説明

中枢神経系の障害を治療するためのリグスチリド誘導体

本発明は、神経伝達障害に関係する障害の治療において使用するための一般式(I)(式中、Rは水素またはヒドロキシであり、RがヒドロキシであればRはブチルまたはブチリルであるが、Rが水素であればRはブチルであり、あるいはRおよびRは一緒になって、ヒドロキシ、メチル、または3−(α,β−ジメチルアクリロイルオキシ)によって場合により置換された1−プロピリデンまたは1−ブチリデンであり、点線は場合により結合であり、Xは、X1、X2、X3、X4、およびX5からなる群から選択される、場合により置換された脂肪族C4残基であり、ここで式(I)の点線がなければXはX2、X3またはX5であり、上記式(I)において点線が結合を表す場合にはXはX1、X4またはX5であり、RおよびRは、互いに独立して、水素またはヒドロキシであり、そしてRはヒドロキシまたはブチリルである)の化合物、ならびにこのような化合物を含有する食物および医薬品組成物、そしてその使用に関する。
[化1]

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、神経伝達障害に関係する障害の治療において使用するための以下で定義される一般式Iの有機化合物、ならびにこのような化合物を含有する食物および医薬品組成物、そしてその使用に関する。
【0002】
神経伝達障害、例えば低神経伝達物質レベルは、うつ病および全般性不安障害(GAD)などの精神疾患、ならびにストレスに対する感受性の増大に関係することがよく知られている。
【0003】
そのため、脳内の神経伝達物質レベルを上昇させ、従ってその伝達を高める化合物は、抗うつ特性、ならびに様々な他の精神障害に対する有益な効果を示す(「神経伝達物質、薬物および脳機能(Neurotransmitters,drugs and brain function)」R.A.ウェブスター(Webster)(編)、John Wiley&Sons、ニューヨーク、2001年、187−211、289−452、477−498頁)。主な神経伝達物質は、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリン(=ノルエピネフリン)、アセチルコリン、グルタメート、γ−アミノ−酪酸、ならびに神経ペプチドである。シナプス前神経終末への再取り込みの阻害によりシナプス間隙の神経伝達物質の濃度を増大させ、従って、それを神経伝達の増大または延長のために利用可能にすることによって、あるいはモノアミノオキシダーゼAおよびBなどの酵素の分解を阻害することにより神経伝達物質の異化反応を防止することによって、神経伝達の増大が達成される。
【0004】
イミプラミン、アミトリプチリン、およびクロミプラミンなどの三環式抗うつ化合物(TCA)は、例えば、セロトニンおよびノルアドレナリンの再取り込みを阻害する。これらは利用可能な最も有効な抗うつ薬として広く認められているが、これらは多数の脳受容体、例えばコリン受容体と相互に作用するので多数の欠点を有する。最も重要なのは、TCAは過剰摂取されると安全ではなく、頻繁に急性の心毒性を示すことである。
【0005】
抗うつ薬のもう1つの種類は、セロトニンの取り込みによりセロトニン作動性神経伝達を終了させる高親和性塩化ナトリウム依存性の神経伝達物質トランスポーターであるセロトニントランスポーター(SERT)を遮断する、フルオキセチン、パロキセチン、セルトラリン、シタロプラム、フルボキサミンを含むいわゆるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)である。これらはうつ病および不安症の治療において有効であると証明されており、通常TCAよりも耐性が高い。これらの薬物療法は、通常、低用量で開始され、治療レベルに到達するまで増大され得る。一般的な副作用は悪心である。その他の可能性のある副作用は、食欲不振、口渇、発汗、感染、便秘、あくび、振戦、眠気および性機能障害を含む。
【0006】
さらに、モノアミノオキシダーゼ(MAO)AおよびBを阻害することによって神経伝達物質の異化反応をより広範に防止する化合物も抗うつ効果を示す。MAOは、セロトニン、ノルアドレナリン、およびドーパミンなどのアミノ基含有神経伝達物質の酸化を触媒する。
【0007】
さらに、神経伝達のモジュレータは、精神および認知機能に多面発現効果を与える。これらの機能は、酸化ストレスの低下により神経保護効果を与える酸化防止機能を有する食品/植物成分について報告されるような効果とは明らかに異なる。
【0008】
その上患者は、うつ病との併存症として、あるいは単独で全般性不安症状群(GAD)を患うことが多い。GADは、高度に蔓延している不安状態およびプライマリケアにおける慢性疾患である(患者の約10%)(ウィッチェン(Wittchen)ら、2005年、European Neuropsychopharm.15:357−376頁)。患者は、自分の多数の身体症状をその家庭医に示す。GADは、慢性的な緊張ならびに不安な悩みおよび緊張(>6ヶ月)を特徴とし、これらは日常生活に支障をきたすと共に制御することができず、そして特徴的な高覚醒(hypervigilance)症状群(不穏状態、筋肉の緊張、および睡眠問題を含む)を伴う。治療が行われなければ、GADは慢性的に変動する経過をたどり、年齢と共により重症になる傾向がある。GAD患者は亜症状性(subsyndromal)うつ病を患っており、全ての不安症および抑うつ障害の直接および間接的な全体の健康経済的負担が最も高いことの一因となる。GAD発生率が高いにもかかわらず、患者が診断される、薬物を処方される、あるいは精神医学的な紹介を受けることは少なく、患者の認識および監視を助けるための簡単な診断ツールが必要とされる。特定の診断にかかわらず、医師は、有効なGAD症状の治療を必要とする。パロキセチンなどのSSRIは、GADの治療に有効である[ストッチ(Stocchi)ら、2003年、J Clin Psych、63(3):250−258頁]。また系統的レビューおよびプラセボ対照RCT(無作為化臨床試験)によって、いくつかのSSRI(エシタロプラム、パロキセチンおよびセルトラリン)、SNRI(選択的ノルエピネフリン再取り込み阻害薬)ベンラファキシン、いくつかのベンゾジアゼピン(アルプラゾラムおよびジアゼパム)、三環式イミプラミン、および5−HT1A部分アゴニストのブスピロンは全て、急性治療において効果的であることが示される。一般に、治療の効果は中程度であることが多く、治療期間が中断されると症状は再び表れる。そのため、SSRIのような副作用が少なく長期間にわたって摂取することができる化合物による連続的な長期間の治療または予防は、薬物治療全体にわたって有利であろう。
【0009】
既知の抗うつ薬の負の副作用を示さない精神疾患および/または障害の治療または予防のための化合物が必要とされている。多くの患者は、高用量の薬物に関する副作用を最小限にし、付加的な臨床的利益をもたらし得る代替療法に関心がある。重症のうつ病は長く続くと共に再発する疾患であり、通常は診断されにくい。さらに、多くの患者は軽度または中程度に重いうつ病を患っている。従って、精神疾患/障害を治療する、あるいは危険のある人々のうつ病および気分変調などの精神疾患/障害の進行を予防して、気分を安定化するために使用され得る化合物ならびに医薬品および/または食物組成物の開発への関心が高まっている。
【0010】
不均衡な気分は神経伝達の障害、すなわち低下と関係があり、そしてこれは、ストレスへの感受性の増大ももたらすことが知られている。
【0011】
従って、気分は、神経伝達物質の生合成、神経伝達物質の加工、神経伝達物質の貯蔵、神経伝達物質の放出、神経伝達物質の再取り込みおよび神経伝達物質受容体の結合(特に、セロトニンが神経伝達物質である)によって影響を受ける。ヒトを含む動物では、不均衡な気分は、緊張、悲しみ、不幸感/不平感、被刺激性および不快気分として、そして/あるいは行動、感情および思考過程の乱れとして現れ得る。
【0012】
従って、気分を調和または正常化し、日常生活のストレスに対処するための感情のバランスを達成し、そして身体的および心理的な能力を維持するための化合物も必要とされている。
【0013】
気分障害および職業性のストレスも、継続的な睡眠障害(不眠症)、睡眠開始の遅延および睡眠の質の低下、概日リズム(いわゆるバイオリズム)の乱れをもたらす。これらの状態は多くの場合慢性であり、長期にわたって持続し得る。また、長距離飛行(時差ぼけ)および交替勤務によって誘発される概日リズムの調節解除も、同様の症状および困難を引き起こし得る。そのため、睡眠障害に関連する症状を軽減および予防するため、正常な概日リズムを維持するため(動物またはヒトが使用される)、そして/あるいは認知機能および記憶の機能障害、精神的および身体的な疲労、夢幻などの概日リズムの乱れに関連する症状を軽減および予防するための食事補給による治療は、それを必要としている人の全体的なQOLおよび役に立つ生命エネルギーを改善することが保証される。
【0014】
[発明の説明]
意外にも、以下に定義される一般式Iの化合物は、有効なセロトニンおよびノルアドレナリン再取り込み阻害薬、ならびにモノアミノオキシダーゼAおよびBの阻害薬であることが分かった。従って、これらは、現在市販されているSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)および三環式アミン)のような抗うつ薬と同様の特性を有する。
【0015】
本発明は、特に、精神的な幸福のため、気分変動の危険を低減するのに役立つため、積極的な気分の維持に役立つため、認知的な健康を支援するため、睡眠パターン(睡眠構造とも呼ばれる)を正常化し、睡眠開始までの時間を短くするため、一般には、良好な睡眠の質を促進および維持するのに役立つための、気分のバランシング剤およびストレス緩和剤としての一般式Iの化合物の使用と、これらを含有する(食物)組成物および強化食品/飼料/飲料と、その使用とに関する。これらの化合物(特に、リグスチリド、3n−ブチルフタリド、センキュノリドA、B、C、クニジリド)は、好ましくは、ヒトの概日リズム(バイオリズム)を正常化および維持するため、ヒトの概日リズム(バイオリズム)の乱れに関連する症状を軽減および/または予防するために使用される。
【0016】
さらに、本発明の化合物は、大量生産の家畜飼育および/または屠殺場への輸送中の家畜動物のストレスの防止と、屠殺場への輸送中の家畜動物の食肉品質の低下の防止と、家禽の間での羽根つつきおよび共食いの防止と、ペットのストレスの低下とを含む獣医学的な使用も有する。
【0017】
本発明によると、この要求は、一般式I
【化1】


の既知の化合物によって満たされ、式中、
は水素またはヒドロキシであり、ただし
がヒドロキシであればRはブチルまたはブチリルであり、Rが水素であればRはブチルであり、あるいは
およびR一緒になって、ヒドロキシ、メチル、または3−(α,β−ジメチルアクリロイルオキシ)によって場合により置換された1−プロピリデンまたは1−ブチリデンであることを条件とし、
点線は場合により結合であり、
Xは、X1、X2、X3、X4、およびX5:
【化2】


からなる群から選択される、場合により置換された脂肪族C4残基であり、ここで、
式(I)の点線がなければXはX2、X3またはX5であり、
上記式(I)において点線が結合を表す場合にはXはX1、X4またはX5であり、
およびRは、互いに独立して、水素またはヒドロキシであり、そして
は、ヒドロキシまたはブチリルである。
【0018】
従って、上記式(I)の化合物において、X1は、1つ(RおよびR4の一方がヒドロキシである場合)または2つのヒドロキシ基(RおよびRがいずれもヒドロキシの場合)によって置換されてもよい。
【0019】
上記の一般式Iの化合物はセロトニン再取り込み阻害薬の役割を果たし、従って、セロトニンが神経伝達のために利用可能である時間を延長する。これによって、気分の均衡化およびストレスの緩和効果がもたらされる。
【0020】
本発明のために使用される化合物は、フタリド誘導体(IUPACルールC−473に従う2−ヒドロキシメチル安息香酸の置換ラクトンを指す)の群から選択される。この種類の化合物は、1(3H)−イソベンゾフラノンCに基づく。
【0021】
本発明の目的のために使用される好ましい化合物は、(E)−センキュノリドE、センキュノリドC、センキュノリドB、3−ブチル−4,5,6,7−テトラヒドロ−3,6,7−トリヒドロキシ−1(3H)−イソベンゾフラノン、3−ブチル−1(3H)−イソベンゾフラノン、3−ブチルフタリド、3−ブチリデンフタリド、3−プロピリデンフタリド、チュアンキシノール(chuangxinol)、リグスチリジオール、センキュノリドF、3−ヒドロキシ−センキュノリドA、アンゲロイルセンキュノリドF、センキュノリドM、3−ヒドロキシ−8−オキソ−センキュノリドA、リグスチリド、6,7−ジヒドロ−(6S,7R)−ジヒドロキシリグスチリド、3a,4−ジヒドロ−3−(3−メチルブチリデン)−1(3H)−イソベンゾフラノン、セダノリドおよびクニジリド、ならびにこれらの混合物からなる群から選択される。好ましい実施形態は、表1に記載されている。
【0022】
【表1】





【0023】
最も好ましく使用される化合物は、リグスチリド、3−ブチルフタリド、3−ブチリデンフタリド、3−プロピリデンフタリド、セダノリド、センキュノリドA、センキュノリドBおよびセンキュノリドC、ならびにこれらの混合物からなる群から選択される。
【0024】
従って、1つの態様では、本発明は、一般式Iの化合物(XおよびR〜Rの定義は上記のとおりである)に関し、好ましくは、(E)−センキュノリドE、センキュノリドC、センキュノリドB、3−ブチル−4,5,6,7−テトラヒドロ−3,6,7−トリヒドロキシ−1(3H)−イソベンゾフラノン、3−ブチル−1(3H)−イソベンゾフラノン、3−ブチルフタリド、3−ブチリデンフタリド、3−プロピリデンフタリド、チュアンキシノール、リグスチリジオール、センキュノリドF、3−ヒドロキシ−センキュノリドA、アンゲロイルセンキュノリドF、センキュノリドM、3−ヒドロキシ−8−オキソ−センキュノリドA、リグスチリド、6,7−ジヒドロ−(6S,7R)−ジヒドロキシリグスチリド、3a,4−ジヒドロ−3−(3−メチルブチリデン)−1(3H)−イソベンゾフラノン、セダノリド、およびクニジリド、ならびにこれらの混合物からなる群から選択される化合物に関する。
【0025】
より好ましくは、化合物は、神経伝達の障害または低下に関係する障害の治療において使用するため、あるいは神経伝達障害に関係する障害の治療に有用な組成物の製造において使用するために、リグスチリド、3−ブチルフタリド、3−ブチリデンフタリド、3−プロピリデンンフタリド、セダノリド、センキュノリドA、センキュノリドBおよびセンキュノリドC、ならびにこれらの混合物からなる群から選択される。
【0026】
従って、1つの態様では、本発明は、ヒトを含む動物における気分のバランシング剤および/またはストレス緩和剤としての、上記で定義される一般式Iの化合物の使用、好ましくは表1に記載される化合物の使用、より好ましくはリグスチリド、3−ブチルフタリド、3−ブチリデンフタリド、3−プロピリデンフタリド、セダノリド、センキュノリドA、センキュノリドBおよびセンキュノリドC、ならびにこれらの混合物の使用に関する。
【0027】
動物は、特に、ヒト、ペットまたはコンパニオン動物(好ましくは、ネコおよびイヌ)、家畜動物(好ましくは、家禽、ウシ、ヒツジ、ヤギおよびブタ)、ならびにミンク、キツネおよび野ウサギなどの毛皮産業用の動物、そしてサケおよびマスのような魚やエビのような甲殻類などの水産養殖のために使用される動物である。
【0028】
本発明の1つの好ましい実施形態では、本発明の化合物は、大量生産の家畜飼育において、屠殺場への輸送中にペットおよび家畜動物のストレスを防止するため、そして/あるいは屠殺場への輸送中に前記家畜動物のミルクまたは卵の生産の低下、および食肉品質の低下を防止するために使用される。
【0029】
本発明のもう1つの好ましい実施形態では、本発明の化合物は、家禽の間での羽根つつきおよび共食いを防止するため、そして/あるいは一般にそれに伴われる食肉品質および産卵の低下を防止するために使用される。
【0030】
本発明のさらに好ましい実施形態では、本発明の化合物は、ヒトの概日リズムを維持するため、ヒトの概日リズムの乱れに関連する症状を軽減および/または予防するために使用される。従って、気分が安定化され、そして日常生活のストレスに対処するため、ならびに身体的および心理的な能力を維持するための感情のバランスが達成される。さらに、認知機能および記憶の機能障害、ならびに精神的および身体的な疲労などの概日リズムの乱れに関連する症状が軽減および/または予防されるので、QOL全体が改善され、このような化合物が投与される人々は、生命エネルギーの維持から利益を享受する。また、長距離飛行(時差ぼけ)および交替勤務によって誘発される概日リズムの調節解除ならびにそれに関連する症状も軽減および/または予防される。
【0031】
従って、緊張、悲しみ、不幸感/不平感および被刺激性、不快気分として、そして/あるいは行動、感情および思考過程の乱れとして現れ得る不均衡な気分は、上記で定義した一般式Iの化合物を、ヒトを含む動物に投与することによって予防される。
【0032】
もう1つの態様では、本発明は、神経伝達の障害または低下に関係する障害を治療するため、あるいは神経伝達障害に関係する障害を治療するための組成物を製造するため、特に抗うつ薬、強迫的行動の低減剤、弛緩薬、睡眠改善剤および/または不眠軽減剤を製造するため、そして気分のバランシング剤として、気分/活力改善剤として、ストレス緩和剤として、状態改善剤として、ならびに/または緊張、悲しみ、不幸感/不平感、被刺激性および不快気分の低減剤として使用するための、上記で定義した一般式Iの化合物の使用に関する。
【0033】
さらにもう1つの態様では、本発明は、神経伝達障害に関係する障害の治療において使用するための組成物、特に少なくとも1種の上記で定義される一般式Iの化合物を含有する食物組成物、ならびに少なくとも1種の上記で定義される一般式Iの化合物および従来の医薬品キャリアを含有する医薬品組成物に関する。
【0034】
さらに、本発明は、ヒトを含む動物の神経伝達障害に関係する障害を治療するための方法に関し、前記方法は、(a)式Iの化合物を含む組成物を調製することと、(b)前記組成物の有効量を、それを必要としているヒトを含む動物に投与することとを含む。
【0035】
さらに、本発明は、ヒトを含む動物において、気分のバランスをとるおよび/またはストレスを緩和する方法に関し、前記方法は、上記で定義される一般式Iの化合物の有効量を、それを必要としているヒトを含む動物に投与することを含む。
【0036】
本発明との関連における動物はヒトを含み、哺乳類、魚および鳥を包含する。好ましい「動物」は、ヒト、ペットまたはコンパニオン動物、家畜動物、毛皮産業用および水産養殖の動物である。より好ましい「動物」は、ヒト、ペットおよび家畜動物である。
【0037】
ペット動物の例は、イヌ、ネコ、鳥、観賞魚、モルモット、(ジャック)ウサギ、野ウサギおよびケナガイタチである。
【0038】
家畜動物の例は、魚(例えば、サケおよびマスなど)、水産養殖動物(例えば、エビなど)、ブタ、ウマ、反芻動物(ウシ、ヒツジおよびヤギ)、ならびに家禽(例えば、ガチョウ、ニワトリ、ブロイラー、産卵鶏、ウズラ、アヒル、シチメンチョウなど)である。
【0039】
毛皮産業用の動物の例は、ミンク、キツネおよび野ウサギである。
【0040】
本発明の好ましい実施形態では、上記で定義される一般式Iの化合物は、大量生産の家畜飼育において、屠殺場への輸送中に家畜動物のストレスを防止するため、そして/あるいは屠殺場への輸送中に前記家畜動物の食肉品質の低下を防止するために投与される。前記家畜動物は、特に、家禽(例えば、ガチョウ、ブロイラー、産卵鶏、ウズラ、アヒル、ニワトリ、シチメンチョウなど)、ウシ、ヒツジ、ヤギおよびブタである。
【0041】
本発明のもう1つの好ましい実施形態では、上記で定義される一般式Iの化合物は、飼い主の別離、変化または喪失、休暇のための別離、およびいわゆる「アニマルホテル」における飼育、動物保護施設における飼育などのストレスの多い状態、ならびに密集した飼育および繁殖状態において、ストレス、緊張ならびに攻撃性および強迫行動を低減するためにペット動物に投与される。
【0042】
本発明のもう1つの好ましい実施形態では、上記で定義される一般式Iの化合物は、例えば、食肉品質および産卵の低下をもたらす羽根つつきおよび共食いを防止するために、家禽(例えば、ガチョウ、ブロイラー、産卵鶏、ウズラ、アヒル、ニワトリ、シチメンチョウなど)に投与される。
【0043】
本発明のさらに好ましい実施形態では、定義されるような一般式Iの化合物は、ヒトの概日リズムを維持するため、ヒトの概日リズムの乱れに関連する症状を軽減および/または予防するためにヒトに投与される。
【0044】
また、「一般式Iの化合物」という用語は、植物材料または抽出物の全重量を基準として、好ましくは少なくとも50重量%の量、より好ましくは70〜90重量%の量、最も好ましくは少なくとも90重量%の量の一般式Iによってカバーされるような化合物を含有する植物の任意の材料または抽出物も包含する。本発明との関連で使用される「植物の材料」および「植物材料」という用語は、植物の任意の部分を意味する。
【0045】
上記で定義され、本発明に従って使用される式Iに従う化合物は、アンジェリカ・グラウカ(Angelica glauca)、アンジェリカ・アクチロバ(Angelica acutiloba)、アンジェリカ・シネンシス(Angelica sinensis)、アンジェリカエ・ダヒュリカエ(Angelicae dahuricae)、アピウム・グラベオレンス(Apium graveolens)、リグスチクム・アクチロブム(Ligusticum acutilobum)、リグスチクム・オフィシナレ(Ligusticum officinale)、リグスチクム・シネンセ(Ligusticum sinense)、リグスチクム・ワリチー(Ligusticum wallichii)、リグスチクム・チュアンション(Ligusticum chuanxiong)、クニジウム・オフィシナレ(Cnidium officinale)、リゾーマ・チュアンクション(Rhizoma chuanxiong)、プレウロスペルマム・ホオケリ(Pleurospermum hookeri)、トラチスペルマム・ロクスブルギアヌム(Trachyspermum roxburghianum)、メウム・アサマンチクム(Meum athamanticum)、ロマチウム・トレイ(Lomatium torreyi)、スクテラリア・バイカレンシス(Scutellaria baicalensis)、オポパナックス・チロニウム(Opopanax chironium)、セノロフィウム・デヌダタム(Cenolophium denudatum)、コリアンドラム・サチブウム(Coriandrum sativuum)、およびシラウム・シラウス(Silaum silaus)などの種々の植物から、当該技術分野において既知の方法[例えば、ベック(Beck)J.ら、1995年、Natural Products 58(7):1047−1055頁を参照]によって単離することができる。そのため、特に、植物材料または抽出物の全重量を基準として少なくとも50重量%の量、好ましくは70〜90重量%の量、より好ましくは少なくとも90重量%の量の、これらの植物の任意の材料、抽出物またはオレオレジン、もしくは式Iによりカバーされる特定の化合物を含有する任意の他の植物材料または抽出物も、「式Iの化合物」という表現によって包含される。本明細書において使用される化合物は、合成的な起源であってもよい。従って、「式Iの化合物」は、「天然の」(単離された)および「合成の」(製造された)式Iの化合物の両方を意味する。この場合、シス(Z)およびトランス(E)−異性体の両方が含まれる。
【0046】
3−n−ブチルフタリド、センキュノリドA、BおよびCならびにセダノリドは、アピウム・グラベオレンス(Apium graveolens)種子抽出物の蒸留および分画によって、あるいは超臨界流体CO2抽出、そして所望される場合にはその後の蒸留によって得ることができる。超臨界流体抽出/蒸留は、リグスチクムを抽出するための好ましい方法である。
【0047】
式Iの純粋な化合物のほかに、特に好ましいのは、植物材料/抽出物の全重量を基準として少なくとも50重量%、より好ましくは70〜90重量%、最も好ましくは少なくとも90重量%のこれらの化合物を含有する植物材料および植物抽出物である。植物全体またはその一部、例えば葉、根または種子の抽出物は市販されており、あるいは、メタノール、エタノール、酢酸エチル、ジエチルエーテル、n−ヘキサン、塩化メチレンのような溶媒、あるいは好ましくは二酸化炭素(純粋またはアルコールなどの他の溶媒との混合物)または酸化二窒素のような超臨界流体を用いて、当該技術分野においてよく知られている方法に従って得ることもできる。抽出物から、好ましくは減圧下における蒸留および分画によって、単一の化合物またはほぼ純粋な混合物を得ることができる。あるいは、式Iの純粋な化合物は、当該技術分野においてよく知られた方法によって合成され、所望の量で混ぜ合わせることもできる。
【0048】
本発明の好ましい実施形態では、一般式Iの化合物は、リグスチクム留出物の形態で、あるいは1つの成分としてリグスチクム留出物との混合物として投与され、以下の5つのフタリド:
3−n−ブチルフタリド、
3−n−ブチリデンフタリド、
センキュノリドA、
セダノリド、および
Z−リグスチリド
が含有される。好ましくは、この留出物/混合物は、これらの5つのフタリドを合わせて、留出物/混合物の全重量を基準として少なくとも40重量%、好ましくは少なくとも55%、より好ましくは少なくとも65%、最も好ましくは少なくとも85重量%で含有する。留出物/混合物において、
好ましくは、Z−リグスチリドの量は、
少なくとも30〜60重量%の範囲の量であり、
より好ましくは少なくとも40重量%、
さらにより好ましくは少なくとも50重量%であり、
好ましくは、センキュノリドAの量は、
10〜40重量%の範囲の量であり、
好ましくは少なくとも10重量%、
より好ましくは少なくとも20重量%、
さらにより好ましくは少なくとも30重量%であり、
好ましくは、セダノリドの量は、
約0.1〜8重量%の範囲であり、
好ましくは少なくとも0.5%重量%
より好ましくは少なくとも1.0重量%、
さらにより好ましくは少なくとも3重量%であり、そして
好ましくは、3−n−ブチルフタリドの量は、
約0.1少なくとも5重量%の範囲であり、
好ましくは少なくとも0.5重量%、
より好ましくは少なくとも2%重量%、
さらにより好ましくは少なくとも3重量%であり、
全ての量は、留出物/混合物の全重量を基準とする。
【0049】
本発明に従う食物組成物は、さらに、保護親水コロイド、バインダー、フィルム形成剤、カプセル化剤/材料、壁/殻材料、マトリックス化合物、コーティング、乳化剤、界面活性剤、可溶化剤(油、脂肪、ワックス、レシチンなど)、吸着剤、キャリア、充填剤、共化合物(co−compound)、分散剤、湿潤剤、加工助剤(溶媒)、流動化剤、風味マスキング剤、増量剤、ゼリー化剤(jellyfying agent)、ゲル形成剤、酸化防止剤および抗菌剤を含有し得る。
【0050】
「食物組成物」という用語は、(強化)食品/飼料および飲料などの任意の種類の栄養を含み、臨床的な栄養や栄養補助食品も含まれる。
【0051】
薬学的に許容可能なキャリアおよび少なくとも1種の一般式Iの化合物(X、R〜Rの定義および好ましいものは上記のとおりである)に加えて、本発明に従う医薬品組成物は、さらに、従来の医薬品添加剤およびアジュバント、賦形剤または希釈剤を含有してもよく、水、任意の起源のゼラチン、植物ガム、リグニンスルホン酸塩、タルク、糖、デンプン、アラビアガム、植物油、ポリアルキレングリコール、香味料、防腐剤、安定剤、乳化剤、緩衝液、潤滑剤、着色剤、湿潤剤、充填剤などが含まれるが、これらに限定されない。キャリア材料は、経口/非経口/注射による投与に適した有機または無機の不活性キャリア材料であり得る。
【0052】
本発明に従う食物および医薬品組成物は、ヒトの体を含む動物の体への投与に適した任意の生薬形態(galenic form)、特に経口投与のための従来の任意の形態、例えば、食品または飼料(のための添加剤/サプリメント)、食品または飼料プレミックス、強化食品または飼料、錠剤、丸薬、顆粒剤、糖衣錠、カプセル、ならびに粉末および錠剤などの発泡製剤などの固体形態、あるいは、例えば、飲料、ペーストおよび油性懸濁液のような溶液、エマルジョンまたは懸濁液などの液体形態でよい。ペーストは、ハードまたはソフトシェルカプセルに充填されてもよい。他の適用形態の例は、経皮、非経口または注射による投与のための形態である。食物および医薬品組成物は、制御(遅延)放出製剤の形態でもよい。
【0053】
食品の例は、ヨーグルトなどの乳製品である。
【0054】
強化食品の例は、シリアルバー、ケーキおよびクッキーなどのベーカリー品である。
【0055】
飲料は、ノンアルコールおよびアルコール飲料ならびに飲料水および流動食に添加される液体調製物を包含する。ノンアルコール飲料は、例えば、清涼飲料、スポーツドリンク、果実ジュース、レモネード、ニアウォーター飲料(すなわち、低カロリー含量のウォーターベースの飲料)、茶およびミルクベースの飲料である。流動食は、例えば、スープおよび乳製品(例えば、ムースリ飲料)である。
【0056】
一般式Iの化合物(X、RおよびRの定義ならびに選択は上記のとおりである)は、神経伝達の障害または低下に関係する障害の治療のための薬剤を製造するために使用することができる。
【0057】
本発明との関連において「治療」は、同時治療(co−treatment)および予防も包含する。「予防」は、最初の発生の予防(一次予防)または再発の予防(二次予防)であり得る。
【0058】
従って、本発明は、ヒトを含む動物の神経伝達障害に関係する障害を予防するための方法にも関し、前記方法は、有効量の一般式Iの化合物(X、RおよびRの定義ならびに選択は上記のとおりである)を、それを必要としているヒトを含む動物に投与することを含む。これに関して、有効量の一般式Iの化合物(X、RおよびRの定義ならびに選択は上記のとおりである)は、特に、精神的な幸福を維持するため、認知機能のバランスを維持するため、気分変動の危険を低減するのに役立つため、積極的な気分の維持に役立つため、そして認知的な健康を支援するため、睡眠パターン(睡眠構造とも呼ばれる)を正常化し、睡眠開始までの時間を短くするため、一般には、良好な睡眠の質を促進および維持するのに役立ち、人の概日リズム(バイオリズム)を正常化する(人のバイオリズムをその人の平常の健康なものに戻すことを意味する)ために使用することができる。
【0059】
本発明との関連において、「障害」という用語は疾患も包含する。
【0060】
神経伝達障害に関係する障害を治療するための医薬品および食物組成物は、抗うつ薬、気分/活力改善剤、ストレス緩和剤、状態改善剤、不安低減剤および強迫的行動低減剤、弛緩薬、睡眠改善剤および/または不眠軽減剤、概日リズム(バイオリズム)の正常化剤としてのその使用を包含する。これらは全て、特に中枢神経系において、生理学的な神経伝達を改善、強化および支援することができ、そのため精神的な機能不全を軽減することができる。
【0061】
抗うつ薬は、精神的、行動的および感情的/情緒的、神経性、神経変性の摂食およびストレス関連の障害、例えば、単極性うつ病、双極性うつ病、急性うつ病、慢性うつ病、亜慢性うつ病、気分変調、産後うつ病、月経前の不快気分/症候群(PMS)、更年期抑うつ症状、攻撃性、注意欠陥障害(ADS)、社会不安障害、季節性感情障害、全般性不安障害(GAD)などの不安(障害)、線維筋痛症候群、慢性疲労、睡眠障害(不眠症)、外傷後ストレス障害、パニック障害、強迫性障害、不穏下肢症候群、神経質、片頭痛/原発性頭痛および一般的な痛み、嘔吐、過食症、神経性食欲不振、大食症、胃腸障害、燃え尽き症候群、被刺激性、ならびに疲労などを治療するための薬剤である。
【0062】
抗うつ薬は、神経認知的な機能障害の一次および二次予防および/または治療(のための組成物の製造)のために使用することもできる。さらに、これらは、心血管疾患、脳卒中、癌、アルツハイマー病、パーキンソン病などの慢性疾患における併存症として発生する神経伝達の妨害に関連する抑うつ症状または他の症状の治療においても有効である。
【0063】
一般式Iの化合物(X、RおよびRの定義ならびに選択は上記のとおりである)、ならびにこれらを(本質的に)含有する植物材料および植物抽出物(の混合物)(特に、植物材料または抽出物の全重量を基準として少なくとも30重量%の量、好ましくは少なくとも50重量%の量、より好ましくは70〜90重量%の量、最も好ましくは少なくとも90重量%の量)、そしてこれらを含有する食物/医薬品組成物は、従って、ヒトを含む動物の治療に適する。
【0064】
特に、コンパニオン(ペット)動物および家畜(ファーム)動物は、神経伝達の強化または改善が必要な状態であり得る。例えば、捕獲または輸送の後、あるいは収容により、動物が類似の障害を起こし、苦しむまたは攻撃的になる、あるいは常同的な行動または不安および強迫的行動を表す場合には、このような状態が発生する。
【0065】
従って、一般式Iの化合物(X、RおよびRの定義ならびに選択は上記のとおりである)は、一般に、ヒトを含む動物のため、好ましくはヒト、コンパニオン(ペット)動物および家畜動物のための抗うつ薬として使用することができる。
【0066】
本発明のさらなる実施形態では、一般式Iの化合物(X、RおよびRの定義ならびに選択は上記のとおりである)は、一般に気分の改善剤としての用途、ならびにこのような用途のための組成物(植物材料/抽出物、食物/医薬品組成物)を製造するための用途がある。「気分の改善剤」または「感情的な健康の促進薬」または「活力改善剤」は、それで治療された人の気分が高められること、自尊心が上昇されること、そして/あるいは否定的な思考および/または否定的な緊張が低下されることを意味する。また、感情のバランスがとれること、そして/あるいは総体的、特に精神的な幸福および活力が改善または維持されること、ならびに気分変動の危険が低減される(のに役立つ)こと、そして積極的な気分が維持される(のに役立つ)ことも意味する。
【0067】
一般式Iの化合物(X、RおよびRの定義ならびに選択は上記のとおりである)は、一般に、ヒトを含む動物、好ましくはヒト、ペット動物および家畜動物のための不安低減剤および/または強迫的行動低減剤として使用することもできる。
【0068】
不安低減剤は、慢性的な緊張ならびに不安な悩みおよび緊張が軽減および緩和されることを意味する。不穏状態、筋肉の緊張、および睡眠問題を含む高覚醒症状群が緩和される。社会恐怖および他の恐怖が解決される。一般に、社会環境はあまり威嚇的でなく経験される。人は感情的にリラックスし、快適さを経験し、そして他の人々との親交および交際を楽しむ。
【0069】
「弛緩薬」または「睡眠改善剤」または「不眠軽減剤」は、睡眠開始を改善(睡眠に入るまでの時間、睡眠までの遅延時間を短くする)し、人が容易に睡眠に入り、睡眠パターンを正常化し、あるいは朝まで邪魔されない睡眠を維持する助けとなることを意味する。また、時差ぼけまたは交替勤務による概日リズム関連の睡眠の乱れを正すこと、そして不眠に関連する症状、すなわち認知機能および記憶の機能障害、精神的および身体的な疲労、夢幻を予防および除去し、全体的なQOLおよび生命エネルギーを改善することも意味する。
【0070】
さらに、一般式Iの化合物(X、RおよびRの定義ならびに選択は上記のとおりである)およびこれらを有効量で含む組成物は、ストレス関連の症状の治療、予防および軽減のため、働き過ぎ、極度の疲労および/または燃え尽きに関連する症状の治療、予防および軽減のため、ストレスおよび/または好意に対する抵抗または耐性を増大させ、健常者のリラクセーションを容易にするために有用であり、すなわち、このような組成物は「ストレス緩和剤」としての効果を有する。
【0071】
さらに、一般式Iの化合物(X、RおよびRの定義ならびに選択は上記のとおりである)およびこれらを有効量で含む組成物は、ヒトおよび動物における不安症および強迫的行動の治療、予防および軽減のために有用である。
【0072】
本発明のさらなる実施形態は、「状態改善剤」としての、すなわち、被刺激性および疲労を低減する、身体的および精神的な疲労を低減または予防または軽減する、ならびに一般論として病人または健常者においてエネルギーを増大させる、特に脳エネルギーの産生を増大させる手段としての、一般式Iの化合物(X、RおよびRの定義ならびに選択は上記のとおりである)の使用と、これらを含有する組成物(植物材料/抽出物、食物/医薬品組成物)の使用とに関する。さらに、一般的な認知改善のため、特に、注意および集中、記憶および思い出す能力、学習能力、言語処理、問題解決、ならびに知的機能の維持または改善のため、短期記憶の改善のため、精神的な機敏さおよび鋭さ、集中力を増大させるため、精神的な警戒を高めるため、精神的な疲労を低減するため、認知的な健康を支援するため、認知機能のバランスを維持するため、空腹および満腹の調節のため、そして運動活性の調節のためである。
【0073】
本発明は、薬剤として使用するため、特に、神経伝達障害に関係する障害を治療するための、一般式Iの化合物(X、RおよびRの定義ならびに選択は上記のとおりである)およびその組成物(すなわち、これらを(本質的に)含有する植物抽出物(の混合物)、これらを含有する食品/医薬品組成物)に関するだけでなく、既に言及したように、このような障害自体を治療するための方法にも関する。
【0074】
このような方法の特に好ましい実施形態では、その障害が収容、捕獲または輸送に関連し、不安症または強迫的行動の形で現れ得るペット動物または家畜動物が治療される。
【0075】
ヒトについては、本発明の目的のための一般式Iの化合物(X、RおよびRの定義ならびに選択は上記のとおりである)の適切な1日の投与量は、1日あたり、体重1kgにつき0.001mg〜体重1kgにつき約20mgの範囲内であり得る。さらに好ましいのは、体重1kgにつき約0.01〜約10mgの1日の投与量であり、そして特に好ましいのは、体重1kgにつき約0.05〜5.0mgの1日の投与量である。このような一般式Iの化合物を含有する植物材料または植物抽出物の量は、それに応じて計算することができる。
【0076】
ヒトのための固体剤形調製物では、一般式Iの化合物(X、RおよびRの定義ならびに選択は上記のとおりである)は、剤形あたり約0.1mg〜約1000mg、好ましくは約1mg〜約500mgの量で適切に存在する。
【0077】
食物組成物、特にヒトのための食品および飲料では、一般式Iの化合物(X、RおよびRの定義ならびに選択は上記のとおりである)は、食品または飲料の全重量を基準として、約0.0001(1mg/kg)〜約5重量%(50g/kg)、好ましくは約0.001%(10mg/kg)〜約1重量%(10g/kg)、より好ましくは約0.01(100mg/kg)〜約0.5重量%(5g/kg)の量で適切に存在する。
【0078】
本発明の好ましい実施形態の食品および飲料において、X、RおよびRの定義を有する一般式Iの化合物の量は1回分あたり10〜30mg、すなわち食品または飲料1kgにつき120mgである。
【0079】
ヒトを除く動物については、本発明の目的のための一般式Iの化合物(X、RおよびRの定義ならびに選択は上記のとおりである)の適切な1日の投与量は、1日あたり、体重1kgにつき0.001mg〜体重1kgにつき約1000mgの範囲内であり得る。さらに好ましいのは、体重1kgにつき約0.1mg〜約500mgの1日の投与量であり、そして特に好ましいのは、体重1kgにつき約1mg〜100mgの1日の投与量である。
【0080】
コンパニオン(ペット)動物については、ヒトの場合と同じ1日の投与量が適切である。
【0081】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明される。
【0082】
[実施例]
以下に記載される実験において使用される3−n−ブチルフタリドは、Advanced Synthesis(PO Box 437920、San Ysidro、CA 92173)から入手した。センキュノリドおよびクニジリドは、AnalytiCon Discovery GmbH(Hermannswerder Haus 17、14473 ポツダム、独国)から入手し、リグスチリドは、DSM Nutritional Products Ltd.(Kaiseraugst、スイス国)の化学者によって合成した。全ての化合物は95%よりも高い純度であった。
【0083】
[実施例1:式Iの化合物によるセロトニン取り込みの阻害および標識シタロプラムの置換]
ヒトセロトニン再取り込みトランスポーター(hSERT)を安定して発現するHEK−293細胞を、米国ヴァンダービルト大学のR.ブレイクリー(Blakely)から入手した。10%ウシ胎仔血清、ペニシリン、ストレプトマイシン、L−グルタミンおよび抗生物質G418を含有するダルベッコ変性イーグル培地(Bioconcept(Allschwil、スイス国)から購入)で細胞を日常的に成長させ、トリプシン処理により継代させた。アッセイの1日前に、細胞を上記の培地に播種した。アッセイの直前に、35μMのパージリン、2.2mMのCaCl、1mMのアスコルビン酸および5mMのN−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸を補充したクレブス・リンゲル重炭酸緩衝液(「Hepes」と呼ばれる緩衝液)(Sigma Chemicals Ltd.から購入)によって培地を取り替えた。放射標識(3H)セロトニン(Amersham Biosciences GE Healthcare、スラウ、英国)を20nMの濃度まで添加し、室温で30分間インキュベーションすることによって、細胞へのセロトニンの取り込みを決定した。上記緩衝液で3回穏やかに洗浄することによって取り込まれない標識を除去した後、液体シンチレーション測定により取り込まれたセロトニンを定量した。
【0084】
(3H)セロトニン/シタロプラムの添加前10分間および添加中に0.03〜100μMの間の濃度範囲でアッセイに包含させることによって、セロトニン取り込みに対する式Iの化合物の効果を決定した。トランスポーターによるセロトニン取り込みは、リグスチリド、3−ブチルフタリド、センキュノリドA、センキュノリドC、センキュノリドB、およびクニジリドによってそれぞれ用量依存的に阻害され、IC50値は表2に示されるとおりであった。
【0085】
【表2】

【0086】
実験を2回またはそれ以上(n)実行したので、平均値+/−平均の標準誤差(s.e.m.)が示される。
【0087】
[実施例2:式Iの化合物によるモノアミノオキシダーゼの阻害]
モノアミンオキシダーゼA(MAO−A)およびB(MAO−B)酵素のための基質として、それぞれ有機アミンのp−チラミンまたはベンジルアミンを用いた。この反応により生じるHを、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)により触媒されるバニリン酸との反応で定量した。
【0088】
反応は、ポリスチレンマイクロタイタープレートにおいて実行した。0.2Mのリン酸カリウム緩衝液pH7.6中で、MAO酵素(最終濃度2U/ml)と、必要に応じてp−チラミン(Sigma、最終濃度0.5mM)またはベンジルアミン(Sigma、最終濃度0.5mM)のいずれか、ならびに発色溶液(バニリン酸(Fluka)、4−アミノアンチピリン(Fluka)および西洋わさびペルオキシダーゼ(Sigma)を含有し、最終濃度はそれぞれ0.25mM、0.125mMおよび1U/mlである)とを混合した。マイクロタイタープレート吸光度リーダーeg Spectramax M5(Molceular Devices Corporation)において反応を追跡した。495nmにおける吸光度の示度を15秒毎に40分間読み取り、SOFTmaxPro(Molecular Devices Corporation)を用いて線形回帰によって初期反応速度を計算した。
【0089】
基質によるインキュベーション前の10分間およびインキュベーション中に0.03〜100μMの間の濃度範囲でアッセイに包含させることによって、モノアミンオキシダーゼ酵素に対するリグスチリド、3−ブチルフタリド、センキュノリドCおよびクニジリドの効果を決定した。反応のHRPで触媒される部分に対する化合物の効果を決定するために、MAO酵素をH(Molecular Probes、最終濃度0.2mM)によって置換した。MAO−AおよびMAO−Bを含有する反応はいずれも、式Iに従う三環式ジテルペンおよびその誘導体によって用量依存的に阻害されたが、対照反応は影響を受けなかった。リグスチリド、3−ブチルフタリド、センキュノリドCおよびクニジリドによってそれぞれモノアミンオキシダーゼ活性の阻害について測定したIC50値は表3に示される。
【0090】
【表3】

【0091】
[実施例3 マウスの初期観察(アーウィン(Irwin))試験における式Iの化合物の効果]
行動および生理学的機能に対する試験物質の最初の中毒量、活性な用量範囲および主な効果を検出する方法は、アーウィン 1968年、Psychopharmaco、13:222−257頁によって記載される方法に従う。
【0092】
マウスに試験物質(3−n−ブチルフタリド、リグスチリド)を投与し、媒体が与えられた対照群と同時に比較して観察した(非盲目状態)。どの時点でも、3つの処置群を同じ対照と比較した。処置群内の全ての動物を同時に観察した。
【0093】
上記のアーウィンの文献から得られる標準観察グリッドに従って、行動修飾、生理学的な神経毒性症状、瞳孔直径および直腸温度を記録した。グリッドは以下の事項:死亡率、痙攣、振戦、ストラウブ、鎮静、興奮、異常歩行(回転、つま先歩行)、跳躍、協調運動障害、もがき、立毛、常同症(においを嗅ぐ、咀嚼、頭部運動)、頭部単収縮、引っ掻き、呼吸、攻撃性、恐怖、接触に対する反応性、筋緊張、正向反射の損失、下垂、眼球突出、把握の損失、無動、カタレプシー、牽引の損失、角膜反射の損失、無痛、排便、唾液分泌、流涙、瞳孔直径(単位=1/45mm)、および直腸温度を含有する。
【0094】
試験物質の投与の15、30、60、120および180分後、そして24時間後に観察を実施した。印()を付けた症状は、投与の0分後から〜15分後まで連続的に観察した。1つの群につき5匹のマウスを調べた。
【0095】
生理食塩水(0.9%w/vのNaCl)中3%のDMSO、3%のトゥイーン(Tween)80に3−ブチルフタリド(98.5%純度)を可溶化し、腹腔内でマウスに注射した。
【0096】
[結果]
[3−n−ブチルフタリド]
100mg/kg体重において、3−n−ブチルフタリドは、わずかな鎮静効果(15および30分後に5/5匹のマウス、60分で2/5匹)、および筋緊張の低下(15および30分後に5/5匹のマウス、60分後に3/5匹のマウス)を示した。
【0097】
200mg/kg体重において、適度の鎮静効果(60および120分後に5/5匹のマウス)、60分後に恐怖の低下および筋緊張の低下を示した。
【0098】
300mg/kg体重において、15分および30分後に4/4匹のマウスで著しい鎮静を示し、60分および120分に4/4匹のマウスで適度の鎮静を示し、そして180分に4/4匹のマウスでわずかな鎮静を示した。
【0099】
300mg/kgの3−ブチルフタリドは、120分で恐怖および筋緊張も低下させた。
【0100】
全体的に、3−ブチルフタリドは、用量依存性の鎮静、恐怖低下および筋肉弛緩効果を示した。
【0101】
30mg/kgのリグスチリド(98.9%純度)は、30分で3匹のマウスにおいてわずかな鎮静を誘発した。
【0102】
100mg/kgでは、15〜30分で5匹全てのマウス、60分で3匹のマウスにおいてわずかな鎮静が誘発され、30分で2匹のマウスにおいて筋緊張が低下された。
【0103】
200mg/kgでは、鎮静は、15〜120分に5匹全てのマウスでわずか〜適度であり、そして180分に2匹のマウスでわずかであり、筋緊張は、15分に5匹全てのマウス、30〜60分に4匹のマウス、120分に2匹のマウス、そして180分に1匹のマウスにおいて低下した。300mg/kgでは、鎮静は、15〜60分に5匹全てのマウスで適度であり、120〜180分にわずかであり、筋緊張は、15〜30分に5匹全てのマウス、60〜120分に4匹のマウス、そして180分に3匹のマウスにおいて低下した。
【0104】
全体的に、3−n−ブチルフタリドおよびリグスチリドは、用量依存性の鎮静および筋肉弛緩効果を示した。
【0105】
[実施例4:3−n−ブチルフタリドおよびリグスチリドによるポルソルト(Porsolt)の水泳試験]
「行動性絶望試験」または「ポルソルトの強制水泳試験」は、うつ病のための有効な動物モデルである(T.ナガツ(Nagatsu)、2004年、NeuroToxicology、25:11−20頁、およびポルソルトら、1977年、Arch.Int.Pharmacodyn.、229:327−336頁を参照)。これは、セロトニン、ドーパミンおよびノルアドレナリンを含むいくつかの神経伝達物質の伝達の強化に対応する。
【0106】
上記のポルソルトらによって記載されるように抗うつ活性を検出する試験を実行した。逃亡することができない状況で強制的に水泳させられるマウスは急速に不動になる。抗うつ薬は不動の持続時間を減少させる。
【0107】
10cmの水(22℃)を含有する逃亡することができないシリンダー(高さ=24cm、直径=13cm)に個々にマウスを入れた。マウスを6分間水に入れ、最後の4分の間の不動の持続時間を測定した。
【0108】
4つの群のそれぞれにつき10匹のマウスを調べた。試験を盲目的に実施した。すなわち、実験を行う人は、マウスに注射する人とは異なり、従って、各マウスが4つの群のどれに属するかを知らなかった。
【0109】
3−n−ブチルフタリド(98.5%純度)を3つの用量(10、30および80mg/kg体重)でそれぞれ評価し、試験の30分前に腹腔内に投与し、対照群と比較した。このようにして投与される3−n−ブチルフタリドは、3重量%のDMSOおよび3重量%のトウィーン(Tween)(登録商標)80を含有する生理食塩水溶液(いわゆる「媒体」)中に溶解した。対照群には、3重量%のDMSOおよび3重量%のトウィーン(登録商標)80を含有する生理食塩水溶液からなる媒体を腹腔内に投与した。
【0110】
結果は表4に示される。
【0111】
【表4】

【0112】
10〜80mg/kgの間の3−n−ブチルフタリドは、不動時間を約18%減少させる傾向を示した。
【0113】
【表5】

【0114】
10mg/kgのリグスチリドは不動時間を約18%減少させる傾向を示したが、それよりも高い用量では示さなかった。
【0115】
[実施例5:3−n−ブチルフタリドによる高架式十字迷路(Elevated Pluz Maze)試験]
抗不安活性を検出する方法は、ハンドリー(Handley)ら、1984年、Naunyn−Schm Arch Pharm 387:1−5頁に記載される方法に従う。齧歯類は、オープンスペース(高架式十字迷路のオープンアーム)を回避する。抗不安薬は、オープンアームにおける探索活性を増大させる。
【0116】
迷路は、十字記号(+)の形に配列された等しい長さおよび幅(14×5cm)の4本のアームからなる。2本の反対側のアームは、12cm高さの壁で包囲される(クローズドアーム)。2本の他のアームは壁を有さない(オープンアーム)。迷路は床から56cm上昇される。十字迷路の中央にマウスを入れ、5分間探索させる。オープンアームおよびクローズドアームへのエントリー数と、オープンアーム内で使った時間とを記録する。1つの群につき10匹のマウスを調べた。試験は盲目的に実施した。
【0117】
3−n−ブチルフタリドを10、30、および80mg/kg体重の用量で試験した。
【0118】
結果は表6に示される。
【0119】
【表6】

【0120】
3−n−ブチルフタリドは、エントリーの数およびオープンアームで使用した時間を適度に増大させる傾向を示した。クローズドアームへのエントリーには効果を持たなかった。従って、3−n−ブチルフタリドは、適度の抗不安活性を有する。
【0121】
[実施例6:不安様または強迫性行動についての試験としてのビー玉埋設試験]
ビー玉埋設試験においてフタリドが豊富なセロリ種子油抽出物を試験した。種子の超臨界CO流体抽出によって得られるセロリ種子油(アピウム・グラベオレンス(Apium graveolens))からの粗抽出物は、Guanzhou Honsea Sunshine Bio Science&Technology(Guangzhou、510620、中華人民共和国)から購入した。約30cmのクーゲルロール(Kugelrohr)において、0.02mbarの圧力下、125℃の温度でこの抽出物(66.15g)を約2時間蒸留した。留出物は、セロリ種子油抽出物の全重量を基準として、18.12%のブチルフタリド、0.87%のブチリデンフタリド、35.37%のセンキュノリド、20.99%のセダノリド、2.23%のC16脂肪酸および3.14%のオレイン酸を含有した。
【0122】
不快な味の液体が充填された飲料用注ぎ口(ウィルキー(Wilkie)ら、1979年、J ExpAnal Behav.31:299−306頁)または電気ショック棒(ピネル(Pinel)ら、1978年、J Comp and Physiol Psych 92:708−712頁)などの有害な物体を埋設するラットによって「防御的な埋設」行動を実証した。
【0123】
マウスによるビー玉埋設行動は、鎮静を誘発しない用量で、SSRI(例えば、フルボキサミン、フルオキセチン、シタロプラム)、三環式抗うつ薬(例えば、イミプラミン、デシプラミン)および選択的ノルアドレナリン取り込み阻害薬(例えば、レボキセチン)に加えて、マイナー(例えば、ジアゼパム)およびメジャー(例えば、ハロペリドール)精神安定薬の範囲に感受性があると報告されている(ブルッカンプ(Broekkamp)ら、1986年、Eur J Pharmacol.126:223−229頁)。このモデルは、不安様または強迫性行動のいずれかを反映し得る(デブール(De Boer)ら、2003年、Eur J Pharmacol 463:145−161頁を参照)。
【0124】
ビー玉埋設試験は、通常の齧歯類のベッディング材料が4cmの深さまで充填されたタイプIIのケージ(16×22cm)において実施し、ベッディングは手で優しく平らにして平坦な表面を保証した。ベッディングの表面に、12個のビー玉を3×4個の配置で均等に隔てて置いた。
【0125】
試験の開始時に、マウスを個々に試験ケージに入れ、30分間探索させた。試験の最後に、マウスをケージから取り出し、埋設された(すなわち、少なくとも2/3がベッディングで被覆された)ビー玉の数を数えた。次の動物を試験する前に新たなケージおよびベッディングを調製した。
【0126】
基準物質としての10mg/kgのフルオキセチンおよび媒体としてのコーン油と共に50、100、200、300mg/kgで亜慢性経口投与した後、セロリ種子油抽出物を評価した。セロリ種子油抽出物、フルオキセチンおよび媒体は、経口胃管栄養法によって試験の24、5、1時間前に投与した。
【0127】
それぞれの投薬の後、次の投薬または試験の開始までマウスをそのホームケージに戻した。
【0128】
[結果:]
【0129】
【表7】

【0130】
セロリ種子油抽出物は、媒体対照と比較して、被覆されたビー玉の数を減少させる傾向を示した。効果は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬のフルオキセチンのほぼ半分であった。
【0131】
[実施例7:式Iの化合物によるドーパミン取り込みの阻害]
ドーパミンを含むいくつかの神経伝達物質の作用は、その急速な取り込みと、細胞膜輸送タンパク質によるシナプス接合部からの排除とによって調節される。中枢ドーパミン作動性ニューロンにおけるドーパミントランスポーターは、放出された伝達物質の90%までの回収に関与する。モノアミントランスポーターは、多数の向精神薬(コカイン、アンフェタミンなど)および抗うつ薬の高親和性のターゲットである。これらの薬剤は、トランスポーターを遮断し、従って、神経細胞の取り込みを防止することによって、中枢および抹消神経系の両方で細胞外神経伝達物質濃度のレベルを高め、その行動性および自律神経性の効果の一因となる。
【0132】
ヒトドーパミントランスポーター(hDAT)を発現するCHO−Ki/hDAT細胞をアッセイの前にプレーティングした。細胞(2×10/ml)を、変性Tris−HEPES緩衝液pH7.1中で式Iの化合物(3−n−ブチルフタリド)および/または媒体と共に25℃で20分間インキュベートした後、50nMの[H]ドーパミンを10分間添加した。10μMのノミフェンシンの存在下で特定のシグナルを決定した。次に、細胞を1%のSDS溶解緩衝液で可溶化した。媒体対照に対して50パーセントまたはそれ以上(≧50%)の[H]ドーパミン取り込みの低下は、著しい阻害活性を示す。化合物を10、1、0.1、0.01および0.001μMでスクリーニングした。これらの同じ濃度を別個の未処置細胞の群に同時に適用し、取り込みの著しい阻害が観察された場合にだけ、化合物に誘発される可能性のある細胞毒性について評価した。
【0133】
【表8】

【0134】
[参考文献:]
ギロス(Giros)、1992年、Mol.Pharmacol.42:383−390頁、1992年
プリステュパ(Pristupa)ら、1994年、Mol.Pharmacol.45:125−135頁
【0135】
[実施例8:式Iの化合物によるノルエピネフリン取り込みの阻害]
ノルエピネフリンを含むいくつかの神経伝達物質の作用は、その急速な取り込みと、細胞膜輸送タンパク質によるシナプス接合部からの排除とによって調節される。中枢アドレナリン作動性ニューロンにおけるノルエピネフリンランスポーターは、放出された伝達物質の90%までの回収に関与する。モノアミントランスポーターは、多数の向精神薬(コカイン、アンフェタミンなど)および抗うつ薬の高親和性のターゲットである。これらの薬剤は、トランスポーターを遮断し、従って、神経細胞の取り込みを防止することによって、中枢および抹消神経系の両方で細胞外神経伝達物質濃度のレベルを高め、その行動性および自律神経性の効果の一因となる。
【0136】
ヒト組換えノルエピネフリントランスポーターが安定して発現されるイヌ腎臓MDCK細胞を、アッセイの1日前にプレーティングした。細胞(2×10/ml)を、変性Tri−HEPES緩衝液pH7.1中で式Iの化合物(3−n−ブチルフタリド)および/または媒体と共に25℃で20分間プレインキュベートし、次に、25nMの[H]ノルエピネフリンを添加して10分間インキュベーションした。次に、ウェル内の細胞を2回洗浄し、1%のSDS溶解緩衝液で可溶化し、ライセートを数えて、[H]ノルエピネフリンの取り込みを決定した。10μMのデシプラミンの存在下で特定のシグナルを決定した。媒体対照に対して50パーセントまたはそれ以上(≧50%)の[H]ノルエピネフリン取り込みの低下は、著しい阻害活性を示す。化合物を10、1、0.1、0.01および0.001μMでスクリーニングした。これらの同じ濃度を別個の未処置細胞の群に同時に適用し、取り込みの著しい阻害が観察された場合にだけ、化合物に誘発される可能性のある細胞毒性について評価した。
【0137】
[参照データ:]
【表9】

【0138】
[参考文献:]
ガリ(Galli)ら、1995年、J.Exp.Biol.198:2197−2212ページ
【0139】
[実施例9:ソフトゼラチンカプセルの調製]
以下の成分を含むソフトゼラチンカプセル(500mg)が調製され得る。
【0140】
【表10】

【0141】
軽度の慢性気分変調の治療のために1日あたり2個のカプセルを成人に3ヶ月間投与することができる。
【0142】
[実施例10:ソフトゼラチンカプセルの調製]
以下の成分を含むソフトゼラチンカプセル(600mg)が調製され得る。
【0143】
【表11】

【0144】
月経前症候群および月経前不快気分障害の治療のために、好ましくは月経周期の後半に、1日あたり1個のカプセルを14日間摂取することができる。
【0145】
[実施例11:錠剤の調製]
以下の成分を含む400mgの錠剤が調製され得る。
【0146】
【表12】

【0147】
一般的な幸福、活性化およびストレス軽減のために、1個の錠剤を1日2回、3ヶ月間摂取することができる。
【0148】
[実施例12:インスタントフレーバー清涼飲料の調製]
【0149】
【表13】

【0150】
全ての成分をブレンドし、500μmのふるいにかけた。得られた粉末を適切な容器に入れ、管状(turbular)ブレンダで少なくとも20分間混合した。飲料を調製するために、得られた混合粉末125gをとり、水を入れて1リットルの飲料にした。
【0151】
すぐに飲める清涼飲料は、1回分(250ml)あたり約30mgの3−n−ブチルフタリドを含有する。
【0152】
強化剤として、そして一般的な幸福のために、1日あたり2回分(240ml)を飲むことができる。
【0153】
[実施例13:焼いていない強化シリアルバーの調製]
【0154】
【表14】

【0155】
3−n−ブチルフタリドをスキムミルク粉末と予め混合し、プラネタリーボールミキサに入れる。コーンフレークおよびライスクリスピーを添加し、全てを優しく混合する。次に、乾燥およびカットアップルを添加する。第1の調理ポット内で、上記で与えられる量の糖、水および塩を混合する(溶液1)。第2の調理ポット内で、上記で与えられる量のグルコース、転化およびソルビトールシロップを混合する(溶液2)。ベーキング用油脂、パーム核油脂、レシチンおよび乳化剤の混合物は、油脂相である。溶液1を110℃に加熱する。溶液2を113℃に加熱し、次に冷水浴中で冷却する。その後、溶液1および2を混ぜ合わせる。油脂相を水浴中75℃で溶解させる。溶液1および2を合わせた混合物に油脂相を添加する。アップルフレーバーおよびクエン酸を液体糖−油脂ミックスに添加する。液体を乾燥成分に添加し、プラネタリーボールミキサで十分に混合する。塊を大理石プレート上に置き、所望の厚さに圧延する。塊を室温まで冷却し、小さく切断する。焼いていないシリアルバーは、1回分(30g)あたり約25mgのオレガノ抽出物を含有する。一般的な幸福および活性化のために、1日あたり1〜2個のシリアルバーを食べることができる。
【0156】
[実施例14:イヌのストレスを軽減し、イヌを活性化するための3−n−ブチルフタリドまたはリグスチリドを含むイヌの乾燥飼料]
市販のイヌ用基礎食(例えば、Mera Dog「Brocken」、MERA−Tiernahrung GmbH、MarienstraBe 80−84、D−47625 Kevelaer−Wetten、独国)に、体重1kgにつき50mgの1日の用量の3−n−ブチルフタリドまたはリグスチリドを被験者に投与するのに十分な量の3−n−ブチルフタリドまたはリグスチリドの溶液をスプレーする。約90重量%の乾燥物質を含有するように食品組成物を乾燥させる。1日あたり約200gの乾燥飼料を消費する体重10kgの平均的なイヌのために、ドッグフードは、食品1kgあたり約2500mgの3−n−ブチルフタリドまたはリグスチリドを含有する。より重いイヌのためには、飼料ミックスはそれに応じて調製される。
【0157】
[実施例15:3−n−ブチルフタリドまたはリグスチリドを含む、湿ったキャットフード]
市販のネコ用基礎食(例えば、Happy Cat「Adult」、Tierfeinnahrung、Suedliche Hauptstrasse 38、D−86517 Wehringen、独国)を、体重1kgにつき100mgの1日の用量の3−n−ブチルフタリドまたはリグスチリドを被験者に投与するのに十分な量の3−n−ブチルフタリドまたはリグスチリドの溶液と混合する。1日あたり約400gの湿った食品を消費する体重5kgの平均的なネコのために、キャットフードは1250mg/kgを含有する。
【0158】
[実施例16:3−n−ブチルフタリドまたはリグスチリドを含有するドッグトリート]
市販のドッグトリート(例えば、Mera Tiernahrung GmbH、Marienstrasse 80−84、47625 Kevelaer−Wetten、独国により供給されるイヌ用のMera Dog「Biscuit」)に、トリート1gあたり5〜50mgの3−n−ブチルフタリドまたはリグスチリドをトリートに投与するのに十分な量の3−n−ブチルフタリドまたはリグスチリドの溶液をスプレーする。食品組成物は、約90重量%の乾燥物質を含有するように乾燥される。
【0159】
[実施例17:3−n−ブチルフタリドまたはリグスチリドを含有するキャットトリート]
市販のキャットトリート(例えば、Whiskas、Master−foods GmbH、Eitzer Str.215、27283 Verden/Aller、独国によって供給されるネコ用のWhiskas Dentabits)に、トリート1gあたり5〜50mgの3−n−ブチルフタリドまたはリグスチリドをトリートに投与するのに十分な量の3−n−ブチルフタリドまたはリグスチリドの溶液をスプレーする。食品組成物は、約90重量%の乾燥物質を含有するように乾燥される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経伝達障害に関係する障害の治療において使用するため、あるいは神経伝達の障害または低下に関係する障害の治療に有用な組成物の調製において使用するための一般式I
【化1】


(式中、Rは水素またはヒドロキシであり、
がヒドロキシであればRはブチルまたはブチリルであるが、Rが水素であればRはブチルであり、あるいは
およびRは一緒になって、ヒドロキシ、メチル、または3−(α,β−ジメチルアクリロイルオキシ)によって場合により置換された1−プロピリデンまたは1−ブチリデンであり、
点線は場合により結合であり、
Xは、X1、X2、X3、X4、およびX5:
【化2】


からなる群から選択される、場合により置換された脂肪族C4残基であり、ここで、
式(I)の点線がなければXはX2、X3またはX5であり、
上記式(I)において点線が結合を表す場合にはXはX1、X4またはX5であり、
およびRは、互いに独立して、水素またはヒドロキシであり、そして
はヒドロキシまたはブチリルである)の化合物。
【請求項2】
前記化合物が、(E)−センキュノリドE、センキュノリドC、センキュノリドB、3−ブチル−4,5,6,7−テトラヒドロ−3,6,7−トリヒドロキシ−1(3H)−イソベンゾフラノン、3−ブチル−1(3H)−イソベンゾフラノン、3−ブチルフタリド、3−ブチリデンフタリド、3−プロピリデンフタリド、チュアンキシノール、リグスチリジオール、センキュノリドF、3−ヒドロキシ−センキュノリドA、アンゲロイルセンキュノリドF、センキュノリドM、3−ヒドロキシ−8−オキソ−センキュノリドA、リグスチリド、6,7−ジヒドロ−(6S,7R)−ジヒドロキシリグスチリド、3a,4−ジヒドロ−3−(3−メチルブチリデン)−1(3H)−イソベンゾフラノン、セダノリド、およびクニジリド、ならびにこれらの混合物からなる群から選択される請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記化合物が、リグスチリド、3−ブチルフタリド、3−ブチリデンフタリド、3−プロピリデンフタリド、セダノリド、センキュノリドA、センキュノリドBおよびセンキュノリドC、ならびにこれらの混合物からなる群から選択される請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
前記化合物が、抗うつ薬、気分/活力改善剤、ストレス緩和剤、状態改善剤、不安の低減剤、強迫的行動の低減剤、弛緩薬、睡眠改善剤および/または不眠軽減剤として使用される請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
神経伝達の障害または低下に関係する障害を治療するための、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物を含有する食物医薬品組成物。
【請求項6】
スープまたは乳製品などの固形食または流動食の形態、シリアルバーなどの強化食品ならびにケーキおよびクッキーなどのベーカリー品の形態、錠剤、丸薬、顆粒剤、糖衣錠、カプセル、および発泡製剤などの栄養補助食品の形態、清涼飲料、スポーツドリンク、果実ジュース、レモネード、茶およびミルクベースの飲料などのノンアルコール飲料の形態である請求項5に記載の食物組成物。
【請求項7】
従来の生理学的に許容可能なキャリア、賦形剤または希釈剤を含む請求項5に記載の医薬品組成物。
【請求項8】
神経伝達障害に関係する障害を治療するため、あるいは神経伝達障害に関係する障害の治療に有用な組成物を製造するための、請求項1に記載の一般式Iの化合物の使用。
【請求項9】
抗うつ薬、気分/活力改善剤、ストレス緩和剤、状態改善剤、不安の低減剤、強迫的行動の低減剤、弛緩薬、睡眠改善剤および/または不眠軽減剤としての、請求項7に記載の化合物の使用。
【請求項10】
抗うつ薬、気分/活力改善剤、ストレス緩和剤、状態改善剤、不安の低減剤、強迫的行動の低減剤、弛緩薬、睡眠改善剤および/または不眠軽減剤としての、請求項5に記載の食物または医薬品組成物の使用。
【請求項11】
ヒトを含む動物において神経伝達障害に関係する障害を治療するための方法であって、(a)請求項5〜7のいずれか一項に記載の組成物を調製することと、(b)有効量の前記組成物を、それを必要としているヒトを含む動物に投与することとを含む方法。
【請求項12】
前記動物が、ヒト、ペット動物または家畜動物である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
シナプス前ニューロンにおけるモノアミントランスポーターによってセロトニン、ノルアドレナリン、またはドーパミンの再取り込みを阻害するための組成物の製造における請求項1に記載の化合物の使用。
【請求項14】
前記一般式Iの化合物が、(E)−センキュノリドE、センキュノリドC、センキュノリドB、3−ブチル−4,5,6,7−テトラヒドロ−3,6,7−トリヒドロキシ−1(3H)−イソベンゾフラノン、3−ブチル−1(3H)−イソベンゾフラノン、3−ブチルフタリド、3−ブチリデンフタリド、3−プロピリデンフタリド、チュアンキシノール、リグスチリジオール、センキュノリドF、3−ヒドロキシ−センキュノリドA、アンゲロイルセンキュノリドF、センキュノリドM、3−ヒドロキシ−8−オキソ−センキュノリドA、リグスチリド、6,7−ジヒドロ−(6S,7R)−ジヒドロキシリグスチリド、3a,4−ジヒドロ−3−(3−メチルブチリデン)−1(3H)−イソベンゾフラノン、セダノリド、およびクニジリド、ならびにこれらの混合物からなる群から選択される請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記一般式Iの化合物が、リグスチリド、3−ブチルフタリド、3−ブチリデンフタリド、3−プロピリデンフタリド、セダノリド、センキュノリドA、センキュノリドBおよびセンキュノリドC、ならびにこれらの混合物からなる群から選択される請求項13に記載の使用。
【請求項16】
前記動物が、コンパニオン動物である請求項13〜15のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【請求項17】
前記動物が、家畜動物である請求項13〜15のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【請求項18】
前記家畜動物が、家禽である請求項17に記載の使用。
【請求項19】
前記家畜動物が、ウシ、ヒツジ、ヤギおよびブタからなる群から選択される請求項17に記載の使用。
【請求項20】
緊張、悲しみ、不幸感、不平感、被刺激性または不快気分の低減剤である請求項13〜15のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【請求項21】
前記化合物が、食物大量生産の家畜飼育において、屠殺場への輸送中に家畜動物のストレスを防止するため、そして/あるいは屠殺場への輸送中に前記家畜動物の食肉品質の低下を防止するために使用される請求項17〜19のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【請求項22】
前記一般式Iの化合物が、輸送のストレスにおける産卵の低下、羽根つつき、および共食い、ならびに食肉品質の低下を防止するために使用される請求項18に記載の使用。
【請求項23】
ヒトの概日リズムを正常化および維持するため、あるいはヒトの概日リズムの乱れに関連する症状を軽減または予防するための、請求項13〜15のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【請求項24】
前記動物が、毛皮産業のためのものである請求項13〜15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項25】
前記使用が、ストレスの低減、緊張の低減、攻撃性の低減、強迫行動の低減、飼い主の別離、変化または喪失によるストレスの低減、休暇のための別離中のストレスの低減、および「アニマルホテル」におけるストレスの低減、動物保護施設におけるストレスの低減、ならびに密集した飼育および繁殖状態におけるストレスの低減からなる群から選択される請求項16に記載の使用。

【公表番号】特表2010−500386(P2010−500386A)
【公表日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−524106(P2009−524106)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【国際出願番号】PCT/EP2007/007086
【国際公開番号】WO2008/017491
【国際公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】