノール等のメルカプタン類から選択される一種または二種以上であり得る。なかでもドデカンチオールの使用が好ましい。連鎖移動剤の使用量は、モノマー原料100質量部に対して例えば凡そ0.001〜0.5質量部程度とすることができる。この使用量が凡そ0.02〜0.05質量部程度であってもよい。
特に限定するものではないが、かかるエマルジョン重合は、例えば、得られたアクリル系ポリマーを酢酸エチルで抽出して残った不溶分の質量割合(ゲル分率)が0質量%以上凡そ15質量%未満となるように実施され得る。また、該アクリル系ポリマーをテトラヒドロフラン(THF)で抽出した可溶分の質量平均分子量(Mw)が、標準ポリスチレン換算で、例えば凡そ50万〜100万程度となるように実施され得る。
【0034】
ここに開示される方法に使用される粘着剤組成物(好ましくはアクリル系水性エマルジョン型粘着剤組成物)には、必要に応じて一般的な架橋剤、例えばカルボジイミド系架橋剤、ヒドラジン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、金属キレート系架橋剤、シランカップリング剤等から選択される架橋剤が配合されていてもよい。これらの架橋剤は単独でまたは二種以上を組み合わせて使用し得る。特に限定するものではないが、架橋剤の使用量は、当該組成物から形成された粘着剤(すなわち、上記架橋剤による架橋後の粘着剤)を酢酸エチルで抽出して残った不溶分の質量割合(ゲル分率)が凡そ15〜70質量%(例えば凡そ30〜55質量%)となる程度の量とすることができる。
【0035】
上記粘着剤組成物には粘着付与剤が配合されていてもよい。かかる粘着付与剤としては、例えば、ロジン系樹脂、ロジン誘導体樹脂、石油系樹脂、テルペン系樹脂、フェノール系樹脂、ケトン系樹脂等の各種粘着付与剤樹脂から選択される一種または二種以上を用いることができる。粘着付与剤の配合割合は、不揮発分(固形分)換算として、ポリマー成分(例えば、アクリル系水性エマルジョン型粘着剤組成物ではアクリル系ポリマー)100質量部に対して例えば凡そ50質量部以下とすることができる。通常は、上記配合割合を凡そ30質量部以下とすることが適当である。粘着付与剤含有量の下限は特に限定されないが、通常はポリマー成分100質量部に対して凡そ1質量部以上とすることにより良好な結果が得られる。
【0036】
高温環境下における凝集力を高める等の観点から、例えば軟化点が凡そ140℃以上(典型的には140〜180℃)の粘着付与剤を好ましく採用し得る。かかる軟化点を有する粘着付与剤の市販品としては、荒川化学工業株式会社製品の商品名「スーパーエステルE−865」、「スーパーエステルE−865NT」、「スーパーエステルE−650」、「スーパーエステルE−786−60」、「タマノルE−100」、「タマノルE−200」、「タマノル803L」、「ペンセルD−160」、「ペンセルKK」;ヤスハラケミカル株式会社製品の商品名「YSポリスターS」、「YSポリスターT」、「マイティエースG」;等が例示されるが、これらに限定されない。このような粘着付与剤は、一種のみを使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。かかる粘着付与剤が水に分散された水分散液(粘着付与剤エマルジョン)の形態であって、かつ、有機溶剤を実質的に含有しない粘着付与剤エマルジョンの使用が特に好ましい。
【0037】
上記粘着剤組成物は、pH調整等の目的で使用される酸または塩基(アンモニア水等)を含有するものであり得る。該組成物に含有され得る他の任意成分としては、粘度調整剤、レベリング剤、可塑剤、充填剤、顔料、染料等の着色剤、安定剤、防腐剤、老化防止剤等の、水性粘着剤組成物の分野において一般的な各種の添加剤が例示される。また、該粘着剤組成物には、不織布基材への粘着剤の含浸性を高めるために、公知の濡れ向上剤が添加されていてもよい。かかる濡れ向上剤の添加は、不織布基材の少なくとも一方の面に直接法を適用して粘着剤層を形成する場合に特に有効である。このような各種添加剤については、従来公知のものを常法により使用することができ、特に本発明を特徴づけるものではないので、詳細な説明は省略する。
【0038】
ここに開示される両面粘着シート製造方法によると、水分散型の粘着剤組成物を使用して、粘着剤本来の性能(例えば被着体表面への追随性)をよりよく反映した両面粘着シートを効率よく製造することができる。例えば、該方法により製造された本発明に係る両面粘着シートは、後述する耐反撥性評価試験における剥がれ高さが凡そ5mm以下(より好ましくは凡そ3mm以下、さらに好ましくは凡そ1mm以下)という高度な耐反撥性を備える(換言すれば低反撥性の)両面粘着シートであり得る。
このような優れた効果が奏される理由は必ずしも明らかではないが、例えば以下のように推察される。すなわち、水分散型の粘着剤組成物および/または該組成物から形成された粘着剤(粘着剤膜)は、溶剤型の粘着剤組成物とは異なり不均一系であること、溶剤型に比べて分散媒の表面張力が大きいこと等により、不織布基材への含浸挙動が溶剤型とは大きく異なり得る。従来は、かかる含浸挙動の相違および含浸の程度が十分に把握されていなかったことにより、粘着剤単独での性能が両面粘着シートとしての性能に反映され難いという事象が生じていたものと考えられる。本発明によると、粘着剤の含浸の程度を空隙面積により把握し、この空隙面積を指標として含浸の程度を管理することにより、水分散型の粘着剤組成物を用いて、当該粘着剤が本来の有する性能(例えば耐反撥性)をより適切に反映させた両面粘着シートを効率よく製造することができる。
【0039】
ここに開示される両面粘着シート製造方法の好適な態様によると、両面粘着シートの作製後、該シートが上記含浸性を向上させるような条件(例えば、常温または加温下でシートの厚み方向に圧縮応力が加わるような条件)に保持される場合は勿論のこと、かかる条件に保持されない場合であっても(例えば、後述する実施例のように、該シートを特に押圧することなく作製から3日間50℃の環境下に保存した後、後述の基材含浸性評価方法により空隙面積を測定した場合においても)、上述した好ましい空隙面積を実現することができる。例えば、一般なロール状に巻回された形態の両面粘着テープにおいて該ロールの内周部分ではテープの厚み方向に巻取り応力が加わるところ、ここに開示される方法を適用することにより、該ロールの最も外周側の部分(上記巻取り応力が実質的に加わらない部分)においても上述した好ましい空隙面積が実現された両面粘着シート(両面粘着テープ)が製造され得る。したがって、ロール状両面粘着テープの外周側(表面部分、使い始め側の端部)から内周側に至る各部で上述の優れた効果を発揮することができる。
【0040】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り質量基準である。
【0041】
<例1>
冷却管、窒素導入管、温度計および攪拌機を備えた反応容器に、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]ハイドレート(重合開始剤)(和光純薬工業株式会社製品、商品名「VA−057」を使用した。)0.279gおよびイオン交換水100gを投入し、窒素ガスを導入しながら1時間攪拌した。これを60℃に保ち、ここにブチルアクリレート29部、2−エチルヘキシルアクリレート67部、アクリル酸4部、ジアセトンアクリルアミド0.5部、ドデカンチオール(連鎖移動剤)0.04部およびポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム(乳化剤)2部をイオン交換水41部に添加して乳化したもの(すなわち、モノマー原料のエマルジョン)400gを4時間かけて徐々に滴下して乳化重合反応を進行させた。モノマー原料エマルジョンの滴下終了後、さらに3時間同温度に保持して熟成させた。これに10%アンモニウム水を添加して液性をpH7.5に調整した。このようにして、アクリル系ポリマーの水分散液(エマルジョン)を得た。以下、このアクリル系ポリマーエマルジョンを「エマルジョン(a)」ということがある。
該エマルジョン(a)を構成するアクリル系ポリマーをTHFで抽出した可溶分の質量平均分子量(Mw)は66.8×10(標準ポリスチレン換算)であった。また、該アクリル系ポリマーの酢酸エチル不溶分の質量割合は0%であった。
【0042】
このエマルジョン(a)に対し、該エマルジョンに含まれるアクリル系ポリマー100部当たり20部(固形分換算)の割合で粘着付与剤のエマルジョン(荒川化学工業株式会社製品、軟化点160℃の重合ロジン樹脂の水分散液、商品名「スーパーエステルE−865−NT」を使用した。)を添加した。また、ヒドラジン系架橋剤として、上記アクリル系ポリマー100部当たり0.1部の割合でアジピン酸ジヒドラジド(ADH)を添加した。さらに、エポキシ系架橋剤として、上記アクリル系ポリマー100部当たり0.01部の割合で1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン(三菱瓦斯化学株式会社製品、商品名「テトラッド−C」を使用した。)を添加して粘着剤組成物を得た。以下、この粘着剤組成物を「粘着剤組成物(A)」ともいう。
【0043】
上記粘着剤組成物(A)を不織布基材に付与して両面粘着シートを作製した。本例では不織布基材として坪量12g/m2、厚さ45μm、嵩密度0.27g/cm3の麻パルプ系不織布(ビスコース加工品)(大昭和日本板紙株式会社製品の薄葉紙、商品名「薄葉紙123」;以下、「不織布a」ということもある。)を使用した。
すなわち、上質紙をシリコーン系剥離剤で処理してなる剥離ライナーに上記粘着剤組成物(A)を塗布した。これを100℃で3分間乾燥させて、該ライナー上に厚さ約70μmの粘着剤膜を形成した。このような粘着剤膜付き剥離ライナーを2枚用意した。そのうち1枚目の粘着剤膜付き剥離ライナーを不織布基材の一方の面に貼り合わせた。次いで、該不織布基材の他方の面に2枚目の粘着剤膜付き剥離ライナーを貼り合わせた。このように不織布基材の両面に粘着剤膜を積層して(すなわち、不織布基材の両面に粘着剤膜を転写する両面転写法により)例1に係る両面粘着シートを得た。この両面粘着シートの両粘着面は、該粘着シートの作製に使用した剥離ライナーによってそのまま保護されている。
【0044】
得られた両面粘着シートを作製から3日間50℃の環境下に保存した後、以下の評価試験に供した。なお、上記保存後の粘着シートから採取した粘着剤サンプルの酢酸エチル不溶分の質量割合は34%であった。
【0045】
[基材含浸性評価]
上記両面粘着シートを、該シートを構成する不織布基材の流れ方向と直交する切断線に沿って厚み方向に切断し、4%オスミウム(Os)水溶液を用いて50℃で5時間蒸気染色した。その後、ミクロトームにより観察用試料を切り出して導電性粘着テープで試料台に固定し、Pt−Pdスパッタリングを20秒間施した。このようにして調整した試料の断面を以下の条件で観察した。
装置:株式会社日立ハイテクノロジーズ製品、電界放出型走査電子顕微鏡、型番「S−4800」;
測定条件:加速電圧3kV(倍率300倍)にて二次電子像を観察。
このようにして得られたSEM像を市販の画像解析ソフト(旭化成エンジニアリング株式会社製品、商品名「A像くん」を使用した。)で解析することにより、上記試料断面の長さ400μm当たりに観察される空隙の面積[μm2/400μm]を求めた。なお、上記画像解析ソフトにおける解析モードは「粒子解析」とした。解析条件の設定にあたっては、個々のSEM像を見ながら、実際に空隙となっている部分が適切にピックアップされるように留意して、空隙か空隙でないかの閾値を手動で設定した。また、測定の目的たる空隙(すなわち、不織布への含浸の程度を示す空隙)とは明らかに異なる部分(例えば観察用試料の調整時に生じた粘着剤層のひび割れ等)は空隙面積に算入されないようにした。不織布基材の流れ方向に切断位置を異ならせた3箇所の断面について上記空隙面積を求め(すなわちn=3)、それらの平均値を当該両面粘着シートの空隙面積とした。その結果、本例に係る両面粘着シートの空隙面積は99μm2/400μmであった。
【0046】
[耐反撥性評価]
上記両面粘着シートの一面を保護する剥離ライナーを剥がし、露出した粘着剤層を厚さ0.5mm、幅10mm、長さ90mmのアルミニウム板に貼り合わせて試験片を作製した。その試験片の長手方向をφ50mmの丸棒に沿わせて弧状に曲げた後、該試験片の他面から剥離ライナーを剥がして粘着剤層を露出させ、ラミネータを用いてポリプロピレン板に圧着した。これを23℃の環境下に24時間放置し、次いで70℃で2時間加温した後に、ポリプロピレン板表面から浮きあがった試験片端部の高さ(mm)を測定した。かかる測定は3つの試験片を用いて行い(すなわちn=3)、それらの平均値を当該両面粘着シートの剥がれ高さとした。その結果、本例に係る両面粘着シートの剥がれ高さ(耐反撥性)は0.6mmであった。
【0047】
<例2>
上記粘着剤組成物(A)を上記例1とは異なる不織布基材に付与して両面粘着シートを作製した。すなわち、本例では不織布基材として、坪量7g/m2、厚さ18μm、嵩密度0.39g/cm3の、麻80%およびパルプ20%からなる不織布(大昭和日本板紙株式会社から入手可能な薄葉紙;以下、「不織布b」ということもある。)を使用した。その他の点については例1と同様にして、例2に係る両面粘着シートを得た。この両面粘着シートについて例1と同様の評価試験を行ったところ、空隙面積は182μm2/400μm、耐反撥性(剥がれ高さ)は2.6mmであった。
【0048】
<例3>
本例では、不織布基材として、坪量14g/m2、厚さ45μm、嵩密度0.31g/cm3のレーヨン系不織布(中尾製紙株式会社製品のレーヨン紙、商品名「ボンライト−P14G」;以下、「不織布c」ということもある。)を使用した。その他の点については例1と同様にして、例3に係る両面粘着シートを得た。この両面粘着シートについて例1と同様の評価試験を行った。その結果、空隙面積は204μm2/400μm、耐反撥性(剥がれ高さ)は2.6mmであった。
【0049】
<例4>
本例では、不織布基材として坪量11g/m2、厚さ30μm、嵩密度0.37g/cm3の木材パルプ系不織布(大福製紙株式会社製品、商品名「NP−11−P」;以下、「不織布d」ということもある。)を使用した。その他の点については例1と同様にして、例4に係る両面粘着シートを得た。この両面粘着シートについて例1と同様の評価試験を行った。その結果、空隙面積は359μm2/400μm、耐反撥性(剥がれ高さ)は4.0mmであった。
【0050】
<例5>
本例では、不織布基材として坪量14g/m2、厚さ28μm、嵩密度0.50g/cm3のパルプ系不織布(大昭和日本板紙株式会社製品、商品名「AP−14N原紙」;以下、「不織布e」ということもある。)を使用した。その他の点については例1と同様にして、例5に係る両面粘着シートを得た。この両面粘着シートについて例1と同様の評価試験を行った。その結果、空隙面積は746μm2/400μm、耐反撥性(剥がれ高さ)は9.6mmであった。
【0051】
<例6>
本例では、不織布基材として坪量11g/m2、厚さ55μm、嵩密度0.20g/cm3の、麻80%およびパルプ20%からなる不織布(大昭和日本板紙株式会社から入手可能な薄葉紙;以下、「不織布f」ということもある。)を使用した。その他の点については例1と同様にして、例6に係る両面粘着シートを得た。この両面粘着シートについて例1と同様の評価試験を行った。その結果、空隙面積は1175μm2/400μm、耐反撥性(剥がれ高さ)は6.0mmであった。
【0052】
<例7>
本例では、不織布基材として坪量14g/m2、厚さ42μm、嵩密度0.33g/cm3のパルプ系不織布(大福製紙株式会社製品、商品名「SP−14K原紙」;以下、「不織布g」ということもある。)を使用した。その他の点については例1と同様にして、例7に係る両面粘着シートを得た。この両面粘着シートについて例1と同様の評価試験を行った。その結果、空隙面積は1461μm2/400μm、耐反撥性(剥がれ高さ)は11.1mmであった。
【0053】
<例8>
例1〜例7において両面粘着シートの作製に使用した粘着剤膜につき、該粘着剤膜自体の(基材レスの粘着シートとしての)耐反撥性を評価した。すなわち、例1と同様にして粘着剤組成物(A)から形成された厚さ70μmの粘着剤膜を有する粘着剤膜付き剥離ライナーを作製し、例1〜例7に係る両面粘着シートに代えて該粘着剤膜付き剥離ライナーを上記アルミニウム板に貼り合わせることで試験片を作製した。その他の点については例1と同様にして耐反撥性を評価した。その結果、粘着剤組成物(A)から得られた基材レスの粘着シートの耐反撥性は0.4mmであった。
【0054】
以上の評価結果を、使用した不織布基材の性状(坪量、厚さおよび密度)とともに表1に示した。この表からわかるように、空隙面積が500μm2/400μm以下(より詳しくは400μm2/400μm以下)となる程度に不織布基材によく含浸して粘着剤層が設けられた例1〜例4に係る両面粘着シートは、使用した不織布基材の性状の相違に拘らず、いずれも基材レスの粘着シート(例8)にほぼ匹敵する耐反撥性、具体的には剥がれ高さが5mm以下(より詳しくは4mm以下)という良好な耐反撥性を示した。空隙面積が250μm2/400μm以下である例1〜例3に係る両面粘着シートではより良い耐反撥性(具体的には剥がれ高さ3mm以下)を示し、空隙面積が100μm2/400μm以下である例1に係る両面粘着シートは特に優れた耐反撥性(剥がれ高さ1mm以下)を示した。
【0055】
【表1】

【0056】
<例9>
例1と同様にして、粘着剤組成物(A)から形成された厚さ70μmの粘着剤膜を有する粘着剤膜付き剥離ライナーを2枚作製した。これらのうち1枚目の粘着剤膜付き剥離ライナーを、例7と同じ不織布基材(不織布g)の一方の面に貼りあわせた。次いで、粘着剤組成物(A)の希釈液を、上記不織布基材の他方の面(不織布基材が露出している。)に、該他方の面に露出した基材が十分に浸るように供給し、100℃で1分間乾燥させた。上記希釈液としては、粘着剤組成物(A)に水を加えて固形分濃度32%に調整したものを使用した。かかる前処理(予備含浸処理)を施した不織布基材の他方の面に、2枚目の粘着剤膜付き剥離ライナーを貼り合わせた。
このようにして作製された例9に係る両面粘着シートにつき例1と同様の評価を行った。その結果、本例に係る両面粘着シートの空隙面積は110μm2/400μmであり、耐反撥性(剥がれ高さ)は2.6mmであった。
【0057】
例9に係る両面粘着シートの評価結果を、同じ不織布基材を用いて作製された例7に係る両面粘着シートの評価結果とともに表2に示した。この表2からわかるように、例7に記載の製造方法(あらかじめ作製された粘着剤膜を不織布基材の両面に転写(積層)する方法)により得られた両面粘着テープは空隙面積が大きく耐反撥性の程度が低かったが、同じ不織布基材を用いても例9に記載の製造方法によれば空隙面積が十分に低減された両面粘着シートが得られること、および、かかる空隙面積の低減に伴って耐反撥性が大幅に向上することが確認された。
【0058】
【表2】

【0059】
<例10>
冷却管、窒素導入管、温度計および攪拌機を備えた反応容器に、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]ハイドレート(重合開始剤)(和光純薬工業株式会社製品、商品名「VA−057」を使用した。)0.279gおよびイオン交換水100gを投入し、窒素ガスを導入しながら1時間攪拌した。これを60℃に保ち、ここにブチルアクリレート29部、2−エチルヘキシルアクリレート67部、アクリル酸4部、ドデカンチオール(連鎖移動剤)0.03部およびポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム(乳化剤)2部をイオン交換水41部に添加して乳化したもの(第一段目の重合に使用されるモノマー原料のエマルジョン)200gを2時間かけて徐々に滴下して乳化重合反応を進行させた。
引き続いて、同反応容器に、ブチルアクリレート29部、2−エチルヘキシルアクリレート67部、アクリル酸4部、ドデカンチオール0.045部およびポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム2部をイオン交換水41部に添加して乳化したもの(第二段目の重合に使用されるモノマー原料のエマルジョン)200gを2時間かけて徐々に滴下し、同温度にて乳化重合反応を進行させた。
モノマー原料エマルジョンの滴下終了後、さらに3時間同温度に保持して熟成させた。これに10%アンモニウム水を添加して液性をpH7.5に調整した。このようにして、アクリル系ポリマーの水分散液(エマルジョン)を得た。以下、このアクリル系ポリマーエマルジョンを「エマルジョン(b)」ということがある。
該エマルジョン(b)を構成するアクリル系ポリマーをTHFで抽出した可溶分の質量平均分子量(Mw)は82.4×10(標準ポリスチレン換算)であった。また、該アクリル系ポリマーの酢酸エチル不溶分の質量割合は5%であった。
【0060】
このようにして得られたエマルジョン(b)に対し、該エマルジョンに含まれるアクリル系ポリマー100部当たり20部(固形分換算)の割合で粘着付与剤のエマルジョン(荒川化学工業株式会社製品、商品名「スーパーエステルE−865−NT」を使用した。)を添加した。さらに、カルボジイミド系架橋剤として、日清紡績株式会社製品、商品名「カルボジライトV−04」(水溶液タイプのカルボジイミド系架橋剤)を、上記アクリル系ポリマー100部当たり0.4部(固形分換算)の割合で添加して粘着剤組成物を得た。以下、この粘着剤組成物を「粘着剤組成物(B)」ともいう。
【0061】
上記粘着剤組成物(B)を例2で用いたものと同じ不織布基材(不織布b)に付与して、例10に係る両面粘着シートを作製した。該粘着シートの作製は、粘着剤組成物(A)に代えて粘着剤組成物(B)を用いた点以外は例2と同様にして行った(両面転写法)。
この両面粘着シートについて例1と同様の評価試験を行ったところ、空隙面積は62μm2/400μm、耐反撥性(剥がれ高さ)は0.4mmであった。また、作製から3日間50℃の環境下に保存した後の粘着シートから採取した粘着剤サンプルの酢酸エチル不溶分の質量割合は49%であった。
【0062】
<例11>
例10において両面粘着シートの作製に使用した粘着剤膜につき、該粘着剤膜自体の(基材レスの粘着シートとしての)耐反撥性を評価した。すなわち、粘着剤組成物(A)に代えて粘着剤組成物(B)を用いた点以外は例1と同様にして、粘着剤組成物(B)から形成された厚さ70μmの粘着剤膜を有する粘着剤膜付き剥離ライナーを作製し該粘着剤膜付き剥離ライナーを上記アルミニウム板に貼り合わせることで試験片を作製した。その他の点については例1と同様にして耐反撥性を評価した。その結果、粘着剤組成物(B)から得られた基材レスの粘着シートの耐反撥性は1.9mmであった。
【0063】
以上の評価結果を、使用した不織布基材の性状とともに表3に示した。この表3からわかるように、粘着剤組成物(B)を用いて作製された例10に係る両面粘着テープにおいても、空隙面積が500μm2/400μm以下(より詳しくは100μm2/400μm以下)となるように不織布基材によく含浸させて粘着剤層が形成されていることにより、基材レスの粘着シート(例11)と同等以上の優れた耐反撥性が実現された。
【0064】
【表3】

【0065】
図3は、例1〜例7および例9〜例10により得られた評価結果につき、各例に係る両面粘着シートの空隙面積を横軸、耐反撥性を縦軸としてプロットしたグラフである。この図3に示されるように、上記各例で使用した不織布基材の性状の相違にも拘わらず、また使用した粘着剤組成物の製造方法および架橋方式の相違や両面粘着シートの製造方法の相違に拘わらず、空隙面積500μm2/400μm以下の範囲では該空隙面積と耐反撥性との間に強い相関がみられた。
【0066】
また、例1に係る両面粘着シートの流れ方向に直交する縦断面の代表的なSEM像(倍率300倍)を図4に示す。同様に、例2に係る両面粘着シートの断面SEM像を図5に、例7に係る両面粘着シートの断面SEM像を図6に、例9に係る両面粘着シートの断面SEM像を図7に、そして例10に係る両面粘着シートの断面SEM像を図8に示す。空隙面積の小さい両面粘着シートでは、不織布基材を構成する繊維の間に粘着剤層がよく充填されて(すなわち、不織布基材によく含浸して)いることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上に説明したとおり、本発明の両面粘着シート製造方法によると、使用する粘着剤組成物から形成される粘着剤本来の粘着性能がより適切に発揮された高性能の両面粘着シートを得ることができる。例えば、被着体表面への追随性に優れた(複雑な表面形状を有する被着体への貼り付けに使用されても浮きや剥がれ等を生じにくい)両面粘着シートが製造され得る。かかる両面粘着シートは、このような特性を活かして、例えば車両内装材固定用の両面粘着シート等として好適に利用され得る。
【符号の説明】
【0068】
1:不織布基材
2:粘着剤層
3:剥離ライナー
11,12:粘着シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分散型の感圧接着剤組成物を用いて形成された感圧接着剤層と、該感圧接着剤層を支持する不織布基材と、を備える両面接着性の感圧接着シートを製造する方法であって:
水分散型の感圧接着剤組成物を用意すること;
支持体としての不織布基材を用意すること;および、
該不織布基材に含浸して設けられた感圧接着剤層であって前記感圧接着剤組成物を乾燥させてなる感圧接着剤層を形成すること;
を包含し、
ここで前記感圧接着剤層は、前記不織布基材の流れ方向と直交する縦断面において観察される空隙の面積が500μm2/400μm以下となるように該不織布基材に含浸して設けられる、両面接着性感圧接着シートの製造方法。
【請求項2】
前記不織布基材として、坪量5〜25g/m2、厚さ15〜70μm、嵩密度0.2〜0.5g/cm3の不織布基材を使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記感圧接着剤層は、前記水分散型感圧接着剤組成物を乾燥させてなる感圧接着剤膜を前記不織布基材の両面にそれぞれ積層して形成される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記感圧接着剤層を形成することは、前記水分散型感圧接着剤組成物の希釈液を前記不織布基材に含浸させて乾燥させる予備含浸処理を行うことを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記感圧接着剤組成物は、アクリル系ポリマーを主体とし、該アクリル系ポリマーが水に分散している水性エマルジョン型の感圧接着剤組成物である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法により製造された、両面接着性感圧接着シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−70770(P2010−70770A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287488(P2009−287488)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【分割の表示】特願2006−330516(P2006−330516)の分割
【原出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】