説明

乗物の室内構造及び乗物用シート

【課題】前後方向の移動範囲が広く、且つ室内をより広々と利用することができる乗物の室内構造及び乗物用シートを提供する。
【解決手段】室内床面には、天井方向に突出して乗物の進行方向に沿って前後方向に延びる突出壁部1が設けられ、突出壁部1の左側面と右側面には、前後方向に延びるスライドレール2が設けられている。そして室内には、複数の乗物用シートSL、SRのそれぞれが、突出壁部1に設けられたスライドレール2のそれぞれに沿って配置されており、乗物用シートのそれぞれは、自身に設けられた連結部材6にてスライドレール2に接続され、スライドレール2に沿って前後方向に往復移動可能であるとともに連結部材6のみにて片持ちで支持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等の乗物の室内の構造、及び当該室内に配置される乗物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
乗物の例として、従来の1BOXやミニバンと呼ばれる車両では、車両の右側に2〜3列、車両の左側に2〜3列の乗物用シートが配置されている。そして、それぞれの乗物用シートはシートクッションの四隅に支持部材を有しており、当該支持部材は、それぞれの乗物用シートに対応させて床面に設けられたスライドレールに接続されている。これにより、各乗物用シートは、スライドレールに沿って前後方向に数十センチ程度の範囲内で位置を調整可能に構成されている。
また、特許文献1に記載された従来技術では、車両の床面が凹形状となるように前後方向に溝を設け、当該溝の左右の側面にスライドレールを取り付け、乗物用シートを、この左右のスライドレールに接続し、前後方向にスライド可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−123731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された従来技術では、車両の床面の形状が凹形状に限定され、自由な形状とすることができない。また、乗物用シートの左右にスライドレールが取り付けられた壁面があるため、足元が狭く、広々と利用することができずに圧迫感もある。また、それぞれの乗物用シートに対応させたスライドレールが設けられており、前後方向の移動範囲が狭く、室内を充分に利用することができない。
また、シートクッションの四隅に支持部材を有する従来の構造では、支持部材のせいで乗物用シートの下部の空間が狭く、充分に利用することができない。また、特許文献1と同様に、それぞれの乗物用シートに対応させたスライドレールが設けられており、前後方向の移動範囲が狭く、室内を充分に利用することができない。
【0005】
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、前後方向の移動範囲が広く、且つ室内をより広々と利用することができる乗物の室内構造及び乗物用シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る乗物の室内構造及び乗物用シートは次の手段をとる。
まず、本発明の第1の発明は、乗物の室内構造及び乗物用シートにおいて、前記乗物の室内における床面には、当該床面から天井方向に突出して当該乗物の進行方向に沿って前後方向に延びる壁部である突出壁部が設けられており、前記突出壁部において前記進行方向に向かって左側面と右側面のそれぞれには、前記前後方向に延びるスライドレールが設けられている。
そして、前記乗物の室内には、複数の前記乗物用シートのそれぞれが、前記突出壁部に設けられた前記スライドレールのそれぞれに沿って配置されており、前記乗物用シートのそれぞれは、自身に設けられた連結部材にて前記スライドレールに接続され、前記スライドレールに沿って前記前後方向に往復移動可能であるとともに前記連結部材のみにて片持ちで支持されている。
【0007】
この第1の発明によれば、突出壁部の左側に配置された乗物用シートは左方向が開放されており、突出壁部の右側に配置された乗物用シートは右方向が開放されている。また、各乗物用シートは連結部材のみで片持ちでスライドレールに支持されているので、乗物用シートの下部は開放されている。
このため、乗物の左右方向の中央部に前後方向に延びるように突出壁部を設ければ、前後方向の移動範囲が広く、且つ室内をより広々と利用することができる乗物の室内構造及び乗物用シートを実現することができる。
【0008】
次に、本発明の第2の発明は、上記第1の発明に係る乗物の室内構造及び乗物用シートであって、前記突出壁部は、前記乗物の室内において進行方向に対して左右方向である幅方向の中央に、前記乗物の室内の前記前後方向の前端から前記乗物の室内の前記前後方向の後端まで延出されており、前記前後方向の前端に配置された前記乗物用シートが前記乗物の室内の前方端まで、及び前記前後方向の後端に配置された前記乗物用シートが前記乗物の室内の後方端まで、移動可能となるように前記スライドレールの前後方向の長さが設定されている。
【0009】
この第2の発明によれば、乗物の室内を、前方端から後方端まで、広々と利用することができる。
【0010】
次に、本発明の第3の発明は、上記第1の発明または第2の発明に係る乗物の室内構造及び乗物用シートであって、前記連結部材は、前記スライドレールに対して直交する方向且つ水平方向に、前記スライドレールに接続されており、前記乗物用シートのそれぞれは、自身に設けられた連結部材回りに回転可能となるように構成されている。
【0011】
この第3の発明によれば、よりシンプルな構造にて乗物用シートを回転させることで、乗物用シートの前後方向の長さを短くすることができるので、乗物の室内を、更に広々と利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の、乗物の室内構造及び乗物用シートの一実施の形態を説明する図であり、(A)は乗物の室内を進行方向に対して左側から見た図であり、(B)は乗物の室内を進行方向から見た図である。
【図2】乗物用シートSLを、進行方向に対して左側から見た図であり、(A)は通常使用時の乗物用シートSLの状態を示しており、(B)は(A)の状態からシートバック部5を折り畳んだ状態を示しており、(C)は(B)の状態から連結部材6回りに回転させた状態を示している。
【図3】乗物の室内を進行方向に対して左側から見た図であり、乗物用シートSLa、SLbを、種々の前後方向の位置に移動させ、種々の折り畳み状態として室内を広々と利用できる例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を実施するための形態を図面を用いて説明する。図1は、本発明の「乗物の室内構造及び乗物用シート」の例を示しており、図1(A)は乗物の室内を進行方向に対して左側から見た図であり、図1(B)は乗物の室内を進行方向から見た図である。なおX軸とY軸とZ軸は互いに直交しており、X軸方向は乗物の進行方向を示しており、Y軸方向は進行方向に対して左方向を示しており、Z軸方向は鉛直上向きを示している。
【0014】
●[乗物の室内の構造と、室内に配置された乗物用シートの支持状態(図1)]
図1(A)に示すように、本実施の形態における乗物の室内の床面には、床面から天井方向に突出して、進行方向に沿って前後方向に延びる突出壁部1が設けられている。
また、図1(B)に示すように、突出壁部1は乗物の室内の進行方向に対して左右方向の中央近傍に設けられている。以降、「前後方向」とは乗物の進行方向に向いて乗車した際の前後の方向を指し、「左右方向」とは乗物の進行方向に向いて乗車した際の左右の方向を指す。
突出壁部1の左側面と右側面のそれぞれには、前後方向に延びるスライドレール2が設けられている。
【0015】
なお本実施の形態に示す乗物の室内構造では、乗員への圧迫感をより小さくするために、突出壁部1における床面からの高さがシートクッション部20の高さと同等に設定されている。また、シートクッション部20は連結部材6、7にてスライドレール2に接続されるため、床面からスライドレール2までの高さは、シートクッション部20の高さと同等に設定されている。
また図1(A)及び(B)に示すように、突出壁部1は、乗物の室内において進行方向に対して左右方向である幅方向の中央(中央近傍)に、乗物の室内の前後方向の前端から乗物の室内の前後方向の後端まで延出されている。
そしてスライドレール2は、前後方向の前端に配置された乗物用シートが乗物の室内の前方端まで移動可能となる前方端位置から、前後方向の後端に配置された乗物用シーとが乗物の室内の後方端まで移動可能となる後方端位置までの、前後方向の長さが設定されている。
なお、符号10は車両のインスツルメントパネルを示している。
【0016】
そして、突出壁部1の左側には単数または複数の乗物用シートSLが、突出壁部1の左側面のスライドレール2に沿って配置され、突出壁部1の右側には単数または複数の乗物用シートSRが、突出壁部1の右側面のスライドレール2に沿って配置されている。
乗物用シートSL、SRのそれぞれは、シートクッション部20とシートバック部5にて構成されており、シートクッション部20は乗員が着座するシートクッション3と、シートクッション3を支持するシートフレーム4にて構成されている。
そしてシートフレーム4は、連結部材6、7にてスライドレール2に接続されている。
連結部材6はスライドレール2に嵌合されており、スライドレール2に沿って前後方向の任意の位置にスライド移動可能であるとともに、移動先で位置を固定することが可能となるように構成されている。
連結部材7は、連結部材6に対してクッション回転軸8回りに回転可能に構成されており、シートフレーム4に固定されている。なお、クッション回転軸8は、スライドレール2に直交する方向であり、且つ水平方向である(すなわち、左右方向である)。これにより、乗物用シートSL、SRのそれぞれは、クッション回転軸8回りに回転可能である。
またシートバック部5は、リクライニング回転軸9回りに回転可能に構成されている。
【0017】
このように、乗物用シートSL、SRのそれぞれは、スライドレール2に沿って前後方向にスライド移動可能であるとともに、連結部材6、7のみにて片持ちで支持されている。このため、乗物用シートの下部は開放されており、乗物用シートの下部を広々と利用することができる。また、突出壁部1の左側に配置された乗物用シートSLの左側が開放されており、突出壁部1の右側に配置された乗物用シートSRの右側が開放されている。このため、室内をより広々と利用することができる。
【0018】
●[乗物用シートにおける通常使用状態と収容状態(図2)]
図2(A)は乗物用シートSLにおける通常使用状態を示している。通常使用状態では、乗員はシートクッション部20に腰を下ろし、シートバック部5に背中を凭せ掛けて、乗物用シートSLに着席することができる。
図2(B)は、図2(A)の通常使用状態から、シートクッション部20にシートバック部5が重なるように、シートバック部5をリクライニング回転軸9回りに回転させた折り畳み状態を示している。
図2(C)は、図2(B)の折り畳み状態から、リクライニング回転軸9が下方となるように、クッション回転軸8回りに乗物用シートSLを回転させた収容状態を示している。この状態では、乗物用シートSLの前後方向の長さをより短くすることができるので、更に広々と室内を利用することができる。
なお、通常使用状態、折り畳み状態、収容状態のいずれの状態であっても、乗物用シートSLを、前後方向にスライド移動させることができる。
【0019】
●[種々のシートアレンジの例(図1(A)、図3(A)〜(E))]
以上の構成により、本実施の形態の「乗物の室内構造及び乗物用シート」を用いることで、後述するように、種々のシートアレンジが可能である。
図1(A)は、標準状態を示しており、乗物用シートSL、SLが通常使用状態であって、乗物用シートSL、SLに着座した乗員が、それぞれ広々と室内を利用できる前後方向の位置に設定した状態である。
図3(A)は、図1(A)の標準状態から、後方の乗物用シートSLbを更に後方にスライドさせた状態であり、乗物用シートSLbに着座した乗員が、足元及び前方を更に広々と利用することができる状態である。
図3(B)は、乗物用シートSLa、SLbの双方を収容状態にして、前端にスライドさせた状態であり、室内後方の荷物搭載スペースを最大とする状態である。
図3(C)は、図1(A)の標準状態から、後方の乗物用シートSLbを収容状態にして前方の乗物用シートSLaに近接するまで前方にスライド移動させた状態であり、乗物用シートSLaに乗員が着座できる状態で、室内後方の荷物搭載スペースを大きくした状態である。
図3(D)は、室内を居室として使用する際に室内空間を最大にするシートアレンジであり、前方の乗物用シートSLaを収容状態にして前端までスライド移動させ、後方の乗物用シートSLbを通常使用状態で後端までスライド移動させた状態である。
図3(E)は、乗物用シートSLa、SLbにて擬似的にベッドを形成したシートアレンジの例を示している。
【0020】
以上、本実施の形態にて説明した乗物の室内構造及び乗物用シートは、乗物用シートを室内の前端から後端までスライドできるので、非常に広々と室内を利用することができる。
また、各乗物用シートが片持ちのみで支持されてシート下部の空間が開いているので、更に広々と室内を利用することができる。また、後方の乗物用シートSLbに着座した乗員は、前方の乗物用シートSLaが近接していても、乗物用シートSLaの下方の空間に足先を入れてゆったりと座ることができる。
また、図2(C)に示す収容状態へと折り畳んで回転させることで、デッドスペースを小さくし、効率的に室内空間を確保することができる。
また、クッション回転軸8を、図2(B)に示す折り畳み状態において乗物用シートの重心近傍に設けると、回転の際の力の負担を軽減することができる。
また、図3(A)または(D)に示すシートアレンジ状態では、後方の乗物用シートSLbに着座した乗員が足を伸ばした状態でゆったりと座ることができる。
また、図3(B)または(C)に示すシートアレンジでは、荷物収容スペースをより広く確保することができる。また、各シートの下方が開放されているので、長尺状の荷物を容易に収容することができる。
【0021】
本発明の乗物の室内構造及び乗物用シートは、本実施の形態で説明した外観、構成、構造等に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。
本実施の形態にて説明した乗物の室内構造及び乗物用シートにおける乗物は、車両に限定されない。従って、突出壁部1は、乗物の左右方向の中央に1本のみとは限定されず、乗物の室内の横幅と、乗物用シートの横幅と、に応じて、複数本が並列に設けられていてもよい。また、乗物用シートの数も、乗物の室内の前後方向の長さと左右方向の長さに応じて、1台〜複数台が配置される。
また、図2(A)に示す通常使用状態にて、シートクッション部20の下部に配置されるとともに床面からシートクッション部20を支持する支持部材を設けても良い(ただし、この場合は乗物用シートが片持ちのみの支持ではなくなる)。
【符号の説明】
【0022】
1 突出壁部
2 スライドレール
3 シートクッション
4 シートフレーム
5 シートバック部
6、7 連結部材
8 クッション回転軸
9 リクライニング回転軸
10 インスツルメントパネル
20 シートクッション部
SL、SLa、SLb、SR 乗物用シート



【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗物の室内構造及び乗物用シートにおいて、
前記乗物の室内における床面には、当該床面から天井方向に突出して当該乗物の進行方向に沿って前後方向に延びる壁部である突出壁部が設けられており、
前記突出壁部において前記進行方向に向かって左側面と右側面のそれぞれには、前記前後方向に延びるスライドレールが設けられており、
前記乗物の室内には、複数の前記乗物用シートのそれぞれが、前記突出壁部に設けられた前記スライドレールのそれぞれに沿って配置されており、
前記乗物用シートのそれぞれは、自身に設けられた連結部材にて前記スライドレールに接続され、前記スライドレールに沿って前記前後方向に往復移動可能であるとともに前記連結部材のみにて片持ちで支持されている、
乗物の室内構造及び乗物用シート。
【請求項2】
請求項1に記載の乗物の室内構造及び乗物用シートであって、
前記突出壁部は、前記乗物の室内において進行方向に対して左右方向である幅方向の中央に、前記乗物の室内の前記前後方向の前端から前記乗物の室内の前記前後方向の後端まで延出されており、
前記前後方向の前端に配置された前記乗物用シートが前記乗物の室内の前方端まで、及び前記前後方向の後端に配置された前記乗物用シートが前記乗物の室内の後方端まで、移動可能となるように前記スライドレールの前後方向の長さが設定されている、
乗物の室内構造及び乗物用シート。
【請求項3】
請求項1または2に記載の乗物の室内構造及び乗物用シートであって、
前記連結部材は、前記スライドレールに対して直交する方向且つ水平方向に、前記スライドレールに接続されており、
前記乗物用シートのそれぞれは、自身に設けられた連結部材回りに回転可能となるように構成されている、
乗物の室内構造及び乗物用シート。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−171498(P2012−171498A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35634(P2011−35634)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】