説明

中空糸及びこれを用いた燃料電池用加湿器

【課題】電耐リーク性を保持したままで、水蒸気の凝縮性を高め、高加湿性が得られる中空糸及びこれを用いた燃料電池用加湿器を提供すること。
【解決手段】緻密層と多孔層が半径方向に積層された構成を有し、緻密層は複数の微粒子が独立せずに一体化されてなり、多孔層は三次元網目構造をなし、該緻密層と該多孔層との境界には、細孔径が連続して変化している遷移領域が存在し、この遷移領域内の、平均細孔径が0.1μmから1.0μmへ変化する領域の厚みが5μm以下である中空糸である。緻密層の一方の面が中空部分を形成しており、該露出面に存在する細孔の平均細孔長径が0.1μm以下である。 上記中空糸を上記緻密層該露出面を被加湿側として使用した燃料電池用加湿器である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸及びこれを用いた燃料電池用加湿器に係り、更に詳細には、高加湿性及び耐リーク性を併有しうる中空糸及びこれを用いた燃料電池用加湿器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、水処理、浄水器、無菌処理、淡白濃縮、人工透析等で使用される中空糸膜として、スキン層(緻密層)と多孔質層から構成されるものが知られている。一般的には、緻密層における細孔径等の制御で分離対象や用途が分けられている。
【0003】
一方、燃料電池用加湿器では、空気(酸素、窒素)と水分との分離となるが、その分離機構は、上記水処理、浄水器、無菌処理、淡白濃縮、人工透析等のような「ふるい」的なものとは異なり、緻密層における細孔部まで水蒸気が侵入し、毛管凝縮によって液水化し、その後液水が被加湿側まで移動し、被加湿側最表面で気化する、という流れで加湿されるものである。
また、空気(酸素、窒素)は上記緻密層の細孔部で液水化した水によって被加湿側に移動できなくなるため、水分と分離されることになる。
燃料電池用加湿器では、燃料電池に送付する空気の酸素濃度を保持するため、中空糸内側と外側での空気(酸素、窒素)のバリア性を保つ必要がある。
【0004】
よって、燃料電池用加湿器に使用する中空糸には、高加湿性と耐リーク性を併せ持つことが要求される。
【0005】
高い透過性(加湿性)を示す中空糸としては、例えば、スキン層(緻密層)と多孔質層から構成される非対称構造を有し、水蒸気透過速度が2.0×10−3cm(STP)/cm・sec・cmHg以上であり、水蒸気と窒素の透過速度比(P’HO/P’N)が50以上である中空糸が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−172311号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、中空糸の内部構造として、緻密層と多孔質層に分けられているだけでは、安定して要求する加湿性を得ることができないという実情がある。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、耐リーク性を保持したままで、水蒸気の凝縮性を高め、高加湿性が得られる中空糸及びこれを用いた燃料電池用加湿器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、中空糸の内部構造として細孔径が変化する所定の遷移領域を存在させることにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の中空糸は、緻密層と多孔層が半径方向に同一構成材料で構成された中空糸であって、
上記緻密層は複数の微粒子が独立せずに一体化されてなり、上記多孔層は三次元網目構造をなし、
該緻密層と該多孔層との境界における、構成されている構造が連続的に変化している遷移領域において、平均細孔径が0.1μmから1.0μmへ変化する領域の厚みが5μm以下であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の中空糸の好適形態は、上記緻密層の一方の面が中空部分を形成しており、該露出面に存在する細孔の平均細孔長径が0.1μm以下であることを特徴とする。
【0011】
更に、本発明の燃料電池用加湿器は、上記中空糸を前記緻密層該露出面を被加湿側として使用したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、中空糸の内部構造として細孔径が変化する遷移領域の所定の細孔径領域に着目し、その厚みを制御することとしたため、耐リーク性に影響を与える緻密層の細孔径を変化させないので、耐リーク性を保持したままで、水蒸気の凝縮性を高め、高加湿性が得られる中空糸及びこれを用いた燃料電池用加湿器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の中空糸について詳細に説明する。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、濃度、含有量、充填量などについての「%」は、特記しない限り質量百分率を表すものとする。
【0014】
上述の如く、本発明の中空糸は、緻密層と多孔層が半径方向に同一構成材料で構成されている。
上記緻密層は、複数の微粒子が独立せずに一体化されて成る。上記多孔層は、三次元網目構造をなしている。
また、該緻密層と該多孔層との境界では、構成されている構造が連続的に変化している遷移領域となっており、この遷移領域内の、平均細孔径が0.1μmから1.0μmへ変化する領域の厚みを5μm以下とすることで耐リーク性を保持したままで、高加湿性が得られる。
【0015】
このように、上記平均細孔径が0.1μmから1.0μmへ変化する遷移領域厚みを5μm以下と小さくすることで、水蒸気から凝縮水に変化し始める領域が小さくなるため、水蒸気と液水が混在している領域が小さくなる。水蒸気と液水が混在する領域では液水が障壁となり水蒸気移動速度が低下しているので、前記現象によって水蒸気移動速度が低い領域が少なくなり、凝縮水に変化する部位での水蒸気濃度が低い領域が少なくなる、つまり凝縮水に変化する部位の水蒸気濃度は高く保持されるため、高加湿特性が得られる。凝縮を伴う加湿方法においては凝縮速度が律速であるため、凝縮速度を高めることが加湿性を高めることになる。
なお、上記遷移領域の厚みが5μmを超えると、水蒸気と液水が混在している領域が大きくなり、凝縮水に変化し始める領域における水蒸気速度が遅い領域が多くなるため、凝縮水に変化する部位での水蒸気濃度が低くなり、高加湿性が得られなくなる。
また、この平均細孔径が0.1μmから1.0μmへ変化する遷移領域厚みを制御することは、耐リーク性に影響を与える緻密層の細孔径を変化させないので、耐リーク性を保持したままで、高加湿性が得られる中空糸及びこれを用いた燃料電池用加湿器を提供することができる。
また、緻密層と多孔層の積層順序は、放射方向(緻密層→多孔層)であっても中心方向(多孔層→緻密層)であってもよく、用途によって適宜選択できる。
【0016】
図1に、本発明の中空糸の一例における厚み方向断面(横断面)の内部構造を示す。
【0017】
ここで、本発明の中空糸において、緻密層と多孔層の境界に存在する上記遷移領域は、その厚みを2μm以下とすることが好ましい。
このときは、水蒸気から凝縮水に変化し始める部位における水蒸気移動濃度が高い領域が多くなるため、更なる高加湿特性が得られる。
【0018】
また、上記緻密層は、0.01〜0.5μm程度の微粒子の集合体であればよい。これら微粒子は、例えば、ロブ−スリーラーヤン法などにより緻密化することができる。
更に、上記緻密層の厚みは、0.05〜2.0μm程度であることがよい。
【0019】
また、上記緻密層は、その一方の面が中空部分を形成しており、該露出面に存在する細孔の平均細孔長径が0.1μm以下であることが好ましい。
このときは、露出面である最内層においても凝縮状態で水分を保持できるため、水分揮発を抑制でき、耐リーク性を低くすることができる。また、0.05μm以下であることがより好ましく、このときは、最内層の凝縮水の保持性が更に高まるため、水分揮発を抑制でき、耐リーク性をより低くすることができる。
なお、細孔の平均細孔長径が0.1μmを超えると、凝縮状態の水分を維持しにくくなるため、水分揮発を抑制できなくなり、耐リーク性が悪化しやすい。
【0020】
更に、上記緻密層内部に存在する細孔の最大細孔径は、0.2μm以下であることが好ましい。
このときは、凝縮水が緻密層内で余分に保持されることがなくなるため、被加湿側への凝縮水の移動速度を高められ、高加湿特性が得られる。また、0.05μm以下であることがより好ましく、このときは、凝縮水の緻密層内での保持量がより少なくなり、被加湿側への凝縮水の移動速度が高くなるため、更に高加湿特性が得られる。
【0021】
一方、上記多孔層は、内径の大きさ及び使用時に要求される強度にもよるが、20〜500μm程度であることがよい。
【0022】
本発明の中空糸において、上記緻密層や上記多孔層の原料としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリル、ポリエーテルイミドなどを使用できる。
【0023】
特に、燃料電池用加湿器に使用するときは、ポリスルホン系であることが好ましい。
中空糸の母材をポリスルホン系とすることで、高温領域での使用においても大幅な特性変化が見られないため高加湿性及び耐リーク性を維持することができる。ポリスルホン系の材料としては、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホンなどが挙げられる。
【0024】
上述の中空糸の製造方法の一例について詳細に説明する。
製膜原液として、基材としてポリスルホンを35〜45重量部、有機性溶媒としてジメチルアセトアミドを55〜65重量部の範囲で混合し、製膜原液とする。
紡糸としては、二重環状ノズルに、上記50℃の製膜原液と芯液として水またはジメチルアセトアミドと水の混合液50℃を流し、紡糸する。一旦空中に5cm以上通過させた後、60℃の水:ジメチルアセトアミド=50:50に調整した凝固液中に導き、凝固を行う。このとき製膜原液の温度と凝固液温度の温度差により、凝固液中の水分が製膜液中(中空糸)に拡散するときの速度が高まるため、多孔層が形成される速度が速まり、遷移領域が薄くなると考えられる。
その後、中空糸を90℃の温水中で一時間以上流水洗浄を行って溶剤を除去し、70℃で一時間以上の環境に放置し、乾燥させる。
【0025】
以上説明した中空糸は、燃料電池用加湿器として使用することができる。具体的には、例えば、上記緻密層の露出面を最内層となる被加湿側に配設し、上記多孔層の露出面を最外層となる加湿側に配設した中空糸とすることができ、この場合には、中空糸の中空部に乾燥空気を流通し、中空糸の外部に高湿度空気を流通することで、乾燥空気が中空糸出口部では加湿された状態になる。
このような構成により、外部との接触面積が多い多孔層側で水が凝集するため、単位時間あたりの凝縮水量が多くなり、高加湿特性を得ることができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0027】
(実施例1)
基材としてポリスルホン(アモコ社製 P−3500)37重量部、有機性溶媒としてジメチルアセトアミド:63重量部の混合溶液を作製し、製膜原液とした。
芯液としてジメチルアセトアミド:水=50:50とし、芯液温度50℃、製膜原液50℃、紡糸速度20m/min.で紡糸した。このとき空気中通過長さを10cmとし、60℃の凝固液中に導いた。
その後、中空糸を90℃の温水中で1時間以上流水洗浄を行って溶剤を除去し、70℃で1時間以上の環境に放置し、乾燥させ、本例の中空糸を得た。
【0028】
(実施例2)
凝固液温度を70℃にして紡糸した以外は、実施例1と同様の操作を繰返して、本例の中空糸を得た。これにより凝固液側から中空糸内部への水の拡散速度が速くなるため、遷移領域の0.1〜1.0μmの厚みがさらに薄くなった。
【0029】
(実施例3)
製膜原液中の基材としてポリスルホンを43重量部、有機性溶媒としてジメチルアセトアミドを57重量部とし、芯液を水のみとして紡糸した以外は、実施例2と同様の操作を繰返して、本例の中空糸を得た。
【0030】
(実施例4)
芯液温度と製膜原液温度をを70℃、凝固液温度を90℃として紡糸した以外は、実施例3と同様の操作を繰返して、本例の中空糸を得た。
【0031】
(実施例5)
紡糸速度を15m/min.にして紡糸した以外は、実施例4と同様の操作を繰返して、本例の中空糸を得た。
【0032】
(実施例6)
紡糸速度を10m/min.にして紡糸した以外は、実施例5と同様の操作を繰返して、本例の中空糸を得た。
【0033】
(実施例7)
製膜原液中の基材をポリアミドとして紡糸した以外は、実施例6と同様の操作を繰返して、本例の中空糸を得た。
【0034】
(比較例4)
緻密層該露出面が加湿側に配設されるように作製した以外は、実施例6と同様の操作を繰返して、本例の中空糸を得た。
【0035】
(比較例1)
基材としてポリスルホン(アモコ社製 P−3500)30重量部、有機性溶媒としてジメチルアセトアミド:70重量部の混合液を作製し、製膜原液とした。
芯液をジメチルアセトアミド:水=50:50とし、芯液温度40℃、製膜原液40℃、紡糸速度20m/min.で紡糸を行った。このとき空気中通過長さを5cmとし、45℃の凝固液中に導いた。
その後、中空糸を90℃の温水中で1時間以上流水洗浄を行って溶剤を除去し、70℃で1時間以上の環境に放置し、乾燥させ、本例の中空糸を得た。
【0036】
(比較例2)
芯液を水として紡糸を行った以外は、比較例1と同様の操作を繰返して、本例の中空糸を得た。
【0037】
(比較例3)
紡糸速度を10m/min.とした以外は、比較例2と同様の操作を繰返して、本例の中空糸を得た。
【0038】
(性能評価)
(1)耐リーク性
中空糸を多数本束ねたモジュールにおいて、中空糸内側に空気で圧力(50kPa)をかけ、中空糸外側に漏れてくる空気量を測定し、単位時間あたりに換算する。単位は、ml/min.・cmとする。
【0039】
(2)加湿性
中空糸を多数本束ねたモジュールにおいて、中空糸内側に乾燥空気(被加湿側)、中空糸外側に高湿度空気(加湿側)を供給する。そのときに乾燥空気及び高湿度空気それぞれの導入部及び排出部の温度、湿度、圧力と流量を測定し、供給する高湿度空気中の単位時間あたりの水分量に対して、排出される乾燥空気中の単位時間あたりの水分量をモジュール内中空糸の内面表面積あたりとして、算出する。単位は、cm−2とする。
【0040】
実施例、比較例の評価結果及び中空糸の構成を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1に示すように、実施例1で得られた中空糸は、耐リーク性能が同等である比較例1の中空糸と比較すると、加湿性能が約80%向上していることが確認できた。
実施例2で得られた中空糸は、実施例1の中空糸と比較すると、平均細孔径が0.1μmから1.0μmになる領域の厚みを2μm以下としたため、加湿性が更に20%向上していることが確認できた。
【0043】
実施例3で得られた中空糸は、実施例2の中空糸と比較すると、緻密層の露出面に存在する細孔の平均細孔長径を0.1μm以下としたため、リーク量が大幅に低減していることが確認できた。
実施例4で得られた中空糸は、実施例3の中空糸と比較すると、上記平均細孔長径を0.05μm以下としたため、更にリーク量が低減していることが確認できた。
【0044】
実施例5で得られた中空糸は、実施例4の中空糸と比較すると、緻密層内に存在する細孔の最大細孔径を0.2μm以下としたため、リーク量を低く維持したままで、加湿性が更に20%向上していることが確認できた。
実施例6で得られた中空糸は、実施例5の中空糸と比較すると、上記最大細孔径を0.05μm以下としたため、更に加湿性が14%向上していることが確認できた。
【0045】
なお、実施例7で得られた中空糸は、実施例6の中空糸と比較すると、母材がポリスルホン系でないため、加湿性が20%低下していた。また、比較例4で得られた中空糸は、緻密層を外側に配設しているため、実施例5の中空糸と比較すると、加湿性が40%低下していた。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】中空糸の厚み方向における内部構造を示す断面概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緻密層と多孔層が半径方向に同一構成材料で構成された中空糸であって、
上記緻密層は複数の微粒子が独立せずに一体化されてなり、上記多孔層は三次元網目構造をなし、
該緻密層と該多孔層との境界における、構成されている構造が連続的に変化している遷移領域において、この遷移領域内の平均細孔径が0.1μmから1.0μmへ変化する領域の厚みが5μm以下であることを特徴とする中空糸。
【請求項2】
上記遷移領域において、平均細孔径が0.1μmから1.0μmになる領域の厚みを、2μm以下としたことを特徴とする請求項1に記載の中空糸。
【請求項3】
上記緻密層の一方の面が中空部分を形成しており、該露出面に存在する細孔の平均細孔長径が0.1μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の中空糸。
【請求項4】
上記緻密層の露出面に存在する細孔の平均細孔長径が0.05μm以下であることを特徴とする請求項3に記載の中空糸。
【請求項5】
上記緻密層内に存在する細孔の最大細孔径が0.2μm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれが1つの項に記載の中空糸。
【請求項6】
上記緻密層内に存在する細孔の最大細孔径が0.05μm以下であることを特徴とする請求項5に記載の中空糸。
【請求項7】
母材がポリスルホン系であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の中空糸。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つの項に記載の中空糸を上記緻密層該露出面を被加湿側として使用したことを特徴とする燃料電池用加湿器。

【図1】
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【公開番号】特開2008−133560(P2008−133560A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−320035(P2006−320035)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】