中空状複合体及びその製造方法
【課題】金属化合物の無機多孔質構造を有し、粒子状生体材料の外殻形状を保持している多孔質中空粒子、その製造方法及び機能性部材を提供する。
【解決手段】粒子状生体材料の表面に金属化合物を析出又は被覆して形成した中空粒子であって、該金属化合物の多孔質膜構造を有し、該生体材料の外殻形状を保持している多孔質中空粒子、その製造方法、及び機能性部材。
【効果】粒子形状及び粒子径が比較的均一に揃ったミクロンサイズの多孔質中空粒子を、簡便に、環境に優しい手法で作製し、提供することができる。この多孔質中空粒子は、その高吸着性能、高光反射性能、高摩擦機能等の特性を利用して、例えば、吸着剤、分離材、顔料、化粧料、触媒、塗料等の微粒子材料として好適に利用することができる。
【解決手段】粒子状生体材料の表面に金属化合物を析出又は被覆して形成した中空粒子であって、該金属化合物の多孔質膜構造を有し、該生体材料の外殻形状を保持している多孔質中空粒子、その製造方法、及び機能性部材。
【効果】粒子形状及び粒子径が比較的均一に揃ったミクロンサイズの多孔質中空粒子を、簡便に、環境に優しい手法で作製し、提供することができる。この多孔質中空粒子は、その高吸着性能、高光反射性能、高摩擦機能等の特性を利用して、例えば、吸着剤、分離材、顔料、化粧料、触媒、塗料等の微粒子材料として好適に利用することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空状複合体、中空状粒子、及びその製造方法に関するものであり、更に詳しくは、粒子状生体材料をテンプレートとして使用し、その表面に金属化合物を析出又は被覆して形成した、該金属化合物の多孔質膜構造を有し、該生体材料の外郭形状を保持している多孔質中空粒子、その製造方法及びその機能性部材としての用途に関するものである。本発明は、酵母粒子等の粒子状生体材料をテンプレートとして使用することにより、形状及び粒径が略均一で、粒子状生体材料の外殻形状を保持した多孔質膜構造からなる多孔質中空粒子を、簡便に、環境に優しい手法で製造し、提供するものであり、更に、本発明は、上記多孔質中空粒子の中空構造に基づいて、軽量化、内部含有物質の除放化、断熱等の特性を発揮する新しい高機能性の多孔質無機中空粒子及び機能性部材を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
中空状粒子は、同じ粒径の粒子に対して大きな比表面積を持つ特徴を有し、例えば、粒子材料の軽量化、内部包含物質の徐放化、内部空間の光学的利用、気体の低熱伝導を利用した断熱等の分野で活用されている。これらの中空状粒子として使用される多孔質無機粉末の製造方法として、先行技術文献には、例えば、発泡ポリスチレンビーズ等の樹脂粒子をテンプレートとして用い、その樹脂粒子の表面に、シリカ、アルミナ、マグネシア、ドロマイト等の無機粉末を、バインダーにより付着させて無機粉末からなる殻を形成した後、これを焼成して樹脂粒子を除去する方法(特許文献1参照)、が提案されている。
【0003】
また、他の先行技術文献には、平均粒径0.8〜100μm程度のテンプレートとなる樹脂粒子と、その粒子の1/5以下の平均粒径を有する無機粉末とを、気流中で高速攪拌して、テンプレートとなる樹脂粒子表面を無機粉末で被覆した後、樹脂粒子を焼失する方法(特許文献2参照)、高速攪拌によって、テンプレートとなる樹脂粒子表面を銅系無機粉末で被覆し、これを不活性ガス雰囲気下で焼成する方法(特許文献3参照)、樹脂エマルジョンに、金属化合物を添加し、その樹脂エマルジョンを構成する樹脂粒子の表面に金属化合物を析出もしくは沈降させた後、その樹脂粒子を分離して焼成することを特徴とする多孔質無機粉末の製造方法(特許文献4参照)、等が提案されている。
【0004】
しかしながら、上記従来の方法によれば、樹脂粒子等は水への分散性が悪く、コーティングする物質を粒子表面へ被覆する足がかりとして、予め、樹脂粒子にシラノール基を導入する等の表面改質が必要であることが指摘されている(非特許文献1参照)。また、上述の方法では、テンプレートになり得る樹脂粒子が、石油系の樹脂により構成されていることから、その焼成に関して、環境への配慮が必要となる。
【0005】
更に、粒子の形状に関して、球形、針状、紡錘状等の様々な形状の粒子が製造されている。先行技術文献には、これらのうち、例えば、皺状又は襞状の粒子の例として、インクジェット受容体媒体であるポリマー粒子及びその形成方法(特許文献5参照)、表面に皺状構造を有する球状ポリマー微粒子及びその製造方法(特許文献6参照)、フェライト粒子の表面に樹脂被膜層を形成することにより、粒子表面の結晶粒子の表面に微小な凹凸を形成した電子写真現像用フェライトキャリア(特許文献7参照)、リン酸カルシウムを含有するスチレン系重合体等の高分子粒子(特許文献8参照)、及び機械的衝撃によりシリカ粒子が澱粉皺表面に食い込むことによる澱粉の流動性改良法(特許文献9参照)、等が提案されている。しかし、これらの皺状となる材質は、いずれも樹脂や高分子に限られている。
【0006】
一方、最近では、先行技術として、バイオテンプレートとして、DNAの構造をシリカゲルに写し取り、DNAの遺伝情報を半永久的に保存する技術(非特許文献2参照)や、バクテリア(非特許文献3参照)や、染色体(非特許文献4参照)等をテンプレートとして用いてナノ構造体を作製した事例が報告されている。
【0007】
他方、本発明者らは、酵母をバイオテンプレートとして利用することに着目した。酵母は、主として、β-グルカンやα-マンナン等の糖類から構成された細胞壁を持ち(非特許文献5参照)、他の微生物、例えば、大腸菌等と比べて堅牢であり、テンプレートとして扱いやすいと考えられる。先行技術としては、例えば、酵母粒子の細胞壁成分及びその構造を利用した例として、フイルムの生分解性シート(特許文献10参照)、錠剤等のフィルムコーティング剤(特許文献11参照)が作製されており、他の事例として、例えば、環境浄化を目的とした水銀の吸着による除去(特許文献12参照)、及び塩基性染料の吸着による除去(特許文献13参照)、等が試みられている。しかし、これらは酵母に何かを組み合わせて効果を発揮させるものではないし、酵母をテンプレートして材料を作製した例でもない。
【0008】
更に、先行技術としては、例えば、酵母を主体とする生体物質と金属酸化物等の無機材料を組み合わせた事例として、たばこの葉に、金属酸化物又は金属を酵母菌体表面に担持した金属触媒を混合した喫煙用組成物(特許文献14参照)、熱可塑性合成樹脂の不織布の表面に金属酸化物、金属水酸化物、及び金属塩類を配合した親水性合成樹脂層を設けた微生物繁殖調節用資材(特許文献15参照)、等が提案されている。しかし、前者においては、パン酵母直径5μmに対して、金属担持量12.5%で、その厚みが31μmであることから、パン酵母が金属酸化物の凝集体に取り込まれた状態であり、均一性に劣ると考えられる。また、後者においては、ポリビニルアルコール等の親水性合成樹脂に金属化合物を配合していることから、酵母粒子に金属化合物を積極的に接触させるというものではないと考えられる。
【0009】
【特許文献1】特開平2−277544号公報
【特許文献2】特開平5−138009号公報
【特許文献3】特開平6−39273号公報
【特許文献4】特開2003−54916号公報
【特許文献5】特開2004−106517号公報
【特許文献6】特開平11−140139号公報
【特許文献7】特開平10−104884号公報
【特許文献8】特公平6−37525号公報
【特許文献9】特開平4−168101号公報
【特許文献10】特開2002−97301号公報
【特許文献11】特開2002−249714号公報
【特許文献12】特開昭50−051988号公報
【特許文献13】特開昭49−021950号公報
【特許文献14】特開昭51−54996号公報
【特許文献15】特開2000−45166号公報
【0010】
【非特許文献1】Ding, X., K. Yu, Y. Jiang, H. Bala, H. Zhang and Z. Wang : “A Novel Approach to the Synthesis of Hollow Silica Nanoparticles”, Materials Letters , 58, 3618-3621 (2004)
【非特許文献2】Numata, M., K. Sugiyasu, T. Hasegawa and S. Shinkai : “Sol-Gel Reaction Using DNA as a Template: An Attempt Toward Transcription of DNA into Inorganic Materials”, Angew. Chem. Int. Ed., 43, 3279-3283 (2004)
【非特許文献3】Davis, S. A., S. L. Burkett, N. H. Mendelson and S. Mann: “Bacterial Templating of Ordered Macrostructures in Silica and Silica-Surfactant Mesophases”, Nature, 385, 420-423 (1997)
【非特許文献4】Sugiyasu, K., S. Tamaru, M. Takeuchi, D. Berthier, I. Huc, R. Oda and S. Shinkai : “Double Helical Silica Fibrils by Sol-Gel Transcription of Chiral Aggregates of Gemini Surfactants”, Chem. Commun , 1212 - 1213 (2002)
【非特許文献5】相田浩ら著: “新版応用微生物学I”, p.85, 朝倉書店 (1981)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、バイオテンプレートを利用した新しい中空状粒子を開発することを目標にして鋭意研究を進める中で、このようなバイオテンプレート技術の一つとして、酵母による中空粒子の作製に着目した。酵母は古くからパン製造における発酵過程で利用されるなど、工業的に大規模に利用されており、入手が容易で、しかも安価であり、大きさとしても数ミクロン程度と中空粒子としての利用に適当なものである。酵母は、生きている状態で水分70%を含み、アルコキシド等の加水分解に必要な水分を内包したマイクロカプセルと考えることも可能であり、また、他の微生物、例えば、大腸菌等と比べて堅牢であり、テンプレートとして扱いやすい。更に、その表面は親水性であり、ポリスチレンラテックスのような付加的な親水化処理を必要としない。
【0012】
本発明者らは、酵母粒子等の粒子状生体材料の表面を金属化合物により被覆した構造の複合粒子を作製し、その粒子を焼成することにより、粒子状生体材料の形状の模倣性の高い中空粒子及び多くの皺を有する中空壁を持った中空粒子又はその一部等からなる新規な形状を有する多孔質中空粒子の作製に成功し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、酵母粒子等に金属化合物を添加し、酵母粒子等の表面に金属化合物を析出又は被覆して作製した、金属化合物を析出又は被覆した酵母粒子複合体、その処理粒子を焼成、除去した中空粒子、皺を多く有する中空粒子、及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【0013】
また、本発明は、粒子形状、及び粒子径が比較的揃ったミクロンサイズの多孔質中空粒子を提供することを目的とするものである。また、本発明は、加熱処理する雰囲気を、不活性又は還元性とすることにより、テンプレートの形状との模倣性が高い中空粒子を作製し、あるいは雰囲気を酸化性とすることにより、多くの襞又は皺を有する中空粒子を作製することを可能とする中空粒子の製造方法を提供することを目的とするものである。また、本発明は、中空粒子の中空壁に関して、その合成条件、種類、乾燥・焼成条件等によって、その表面の化学的特性や細孔構造、更に、結晶構造を制御した中空粒子及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【0014】
また、本発明は、粒子状生体材料と金属化合物からなる複合体において、その生体材料を残留させることにより、内部に生体親和性のある生体材料を有する複合体を作製し、提供することを目的とするものである。更に、本発明は、例えば、フィルター、環境浄化材料、断熱材、触媒、化粧料、塗料等に使用される粒子材料として好適なミクロンサイズの多孔質中空粒子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)粒子状生体材料の表面に金属化合物を析出又は被覆して形成した中空状粒子であって、該金属化合物の多孔質膜構造を有し、該生体材料の外殻形状を保持していることを特徴とする多孔質中空粒子。
(2)粒子状生体材料が、酵母、でんぷん、クロレラ(藻類)、乳酸菌、胞子、又は花粉である(1)に記載の多孔質中空粒子。
(3)金属化合物が、金属、金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物、又はそれらの複合物である(1)に記載の多孔質中空粒子。
(4)金属化合物の金属成分が、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、亜鉛、イットリウム、ハフニウム、スズ、アンチモン、又はケイ素である(3)に記載の多孔質中空粒子。
(5)粒子状生体材料と多孔質中空粒子との複合体からなる(1)に記載の多孔質中空粒子。
(6)粒子状生体材料を含まない中空粒子からなる(1)に記載の多孔質中空粒子。
(7)中空粒子が、皺状又は襞状の中空壁を有している(6)に記載の多孔質中空粒子。
(8)中空粒子が、粒状生体材料との模倣性が高い外殻形状を有している(6)に記載の多孔質中空粒子。
(9)粒子状生体材料をテンプレートとして、該生体材料の表面に金属化合物を析出又は被覆して、該生体材料と該金属化合物の多孔質構造を有し、該生体材料の外殻形状を保持している粒子状生体材料と多孔質中空粒子との複合体を作製し、次いで、任意に、これを加熱処理することにより、上記生体材料を含まない中空粒子を作製することを特徴とする多孔質中空粒子の製造方法。
(10)粒子状生体材料が、酵母、でんぷん、クロレラ(藻類)、乳酸菌、胞子、又は花粉である(9)に記載の多孔質中空粒子の製造方法。
(11) 金属化合物が、金属、金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物、又はそれらの複合物である(9)に記載の多孔質中空粒子の製造方法。
(12)金属化合物の金属成分が、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、亜鉛、イットリウム、ハフニウム、スズ、アンチモン、又はケイ素である(11)に記載の多孔質中空粒子の製造方法。
(13)複合体を酸化雰囲気中で加熱処理することにより、皺状又は襞状の中空壁を有する中空粒子を作製する(9)に記載の多孔質中空粒子の製造方法。
(14)複合体を還元雰囲気又は不活性雰囲気中で加熱処理することにより、生体材料との模倣性が高い外殻形状を有する中空粒子を作製する(9)に記載の多孔質中空粒子の製造方法。
(15)(1)から(8)のいずれかに記載の多孔質中空粒子を構成要素とすることを特徴とする高吸着性能を有する機能性部材。
(16)部材が、フィルター、環境浄化材料、断熱材、触媒、化粧料、又は塗料である(15)に記載の機能性部材。
【0016】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、粒子状生体材料の表面に金属化合物を析出又は被覆して形成した中空粒子であって、該金属化合物の多孔質膜構造を有し、該生体材料の外殻形状を保持している多孔質中空粒子の点、粒子状生体材料をテンプレートとして、該生体材料の表面に金属化合物を析出又は被覆して、該生体材料と該金属化合物の多孔質構造を有し、該生体材料の外殻形状を保持している粒子状生体材料と多孔質中空粒子との複合体を作製し、次いで、任意に、これを加熱処理することにより、上記生体材料を含まない中空粒子を作製する点、に特徴を有するものである。
【0017】
本発明において、テンプレートとして使用される粒子状生体材料としては、好ましくは、0.2〜40μmの平均粒径を有する生体材料であり、例えば、酵母、でんぷん、クロレラ(藻類)、乳酸菌、胞子、花粉等が例示される。酵母としては、分類学上酵母に属するものであればどのような酵母を用いてもよく、例えば、ビール酵母、ワイン酵母、パン酵母、トルラ酵母等を挙げることができ、より具体的には、サッカロマイセス属のサッカロマイセス・セレビッシェ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・ルーキシ(Saccharomyces rouxii)、サッカロマイセス・カールスバーゲンシス(Saccharomyces carlsbergensis)、キャンディダ・ウティリス(Candida utilis)、キャンディダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、キャンディダ・リポリティカ(Candida lipolytica)、キャンディダ・フレーベリ(Candida flaveri)等を例示することができる。酵母としては、生酵母を用いることが好ましいが、乾燥酵母等の生酵母以外の形態の酵母を用いる場合であっても、例えば、水中等に懸濁して生酵母同様に処理することもできる。
【0018】
また、本発明では、酵母粒子と同等ないし類似の性能を発揮するものとして、好適には、例えば、トウモロコシでんぷん(平均粒径2〜30μm)、小麦でんぷん(平均粒径2〜40μm)、米でんぷん(平均粒径2〜5μm)、豆でんぷん(平均粒径25〜40μm)、いもでんぷん(平均粒径2〜80μm)、及び、単細胞緑藻であり、平均粒径が2〜12μmの球形又は楕円体の微粒子であるクロレラ(藻類)が例示される。これらの粒子状生体材料は、1種を単独で使用することができ、あるいは必要に応じて2種以上を併用して使用することができる。使用する生体材料の形状や大きさに特に制限はないが、形状としては、なるべく球形に近い形状のものが好ましく、また、その大きさは、例えば、0.2〜40μmが好ましく、1〜5μmの範囲のものが更に好ましい。
【0019】
本発明において、金属化合物とは、金属、金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物、又はそれらの複合物を意味するものであり、その結晶性については特に制限はなく、アモルファス状ないし結晶状の何れのものでもよい。また、被覆する金属化合物に特に制限はないが、例えば、亜鉛、イットリウム、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、スズ、アンチモン、ケイ素から選ばれる1種又は2種以上の金属化合物が好ましい。具体的には、例えば、水酸化物、酸化物としては、酸化亜鉛、酸化イットリウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化ハフニウム、酸化スズ、酸化アンチモン、シリカ等を挙げることができる。これらの中でも、特に酸化物が好ましい。酸化物からなる多孔質構造は、例えば、無機金属塩、有機金属塩、金属アルコキシド等の加水分解反応、熱分解反応等により形成することができる。また、これらの金属化合物は、1種を単独で、又は必要に応じて2種以上を併用して使用することができる。
【0020】
金属化合物の使用量は特に制限されず、酵母粒子等の生体材料の種類や粒径、金属化合物自体の種類、得ようとする中空粒子の用途等の各種条件に応じて適宜選択できるが、通常、酵母粒子100重量部に対して、1〜100重量部、好ましくは5〜50重量部とすればよい。生体材料の被覆表面積としては、材料表面の1〜100%、好ましくは、80〜100%を金属化合物で被覆するのがよい。金属化合物又はその溶液若しくは分散液を生体材料に添加するに際しては、その酵母粒子等の生体材料を15〜95℃程度に加温してもよく、又は加温しなくてもよい。
【0021】
次に、酵母粒子をテンプレートとして使用し、金属化合物としてアルコキシドを使用した事例に基づいて本発明を説明するが、他の生体材料及び金属化合物を使用しても以下に記載の事例と同様にして、本発明の多孔質中空粒子を作製することができることは言うまでもなく、本発明は、下記の方法に限定されるものではない。
【0022】
本発明の中空粒子の製造方法の一例を説明すると、まず、金属アルコキシドのアルコール溶液に、安定化剤であるトリエタノールアミンを混合し、室温で撹拌する。この溶液を、酵母粒子を水に分散させた分散液と混合し、長時間撹拌することにより、酵母粒子表面にアルコキシドの加水分解物を析出させて、被覆処理した酵母粒子を得る。被覆処理した酵母粒子を洗浄し、乾燥した後、500〜1200℃で熱処理することにより、析出した加水分解物の結晶化を進めるとともに、有機物を分解して中空粒子とする。これらの一連の工程により本発明の中空粒子が製造される。
【0023】
本発明においては、上述のように、酵母粒子を分散させた溶液中に、原料の反応性を制御して、金属化合物の原料を加えることにより金属化合物を前記酵母粒子表面に析出させる。例えば、テトラエトキシシランのように反応速度が遅い原料に関しては、溶液にアンモニア等の触媒を添加し、逆に、反応速度が速いチタンイソプロポキシド等の原料の場合には、トリエタノールアミン(TEA)のような安定化剤を予めチタンイソプロポキシドと化合させ、混合して析出させる。
【0024】
このように、本発明では、安定化剤を用いて反応液の反応性を制御することができる。ジルコニウムブトキシド(ZNA)の反応性について、TEA/ZNB比(モル比)の関係を検討したところ、TEA/ZNB比が、0.4の場合は、混合溶液に水を加えると、すぐに沈殿が生成するため、コーティングには不適当である。また、TEA/ZNB比を0.6とすると、薄く白濁した状態となって沈殿はあまり見られず、0.8以上の場合には透明で安定な溶液を得ることが可能である。過度に安定な溶液は、加水分解反応には不適当であるので、TEA/ZNB比は、0.6〜1の範囲が適当である。
【0025】
また、金属化合物の反応速度の調整は、溶液の種類を変えることによっても行うことができる。溶液としては、例えば、水、アルコール類、エーテル類、及びこれらの混合物等が用いられる。アルコキシドを原料として使用する場合に、溶液にエタノールのようなアルコール交換反応が生じる場合には、反応が遅くなることが知られている。そのため、溶液にエタノールとヘキサンのような疎水性有機溶液を用いることにより酵母粒子表面に均一に金属化合物を析出することが可能となる(特開平4―45835号公報参照)。
【0026】
本発明においては、金属化合物で表面を被覆された酵母粒子を、濾過、遠心分離等の一般的な方法で反応混合物中から分離し、必要に応じて乾燥させた後、焼成し、酵母粒子を燃焼又は熱分解することにより、無機中空粒子を製造することができる。
【0027】
焼成温度は、金属化合物を被覆した酵母粒子の内部にある酵母粒子を焼失させる場合には、図1の熱分析結果に示すように、酵母粒子が熱分解及び燃焼し得る温度であれば特に制限されないが、酵母粒子をほぼ完全に熱分解するとともに、無機物質の結晶構造の選択と粒成長を抑制するために、焼成温度を、通常、500〜1200℃、特に好ましくは600〜800℃とするのがよい。焼成時間は、通常、0.5〜10時間とするのがよい。また、酵母粒子を残し、金属化合物の結晶構造の選択のみの場合には、通常、焼成温度200〜800℃、特に300〜500℃が好ましく、焼成時間は、通常、0.5〜10時間とするのがよい。
【0028】
酵母粒子表面に被覆した金属化合物の熱処理条件を制御することにより、金属化合物の結晶性を制御することが可能である。例えば、酵母粒子表面に被覆したジルコニア加水分解物を熱処理すると、熱処理前のアモルファス状態から、500℃付近で結晶化が始まり、700℃ではほぼ正方晶への結晶化が完結し、更に、1000℃では単斜晶への転移が進行し、正方晶と単斜晶が共存する結晶状態となる。これらの温度を調整することにより、結晶性を制御することができる(図5参照)。
【0029】
また、酸化雰囲気中での熱処理において、熱処理温度が、500℃、更に1000℃へと高温になるに従って、中空粒子が次第に収縮して、熱処理前では2〜4μmであったものが、熱処理後には1〜2μmとなる。このとき、熱処理前には比較的滑らかな表面を持つ楕円ないし円形の粒子形態(図3参照)であったものが、熱処理後には、萎んだ形に変形する(図6参照)。このような粒子の形態の変化は、ジルコニウム中空粒子を機能性粒子として活用するのに好ましいものである。一方、コーティング処理粒子を、窒素中で、例えば、1000℃で熱処理しても、粒子としての収縮は少なく、元のままの形状を維持した中空粒子を得ることが可能である(図13参照)。
【0030】
焼成の際の雰囲気は特に制限されず、例えば、空気等の酸化性雰囲気、水素ガス、一酸化炭素ガス、アンモニアガス等の還元性雰囲気、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等の不活性雰囲気等を挙げることができる。酸化性雰囲気中で焼成を行うと、酵母粒子が焼失し、無機中空粉末が得られる。還元性雰囲気又は不活性雰囲気中で焼成を行うと、酵母粒子と金属化合物との複合中空粒子が得られる。
【0031】
本発明では、中空粒子の膜厚を制御することができる。TEA/ZNB=1の条件でジルコニア膜の析出時間を変化させても、析出時間による膜厚制御は困難である。TEA/ZNB比を変化させて中空粒子を作製し、その破面を観察したところ、TEA/ZNB比が1のとき膜厚は0.1μm(図11参照)であるのに対し、同比を0.6とすることにより膜厚が0.3μm(図12参照)となり、TEA/ZNB比により膜厚制御が可能であることが明らかとなった。
【0032】
本発明は、中空粒子を作製する際に、原料化合物、安定剤、溶媒等の選定により反応性を調整することにより、従来、達成することができなかった、均一な外殻構造の形成、外殻膜厚の制御等が可能となり、また、焼成温度、及び焼成雰囲気を調整することにより、中空粒子の結晶性、及び外殻構造の表面形状等を制御することが可能となる。また、このように特性が任意に制御されたミクロンサイズの中空粒子は、様々な技術分野において有用な高機能性材料として使用することが可能である。
【発明の効果】
【0033】
本発明により、(1)二次凝集が少なく、非常に分散性に優れている多孔質無機中空粒子を簡便に作製し、提供することができる、(2)原料の添加、処理条件により中空粒子の外殻の厚さ、外殻の表面構造、細孔構造、及び結晶構造を制御することができる、(3)焼成に際して雰囲気を制御することにより、テンプレートの形状との模倣性が高い中空粒子や、多くの襞又は皺を有する中空粒子を作製することができる、(4)皺又は襞を持つ中空粒子は、単位体積当たりの面積が大きいことから吸着力が大きい材料として、また、粉末表面に凹凸があることから摩擦係数が大きい材料として、更に、凹凸により反射が球体よりも多いことから反射効率が良い材料としての利用が可能である、(5)酵母粒子等を残留させることにより、内部に親和性のある酵母粒子等を有する金属化合物との複合体を作製することができる、(6)中空粒子は、例えば、化粧料、触媒、塗料、断熱材、生体材料等を構成する機能性微粒子材料として利用することができる、(7)酵母粒子等の生体材料を消失させない複合体は、生体材料の持つ特徴、例えば、イオン又は気体の吸着能を有する微粒子材料として好適に利用することができる、という効果が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
本実施例では、ジルコニアの中空粒子を作製した。酵母には、パン酵母(Saccharomyces cerevisiae)を生イーストとして入手し、数回、蒸留水で攪拌洗浄した後にテンプレートとして使用した。ジルコニアの原料としては、85%ジルコニウム(IV)ブトキシド1−ブタノール溶液を用いた。また、ジルコニウム溶液の安定化剤として、トリエタノールアミン(TEAと略称)を用いた。中空粒子の作製手順は次のように行った。まず、85%ジルコニウム(IV)ブトキシド1−ブタノール溶液[ジルコニウム(IV)ブトキシド(ZNBと略称)0.02mol]とTEAを所定の割合で混合し、12時間室温で攪拌した。その後、水50ml加えて攪拌を続けた。一方、酵母5gを水150mlに加えて分散させた。これらの二つの溶液を混合し、60時間攪拌して酵母表面にアルコキシド加水分解物を析出させることにより、コーティング処理酵母であるジルコニウム生成物を被覆した酵母粒子を得た。生成物のコーティング処理酵母は、エタノール及び水で洗浄して室温で乾燥した。
【0036】
酵母粒子(a)、ジルコニウム生成物を被覆した酵母粒子(b)、及びジルコニウム生成物のみ(c)の熱重量分析結果を図1に、及びそれらの示差熱分析結果を図2に示す。図1の結果は、200℃までの脱水過程と、それ以降の有機物の燃焼過程やジルコニアの結晶化過程に対応する高温域、との2つに分けられること、ジルコニア加水分解物に含まれる水分や表面水酸基が酵母内の水分より蒸散しにくいこと、を示している。また、図2の結果より、酵母で480℃付近であったピークが510℃に移動するなど、コーティング膜の存在により熱分解反応がおおよそ30℃程度高温域に移動していることが認められ、その結果、中空粒子として酵母由来の成分を消失させるためには、550〜600℃程度までの熱処理が必要であることが分かる。
【0037】
また、図3に、ジルコニウム生成物を被覆した酵母粒子の走査電子顕微鏡写真を示す。図3は、コーティングを行った酵母粒子の粒径は2から5μmであり、酵母粒子の外殻外形を維持した楕円形をしており、特徴的な出芽痕も確認でき、良好なコーティングがなされていることを示している。写真右下に認められる1ミクロン以下の粒子は、ジルコニア凝集物による粒子と考えられるが、その存在量は少なかった。図4に、700℃で熱処理したジルコニア中空粒子の走査電子顕微鏡写真を示す。更に、図5に、ジルコニウム生成物を被覆した酵母粒子の熱処理条件(500℃、700℃、1000℃)ごとのX線回折パターンを示す。熱処理前のアモルファス状態から、500℃付近で結晶化が始まり、700℃で正方晶への結晶化が完結し、更に、1000℃では単斜晶への転移が進行した。
【実施例2】
【0038】
本実施例では、チタニア中空粒子を作製した。酵母には、パン酵母(Saccharomyces cerevisiae)を生イーストとして入手し、数回、蒸留水で攪拌洗浄した後にテンプレートとして使用した。チタニアの原料としては、チタンイソプロポキシドを用いた。また、チタンイソプロポキシド溶液の安定化剤として、トリエタノールアミンを用いた。チタンイソプロポキシド0.02molとTEAを所定の割合で混合し、12時間室温で攪拌した。その後、水を50ml加えて攪拌を続けた。一方、酵母5gを水150mlに加えて分散させた。これらの二つの溶液を混合し、60時間攪拌して酵母表面にアルコキシド加水分解物を析出させることにより、コーティング処理酵母を得た。生成物のコーティング処理酵母は、エタノール及び水で洗浄して室温で乾燥した。更に、500℃から1000℃の所定温度で熱処理を行うことにより、チタニアの結晶化を進めるとともに、有機物を熱分解し、中空粒子化した。その中空粒子は、襞状の壁を有していた。図6に、チタニア中空粒子の走査電子顕微鏡写真を示し、図7に、チタニウム生成物を被覆した酵母粒子のX線回折パターンを示す。更に、図8に、チタニア中空粒子の中空壁の透過電子顕微鏡写真を示す。中空壁は、数ナノメートルのアナターゼ微粒子から構成され、その粒子が密に結合していた。
【実施例3】
【0039】
本実施例では、シリカ中空粒子を作製した。酵母には、パン酵母(Saccharomyces cerevisiae)を生イーストとして入手し、数回、蒸留水で攪拌洗浄した後にテンプレートとして使用した。シリカの原料としては、ケイ酸エチル5mlを用いた。一方、酵母3gを水4g及びエタノール1mlと混合した。これらの二つの溶液を混合し、更に、反応促進剤として、アンモニア0.5mlを加え、60時間攪拌して酵母表面にアルコキシド加水分解物を析出させることにより、コーティング処理酵母を得た。更に、500℃から1000℃の所定温度で熱処理を行うことにより、有機物を熱分解し、中空粒子化した。図9に、ケイ素生成物を被覆した酵母粒子の走査電子顕微鏡写真を示す。
【実施例4】
【0040】
本実施例では、パン酵母(Saccharomyces cerevisiae)の生イーストに変えて、乾燥したビール酵母(S-23 Dried Lager Yeast ; DCL Yeast LTD製、英国)をテンプレートとして使用し、ジルコニアの中空粒子を作製した。ジルコニアの原料としては、85%ジルコニウム(IV)ブトキシド1−ブタノール溶液を用いた。また、ジルコニウム溶液の安定化剤として、TEAを用いた。85%ジルコニウム(IV)ブトキシド1−ブタノール溶液[ZNB0.02mol]とTEAを所定の割合で混合し、12時間室温で攪拌した。その後、水を50ml加えて攪拌を続けた。一方、酵母5gを水150mlに加えて分散させた。これらの二つの溶液を混合し、60時間攪拌して酵母表面にアルコキシド加水分解物を析出させることにより、コーティング処理酵母を得た。更に、コーティング処理酵母を600℃で熱処理することにより、ジルコニアの中空粒子を得た。図10に、ジルコニウム生成物を被覆した酵母粒子の走査電子顕微鏡写真を示す。
【実施例5】
【0041】
本実施例では、中空粒子の膜厚の膜厚制御を目的として、TEA/ZNB比を変えて被覆を行った。酵母には、パン酵母(Saccharomyces cerevisiae)を生イーストとして入手し、数回、蒸留水で攪拌洗浄した後にテンプレートとして使用した。ジルコニアの原料としては、85%ジルコニウム(IV)ブトキシド1-ブタノール溶液を用いた。また、ジルコニウム溶液の安定化剤として、トリエタノールアミン(TEAと略称)を用いた。各種のTEA/ZNB比で中空粒子を作製し、その破面を観察した。図11及び図12に示すように、TEA/ZNB比が1の場合には膜厚は0.1μmであるのに対して、TEA/ZNB比を0.6とすることにより膜厚は0.3μmに増加していることから、本法により膜厚制御が可能であることが分かった。
【実施例6】
【0042】
本実施例では、焼成雰囲気を大気中に変えて、窒素雰囲気中で行った。実施例1と同じように作製したジルコニウム化合物を被覆した酵母粒子を1000℃、窒素中で熱処理すると、図13に示すように、粒子としての収縮も少なく、また、元のままの形状を維持した中空粒子を得ることが分かった。
【実施例7】
【0043】
本実施例では、溶液を水に変えて、エタノール中でジルコニウムの化合物を酵母粒子表面に被覆し、酵母粒子を焼失させることにより、ジルコニアの中空粒子を作製した。酵母には、パン酵母(Saccharomyces cerevisiae)を生イーストとして入手し、数回、蒸留水及びエタノールで攪拌洗浄した後にテンプレートとして使用した。ジルコニアの原料として、85%ジルコニウム(IV)ブトキシド1−ブタノール溶液を用いた。中空粒子の作製手順は次のように行った。まず、85%ジルコニウム(IV)ブトキシド1−ブタノール溶液[ジルコニウム(IV)ブトキシド(ZNBと略称)0.02mol]をエタノール50mlで希釈し、1時間室温で攪拌した。一方、酵母5gをエタノール150mlに加えて分散させた。これらの二つの溶液を混合し、60時間攪拌して酵母表面にアルコキシド加水分解物を析出させることにより、コーティング処理酵母を得た。図14に、そのコーティング処理粒子であるジルコニウム生成物を被覆した酵母粒子の走査電子顕微鏡写真を示す。このコーティング処理酵母は、各々の粒子が凝集しているが、酵母表面にはジルコニウム生成物が被覆されていた。また、その中空壁の構造は、粒子間に細孔ができ、比較的疎な状態であった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上詳述したように、本発明は、金属化合物からなる外殻構造を有する多孔質無機中空粒子、その製造方法及び機能性部材に係るものであり、本発明により、粒子状生体材料をテンプレートとして使用することにより、環境に優しい手法で、粒子形状、及び粒子径が比較的均一に揃った、多孔質で中空状の粒子を簡便に作製し、提供することができる。本発明において、新規な皺を持つ中空粉末は、通常の中空粉末よりも単位体積当りの面積が大きいことから、吸着などの効果が大きい。また、その形状的な面からも粉末表面に凹凸があることから、摩擦係数が大きい粉体として使用することができる。更に、光学的な面からもその皺により球体よりも反射効率の高い粉体として使用することができる。また、本発明において、酵母粒子等の生体材料からなるテンプレートを消失していない複合体は、酵母粒子等の生体材料の持つ、例えば、イオン又は気体の吸着能等の特徴と、多孔質の外殻構造の持つ特徴を組み合わせた高機能性を有する新しい複合材料として利用することが可能である。本発明の多孔質中空粒子は、例えば、吸着剤、イオン交換材、分離材、有害物質処理材、電極材料、誘電体材料、顔料や化粧料、触媒、塗料、断熱材、環境浄化部材等の分野において、高機能性を有する微粒子材料として好適に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】酵母粒子(a)、実施例1で作製したジルコニウム生成物を被覆した酵母粒子(b)、及びジルコニウム生成物(c)の熱重量分析結果を示す。
【図2】酵母粒子(a)、実施例1で作製したジルコニウム生成物を被覆した酵母粒子(b)、及びジルコニウム生成物(c)の示差熱分析結果を示す。
【図3】実施例1で作製したジルコニウム生成物を被覆した酵母粒子の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図4】実施例1で700℃で熱処理して作製したジルコニア中空粒子の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図5】実施例1で作製したジルコニウム生成物を被覆した酵母粒子の熱処理条件(熱処理前、500℃、700℃、1000℃)ごとのX線回折パターンを示す。
【図6】実施例2で作製した皺状形状を有するチタニア中空粒子の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図7】実施例2で作製したチタニウム生成物を被覆した酵母粒子の熱処理条件(熱処理前、500℃、700℃、1000℃)ごとのX線回折パターンを示す。
【図8】実施例2で作製したチタニア中空粒子の中空壁の透過電子顕微鏡写真を示す。
【図9】実施例3で作製したケイ素生成物を被覆した酵母粒子の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図10】実施例4で作製したジルコニウム生成物を被覆したジルコニア中空粒子の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図11】実施例5で作製した膜厚0.1μmのジルコニア中空粒子断面の走査電子顕微鏡写真を示す。(ジルコニウム(IV)ブトキシドとトリエタノールアミンの比が1対1)
【図12】実施例5で作製した、膜厚0.3μmのジルコニア中空粒子断面の走査電子顕微鏡写真を示す。(ジルコニウム(IV)ブトキシドとトリエタノールアミンの比が1対0.6)
【図13】実施例6で、1000℃、窒素雰囲気中で熱処理して作製したジルコニア中空粒子の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図14】実施例7で、エタノール中で作製したジルコニウム生成物を被覆した酵母粒子の走査電子顕微鏡写真を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空状複合体、中空状粒子、及びその製造方法に関するものであり、更に詳しくは、粒子状生体材料をテンプレートとして使用し、その表面に金属化合物を析出又は被覆して形成した、該金属化合物の多孔質膜構造を有し、該生体材料の外郭形状を保持している多孔質中空粒子、その製造方法及びその機能性部材としての用途に関するものである。本発明は、酵母粒子等の粒子状生体材料をテンプレートとして使用することにより、形状及び粒径が略均一で、粒子状生体材料の外殻形状を保持した多孔質膜構造からなる多孔質中空粒子を、簡便に、環境に優しい手法で製造し、提供するものであり、更に、本発明は、上記多孔質中空粒子の中空構造に基づいて、軽量化、内部含有物質の除放化、断熱等の特性を発揮する新しい高機能性の多孔質無機中空粒子及び機能性部材を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
中空状粒子は、同じ粒径の粒子に対して大きな比表面積を持つ特徴を有し、例えば、粒子材料の軽量化、内部包含物質の徐放化、内部空間の光学的利用、気体の低熱伝導を利用した断熱等の分野で活用されている。これらの中空状粒子として使用される多孔質無機粉末の製造方法として、先行技術文献には、例えば、発泡ポリスチレンビーズ等の樹脂粒子をテンプレートとして用い、その樹脂粒子の表面に、シリカ、アルミナ、マグネシア、ドロマイト等の無機粉末を、バインダーにより付着させて無機粉末からなる殻を形成した後、これを焼成して樹脂粒子を除去する方法(特許文献1参照)、が提案されている。
【0003】
また、他の先行技術文献には、平均粒径0.8〜100μm程度のテンプレートとなる樹脂粒子と、その粒子の1/5以下の平均粒径を有する無機粉末とを、気流中で高速攪拌して、テンプレートとなる樹脂粒子表面を無機粉末で被覆した後、樹脂粒子を焼失する方法(特許文献2参照)、高速攪拌によって、テンプレートとなる樹脂粒子表面を銅系無機粉末で被覆し、これを不活性ガス雰囲気下で焼成する方法(特許文献3参照)、樹脂エマルジョンに、金属化合物を添加し、その樹脂エマルジョンを構成する樹脂粒子の表面に金属化合物を析出もしくは沈降させた後、その樹脂粒子を分離して焼成することを特徴とする多孔質無機粉末の製造方法(特許文献4参照)、等が提案されている。
【0004】
しかしながら、上記従来の方法によれば、樹脂粒子等は水への分散性が悪く、コーティングする物質を粒子表面へ被覆する足がかりとして、予め、樹脂粒子にシラノール基を導入する等の表面改質が必要であることが指摘されている(非特許文献1参照)。また、上述の方法では、テンプレートになり得る樹脂粒子が、石油系の樹脂により構成されていることから、その焼成に関して、環境への配慮が必要となる。
【0005】
更に、粒子の形状に関して、球形、針状、紡錘状等の様々な形状の粒子が製造されている。先行技術文献には、これらのうち、例えば、皺状又は襞状の粒子の例として、インクジェット受容体媒体であるポリマー粒子及びその形成方法(特許文献5参照)、表面に皺状構造を有する球状ポリマー微粒子及びその製造方法(特許文献6参照)、フェライト粒子の表面に樹脂被膜層を形成することにより、粒子表面の結晶粒子の表面に微小な凹凸を形成した電子写真現像用フェライトキャリア(特許文献7参照)、リン酸カルシウムを含有するスチレン系重合体等の高分子粒子(特許文献8参照)、及び機械的衝撃によりシリカ粒子が澱粉皺表面に食い込むことによる澱粉の流動性改良法(特許文献9参照)、等が提案されている。しかし、これらの皺状となる材質は、いずれも樹脂や高分子に限られている。
【0006】
一方、最近では、先行技術として、バイオテンプレートとして、DNAの構造をシリカゲルに写し取り、DNAの遺伝情報を半永久的に保存する技術(非特許文献2参照)や、バクテリア(非特許文献3参照)や、染色体(非特許文献4参照)等をテンプレートとして用いてナノ構造体を作製した事例が報告されている。
【0007】
他方、本発明者らは、酵母をバイオテンプレートとして利用することに着目した。酵母は、主として、β-グルカンやα-マンナン等の糖類から構成された細胞壁を持ち(非特許文献5参照)、他の微生物、例えば、大腸菌等と比べて堅牢であり、テンプレートとして扱いやすいと考えられる。先行技術としては、例えば、酵母粒子の細胞壁成分及びその構造を利用した例として、フイルムの生分解性シート(特許文献10参照)、錠剤等のフィルムコーティング剤(特許文献11参照)が作製されており、他の事例として、例えば、環境浄化を目的とした水銀の吸着による除去(特許文献12参照)、及び塩基性染料の吸着による除去(特許文献13参照)、等が試みられている。しかし、これらは酵母に何かを組み合わせて効果を発揮させるものではないし、酵母をテンプレートして材料を作製した例でもない。
【0008】
更に、先行技術としては、例えば、酵母を主体とする生体物質と金属酸化物等の無機材料を組み合わせた事例として、たばこの葉に、金属酸化物又は金属を酵母菌体表面に担持した金属触媒を混合した喫煙用組成物(特許文献14参照)、熱可塑性合成樹脂の不織布の表面に金属酸化物、金属水酸化物、及び金属塩類を配合した親水性合成樹脂層を設けた微生物繁殖調節用資材(特許文献15参照)、等が提案されている。しかし、前者においては、パン酵母直径5μmに対して、金属担持量12.5%で、その厚みが31μmであることから、パン酵母が金属酸化物の凝集体に取り込まれた状態であり、均一性に劣ると考えられる。また、後者においては、ポリビニルアルコール等の親水性合成樹脂に金属化合物を配合していることから、酵母粒子に金属化合物を積極的に接触させるというものではないと考えられる。
【0009】
【特許文献1】特開平2−277544号公報
【特許文献2】特開平5−138009号公報
【特許文献3】特開平6−39273号公報
【特許文献4】特開2003−54916号公報
【特許文献5】特開2004−106517号公報
【特許文献6】特開平11−140139号公報
【特許文献7】特開平10−104884号公報
【特許文献8】特公平6−37525号公報
【特許文献9】特開平4−168101号公報
【特許文献10】特開2002−97301号公報
【特許文献11】特開2002−249714号公報
【特許文献12】特開昭50−051988号公報
【特許文献13】特開昭49−021950号公報
【特許文献14】特開昭51−54996号公報
【特許文献15】特開2000−45166号公報
【0010】
【非特許文献1】Ding, X., K. Yu, Y. Jiang, H. Bala, H. Zhang and Z. Wang : “A Novel Approach to the Synthesis of Hollow Silica Nanoparticles”, Materials Letters , 58, 3618-3621 (2004)
【非特許文献2】Numata, M., K. Sugiyasu, T. Hasegawa and S. Shinkai : “Sol-Gel Reaction Using DNA as a Template: An Attempt Toward Transcription of DNA into Inorganic Materials”, Angew. Chem. Int. Ed., 43, 3279-3283 (2004)
【非特許文献3】Davis, S. A., S. L. Burkett, N. H. Mendelson and S. Mann: “Bacterial Templating of Ordered Macrostructures in Silica and Silica-Surfactant Mesophases”, Nature, 385, 420-423 (1997)
【非特許文献4】Sugiyasu, K., S. Tamaru, M. Takeuchi, D. Berthier, I. Huc, R. Oda and S. Shinkai : “Double Helical Silica Fibrils by Sol-Gel Transcription of Chiral Aggregates of Gemini Surfactants”, Chem. Commun , 1212 - 1213 (2002)
【非特許文献5】相田浩ら著: “新版応用微生物学I”, p.85, 朝倉書店 (1981)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、バイオテンプレートを利用した新しい中空状粒子を開発することを目標にして鋭意研究を進める中で、このようなバイオテンプレート技術の一つとして、酵母による中空粒子の作製に着目した。酵母は古くからパン製造における発酵過程で利用されるなど、工業的に大規模に利用されており、入手が容易で、しかも安価であり、大きさとしても数ミクロン程度と中空粒子としての利用に適当なものである。酵母は、生きている状態で水分70%を含み、アルコキシド等の加水分解に必要な水分を内包したマイクロカプセルと考えることも可能であり、また、他の微生物、例えば、大腸菌等と比べて堅牢であり、テンプレートとして扱いやすい。更に、その表面は親水性であり、ポリスチレンラテックスのような付加的な親水化処理を必要としない。
【0012】
本発明者らは、酵母粒子等の粒子状生体材料の表面を金属化合物により被覆した構造の複合粒子を作製し、その粒子を焼成することにより、粒子状生体材料の形状の模倣性の高い中空粒子及び多くの皺を有する中空壁を持った中空粒子又はその一部等からなる新規な形状を有する多孔質中空粒子の作製に成功し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、酵母粒子等に金属化合物を添加し、酵母粒子等の表面に金属化合物を析出又は被覆して作製した、金属化合物を析出又は被覆した酵母粒子複合体、その処理粒子を焼成、除去した中空粒子、皺を多く有する中空粒子、及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【0013】
また、本発明は、粒子形状、及び粒子径が比較的揃ったミクロンサイズの多孔質中空粒子を提供することを目的とするものである。また、本発明は、加熱処理する雰囲気を、不活性又は還元性とすることにより、テンプレートの形状との模倣性が高い中空粒子を作製し、あるいは雰囲気を酸化性とすることにより、多くの襞又は皺を有する中空粒子を作製することを可能とする中空粒子の製造方法を提供することを目的とするものである。また、本発明は、中空粒子の中空壁に関して、その合成条件、種類、乾燥・焼成条件等によって、その表面の化学的特性や細孔構造、更に、結晶構造を制御した中空粒子及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【0014】
また、本発明は、粒子状生体材料と金属化合物からなる複合体において、その生体材料を残留させることにより、内部に生体親和性のある生体材料を有する複合体を作製し、提供することを目的とするものである。更に、本発明は、例えば、フィルター、環境浄化材料、断熱材、触媒、化粧料、塗料等に使用される粒子材料として好適なミクロンサイズの多孔質中空粒子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)粒子状生体材料の表面に金属化合物を析出又は被覆して形成した中空状粒子であって、該金属化合物の多孔質膜構造を有し、該生体材料の外殻形状を保持していることを特徴とする多孔質中空粒子。
(2)粒子状生体材料が、酵母、でんぷん、クロレラ(藻類)、乳酸菌、胞子、又は花粉である(1)に記載の多孔質中空粒子。
(3)金属化合物が、金属、金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物、又はそれらの複合物である(1)に記載の多孔質中空粒子。
(4)金属化合物の金属成分が、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、亜鉛、イットリウム、ハフニウム、スズ、アンチモン、又はケイ素である(3)に記載の多孔質中空粒子。
(5)粒子状生体材料と多孔質中空粒子との複合体からなる(1)に記載の多孔質中空粒子。
(6)粒子状生体材料を含まない中空粒子からなる(1)に記載の多孔質中空粒子。
(7)中空粒子が、皺状又は襞状の中空壁を有している(6)に記載の多孔質中空粒子。
(8)中空粒子が、粒状生体材料との模倣性が高い外殻形状を有している(6)に記載の多孔質中空粒子。
(9)粒子状生体材料をテンプレートとして、該生体材料の表面に金属化合物を析出又は被覆して、該生体材料と該金属化合物の多孔質構造を有し、該生体材料の外殻形状を保持している粒子状生体材料と多孔質中空粒子との複合体を作製し、次いで、任意に、これを加熱処理することにより、上記生体材料を含まない中空粒子を作製することを特徴とする多孔質中空粒子の製造方法。
(10)粒子状生体材料が、酵母、でんぷん、クロレラ(藻類)、乳酸菌、胞子、又は花粉である(9)に記載の多孔質中空粒子の製造方法。
(11) 金属化合物が、金属、金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物、又はそれらの複合物である(9)に記載の多孔質中空粒子の製造方法。
(12)金属化合物の金属成分が、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、亜鉛、イットリウム、ハフニウム、スズ、アンチモン、又はケイ素である(11)に記載の多孔質中空粒子の製造方法。
(13)複合体を酸化雰囲気中で加熱処理することにより、皺状又は襞状の中空壁を有する中空粒子を作製する(9)に記載の多孔質中空粒子の製造方法。
(14)複合体を還元雰囲気又は不活性雰囲気中で加熱処理することにより、生体材料との模倣性が高い外殻形状を有する中空粒子を作製する(9)に記載の多孔質中空粒子の製造方法。
(15)(1)から(8)のいずれかに記載の多孔質中空粒子を構成要素とすることを特徴とする高吸着性能を有する機能性部材。
(16)部材が、フィルター、環境浄化材料、断熱材、触媒、化粧料、又は塗料である(15)に記載の機能性部材。
【0016】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、粒子状生体材料の表面に金属化合物を析出又は被覆して形成した中空粒子であって、該金属化合物の多孔質膜構造を有し、該生体材料の外殻形状を保持している多孔質中空粒子の点、粒子状生体材料をテンプレートとして、該生体材料の表面に金属化合物を析出又は被覆して、該生体材料と該金属化合物の多孔質構造を有し、該生体材料の外殻形状を保持している粒子状生体材料と多孔質中空粒子との複合体を作製し、次いで、任意に、これを加熱処理することにより、上記生体材料を含まない中空粒子を作製する点、に特徴を有するものである。
【0017】
本発明において、テンプレートとして使用される粒子状生体材料としては、好ましくは、0.2〜40μmの平均粒径を有する生体材料であり、例えば、酵母、でんぷん、クロレラ(藻類)、乳酸菌、胞子、花粉等が例示される。酵母としては、分類学上酵母に属するものであればどのような酵母を用いてもよく、例えば、ビール酵母、ワイン酵母、パン酵母、トルラ酵母等を挙げることができ、より具体的には、サッカロマイセス属のサッカロマイセス・セレビッシェ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・ルーキシ(Saccharomyces rouxii)、サッカロマイセス・カールスバーゲンシス(Saccharomyces carlsbergensis)、キャンディダ・ウティリス(Candida utilis)、キャンディダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、キャンディダ・リポリティカ(Candida lipolytica)、キャンディダ・フレーベリ(Candida flaveri)等を例示することができる。酵母としては、生酵母を用いることが好ましいが、乾燥酵母等の生酵母以外の形態の酵母を用いる場合であっても、例えば、水中等に懸濁して生酵母同様に処理することもできる。
【0018】
また、本発明では、酵母粒子と同等ないし類似の性能を発揮するものとして、好適には、例えば、トウモロコシでんぷん(平均粒径2〜30μm)、小麦でんぷん(平均粒径2〜40μm)、米でんぷん(平均粒径2〜5μm)、豆でんぷん(平均粒径25〜40μm)、いもでんぷん(平均粒径2〜80μm)、及び、単細胞緑藻であり、平均粒径が2〜12μmの球形又は楕円体の微粒子であるクロレラ(藻類)が例示される。これらの粒子状生体材料は、1種を単独で使用することができ、あるいは必要に応じて2種以上を併用して使用することができる。使用する生体材料の形状や大きさに特に制限はないが、形状としては、なるべく球形に近い形状のものが好ましく、また、その大きさは、例えば、0.2〜40μmが好ましく、1〜5μmの範囲のものが更に好ましい。
【0019】
本発明において、金属化合物とは、金属、金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物、又はそれらの複合物を意味するものであり、その結晶性については特に制限はなく、アモルファス状ないし結晶状の何れのものでもよい。また、被覆する金属化合物に特に制限はないが、例えば、亜鉛、イットリウム、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、スズ、アンチモン、ケイ素から選ばれる1種又は2種以上の金属化合物が好ましい。具体的には、例えば、水酸化物、酸化物としては、酸化亜鉛、酸化イットリウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化ハフニウム、酸化スズ、酸化アンチモン、シリカ等を挙げることができる。これらの中でも、特に酸化物が好ましい。酸化物からなる多孔質構造は、例えば、無機金属塩、有機金属塩、金属アルコキシド等の加水分解反応、熱分解反応等により形成することができる。また、これらの金属化合物は、1種を単独で、又は必要に応じて2種以上を併用して使用することができる。
【0020】
金属化合物の使用量は特に制限されず、酵母粒子等の生体材料の種類や粒径、金属化合物自体の種類、得ようとする中空粒子の用途等の各種条件に応じて適宜選択できるが、通常、酵母粒子100重量部に対して、1〜100重量部、好ましくは5〜50重量部とすればよい。生体材料の被覆表面積としては、材料表面の1〜100%、好ましくは、80〜100%を金属化合物で被覆するのがよい。金属化合物又はその溶液若しくは分散液を生体材料に添加するに際しては、その酵母粒子等の生体材料を15〜95℃程度に加温してもよく、又は加温しなくてもよい。
【0021】
次に、酵母粒子をテンプレートとして使用し、金属化合物としてアルコキシドを使用した事例に基づいて本発明を説明するが、他の生体材料及び金属化合物を使用しても以下に記載の事例と同様にして、本発明の多孔質中空粒子を作製することができることは言うまでもなく、本発明は、下記の方法に限定されるものではない。
【0022】
本発明の中空粒子の製造方法の一例を説明すると、まず、金属アルコキシドのアルコール溶液に、安定化剤であるトリエタノールアミンを混合し、室温で撹拌する。この溶液を、酵母粒子を水に分散させた分散液と混合し、長時間撹拌することにより、酵母粒子表面にアルコキシドの加水分解物を析出させて、被覆処理した酵母粒子を得る。被覆処理した酵母粒子を洗浄し、乾燥した後、500〜1200℃で熱処理することにより、析出した加水分解物の結晶化を進めるとともに、有機物を分解して中空粒子とする。これらの一連の工程により本発明の中空粒子が製造される。
【0023】
本発明においては、上述のように、酵母粒子を分散させた溶液中に、原料の反応性を制御して、金属化合物の原料を加えることにより金属化合物を前記酵母粒子表面に析出させる。例えば、テトラエトキシシランのように反応速度が遅い原料に関しては、溶液にアンモニア等の触媒を添加し、逆に、反応速度が速いチタンイソプロポキシド等の原料の場合には、トリエタノールアミン(TEA)のような安定化剤を予めチタンイソプロポキシドと化合させ、混合して析出させる。
【0024】
このように、本発明では、安定化剤を用いて反応液の反応性を制御することができる。ジルコニウムブトキシド(ZNA)の反応性について、TEA/ZNB比(モル比)の関係を検討したところ、TEA/ZNB比が、0.4の場合は、混合溶液に水を加えると、すぐに沈殿が生成するため、コーティングには不適当である。また、TEA/ZNB比を0.6とすると、薄く白濁した状態となって沈殿はあまり見られず、0.8以上の場合には透明で安定な溶液を得ることが可能である。過度に安定な溶液は、加水分解反応には不適当であるので、TEA/ZNB比は、0.6〜1の範囲が適当である。
【0025】
また、金属化合物の反応速度の調整は、溶液の種類を変えることによっても行うことができる。溶液としては、例えば、水、アルコール類、エーテル類、及びこれらの混合物等が用いられる。アルコキシドを原料として使用する場合に、溶液にエタノールのようなアルコール交換反応が生じる場合には、反応が遅くなることが知られている。そのため、溶液にエタノールとヘキサンのような疎水性有機溶液を用いることにより酵母粒子表面に均一に金属化合物を析出することが可能となる(特開平4―45835号公報参照)。
【0026】
本発明においては、金属化合物で表面を被覆された酵母粒子を、濾過、遠心分離等の一般的な方法で反応混合物中から分離し、必要に応じて乾燥させた後、焼成し、酵母粒子を燃焼又は熱分解することにより、無機中空粒子を製造することができる。
【0027】
焼成温度は、金属化合物を被覆した酵母粒子の内部にある酵母粒子を焼失させる場合には、図1の熱分析結果に示すように、酵母粒子が熱分解及び燃焼し得る温度であれば特に制限されないが、酵母粒子をほぼ完全に熱分解するとともに、無機物質の結晶構造の選択と粒成長を抑制するために、焼成温度を、通常、500〜1200℃、特に好ましくは600〜800℃とするのがよい。焼成時間は、通常、0.5〜10時間とするのがよい。また、酵母粒子を残し、金属化合物の結晶構造の選択のみの場合には、通常、焼成温度200〜800℃、特に300〜500℃が好ましく、焼成時間は、通常、0.5〜10時間とするのがよい。
【0028】
酵母粒子表面に被覆した金属化合物の熱処理条件を制御することにより、金属化合物の結晶性を制御することが可能である。例えば、酵母粒子表面に被覆したジルコニア加水分解物を熱処理すると、熱処理前のアモルファス状態から、500℃付近で結晶化が始まり、700℃ではほぼ正方晶への結晶化が完結し、更に、1000℃では単斜晶への転移が進行し、正方晶と単斜晶が共存する結晶状態となる。これらの温度を調整することにより、結晶性を制御することができる(図5参照)。
【0029】
また、酸化雰囲気中での熱処理において、熱処理温度が、500℃、更に1000℃へと高温になるに従って、中空粒子が次第に収縮して、熱処理前では2〜4μmであったものが、熱処理後には1〜2μmとなる。このとき、熱処理前には比較的滑らかな表面を持つ楕円ないし円形の粒子形態(図3参照)であったものが、熱処理後には、萎んだ形に変形する(図6参照)。このような粒子の形態の変化は、ジルコニウム中空粒子を機能性粒子として活用するのに好ましいものである。一方、コーティング処理粒子を、窒素中で、例えば、1000℃で熱処理しても、粒子としての収縮は少なく、元のままの形状を維持した中空粒子を得ることが可能である(図13参照)。
【0030】
焼成の際の雰囲気は特に制限されず、例えば、空気等の酸化性雰囲気、水素ガス、一酸化炭素ガス、アンモニアガス等の還元性雰囲気、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等の不活性雰囲気等を挙げることができる。酸化性雰囲気中で焼成を行うと、酵母粒子が焼失し、無機中空粉末が得られる。還元性雰囲気又は不活性雰囲気中で焼成を行うと、酵母粒子と金属化合物との複合中空粒子が得られる。
【0031】
本発明では、中空粒子の膜厚を制御することができる。TEA/ZNB=1の条件でジルコニア膜の析出時間を変化させても、析出時間による膜厚制御は困難である。TEA/ZNB比を変化させて中空粒子を作製し、その破面を観察したところ、TEA/ZNB比が1のとき膜厚は0.1μm(図11参照)であるのに対し、同比を0.6とすることにより膜厚が0.3μm(図12参照)となり、TEA/ZNB比により膜厚制御が可能であることが明らかとなった。
【0032】
本発明は、中空粒子を作製する際に、原料化合物、安定剤、溶媒等の選定により反応性を調整することにより、従来、達成することができなかった、均一な外殻構造の形成、外殻膜厚の制御等が可能となり、また、焼成温度、及び焼成雰囲気を調整することにより、中空粒子の結晶性、及び外殻構造の表面形状等を制御することが可能となる。また、このように特性が任意に制御されたミクロンサイズの中空粒子は、様々な技術分野において有用な高機能性材料として使用することが可能である。
【発明の効果】
【0033】
本発明により、(1)二次凝集が少なく、非常に分散性に優れている多孔質無機中空粒子を簡便に作製し、提供することができる、(2)原料の添加、処理条件により中空粒子の外殻の厚さ、外殻の表面構造、細孔構造、及び結晶構造を制御することができる、(3)焼成に際して雰囲気を制御することにより、テンプレートの形状との模倣性が高い中空粒子や、多くの襞又は皺を有する中空粒子を作製することができる、(4)皺又は襞を持つ中空粒子は、単位体積当たりの面積が大きいことから吸着力が大きい材料として、また、粉末表面に凹凸があることから摩擦係数が大きい材料として、更に、凹凸により反射が球体よりも多いことから反射効率が良い材料としての利用が可能である、(5)酵母粒子等を残留させることにより、内部に親和性のある酵母粒子等を有する金属化合物との複合体を作製することができる、(6)中空粒子は、例えば、化粧料、触媒、塗料、断熱材、生体材料等を構成する機能性微粒子材料として利用することができる、(7)酵母粒子等の生体材料を消失させない複合体は、生体材料の持つ特徴、例えば、イオン又は気体の吸着能を有する微粒子材料として好適に利用することができる、という効果が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
本実施例では、ジルコニアの中空粒子を作製した。酵母には、パン酵母(Saccharomyces cerevisiae)を生イーストとして入手し、数回、蒸留水で攪拌洗浄した後にテンプレートとして使用した。ジルコニアの原料としては、85%ジルコニウム(IV)ブトキシド1−ブタノール溶液を用いた。また、ジルコニウム溶液の安定化剤として、トリエタノールアミン(TEAと略称)を用いた。中空粒子の作製手順は次のように行った。まず、85%ジルコニウム(IV)ブトキシド1−ブタノール溶液[ジルコニウム(IV)ブトキシド(ZNBと略称)0.02mol]とTEAを所定の割合で混合し、12時間室温で攪拌した。その後、水50ml加えて攪拌を続けた。一方、酵母5gを水150mlに加えて分散させた。これらの二つの溶液を混合し、60時間攪拌して酵母表面にアルコキシド加水分解物を析出させることにより、コーティング処理酵母であるジルコニウム生成物を被覆した酵母粒子を得た。生成物のコーティング処理酵母は、エタノール及び水で洗浄して室温で乾燥した。
【0036】
酵母粒子(a)、ジルコニウム生成物を被覆した酵母粒子(b)、及びジルコニウム生成物のみ(c)の熱重量分析結果を図1に、及びそれらの示差熱分析結果を図2に示す。図1の結果は、200℃までの脱水過程と、それ以降の有機物の燃焼過程やジルコニアの結晶化過程に対応する高温域、との2つに分けられること、ジルコニア加水分解物に含まれる水分や表面水酸基が酵母内の水分より蒸散しにくいこと、を示している。また、図2の結果より、酵母で480℃付近であったピークが510℃に移動するなど、コーティング膜の存在により熱分解反応がおおよそ30℃程度高温域に移動していることが認められ、その結果、中空粒子として酵母由来の成分を消失させるためには、550〜600℃程度までの熱処理が必要であることが分かる。
【0037】
また、図3に、ジルコニウム生成物を被覆した酵母粒子の走査電子顕微鏡写真を示す。図3は、コーティングを行った酵母粒子の粒径は2から5μmであり、酵母粒子の外殻外形を維持した楕円形をしており、特徴的な出芽痕も確認でき、良好なコーティングがなされていることを示している。写真右下に認められる1ミクロン以下の粒子は、ジルコニア凝集物による粒子と考えられるが、その存在量は少なかった。図4に、700℃で熱処理したジルコニア中空粒子の走査電子顕微鏡写真を示す。更に、図5に、ジルコニウム生成物を被覆した酵母粒子の熱処理条件(500℃、700℃、1000℃)ごとのX線回折パターンを示す。熱処理前のアモルファス状態から、500℃付近で結晶化が始まり、700℃で正方晶への結晶化が完結し、更に、1000℃では単斜晶への転移が進行した。
【実施例2】
【0038】
本実施例では、チタニア中空粒子を作製した。酵母には、パン酵母(Saccharomyces cerevisiae)を生イーストとして入手し、数回、蒸留水で攪拌洗浄した後にテンプレートとして使用した。チタニアの原料としては、チタンイソプロポキシドを用いた。また、チタンイソプロポキシド溶液の安定化剤として、トリエタノールアミンを用いた。チタンイソプロポキシド0.02molとTEAを所定の割合で混合し、12時間室温で攪拌した。その後、水を50ml加えて攪拌を続けた。一方、酵母5gを水150mlに加えて分散させた。これらの二つの溶液を混合し、60時間攪拌して酵母表面にアルコキシド加水分解物を析出させることにより、コーティング処理酵母を得た。生成物のコーティング処理酵母は、エタノール及び水で洗浄して室温で乾燥した。更に、500℃から1000℃の所定温度で熱処理を行うことにより、チタニアの結晶化を進めるとともに、有機物を熱分解し、中空粒子化した。その中空粒子は、襞状の壁を有していた。図6に、チタニア中空粒子の走査電子顕微鏡写真を示し、図7に、チタニウム生成物を被覆した酵母粒子のX線回折パターンを示す。更に、図8に、チタニア中空粒子の中空壁の透過電子顕微鏡写真を示す。中空壁は、数ナノメートルのアナターゼ微粒子から構成され、その粒子が密に結合していた。
【実施例3】
【0039】
本実施例では、シリカ中空粒子を作製した。酵母には、パン酵母(Saccharomyces cerevisiae)を生イーストとして入手し、数回、蒸留水で攪拌洗浄した後にテンプレートとして使用した。シリカの原料としては、ケイ酸エチル5mlを用いた。一方、酵母3gを水4g及びエタノール1mlと混合した。これらの二つの溶液を混合し、更に、反応促進剤として、アンモニア0.5mlを加え、60時間攪拌して酵母表面にアルコキシド加水分解物を析出させることにより、コーティング処理酵母を得た。更に、500℃から1000℃の所定温度で熱処理を行うことにより、有機物を熱分解し、中空粒子化した。図9に、ケイ素生成物を被覆した酵母粒子の走査電子顕微鏡写真を示す。
【実施例4】
【0040】
本実施例では、パン酵母(Saccharomyces cerevisiae)の生イーストに変えて、乾燥したビール酵母(S-23 Dried Lager Yeast ; DCL Yeast LTD製、英国)をテンプレートとして使用し、ジルコニアの中空粒子を作製した。ジルコニアの原料としては、85%ジルコニウム(IV)ブトキシド1−ブタノール溶液を用いた。また、ジルコニウム溶液の安定化剤として、TEAを用いた。85%ジルコニウム(IV)ブトキシド1−ブタノール溶液[ZNB0.02mol]とTEAを所定の割合で混合し、12時間室温で攪拌した。その後、水を50ml加えて攪拌を続けた。一方、酵母5gを水150mlに加えて分散させた。これらの二つの溶液を混合し、60時間攪拌して酵母表面にアルコキシド加水分解物を析出させることにより、コーティング処理酵母を得た。更に、コーティング処理酵母を600℃で熱処理することにより、ジルコニアの中空粒子を得た。図10に、ジルコニウム生成物を被覆した酵母粒子の走査電子顕微鏡写真を示す。
【実施例5】
【0041】
本実施例では、中空粒子の膜厚の膜厚制御を目的として、TEA/ZNB比を変えて被覆を行った。酵母には、パン酵母(Saccharomyces cerevisiae)を生イーストとして入手し、数回、蒸留水で攪拌洗浄した後にテンプレートとして使用した。ジルコニアの原料としては、85%ジルコニウム(IV)ブトキシド1-ブタノール溶液を用いた。また、ジルコニウム溶液の安定化剤として、トリエタノールアミン(TEAと略称)を用いた。各種のTEA/ZNB比で中空粒子を作製し、その破面を観察した。図11及び図12に示すように、TEA/ZNB比が1の場合には膜厚は0.1μmであるのに対して、TEA/ZNB比を0.6とすることにより膜厚は0.3μmに増加していることから、本法により膜厚制御が可能であることが分かった。
【実施例6】
【0042】
本実施例では、焼成雰囲気を大気中に変えて、窒素雰囲気中で行った。実施例1と同じように作製したジルコニウム化合物を被覆した酵母粒子を1000℃、窒素中で熱処理すると、図13に示すように、粒子としての収縮も少なく、また、元のままの形状を維持した中空粒子を得ることが分かった。
【実施例7】
【0043】
本実施例では、溶液を水に変えて、エタノール中でジルコニウムの化合物を酵母粒子表面に被覆し、酵母粒子を焼失させることにより、ジルコニアの中空粒子を作製した。酵母には、パン酵母(Saccharomyces cerevisiae)を生イーストとして入手し、数回、蒸留水及びエタノールで攪拌洗浄した後にテンプレートとして使用した。ジルコニアの原料として、85%ジルコニウム(IV)ブトキシド1−ブタノール溶液を用いた。中空粒子の作製手順は次のように行った。まず、85%ジルコニウム(IV)ブトキシド1−ブタノール溶液[ジルコニウム(IV)ブトキシド(ZNBと略称)0.02mol]をエタノール50mlで希釈し、1時間室温で攪拌した。一方、酵母5gをエタノール150mlに加えて分散させた。これらの二つの溶液を混合し、60時間攪拌して酵母表面にアルコキシド加水分解物を析出させることにより、コーティング処理酵母を得た。図14に、そのコーティング処理粒子であるジルコニウム生成物を被覆した酵母粒子の走査電子顕微鏡写真を示す。このコーティング処理酵母は、各々の粒子が凝集しているが、酵母表面にはジルコニウム生成物が被覆されていた。また、その中空壁の構造は、粒子間に細孔ができ、比較的疎な状態であった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上詳述したように、本発明は、金属化合物からなる外殻構造を有する多孔質無機中空粒子、その製造方法及び機能性部材に係るものであり、本発明により、粒子状生体材料をテンプレートとして使用することにより、環境に優しい手法で、粒子形状、及び粒子径が比較的均一に揃った、多孔質で中空状の粒子を簡便に作製し、提供することができる。本発明において、新規な皺を持つ中空粉末は、通常の中空粉末よりも単位体積当りの面積が大きいことから、吸着などの効果が大きい。また、その形状的な面からも粉末表面に凹凸があることから、摩擦係数が大きい粉体として使用することができる。更に、光学的な面からもその皺により球体よりも反射効率の高い粉体として使用することができる。また、本発明において、酵母粒子等の生体材料からなるテンプレートを消失していない複合体は、酵母粒子等の生体材料の持つ、例えば、イオン又は気体の吸着能等の特徴と、多孔質の外殻構造の持つ特徴を組み合わせた高機能性を有する新しい複合材料として利用することが可能である。本発明の多孔質中空粒子は、例えば、吸着剤、イオン交換材、分離材、有害物質処理材、電極材料、誘電体材料、顔料や化粧料、触媒、塗料、断熱材、環境浄化部材等の分野において、高機能性を有する微粒子材料として好適に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】酵母粒子(a)、実施例1で作製したジルコニウム生成物を被覆した酵母粒子(b)、及びジルコニウム生成物(c)の熱重量分析結果を示す。
【図2】酵母粒子(a)、実施例1で作製したジルコニウム生成物を被覆した酵母粒子(b)、及びジルコニウム生成物(c)の示差熱分析結果を示す。
【図3】実施例1で作製したジルコニウム生成物を被覆した酵母粒子の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図4】実施例1で700℃で熱処理して作製したジルコニア中空粒子の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図5】実施例1で作製したジルコニウム生成物を被覆した酵母粒子の熱処理条件(熱処理前、500℃、700℃、1000℃)ごとのX線回折パターンを示す。
【図6】実施例2で作製した皺状形状を有するチタニア中空粒子の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図7】実施例2で作製したチタニウム生成物を被覆した酵母粒子の熱処理条件(熱処理前、500℃、700℃、1000℃)ごとのX線回折パターンを示す。
【図8】実施例2で作製したチタニア中空粒子の中空壁の透過電子顕微鏡写真を示す。
【図9】実施例3で作製したケイ素生成物を被覆した酵母粒子の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図10】実施例4で作製したジルコニウム生成物を被覆したジルコニア中空粒子の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図11】実施例5で作製した膜厚0.1μmのジルコニア中空粒子断面の走査電子顕微鏡写真を示す。(ジルコニウム(IV)ブトキシドとトリエタノールアミンの比が1対1)
【図12】実施例5で作製した、膜厚0.3μmのジルコニア中空粒子断面の走査電子顕微鏡写真を示す。(ジルコニウム(IV)ブトキシドとトリエタノールアミンの比が1対0.6)
【図13】実施例6で、1000℃、窒素雰囲気中で熱処理して作製したジルコニア中空粒子の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図14】実施例7で、エタノール中で作製したジルコニウム生成物を被覆した酵母粒子の走査電子顕微鏡写真を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状生体材料の表面に金属化合物を析出又は被覆して形成した中空状粒子であって、該金属化合物の多孔質膜構造を有し、該生体材料の外殻形状を保持していることを特徴とする多孔質中空粒子。
【請求項2】
粒子状生体材料が、酵母、でんぷん、クロレラ(藻類)、乳酸菌、胞子、又は花粉である請求項1に記載の多孔質中空粒子。
【請求項3】
金属化合物が、金属、金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物、又はそれらの複合物である請求項1に記載の多孔質中空粒子。
【請求項4】
金属化合物の金属成分が、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、亜鉛、イットリウム、ハフニウム、スズ、アンチモン、又はケイ素である請求項3に記載の多孔質中空粒子。
【請求項5】
粒子状生体材料と多孔質中空粒子との複合体からなる請求項1に記載の多孔質中空粒子。
【請求項6】
粒子状生体材料を含まない中空粒子からなる請求項1に記載の多孔質中空粒子。
【請求項7】
中空粒子が、皺状又は襞状の中空壁を有している請求項6に記載の多孔質中空粒子。
【請求項8】
中空粒子が、粒状生体材料との模倣性が高い外殻形状を有している請求項6に記載の多孔質中空粒子。
【請求項9】
粒子状生体材料をテンプレートとして、該生体材料の表面に金属化合物を析出又は被覆して、該生体材料と該金属化合物の多孔質構造を有し、該生体材料の外殻形状を保持している粒子状生体材料と多孔質中空粒子との複合体を作製し、次いで、任意に、これを加熱処理することにより、上記生体材料を含まない中空粒子を作製することを特徴とする多孔質中空粒子の製造方法。
【請求項10】
粒子状生体材料が、酵母、でんぷん、クロレラ(藻類)、乳酸菌、胞子、又は花粉である請求項9に記載の多孔質中空粒子の製造方法。
【請求項11】
金属化合物が、金属、金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物、又はそれらの複合物である請求項9に記載の多孔質中空粒子の製造方法。
【請求項12】
金属化合物の金属成分が、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、亜鉛、イットリウム、ハフニウム、スズ、アンチモン、又はケイ素である請求項11に記載の多孔質中空粒子の製造方法。
【請求項13】
複合体を酸化雰囲気中で加熱処理することにより、皺状又は襞状の中空壁を有する中空粒子を作製する請求項9に記載の多孔質中空粒子の製造方法。
【請求項14】
複合体を還元雰囲気又は不活性雰囲気中で加熱処理することにより、生体材料との模倣性が高い外殻形状を有する中空粒子を作製する請求項9に記載の多孔質中空粒子の製造方法。
【請求項15】
請求項1から8のいずれかに記載の多孔質中空粒子を構成要素とすることを特徴とする高吸着性能を有する機能性部材。
【請求項16】
部材が、フィルター、環境浄化材料、断熱材、触媒、化粧料、又は塗料である請求項15に記載の機能性部材。
【請求項1】
粒子状生体材料の表面に金属化合物を析出又は被覆して形成した中空状粒子であって、該金属化合物の多孔質膜構造を有し、該生体材料の外殻形状を保持していることを特徴とする多孔質中空粒子。
【請求項2】
粒子状生体材料が、酵母、でんぷん、クロレラ(藻類)、乳酸菌、胞子、又は花粉である請求項1に記載の多孔質中空粒子。
【請求項3】
金属化合物が、金属、金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物、又はそれらの複合物である請求項1に記載の多孔質中空粒子。
【請求項4】
金属化合物の金属成分が、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、亜鉛、イットリウム、ハフニウム、スズ、アンチモン、又はケイ素である請求項3に記載の多孔質中空粒子。
【請求項5】
粒子状生体材料と多孔質中空粒子との複合体からなる請求項1に記載の多孔質中空粒子。
【請求項6】
粒子状生体材料を含まない中空粒子からなる請求項1に記載の多孔質中空粒子。
【請求項7】
中空粒子が、皺状又は襞状の中空壁を有している請求項6に記載の多孔質中空粒子。
【請求項8】
中空粒子が、粒状生体材料との模倣性が高い外殻形状を有している請求項6に記載の多孔質中空粒子。
【請求項9】
粒子状生体材料をテンプレートとして、該生体材料の表面に金属化合物を析出又は被覆して、該生体材料と該金属化合物の多孔質構造を有し、該生体材料の外殻形状を保持している粒子状生体材料と多孔質中空粒子との複合体を作製し、次いで、任意に、これを加熱処理することにより、上記生体材料を含まない中空粒子を作製することを特徴とする多孔質中空粒子の製造方法。
【請求項10】
粒子状生体材料が、酵母、でんぷん、クロレラ(藻類)、乳酸菌、胞子、又は花粉である請求項9に記載の多孔質中空粒子の製造方法。
【請求項11】
金属化合物が、金属、金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物、又はそれらの複合物である請求項9に記載の多孔質中空粒子の製造方法。
【請求項12】
金属化合物の金属成分が、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、亜鉛、イットリウム、ハフニウム、スズ、アンチモン、又はケイ素である請求項11に記載の多孔質中空粒子の製造方法。
【請求項13】
複合体を酸化雰囲気中で加熱処理することにより、皺状又は襞状の中空壁を有する中空粒子を作製する請求項9に記載の多孔質中空粒子の製造方法。
【請求項14】
複合体を還元雰囲気又は不活性雰囲気中で加熱処理することにより、生体材料との模倣性が高い外殻形状を有する中空粒子を作製する請求項9に記載の多孔質中空粒子の製造方法。
【請求項15】
請求項1から8のいずれかに記載の多孔質中空粒子を構成要素とすることを特徴とする高吸着性能を有する機能性部材。
【請求項16】
部材が、フィルター、環境浄化材料、断熱材、触媒、化粧料、又は塗料である請求項15に記載の機能性部材。
【図1】
【図2】
【図5】
【図7】
【図3】
【図4】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図5】
【図7】
【図3】
【図4】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2006−326557(P2006−326557A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−157776(P2005−157776)
【出願日】平成17年5月30日(2005.5.30)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月30日(2005.5.30)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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