説明

中性子線回転照射装置

【課題】小型化を図ることを可能にした中性子線回転照射装置を提供する。
【解決手段】 中性子線回転照射装置1は、イオンビームが照射されて中性子を発生するターゲット7を有する中性子発生部2と、中性子を減速する減速材9と、中性子発生部2の出射側に設けられたコリメータ3と、イオンビームを偏向させるための2つの偏向電磁石4,5と、イオンビームを輸送するビームダクト6とを備える。ターゲット収容部10とビームダクト6Cとを連通する連通口10aは、ターゲット収容部10の頂部10bよりも低い位置に配置され、イオンビームのターゲット7への照射方向F1と中性子の取出方向F2とがなす角度αは90°である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性子線回転照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、患者体内のがんを治療する装置として、陽子線や重粒子線などを直接照射する荷電粒子ビーム装置(例えば特許文献1参照)が知られている。この装置は、前段加速器とシンクロトロン型加速器と回転照射装置と制御装置とを備え、制御装置は、前段加速器からシンクロトロン型加速器への出射、回転照射装置における荷電粒子ビームの輸送等を制御する。しかし、この回転照射装置では、加速器から取り出した荷電粒子ビームを一つ目の偏向電磁石で回転半径方向外方に偏向させた後、二つ目の偏向電磁石で回転半径方向内方に鋭角に偏向させる必要があるので、装置の最大回転半径が大きくなり、装置が大型化する。
【特許文献1】特開平9−223600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年、中性子捕捉療法(BNCT療法)は、がん細胞だけを選択的に破壊し、副作用の極めて少ない治療法として注目されている。このBNCT療法に用いた中性子線回転照射装置として、上述した荷電粒子ビーム装置と同様な構造を用いることが提案される。しかしながら、BNCT療法に係る中性子線回転照射装置は同様な構造を用いると、装置全体の大型化が避けられず、小型化を図り難いという問題があった。
【0004】
本発明は、小型化を図ることを可能にした中性子線回転照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る中性子線回転照射装置は、被照射体に対して回転自在に設けられ、被照射体に中性子線を照射する中性子線回転照射装置であって、イオンビームが照射されて中性子を発生するターゲットと、ターゲットから発生した中性子を減速する減速材と、減速材によって減速された中性子を被照射体側に取り出す取出口と、ターゲットに照射するイオンビームを偏向させる偏向電磁石と、イオンビームをターゲットまで輸送するビームダクトとを備え、イオンビームのターゲットへの照射方向と中性子の取出方向とは異なることを特徴とする。
【0006】
本発明に係る中性子線回転照射装置では、イオンビームのターゲットへの照射方向と中性子の取出方向とは異なるので、中性子の取出方向における装置の長さを短くすることが可能となる。従って、中性子線回転照射装置の回転半径を小さくすることができ、中性子線回転照射装置の小型化を図ることができる。
【0007】
本発明に係る中性子線回転照射装置において、ビームダクトに連通されると共にターゲットが収容されるターゲット収容部を更に備え、ターゲット収容部とビームダクトとを連通する連通口は、ターゲット収容部の頂部よりも回転半径方向内側に配置されていることが好適である。
このようにすれば、従来のように荷電粒子ビームを偏向電磁石で鋭角に回転半径方向内方に偏向させる必要がないので、装置の回転半径を小さくすることができ、中性子線回転照射装置の小型化を図り易くなる。
【0008】
本発明に係る中性子線回転照射装置において、イオンビームのターゲットへの照射方向と中性子の取出方向とがなす角度は、45〜150°の範囲にあることが好適である。
このようにすれば、イオンビームの照射によって発生した中性子のうち、比較的にエネルギーの低い中性子を減速材に入射させることになるので、必要とされる減速材の長さを短くすることができる。その結果、中性子線回転照射装置の小型化を一層向上することができる。
【0009】
本発明に係る中性子線回転照射装置において、回転する偏向電磁石は、1つであることが好適である。
このようにすれば、中性子線回転照射装置の小型化を図ることができると共に、中性子線回転照射装置のコストを低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、小型化を図ることを可能にした中性子線回転照射装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る中性子線回転照射装置の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0012】
[第1実施形態]
図1に示すように、中性子線回転照射装置1(以下、装置1と略称する)は、治療台8上の患者(被照射体)Pに対して回転自在に設けられ、患者Pの体内のがん細胞Tに対して中性子線を照射する装置である。この装置1は、イオンビームが照射されて中性子を発生するターゲット7を有する中性子発生部2と、中性子発生部2の出射側に設けられたコリメータ3と、ターゲット7に照射するイオンビームを偏向させるため第1,第2の偏向電磁石4,5と、イオンビームを中性子発生部2に輸送するビームダクト6(6A〜6C)とを備える。中性子発生部2と、第1,第2の偏向電磁石4,5と、ビームダクト6A〜6Cとは、それぞれ回転フレーム24に固定されている。回転フレーム24の外周には、リング25が配置されている。このリング25は、床28上に設置されたローラ26,27によって支持されると共に、ビームダクト6Aの中心軸を回転軸として回転する。これによって、装置1は、ビームダクト6Aの中心軸を回転軸として回転するようになり、患者Pのがん細胞Tへの照射方向を調整することが可能となる。治療台8は、床25に固定された支持台29によって支持されると共に、矢印F5方向に沿って装置1の内部に挿入したり、又は装置1から離れたりするようになっている。
【0013】
図2に示すように、中性子発生部2は、円柱形状を呈し、中心軸L方向に沿って延在する円筒状のターゲット収容部10と、中央位置に配置されると共に中心軸L方向に延びる減速材9と、減速材9とターゲット収容部10とを周りから取り囲む反射材11とから主として構成されている。
【0014】
ターゲット収容部10の一端は減速材9に当接され、他端はビームダクト6Cに連通されている。このターゲット収容部10は、反射材11の反射層11Aによって覆われている。ビームダクト6は、このビームダクト6から輸送されてきたイオンビームのターゲット7への照射方向F1が、後述する中性子の取出方向F2(中心軸L方向)と異なるようにターゲット収容部10に連通されている。すなわち、図2に示すように、ターゲット収容部10とビームダクト6Cとを連通する連通口10aの付近のビームダクト6Cの長手方向は、中性子の取出方向F2と異なっている。本実施形態において、ビームダクト6Cは、中性子の取出方向F2に対して直交するようにターゲット収容部10に連通されている。中心軸L方向において、ターゲット収容部10とビームダクト6Cとを連通する連通口10aは、ターゲット収容部10の頂部10bよりも低い位置(すなわち回転半径方向内側)に配置されている。
【0015】
平板状のターゲット7は、ターゲット収容部10の内部に収容され、イオンビームのターゲット7への照射方向F1に対して平面が直交するように設置されている。このターゲット7は、ベリリウム、リチウム、タンタル、タングステンなどの材質が用いられ、ビームダクト6Cによって輸送されてきたイオンビームが照射されると、全方向に中性子を発生する。そして、発生した中性子のうちの一部が減速材9に入射する。なお、イオンビームとして、陽子や重陽子などが挙げられる。
【0016】
減速材9は、それぞれ異なる材料からなる第1の減速層12と第2の減速層13と第3の減速層14と第4の減速層15とを備え、ターゲット7から発生した高エネルギーを有する中性子のうち、入射されてきた中性子を熱又は熱外と呼ばれる低いエネルギーの中性子線まで減速させる。これらの減速層は、それぞれ円板状に形成され、中心軸L方向に沿って中性子の入射側から出射側にかけて第1の減速層12、第2の減速層13、第3の減速層14、第4の減速層15の順番で配置されている。
【0017】
第1の減速層12は鉛からなり、第2の減速層13は鉄から構成されている。第2の減速層13は、第1の減速層12の外径よりも大きく形成されている。第3の減速層14は、金属アルミニウムからなり、第2の減速層13の外径よりも更に大きく形成されている。第4の減速層15は、フッ化カルシウムを有する原料を溶融して得られたもので、第3の減速層14と同じ寸法の外径を有するように形成されている。このように構成された減速材9の外径は、中心軸L方向に沿って中性子の入射側から出射側に向かって徐々に大きくなっているので、減速材9との衝突よる中性子の散乱範囲の拡大に対応し減速材9の断面積を大きくすることで、中性子の減速効果を向上させることができる。
【0018】
反射材11は、鉛からなり、ターゲット収容部10を覆って円筒状に形成された反射層11Aと、それぞれ円環状に形成された4つの反射層11B〜11Eを備える。この反射材11は、中性子を内部に反射し、外部に漏れることを防止するものである。反射層11B〜11Eは、中心軸L方向に沿って中性子の入射側から出射側にかけて順番に配置され、隣接する反射層11A〜11E同士は密着して固定されている。
【0019】
反射層11A〜11Eは、隣接する反射層11A〜11E同士を互いに嵌め込むために凹凸状に形成されている。例えば、反射層11Cにおいて、反射層11Bに隣接する側には、反射層11Bの凸部を嵌め込むための凹部が設けられ、反射層11Dに隣接する側には、反射層11Dの凹部に嵌め込むための凸部が設けられている。このようにすれば、反射層11A〜11Eの組み立てをする際に、隣接する反射層11A〜11E同士の位置決めを容易に行うので、組み立て作業が簡単化される。更に、このように凹凸状に形成されることによって、隣接する反射層11A〜11E同士の境目は凹凸状に形成されるので、境目が直線状に形成された場合と比べて中性子が境目を通って外部へ漏れるのを確実に防止することができる。
【0020】
中性子発生部2の出射端には、フッ化リチウム入りポリエチレンからなる遮蔽材16と、鉛からなる遮蔽材17とが設けられている。遮蔽材16は、円環状に形成され、第4の減速層15に密着して固定されて、必要としない中性子を遮蔽するためのものである。遮蔽材17は、円板状に形成され、遮蔽材16の外側に配置され、遮蔽材16に固定されている。この遮蔽材17は、ターゲット2から発生するγ線等を遮蔽する役割を果たすものである。
【0021】
遮蔽材17の外側には、コリメータ3が設置されている。このコリメータ3は、フッ化リチウム入りポリエチレンから矩形状に形成され、その中央位置には貫通孔(取出口)3aが設けられている。
【0022】
コリメータ3は、中性子を収束させて患者Pのがん細胞Tに向かって取り出すためのものであり、そして、減速材9によって減速されて低いエネルギーを有する中性子は、コリメータ3により収束され、取出方向F2に沿って出力され、患者Pのがん細胞Tを集中して照射する。図2に示すように、イオンビームのターゲット7への照射方向F1と中性子の取出方向F2とがなす角度αは90°になる。
【0023】
このように構成された装置1にあっては、イオンビームはビームダクト6Aを通り、第1の偏向電磁石4でビームダクト6Aに対して鈍角に曲げられ、第2の偏向電磁石5でビームダクト6Bに対して更に鈍角に曲げられ、ビームダクト6Aと平行なビームダクト6Cに入射され、中性子を発生するターゲット7まで輸送される。そして、ターゲット7にイオンビームを照射すると、ターゲット7が中性子を発生し、発生した中性子は減速材9に減速され、更にコリメータ3によって収束されて患者Pの体軸に対して垂直方向からがん細胞Tに照射する。そして、イオンビームのターゲット7への照射方向F1と中性子の取出方向F2とがなす角度αは90°であるので、中性子の取出方向F2における装置の長さを短くすることが可能となる。従って、装置1の最大回転半径を小さくすることができ、装置1の小型化を図ることが可能となる。また、ターゲット収容部10とビームダクト6Cとを連通する連通口10aは、ターゲット収容部10の頂部10bよりも回転半径方向内側に配置されるので、従来のように荷電粒子ビームを偏向電磁石で鋭角に回転半径方向内方に偏向させる必要がないので、装置1の小型化を更に図り易くなる。
【0024】
また、角度αが90°であるので、例えばイオンビームのターゲット7への照射方向F1と中性子の取出方向F2とが一致した場合(すなわち、角度αが0°であった場合)と比べて、イオンビームの照射により発生した中性子のうち、比較的にエネルギーの低い中性子を減速材9に入射させることになる。これによって、必要とされる減速材9の長さを短くすることができ、装置1の小型化を一層向上することができる。
【0025】
[第2実施形態]
図3及び図4に示すように、第2実施形態に係る中性子線回転照射装置18と第1実施形態の装置1との相違点は、イオンビームのターゲット7への照射方向F3と中性子の取出方向F2とがなす角度αは135°であって、且つ、一つの偏向電磁石21を設けたことである。その他の構成は、装置1の構成と同等であるため、同一符号を付して重複説明を省略する。
【0026】
図3に示すように、中性子線回転照射装置18は、イオンビームが照射されて中性子を発生するターゲット7を有する中性子発生部19と、中性子発生部19の出射側に設けられたコリメータ3と、ターゲット7に照射するイオンビームを偏向させるための一つの偏向電磁石21と、イオンビームを中性子発生部19に輸送するビームダクト20(20A,20B)とを備える。偏向電磁石21は装置1に係る第1,第2の偏向電磁石4,5と同様なもので、ビームダクト20はビームダクト6と同様なものである。
【0027】
図4に示すように、中性子発生部19のターゲット収容部22は、円筒状に形成され、その側壁にはイオンビームを輸送するビームダクト20Bが挿通されている。ビームダクト20Bは、イオンビームのターゲット7への照射方向F3と中性子の取出方向F2とがなす角度αが135°になるように、ターゲット収容部22に斜めに連通されている。そして、中心軸L方向において、ターゲット収容部22とビームダクト20Bとを連通する連通口22aは、ターゲット収容部22の頂部22bよりも回転半径方向内側に配置されている。
【0028】
このような構成により、中性子線回転照射装置18は、第1実施形態の装置1と同様な効果が得られるほか、角度αが135°であるので、第1実施形態に(すなわち、角度αが90°であった場合)と比べて、イオンビームの照射により発生した中性子のうち、更にエネルギーの低い中性子を減速材9に入射させることになるので、必要とされる減速材9の長さを更に短くすることが可能となり、中性子線回転照射装置18の小型化を一層図ることができる。また、イオンビームを偏向させるための偏向電磁石21を一つだけを設けたので、中性子線回転照射装置18のコストを低減することができる。また、中性子線回転照射装置18の装置最大回転半径は更に小さくすることができる。
【0029】
[第3実施形態]
図5に示すように、第3実施形態に係る中性子線回転照射装置23と第1実施形態の装置1との相違点は、患者Pの体軸に対して斜め方向からがん細胞Tに中性子線を照射し、イオンビームのターゲット7への照射方向F4と中性子の取出方向F2とがなす角度αは45°である。その他の構成は、装置1の構成と同等であるため、同一符号を付して重複説明を省略する。そして、このような構成により、中性子線回転照射装置23は、第1実施形態の装置1と同様な効果が得られるほか、患者Pの体軸に対して斜め方向からがん細胞Tに中性子線を照射することが可能であるので、例えば患者Pの体軸に対し垂直方向からがん細胞Tに照射することによって周辺の正常な組織にダメージを与える恐れがあった場合、このように斜めに照射することで、正常な組織を避けてがん細胞Tに照射することができる。その結果、中性子線回転照射装置23の応用性を高めることができる。
【0030】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。例えば、ビームダクト6,20にはイオンビーム収束用の四極電磁石、ソレノイド電磁石などを使用することも可能である。また、上記の実施形態において、患者Pへの不必要な放射線照射を防止するため、治療台8の周囲に放射線遮蔽板を設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る中性子線回転照射装置の第1の実施形態を示す概略図である。
【図2】図1に示された中性子線回転照射装置の部分断面図である。
【図3】本発明に係る中性子線回転照射装置の第2の実施形態を示す概略図である。
【図4】図3に示された中性子線回転照射装置の部分断面図である。
【図5】本発明に係る中性子線回転照射装置の第3の実施形態を示す概略図である。
【符号の説明】
【0032】
1,18,23…中性子線回転照射装置、3…コリメータ、4,5,21…偏向電磁石、6,20…ビームダクト、7…ターゲット、9…減速材、10,22…ターゲット収容部、10a,22a…連通口、10b,22b…頂部、α…角度、F1,F3,F4…イオンビームのターゲットへの照射方向、F2…中性子の取出方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被照射体に対して回転自在に設けられ、前記被照射体に中性子線を照射する中性子線回転照射装置であって、
イオンビームが照射されて中性子を発生するターゲットと、
前記ターゲットから発生した中性子を減速する減速材と、
前記減速材によって減速された中性子を被照射体側に取り出す取出口と、
前記ターゲットに照射するイオンビームを偏向させる偏向電磁石と、
イオンビームを前記ターゲットまで輸送するビームダクトとを備え、
イオンビームの前記ターゲットへの照射方向と中性子の取出方向とは異なることを特徴とする中性子線回転照射装置。
【請求項2】
前記ビームダクトに連通されると共に前記ターゲットが収容されるターゲット収容部を更に備え、
前記ターゲット収容部と前記ビームダクトとを連通する連通口は、前記ターゲット収容部の頂部よりも回転半径方向内側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の中性子線回転照射装置。
【請求項3】
イオンビームの前記ターゲットへの照射方向と中性子の取出方向とがなす角度は、45〜150°の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の中性子線回転照射装置。
【請求項4】
前記偏向電磁石は、1つであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の中性子線回転照射装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−189643(P2009−189643A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−34882(P2008−34882)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】