説明

中間値回路および耐故障性回路

【課題】 精度の高い中間値回路を提供する。
【解決手段】 中間値回路1は、第1の入力端子10a、第2の入力端子10bおよび第3の入力端子10c、処理回路部20、ならびに出力端子30を備えている。処理回路部20は、入力端子10a,10b,10cから出力端子30に至る経路中に設けられた演算増幅器22a,22b,22c,24を含んで構成されており、入力端子10a,10b,10cからそれぞれ入力された入力電圧V,V,Vを処理し、これらの入力電圧の中で中間値に相当する電圧を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中間値回路および耐故障性回路に関する。
【背景技術】
【0002】
x≧y≧zという関係を満たす変数x,y,zについて、次の式で定義される関数med(x,y,z)を中間値関数という。
【数1】

中間値回路は、かかる中間値関数を実装したものであり、入力電圧の中間値を出力するように機能する。
【0003】
従来の中間値回路としては、例えば特許文献1に記載されたものがある。同文献に記載の中間値回路は、3つの入力電圧の中間値を出力するように、MOS型トランジスタから構成された最大値回路および最小値回路が適宜組み合わされて構成されている。すなわち、この中間値回路は、次式に示すように、中間値関数を最大値関数および最小値関数の組み合わせとして表せることを利用している。
【数2】

【特許文献1】特開平7−95410号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、各トランジスタにおいて生じる電圧降下に起因して、上述の中間値回路は、所望の値すなわち入力電圧の中間値を充分に高い精度で出力することができないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による中間値回路は、第1、第2および第3の入力電圧をそれぞれ入力する第1、第2および第3の入力端子と、前記入力端子から入力された前記第1、第2および第3の入力電圧を処理し、これらの入力電圧の中で中間値に相当する電圧を生成する処理回路部と、前記処理回路部により生成された前記中間値に相当する電圧を出力する出力端子と、を備え、前記処理回路部は、前記各入力端子から前記出力端子に至る経路中に設けられた演算増幅器を含んで構成されている。これにより、電圧降下の影響を抑え、充分に高い精度を有する中間値回路を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、図面を参照しつつ、本発明による中間値回路および耐故障性回路の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては、同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0007】
(第1実施形態)
図1は、本発明による中間値回路の第1実施形態を示す回路構成図である。中間値回路1は、第1の入力電圧V、第2の入力電圧Vおよび第3の入力電圧Vを入力し、これらの入力電圧の中間値に相当する電圧を出力電圧Vとして出力する。例えば、入力電圧間にV≧V≧Vという関係があるとき、V=med(V,V,V)=Vとなる。
【0008】
中間値回路1は、第1の入力端子10a、第2の入力端子10bおよび第3の入力端子10c、処理回路部20、ならびに出力端子30を備えている。入力端子10a,10b,10cは、それぞれ入力電圧V,V,Vを入力するための端子である。また、出力端子30は、出力電圧Vを出力するための端子である。
【0009】
処理回路部20は、入力端子10a,10b,10cからそれぞれ入力された入力電圧V,V,Vを処理し、これらの入力電圧の中で中間値に相当する電圧を生成する。この処理回路部20は、複数の演算増幅器22a,22b,22cを有する。これらの演算増幅器22a,22b,22cは、入力電圧V,V,Vまたはそれらから派生する電圧が印加されるとともに、互いに出力を参照し合う。具体的には、処理回路部20の入力段には、第1の演算増幅器22a、第2の演算増幅器22bおよび第3の演算増幅器22cが設けられている。これらの演算増幅器22a,22b,22cは、各入力端子10a,10b,10cから出力端子30に至る経路中に設けられており、それぞれ入力電圧V,V,Vが直接に入力される。
【0010】
また、処理回路部20は、演算増幅器22a,22b,22cのそれぞれに、他の2つの演算増幅器22a,22b,22cから出力される電圧が入力されるように構成されている。すなわち、演算増幅器22aの出力電圧Vαは演算増幅器22bおよび演算増幅器22cのそれぞれに入力され、演算増幅器22bの出力電圧Vβは演算増幅器22cおよび演算増幅器22aのそれぞれに入力され、演算増幅器22cの出力電圧Vγは演算増幅器22aおよび演算増幅器22bのそれぞれに入力される。これにより、中間値回路1(具体的には、演算増幅器22a,22b,22c)内に正帰還が生じる。処理回路部20は、これら複数の演算増幅器22a,22b,22cによって入力電圧V,V,Vを関連付け、上記中間値に相当する電圧を出力する。
【0011】
演算増幅器22aは、増幅部222、入力抵抗224および帰還抵抗226を有して構成された加算増幅器である。入力抵抗224は3つ設けられており、それぞれには入力電圧V、電圧Vβおよび電圧Vγが入力される。帰還抵抗226は、増幅部222と並列に接続されている。すなわち、帰還抵抗226は、一端が増幅部222の入力端に接続され、他端が増幅部222の出力端に接続されている。本実施形態において、これら3つの入力抵抗224および帰還抵抗226の抵抗値は、互いに同じであり、例えば10MΩである。
【0012】
図2を参照しつつ、演算増幅器22aの回路構成をより詳細に説明する。同図に示すように、演算増幅器22aは、3入力1出力のプッシュプルCMOS加算増幅器である。増幅部222においては、PMOSトランジスタ2222とNMOSトランジスタ2224とから構成されるインバータが5段接続されている。
【0013】
すなわち、演算増幅器22aは、第1の電源端子2226にソースが接続されたPMOSトランジスタ2222と、第1の電源端子2226よりも低い電位が与えられる第2の電源端子2228にソースが接続され、PMOSトランジスタ2222のドレインにドレインが接続されたNMOSトランジスタ2224とから構成されるCMOSトランジスタをp(pは任意の奇数であり、本例では5に等しい。)段有しており、各段のCMOSトランジスタを構成するPMOSトランジスタ2222およびNMOSトランジスタ2224の各ドレインは、次段のCMOSトランジスタを構成するPMOSトランジスタ2222およびNMOSトランジスタ2224の各ゲートと接続されており、第1段のCMOSトランジスタを構成するPMOSトランジスタ2222およびNMOSトランジスタ2224の各ゲートと、第p段のCMOSトランジスタを構成するPMOSトランジスタ2222およびNMOSトランジスタ2224の各ドレインとは、帰還抵抗226を介して接続されており、第1段の上記各ゲートに当該演算増幅器22aへ入力すべき電圧V,Vβ,Vγが入力抵抗224を通じて入力し、第p段の上記各ドレインから当該演算増幅器22aから出力すべき電圧Vαが出力されるように構成されている。
【0014】
上記電源端子2226には、例えば3.5Vの電源電位が与えられる。また、電源端子2228には、例えば0Vのグランド電位が与えられる。演算増幅器22aの出力電圧の範囲は、両電源端子2226,2228に与えられる電位によって制限される。具体的は、電源端子2226に与えられる電位が上記範囲の上限値を定め、電源端子2228に与えられる電位が上記範囲の下限値を定める。演算増幅器22aの出力電圧が上記上限値または下限値であるとき、当該演算増幅器22aは飽和状態にあるという。
【0015】
図1に戻って、演算増幅器22bおよび演算増幅器22cは、共に上述の演算増幅器22aと同様の構成をしている。また、処理回路部20は、演算増幅器24(出力用演算増幅器)を含んでいる。演算増幅器24は、演算増幅器22a,22b,22cと同様の構成をしており、演算増幅器22a,22b,22cのそれぞれから出力される電圧Vα,Vβ,Vγを入力するとともに、上記中間値に相当する電圧を出力する。すなわち、この演算増幅器24は、処理回路部20の出力段に設けられた演算増幅器であり、その出力が中間値回路1からの出力Vとなる。
【0016】
かかる回路構成をもつ中間値回路1は、ソフトウエア処理を必要とせず、ハードウエア処理によって上記中間値に相当する電圧を出力する。換言すれば、中間値回路1は、入力端子10a,10b,10cに印加される3つのアナログ信号を必要充分な入力信号として処理し、上記中間値に相当する電圧を出力する。また、中間値回路1は、デジタル信号、多値信号およびアナログ信号の何れをも処理可能である。したがって、入力電圧V,V,Vは、デジタル信号、多値信号およびアナログ信号の何れであってもよい。入力電圧がアナログ信号の場合、中間値回路1は、入力電圧をアナログ信号のまま処理し、出力電圧としてアナログ信号を出力する。
【0017】
次に、中間値回路1の動作を説明する。まず、各電圧を演算増幅器22a,22b,22c,24の動作点Vwpを基準として表した値(「論理変数」と呼ぶことにする)を導入する。ここで、上記動作点は、演算増幅器の両電源端子2226,2228(図2参照)に与えられる電位の平均値である。例えば、前者に3.5V、後者に0Vの電位を与えた場合、Vwp=1.75Vである。したがって、入力電圧V,V,Vのそれぞれに対応する論理変数をx,y,zとすれば、これらの間には次の関係が成り立つ。
x=V−Vwp ,y=V−Vwp and z=V−Vwp
同様に、演算増幅器22a,22b,22cの出力電圧Vα,Vβ,Vγのそれぞれに対応する論理変数をα,β,γとし、中間値回路1の出力電圧Vに対応する論理変数をAとすれば、次の関係が成り立つ。
α=Vα−Vwp ,β=Vβ−Vwp ,γ=Vγ−Vwp and A=V−Vwp
【0018】
各演算増幅器の開放状態における利得をkとすれば、演算増幅器22a,22b,22cの増幅部222への入力電圧(図1の節点Nでの電圧)に対応する論理変数は、それぞれ、−α/k、−β/kおよび−γ/kとなる。ここで、開放状態とは、帰還経路がない状態、すなわち増幅部222の入力端と出力端とを結ぶ経路がない状態をいう。各演算増幅器22a,22b,22cについて、節点Nにおいてキルヒホッフの第1法則を用いることにより、次式が得られる。
【数3】

この式から次式が得られる。
【数4】

【0019】
よって、α、β、γは、次式で表される。
【数5】

この式から、x=y=z=bのとき、次式が成り立つことがわかる。
【数6】

このとき、演算増幅器24の出力すなわち中間値回路1の出力Aは、次式で表される。
【数7】

したがって、中間値回路1は、入力電圧の中で中間値に相当する電圧を出力することがわかる。
【0020】
次に、次式で表される関係が成り立つ場合を考える。
【数8】

ここで、δ,δ>0である。
この式を(5)式中のαおよびγに関する式のそれぞれに代入すると、αおよびγはそれぞれ次式で表される。
【数9】

【0021】
ところで、上述のように、各演算増幅器の出力電圧には上限および下限がある。そこで、その上限値および下限値に対応する論理変数の値をそれぞれaおよび−aと表すことにする。すなわち、a=Vdd−Vwp=−(Vss−Vwp)である。ここで、VddおよびVssは、それぞれ演算増幅器の電源端子2226,2228に与えられる電位を表している。
【0022】
(9)式において次式の条件が成り立つとき、α=−a、γ=aとなる。
【数10】

このとき、(3)式中の2番目の式から、次式が得られる。
【数11】

よって、演算増幅器22a,22b,22cの出力は、(12)式で表される。この式からわかるように、入力電圧V,V,Vの値が相異なる場合(本例ではV>V>V)、入力用の3つの演算増幅器22a,22b,22cのうち2つは、中間値回路1の動作時に飽和状態となり、その一方(演算増幅器22c)は当該演算増幅器22cの出力範囲の上限値に相当する電圧を出力し、他方(演算増幅器22a)は当該演算増幅器22aの出力範囲の下限値に相当する電圧を出力する。また、飽和状態となる2つの演算増幅器22a,22cは、それぞれ入力電圧V,V,Vのうち最大および最小のものが入力される演算増幅器であることがわかる。また、飽和状態とならない残りの演算増幅器22bは、入力電圧Vの反転を出力する。
【数12】

したがって、中間値回路1の出力Aは次式で表され、中間値回路1は入力電圧の中で中間値に相当する電圧を出力することがわかる。
【数13】

【0023】
図1に示す回路は、深い正帰還を有しており、それゆえ安定状態をとる必要があることがわかる。そのような状態における演算増幅器22a,22b,22cの出力の組み合わせとしては、下表に示す6つが考えられる。何れの組み合わせにおいても、演算増幅器22a,22b,22cのうち1つが上限側に飽和し、もう1つが下限側に飽和している。
【表1】

【0024】
図3は、中間値回路1を用いた耐故障性回路の一例を示す回路構成図である。耐故障性回路6は、中間値回路1を含んで構成された3チャネル(3入力3出力)の回路であり、入力端子10a,10b,10c、処理回路部40、ならびに第1の出力端子30a、第2の出力端子30bおよび第3の出力端子30cを備えている。耐故障性回路6においては、中間値回路1が復旧機関(restoring organ)として用いられている。この耐故障性回路6は、後述するように、入力電圧V,V,Vの何れかが異常な値となった場合であっても、中間値回路1の働きにより、出力端子30a,30b,30cから正常な値を出力することができる。
【0025】
処理回路部40は、入力段に設けられた演算増幅器22a,22b,22c、ならびに出力段に設けられた演算増幅器24a,24b,24cを含んでいる。演算増幅器22a,22b,22cそれぞれの構成、および互いの接続関係は、図1に示したものと同様である。また、演算増幅器24a,24b,24cの各々は、図1の演算増幅器24と同様の構成をしており、演算増幅器22a,22b,22cそれぞれからの出力電圧Vα,Vβ,Vγを入力する。これらの演算増幅器24a,24b,24cの出力端はそれぞれ上述の出力端子30a,30b,30cに接続されている。換言すれば、出力端子30a,30b,30cは、中間値回路1に設けられた3系統の冗長信号線のそれぞれに接続されている。それぞれの出力端子30a,30b,30cから出力される電圧V,V,Vは、何れも入力電圧V,V,Vの中間値に相当する電圧となる。すなわち、出力端子30a,30b,30cは、入力電圧V,V,Vの中間値に相当する電圧を並行して出力する。
【0026】
耐故障性回路6の動作を検証すべく、SPICEシミュレーションを実行した。シミュレーションに用いた回路の具体的な構成は、図4に示すとおりである。Vdd=3.5V、Vss=0Vとした。なお、図4においては、演算増幅器の保護のため各帰還抵抗に対して容量素子が並列接続されているが、このような容量素子を設けることは必須ではない。
【0027】
図5および図6は、当該シミュレーションにおける入力電圧および出力電圧の変化をそれぞれ示している。これらのグラフにおいて、横軸は時間を、縦軸は電圧を表している。図5においては、それぞれ入力電圧V,V,Vの時間変化に対応する3本の線が描かれている。また、図6においては、出力電圧Vの時間変化に対応する線が描かれている。これらのグラフからわかるように、耐故障性回路6(および中間値回路1)は、入力電圧の中間値に相当する電圧を精度良く出力する。なお、図6においては、出力電圧Vの時間変化のみを示したが、出力電圧V,Vについても結果は同様であった。
【0028】
続いて、中間値回路1および耐故障性回路6の効果を説明する。中間値回路1においては、演算増幅器22a,22b,22c,24を用いて処理回路部20が構成されているため、上述した従来の中間値回路とは異なり、電圧降下に起因する精度の低下を抑えることができる。
【0029】
特許文献1に記載のものを含めて従来の中間値回路の機構は、概括的に言うと、入力端子から出力端子に至る経路中に設けられたスイッチング素子の開閉により、中間値に相当する入力電圧が印加された入力端子と出力端子との間を導通させ、その入力電圧が出力端子に現れるようにするというものである。それゆえ、出力電圧は、スイッチング素子における電圧降下の影響から免れることができず、精度が低くなってしまう。なお、上記経路中にスイッチング素子が複数ある場合、それらの素子での電圧降下が互いに打ち消しあう方向に作用することも考えられる。しかし、各素子での電圧降下は互いに等しいとは限らないため、やはりこの場合も出力電圧の精度は低くなってしまう。
【0030】
これに対して、中間値回路1は、入力電圧に演算増幅器による演算を施し、その演算の結果として入力電圧の中間値を出力している。このように、中間値回路1は、言わば中間値の再構成演算を行うものであり、従来とは全く異なる機構を有する。したがって、中間値回路1は、電圧降下の影響から原理的に免れることができ、それゆえ入力電圧の中間値を高精度で出力することができる。
【0031】
また、特許文献1の中間値回路においては、さらに悪いことに、電圧に関する動作範囲が小さいという問題もある。すなわち、最大値回路は、入力電圧がトランジスタのしきい値電圧Vthよりも大きくないと動作せず、最小値回路は、入力電圧が(Vcc−Vth)よりも小さくないと動作しないため、同文献の中間値回路の実質的な動作範囲は、Vthから(Vcc−Vth)までの範囲に限られる(Vcc:上記最大値回路および最小値回路における電源電圧)。もし、動作範囲を広げようとすれば、電源電圧Vccを高くしなければならず、それに伴い消費電力も高くなってしまう。これに対して、中間値回路1においては、VssからVddまでの範囲で動作可能なため、低い消費電力で広い動作範囲を確保することができる。
【0032】
中間値回路1においては、演算増幅器22a,22b,22c,24として、図2に示すプッシュプルCMOS演算増幅器が用いられている。このため、簡略な構成で、高精度な中間値回路1が実現されている。
【0033】
また、処理回路部20は、演算増幅器22a,22b,22cのそれぞれに、他の2つの演算増幅器22a,22b,22cから出力される電圧が入力されるように構成されているため、中間値回路1には正帰還が生じる。したがって、入力電圧V,V,Vの値が相異なる場合に、演算増幅器22a,22b,22cのうち最小の入力電圧が入力されるものが上限側に飽和し、最大の入力電圧が入力されるものが下限側に飽和し、中間の入力電圧が入力されるものがその入力電圧の反転を出力するという動作特性が得られる。これにより、演算増幅器22a,22b,22cからの出力α,β,γに加算演算を施したときに、飽和状態にある2つの演算増幅器からの出力が互いに打ち消し合うことになる。したがって、上記構成によれば、入力電圧の中間値に相当する電圧を容易に生成することができる。
【0034】
処理回路部20は、演算増幅器24を含んでいる。この演算増幅器24により、演算増幅器22a,22b,22cからの出力α,β,γに加算演算を施すことができる。
【0035】
処理回路部20に含まれる演算増幅器の数は、処理回路部20の入力段に設けられた3つの演算増幅器22a,22b,22cと、処理回路部20の出力段に設けられた1つの演算増幅器24とのわずか4つである。したがって、高精度の中間値回路が簡略な回路構成で実現されている。しかも、これらの演算増幅器22a,22b,22c,24として同一の構成のものを用いることにより、中間値回路1の製造を容易にしている。
【0036】
さらに、中間値回路1は、ソフトウエア処理を必要とせず、ハードウエア処理によって入力電圧の中間値に相当する電圧を出力する。このため、中間値回路1は、極めて高い動作速度を有する。また、中間値回路1は、ソフトウエアバグに起因する誤動作等の恐れがなく、したがって信頼性および安全性に優れている。
【0037】
また、中間値回路1は、デジタル信号および多値信号のみならず、アナログ信号をも処理可能であるため、広範なアプリケーションにおいて高い有用性を発揮することができる。例えば、中間値回路1は、上述した耐故障性回路の他、画像処理における中間値フィルタにも好適に適用することができる。アナログ信号を扱う場合には特に高い精度が要求されるところ、中間値回路1は、この要求に充分に応えることができる。
【0038】
耐故障性回路6は、上述の中間値回路1を含んで構成されているので、各出力端子30a,30b,30cから入力電圧の中間値に相当する電圧を高精度で出力することができる。耐故障性回路6は、機能的には、入力端子10aから出力端子30aに至る第1の信号線と、入力端子10bから出力端子30bに至る第2の信号線と、入力端子10cから出力端子30cに至る第3の信号線とを備えているものとみなすことができる。この耐故障性回路6は、例えば、複数の信号線が冗長に並列配置された装置またはシステムに組み込まれる。かかる装置等においては、例えば、ある特定の信号線(主信号線)のみが有効に利用され、残りの信号線は予備の信号線(副信号線)とされる。そして、その主信号線に異常が生じた場合、信号線の切替えが行われ、副信号線が有効に利用されるようになる。
【0039】
かかる装置において、耐故障性回路6の第1の信号線が主信号線の一部を構成し、第2および第3の信号線が2本の副信号線それぞれの一部を構成するようにすれば、耐故障性回路6の上流側で主信号線に異常が生じた場合、すなわち入力電圧Vが異常な値となった場合であっても、出力端子30aから出力される電圧は入力電圧V,V,Vの中間値(この場合VまたはV)であるので、耐故障性回路6の下流側では主信号線の上記異常が現れない。したがって、耐故障性回路6が組み込まれた装置等においては、耐故障性回路6により異常信号が自動的に復旧されることとなり、信号線の切替えを行うまでもなく、耐故障性が実現される。ここで、耐故障性とは、装置等の一部が故障した場合であっても、装置等の全体としては、見かけ上その故障の影響が現れず、正常な動作が維持される性質を言う。
【0040】
また、各出力端子30a,30b,30cにそれぞれ別個に演算増幅器24a,24b,24cが設けられている。このため、演算増幅器24a,24b,24cの全てが故障しない限り、耐故障性回路6は、正常な電圧信号を維持することができる。ただし、出力段に演算増幅器を3つ設けることは必須ではない。例えば、演算増幅器を1つだけ設けて、その出力が各出力端子30a,30b,30cに入力される構成としてもよい。
【0041】
さらに、耐故障性回路6においては、後述するように、入力段を構成する演算増幅器22a,22b,22cの何れかが故障した場合であっても、正常な出力を維持することができる。
【0042】
耐故障性回路6に設けられた演算増幅器の数は、1チャネルにつきわずか2個である。したがって、簡略な回路構成で、高精度な多チャネル(ここでは3チャネル)の耐故障性回路が実現されている。
【0043】
(第2実施形態)
図7は、本発明による中間値回路の第2実施形態を示す回路構成図である。中間値回路2は、入力端子10a,10b,10c、処理回路部50、および出力端子30を備えている。入力端子10a,10b,10cおよび出力端子30は、図1におけるものと同様である。
【0044】
処理回路部50は、入力端子10a,10b,10cからそれぞれ入力された入力電圧V,V,Vを処理し、これらの入力電圧の中で中間値に相当する電圧を生成する。この処理回路部50の入力段には、演算増幅器22a,22bおよびインバータ28が設けられている。これらは、各入力端子10a,10b,10cから出力端子30に至る経路中に設けられており、それぞれ入力電圧V,V,Vが直接に入力される。演算増幅器22a,22bの構成は、図1におけるものと同様である。また、処理回路部50は、演算増幅器22a,22bのそれぞれに、他方の演算増幅器22a,22bから出力される電圧Vα,Vβが入力されるように構成されている。これにより、中間値回路2(具体的には、演算増幅器22a,22b)内に正帰還が生じる。
【0045】
インバータ28は、入力される電圧Vの反転(=Vdd+Vss−V)を出力する。図8は、インバータ28の回路構成の一例を示している。この回路は、図2において入力端子数を3つから1つにしたものに相当する。このインバータ28の出力は、演算増幅器22a,22bにそれぞれ入力される。
【0046】
また、処理回路部50の出力段には、演算増幅器24が設けられている。演算増幅器24の構成は、図1におけるものと同様である。この演算増幅器24は、演算増幅器22a,22bおよびインバータ28のそれぞれから出力される電圧を入力し、入力電圧V,V,Vの中間値に相当する電圧を出力する。
【0047】
次に、中間値回路2の動作を説明する。以下の説明では、インバータ28の出力を論理変数でbと表すことにする。すなわち、b=Vwp−Vである。まず、線形的なアプローチにより、中間値回路2の静的な振舞いを考察する。中間値回路2中の抵抗が全て同じ抵抗値を持つ場合、演算増幅器22a,22bの出力について次式が得られる。
【数14】

この式から、α,βは次式で表される。
【数15】

【0048】
ここで、kは充分に大きく、k/(k+1)=1とみなせるものとし、y=x+δ、β=α+δと表すことにする。すると、(15)式から、次式が得られる。
【数16】

よって、演算増幅器24の出力Aは、次式で表される。
【数17】

【0049】
ところで、(14)式において、下の式から上の式を引くと、次式が得られる。
【数18】

この式から、演算増幅器22a,22bのうち少なくとも一方は中間値回路2の動作時に飽和状態となり、中間値回路2は非線形であることがわかる。それゆえ、線形的なアプローチにより得られた上記結果は、予備的な考察として意味を持つにすぎない。
【0050】
非線形回路としての中間値回路2の振舞いを考察する手法を探るべく、SPICEシミュレーションを実行した。シミュレーションに用いた回路の具体的な構成は、図9に示すとおりである。ここでもVdd=3.5V、Vss=0Vとした。また、上記δ=0.35Vとした。
【0051】
図10および図11は、当該シミュレーションにおける入力電圧および出力電圧の変化をそれぞれ示している。図10のグラフにおいて、横軸は時間を、縦軸は電圧を表している。同図には、それぞれ入力電圧V,Vの時間変化に対応する2本の線が描かれている。なお、Vは1.5Vで一定とした(すなわちb=0.25V)。また、図11のグラフにおいて、横軸はVを、縦軸は電圧を表している。同図には、出力電圧Vの時間変化に対応する線が描かれている。同図には、Vと共に、Vα,Vβ,Vのそれぞれに対応する線も描かれている。
【0052】
図11からわかるように、0≦V≦3.15V(0.35V≦V≦3.5V)の範囲における中間値回路2の振舞いは、以下の3つの領域に分けて考えることができる。
【0053】
<領域1> 0≦V≦1.15V
この領域では、−1.75V≦x≦−0.6V、0.35V≦V≦1.5V、−1.4V≦y≦−0.25Vとなる。このとき、x<y≦−bである。演算増幅器22aが飽和状態にある場合、βおよびAはそれぞれ次式で表される。
【数19】

ここで、この領域の上限(y=−b=−0.25V)において、演算増幅器22bが飽和状態に突入することに着目されたい(図11参照)。
【0054】
<領域2> 1.15V≦V≦1.5V
この領域では、−0.6V≦x≦−0.25V、1.5V≦V≦1.85V、−0.25V≦y≦0.1Vとなる。このとき、x≦−b≦yである。この領域においては、演算増幅器22a,22bの両方が飽和状態にあるので、Aは次式で表される。
【数20】

【0055】
<領域3> 1.5V≦V≦3.15V
この領域では、−0.25V≦x≦1.4V、1.85V≦V≦3.5V、0.1V≦y≦1.75Vとなる。このとき、−b≦x<yである。演算増幅器22bが飽和状態にある場合、αは次式で表される。
【数21】

この式から、0.1V≦α≦1.75Vであり、演算増幅器22aは飽和しないことがわかる。また、Aは次式で表される。
【数22】

【0056】
上述の考察は、任意の値のbについて成り立つ。このことを確かめるために、b=−1.75V,0V,1.75Vそれぞれの場合におけるSPICEシミュレーションを実行した。その結果を図12に示す。同図中のV(low),V(mid),V(high)は、それぞれb=−1.75V,0V,1.75Vの場合の出力電圧Vを表している。同図および図10からわかるように、V(high)=V、V(low)=Vである。また、上述の例(b=0.25V)と同様、V(mid)の値は、y=−b(V=V)においてVからVに変わり、−b=x(V=V)においてVからVに変わる。
【0057】
続いて、中間値回路2の効果を説明する。中間値回路2においても、演算増幅器22a,22b,24を用いて処理回路部50が構成されているため、高精度な中間値回路が実現されている。
【0058】
図1の演算増幅器22cに代えてインバータ28を用いて処理回路部50が構成されている。このため、一層簡略な構成で、高精度な中間値回路2が実現されている。
【0059】
ところで、中間値回路2は、図1の中間値回路1において演算増幅器22cが故障した場合に相当する。具体的には、中間値回路2は、図13に示すように、演算増幅器22cがその入力の値に関わらず論理変数でbという値を出力する場合に相当する。上述の考察で示したように、かかる場合において、中間値回路の出力Aは、x≦A≦yとなる(図12等参照)。すなわち、出力Aは、正常な演算増幅器22a,22bへの2つの入力x,yによって上下限が規定される範囲内の値となる。したがって、上述した耐故障性回路6(図3参照)においては、入力段を構成する演算増幅器22a,22b,22cの何れかが故障した場合であっても、正常な出力が維持されることがわかる。
【0060】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明したが、さまざまな変形例が存在し、それらの変形例もまた本発明に含まれることは、当業者には理解されるところである。たとえば、実施の形態ではプッシュプルタイプの総和増幅器が利用されたが、これらはプッシュプルに限らず、差動タイプその他の増幅器であってもよい。また、実施の形態においては反転型の演算増幅器を用いたが、非反転型の演算増幅器を用いてもよい。
【0061】
図2では、10個のトランジスタが利用されたが、この数も当然いろいろと選択の余地がある。たとえば6個のトランジスタを用いてもよく、増幅率との関係で定めればよい。
【0062】
図3では、図1に示す中間値回路を用いて耐故障性回路を構成する例を示したが、言うまでもなく図7に示す中間値回路を用いて耐故障性回路を構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明による中間値回路の第1実施形態を示す回路構成図である。
【図2】図1の中間値回路において用いられる演算増幅器の一例を示す回路構成図である。
【図3】本発明による耐故障性回路の一実施形態を示す回路構成図である。
【図4】SPICEシミュレーションに用いた回路を示す回路構成図である。
【図5】SPICEシミュレーションにおける入力電圧の変化を示すグラフである。
【図6】SPICEシミュレーションにおける出力電圧の変化を示すグラフである。
【図7】本発明による中間値回路の第2実施形態を示す回路構成図である。
【図8】図7の中間値回路において用いられるインバータの一例を示す回路構成図である。
【図9】SPICEシミュレーションに用いた回路を示す回路構成図である。
【図10】SPICEシミュレーションにおける入力電圧の変化を示すグラフである。
【図11】SPICEシミュレーションにおける出力電圧の変化を示すグラフである。
【図12】SPICEシミュレーションの結果を示すグラフである。
【図13】図1の中間値回路において1つの演算増幅器が故障した場合を説明するための図である。
【符号の説明】
【0064】
1 中間値回路
2 中間値回路
6 耐故障性回路
10a 第1の入力端子
10b 第2の入力端子
10c 第3の入力端子
20 処理回路部
22a 第1の演算増幅器
22b 第2の演算増幅器
22c 第3の演算増幅器
24 出力用演算増幅器
28 インバータ
30 出力端子
30a 第1の出力端子
30b 第2の出力端子
30c 第3の出力端子
40 処理回路部
50 処理回路部
222 増幅部
224 入力抵抗
226 帰還抵抗
2222 PMOSトランジスタ
2224 NMOSトランジスタ
2226 第1の電源端子
2228 第2の電源端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1、第2および第3の入力電圧をそれぞれ入力する第1、第2および第3の入力端子と、
前記入力端子から入力された前記第1、第2および第3の入力電圧を処理し、これらの入力電圧の中で中間値に相当する電圧を生成する処理回路部と、
前記処理回路部により生成された前記中間値に相当する電圧を出力する出力端子と、を備え、
前記処理回路部は、前記各入力端子から前記出力端子に至る経路中に設けられた演算増幅器を含んで構成されている中間値回路。
【請求項2】
請求項1に記載の中間値回路において、
前記演算増幅器は、加算増幅器である中間値回路。
【請求項3】
請求項1または2に記載の中間値回路において、
前記演算増幅器は、プッシュプルCMOS演算増幅器である中間値回路。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の中間値回路において、
前記処理回路部は、前記第1の入力電圧が入力される第1の演算増幅器と、前記第2の入力電圧が入力される第2の演算増幅器と、を含み、
前記第1および第2の演算増幅器のそれぞれに、他方の演算増幅器から出力される電圧が入力されるように構成されている中間値回路。
【請求項5】
請求項4に記載の中間値回路において、
前記第1および第2の演算増幅器のうち少なくとも一方は、当該中間値回路の動作時に飽和状態となる中間値回路。
【請求項6】
請求項4または5に記載の中間値回路において、
前記処理回路部は、前記第1および第2の演算増幅器のそれぞれから出力される電圧を入力し、前記中間値に相当する電圧を出力する出力用演算増幅器を含む中間値回路。
【請求項7】
請求項6に記載の中間値回路において、
前記出力用演算増幅器は、前記第1および第2の演算増幅器のそれぞれから出力される電圧と共に、前記第3の入力電圧の反転を入力する中間値回路。
【請求項8】
請求項4〜7の何れかに記載の中間値回路において、
前記第1および第2の演算増幅器は、前記第3の入力電圧の反転を入力する中間値回路。
【請求項9】
請求項4〜6の何れかに記載の中間値回路において、
前記処理回路部は、前記第3の入力電圧が入力される第3の演算増幅器を含み、
前記第1、第2および第3の演算増幅器のそれぞれに、他の2つの演算増幅器から出力される電圧が入力されるように構成されている中間値回路。
【請求項10】
請求項9に記載の中間値回路において、
前記第1、第2および第3の演算増幅器のうち2つは、当該中間値回路の動作時に飽和状態となり、その一方は演算増幅器の出力範囲の上限値に相当する電圧を出力し、他方は前記出力範囲の下限値に相当する電圧を出力する中間値回路。
【請求項11】
請求項10に記載の中間値回路において、
飽和状態となる前記2つの演算増幅器は、それぞれ前記第1、第2および第3の入力電圧のうち最大および最小のものが入力される演算増幅器である中間値回路。
【請求項12】
請求項9〜11の何れかに記載の中間値回路において、
前記処理回路部は、前記第1、第2および第3の演算増幅器のそれぞれから出力される電圧を入力し、前記中間値に相当する電圧を出力する出力用演算増幅器を含む中間値回路。
【請求項13】
請求項1〜12の何れかに記載の中間値回路において、
当該中間値回路は、前記第1、第2および第3の入力端子に印加される3つのアナログ信号を必要充分な入力信号として処理し、前記中間値に相当する電圧を出力する中間値回路。
【請求項14】
第1、第2および第3の入力電圧を入力し、これらの入力電圧の中で中間値に相当する電圧を出力する処理回路部を備え、
この処理回路部は、前記第1、第2および第3の入力電圧またはそれらから派生する電圧が印加され、互いに出力を参照しあう複数の演算増幅器を有し、これら複数の演算増幅器によって前記第1、第2および第3の入力電圧を関連づけ、前記中間値に相当する電圧を出力する中間値回路。
【請求項15】
第1、第2および第3の入力電圧を入力し、これらの入力電圧の中で中間値に相当する電圧を出力する処理回路部を備え、この処理回路部は、
前記第1、第2および第3の入力電圧またはそれらから派生する電圧が印加され、互いに出力を参照しあう複数の演算増幅器と、
これら複数の演算増幅器の出力を入力し、前記中間値に相当する電圧を出力する出力用演算増幅器と、
を含む中間値回路。
【請求項16】
請求項1〜15の何れかに記載の中間値回路において、
当該中間値回路は正帰還を有している中間値回路。
【請求項17】
請求項1〜16の何れかに記載の中間値回路と、
前記中間値回路から出力される、前記中間値に相当する電圧を出力する第1、第2および第3の出力端子と、を備える耐故障性回路。
【請求項18】
請求項17に記載の耐故障性回路において、
前記第1、第2および第3の出力端子は、前記中間値回路に設けられた3系統の冗長信号線のそれぞれに接続され、前記中間値に相当する電圧を並行して出力する耐故障性回路。
【請求項19】
請求項17または18に記載の耐故障性回路において、
当該耐故障性回路は、前記中間値回路を構成する前記演算増幅器の故障に対して耐故障性を有する耐故障性回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−53771(P2006−53771A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−235239(P2004−235239)
【出願日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(304036880)有限会社Advanced Logic Projects (4)
【Fターム(参考)】