説明

乗用型農作業機

【課題】エンジンを操縦フロアの後ろに配置したミッドマウント方式の乗用型田植機において、エンジンをできるだけ後ろに配置することを可能ならしめる。
【手段】走行機体は、左右のサイドフレーム12とその後端に連結したリアフレーム14とを有する。サイドフレーム12はその後端が高くなるよう後半部は傾斜しており、リアフレーム14は左右のリア支柱26で下方から支持されている。苗植装置を連結するためのリンク27,28はリア支柱26に連結されており、リンク27,28を回動させる油圧シリンダ30はリアフレーム14に連結されている。左右サイドフレーム12はエンジン18の左右外側に配置され、リア支柱26の前の空間は障害物がないエンジン配置スペースになっている。このためエンジン18を走行機体1の後部に寄せることができ、その結果、走行機体1のコンパクト化に貢献できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、乗用型田植機のような乗用型農作業機(好適には乗用型植付け機)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乗用型農作業機の一例として乗用型田植機がある。この乗用型田植機は左右の前輪及び左右の後輪で支持された走行機体を有しており、走行機体の後部に、作業装置の一例としての苗植装置を高さ調節可能に取り付けている。そして、走行機体には座席と操縦ハンドルとが配置されていると共にエンジンが搭載されており、エンジンからの動力によって走行と苗植作業が行われる。走行機体のうち座席の手前側は操縦フロアになっている。
【0003】
そして、走行機体は鋼管やチャンネル材等の鋼材で構成された骨組み(シャーシ)を有しているのが普通であり、一般に、骨組みの主要部材として前後方向に長く延びる左右のサイドフレームを有しており、左右のサイドフレームを横長の部材で連結している。
【0004】
苗植装置と走行機体とはリンク装置によって相対回動可能に連結されており、走行機体とリンク装置とを油圧シリンダで連結している。従って、油圧シリンダを伸縮動させると苗植装置が昇降する。リンク装置は一般に上下に分離したトップリンクとロアリンクとで構成されている。
【0005】
油圧シリンダの配置態様の一例として特許文献1には、油圧シリンダを側面視で後ろに行くほと高くなる傾斜姿勢で配置して、油圧シリンダの後端とロアリンクとを中間リンクで連結することが開示されている。他方、特許文献2には、油圧シリンダを後端に行くほど低くなる傾斜姿勢に配置する一方、トップリンクの後端とロアリンクの後端とに苗植装置が取り付くヒッチを連結し、油圧シリンダの後端をヒッチに連結することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−335708号公報
【特許文献2】特許第3318184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さて、乗用型田植機におけるエンジンの配置態様としては、エンジンを操縦フロアの前に配置するフロントマンウト方式と、エンジンを操縦フロアの後ろに配置するミッドマウント方式とがあり、後者のミッドマウント方式はスペースの制約が少ないため設計面で有利であると言える。
【0008】
そこで特許文献1,2を検討するに、両特許文献ともフロントマウント方式を対象にしており、仮に特許文献1をミッドマウント方式にすると、エンジンと油圧シリンダとの干渉を回避するためにはエンジンを油圧シリンダの前に配置せねばならず、すると走行機体の全長が長くなるという問題が発生する。
【0009】
他方、特許文献2は、走行機体のうち座席の下方の部位に側面視台形状の支持部を設け、この支持部に配置した繋ぎパイプに油圧シリンダの前端とトップリンクの前端とを連結しているが、この特許文献2でもエンジンは台形状の支持部の手前に配置せざるを得ないため、ミッドマウント方式に転用すると走行機体の全長が長くなるという問題がある。
【0010】
本願発明は、このような現状を改善すべくなされたもので、より改良された乗用型農作業機を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明に係る乗用型農作業機は、エンジンの動力で自走する走行機体と、前記走行機体の後部にリンク装置を介して昇降可能に取り付けられた作業装置とを有しており、前記走行機体とリンク装置とにシリンダを相対回動自在に連結することにより、前記シリンダが伸縮するとリンク装置が回動して作業装置が昇降するようになっている、という基本構成になっている。
【0012】
そして、請求項1の発明では、前記走行機体はオペレータが着座状態で足を載せる操縦フロアを有しており、前記エンジンは前記操縦フロアよりも後ろに配置されて、前記シリンダはエンジンの後ろに配置されており、前記シリンダは、前端は走行機体を構成する部材に連結されて後端は前記リンク装置に連結されており、平面視で前記シリンダの手前側にエンジン載置空間を空けている。また、請求項2の発明は、請求項1において、前記シリンダの前端を前記エンジンの上端よりも高い位置において走行機体に連結している。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の発明を好適に具体化したものであり、この発明では、前記走行機体は、前後方向に長く延びる左右のサイドフレームと、前記サイドフレームの後端に固定された左右長手のリアフレームと、前記リアフレームを下方から支持する左右一対のリア支柱とを有しており、前記エンジンは前記リア支柱の前に配置されている一方、前記サイドフレームは、前記エンジンの左右外側に配置されていると共に、後端がエンジンの上面よりも高くなるように側面視で後部が傾斜しており、更に、前記リンク装置の前端は左右リア支柱に連結され、前記シリンダの前端はリアフレーム又はリア支柱の上部に連結されている。
【0014】
請求項4は請求項3の発明を具体化したもので、この発明では、前記リンク装置は上下に分かれて配置されたトップリンクとロアリンクとを有しており、これらトップリンクとロアリンクとはその前端を中心にして回動するようにリア支柱に連結されており、更に、前記シリンダは、その前端がリアフレームに連結されていて後端はロアリンクの後部に連結されている。
【発明の効果】
【0015】
本願発明では、エンジンを操縦フロアの後ろに配置した方式において、作業装置を昇降するためのシリンダの手前がエンジン載置空間になっているため、エンジンとシリンダとの前後間隔をできるだけ短くすることができる(場合によっては、平面視でエンジンとシリンダとを部分的に重複させることも可能になる。)。その結果、ミッドマウント方式の乗用型植付け作業機において走行機体の全長が過度に長くなることを防止できる。
【0016】
シリンダでリンク装置を回動させる場合、シリンダの力を有効利用するためには、シリンダの引っ張り力をなるだけリンク装置の上向き引き上げ分力として作用させるのが好ましく、そのためにはシリンダの前端はできるだけ高い位置にあるのが好ましい。この点、請求項2の構成を採用すると、エンジンの高さが従来と同様であっても作業装置を効率的に上昇させることができる利点がある。
【0017】
請求項3の構成を採用すると、走行機体を構成するフレーム材にシリンダとリンク装置とを連結しているため、それだけ構造の複雑化を防止してコストダウンに貢献できる。
【0018】
また、乗用型田植機のリンク装置はトップリンクとロアリンクとで平行リンク機構を構成しているものが多く、請求項3の発明はこの点を踏襲している。そして、請求項3の発明では、トップリンクの前端はリア支柱に連結されてシリンダの前端はリアフレームに連結されているため、シリンダによってリンク装置に大きなモーメントを作用させることができ、このため作業装置の昇降をよりスムースに行える。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】田植機の全体的な側面図である。
【図2】田植機の全体的な平面図である。
【図3】走行機体の骨組みを示す側面図である。
【図4】走行機体の骨組みを示す平面図である。
【図5】走行機体の骨組みを示す斜視図である。
【図6】エンジンの支持構造を示す側面図である。
【図7】エンジンの支持構造を示す分離平面図である。
【図8】エンジンの支持構造を示す分離斜視図である。
【図9】走行機体を後ろから見た斜視図である。
【図10】走行機体を後ろから見た分離斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は乗用型田植機(以下、単に「田植機」と略す)に適用している。以下の説明では、方向を特定するために「前後」「左右」の文言を使用するが、これらの文言は、特に断らない限り、前進方向を向いて着座した運転者の向きを基準にしている。
【0021】
(1).田植機の概要
まず、田植機の概要を説明する。図1,2に示すように、田植機は主要要素として走行機体1と苗植装置2とを有しており、走行機体1は左右の前輪3と後輪4を有する。苗植装置2は苗マットから植付け爪で苗を1株ずつ掻き取る方式であり、苗台や送り装置、或いはロータリー式植付け機構等を有しているが、本願発明との直接の関連はないので説明は省略する(図2では植付け機構は省略している。)。
【0022】
走行機体1は、運転者が腰掛ける背もたれ付き座席5とその前方に配置された操縦ハンドル6とを有している。座席5と操縦ハンドル6は走行機体1の左右中間位置に配置されている。操縦ハンドル6はボンネット7で覆われた操縦機構部に設けられている。また、座席5の前方で左右両側には予備苗台8を設けており、座席5の後ろには施肥装置9を設けている。図1及び図2に示すように、走行機体1のうち人が載る部分は車体カバー10で覆われており、この車体カバー10でオペレータが載る操縦フロア10aが構成されている。
【0023】
例えば図5から明瞭に理解できるように、走行機体1は、前後方向に延びる左右のサイドフレーム12と、左右のサイドフレーム12をその前端寄り部位において連結したフロントフレーム13と、左右サイドフレーム12の後端に連結された左右長手のリアフレーム14とを有している。これらサイドフレーム12とフロントフレーム13とリアフレーム14とにより、走行機体1の骨組みの中核を成す車体フレーム(シャーシ)が構成されている。サイドフレーム16の手前にはパンパー15を配置している。
【0024】
サイドフレーム12は、ほぼ前後中間部を境にして略前半部は略水平姿勢になって後半部は後傾姿勢となるように屈曲している。すなわち、サイドフレーム12の後半部は、後ろに行くほど高さが高くなる傾斜部12aになっている。左右のサイドフレーム12には左右横長で外向きに突出した外向き枝フレーム16が溶接によって固着されており、手前に位置した2本の外向き枝フレーム12に予備苗台8が固定されている。また、サイドフレーム12の左右外側には前後方向に延びる補助フレーム17が平面視で平行に配置されている。補助フレーム17は外向き枝フレーム16に溶接されている。
【0025】
例えば図3から理解できるように、、側面視でサイドフレーム12における傾斜部12aの下方に位置した部位には、エンジン18がクランク軸を左右横長にした姿勢で配置されており、エンジン18の手前でかつサイドフレーム12の水平状部の下方位置には、変速装置を構成するミッションケース19が配置されている。ミッションケース19は車体カバー10の操縦フロア10aで上から覆われている。換言すると、ミッションケース19は操縦フロア10aの下方に配置されている。敢えて述べるまでもないが、ミッションケース19にギア群やクラッチ、ブレーキ等の変速要素が内蔵されている。
【0026】
エンジン18のクランク軸は左側に露出している一方、ミッションケース19の左側面には静油圧式無段変速機(HST)20が取り付けられており、エンジン18の動力はベルト21で(HST)20に送られる。エンジン18はシリンダボアを鉛直線に対して後傾させた傾斜姿勢で配置されており、後傾角度は概ねサイドフレーム12における傾斜部12aの傾斜角度と同じである。
【0027】
ミッションケース19の前部の左右側面にはフロントアクスル装置22が取り付けられており、フロントアクスル装置22で前輪3が回転自在に支持されている。座席5は、走行機体1のほぼ左右中間部の位置でかつ側面視では概ねサイドフレーム12における傾斜部12aの前半部の上方に位置している。他方、エンジン18も概ね走行機体1の左右中間部に配置されており、かつ、図3から理解できるように、その前部が平面視で座席5と重なり合う前後位置に配置されている。従って、エンジン18は、後ろ半分程度かそれ以上の割合で座席5の後ろにはみ出している。座席5とエンジン18との間には空間が空いており、この空間に燃料タンク23を配置している。
【0028】
エンジン18の斜め後ろにはリアアクスルケース25が配置されており、リアアクスルケース25から左右に突出した後ろ車軸に後輪4を相対回転不能に固定している。図5に示すように、リアアクスルケース25は、例えば図7に示すように、左右長手の基部25aから左右の後ろ向き張り出し部25bを突設した形態であり、後輪4は後ろ向き張り出し部25bに設けている。また、左右の後ろ向き張り出し部25bの内側部に設けた段部にブラケット26aを介してリア支柱26が固定されており、リア支柱26をリアフレーム14に固定している。リア支柱26は側面視で若干前傾している。
【0029】
図3に示すように、走行機体1の後端にはトップリンク27とロアリンク28とから成るリンク機構が連結されており、両リンク27,28の後端に連結したヒッチ29に苗植装置2が連結されている。トップリンク27はリア支柱26に上下回動自在に連結され、ロアリンク28はリア支柱26に上下回動自在に連結されている。リンク機構は、リアフレーム14に連結した油圧シリンダ30によって上下回動する。これらの詳細は後述する。
【0030】
(2).部材の連結構造
例えば図7や図8に示すように、ミッションケース19とリアアクスルケース25とはジョイント部材31で連結されている。ジョイント部材31は中空角形になっている。また、図4,5に示すように、フロントフレーム13にはフロントブラケット32を介してパワーステアリングユニット33が固定されており、このパワーステアリングユニット33とミッションケース19の前端部とがボルトで固定されている。従って、本実施形態ではパワーステアリングユニット33も走行機体1の構造材を兼用している。
【0031】
図7から理解できるように、ミッションケース19は大まかには左右のケースをボルトで締結した中空構造になっており、図6のとおり、その後部でかつ下部にジョイント部材31が抱持体34を介して固定されている。ミッションケース19のうちHST20が取り付いた部分の後ろ側は切欠かれた状態になっており、このためミッションケース19の左面は平面視で段違い状になっており、この段部からドライブ軸35を後ろ向きに延ばしている。ドライブ軸35はリアアクスルケース25に接続されている。例えば図8から理解できるように、ジョイント部材31の後端はエンド板36を介してリアアクスルケース25の前面にボルトで締結されている。
【0032】
例えば図7に示すように、ミッションケース19の右側面部のうちその後部には横向きに突出した作業動力出力部38を設けており、この作業動力出力部38から作業動力出力軸39が後ろ向きに延びている。作業動力出力軸39は図4や図5に示す株間ケース40に接続されており、株間ケース40からは、植付け駆動軸(PTO軸)41(図3参照)が後ろ向きに突出していると共に、施肥駆動軸(図示せず)が上向きに突出している。
【0033】
次にエンジン18の支持構造を説明する。例えば図8に示すように、エンジン18は、その前部はジョイント部材31に固定した前部ブラケット42に取り付けられ、その後部は後部ブラケット43を介してリアアクスルケース25に取り付けられている。前部ブラケット42は、ジョイント部材31の側面に固定された左右の足部44と、左右の足部44に差して配置された上部材45とを有している。
【0034】
足部44はチャンネル材から成っていて正面視で上に行くほど左右外側に広がっており、このため左右の足部44は略V形の姿勢になっている。上部材45は円筒状の前部防振ゴム46を介して足部44に載っており、これら上部材45と前部防振ゴム46と足部44とはボルトで一体に締結されている。上部材45にエンジン18の前部フランジ18aをボルト及びナットで締結している。
【0035】
前部ブラケット42とジョイント部材31とで囲われた空間にドライブ軸35が通っている。後部ブラケット43は、リアアクスルケース25の基部25aに補助ブラケット47及び後部防振ゴム48を介して取り付けられている。後部ブラケット43にエンジン18の後ろフランジ部18bをボルトで締結している。
【0036】
図1,3,6から理解できるように、エンジン18はリア支柱26に近づいた状態に配置されている。見方を変えて述べると、リア支柱26の前方にエンジン18の載置空間が空いている。また、図7から理解できるように、エンジン18は左右のサイドフレーム12の間のスペースに十分な余裕を持って配置されている。従って、リアフレーム14やリア支柱26の前方には、エンジン18を配置できる空間が空いている。換言すると、エンジン18はリアフレーム14やリア支柱26に可能な限り近づけ得るのであり、これにより、走行機体1の長さが長くなることを防止しつつエンジン18のミッドマウント化を実現できる。
【0037】
(3).リンク装置
次に、リンク装置を説明する。例えば図9,10に示すように、トップリンク27は、後端部のみが1本の幹部27aとなり大部分は二股部27bになっており、二股部27bは手前に行くほど間隔が広がっている。このためトップリンク27は全体として平面視Y形の形態を成している(勿論、梯子形等の他の経過体でもよい。)。左右の二股部27bの前端部がそれぞれ左右長手の第1ピン50でリア支柱26の上端部の内面部に連結され、幹部27aの後端部がヒッチ29の上部に左右長手の第2ピン51で連結されている。
【0038】
また、リア支柱26の上端部に第1ピン50が嵌まる第1軸受け筒52を溶接によって固着している。第1軸受け筒52はリア支柱26の左右両側に突出しており、このため第1ピン50は安定的に支持されている。
【0039】
ロアリンク28は角パイプ製の左右サイドメンバー28aを有しており、左右サイドメンバー28aは、その前端に貫通した左右長手の軸受け第2軸受け筒53と前後略中間部に配置されたセンター補強54とで一体に連結されている。従って、ロアリンク28は大まかに梯子形の形態を成している。第2軸受け筒53は左右メンバー28aの左右外側に露出しており、ロアリンク28は、第3軸受け筒53を介して第3ピン55でリア支柱26に回動自在に連結されている。リア支柱26には、第3軸受け筒53に内側から嵌まるボス部56aを有する第4軸受け筒56が固着されており、実際には、第2軸受け筒53の支持機能は第4軸受け筒56が担っている。
【0040】
ロアリンク28の後端部は左右長手の第4ピン57によってヒッチ29の下部に回動自在に連結されている。図では明示していないが、ヒッチ29の下部には第4ピン57が嵌まる軸受け筒を溶接している。
【0041】
リアフレーム14の左右中間部とロアリンク28の後ろ寄り部位とが油圧シリンダ30で連結されている。油圧シリンダ30は筒体30aとピストンロッド30bを有しており、筒体30aの前端部はリアフレーム14に溶接されたハンガーブラケット58に左右長手の第5ピン59で連結されており、ピストンロッド30bの後端部(先端部)は左右長手の第6ピン60でロアリンク28に連結されている。ハンガーブラケット58はリアフレーム14からおおよそ下向きに突出している。このため施肥装置9をリアフレーム14で支持するにおいてハンガーブラケット58が邪魔になることはない。
【0042】
図9から理解できるように、ピストンロッド30bの後端に軸受けプレート30cを固着しており、この軸受けプレート30cが第6ピン60でロアリンク28に連結されている。ロアリンク28を構成する左右サイドメンバー28aには、第6ピン60を手前側から囲う補強部材61が固着されている。このため、第6ピン60を過度に太くしなくても高い強度を確保できる。補強部材61には軸受けプレート30cの回動を許容するための逃がし溝が形成されている。
【0043】
敢えて説明するまでもないが、油圧シリンダ30が縮み作動すると両リンク27,28は先端が上がるように回動し、その結果、ヒッチ29は上昇する。逆に、油圧シリンダ30が伸び作動すると両リンク27,28は後端が下がるように回動し、その結果、ヒッチ29は下降する。当然ながら油圧シリンダ30も伸縮しながら第5ピン59を中心にして回動する。油圧シリンダ30を構成する筒体30aの後端にはアキュームレータ30dを設けている。
【0044】
ヒッチ29は後ろ向きに開口した断面コの字状の形態を成しており、背面にはカバー62を装着している。図示していないが、ヒッチ29には第4ピン57が嵌まる軸受け筒を固着している。また、ヒッチ29の下端にはキングピン63が後ろ向きに突出しており、キングピン63に苗植装置2が固定されている。ヒッチ29の上部と苗植装置2の補助サポート(図示せず)とはローリング制御装置64を介して連結されている。なお、ヒッチ29も請求項に記載したリンク機構を構成するものであり、従って、油圧シリンダ30をヒッチ29に連結することも可能である。
【0045】
(4).まとめ
さて、1本の油圧シリンダ30でリンク装置を昇降させる場合は、油圧シリンダ30を走行機体1の左右中間部に配置するのが合理的である。他方、エンジン18はバランス等の点から一般に走行機体1の左右中間部に配置するのが合理的である。そして、本実施形態では、油圧シリンダ30はリアフレーム14に連結しているため、油圧シリンダ30を左右中間部に配置したものでありながら、エンジン18をリア支柱26に近づくようにできるだけ後ろに配置できる。これによって走行機体1の長大化を防止できる。また、油圧シリンダ30でリンク装置を直接に押し引きして回動操作するものであるため、力学的にも優れている。
【0046】
油圧シリンダ30は左右リア支柱26にピン類で連結してもよいが、リア支柱26に連結するとピン類の撓みの問題が生じる可能性がある。これに対して本実施形態のようにリアフレーム14に連結すると、ピン59はごく短くてよいため撓みの問題が生じることはない。トップリンク27を平面視でY形(或いは梯子形)の形態にすると、油圧シリンダ30はトップリンク27と干渉することくなくリアフレーム14に連結できる利点がある。
【0047】
トップリンク27をリアフレーム14に連結することも可能であるが、この場合は専用のブラケットをリアフレーム14に溶接せねばならない。これに対して本実施形態のようにリア支柱26に連結すると、ブラケットを溶接する必要がなく、それだけ構造を簡素化してコストダウンに資する利点がある。また、リア支柱26をリアアクスルケース25で支持すると、リアアクスルケース25を走行機体1の強度メンバー(骨組み部材)に兼用できるため、走行機体1の全体としての軽量化や構造簡素化に貢献できる。
【0048】
(5).その他
本願発明は上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。例えば適用対象は乗用型田植機には限らず、畦塗り機や野菜移植機のような他の乗用型農作業機にも適用できる。
【0049】
また、必ずしもリアアクスルケースを走行機体の骨組みに利用する必要はないのであり、フレーム構造体でシャーシを構成して、このフレーム構造体にエンジンを搭載したタイプにも適用できる。リンク装置やシリンダが取り付く部材は走行機体の基本構造に応じて選択したらよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本願発明は乗用型田植機に具体的に適用して有用性を発揮するものであり、従って産業上利用できる。
【符号の説明】
【0051】
1 走行機体
2 作業装置の一例としての苗植装置
3,4 車輪
5 座席
6 ハンドル
10a 操縦フロア
12 サイドフレーム
14 リアフレーム
18 エンジン
19 ミッションケース
25 リアアクスルケース
26 リア支柱
27 リンク装置を構成するトップリンク
28 リンク装置を構成するロアリンク
29 ヒッチ
30 油圧シリンダ(昇降シリンダ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの動力で自走する走行機体と、前記走行機体の後部にリンク装置を介して昇降可能に取り付けられた作業装置とを有しており、前記走行機体とリンク装置とにシリンダを相対回動自在に連結することにより、前記シリンダが伸縮するとリンク装置が回動して作業装置が昇降するようになっている、という構成であって、
前記走行機体はオペレータが着座状態で足を載せる操縦フロアを有しており、前記エンジンは前記操縦フロアよりも後ろに配置されて、前記シリンダはエンジンの後ろに配置されており、前記シリンダは、前端は走行機体を構成する部材に連結されて後端は前記リンク装置に連結されており、平面視で前記シリンダの手前側にエンジン載置空間を空けている、
乗用型農作業機。
【請求項2】
前記シリンダの前端を前記エンジンの上端よりも高い位置において走行機体に連結している、
請求項1に記載した乗用型農作業機。
【請求項3】
前記走行機体は、前後方向に長く延びる左右のサイドフレームと、前記サイドフレームの後端に固定された左右長手のリアフレームと、前記リアフレームを下方から支持する左右一対のリア支柱とを有しており、前記エンジンは前記リア支柱の前に配置されている一方、前記サイドフレームは、前記エンジンの左右外側に配置されていると共に、後端がエンジンの上面よりも高くなるように側面視で後部が傾斜しており、更に、前記リンク装置の前端は左右リア支柱に連結され、前記シリンダの前端はリアフレーム又はリア支柱の上部に連結されている、
請求項1又は2に記載した乗用型農作業機。
【請求項4】
前記リンク装置は上下に分かれて配置されたトップリンクとロアリンクとを有しており、これらトップリンクとロアリンクとはその前端を中心にして回動するようにリア支柱に連結されており、更に、前記シリンダは、その前端がリアフレームに連結されていて後端はロアリンクの後部に連結されている、
請求項3に記載した乗用型農作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−62118(P2011−62118A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214706(P2009−214706)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】