説明

中継装置

【課題】受信アンテナにより無線受信された信号を送信アンテナにより無線送信する中継装置で、回り込み波を効果的に除去する。
【解決手段】例えば、FFT窓位置補正部の位相傾き算出部では、第2位相特性取得手段31、32が第1の位相特性に基づいて所定の帯域の位相特性を用いて第2の位相特性を取得し、誤差検出手段33が第1の位相特性と第2の位相特性との誤差を検出し、重み係数取得手段34が誤差に基づいて重み係数を取得し、合成手段35が重み係数に基づいて第1の位相特性と第2の位相特性を合成し、位相傾き検出処理手段36が合成結果に基づいて位相傾きを検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、受信周波数と送信周波数が同一であり、送信信号が受信アンテナに干渉する回り込み波(回り込み信号)を除去する中継装置に関し、特に、回り込み波を効果的に除去する中継装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地上デジタル放送の中継方式に、オンエアの放送波を受信し、受信周波数と同一の周波数で再送信するSFN(Single Frequency Network)中継がある。SFN中継では、送受信の周波数が同一であるため、送信信号が受信アンテナに回り込み、信号の劣化や発振を引き起こす可能性がある。このため、回り込み波をキャンセルする回り込みキャンセラを備えた中継方式が採用されている。
【0003】
一例に係るキャンセル方式では、キャンセル後の周波数特性X(ω)を算出し、周波数特性X(ω)から主波Dを抽出し、(式1)に示される回り込み波のキャンセル残差成分や、(式2)に示されるマルチパス等化残差成分を算出する。
ここで、主波Dは周波数特性X(ω)に含まれる直流成分とし、(式3)により算出方式が示される。また、ωは角周波数を表し、Nは1以上の整数を表す。
【数1】

【数2】

【数3】

【0004】
キャンセル残差EFB(ω)は(式4)に示されるIFFT(Inverse Fast Fourier Transform)処理により時間信号に変換され、(式5)に示されるフィルタ係数更新式に適用して、キャンセル動作を実現する。
同様に、マルチパス等化残差EFF(ω)は(式6)に示されるIFFT処理により時間信号に変換され、(式7)に示されるフィルタ係数更新式に適用して、キャンセル動作を実現する。
ここで、(式5)、(式7)において、μは0<μ<1の範囲で設定される。また、w(t)はn(n=0、1、2、3、・・・)番目のフィルタ係数を表す。
また、tは時間(時刻)を表す。
【数4】

【数5】

【数6】

【数7】

【0005】
上記の回り込みキャンセルのアルゴリズムにおいて、周波数特性X(ω)の導出には、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)信号に既知信号として挿入されているパイロットキャリアを用いることが多い。また、この周波数特性X(ω)には、理想的な通信路の周波数特性をX(ω)とすると、(式8)に示されるように、X(ω)に対してOFDM時間信号に設けるFFT(Fast Fourier Transform)時間窓の位置ずれτに起因する位相回転が生じる。FFT時間窓位置は、OFDMシンボルの有効シンボルタイミングに一致するときには、周波数特性X(ω)の回転は発生しないが、有効シンボルからの時間ずれτに応じて回転が発生する。
ここで、jは虚数を表す。
【数8】

【0006】
上述のように、主波Dは周波数特性X(ω)に含まれる直流成分としているが、(式8)に示されるような回転が生じている周波数特性X(ω)を用いて(式3)に示される主波抽出処理を行っても、主波Dを正しく算出することができない。このため、例えば、FFT窓位置ずれの影響を除去する方式が検討されている。
(式8)における位相成分ωτは、周波数ωに対してFFT窓位置ずれ時間τに比例した一次傾斜となる。しかしながら、図7に示されるように、実際には、ノイズ等の影響により一次傾斜特性にばらつきが生じる。
【0007】
図7には、FFT窓位置ずれによる位相特性の一例を示してある。
グラフの横軸は角周波数ωを表しており、グラフの縦軸は位相特性θ(ω)を表している。
グラフでは、検出した位相特性θ(ω)を示してあるとともに、最小二乗法による推定の結果を示してある。
【0008】
FFT窓位置ずれの影響を除去する方式の一例では、最小二乗法を用いてばらつきのある位相特性から理想的な一次傾斜の傾きを求めることで、FFT窓位置ずれを算出している。そして、算出したFFT窓位置ずれをτとすると、(式9)を用いて、FFT窓位置ずれを補正することが行われる。
(式9)において、τ=τとなれば、理想的な周波数特性X(ω)が得られ、高精度な回り込みキャンセルが可能となる。
【数9】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−272767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
例えば、図8に示されるような地上デジタル放送の多段中継システムでは、隣接チャンネルへの干渉を軽減するために、送信部或いは受信部に狭帯域のフィルタを接続する場合がある。
図8には、地上デジタル放送の多段中継システムの一例を示してある。
本例の多段中継システムでは、1段目の中継装置は、受信アンテナ101、受信変換器102、等化装置103、送信変換器104、送信フィルタ105、送信アンテナ106を備えており、また、2段目の中継装置は、受信アンテナ111、受信変換器112、回り込みキャンセラ113、送信変換器114、送信フィルタ115、送信アンテナ116を備えている。
なお、OFDM方式では、例えば、送信変換器104、114でIFFTの処理が行われ、受信変換器102、112でFFTの処理が行われる。
【0011】
ここで、狭帯域のフィルタでは群遅延が大きく、特に、帯域端の位相特性が線形位相ではなくなる。上述のように、最小二乗法を用いるFFT窓位置補正方式では、線形位相であることを前提にして、位相の一次傾斜の傾きを算出しているため、帯域端の位相特性が歪むような場合には、正しい傾きを算出することができなくなる。そして、この推定誤りにより回り込みキャンセラが発振してしまうという問題が生じる。
【0012】
このように、例えば、上位局で狭帯域フィルタ等による位相歪みが大きな環境下において、主波成分Dを正しく抽出することができず、主波成分Dの誤差により正しい時間位置にフィルタのタップ係数を生成することができず、信号品質劣化や発振が生じてしまう。
【0013】
本発明は、このような従来の事情に鑑み為されたもので、回り込み波を効果的に除去することができる中継装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明では、受信アンテナにより無線受信された信号を送信アンテナにより無線送信する中継装置において、次のような構成とした。
すなわち、減算手段が、前記受信アンテナの側からの信号から所定の第1信号を減算する。フィルタ手段が、前記減算手段による減算結果の信号をフィルタリングし、当該フィルタリング結果の信号を前記所定の第1信号として前記減算手段へ供給するとともに、当該フィルタリングにおいて得られる所定の第2信号を前記送信アンテナの側へ供給する。周波数特性検出手段が、前記送信アンテナの側へ供給される前記所定の第2信号について周波数特性を検出する。周波数特性補正手段が、前記周波数特性検出手段により検出された周波数特性に対して補正を行う。フィルタ制御手段が、前記周波数特性補正手段により得られた結果に基づいて、前記フィルタ手段によるフィルタリングを制御する。
【0015】
前記周波数特性補正手段では、次のような構成とした。
すなわち、極座標成分取得手段が、前記周波数特性検出手段により検出された周波数特性について、極座標における振幅成分と位相成分を取得する。第1位相特性取得手段が、前記極座標成分取得手段により取得された位相成分について連続化を行って、第1の位相特性を取得する。位相傾き検出手段が、前記第1位相特性取得手段により取得された第1の位相特性に基づいて、位相の傾きを検出する。位相傾き補正手段が、前記位相傾き検出手段により検出された位相の傾き及び前記極座標成分取得手段により取得された振幅成分に基づいて、補正後の周波数特性を取得する。
【0016】
前記位相傾き検出手段では、次のような構成とした。
すなわち、第2位相特性取得手段が、前記第1位相特性取得手段により取得された第1の位相特性に基づいて、所定の帯域の位相特性を用いて第2の位相特性を取得する。誤差検出手段が、前記第1位相特性取得手段により取得された第1の位相特性と前記第2位相特性取得手段により取得された第2の位相特性との誤差を検出する。重み係数取得手段が、前記誤差検出手段により検出された誤差に基づいて重み係数を取得する。合成手段が、前記重み係数取得手段により取得された重み係数に基づいて、前記第1位相特性取得手段により取得された第1の位相特性と前記第2位相特性取得手段により取得された第2の位相特性を合成する。位相傾き検出処理手段が、前記合成手段により得られた合成結果に基づいて、位相傾きを検出する。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明に係る中継装置によると、回り込み波を効果的に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施例に係る中継装置の構成例を示す図である。
【図2】SPの配置の一例を示す図である。
【図3】各種の位相特性の例を示す図である。
【図4】FFT窓位置補正部の構成例を示す図である。
【図5】位相傾き算出部の構成例を示す図である。
【図6】(a)、(b)はそれぞれ重み係数の例を示す図である。
【図7】FFT窓位置ずれによる位相特性の一例を示す図である。
【図8】地上デジタル放送の多段中継システムの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る実施例を図面を参照して説明する。
図1には、本発明の一実施例に係る中継装置の構成例を示してある。
本例の中継装置は、受信アンテナ1、減算器2、FF(Feed Forward)複素FIR(Finite Impulse Response)フィルタ部3、FB(Feed Back)複素FIRフィルタ部4、送信アンテナ5、周波数特性推定部11、FFT窓位置補正部12、残差算出部13、IFFT部14、係数更新部15、IFFT部16、係数更新部17を備えている。
また、図1には、送信アンテナ5から受信アンテナ1への回り込み伝送路6を示してある。
【0020】
ここで、図1では、一部の図示を省略しているが、本例の中継装置は、例えば、図8に示される2段目の中継装置と同様な構成を有しており、図8に示される受信アンテナ111、送信アンテナ116がそれぞれ図1に示される受信アンテナ1、送信アンテナ5に対応しており、図8に示される受信変換器112、送信変換器114、送信フィルタ115は図1では図示を省略しており、図8に示される回り込みキャンセラ113の構成例に対応する処理部2〜4、11〜17が図1に示されている。
【0021】
本例の中継装置において行われる動作の例を示す。
本例では、中継装置が、親局から無線により送信された信号(親局信号)を受信して、その信号を子局に対して無線により送信する場合を示す。ここで、親局や子局としては、それぞれ、種々な装置が用いられてもよい。
また、本例では、OFDM方式の信号を通信する場合を示す。
【0022】
受信アンテナ1は、親局信号と自局の回り込み波との合成信号を受信する。この受信信号は受信変換器等を経由してベースバンド帯域の信号へ変換され、当該信号は減算器2のプラス(+)端子に入力される。
減算器2のマイナス(−)端子には、減算器2からの出力信号がFF複素FIRフィルタ部3及びFB複素FIRフィルタ部4を経由した信号が接続(入力)される。
減算器2は、受信アンテナ1からの入力信号から、FB複素FIRフィルタ部4からの入力信号を減算し、その結果の信号をFF複素FIRフィルタ部3へ出力する。
【0023】
FF複素FIRフィルタ部3は、減算器2からの入力信号をフィルタリングして、その結果の信号をFB複素FIRフィルタ部4、送信アンテナ5、周波数特性推定部11へ出力する。ここで、FF複素FIRフィルタ部3からの出力信号は、回り込みキャンセラの出力信号として出力されるとともに、FB複素FIRフィルタ部4や周波数特性推定部11に接続(入力)される。
FB複素FIRフィルタ部4は、FF複素FIRフィルタ部3からの入力信号をフィルタリングして、その結果の信号を減算器2へ出力する。
送信アンテナ5は、FF複素FIRフィルタ部3からの信号を子局に対して無線により送信する。この送信信号は、回り込み伝送路6を介して、受信アンテナ1により受信される。
【0024】
周波数特性推定部11は、FF複素FIRフィルタ部3からの入力信号に基づいて、そのOFDM信号に挿入されているパイロットキャリアなどを用いて、周波数特性X(ω)を算出し、その結果の信号(周波数特性X(ω))をFFT窓位置補正部12へ出力する。
例えば、地上デジタル放送方式では、送信側で振幅、位相が既知である分散パイロットキャリア(SP:Scattered Pilot)を挿入しており、周波数特性推定部11は、これらの受信パイロットキャリアを時間及び周波数方向に内挿補間を行うことにより周波数特性の推定を行い、推定した周波数特性X(ω)を算出する。
【0025】
図2には、SPの配置の一例を示してある。
横軸は周波数(キャリア:k)を表しており、縦軸は時間(シンボル:t)を表している。
【0026】
ここで、周波数特性推定部11で算出した周波数特性X(ω)は、(式8)に示されるように、FFT窓位置ずれ時間τにより、理想的な周波数特性X(ω)に対して回転が生じている。
位相変動補正型のFFT窓位置補正部12は、入力された周波数特性X(ω)に対して、(式9)に示されるようにFFT窓位置ずれ(τ)による回転成分を除去することができる補正(補償)処理を行い、その結果の信号を残差算出部13へ出力する。
【0027】
残差算出部13は、FFT窓位置補正部12からの入力信号に基づいて、(式1)に示される回り込み波のキャンセル残差成分EFB(ω)や、(式2)に示されるマルチパス等化残差成分EFF(ω)を算出し、回り込み波のキャンセル残差成分EFB(ω)をIFFT部14へ出力し、マルチパス等化残差成分EFF(ω)をIFFT部16へ出力する。
【0028】
IFFT部14は、入力された回り込み波のキャンセル残差成分EFB(ω)に対して、(式4)に示される変換式を用いて、時間信号eFB(t)へ変換し、その結果の信号を係数更新部15へ出力する。
係数更新部15は、(式5)に基づいて、入力された時間信号eFB(t)を用いて、FB複素FIRフィルタ部4に与える係数(フィルタ係数)を生成して、FB複素FIRフィルタ部4へ出力する。
【0029】
IFFT部16は、入力されたマルチパス等化残差成分EFF(ω)に対して、(式6)に示される変換式を用いて、時間信号eFF(t)へ変換し、その結果の信号を係数更新部17へ出力する。
係数更新部17は、(式7)に基づいて、入力された時間信号eFF(t)を用いて、FF複素FIRフィルタ部3に与える係数(フィルタ係数)を生成して、FF複素FIRフィルタ部3へ出力する。
【0030】
FF複素FIRフィルタ部3では、回り込み波のレプリカを形成し、これにより、減算器2によって受信信号から回り込み波をキャンセルする。
また、FB複素FIRフィルタ部4では、親局と自局との間のマルチパス歪み等の伝送路特性の逆特性を形成し、マルチパス歪みを補正する。
【0031】
以上で本例の中継装置の概要を説明したが、上述したように、例えば、上位局の送信部に狭帯域フィルタが接続されているような場合には、大きな群遅延特性により帯域端の位相特性が歪み、正しいFFT窓位置ずれτを算出することができない。
そこで、本例では、このような場合においても、正しいFFT窓位置ずれτを算出することを可能とする。
【0032】
図3には、各種の位相特性の例を示してある。
グラフの横軸は角周波数ωを表しており、グラフの縦軸は位相特性θ(ω)を表している。
具体的には、理想的な位相特性、大きな推定誤差がある場合における推定した位相特性、位相歪みがある場合における位相特性を示してある。
【0033】
本例の中継装置における更に詳細な動作について説明する。
図4には、FFT窓位置補正部12の構成例を示してある。
本例のFFT窓位置補正部12は、極座標変換部21、位相連続化部22、位相傾き算出部23、位相傾き補正部24を備えている。
【0034】
本例のFFT窓位置補正部12において行われる動作の例を示す。
周波数特性推定部11からの周波数特性X(ω)は、極座標変換部21に入力される。
極座標変換部21は、直交座標系で表わされた周波数特性X(ω)を極座標系の振幅r(ω)と位相θ(ω)へ変換し、振幅r(ω)を位相傾き補正部24へ出力し、位相θ(ω)を位相連続化部22へ出力する。
ここで、(式10)が成り立つ。θ(ω)は、0≦θ(ω)<2πの範囲である。
【数10】

【0035】
位相連続化部22は、入力された極座標系に変換された位相成分θ(ω)に対して、(式11)に示されるように、位相の連続化の処理を行い、その結果の信号θcont(ω)を位相傾き算出部23へ出力する。
なお、(式11)において、「otherwise」は、「他の場合」を示している。
【数11】

【0036】
位相傾き算出部23は、入力された連続化された位相θcont(ω)に対して、位相の一次傾斜Δθを算出し、その結果の信号を位相傾き補正部24へ出力する。
位相傾き補正部24は、入力された極座標系に変換された振幅成分r(ω)に対して、入力された位相の一次傾斜Δθに基づいて位相傾きを補正し、その結果の信号を残差算出部13へ出力する。
【0037】
しかしながら、図3に示されるように、例えば、狭帯域フィルタによる帯域端の位相歪みが大きいと、位相傾きの推定精度が劣化してしまう。
そこで、本例では、位相傾き算出部23の構成を、図5に示される構成に置き換えることにより、帯域の中心部での位相傾きとの誤差が大きい場合には、その影響度を軽減するような補正係数を導入し、位相傾きの推定精度の向上を図る。
【0038】
図5には、位相傾き算出部23の構成例を示してある。
本例の位相傾き算出部23は、帯域中心部位相傾き算出部31、位相特性推定部32、位相誤差算出部33、重み係数算出部34、合成部35、位相傾き算出処理部36を備えている。
【0039】
本例の位相傾き算出部23において行われる動作の例を示す。
位相連続化部22により連続化された位相θcont(ω)が、帯域中心部位相傾き算出部31、位相誤差算出部33、合成部35に入力される。
帯域の中心部では狭帯域フィルタでの位相歪みの影響は少ないため、帯域中心部位相傾き算出部31は、連続化された位相θcont(ω)を用いて、帯域の中心部(−ωcenter<ω<ωcenter)での位相傾きΔθcenterを最小二乗法等の推定方法により算出し、その結果の信号を位相特性推定部32へ出力する。
なお、ωcenterは、帯域の中心部を区切る閾値であり、正の値とする。
ここで、最小二乗法としては例えば一般的なものを用いることができ、最小二乗法により算出した位相傾きΔθcenterの結果を(式12)に示す。Lは所定の値を表す。
【数12】

【0040】
位相特性推定部32は、入力された帯域中心部の位相傾きΔθcenterを用いて、位相特性は一次傾斜であるとして、(式13)により、全ての帯域における推定した位相特性θcenter(ω)を算出し、その結果の信号を位相誤差算出部33、合成部35へ出力する。
なお、θcenter(0)は、ω=0での値であり、例えば、検出された値或いは予め設定された値が用いられる。
【数13】

【0041】
位相誤差算出部33は、入力された推定位相特性θcenter(ω)及び連続化された位相θcont(ω)を用いて、(式14)に示されるように、帯域中心部の位相特性から推定した帯域全体の位相特性θcenter(ω)と連続化された位相θcont(ω)との誤差ε(ω)を算出し、その結果の信号を重み係数算出部34へ出力する。
【数14】

【0042】
ここで、誤差ε(ω)の絶対値が大きいときには、理想的な一次傾斜の位相特性との間に大きな誤差があり、本例では、これは狭帯域フィルタによる位相歪みにより生じたものと判断する。帯域中心部位相傾き算出部31では帯域の中心部での位相特性θcont(ω)(但し、−ωcenter<ω<ωcenter)から帯域中心部での位相傾きΔθcenterを算出していたが、本例では、後続する位相傾き算出処理部36で、位相傾きの推定精度を向上させるために、帯域全体の位相特性θcont(ω)(但し、ωは全ての帯域)から位相傾きを算出する。
そこで、本例では、誤差ε(ω)の絶対値が大きいときには位相傾き算出処理部36で位相傾きを検出する際の影響度を低減させるような重み係数a(ω)を導入する。
【0043】
重み係数算出部34は、入力された誤差ε(ω)に基づいて、当該誤差ε(ω)の絶対値|ε(ω)|(ここでは、2乗値)を算出し、その値|ε(ω)|が大きいときには、算出した位相特性θcont(ω)の影響度を下げるとともに帯域中心部から推定した位相特性θcenter(ω)の影響度を上げる一方、その値|ε(ω)|が小さいときには、算出した位相特性θcont(ω)の影響度を上げるとともに帯域中心部から推定した位相特性θcenter(ω)の影響度を下げるような重み係数a(ω)を決定して、合成部35へ出力する。
【0044】
図6(a)には重み係数a(ω)の一例を示してあり、図6(b)には重み係数a(ω)の他の一例を示してある。
図6(a)、(b)のグラフでは、横軸は誤差ε(ω)の絶対値|ε(ω)|(ここでは、2乗値)を表しており、縦軸は重み係数a(ω)を表している。
【0045】
合成部35は、入力された連続化された位相θcont(ω)、推定位相特性θcenter(ω)、重み係数a(ω)を用いて、補正位相特性θcomp(ω)を算出し、その結果の信号を位相傾き算出処理部36へ出力する。
ここで、本例では、後続する位相傾き算出処理を容易にすることができるように、(式15)により、補正位相特性θcomp(ω)を算出する。
【数15】

【0046】
例えば、帯域端で誤差ε(ω)が大きい周波数ωでは、(式15)の右辺の第一項目のa(ω)は0に近い値となり、検出した位相特性θcont(ω)の影響度は小さくなり、逆に、(式15)の右辺の第二項目の{1−a(ω)}は1に近い値となり、帯域中心部から推定した位相特性θcenter(ω)の影響度は大きくなる。
【0047】
位相傾き算出処理部36は、入力された補正された位相特性θcomp(ω)に対して、(式16)に示されるような最小二乗法等の位相傾き推定方式を用いて、位相傾きΔθcomp(本例では、Δθcomp=Δθとなる)を算出し、その結果の信号を位相傾き補正部24へ出力する。ここで、最小二乗法等の位相傾き推定方式としては、例えば、従来と同様な方式を用いることが可能である。Lは所定の値を表す。
なお、ωmaxは、例えば、帯域を区切る閾値であり、正の値とする。
【数16】

【0048】
以上で説明した本例の位相傾き推定方式により、本例では、例えば、狭帯域フィルタ等により帯域端の位相歪みが生じているような環境であっても、位相傾きの推定精度の劣化を低減させることができる。
【0049】
しかしながら、(式15)による補正はあくまでも、誤差が大きい位相特性を無視することにより或いはその影響度を小さくすることにより、推定精度の劣化を低減させているため、狭帯域フィルタを有さない環境の特性と比較すると推定精度は劣化してしまうと考えられる。FFT窓位置ずれτを正確に算出するためには、できる限り雑音の影響を軽減するように帯域全体の位相特性を用いて位相傾きを推定した方が良い。
【0050】
この問題を解決するために、本例では、残差算出部13で算出した補正特性を用いてFF複素FIRフィルタ部3にフィードバック補正を行うことにより、帯域端の位相歪みも徐々に軽減することができる。位相歪みが補正されるに従って、位相誤差ε(ω)の値も徐々に小さくなっていく。この操作を繰り返すことにより、最終的には、全ての周波数ωでの重み係数a(ω)が1となり、位相特性の情報θcont(ω)を全て有効に利用できるようになる。
【0051】
ここで、本例では、狭帯域フィルタによる位相歪みが大きい場合について例示したが、それ以外にも種々な場合に適用することができ、例えば、位相特性の歪みが大きいような伝搬路環境に応用することができる。例えば、回り込み波の急激な変動が生じた場合には、位相特性に急峻なピークが複数発生してしまうことがあるが、このような場合にも位相特性のピーク位置での位相誤差ε(ω)は大きくなるため、位相傾き推定での影響度は少なくなる。
また、他にも、例えば、アナログ放送波やそれ以外の干渉による位相歪みが生じているような環境に適用することが可能である。
【0052】
以上のように、本例の中継装置では、受信装置(受信機)からの信号が減算器2の+端子に供給され、減算器2の−端子には減算器2からの出力が適応フィルタ(本例では、FF複素FIRフィルタ部3やFB複素FIRフィルタ部4)を経由した信号が供給され、
前記適応フィルタはマルチパスや自局の送信信号の回り込み波をキャンセルするように機能し、
減算器2からの出力信号について回り込み波がキャンセルされた後の信号の周波数特性X(ω)を算出し、算出した周波数特性X(ω)に対して同相成分と直交成分から成る直交座標系から振幅成分と位相成分から成る極座標系へ変換する操作を行い、位相成分を直線化し、第一次位相特性(本例では、θcont(ω))を推定する機能と、
直線化された位相成分の中で位相歪みが少ない一次傾斜特性を有している帯域の位相特性から第二次位相特性(本例では、θcenter(ω))を推定する機能と、
第一次位相特性θcont(ω)と第二次位相特性θcenter(ω)との誤差ε(ω)を算出し、誤差ε(ω)に基づいて重み係数a(ω)を算出する機能と、
第一次位相特性θcont(ω)と第二次位相特性θcenter(ω)とを重み係数a(ω)に基づいて合成する機能と、
この合成により得られた位相特性θcomp(ω)から位相特性の傾きΔθcompを算出する機能と、
前記した極座標変換部21から得られた第一次位相成分に対して、得られた位相特性の傾き成分Δθcompに基づいて、第一次位相特性θcont(ω)の傾きを除去した位相補正結果と、極座標変換部21から得られた振幅成分に基づいて直交座標系に再変換する機能と、を備えた。
【0053】
ここで、本例では、重み係数a(ω)に基づいて、誤差が少ない場合には、第一次位相特性θcont(ω)の影響を大きくして、誤差が大きい場合には、第二次位相特性θcenter(ω)の影響を大きくして、第一次位相特性θcont(ω)と第二次位相特性θcenter(ω)とを合成する。
このような構成により、本例では、FFT窓位置ずれの影響を高精度に補正することができ、位相歪みによる位相傾きの推定精度の劣化を軽減することができる。
【0054】
また、本例の中継装置では、更に、上記した機能により得られた周波数特性X(ω)に基づいて回り込み波のキャンセル残差成分EFB(ω)を推定し、キャンセル残差成分が小さくなるように前記適応フィルタのフィルタ係数を算出する機能を備えた。
また、本例の中継装置では、更に、上記した機能により得られた周波数特性X(ω)に基づいてマルチパス等化残差成分EFF(ω)を推定し、マルチパス等化残差成分が小さくなるように前記適応フィルタのフィルタ係数を算出する機能を備えた。
【0055】
従って、本例では、受信信号から自局の送信信号の回り込み波をキャンセルする適応フィルタを有する中継装置(中継機)や、このような回り込み波をキャンセルする機能を有する回り込みキャンセラなどにおいて、例えば、上位局で狭帯域フィルタ等による位相歪みが大きいような環境下であっても、FFT窓位置のずれによる影響を高精度に除去(補正)することができ、安定した回り込み波のキャンセル動作を実現することができる。
【0056】
一例として、群遅延が大きいフィルタを有する中継システムにおいても、高精度な回り込みキャンセルを実現することができる。例えば、地上デジタル放送で隣接チャンネルとの干渉を低減する狭帯域で群遅延が大きいフィルタを備える回り込みキャンセラ付き中継機において、受信信号から自局の回り込み波をキャンセルする適応フィルタを備え、キャンセル後の周波数特性を極座標変換し、一次位相特性と二次位相特性とを合成し、適応フィルタの係数を算出する、ことなどが可能である。
【0057】
(以下、構成例の説明)
一構成例(図1に関する構成例)として、受信アンテナ1により無線受信された信号を送信アンテナ5により無線送信する中継装置において、次のような構成とした。
すなわち、減算手段(減算器2の機能)が、前記受信アンテナ1の側からの信号から所定の第1信号を減算する。フィルタ手段(FF複素FIRフィルタ部3及びFB複素FIRフィルタ部4の機能)が、前記減算手段による減算結果の信号をフィルタリングし、当該フィルタリング結果の信号を前記所定の第1信号として前記減算手段へ供給するとともに、当該フィルタリングにおいて得られる所定の第2信号(FF複素FIRフィルタ部3からの出力信号)を前記送信アンテナ5の側へ供給する。周波数特性検出手段(周波数特性推定部11の機能)が、前記送信アンテナ5の側へ供給される前記所定の第2信号について周波数特性X(ω)を(例えば、推定的に)検出する。周波数特性補正手段(FFT窓位置補正部12の機能)が、前記周波数特性検出手段により検出された周波数特性X(ω)に対して補正を行う。フィルタ制御手段(残差算出部13やIFFT部14、16や係数更新部15、17の機能)が、前記周波数特性補正手段により得られた結果に基づいて、前記フィルタ手段によるフィルタリングを制御する。
【0058】
一構成例(図4に関する構成例)として、前記周波数特性補正手段(FFT窓位置補正部12の機能)では、次のような構成とした。
すなわち、極座標成分取得手段(極座標変換部21の機能)が、前記周波数特性検出手段により検出された周波数特性X(ω)について、極座標における振幅成分r(ω)と位相成分θ(ω)を取得する。第1位相特性取得手段(位相連続化部22の機能)が、前記極座標成分取得手段により取得された位相成分θ(ω)について連続化を行って、第1の位相特性θcont(ω)を取得する。位相傾き検出手段(位相傾き算出部23の機能)が、前記第1位相特性取得手段により取得された第1の位相特性θcont(ω)に基づいて、位相の傾きΔθを検出する。位相傾き補正手段(位相傾き補正部24の機能)が、前記位相傾き検出手段により検出された位相の傾きΔθ及び前記極座標成分取得手段により取得された振幅成分r(ω)に基づいて、補正後の周波数特性を取得する。
【0059】
一構成例(図5に関する構成例)として、前記位相傾き検出手段(位相傾き算出部23の機能)では、次のような構成とした。
すなわち、第2位相特性取得手段(帯域中心部位相傾き算出部31や位相特性推定部32の機能)が、前記第1位相特性取得手段により取得された第1の位相特性θcont(ω)に基づいて、所定の帯域(例えば、処理対象となる全体の帯域のうちの所定の中心部に対応する帯域部分)の位相特性を用いて(全体の帯域における)第2の位相特性θcenter(ω)を取得する。誤差検出手段(位相誤差算出部33の機能)が、前記第1位相特性取得手段により取得された第1の位相特性θcont(ω)と前記第2位相特性取得手段により取得された第2の位相特性θcenter(ω)との誤差ε(ω)を検出する。重み係数取得手段(重み係数算出部34の機能)が、前記誤差検出手段により検出された誤差ε(ω)に基づいて重み係数a(ω)を取得する。合成手段(合成部35の機能)が、前記重み係数取得手段により取得された重み係数a(ω)に基づいて、前記第1位相特性取得手段により取得された第1の位相特性θcont(ω)と前記第2位相特性取得手段により取得された第2の位相特性θcenter(ω)を合成する。位相傾き検出処理手段(位相傾き算出処理部36の機能)が、前記合成手段により得られた合成結果θcomp(ω)に基づいて、位相傾きΔθcomp(=Δθ)を検出する。
【0060】
ここで、本例の図1の構成例では、減算器2からの出力信号がFF複素FIRフィルタ部3を通過した後の信号について、周波数特性推定部11により周波数特性X(ω)を推定する構成例を示したが、他の構成例として、FF複素FIRフィルタ部3及びFB複素FIRフィルタ部4の代わりに、減算器2からの出力信号をフィルタリングする1つのフィルタ部をFB複素FIRフィルタ部4の位置に備え、2つのIFFT部14、16及び2つの係数更新部15、17の代わりに、1つのIFFT部及び1つの係数更新部を前記1つのフィルタ部に対して備え、減算器2からの出力信号がそのまま送信アンテナ5の側と周波数特性推定部11へ出力され、周波数特性推定部11が減算器2からの出力信号について周波数特性を推定する、ような構成が用いられてもよい。
(以上、構成例の説明)
【0061】
ここで、本発明に係るシステムや装置などの構成としては、必ずしも以上に示したものに限られず、種々な構成が用いられてもよい。また、本発明は、例えば、本発明に係る処理を実行する方法或いは方式や、このような方法や方式を実現するためのプログラムや当該プログラムを記録する記録媒体などとして提供することも可能であり、また、種々なシステムや装置として提供することも可能である。
また、本発明の適用分野としては、必ずしも以上に示したものに限られず、本発明は、種々な分野に適用することが可能なものである。
また、本発明に係るシステムや装置などにおいて行われる各種の処理としては、例えばプロセッサやメモリ等を備えたハードウエア資源においてプロセッサがROM(Read Only Memory)に格納された制御プログラムを実行することにより制御される構成が用いられてもよく、また、例えば当該処理を実行するための各機能手段が独立したハードウエア回路として構成されてもよい。
また、本発明は上記の制御プログラムを格納したフロッピー(登録商標)ディスクやCD(Compact Disc)−ROM等のコンピュータにより読み取り可能な記録媒体や当該プログラム(自体)として把握することもでき、当該制御プログラムを当該記録媒体からコンピュータに入力してプロセッサに実行させることにより、本発明に係る処理を遂行させることができる。
【符号の説明】
【0062】
1、101、111・・受信アンテナ、 2・・減算器、 3・・FF複素FIRフィルタ部、 4・・FB複素FIRフィルタ部、 5、106、116・・送信アンテナ、 6・・回り込み伝送路、 11・・周波数特性推定部、 12・・FFT窓位置補正部、 13・・残差算出部、 14、16・・IFFT部、 15、17・・・係数更新部、 21・極座標変換部、 22・・位相連続化部、 23・・位相傾き算出部、 24・・位相傾き補正部、 31・・帯域中心部位相傾き算出部、 32・・位相特性推定部、 33・・位相誤差算出部、 34・・重み係数算出部、 35・・合成部、 36・・位相傾き算出処理部、 102、112・・受信変換器、 103・・等化装置、 104、114・・送信変換器、 105、115・・送信フィルタ、 113・・回り込みキャンセラ、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信アンテナにより無線受信された信号を送信アンテナにより無線送信する中継装置において、
前記受信アンテナの側からの信号から所定の第1信号を減算する減算手段と、
前記減算手段による減算結果の信号をフィルタリングし、当該フィルタリング結果の信号を前記所定の第1信号として前記減算手段へ供給するとともに、当該フィルタリングにおいて得られる所定の第2信号を前記送信アンテナの側へ供給するフィルタ手段と、
前記送信アンテナの側へ供給される前記所定の第2信号について周波数特性を検出する周波数特性検出手段と、
前記周波数特性検出手段により検出された周波数特性に対して補正を行う周波数特性補正手段と、
前記周波数特性補正手段により得られた結果に基づいて、前記フィルタ手段によるフィルタリングを制御するフィルタ制御手段と、を備え、
前記周波数特性補正手段は、前記周波数特性検出手段により検出された周波数特性について極座標における振幅成分と位相成分を取得する極座標成分取得手段と、
前記極座標成分取得手段により取得された位相成分について連続化を行って、第1の位相特性を取得する第1位相特性取得手段と、
前記第1位相特性取得手段により取得された第1の位相特性に基づいて、位相の傾きを検出する位相傾き検出手段と、
前記位相傾き検出手段により検出された位相の傾き及び前記極座標成分取得手段により取得された振幅成分に基づいて、補正後の周波数特性を取得する位相傾き補正手段と、を有し、
前記位相傾き検出手段は、前記第1位相特性取得手段により取得された第1の位相特性に基づいて、所定の帯域の位相特性を用いて第2の位相特性を取得する第2位相特性取得手段と、
前記第1位相特性取得手段により取得された第1の位相特性と前記第2位相特性取得手段により取得された第2の位相特性との誤差を検出する誤差検出手段と、
前記誤差検出手段により検出された誤差に基づいて重み係数を取得する重み係数取得手段と、
前記重み係数取得手段により取得された重み係数に基づいて、前記第1位相特性取得手段により取得された第1の位相特性と前記第2位相特性取得手段により取得された第2の位相特性を合成する合成手段と、
前記合成手段により得られた合成結果に基づいて、位相傾きを検出する位相傾き検出処理手段と、を有する、
ことを特徴とする中継装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−39300(P2012−39300A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176372(P2010−176372)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】