説明

中間転写ベルト用カーボンブラック顔料とこのカーボンブラック顔料を用いた中間転写ベルト用樹脂組成物

【課題】 電子写真方式による画像形成装置の中間転写体となる中間転写ベルトに好適なカーボンブラック顔料、およびこのカーボンブラック顔料を用いた中間転写ベルト用樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】 窒素吸着比表面積(N2 SA)が50m2 /g以上、DBP吸収量が140cm3 /100g以下のカーボンブラックを湿式酸化処理して生成したカーボンブラック粒子表面のカルボキシル基に、構造内に1個以上のエーテル基を有し、末端が水酸基である有機化合物を脱水縮合反応によりエステル結合させてなる中間転写ベルト用カーボンブラック顔料、および、このカーボンブラック顔料をポリイミド樹脂100重量部に対し10〜40重量部の割合で含有させた中間転写ベルト用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式による画像形成装置の中間転写体となる中間転写ベルトに好適に用いられるカーボンブラック顔料、および、このカーボンブラック顔料を用いた中間転写ベルト用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真複写機、プリンター、ファクシミリ、これらの複合機などの電子写真方式による画像形成および記録装置には、静電気的にトナー像を中間転写体に転写し、更に記録紙に再転写する方法が採られている。すなわち、トナー像を中間転写ベルトに一旦転写し、転写像を印刷シート上に定着させる方式である。
【0003】
この中間転写ベルトには、静電気的にトナー像を転写後、帯電した静電気を除去するために適度の導電性を有することが必要であり、一方、絶縁性も要求され、中程度の電気抵抗に保持すること、例えば、体積比抵抗を106 〜1012Ω・cmに制御することが重要な品質項目の1つである。
【0004】
従来、中間転写ベルトにはポリカーボネート(PC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアルキレンフタレート(PAF)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)などの樹脂やブレンド樹脂が使用されていたが機械的強度が十分でなく、また近年、転写機能と定着機能を兼備させるために耐熱性が必要とされ、更に、ベルトの寸法安定性や表面平滑性などの要求から、ポリイミド樹脂をベースとし、これに各種の導電性物質を添加して抵抗値を下げることが提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1にはカーボンブラックを5〜20wt%含有し、表面抵抗率Rs
(Ω/□)が107 ≦Rs≦1015の範囲にある芳香族ポリアミドフィルムまたは芳香族ポリイミドフィルムからなることを特徴とする電子写真記録装置用中間転写体が提案されている。
【0006】
しかし、カーボンブラックは凝集性が強いため樹脂中において2次凝集が生じ易く、均一に安定分散させることが困難である。また、樹脂中においてカーボンブラック凝集粒子の連鎖ができ易いので、電気抵抗のばらつきが生じ、更に印加電圧の集中が起こるなどの難点がある。
【0007】
そこで、特許文献2にはカーボンブラックに対して反応性を有する重合体(I)を、カーボンブラックに反応させて得られるカーボンブラックグラフトポリマーを含有することを特徴とする電気抵抗調整材が提案されている。そして、重合体(I)はカーボンブラック表面の官能基と反応し得る反応性基を有するセグメント(A)と、(A)とは異なるセグメント(B)とを有するブロック型またはグラフト型の重合体である。
【0008】
また、特許文献3には中間転写ベルトや転写搬送ベルトとして、ポリイミド系樹脂を主体とし、カーボンブラックを含有する樹脂組成物からなる半導電性ベルトにおいて、前記カーボンブラックとして、50kgf/cm2 で圧縮した状態の試料を用いて測定される電気抵抗が1〜100Ω・cmのカーボンブラックを、前記ポリイミド系樹脂100重量部に対し20重量部を超え50重量部未満含有し、かつ体積抵抗率ρVが108 〜1016Ω・cmの範囲にあることを特徴とする半導電性ベルトが開示されている。
【0009】
特許文献2、3はカーボンブラック表面の官能基と反応し得る反応性基を有するポリマーをグラフト化したカーボンブラックを用いるものである。
【0010】
また、特許文献4には、絶縁性樹脂にカーボンブラックを分散混合してなる中間転写ベルトなどとして使用される半導電性のシームレスベルトであって、初期表面抵抗(SO)と初期体積抵抗(VO)との差(SO−VO)を、初期表面抵抗(SO)とパルス電流を流した後の経時表面抵抗(S1)との差(SO−S1)よりも大きくしたことを特徴とするシームレスベルトが開示されている。
【0011】
そして、特許文献4にはカーボンブラックとしてファーネスブラック、酸化ファーネスブラック、チャンネルブラックなどが用いられ、例えば、酸化処理されたファーネスブラックと、アルコール類とを塩酸などのカチオン系触媒を使用して、その表面にあるカルボキシル基や水酸基などの活性水素に絶縁性樹脂を結合させる際に、予めエステル化して反応性を低下させることが記載されている。
【特許文献1】特開昭63−311263号公報
【特許文献2】特開平10−120935号公報
【特許文献3】特開2000−355432号公報
【特許文献4】特開2002−019937号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、本発明者の研究によれば、カーボンブラック粒子表面のカルボキシル基をエステル結合させる場合、末端に水酸基を有する有機化合物であればどのような化合物でもよいのではなく、構造内にエーテル基を持つことが重要であることが判明した。すなわち、構造内にエーテル基を持たない有機化合物を用いてエステル化した場合には、ポリイミド樹脂への分散性が悪化することが判明した。
【0013】
更に、構造内にエーテル結合を有する有機化合物をエステル結合させる際に、カチオン系触媒を用いると、エーテル基が開裂する現象が起こるため、通常のカチオン系触媒を使用することができないことも見出した。
【0014】
そして、構造内に1個以上のエーテル基を有し、末端が水酸基である有機化合物を用いて、非カチオン系の触媒によりエステル化することが好適であることを確認した。
【0015】
すなわち、本発明は上記の知見に基づいて完成したもので、その目的は電子写真方式による画像形成装置の中間転写体となる中間転写ベルトに好適に用いられるカーボンブラック顔料、および、このカーボンブラック顔料を用いた中間転写ベルト用樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するための本発明による中間転写ベルト用カーボンブラック顔料は、窒素吸着比表面積(N2 SA)が50m2 /g以上、DBP吸収量が140cm3 /100g以下のカーボンブラックを湿式酸化処理して生成したカーボンブラック粒子表面のカルボキシル基に、構造内に1個以上のエーテル基を有し、末端が水酸基である有機化合物を脱水縮合反応によりエステル結合させてなることを構成上の特徴とする。更に、湿式酸化処理して生成させるカーボンブラック粒子表面のカルボキシル基量は、窒素吸着比表面積(N2 SA)当たり、1μmol/m2 以上であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明による中間転写ベルト用樹脂組成物は、ポリイミド樹脂100重量部に対して、上記のカーボンブラック顔料が10〜40重量部の割合で含有されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
窒素吸着比表面積(N2 SA)およびDBP吸収量を特定したカーボンブラックを湿式酸化処理して生成したカーボンブラック粒子表面のカルボキシル基に、構造内に1個以上のエーテル基を有し、末端が水酸基である有機化合物を脱水縮合反応によりエステル結合させたカーボンブラックを顔料とし、ポリイミド樹脂に含有させた本発明によれば、樹脂成分への分散性が良好であり、また、この樹脂組成物から作製したベルト状成形体の表面抵抗率および表面粗さなどが優れ、中間転写ベルト用のカーボンブラック顔料および樹脂組成物として有用性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明において対象となるカーボンブラックには特に制限はなく、ファーネスブラックはじめチャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラックなど、各種市販品が適用できる。
【0020】
本発明の中間転写ベルト用カーボンブラック顔料は、これらのカーボンブラックを対象として湿式酸化処理してカーボンブラック粒子表面に官能基を生成させ、生成した官能基のうちカルボキシル基に、構造内に1個以上のエーテル基を有し、末端が水酸基である有機化合物を脱水縮合反応させてエステル結合させたものである。
【0021】
湿式酸化処理は、酸化剤として、例えばペルオキソ2硫酸塩、ペルオキソ2ホウ酸塩、ペルオキソ2炭酸塩、ペルオキソ2リン酸塩などのペルオキソ2酸塩あるいはペルオキソ酸が好適に用いられ、ペルオキソ2酸塩としてはアルカリ金属塩やアンモニウム塩などが望ましい。湿式酸化処理は、これらの酸化剤水溶液中にカーボンブラックを入れて攪拌、加熱することにより行われる。
【0022】
酸化処理の度合いは酸化剤水溶液の濃度、カーボンブラックの添加量、反応温度、反応時間などを適宜に設定することにより制御することができ、湿式酸化処理する際の湿式媒体としては水、アルコール類、揮発性オイルなどを用いることができるが、安価で安全な水が好適である。
【0023】
湿式酸化処理されるカーボンブラックの特性としては、窒素吸着比表面積(N2 SA)が50m2 /g以上、DBP吸収量が140cm3 /100g以下のものが使用される。窒素吸着比表面積(N2 SA)が50m2 /g未満であると、樹脂組成物中におけるカーボンブラックの平均粒径が大きくなるので、作製した中間転写ベルトの表面抵抗が低くなり、更には表面抵抗のバラツキも大きくなるためである。ただし、好ましくは300m2 /g以下のものが用いられる。
【0024】
DBP吸収量が140cm3 /100g以下のカーボンブラックを用いるのは、140cm3 /100gを越えると樹脂中に分散させる際に粘度が増大して、均一に分散させることが困難となるためである。なお、好ましくはDBP吸収量110cm3 /100g以下のものが用いられる。
【0025】
また、湿式酸化処理してカーボンブラック粒子表面に生成させるカルボキシル基量は、カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2 SA)当たり1μmol/m2 以上である。カルボキシル基量が1μmol/m2 未満であると、均一にエステル結合させることができないため樹脂中へ均一分散させることが難しくなり、更に、作製した中間転写ベルトの表面が粗くなるなどという難点が生じるためである。
【0026】
なお、湿式酸化処理時に生成した塩類がカーボンブラック中に残留すると樹脂中への分散性が阻害されるので、酸化処理後にカーボンブラックが分散した酸化剤水溶液は限外濾過膜により塩類を分離した後、アルカリで中和し、次いで、遠心分離などにより粗大粒を除去し、更に、中和時に生成した塩は電気透析あるいは分離膜(限外濾過膜、逆浸透膜など)で分離除去する。このようにして湿式酸化されたカーボンブラックを精製するが、この際の塩類の分離精製の程度は、例えばカーボンブラックの分散濃度が3wt%の時の電気伝導度として1.0mS/cm以下になるまで行うことが望ましい。
【0027】
本発明の中間転写ベルト用カーボンブラック顔料は、このようにして湿式酸化処理により生成したカーボンブラック粒子表面のカルボキシル基に、構造内に1個以上のエーテル基を有し、末端が水酸基である有機化合物を、下記(1)式に示す脱水縮合反応によりエステル結合させたものである。なお、(1)式において、R1 は水素、メチル基、エチル基、芳香族炭化水素など、R2 は炭素数1〜4の2価の炭化水素基(例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基など)を示す。また、nは1以上5未満の自然数である。
【0028】
【化1】

【0029】
構造内にエーテル基を持たない、例えばエタノールなどのアルコールの場合には、エステル結合させても樹脂中への分散性が悪いので、中間転写ベルトを作製しても十分な性能のものが得られなくなる。
【0030】
構造内に1個以上のエーテル基を有し、末端が水酸基である有機化合物としては、例えば、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−(メトキシメトキシ)エタノール、2−イソプロポキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−(イソペンチルオキシ)エタノール、2−フェノキシエタノール、2−(ベンジルオキシ)エタノール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどが例示される。
【0031】
また、脱水縮合反応させる際に使用する触媒として、塩酸、硫酸などのカチオン系触媒を用いるとエーテル基が開裂してエステル結合させることができなくなるため、カチオン系触媒以外の縮合剤を使用しなければならない。
【0032】
カチオン系触媒以外の縮合剤としては、例えば、N,N-ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N-ジイソプロピルカルボジイミド、1-イソプロピル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、N-(3- ジメチルアミノプロピル)-N- エチルカルボジイミド塩酸塩、メト-P- トルエンスルホン酸-1- シクロヘキシル-3-(2-モルホリノエチル)カルボジイミドなどのカルボジイミド類、塩化チオニル/N-メチル-2 -ピロリドン、塩化チオニル/N,N-ジメチルホルムアミド、塩化チオニル/ピリジンなどがある。また、縮合剤を用いずにDean-Stark水分離器などを用いる共沸蒸留法やソックスレー抽出器に無水硫酸マグネシウムやモレキュラーシーブ5Aなどの乾燥剤を入れて、溶媒を乾留させて縮合させるなどの手法を用いても良い。
【0033】
脱水縮合反応によりエステル結合させた本発明の中間転写ベルト用カーボンブラック顔料は、上記の湿式酸化処理を施したカーボンブラックと例示した構造内に1個以上のエーテル基を有し、末端が水酸基である有機化合物とを容器に入れ、更に、脱水縮合剤を加えて所定温度に所定時間、攪拌混合して反応させることにより、上記(1)式に示す反応式にしたがってエステル化反応が進み、エステル結合が形成される。次いで、未反応の有機化合物をエバポレータで回収したのち真空乾燥して本発明の中間転写ベルト用カーボンブラック顔料が得られる。
【0034】
本発明の中間転写ベルト用樹脂組成物は、このカーボンブラック顔料をポリイミド樹脂100重量部に対して10〜40重量部の割合で分散含有してなることを特徴とする。ポリイミド樹脂は、一般にテトラカルボン酸二無水物とジアミンまたはジイソシアネートとをモノマー成分として縮重合により合成されたポリマーである。
【0035】
ジアミン法は、通常有機極性溶媒中での開環重付加により溶媒可溶性のポリアミド酸を合成し、この段階でフィルムに成形加工する。その後、フィルム状のポリアミド酸を300℃以上の高温に加熱し、脱水縮合によりポリイミド化する。上記二無水物のテトラカルボン酸成分としてはピロメリット酸、ナフタレン−1、4、5、8−テトラカルボン酸、ナフタレン−2、3、6、7−テトラカルボン酸、2、3、5、6−ビフェニルテトラカルボン酸、2、2′、3、3′−ビフェニルテトラカルボン酸、3、3′、4、4′−ビフェニルテトラカルボン酸、3、3′、4、4′−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、3、3′、4、4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3、3′、4、4′−アゾベンゼンテトラカルボン酸、ビス(2、3−ジカルボキシフェニル)メタン、ビス(3、4−ジカルボキシフェニル)メタン、β、β−ビス(3、4−ジカルボキシフェニル)プロパン、β、β−ビス(3、4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。
【0036】
ジアミン成分としては、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、2、4−ジアミノトルエン、2、6−ジアミノトルエン、2、4ジアミノクロロベンゼン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、1、4−ジアミノナフタレン、1、5−ジアミノナフタレン、2、6−ジアミノナフタレン、2、4′−ジアミノビフェニル、ベンジジン、3、3′−ジメチルベンジジン、3、3′−ジメトキシベンジジン、3、4′−ジアミノジフェニルエーテル、4、4′−ジアミノジフェニルエーテル(オキシ−p、p−ジアニリン;ODA)、4、4′−ジアミノジフェニルスルフィド、3、3′−ジアミノベンゾフェノン、4、4′+ジアミノジフェニルスルホン、4、4′−ジアミノアゾベンゼン、4、4′−ジアミノジフェニルメタン、β、β−ビス(4−アミノフェニル)プロパン等が挙げられる。前記ジイソシアネート成分としては、上記したジアミン成分におけるアミノ基がイソシアネート基に置換した化合物が挙げられる。これらのポリイミドの市販品としては、例えばODAをジアミン成分とするピロメリット酸系ポリイミド(カプトンHA;デュポン社製)、3、3′、4、4′−ビフェニルテトラカルボン酸系ポリイミド(ユーピレックスS;宇部興産社製)、3、3′−ジアミノベンゾフェノンをジアミン成分とする3、3′−4、4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸系熱可塑性ポリイミド(LARK−TPI;三井化学工業社製)等が挙げられる。
【0037】
また、前記有機極性溶媒としては、ジメチルホルムアミド(DMF、沸点153℃)、ジメチルアセトアミド(DMAc、沸点166℃)、N−メチル−2−ピロピドン(NMP、沸点204℃)、その他に、N、N−ジエチルホルムアミド、N−アセチルピロリドン、N−メチルカプロラクタム、ピリジン、N−メチルピリジン、ヘキサメチルホスホアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホン等が挙げられる。
【0038】
本発明の中間転写ベルト用樹脂組成物において、ポリイミド樹脂100重量部に対して含有するカーボンブラック顔料を10〜40重量部の量比に設定するのは、カーボンブラック顔料の割合が10重量部未満であると作製した中間転写ベルトの表面抵抗が高くなり、トナー像の転写時にベルトの帯電が大きくなるため中間転写ベルトが像担持体と離れる時に剥離放電が発生して、トナー像が飛散するためである。一方、カーボンブラック顔料の割合が40重量部を越えると表面抵抗が低くなり、中間転写ベルトと像担持体との間に電流が流れて中間転写ベルトに転写したトナーが像担持体に戻ってしまうためである。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して具体的に説明する。
【0040】
〔カーボンブラック顔料の作製〕
実施例1〜2、比較例1〜3
窒素吸着比表面積(N2 SA)およびDBP吸収量が異なるカーボンブラックを用い、カーボンブラック単位表面積当たり0.2mmol/m2 のペルオキソ2硫酸ナトリウム[(Na)2S2O8] が反応するようにペルオキソ2硫酸ナトリウムの必要量を算出して純水に溶解し、3dm3 としたペルオキソ2硫酸ナトリウム水溶液中にカーボンブラック100gを添加し、回転数0.12s-1で攪拌しながら、60℃の温度で10時間、湿式酸化処理を行った。
【0041】
ペルオキソ2硫酸ナトリウムの必要量の算出;
必要量=(ペルオキソ2硫酸ナトリウムのカーボンブラックの単位表面積当たり要モル数 mmol/m2)×(カーボンブラックの窒素吸着比表面積m2/g)×(ペルオキソ2硫酸ナトリウムの当量238.1g/mol)に従って算出する。
例えば、窒素吸着比表面積(N2 SA)が135m2/gのカーボンブラックを酸化処理する場合、必要なペルオキソ2硫酸ナトリウムの重量は、カーボンブラック100g当たり0.20(mmol/m2) ×135(m2/g)×100(g) ×238.1(g/mol) =642.87gとなる。
【0042】
酸化処理後のカーボンブラックスラリーを中和し、粗大粒を遠心分離して除去した後、限外濾過膜(旭化成社製、AHP−1010、分画分子量50000)を用いて、電気伝導度が1mS/cm以下になるまで精製した。次いで、110℃で真空乾燥した後、カッターミキサーで解砕して湿式酸化処理したカーボンブラック試料85gを得た。
【0043】
これらの酸化カーボンブラック試料について、粒子表面に生成したカルボキシル基量を下記の方法により測定した。
濃度0.976 mol/cm3の炭酸水素ナトリウム水溶液50cm3 中に110℃の温度で5時間乾燥したカーボンブラック試料2〜5g を入れ、6時間振とうした後、カーボンブラックを濾過分離し、濾液を0.05 mol/dm3の水酸化ナトリウムで滴定して、カルボキシル基量を求めた。
【0044】
次いで、セパラブルフラスコ(容量 2000cm3)に、N、N′−ジシクロヘキシルカルボジイミド2.9g、および、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル400cm3 を入れ、N、N′−ジシクロヘキシルカルボジイミドが溶解するまで十分攪拌した後、上記の湿式酸化処理したカーボンブラック試料20gを加え、回転数0.2s-1で攪拌しながら、60℃で12時間反応させた。
【0045】
反応後、エバポレーターを用いて未反応のジプロピレングリコールモノメチルエーテルを回収した後、真空乾燥機に入れて110℃で16時間乾燥してジプロピレングリコールモノメチルエーテルを完全に除去した。このようにして、カーボンブラック粒子表面のカルボキシル基にジプロピレングリコールモノメチルエーテルをエステル結合させたカーボンブラック顔料を作製した。
【0046】
実施例3
実施例1のジプロピレングリコールモノメチルエーテルに代えて、ジエチレングリコールモノメチルエーテルを使用した他は、全て実施例1と同じ方法によりカーボンブラック顔料を作製した。
【0047】
実施例4
実施例1において、ペルオキソ2硫酸ナトリウム水溶液中における湿式酸化処理時間を変えた他は、全て実施例1と同じ方法によりカーボンブラック顔料を作製した。
【0048】
比較例4
実施例1に使用したカーボンブラックと同じカーボンブラックを用い、カーボンブラック150gをオゾン発生器(日本オゾン社製、IOT−4A6)により発生電圧200V、オゾン発生量5mg/sの条件で5時間保持して、オゾンによる気相酸化処理を行った他は、実施例1と同じ方法でカーボンブラック顔料を作製した。
【0049】
比較例5
セパラブルフラスコ(容量 2000cm3)に、99%硫酸2.9g、および、オクタノール400cm3 を入れ、実施例1に使用したカーボンブラックと同じカーボンブラックを実施例1と同じ方法により湿式酸化処理したカーボンブラック試料20gを加えて、回転数0.2s-1で攪拌しながら、60℃で12時間反応させた。このようにして、カーボンブラック粒子表面のカルボキシル基にオクタノールをエステル結合させたカーボンブラック顔料を作製した。
【0050】
比較例6
セパラブルフラスコ(容量 2000cm3)に、99%硫酸2.9g、および、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル400cm3 を入れ、実施例1に使用したカーボンブラックと同じカーボンブラックを実施例1と同じ方法により湿式酸化処理したカーボンブラック試料20gを加えて反応させたところ、カチオン系触媒である硫酸を用いたためジプロピレングリコールモノメチルエーテルの構造内のエーテル基が開裂現象を起こし、温度制御をすることができず、反応容器から白煙が上がってエステル結合させることができなかった。
【0051】
これらのカーボンブラック顔料について、使用したカーボンブラックの特性、酸化処理方法、酸化処理後のカルボキシル基量およびエステル結合させた有機化合物などを表1に示した。
【0052】
【表1】

【0053】
〔中間転写ベルト用樹脂組成物、ベルト状成形体の作製〕
3、3′、4、4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、と、4、4′−ジアミノジフェニルエーテル(オキシ−p、p−ジアニリン;ODA)、とから合成されたポリイミドを樹脂成分とし、NMPを溶媒とするポリイミドワニス(宇部興産社製、U−ワニス−S)の樹脂成分100重量部に対して、上記のカーボンブラック顔料を20重量部の割合で添加して、サンドミルで十分に混合した。このようにして、中間転写ベルト用の樹脂組成物を作製した。
【0054】
この樹脂組成物を、直径168mm、高さ500mmのステンレス製の円筒金型に注入して、120℃の熱風で120分間乾燥させながら遠心成形した。次いで、半硬化状態で脱型した円筒状フィルムを鉄芯に被せ、30分かけて120℃から350℃に昇温して溶媒を完全に蒸発させた後、更に、450℃で20分間加熱して、ポリアミド酸を脱水縮合させる本硬化を行って、ベルト状成形体を作製した。
【0055】
比較例7
実施例1のカーボンブラックをそのまま顔料として用いて樹脂組成物およびベルト状成形体を作製した。
【0056】
比較例8
実施例1に使用したカーボンブラックと同じカーボンブラックを、実施例1と同じ方法により湿式酸化処理したカーボンブラックを顔料とした他は、全て実施例1と同じ方法により樹脂組成物およびベルト状成形体を作製した。
【0057】
このようにして作製した中間転写ベルト用樹脂組成物とベルト状成形体について、下記の方法により樹脂組成物の粘度および分散状態、ベルト状成形体の電気抵抗特性および表面粗さなどを測定評価して、その結果を表2に示した。
【0058】
粘度;
回転型粘度計(東機産業社製、TV−20)を用いて、室温で測定した。
【0059】
分散状態;
樹脂組成物を室温で24時間静置した後、容器底の沈殿物の有無を目視観察した。
【0060】
表面抵抗率;
円形電極(三菱油化社製、ハイレスターIPのHRプローブ:円柱状電極部Cの外径φ16mm、リング状電極部Dの内径φ30mm、外径φ40mm)を用い、22℃/55%RHの環境下で100Vの電圧を印加して、10秒後の電流値を測定し、次式から算出した。この値が10以上であれば表面抵抗は小さく、良好である。
表面抵抗率(ρs)=π×(D+d)/(D−d)×(V/I)
但し、 D;リング状電極部の内径(mm)
d;円柱状電極部の外径(mm)
V;円柱状電極部とリング状電極部との間に印加した電圧(V)
I;円柱状電極部とリング状電極部との間に電圧Vを印加したときに流れる電流(A)
【0061】
表面抵抗率の面内バラツキ;
ベルト状成形体を周方向(長さ方向)に8分割、幅方向に3分割して、面内24点について表面抵抗率を測定し、表面抵抗率の対数値をとり、その最大値と最小値の差として表面抵抗率の面内バラツキを算出した。この値が0.3以下であれば、面内バラツキは小さく良好である。
【0062】
表面粗さ;
東京精密社製、表面粗さ計を用いて測定した。
【0063】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素吸着比表面積(N2 SA)が50m2 /g以上、DBP吸収量が140cm3 /100g以下のカーボンブラックを湿式酸化処理して生成したカーボンブラック粒子表面のカルボキシル基に、構造内に1個以上のエーテル基を有し、末端が水酸基である有機化合物を脱水縮合反応によりエステル結合させてなることを特徴とする中間転写ベルト用カーボンブラック顔料。
【請求項2】
湿式酸化処理により生成したカーボンブラック粒子表面のカルボキシル基量が、窒素吸着比表面積(N2 SA)当たり1μmol/m2 以上である、請求項1記載の中間転写ベルト用カーボンブラック顔料。
【請求項3】
ポリイミド樹脂100重量部に対して、請求項1記載のカーボンブラック顔料が10〜40重量部の割合で含有されてなることを特徴とする中間転写ベルト用樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−8820(P2006−8820A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−187433(P2004−187433)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(000219576)東海カーボン株式会社 (155)
【Fターム(参考)】