説明

乳化剤

【課題】安全性が高く、耐熱安定性及び長時間の安定性に優れ、低コストの乳化剤を提供することを課題とする。
【解決手段】酒粕由来の成分を有効成分として含有することを特徴とする乳化剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な乳化剤に関する。さらに詳しくは、水と油脂の混合物である乳化物を製造する際に助剤として用いられる乳化剤、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乳化剤は、現代生活には欠かせない物質として、様々な日用製品や食品で使用されるとともに、工業生産過程でも使用されている。洗剤や化粧品などの日用品に使用される乳化剤としては、有機合成的に得られるアルキル硫酸塩やポリオキシエチレン系の低分子量の合成乳化剤が利用されてきたが、これらは環境中での残留による汚染問題や皮膚刺激等の安全性への危惧が指摘されている。
【0003】
食品に適用される乳化剤としては、シュガーエステル等の合成乳化剤が使用されるが、安全面から、一般消費者は天然物を望んでおり、例えば、天然乳化剤として、カゼイン等の蛋白質、レシチン等の脂質、あるいはアラビアガムのような植物多糖が利用されている。しかしながら、これらは、乳化性は高いものの、溶液の粘性が低いために長時間放置すると水相と油相が分離してしまうという欠点があった。この問題を解決するために乳化剤を多量に添加するか、あるいはキサンタン等の増粘剤との併用による安定化が必要となり、経済上あるいは製造上の課題を有していた。また、アラビアガムは植物由来であるため、その生産量が気候等に左右されやすく、安定的に供給することが難しいという課題もあった。
【0004】
化粧品に用いられる乳化剤は、脂溶性色素等の脂溶性成分を肌になじませる為、また、化粧品内でこれらを均一に分散させる為等に用いられる。この場合、化学合成乳化剤が多く使用されており、直接肌に塗布し、長期間にわたり使用する場合は、皮膚刺激性が高い等の問題から様々な障害を生じる可能性が指摘されていた。このことから化粧品用途においても肌にやさしい安全性の高い乳化剤が求められていた。
【0005】
安価で環境負荷が少なく、安全性が高く、かつ乳化性能の高い天然由来の乳化剤として、微生物由来の乳化剤、いわゆるバイオサーファクタントと称される乳化剤が開発されてきている。このバイオサーファクタントは生物毒性や環境残留性がなく、培養によって大量生産が可能であるという長所を有しており、ラムノリピッド(非特許文献1)やソフォロリピド(非特許文献2)など、いくつかのバイオサーファクタントは、生産性を上げて既に実用化されている。しかしながら、これらのバイオサーファクタントの生産菌は、土壌をはじめとする環境中より分離された菌であるため、実際に人間の食経験があるかどうかは不明で、真に安全であるとは言いがたい。
【0006】
安全な乳化剤の一例として、日本酒製造時及びパン製造時に使用される食用酵母の培養上清中の水溶性成分を乳化剤として使用することが知られている(特許文献1)。しかし、特許文献1では研究用のYM培地で食用酵母が培養されており、この研究用培地に含まれる成分の食経験は不明である。
【0007】
一方で、日本酒製造時の副生産物である酒粕は、奈良漬などの漬物、甘酒、粕取り焼酎などの食品素材として使用されているにとどまり、有効利用されているとは言い難い。また、近年の食生活の変化によりこのような食品素材としての消費量も減少しており、酒粕、特に液化酒粕の有効利用法の開発が急務となっている。その一例として、化粧料用素材としての酒粕醗酵エキスが開発され、実用化されているが(特許文献2、3)、この醗酵エキスは酒粕の再発酵や有効成分を分離する必要があり、より簡便な酒粕の有効利用が求められている。
【0008】
酒粕に由来する成分を含む乳化剤が開発されている(特許文献4)。この乳化剤は、酒粕に含まれる有機溶媒可溶性成分を有効成分としており、抽出は酸性条件において常温で行われている。しかし、抽出条件による影響のためか、その乳化作用は不十分であった。
【0009】
一方、食品の製造工程においては、缶詰などの食品に乳化剤を添加した後、加熱処理を行う場合、加熱により乳化性が損なわれ、脂溶性天然物が表面に浮上し、クリーミング現象が発生するという問題点があった。この問題を解決するために、ショ糖縮合リシノール酸エステルとアルコールを用いて耐熱性乳化剤の開発が試みられている(特許文献5)。しかし、前記の先行技術でも、缶コーヒーのレトルト処理(一般的には125℃、20分)等のように加熱条件が厳しい場合には、乳化作用が損なわれ、クリーミング現象が発生していた。また、従来の乳化剤は総じて食品の味の低下を招き、また強酸性下では乳化性能が不足していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−216218号公報
【特許文献2】特開平10−130121号公報
【特許文献3】特開2004−137235号公報
【特許文献4】特開2000−157259号公報
【特許文献5】特開平4−299940号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】M.Benincasa et al., 2002. J.Food Eng. 54:283−288
【非特許文献2】M.Deshpande and L.Daniels, 1995. Bioresour.Technol. 53:143−150
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の問題を解決し、食経験のある酒粕から、安価で安全性が高いだけでなく、乳化性と安定性にも優れた新規な乳化剤、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、酒粕の抽出液を脂溶性物質の溶液に添加したところ、脂溶性物質を均質化(乳化)することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、酒粕由来の成分を有効成分として含有することを特徴とする乳化剤に関する。
【0015】
酒粕由来の成分は、酒粕の、中性またはアルカリ性の水または水溶性溶媒の抽出物であることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、酒粕を水または水溶性溶媒で抽出する工程を含む乳化剤の製造方法に関する。
【0017】
また、本発明は、前記乳化剤と脂溶性物質を混合する工程を含む乳化物の製造方法に関する。
【0018】
また、本発明は、前記乳化剤と脂溶性物質を含有する乳化物に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、食経験があり、日本酒を製造する際の副産物である酒粕由来の有効成分を使用するので、人体に対する安全性が極めて高く、食品及び化粧品に好適に使用可能であるとともに、経済性が高く、資源の有効利用及び環境保護の点からも好ましいものである。さらに、本発明の乳化剤は、耐熱安定性が高く、長時間に渡って乳化状態を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例8の結果をAに示し、比較例5の結果をBに示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の乳化剤は、酒粕由来の成分を有効成分として含有する。ここで、酒粕とは、酒の製造工程において、発酵後のもろみを搾った固形の残渣である。もろみが発酵するまでには、原材料である米に、麹(こうじ)菌、酵母、及び乳酸菌が加えられているので、酒粕には、酵母以外に、米、麹菌、及び乳酸菌などが含まれるだけでなく、これらの微生物が産生する多くの代謝産物も含まれている。酒粕に含まれる微生物の中で、酵母がブドウ糖をアルコールに変える発酵作用を担っている。酒の製造に使用される酵母としては、アルコールを醸成する能力を有するものであれば特に限定されないが、例えば、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属、キャンディダ(Candida)属、クリベロマイセス(Kluyveromyces)属、及び、チゴサッカロマイセス(Zygosaccharomycesrouxii)属に属するものが挙げられる。
サッカロマイセス属の酵母としては、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)、サッカロマイセス・マンジニ(Saccharomyces mangini)、及び、サッカロマイセス・バヤヌス(Saccharomyces bayanus)が挙げられ、シゾサッカロマイセス属の酵母としては、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)が挙げられ、キャンディダ属としては、キャンディダ・ユチリス(Candida utilis)が挙げられ、クリベロマイセス属としてはクリベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、クリベロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)が挙げられ、チゴサッカロマイセス属としては、チゴサッカロマイセス・ルキシ(Zygosaccharomyces rouxii)が挙げられる。
【0022】
本発明において用いられる酒粕としては、例えば普通酒、本醸造酒、吟醸酒、大吟醸酒からの醸造過程で副生する酒粕や、これらの酒粕の乾燥品を用いることができる。酒粕の形状としては液体又は固体のいずれも使用可能であり、特に限定されることはない。普通酒等の醸造で副生される液化仕込み由来の酒粕は、糖分以外の成分が濃縮されているため製造工程で扱いやすいので、好適に使用できる。酒粕は、日本酒の酒粕に限定されず、芋、麦、黒糖等を原料として焼酎を製造する際の副産物である酒粕も用いることもできる。
【0023】
また、酒粕を食用酵母で再発酵したものは、有効成分の含量が高められているので、本発明の乳化剤の原料として好適に使用することができる。食用酵母としては、例えば、パン生地の発酵に用いられるパン酵母、ワイン醸造に用いられるワイン酵母、清酒醸造に用いられる清酒酵母、ビール醸造に用いられるビール酵母、焼酎醸造に用いられる焼酎酵母、みりん醸造に用いられるみりん酵母等が挙げられる。これらの食用酵母としては、その培養が容易であり、また栄養源として安価な材料より生育できる点から、キャンディダ(Candida)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属中の食用酵母が好ましく用いられ、具体的には、Candida sake、Saccharomyces sake、Saccharomyces cerevisiae等がより好ましく用いられる。これらの食用酵母のうち、乳化作用をもつ物質を大量に生産することから、例えば、Candida sake NBRC1213、Candida sake NBRC0435、Saccharomyces sake協会10号等の醸造用酵母;Saccharomyces cerevisiae NBRC0538、Saccharomyces cerevisiae NBRC0853、Saccharomyces cerevisiae ATCC9018等のパン酵母が、さらに好ましく用いられる。また、Candida sake NBRC1213、Saccharomyces sake協会10号が、特に好ましく用いられる。Candida sake NBRC1213、Candida sake NBRC0435、Saccharomyces cerevisiae NBRC0538、Saccharomyces cerevisiae NBRC0853は、NBRC(独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部生物遺伝資源部門)より入手可能である。また、Saccharomyces sake協会10号は、財団法人日本醸造協会より入手可能である。さらに、Saccharomyces cerevisiae ATCC9018は、ATCC(The American Type Culture Collection)より入手可能である。また、当該食用酵母は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
食用酵母をYM培地などで培養した後に、培地から有効成分を抽出する方法では、食経験のない培地からも有効成分が抽出される可能性があるが、酒粕であれば、食経験があり、大きな問題はない。
【0025】
また、上述のように、酒粕には食用酵母の他に麹菌や乳酸菌が含まれるが、本発明の乳化剤における有効成分は、食用酵母に由来するものに限定されず、麹菌、又は乳酸菌に由来するものであってもよい。或いは、食用酵母、麹菌、及び乳酸菌に由来する有効成分が混合したものであってもよい。
【0026】
本発明で使用する酒粕由来の有効成分は、乳化力を有する有効成分を酒粕より抽出および回収することで得られる。具体的には、酒粕を水又は水溶性溶媒の抽出溶媒に懸濁し、常温または加熱して抽出した後、分離して得ることができる。
【0027】
酒粕の抽出溶媒としては、水又は水溶性溶媒を使用する。水溶性溶媒としては、エタノール、メタノール、アセトンなどが挙げられ、食品用途でも使用可能なエタノールが好ましい。中でも、安全性が高く、他の成分への影響が少なく扱いやすい、食品添加時に風味・食感を損なわないなどの点で、水が好ましい。水と水溶性溶媒の混合溶媒を抽出溶媒として使用することもできる。水の含有割合は、20重量%より多いことが好ましく、50重量%以上がより好ましく、80重量%以上がさらに好ましい。
【0028】
抽出溶媒のpHは、酒粕由来の有効成分が抽出できるpHであれば特に制限はないが、中性域からアルカリ性域が好ましい。抽出溶媒のpHはpH7.0以上であることが好ましく、pH8.0以上であることがより好ましく、pH9.0以上であることがさらに好ましい。pH5.0以下の場合、乳化活性が低下するという傾向がある。
【0029】
なお、アルカリ性の抽出溶媒を用いた際、抽出後に酸性液で中和しても良い。その際に用いる酸性液に制限はないが、例えば、クエン酸、酢酸、塩酸、硫酸、酒石酸、リン酸、乳酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、アジピン酸などが挙げられる。
【0030】
酒粕に対する水又は水溶性溶媒の量は、酒粕が懸濁される最低量以上であれば制限はないが、酒粕の固体換算で、下限は酒粕重量比の0.1以上、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.5以上である。上限は、酒粕重量比の10以下、好ましくは5以下である。0.1未満では、酒粕を均一にすることができず、十分な抽出が不可能となり、10を超えると、濃縮操作が煩雑となる傾向がある。
【0031】
上記水又は溶媒を添加後、常温でまたは加熱により抽出することができる。また、あらかじめ加温した水又は水溶性溶媒を酒粕に添加してもよい。抽出に際しては、乳化成分を効率よく抽出するために、懸濁液を攪拌することが好ましい。
【0032】
抽出時の温度の下限は、25℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、60℃以上がさらに好ましい。一方、抽出時の温度の上限は、特に限定されず、加圧下で100℃以上の温度で行ってもよい。室温以下で抽出した場合、抽出効率が悪くなる傾向がある。
【0033】
抽出時間には特に制限はないが、30分以上が好ましく、60分以上であることがより好ましい。30分未満では、抽出効率が悪くなる傾向がある。
【0034】
抽出後、自然沈降、ろ過及び/または遠心分離等により固形の抽出残渣を除去し、抽出液を回収する。自然沈降、ろ過、及び遠心分離の条件は特に限定されず、固形の抽出残渣を除去できる条件であればよい。この際、この固形の抽出残渣に対してさらに上記の抽出操作を1回以上繰り返すことにより、より効率よく乳化成分を回収することができる。さらに、イオン交換カラム、アフィニティーカラム等の親和性による分画、または限外ろ過、ゲルろ過カラム等の分子量による分画によって、乳化成分を濃縮することができる。
【0035】
分子量による分画を行う場合、カットオフ値はMW10,000以上とすることが好ましく、50,000以上がより好ましい。10,000未満では、分画に非常に時間を要し、大量に処理する場合の操作性が悪くなる傾向がある。
【0036】
本発明の乳化剤は、上記方法で得られた抽出物をそのまま使用してもよく、これをさらに処理加工して用いてもよい。例えば、さらに濃縮または希釈してもよく、凍結乾燥、加熱乾燥、ドラム乾燥等の乾燥処理に付して使用してもよく、さらに固形分を水などで抽出して用いてもよい。
【0037】
本発明の乳化剤には、その性能を損なわない範囲で、種々の添加剤を添加することもできる。添加剤としては、乳化剤の剤型を保つための基材や、乳化成分保護のための安定化剤、実際の使用を容易とするための水等の液体、酸化防止剤、防腐剤、化粧用活性剤、加湿剤、スフィンゴ脂質、脂溶性ポリマー等が挙げられる。さらに、本発明の乳化剤に加えて、既存の他の乳化剤を併用することもできる。添加剤や、既存の乳化剤の添加量は特に限定されるものではなく、その用途に応じて適宜決めることができる。
【0038】
本発明の乳化剤の剤型としては、特に限定されず、例えば、溶液、懸濁液、半固体(例えば、ペースト状)、固体(例えば、粉末、顆粒)等であってもよい。
【0039】
酒粕由来の有効成分は、平均分子量は10万以上が好ましく、20万以上がより好ましい。10万未満の成分では乳化作用が減少する傾向がある。ここで、平均分子量は、例えば、レーザー散乱計、ゲルろ過等の公知の方法により求めることができる。ゲルろ過による方法は、得られた抽出物を、ゲルろ過の担体(Sephacryl S−400、アマシャムバイオサイエンス社製、φ10mm×長さ100cm)に供し、標準高分子キット(東ソー社製)を用いて分子量検量線により算出することができる。
【0040】
本発明の乳化物の製造方法は、前記乳化剤と、脂溶性物質を混合する工程を含む。
【0041】
本発明で用いる脂溶性物質としては、食品や化粧品等で用いられる生理学的に認容されるものであれば特に限定されないが、例えば、コエンザイムQ10等の脂溶性薬物;脂溶性ビタミンA、D、E、K、及びそれらの誘導体等のビタミン類;精油(例えば、パイン油、ライム油、ゆず油等)、植物油(例えば、大豆油、菜種油、べに花油、コーン油、ごま油、綿実油、オリーブ油、パーム油、ひまわり油、米油等)、動物油(例えば、牛脂、ラード等)、脂溶性色素(例えば、アナトー、ウコン、ベニコウジ、クロロフィル等)、香料(例えば、オレンジオイル等)、カロチノイド(例えば、カンタキサンチン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、リコピン、アポカロチナール、β−カロチン等)等の油脂等及びこれらを含有するものが挙げられる。当該脂溶性物質は、単独で用いることもできるし、2種以上を併用することもできる。
【0042】
乳化物には、上述の乳化剤で例示した添加剤をはじめ、顔料、香料、調味料、保存料、増粘剤等の高分子物質、抗菌剤等の種々の成分を含有させることができ、食品、化粧品、入浴剤等を含む工業品としての様々な性能を付与することができる。また、当該乳化物には、水、エタノール等のアルコール類等の溶媒を添加することもできる。
【0043】
前記乳化剤と脂溶性物質を混合(混和)する方法としては、振とう、撹拌等、両者が十分に接触できる条件となるものであれば特に限定されない。脂溶性物質等の粘性が比較的高いものを速やかにかつ十分に混和するために攪拌することが好ましく、さらに撹拌に際しては、激しく撹拌することが好ましい。このような乳化剤と脂溶性物質との混和方法としては、ワーリングブレンダーやジューサーを用いる方法、ポリトロンホモジナイザーやマントン−ゴーリンホモジナイザーを用いる方法、超音波を利用する方法等、公知の方法が利用できる。
【0044】
また、脂溶性物質と乳化剤とを接触させ、さらに両者を混和させる条件において、処理温度、処理時間、pH等も考慮する必要があるが、用いる脂溶性物質の種類や、得られる脂溶性物質を含有する乳化物の用途に応じて、適宜適した条件にて行うことでよい。例えば、混和中に熱が発生することがあるため、耐熱性のあまりない材料を用いる場合には、高温とならないように注意して混和する必要がある。具体的には、食品等への適用や、塗料等のように揮発性を有する溶媒等が含まれる場合への適用には、前者については微生物の繁殖がないように、後者については溶媒が揮発してしまわないように、短時間で実施する必要がある。乳化を行う際のpHについては、本発明の乳化剤の場合、特に制限はない。本発明の乳化剤は、pH7.0以下、好ましくはpH5.0以下、より好ましくはpH3.0以下の酸性域においても好適に用いることができる。また、pH7.0以上のアルカリ性域においても本発明の乳化剤は好適に用いることができる。
【0045】
また、脂溶性物質に乳化剤を加える場合、両者を一度に加えた後に混和してもよいが、両者を少量ずつ徐々に加えて混和する、また、片方をもう一方へ徐々に加えて混和する等、あらゆる混和方法を採用できる。
【0046】
また、本発明の乳化剤を使用して様々な粒径の乳化物を作製することができ、粒径の小さな乳化物だけでなく、大きな乳化物を作製することも可能である。粒径の大きな乳化物は、食感やのど越しの改変など食品の物理的変化が可能なだけでなく、見た目など視覚的変化をもたらすことができるというメリットがある。乳化の条件によって粒径の調整は可能であるが、大きな粒の場合、その粒径は、1μm以上であり、好ましくは10μm以上、さらに好ましくは50μm以上である。小さな粒の場合、その粒径は1μm以下である。粒径は、乳化物や脂溶性物質の添加量、攪拌条件、温度、pH等の条件を改変することにより変化させることが可能である。
【0047】
当該乳化物中の酒粕抽出物の含有量としては、特に限定されないが、上限は、固形分換算で乳化物全体の50重量%以下が好ましく、10重量%以下がより好ましい。下限は0.0001重量%以上が好ましく、0.001重量%以上がより好ましい。0.0001重量%未満では、乳化作用が減少し、50重量%を超えると、混合や操作性に問題を生じる傾向がある。
【0048】
本発明の乳化剤は、上述のように幅広いpH条件で好適に使用することができ、酸性の食品の乳化に用いることも可能である。そういった食品として、酢酸やクエン酸等の酸性物質を使用した食品が挙げられ、例えば、マヨネーズ等のドレッシング類がある。その他、本発明の乳化剤を使用した乳化物は特に限定されず、コーヒー、紅茶、抹茶、汁粉、ジュース等の嗜好飲料、生乳、加工乳、乳酸菌飲料、豆乳等の乳性飲料、カルシウム強化飲料等の栄養強化飲料並びに食物繊維含有飲料等を含む各種の飲料類、アイスクリーム、アイスミルク、ソフトクリーム、ミルクシェーキ、シャーベット等の氷菓類、バター、チーズ、ヨーグルト、コーヒーホワイトナー、ホイッピングクリーム、カスタードクリーム、プリン等の乳製品類、マヨネーズ、マーガリン、スプレッド、ショートニング等の油脂加工食品類、各種のスープ、シチュー、ソース、タレ、ドレッシング等の調味料類、練りがらしに代表される各種練りスパイス、ジャム、フラワーペーストに代表される各種フィリング、各種のアン、ゼリーを含むゲル・ペースト状食品類、パン、麺、パスタ、ピザ、各種プレミックスを含むシリアル食品類、キャンディー、クッキー、チョコレート、餅等を含む和・洋菓子類、蒲鉾、ハンペン等に代表される水産練り製品、ハム、ソーセージ、ハンバーグ等に代表される畜産製品、クリームコロッケ、中華用アン、グラタン、ギョーザ等の各種の惣菜類、塩辛、カス漬等の珍味類、ペットフード類及び経管流動食や栄養剤類等の食品、乳液、ローション、クリームなどの化粧品、入浴剤、塗料、顔料、インクなどが挙げられる。
【0049】
乳化物は、特に食品等として使用される場合には、通常、高温での加熱処理を行って滅菌される。本発明の乳化剤は、高温で抽出されたものを有効成分として使用しているので、本発明の乳化剤を使用して得られる乳化物は本質的に熱に強く、高温にさらされても乳化状態を安定に保つことができる。たとえば、100℃で90分間処理した場合でも、乳化状態が維持される。
【実施例】
【0050】
以下に、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)酒粕からの粗乳化剤の調製
液化仕込み由来の酒粕(酒名:佳撰普通酒、清酒酵母(株名:協会7号))40gに対して蒸留水160mlを添加し沸騰水浴中で90分間抽出を行った。その後、5,000×g、20分間の遠心分離を行い、上清を約150ml回収した。また、カットオフ値MW100,000の限外ろ過膜を用いて15mlまで濃縮し、これを粗乳化剤Aとした。
【0052】
実施例1で得られた乳化剤を使用して、以下に示す方法で乳化作用、分子量、気泡力と泡の安定性を測定した。
【0053】
(1)乳化作用(乳化作用評価物質としてケロセンを使用)
試験管(IWAKI社製、φ13mm×100mm)中で、実施例1で調製した粗乳化剤Aを、a)粗乳化剤0.5mlと蒸留水0.5ml、b)粗乳化剤0.05mlと蒸留水0.95ml、c)粗乳化剤0.005mlと蒸留水0.995mlの各希釈率で希釈し、それぞれに1.0mlのケロセン(和光純薬工業社製)を加えた。最大設定にしたボルテックスミキサー(Scientific Industries社製)上で1分間混合した後、常温で24時間静置した。その後、試験液の液体の全高を1とした場合の乳化部分の高さの比率を測定したところ、a)0.64、b)0.38、c)0.02であり、粗乳化剤の割合が高いほど、得られた乳化層の高さも大きくなった。
この結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
(2)乳化作用(脂溶性物質としてアスタキサンチンを使用)
アスタキサンチン(2mg/mlになるようにジメチルスルホキシドに溶解、和光純薬工業社製)10μlを、90μlの緩衝液A(20mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5))に添加し、そこへ実施例1で調製した粗乳化剤A100μlを加え、よく混合した。コントロールとしては同量の蒸留水を用いた。25℃で24時間後まで静置して観察したところ、コントロールにおいては、約1時間後からアスタキサンチンの凝集物が析出し始め、24時間後には全てが沈殿してしまっていた。ところが、粗乳化剤Aを添加したものでは、24時間経過した時点においても、全く凝集が見られなかった。さらに、これら粗乳化剤とアスタキサンチンとの混合物を1週間、室温で放置しても、凝集物の析出はみられなかった。
【0056】
(3)乳化作用物質の分子量測定
実施例1で調製した粗乳化剤Aを、予め緩衝液A(20mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5))で平衡化した陰イオン交換樹脂であるDEAE−TOYOPEARL650M(東ソー社製)125mlを充填したカラム(φ2.5cm×25cm)に負荷し、0から1.0Mへの塩化ナトリウムの直線濃度勾配法(総溶出量1500ml)で溶出させ、塩化ナトリウム濃度が200mM付近で溶出してくる約10mlの乳化活性画分(乳化作用物質)を回収した。なお、乳化活性は、ケロセンに対する乳化作用で判断した。
【0057】
この粗精製サンプル10ml分をカットオフ値MW100,000の限外ろ過膜を用いて1mlまで濃縮し、これをゲルろ過の担体(SephacrylS−400、1cm×120cm)に供し、0.4ml/min、分画液量1.5mlで分画したところ、フラクションNo.32付近に活性ピークが得られた。GPCシステムHLC−8320(東ソー社製)を用いてこの画分の分子量を測定したところ約27万であった。
【0058】
(4)気泡力と泡の安定性の測定
実施例1で得られた、酒粕由来の粗乳化剤Aを297mLの蒸留水に対して3mL添加し、気泡力と泡の安定性の測定を行った。測定方法はJIS K3362に準じて行い、試料および装置の温度は15℃一定で行った。
【0059】
(比較例1)酵母菌体からの粗乳化剤の調製
YM培地(1L中に酵母エキス3.0g、モルトエキス3.0g、ペプトン5.0g、グルコース10gを含む)を調製し、オートクレーブにより滅菌を行った。その後、このYM培地100mLに、実施例1で用いた酒粕の製造の際に用いた酵母(清酒酵母)(株名:協会7号)を接種し、30℃、100rpmで1日間培養し、これを前培養液とした。この前培養液100mlをオートクレーブした7LのYM培地に接種し、ジャーファメンター((株)丸菱バイオエンジ製 MDN 10L)を用いて、30℃、100rpm、0.2vvmの条件下で3日間培養した後、培養液を5,000×g、20分間の遠心分離を行い、約50gの酵母菌体を得た。この酵母菌体40gに対して蒸留水160mlを添加し沸騰水浴中で90分間抽出を行った。その後、5,000×g、20分間の遠心分離により得られた上清を約150ml回収し、これを粗乳化剤Bとした。
【0060】
得られた粗乳化剤Bを用いて、前述したように気泡力と泡の安定性の測定を行った。この結果を、粗乳化剤Aの結果とともに表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
次に、以下のようにして、酒粕由来の、水抽出物とエタノール抽出物の効果を比較した。
【0063】
(実施例2)酒粕由来の水抽出物
実施例1で使用した酒粕100gに対して、蒸留水400mlを加えた後、沸騰水浴中で攪拌しながら90分間抽出を行った。その後、5,000×g、15分間の遠心分離を行い、上清を得た。その上清をカットオフ値MW100,000の限外ろ過膜を用いて10倍濃縮し、濃縮画分1.5mlを遠心濃縮器(株式会社トミー精工製 CC101)で乾固させた後、1.5mlとなるように蒸留水で再度溶解させ、粗乳化剤Cとした。
【0064】
(比較例2)酒粕由来のエタノール抽出物
実施例1で使用した酒粕100gに対して、エタノール400mlを加えた後、ホモジナイザーで分散後、90分間室温で抽出し、5,000×g、15分間の遠心分離を行い、上清を得た。その上清をカットオフ値MW100,000の限外ろ過膜で濃縮し、濃縮画分1.5ml、及び、素通り画分1.5mlを遠心濃縮器で乾固させた後、それぞれを1.5mlとなるように蒸留水で再度溶解させ、濃縮画分を粗乳化剤D、素通り画分を粗乳化剤Eとした。
【0065】
粗乳化剤C、D及びEについて、以下のようにして乳化作用を測定した。粗乳化剤:蒸留水:ケロセン=1:1:2となるように混合し、実施例1(1)と同様にして乳化作用を測定したところ、粗乳化剤Cを使用した場合の乳化部分の高さは0.68であった。粗乳化剤D、及び、粗乳化剤Eを使用した場合の乳化部分の高さは0であり、まったく乳化作用が認められなかった。
【0066】
本発明の酒粕由来乳化剤は、酵母由来乳化剤と比べて気泡力が大きく、特に泡の安定性を3倍にする能力を有しており、乳化剤としてきわめて優れていることが判明した。
【0067】
(実施例3)酒粕からのpH5.2での抽出
実施例1で使用した酒粕100gに対して、蒸留水400mlを加えた後、家庭用ミキサーで粉砕した。粉砕処理物のpHは5.2であった。その後、95℃で90分間抽出を行い、5,000×g、15分間の遠心分離後、上清を得た。その上清をカットオフ値MW100,000の限外ろ過膜を用いて10倍濃縮し、凍結乾燥で乾固させた。その凍結乾燥後の重量を測定した。次に、この乾燥固体を0.04重量%になるように蒸留水に溶解させた1.0mlを用意し、それぞれに1.0mlのケロセン(和光純薬工業社製)を加えた。最大設定にしたボルテックスミキサー(Scientific Industries社製)上で1分間混合した後、常温で24時間静置した。その後、試験液の液体の全高を1とした場合の乳化部分の高さの比率を測定した。
【0068】
(実施例4)酒粕からのpH7.0での抽出
実施例1で使用した酒粕100gに対して、蒸留水400mlを加えた後、家庭用ミキサーで粉砕した。5Nの水酸化ナトリウム液を用いて粉砕処理物のpHをpH7.0に調製した以外は実施例3と同様に抽出を行い、凍結乾燥後の重量、および乳化剤による乳化部分の高さの比率を測定した。
【0069】
(実施例5)酒粕からのpH8.0での抽出
実施例1で使用した酒粕100gに対して、蒸留水400mlを加えた後、家庭用ミキサーで粉砕した。5Nの水酸化ナトリウム液を用いて粉砕処理物のpHをpH8.0に調製した以外は実施例3と同様に抽出を行い、凍結乾燥後の重量、および乳化剤による乳化部分の高さの比率を測定した。
【0070】
(実施例6)酒粕からのpH9.0での抽出
実施例1で使用した酒粕100gに対して、蒸留水400mlを加えた後、家庭用ミキサーで粉砕した。5Nの水酸化ナトリウム液を用いて粉砕処理物のpHをpH9.0に調製した以外は実施例3と同様に抽出を行い、凍結乾燥後の重量、および乳化剤による乳化部分の高さの比率を測定した。
【0071】
実施例3〜6における、抽出物の凍結乾燥後の重量及び乳化部分の高さの測定結果を表3に示す。
【0072】
【表3】

【0073】
上記の結果から、酒粕から乳化剤を抽出する際に、中性域からアルカリ性域での抽出が抽出効率や乳化特性の点で有効であることが判明した。
【0074】
(実施例7)酒粕由来乳化剤を使用した酸性条件の乳化物
実施例6でpH9.0の条件で調製した酒粕由来乳化剤を用いて、酸性環境下での各種油(ケロセン、菜種油、コーン油、米油)における乳化効果の違いを測定した。各種乳化剤は1.0重量%になるようにpH9.0、pH7.0、pH3.5、pH2.0の蒸留水に溶解させ、その1.0mlに対し1.0mlの各種油を加えた。最大設定にしたボルテックスミキサー(Scientific Industries社製)上で1分間混合した後、常温で24時間静置した。その後、試験液の液体の全高を1とした場合の乳化部分の高さの比率を測定した。
【0075】
(比較例3)大豆レシチンを使用した酸性条件の乳化物
乳化剤として、大豆レシチン(SLP:ホワイト辻製油)を使用した以外は実施例7と同様にして乳化部分の高さの比率を測定した。
【0076】
(比較例4)ショ糖脂肪酸エステルを使用した酸性条件の乳化物
乳化剤として、ショ糖脂肪酸エステル(リョートーシュガーエステルS−1170:三菱化学フーズ)を使用した以外は実施例7と同様にして乳化部分の高さの比率を測定した。
【0077】
実施例7及び比較例3〜4における、乳化部分の高さの測定結果を表4に示す。
【0078】
【表4】

×=乳化不可能
【0079】
上記の結果から、本発明の酒粕乳化剤は幅広いpHでの乳化が可能であることが判明した。
【0080】
(実施例8)酒粕乳化剤による乳化物の粒度径
実施例6でpH9.0の条件で調製した酒粕由来乳化剤を蒸留水で溶解後、糖濃度を測定し糖濃度10mg/mlの溶液を調製した。この溶液1.0mlに1.0mlのケロセン(和光純薬工業社製)を加え、最大設定にしたボルテックスミキサー(Scientific Industries社製)上で1分間混合した後、常温で24時間静置した後、その粒径を光学顕微鏡で確認した。その結果を図1Aに示す。
【0081】
(比較例5)グリセリン脂肪酸エステルによる乳化物の粒度径
乳化剤として市販乳化剤であるグリセリン脂肪酸エステル(パンテック200:理研ビタミン)の糖濃度10mg/mlの溶液を調製し、使用した以外は、実施例8と同様にして、光学顕微鏡で確認した。その結果を図1Bに示す。
【0082】
酒粕乳化剤で乳化した粒子は、グリセリン脂肪酸エステルで乳化した粒子に比べ、大きな粒子を形成、保持していることが判明した。その他、比較例3〜4で使用した大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステルでは、酒粕乳化剤並みの大きさの安定した乳化物は作製できなかった。このことから、酒粕乳化剤では、市販の乳化剤にはない、大きな粒子径の乳化物が作製でき、保持する効果があることが判明した。
【0083】
(実施例9)酒粕由来乳化剤の植物油に対する乳化性
実施例6でpH9.0の条件で調製した酒粕由来乳化剤を用いて、中性および酸性環境下での各種植物油(コーン油、大豆油、米油、菜種油、ベニ花油、オリーブ油、ゴマ油)における乳化効果の違いを測定した。乳化剤は3.0重量%になるようにpH7.0のクエン酸ナトリウム緩衝液、pH2.0のクエン酸水溶液に溶解させ、その1.0mlに対し4.0mlの各種植物油を加えた。ポリトロンホモジナイザー(KINEMATICA PT10/35、KINEMATICA社製)を用いて13,000rpm、90秒間撹拌し、37℃で24時間静置後、乳化の様子を観察した。
【0084】
(比較例6)大豆レシチンの植物油に対する乳化性
乳化剤として、大豆レシチン(SLP:ホワイト辻製油)を使用した以外は実施例9と同様にして乳化の様子を観察した。
【0085】
(比較例7)ポリグリセリン脂肪酸エステルの植物油に対する乳化性
乳化剤として、ポリグリセリン脂肪酸エステル(ポエムJ−0081HV:理研ビタミン)を使用した以外は実施例9と同様にして乳化の様子を観察した。
【0086】
実施例9及び比較例6〜7の結果を表5に示す。乳化したものは○、乳化しなかったものは×とした。乳化の有無は24時間静置後に乳化層が形成されるか否かにより判断した。
【0087】
【表5】

【0088】
酒粕乳化剤は、中性でも酸性域においても、ゴマ油以外の各種植物油を半固形状(マヨネーズ状)に乳化する事が出来た。それに対し、合成乳化剤のポリグリセリンエステルで半固形状に乳化できたのはごく一部であり、大豆レシチンでは、全く乳化できなかった。
【0089】
(用途例1)酒粕乳化剤を用いたマヨネーズ様調味料の作製
実施例6でpH9.0の条件で調製した酒粕由来乳化剤1.0g、大豆油24ml、米酢3.0ml、水3.0mlをポリトロンホモジナイザー(KINEMATICA PT10/35、KINEMATICA社製)で混合しマヨネーズ様調味料を作製したところ、マヨネーズ様の乳化物が作製可能であった。同様にして市販大豆レシチンを用いたが、これでは良好なマヨネーズ様調味料は作製できなかった。また、この調味料を−30℃で2日間及び7日間冷凍保存し、30℃で解凍したところ、冷凍前とまったく変化無く、乳化状態も良好であった。一方、市販マヨネーズ(キューピー社製)は乳化が壊れ、油と水が分離していた。これにより、本発明の酒粕乳化剤はマヨネーズなどへの製造に利用可能であることが判明した。
【0090】
(用途例2)酒粕乳化剤を用いたアイスクリームの作製
実施例6でpH9.0の条件で調製した酒粕由来乳化剤を蒸留水に1.0重量%で溶解した溶液60mlに60gの砂糖を懸濁させ、沸騰させた600mlの牛乳に加え混合した。なお、コントロールは酒粕乳化剤液の代わりに蒸留水を用いた。木ヘラで混ぜながら加温し、沸騰後にボウルに移して氷水上で木ヘラで混ぜ合わせながら冷却した。この混合液をアイスクリーム製造機(ハイパートロンミニHTF−3:エフ・エム・アイ社製)にかけ、目視、食感、及び光学顕微鏡による粒径の評価を行った。その結果、コントロールはシャーベット上で食感はざらざら、気泡の粒径も大きいものが大半であった。それに対し、酒粕乳化剤を使用したものは、滑らかなアイスクリーム状の食感で、気泡の粒径が細かいことが判明した。これにより、本発明の酒粕乳化剤はアイスクリーム製造に利用可能であることが判明した。
【0091】
(用途例3)酒粕乳化剤を用いたカスタードクリームの作製
薄力粉を大さじ2杯、砂糖40gに少量の牛乳を添加してよく混和する。そこに実施例6でpH9.0の条件で調製した酒粕由来乳化剤を蒸留水に1.0重量%で溶解した溶液20mlと牛乳約1カップ分を加えて混合し、電子レンジで2分間加熱した。その後、よく混合して、さらに電子レンジで1分30秒加熱、この操作を2回繰り返した。そこに15gのバターを加えて混合し、室温で冷却し、冷却後に数滴のバニラエッセンスを加えた。見た目や食感は滑らかで、味の良いカスタードクリームが本発明の酒粕乳化剤で製造できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の乳化剤は、食経験のある酒粕から製造するので、安価で安全性が高く、さらに単独で高い乳化性、耐熱安定性及び長時間の安定性を示す。食品廃棄物である酒粕の有効利用法として、産業上での貢献は非常に大きいものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酒粕由来の成分を有効成分として含有することを特徴とする乳化剤。
【請求項2】
酒粕由来の成分が、酒粕の、中性またはアルカリ性の水または水溶性溶媒の抽出物である請求項1に記載の乳化剤。
【請求項3】
酒粕を水または水溶性溶媒で抽出する工程を含む請求項1または2に記載の乳化剤の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の乳化剤と脂溶性物質を混合する工程を含む乳化物の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の乳化剤と脂溶性物質を含有する含む乳化物。

【図1】
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【公開番号】特開2011−115160(P2011−115160A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248464(P2010−248464)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【出願人】(000204686)大関株式会社 (9)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】