説明

乗用車車室用構造体およびその製造方法

【課題】設計の自由度の高い車両の考慮を前提とした新規なコンセプトに基づき、乗員安全性確保のために車室形成用の優れた剛構造を達成でき、かつ、一体成形性の容易化を実現して、優れた量産性を有し、製造コストの低減が可能な乗用車車室用構造体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】乗用車の車室を構成するための構造体であって、車室の前部側から後部側までの構造体全体が繊維強化樹脂で一体に構成されたモノコック構造に構成され、構造体の前部側および後部側のうち少なくとも前部側に、後部側に向かって開口する椀状構造部を有し、構造体の両側部には、椀状構造部に連なり構造体の前後方向に延びる立壁からなる側壁部を有することを特徴とする乗用車車室用構造体、およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用車(レーシングカーを除く)の車室用構造体とその製造方法に関し、とくに、電気自動車やハイブリッドカーに好適な実質的に全体を一体に形成可能な乗用車車室用構造体、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車や燃料電池車、ハイブリッドカー等では、車両走行用の動力源に電気モータの使用が可能であり、電気モータは車両搭載位置上の自由度が高いことから、車体設計の自由度が大幅に向上する。そのため、車室を構成するための車室骨格構造体の形状や構造の自由度も大きく増大する。また、このような車両走行用の動力源に電気モータの使用を可能とした自動車は、総合的にみて二酸化炭素の排出量が少なく、地球環境適応型の車両として注目されている。とくに近年、LCA(Life Cycle Assessment)の考え方も取り入れられ、材料も含めた車両製造段階から車両使用時、廃車までのライフ全体での二酸化炭素排出量の低減が評価されつつある。
【0003】
一方で、自動車には、基本的な要求仕様として、衝突時等の乗員の安全性を確保するための構成と、燃費向上等のための車体の軽量化と、優れた量産性や製造コスト低減等が求められる。乗員の安全性向上のための構造としては、例えば、乗員の居空間である車室に対しては極力変形を抑制可能な剛構造とし、車室構造部に連なる車両前部部分や後部部分に対しては、衝突時(前突および後突時等)などにおける外部からの衝撃を効果的に吸収し車室内への影響を最小限に抑えるために柔構造(クラッシャブル構造とも呼ばれる)とすることが好ましいとする設計思想が注目されている。
【0004】
車体の軽量化を含めて衝突時等の乗員の安全性を確保するための構成として、例えば車体骨格部を繊維強化樹脂で構成した構造が提案されている(例えば、特許文献1)。この特許文献1に開示されている構造は、車体の下部を構成する車体骨格部と車室部を独立に形成し、車体骨格部を繊維強化複合材料で形成してその部分に衝撃エネルギー吸収性能を持たせるようにしたものである。
【0005】
ところが、この特許文献1に開示されている構造では、車体骨格部と車室部が独立に形成される構成であるため、生産性、とくに量産性の改善には限界がある。したがって、製造コスト低減上は格別有利な構成とはなっていない。また、車室部の下部に位置する車体骨格部に対しては、衝撃エネルギー吸収等のための構造上の工夫が加えられているものの、車室部に対しては、乗員の安全性向上のための、極力変形を抑制可能な剛構造構成などの工夫は格別には配慮されていない。すなわち、車室内の乗員に対しては、車体骨格部による衝撃エネルギー吸収によって安全性を確保する配慮はなされているものの、車室の変形の抑制によって乗員の安全性を確保するという面からは、十分に配慮された構造とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−23706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、車室部の下部に位置する車体骨格部(下部ベース部)に繊維強化樹脂を用いてその特徴を活かすようにした構造は知られているが、とくに車室内の乗員の安全性を向上するという面から、車室構成部分と下部ベース部分を含む部位の全体を総合的に勘案した構造は知られていない。
【0008】
そこで本発明の課題は、自動車の車室構成部分をその下部車両ベース部分まで含めた部位を総合的に考慮し、かつ、動力源に電気モータの使用を可能とした自動車における車体設計の自由度の増大も考慮することを前提とした新規なコンセプトに基づき、乗員安全性確保のために車室形成用の優れた剛構造を達成でき、かつ、一体成形性の容易化を実現して、優れた量産性を有し、製造コストの低減が可能な乗用車車室用構造体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る乗用車車室用構造体は、乗用車の車室を構成するための構造体であって、車室の前部側から後部側までの構造体全体が繊維強化樹脂で一体に構成されたモノコック構造に構成され、構造体の前部側および後部側のうち少なくとも前部側に、後部側に向かって開口する椀状構造部を有し、構造体の両側部には、前記椀状構造部に連なり構造体の前後方向に延びる立壁からなる側壁部を有することを特徴とするものからなる。なお、本発明では、いわゆる乗用車を対象とし、乗員乗降用の開口部が極めて小さいレーシングカーのモノコック構造は適用が難しいため、本発明の対象外としている。また、上記椀状構造部とは、半開ドーム形状や角型椀状形状などの、構造体の前後方向(自動車の前後方向)に向かって開口するあらゆる形状の椀状構造部を含む概念である。
【0010】
このような本発明に係る乗用車車室用構造体においては、車室用構造体に椀状構造部と側壁部を設けておくことで、車室を構成するための主要構造部の全体をモノコック構造として繊維強化樹脂で一体に構成することが可能になる。すなわち、前述したような従来構造に比べると、自動車の車室構成部分とその下部に位置する車両ベース部分まで含めた部位が一体に形成された乗用車車室用構造体の形態となり、これらの部分が全て一体に形成されている点で、従来技術とは基本的に異なる新しいコンセプトの構造体形態である。通常のセダン型の自動車に対しては、上記椀状構造部としては、後部側に向かって開口する前部椀状構造部と前部側に向かって開口する後部椀状構造部の両方が設けられるが、ハッチバック型などの一部の車種に対しては、前部椀状構造部のみとする構造も可能である。このような椀状構造部は、成形時の型の抜き構造さえ確保されていれば、車室用構造体全体を一体に成形することが可能になる。繊維強化樹脂で形成された乗用車車室用構造体の全体がモノコック構造とされることで、軽量化を達成しつつ、車室構成部全体にわたって必要とされる剛性を容易に確保できるようになり、車室の必要な剛構造が達成されて乗員に対する安全性が向上される。また、このモノコック構造の少なくとも一部が繊維強化樹脂をスキンとするサンドイッチ構造である場合には、より軽量化と剛構造が得られる。そしてこの乗用車車室用構造体は車室の下部に位置する車両ベース部分まで含めたモノコック構造に構成されているから、全体を一体成形することが可能になり、部品点数が極めて少なくなって、製造が容易化され、優れた生産性、とくに優れた量産性が得られるとともに、製造コストの低減が可能になる。さらに前述したように、動力源に電気モータの使用を可能とした自動車においては車体設計の自由度が大きく増大し、この利点はモノコック構造の自由度にも反映させることができ、それによってモノコック構造の簡素化、単純形状化、成形の際の脱型の容易化等も可能になり、一層生産性等の向上をはかることも可能である。
【0011】
上記本発明に係る乗用車車室用構造体においては、上述の如く、上記構造体の後部側にも、前部側に向かって開口する椀状構造部が設けられている構成とすることもできる。
【0012】
また、上記本発明に係る乗用車車室用構造体においては、とくに、上記構造体の少なくとも上記椀状構造部(前部椀状構造部、または前部椀状構造部および後部椀状構造部)を含む部位に対し、該構造体の前後方向に少なくとも部分的に延びる、立壁からなるキール(竜骨)が設けられている構造とすることが好ましい。キールは、1本でもよいし、必要に応じて2本以上併設してもよい。このようなキールを設ければ、構造体の少なくとも椀状構造部を含む部位が補強され、該部位の強度・剛性が大幅に向上される。したがって、乗用車車室用構造体全体としての、とくに車室の必要な剛構造を達成するための剛性が確保される。
【0013】
とくに、上記キールが、椀状構造部内において、該椀状構造部の底面から天井面まで延びる立壁に構成されていることが好ましい。このようなキール構造とすれば、椀状構造部がより確実に補強され、椀状構造部の強度・剛性、ひいては構造体全体の強度・剛性がより確実に向上されることになる。
【0014】
また、上記本発明に係る乗用車車室用構造体においては、該構造体に、その幅方向(つまり、車幅方向)に延びるリブが設けられている。リブは構造体幅方向に部分的に延びていてもよいが、望ましくは、実質的に全幅にわたって(つまり、両側壁部間にわたって、あるいは、椀状構造部の構造体幅方向両壁間にわたって)延びていることが好ましい。また、このリブも、1本でもよいし、必要に応じて2本以上併設してもよい。さらに、リブの延設方向は、実質的に構造体の幅方向であればよく、前後方向に直交する方向はもちろんのこと、その直交方向に対して斜めに延びる方向であってもよい。このようなリブを設ければ、上記キールと交差する方向に構造体の強度・剛性が向上され、とくに構造体全体の捩り剛性が向上され、車室の必要な剛構造がより確実に達成される。このリブは、とくに側壁部の構造体前後方向中央部に設けられることが好ましく、さらに、椀状構造部の開口部に開口縁の少なくとも一部に沿って延びるように設けられることが好ましい。
【0015】
また、上記本発明に係る乗用車車室用構造体においては、上記椀状構造部の開口縁部およびそれに連なる上記側壁部の上縁部によって形成される上方に向けて開口された構造体開口部の開口縁部のうち少なくとも上記側壁部の上縁部に、開口縁部に沿って延びるガンネルが設けられていることが好ましい。このガンネルは、開口縁部の補強・補剛の役目を果たし、それを通して、構造体全体の強度・剛性をより確実に向上させる役目を果たす。そして、この構造においては、上記構造体開口部の開口縁部が、構造体の成形に用いられる錐型の出し入れが可能な形状に形成されていることが好ましい。このように構成しておくことで、構造体の成形に際し、錐型の着脱を容易に行うことができ、構造体の成形が容易化される。なお、上記キール、リブ、ガンネル自体の横断面形状についてはとくに限定されず、各種の断面形状を採り得る。例えば、単なる平板状の立壁や横壁形状の他、I形、T形、L形、逆L形、Z形、C形、ハット形などの各種断面形状を採り得る。上記キールやリブ、ガンネルは、金属や樹脂(繊維強化樹脂も含む)、繊維強化樹脂をスキンとするサンドイッチ構造等で形成できる。
【0016】
また、上記本発明に係る乗用車車室用構造体においては、上記椀状構造部が、構造体の前後方向に上記椀状構造部の外側に隣接配置された車両構造部から伝達される荷重の支持部に構成されている構造とすることが可能である。本発明に係る乗用車車室用構造体は、車室の主要構造部を構成するものであるから、その前側には、乗用車の車室よりも前側の部分、つまり、車両のフロント部分を、その後側には、乗用車の車室よりも後側の部分、つまり、車両のリヤ部分を、それぞれ配置することが可能である。これらフロント部分やリヤ部分には、前突や後突によって構造体の椀状構造部に衝撃等の荷重が加わる可能性があるので、その際の荷重を、剛構造を有する車室用構造体で受けられるようにしておくのである。それによって、車室内の乗員の安全性がより確実に確保される。また、このとき、車両のフロント部分やリヤ部分をクラッシャブル構造に構成しておけば、衝突等による衝撃をクラッシャブル構造で適切に吸収しつつ、車室内に伝達されようとする荷重を、車室用構造体の剛構造で食い止めるという、乗員の安全性確保にとって理想的な全体構成を実現可能となる。また、これらフロント部分やリヤ部分には、車輪や車軸、サスペンションといった駆動系部品の取り付け構造を有する場合もある。その場合には、これら駆動系部品から駆動に関わる荷重がフロント部分やリヤ部分から車室用構造体の椀状構造部に伝わる可能性があるので、その際の荷重を、剛構造を有する車室用構造体で受けられるようにしておくのである。それによって、駆動系部品の支持構造としての機能を車室構造体が取り込むことが可能となり、より一層の製造コストの低減が可能な乗用車車室用構造体となるのである。
【0017】
本発明において、車室用構造体に使用される繊維強化樹脂の強化繊維としては、とくに限定されず、炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維などを使用でき、さらにこれら強化繊維を組み合わせたハイブリッド構成の採用も可能である。また、繊維強化樹脂のマトリックス樹脂としても、とくに限定されず、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれも使用可能である。使用可能な熱硬化性樹脂としては、代表的にはエポキシ樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂を用いる場合の成形には、RTM(Resin Transfer Molding)やプリプレグを用いたプレス成形等の成形方法の適用が可能である。熱可塑性樹脂の場合には、上記成形法に加えて、射出成形の適用も可能である。使用可能な熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66等)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリカーボネート、ポリアミドイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリスチレン、ABS、液晶ポリエステルや、アクリロニトリルとスチレンの共重合体等を用いることができる。これらの混合物でもよい。また、ナイロン6とナイロン66との共重合ナイロンのように共重合したものであってもよい。さらに得たい成形品の要求特性に応じて、難燃剤、耐候性改良剤、その他酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤、相溶化剤、導電性フィラー等を添加しておくことができる。
【0018】
本発明に係る乗用車車室用構造体の製造方法は、上記のような乗用車車室用構造体の全部位を一体に成形することを特徴とする方法からなる。一体成形により、生産性の向上と必要な強度・剛性の確保の両方をともに達成可能となる。
【0019】
また、上記本発明に係る乗用車車室用構造体の製造方法においては、乗用車車室用構造体の全部位を同一の成形工程にて実質的に同時に一発成形することが可能である。つまり、成形しようとする構造体の全部位を、同一の成形工程にて(例えば、同じ成形型内にて)、一時に同時成形するのであり、目標とする形態の構造体が極めて効率よく短時間で成形されることになる。
【0020】
また、前述のキールやリブを有する乗用車車室用構造体を製造する場合には、まず、構造体を、キール、リブの少なくとも一つを含む部位で分割された分割構造体(つまり、2つ以上の複数の分割構造体)に成形し、成形後に、分割構造体同士を接合する方法を採用することも可能である。この方法の場合には、例えば、キールやリブを、その最終形態における厚み方向に分割し、分割成形されたキールやリブ部分同士を一体に接合して所定の最終形態のキールやリブを完成させると同時に最終形態の車室用構造体の全体構造を完成させるようにすることができる。このようにすれば、分割されたキールやリブ部分同士の接合時に広い接合面積が確保でき、高い接合強度を確保できるとともに、互いの合わせ面も平坦面に形成可能であるから、位置合わせや接合操作も容易化でき、構造体全体の製造の容易化をはかることが可能である。
【0021】
さらに、本発明に係る乗用車車室用構造体の製造方法においては、構造体を、錐型と置子を用いて成形することが可能である。例えば、前述の構造体開口部の開口縁部の上方から錐型の上型を挿入し、椀状構造部の内面側等の錐型が到達できない部位に対しては置子を配置して所定の成形形状を形成し、その状態で下型と上型としての錐型および置子間に、例えば、強化繊維含有熱可塑性樹脂を射出し、樹脂を冷却固化させた後、錐型を上方に脱型し、空いたスペースから置子を除去することにより、所定の一体成形、さらには一発成形が可能である。射出成形の代りに、RTM成形やプリプレグ等を利用したプレス成形も可能である。上記置子としては、弾性体や、粒子を充填した袋状体、さらには膨縮可能な風船状体(例えば、ゴム風船状体)の使用が可能である。また、置子として、環状に延びるものを使用し、それを錐型の周囲に配置することも可能である。さらに、上型や置子として、成形体側に凸となる凸型を使用すれば、その上へのプリプレグ積層の容易化等をはかることも可能になる。
【発明の効果】
【0022】
このように、本発明に係る乗用車車室用構造体およびその製造方法によれば、繊維強化樹脂の一体構成にて、乗員の安全性確保のための優れた剛構造の車室を容易にかつ確実に形成でき、さらに、軽量性に優れ、量産性にも優れた乗用車車室用構造体を低コストで得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施態様に係る乗用車車室用構造体の斜視図である。
【図2】図1の構造体の側面方向から見た縦断面図である。
【図3】図1の構造体におけるキールの立面形状を示す縦断面図である。
【図4】図1の構造体の前後方向中央部における横断面図である。
【図5】図1の構造体の前部側から見た正面図である。
【図6】図1の変形例に係る構造体の前後方向中央部における横断面図である。
【図7】図1の構造体の製造方法の一例を示す、構造体の側面方向から見た縦断面図である。
【図8】図7に示した製造方法における構造体の前後方向中央部における横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の望ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施態様に係る乗用車車室用構造体を示している。乗用車車室用構造体1は、乗用車の車室を構成するための車室構成部分とその下部に位置する車両ベース部分まで含めた部位が一体に形成された構造体であって、車室の前部側から後部側までの構造体全体が繊維強化樹脂(例えば、炭素繊維強化樹脂)で一体に構成された(本実施態様では、一体成形された)モノコック構造に構成されている。この構造体1の前部側には、後部側に向かって開口する前部椀状構造部2が設けられており、構造体1の後部側には、前部側に向かって開口する後部椀状構造部が設けられている。構造体1の両側部(車幅方向両側部)には、椀状構造部2、3に一体に連なり構造体1の前後方向に延びる立壁からなる側壁部4が設けられており、各部が一体に成形されている。椀状構造部2、3は、本実施態様では、各コーナー部に丸みを持たせた略角型椀状の構造部に構成されている。このような椀状構造部2、3と側壁部4を備えた一体化乗用車車室用構造体1によって、車室の剛構造が効果的に達成され、併せて、繊維強化樹脂製であることにより軽量性が確保され、さらに全体の一体成形により、良好な生産性、とくに量産性と、コストダウンが達成される。
【0025】
上記構造体1の内面側には、両椀状構造部2、3を含む構造体1の全長にわたって前後方向に延びる、立壁からなるキール5が設けられている。キール5は、椀状構造部2、3内においては、該椀状構造部2、3の底面から天井面まで延びる立壁に構成されており、本実施態様では椀状構造部2、3内において、図2、3に示すように、椀状構造部2、3の開口縁よりも内側の位置で上下方向に湾曲して延びる内縁5aを有している。本実施態様では、このキール5は構造体1の幅方向中央部に1本だけ設けられているが、複数本設けられてもよく、その構造体1の幅方向における配設位置もとくに限定されない。また、少なくとも一方の椀状構造部内に延設されていれば、キール5は、構造体1の前後方向に部分的に延びる構造とすることも可能である。キール5は、図5からも明らかなように、とくに前突や後突に対してつっかい棒のような作用を発揮可能であるので、このキール5の配置により、構造体1全体の強度・剛性が、とくに前後方向における強度・剛性、並びに捩り剛性が大幅に向上されることになる。
【0026】
また、構造体1には、構造体1の幅方向に実質的に全幅にわたって延びるリブ6が設けられており、本実施態様では、リブ6は、構造体1の前後方向中央部と、両椀状構造部2、3の開口部とに、構造体1の前後方向に互いに間隔をもって合計3本設けられている。ただし、リブ6の本数はとくに限定されない。リブ6の長さはとくに限定されないが、キール5および両側壁部4に接続されていると、補強効果上最も好ましい。リブ6による補強により、さらに構造体1全体の強度・剛性が、とくに幅方向における強度・剛性、並びに捩り剛性が大幅に向上される。
【0027】
また、構造体1には、椀状構造部2、3の開口縁部およびそれに連なる両側壁部4の上縁部によって形成される上方に向けて開口された構造体開口部7の開口縁部のうち少なくとも側壁部4の上縁部に、本実施態様では構造体開口部7の開口縁部の全長にわたって、該開口縁部に沿って延びるガンネル8が設けられている。このガンネル8は、例えば図4に示すように、構造体開口部7の開口縁部の縁部補強構造を有する形状に形成されており、したがって、両側壁部4の上縁部、ひいては、両側壁部4自体の全体を補強する役目も果たしている。なお、構造体開口部7の開口縁部は、後述する構造体1の成形に用いられる錐型の出し入れが可能な形状に形成されている。
【0028】
上記乗用車車室用構造体1は、乗用車の車室の主要構成部を形成しているので、その前後方向外側には車両を構成するための何らかの車両構造部(図示略)が隣接配置される。構造体1の上記椀状構造部2、3は、これら隣接配置された車両構造部から伝達される荷重の支持部としても機能できるように構成されている。例えば、前述したように隣接配置される車両構造部が衝撃荷重に対してクラッシャブル構造に構成されている場合には、該クラッシャブル構造の車両構造部にて衝撃が適切に吸収されるとともに、そこから車室に向けて伝達されようとする荷重が、荷重の支持部としても機能できる椀状構造部2、3、さらにはそれと一体に構成されている構造体1の剛構造によって、食い止められることになり、車室内の乗員の安全性が、クラッシャブル構造と車室剛構造の両方を活用することにより、効率よく確保される。
【0029】
図6は、図1、図4に示した構造の変形例を示している。本実施態様においては、乗用車車室用構造体11のキール12、リブ13、ガンネル14の少なくともいずれかが(図示例では、これらの全部が)、構造体11のシェル15(例えば、フロア形成部)の外側に突出形成されている。あるいは、キール12、リブ13、ガンネル14の少なくともいずれかが、構造体11のシェル15の外側のみに突出形成されている。このような構成においては、車室形成側の構造体11の内面側が比較的滑らかな面として比較的広く使用可能になるとともに、構造体11の外面側に部品(例えば、バッテリモジュール等の部品)を取り付ける必要がある場合や、構造体11をその外面側で他の構造体と接合することが求められる場合、取付や接合のベースとしてより便利に活用することが可能になる。
【0030】
上記のような一体構成の本発明に係る乗用車車室用構造体は、例えば、図7、図8に示すような成形方法で一体成形可能である。図7、図8は、図1に示した乗用車車室用構造体1の成形の様子を模式的に示している。図7、図8においては、構造体1は、錐型からなる上型21と、構造体1の内部における上型21の周囲に延びる環状の膨縮可能な置子22を用いて、構造体1を一発成形する様子が例示されている。このような錐型からなる上型21を使用することにより、構造体1の開口部に対して引っ掛かりなく容易に上型21の出し入れを行うことができる。また、膨縮可能な環状の置子22を用いることにより、上型21では対応し切れない構造体1の内面部に対しても、実質的に成形型を形成することが可能になる。この置子22は、必要に応じて収縮させて取り出すことが可能である。このような成形方法により、容易に所望の乗用車車室用構造体1が成形され、量産も可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明に係る乗用車車室用構造体およびその製造方法は、車両走行用動力源の搭載位置の自由度が高い電気自動車や燃料電池車、ハイブリッドカー等にとくに好適なものである。
【符号の説明】
【0032】
1、11 乗用車車室用構造体
2 前部椀状構造部
3 後部椀状構造部
4 側壁部
5、12 キール
5a キールの内縁
6、13 リブ
7 構造体開口部
8、14 ガンネル
15 シェル
21 錐型からなる上型
22 置子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗用車の車室を構成するための構造体であって、車室の前部側から後部側までの構造体全体が繊維強化樹脂で一体に構成されたモノコック構造に構成され、構造体の前部側および後部側のうち少なくとも前部側に、後部側に向かって開口する椀状構造部を有し、構造体の両側部には、前記椀状構造部に連なり構造体の前後方向に延びる立壁からなる側壁部を有することを特徴とする乗用車車室用構造体。
【請求項2】
前記構造体の後部側にも、前部側に向かって開口する椀状構造部が設けられている、請求項1に記載の乗用車車室用構造体。
【請求項3】
前記構造体の少なくとも前記椀状構造部を含む部位に対し、該構造体の前後方向に少なくとも部分的に延びる、立壁からなるキールが設けられている、請求項1または2に記載の乗用車車室用構造体。
【請求項4】
前記キールが、前記椀状構造部内において、該椀状構造部の底面から天井面まで延びる立壁に構成されている、請求項3に記載の乗用車車室用構造体。
【請求項5】
前記構造体に、その幅方向に延びるリブが設けられている、請求項1〜4のいずれかに記載の乗用車車室用構造体。
【請求項6】
前記椀状構造部の開口縁部およびそれに連なる前記側壁部の上縁部によって形成される上方に向けて開口された構造体開口部の開口縁部のうち少なくとも前記側壁部の上縁部に、開口縁部に沿って延びるガンネルが設けられている、請求項1〜5のいずれかに記載の乗用車車室用構造体。
【請求項7】
前記構造体開口部の開口縁部が、構造体の成形に用いられる錐型の出し入れが可能な形状に形成されている、請求項6に記載の乗用車車室用構造体。
【請求項8】
前記椀状構造部が、構造体の前後方向に前記椀状構造部の外側に隣接配置された車両構造部から伝達される荷重の支持部に構成されている、請求項1〜7のいずれかに記載の乗用車車室用構造体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の乗用車車室用構造体の全部位を一体に成形することを特徴とする、乗用車車室用構造体の製造方法。
【請求項10】
乗用車車室用構造体の全部位を同一の成形工程にて実質的に同時に一発成形する、請求項9に記載の乗用車車室用構造体の製造方法。
【請求項11】
請求項5〜8のいずれかに記載の乗用車車室用構造体を製造するに際し、構造体を、キール、リブの少なくとも一つを含む部位で分割された分割構造体に成形し、成形後に、分割構造体同士を接合することを特徴とする、乗用車車室用構造体の製造方法。
【請求項12】
請求項6〜8のいずれかに記載の乗用車車室用構造体を製造するに際し、キール、リブ、ガンネルの少なくとも一つを後から接合することを特徴とする、乗用車車室用構造体の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれかに記載の乗用車車室用構造体を、錐型と置子を用いて成形することを特徴とする、乗用車車室用構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−56354(P2012−56354A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199091(P2010−199091)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】