説明

乳化剤及び樹脂分散体

【課題】アニオン成分を低減しても乳化能を維持し、さらに、乳化剤使用時の乾燥皮膜において耐水性に優れた乳化剤及びこれを用いた樹脂分散体を提供する。
【解決手段】エチレンオキサイド基及びブチレンオキサイド基を有し、エチレンオキサイド基の繰り返し単位数mが10以上65以下、ブチレンオキサイドの繰り返し単位数nが1以上8以下であり、かつラジカル重合性二重結合を有するビニル単量体(A)に由来する構造単位と、下記式(1)で表されるビニル単量体(B)に由来する構造単位とを含む共重合体からなる乳化剤。
CH=C(R)−(CO)−N(R)−X−OH ・・・(1)
(上記式(1)中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、Xは炭素数1〜4のアルキレン基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥皮膜が耐水性に優れた熱可塑性樹脂の分散液に使用される乳化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、汎用性、強度、物性、成形のし易さ、耐溶剤性、外観等の観点から、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂が、日用品、自動車用部品、建材等に使用されている。しかし、これらのポリオレフィン系樹脂は、ポリオレフィン系樹脂自体が低極性であるため、塗装や接着が困難であり、改善が望まれていた。
【0003】
比較的簡便な方法でポリオレフィン、例えばプロピレン系重合体に良好な塗装性や接着性を付与するための工夫として、いわゆる塩素化ポリプロピレンや酸変性プロピレン−α−オレフィン共重合体、さらには酸変性塩素化ポリプロピレン、などの変性ポリオレフィンが開発されてきた。このような変性ポリオレフィンを、ポリオレフィンの成形体表面に表面処理剤、接着剤或いは塗料等として塗布するのである。変性ポリオレフィンは通常、有機溶媒の溶液、又は水への分散体などの形態で塗布される。安全衛生及び環境面での懸念などから、近年、水分散体が好ましく用いられる。また、塩素化ポリプロピレン系樹脂は、焼却廃棄時に、毒性の高いダイオキシンが発生するおそれがあるという指摘もあった。
【0004】
樹脂を水系化させる一般的な方法として、例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体の場合は、先ず、エチレン・酢酸ビニル共重合体を加熱溶融し、次いで、アニオン系やノニオン系の乳化剤を添加撹拌し、その後、熱水を添加して、ホモミキサー等の機械剪断力を用いて乳化することにより得られる方法が挙げられる(例えば、特許文献1参照)
【0005】
上記のアニオン系乳化剤及びノニオン系乳化剤を用いた場合、得られた製品の使用時において、ブリードアウトするおそれがある。これに対し、乳化安定性などを改良した特定のアクリル系共重合体の中和物を、アニオン系水溶性乳化剤として用いる樹脂水性分散液の製造方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
一方で、ポリアルキレングリコールメタクリレートを導入したアニオン系水溶性乳化剤を用いることにより、上記の分子内又は分子間での会合を抑制させて、溶融粘度を低下させる方法が知られている(例えば、特許文献3参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭57−061035号公報
【特許文献2】特開昭58−127752号公報
【特許文献3】特開昭63−178384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献2、3などに記載されているアニオン系水溶性乳化剤では、乳化能を得るためにアクリル酸やメタアクリル酸等に由来する、アニオン成分が必要不可欠であり、当該アニオン成分を多量に用いると、乳化剤を用いて得られた製品の使用時の耐水性が不十分であるという課題が見出された。
【0009】
本発明は上記課題を解決することを目的としたものであって、アニオン成分を低減しても乳化能を維持し、さらに、乳化剤使用時の乾燥皮膜において耐水性に優れた乳化剤及びこれを用いた樹脂分散体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記目的を達成するため鋭意検討した結果、乳化剤として特定のアルキレンオキサイド基を有する構造単位と、アミド基及びアミド基を有する構造単位とを有する共重合体からなる乳化剤により、乳化能を維持し、熱可塑性ポリオレフィンを乳化した際の耐水性を向上することができることを見出し本発明に至った。即ち本発明の要旨は以下の[1]〜[9]に存する。
【0011】
[1]エチレンオキサイド基及びブチレンオキサイド基を有し、エチレンオキサイド基の繰り返し単位数mが10以上65以下、ブチレンオキサイド基の繰り返し単位数nが1以上8以下であり、かつラジカル重合性二重結合を有するビニル単量体(A)に由来する構造単位と、下記式(1)で表されるビニル単量体(B)に由来する構造単位とを含む共重合体からなる乳化剤。
CH=C(R)−(CO)−N(R)−X−OH ・・・(1)
(上記式(1)中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、Xは炭素数1〜4のアルキレン基である。)
【0012】
[2]前記共重合体全体に対して、前記ビニル単量体(A)に由来する構造単位を10〜60重量%を含み、かつ、前記ビニル単量体(B)に由来する構造単位を20〜60重量%含む、[1]に記載の乳化剤。
[3]前記共重合体全体に対して、下記式(2)で表されるビニル単量体(C)に由来する構造単位を0.1〜40重量%含む、 [1]又は[2]に記載の乳化剤。
CH=C(R)−(CO)−O−R ・・・(2)
(上記式(2)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数1〜22の鎖状のアルキル基、炭素数2〜22のアルケニル基、炭素数3〜22のシクロアルキル基、又は炭素数6〜22のアリール基である。)
[4]前記共重合体全体に対して、前記式(2)において、Rが炭素数1〜4のアルキル基であるものに由来する構造単位を0.1重量%以上39.9重量%以下含み、かつRが炭素数5〜7のシクロアルキル基であるものに由来する構造単位を0.1重量%以上39.9重量%以下含む、[3]に記載の乳化剤。
[5]前記共重合体全体に対して、分子量72〜300の不飽和カルボン酸であるビニル単量体(D)に由来する構造単位を0.1〜20重量%含む、[1]から[4]までのいずれか1つに記載の乳化剤。
[6]塩基性物質を前記ビニル単量体(D)に対して50〜300モル%含む、[5]に記載の乳化剤。
【0013】
[7][1] から[6]までのいずれか1つに記載の乳化剤と熱可塑性ポリオレフィンとからなる、樹脂分散体。
[8]前記熱可塑性ポリオレフィン100重量部に対して、[1] から[6]までのいずれか1つに記載の乳化剤0.1重量部以上40重量部以下を含む、[7]に記載の樹脂分散体。
[9][7]又は[8]に記載の樹脂分散体からなる、接着剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明の乳化剤は、プロピレン系重合体のような熱可塑性ポリオレフィンの乳化能に優れ、かつ耐水性に優れたものである。更に、本発明の乳化剤により接着剤等として有用な樹脂分散体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明について詳述する。本明細書において、「〜」を用いて数値又は物理値を挟んだ場合、その前後の数値又は物理値を含む表現として用いることとする。また、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」という表現を用いた場合、「アクリル酸」と「メタクリル酸」との両方を含む表現として用いることとし、これは「(メタ)アクリレート」、「(メタ)アクリルアミド」等も同様である。
【0016】
<乳化剤>
本発明の乳化剤は、エチレンオキサイド基及びブチレンオキサイド基を有し、エチレンオキサイド基の繰り返し単位数mが10以上65以下、ブチレンオキサイド基の繰り返し単位数nが1以上8以下であり、かつラジカル重合性二重結合を有するビニル単量体(A)に由来する構造単位と、下記式(1)で表されるビニル単量体(B)に由来する構造単位とを含む共重合体からなる。
CH=C(R)−(CO)−N(R)−X−OH ・・・(1)
(上記式(1)中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、Xは炭素数1〜4のアルキレン基である。)
【0017】
[ビニル単量体(A)]
本発明の乳化剤に用いる共重合体は、エチレンオキサイド基及びブチレンオキサイド基を有し、エチレンオキサイド基の繰り返し単位数が10以上65以下、ブチレンオキサイド基の繰り返し単位数mは1以上8以下であり、かつラジカル重合性二重結合を有するビニル単量体(A)に由来する構造単位を有する。エチレンオキサイド基の繰り返し単位数m及びブチレンオキサイド基の繰り返し単位数n、並びにラジカル重合性二重結合の存在は1H NMRにより同定することができる。具体的な例を本明細書の実施例に示す。
【0018】
ビニル単量体(A)は、繰り返し単位数mが10以上65以下であるエチレンオキサイド基を有する。mは50以下が好ましく、35以下がより好ましく、25以下が特に好ましい。mが10以上であることにより、乳化剤としての親水性が得られるが、mが65より大きい場合には、有機溶剤混和性を良好にする効果を十分に発揮することが困難となる場合がある。
【0019】
また、ビニル単量体(A)は、繰り返し単位数nが1以上10以下であるブチレンオキサイド基を有する。nは2以上が好ましく、一方、8以下が好ましい。nが2以上であることにより、乳化剤を構成する共重合体の疎水的な構造部分が導入され、熱可塑性後述するポリオレフィンに対する乳化能が向上し、また、耐水性も良好になるが、nが10より大きい場合には、乳化剤を構成する共重合体の疎水的な構造部分が多くなり、乳化剤の親水性を良好にする効果を十分に発揮することが困難となる場合がある。尚、エチレンオキサイド基とブチレンオキサイド基はそれぞれランダムに結合していても、ブロックを形成していてもよく、分子中の合計で上記のm、nの値を満たしていればよい。
【0020】
また、本発明の乳化剤においては、ビニル単量体(A)のm、nの値による親水性と疎水性のバランスが重要であるが、これはビニル単量体(A)のエチレンオキサイド基とブチレンオキサイド基の繰り返し単位数の比に基く。従って、m/nの比で言えば、1以上が好ましく、5/4以上がより好ましく、2以上が更に好ましく、5/2以上が特に好ましく、一方、65以下が好ましく、50以下が更に好ましく、35以下が更に好ましく、65/2以下がいっそう好ましく、25以下が殊更好ましく、35/2以下が特に好ましく、25/2以下が最も好ましい。
【0021】
ビニル単量体(A)は、エチレンオキサイド基とブチレンオキサイド基とを上記所定の範囲で有するのでビニル単量体(A)そのものが分子量の大きい単量体、所謂マクロマーであり得る。ビニル単量体(A)の分子量は重量平均分子量や粘度として測定することができる。ビニル単量体(A)の重量平均分子量は好ましくは以上、より好ましくは1,000以上であり、一方、好ましくは10,000以下、より好ましくは8,000以下、更に好ましくは5,000以下である。ビニル単量体(A)の重量平均分子量が低すぎる場合には、エチレンオキサイド基とブチレンオキサイド基とが所定量存在しないことになり、乳化剤としたとして用いたときに十分な乳化能が得られなくなる。また、重量平均分子量が大き過ぎる場合には、溶媒中で熱可塑性ポリオレフィンなどを乳化する際に溶媒、特に水やエタノールのような親水性の溶媒に溶けなくなることがある。
【0022】
ビニル単量体(A)はラジカル重合性二重結合を有し、かつエチレンオキサイド基とブチレンオキサイド基とを有し、それらの繰り返し単位数m、nがそれぞれ前記所定量満たすものであれば特に限定されない。通常、入手可能な具体例としては以下のものが挙げると、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリブチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは単独で使用しても組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、ポリエチレングリコールポリブチレングリコール(メタ)アクリレートが好ましい。ビニル単量体(A)として市販で入手可能なものとしては例えば、花王ケミカル社製「ラテムルPD−400」シリーズのラテムルPD−420、ラテムルPD−430、ラテムルPD−450等が挙げられる。
【0023】
ビニル単量体(A)に由来する構造単位は、共重合体全体に対して10〜60重量%含むことが好ましい。また、ビニル単量体(A)に由来する構造単位の含有割合は、15重量%以上が好ましく、50重量%以下がより好ましく、40重量%以下が更に好ましく、30重量%以下が特に好ましい。10重量%未満であると、ビニル単量体(A)を10〜60重量%で用いることにより、乳化剤使用時の耐水性が良好となる。
【0024】
[ビニル単量体(B)]
本発明の乳化剤に用いる共重合体は、下記式(1)で表されるビニル単量体(B)に由来する構造単位を有する。
CH=C(R)−(CO)−N(R)−X−OH ・・・(1)
(上記式(1)中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、Xは炭素数1〜4のアルキレン基である。)
【0025】
上記式(1)中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であるが、水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基が好ましく、水素原子がより好ましい。また、上記式(1)中、Xは炭素数1〜4のアルキレン基であるが、炭素数1〜2のアルキレン基が好ましく、炭素数2のアルキレン基、即ちエチレン基がより好ましい。
【0026】
ビニル単量体(B)としては上記式(1)で表されるものであれば特に制限されないが、具体例としては、N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミド等のN−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド類が挙げられる。これらの中でも乳化性が良好となりやすいことからN−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドが好ましい。
【0027】
本発明の乳化剤を構成する共重合体における、ビニル単量体(B)に由来する構造単位の含有割合は、共重合体全体に対して20重量%以上が好ましく、30重量%以上がより好ましい。30重量%より少ないと、乳化性を悪化する傾向がある。一方、含有割合、60重量%以下が好ましく、45重量%以下がより好ましい。60重量%より多いと、安定した乳化剤が得られ難い傾向がある。
【0028】
[ビニル単量体(C)]
本発明の乳化剤を構成する共重合体は、下記式(2)で表されるビニル単量体(C)に由来する構造単位を有することが好ましい。
CH=C(R)−(CO)−O−R ・・・(2)
(上記式(2)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数1〜22の鎖状のアルキル基、炭素数2〜22のアルケニル基、炭素数3〜22のシクロアルキル基、又は炭素数6〜22のアリール基である。)
【0029】
前記式(2)中、Rは炭素数1〜22の鎖状のアルキル基、炭素数2〜22のアルケニル基、炭素数3〜22のシクロアルキル基、又は炭素数6〜22のアリール基である。炭素数1〜22の鎖状のアルキル基は、炭素数1〜22のものであれば、直鎖状であっても、分岐状であってもよいが直鎖状のアルキル基が好ましい。また、Rは、好ましくは炭素数1〜22の鎖状のアルキル基、炭素数3〜22のシクロアルキル基である。更に、Rが炭素数1〜4の鎖状のアルキル基である場合、ビニル単量体(A)とビニル単量体(B)との間の重合反応性が高められるために特に好ましく、また、炭素数5〜7のシクロアルキル基である場合、乳化剤を構成する共重合体に適度な疎水性の構造部分が導入され、乳化能が高められるために特に好ましい。Rが炭素数1〜4のアルキル基のである場合、メチル基が最も好ましく、Rが炭素数5〜7のシクロアルキル基である場合シクロヘキシル基が最も好ましい。ビニル単量体(B)は1種のみで用いても2種以上を組み合わせてもちいてもよいが、Rが炭素数1〜4の鎖状のアルキル基であるものと、Rが炭素数5〜7のシクロアルキル基であるものとを併用することが、上記のそれぞれの効果が得られるために好ましい。尚、本明細書において、炭素数3〜22のシクロアルキル基とは、シクロアルキル基の水素にアルキル基が置換している場合、当該アルキル基も含めた炭素数で3〜22と定義することとする。
【0030】
ビニル単量体(C)としては、上記式(2)で表されるものであれば特に限定されないが、具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸iso−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸s−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸合成ラウリル(本明細書において、「(メタ)アクリル酸合成ラウリル」は上記式(2)において、Rが、炭素数12のアルキル基と炭素数13のアルキル基との混合物である。)、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ナフチル等が挙げられる。これら中でも、Rが炭素数1〜4のアルキル基であるものとして(メタ)アクリル酸メチルが好ましく、Rが炭素数5〜7のシクロアルキル基であるものとして、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルが好ましい。
【0031】
本発明の乳化剤に用いる共重合体において、ビニル単量体(C)に由来する構造単位は0.1重量%以上40重量%以下含むことが好ましい。また、好ましくは、5重量%以上であり、より好ましくは10重量%以上であり、一方、好ましくは35重量%以下であり、より好ましくは30重量%である。ビニル単量体(C)に由来する構造単位を0.1重量%以上とすることで乳化能が向上するが、40重量%より多くするとビニル単量体(A)及びビニル単量体(B)のそれぞれに由来する構造単位の共重合体全体における割合が低くなることとなり、それぞれの構造単位を導入する効果が得られなくなる。更に、Rが炭素数1〜4であるものと、Rが炭素数5〜7のシクロアルキル基であるものとを併用する場合には、炭素数1〜4のアルキル基であるものが、0.1重量%以上39.9重量%以下であり、好ましくは5重量%以上35重量%以下であり、一方、炭素数5〜7のシクロアルキル基であるものが0.1重量%以上39.9重量%以下であり、好ましくは5重量%以上35重量%以下である。
【0032】
[ビニル単量体(D)]
本発明の乳化剤に用いる共重合体には、分子量72以上300以下の不飽和カルボン酸であるビニル単量体(D)に由来する構造単位を含んでいてもよい。ビニル単量体(D)に由来する構造単位を有することで乳化剤としての乳化能の向上が見込まれる。
【0033】
ビニル単量体(D)の分子量は72以上300以下であるが、好ましくは250以下、より好ましくは200以下、更に好ましくは150以下、特に好ましくは100以下である。ビニル単量体(D)は分子量が大き過ぎると、ビニル単量体(D)に由来する構造単位の部分の疎水性が高まり、乳化能の向上効果が低下するおそれがある。
【0034】
ビニル単量体(D)は分子量72以上300以下の不飽和カルボン酸であれば特に限定されないが、具体例としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、マレイン酸、フマル酸等が挙げられる。ビニル単量体(D)は通常、1価、2価又は3価の不飽和カルボン酸であるが、1価の不飽和カルボン酸が好ましく、1価のカルボン酸の中でも下記式(3)で表される不飽和酸が好ましく、下記式(3)で表されるカルボン酸の中でもRが水素原子である、(メタ)アクリル酸が好ましい。以上で挙げたビニル単量体(D)は、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
CH(R)=C(R)−(CO)−OH ・・・(3)
(R及びRは互いに異なっていてもよく、水素原子又はメチル基である。)
【0035】
また、本発明の乳化剤を構成する共重合体において、ビニル単量体(D)を用いる場合には、ビニル単量体(D)に由来する構造単位の含有割合は、共重合体成分全体の0.1重量%以上が好ましく、5重量%以上がより好ましく、一方、20重量%以下が好ましく、15重量%以下がより好ましい。ビニル単量体(D)を用いることで乳化剤の乳化能向上が見込めるが、20重量%より多いと、耐水性が悪くなるおそれがある。
【0036】
ビニル単量体(D)には、酸性の親水性基であるカルボキシル基を有するが、この酸性の親水性基の少なくとも一部が、塩基性物質によって中和されることが好ましい。ビニル単量体(D)のカルボキシル基の少なくとも一部を中和することにより、乳化剤の水への溶解性が改良され、後述する熱可塑性ポリオレフィンを分散して得られる樹脂分散体の粒子径が小さくなり、水中への分散状態が安定化することができる。
【0037】
ビニル単量体(D)の塩基性物質による中和の程度は使用する塩基性物質の種類又は使用量により制御される。塩基性物質の使用量は、ビニル単量体(D)に対する塩基性物質のモル%で、50モル%以上300モル%以下が好ましい。更に、70モル%以上がより好ましく、100モル%以上が更に好ましく、一方、280モル%以下がより好ましく、250モル%以下が更に好ましい。ビニル単量体(D)に対する塩基性物質の量が50モル%より小さいと、得られる共重合体の水への溶解性が不十分となりやすい。また、300モル%より大きいと、耐水性が不足しやすくなる傾向がある。尚、ビニル単量体(D)が2価又は3価のカルボン酸である場合には、中和され得るカルボン酸の量が2倍又は3倍あることになるので、塩基性物質の使用量も1価のカルボン酸と比べて2倍又は3倍とする必要がある。従って、本明細書においては例えば、2価のカルボン酸に対し、「塩基性物質を200モル%使用する」、と言う場合にはカルボン酸1個当たり200モル%の量として数えることとし、2価のカルボン酸1分子に対しては400モル%の量を使用することを示すこととする。
【0038】
塩基性物質としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア、アルキルアミン類、アルカノールアミン類、モルホリン等の塩基性物質が挙げられる。アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム等が挙げられ、アルキルアミン類としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン等が挙げられ、アルカノールアミン類としては、2−アミノ−2−メチルプロパノール等が挙げられる。これらの中でも、低温乾燥時に揮発性を有するアンモニアは、得られる皮膜の耐水性を向上させるために好ましい。
【0039】
中和反応は、上記共重合体と塩基性化合物を、20〜100℃で0.1〜3時間反応させることにより行うことができる。また、予め、ビニル単量体(D)を塩基性化合物で中和しておいて、共重合に用いてもよい。即ち、本明細書において、ビニル単量体(D)に由来する構造単位とは、ビニル単量体(D)を予め中和させているものを共重合させた構造単位と、ビニル単量体(D)を共重合させた後で中和させた構造単位との両方を含む表現として用いるものである。
【0040】
[その他のビニル単量体]
本発明の乳化剤にかかる共重合体は、本発明の効果を著しく阻害しない限り、ビニル単量体(A)〜(D)以外に、その他のビニル単量体を用いることができる。その他のビニル単量体に由来する構造単位の含有量は、10重量%以下、好ましくは5重量%以下である。
【0041】
その他のビニル単量体としては、例えば、N−(メタ)アクリロイルオキシエチル−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロライド、N−[3−{N’−(メタ)アクリロイルオキシエチル−N’,N’−ジエチルアンモニウム}−2−ヒドロキシプロピル]−N,N,N−トリエチルアンモニウムクロライド等のカチオン性基を有する(メタ)アクリル酸エステル類、N−(メタ)アクリロイルアミノプロピル−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロライド、N−[3−{N’−(メタ)アクリロイルアミノプロピル−N’,N’−ジエチルアンモニウム}−2−ヒドロキシプロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロライド等のカチオン性基を有する(メタ)アクリルアミド類、N,N−ジメチル−N,N−ジアリルアンモニウムクロライド等のジアリル系4級アンモニウム塩、L−アルギニンとグリシジルメタクリレートの反応物等のアミノ酸系のカチオン性単量体、ベタイン基含有(メタ)アクリルエステル、ベタイン基含有(メタ)アクリルアミド等の両性単量体、アミンオキシド基含有(メタ)アクリルエステル、アミンオキシド基含有(メタ)アクリルアミド等の半極性単量体、酢酸ビニル、ビニルアルコール、ビニルアルコールのアルキルエーテル、スチレン、α−アルキルスチレン、ブタジエン、イソプレン、プロペン、塩化ビニル、アクリルロニトリル、二重結合を複数有する多官能(メタ)アクリレート等が例示できる。これらは1種のみで用いても、2種以上を併用してもよい。
【0042】
[共重合体の製造方法]
本発明にかかる乳化剤を構成する共重合体は、下記の方法で製造することができる。まず、原料となる各ビニル単量体を所定の混合比率でそれぞれ秤量する。次に、重合器に各成分を別々に入れて重合するか、又は各単量体をあらかじめ混合した上で重合器に入れて重合する。これにより、共重合体を製造することができる。
【0043】
重合反応は、上記各単量体を重合開始剤の存在下に0〜180℃、好ましくは40〜120℃で0.5〜20時間、好ましくは2〜10時間の条件下で行われる。この共重合はエタノール、イソプロパノール、セロソルブ等の親水性溶媒や水の存在下で行うのが好ましい。
【0044】
上記重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩からなる開始剤、上記過硫酸塩に亜硫酸塩、チオ硫酸塩の還元剤等を併用したレドックス系開始剤、ラウロイルペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド等の有機過酸化物、あるいはこれらと鉄(II)塩、亜硫酸塩、チオ硫酸塩の還元剤等を併用したレドックス系開始剤、2,2′−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2′−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2′−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2′−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロライド等のアゾ系化合物、t−ブチルパーオキシイソブチレート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキセン、t−ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられる。この重合開始剤の使用量は、使用されるビニル単量体全量に対して、0.01〜10重量%が好ましい。
【0045】
更に、熱流動特性を改良するために、連鎖移動剤等を用いて分子量を低減することも可能である。その際には、重合度調節のため、公知の連鎖移動剤であるメルカプタン類、メチルアルコール等の低級アルコールを使用することができる。
【0046】
本発明にかかる共重合体は、熱可塑性ポリオレフィンの乳化剤として用いることができ、乳化した樹脂分散体を造膜したとき、低温造膜性、透明性、及び表面平滑性が良好な乾燥皮膜を得やすくなる。また、2種類以上の高分子物質の混練において、相溶化剤として使用することもできる。
【0047】
<樹脂分散体>
本発明の乳化剤は以下に詳述する熱可塑性樹脂の樹脂分散体に用いることができる。本明細書において「分散」とは、分散粒子が極めて小さく単分子で分散している状態、実質的には溶解と言えるような状態を含む概念である。従って、分散粒子径の下限値については特に制限はなく、分散粒子径は小さいほど良い。
【0048】
樹脂分散体の分散粒子径は、50%体積平均粒子径(以下、50%平均粒子径と称することがある。)で10.0μm以下であれば、良好に乳化していると言える。本発明の樹脂分散体の50%体積平均粒子径は、好ましくは8.0μm以下であり、より好ましくは6.5μm以下であり、更に好ましくは3.0μm以下であり、特に好ましくは1.5μ以下である。分散粒子径を小さくすることで、分散安定性を向上させ、凝集が起きにくく、より安定に分散できる。分散粒子径を小さくするためには、本発明の乳化剤に用いるビニル単量体(A)として、分子量の低いものを用いたり、ビニル単量体(C)に由来する構造単位を導入したりすればよい。
【0049】
[熱可塑性ポリオレフィン]
本明細書において、「熱可塑性ポリオレフィン」とは、加熱することにより熱可塑性を示すポリオレフィンを総称して用いる語であり、その種類は特に制限されるものではないが、好ましくは炭素数2〜10のポリオレフィンの単独重合体、またはそれらの共重合体である。本明細書において、「プロピレン系重合体」という語を用いる場合、プロピレンの単独重合体、またはプロピレンとプロピレン以外のポリオレフィンとの共重合体であって、全ポリオレフィン成分のうち、プロピレン成分が最も多いものを意味することとする。エチレン系重合体、ブテン系重合体等のプロピレン系重合体以外の熱可塑性ポリオレフィンについてもプロピレン系重合体という語と同様に定義することとする。
【0050】
本発明の樹脂分散体に用いられる熱可塑性ポリオレフィンの重量平均分子量は特に制限されないが、通常、5,000〜200,000である。熱可塑性ポリオレフィンの重量平均分子量は、好ましくは10,000以上であり、より好ましくは15,000以上であり、一方、好ましくは100,000以下であり、より好ましくは80,000以下である。
【0051】
本発明の乳化剤と共に用いられる熱可塑性ポリオレフィンとしては、前述の通り、炭素数2〜10のポリオレフィンの単独重合体、またはその共重合体が好ましく、好ましくはエチレン、プロピレン、ブテンを用いた炭素数2〜4のポリオレフィンを含む、単独重合体、またはその共重合体であり、更に好ましくはエチレン系重合体、プロピレン系重合体、ブテン系重合体であり、特に好ましいのはプロピレン系重合体である。
【0052】
本発明の熱可塑性ポリオレフィンは、ポリオレフィン以外の成分を共重合したものやグラフト重合したものであってもよい。例えば、カルボン酸基、スルホン酸基等がグラフト重合した酸変性ポリオレフィン、塩素化ポリオレフィン、アクリル酸変性ポリオレフィン、酢酸ビニルと共重合したポリオレフィン等が挙げられる。
【0053】
本発明の乳化剤を用いた樹脂分散体において、熱可塑性ポリオレフィン100重量部に対する乳化剤の使用量は、通常40重量部以下であり、好ましくは30重量部以下、より好ましくは20重量部以下であり、一方、熱可塑性ポリオレフィン100重量部に対して乳化剤の使用量は10重量部以上が好ましい。40重量部より多いと塗膜時にブリードアウトしてしまい、耐水性が得られ難いことがある。また、10重量部未満であると樹脂分散体の安定性が得られにくくなることがある。
【0054】
[プロピレン系重合体]
プロピレン系重合体は前述の通り、プロピレンの単独重合体、またはプロピレンとプロピレン以外のポリオレフィンとの共重合体であって、全ポリオレフィン成分のうち、プロピレン成分が最も多いものを意味するが、好ましくは全ポリオレフィン成分のうち、プロピレン含量が50モル%以上のものである。プロピレン含量は60モル%以上がより好ましく、70モル%以上が更に好ましい。プロピレン含量が50モル%以上であると、プロピレン基材との密着性が良好な樹脂分散体が得られる。
【0055】
プロピレン系重合体がプロピレンとプロピレン以外のポリオレフィンとの共重合体である場合、プロピレン以外のポリオレフィンとしては炭素数2〜10のポリオレフィン(但し、プロピレンを除く。)が好ましく、炭素数2〜5のポリオレフィン(但し、プロピレンを除く。)がより好ましく、炭素数2〜4のポリオレフィン(但し、プロピレンを除く。)、即ち、エチレン、ブテンが特に好ましい。以上で挙げた炭素数2〜10のポリオレフィン(但し、プロピレンは除く。)は1種のみでプロピレンと共重合したものであっても、2種以上を組み合わせてプロピレンと共重合したものであってもよい。
【0056】
[樹脂分散体の製造方法]
本発明の乳化剤により熱可塑剤樹脂分散体を製造する場合、その製造方法は特に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂に水以外の溶媒を加え、必要に応じ加熱して溶解させた後に水を添加して分散体とする方法、熱可塑性樹脂が溶融する温度以上で溶融させた後に水を添加して分散体とする方法、等が挙げられる。製造効率から好ましくは後者である。
【0057】
溶媒溶解状態及び溶融状態にしたのち、水を添加し水分散体を製造する装置としては、特に限定されないが、例えば、撹拌装置付き反応器が使用できる。撹拌器付きの反応器の容積は通常50mL〜15mのものを用いることができる。その際の攪拌速度は装置の選択に伴い多少異なるが、容積が50mL〜15mのものであれば、通常、10〜1000rpmの範囲である。本発明の乳化剤は水への分散性に優れるので、本発明の樹脂分散体では樹脂分散体中の樹脂が安定に分散している利点がある。従って本発明の樹脂分散体を用いると優れた外観の塗布品が得られる。
【0058】
また、熱可塑性樹脂分散体を製造する方法としては、溶融した熱可塑性樹脂を、上記乳化剤又はその中和物を含有する水中に添加し、ホモミキサーにより均一に撹拌する方法があげられる。最も好ましい態様は、スクリューを2本以上ケーシング内に有する多軸押出機を用い、この多軸押出機のホッパー、あるいは中途供給口より、ポリオレフィン系樹脂を連続的に供給し、これを加熱溶融混練し、さらに、この多軸押出機の圧縮ゾーン、計量ゾーン、脱気ゾーンに設けられた少なくとも1個の供給口より、上記乳化剤又はその中和物を含む水溶液を加圧供給し、これと上記溶融の熱可塑性樹脂とをスクリューで混練することにより、ダイから、連続的に樹脂分散体を押出製造することができる。
【0059】
上記の水の使用量は、得られる樹脂分散体の固形分濃度が20〜65重量%となるように用いるのが好ましい。固形分の量が少ないほど得られる粘度が低く種々の塗布方法に適用でき使用しやすく、また分散体としての安定性も高い傾向にある。但し、例えばプライマーや接着剤として使用する際に、塗布後の水の乾燥にあまり多量のエネルギーと時間をかけないためには固形分が多い方が好ましい。
【0060】
また、本発明の樹脂分散体において安定性を損ねない限り、水以外の溶剤が含まれても良い。なかでも水に1重量%以上溶解する溶媒が好ましく、さらに好ましくは5重量%以上溶解するものであり、例えば、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、シクロヘキサノン、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、シクロヘキサノール、テトラヒドロフラン、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−メトキシプロパノール、2−エトキシプロパノール、ジアセトンアルコールが好ましい。
【0061】
[樹脂分散体のその他の成分]
本発明の乳化剤は、熱可塑性ポリオレフィンと共に、その他の熱可塑性樹脂を用いることができる。その他の熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂等が挙げられる。
【0062】
本発明の熱可塑性樹脂分散体の製造では、他の目的、用途等に応じて必要により、本発明の乳化剤と組み合わせて他の界面活性剤を含有させてもよい。界面活性剤としては、例えばアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、反応性界面活性剤などを使用することができる。ここで使用できる界面活性剤の具体例は以下の通りである。
【0063】
アニオン性界面活性剤としては、例えばドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、スルホコハク酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリル硫酸エーテルナトリウム等が挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、例えば塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウ等が挙げられる。両性界面活性剤としては、例えばラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等が挙げられる。
【0064】
本発明の乳化剤を用いた樹脂分散体は、その乾燥皮膜時の強度や耐水性、耐熱性、耐薬品性を向上させるために、必要に応じて架橋剤を使用することができる。使用可能な架橋剤として特に定めはないが、2官能以上の官能基を有する化合物があげられる。具体的には、多官能エポキシ、多官能イソシアネート、多官能アミン、多官能オキサゾリンなどがあげられる。
【0065】
[樹脂分散体の用途]
従来、プロピレン重合体に代表される熱可塑性ポリオレフィンは、有機溶剤に溶解させて用いられたものであり、ポリオレフィン系樹脂用の塗料もしくは接着剤などとして効果が高かったものである。しかしながら、水や水と親水性溶媒との混合溶媒に対して樹脂分散体とするのが困難な物質であったが、本発明の乳化剤を用いることにより、脱溶剤化が可能となり、環境負荷の懸念の小さい、塗料や接着剤を製造することが可能となる。また、高温安定性に優れることから、溶融粘度の高い熱可塑性樹脂でも高温化での乳化により樹脂分散体を製造することが可能となる。
【0066】
本発明の乳化剤を用いた性樹脂分散体は、用いる熱可塑性ポリオレフィン等の熱可塑性樹脂の種類にもよるが、塗料、粘着剤、インクのバインダー、接着剤、改質剤として使用することができる。また、本発明の乳化剤を用いた樹脂分散体は耐水性に優れ、塩素などのハロゲンを含有する必要がないため環境負荷の懸念を低減することができる。従って本発明の乳化剤を用いた樹脂分散体は、自動車、家電、建材など各種工業部品に用いることができ、特に、薄肉化、高機能化、大型化された部品・材料として実用に十分な性能を有している。例えば、バンパー、インストルメントパネル、トリム、ガーニッシュなどの自動車部品、テレビケース、洗濯機槽、冷蔵庫部品、エアコン部品、掃除機部品などの家電機器部品、便座、便座蓋、水タンクなどのトイレタリー部品、浴槽、浴室の壁、天井、排水パンなどの浴室周りの部品などの各種工業部品用成形材料として用いることができる。
【実施例】
【0067】
本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に制限されるものではない。また、下記の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限または下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限または下限の値と下記実施例の値または実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。尚、以下で単に「部」と書いた場合は「重量部」を指す。
【0068】
<物性測定方法及び評価方法>
1)ビニル単量体(A)の1H NMR測定
ビニル単量体(A)(実施例1のラテムルPD−420)の試料1mgを重クロロホルム1mlへ溶解させ、1H NMR測定を行った。4.8ppmのピークをラジカル重合性二重結合を形成する炭素原子として帰属し、そのプロトン数と、エチレンオキサイド基のプロトン数及びブチレンオキサイド基のプロトン数のそれぞれとの比を取ることで繰り返し単位数m、nを求めた。エチレンオキサイド基は3.7ppm付近のピークをエチレンオキサイド基のプロトンとして帰属し、このプロトン数から、エチレンオキサイド基の繰り返し単位数mを算出した。ブチレンオキサイド基は3.5ppm付近及び1.6ppm付近のそれぞれのピークのプロトンをブチレンオキサイド基のプロトンとして帰属し、これらのプロトン数からブチレンオキサイド基の繰り返し単位数nを算出した。従って、PD−420は、ラジカル重合性の二重結合を有し、mが15、nが4であった(m/nの比は15/4であった。)。
【0069】
2)樹脂分散体の分散粒子径
日機装(株)社製マイクロトラック UPA(モデル9340 バッチ型 動的光散乱法/レーザードップラー法)を用いて測定した。分散体の密度を0.9g/cm3、粒子形状を真球形、粒子の屈折率を1.50、分散媒を水、分散媒の屈折率を1.33として、測定時間120秒にて測定し、体積換算として粒径が細かい方から累積で50%粒子径と90%粒子径を求めた。50%粒子径が10.0μm以下であれば、樹脂分散体の分散状態は良好である。
【0070】
3)耐水性試験
実施例1と比較例1で得られた樹脂分散体をCPPフィルム(膜厚65μm)のコロナ処理面にアプリケーターにて膜厚50μmになるように塗布し、熱風乾燥機で100℃×20分間乾燥し、重量(重量A)を測定した。これを恒温恒湿機で40℃の温水へ24時間浸し、減圧乾燥機で80℃×30分間乾燥し、重量(重量B)を測定した。
重量変化は下記式(4)により算出した。
重量変化(%)=[{(重量B)−(重量A)}/(重量A)]×100 ・・・(4)
【0071】
<乳化剤及び樹脂分散体の製造>
[実施例1]
(乳化剤1の製造)
冷却管、窒素導入管、攪拌機及び滴下ロートを装置した1Lガラスフラスコに、エタノール150gを仕込み、ヒドロキシエチルアクリルアミド((株)興人製)を40g、ラテムルPD−420(花王(株)製)を40g、メタクリル酸メチルを10g、メタクリル酸シクロヘキシルを10g投入した。反応容器を窒素置換後、さらに、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル(大塚化学(株)製、以下「AIBN」と略する。)を0.6g添加し、重合を開始した。内温80℃に達してから2時間後にAIBN0.3gを添加した。さらに、2時間熟成した。内温80から83℃まで上昇し、エタノールを留去しながら水を添加して置換し、最終的に粘ちょうな乳化剤1を得た。
【0072】
(樹脂分散体1の製造)
冷却管、窒素導入管、攪拌機を装置した500mlガラスフラスコにメタロセン触媒によって重合されたプロピレン− エチレン共重合体(クラリアントジャパン社製リコセン1602(プロピレンの含有率90mol%、ポリスチレン換算での重量平均分子量40,000、融点70℃))50g仕込み、110℃溶融させ、乳化剤1を25g投入し、5分間混合し、さらにイオン交換水55gを投入し10分間混合し、得られた乳白色の樹脂分散体1を得た。
【0073】
[比較例1]
(乳化剤2の製造)
冷却管、窒素導入管、攪拌機及び滴下ロートを装置した1Lガラスフラスコに、エタノール150gを仕込み、アクリル酸を7.5g、メタクリル酸を22.5g、メタクリル酸メチルを60g、メタクリル酸合成ラウリルを10g投入した。反応容器を窒素置換後、さらに、重合開始剤として2,2′−アゾビスイソブチロニトリル(大塚化学(株)製、以下「AIBN」と略する。)を0.6g添加し、重合を開始した。内温80℃に達してから2時間後にAIBN0.3gを添加した。さらに、2時間熟成した。内温80から83℃まで上昇し、エタノールを留去しながら水を添加して置換し、25%のアンモニア水50g(アクリル酸のモル数と、メタクリル酸数との合計に対して200モル%に相当)により中和した後、最終的に粘ちょうな乳化剤2を得た。
【0074】
(樹脂分散体2の製造)
乳化剤1の代わりに乳化剤2を用いた以外は樹脂分散体1の製造と同様にして乳白色の樹脂分散体2を得た。
【0075】
【表1】

【0076】
<結果の評価>
実施例1と比較例1の樹脂分散体は共に良好な分散状態であった。しかしながら、耐水性試験の結果ではビニル単量体(A)であるラテムルPD−420を用いた実施例1は、ビニル単量体(A)を用いなかった比較例2と比べて重量変化の差が小さく、耐水性が非常に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の乳化剤はアニオン成分を低減しても乳化能を維持し、さらに、乳化剤使用時の乾燥皮膜において耐水性に優れたものである。また、本発明の乳化剤は熱可塑性ポリオレフィンと共に用いて接着剤等に有用な樹脂分散体を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンオキサイド基及びブチレンオキサイド基を有し、エチレンオキサイド基の繰り返し単位数mが10以上65以下、ブチレンオキサイド基の繰り返し単位数nが1以上8以下であり、かつラジカル重合性二重結合を有するビニル単量体(A)に由来する構造単位と、下記式(1)で表されるビニル単量体(B)に由来する構造単位とを含む共重合体からなる乳化剤。
CH=C(R)−(CO)−N(R)−X−OH ・・・(1)
(上記式(1)中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、Xは炭素数1〜4のアルキレン基である。)
【請求項2】
前記共重合体全体に対して、前記ビニル単量体(A)に由来する構造単位を10〜60重量%を含み、かつ、前記ビニル単量体(B)に由来する構造単位を20〜60重量%含む、請求項1に記載の乳化剤。
【請求項3】
前記共重合体全体に対して、下記式(2)で表されるビニル単量体(C)に由来する構造単位を0.1〜40重量%含む、 請求項1又は2に記載の乳化剤。
CH=C(R)−(CO)−O−R ・・・(2)
(上記式(2)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数1〜22の鎖状のアルキル基、炭素数2〜22のアルケニル基、炭素数3〜22のシクロアルキル基、又は炭素数6〜22のアリール基である。)
【請求項4】
前記共重合体全体に対して、前記式(2)において、Rが炭素数1〜4のアルキル基であるものに由来する構造単位を0.1重量%以上39.9重量%以下含み、かつRが炭素数5〜7のシクロアルキル基であるものに由来する構造単位を0.1重量%以上39.9重量%以下含む、請求項3に記載の乳化剤。
【請求項5】
前記共重合体全体に対して、分子量72〜300の不飽和カルボン酸であるビニル単量体(D)に由来する構造単位を0.1〜20重量%含む、請求項1から4までのいずれか1項に記載の乳化剤。
【請求項6】
塩基性物質を前記ビニル単量体(D)に対して50〜300モル%含む、請求項5に記載の乳化剤。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の乳化剤と熱可塑性ポリオレフィンとからなる、樹脂分散体。
【請求項8】
前記熱可塑性ポリオレフィン100重量部に対して、請求項1から6までのいずれか1項に記載の乳化剤0.1重量部以上40重量部以下を含む、請求項7に記載の樹脂分散体。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の樹脂分散体からなる、接着剤。

【公開番号】特開2012−206031(P2012−206031A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74365(P2011−74365)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】