説明

乗客コンベア制御システム

【課題】遠隔操作による起動と停止に際しても安全性の向上が図れるようにした乗客コンベア制御システムを提供すること。
【解決手段】エスカレーター10の乗降口に乗客の有無を検出するための乗客検出装置11A、11Bを設け、運転制御回路14は、遠隔操作装置15から、遠隔操作による起動指令と停止指令を受信した際、当該指令の受信時点から予め設定してある所定の判定時間が経過するまでの間に、乗客検出装置11A、11Bにより乗客が検出されたときは、このとき受信した起動指令と停止指令が無効にされるようにしたもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗客コンベアの制御装置に係り、特に遠隔操作又はスケジュール設定により運転制御される乗客コンベア制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エスカレーターや動く道路などの乗客コンベアは、特に監視員などを身近に置くことなく運転されているのが一般的であるが、これは、乗客コンベアの場合、運転中の安全性の確保については、それを利用する人のマナーに依存する面が多分にあるものの、常識的な範囲では特に問題はないとされていることによる。しかし、起動と停止に際しては例外であり、安全性の確保には誰も人が居ないのが望ましく、従って、このときは乗客の有無の確認が重要である。
【0003】
そこで、来客コンベア及びその周辺を監視するカメラ(テレビカメラ)と、このカメラによる監視エリア内に存在する人を検知するセンサを設け、乗客コンベアの起動と停止を遠隔操作する際には、上記のセンサにより、上記カメラによる監視エリア内が無人であることを確認した上で乗客コンベアを起動又は停止させるようにしたシステムが従来技術として提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
そして、この提案に係るシステムでは、遠隔操作による起動操作に入った後、上記のセンサによる確認が行なわれ、無人が確認されるまで待ってから乗客コンベアに起動指令が出されるが、ここで乗客コンベアに起動指令が出された後は、装置が故障していない限り、そのまま起動が行なわれる。一方、停止操作を行なった場合には、上記センサによる人がいないことの確認は行なわず、直ちに停止指令が出され、来客コンベアは停止する。
【特許文献1】特開平10−236757号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術は、監視エリアに人がいないことの確認と運転操作の実行に有意な関係をもたせる点に配慮がされておらず、更なる安全性の向上に問題があった。
【0006】
従来技術の場合、一旦、遠隔操作による起動操作を行なうと、センサによって人がいないことの確認がとれ、実際に乗客コンベアが起動するまで処理が継続されてしまう。そこで、いま、仮に人がいないことの確認が遅れ、長時間経過後に確認がとれたとすると、最初の起動操作から長時間経過後に乗客コンベアが起動してしまうことになり、この場合、操作員が気付かないうちに起動してしまう可能性がある。
【0007】
また、このようにセンサによって人がいないことを確認してから乗客コンベアが起動指令を受信するまでにタイムラグ(時間遅れ)があったとすると、このタイムラグの間に乗客コンベアに乗り込む人が現われてしまう虞があり、この場合、従来技術では人を乗せたまま起動してしまう可能性がある。
【0008】
更に、停止操作においても、従来技術では、一旦、乗客コンベアに停止指令が出されると、そのまま直ちに乗客コンベアが停止されてしまうため、仮に監視カメラによって無人であることを確認した場合でも、実際に乗客コンベアが停止指令を受信するまでにタイムラグがあった場合、このタイムラグの間に乗客コンベアに乗り込む人が現われてしまう虞があり、この場合、乗客コンベアは人を来せたまま停止してしまう可能性がある。
【0009】
特に遠隔操作方式の乗客コンベアの場合、乗客コンベアと遠隔監視装置間の信号伝送には電話回線など伝送速度の遅い回線が使用される場合が多く、この場合、上記したタイムラグが大きくなり易く、従って、従来技術では、更なる安全性の向上に問題が生じてしまうのである。
【0010】
本発明の目的は、遠隔操作による起動と停止に際しても安全性の向上が図れるようにした乗客コンベア制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は、乗客の有無を検知する手段を備え、乗客コンベアの起動と停止に際して当該乗客コンベア内に乗客が居ないことを確認する方式の乗客コンベア制御システムにおいて、前記乗客コンベアに対する起動指令と停止指令の少なくとも一方が与えられた時点からの経過時間を計測する手段を設け、前記経過時間が予め設定してある判定時間になるまでの期間に前記乗客の有無を検知する手段により乗客が検知された場合、前記起動指令と停止指令の少なくとも一方が無効にされるようにして達成される。
【0012】
このとき、前記乗客コンベアがインバータ装置を備え、前記乗客コンベアの起動と停止の少なくとも一方の制御に際して、前記インバータ装置により緩起動制御と緩停止制御の少なくとも一方が、前記乗客コンベア駆動用の電動機に適用されるようにしても上記目的を達成する構成とができる。
【0013】
また、このとき、前記乗客コンベアが音声案内手段を備え、前記乗客コンベアの起動と停止の少なくとも一方に際して、前記音声案内手段により予め前記乗客コンベアの近傍に音声報知が行なわれるようにしても上記目的が達成される。
【0014】
更に、このとき、前記乗客コンベアが遠隔操作手段を備え、前記乗客コンベアに対する起動指令と停止指令の少なくとも一方が前記遠隔操作手段から与えられるようにしても上記目的が達成され、前記乗客コンベアがスケジュール制御手段を備え、前記乗客コンベアに対する起動指令と停止指令の少なくとも一方が前記スケジュール制御手段から与えられるようにしても上記目的が達成される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、乗客を乗せたままで乗客コンベアが起動したり、停止したりするのが防止されるので、乗客がよろけたり、転倒したりする虞がなくなり、この結果、安全性を更に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明による乗客コンベアの制御システムについて、図示の一実施の形態により詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明による乗客コンベアの制御システムを、乗客コンベアの一種であるエスカレーターに適用したの場合の一実施形態で、この図1において、10がエスカレーターで、これが乗客コンベアの一例に相当する。そして、このエスカレーター10はターミナルギヤ6A、6Bを備え、電動機5によりターミナルギヤ6Aが駆動されることにより踏み段7が駆動され、このときハンドレール8も欄干9に沿って移動し、これによりエスカレーターとして動作するようになっている。
【0018】
電動機5は、インバータ装置4から可変電圧可変周波数の交流電力が供給され、これにより可変速動作する。そして、このとき、インバータ装置4により、起動時には徐々に回転速度が上昇するという緩起動制御を行い、停止時には徐々に回転速度が低下するという緩停止制御を行うと共に、例えば速度1と速度2(速度1<速度2)の2種の運転速度がエスカレーター10の運転に選択できるようにし、このときも運転速度が徐々に変更されるという緩速度変更制御が行なえるようにしてある。
【0019】
このとき、インバータ装置4には、過電流遮断器2と電磁接触器3を介して商用電源1から電力が供給されるようになっている。そして、これら電磁接触器3とインバータ装置4は運転制御装置14により制御され、上記した起動と停止、それに速度1と速度2の2種の運転速度によるエスカレータ10の運転制御が得られるように構成してある。
【0020】
また、この図1の実施形態では、乗客に案内放送を行なうため、音声案内装置12とスピーカ13A、13Bが備えられ、エスカレーター10の乗降口には乗客の有無を検出するための乗客検出装置11A、11Bが設けられている。ここで、これらの乗客検出装置11A、11Bとしては、例えば光電方式のものが用いられ、この場合、所定距離を隔てて対向配置した発光部と受光部を備え、発光部から受光部に至る光路が遮ぎられたことにより乗客の有無を検出するようになっている。
【0021】
運転制御装置14には、運転制御回路14Aとカウンタ14Bが設けられている。そして、カウンタ14Bでは、乗客検出装置11A、11Bが共に乗客を検出していない状態にあるときの継続時間が計測され、乗客を検出しない状態が所定の時間以上継続したときカウンタ14Bから運転制御回路14Aに信号が出力され、乗客検出装置11A、11Bの一方でも乗客を検出したら継続時間はリセットされ、運転制御回路14Aに出力されている信号も止められるようになっている。ここで、上記の所定の時間とは、乗客を検出しない状態にあるときの継続時間を判定するための目安となる任意値の時間のことで、つまり判定時間のことである。
【0022】
この図1の実施形態は、遠隔操作式のシステムであり、このためエスカレーター10から離れた場所に遠隔操作装置15が設けられている。そして、このとき、上記の判定時間については、予め運転制御装置14と遠隔操作装置15の間の信号伝送に要する時間などを目安にして、所定の値に設定してあるものとする。
【0023】
そして、この遠隔操作装置15には、エスカレーター10を遠隔操作するための運転選択ボタン15A、停止選択ボタン15B、速度1選択ボタン15C、速度2選択ボタン15Dが設けられている。なお、この図1には、遠隔操作装置15だけではなく、スケジュール制御装置16が設けてあるが、これについては後述する。
【0024】
次に、この実施形態の動作について、遠隔操作装置15を用いた場合を第1の実施形態としてフローチャートにより説明する。ここで、図2と図3、それに図4は、この第1の実施形態における制御動作を説明するためのフローチャートで、このとき図2は起動時の処理で、図3は停止時の処理であり、図4は速度変更時の処理で、何れも所定の周期で繰り返し実行されるようになっている。
【0025】
まず、図2の遠隔操作装置15を用いてエスカレーター10を起動させる場合の処理について説明すると、この場合、エスカレーター10が停止している状態で遠隔操作装置15において運転ボタン15Aが押されたことにより(S1、S2)、遠隔操作装置15から運転制御装置14に起動指令が出力される(S3)。
【0026】
そこで運転制御装置14は、この起動指令受信後、カウンタ14Bから信号が出力されているか否かを調べ、信号が出力さていた場合ば音声案内装置12に放送指令を出力し、スピーカ13A、13Bを介して、起動予告案内がエスカレーター10の周囲に放送されるように制御する(S4〜S6)。
【0027】
ここで、いま、起動予告案内の放送が終了までの間、カウンタ14Bからの信号が出力され続けていたとすると、この場合、運転制御装置14は、エスカレーター10には人がいないと判断して、インバータ装置4に運転指令を出力し、エスカレーター10を起動させる(S7〜Sll)。
【0028】
そして、このときは、インバータ装置4による電動機5の制御に上記した緩起動制御が適用され、従って、このとき仮にエスカレーター10内に人が居たとしても、エスカレーター10は緩やかに動き出すので、急発進により安全性が損なわれてしまう虞はない。
【0029】
一方、放送終了までカウンタ14Bから信号が継続して出力されなかった場合には、運転制御装置14は、エスカレーター10内に人がいると判断し、音声案内装置12に放送指令を出力せず(S7、S12)、起動処理も中止される(S12、S13)。
【0030】
従って、この場合、つまり上記した判定時間が経過する前に乗客検出装置11A、11Bの一方でも乗客を検出してしまった場合、インバータ装置4には運転指令が出力されず、エスカレーター10は停止したままの状態を保つことになり(S14)、この結果、エスカレーター10が実際に起動されるのは次の周期の処理以降になり、それまで待たされてしまうことになるが、これにより安全性が確保されることになる。
【0031】
次に、図3の遠隔操作装置15を用いてエスカレーター10を停止させる場合の処理について説明すると、この場合はエスカレーター10が運転中のとき遠隔操作装置15において停止ボタン15Bが押されたことにより処理が開始され(S31、S32)、遠隔操作装置15から運転制御装置14に停止指令が出力される(S33)。
【0032】
そこで運転制御装置14は、この停止指令受信後、カウンタ14Bから信号が出力されているか否かを調べ、信号が出力されていたら音声案内装置12に放送指令を出力し、スピーカ13A、13Bを介して、停止予告案内がエスカレーター10の周囲に放送される(S34〜S36)。
【0033】
ここで、いま、放送終了までの間、カウンタ14Bからの信号が出力され続けていたとすると、この場合、運転制御装置14はエスカレーター10内に人がいないと判断し、インバータ装置4に対する運転指令の出力を止め、エスカレーター10を停止させる(S37〜S41)。
【0034】
このときも、インバータ装置4による電動機5の制御には上記した緩停止制御が適用されるので、たとえこのときエスカレーター10内に人が居たとしても、エスカレーター10は緩やかに停止され、従って急停止により安全性が損なわれてしまう虞はない。
【0035】
一方、放送終了までの間にカウンタ14Bから信号が継続して出力されなかった場合、エスカレーター10内には人が居るものと判断して、運転制御装置14は、音声案内装置12に対する放送指令の出力を止め(S37、S42)、他方、インバータ装置4に対する運転指令は出力したままとし、エスカレーター10の運転をそのまま継続させる(S43、S44)。
【0036】
従って、この場合、つまり上記した判定時間が経過する前に乗客検出装置11A、11Bの一方でも乗客を検出してしまった場合、インバータ装置4には運転指令が出力され続け、エスカレーター10は運転状態を保つことになり(S44)、この結果、エスカレーター10が実際に停止されるのは次の周期の処理以降になり、それまで待たされてしまうことになるが、これにより安全性が確保されることになる。
【0037】
次に、今度は、図4の遠隔操作装置15を用いてエスカレーター10の運転速度を変更する処理について、速度1から速度2に変更する場合を例にして説明する。この場合はエスカレーター10が運転中のとき(S51)、遠隔操作装置15において速度2ボタン15Dが押されたことにより処理が開始される(S52)。そして、これにより、遠隔操作装置15から運転制御装置14に速度変更指令(速度1→速度2)が出力される(S53)。
【0038】
そこで運転制御装置14は、この速度変更指令受信後、現在選択されている速度と受信した変更後の速度が異なることと、カウンタ14Bから信号が出力されていることの双方が共に満たされていることを条件にして、音声案内装置12に放送指令を出力し、スピーカ13A及び13Bを介して、速度変更予告案内が放送される(S54〜S57)。
【0039】
ここで運転制御装置14は、放送終了までの間、カウンタ14Bからの信号が出力され続けていればエスカレーターに人がいないと判断して、インバータ装置4に対して速度変更指令(速度1→速度2)を出力し、これによりエスカレーター10の運転速度は速度1から速度2に変更される(S58〜S62)。
【0040】
このときも、インバータ装置4による電動機5の制御には上記した緩速度変更制御が適用されるので、たとえこのときエスカレーター10内に人が居たとしても、エスカレーター10の速度は緩やかに変更されるので、安全性が損なわれてしまう虞はない。
【0041】
一方、放送終了までの間カウンタ14Bから信号が継続して出力されなかった場合、運転制御装置14は、エスカレーター10内に人がいるものと判断し、音声案内装置12に対する放送指令の出力を止める(S58、S63)。更に、インバータ装置4に対する速度変更指令(速度1→速度2)も出力しないで運転速度の変更が行なわれないままにする(S64)。
【0042】
そこで、この場合、つまり上記した判定時間が経過する前に乗客検出装置11A、11Bの一方でも乗客を検出してしまった場合は、インバータ装置4には運転指令が前のまま出力され続け、エスカレーター10は同じ運転速度を保つことになり(S65)、この結果、エスカレーター10の運転速度が実際に変更(この場合は速度1から速度2への変更)されるのは次の周期の処理以降になり、それまで待たされてしまうことになるが、これにより安全性が確保されることになる。
【0043】
なお、この図4の処理では、上記したように、エスカレーター10の運転速度を変更する処理について、速度1から速度2に変更する場合を例にして説明したが、反対に速度2から速度1に変更する場合も同じである。このとき、これらの速度1と速度2の関係については、(速度1<速度2)になっていることは、既に説明したところであるが、このときの速度1については、例えば30m/分程度が一般的で、速度2は、例えば40m/分程度が一般的である。
【0044】
ここで、図1のシステムには、運転制御回路14に指令を与える装置として、上記したように、遠隔操作装置15の外にもスケジュール制御装置16が設けてあり、これにより予め必要なスケジュール(制御予定)を設定しておくことにより、以後、このスケジュールに従った制御がエスカレーター10に与えられるようになっている。
【0045】
このためスケジュール制御装置16には、図示してないが、運転時間帯を設定するための運転タイマと、速度1で運転する時間帯を設定するための速度1タイマ、それに速度2で運転する時間帯を設定するための速度2タイマが設けてある。ここで、このスケジュール制御装置16は、エスカレーター10の内部又は近傍とエスカレーター10から離れた遠隔地の何れに設けられていてもよい。
【0046】
そして、まず運転タイマには、運転時間帯を設定するための運転開始タイマボタン16Aと運転停止タイマボタン16Bが設けてあり、速度1タイマには、速度1で運転する時間帯を設定するための速度1タイマボタン16Cが、それに速度2タイマには、速度2で運転する時間帯を設定するための速度2タイマボタン16Dが夫々設けてある。
【0047】
このとき、運転タイマは、運転開始タイマボタン16Aと運転停止タイマボタン16Bにより、エスカレーター10の運転時間を、例えば1日単位、又は1週間単位、或いは1か月単位、更には1年単位で、例えば分刻みにスケジュール設定することができるように構成してある。
【0048】
そこで、次に、図1のシステムにおいて、スケジュール制御装置16を用いて制御した場合について、本発明の第2の実施形態としてフローチャートにより説明する。ここで、図5と図6、それに図7は、この第2の実施形態における制御動作を説明するためのフローチャートで、このとき図5は起動時の処理で、図6は停止時の処理であり、図7は速度変更時の処理であり、何れの処理も所定の周期で繰り返し実行されるものである。
【0049】
まず、図5のスケジュール制御装置16を用いてエスカレーター10を起動させる場合の処理について説明する。この場合、エスカレーター10が停止している状態でスケジュール制御装置16の運転タイマに運転時間帯として設定した時刻になったことにより(S71、S72)、スケジュール制御装置16から運転制御装置14に起動指令が出力される(S73)。
【0050】
なお、以後の処理は、図2の場合と同じ内容であるので、繰り返しにはなるが、説明すると、この後、運転制御装置14は、この起動指令受信後、カウンタ14Bから信号が出力されているか否かを調べ、信号が出力さていた場合ば音声案内装置12に放送指令を出力し、スピーカ13A、13Bを介して、起動予告案内がエスカレーター10の周囲に放送されるように制御する(S74〜S76)。
【0051】
ここで、いま、起動予告案内の放送が終了までの間、カウンタ14Bからの信号が出力され続けていたとすると、この場合、運転制御装置14は、エスカレーター10には人がいないと判断して、インバータ装置4に運転指令を出力し、エスカレーター10を起動させる(S77〜S8l)。
【0052】
そして、このときは、インバータ装置4による電動機5の制御に上記した緩起動制御が適用され、従って、このとき仮にエスカレーター10内に人が居たとしても、エスカレーター10は緩やかに動き出すので、急発進により安全性が損なわれてしまう虞はない。
【0053】
一方、放送終了までカウンタ14Bから信号が継続して出力されなかった場合には、運転制御装置14は、エスカレーター10内に人がいると判断し、音声案内装置12に放送指令を出力せず(S77、S82)、起動処理も中止される(S82、S83)。
【0054】
従って、この場合、つまり上記した判定時間が経過する前に乗客検出装置11A、11Bの一方でも乗客を検出してしまった場合は、インバータ装置4には運転指令が出力されず、エスカレーター10は停止したままの状態を保つことになり(S84)、この結果、エスカレーター10が実際に起動されるのは次の周期の処理以降になり、それまで待たされてしまうことになるが、これにより安全性が確保されることになる。
【0055】
次に、図6のスケジュール制御装置16を用いてエスカレーター10を停止させる場合の処理について説明すると、この場合は、エスカレーター10が停止している状態でスケジュール制御装置16の運転タイマに停止時間帯として設定した時刻になったことにより(S91、S92)、スケジュール制御装置16から運転制御装置14に停止指令が出力される(S93)。
【0056】
ここでも以後の処理は、図3の場合と同じ内容であるので、繰り返しにはなるが、説明すると、この後、運転制御装置14は、この停止指令受信後、カウンタ14Bから信号が出力されているか否かを調べ、信号が出力されていたら音声案内装置12に放送指令を出力し、スピーカ13A、13Bを介して、停止予告案内がエスカレーター10の周囲に放送される(S94〜S96)。
【0057】
ここで、いま、放送終了までの間、カウンタ14Bからの信号が出力され続けていたとすると、この場合、運転制御装置14はエスカレーター10内に人がいないと判断し、インバータ装置4に対する運転指令の出力を止め、エスカレーター10を停止させる(S97〜S101)。
【0058】
このときも、インバータ装置4による電動機5の制御には上記した緩停止制御が適用されるので、たとえこのときエスカレーター10内に人が居たとしても、エスカレーター10は緩やかに停止され、従って急停止により安全性が損なわれてしまう虞はない。
【0059】
一方、放送終了までの間にカウンタ4Bから信号が継続して出力されなかった場合、エスカレーター10内には人が居るものと判断して、運転制御装置14は、音声案内装置12に対する放送指令の出力を止め(S97、S102)、他方、インバータ装置4に対する運転指令は出力したままとし、エスカレーター10の運転がそのまま継続されるようにする(S102、S103)。
【0060】
従って、この場合、つまり上記した判定時間が経過する前に乗客検出装置11A、11Bの一方でも乗客を検出してしまった場合は、インバータ装置4には運転指令が出力され続け、エスカレーター10は運転状態を保つことになり(S104)、この結果、エスカレーター10が実際に停止されるのは次の周期の処理以降になり、それまで待たされてしまうことになるが、これにより安全性が確保されることになる。
【0061】
次に、今度は、図7のスケジュール制御装置16を用いてエスカレーター10の運転速度を変更する処理について説明する。この場合はエスカレーター10が運転中のとき(S111)、スケジュール制御装置16の速度1タイマに設定されている時間帯と速度2タイマに設定されている時間帯の何れか一方になったことにより処理が開始される(S112)。そして、これにより、スケジュール制御装置16から運転制御装置14に速度変更指令(速度1→速度2又は速度2→速度1)が出力される(S113)。
【0062】
ここでも以後の処理は、図4の場合と同じ内容であるので、繰り返しにはなるが、説明すると、この後、運転制御装置14は、この速度変更指令受信後、現在選択されている速度と受信した変更後の速度が異なることと、カウンタ14Bから信号が出力されていることの双方が共に満たされていることを条件にして、音声案内装置12に放送指令を出力し、スピーカ13A及び13Bを介して、速度変更予告案内が放送されるようにする(S114〜S117)。
【0063】
ここで運転制御装置14は、放送終了までの間、カウンタ14Bからの信号が出力され続けていればエスカレーターに人がいないと判断して、インバータ装置4に対して速度変更指令(速度1→速度2又は速度2→速度1)を出力し、これによりエスカレーター10の運転速度は速度1から速度2に、又は速度2から速度1に変更される(S118〜S122)。
【0064】
このときも、インバータ装置4による電動機5の制御には上記した緩速度変更制御が適用されるので、たとえこのときエスカレーター10内に人が居たとしても、エスカレーター10の速度は緩やかに変更されるので、安全性が損なわれてしまう虞はない。
【0065】
一方、放送終了までの間カウンタ14Bから信号が継続して出力されなかった場合、運転制御装置14は、エスカレーター10内に人がいるものと判断し、音声案内装置12に対する放送指令の出力を止める(S118、S123)。更に、インバータ装置4に対する速度変更指令(速度1→速度2又は速度2→速度1)も出力しないで運転速度の変更が行なわれないままにする(S124)。
【0066】
そこで、この場合、つまり上記した判定時間が経過する前に乗客検出装置11A、11Bの一方でも乗客を検出してしまった場合は、インバータ装置4には運転指令が前のまま出力され続け、エスカレーター10は同じ運転速度を保つことになり(S125)、この結果、エスカレーター10の運転速度が実際に変更されるのは次の周期の処理以降になり、それまで待たされてしまうことになるが、これにより安全性が確保されることになる。
【0067】
なお、このとき、これらの速度1と速度2の関係については、(速度1<速度2)になっていることは、既に説明したところであり、速度1については、例えば30m/分程度が一般的で、速度2は、例えば40m/分程度が一般的である点も上述の通りである。
【0068】
従って、以上の実施形態によれば、乗客を乗せたままでエスカレーター10が起動し、停止したり、或いは速度変更したりすることがなくなるので、乗客がよろけたり、転倒したりする虞がなく、この結果、より一層の安全性向上を図ることができる。
【0069】
また、上記実施形態によれば、エスカレーター10を駆動する電動機5の制御に、緩起動制御や緩停止制御それに緩速度変更制御が適用されているので、仮にエスカレーター10内に人が居たとしても、エスカレーター10は緩やかに動き出し、緩やかに停止し、さらには緩やかに速度変更するので、急発進や急停止、急な速度変更に伴う安全性低下の虞がない。
【0070】
なお、本発明は、上述した実施形態の外にも後述する実施の形態に従って実施することができる。
【0071】
上記の実施形態においては、乗客検出装置11A、11Bが運転制御装置14に接続されていたが、遠隔操作装置15に接続させ、起動、停止、速度変更の実行前までに乗客検出装置11Aと乗客検出装置11Bの何れかにより乗客が検出され場合には、遠隔操作装置15から運転制御装置14に、起動、停止、速度変更を無効とする指令を出力する方式の実施形態にしてもよい。
【0072】
上記の実施形態においては、インバータ装置4を使用しているが、第4の実施の形態として、商用電源直入れ方式の実施形態としてもよい。
【0073】
上記の実施形態においては、乗客検出装置11A、11Bが乗降口のみに設けられているが、第6の実施形態として、欄干部8などエスカレーター10内にも乗客検出装置11A、11Bを追加する方式の実施形態としてもよく、この場合、乗客の検出精度を更に向上させることができる。
【0074】
上記実施形態では、乗客検出装置11A、11Bとして光電方式のものが使用されているが、人を検知できれば、反射型ビームセンサ、電界センサ、圧力センサ、画像センサなど、どのようなセンサでも同様に用いることができ、これらのセンサを用いて実施形態としてもよい。
【0075】
上記の実施形態では、乗客コンベアがエスカレーター10の場合のものであるが、乗客コンベアとしては、エスカレーター以外にも動く歩道があり、これに適用した実施形態としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明による乗客コンベア制御システムの一実施の形態を示すブロック構成図である。
【図2】本発明の第1の実施形態による起動処理のフローチャートである。
【図3】本発明の第1の実施形態による停止処理のフローチャートである。
【図4】本発明の第1の実施形態による速度変更処理のフローチャートである。
【図5】本発明の第2の実施形態による起動処理のフローチャートである。
【図6】本発明の第2の実施形態による停止処理のフローチャートである。
【図7】本発明の第2の実施形態による速度変更処理のフローチャートである。
【符号の説明】
【0077】
1:商用電源
2:過電流遮断器
3:電磁接触器
4:インバータ装置
5:電動機
6A、6B:ターミナルギヤ
7:踏み段
8:ハンドレール
9:欄干
10:エスカレーター本体
11A、11B:乗客検出装置
12:音声案内装置
13A、13B:スピーカ
14:運転制御装置
14A:運転制御回路
14B:カウンタ
15:遠隔操作装置
15A:運転選択ボタン
15B:停止選択ボタン
15C:速度1選択ボタン
15D:速度2選択ボタン
16:スケジュール制御装置
16A:運転開始タイマボタン
16B:運転停止タイマボタン
16C:速度1タイマボタン
16D:速度2タイマボタン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客の有無を検知する手段を備え、乗客コンベアの起動と停止に際して当該乗客コンベア内に乗客が居ないことを確認する方式の乗客コンベア制御システムにおいて、
前記乗客コンベアに対する起動指令と停止指令の少なくとも一方が与えられた時点からの経過時間を計測する手段を設け、
前記経過時間が予め設定してある判定時間になるまでの期間に前記乗客の有無を検知する手段により乗客が検知された場合、前記起動指令と停止指令の少なくとも一方が無効にされるように構成したことを特徴とする乗客コンベア制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の乗客コンベア制御システムにおいて、
前記乗客コンベアがインバータ装置を備え、
前記乗客コンベアの起動と停止の少なくとも一方の制御に際して、前記インバータ装置により緩起動制御と緩停止制御の少なくとも一方が、前記乗客コンベア駆動用の電動機に適用されることを特徴とする乗客コンベア制御システム。
【請求項3】
請求項1に記載の乗客コンベア制御システムにおいて、
前記乗客コンベアが音声案内手段を備え、
前記乗客コンベアの起動と停止の少なくとも一方に際して、前記音声案内手段により予め前記乗客コンベアの近傍に音声報知が行なわれることを特徴とする乗客コンベア制御システム。
【請求項4】
請求項1に記載の乗客コンベア制御システムにおいて、
前記乗客コンベアが遠隔操作手段を備え、
前記乗客コンベアに対する起動指令と停止指令の少なくとも一方が前記遠隔操作手段から与えられることを特徴とする乗客コンベア制御システム。
【請求項5】
請求項1に記載の乗客コンベア制御システムにおいて、
前記乗客コンベアがスケジュール制御手段を備え、
前記乗客コンベアに対する起動指令と停止指令の少なくとも一方が前記スケジュール制御手段から与えられることを特徴とする乗客コンベア制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−131411(P2007−131411A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−326368(P2005−326368)
【出願日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000232955)株式会社日立ビルシステム (895)
【出願人】(391039173)株式会社ジェイアール西日本テクノス (26)
【Fターム(参考)】