乗算器要素回路および乗算器
【課題】100kHz程度以上の高周波領域でも正弦波入力での低ノイズ動作が可能であり、かつ安価な乗算器を提供する。
【解決手段】トランスリニア回路よりなる乗算器要素回路101,102を備え、乗算器要素回路101の入力信号電流源Iin1および乗算器要素回路102の入力信号電流源Iin3の各電流として、いずれも直流のバイアス電流と変調信号の電流との和の電流を入力するとともに、乗算器要素回路101の入力信号電流源Iin2および乗算器要素回路102の入力信号電流源Iin4の各電流として、それぞれ直流のバイアス電流とキャリア信号の電流との和の電流,および,直流のバイアス電流とキャリア信号の電流との差の電流を入力し、変調信号の電流とキャリア信号の電流との積に比例した電圧値として、乗算器要素回路101,102の各出力電圧の電位差Voutを乗算出力信号とする。
【解決手段】トランスリニア回路よりなる乗算器要素回路101,102を備え、乗算器要素回路101の入力信号電流源Iin1および乗算器要素回路102の入力信号電流源Iin3の各電流として、いずれも直流のバイアス電流と変調信号の電流との和の電流を入力するとともに、乗算器要素回路101の入力信号電流源Iin2および乗算器要素回路102の入力信号電流源Iin4の各電流として、それぞれ直流のバイアス電流とキャリア信号の電流との和の電流,および,直流のバイアス電流とキャリア信号の電流との差の電流を入力し、変調信号の電流とキャリア信号の電流との積に比例した電圧値として、乗算器要素回路101,102の各出力電圧の電位差Voutを乗算出力信号とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にセンサーなどの出力を高周波で変調して測定するための復調器として用いられる乗算器に関するものであり、特に低ノイズであって、かつ、温度変化によるドリフトを低く抑えた乗算器に関する。
【背景技術】
【0002】
(イ)MEMSなどの可変容量型センサーの容量変化を測定する場合、チャージアンプを用い、かつ数kHz以上の周波数で測定する測定方式が一般的である(特許文献1参照)。図7は、可変容量測定系の構成を例示するブロック図である。図7において、可変容量の容量がキャリア信号の高周波で測定された信号は、求めたい低周波数の容量変化がキャリア信号の周波数で変調されたものになっているので、この変調信号とキャリア信号とを乗算器(掛算器)で乗算することにより変調信号を復調し、さらに後段のローパスフィルターで高周波成分を除去することにより、低周波数の容量変化に対応する信号を得ることができる。なお、図7におけるキャリア信号としては、例えば3〜10V程度の電圧レベルで、10〜100kHz程度の周波数の電圧信号が用いられる。
【0003】
容量変化測定において上記のように高周波での測定とし、変−復調方式を用いるのは、チャージアンプのノイズが周波数増加と共に減少するためであり、特に高いSN比を得ようとする場合には100kHz以上での測定が望ましい。
【0004】
(ロ)一方で、乗算器のノイズは回路構成によって、その周波数特性が異なってくる。まず、最も単純な図8に示した構成の乗算器についてその特性を説明する。図8は、スイッチを利用したスイッチング乗算器の動作原理を示す回路図である。
【0005】
図8において、変調信号に対応したスイッチの開閉動作としてスイッチがONの時には入力電位が−1倍され、OFFの時には入力電位が+1倍される。なお、図8の例では、抵抗R201、R202、R203の各抵抗値をいずれも1kΩとしている。
【0006】
実際の回路では、図9に示すように、図8におけるスイッチをMOSトランジスタQ201で構成するのが一般的である。図9に示すような構成にした場合の問題点は、MOSトランジスタQ201を矩形波でスイッチングするときに、ゲート容量経由で電流が流れて、その値が乗算に付加される点である。特に周波数を上げていくと、単位時間当たりのスイッチング回数が増加するので、その分の電流がノイズ化してしまう。
【0007】
本発明者の実験によれば、200kHzでのノイズは、チャージアンプでは入力段のFETを最適化することでノイズ密度として10nV/√Hzに抑えることが可能であったが、図9の回路構成の乗算器ではノイズ密度として100nV/√Hz程度のノイズが発生してしまい、SN比が乗算器の方で制限される結果になっている。このように、矩形波のスイッチングで乗算を行う方式には、低ノイズ化の点で限界がある。
【0008】
なお、図9に示す乗算器の構成例で、設計仕様は次の通りとしている。
(a)オペアンプOP201:JFET入力デュアル・オペアンプ(アナログ・デバイセズ社の品番AD823AN)。
【0009】
(b)抵抗R200:抵抗値20Ω。
(c)抵抗R201:抵抗値990Ω。
(d)抵抗R202、R203:抵抗値1kΩ。
【0010】
(e)電源VP、VM:電源電圧はそれぞれ+10V、−10V。
(ハ)正弦波でアナログ乗算する回路の一般的なものに、ギルバートセル回路がある。図10にその回路構成例を示す。
【0011】
図10の乗算回路は、正電圧出力の電源VPおよび負電圧出力の電源VMと、NPN型のトランジスタQ101,Q102からなる第1の差動増幅回路と、NPN型のトランジスタQ103,Q104からなる第2の差動増幅回路と、(上記トランジスタQ101〜104とは逆極性の)PNP型のトランジスタQ105,Q106からなるカレントミラー回路と、エミッタ側の抵抗Re1,Re2を介して共通接続された(上記トランジスタQ101〜104とは同極性の)NPN型のトランジスタQ107,Q108からなる第3の差動増幅回路と、上記抵抗Re1,Re2の共通接続点と電源VMとの間に介装された定電流源Iaを備えている。
【0012】
そして、カレントミラー回路の入力側のトランジスタQ105および出力側のトランジスタQ106の各コレクタ側がそれぞれトランジスタQ102,Q104、および、トランジスタQ101,Q103の各コレクタに接続されるとともに、トランジスタQ105,Q106の共通接続されたエミッタ側が電源VPに接続されている。
【0013】
また、入力信号電圧源Vin1の両極が、トランジスタQ101,Q104の各ベースの共通接続点と、トランジスタQ102,Q103の各ベースの共通接続点との間に接続されるとともに、入力信号電圧源Vin2の両極が、トランジスタQ107のベースとトランジスタQ108のベースとの間に接続されている。
【0014】
図10の乗算回路の出力Ioutと入力Vin1,Vin2との関係についての近似式は、
【0015】
【数1】
【0016】
であり、ここで、kはボルツマン定数、Tは絶対温度、qは素電荷である。図10の乗算回路では、上記式(1)に示されているように温度Tが変化すると乗算の定数が変化してしまう。さらに、基本的には差動入力アンプのゲインを可変する構造なので、出力段トランジスタのミラー効果から、高周波化が困難で、およそ100kHz程度に限界がある。
【0017】
なお、図10に示す乗算器の構成例における設計値は例えば次の通りである。
(a)トランジスタQ101〜Q108:β値170。
(b)抵抗Re1〜Re2:抵抗値100Ω。
【0018】
(c)電源VP、VM:電源電圧はそれぞれ+15V、−15V。
(ニ)そして、100kHz程度以上の高周波で用いる乗算器(掛算器)としては、トランスとショットキーダイオードとを用いたダブルバランスドミキサーを使った構成が一般的であるが、トランスが高価であるとともに、ショットキーダイオードのスイッチングのために、やはり矩形波の入力が必要であり、この矩形波によるスイッチングノイズが混入してしまう問題がある。
【0019】
(ホ)また、アナログ乗算回路としては、複数のトランジスタの各ベース・エミッタ接合を一巡ループに結合し,全てのトランジスタが能動領域で動作するようにバイアス回路を配置したトランスリニア回路により、複数の入力電流の積に比例した出力を得るようにして乗算回路を構成することも従来より行なわれている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】B.Gilbert. "Translinear circuits: a proposed classification" Electronics Letters, Vol.11, No.1, p.14-16(1975)
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開2005−170917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
(イ)例えば可変容量型センサーなどの出力を高周波で変調して測定するための復調器を構成する乗算器には、上述のように、正弦波でアナログ乗算する回路として一般的なギルバートセル回路の適用が考えられるが、温度Tが変化すると乗算の定数が変化してしまうとともに、出力段トランジスタのミラー効果から、およそ100kHz程度に限界があり、それ以上の高周波化は困難であるという問題がある。
【0023】
(ロ)一方、100kHz程度以上の高周波で用いる乗算器には、上述のように、トランスとショットキーダイオードとを用いたダブルバランスドミキサーが一般的に用いられているが、ショットキーダイオードのスイッチングのために入力される矩形波によるスイッチングノイズが混入してしまうという問題がある。
【0024】
(ハ)本発明は、上記した課題を解決して、100kHz程度以上の高周波領域においても正弦波入力での低ノイズ動作が可能な乗算器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者は、上記目的を達成するため、例えば可変容量型センサーなどの出力を高周波で変調して測定するための復調器として用いられる乗算器を、例えば非特許文献1に記載されているようなトランスリニア回路により構成することを検討し、本発明を考案するに至った。
【0026】
上記目的を達成するために、本発明によれば、互に逆極性の第1および第2の電源と、ダイオード接続された第1のトランジスタと,前記第1のトランジスタと同極性の第2のトランジスタとがベース同士を結合されてなる第1のトランジスタ回路と、前記第1のトランジスタと逆極性であってダイオード接続された第3のトランジスタと,前記第3のトランジスタと同極性の第4のトランジスタとがベース同士を結合されてなる第2のトランジスタ回路とを備え、第1のトランジスタと第3のトランジスタとのエミッタ同士を接続して,この接続点を接地するとともに、第2のトランジスタと第4のトランジスタとのエミッタ同士を接続し、第1のトランジスタのコレクタを第1の入力信号電流源を介して第1の電源に接続するとともに、第3のトランジスタのコレクタを第2の入力信号電流源を介して第2の電源に接続し、第2のトランジスタのコレクタを第1の抵抗を介して第1の電源に接続するとともに、第4のトランジスタのコレクタを第2の電源に接続し、第2のトランジスタのコレクタの出力電流が第1の抵抗を流れることによる出力電圧を,第1の入力信号電流源の電流と第2の入力信号電流源の電流との積の1/2乗に比例する信号として出力するようにして、乗算器要素回路を構成する(請求項1の発明)。
【0027】
上記請求項1の発明によれば、第1ないし第4のトランジスタ(Q1〜Q4)の各ベース・エミッタ接合が一巡ループに結合してトランスリニア回路を形成している。
そして、各トランジスタ(Q1〜Q4)のコレクタ電流(Ic1〜Ic4)の間には、
【0028】
【数2】
【0029】
の関係とともに、
【0030】
【数3】
【0031】
の関係が成立している。
第1,第3のトランジスタ(Q1,Q3)の各コレクタ電流(Ic1,Ic3)がそれぞれ第1,第2の入力信号電流源の各電流(Iin1,Iin2)となっていることにより、第2のトランジスタ(Q2)のコレクタ電流(Ic2)を出力電流(Io)とすれば、この出力電流(Io)は上記(3)式より第1の入力信号電流源の電流(Iin1)と第2の入力信号電流源の電流(Iin2)との積の1/2乗に比例するものとなっている。そして、出力電流(Io)が第1の抵抗(R1)を流れることによる出力電圧を演算出力の電圧信号とすることができる。
【0032】
このような請求項1の発明による乗算器要素回路は、まず、正弦波入力での演算動作が可能であるため、上述のスイッチング乗算器におけるような、矩形波によるスイッチングノイズが混入してしまう問題がなく、より低ノイズの乗算器を構成することができる。
【0033】
また、請求項1の発明による乗算器要素回路では、出力電流(Io)と第1,第2の入力信号電流源の各電流(Iin1,Iin2)との関係式において温度Tに依存する定数項がないため、図10のギルバートセルを用いた乗算器回路におけるような温度Tが変化すると乗算の定数が変化してしまう問題がなく、温度変化によるドリフトを低く抑えることができる。
【0034】
また、第1および第2の乗算器要素回路としてそれぞれ請求項1に記載の乗算器要素回路を備え、第1の乗算器要素回路における第1の入力信号電流源および第2の乗算器要素回路における第1の入力信号電流源の各電流として、いずれも、直流のバイアス電流と高周波で変調された変調信号の電流との和の電流を入力するとともに、第1の乗算器要素回路における第2の入力信号電流源および第2の乗算器要素回路における第2の入力信号電流源の各電流として、それぞれ、直流のバイアス電流と高周波のキャリア信号の電流との和の電流,および,直流のバイアス電流と高周波のキャリア信号の電流との差の電流を入力することによって、変調信号の電流とキャリア信号の電流との積に比例した電圧値として、前記第1の乗算器要素回路の出力電圧と前記第2の乗算器要素回路の出力電圧との電位差を乗算出力信号とするようにして、乗算器を構成する(請求項2の発明)。
【0035】
上記請求項2の発明のように、上記請求項1に記載の乗算器要素回路を2つ用いて、変調信号の電流とキャリア信号の電流との積に比例する乗算信号を出力する乗算器を構成することができ、この乗算器は、例えば可変容量型センサーなどの出力を高周波で変調して測定するための復調器として用いることができる。
【0036】
そして、上記請求項2の発明による乗算器は、正弦波入力での演算動作が可能な上記請求項1に記載の乗算器要素回路を用いていることにより、上述のスイッチング乗算器に比べて、より低ノイズの乗算器となっている。
【0037】
また、上記請求項2に記載の乗算器において、信号入力部として、第1および第2の入力信号電圧源と、前記第1および第2の入力信号電圧源からの信号電圧がそれぞれ入力されるプッシュプル型の第1および第2のエミッタフォロワー回路と、第1ないし第4のカレントミラー回路とを備え、前記第1のカレントミラー回路は,前記第1の電源側に設けられるとともに前記第1のエミッタフォロワー回路の前記第1の電源側の出力電流が入力される2出力型のカレントミラー回路であり、前記第2のカレントミラー回路は,前記第2の電源側に設けられるとともに前記第2のエミッタフォロワー回路の前記第2の電源側の出力電流が入力されるカレントミラー回路であり、前記第3のカレントミラー回路は,前記第1の電源側に設けられるとともに前記第2のエミッタフォロワー回路の前記第1の電源側の出力電流が入力されるカレントミラー回路であり、前記第4のカレントミラー回路は,前記第2の電源側に設けられるとともに前記第3のカレントミラー回路の出力電流が入力されるカレントミラー回路であって、前記第1のカレントミラー回路の2つの出力電流をそれぞれ第1の乗算器要素回路における第1の入力信号電流源および第2の乗算器要素回路における第1の入力信号電流源の各電流とし、前記第2のカレントミラー回路の出力電流を第1の乗算器要素回路における第2の入力信号電流源の電流とするとともに、前記第4のカレントミラー回路の出力電流を第2の乗算器要素回路における第2の入力信号電流源の電流とした構成とすることができる(請求項3の発明)。
【0038】
上記請求項3の発明によれば、上記請求項2に記載の乗算器における信号入力部が高速応答の可能なエミッタフォロワーとカレントミラーとで構成されることにより、より高周波の領域、例えば100kHz程度以上の高周波領域においても正弦波入力での低ノイズの演算動作が可能となっている。
【0039】
したがって、上記請求項3に記載の乗算器を例えば可変容量型センサーの出力を高周波で変調して測定するための復調器として用いた場合、測定に用いるキャリア信号の周波数をより高い周波数としてチャージアンプのノイズをより減少させ、可変容量型センサーのSN比をより高くすることが可能となる。
【0040】
また、上述のように、従来、100kHz程度以上の高周波に対応した乗算器としてダブルバランスドミキサーが一般的に用いられてきているが、上記請求項3の発明による乗算器では、ダブルバランスドミキサーにおけるような高価なトランスが不要であるため、より安価な乗算器を提供することができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、100kHz程度以上の高周波領域においても正弦波入力での低ノイズ動作が可能であって、かつ安価な乗算器を提供することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施例1に係る乗算器を構成する乗算器要素回路の構成例を示す回路図である。
【図2】本発明の実施例1に係る乗算器の構成例を示す回路図である。
【図3】本発明の実施例1に係る乗算器の出力波形を例示する図である。
【図4】本発明の実施例1に係る乗算器におけるローパスフィルター通過後の電圧と入力電流との関係を例示する図である。
【図5】本発明の実施例2に係る乗算器の構成例を示す回路図である。
【図6】本発明の実施例2に係る乗算器におけるローパスフィルター通過後の電圧と入力したシグナルとの関係を例示する図である。
【図7】可変容量測定系の構成を例示するブロック図である。
【図8】スイッチを利用したスイッチング乗算器の動作原理を示す回路図である。
【図9】実際のスイッチング乗算器の構成例を示す回路図である。
【図10】ギルバートセル回路の構成例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の実施形態を図1〜図6に示す実施例に基づいて説明する。同一の構成要素については、同一の符号を付け、重複する説明は省略する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施することができるものである。
[本発明の実施形態]
【実施例1】
【0044】
本実施例1は、例えば可変容量型センサーなどの出力を高周波で変調して測定するための復調器として用いられる乗算器の構成例を示すものである。
(イ)乗算器要素回路の構成:
(a)まず、乗算器を構成する基本要素、すなわち乗算器要素回路について説明する。図1は、本発明の実施例1に係る乗算器を構成する乗算器要素回路の構成例を示す回路図であり、この乗算器要素回路はトランスリニア回路を用いたものとなっている。
【0045】
(b)図1の乗算器要素回路は、正電圧出力の電源VPおよび負電圧出力の電源VMと、ダイオード接続されたNPN型のトランジスタQ1と,(トランジスタQ1と同極性の)NPN型のトランジスタQ2とがベース同士を結合されてなる第1のトランジスタ回路と、(トランジスタQ1と逆極性であって)ダイオード接続されたPNP型のトランジスタQ3と,(トランジスタQ3と同極性の)PNP型のトランジスタQ4とがベース同士を結合されてなる第2のトランジスタ回路とを備えている。
【0046】
図1の回路は、トランジスタQ1とトランジスタQ3とのエミッタ同士を接続して,この接続点を接地するとともに、トランジスタQ2とトランジスタQ4とのエミッタ同士を接続している。また、図1の回路は、トランジスタQ1のコレクタを入力信号電流源Iin1を介して電源VPに接続するとともに、トランジスタQ3のコレクタを入力信号電流源Iin2を介して電源VMに接続している。また、図1の回路は、トランジスタQ2のコレクタを抵抗R1を介して電源VPに接続するとともに、トランジスタQ4のコレクタを電源VMに接続している。そして、図1の回路は、トランジスタQ2のコレクタの出力電流Ioが抵抗R1を流れることによる出力電圧を,演算信号として出力するように構成されている。
【0047】
(c)図1に示されるように、本回路は、トランジスタQ1〜Q4の各ベース・エミッタ接合が一巡ループとして結合したトランスリニア回路を形成している。そして、入力電流Iin1、Iin2と出力電流I0との間には以下の式が成立している。
【0048】
【数4】
【0049】
上記(4)式の関係は、トランスリニア回路としての次のような特性から導き出されるものである。トランジスタQ1〜Q4の各ベース・エミッタ接合で形成される閉回路において、
【0050】
【数5】
【0051】
の関係がある。ここで、Vbe1〜Vbe4はトランジスタQ1〜Q4の各ベース・エミッタ電圧である。
また、トランジスタQ1〜Q4の各コレクタ電流Ic1〜Ic4と各ベース・エミッタ電圧Vbe1〜Vbe4との間には、
【0052】
【数6】
【0053】
の関係がある。ここで、kはボルツマン定数、Tは絶対温度、qは素電荷であり、Is1〜Is4はトランジスタQ1〜Q4の飽和電流である。
そして、式(5)、式(6a)〜(6d)より、
【0054】
【数7】
【0055】
の関係がある。これより、
【0056】
【数8】
【0057】
の関係が導き出される。
式(8)において、トランジスタQ1〜Q4の各飽和電流Is1〜Is4がすべて等しく、Is1=Is2=Is3=Is4と設定されている場合、
【0058】
【数9】
【0059】
となる。
式(9)において、図1の回路ではIc2=Ic4であるから、
【0060】
【数10】
【0061】
の関係が導き出される。
したがって、図1の乗算器要素回路の出力電流Io(=Ic2)と、入力電流Iin1(=Ic1),Iin2(=Ic3)との間には、上記(4)式の関係が成立している。
【0062】
(d)そして、図1の乗算器要素回路では、出力電流Ioと入力電流Iin1,Iin2との関係式において温度Tに依存する定数項がないため、図10のギルバートセルを用いた乗算器回路におけるような温度Tが変化すると乗算の定数が変化してしまう問題がなく、温度変化によるドリフトを低く抑えることができる。
【0063】
ただし、上記(4)式からも判るように、図1の回路では、入力値をIin1,Iin2とすると出力値I0は入力値の積(Iin1*Iin2)の1/2乗に比例するものとなる。このように、図1の乗算器要素回路のみでは大きな非線形性、すなわち、出力信号が入力信号同士の積に対して平方根(√)の関係になるような非線形性があり、また、電流方向が限定される点にも課題がある。
【0064】
(e)なお、図1に示す乗算器要素回路の構成例には例えば次のような設計値を適用可能であるが、これに限定されるものではない。
(e1)トランジスタQ1〜Q4:β値170。
【0065】
(e2)抵抗R1:抵抗値100Ω。
(e3)電源VP、VM:電源電圧はそれぞれ+15V、−15V。
(ロ)乗算器の構成:
(a)次に、図1の乗算器要素回路を2つ用いた乗算器について説明する。図2は本発明の実施例1に係る乗算器の構成例を示す回路図である。
【0066】
(b)図2の乗算器は、図1に記載の乗算器要素回路を2つ備えている。すなわち、図2に示されるように、トランジスタQ1〜Q4、抵抗R1、入力信号電流源Iin1〜Iin2により第1の乗算器要素回路101が形成されるとともに、トランジスタQ5〜Q8、抵抗R2、入力信号電流源Iin3〜Iin4により第2の乗算器要素回路102が形成されている。各乗算器要素回路は、正電圧出力の電源VPおよび負電圧出力の電源VMを共通の電源とするものであって、その回路構成は図1に示した回路構成と同様である。
【0067】
そして、図2の乗算器は、第1の乗算器要素回路101の入力信号電流源Iin1および第2の乗算器要素回路102の入力信号電流源Iin3の各電流として、いずれも、直流のバイアス電流Ibと高周波で変調された変調信号の電流Isとの和の電流(Ib+Is)を入力するとともに、第1の乗算器要素回路101の入力信号電流源Iin2および第2の乗算器要素回路102の入力信号電流源Iin4の各電流として、それぞれ、直流のバイアス電流Ibと高周波のキャリア信号の電流Icとの和の電流(Ib+Ic),および,直流のバイアス電流Ibと高周波のキャリア信号の電流Icとの差の電流(Ib−Ic)を入力することによって、変調信号の電流Isとキャリア信号の電流Icとの積(Is*Ic)に比例した電圧値として、第1の乗算器要素回路101の出力電圧Vo1と第2の乗算器要素回路102の出力電圧Vo2との電位差Vout(=Vo1−Vo2)を乗算出力信号とするように構成されている。
【0068】
なお、第1,第2の乗算器要素回路101,102の各出力電圧Vo1,Vo2は、第1,第2の乗算器要素回路101,102の各出力電流Io1,Io2がそれぞれ抵抗R1,R2を流れることによるものであり、Vo1=VP−(Io1×R1)、Vo2=VP−(Io2×R2)の関係にある。そして、電圧差Voutは、Vout=Vo1−Vo2=(Io2×R2)−(Io1×R1)として表わされ、R1=R2とした場合には、Vout=(Io2−Io1)×R1の関係より、第1,第2の乗算器要素回路101,102の各出力電流Io1,Io2の差(δI)に対応するものとなる。
【0069】
(c)実験例1:
図2に示されるように、入力信号電流として4つの電流入力端子にそれぞれ、
【0070】
【数11】
【0071】
【数12】
【0072】
【数13】
【0073】
を入力した。なお、Ibias、Cの各電流値は、Ibias=1.2mA(一定)、C=1mAとし、シグナルSの電流値は、S=−1〜+1mAの範囲で変化させた。キャリアの周波数は100kHzとした。また、Sの変化はキャリアに比べて十分に低い周波数としている。
【0074】
また、演算出力信号は、図2における抵抗R1,R2の抵抗値を3kΩとし、第1,第2の乗算器要素回路101,102の各出力電流Io1,Io2の差を電圧差Voutとして読み取っている。
【0075】
また、図2では、信号入力部としての電圧電流変換回路を省略しているが、実際にはOPアンプを用いた電圧電流変換回路を用いている。
図3に、C=1mA、S=1mAの時の電圧差Vout(演算出力信号)をオシロスコープで読み取った電圧値を抵抗値3kΩで割り算して電流差(δI)に変換したグラフを示す。図3において、縦軸は抵抗R1と抵抗R2とに流れている各出力電流Io1,Io2の差δI、横軸は時間である。なお、図3の横軸において、「0.0E+00」、「1.0E−05」、「2.0E−05」、「3.0E−05」、「4.0E−05」、「5.0E−05」はそれぞれ「0.0×10+0」、「1.0×10−5」、「2.0×10−5」、「3.0×10−5」、「4.0×10−5」、「5.0×10−5」を意味している。
【0076】
キャリア信号と変調信号(シグナル信号が高調波で変調された信号)とは同位相なので、きっちりとした乗算が行われているならば、演算出力信号がゼロを下回ることはない。しかしながら、図3に示されるように、実際の波形では電流差(δI)がゼロを大きく下回っており、なおかつ波形も歪んでいることが判る。
【0077】
次に、例えば可変容量型センサーなどにおける乗算器の実際の応用では、乗算器の演算出力信号が後段のローパスフィルターを通過した後の線形性、ノイズ特性が重要であることを考慮し、乗算器の演算出力信号を1kHz,3次のローパスフィルターで処理して評価を行った。
【0078】
図4に、キャリア信号の振幅Cを1mAで一定として、シグナルの電流値S(信号電流)を−1.1mA(逆位相、振幅1.1mA)から+1.1mA(同位相、振幅1.1mA)まで変化させて、フィルター通過後の直流電圧(ローパスフィルター後電圧)を測定した結果を示す。図4におけるローパスフィルター後電圧−信号電流特性は、概略線形であるが、直線式からのずれが最大8%存在する。ただし、3次項のフィッティングを考慮すると、線形からのずれは0.6%以下で実用に十分な性能と言える。
【0079】
また、ノイズ密度は10nV/√Hzであり、図9に示したスイッチング乗算器に対して、1/10にノイズを低下させることができた。
(d)なお、図2に示す乗算器の構成例における設計値は次の通りとしているが、これに限定されるものではない。
【0080】
(d1)トランジスタQ1〜Q8:β値170。
(d2)抵抗R1、R2:抵抗値3000Ω。
(d3)電源VP、VM:電源電圧はそれぞれ+15V、−15V。
【0081】
(ハ)以上のように、実施例1の乗算器は、次のような利点を有している。
(a)正弦波入力での演算動作が可能であるため、上述のスイッチング乗算器におけるような、矩形波によるスイッチングノイズが混入してしまう問題がなく、より低ノイズの乗算器を構成することができる。
【0082】
(b)各乗算器要素回路における出力電流と第1,第2の入力電流との関係式において温度Tに依存する定数項がないため、温度変化によるドリフトを低く抑えることができる。
【実施例2】
【0083】
上述の実施例1では、実際には信号入力部として(図2には図示されない)OPアンプを用いた電圧電流変換回路を用いる構成としたが、この部分だけで例えば9個のOPアンプを用いる構成となり、回路規模として非常に大きなものになってしまう。そこで、実施例2では、信号入力部における電圧電流変換回路をエミッタフォロワーとカレントミラーとで構成した。
【0084】
(イ)乗算器要素回路の構成:
まず、実施例2において用いる乗算器要素回路は、上述の図1で説明した実施例1における乗算器要素回路と同様の構成とすることができる。
【0085】
(ロ)乗算器の構成:
(a)次に、実施例2に係る乗算器の回路構成について説明する。図5は本発明の実施例2に係る乗算器の構成例を示す回路図であり、図2と同一の符号は同一名称の部分を示す。
【0086】
(b)図5の乗算器は、次のように信号入力部における電圧電流変換回路をエミッタフォロワーとカレントミラーとで構成したものである。すなわち、図5の乗算器は、信号入力部111として、入力信号電圧源Vin1,Vin2と、上記入力信号電圧源Vin1,Vin2からの信号電圧がそれぞれ入力される第1および第2のエミッタフォロワー回路と、第1ないし第4のカレントミラー回路とを備えている。
【0087】
ここで、第1および第2のエミッタフォロワー回路は、いずれも、プッシュプル型に構成されたエミッタフォロワー回路である。トランジスタQ9〜Q12からなる第1のエミッタフォロワー回路は、その入力回路部に電源VP側のバイアス用定電流源Ib11および電源VM側のバイアス用定電流源Ib12を備えている。トランジスタQ13〜Q16からなる第2のエミッタフォロワー回路は、その入力回路部に電源VP側のバイアス用定電流源Ib21および電源VM側のバイアス用定電流源Ib22を備えている。
【0088】
トランジスタQ17〜Q19からなる第1のカレントミラー回路は、電源VP側に設けられるとともに、トランジスタQ9〜Q12からなる第1のエミッタフォロワー回路の電源VP側の出力電流が入力される2出力型のカレントミラー回路である。
【0089】
トランジスタQ20〜Q21からなる第2のカレントミラー回路は、電源VM側に設けられるとともに、トランジスタQ13〜Q16からなる第2のエミッタフォロワー回路の電源VM側の出力電流が入力されるカレントミラー回路である。
【0090】
トランジスタQ22〜Q23からなる第3のカレントミラー回路は、電源VP側に設けられるとともに、トランジスタQ13〜Q16からなる第2のエミッタフォロワー回路の電源VP側の出力電流が入力されるカレントミラー回路である。
【0091】
トランジスタQ24〜Q25からなる第4のカレントミラー回路は、電源VM側に設けられるとともに、トランジスタQ22〜Q23からなる第3のカレントミラー回路の出力電流が入力されるカレントミラー回路である。
【0092】
そして、第1のカレントミラー回路(Q17〜Q19)の2つの出力電流をそれぞれ第1の乗算器要素回路101における入力信号電流源Iin1および第2の乗算器要素回路102における入力信号電流源Iin3の各電流とし、第2のカレントミラー回路(Q20〜Q21)の出力電流を第1の乗算器要素回路101における入力信号電流源Iin2の電流とするとともに、第4のカレントミラー回路(Q24〜Q25)の出力電流を第2の乗算器要素回路102における入力信号電流源Iin4の電流としている。
【0093】
なお、図5の乗算器は、信号入力部111における電圧電流変換回路にトランジスタ、抵抗などの個別素子を使っていることにより回路構成が複雑になっているが、信号入力部における電圧電流変換回路にOPアンプを使う場合に比べて1/20の面積で乗算器を構成することが可能となっている。
【0094】
(c)実験例2:
図5に示されるように、入力信号電圧として2つの電圧入力端子に、それぞれ、キャリア信号の
【0095】
【数14】
【0096】
を入力するとともに、変調信号の
【0097】
【数15】
【0098】
を入力した。なお、シグナルSの電圧値範囲は、−1.2V<S<+1.2Vとした。
図5の乗算器の演算出力信号が(図5には図示されない)後段のローパスフィルターを通過した後の直流電圧(ローパスフィルター通過後電圧)と入力したシグナル(シグナル振幅)との関係を図6に示す。入力した値は電流換算で実施例1の場合と同じ値であるが、図6におけるローパスフィルター後電圧−シグナル振幅特性の線形性は2%以内であり、図4(実施例1)より向上している。これは、電流信号を発生させるエミッタフォロワーに非線形性があって、トランスリニア回路の非線形性と打ち消しあった結果である。なお、さらに3次式の補正で誤差を0.1%以下にすることが可能であるので、実用上、全く問題ない。ノイズ密度は10nV/√Hzであり、実施例1と同様、低ノイズ化が実現されている。
【0099】
(d)さらに、図5の乗算器は、高速応答が可能なエミッタフォロワーとカレントミラーとで構成されているので、高周波まで演算動作が可能であり、実験では10MHzでなんら問題なく演算出力が得られている。例えば可変容量型センサーなどの出力を高周波で変調して測定するための復調器として、図5の乗算器のように高周波まで演算出力が可能な乗算器を用いることによって、センサーの高SN化が可能になる。この点に関し、例えば、100kHzに比べて周波数倍の高SN化、すなわち100倍の高SN化が可能となる。
【0100】
また、SN比に対する要求がそれほどでない場合でも、チャージアンプの低インピーダンス化に寄与する。たとえば、ノイズ密度が100nV/√Hz程度許容される場合でも、このノイズ密度を100kHzで維持するためには、チャージアンプのインピーダンスは100MΩ程度要求される。このように高いインピーダンスを持たせると回路が不安定になり、パッケージなどに細心の注意が要求される。これが10MHzまで許容されると、インピーダンスは1MΩ程度まで落とすことか可能であり、チャージアンプのインピーダンスをここまで低抵抗化した場合には、通常のアナログ回路と何ら変わるところ無く、安定な動作が保障される。
【0101】
(e)なお、図5に示す乗算器の構成例における設計値は次の通りとしているが、これに限定されるものではない。
(e1)トランジスタQ1〜Q25:β値200。
【0102】
(e2)抵抗R1〜R2:抵抗値3000Ω。
(e3)抵抗R4〜R13:抵抗値470Ω。
(e4)定電流源Ib12,Ib12,Ib21,Ib22:電流値1.2mA。
【0103】
(e5)電源VP、VM:電源電圧はそれぞれ+15V、−15V。
(ハ)以上のように、実施例2の乗算器は、次のような利点を有しており、例えば可変容量型センサーなどの出力を高周波で変調して測定するための復調器として好適である。
【0104】
(a)正弦波入力での演算動作が可能であるため、上述のスイッチング乗算器におけるような、矩形波によるスイッチングノイズが混入してしまう問題がなく、より低ノイズの乗算器を構成することができる。
【0105】
(b)各乗算器要素回路における出力電流と第1,第2の入力電流との関係式において温度Tに依存する定数項がないため、温度変化によるドリフトを低く抑えることができる。
【0106】
(c)信号入力部が高速応答の可能なエミッタフォロワーとカレントミラーとで構成されることにより、より高周波の領域、例えば100kHz程度以上の高周波領域においても正弦波入力での低ノイズの演算動作が可能となっているので、実施例2の乗算器を例えば可変容量型センサーの出力を高周波で変調して測定するための復調器として用いた場合、測定に用いるキャリア信号の周波数をより高い周波数としてチャージアンプのノイズをより減少させ、可変容量型センサーのSN比をより高くすることが可能となる。
【0107】
(d)従来、100kHz程度以上の高周波に対応した乗算器としてダブルバランスドミキサーが一般的に用いられてきているが、実施例2の乗算器では、ダブルバランスドミキサーにおけるような高価なトランスが不要であるため、より安価な乗算器を提供することができる。
[乗算器の線形性]
なお、一般的に乗算器の性能として線形性が求められる。しかしながら、例えば可変容量型センサーにおいて乗算器を用いる場合、センサー自身に非線形性を持つ場合が多く、実際に、MEMSの可変容量型の加速度センサーなどにおいては、測定範囲内で1〜5%程度の非線形性があるのが一般的である。したがって、高度な線形性が要求される場合には、センサー出力のアナログ値をAD変換し、デジタル演算による線形化の補正処理を行っている。
【0108】
この点について、逆に考えると、乗算器で発生する非線形性がセンサー自身の非線形性以下であれば、何ら問題なく用いることができると言える。
このため、本発明では、特に可変容量型センサーなどの出力を高周波で変調して測定するための復調器として用いられる乗算器における課題事項として、乗算器の線形性よりもノイズ特性の向上をより優先すべき課題としている。
【符号の説明】
【0109】
101・・・第1の乗算器要素回路
102・・・第2の乗算器要素回路
111・・・信号入力部(電圧電流変換回路)
Q1〜Q25・・・トランジスタ
R1〜R13・・・抵抗
Ib11,Ib12,Ib21,Ib22・・・(バイアス用)定電流源
Iin1〜Iin4・・・入力信号電流源
Vin1〜Vin2・・・入力信号電圧源
Io,Io1,Io2・・・出力信号電流
Vo,Vo1,Vo2,Vout・・・出力信号電圧
VP,VM・・・電源
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にセンサーなどの出力を高周波で変調して測定するための復調器として用いられる乗算器に関するものであり、特に低ノイズであって、かつ、温度変化によるドリフトを低く抑えた乗算器に関する。
【背景技術】
【0002】
(イ)MEMSなどの可変容量型センサーの容量変化を測定する場合、チャージアンプを用い、かつ数kHz以上の周波数で測定する測定方式が一般的である(特許文献1参照)。図7は、可変容量測定系の構成を例示するブロック図である。図7において、可変容量の容量がキャリア信号の高周波で測定された信号は、求めたい低周波数の容量変化がキャリア信号の周波数で変調されたものになっているので、この変調信号とキャリア信号とを乗算器(掛算器)で乗算することにより変調信号を復調し、さらに後段のローパスフィルターで高周波成分を除去することにより、低周波数の容量変化に対応する信号を得ることができる。なお、図7におけるキャリア信号としては、例えば3〜10V程度の電圧レベルで、10〜100kHz程度の周波数の電圧信号が用いられる。
【0003】
容量変化測定において上記のように高周波での測定とし、変−復調方式を用いるのは、チャージアンプのノイズが周波数増加と共に減少するためであり、特に高いSN比を得ようとする場合には100kHz以上での測定が望ましい。
【0004】
(ロ)一方で、乗算器のノイズは回路構成によって、その周波数特性が異なってくる。まず、最も単純な図8に示した構成の乗算器についてその特性を説明する。図8は、スイッチを利用したスイッチング乗算器の動作原理を示す回路図である。
【0005】
図8において、変調信号に対応したスイッチの開閉動作としてスイッチがONの時には入力電位が−1倍され、OFFの時には入力電位が+1倍される。なお、図8の例では、抵抗R201、R202、R203の各抵抗値をいずれも1kΩとしている。
【0006】
実際の回路では、図9に示すように、図8におけるスイッチをMOSトランジスタQ201で構成するのが一般的である。図9に示すような構成にした場合の問題点は、MOSトランジスタQ201を矩形波でスイッチングするときに、ゲート容量経由で電流が流れて、その値が乗算に付加される点である。特に周波数を上げていくと、単位時間当たりのスイッチング回数が増加するので、その分の電流がノイズ化してしまう。
【0007】
本発明者の実験によれば、200kHzでのノイズは、チャージアンプでは入力段のFETを最適化することでノイズ密度として10nV/√Hzに抑えることが可能であったが、図9の回路構成の乗算器ではノイズ密度として100nV/√Hz程度のノイズが発生してしまい、SN比が乗算器の方で制限される結果になっている。このように、矩形波のスイッチングで乗算を行う方式には、低ノイズ化の点で限界がある。
【0008】
なお、図9に示す乗算器の構成例で、設計仕様は次の通りとしている。
(a)オペアンプOP201:JFET入力デュアル・オペアンプ(アナログ・デバイセズ社の品番AD823AN)。
【0009】
(b)抵抗R200:抵抗値20Ω。
(c)抵抗R201:抵抗値990Ω。
(d)抵抗R202、R203:抵抗値1kΩ。
【0010】
(e)電源VP、VM:電源電圧はそれぞれ+10V、−10V。
(ハ)正弦波でアナログ乗算する回路の一般的なものに、ギルバートセル回路がある。図10にその回路構成例を示す。
【0011】
図10の乗算回路は、正電圧出力の電源VPおよび負電圧出力の電源VMと、NPN型のトランジスタQ101,Q102からなる第1の差動増幅回路と、NPN型のトランジスタQ103,Q104からなる第2の差動増幅回路と、(上記トランジスタQ101〜104とは逆極性の)PNP型のトランジスタQ105,Q106からなるカレントミラー回路と、エミッタ側の抵抗Re1,Re2を介して共通接続された(上記トランジスタQ101〜104とは同極性の)NPN型のトランジスタQ107,Q108からなる第3の差動増幅回路と、上記抵抗Re1,Re2の共通接続点と電源VMとの間に介装された定電流源Iaを備えている。
【0012】
そして、カレントミラー回路の入力側のトランジスタQ105および出力側のトランジスタQ106の各コレクタ側がそれぞれトランジスタQ102,Q104、および、トランジスタQ101,Q103の各コレクタに接続されるとともに、トランジスタQ105,Q106の共通接続されたエミッタ側が電源VPに接続されている。
【0013】
また、入力信号電圧源Vin1の両極が、トランジスタQ101,Q104の各ベースの共通接続点と、トランジスタQ102,Q103の各ベースの共通接続点との間に接続されるとともに、入力信号電圧源Vin2の両極が、トランジスタQ107のベースとトランジスタQ108のベースとの間に接続されている。
【0014】
図10の乗算回路の出力Ioutと入力Vin1,Vin2との関係についての近似式は、
【0015】
【数1】
【0016】
であり、ここで、kはボルツマン定数、Tは絶対温度、qは素電荷である。図10の乗算回路では、上記式(1)に示されているように温度Tが変化すると乗算の定数が変化してしまう。さらに、基本的には差動入力アンプのゲインを可変する構造なので、出力段トランジスタのミラー効果から、高周波化が困難で、およそ100kHz程度に限界がある。
【0017】
なお、図10に示す乗算器の構成例における設計値は例えば次の通りである。
(a)トランジスタQ101〜Q108:β値170。
(b)抵抗Re1〜Re2:抵抗値100Ω。
【0018】
(c)電源VP、VM:電源電圧はそれぞれ+15V、−15V。
(ニ)そして、100kHz程度以上の高周波で用いる乗算器(掛算器)としては、トランスとショットキーダイオードとを用いたダブルバランスドミキサーを使った構成が一般的であるが、トランスが高価であるとともに、ショットキーダイオードのスイッチングのために、やはり矩形波の入力が必要であり、この矩形波によるスイッチングノイズが混入してしまう問題がある。
【0019】
(ホ)また、アナログ乗算回路としては、複数のトランジスタの各ベース・エミッタ接合を一巡ループに結合し,全てのトランジスタが能動領域で動作するようにバイアス回路を配置したトランスリニア回路により、複数の入力電流の積に比例した出力を得るようにして乗算回路を構成することも従来より行なわれている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】B.Gilbert. "Translinear circuits: a proposed classification" Electronics Letters, Vol.11, No.1, p.14-16(1975)
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開2005−170917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
(イ)例えば可変容量型センサーなどの出力を高周波で変調して測定するための復調器を構成する乗算器には、上述のように、正弦波でアナログ乗算する回路として一般的なギルバートセル回路の適用が考えられるが、温度Tが変化すると乗算の定数が変化してしまうとともに、出力段トランジスタのミラー効果から、およそ100kHz程度に限界があり、それ以上の高周波化は困難であるという問題がある。
【0023】
(ロ)一方、100kHz程度以上の高周波で用いる乗算器には、上述のように、トランスとショットキーダイオードとを用いたダブルバランスドミキサーが一般的に用いられているが、ショットキーダイオードのスイッチングのために入力される矩形波によるスイッチングノイズが混入してしまうという問題がある。
【0024】
(ハ)本発明は、上記した課題を解決して、100kHz程度以上の高周波領域においても正弦波入力での低ノイズ動作が可能な乗算器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者は、上記目的を達成するため、例えば可変容量型センサーなどの出力を高周波で変調して測定するための復調器として用いられる乗算器を、例えば非特許文献1に記載されているようなトランスリニア回路により構成することを検討し、本発明を考案するに至った。
【0026】
上記目的を達成するために、本発明によれば、互に逆極性の第1および第2の電源と、ダイオード接続された第1のトランジスタと,前記第1のトランジスタと同極性の第2のトランジスタとがベース同士を結合されてなる第1のトランジスタ回路と、前記第1のトランジスタと逆極性であってダイオード接続された第3のトランジスタと,前記第3のトランジスタと同極性の第4のトランジスタとがベース同士を結合されてなる第2のトランジスタ回路とを備え、第1のトランジスタと第3のトランジスタとのエミッタ同士を接続して,この接続点を接地するとともに、第2のトランジスタと第4のトランジスタとのエミッタ同士を接続し、第1のトランジスタのコレクタを第1の入力信号電流源を介して第1の電源に接続するとともに、第3のトランジスタのコレクタを第2の入力信号電流源を介して第2の電源に接続し、第2のトランジスタのコレクタを第1の抵抗を介して第1の電源に接続するとともに、第4のトランジスタのコレクタを第2の電源に接続し、第2のトランジスタのコレクタの出力電流が第1の抵抗を流れることによる出力電圧を,第1の入力信号電流源の電流と第2の入力信号電流源の電流との積の1/2乗に比例する信号として出力するようにして、乗算器要素回路を構成する(請求項1の発明)。
【0027】
上記請求項1の発明によれば、第1ないし第4のトランジスタ(Q1〜Q4)の各ベース・エミッタ接合が一巡ループに結合してトランスリニア回路を形成している。
そして、各トランジスタ(Q1〜Q4)のコレクタ電流(Ic1〜Ic4)の間には、
【0028】
【数2】
【0029】
の関係とともに、
【0030】
【数3】
【0031】
の関係が成立している。
第1,第3のトランジスタ(Q1,Q3)の各コレクタ電流(Ic1,Ic3)がそれぞれ第1,第2の入力信号電流源の各電流(Iin1,Iin2)となっていることにより、第2のトランジスタ(Q2)のコレクタ電流(Ic2)を出力電流(Io)とすれば、この出力電流(Io)は上記(3)式より第1の入力信号電流源の電流(Iin1)と第2の入力信号電流源の電流(Iin2)との積の1/2乗に比例するものとなっている。そして、出力電流(Io)が第1の抵抗(R1)を流れることによる出力電圧を演算出力の電圧信号とすることができる。
【0032】
このような請求項1の発明による乗算器要素回路は、まず、正弦波入力での演算動作が可能であるため、上述のスイッチング乗算器におけるような、矩形波によるスイッチングノイズが混入してしまう問題がなく、より低ノイズの乗算器を構成することができる。
【0033】
また、請求項1の発明による乗算器要素回路では、出力電流(Io)と第1,第2の入力信号電流源の各電流(Iin1,Iin2)との関係式において温度Tに依存する定数項がないため、図10のギルバートセルを用いた乗算器回路におけるような温度Tが変化すると乗算の定数が変化してしまう問題がなく、温度変化によるドリフトを低く抑えることができる。
【0034】
また、第1および第2の乗算器要素回路としてそれぞれ請求項1に記載の乗算器要素回路を備え、第1の乗算器要素回路における第1の入力信号電流源および第2の乗算器要素回路における第1の入力信号電流源の各電流として、いずれも、直流のバイアス電流と高周波で変調された変調信号の電流との和の電流を入力するとともに、第1の乗算器要素回路における第2の入力信号電流源および第2の乗算器要素回路における第2の入力信号電流源の各電流として、それぞれ、直流のバイアス電流と高周波のキャリア信号の電流との和の電流,および,直流のバイアス電流と高周波のキャリア信号の電流との差の電流を入力することによって、変調信号の電流とキャリア信号の電流との積に比例した電圧値として、前記第1の乗算器要素回路の出力電圧と前記第2の乗算器要素回路の出力電圧との電位差を乗算出力信号とするようにして、乗算器を構成する(請求項2の発明)。
【0035】
上記請求項2の発明のように、上記請求項1に記載の乗算器要素回路を2つ用いて、変調信号の電流とキャリア信号の電流との積に比例する乗算信号を出力する乗算器を構成することができ、この乗算器は、例えば可変容量型センサーなどの出力を高周波で変調して測定するための復調器として用いることができる。
【0036】
そして、上記請求項2の発明による乗算器は、正弦波入力での演算動作が可能な上記請求項1に記載の乗算器要素回路を用いていることにより、上述のスイッチング乗算器に比べて、より低ノイズの乗算器となっている。
【0037】
また、上記請求項2に記載の乗算器において、信号入力部として、第1および第2の入力信号電圧源と、前記第1および第2の入力信号電圧源からの信号電圧がそれぞれ入力されるプッシュプル型の第1および第2のエミッタフォロワー回路と、第1ないし第4のカレントミラー回路とを備え、前記第1のカレントミラー回路は,前記第1の電源側に設けられるとともに前記第1のエミッタフォロワー回路の前記第1の電源側の出力電流が入力される2出力型のカレントミラー回路であり、前記第2のカレントミラー回路は,前記第2の電源側に設けられるとともに前記第2のエミッタフォロワー回路の前記第2の電源側の出力電流が入力されるカレントミラー回路であり、前記第3のカレントミラー回路は,前記第1の電源側に設けられるとともに前記第2のエミッタフォロワー回路の前記第1の電源側の出力電流が入力されるカレントミラー回路であり、前記第4のカレントミラー回路は,前記第2の電源側に設けられるとともに前記第3のカレントミラー回路の出力電流が入力されるカレントミラー回路であって、前記第1のカレントミラー回路の2つの出力電流をそれぞれ第1の乗算器要素回路における第1の入力信号電流源および第2の乗算器要素回路における第1の入力信号電流源の各電流とし、前記第2のカレントミラー回路の出力電流を第1の乗算器要素回路における第2の入力信号電流源の電流とするとともに、前記第4のカレントミラー回路の出力電流を第2の乗算器要素回路における第2の入力信号電流源の電流とした構成とすることができる(請求項3の発明)。
【0038】
上記請求項3の発明によれば、上記請求項2に記載の乗算器における信号入力部が高速応答の可能なエミッタフォロワーとカレントミラーとで構成されることにより、より高周波の領域、例えば100kHz程度以上の高周波領域においても正弦波入力での低ノイズの演算動作が可能となっている。
【0039】
したがって、上記請求項3に記載の乗算器を例えば可変容量型センサーの出力を高周波で変調して測定するための復調器として用いた場合、測定に用いるキャリア信号の周波数をより高い周波数としてチャージアンプのノイズをより減少させ、可変容量型センサーのSN比をより高くすることが可能となる。
【0040】
また、上述のように、従来、100kHz程度以上の高周波に対応した乗算器としてダブルバランスドミキサーが一般的に用いられてきているが、上記請求項3の発明による乗算器では、ダブルバランスドミキサーにおけるような高価なトランスが不要であるため、より安価な乗算器を提供することができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、100kHz程度以上の高周波領域においても正弦波入力での低ノイズ動作が可能であって、かつ安価な乗算器を提供することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施例1に係る乗算器を構成する乗算器要素回路の構成例を示す回路図である。
【図2】本発明の実施例1に係る乗算器の構成例を示す回路図である。
【図3】本発明の実施例1に係る乗算器の出力波形を例示する図である。
【図4】本発明の実施例1に係る乗算器におけるローパスフィルター通過後の電圧と入力電流との関係を例示する図である。
【図5】本発明の実施例2に係る乗算器の構成例を示す回路図である。
【図6】本発明の実施例2に係る乗算器におけるローパスフィルター通過後の電圧と入力したシグナルとの関係を例示する図である。
【図7】可変容量測定系の構成を例示するブロック図である。
【図8】スイッチを利用したスイッチング乗算器の動作原理を示す回路図である。
【図9】実際のスイッチング乗算器の構成例を示す回路図である。
【図10】ギルバートセル回路の構成例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の実施形態を図1〜図6に示す実施例に基づいて説明する。同一の構成要素については、同一の符号を付け、重複する説明は省略する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施することができるものである。
[本発明の実施形態]
【実施例1】
【0044】
本実施例1は、例えば可変容量型センサーなどの出力を高周波で変調して測定するための復調器として用いられる乗算器の構成例を示すものである。
(イ)乗算器要素回路の構成:
(a)まず、乗算器を構成する基本要素、すなわち乗算器要素回路について説明する。図1は、本発明の実施例1に係る乗算器を構成する乗算器要素回路の構成例を示す回路図であり、この乗算器要素回路はトランスリニア回路を用いたものとなっている。
【0045】
(b)図1の乗算器要素回路は、正電圧出力の電源VPおよび負電圧出力の電源VMと、ダイオード接続されたNPN型のトランジスタQ1と,(トランジスタQ1と同極性の)NPN型のトランジスタQ2とがベース同士を結合されてなる第1のトランジスタ回路と、(トランジスタQ1と逆極性であって)ダイオード接続されたPNP型のトランジスタQ3と,(トランジスタQ3と同極性の)PNP型のトランジスタQ4とがベース同士を結合されてなる第2のトランジスタ回路とを備えている。
【0046】
図1の回路は、トランジスタQ1とトランジスタQ3とのエミッタ同士を接続して,この接続点を接地するとともに、トランジスタQ2とトランジスタQ4とのエミッタ同士を接続している。また、図1の回路は、トランジスタQ1のコレクタを入力信号電流源Iin1を介して電源VPに接続するとともに、トランジスタQ3のコレクタを入力信号電流源Iin2を介して電源VMに接続している。また、図1の回路は、トランジスタQ2のコレクタを抵抗R1を介して電源VPに接続するとともに、トランジスタQ4のコレクタを電源VMに接続している。そして、図1の回路は、トランジスタQ2のコレクタの出力電流Ioが抵抗R1を流れることによる出力電圧を,演算信号として出力するように構成されている。
【0047】
(c)図1に示されるように、本回路は、トランジスタQ1〜Q4の各ベース・エミッタ接合が一巡ループとして結合したトランスリニア回路を形成している。そして、入力電流Iin1、Iin2と出力電流I0との間には以下の式が成立している。
【0048】
【数4】
【0049】
上記(4)式の関係は、トランスリニア回路としての次のような特性から導き出されるものである。トランジスタQ1〜Q4の各ベース・エミッタ接合で形成される閉回路において、
【0050】
【数5】
【0051】
の関係がある。ここで、Vbe1〜Vbe4はトランジスタQ1〜Q4の各ベース・エミッタ電圧である。
また、トランジスタQ1〜Q4の各コレクタ電流Ic1〜Ic4と各ベース・エミッタ電圧Vbe1〜Vbe4との間には、
【0052】
【数6】
【0053】
の関係がある。ここで、kはボルツマン定数、Tは絶対温度、qは素電荷であり、Is1〜Is4はトランジスタQ1〜Q4の飽和電流である。
そして、式(5)、式(6a)〜(6d)より、
【0054】
【数7】
【0055】
の関係がある。これより、
【0056】
【数8】
【0057】
の関係が導き出される。
式(8)において、トランジスタQ1〜Q4の各飽和電流Is1〜Is4がすべて等しく、Is1=Is2=Is3=Is4と設定されている場合、
【0058】
【数9】
【0059】
となる。
式(9)において、図1の回路ではIc2=Ic4であるから、
【0060】
【数10】
【0061】
の関係が導き出される。
したがって、図1の乗算器要素回路の出力電流Io(=Ic2)と、入力電流Iin1(=Ic1),Iin2(=Ic3)との間には、上記(4)式の関係が成立している。
【0062】
(d)そして、図1の乗算器要素回路では、出力電流Ioと入力電流Iin1,Iin2との関係式において温度Tに依存する定数項がないため、図10のギルバートセルを用いた乗算器回路におけるような温度Tが変化すると乗算の定数が変化してしまう問題がなく、温度変化によるドリフトを低く抑えることができる。
【0063】
ただし、上記(4)式からも判るように、図1の回路では、入力値をIin1,Iin2とすると出力値I0は入力値の積(Iin1*Iin2)の1/2乗に比例するものとなる。このように、図1の乗算器要素回路のみでは大きな非線形性、すなわち、出力信号が入力信号同士の積に対して平方根(√)の関係になるような非線形性があり、また、電流方向が限定される点にも課題がある。
【0064】
(e)なお、図1に示す乗算器要素回路の構成例には例えば次のような設計値を適用可能であるが、これに限定されるものではない。
(e1)トランジスタQ1〜Q4:β値170。
【0065】
(e2)抵抗R1:抵抗値100Ω。
(e3)電源VP、VM:電源電圧はそれぞれ+15V、−15V。
(ロ)乗算器の構成:
(a)次に、図1の乗算器要素回路を2つ用いた乗算器について説明する。図2は本発明の実施例1に係る乗算器の構成例を示す回路図である。
【0066】
(b)図2の乗算器は、図1に記載の乗算器要素回路を2つ備えている。すなわち、図2に示されるように、トランジスタQ1〜Q4、抵抗R1、入力信号電流源Iin1〜Iin2により第1の乗算器要素回路101が形成されるとともに、トランジスタQ5〜Q8、抵抗R2、入力信号電流源Iin3〜Iin4により第2の乗算器要素回路102が形成されている。各乗算器要素回路は、正電圧出力の電源VPおよび負電圧出力の電源VMを共通の電源とするものであって、その回路構成は図1に示した回路構成と同様である。
【0067】
そして、図2の乗算器は、第1の乗算器要素回路101の入力信号電流源Iin1および第2の乗算器要素回路102の入力信号電流源Iin3の各電流として、いずれも、直流のバイアス電流Ibと高周波で変調された変調信号の電流Isとの和の電流(Ib+Is)を入力するとともに、第1の乗算器要素回路101の入力信号電流源Iin2および第2の乗算器要素回路102の入力信号電流源Iin4の各電流として、それぞれ、直流のバイアス電流Ibと高周波のキャリア信号の電流Icとの和の電流(Ib+Ic),および,直流のバイアス電流Ibと高周波のキャリア信号の電流Icとの差の電流(Ib−Ic)を入力することによって、変調信号の電流Isとキャリア信号の電流Icとの積(Is*Ic)に比例した電圧値として、第1の乗算器要素回路101の出力電圧Vo1と第2の乗算器要素回路102の出力電圧Vo2との電位差Vout(=Vo1−Vo2)を乗算出力信号とするように構成されている。
【0068】
なお、第1,第2の乗算器要素回路101,102の各出力電圧Vo1,Vo2は、第1,第2の乗算器要素回路101,102の各出力電流Io1,Io2がそれぞれ抵抗R1,R2を流れることによるものであり、Vo1=VP−(Io1×R1)、Vo2=VP−(Io2×R2)の関係にある。そして、電圧差Voutは、Vout=Vo1−Vo2=(Io2×R2)−(Io1×R1)として表わされ、R1=R2とした場合には、Vout=(Io2−Io1)×R1の関係より、第1,第2の乗算器要素回路101,102の各出力電流Io1,Io2の差(δI)に対応するものとなる。
【0069】
(c)実験例1:
図2に示されるように、入力信号電流として4つの電流入力端子にそれぞれ、
【0070】
【数11】
【0071】
【数12】
【0072】
【数13】
【0073】
を入力した。なお、Ibias、Cの各電流値は、Ibias=1.2mA(一定)、C=1mAとし、シグナルSの電流値は、S=−1〜+1mAの範囲で変化させた。キャリアの周波数は100kHzとした。また、Sの変化はキャリアに比べて十分に低い周波数としている。
【0074】
また、演算出力信号は、図2における抵抗R1,R2の抵抗値を3kΩとし、第1,第2の乗算器要素回路101,102の各出力電流Io1,Io2の差を電圧差Voutとして読み取っている。
【0075】
また、図2では、信号入力部としての電圧電流変換回路を省略しているが、実際にはOPアンプを用いた電圧電流変換回路を用いている。
図3に、C=1mA、S=1mAの時の電圧差Vout(演算出力信号)をオシロスコープで読み取った電圧値を抵抗値3kΩで割り算して電流差(δI)に変換したグラフを示す。図3において、縦軸は抵抗R1と抵抗R2とに流れている各出力電流Io1,Io2の差δI、横軸は時間である。なお、図3の横軸において、「0.0E+00」、「1.0E−05」、「2.0E−05」、「3.0E−05」、「4.0E−05」、「5.0E−05」はそれぞれ「0.0×10+0」、「1.0×10−5」、「2.0×10−5」、「3.0×10−5」、「4.0×10−5」、「5.0×10−5」を意味している。
【0076】
キャリア信号と変調信号(シグナル信号が高調波で変調された信号)とは同位相なので、きっちりとした乗算が行われているならば、演算出力信号がゼロを下回ることはない。しかしながら、図3に示されるように、実際の波形では電流差(δI)がゼロを大きく下回っており、なおかつ波形も歪んでいることが判る。
【0077】
次に、例えば可変容量型センサーなどにおける乗算器の実際の応用では、乗算器の演算出力信号が後段のローパスフィルターを通過した後の線形性、ノイズ特性が重要であることを考慮し、乗算器の演算出力信号を1kHz,3次のローパスフィルターで処理して評価を行った。
【0078】
図4に、キャリア信号の振幅Cを1mAで一定として、シグナルの電流値S(信号電流)を−1.1mA(逆位相、振幅1.1mA)から+1.1mA(同位相、振幅1.1mA)まで変化させて、フィルター通過後の直流電圧(ローパスフィルター後電圧)を測定した結果を示す。図4におけるローパスフィルター後電圧−信号電流特性は、概略線形であるが、直線式からのずれが最大8%存在する。ただし、3次項のフィッティングを考慮すると、線形からのずれは0.6%以下で実用に十分な性能と言える。
【0079】
また、ノイズ密度は10nV/√Hzであり、図9に示したスイッチング乗算器に対して、1/10にノイズを低下させることができた。
(d)なお、図2に示す乗算器の構成例における設計値は次の通りとしているが、これに限定されるものではない。
【0080】
(d1)トランジスタQ1〜Q8:β値170。
(d2)抵抗R1、R2:抵抗値3000Ω。
(d3)電源VP、VM:電源電圧はそれぞれ+15V、−15V。
【0081】
(ハ)以上のように、実施例1の乗算器は、次のような利点を有している。
(a)正弦波入力での演算動作が可能であるため、上述のスイッチング乗算器におけるような、矩形波によるスイッチングノイズが混入してしまう問題がなく、より低ノイズの乗算器を構成することができる。
【0082】
(b)各乗算器要素回路における出力電流と第1,第2の入力電流との関係式において温度Tに依存する定数項がないため、温度変化によるドリフトを低く抑えることができる。
【実施例2】
【0083】
上述の実施例1では、実際には信号入力部として(図2には図示されない)OPアンプを用いた電圧電流変換回路を用いる構成としたが、この部分だけで例えば9個のOPアンプを用いる構成となり、回路規模として非常に大きなものになってしまう。そこで、実施例2では、信号入力部における電圧電流変換回路をエミッタフォロワーとカレントミラーとで構成した。
【0084】
(イ)乗算器要素回路の構成:
まず、実施例2において用いる乗算器要素回路は、上述の図1で説明した実施例1における乗算器要素回路と同様の構成とすることができる。
【0085】
(ロ)乗算器の構成:
(a)次に、実施例2に係る乗算器の回路構成について説明する。図5は本発明の実施例2に係る乗算器の構成例を示す回路図であり、図2と同一の符号は同一名称の部分を示す。
【0086】
(b)図5の乗算器は、次のように信号入力部における電圧電流変換回路をエミッタフォロワーとカレントミラーとで構成したものである。すなわち、図5の乗算器は、信号入力部111として、入力信号電圧源Vin1,Vin2と、上記入力信号電圧源Vin1,Vin2からの信号電圧がそれぞれ入力される第1および第2のエミッタフォロワー回路と、第1ないし第4のカレントミラー回路とを備えている。
【0087】
ここで、第1および第2のエミッタフォロワー回路は、いずれも、プッシュプル型に構成されたエミッタフォロワー回路である。トランジスタQ9〜Q12からなる第1のエミッタフォロワー回路は、その入力回路部に電源VP側のバイアス用定電流源Ib11および電源VM側のバイアス用定電流源Ib12を備えている。トランジスタQ13〜Q16からなる第2のエミッタフォロワー回路は、その入力回路部に電源VP側のバイアス用定電流源Ib21および電源VM側のバイアス用定電流源Ib22を備えている。
【0088】
トランジスタQ17〜Q19からなる第1のカレントミラー回路は、電源VP側に設けられるとともに、トランジスタQ9〜Q12からなる第1のエミッタフォロワー回路の電源VP側の出力電流が入力される2出力型のカレントミラー回路である。
【0089】
トランジスタQ20〜Q21からなる第2のカレントミラー回路は、電源VM側に設けられるとともに、トランジスタQ13〜Q16からなる第2のエミッタフォロワー回路の電源VM側の出力電流が入力されるカレントミラー回路である。
【0090】
トランジスタQ22〜Q23からなる第3のカレントミラー回路は、電源VP側に設けられるとともに、トランジスタQ13〜Q16からなる第2のエミッタフォロワー回路の電源VP側の出力電流が入力されるカレントミラー回路である。
【0091】
トランジスタQ24〜Q25からなる第4のカレントミラー回路は、電源VM側に設けられるとともに、トランジスタQ22〜Q23からなる第3のカレントミラー回路の出力電流が入力されるカレントミラー回路である。
【0092】
そして、第1のカレントミラー回路(Q17〜Q19)の2つの出力電流をそれぞれ第1の乗算器要素回路101における入力信号電流源Iin1および第2の乗算器要素回路102における入力信号電流源Iin3の各電流とし、第2のカレントミラー回路(Q20〜Q21)の出力電流を第1の乗算器要素回路101における入力信号電流源Iin2の電流とするとともに、第4のカレントミラー回路(Q24〜Q25)の出力電流を第2の乗算器要素回路102における入力信号電流源Iin4の電流としている。
【0093】
なお、図5の乗算器は、信号入力部111における電圧電流変換回路にトランジスタ、抵抗などの個別素子を使っていることにより回路構成が複雑になっているが、信号入力部における電圧電流変換回路にOPアンプを使う場合に比べて1/20の面積で乗算器を構成することが可能となっている。
【0094】
(c)実験例2:
図5に示されるように、入力信号電圧として2つの電圧入力端子に、それぞれ、キャリア信号の
【0095】
【数14】
【0096】
を入力するとともに、変調信号の
【0097】
【数15】
【0098】
を入力した。なお、シグナルSの電圧値範囲は、−1.2V<S<+1.2Vとした。
図5の乗算器の演算出力信号が(図5には図示されない)後段のローパスフィルターを通過した後の直流電圧(ローパスフィルター通過後電圧)と入力したシグナル(シグナル振幅)との関係を図6に示す。入力した値は電流換算で実施例1の場合と同じ値であるが、図6におけるローパスフィルター後電圧−シグナル振幅特性の線形性は2%以内であり、図4(実施例1)より向上している。これは、電流信号を発生させるエミッタフォロワーに非線形性があって、トランスリニア回路の非線形性と打ち消しあった結果である。なお、さらに3次式の補正で誤差を0.1%以下にすることが可能であるので、実用上、全く問題ない。ノイズ密度は10nV/√Hzであり、実施例1と同様、低ノイズ化が実現されている。
【0099】
(d)さらに、図5の乗算器は、高速応答が可能なエミッタフォロワーとカレントミラーとで構成されているので、高周波まで演算動作が可能であり、実験では10MHzでなんら問題なく演算出力が得られている。例えば可変容量型センサーなどの出力を高周波で変調して測定するための復調器として、図5の乗算器のように高周波まで演算出力が可能な乗算器を用いることによって、センサーの高SN化が可能になる。この点に関し、例えば、100kHzに比べて周波数倍の高SN化、すなわち100倍の高SN化が可能となる。
【0100】
また、SN比に対する要求がそれほどでない場合でも、チャージアンプの低インピーダンス化に寄与する。たとえば、ノイズ密度が100nV/√Hz程度許容される場合でも、このノイズ密度を100kHzで維持するためには、チャージアンプのインピーダンスは100MΩ程度要求される。このように高いインピーダンスを持たせると回路が不安定になり、パッケージなどに細心の注意が要求される。これが10MHzまで許容されると、インピーダンスは1MΩ程度まで落とすことか可能であり、チャージアンプのインピーダンスをここまで低抵抗化した場合には、通常のアナログ回路と何ら変わるところ無く、安定な動作が保障される。
【0101】
(e)なお、図5に示す乗算器の構成例における設計値は次の通りとしているが、これに限定されるものではない。
(e1)トランジスタQ1〜Q25:β値200。
【0102】
(e2)抵抗R1〜R2:抵抗値3000Ω。
(e3)抵抗R4〜R13:抵抗値470Ω。
(e4)定電流源Ib12,Ib12,Ib21,Ib22:電流値1.2mA。
【0103】
(e5)電源VP、VM:電源電圧はそれぞれ+15V、−15V。
(ハ)以上のように、実施例2の乗算器は、次のような利点を有しており、例えば可変容量型センサーなどの出力を高周波で変調して測定するための復調器として好適である。
【0104】
(a)正弦波入力での演算動作が可能であるため、上述のスイッチング乗算器におけるような、矩形波によるスイッチングノイズが混入してしまう問題がなく、より低ノイズの乗算器を構成することができる。
【0105】
(b)各乗算器要素回路における出力電流と第1,第2の入力電流との関係式において温度Tに依存する定数項がないため、温度変化によるドリフトを低く抑えることができる。
【0106】
(c)信号入力部が高速応答の可能なエミッタフォロワーとカレントミラーとで構成されることにより、より高周波の領域、例えば100kHz程度以上の高周波領域においても正弦波入力での低ノイズの演算動作が可能となっているので、実施例2の乗算器を例えば可変容量型センサーの出力を高周波で変調して測定するための復調器として用いた場合、測定に用いるキャリア信号の周波数をより高い周波数としてチャージアンプのノイズをより減少させ、可変容量型センサーのSN比をより高くすることが可能となる。
【0107】
(d)従来、100kHz程度以上の高周波に対応した乗算器としてダブルバランスドミキサーが一般的に用いられてきているが、実施例2の乗算器では、ダブルバランスドミキサーにおけるような高価なトランスが不要であるため、より安価な乗算器を提供することができる。
[乗算器の線形性]
なお、一般的に乗算器の性能として線形性が求められる。しかしながら、例えば可変容量型センサーにおいて乗算器を用いる場合、センサー自身に非線形性を持つ場合が多く、実際に、MEMSの可変容量型の加速度センサーなどにおいては、測定範囲内で1〜5%程度の非線形性があるのが一般的である。したがって、高度な線形性が要求される場合には、センサー出力のアナログ値をAD変換し、デジタル演算による線形化の補正処理を行っている。
【0108】
この点について、逆に考えると、乗算器で発生する非線形性がセンサー自身の非線形性以下であれば、何ら問題なく用いることができると言える。
このため、本発明では、特に可変容量型センサーなどの出力を高周波で変調して測定するための復調器として用いられる乗算器における課題事項として、乗算器の線形性よりもノイズ特性の向上をより優先すべき課題としている。
【符号の説明】
【0109】
101・・・第1の乗算器要素回路
102・・・第2の乗算器要素回路
111・・・信号入力部(電圧電流変換回路)
Q1〜Q25・・・トランジスタ
R1〜R13・・・抵抗
Ib11,Ib12,Ib21,Ib22・・・(バイアス用)定電流源
Iin1〜Iin4・・・入力信号電流源
Vin1〜Vin2・・・入力信号電圧源
Io,Io1,Io2・・・出力信号電流
Vo,Vo1,Vo2,Vout・・・出力信号電圧
VP,VM・・・電源
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互に逆極性の第1および第2の電源と、
ダイオード接続された第1のトランジスタと,前記第1のトランジスタと同極性の第2のトランジスタとがベース同士を結合されてなる第1のトランジスタ回路と、
前記第1のトランジスタと逆極性であってダイオード接続された第3のトランジスタと,前記第3のトランジスタと同極性の第4のトランジスタとがベース同士を結合されてなる第2のトランジスタ回路とを備え、
第1のトランジスタと第3のトランジスタとのエミッタ同士を接続して,この接続点を接地するとともに、第2のトランジスタと第4のトランジスタとのエミッタ同士を接続し、
第1のトランジスタのコレクタを第1の入力信号電流源を介して第1の電源に接続するとともに、第3のトランジスタのコレクタを第2の入力信号電流源を介して第2の電源に接続し、
第2のトランジスタのコレクタを第1の抵抗を介して第1の電源に接続するとともに、第4のトランジスタのコレクタを第2の電源に接続し、
第2のトランジスタのコレクタの出力電流が第1の抵抗を流れることによる出力電圧を,第1の入力信号電流源の電流と第2の入力信号電流源の電流との積の1/2乗に比例する信号として出力する
ことを特徴とする乗算器要素回路。
【請求項2】
第1および第2の乗算器要素回路としてそれぞれ請求項1に記載の乗算器要素回路を備え、
第1の乗算器要素回路における第1の入力信号電流源および第2の乗算器要素回路における第1の入力信号電流源の各電流として、いずれも、直流のバイアス電流と高周波で変調された変調信号の電流との和の電流を入力するとともに、
第1の乗算器要素回路における第2の入力信号電流源および第2の乗算器要素回路における第2の入力信号電流源の各電流として、それぞれ、直流のバイアス電流と高周波のキャリア信号の電流との和の電流,および,直流のバイアス電流と高周波のキャリア信号の電流との差の電流を入力することによって、
変調信号の電流とキャリア信号の電流との積に比例した電圧値として、前記第1の乗算器要素回路の出力電圧と前記第2の乗算器要素回路の出力電圧との電位差を乗算出力信号とする
ことを特徴とする乗算器。
【請求項3】
請求項2に記載の乗算器において、
信号入力部として、
第1および第2の入力信号電圧源と、
前記第1および第2の入力信号電圧源からの信号電圧がそれぞれ入力されるプッシュプル型の第1および第2のエミッタフォロワー回路と、
第1ないし第4のカレントミラー回路とを備え、
前記第1のカレントミラー回路は,前記第1の電源側に設けられるとともに前記第1のエミッタフォロワー回路の前記第1の電源側の出力電流が入力される2出力型のカレントミラー回路であり、
前記第2のカレントミラー回路は,前記第2の電源側に設けられるとともに前記第2のエミッタフォロワー回路の前記第2の電源側の出力電流が入力されるカレントミラー回路であり、
前記第3のカレントミラー回路は,前記第1の電源側に設けられるとともに前記第2のエミッタフォロワー回路の前記第1の電源側の出力電流が入力されるカレントミラー回路であり、
前記第4のカレントミラー回路は,前記第2の電源側に設けられるとともに前記第3のカレントミラー回路の出力電流が入力されるカレントミラー回路であって、
前記第1のカレントミラー回路の2つの出力電流をそれぞれ第1の乗算器要素回路における第1の入力信号電流源および第2の乗算器要素回路における第1の入力信号電流源の各電流とし、
前記第2のカレントミラー回路の出力電流を第1の乗算器要素回路における第2の入力信号電流源の電流とするとともに、
前記第4のカレントミラー回路の出力電流を第2の乗算器要素回路における第2の入力信号電流源の電流とした
ことを特徴とする乗算器。
【請求項1】
互に逆極性の第1および第2の電源と、
ダイオード接続された第1のトランジスタと,前記第1のトランジスタと同極性の第2のトランジスタとがベース同士を結合されてなる第1のトランジスタ回路と、
前記第1のトランジスタと逆極性であってダイオード接続された第3のトランジスタと,前記第3のトランジスタと同極性の第4のトランジスタとがベース同士を結合されてなる第2のトランジスタ回路とを備え、
第1のトランジスタと第3のトランジスタとのエミッタ同士を接続して,この接続点を接地するとともに、第2のトランジスタと第4のトランジスタとのエミッタ同士を接続し、
第1のトランジスタのコレクタを第1の入力信号電流源を介して第1の電源に接続するとともに、第3のトランジスタのコレクタを第2の入力信号電流源を介して第2の電源に接続し、
第2のトランジスタのコレクタを第1の抵抗を介して第1の電源に接続するとともに、第4のトランジスタのコレクタを第2の電源に接続し、
第2のトランジスタのコレクタの出力電流が第1の抵抗を流れることによる出力電圧を,第1の入力信号電流源の電流と第2の入力信号電流源の電流との積の1/2乗に比例する信号として出力する
ことを特徴とする乗算器要素回路。
【請求項2】
第1および第2の乗算器要素回路としてそれぞれ請求項1に記載の乗算器要素回路を備え、
第1の乗算器要素回路における第1の入力信号電流源および第2の乗算器要素回路における第1の入力信号電流源の各電流として、いずれも、直流のバイアス電流と高周波で変調された変調信号の電流との和の電流を入力するとともに、
第1の乗算器要素回路における第2の入力信号電流源および第2の乗算器要素回路における第2の入力信号電流源の各電流として、それぞれ、直流のバイアス電流と高周波のキャリア信号の電流との和の電流,および,直流のバイアス電流と高周波のキャリア信号の電流との差の電流を入力することによって、
変調信号の電流とキャリア信号の電流との積に比例した電圧値として、前記第1の乗算器要素回路の出力電圧と前記第2の乗算器要素回路の出力電圧との電位差を乗算出力信号とする
ことを特徴とする乗算器。
【請求項3】
請求項2に記載の乗算器において、
信号入力部として、
第1および第2の入力信号電圧源と、
前記第1および第2の入力信号電圧源からの信号電圧がそれぞれ入力されるプッシュプル型の第1および第2のエミッタフォロワー回路と、
第1ないし第4のカレントミラー回路とを備え、
前記第1のカレントミラー回路は,前記第1の電源側に設けられるとともに前記第1のエミッタフォロワー回路の前記第1の電源側の出力電流が入力される2出力型のカレントミラー回路であり、
前記第2のカレントミラー回路は,前記第2の電源側に設けられるとともに前記第2のエミッタフォロワー回路の前記第2の電源側の出力電流が入力されるカレントミラー回路であり、
前記第3のカレントミラー回路は,前記第1の電源側に設けられるとともに前記第2のエミッタフォロワー回路の前記第1の電源側の出力電流が入力されるカレントミラー回路であり、
前記第4のカレントミラー回路は,前記第2の電源側に設けられるとともに前記第3のカレントミラー回路の出力電流が入力されるカレントミラー回路であって、
前記第1のカレントミラー回路の2つの出力電流をそれぞれ第1の乗算器要素回路における第1の入力信号電流源および第2の乗算器要素回路における第1の入力信号電流源の各電流とし、
前記第2のカレントミラー回路の出力電流を第1の乗算器要素回路における第2の入力信号電流源の電流とするとともに、
前記第4のカレントミラー回路の出力電流を第2の乗算器要素回路における第2の入力信号電流源の電流とした
ことを特徴とする乗算器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−65146(P2012−65146A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207752(P2010−207752)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】
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