説明

中空シャフト

【課題】中空シャフトの内部を閉塞部材によって確実に封止できると共に組付性の向上を図る。
【解決手段】中空シャフト10は、中空状のパイプ材等からなるシャフト本体12を有し、開口した両端部を閉塞するように閉塞部材16が設けられる。この閉塞部材16は、平面状に形成された底壁部26と、該底壁部26と略直交する筒状の周壁部28とから有底筒状に形成され、前記周壁部28は、半径外方向に向かって断面円弧状に膨出するように形成され、最も半径外方向に膨出した部位に頂部30が形成される。そして、閉塞部材16がシャフト本体12に装着される際、頂部30が第1孔部18a、18bの内周面に摺接しながら圧入される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車両における駆動力を駆動機構へと伝達する等速ジョイント等に用いられる中空シャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、車両においてエンジンからの動力を駆動機構へと伝達するためのドライブシャフトや等速ジョイントでは、近年、軽量化の要請からパイプ材等からなる中空シャフトが採用されている。
【0003】
この中空シャフトは、軸線方向に貫通した中空部を内部に有し、その両端部の開口部には、金属製の栓部材からなる封止機構が装着されて封止されている。この栓部材は、底壁と周壁とから構成され、前記栓部材を開口部に圧入することにより、開口部の内周面に対して周壁が当接して閉塞している。また、中空シャフトは、中実状に形成され、弾性材料からなる栓部材で閉塞されることも知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−100798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来技術では、栓部材の外周面が、その軸線と略平行に形成され、且つ、開口部の内周面が軸線と略平行に形成されているため、該栓部材と開口部とを完全に密着させることが困難であり、わずかな隙間が生じる可能性がある。その結果、栓部材によって中空シャフト内の気密が保持されずに、例えば、外部から前記中空シャフトの内部へと潤滑油等が進入することが懸念される。
【0006】
また、例えば、栓部材を開口部に対して挿入する際、該開口部の内周面に対する接触面積が大きいため、挿入時の摺動抵抗が大きくなってしまい、大きな荷重が必要とされる。その結果、中空シャフトに対する栓部材の組付作業性が低下してしまうこととなる。
【0007】
本発明は、前記の課題を考慮してなされたものであり、その内部を確実に封止できると共に、閉塞部材の組付性を向上させることが可能な中空シャフトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、本発明は、内部に形成される空間部と、該空間部に連通し両端部の少なくとも一方に開口した孔部とを有するシャフト本体と、
前記孔部に装着され、該孔部を閉塞する閉塞部材と、
を備え、
前記閉塞部材は、前記孔部に臨む外周面が半径外方向に向かって断面円弧状に膨出して形成され、該孔部の内周面に当接することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、シャフト本体の端部に開口した孔部が形成され、該孔部を閉塞するように閉塞部材が装着される。そして、閉塞部材は、孔部に臨む外周面が半径外方向に向かって断面円弧状に膨出するように形成されている。
【0010】
従って、閉塞部材を孔部に対して装着する際、該孔部の内周面に対して前記閉塞部材の外周面が全面的に接触することがなく、その一部のみが摺接しながら装着される。すなわち、閉塞部材との接触面積を低減することができる。
【0011】
その結果、閉塞部材をシャフト本体に対して装着する際、より小さな荷重で容易に装着することができ組付性の向上を図ることができると共に、断面円弧状に膨出した外周面を確実に孔部に対して当接させることができるため、前記閉塞部材によってシャフト本体の空間部を確実に封止することができる。
【0012】
また、閉塞部材の外周面には、最も半径外方向に膨出し、孔部の内周面に当接する頂部が形成され、前記頂部の半径を、前記閉塞部材における外周面の最小半径に対して0.1〜1.0mmだけ大きく設定することにより、前記閉塞部材を孔部に装着する際の荷重を低減し、且つ、その変形を抑制することができる。
【0013】
さらに、閉塞部材は、開口した一端部を有する有底筒状に形成され、前記孔部内において前記一端部を前記シャフト本体の端部側となるように装着することにより、例えば、シャフト本体の端部に対して後加工等を行う場合にも、前記孔部内に入り込んだ加工工具等が前記閉塞部材に接触することを回避できる。
【0014】
さらにまた、シャフト本体には、孔部の端部に形成され、該孔部より小径に形成された空間部との境界部に段差部を形成することにより、前記孔部内において、閉塞部材が前記段差部に当接することによって係止されるため、該閉塞部材の位置決めが簡便且つ確実になされると共に、誤って空間部側へと移動してしまうことが阻止される。
【0015】
またさらに、頂部を、閉塞部材の軸線方向に沿った略中央部に設けることにより、前記孔部内において前記閉塞部材を安定的に保持することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、以下の効果が得られる。
【0017】
すなわち、シャフト本体の孔部に装着される閉塞部材において、前記孔部に臨む前記閉塞部材の外周面が、半径外方向に向かって断面円弧状に膨出するように形成されているため、前記閉塞部材を孔部へと装着する際、該孔部の内周面に対して前記閉塞部材の外周面が全面的に接触することがなく、その接触面積が低減されるため、装着時に必要とされる荷重をより低減させることができる。その結果、シャフト本体に対する閉塞部材の組付性を向上させることができると共に、断面円弧状に膨出した外周面を確実に孔部に対して当接できるため、前記閉塞部材によってシャフト本体の空間部を確実に封止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態に係る中空シャフトの全体縦断面図である。
【図2】図1の中空シャフトにおける端部近傍を示す拡大断面図である。
【図3】図1の中空シャフトを構成する閉塞部材の外観斜視図である。
【図4】図3の閉塞部材を示す縦断面図である。
【図5】閉塞部材をシャフト本体に装着する際の荷重と、該閉塞部材における頂部の膨出量との関係を示す特性曲線図である。
【図6】変形例に係る閉塞部材が装着された中空シャフトの端部近傍を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る中空シャフトについて好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【0020】
図1において、参照符号10は、本発明の実施の形態に係る中空シャフトを示す。
【0021】
この中空シャフト10は、図1及び図2に示されるように、中空状のパイプ材等からなるシャフト本体12と、前記シャフト本体12の内部に軸線方向(矢印A、B方向)に沿って延在する空間部14と、前記シャフト本体12の開口した両端部を閉塞する閉塞部材16とを含む。
【0022】
シャフト本体12は、軸線方向(矢印A、B方向)に沿って所定長さで形成され、その両端部には、開口して外部と空間部14とを連通する第1孔部18a、18bがそれぞれ形成されると共に、前記第1孔部18a、18b同士を接続する第2孔部20が形成される。この第1及び第2孔部18a、18b、20は、それぞれ軸線方向に沿って略一定径で形成される。
【0023】
この第1孔部18a、18bの端部には、外方に向かって徐々に拡径する面取部22がそれぞれ形成されている。なお、面取部22は、例えば、切削工具K(図2参照)を第1孔部18a、18bに挿入して切削を行うことにより所定角度傾斜するように形成されると共に、第1孔部18a、18bの開口部に沿って環状に形成される。
【0024】
また、第2孔部20は、第1孔部18a、18bに対して半径内方向に縮径した小径で形成され、第1孔部18a、18bと第2孔部20との境界部位には、段差部24が形成されている(図2参照)。
【0025】
閉塞部材16は、図1〜図4に示されるように、例えば、金属製材料からなる薄板材をプレス成形することによって有底筒状に形成される。この閉塞部材16は、平面状に形成された底壁部26と、該底壁部26と略直交する筒状の周壁部28とを備え、前記周壁部28は、断面円形状に形成された底壁部26の外縁部から立設され、所定高さで形成されている。
【0026】
この周壁部28は、半径外方向に向かって断面円弧状に膨出するように形成され、例えば、最も半径外方向に膨出した頂部30が、前記周壁部28における軸線方向(矢印A、B方向)に沿った略中央部となるように形成される。
【0027】
また、頂部30は、図4に示されるように、周壁部28において最も外周径の小さな端部28aに対する半径外方向への膨出量Cが、例えば、0.1〜1.0mmとなるように設定される。
【0028】
また、頂部30の膨出量Cは、図5から諒解されるように、例えば、閉塞部材16をシャフト本体12の第1孔部18a、18bに圧入する際に要する荷重Eに基づいて設定される。なお、図5は、シャフト本体12の第1孔部18a、18bに対して閉塞部材16が装着される際の荷重Eと、該閉塞部材16における頂部30の膨出量Cとの関係を示した特性曲線図である。
【0029】
すなわち、頂部30の膨出量Cは、閉塞部材16がシャフト本体12に装着される際の荷重Eが低く、しかも、装着時における前記閉塞部材16の変形量が少ない所定範囲F内となるように設定される。
【0030】
なお、上述した説明では、有底筒状の閉塞部材16を用いてシャフト本体12の両端部がそれぞれ閉塞する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、図6に示されるように、中実でブロック状に形成された閉塞部材16aを用いて閉塞するようにしてもよい。この場合も、閉塞部材16aの外周面が、半径外方向に膨出するように断面円弧状に形成され、その頂部30が第1孔部18a、18bの内周面に当接するように装着される。
【0031】
すなわち、シャフト本体12の第1孔部18a、18bに挿入された際、該第1孔部18a、18bの内周面に摺接する頂部30を外周面に備えた閉塞部材を用いるようにすればよい。
【0032】
なお、閉塞部材16が装着される第1孔部18a、18bの軸線方向(矢印A、B方向)に沿った長さ寸法Gは、閉塞部材16の軸線方向(矢印A、B方向)に沿った長さ寸法Dに対して長くなるように設定される(図2参照)。
【0033】
本発明の実施の形態に係る中空シャフト10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、シャフト本体12に対して閉塞部材16を装着する場合について説明する。
【0034】
先ず、その底壁部26がシャフト本体12側となるように閉塞部材16を把持し、前記底壁部26を第1孔部18a、18bの開口部に配置した状態で、図示しない圧入治具等を用いて前記閉塞部材16を前記第1孔部18a、18bの内部へ向かって押圧する。
【0035】
これにより、閉塞部材16が、第1孔部18a、18bに沿って底壁部26側から内部へと移動し、前記底壁部26と周壁部28との境界部位が、前記第1孔部18a、18bと第2孔部20との段差部24に当接することによって係止される。これにより、閉塞部材16は、第1孔部18a、18bにおいて軸線方向に沿った所定位置に位置決めされた状態で装着される。
【0036】
また、閉塞部材16が第1孔部18a、18bに沿って移動する際、その周壁部28に設けられた頂部30のみが前記第1孔部18a、18bの内周面に対して当接しているため、該閉塞部材16の外周面が全面的に前記内周面に摺接している場合と比較し、その接触面積を小さくすることが可能となり、それに伴って、摺動抵抗が小さくなるためわずかな押圧力(荷重E)で軸線方向に沿って圧入することができる。換言すれば、閉塞部材16は、第1孔部18a、18bに対して頂部30を介して周状で線接触している。
【0037】
これにより、閉塞部材16が、段差部24で位置決めされ、且つ、頂部30が第1孔部18a、18bの内周面に当接した状態でシャフト本体12の所定位置に装着されているため、前記シャフト本体12の空間部14と外部との連通が確実に遮断され、該空間部14の気密が確実に保持されると共に、例えば、潤滑油等が外部から前記空間部14へと浸入することも防止される。
【0038】
以上のように、本実施の形態では、中空状に形成されたシャフト本体12の第1孔部18a、18bを閉塞する閉塞部材16を設け、該閉塞部材16の外周面を、半径外方向に膨出するように断面円弧状に形成し、最も半径外方向に膨出した頂部30を形成することにより、前記閉塞部材16を前記第1孔部18a、18bに対して圧入する際、該第1孔部18a、18bに対して前記頂部30のみが摺接するため、前記第1孔部18a、18bと閉塞部材16との接触面積を低減することができる。
【0039】
その結果、閉塞部材16をシャフト本体12に対して装着する際、小さな荷重で容易に装着することができると共に、前記頂部30を確実に第1孔部18a、18bの内周面に対して当接することができるため、前記閉塞部材16によってシャフト本体12の第1孔部18a、18bを確実に封止し、その気密性を確実に確保することが可能となる。
【0040】
また、閉塞部材16をシャフト本体12の第1孔部18a、18bに圧入した際、該第1孔部18a、18bに対して小径で形成された第2孔部20との段差部24で前記閉塞部材16を係止することができるため、前記第1孔部18a、18b内における前記閉塞部材16の位置決めがなされ、簡便且つ確実に前記閉塞部材16をシャフト本体12における所定位置に装着することが可能となる。また、閉塞部材16が段差部24で確実に係止されるため、該閉塞部材16がシャフト本体12の中心部まで進入してしまうことが確実に阻止される。すなわち、シャフト本体12の段差部24は、閉塞部材16の位置決めを行う位置決め手段であり、且つ、軸線方向に沿った移動を規制するストッパとして機能するものである。
【0041】
さらに、閉塞部材16は、シャフト本体12の端部側に向かって開口するように装着され、且つ、前記シャフト本体12の端部に対して所定距離だけ内側に装着されているため、例えば、前記シャフト本体12に閉塞部材16の装着された状態で第1孔部18a、18bに面取部22を加工しようとした場合でも、切削工具Kが前記閉塞部材16と接触することがなく好適である。
【0042】
なお、本発明に係る中空シャフトは、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【符号の説明】
【0043】
10…中空シャフト 12…シャフト本体
14…空間部 16、16a…閉塞部材
18a、18b…第1孔部 20…第2孔部
22…面取部 24…段差部
26…底壁部 28…周壁部
30…頂部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に形成される空間部と、該空間部に連通し両端部の少なくとも一方に開口した孔部とを有するシャフト本体と、
前記孔部に装着され、該孔部を閉塞する閉塞部材と、
を備え、
前記閉塞部材は、前記孔部に臨む外周面が半径外方向に向かって断面円弧状に膨出して形成され、該孔部の内周面に当接することを特徴とする中空シャフト。
【請求項2】
請求項1記載の中空シャフトにおいて、
前記閉塞部材の外周面には、最も半径外方向に膨出し、前記孔部の内周面に当接する頂部が形成され、前記頂部の半径は、前記閉塞部材における外周面の最小半径に対して0.1〜1.0mmだけ大きく設定されることを特徴とする中空シャフト。
【請求項3】
請求項1又は2記載の中空シャフトにおいて、
前記閉塞部材は、開口した一端部を有する有底筒状に形成され、前記孔部内において前記一端部が前記シャフト本体の端部側となるように装着されることを特徴とする中空シャフト。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の中空シャフトにおいて、
前記シャフト本体には、前記孔部の端部に形成され、該孔部より小径に形成された空間部との境界部に段差部が形成されることを特徴とする中空シャフト。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の中空シャフトにおいて、
前記頂部は、前記閉塞部材の軸線方向に沿った略中央部に設けられることを特徴とする中空シャフト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−144817(P2011−144817A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3835(P2010−3835)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】