説明

中空金属体の製造方法およびそれによって得ることができる中空金属体

本発明は、超合金ボールの製造および蝋付けによる接合方法並びにそのような接合で製造される物体に関する。本発明によると、蝋付けハンダで覆われた合金粉末を球状コアに接着させ、次に蝋付けによって連続合金層に変形させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多数の中空金属体を同時に製造する中空金属体の製造方法およびそれによって得ることができる中空金属体に関する。
【背景技術】
【0002】
商用航空機が発する騒音は離陸時に155dBに達することがあり、これは130dBと見積もられる聴覚的な苦痛閾値を上回る値である。したがって、この騒音放出レベルを減少させることが望ましい。
【0003】
この問題を解決する試みの1つの方法は、その放出点の1つ、すなわちエンジンで騒音を吸収することである。エンジンの「冷たい」部分では解決法が既に実施されているが、「熱い」部分は現在いかなる音響処理の対象でもない。したがって、航空機エンジンの熱い部分を目的とする音響吸収機能を有する物質を開発することが望ましい。これを行うため、想定される方法の1つは、エンジン内部で生成する雑音を部分的に吸収することができるノズルを開発することである。
【0004】
さらに、非常に軽量でありながら多量の運動エネルギーを吸収することができるシステムの製造は、財産および人命保護機能を満たすために明らかに利点がある。
【0005】
ボール型発泡材料(ball−based cellular materials)を使用したシステムはこれらの異なる仕様を満たすことができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、現在、市場にはニッケル系の球およびセラミックもしくは有機物の球しか存在しない。焼結によるこれらの要素の組み立ては上記目的を達成するのに望ましい無数の組み合わせの変化を許容しない。さらに、温度性能は、航空機エンジンに要求される機械的強度、並びに酸化および腐食環境に対する耐性のいずれの点でも極度に制限される。
【0007】
本発明は、これらの問題を解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これらの問題を解決するため、以下の利点を有する新規材料の設計を決定した。
−モデリングから得られる仕様において予想される性能を有する可能性、
−使用に最も適する材料からなる可能性、
−単一操作で高密度壁を有する可能性、
−多機能である可能性。
【0009】
本発明は、特に導入部において定義される種類の方法に関し、金属材料を含まない中心空間を取り巻く全面が第1金属材料で作製されるシェルを各々含む多数の基本体、並びに該シェルの内面および/または外面を覆う前記第1金属材料とは異なる第2金属材料を基礎とする粒子から多数の中空金属体を同時に製造するための方法であって、各体の該粒子が蝋付け金属の析出を予め受容し、かつ蝋付けによって互いに接続することにより同時に製造する中空金属体の製造方法を提供する。
【0010】
追加もしくは代替の、本発明の任意の特徴を以下に記述する。
−前記第1金属材料がニッケルおよび/またはコバルトからなる。
−前記第2金属材料がニッケルおよび/またはコバルトを基礎とする超合金からなる。
−前記蝋付けが、ホウ素またはリンを含みニッケルおよび/またはコバルトを基礎とする合金を前記蝋付け金属として用いて行われる。
−前記蝋付け金属が、ニッケル塩および/またはコバルト塩並びにホウ素またはリンの化合物を含む浴を用いる化学的被着によって得られる。
−前記蝋付け金属が前記粒子のコーティングの形態である。
−前記粒子が接着剤による接着によって作製され、該接着剤は蝋付けの最中に熱分解によって除去される。
−前記基本体の前記中心空間が空であり、前記粒子がシェルの外面を覆う。
−前記基本体が、それら基本体の全てを覆う前記粒子を前記蝋付けすることによって単一の発泡金属構造が得られるように相互に接触する。
−前記基本体の前記中心空間が有機材料で作製されるコアで占められ、それらの基本体は前記粒子を前記コア上に塗布してその全体を前記第1金属材料の化学的析出物で覆うことによって得られ、かつ前記コアは前記蝋付けの最中に熱分解によって除去される。
−前記第1金属材料が前記蝋付け後の選択的化学的攻撃によって除去される。
−前記第1金属材料が前記蝋付け後のアルミナ化処理のよって変換される。
−前記シェルの形状が実質的に球状である。
【0011】
本発明の他の目的は一組の中空金属体、例えば、上に定義される方法によって得られるものであって、各々の中空体は、空の中心空間を取り巻く全面が、ニッケルおよび/またはコバルトを基礎とする超合金の層を含む一組の中空金属体である。
【0012】
本発明の中空金属体の製造方法の一態様では、多数のボールもしくは球で開始し、かつ超合金粉末をそれらの各々の表面上に被着させる。これを行うため、シェルに望ましい合金の粉末を形成体の役割を果たす球の表面上に接着させる。粉末粒子を互いに蝋付けする操作中は、粉末を確実に良好に保持するため、硬質シェルが必要である。硬質シェルは、元から存在しない場合には、超合金粉末の頂部もしくは下部に析出させることができる。
【0013】
中空金属体を得るための材料を形成するため、ボールを蝋付けによって組み立てる。これを行うため、ニッケルで作製される基本ボールを、化学的に処理して蝋付け金属の被着を受容させた後、蝋付けを適正に行うための熱処理を行う。
【0014】
ニッケルとしては、純粋ニッケル、複合ニッケル、機械合成によってコートされたニッケルおよび超合金の接着でコートされたニッケルが挙げられる。
【0015】
蝋付け金属としては、仏国特許第2531103号に記述される方法によって析出されるニッケル−ホウ素合金が挙げられる。
【0016】
このようにして得られる物体の酸化および熱腐食特性を改善するため、その材料に、例えば、仏国特許第1490744A号、仏国特許第2094258A号、仏国特許第2276794A号、仏国特許第2638174A号および仏国特許第2853329A号に記述されるアルミナ化処理を適宜施すことができる。
【0017】
これは、超合金の組成が高温時に熱機械的負荷をもたらすように選択されるためである。しかしながら、気流の熱化学的条件に対する超合金の組成の耐性には保護コーティングが必要である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を非限定的な実施例によって説明する。
【実施例1】
【0019】
電解析出(electrolytic deposition)では超合金の化学組成は得られない。この問題を克服するため、超合金粉末を直接焼成して望ましい合金を得る。この粉末を成型した場合、適切な熱処理の後、望ましい形状を得ることができる。
【0020】
しかしながら、この操作では、焼結を開始できるようになる前に球のシェルが崩壊するため、中空球は得られない。したがって、最初の着想は、超合金粉末をボール形状の形成体の表面に直接付着させ、超合金粉末粒子を互いに焼成するための熱処理をすることである。この操作は非常に高い温度でのみ行うことができる。
【0021】
この新たな問題を回避するため、本発明者らは蝋付け技術を用いることを決定した。仏国特許第2777215号に記述されたこの処理は、ニッケル−ホウ素系蝋付け金属の薄層を各々の超合金粉末粒子の表面に被着させることからなる。この超合金はIN738の名称で市販され、その組成は質量%で以下の通りである。
Ni:基本金属、Co:8.5、Cr:16.0、Ti:3.4、Al:3.4、W:2.6、Mo:1.75、Ta:1.75、C:0.17。
【0022】
このようにして、単純な熱処理で粉末粒子を一緒に蝋付けし、超合金を再構成することが可能になる。超合金粉末がNi−Bの化学的被着で予備処理されているとき、粉末粒子が互いに蝋付けされるため、粉末層はアニーリング後に高密度の均一合金になる。本発明の場合、被着したNi−B蝋付け金属層は約0.1μmである。この層は以下の方法で得るのが容易である。処理しようとする粉末バッチの表面積を計算する。
【0023】
ニッケル−ホウ素(約4重量%のホウ素含有率で密度8.25g/cm)の0.1μm層の重量がそこから推測される。機能するのに浴が約8g/lのニッケルを含んでいなければならず、かつ枯渇するまで(すなわち、ニッケル濃度がゼロになるまで)作用することが、処理しようとする粉末の量に合わせて浴量を調整するのに必要かつ十分なことである。このようにして、予め決定され、かつ再現性のある厚みの蝋付け金属の層が非常に容易に得られる。
【0024】
上述のようにして処理された粉末を、中空球を得る目的で、球状形成体に塗布する。これらの粉末を発泡ポリスチレンボールの表面に直接付着させる。この付着を実施するのに、以下の手順を用いる。
−製造者が推奨する最適混合物を得るため、異なる量の接着剤および硬化剤の計り分けを可能にするアプリケーターガンを用いて、以下を時計皿内で混合する:0.1μmのニッケル−ホウ素でコートされたIN738粉末(D50=40μm)約90cmおよびARALDITE 2011ブランド・エポキシ接着剤10cm
−続いて、約100個のポリスチレンボールを添加する。
−次に、第2の時計皿を用いてボールを、粉末とエポキシ接着剤との混合物内で転がす。
−形成体の全表面が覆われたならば、コートされたボールを穿孔処理されたトレイに載せ、60℃のオーブン内で乾燥させる。
【0025】
得られる粉末および接着剤の厚みは約0.1mmである。
【0026】
形成体の除去で中空になる球の最小機械強度を保持するため、ニッケル−ホウ素の溶融温度で依然として硬質であるシェルが必要である。このため、約40μmのニッケルの薄い被膜を、粉末とニッケル−ホウ素とエポキシ接着剤とを含む複合体層の表面に被着させる。
【0027】
この段階で、ニッケル被着後にポリスチレン形成体をアセトンまたは好ましくはベンゼンを用いて溶解することができるが、形成体および接着剤の溶解によってボールが崩壊する危険性が伴う。したがって、熱処理の最中に接着剤と同時に熱分解によって形成体を除去することが好ましい。
【0028】
この場合、選択される熱処理には炭酸化によるポリスチレンの穏やかな除去が好都合である。このため、ポンピング操作の最中にボールを適所に保持する目的で、穿孔処理された蓋が取り付けられたアルミナ容器にボールをまとめて入れる。一旦10−3Paを上回る真空が得られたら、以下の熱処理をする。
−温度450℃までの毎分0.5℃の加温、
−保温45分、
−温度1150℃までの毎分5℃の加温、
−保温20分、
−急冷(約15分で1150℃から600℃まで)。
【0029】
この処理により、IN738がニッケルでコートされたボールが得られる。後者は20体積%硝酸溶液で洗浄することによって簡単に除去することができる。しかしながら、酸化および熱腐食に対する保護の場合、このニッケル層は当業者に周知のアルミナ化処理によるNiAlベータコーティングの構築に有利に用いることができる。
【0030】
この例においては、製造されたボールを互いに組み立てることはせず、ボールベアリングのボールの製造の場合のように、研磨を目的とする表面処理を施すことができる。唯一の相異は、得られる球が中空であることである。その後、得られたボールは、例えば仏国特許第2585445A号に記述される方法により、互いに接続させて単一の発泡金属構造を得ることができる。
【実施例2】
【0031】
実施例1とは異なり、ATECA社によって供給される中空ニッケル球を形成体として用いる。これらの中空球はポリスチレンを含まず、最初のポリスチレンコアは供給者の製造プロセスの段階で熱処理によって除去されている。
【0032】
実施例1に記述されるIN738粉末および接着剤の混合物の被着後、球を穿孔処理されたトレイに載せ、60℃のオーブン内で乾燥させる。次に、実施例1とは異なり、ボールに熱処理を直接施すことができる。
【0033】
このため、得ようとする最終構造にしたがって適切な形状の支持体、例えば、緻密スタックを得るために二面体の形状の支持体上にボールを適所に置いた後、真空下でオーブン内に入れる。組立体の破壊を回避するため、(空気の除去を可能にするため)全体を穿孔処理された蓋で覆うか、ボールを(シアノアクリレート型の)急結接着剤で互いに接着させることができる。
【0034】
全ての場合において、適用する熱処理は蝋付け操作を目的とするものであり得る。これは、接着剤(エポキシおよび、適用可能であるならば、シアノアクリレート)の熱分解を別にして、除去すべきポリスチレンが全くないためである。一旦10−3Paを上回る真空が得られたら、以下の熱処理を適用する。
−温度450℃までの毎分5℃の加温、
−保温45分、
−温度1150℃までの毎分5℃の加温、
−保温20分、
−急冷(約15分で1150℃から600℃まで)。
【0035】
この場合においては、最終物体が1回の操作で得られる。粉末粒子が互いに蝋付けされて中空球が互いに蝋付けされる。一方で、この場合においては、完全な球を得るためにシェルの外部を磨くことができない。
【0036】
実施例1と同様に、組み立て操作の後、得られる物体を酸化および熱腐食に対して保護するため、当業者に周知のアルミナ化を行うことができる。
【実施例3】
【0037】
IN738粉末を組成が質量%で以下の通りであるAstroloyに代え、実施例2と同じ手順にしたがう。
Ni:基本金属、Co:17.0、Cr:15.0、Ti:3.5、Al:4.0、Mo:5.0、C:0.04、B:0.025。
【0038】
同様の結果、すなわち、アルミナ化Astroloy超合金で作製された物体が得られる。
【0039】
本発明は第1金属材料および第2金属材料としてニッケルおよびニッケル系超合金に限定されるものではなく、連続シェルを、特には化学的被着により、直接形成することができる第1金属材料およびこの能力は持たないが粉末状態で蝋付けを施すことができる第2金属材料によって形成される全ての金属体に適用可能である。
【0040】
第2金属材料としては、例えば、合金鉄(標準および耐熱鋼)またはニッケル、コバルト、クロム、銅、銀もしくは金を基礎とする合金の粉末が挙げられる。
【0041】
この技術は球以外の形状である中空立方体または小型管もしくは大型管に適用することもできる。この技術は要求に応じて材料を製造することも可能である。物体を設計し、形成体を製造し、かつ最終材料を製造する、いわゆる「設計による材料(material by design)」アプローチである。したがって、形成体によって、球状ではなく、あらゆる形状の中空物体にこの技術を適用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料を含まない中心空間を取り巻く全面が第1金属材料で作製されるシェルを各々含む多数の基本体、並びに該シェルの内面および/または外面を覆う前記第1金属材料とは異なる第2金属材料を基礎とする粒子から多数の中空金属体を同時に製造するための方法であって、各体の該粒子が蝋付け金属の析出を予め受容しており、かつ蝋付けによって互いに接続することを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の中空金属体の製造方法において、前記第1金属材料がニッケルおよび/またはコバルトからなることを特徴とする中空金属体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の中空金属体の製造方法において、前記第2金属材料がニッケルおよび/またはコバルトを基礎とする超合金からなることを特徴とする中空金属体の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の中空金属体の製造方法において、ホウ素またはリンを含みニッケルおよび/またはコバルトを基礎とする合金を前記蝋付け金属として用いて前記蝋付けを行うことを特徴とする中空金属体の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の中空金属体の製造方法において、ニッケル塩および/またはコバルト塩並びにホウ素またはリンの化合物を含む浴を用いる化学的被着によって前記蝋付け金属が得られることを特徴とする中空金属体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の中空金属体の製造方法において、前記蝋付け金属が前記粒子のコーティングの形態であることを特徴とする中空金属体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の中空金属体の製造方法において、前記蝋付けの最中に熱分解によって除去される接着剤による接着によって前記粒子が作製されることを特徴とする中空金属体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の中空金属体の製造方法において、前記基本体の前記中心空間が空であり、前記粒子が前記シェルの外面を覆うことを特徴とする中空金属体の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の中空金属体の製造方法において、前記基本体の全てを覆う前記粒子を前記蝋付けすることによって単一の発泡金属構造が得られるように前記基本体を相互接触させることを特徴とする中空金属体の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の中空金属体の製造方法において、前記基本体の前記中心空間を有機材料で作製されるコアが占め、前記粒子を前記コア上に適用して前記第1金属材料の化学析出で全体を覆うことによって前記基本体が得られ、かつ前記コアが前記蝋付けの最中に熱分解によって除去されることを特徴とする中空金属体の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の中空金属体の製造方法において、前記第1金属材料が前記蝋付け後の選択的化学的攻撃によって除去されることを特徴とする中空金属体の製造方法。
【請求項12】
請求項10に記載の中空金属体の製造方法において、前記第1金属材料を前記蝋付け後にアルミナ化によって変換することを特徴とする中空金属体の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の中空金属体の製造方法において、前記シェルの形状が実質的に球状であることを特徴とする中空金属体の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の中空金属体の製造方法によって得ることができる中空金属体の組であって、各々の中空体は、空の中心空間を取り巻く全面がニッケルおよび/またはコバルトを基礎とする超合金の層を含むことを特徴とする中空金属体の組。

【公表番号】特表2009−500523(P2009−500523A)
【公表日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−519967(P2008−519967)
【出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【国際出願番号】PCT/FR2006/001643
【国際公開番号】WO2007/006945
【国際公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(508006470)オネラ(オフィス・ナショナル・ドゥエチュード・エ・ドゥ・ルシェルチェ・アエロスパシャル) (5)
【氏名又は名称原語表記】ONERA (OFFICE NATIONAL D’ETUDES ET DE RECHERCHES AEROSPATIALES)
【Fターム(参考)】