説明

乳癌を診断する方法

乳癌(BRC)を検出、診断、および治療するための組成物および目的の方法が本明細書に記載される。特に、本発明は、本明細書でA5657、B9769、およびC7965と称する3種のBRC関連遺伝子が、BRC細胞では正常細胞と比較して上方制御されていることを記載する。1つの態様において、本診断方法は、BRC細胞と正常細胞とを識別するBRC関連遺伝子の発現レベルを決定することを含む;1つの代替的な態様において、本診断方法は、BRC細胞の中でDCIS細胞とIDC細胞とを識別するBRC関連遺伝子の発現レベルを決定することを含む。本発明はさらに、乳癌の治療において有用な治療剤に関するスクリーニングの方法、乳癌を治療する方法、および対象への乳癌に対するワクチン接種の方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、乳癌を診断する方法に関する。
【0002】
本出願は、2003年9月24日に提出された米国特許仮出願第60/505,571号の恩典を主張し、その内容はその全体が参照として本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
乳癌は、多数の遺伝子における非常に多くの遺伝的および後成的な変化を特徴とする複合的な疾患である(Katherine N. N., Richard W. and Barbara L. W.「Breast Cancer genetics:What we know and what we need.」Nat Med, 7(5):552-556, 2001)。これらの異常が乳房腫瘍形成の原因であるのか否かはほとんど分かっていないが、これは異型乳管過形成、非浸潤性乳管癌(DCIS)および浸潤性乳管癌(IDC)の諸段階を含む、正常細胞の形質転換と大枠では同一視しうる多段階過程によって起こることが報告されている。乳癌発生の諸段階は他の組織におけるものと類似しているが、乳癌を引き起こす正確な分子的機序は依然として不明である。いずれにしても、原発性乳癌の発生、その進行およびその転移をもたらす分子的要因が、本疾患の早期診断、治療および予防のためのより良いツールの開発にとって有益な標的となることは容易に理解できる。
【0004】
前癌病変のうち浸潤癌に進行するのは一部分に過ぎず、それ以外の病変は自然発生的に退縮するという証拠が得られている。原発性乳癌の発生、その進行およびその転移の形成をもたらす分子的関与に関するこの説明は、予防および治療を目標とする新たな戦略の主な焦点となる。
【0005】
cDNAマイクロアレイ解析によって作成された遺伝子発現プロファイルは、個々の癌の性質に関して、従来の組織病理学的方法が与えうるよりもかなり多くの詳細を提供することができる。このような情報が有望とされている理由は、新生物性疾患の治療および新規薬剤の開発のための臨床開発戦略を進歩させる可能性があるという点にある(Petricoin, E. F., 3rd, Hackett, J. L., Lesko, L. J., Puri, R. K., Gutman, S. I., Chumakov, K., Woodcock, J., Feigal, D. W., Jr., Zoon, K. C. and Sistare, F. D.「Medical applications of microarray technologies:a regularory science perspective.」Nat Genet, 32 Suppl:474-479, 2002;Johannes B., Esther Z. and Axel U.「Molecular targets for breast cancer therapy and prevention.」Nat Med, 7(5):548-552, 2001)。この目標を念頭に置いて、本発明者らは、種々の組織からの1つまたは複数の腫瘍の発現プロファイルをcDNAマイクロアレイによって解析した(Okabe, H. et al.,「Genome-wide analysis of gene expression in human hepatocellular carcinomas using cDNA microarray:identification of genes involved in viral carcinogenesis and tumor progression.」Cancer Res, 61:2129-2137, 2001;Hasegawa, S. et al.,「Genome-wide analysis of gene expression in intestinal-type gastric cancers using a complementary DNA microarray representing 23,040 genes.」Cancer Res, 62:7012-7017, 2002;Kaneta, Y. et al., and Ohno, R.「Prediction of Sensitivity to STI571 among Chronic Myeloid Leukemia Patients by Genome-wide cDNA Microarray Analysis.」Jpn J Cancer Res, 93:849-856, 2002;Kaneta, Y. et al.,「Genome-wide analysis of gene-expression profiles in chronic myeloid leukemia cells using a cDNA microarray.」Int J Oncol, 23:681-691, 2003;Kitahara, O. et al.,「Alterations of gene expression during colorectal carcinogenesis revealed by cDNA microarrays after laser-capture microdissection of tumor tissues and normal epithelia.」Cancer Res, 61:3544-3549, 2001;Lin, Y. et al.「Molecular diagnosis of colorectal tumors by expression profiles of 50 genes expressed differentially in adenomas and carcinomas.」Oncogene, 21:4120-4128, 2002;Nagayama, S. et al.,「Genome-wide analysis of gene expression in synovial sarcomas using a cDNA microarray.」Cancer Res, 62:5859-5866, 2002;Okutsu, J. et al.,「Prediction of chemosensitivity for patients with acute myeloid leukemia, according to expression levels of 28 genes selected by genome-wide complementary DNA microarray analysis.」Mol Cancer Ther, 1:1035-1042, 2002;Kikuchi, T. et al.,「Expression profiles of non-small cell lung cancers on cDNA microarrays:identification of genes for prediction of lymph-node metastasis and sensitivity to anti-cancer drugs.」Oncogene, 22:2192-2205, 2003)。
【0006】
最近ではcDNAマイクロアレイを利用した数千種もの遺伝子の発現レベルが検討された結果、種々のタイプの乳癌における個別のパターンが発見されている(Sgroi, D. C. et al.,「In vivo gene expression profile analysis of human breast cancer progression.」Cancer Res, 59:5656-5661, 1999;Sorlie, T. et al.,「Gene expression patterns of breast carcinomas distinguish tumor subclasses with clinical implications.」Proc Natl Acad Sci U S A, 98:10869-10874, 2001;Kauraniemi, P. et al.,「New amplified and highly expressed genes discovered in the ERBB2 amplicon in breast cancer by cDNA microarrays.」Cancer Res, 61:8235-8240, 2001;Gruvberger, S. et al., S.「Estrogen receptor status in breast cancer is associated with remarkably distinct gene expression patterns.」Cancer Res, 61:5979-5984, 2001;Dressman, M. et al.,「Gene expression profiling detects gene amplification and differentiates tumor types in breast cancer.」Cancer Res, 63:2194-2199, 2003)。
【0007】
乳癌における遺伝子発現プロファイルに関する研究により、診断マーカーまたは予後判定プロファイルのための候補として役立つ可能性のある遺伝子が同定されている。しかし、乳癌細胞は高度の炎症反応を伴う固形腫瘤として存在し、種々な細胞成分を含むため、主として腫瘍塊から得られたこれらのデータは乳癌発生過程における発現変化を十分には反映できない。したがって、以前に公開されたマイクロアレイデータは混成の(heterogenous)プロファイルを反映している可能性が高い。
【0008】
発癌メカニズムを解明するように計画された研究によって、いくつかの抗腫瘍物質の分子標的の同定が既に促進されている。例えば、Rasに関連する増殖-シグナル伝達経路を阻害するように当初開発されたファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤(FTI)(この活性は翻訳後のファルネシル化に依存する)は、動物モデルにおいてRas依存的腫瘍を治療するために有効であることが示されている(He et al., Cell 99:335-45(1999))。同様に、抗癌剤と、原癌遺伝子受容体HER2/neuに拮抗するための抗HER-2モノクローナル抗体であるトラスツズマブを併用したヒトに対する臨床試験が実施されており、乳癌患者の臨床応答および総生存率の改善が得られている(Lin et al., Cancer Res. 61:6345-9(2001))。bcr-abl融合タンパク質を選択的に不活化するチロシンキナーゼ阻害剤STI-571は、bcr-ablチロシンキナーゼの構成的活性化が白血球の形質転換において重要な役割を果たしている慢性骨髄性白血病を治療するためにようやく開発されてきている。これらの種類の物質は、特定の遺伝子産物の発癌活性を抑制するように設計されている(Fujita et al., Cancer Res. 61:7722-6(2001))。よって、癌性細胞において一般的に上方制御されている遺伝子産物が、新規抗癌剤を開発するための有力な標的として役立つ可能性があることは理解できる。
【0009】
CD8+細胞障害性Tリンパ球(CTL)は、MHCクラスI分子上に提示された腫瘍関連抗原(TAA)に由来するエピトープペプチドを認識して、腫瘍細胞を溶解することがさらに証明されている。TAAの最初の例としてMAGEファミリーが発見されて以来、免疫学的アプローチを用いて他にも多くのTAAが発見されている(Boon, Int. J. Cancer 54:177-80(1993);Boon and van der Bruggen, J. Exp. Med. 183:725-9(1996);van der Bruggen et al., Science 254:1643-7(1991);Brichard et al., J. Exp. Med.178:489-95(1993);Kawakami et al., J. Exp. Med. 180:347-52(1994))。新しく発見されたTAAのいくつかにおいては、免疫治療の標的として現在臨床開発が行われている。これまで発見されたTAAには、MAGE(van der Bruggen et al., Science 254:1643-7(1991))、gp100(Kawakami et al., J. Exp. Med. 180:347-52(1994))、SART(Shichijo et al., J. Exp. Med. 187:277-88(1998)、およびNY-ESO-1(Chen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:1914-8(1997))が含まれる。一方、腫瘍細胞において特に過剰発現されることが示されている遺伝子産物は、細胞性免疫応答を誘導する標的として認識されることが示されている。そのような遺伝子産物には、p53(Umano et al., Brit. J. Cancer 84:1052-7(2001))、HER2/neu(Tanaka et al., Brit. J. Cancer 84:94-9(2001))、CEA(Nukaya et al., Int. J. Cancer 80:92-7(1999))等が含まれる。
【0010】
TAAに関する基礎および臨床研究における著しい進歩にもかかわらず(Rosenberg et al., Nature Med. 4:321-7(1998);Mukherji et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:8078-82(1995);Hu et al., Cancer Res. 56:2479-83(1996))、結腸癌を含む腺癌の治療に現在利用できるのは、ごく限られた数の候補TAAに過ぎない。癌細胞において豊富に発現されると共に未だその発現が癌細胞に限定されるTAAは、免疫療法の標的として有望な候補物質となるであろう。さらに、強力で特異的な抗腫瘍免疫応答を誘導する新規TAAが同定されれば、様々なタイプの癌におけるペプチドワクチン法の臨床応用を促進すると期待される(Boon and van der Bruggen, J. Exp. Med. 183:725-9(1996);van der Bruggen et al., Science 254:1643-7(1991);Brichard et al., J. Exp. Med.178:489-95(1993);Kawakami et al., J. Exp. Med. 180:347-52(1994);Shichijo et al., J. Exp. Med. 187:277-88(1998);Chen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:1914-8(1997);Harris CC., J. Natl. Cancer Inst. 88:1442-55(1996);Butterfield et al., Cancer Res. 59:3134-42(1999);Vissers et al., Cancer Res. 59:5554-9(1999);van der Burg et al., J. Immunol. 156:3308-14(1996);Tanaka et al., Cancer Res. 57:4465-8(1997);Fujie et al., Int. J. Cancer 80:169-72(1999);Kikuchi et al., Int. J. Cancer 81:459-66(1999);Oiso et al., Int. J. Cancer 81:387-94(1999))。
【0011】
ペプチド刺激された特定の健康なドナー由来の末梢血単核細胞(PBMC)は、ペプチド刺激に応答して著しいレベルのIFN-αを産生するが、51Cr-放出アッセイにおいてHLA-A24または-A0201拘束的に腫瘍細胞に対して細胞障害性を発揮することはまれであることは繰り返し報告されている(Kawano et al., Cancer Res. 60:3550-8(2000);Nishizaka et al., Cancer Res. 60:4830-7(2000);Tamura et al., Jpn. J. Cancer Res. 92:762-7(2001))。しかし、HLA-A24およびHLA-A0201はいずれも、白人集団のみならず、日本人集団における一般的なHLA対立遺伝子である(Date et al., Tissue Antigens 47:93-101(1996);Kondo et al., J. Immunol. 155:4307-12(1995);Kubo et al., J. Immunol. 152:3913-24(1994);Imanishi et al., Proceeding of the eleventh International Histocompatibility Workshop and Conference, Oxford University Press, Oxford, 1065(1992);Williams et al., Tissue Antigen 49:129(1997))。このように、これらのHLAによって提示される癌の抗原性ペプチドは、日本人および白人における癌の治療において特に有用となる可能性がある。さらに、インビトロでの低親和性CTLの誘導は、通常、高濃度のペプチドの使用によって、CTLを効果的に活性化する高レベルの特異的なペプチド/MHC複合体を抗原提示細胞(APCs)上に生成する結果であろうことは知られている(Alexander-Miller et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:4102-7(1996))。
【0012】
このため、癌に関係する発癌機構の解明、および新規抗癌剤を開発するための可能性のある標的の同定を目的とした取り組みとして、乳癌細胞の精製集団における遺伝子発現パターンの大規模解析を、23,040種の遺伝子を提示するcDNAマイクロアレイを用いて行った。より具体的には、cDNAマイクロアレイおよびレーザービームマイクロダイセクションの組み合わせを用いて、12例の非浸潤性乳管癌(DCIS)および69例の浸潤性乳管癌(IDC)を含む、81例の乳房腫瘍の正確なゲノム全域にわたる発現プロファイルを調べた。同定された上方制御される遺伝子のうち、乳癌細胞で有意に過剰発現されるという理由から以下の3つの遺伝子を選択した:A5657(以前はAF161499と呼ばれていた);B9769(以前はAA156269と呼ばれていた);およびC7965(以前はAW977394と呼ばれていた)。本明細書で詳細に考察する所見から、これらの遺伝子が腫瘍細胞の成長増殖に重要な役割を果たしており、このため抗癌薬の開発のための有望な標的であることが示唆される。
【発明の開示】
【0013】
発明の概要
本発明は、アッセイした乳癌症例のそれぞれ49例中38例、73例中30例、および49例中28例で発現が有意に上方制御されていた以下の3つの遺伝子の発見に関する:A5657(SEQ ID NO:1)、これはユビキチン結合酵素に類似したHSPC150タンパク質(SEQ ID NO:2)をコードする;B9769(SEQ ID NO:3)、これは仮説上のタンパク質BC016861(SEQ ID NO:4)をコードする;およびC7965(SEQ ID NO:5)、これはLOC90557(SEQ ID NO:6)として指定される。その後の半定量的RT-PCRおよびノーザンブロット分析により、A5657、B9769、およびC7965が、臨床的な乳癌試料および乳癌細胞株では、乳管細胞および正常乳房を含む正常ヒト組織と比較して有意に過剰発現されることが確かめられた。特に、B9769はERα陽性乳癌細胞株において高発現された。免疫細胞化学染色により、乳癌細胞株T47D細胞において、外因性A5657、B9769、およびC7965はそれぞれ細胞質および/または核装置、細胞質、および細胞小器官のそれぞれに局在した。特に、外因性B9769は、COS7細胞およびT47D細胞において中間径フィラメント網に観察された。さらに、A5657タンパク質がユビキチンと相互作用することが免疫沈降結合アッセイによって示され、このことはA5657タンパク質がE2ユビキチン酵素活性を有する可能性を示唆する。低分子干渉RNA(siRNA)による乳癌細胞の処理は、A5657、B9769、およびC7965の発現を効果的に阻害し、乳癌の細胞/腫瘍成長をそれぞれ抑制した。加えて、この3種の遺伝子はいずれも、NIH3T3細胞で一過性に過剰発現させた場合にMTTアッセイにおける細胞増殖を劇的に促進することが見いだされ、このことからこれらが細胞の成長増殖に重要な役割を果たすことが示唆された。これらの所見は、A5657、B9769、およびC7965の過剰発現が乳房腫瘍形成に関与する可能性があり、かつ乳癌患者に対する特異的治療法のための有望な戦略となる可能性があることを示唆する。
【0014】
したがって、本発明は、これらの3種の遺伝子の発現が乳癌(BRC)と有意に相関するという発見を含む。乳癌において差次的に発現されるこれらの遺伝子は、本明細書において「BRC核酸」または「BRCポリヌクレオチド」と総称され、コードされる対応するポリペプチドは「BRCポリペプチド」または「BRCタンパク質」と呼ばれる。
【0015】
したがって、本発明は、患者由来の生物学的試料(組織試料など)におけるBRC関連遺伝子の発現レベルを決定することによる、対象における乳癌に対する素因を診断または判定する方法を提供する。「BRC関連遺伝子」という用語は、BRC細胞における発現レベルが正常細胞と比較して異なることを特徴とする遺伝子を指す。正常細胞は乳房組織から得られたものである。本発明の文脈において、BRC関連遺伝子とは、A5657(SEQ ID NO:1)、B9769(SEQ ID NO:3)およびC7965(SEQ ID NO:5)からなる群より選択される1つまたは複数の遺伝子のことである。BRC関連遺伝子の発現レベルが遺伝子の正常対照レベルと比較して変化していること、例えば上昇していることにより、対象がBRCに罹患している、またはBRCを発症するリスクを有することが示される。
【0016】
本発明の文脈において、「対照レベル」という語句は、対照試料で検出されるタンパク質発現レベルを指し、これには正常対照レベルおよび乳癌対照レベルの両方が含まれる。対照レベルは、単一の参照集団に由来する単一の発現パターンであっても、または複数の発現パターンに由来する単一の発現パターンであってもよい。例えば、対照レベルが、以前に試験を行った細胞からの発現パターンのデータベースであってもよい。「正常対照レベル」とは、正常で健康な個体において、または乳癌に罹患していないことが判明している個体の集団において検出される遺伝子の発現レベルを指す。正常個体とは、乳癌の臨床症状がない個体のことである。これに対して、「BRC対照レベル」とは、BRCに罹患した集団で認められるBRC関連遺伝子の発現プロファイルを指す。
【0017】
被験試料中に検出されるA5657、B9769、およびC7965からなる群より選択される1つまたは複数のBRC関連遺伝子の発現レベルが正常対照レベルと比較して上昇していることにより、(試料を提供した)対象がBRCに罹患している、またはBRCを発症するリスクを有することが示される。
【0018】
または、試料における2つまたはそれ以上のBRC関連遺伝子の一群の発現を、同じ遺伝子の一群のBRC対照レベルと比較することもできる。試料での発現とBRC対照での発現との間に類似性があれば、(試料を提供した)対象がBRCに罹患している、またはBRCを発症するリスクを有することが示される。
【0019】
本発明によれば、遺伝子発現は、対照レベルと比較して少なくとも10%、少なくとも25%、少なくとも50%またはそれ以上上昇している場合に「変化している」とみなされる。または、遺伝子発現は、対照レベルと比較して少なくとも1倍、少なくとも2倍、少なくとも5倍またはそれ以上上昇している場合に変化しているとみなしてもよい。遺伝子発現は、例えばアレイ上で、BRC関連遺伝子プローブと患者由来の組織試料の遺伝子転写物とのハイブリダイゼーションを検出することによって決定される。
【0020】
本発明の文脈において、患者由来の組織試料は、被験対象から、例えば、BRCを有することが判明しているかその疑いがある患者から得られる任意の試料であってもよい。例えば、組織には上皮細胞が含まれてもよい。より具体的には、組織は乳管癌からの上皮細胞でありうる。
【0021】
本発明はまた、A5657、B9769、およびC7965からなる群より選択されるBRC関連遺伝子の2つまたはそれ以上の遺伝子発現レベルを含む、BRC参照発現プロファイルも提供する。
【0022】
本発明はさらに、BRC関連遺伝子の、例えばA5657、B9769、およびC7965からなる群より選択されるBRC関連遺伝子の発現または活性を阻害する物質を同定する方法であって、BRC関連遺伝子を発現する被験細胞を被験化合物に接触させ、かつBRC関連遺伝子の発現レベルまたは活性を決定することによる方法も提供する。被験細胞は、乳癌から得られた上皮細胞などの上皮細胞であってもよい。BRC関連遺伝子またはその遺伝子産物の発現レベルまたは活性がその遺伝子または遺伝子産物の被験化合物の非存在下で検出される発現レベルまたは活性と比較して低下していることにより、被験物質がBRC関連遺伝子の阻害物質であることが示され、これはBRCの症状、例えばA5657、B9769、およびC7965からなる群より選択されるBRC関連遺伝子の発現を低下させるために用いられる可能性がある。
【0023】
本発明はまた、1つまたは複数のBRC核酸またはBRCポリペプチドと結合する検出試薬を含むキットも提供する。1つまたは複数のBRC核酸と結合する核酸のアレイも提供される。
【0024】
本発明の治療方法には、対象におけるBRCを治療または予防する方法であって、アンチセンス組成物を対象に投与する段階を含む方法が含まれる。本発明の文脈において、アンチセンス組成物は特異的な標的遺伝子の発現を低下させる。例えば、アンチセンス組成物は、BRC関連遺伝子A5657、B9769、およびC7965からなる群より選択されるBRC関連遺伝子配列に対して相補的なヌクレオチドを含みうる。または、本方法が、低分子干渉RNA(siRNA)組成物を対象に投与する段階を含んでもよい。本発明の文脈において、siRNA組成物は、BRC関連遺伝子A5657、B9769、およびC7965からなる群より選択されるBRC核酸の発現を低下させる。さらにもう1つの方法において、対象におけるBRCの治療または予防を、リボザイム組成物を対象に投与することによって実施することもできる。本発明の文脈において、核酸特異的なリボザイム組成物は、BRC関連遺伝子A5657、B9769、およびC7965からなる群より選択されるBRC核酸の発現を低下させる。
【0025】
本発明はまた、ワクチンおよびワクチン接種方法も含む。例えば、対象におけるBRCを治療または予防する方法が、BRC関連遺伝子A5657、B9769、およびC7965からなる群より選択される核酸によってコードされるポリペプチド、またはこのようなポリペプチドの免疫学的活性断片を含むワクチンを対象に投与する段階を含んでもよい。本発明の文脈において、免疫学的活性断片とは、完全長の天然型タンパク質よりも長さは短いものの、完全長タンパク質によって誘導される免疫応答に類似した免疫応答を誘導するポリペプチドのことである。例えば、免疫学的活性断片は、少なくとも8残基長であって、T細胞またはB細胞などの免疫細胞を賦活化しうるものであるべきである。免疫細胞の賦活化は、細胞増殖、サイトカイン(例えば、IL-2)の生成、細胞傷害性Tリンパ球の誘導、または抗体の産生を検出することによって測定可能である。
【0026】
特に定義していなければ、本明細書において用いた科学技術用語は全て、本発明が属する当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書に記述の方法および材料と類似または同等の方法および材料を、本発明の実践または試験において用いることができるが、適した方法および材料を下記に記述する。本明細書において言及した全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献はその全体が参照として本明細書に組み入れられる。矛盾する場合には、定義を含めて本明細書が優先する。さらに、材料、方法、および例は、説明するために限られ、制限することを意図しない。
【0027】
本明細書に記述の方法の一つの長所は、乳癌の明白な臨床症状を検出する前に疾患が同定されることである。本発明のその他の特徴および長所は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
【0028】
詳細な説明
本明細書で用いる「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」という用語は、別に特記する場合を除き、「少なくとも1つの」を意味する。
【0029】
一般に、乳癌細胞は、高度の炎症反応を有するとともに種々の細胞成分を含む固形腫瘤として存在する。このため、これまでに発表されたマイクロアレイデータは混成のプロファイルを反映している可能性が高い。
【0030】
これらの問題を考慮して、本発明者らは、乳癌細胞および正常乳房上皮乳管細胞の精製集団をレーザーマイクロビームマイクロダイセクション(laser-microbeam microdissection)(LMM)法によって調製した。12例のDCISおよび69例のIDCを含む81例のBRCからの癌細胞の遺伝子発現プロファイルを、23,040遺伝子を提示するcDNAマイクロアレイを用いて解析した。レーザーマイクロダイセクション法によって純粋なものとして選択された、BRCと診断された患者由来の癌細胞、および正常乳管上皮細胞の発現パターンを比較することにより、102種の遺伝子(データ非提示)がBRC細胞で通例的に上方制御される遺伝子として同定され、288種の遺伝子(データ非提示)がBRC細胞で通例的に下方制御される遺伝子として同定された。患者の血清中の癌関連タンパク質を検出する能力がある分子マーカー候補を選択したところ、ヒトBRCにおけるシグナル抑制戦略を開発するための標的となる可能性のあるものがいくつか見いだされた。特に、本発明は、3種の核酸、すなわちA5657、B9769、およびC7965の発現パターンが上皮細胞とBRC患者の癌との間で変化しているという発見を含む。A5657遺伝子(SEQ ID NO:1)は新規の配列を構成し、ユビキチン結合酵素(Genbankアクセッション番号NM_014176)に類似したHSPC150タンパク質(SEQ ID NO:2)をコードする。A5657はIDC細胞においてDCIS細胞および正常乳房上皮細胞と比較して上方制御される。B9769遺伝子(SEQ ID NO:3)は新規な配列を構成し、仮説上のタンパク質(SEQ ID NO:4)(Genbankアクセッション番号NM_138770)をコードする。B9769はIDC細胞において正常乳房上皮細胞と比較して上方制御される。C7965遺伝子(SEQ ID NO:5)およびそれによってコードされるタンパク質(SEQ ID NO:6)は、LOC90557と称される既知の配列を構成する。C7965はDCIS細胞およびIDC細胞の両方で正常乳房上皮細胞と比較して上方制御される。本明細書で同定された、差次的に発現されるこれらの遺伝子には、BRCマーカーおよびBRC遺伝子標的としての診断上の有用性がみられ、その発現は、BRC症状の治療または軽減を目的に変化されうる。または、本明細書で同定された、DCISとIDCとの間で差次的に発現されるA5657遺伝子には、IDCをDCISと区別するためのマーカーならびにBRC遺伝子標的としての診断上の有用性がみられ、IDC症状の治療または軽減を目的にその発現が変化されうる。
【0031】
BRC患者において発現レベルが変化している(すなわち、上昇している)これらの遺伝子は、本明細書において「BRC関連遺伝子」、「BRC核酸」、または「BRCポリヌクレオチド」と総称され、対応するコードされるポリペプチドは「BRCポリペプチド」または「BRCタンパク質」と呼ばれる。別に指示する場合を除き、「BRC」とは、本明細書中に開示した配列のうち任意のものを指す(例えば、A5657、B9769、およびC7965からなる群より選択されるBRC関連遺伝子)。
【0032】
細胞の試料における種々の遺伝子の発現を測定することにより、BRCを診断することができる。同様に、種々の物質に応答したこれらの遺伝子の発現を測定することにより、BRCを治療するための物質を同定することができる。
【0033】
本発明は、A5657、B9769、およびC7965からなる群より選択されるBRC関連遺伝子の少なくとも1つ、最大ですべての発現を決定すること(例えば、測定すること)を含む。既知の配列に関するGenBank(商標)データベースの記載事項によって得られる配列情報を使用し、当業者に周知の手法を用いてBRC関連遺伝子を検出および測定することができる。例えば、BRC関連遺伝子に対応する配列データベース記載事項中の配列を、例えばノーザンブロットハイブリダイゼーション分析において、BRC関連遺伝子に対応するRNA配列を検出するためのプローブを構築するために用いることができる。プローブは、典型的には参照配列のうちの少なくとも10ヌクレオチド、少なくとも20ヌクレオチド、少なくとも50ヌクレオチド、少なくとも100ヌクレオチド、または少なくとも200ヌクレオチドを含む。別の例としては、これらの配列は、例えば増幅に基づいた検出方法(逆転写に基づくポリメラーゼ連鎖反応など)におけるBRC核酸を特異的に増幅するためのプライマーを構築するのに用いることができる。
【0034】
続いて、被験細胞集団、例えば患者由来の組織試料における、BRC関連遺伝子の1つまたは複数の発現レベルを、参照集団における同じ遺伝子の発現レベルと比較する。参照細胞集団は、比較されるパラメーターが既知である1つまたは複数の細胞、すなわち、乳管癌細胞(例えば、BRC細胞)または正常乳管上皮細胞(例えば、非BRC細胞)を含む。
【0035】
被験細胞集団における遺伝子発現のパターンが、参照細胞集団と比較してBRCまたはそれに対する素因を示すか否かは、参照細胞集団の組成に依存する。例えば、参照細胞集団が非BRC細胞から構成される場合には、被験細胞集団と参照細胞集団との間で遺伝子発現パターンに類似性があることにより、被験細胞集団が非BRCであると示される。その反対に、参照細胞集団がBRC細胞から構成される場合には、被験細胞集団と参照細胞集団との間で遺伝子発現プロファイルに類似性があることにより、被験細胞集団がBRC細胞を含むと示される。
【0036】
被験細胞集団におけるBRCマーカー遺伝子の発現レベルは、それと参照細胞集団における対応するBRCマーカー遺伝子の発現レベルとの違いが1.0倍を上回る、1.5倍を上回る、2.0倍を上回る、5.0倍を上回る、10.0倍を上回る、またはそれ以上の倍数を上回るならば「変化している」とみなされる。
【0037】
被験細胞集団と参照細胞集団との間での差次的な遺伝子発現は、対照核酸、例えばハウスキーピング遺伝子に対して標準化することができる。例えば、対照核酸は、細胞が癌状態にあるか非癌状態にあるかによっての差がないことが判明している核酸である。対照核酸の発現レベルは、被験集団および参照集団におけるシグナルレベルを標準化するのに用いることができる。対照遺伝子の例には、例えば、β-アクチン、グリセルアルデヒドβ-リン酸デヒドロゲナーゼ、およびリボソームタンパク質P1が非制限的に含まれる。
【0038】
被験細胞集団は複数の参照細胞集団と比較することができる。多数の参照集団のそれぞれは既知のパラメーターに関して差があってもよい。したがって、被験細胞集団を、例えばBRC細胞を含むことが判明している第1の参照細胞集団、ならびに例えば非BRC細胞(正常細胞)を含むことが判明している第2の参照集団と比較してもよい。被験細胞は、BRC細胞を含むことが判明しているかまたはBRC細胞を含むことが疑われる対象からの組織試料または細胞試料中に含まれてもよい。
【0039】
被験細胞は、体組織または体液、例えば、生体液(例えば、血液または痰など)から得られる。例えば、被験細胞を乳房組織から精製してもよい。好ましくは被験細胞集団は上皮細胞を含む。上皮細胞は、好ましくは乳管癌であるか乳管癌であることが疑われる組織からのものである。
【0040】
参照細胞集団中の細胞は、被験細胞の組織型と類似した組織型に由来すべきである。任意には、参照細胞集団は細胞株、例えば、BRC細胞株(すなわち、陽性対照)または正常非BRC細胞株(すなわち、陰性対照)である。または、対照細胞集団は、アッセイされるパラメーターまたは条件に関して既知である細胞の分子情報のデータベースに由来していてもよい。
【0041】
対象は、好ましくは哺乳動物である。哺乳動物の例には、例えば、ヒト、非ヒト霊長動物、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマまたはウシが非制限的に含まれる。
【0042】
本明細書に開示した遺伝子の発現は、当技術分野で公知の方法を用いて、タンパク質レベルまたは核酸レベルで決定することができる。例えば、遺伝子発現を決定するには、これらの核酸配列の1つまたは複数を特異的に認識するプローブによるノーザンハイブリダイゼーション分析を用いてもよい。または、遺伝子発現は、例えば、差次的に発現される遺伝子配列に対して特異的なプライマーを用いて逆転写に基づくPCRアッセイにより測定することもできる。発現はまた、タンパク質レベルで、すなわち、本明細書に記載の遺伝子によってコードされるポリペプチドのレベルまたはその生物学的活性を測定することによって決定することもできる。この種の方法は当技術分野で周知であり、例えば、遺伝子によってコードされるタンパク質に対する抗体を利用したイムノアッセイが非制限的に含まれる。遺伝子によってコードされるタンパク質の生物学的活性は一般に周知であるか、または慣行的に同定できるかのいずれかである。
【0043】
新規なヌクレオチド、ポリペプチド、ベクター、および宿主細胞
本発明は、乳癌の大多数において、対応する非癌性乳房上皮と比較して発現が顕著に亢進している新規ヒト遺伝子A5657およびB9769を提供する。単離されたA5657遺伝子は、928ヌクレオチドを含むcDNA配列である、SEQ ID NO:1に記載されたポリヌクレオチド配列を含む。特に、A5657は7つのエクソンからなり、ゲノム中では染色体1q32.1上に約10.3kbの範囲にわたって存在する。このcDNA転写物は最終的には、ユビキチン結合酵素に類似したHSPC150タンパク質という197アミノ酸のポリペプチドをコードする。単離されたB9769遺伝子は、1472ヌクレオチドを含むcDNA配列である、SEQ ID NO:3に記載されたポリヌクレオチドを含む。特に、B9769は8つのエクソンからなり、ゲノム中では染色体2q21.2上に約5.7kbの範囲にわたって存在する。そのORFはエクソン1で始まり、エクソン8で終わる。最終的には、このcDNA転写物は378アミノ酸のポリペプチドをコードする。
【0044】
本発明は、SEQ ID NO:1および3に記載のポリヌクレオチド配列を含む新規ヒト遺伝子A5657およびB9769に加えて、それらの縮重物および変異体も、それらがSEQ ID NO:2および4に示されたアミノ酸配列を含むA5657またはB9769タンパク質、またはそれらの機能的等価物をコードする範囲で含む。A5657またはB9769と機能的に等価なポリペプチドの例には、例えば、ヒトA5657またはB9769タンパク質に対応する他の生物の相同タンパク質、ならびにこのようなヒトタンパク質の変異体が含まれる。
【0045】
本発明はさらに、本発明者らによって同定されたポリペプチドと機能的に等価なポリペプチド、およびこのような機能的に等価なポリペプチドをコードするポリヌクレオチドも包含する。本発明の文脈において、「機能的に等価な」という用語は、対象ポリペプチドが、それぞれSEQ ID NO:2および4にアミノ酸配列を示したA5657またはB9769タンパク質に特徴的な生物学的に意味のある活性を保持していることを意味する。例えば、A5657遺伝子およびB9769遺伝子はいずれも、正常細胞と比較してBRC細胞で特異的に過剰発現される遺伝子として特徴づけられる。A5657遺伝子はさらに、IDC細胞においてDCIS細胞と比較して過剰発現される。さらに、それらの過剰発現が細胞増殖を促進することが本明細書において示される。したがって、本発明の文脈において、A5657またはB9769タンパク質の機能的等価物は、野生型タンパク質の細胞増殖活性に類似した細胞増殖活性を有するはずである。細胞増殖は、当技術分野における従来のアッセイおよび手法(例えば、以下の実施例で考察しているMTTアッセイ)を用いて測定できるパラメーターである。加えて、A5657タンパク質がE2ユビキチン酵素活性を有することおよびユビキチンと結合することも本明細書において示される。したがって、本発明の文脈において、A5657タンパク質の機能的等価物は、野生型タンパク質のものに類似したユビキチン酵素活性および/またはユビキチン結合活性を有するはずである。
【0046】
したがって、本発明は、開示した配列のある種の変異または変種を企図している。例えば、本発明は、1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたSEQ ID NO:2または4のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを、その結果生じるタンパク質が野生型タンパク質の生物学的に意味のある活性を保持している限りは包含する。1つの好ましい態様において、本発明のポリヌクレオチドによってコードされる機能的に等価なタンパク質は、同様に、正常細胞と比較してBRC細胞で過剰発現される。本発明はまた、それぞれSEQ ID NO:1および3のヌクレオチド配列を含むA5657 DNAまたはB9769 DNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドも、その結果生じるポリヌクレオチドがA5657またはB9769タンパク質と機能的に等価なタンパク質をコードする限りは含む。生物学的に意味のある活性の決定は、本明細書に記載する方法(実施例の項を参照)を含む、当業者に周知の方法によって実施できる。
【0047】
本発明は、本明細書に記載のポリペプチドまたはその断片をコードする、単離されたポリヌクレオチドを提供する。好ましくは、単離されたポリペプチドは、SEQ ID NO:1または3に示されたヌクレオチド配列に対して少なくとも約60%同一なヌクレオチド配列によってコードされる。より好ましくは、単離された核酸分子は、SEQ ID NO:1または3に示されたヌクレオチド配列に対して少なくとも約65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれ以上同一である。
【0048】
2つの核酸の同一性(%)を決定するためには、最適な比較がなされるように配列のアラインメントを行う。2つの配列間の同一性(%)は、配列によって共有される同一な位置の数の関数である(すなわち、同一性(%)=(同一な位置の数/位置(例えば、オーバーラップしている位置)の総数)×100)。2つの配列間の同一性(%)は、ギャップを許容するしないに関わらず、本明細書に記載したような従来の手法を用いて決定することができる。同一性の算出においては、厳密な一致を算定することが典型的である。
【0049】
2つの配列間の同一性(%)の決定は、KarlinおよびAltschulによるBLASTアルゴリズム(S. Karlin and S.F. Altschul, Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 1990, 87:2264-2268;S. Karlin and S.F. Altschul, Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 1993, 90:5873-5877)などの任意の従来の数学的アルゴリズムを用いて行いうる。BLASTアルゴリズムは、AltschulらのBLASTNおよびBLASTXプログラム(S.F. Altschul et al., J. Mol. Biol. 1990, 215:403)に組み込まれている。ヌクレオチド配列をBLASTNによって解析する場合、適したパラメーターには、例えば、スコア=100およびワード長=12が含まれる。これに対して、BLASTXによるアミノ酸配列の解析に適したパラメーターには、例えば、スコア=50およびワード長=3が含まれる。比較用のギャップ付きアラインメントを得るためには、Altschul et al., (1997) Nucleic Acids Res. 25:3389に記載されているようにGapped BLASTを利用できる。または、PSI-Blastを用いて、分子間の遠隔的な関連を検出する反復検索を行ってもよい。BLAST、Gapped BLASTおよびPSI-Blastプログラムを用いる場合には、それぞれのプログラム(例えば、XBLASTおよびNBLAST)の初期設定のパラメーターを用いることが好ましい。しかし、当業者は、特定の目的に適合するようにパラメーターを容易に調整できる。
【0050】
配列の比較のために用いうる数学的アルゴリズムの別の例は、Myers and Miller (1988) CABIOS 4:11-17のアルゴリズムである。このようなアルゴリズムは、GCG配列アラインメントソフトウエアパッケージの一部であるALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれている。アミノ酸配列を比較するためにALIGNプログラムを利用する場合には、PAM120加重残基表(weight residue table)、ギャップ長ペナルティ12およびギャップペナルティ4を用いることができる。
【0051】
所定のタンパク質と機能的に等価なポリペプチドを調製するための方法は当業者に周知であり、これにはタンパク質に変異を導入する従来の方法が含まれる。例えば、当業者は、A5657またはB9769タンパク質と機能的に等価なポリペプチドを、これらのタンパク質のいずれかのアミノ酸配列に部位特異的変異誘発法によって適切な変異を導入することによって調製することができる(Hashimoto-Gotoh et al., Gene 152:271-5 (1995) ;Zoller and Smith, Methods Enzymol 100:468-500 (1983) ;Kramer et al., Nucleic Acids Res. 12:9441-9456 (1984) ;Kramer and Fritz, Methods Enzymol 154:350-67 (1987) ;Kunkel, Proc Natl Acad Sci USA 82:488-92 (1985) ;Kunkel, Methods Enzymol 85:2763-6 (1988))。特定のアミノ酸配列における1つまたは複数のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加によって改変されたアミノ酸配列を有するタンパク質である変異タンパク質または改変タンパク質は、元の生物学的活性を保つことが知られている(Mark et al., Proc Natl Acad Sci USA 81:5662-6 (1984) ;Zoller and Smith, Nucleic Acids Res 10:6487-500 (1982) ;Dalbadie-McFarland et al., Proc Natl Acad Sci USA 79:6409-13 (1982))。アミノ酸変異は自然下でも起こりうる。したがって、結果的に生じる変異ポリペプチドが野生型A5657またはB9769タンパク質と機能的に等価であるという前提で、1つまたは複数のアミノ酸が変異したA5657またはB9769タンパク質のアミノ酸配列を有するタンパク質が本発明に含まれる。
【0052】
生物学的に意味のある活性が維持される限り、変異させうるアミノ酸の数は、特に限定されない。一般に、最大で約50個のアミノ酸を変異させることができ、好ましくは最大で約30個のアミノ酸、より好ましくは最大で約10個のアミノ酸、さらにより好ましくは最大で約3〜5個のアミノ酸を変異させることができる。同様に変異の部位も、変異が生物学的に意味のある活性を破壊する結果とならない限り、特に限定されない。
【0053】
アミノ酸置換は、1つまたは複数の予測されるアミノ酸残基、好ましくは非必須アミノ酸残基において行うことができる。「非必須」アミノ酸残基とは、生物学的活性を変化させることなく、タンパク質の野生型配列(例えば、SEQ ID NO:2および4に示された配列)から変化させることが可能な残基のことであり、一方、「必須」アミノ酸残基は生物学的活性のために必要である。変異させるアミノ酸残基は、アミノ酸側鎖の特性を保存可能な別の残基によって置換されることが好ましい(保存的アミノ酸置換として知られる過程)。本明細書において、「保存的アミノ酸置換」という語句は、化学的に類似した側鎖を有するアミノ酸残基による、あるアミノ酸残基の置換を指す。類似した側鎖を有するアミノ酸残基の群は当技術分野で定義されている。アミノ酸の群の例には、以下を有するアミノ酸が含まれる:塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電の極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分枝側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)。アミノ酸のグループ化のさらなる例には、以下の鎖特性、特徴および/または官能基もしくは機能的特徴を共通して有する側鎖が挙げられる:疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖(G、A、V、L、I、P);水酸基含有側鎖(S、T、Y);イオウ原子含有側鎖(C、M);カルボン酸およびアミド含有側鎖(D、N、E、Q);塩基含有側鎖(R、K、H);および芳香族含有側鎖(H、F、Y、W)。括弧内の文字はアミノ酸の一文字略号を示すことに注意されたい。変異させうるアミノ酸の数は、生物学的に意味のある活性が維持される限り、特に限定されない。一般に、最大で約50個のアミノ酸を変異させることができ、好ましくは最大で約30個のアミノ酸、より好ましくは最大で約10個のアミノ酸、さらにより好ましくは最大で約3〜5個のアミノ酸を変異させることができる。同様に、変異の部位も、変異が生物学的に意味のある活性を破壊する結果とならない限り、特に限定されない。または、変異の数は典型的には、全アミノ酸の30%もしくはそれ未満、または20%もしくはそれ未満、または10%もしくはそれ未満に対応し、好ましくは全アミノ酸の5%もしくはそれ未満、または3%もしくはそれ未満、より好ましくは全アミノ酸の2%もしくはそれ未満、または1%またはそれ未満に対応する。
【0054】
A5657またはB9769タンパク質のアミノ酸配列に1つまたは複数のアミノ酸残基が付加されたポリペプチドの一例は、A5657またはB9769タンパク質を含む融合タンパク質である。融合タンパク質とは、A5657またはB9769タンパク質と他のペプチドまたはタンパク質との融合物のことであり、これは本発明に含まれる。融合タンパク質は、本発明のA5657またはB9769タンパク質をコードするDNAを他のペプチドまたはタンパク質をコードするDNAとフレームが合致するように連結し、この融合DNAを発現ベクターに挿入して、それを宿主において発現させるといった当業者に周知の技法によって作製しうる。本発明のタンパク質と融合させるペプチドまたはタンパク質には制限はない。
【0055】
本発明のタンパク質と融合させるペプチドとして用いうる既知のペプチドには、例えば、FLAG(Hopp et al., Biotechnology 6:1204-10 (1988))、6個のHis(ヒスチジン)残基を含む6xHis、10xHis、インフルエンザ凝集素(HA)、ヒトc-myc断片、VSP-GP断片、p18HIV断片、T7タグ、HSVタグ、Eタグ、SV40T抗原断片、lckタグ、α-チューブリン断片、Bタグ、プロテインC断片などが含まれる。本発明のタンパク質と融合させうるタンパク質の例には、GST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)、インフルエンザ凝集素(HA)、免疫グロブリン定常領域、β-ガラクトシダーゼ、MBP(マルトース結合タンパク質)などが含まれる。
【0056】
融合タンパク質は、上に考察したように融合ペプチドまたは融合タンパク質をコードする市販のDNAと、本発明のポリペプチドをコードするDNAとを融合させ、作製された融合DNAを発現させることによって作製しうる。
【0057】
機能的に同等なポリペプチドを単離するための当技術分野で知られた代替的な方法には、従来のハイブリダイゼーション技術が挙げられる(Sambrook et al., 「Molecular Cloning」2nd ed., 9.47-9.58, Cold Spring Harbor Lab. Press (1989))。当業者は、A5657またはB9769タンパク質をコードするDNA配列(すなわち、SEQ ID NO:1または3)の全体または部分に対して高い相同性を有するDNAを容易に単離して、単離されたDNAからA5657またはB9769タンパク質と機能的に同等なポリペプチドを単離することができる。本発明のポリペプチドには、A5657またはB9769タンパク質をコードするDNA配列の全体または部分とハイブリダイズするDNAによってコードされ、そしてA5657またはB9769タンパク質と機能的に同等なポリペプチドが含まれる。これらのポリペプチドには、ヒト由来のタンパク質に対応する哺乳動物の相同体(例えば、サル、ラット、ウサギ、およびウシの遺伝子によってコードされるポリペプチド)が含まれる。
【0058】
A5657またはB9769タンパク質と機能的に同等なポリペプチドをコードするDNAを単離するためのハイブリダイゼーションの条件は、当業者によって慣行的に選択されうる。例えば、30分間またはそれ以上にわたる68℃でのプレハイブリダイゼーションを「Rapid-hyb緩衝液」(Amersham LIFE SCIENCE)を用いて行い、標識したプローブを添加した上で、1時間またはそれ以上にわたって68℃で加温することによって、ハイブリダイゼーションを行ってもよい。それに続く洗浄段階は、例えば、低ストリンジェント条件下で行いうる。低ストリンジェント条件とは、例えば、42℃、2X SSC、0.1%SDS、または好ましくは50℃、2X SSC、0.1%SDSのことである。より好ましくは、高ストリンジェント条件を用いる。高ストリンジェント条件とは、例えば、室温の2X SSC、0.01%SDS中での20分間の洗浄を3回行った後に、37℃の1x SSC、0.1%SDS中での20分間の洗浄を3回行い、50℃の1x SSC、0.1%SDS中での20分間の洗浄を2回行うことである。しかし、温度および塩濃度などのいくつかの要因はハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を及ぼすと考えられ、当業者は必要なストリンジェンシーを得るためにこれらの要因を適切に選択することができる。
【0059】
ハイブリダイゼーションの代わりに、遺伝子増幅法、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を、A5657またはB9769タンパク質と機能的に同等なポリペプチドをコードするDNAを、タンパク質をコードするDNAの配列情報(SEQ ID NO:1または3)に基づいて合成したプライマーを用いて単離するために用いることもできる。
【0060】
以上のハイブリダイゼーション法または遺伝子増幅法によって単離されたDNAによってコードされる、A5657またはB9769タンパク質と機能的に同等なポリペプチドは、通常、A5657またはB9769タンパク質のアミノ酸配列に対して高い相同性を有する。本明細書において「高い相同性」とは一般に、40%またはそれ以上、好ましくは60%またはそれ以上、より好ましくは80%またはそれ以上、さらにより好ましくは85%、90%、または95%、またはそれ以上の相同性を指す。ポリペプチドの相同性は、「Wilbur and Lipman, Proc Natl Acad Sci USA 80:726-30 (1983)」中のアルゴリズムに従って決定することができる。
【0061】
本発明のポリペプチドは、その生産のために用いられる細胞もしくは宿主、または利用する精製方法に応じて、アミノ酸配列、分子量、等電点、糖鎖の有無または形態にはばらつきがあってもよい。それにもかかわらず、本発明のA5657またはB9769タンパク質の機能と等価な機能を有する限り、本発明の範囲に含まれる。
【0062】
本発明のポリペプチドは、当業者に周知の方法により、組換えタンパク質として調製することもでき、または天然タンパク質として調製することもできる。組換えタンパク質は、本発明のポリペプチドをコードするDNA(例えば、SEQ ID NO:1または3のヌクレオチド配列を含むDNA)を適切な発現ベクターに挿入し、そのベクターを適切な宿主細胞に導入して抽出物を入手した上で、抽出物をクロマトグラフィー、例えばイオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、ゲル濾過、もしくは本発明のタンパク質に対する抗体を固定したカラムを用いるアフィニティークロマトグラフィーにかけることによって、または上述のカラムの複数を組み合わせることによってポリペプチドを精製することにより、調製することができる。同様に、本発明のポリペプチドを宿主細胞(例えば、動物細胞および大腸菌)の内部でグルタチオン-S-トランスフェラーゼタンパク質との融合タンパク質として、または多数のヒスチジンを追加した組換えタンパク質として発現させる場合には、発現した組換えタンパク質をグルタチオンカラムまたはニッケルカラムを用いて精製することができる。また、本発明のポリペプチドをc-myc、多数のヒスチジン、またはFLAGで標識したタンパク質として発現させる場合には、それぞれc-myc、His、またはFLAGに対する抗体を用いてそれを検出して精製することができる。
【0063】
融合タンパク質を精製した後に、必要に応じてトロンビンまたは第Xa因子で切断することにより、目的のポリペプチド以外の領域を除外することも可能である。天然のタンパク質は、当業者に知られた方法によって、例えば、下記のA5657またはB9769タンパク質と結合する抗体を結合させたアフィニティーカラムを、本発明のポリペプチドを発現する組織または細胞の抽出物と接触させることによって単離することができる。抗体はポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよい。
【0064】
本発明はまた、本発明のポリペプチドの部分(partial)ペプチドも含む。部分ペプチドは、本発明のポリペプチドに対して特異的なアミノ酸配列を有し、少なくとも7アミノ酸、好ましくは8アミノ酸またはそれ以上、より好ましくは9アミノ酸またはそれ以上からなる。部分ペプチドは、例えば、本発明のポリペプチドに対する抗体を作製するために、本発明のポリペプチドと結合する化合物をスクリーニングするために、および本発明のポリペプチドの促進物質または阻害物質をスクリーニングするために、用いることができる。
【0065】
本発明の部分ペプチドは、遺伝子操作により、既知のペプチド合成方法により、または本発明のポリペプチドを適切なペプチダーゼで消化することにより、作製可能である。ペプチド合成のためには、例えば、固相合成または液相合成を用いうる。
【0066】
さらに、本発明は、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドも提供する。本発明のポリペプチドの例として、SEQ ID NO:1または3のヌクレオチド配列を含むDNAが挙げられる。本発明のポリヌクレオチドは、上記のように本発明のポリペプチドのインビボもしくはインビトロでの産生のために用いることができ、または本発明のタンパク質をコードする遺伝子の遺伝的異常に起因する疾患に対する遺伝子治療のために用いることもできる。mRNA、RNA、cDNA、ゲノムDNA、化学合成されたポリヌクレオチドを含む、本発明のポリヌクレオチドのいかなる形態を、それが本発明のポリペプチドをコードする限りは、用いることができる。本発明のポリヌクレオチドには、所定のヌクレオチド配列を含むDNAのほかに、その縮重配列も、結果として生じるDNAが本発明のポリペプチドをコードする限りは含まれる。
【0067】
本発明のポリヌクレオチドは単離されていることが好ましい。本明細書で用いる場合、「単離されたポリヌクレオチド」とは、その本来の環境(例えば、天然に存在するならば天然の環境)から取り出され、このためその天然の状態から「人為的に」変化させられており、その構造が、どの天然の核酸の構造とも同一でないか、または、3つの遺伝子を上回る範囲にわたる天然のゲノム核酸のいずれの断片の構造とも同一でない、ポリヌクレオチドのことである。このため、この用語には、例えば(a)その断片に天然のゲノムDNA分子の部分配列を有するDNAであって、ゲノム中でその核酸に本来隣接しているコード配列(すなわち、その核酸の5'末端および3'末端に位置する配列)は除かれており、自然下で存在する生物のゲノム中でその分子の部分と隣接しているコード配列のいずれとも隣接していない、DNA;(b)結果として生じた分子がどの天然のベクターまたはゲノムDNAとも同一でないような様式で、ベクター中または原核生物もしくは真核生物のゲノムDNA中に組み入れられた核酸;(c)cDNA、ゲノム断片、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって生じた断片または制限断片などの個々の分子;および(d)ハイブリッド遺伝子の部分である組換えヌクレオチド配列、すなわち融合タンパク質をコードする遺伝子、が含まれる。この定義から明確に除外されるものには、cDNAライブラリーまたはゲノムDNAライブラリーなどのDNAライブラリー中に存在するような、種々のDNA分子、トランスフェクト細胞、または細胞クローンといった、特性が未決定の無作為混合物中に存在する核酸がある。
【0068】
本発明のポリヌクレオチドは、当業者に周知の方法によって単離できる。例示的な方法としては、上記のハイブリダイゼーション法(E.M. Southern, J. Mol. Biol. 1975, 98:503-517)のほか、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法(R.K. Saiki et al., Science 1985, 230:1350-1354;R.K. Saiki et al., Science 1988, 239:487-491)が挙げられる。より具体的には、当業者は一般に、SEQ ID NO:1および3に示されたポリヌクレオチドまたはそれらの部分をプローブとして用いるか、またはSEQ ID NO:1および3に示されたポリヌクレオチドと特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いて、SEQ ID NO:1および3に示されたポリヌクレオチドに対して高度に相同なポリヌクレオチドを他の動物(ヒトなど)から単離することができる。さらに、ハイブリダイゼーション法またはPCR法によって単離可能であって、SEQ ID NO:1および3に示されたポリヌクレオチドとハイブリダイズするポリヌクレオチドも、本発明のポリヌクレオチドに含まれる。
【0069】
上記のようなポリヌクレオチドを単離するためのハイブリダイゼーション反応は、ストリンジェントな条件下で行われることが好ましい。ハイブリダイゼーションは、ある程度のミスマッチを含む核酸配列間でのハイブリダイゼーション複合体の形成を許容する緩衝液を用いて行うことができる。高ストリンジェンシーでは、ハイブリダイゼーション複合体は、核酸分子がほぼ完全に相補的である場合にのみ安定に保たれると考えられる。cDNAのG+C含量、塩濃度、および温度を含む多くの要因が、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する。例えば、塩の濃度を低下させることにより、またはハイブリダイゼーション温度を高めることにより、ストリンジェンシーを高めることができる。ハイブリダイゼーションおよび洗浄に関する温度条件はストリンジェンシーに大きな影響を及ぼすが、これは融解温度(Tm)を用いて調節することができる。Tmは、ハイブリダイズさせる塩基対を構成するヌクレオチドの比、およびハイブリダイゼーション溶液の組成(塩、ホルムアミドおよびドデシル硫酸ナトリウムの濃度)に応じて変化する。膜に基づくある種のハイブリダイゼーションのために用いられる溶液では、ホルムアミドなどの有機溶媒の添加により、反応を低温で生じさせることが可能になる。したがって、関連パラメーターを考慮することで、当業者は、経験または実験に基づく適したストリンジェンシーを実現するための適切な条件を選択することができる。
【0070】
ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例には、以下を含む条件が含まれる:6M尿素、0.4%SDS、および0.5×SSC、ならびにこれらの条件と等価なストリンジェンシーを有する条件。ハイブリダイゼーションをよりストリンジェンシーの高い条件下、例えば、6M尿素、0.4%SDS、および0.1×SSCの下で行った場合には、より高い相同性を有するポリヌクレオチドが単離されることが予想される。上記のようなストリンジェンシーのより高い条件下で単離されるポリヌクレオチドは、SEQ ID NO:2および4に示されたアミノ酸配列に対してアミノ酸レベルでより高度の相同性を有するポリペプチドをコードすると考えられる。上記のような「高度の相同性」とは、全アミノ酸配列における同一性が、少なくとも40%またはそれ以上、好ましくは60%またはそれ以上、より好ましくは80%またはそれ以上、さらにより好ましくは85%、90%、または95%またはそれ以上であることを指す。
【0071】
本発明はまた、SEQ ID NO:1および3に示されたポリヌクレオチドの変異型対立遺伝子も含む。対立遺伝子とは、特定の染色体または連鎖構造における同一の座位を占め、その座位の他の対立遺伝子とは1つまたは複数の変異部位の点で異なる、2つまたはそれ以上の代替的な遺伝子形態のうちの1つのことである。したがって、変異型対立遺伝子は、遺伝子の正常配列中に変化を含む。遺伝子の完全シークエンシングにより、ある所定の遺伝子に対して多数の(時には数百もの)変異型対立遺伝子がしばしば同定される。変異型対立遺伝子は、元のポリヌクレオチドと高い同一性(%)を有し、その違いは例えば、100塩基当たり約3塩基までである。変異型対立遺伝子は一般に、実質的に同一なタンパク質をコードし、結果として生じる表現型に通常は影響を及ぼさない。特定のポリヌクレオチドの変異型対立遺伝子は、例えば上述のハイブリダイゼーション法により、慣行的に入手可能である。
【0072】
変異型対立遺伝子の例には遺伝子多型が含まれる。多型は、個体間に存在するDNA配列に違いを含む。集団の1%を上回って存在する遺伝的差異は、遺伝子連鎖解析のために有用な多型とみなされる。ある種の多型(例えば、制限断片長多型(RFLP))は、制限酵素などの特異的酵素によって切断されるDNA断片サイズにおいて個体間での差異をもたらす。RFLPを生じる多型配列は、物理的地図および遺伝子連鎖地図のいずれの上でもマーカーとして有用である。普遍的な遺伝子多型の別の例は「一塩基多型(SNP)」である。SNPは、置換、挿入または欠失の結果としての単一塩基の変化を含む。その変化は保存的(プリンがプリンに)であることも非保存的(プリンがピリミジンに)であることもあり、コードされるアミノ酸の変化を引き起こすことも引き起こさないこともある。このような変化により、ある特定の疾患または状態に個体が罹患しやすくなる可能性がある。
【0073】
本発明のポリヌクレオチドは、当業者に知られた方法によって作製することができる。例えば、本発明のポリヌクレオチドは、本発明のポリペプチドを発現する細胞からcDNAライブラリーを作製し、本発明のDNA(例えば、SEQ ID NO:1または3)の部分配列をプローブとして用いてハイブリダイゼーションを行うことによって作製することができる。cDNAライブラリーは、例えば、Sambrookら、「Molecular Cloning」、Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)に記載された方法によって作製しうる;または、市販のcDNAライブラリーを用いてもよい。cDNAライブラリーは、本発明のポリペプチドを発現する細胞からRNAを抽出し、本発明のDNA(例えば、SEQ ID NO:1または3)の配列に基づいてオリゴDNAを合成し、オリゴDNAをプライマーとして用いてPCRを行い、そして本発明のタンパク質をコードするcDNAを増幅することによって作製することもできる。
【0074】
さらに、得られたcDNAのヌクレオチドのシークエンシングを行うことにより、cDNAによりコードされる翻訳領域を慣行的に決定し、本発明のポリペプチドのアミノ酸配列を容易に得ることができる。その上、得られたcDNAまたはその部分を用いてゲノムDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、ゲノムDNAを単離することができる。
【0075】
得られたmRNAは、逆転写酵素を用いてcDNAを合成するために用いることができる。cDNAは、AMV逆転写酵素第一鎖cDNA合成キット(生化学工業)などの市販のキットを用いて精製しうる。または、本明細書に記載のプライマー等、5'-Ampli FINDER RACEキット(Clontech)、およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いる5'-RACE法(Frohman et al., Proc Natl Acad Sci USA 85:8998-9002 (1988);Belyavsky et al., Nucleic Acids Res 17:2919-32 (1989))に従って、cDNAの合成および増幅を行うこともできる。
【0076】
所望のDNA断片をPCR産物から調製し、ベクターDNAと連結することができる。この組換えベクターを大腸菌などの形質転換に用い、選択したコロニーから所望の組換えベクターを調製する。所望のDNAのヌクレオチド配列を、ジデオキシヌクレオチド鎖終結法(dideoxynucleotide chain termination)などの従来の方法によって検証する。
【0077】
本発明のポリヌクレオチドのヌクレオチド配列を、発現のために用いる宿主におけるコドン使用頻度を考慮に入れることにより、より効率的に発現されるように設計することもできる(Grantham et al., Nucleic Acids Res 9:43-74 (1981))。本発明のポリヌクレオチドの配列を、市販のキットまたは従来の方法によって改変することもできる。例えば、制限酵素による消化、合成オリゴヌクレオチドもしくは適切なポリヌクレオチド断片の挿入、リンカーの付加、または開始コドン(ATG)および/もしくは終止コドン(TAA、TGAまたはTAG)の挿入によって配列を改変することができる。
【0078】
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチドが内部に挿入されたベクターも提供する。本発明のベクターは、宿主細胞において本発明のポリヌクレオチド、特にDNAを保存し、本発明のポリペプチドを発現させる、または遺伝子治療を目的として本発明のポリヌクレオチドを投与するのに有用である。
【0079】
大腸菌が宿主細胞であって、ベクターを大腸菌(例えば、JM109、DH5α、HB101、またはXL1Blue)の内部で大量に増幅および産生させる場合には、ベクターは、大腸菌内で増幅させるための「ori」、および、形質転換された大腸菌を選択するためのマーカー遺伝子(例えば、アンピシリン、テトラサイクリン、カナマイシン、クロラムフェニコールなどの薬剤によって選択される薬剤抵抗性遺伝子)を有する必要がある。例えば、M13シリーズのベクター、pUCシリーズのベクター、pBR322、pBluescript、pCR-Scriptなどを用いることができる。さらに、上記のベクター同様、pGEM-T、pDIRECT、およびpT7も、cDNAのサブクローニングおよび抽出のために用いることができる。本発明のタンパク質の産生のためにベクターを用いる場合には、発現ベクターが特に有用である。例えば、大腸菌内で発現させようとする発現ベクターは、大腸菌内で増幅させるための上記の特徴を有する必要がある。JM109、DH5α、HB101、またはXL1Blueなどの大腸菌を宿主細胞として用いる場合には、ベクターは、大腸菌内で所望の遺伝子を効率的に発現しうるプロモーター、例えば、lacZプロモーター(Ward et al., Nature 341:544-6 (1989);FASEB J 6:2422-7 (1992))、araBプロモーター(Better et al., Science 240:1041-3 (1988))、またはT7プロモーターなどを有する必要がある。その点に関しては、例えば、pGEX-5X-1(Pharmacia)、「QIAexpressシステム」(Qiagen)、pEGFPおよびpET(この場合、宿主はT7RNAポリメラーゼを発現するBL21であることが好ましい)を上記のベクターの代わりに用いてもよい。さらに、ベクターは、ポリペプチド分泌のためのシグナル配列をも含みうる。大腸菌の周辺質(periplasm)へのポリペプチド分泌を指令するシグナル配列の一例は、pelBシグナル配列(Lei et al., J Bacteriol 169:4379 (1987))である。ベクターを標的宿主細胞に導入するための手段には、例えば、塩化カルシウム法および電気穿孔法が含まれる。
【0080】
大腸菌以外に、例えば、哺乳動物由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3(Invitrogen)およびpEF-BOS(Nucleic Acids Res 18(17):5322 (1990))、pEF、pCDM8)、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば、「Bac-to-BACバキュロウイルス発現系」(ギブコBRL(GIBCO BRL))、pBacPAK8)、植物由来の発現ベクター(例えば、pMH1、pMH2)、動物ウイルス由来の発現ベクター(例えば、pHSV、pMV、pAdexLcw)、レトロウイルス由来の発現ベクター(例えば、pZIpneo)、酵母由来の発現ベクター(例えば、「Pichia発現キット」(Invitrogen)、pNV11、SP-Q01)、および枯草菌(Bacillus subtilis)由来の発現ベクター(例えば、pPL608、pKTH50)を、本発明のポリペプチドの産生のために用いることもできる。
【0081】
ベクターをCHO細胞、COS細胞またはNIH3T3細胞などの動物細胞内で発現させるためには、ベクターは、この種の細胞における発現のために必要なプロモーター、例えば、SV40プロモーター(Mulligan et al., Nature 277:108 (1979))、MMLV-LTRプロモーター、EF1αプロモーター(Mizushima et al., Nucleic Acids Res 18:5322 (1990))、CMVプロモーターなどを有する必要があるほか、形質転換体を選択するためのマーカー遺伝子(例えば、薬剤(例えば、ネオマイシン、G418)によって選択される薬剤抵抗性遺伝子)を有することが好ましい。これらの特徴を備えた既知のベクターの例には、例えば、pMAM、pDR2、pBK-RSV、pBK-CMV、pOPRSV、およびpOP13が含まれる。
【0082】
さらに、本方法を、遺伝子を安定的に発現させるため、およびそれと同時に、細胞内の遺伝子のコピー数を増幅するために用いることもできる。例えば、相補的DHFR遺伝子を含むベクター(例えば、pCHO I)を、核酸合成経路が欠失したCHO細胞に導入した後に、メトトレキサート(MTX)によって増幅することができる。さらに、遺伝子の一過性発現の場合には、SV40の複製起点を含むベクター(pcDなど)を、SV40T抗原を発現する遺伝子を染色体上に含むCOS細胞に形質転換導入する方法を用いることができる。
【0083】
以上のようにして得られた本発明のポリペプチドは、宿主細胞の内部または外部(培地など)から単離して、実質的に純粋な均一なポリペプチドとして精製することができる。所定のポリペプチドに言及して本明細書で用いられる「実質的に純粋な」とは、そのポリペプチドが夾雑物、例えば他の生体高分子、培養液(組換えにより産生される場合)、または化学的前駆体(化学的に合成される場合)などから実質的に遊離していることを意味する。実質的に純粋なポリペプチドは、乾燥重量にして純度が少なくとも約75%、好ましくは少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、90%、95%、または99%(例えば、少なくとも80%、85%、95%、または99%)である。純度は任意の適切な標準的方法により、例えばカラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、またはHPLC分析によって測定しうる。
【0084】
例えば、カラムクロマトグラフィー、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動、透析、および再結晶化を適切に選択し、組み合わせて、ポリペプチドの単離および精製を行ってもよい。
【0085】
クロマトグラフィーの例には、例えば、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィーなどが含まれる(「Strategies for Protein Purification and Characterization:A Laboratory Course Manual」Ed. Daniel R. Marshak et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1996))。これらのクロマトグラフィーを、HPLCおよびFPLCなどの液体クロマトグラフィーによって行ってもよい。したがって、本発明は、以上の方法によって調製された高純度のポリペプチドを提供する。
【0086】
本発明のポリペプチドを、精製の前または後に適切なタンパク質修飾酵素でそれを処理することにより、随意に改変すること、または部分的に欠失させることも可能である。有用なタンパク質修飾酵素には、トリプシン、キモトリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、タンパク質キナーゼ、グルコシダーゼなどが非制限的に含まれる。
【0087】
抗体
本発明は、本発明のポリペプチドと結合する抗体をさらに提供する。本発明の抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体などの任意の形態で用いることができ、これにはウサギなどの動物を本発明のポリペプチドで免疫することによって得られる抗血清、すべてのクラスのポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体、ヒト抗体、ならびに遺伝子組換えによって作製されたヒト化抗体が含まれる。
【0088】
抗体を得るための抗原として用いられる本発明のポリペプチドは、任意の動物種に由来するものでよいが、好ましくはヒト、マウス、またはラットなどの哺乳動物、より好ましくはヒトに由来する。ヒト由来のポリペプチドは、本明細書に開示するヌクレオチドまたはアミノ酸配列から入手しうる。
【0089】
本発明によれば、免疫化抗原として用いるポリペプチドは、完全長タンパク質でもよく、またはタンパク質の部分ペプチドでもよい。部分ペプチドは、例えば、本発明のポリペプチドのアミノ(N)末端またはカルボキシ(C)末端断片を含みうる。
【0090】
いかなる哺乳動物も抗原で免疫することができるが、細胞融合に用いる親細胞との適合性を考慮に入れることが好ましい。一般に、齧歯目(Rodentia)、ウサギ目(Lagomorpha)、および霊長目(Primate)の動物が好ましくは用いられる。齧歯目の動物には、限定されないが、例えばマウス、ラット、およびハムスターが含まれる。ウサギ目の動物には、限定されないが、例えばウサギが含まれる。霊長目の動物には、限定されないが、例えば狭鼻猿下目(Catarrhini)(旧世界サル)のサル、例えばカニクイザル(Macaca fascicularis)、アカゲザル、マントヒヒ(sacred baboon)およびチンパンジーが含まれる。
【0091】
動物を抗原で免疫するための方法は当技術分野で周知である。抗原の腹腔内注射または皮下注射は、哺乳動物の免疫化のための標準的な方法である。より具体的に述べると、抗原を適切な量のリン酸緩衝食塩水(PBS)、生理食塩水などで希釈し、懸濁させる。必要に応じて、抗原懸濁液を、フロイント完全アジュバントなどの適切な量の標準的アジュバントと混合して乳濁液とした上で哺乳動物に対して投与してもよい。その後に、適切な量のフロイント不完全アジュバントと混合した抗原の投与を4〜21日毎に数回行うことが好ましい。適切な担体を免疫化のために用いてもよい。上記のような免疫化の後に、血清を、所望の抗体の量の増加に関して標準的方法によって検討する。
【0092】
本発明のポリペプチドに対するポリクローナル抗体を、血清中の所望の抗体の増加に関して検討した免疫後の哺乳動物から血液を採取し、従来の任意の方法によって血液から血清を分離することによって調製することもできる。ポリクローナル抗体にはポリクローナル抗体を含む血清が含まれ、ポリクローナル抗体を含む画分を血清から単離することもできる。免疫グロブリンGまたはMは、本発明のポリペプチドのみを認識する画分から、例えば、本発明のポリペプチドを結合させたアフィニティーカラムを用いた上で、この画分をプロテインAカラムまたはプロテインGカラムを用いてさらに精製して、調製することができる。
【0093】
モノクローナル抗体を調製するためには、上記の通りに血清中の所望の抗体のレベル上昇について確かめた上で、抗原で免疫した哺乳動物から免疫細胞を収集し、細胞融合に供する。細胞融合に用いる免疫細胞は脾臓から入手することが好ましい。上記の免疫細胞と融合させるためのその他の好ましい親細胞には、例えば、哺乳動物の骨髄腫細胞、より好ましくは、薬剤による融合細胞の選択のための獲得特性を有する骨髄腫細胞が含まれる。
【0094】
上記の免疫細胞および骨髄腫細胞は、既知の方法、例えば、Milsteinら(Galfre and Milstein, Methods Enzymol 73:3-46 (1981))の方法に従って融合させることができる。
【0095】
細胞融合によって結果として得られたハイブリドーマは、それらをHAT培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジンを含む培地)などの標準的な選択培地中で培養することによって選択しうる。細胞培養は通常、HAT培地中で、所望のハイブリドーマを除く他のすべての細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な期間である、数日間から数週間にわたって続けられる。その後に、所望の抗体を産生するハイブリドーマ細胞のスクリーニングおよびクローニングのために標準的な限界希釈を行う。
【0096】
ハイブリドーマ調製用に非ヒト動物を抗原で免疫する上記の方法に加えて、EBウイルスに感染したリンパ球などのヒトリンパ球を、ポリペプチド、ポリペプチド発現細胞、またはそれらの可溶化物によりインビトロで免疫することもできる。続いて、免疫後のリンパ球を、無限に分裂しうるU266などのヒト由来の骨髄腫細胞と融合させ、ポリペプチドと結合しうる所望のヒト抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる(特開昭63-17688号)。
【0097】
得られたハイブリドーマを続いてマウスの腹腔内に移植し、腹水を抽出する。得られたモノクローナル抗体は、例えば、硫酸アンモニウム沈殿、プロテインAもしくはプロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、または本発明のポリペプチドを結合させたアフィニティーカラムによって精製しうる。本発明の抗体は、本発明のポリペプチドの精製および検出のためだけでなく、本発明のポリペプチドのアンタゴニストの候補としても用いることができる。さらに、この抗体を、本発明のポリペプチドと関連のある疾患に対する抗体療法に適用することもできる。得られた抗体を人体に対して投与する場合には(抗体療法)、免疫原性を抑えるためにヒト抗体またはヒト化抗体が好ましい。
【0098】
例えば、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物は、ポリペプチド、ポリペプチド発現細胞、またはそれらの可溶化物から選択される抗原で免疫することができる。続いて、抗体産生細胞を動物から採取し、骨髄腫細胞と融合させてハイブリドーマを得、そのハイブリドーマからポリペプチドに対するヒト抗体を調製することができる(国際公開公報第92-03918号、国際公開公報第94-02602号、国際公開公報第94-25585号、国際公開公報第96-33735号、および国際公開公報第96-34096号を参照のこと)。
【0099】
または、免疫したリンパ球のような、抗体を産生する免疫細胞を、癌遺伝子によって不死化させ、モノクローナル抗体の調製に用いることもできる。
【0100】
このようにして得られるモノクローナル抗体は、遺伝子操作技術を用いて組換えにより調製してもよい(例えば、Borrebaeck and Larrick、「Therapeutic Monoclonal Antibodies」、MacMillan Publishers LTD(英国)より刊行(1990)、を参照)。例えば、抗体をコードするDNAを、抗体を産生するハイブリドーマまたは免疫リンパ球などの免疫細胞からクローニングして適切なベクターに挿入した上で、宿主細胞に導入し、組換え抗体を調製することができる。本発明はまた、上記のようにして調製した組換え抗体も提供する。
【0101】
さらに、本発明の抗体は、本発明のポリペプチドの1つまたは複数と結合する限り、抗体の断片または修飾抗体であってもよい。例えば、抗体断片は、Fab、F(ab')2、Fv、またはH鎖およびL鎖由来のFv断片を適切なリンカーによって連結した一本鎖Fv(scFv)であってもよい(Huston et al., Proc Natl Acad Sci USA 85:5879-83 (1988))。より具体的に述べると、パパインまたはペプシンなどの酵素で抗体を処理することによって抗体断片を作製することもできる。または、抗体断片をコードする遺伝子を構築して発現ベクターに挿入した上で、適切な宿主細胞において発現させてもよい(例えば、Co et al., J Immunol 152:2968-76 (1994);Better and Horwitz, Methods Enzymol 178:476-96 (1989);Pluckthun and Skerra, Methods Enzymol 178:497-515 (1989);Lamoyi, Methods Enzymol 121:652-63 (1986);Rousseaux et al., Methods Enzymol 121:663-9 (1986);Bird and Walker, Trends Biotechnol 9:132-7 (1991)を参照されたい)。
【0102】
抗体を、ポリエチレングリコール(PEG)などの種々の分子と結合させることによって修飾することもできる。本発明は、このような修飾抗体を提供する。修飾抗体は抗体を化学的に修飾することによって得ることができる。これらの修飾方法は当技術分野で慣例的である。
【0103】
または、本発明の抗体を、非ヒト抗体由来の可変領域とヒト抗体の定常領域とのキメラ抗体として、または、非ヒト抗体由来の相補性決定領域(CDR)、ヒト抗体由来のフレームワーク領域(FR)および定常領域を含むヒト化抗体として入手することもできる。このような抗体は、既知の技術を用いて調製可能である。
【0104】
以上のようにして得られた抗体を均一になるまで精製してもよい。例えば、抗体を、一般的なタンパク質に対して用いられる分離法および精製法に従って分離および精製することができる。例えば、アフィニティークロマトグラフィーなどのカラムクロマトグラフィー、フィルター、限外濾過、塩析、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動など(しかし、これらには限定されない)を適切に選択・組み合わせることにより、抗体を分離および単離することができる(「A Laboratory Manual」Ed. Harlow and David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory (1988))。プロテインAカラムおよびプロテインGカラムはアフィニティーカラムとして用いうる。用いられるプロテインAカラムの例には、例えば、ハイパーD、POROSおよびセファロースF.F.(Pharmacia)が含まれる。
【0105】
クロマトグラフィーの例には、アフィニティークロマトグラフィーを除いて、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィーなどが含まれる(「Strategies for Protein Purification and Characterization:A Laboratory Course Manual」Ed. Daniel R. Marshak et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1996))。クロマトグラフィーの手順を、HPLCおよびFPLCなどの液相クロマトグラフィーによって行うこともできる。
【0106】
本発明の抗体の抗原結合活性を測定するには、例えば、吸光度、酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA)、酵素免疫アッセイ法(EIA)、放射免疫アッセイ法(RIA)および/または免疫蛍光検査法を用いうる。ELISAの場合には、本発明の抗体をプレート上に固定化し、本発明のポリペプチドをプレートに対して添加した後に、抗体産生細胞の培養上清または精製抗体といった所望の抗体を含む試料を添加する。続いて、一次抗体を認識し、アルカリホスファターゼなどの酵素で標識された二次抗体を添加し、プレートをインキュベートする。次に、洗浄の後に、p-ニトロフェニルリン酸などの酵素基質をプレートに添加して、試料の抗原結合活性を評価するために吸光度を測定する。C末端断片またはN末端断片といったポリペプチドの断片を、抗体の結合活性を評価するための抗原として用いてもよい。BIAcore(Pharmacia)を、本発明による抗体の活性の評価に用いてもよい。
【0107】
乳癌の診断
本発明の文脈において、BRCは、被験細胞集団(すなわち、患者由来の生物学的試料)からの1つまたは複数のBRC核酸の発現レベルを測定することによって診断される。好ましくは被験細胞集団は、上皮細胞、例えば、乳房組織から得られた細胞を含む。遺伝子発現を、血液または他の体液(尿など)から測定することもできる。他の生物学的試料をタンパク質レベルの測定のために用いることもできる。例えば、診断しようとする対象から得た血液または血清中のタンパク質レベルを、イムノアッセイまたは従来の生物学的アッセイによって測定することができる。
【0108】
1つまたは複数のBRC関連遺伝子、例えば、A5657、B9769、およびC7965の発現を、被験細胞試料または生物学的試料において決定し、アッセイした1つまたは複数のBRC関連遺伝子に付随する正常対照発現レベルと比較する。正常対照レベルとは、BRCに罹患していないことが判明している集団で一般に認められるBRC関連遺伝子の発現プロファイルのことである。患者由来の組織試料における1つまたは複数のBRC関連遺伝子の発現レベルに変化(例えば、上昇)があることにより、対象がBRCに罹患しているかBRCを発症するリスクを有することが示される。例えば、被験集団におけるBRC関連遺伝子A5657、B9769、およびC7965のうち1つまたは複数の発現が正常対照レベルと比較して上昇していることにより、その対象がBRCに罹患しているかBRCを発症するリスクを有することが示される。
【0109】
被験集団におけるBRC関連遺伝子のうち1つまたは複数の発現レベルが正常対照レベルと比較して上昇していることにより、その対象がBRCに罹患しているかBRCを発症するリスクを有することが示される。例えば、一群のBRC関連遺伝子(例えば、A5657、B9769、およびC7965)のうち1つ、2つ、または3つが上昇していることにより、その対象がBRCに罹患しているかBRCを発症するリスクを有することが示される。
【0110】
BRC関連遺伝子の発現を阻害する物質の同定
BRC関連遺伝子の発現またはその遺伝子産物の活性を阻害する物質は、BRCに関連して上方制御される遺伝子を発現する被験細胞集団を被験物質と接触させた後に、BRC関連遺伝子の発現レベルまたは活性を決定することによって同定することができる。物質の存在下、BRC関連遺伝子の発現レベルまたはその遺伝子産物の活性レベルが正常対照レベルと比較して(または被験物質の非存在下における発現レベルもしくは活性レベルと比較して)低下していることにより、その物質がBRC関連遺伝子の阻害物質であってBRCを阻害するのに有用であることが示される。
【0111】
被験細胞集団は、BRC関連遺伝子を発現する任意の細胞であってもよい。例えば、被験細胞集団には、乳房組織由来の細胞などの上皮細胞が含まれうる。さらに、被験細胞は癌細胞由来の不死化細胞株であってもよい。または、被験細胞は、BRC関連遺伝子をトランスフェクトされた細胞、またはレポーター遺伝子と機能的に結合したBRC関連遺伝子由来の調節配列(例えば、プロモーター配列)をトランスフェクトされた細胞であってもよい。
【0112】
対象におけるBRCの治療有効性の評価
本明細書で同定された、差次的に発現されるBRC関連遺伝子は、BRCの治療の経過をモニターすることも可能にする。この方法では、BRCに対する治療を受けようとする対象から被験細胞集団を得る。必要に応じて、治療前、治療中、および/または治療後といった種々の時点で被験細胞集団を対象から入手する。続いて、細胞集団におけるBRC関連遺伝子の1つまたは複数の発現を決定し、BRCの状態が判明している細胞を含む参照細胞集団と比較する。本発明の文脈において、参照細胞は、関心対象の治療を受けていない必要がある。
【0113】
参照細胞集団がBRC細胞を含まない場合には、被験細胞集団および参照細胞集団におけるBRC関連遺伝子の発現に類似性があることにより、関心対象の治療が有効であることが示される。しかし、被験集団および正常対照参照細胞集団においてBRC関連遺伝子の発現に差があれば、臨床的な成果または予後がそれほど好ましくないことが示される。同様に、参照細胞集団がBRC細胞を含む場合には、被験細胞集団および参照細胞集団におけるBRC関連遺伝子の発現に差があることにより、関心対象の治療が有効であることが示されるが、被験集団および対照参照細胞集団におけるBRC関連遺伝子の発現に類似性があれば、臨床的な成果または予後がそれほど好ましくないことが示される。
【0114】
さらに、治療後に入手した対象由来の生物学的試料において決定された1つまたは複数のBRC関連遺伝子の発現レベル(すなわち、治療後レベル)を、治療開始前に入手した対象由来の生物学的試料において決定された1つまたは複数のBRC関連遺伝子の発現レベル(すなわち、治療前レベル)と比較することもできる。治療後試料における発現レベルが低下していることによって関心対象の治療が有効であることが示され、一方、治療後試料における発現レベルが上昇しているまたは維持されていることにより、臨床的な成果または予後がそれほど好ましくないことが示される。
【0115】
本明細書で用いる場合、「有効な」という用語は、治療が、対象における、病理学的に上方制御される遺伝子の発現低下、病理学的に下方制御される遺伝子の発現増大、または乳管癌の大きさ、波及度もしくは転移能の低下をもたらすことを指す。関心対象の治療が予防的に適用される場合、「有効な」という用語は、治療が乳房腫瘍の形成を遅延もしくは防止する、または臨床的なBRCの症状を遅延、予防、もしくは軽減することを示す。乳房腫瘍の評価は、標準的な臨床プロトコールを用いて行える。
【0116】
さらに、有効性を、BRCの診断または治療のための任意の既知の方法に付随して判定することもできる。例えば、BRCを、症候性の異常、例えば、体重減少、腹痛、背部痛、食欲不振、悪心、嘔吐、および全身倦怠感、衰弱、および黄疸を特定することによって診断することができる。
【0117】
特定の個体にとって適切なBRC治療用の治療物質の選択
個体における遺伝的構成の差によって、個体が様々な薬剤を代謝する相対的能力に差が起こりうる。対象において代謝されて抗BRC物質として作用する物質は、対象の細胞において、癌性状態に特徴的な遺伝子発現パターンから非癌性状態に特徴的な遺伝子発現パターンへの変化を誘導することによって顕在化しうる。したがって、物質が対象において適したBRC阻害物質であるか否かを決定するために、本明細書に開示される発現差のあるBRC関連遺伝子によって、選択された対象からの被験細胞集団において、治療効果があるまたは予防効果があると推定されるBRC阻害物質が適切かどうかを調べることができる。
【0118】
特定の対象にとって適当であるBRCの阻害物質を同定するために、対象からの被験細胞集団を治療剤に曝露して、BRC関連遺伝子A5657、B9769、およびC7965の一つまたは複数の発現を決定する。
【0119】
本発明の方法における文脈では、被験細胞集団は、BRC関連遺伝子を発現するBRC細胞を含む。好ましくは、被験細胞は上皮細胞である。例えば、被験細胞集団を候補物質の存在下でインキュベートし、被験試料の遺伝子発現パターンを測定して、一つまたは複数の参照プロファイル、例えばBRC参照発現プロファイルまたは非BRC参照発現プロファイルと比較することができる。
【0120】
BRCを含む参照細胞集団と比較して、BRC関連遺伝子A5657、B9769、およびC7965の一つもしくは複数の発現が減少すれば、物質に治療可能性があることを示している。
【0121】
本発明の文脈において、被験物質はいかなる化合物または組成物であってよい。被験物質の例には、限定されないが免疫調節剤が含まれる。
【0122】
治療剤を同定するためのスクリーニングアッセイ
本明細書に開示した、差次的に発現されるBRC関連遺伝子を、BRCを治療するための候補治療剤を同定するのに用いることもできる。本発明の方法は、候補治療剤が、BRC状態に特徴的なBRC関連遺伝子A5657、B9769、およびC7965のうち1つまたは複数の発現プロファイルを、非BRC状態に特徴的な遺伝子発現パターンへと変換させうるか否かを判定することを目的に、候補治療剤をスクリーニングすることを含む。
【0123】
本方法では、細胞を被験物質または複数の被験物質(逐次的にまたは組み合わせで)に対して曝露させ、細胞におけるBRC関連遺伝子A5657、B9769、およびC7965のうち1つまたは複数の発現を測定する。被験集団でアッセイしたBRC関連遺伝子の発現プロファイルを、被験物質に曝露されていない参照細胞集団における同じBRC関連遺伝子の発現レベルと比較する。
【0124】
過剰発現または上方制御される遺伝子の発現を抑制しうる物質は、臨床的に有益な可能性がある。このような物質はさらに、動物または被験対象における乳管癌増殖を防止する能力に関して試験することができる。
【0125】
さらなる態様において、本発明は、BRCの治療における標的となる可能性のある候補物質をスクリーニングするための方法を提供する。以上に詳述したように、マーカー遺伝子の発現レベルまたはそれらの遺伝子産物の活性を制御することにより、BRCの発症および進行を制御することができる。このため、BRCの治療における標的となる可能性のある候補物質を、このような発現レベルおよび活性を癌状態または非癌状態の指標として用いるスクリーニング方法によって同定することができる。本発明の文脈において、このようなスクリーニングは、例えば、以下の段階を含みうる:
a)被験化合物を、A5657、B9769、およびC7965によってコードされるポリペプチドに接触させる段階;
b)ポリペプチドと被験化合物との結合活性を検出する段階;および
c)ポリペプチドと結合する被験化合物を選択する段階。
【0126】
または、本発明のスクリーニング方法は、以下の段階を含みうる:
a)候補化合物を、A5657、B9769、およびC7965からなる群より選択される1つまたは複数のマーカー遺伝子を発現する細胞に接触させる段階;および
b)1つまたは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを候補化合物の非存在下で検出される発現レベルと比較して低下させる候補化合物を選択する段階。
マーカー遺伝子を発現する細胞には、例えば、BRCから樹立された細胞株が含まれる;このような細胞は本発明の上記のスクリーニングに用いることができる。
【0127】
または、本発明のスクリーニング方法は、以下の段階を含みうる:
a)被験化合物を、BRC関連遺伝子A5657、B9769、およびC7965からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドに接触させる段階;
b)段階(a)のポリペプチドの生物学的活性を検出する段階;および
c)ポリペプチドの生物学的活性を被験化合物の非存在下で検出される生物学的活性と比較して抑制する化合物を選択する段階。
【0128】
本発明のスクリーニング方法に用いるためのタンパク質は、マーカー遺伝子のヌクレオチド配列を用いて組換えタンパク質として得ることができる。マーカー遺伝子およびそれによってコードされるタンパク質に関する情報に基づき、当業者は、タンパク質の任意の生物学的活性をスクリーニングのための指標として選択し、選択した生物学的活性に関するアッセイのために適した任意の測定方法を選択することができる。
【0129】
本発明の細胞増殖性疾患の治療を目的とする化合物のスクリーニングのための方法のもう1つの態様において、本方法は、本発明のポリペプチドの生物学的活性を指標として利用する。本発明のA5657、B9769、およびC7965タンパク質は細胞増殖を促進する活性を有するため、これらのタンパク質のうちの1つのこの活性を阻害する化合物を、この活性を指標として用いてスクリーニングすることができる。このスクリーニング方法は、以下の段階を含む:(a)被験化合物を、A5657、B9769、およびC7965からなる群より選択されるポリペプチドに接触させる段階;(b)段階(a)のポリペプチドの生物学的活性を検出する段階;および(c)ポリペプチドの生物学的活性を被験化合物の非存在下で検出される生物学的活性と比較して抑制する化合物を選択する段階。本方法において、好ましくは、ポリペプチドは生細胞において発現され、生物学的活性は指標としての細胞増殖によって検出される。さらに、好ましい生細胞は、A5657、B9769、およびC7965からなる群より選択されるポリヌクレオチドがトランスフェクションされた宿主細胞である。例えば、NIH3T3を宿主細胞として用いることができる。
【0130】
任意のポリペプチドを、それらがA5657、B9769、およびC7965タンパク質の生物学的活性を含む限りにおいて、スクリーニング用に用いることができる。このような生物学的活性には、ヒトA5657、B9769、およびC7965タンパク質の細胞増殖活性が含まれる。例えば、ヒトA5657、B9769、およびC7965タンパク質を用いることができ、これらのタンパク質と機能的に等価なポリペプチドを用いることもできる。このようなポリペプチドは、細胞によって内因性に発現されても、または外因性に発現されてもよい。
【0131】
または、本発明のスクリーニング方法は、以下の段階を含んでもよい:
a)候補化合物を、BRC関連遺伝子A5657、B9769、およびC7965からなる群より選択される1つまたは複数のマーカー遺伝子の転写調節領域とその転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子とを含むベクターが導入された細胞に接触させる段階;
b)該レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性を測定する段階;ならびに
c)該レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性を候補化合物の非存在下で検出される発現レベルまたは活性と比較して低下させる候補化合物を選択する段階。
【0132】
適したレポーター遺伝子および宿主細胞は当技術分野で周知である。本発明のスクリーニング方法に適したレポーター構築物は、マーカー遺伝子の転写調節領域を用いることによって調製しうる。マーカー遺伝子の転写調節領域が当業者に既知である場合には、その既知の配列情報を用いることによってレポーター構築物を調製することができる。マーカー遺伝子の転写調節領域がまだ同定されていない場合には、転写調節領域を含むヌクレオチドセグメントを、マーカー遺伝子のヌクレオチド配列情報に基づいてゲノムライブラリーから単離することができる。
【0133】
任意の被験化合物、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵性微生物の産物、海洋生物の抽出物、植物抽出物、精製タンパク質または粗タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成低分子化合物、天然化合物を用いることができる。
【0134】
スクリーニングによって単離された化合物は、マーカー遺伝子にコードされるタンパク質の活性を阻害し、かつ乳癌の治療または予防に適用することができる薬物の開発において候補となる。
【0135】
その上、マーカー遺伝子にコードされるタンパク質の活性を阻害する化合物の構造の一部が、付加、欠失、および/または置換によって変換されている化合物も同様に、本発明のスクリーニング法によって得ることができる化合物として含まれる。
【0136】
本発明の方法によって単離された化合物をヒト、ならびにマウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、サル、ヒヒ、およびチンパンジーのような他の哺乳類のための薬剤として投与する場合、単離された化合物を直接投与してもよく、または既知の薬学的調製法を用いて投与剤形に調製してもよい。例えば、必要に応じて、薬物は、糖衣錠、カプセル剤、エリキシル剤およびマイクロカプセルとして経口摂取されるか、または水もしくは他の任意の薬学的に許容される液体との滅菌溶液もしくは懸濁液の注射剤形で非経口摂取されうる。例えば、化合物は、薬学的に許容される担体または媒体、具体的には滅菌水、生理食塩液、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定化剤、着香料、賦形剤、溶剤、保存剤、結合剤などと共に、一般的に許容される投薬実施に必要な単位投与剤形で混合することができる。これらの調製物に含まれる活性成分の量によって、指示範囲内の適した用量を得ることができる。
【0137】
錠剤およびカプセル剤に混合することができる添加剤の例には、以下に限定されないが、ゼラチン、コーンスターチ、トラガカントゴム、およびアラビアゴムのような結合剤;結晶セルロースのような賦形剤;コーンスターチ、ゼラチンおよびアルギン酸のような膨張剤;ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤;ショ糖、乳糖、またはサッカリンのような甘味料;ならびにペパーミント、アカモノ油、およびチェリーのような着香料が含まれる。単位投与剤形がカプセル剤である場合、油のような液体担体を上記の成分にさらに含めることができる。注射用滅菌組成物は、注射用に適した蒸留水のような溶剤を用いて通常の投薬実施に従って調製することができる。
【0138】
生理食塩液、グルコース、ならびにD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、および塩化ナトリウムのような補助剤を含む他の等張液は、注射用水溶液として用いることができる。これらは、例えば、エタノールのようなアルコール;プロピレングリコールおよびポリエチレングリコールのような多価アルコール;ポリソルベート80(商標)およびHCO-50のような非イオン性界面活性剤といった適した溶解剤と共に用いることができる。
【0139】
ゴマ油または大豆油を油脂性液体として用いることができ、安息香酸ベンジルまたはベンジルアルコールを溶解剤として共に用いてもよく、リン酸緩衝液および酢酸ナトリウム緩衝液のような緩衝液;塩酸プロカインのような鎮痛剤;ベンジルアルコールおよびフェノールのような安定化剤;ならびに/または抗酸化剤と共に調製してもよい。調製された注射剤は適したアンプルに充填してもよい。
【0140】
当業者に周知の方法を用いて、本発明の薬学的組成物を患者に、例えば動脈内、静脈内、または経皮注射として投与してもよく、鼻腔内、気管支内、筋肉内、または経口投与として投与してもよい。投与の用量および方法は、患者の体重および年齢ならびに投与法に応じて変化する;しかし、当業者は、適した投与法を日常的に選択することができる。該化合物がDNAによってコードされうる場合、DNAを遺伝子治療のベクターに挿入して、治療を行うためにベクターを患者に投与することができる。投与の用量および方法は、患者の体重、年齢、および症状に応じて変化するが、当業者はそれらを適切に選択することができる。
【0141】
例えば、本発明のタンパク質に結合してその活性を調節する化合物の用量は、症状に依存するが、用量は、正常な成人(体重60 kg)に経口投与する場合、一般に約0.1 mg〜約100 mg/日、好ましくは約1.0 mg〜約50 mg/日、より好ましくは約1.0 mg〜約20 mg/日である。
【0142】
正常な成人(体重60 kg)に化合物を注射剤形で非経口投与する場合、患者、標的臓器、症状および投与法によって多少の差があるが、約0.01 mg〜約30 mg/日、好ましくは約0.1〜約20 mg/日、およびより好ましくは約0.1〜約10 mg/日を静脈内注射することが都合がよい。他の動物の場合においては、慣行的に体重60 kgに換算して適切な用量を計算してもよい。
【0143】
乳癌を有する対象の予後の評価
本発明はまた、BRCを有する対象の予後を評価する方法であって、被験細胞集団における1つまたは複数のBRC関連遺伝子の発現を、ある範囲の疾患病期にわたる患者から得られた参照細胞集団におけるBRC関連遺伝子A5657、B9769、およびC7965の発現と比較する段階を含む方法も提供する。被験細胞集団および参照細胞集団における1つもしくは複数のBRC関連遺伝子の遺伝子発現を比較することにより、または対象から得られた被験細胞集団の経時的な遺伝子発現のパターンを比較することにより、対象の予後を評価することができる。
【0144】
例えば、BRC関連遺伝子A5657、B9769、およびC7965のうちの1つまたは複数の発現が正常対照と比較して上昇していることは、予後がそれほど好ましくないことを意味する。その反対に、BRC関連遺伝子A5657、B9769、およびC7965のうちの1つまたは複数の発現が正常対照と比較して類似していることは、対象の予後が比較的好ましいことを意味する。好ましくは、対象の予後を、BRC関連遺伝子A5657、B9769、およびC7965からなる群より選択される遺伝子の発現プロファイルを比較することによって評価できる。発現プロファイルを比較するために分類スコア(CS)を用いることもできる。
【0145】
キット
本発明にはまた、BRC検出試薬、例えばBRC核酸の一部と相補的なオリゴヌクレオチド配列のような、一つまたは複数のBRC核酸に特異的に結合する核酸か、BRC核酸にコードされる一つまたは複数のタンパク質に結合する抗体が含まれる。検出試薬は、キットの形で共に包装されていてもよい。例えば検出試薬、例えば核酸または抗体(固相マトリクスに結合させるか、またはそれらをマトリクスに結合させるための試薬とは別に包装される)、対照試薬(陽性および/または陰性)、ならびに/または検出標識は、異なる容器に包装されていてもよい。アッセイを行うための説明書(例えば、書面、テープ、VCR、CD-ROM等)がキットに含まれていてもよい。キットのアッセイフォーマットは、当技術分野でいずれも既知であるノーザンハイブリダイゼーションまたはサンドイッチELISAであってもよい。
【0146】
例えば、BRC検出試薬は、少なくとも一つのBRC検出部位を形成するために多孔性ストリップのような固相マトリクスに固定することができる。多孔性ストリップの測定または検出領域には、それぞれに核酸を含む多数の部位が含まれてもよい。試験ストリップはまた、陰性および/または陽性対照のための部位を含んでもよい。または、対照部位は、試験ストリップとは異なるストリップに存在していてもよい。任意で、異なる検出部位は、異なる量の固定された核酸を含んでもよく、すなわち第一の検出部位はより多い量を含み、それに続く部位ではより少ない量を含んでもよい。被験試料を加えると、検出可能なシグナルを示す部位の数が、試料に存在するBRCの量の定量的指標を提供する。検出部位は、任意の適した検出可能な形状で構成されてもよく、典型的に試験ストリップの幅に及ぶバーまたはドットの形状である。
【0147】
または、キットは、一つまたは複数の核酸を含む核酸基質アレイを含みうる。アレイ上の核酸は、BRC関連遺伝子A5657、B9769、およびC7965によって示される一つまたは複数の核酸配列を特異的に同定する。BRC関連遺伝子A5657、B9769、およびC7965によって表される核酸の2つまたはそれ以上の発現は、アレイ試験小片またはチップへの結合レベルによって同定されうる。基質アレイは、例えば固相基質上、例えば参照として本明細書にその内容全体が組み入れられる米国特許第5,744,305号に記載される「チップ」上に存在しうる。
【0148】
アレイと複数性
本発明にはまた、一つまたは複数の核酸を含む核酸基質アレイも含まれる。アレイ上の核酸は、BRC関連遺伝子A5657、B9769、およびC7965によって示される一つまたは複数の核酸配列に特異的に対応する。BRC関連遺伝子A5657、B9769、およびC7965によって表される核酸の2つまたはそれ以上の発現レベルは、アレイに結合する核酸を検出することによって同定されうる。
【0149】
本発明にはまた、単離された複数の核酸(すなわち、二つまたはそれ以上の核酸の混合物)が含まれる。核酸は、液相または固相に存在し、例えばニトロセルロースメンブレンのような固相支持体に固定されていてもよい。複数には、BRC関連遺伝子A5657、B9769、およびC7965によって示される核酸の一つまたは複数が含まれる。様々な態様において、複数には、BRC関連遺伝子A5657、B9769、およびC7965によって表される核酸の2つまたはそれ以上が含まれる。
【0150】
乳癌を抑制する方法
本発明はさらに、上方制御されるBRC関連遺伝子A5657、B9769、およびC7965のうちの1つまたは複数の発現(またはその遺伝子産物の活性)を低下させることにより、対象におけるBRCの症状を治療または軽減するための方法も提供する。適した治療用化合物を、BRCに罹患している対象またはBRC発症のリスク(もしくはそれに対する感受性)を有する対象に対して、予防的または治療的に投与することができる。このような対象は、標準的な臨床的方法を用いて、またはBRC関連遺伝子A5657、B9769、およびC7965のうちの1つまたは複数の異常な発現レベルもしくはその遺伝子産物の異常な活性を検出することにより、同定することができる。本発明の文脈において、適した治療薬には、例えば、細胞周期調節、細胞増殖、およびプロテインキナーゼ活性の阻害物質が含まれる。
【0151】
本発明の治療方法は、乳房細胞において発現が異常に上昇している遺伝子(「上方制御される」または「過剰発現される」遺伝子)の1つまたは複数の遺伝子産物の発現、機能またはその両方を低下させる段階を含む。発現は、当技術分野で公知のいくつかのやり方のうち任意のものによって阻害させることができる。例えば、過剰発現される1つまたは複数の遺伝子の発現を阻害するまたはそれに拮抗する核酸を、例えば、過剰発現される1つまたは複数の遺伝子の発現を妨害するアンチセンスオリゴヌクレオチドまたは低分子干渉RNAを、対象に投与することによって発現を阻害することができる。
【0152】
アンチセンス核酸
上記のように、BRC関連遺伝子A5657、B9769、およびC7965のヌクレオチド配列に対応するアンチセンス核酸は、遺伝子の発現レベルを低下させるために用いることができる。乳癌において上方制御されるBRC関連遺伝子A5657、B9769、およびC7965に対応するアンチセンス核酸は、乳癌の治療のために有用である。具体的には、本発明のアンチセンス核酸は、BRC関連遺伝子A5657、B9769、およびC7965またはそれらに対応するmRNAと結合することによって作用し、それによって遺伝子の転写または翻訳を阻害し、mRNAの分解を促進し、および/またはBRC関連遺伝子A5657、B9769、およびC7965によってコードされるタンパク質の発現を阻害し、それらによってタンパク質の機能を阻害することができる。本明細書で用いる「アンチセンス核酸」という用語には、標的配列に対して完全に相補的なヌクレオチドと、アンチセンス核酸が標的配列と特異的にハイブリダイズしうるという条件付きで、1つまたは複数のヌクレオチドにミスマッチがあるヌクレオチドとの両方が含まれる。例えば、本発明のアンチセンス核酸には、少なくとも15個の連続したヌクレオチドの範囲にわたって少なくとも70%またはそれ以上、好ましくは少なくとも80%またはそれ以上、より好ましくは少なくとも90%またはそれ以上、さらにより好ましくは少なくとも95%またはそれ以上の相同性を有するポリヌクレオチドが含まれる。相同性の決定には当技術分野で知られたアルゴリズムを用いうる。
【0153】
本発明のアンチセンス核酸は、BRCに関連したマーカー遺伝子A5657、B9769、およびC7965によってコードされるタンパク質を産生する細胞に対して、これらのタンパク質をコードするDNAまたはmRNAと結合することによって作用し、その転写または翻訳を阻害して、mRNAの分解を促進し、タンパク質の発現を阻害して、その結果タンパク質の機能を阻害する。
【0154】
本発明のアンチセンス核酸は、核酸に対して不活性の適切な基剤と混合することにより、リニメント剤または湿布剤などの外用製剤の形にすることができる。
【0155】
同じく、必要に応じて、賦形剤、等張剤、溶解補助剤、安定剤、保存料、鎮痛薬などを添加することにより、本発明のアンチセンス核酸を、錠剤、粉剤、顆粒剤、カプセル剤、リポソームカプセル剤、注射剤、液剤、点鼻薬、および凍結乾燥製剤として製剤化することもできる。これらは既知の方法に従って調製可能である。
【0156】
本発明のアンチセンス核酸は、罹患部位に直接適用することにより、またはそれが罹患部位に到達するように血管内に注入することにより、患者に与えることができる。持続性および膜透過性を高めるためにアンチセンス封入用媒質を用いることもできる。その例には、リポソーム、ポリ-L-リジン、脂質、コレステロール、リポフェクチンまたはこれらの誘導体が非制限的に含まれる。
【0157】
本発明のアンチセンス核酸の投与量は、患者の状態に従って適切に調整でき、所望の量を用いることができる。例えば、0.1〜100mg/kg、好ましくは0.1〜50mg/kgの範囲の用量を投与することができる。
【0158】
本発明のアンチセンス核酸は、本発明のタンパク質の発現を阻害し、そのため、本発明のタンパク質の生物学的活性を抑制するのに有用である。さらに、本発明のアンチセンス核酸を含む発現阻害物質も、本発明のタンパク質の生物学的活性を阻害しうるため、有用である。
【0159】
本発明の方法は、細胞における、上方制御されるBRC関連遺伝子の発現、例えば、細胞の悪性転換に起因する上方制御を変化させるために用いることができる。標的細胞におけるsiRNAとBRC関連遺伝子A5657、B9769、またはC7965のいずれか1つに対応する転写物との結合は、細胞によるタンパク質産生の低下を引き起こす。オリゴヌクレオチドの長さは少なくとも10ヌクレオチドであり、天然の転写物程度の長さであってもよい。好ましくは、オリゴヌクレオチドは75、50、25ヌクレオチド長未満である。最も好ましくは、オリゴヌクレオチドは19〜25ヌクレオチド長である。
【0160】
本発明のアンチセンス核酸には、修飾オリゴヌクレオチドが含まれる。例えば、オリゴヌクレオチドにヌクレアーゼ抵抗性を付与するためにチオエート化オリゴヌクレオチドを用いることもできる。
【0161】
また、マーカー遺伝子に対するsiRNAを、マーカー遺伝子の発現レベルを低下させるために用いることもできる。本明細書において「siRNA」という用語は、標的mRNAの翻訳を妨げる二本鎖RNA分子を指す。細胞中のDNAがRNAが転写されて生じる鋳型であるものを含め、siRNAを細胞に導入するための標準的な手法を用いることができる。本発明の文脈において、siRNAは、BRC関連遺伝子A5657、B9769、およびC7965等の上方制御されるマーカー遺伝子に対するセンス核酸配列およびアンチセンス核酸配列を含む。siRNAは、例えばヘアピンのように、単一の転写物が標的遺伝子由来のセンス配列および相補的アンチセンス配列の両方を有するように構築される。
【0162】
標的mRNAとハイブリダイズするA5657、B9769、またはC7965のsiRNA は、正常な一本鎖mRNA転写物と会合し、それによって翻訳を妨げ、それゆえにタンパク質の発現を妨げることにより、それぞれA5657、B9769、およびC7965遺伝子によってコードされるA5657、B9769、およびC7965ポリペプチドの産生を低下または阻害させる。siRNAは好ましくは、500, 200、100、50、または25ヌクレオチド長未満である。より好ましくは、siRNAは19〜25ヌクレオチド長である。A5657、B9769、およびC7965 siRNAの作製のための核酸配列の例には、標的配列としてのSEQ ID NO:28、29、30、31、32、33、および34のヌクレオチドの配列が含まれる。さらに、siRNAの阻害活性を高める目的で、ヌクレオチド「u」を、標的配列のアンチセンス鎖の3'末端に付加することもできる。付加する「u」の数は、少なくとも2個、一般的には2〜10個、好ましくは2〜5個である。付加された「u」は、siRNAのアンチセンス鎖の3'末端に一本鎖を形成する。
【0163】
A5657、B9769、またはC7965のsiRNAは、mRNA転写物と結合しうる形態で、細胞に直接導入することができる。または、A5657、B9769、またはC7965のsiRNAをコードするDNAを、ベクター中にある状態で運ぶこともできる。
【0164】
ベクターは、例えば、A5657、B9769、またはC7965標的配列を、A5657、B9769、またはC7965標的配列に隣接する機能的に結合した調節配列を有する発現ベクター中に、両方の鎖の発現が(DNA分子の転写によって)可能になるような様式でクローニングすることによって作製しうる(Lee, N.S., Dohjima, T., Bauer, G., Li, H., Li,M.-J., Ehsani, A., Salvaterra、P. and Rossi, J. (2002) 「Expression of small interfering RNAs targeted against HIV-1 rev transcripts in human cells.」Nature Biotechnology 20:500-505)。A5657、B9769、またはC7965mRNAに対するアンチセンスであるRNA分子を第1のプロモーター(例えば、クローニングされたDNAの3'側にあるプロモーター配列)によって転写させ、A5657、B9769、またはC7965mRNAに対するセンス鎖であるRNA分子を第2のプロモーター(例えば、クローニングされたDNAの5'側にあるプロモーター配列)によって転写させる。センス鎖およびアンチセンス鎖をインビボでハイブリダイズさせて、A5657、B9769、またはC7965遺伝子のサイレンシングのためのsiRNA構築物を生成させる。または、2つの構築物を利用して、siRNA構築物のセンス鎖およびアンチセンス鎖を作製することもできる。クローニングされたA5657、B9769、またはC7965は、単一の転写物が標的遺伝子由来のセンス配列および相補的アンチセンス配列の両方を有するような、ヘアピンなどの二次構造を有する構築物をコードすることができる。
【0165】
ヘアピンループ構造を形成させる目的で、任意のヌクレオチド配列からなるループ配列をセンス配列とアンチセンス配列との間に配置することができる。したがって、本発明は、一般式5'-[A]-[B]-[A']-3'(式中、[A]はSEQ ID NO:28、29、30、31、32、33、および34のヌクレオチドからなる群より選択される配列に対応するリボヌクレオチド配列であり、[B]は3〜23ヌクレオチドからなるリボヌクレオチド配列であり、[A']は[A]の相補配列からなるリボヌクレオチド配列である)を有するsiRNAも提供する。領域[A]は[A']とハイブリダイズし、すると領域[B]からなるループが形成される。ループ配列は好ましくは3〜23ヌクレオチド長である。ループ配列は例えば、以下の配列からなる群より選択することができる(http://www.ambion.com/techlib/tb/tb_506.html)。さらに、23ヌクレオチドからなるループ配列によって活性のあるsiRNAを得ることもできる(Jacque, J.-M., Triques,K. and Stevenson,M. (2002) 「Modulation of HIV-1 replication by RNA interference.」Nature 418:435-438)。
CCC、CCACC、またはCCACACC:Jacque, J. M.Triques,K. and Stevenson, M (2002) 「Modulation of HIV-1 replication by RNA interference.」Nature, Vol. 418:435-438。
UUCG:Lee, N.S., Dohjima, T., Bauer, G., Li, H., Li, M.-J., Ehsani, A., Salvaterra, P. and Rossi, J. (2002) 「Expression of small interfering RNAs targeted against HIV-1 rev transcripts in human cells.」Nature Biotechnology 20:500-505。Fruscoloni, P., Zamboni, M. and Tocchini-Valentini, G. P. (2003) 「Exonucleolytic degradation of double-stranded RNA by an activity in Xenopus laevis germinal vesicles.」Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100(4):1639-1644。
UUCAAGAGA:Dykxhoorn, D. M., Novina, C. D. and Sharp, P. A. (2002) 「Killing the messenger:Short RNAs that silence gene expression.」Nature Reviews Molecular Cell Biology 4:457-467。
【0166】
例えば、本発明のヘアピンループ構造を有する好ましいsiRNAが以下に示されている。以下の構造では、ループ配列を、CCC、UUCG、CCACC、CCACACC、およびUUCAAGAGAからなる群より選択することができる。好ましいループ配列はUUCAAGAGA(DNAでは「ttcaagaga」)である。本発明の文脈における使用に適したヘアピンsiRNAの例には以下が含まれる。
A5657-siRNAに対して:
caucgcaacuguguugacc-[b]-ggucaacacaguugcgaug(SEQ ID NO:28の標的配列に対して);および
ugccagacaguggacagag-[b]-cucuguccacugucuggca(SEQ ID NO:29の標的配列に対して)。
B9769-siRNAに対して:
gccugcaguuccugcagca-[b]-ugcugcaggaacugcaggc(SEQ ID NO:30の標的配列に対して);
gcuuccagucugucaaguc-[b]-gacuugacagacuggaagc(SEQ ID NO:31の標的配列に対して);および
agcagaggccucuaaugca-[b]-ugcauuagaggccucugcu(SEQ ID NO:32の標的配列に対して)。
C7965-siRNAに対して:
acugcuccucucagcuucc-[b]-ggaagcugagaggagcagu(SEQ ID NO:33の標的配列に対して);および
guacgcuuacuggcaucaa-[b]-uugaugccaguaagcguac(SEQ ID NO:34の標的配列に対して)。
【0167】
適切なsiRNAのヌクレオチド配列は、Ambionのウェブサイト(http://www.ambion.com/techlib/misc/siRNA_finder.html)から入手可能なsiRNA設計コンピュータープログラムを用いて設計することができる。コンピュータープログラムは、以下のプロトコールに基づいてsiRNA合成のためのヌクレオチド配列を選択する。
【0168】
siRNA標的部位の選択
1.対象となる転写物のAUG開始コドンから始めて、AAジヌクレオチド配列を求めて下流にスキャンする。潜在的なsiRNA標的部位として、各AAおよび3'隣接ヌクレオチド19個の出現を記録する。Tuschlらは、5'および3'非翻訳領域(UTR)および開始コドン近傍(75塩基以内)の領域が、調節タンパク質結合部位により富んでいる可能性があることから、これらに対してsiRNAを設計しないことを推奨している。UTR-結合タンパク質および/または翻訳開始複合体は、siRNAエンドヌクレアーゼ複合体の結合を妨害しうる。
2.潜在的な標的部位をヒトゲノムデータベースと比較して、他のコード配列と有意な相同性を有する如何なる標的配列も検討から除外する。相同性検索は、NCBIサーバー、www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/において認められうるBLASTを用いて行うことができる。
3.合成のために適格な標的配列を選択する。アンビオンでは、好ましくは、評価すべき遺伝子の長さに沿っていくつかの標的配列を選択することができる。
【0169】
A5657、B9769、またはC7965配列に隣接する調節配列は同一でもよく、またはそれらの発現を独立的に、または時間的もしくは空間的に調節しうるように異なっていてもよい。siRNAは、A5657、B9769、またはC7965遺伝子鋳型のそれぞれを、例えば核内低分子RNA(snRNA)U6由来のRNA pol III転写単位またはヒトH1 RNAプロモーターを含むベクター中にクローニングすることにより、細胞内で転写される。ベクターを細胞に導入するために、トランスフェクション促進物質を用いることができる。FuGENE(Rochediagnostices)、Lipofectamine 2000(Invitrogen)、Oligofectamine(Invitrogen)、およびNucleofector(和光純薬工業)は、トランスフェクション促進物質として有用である。
【0170】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAは、本発明のポリペプチドの発現を阻害するので、本発明のポリペプチドの生物学的活性を抑制するのに有用である。同様に、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを含む発現阻害物質は、それらが本発明のポリペプチドの生物学的活性を阻害できるという点において有用である。したがって、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを含む組成物は、乳癌を治療するのに有用である。
【0171】
抗体
または、BRCにおいて過剰発現された遺伝子(例えば、A5657、B9769、またはC7965)の一つまたは複数の遺伝子産物の機能は、遺伝子産物に結合する化合物、さもなければ遺伝子産物の機能を阻害する化合物を投与することによって阻害されうる。例えば、化合物は、過剰発現された遺伝子産物または複数の遺伝子産物に結合する抗体であってもよい。
【0172】
本発明では、抗体、特に上方制御されたマーカー遺伝子にコードされるタンパク質に対する抗体、またはそのような抗体の断片の使用を上述する。本明細書において用いられるように、「抗体」という用語は、抗体を合成するために用いられる抗原(すなわち、A5657、B9769、またはC7965のような上方制御されたマーカー遺伝子の遺伝子産物)またはそれに近縁の抗原のみと相互作用する(すなわち結合する)、特異的構造を有する免疫グロブリン分子を指す。上記のように、本発明の文脈において、抗体は、それがマーカー遺伝子にコードされるタンパク質の一つまたは複数に結合する限り、抗体断片または修飾抗体であってもよい。例えば、抗体断片は、Fab、F(ab')2、Fv、またはHおよびL鎖からのFv断片が適当なリンカーによって連結されている一本鎖Fv(scFv)であってもよい(Huston, J.S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85:5879-5883(1988))。より詳しく述べると、抗体断片は、抗体をパパインまたはペプシンのような酵素によって処理することによって産生してもよい。または、抗体断片をコードする遺伝子を構築して、発現ベクターに挿入し、適当な宿主細胞において発現させてもよい(例えば、Co M.S. et al., J. Immunol. 152:2968-2976(1994);Better M. and Horwitz A.H., Methods Enzymol. 178:476-496(1989);Pluckthun A. and Skerra A., Methods Enzymol. 178:497-515(1989);Lamoyi E., Methods Enzymol. 121:652-663(1986);Rousseaux J. et al., Methods Enzymol. 121:663-669(1986);Bird R.E. and Walker B.W., Trends Biotechnol. 9:132-137(1991)を参照されたい)。
【0173】
抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)のような多様な分子に結合させることによって修飾してもよい。本発明は、そのような修飾抗体を提供する。修飾抗体は、抗体を化学修飾することによって得ることができる。これらの修飾法は、当技術分野で慣例的である。
【0174】
または、抗体には、ヒト以外の抗体に由来する可変領域とヒト抗体に由来する定常領域とを有するキメラ抗体、またはヒト以外の抗体に由来する相補性決定領域(CDR)、ヒト抗体に由来するフレームワーク領域(FR)および定常領域を含むヒト化抗体が含まれうる。そのような抗体は、既知の技術を用いて調製することができる。
【0175】
癌細胞において起こる特異的な分子変化に対する癌治療は、進行乳癌を治療するためのトラスツズマブ(ヘルセプチン)、慢性骨髄性白血病のためのイマチニブメチレート(グリーベック)、非小細胞肺癌(NSCLC)のためのゲフィチニブ(イレッサ)、ならびにB細胞リンパ腫およびマントル細胞リンパ腫のためのリツキシマブ(抗CD20 mAb)のような抗癌剤の臨床開発および規制認可によって確認されている(Ciardiello F, Tortora G.「A novel approach in the treatment of cancer:targeting the epidermal growth factor receptor.」Clin Cancer Res. 2001 Oct;7(10):2958-70. Review.;Slamon DJ, Leyland-Jones B, Shak S, Fuchs H, Paton V, Bajamonde A, Fleming T, Eiermann W, Wolter J, Pegram M, Baselga J, Norton L.「Use of chemotherapy plus a monoclonal antibody against HER2 for metastatic breast cancer that overexpresses HER2.」N Engl J Med. 2001 Mar 15;344(11):783-92.;Rehwald U, Schulz H, Reiser M, Sieber M, Staak JO, Morschhauser F, Driessen C, Rudiger T, Muller-Hermelink K, Diehl V, Engert A.「Treatment of relapsed CD20+ Hodgkin lymphoma with the monoclonal antibody rituximab is effective and well tolerated:results of a phase 2 trial of the German Hodgkin Lymphoma Study Group.」Blood. 2003 Jan 15;101(2):420-424.;Fang G, Kim CN, Perkins CL, Ramadevi N, Winton E, Wittmann S and Bhalla KN. (2000). Blood, 96, 2246-2253)。これらの薬物は、形質転換した細胞のみを標的とすることから、臨床的に有効であり、従来の抗癌剤より許容性が良好である。したがって、そのような薬物は、癌患者の生存および生活の質を改善するのみならず、分子標的癌治療の考え方が正当であることを証明している。さらに、標的薬物は、標準的な化学療法と併用して用いた場合に、その有効性を増強することができる(Gianni, L. (2002), Oncology 63 suppl 1, 47-56;Klejman A., Rushen L., Morrione A., Slupianek A and Skorski T. (2002), Oncogene 21:5868-5876)。したがって、将来の癌治療はおそらく、従来の薬物を血管新生および浸潤性のような腫瘍細胞の異なる特徴をねらった標的特異的薬物と併用することを含むであろう。
【0176】
これらの調節方法は、エクスビボもしくはインビトロで行うこともでき(例えば、細胞を物質とともに培養することにより)、またはインビボで行うこともできる(例えば、物質を対象に投与することにより)。本方法は、タンパク質もしくはタンパク質の組み合わせ、または核酸分子もしくは核酸分子の組み合わせを、差次的に発現される遺伝子の異常な発現またはそれらの遺伝子産物の異常な活性を相殺する治療法として投与することを含む。
【0177】
遺伝子および遺伝子産物のそれぞれ発現レベルまたは生物学的活性が(疾患または障害に罹患していない対象と比較して)上昇していることによって特徴づけられる疾患および障害は、過剰発現される1つまたは複数の遺伝子の活性に拮抗する(すなわち、それを低下させるまたは阻害する)治療薬によって治療される可能性がある。活性に拮抗する治療薬は、治療的または予防的に投与することができる。
【0178】
したがって、本発明の文脈において利用しうる治療薬には、例えば以下のものが含まれる:(i)過剰発現される1つまたは複数の遺伝子のポリペプチド、またはその類似体、誘導体、断片もしくは相同体;(ii)過剰発現される遺伝子または遺伝子産物に対する抗体;(iii)過剰発現される1つまたは複数の遺伝子をコードする核酸;(iv)アンチセンス核酸、または「機能欠損」である核酸(すなわち、1つまたは複数の過剰発現される遺伝子の核酸内部への非相同的挿入のため);(v)低分子干渉RNA(siRNA);または(vi)調節物質(すなわち、阻害物質、過剰発現されるポリペプチドとその結合パートナーとの間の相互作用を変化させるアンタゴニスト)。機能欠損アンチセンス分子は、相同組換えによってポリペプチドの内因性機能を「ノックアウト」するために用いられる(例えば、Capecchi, Science 244:1288-1292 1989を参照)。
【0179】
レベルの上昇は、ペプチドおよび/またはRNAを定量することによって、患者の組織試料を得て(例えば、生検組織から)、これをRNAまたはペプチドレベル、発現されたペプチドの構造および/または活性(またはその発現が変化している遺伝子のmRNA)に関してインビトロでアッセイすることによって、容易に検出することができる。当技術分野において周知である方法には、イムノアッセイ(例えば、ウェスタンブロット解析、免疫沈降後のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル電気泳動、免疫細胞化学等)、および/またはmRNAの発現を検出するハイブリダイゼーションアッセイ(例えば、ノーザンアッセイ、ドットブロット、インサイチューハイブリダイゼーション等)が含まれるがこれらに限定されない。
【0180】
予防的投与は、疾患もしくは障害が予防されるように、またはその進行が遅れるように、疾患の明白な臨床症状が発現する前に行われる。
【0181】
乳癌に対するワクチン接種
本発明はまた、BRC関連遺伝子A5657、B9769、およびC7965からなる群より選択される核酸にコードされるポリペプチド、該ポリペプチドの免疫学的活性断片、またはポリペプチドもしくはその断片をコードするポリヌクレオチドを含むワクチンを対象に投与する段階を含む、対象における乳癌を治療または予防する方法にも関する。ポリペプチドの投与は、対象において抗腫瘍免疫を誘導する。抗腫瘍免疫を誘導するために、BRC関連遺伝子A5657、B9769、およびC7965からなる群より選択される核酸にコードされるポリペプチド、該ポリペプチドの免疫学的活性断片、または該ポリペプチドもしくはその断片をコードするポリヌクレオチドを、治療または予防が必要な患者に投与する。ポリペプチドまたはその免疫学的活性断片はBRCに対するワクチンとして有用である。場合によっては、タンパク質またはその断片は、T細胞受容体(TCR)に結合した形で投与してもよく、またはマクロファージ、樹状細胞(DC)、もしくはB-細胞のような抗原提示細胞(APC)によって提示された形で投与してもよい。DCの強い抗原提示能のため、APCの中では、DCを用いることが最も好ましい。
【0182】
本発明において、BRCに対するワクチンとは、動物に接種すると抗腫瘍免疫を誘導する能力を有する物質を指す。本発明によると、BRC関連遺伝子A5657、B9769、またはC7965にコードされるポリペプチドまたはその断片は、BRC関連遺伝子A5657、B9769、またはC7965を発現するBRC細胞に対して強力かつ特異的な免疫応答を誘導する可能性があることが示唆された。このように、本発明はまた、ポリペプチドを用いて抗腫瘍免疫を誘導する方法も含む。一般的に、抗腫瘍免疫には、以下のような免疫応答が含まれる:
−腫瘍に対する細胞障害性リンパ球の誘導、
−腫瘍を認識する抗体の誘導、および
−抗腫瘍サイトカイン産生の誘導。
【0183】
したがって、あるタンパク質が、動物への接種時にこれらの免疫応答のいずれか一つを誘導する場合、そのタンパク質は、抗腫瘍免疫誘導効果を有すると決定される。タンパク質による抗腫瘍免疫の誘導は、宿主におけるタンパク質に対する免疫系の反応をインビボまたはインビトロで観察することによって検出することができる。
【0184】
例えば、細胞障害性Tリンパ球の誘導を検出する方法は周知である。特に、生体内に入る外来物質は、抗原提示細胞(APC)の作用によってT細胞およびB細胞に提示される。APCによって提示された抗原に対して抗原特異的に応答するT細胞は、抗原による刺激によって細胞障害性T細胞(または細胞障害性Tリンパ球;CTL)に分化した後増殖する(これはT細胞の活性化と呼ばれる)。したがって、あるペプチドによるCTL誘導は、APCによるT細胞へのペプチドの提示およびCTLの誘導を検出することによって評価することができる。さらに、APCは、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、マクロファージ、好酸球、およびNK細胞を活性化する効果を有する。CD4+ T細胞およびCD8+ T細胞も同様に抗腫瘍免疫において重要であることから、ペプチドの抗腫瘍免疫誘導作用は、これらの細胞の活性化効果を指標として用いて評価することができる。
【0185】
APCとして樹状細胞(DC)を用いてCTLの誘導作用を評価する方法は、当技術分野で周知である。DCは、APCの中でも最も強力なCTL誘導作用を有する代表的なAPCである。この方法では、被験ポリペプチドをまずDCに接触させて、このDCをT細胞に接触させる。DCに接触させた後に、対象細胞に対して細胞障害作用を有するT細胞が検出されれば、被験ポリペプチドが細胞障害性T細胞の誘導活性を有することを示している。腫瘍に対するCTLの活性は、例えば51Cr標識腫瘍細胞の溶解を指標として用いて検出することができる。または、3H-チミジン取り込み活性またはLDH(乳糖デヒドロゲナーゼ)放出を指標として用いて腫瘍細胞の損傷の程度を評価する方法も同様に周知である。
【0186】
DCとは別に、末梢血単核球(PBMC)も同様にAPCとして用いてもよい。CTLの誘導は、GM-CSFおよびIL-4の存在下でPBMCを培養することによって増強されることが報告されている。同様に、CTLは、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびIL-7の存在下でPBMCを培養することによって誘導されることが示されている。
【0187】
これらの方法によってCTL誘導活性を有することが確認された被験ポリペプチドは、DC活性化効果およびその後のCTL誘導活性を有するポリペプチドであると見なされる。したがって、腫瘍細胞に対してCTLを誘導するポリペプチドは、腫瘍に対するワクチンとして有用である。さらに、ポリペプチドに接触させることによって腫瘍に対するCTLの誘導能を獲得したAPCは、腫瘍に対するワクチンとして有用である。さらに、APCによるポリペプチド抗原の提示により細胞障害性を獲得したCTLも同様に、腫瘍に対するワクチンとして用いることができる。APCおよびCTLによる抗腫瘍免疫を用いるそのような腫瘍の治療法は、細胞免疫療法と呼ばれる。
【0188】
一般的に、細胞免疫療法のためにポリペプチドを用いる場合、CTL誘導効率は、異なる構造を有する複数のポリペプチドを組み合わせて、それらをDCに接触させることによって増加することが知られている。したがって、DCをタンパク質断片によって刺激する場合、複数のタイプの断片の混合物を用いることが有利である。
【0189】
または、ポリペプチドによる抗腫瘍免疫の誘導は、腫瘍に対する抗体産生の誘導を観察することによって確認することができる。例えば、ポリペプチドに対する抗体が、そのポリペプチドで免疫した実験動物において誘導される場合、そして腫瘍細胞の増殖がそれらの抗体によって抑制される場合、ポリペプチドは、抗腫瘍免疫の誘導能を有すると見なすことができる。
【0190】
抗腫瘍免疫は本発明のワクチンを投与することによって誘導され、抗腫瘍免疫の誘導によって、BRCを治療および予防することができる。癌の治療または癌の発症の予防には、癌性細胞の増殖の阻害、癌の退縮、および癌の発生抑制のような段階のいずれかが含まれる。癌を有する個体の死亡率および疾病率の低下、血液中の腫瘍マーカーのレベルの減少、癌に伴う検出可能な症状の軽減等も同様に、癌の治療または予防に含まれる。そのような治療および予防効果は好ましくは統計学的に有意である。例えば、細胞増殖疾患に対するワクチンの治療または予防効果を、ワクチン投与を行わない対照と比較する観察において、5%またはそれ未満の有意水準である。例えば、スチューデントのt-検定、マン-ホイットニーのU検定、またはANOVAを統計解析に用いてもよい。
【0191】
免疫学的活性を有する上記のタンパク質またはそのタンパク質をコードするベクターをアジュバントと併用してもよい。アジュバントは、免疫学的活性を有するタンパク質と共に(または連続して)投与した場合にタンパク質に対する免疫応答を増強する化合物を指す。アジュバントの例には、コレラ毒素、サルモネラ毒素、ミョウバン等が含まれるがこれらに限定されない。さらに、本発明のワクチンは、薬学的に許容される担体と適当に組み合わせてもよい。そのような担体の例には、滅菌水、生理食塩液、リン酸緩衝液、培養液等が含まれる。さらに、ワクチンは必要に応じて、安定化剤、懸濁剤、保存剤、界面活性剤等を含んでもよい。ワクチンは、全身または局所投与されうる。ワクチン投与は、1回投与によって行ってもよく、または複数回投与によって追加刺激してもよい。
【0192】
本発明のワクチンとしてAPCまたはCTLを用いる場合、腫瘍を例えばエクスビボ法によって治療または予防することができる。より詳しく述べると、治療または予防を受ける対象のPBMCを採取して、細胞をエクスビボでポリペプチドに接触させて、APCまたはCTLの誘導後、細胞を対象に投与してもよい。APCはまた、ポリペプチドをコードするベクターをエクスビボでPBMCに導入することによって誘導することができる。インビトロで誘導されたAPCまたはCTLは、投与前にクローニングすることができる。標的細胞を障害する高い活性を有する細胞をクローニングして増殖させることによって、細胞免疫療法をより効率よく行うことができる。さらに、このようにして単離されたAPCおよびCTLを用いて、細胞が由来する個体に対してのみならず、他の個体からの類似のタイプの腫瘍に対する細胞免疫療法のために用いてもよい。
【0193】
さらに、本発明のポリペプチドの薬学的有効量を含む、癌のような細胞増殖疾患を治療または予防するための薬学的組成物が提供される。薬学的組成物は、抗腫瘍免疫を惹起するために用いてもよい。
【0194】
BRCまたは悪性BRCを阻害するための薬学的組成物
本発明の文脈において、適切な薬学的製剤には、経口、直腸内、鼻腔内、局所(口腔内および舌下を含む)、膣内、もしくは非経口(筋肉内、皮下、および静脈内を含む)投与に適した製剤、または吸入もしくは吹入による投与に適した製剤が含まれる。好ましくは、投与は静脈内である。製剤は任意で用量単位ごとに個別に包装される。
【0195】
経口投与に適した薬学的製剤には、それぞれが活性成分の規定量を含むカプセル剤、カシェ剤、または錠剤が含まれる。適切な製剤にはまた、粉剤、顆粒剤、溶液、懸濁液、および乳液が含まれる。活性成分は、任意でボーラス舐剤またはペーストとして投与される。経口投与用の錠剤およびカプセル剤は、結合剤、充填剤、潤滑剤、崩壊剤、および/または湿潤剤のような通常の賦形剤を含んでもよい。錠剤は、任意で一つまたは複数の製剤成分との圧縮または成形によって作製してもよい。圧縮錠は、粉剤または顆粒剤のような流動状の活性成分を、任意で結合剤、潤滑剤、不活性希釈剤、潤滑剤、表面活性剤、および/または分散剤と混合して、適した装置において圧縮することによって調製してもよい。成形錠剤は、不活性液体希釈剤によって湿らせた粉末化合物の混合物を適した機械において成形することによって作製してもよい。錠剤は、当技術分野で周知の方法に従ってコーティングしてもよい。経口液体調製物は、例えば、水性もしくは油性懸濁液、溶液、乳液、シロップ剤、もしくはエリキシル剤の形であってもよく、または使用前に水もしくは他の適した溶剤によって構成するための乾燥製品として提供してもよい。そのような液体調製物は、懸濁剤、乳化剤、非水性溶剤(食用油が含まれてもよい)、および/または保存剤のような通常の添加剤を含んでもよい。錠剤は任意で、活性成分の徐放または制御放出を提供するように調製してもよい。錠剤の包装は、毎月服用される錠剤1錠を含んでよい。
【0196】
非経口投与用の適切な製剤には、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤および意図するレシピエントの血液と製剤を等張にする溶質を含んでいてもよい水性および非水性滅菌注射剤、ならびに懸濁剤および/または濃化剤を含む水性および非水性滅菌懸濁液が含まれる。製剤は、単位用量または複数回用量で容器、例えば密封アンプルおよびバイアルに入れてもよく、滅菌液体担体、例えば生理食塩液、注射用水を使用直前に加えるだけでよい凍結乾燥状態で保存してもよい。または、製剤は、連続注入用であってもよい。即時調合注射溶液および懸濁液は、既に記述した種類の滅菌粉末、顆粒、および錠剤から調製してもよい。
【0197】
直腸投与用の適切な製剤には、カカオバターまたはポリエチレングリコールのような標準的な担体を含む坐剤が含まれる。口内への、例えば口腔内または舌下への局所投与用の適切な製剤には、ショ糖およびアカシアまたはトラガカントのような着香基剤に活性成分を含むトローチ剤、ならびにゼラチンとグリセリンまたはショ糖とアカシアのような基剤に活性成分を含む香錠が含まれる。鼻腔内投与の場合、本発明の化合物を液体スプレー、もしくは分散性の粉末として、または点鼻剤の形態で用いてもよい。点鼻剤は、一つまたは複数の分散剤、溶解剤、および/または懸濁剤も含む水性または非水性基剤によって調製してもよい。
【0198】
吸入による投与の場合、吸入器、ネブライザー、加圧パックまたはエアロゾルスプレーを送達するための他の都合のよい手段によって化合物を都合よく送達することができる。加圧パックは、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、または他の適したガスのような適した噴射剤を含んでもよい。加圧エアロゾルの場合、用量単位は、一定量を送達するための弁を提供することによって決定してもよい。
【0199】
または、吸入または吹入による投与の場合、化合物は、乾燥粉末組成物、例えば化合物と、乳糖またはデンプンのような適した粉末基剤との粉末混合物の形状をとってもよい。粉末組成物は、単位投与剤形、例えば、粉末が吸入器または吹入器を利用して投与されうるカプセル剤、カートリッジ、ゼラチンまたはブリスターパックの形としてもよい。
【0200】
他の製剤には、治療剤を放出する埋め込み可能装置および接着パッチが含まれる。
【0201】
望ましければ、活性成分を持続的に放出するように適合された上記の製剤を用いてもよい。薬学的組成物はまた、抗菌剤、免疫抑制剤、および/または保存剤のような他の活性成分を含んでもよい。
【0202】
上記で特に言及した成分の他に、本発明の製剤には、当該製剤のタイプに関して当技術分野において通常の他の物質が含まれていてもよいと理解すべきである。例えば経口投与に適した製剤は着香料を含んでいてもよい。
【0203】
好ましい単位投与製剤は、下記に引用するように、活性成分またはその適当な分画の有効量を含む。
【0204】
上記の条件のそれぞれに関して、組成物、例えばポリペプチドおよび有機化合物は、約0.1〜約250 mg/kg/日の用量範囲で経口または注射によって投与されうる。成人ヒトの用量範囲は一般的に、約5 mg〜約17.5 g/日、好ましくは約5 mg〜約10 g/日、および最も好ましくは約100 mg〜約3 g/日である。錠剤または個別の単位で提供される他の単位投与剤形は、便宜上、同一単位量を複数回投与した量で有効性を示すような単位量、例えば約5 mg〜約500 mg、通常約100 mg〜約500 mgを含みうる。
【0205】
用いられる用量は、対象の年齢および性別、治療しようとする詳細な障害およびその重症度を含む、さまざまな要因に依存すると考えられる。また、投与の経路も状態およびその重症度に依存して変化しうる。いずれにしても、適切で最適な投与量は、当業者により、上述した要因を考慮した上で慣行的に計算されうる。
【0206】
本発明のいくつかの局面を以下の実施例に記載しているが、これらは、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を限定するものではない。以下の実施例は、BRC細胞において差次的に発現される遺伝子の同定および特性決定を例示的に説明したものである。
【0207】
実施例
疾病状態、例えば、BRCにおいて差次的に発現される遺伝子を同定するために、罹患組織(例えば、BRC由来の上皮細胞)および正常組織から入手した組織を評価した。アッセイは以下の通りに行った。
【0208】
患者および組織試料
癌研究会附属病院乳腺外科部門(Department of Breast Surgery、Cancer Institute Hospital、東京、日本)で治療を受けた81例の患者(非浸潤性乳管癌12例および浸潤性乳管癌69例、2cm〜5cm(T2)、年齢の中央値45歳、21〜68歳の範囲)から、インフォームドコンセントを伴って原発性乳癌を入手した(表2)このことに関しては全ての患者からインフォームドコンセントを得た。臨床情報を診療記録から入手し、かつそれぞれの腫瘍を病理学者が病理組織学的なサブタイプおよびグレードに従って診断した。腫瘍組織を用いて腫瘍の種類を評価した(世界保健機構(World Health Organization)の分類および日本癌学会の分類による)。臨床病期はJBCSのTNM分類に従って判断した。リンパ節陽性症例とリンパ節陰性症例との間に有意差は観察されなかった。血管侵入性増殖および広範囲にわたるリンパ球浸潤の存在は病理学者が判定した。エストロゲン受容体(ER)およびプロゲステロン受容体(PgR)の発現はEIAにより判定した(13fmol/mgタンパク質未満であればER陰性、BML)。閉経前乳癌患者15例または閉経後患者12例からの正常乳管細胞の混合物をそれぞれ正常対照として用いた。試料はすべて直ちに凍結し、-80℃で保存した。
【0209】
組織試料およびLMM
腫瘍に関する臨床情報および病理学的情報は表2に詳述されている。試料はTissueTek OCT媒質(Sakura)中に包埋した後に使用時まで-80℃で保存した。凍結標本をクリオスタットで連続的に切片化して8μmの切片とし、分析する領域を規定するためにヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。癌細胞と非癌細胞の交差汚染を避けるために、EZ Cut LMM System(SL Microtest GmbH)を製造元のプロトコールにいくつかの修正を加えて用いることによって、これら2つの集団を調製した。貯蔵工程および組織採取の間の影響を最小化するために、癌組織を同じ手順によって慎重に取り扱った。RNAの質を調べるために、各症例の残りの組織から抽出した全RNAを変性アガロースゲル中で電気泳動し、リボソームRNAバンドの存在によってそれらの質を確認した。
【0210】
細胞株
ヒト乳癌細胞株HBC4、HBC5、MDA-MB-231、BSY-1は、Yamori博士(財団法人癌研究会(The Japanese Foundation of Cancer Research)、東京)より寄贈いただき、MCF7、T47D、SKBR3、HCC1937、MDA-MB-435S、YMB1、HBL100、COS7、NIH3T3はATCCから入手した。細胞はすべて適切な培地中で培養した;すなわち、RPMI-1640(Sigma、St. Louis、MO)をHBC4、HBC5、SKBR3、T47D、YMB1、およびHCC1937(2mM L-グルタミンを添加)に対して用い;ダルベッコ変法イーグル培地(Invitrogen、Carlsbad、CA)をHBL100、COS7、NIH3T3に対して用い;0.1mM必須アミノ酸(Roche)、1mMピルビン酸ナトリウム(Roche)、0.01mg/mlインスリン(Sigma)を加えたEMEM(Sigma)をMCF7に対して用い;L-15(Roche)をMDA-MB-231およびMDA-MB-435Sに対して用いた。それぞれの培地には、10%ウシ胎仔血清(Cansera)および1%抗生物質/抗真菌物質溶液(Sigma)を補充した。MDA-MB-231細胞およびMDA-MB-435S細胞は、CO2を含まない加湿空気雰囲気中で37℃に保った。他の細胞株は、5% CO2を含む加湿空気雰囲気中で37℃に保った。
【0211】
RNA抽出およびT7に基づくRNA増幅
レーザーで捕捉した細胞の各集団から、全RNAを350μlのRLT可溶化バッファー(QIAGEN)中に抽出した。抽出したRNAを、30単位のDNase I(QIAGEN)により室温で30分間処理した。70℃において10分間失活させた後に、製造元の推奨に従ってRNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用い、RNAを精製した。DNase Iで処理したRNAすべてを、Ampliscribe T7転写キット(Epicentre Technologies)を用いた、T7に基づく増幅に供した。2回の増幅により、各試料に関して28.8〜329.4μgの増幅RNA(aRNA)が得られ、一方、15例の閉経前患者または12例の閉経後患者からの正常試料からのRNAを増幅した場合には、それぞれ合計2240.2μgおよび2023.8μgが得られた。それぞれの癌性乳管細胞および非癌性乳管細胞からのaRNAの2.5μgアリコートを、それぞれCy5-dCTPおよびCy3-dCTP(Amersham Biosciences)の存在下で逆転写させた。
【0212】
cDNAマイクロアレイ
National Center for Biotechnology Information(NCBI)のUniGeneデータベース(ビルド番号131)から選択した23,040種のcDNAを含む「ゲノムワイド」cDNAマイクロアレイシステムを確立した。cDNAマイクロアレイスライドの製作については別稿に記載されている(Ono K, Tanaka T, Tsunoda T, Kitahara O, Kihara C, Okamoto A, Ochiai K, Katagiri T and Nakamura Y.「Identification by cDNA Microarray of Genes Involved in Ovarian Carcinogenesis.」Cancer Res., 60, 5007-11, 2000)。手短に述べると、種々のヒト臓器から単離したポリ(A)+RNAを鋳型として用いる逆転写PCRによってcDNAを増幅した;アンプリコンの長さは反復配列またはポリ(A)配列を含まずに200〜1100bpの範囲とした。Lucidea Array Spotter(Amersham Biosciences)を用いて、PCR産物を7型スライドガラス(Amersham Bioscience)上に2箇所ずつスポットした;4,608種または9,216種の遺伝子を単一のスライド上に2箇所ずつスポットした。それぞれ同じ52種類のハウスキーピング遺伝子および2種類の陰性対照遺伝子もスポットした、3種類の異なるスライドのセット(合計23,040種の遺伝子)を調製した。
【0213】
ハイブリダイゼーションおよびデータの収集
ハイブリダイゼーションおよび洗浄は、すべての工程をAutomated Slide Processor(Amersham Biosciences)により行った点を除き、以前に記載されたプロトコールに従って行った(Giuliani, N. et al., V.「Human myeloma cells stimulate the receptor activator of nuclear factor-kappa B ligand (RANKL) in T lymphocytes:a potential role in multiple myeloma bone disease.」Blood, 100:4615-4621, 2002)。各ハイブリダイゼーションシグナルの強度を、ArrayVisionコンピュータプログラム(Amersham Biosciences)により測定光度を算出し、バックグラウンド強度を差し引いた。52種のハウスキーピング遺伝子からの平均化シグナルを用いて、意味のあるCy5/Cy3比が得られるように、各標的スポットに対するCy5(腫瘍)およびCy3(対照)の蛍光強度を調整した。低いシグナル強度に由来するデータは信頼性が低いため、各スライド上のカットオフ値を以前の記載のように決定し(Ono K. et al.,「Identification by cDNA microarray of genes involved in ovarian carcinogenesis.」Cancer Res., 60, 5007-11, 2000)、Cy3色素およびCy5色素の両方でカットオフ値よりも低いシグナル強度が得られた場合には、その遺伝子を以降の分析から除外した(Saito-Hisaminato, A., Katagiri, T., Kakiuchi, S., Nakamura, T., Tsunoda, T. and Nakamura, Y.「Genome-wide profiling of gene expression in 29 normal human tissues with a cDNA microarray.」DNA Res, 9:35-45, 2002)。他の遺伝子に関しては、各試料の生データを用いてCy5/Cy3比を算出した。
【0214】
新規ヒト遺伝子A5657、B9769、およびC7965の同定および単離
全RNAの抽出および増幅を上記の通りに行った。乳癌細胞および正常乳管細胞から増幅されたRNAのアリコートを、それぞれCy5-dCTPおよびCy3-dCTP(Amersham Biosciences、Buckinghamshire、UK)を用いる逆転写によって標識した。ハイブリダイゼーション、洗浄、および検出は上記の通りに行った。乳癌において通例的に上方制御される遺伝子を検出するために、マイクロアレイ上の23,040種の遺伝子の全体的な発現パターンをスクリーニングし、i)81例の乳癌症例すべて、ii)69例の浸潤性乳管癌、iii)31例の高分化型病変、iv)14例の中程度分化型病変、またはv)24例の低分化型病変のそれぞれに50%を上回って存在する、発現比が3.0を上回る遺伝子を選択した。腫瘍細胞で上方制御されるように思われた合計102種の遺伝子のうち、以下の施設内識別番号、A5657、B9769、およびC7965を有する3つを、情報的価値のある乳癌症例の50%超において発現比が3.0を上回っていたことから、さらなる検討のために選択した。
【0215】
半定量的RT-PCR
上述した上方制御される3つの遺伝子、A5657、B9769、およびC7965を選択し、半定量的RT-PCR実験を適用することによってそれらの発現レベルを試験した。詳細には、上記の通りに全RNAを抽出し、増幅した上で逆転写した。定量的内部対照としてグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)をモニターすることにより、その後のPCR増幅のための各一本鎖cDNAの適切な希釈物を調製した。PCRプライマー配列は以下である。
GAPDHに対して
5'-CGACCACTTTGTCAAGCTCA-3'(SEQ ID NO:7)および
5'-GGTTGAGCACAGGGTACTTTATT-3'(SEQ ID NO:8);
A5657に対して
5'-CAAATATTAGGTGGAGCCAACAC-3'(SEQ ID NO:9)および
5'-TAGATCACCTTGGCAAAGAACAC-3'(SEQ ID NO:10);
B9769に対して
5'-ACCTCAAGTCCCTCCTGGAA-3'(SEQ ID NO:11)および
5'-TCAGTTTCAACAGGTAAGGCGAT-3'(SEQ ID NO:12);
C7965に対して
5'-AGAGCCATAGAAACTGCTCCTCT-3'(SEQ ID NO:13)および
5'-CATAACTGCATAGACAGCACGTC-3'(SEQ ID NO:14)。
【0216】
ノーザンブロット分析
すべての乳癌細胞株から、RNeasyキット(QIAGEN)を製造元の使用説明書に従って用いて全RNAを抽出した。DNase I(ニッポンジーン、大阪、日本)で処理した後に、mRNA精製キット(Amersham Biosciences)を製造元の使用説明書に従って用いてmRNAを単離した。各mRNAの1μgアリコートを、正常成人の乳房(Biochain)、肺、心臓、肝臓、腎臓、骨髄(BD, Clontech, Palo Alto, CA)から単離したポリA(+)RNAとともに1%変性アガロースゲル上で分離し、かつナイロン膜に転写した(乳癌ノーザンブロット)。乳癌ノーザンブロットおよびヒト多組織ノーザンブロット(Clontech, Palo Alto, CA)を、RT-PCRによって調製したA5657、B9769、およびC7965の[α32P]-dCTP標識PCR産物とハイブリダイズさせた(下記参照)。プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーション、および洗浄は供給元の推奨に従って行った。ブロットのオートラジオグラフィーは増感スクリーンを用いて-80℃で14日間行った。A5657(541bp)、B9769(499bp)、およびC7965(238bp)に対する特異的プローブは、半定量的RT-PCRの項に述べたプライマーセットを用いてPCRにより調製した。
A5657に対して
5'-CAAATATTAGGTGGAGCCAACAC-3'(SEQ ID NO:9)および
5'-TAGATCACCTTGGCAAAGAACAC-3'(SEQ ID NO:10);
B9769に対して
5'-ACCTCAAGTCCCTCCTGGAA-3'(SEQ ID NO:11)および
5'-TCAGTTTCAACAGGTAAGGCGAT-3'(SEQ ID NO:12);
C7965に対して
5'-GGGAAGAGAAGTCCCGAGTC-3'(SEQ ID NO:15)および
5'-TCCTTATTCTGAATTTCCAGAATC-3'(SEQ ID NO:16)。
【0217】
cDNA末端迅速増幅(RACE)PCR
C7965転写物の完全長を検出するために、Marathon cDNA増幅キット(BD, CLONTECH)を製造元の使用説明書に従って用いて5'RACEを行った。逆方向プライマー(5'-CAAGCAGTCCTACCAGGGTTCGGAAGCTGA-3')(SEQ ID NO:17)を用い、乳癌細胞株MCF7から調製したcDNAを鋳型として用いて1回目のPCRを行ったところ、多数の産物バンドが検出された。1回目の5'RACE-PCRは以下の条件下で行った:最初の変性を94℃で1分間;94℃で30秒間、68℃で2分間を35サイクル;その後に最終伸長を68℃で7分間。1回目のPCR産物を希釈した後に、ネステッドリバースプライマー(5'-CCAGGGTTCGGAAGCTGAGAGGAGCAGTTT-3')(SEQ ID NO:18)を用いたNested PCRにより、強い産物バンドが検出された。Nested-PCRは以下の条件下で行った:最初の変性を94℃で1分間;94℃で30秒間、72℃で2分間を2サイクル、および94℃で30秒間、70℃で2分間を2サイクル、94℃で30秒間、68℃で2分間を15サイクル;その後に最終伸長を68℃で7分間。配列は、Gel抽出キット(Qiagen)およびTOPO TAクローニングキット(Invitrogen)を製造元の使用説明書に従って用いて同定した。
【0218】
発現ベクターの構築
A5657 cDNA、B9769 cDNA、およびC7965 cDNAの全コード配列を、以下のプライマーとともにKOD-Plus DNAポリメラーゼ(東洋紡、大阪、日本)を用いてPCRにより増幅した。
A5657フォワードプライマー;5'-CCGGAATTCATGCAGAGAGCTTCACGTCTG-3'(SEQ ID NO:19)および
A5657リバースプライマー;5'-CCGCTCGAGAACATCAGGATGAAATTTCTTTTC-3'(SEQ ID NO:20)、
B9769フォワードプライマー;5'-CCGGAATTCATGAGCGGTGCGGGGGTGGCG-3'(SEQ ID NO:21)および
B9769リバースプライマー;5'-CCGCTCGAGAAGCACTGAGCGATGCAGGCG-3'(SEQ ID NO:22)、ならびに
C7965フォワードプライマー;5'-CCGGAATTCATGGACGCAGAGCTGGCAGAGGTGCG-3'(SEQ ID NO:23)および
C7965リバースプライマー;5'-CCGCTCGAGGTTGTTCTCCTCTGCACAAAG-3' (SEQ ID NO:24)。
これらのPCR産物を、それぞれpCAGGS-3xFLAGnおよびpCAGGSnHA、pcDNA3.1(+)-Myc/His(Invitrogen)発現ベクター中のEcoRI部位およびXhoI部位に挿入した。ユビキチン結合アッセイに関しては、HA-ユビキチン発現ベクター(pcdef3-HA-RPS27A)を、Kohei Miyazono博士(財団法人癌研究会癌研究所(The Cancer Institute of Japanese Foundation for Cancer Research))から寄贈いただいた。これらの構築物(pCAGGS-A5657-HA、pcDNA3.1-A5657-Myc/His、pCAGGS-3xFLAG-A5657、およびpcdef3-HA-RPS27A(Ub80a))をDNAシークエンシングによって確認した。細胞増殖促進アッセイに関して、変異型H-ras(G12K)の全コード配列はMotoko Unoki博士によって構築された。
【0219】
免疫細胞化学染色
A5657、B9769、およびC7965タンパク質の細胞内局在を調べるために、A5657およびB9769に関してT47D細胞を5×104個/ウェルで播くとともに、B9769およびC7965に関してCOS7細胞を1×104(低密度)および1×105(高密度)で播いた。24時間後に、FuGENE 6トランスフェクション試薬(Roche)を製造元の使用説明書に従って用いて、T47D細胞に対してそれぞれ1μgのpCAGGS-A5657-HAを細胞に一過性にトランスフェクトした。続いて、細胞を4%パラホルムアルデヒドを含むPBSにより15分間固定し、0.1%Triton X-100を含むPBSを4℃で2.5分間用いて透過化処理した。引き続いて、非特異的なハイブリダイゼーションをブロックするために、細胞を3%BSAを含むPBSにより4℃で12時間覆った。次に、A5657-HAをトランスフェクトしたT47D細胞を、1:1000希釈したマウス抗HA抗体(SANTA CRUZ)または1:1000希釈したマウス抗myc抗体(Sigma)のそれぞれとインキュベートした。PBSで洗浄した後に、両方のトランスフェクト細胞を、1:5000希釈したAlexa594結合抗マウス二次抗体(Molecular Probe)によって染色した。さらに、B9769タンパク質と他の細胞骨格タンパク質との間で細胞内局在を比較した。1μgのpcDNA3.1(+)-B9769-myc-hisによるトランスフェクション後に、細胞を、1:1000希釈したウサギ抗myc抗体(SANTACRUZ)または1:500希釈したマウス抗βチューブリン抗体(SIGMA)とともにインキュベートした。PBSで洗浄した後に、トランスフェクトしたT47D細胞を、1:5000希釈したAlexa488結合抗ウサギ二次抗体(Molecular Probe)、Alexa594結合抗マウス二次抗体(Molecular Probe)、1:50希釈したAlexa594結合ファロイジンによって染色した。さらに、低密度または高密度の細胞におけるB9769の細胞内局在を調べるために、COS7細胞に対して1μgのpCAGGSn3F-B9769-HAをトランスフェクトし、上記と同じ手順を用いて免疫細胞化学染色を行った。トランスフェクトした細胞を、1:1000希釈したマウス抗HA抗体(SANTACRUZ)とともにインキュベートした。PBSで洗浄した後に、COS7細胞を、1:5000希釈したAlexa594結合抗マウス二次抗体(Molecular Probe)によって染色した。核は4',6'-ジアミジン-2'-フェニルインドール二塩酸(DAPI)で対比染色した。さらに、低密度または高密度の細胞におけるC7965の細胞内局在を調べるために、COS7細胞に対して1μgのpcDNA3.1(+)-C7965-Myc/Hisをトランスフェクトし、上記と同じ手順を用いて免疫細胞化学染色を行った。トランスフェクトした細胞を、1:1000希釈したマウス抗myc抗体(SANTACRUZ)とともにインキュベートした。PBSで洗浄した後に、COS7細胞を、1:5000希釈したAlexa594結合抗マウス二次抗体(Molecular Probe)によって染色した。核は4',6'-ジアミジン-2'-フェニルインドール二塩酸(DAPI)で対比染色した。蛍光画像はTCS SP2AOBS顕微鏡(Leica、東京、日本)を用いて取得した。
【0220】
psiU6X3.0を用いた、A5657、B9769、およびC7965に特異的なsiRNA発現ベクターの構築
ベクターに基づくRNAiシステムを、文献に記載されているpsiU6BX siRNA発現ベクターを用いて確立した(Shimokawa T., Furukawa Y., Sakai M., Li M., Miwa N., Lin Y. M. Nakamura Y.「Involvement of the FGF18 Gene in Colorectal Carcinogenesis, as a Novel Downstream Target of the β-Catenin/T-Cell Factor Complex63.」Cancer Res., 63, 6116-20, 2003)。A5657(psiU6BX-A5657)、B9769(psiU6BX-B9769)およびC7965(psiU6BX-C7965)に対するsiRNA発現ベクターは、psiU6BXベクターのBbsI部位への二本鎖オリゴヌクレオチドのクローニングによって調製した。対照プラスミドpsiU6BX-EGFPは、二本鎖オリゴヌクレオチド、5'-CACCGAAGCAGCACGACTTCTTCTTCAAGAGAGAAGAAGTCGTGCTGCTTC-3'(SEQ ID NO:25)および5'-AAAAGAAGCAGCACGACTTCTTCTCTCTTGAAGAAGAAGTCGTGCTGCTTC-3'(SEQ ID NO:26)を、psiU6BX3.0ベクターのBbsI部位にクローニングすることによって調製した。
【0221】
(表1)

【0222】
A5657、B9769、およびC7965の遺伝子サイレンシング作用
ヒト乳癌細胞株T47Dを10cm培養皿(1×106個/枚)にプレーティングし、FuGENE6試薬を供給元の推奨(Roche)に従って用いて、psiU6BX-EGFP(陰性対照として)、psiU6BX-A5657、psiU6BX-B9769およびpsiU6BX-C7965をトランスフェクトした。トランスフェクションから7日目の時点で細胞から全RNAを抽出し、上記のようにA5657、B9769、およびC7965ならびにGAPDHに対して特異的なプライマーを用いて半定量的RT-PCRによりsiRNAのノックダウン作用を確認した。さらに、T47D細胞株を用いたsiRNAを発現するトランスフェクタントを、0.7mg/mlネオマイシンを含む選択培地中で28日間増殖させた。4%パラホルムアルデヒドで固定した後に、コロニー形成を評価するためにトランスフェクト細胞をギムザ液で染色した。細胞の生存度の定量のためにMTTアッセイを行った。ネオマイシンを含む培地中で7日間培養した後に、MTT溶液(臭化3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウム)(Sigma)を濃度0.5mg/mlで添加した。37℃で2.5時間インキュベートした後に、酸-SDS(0.01N HCl/10% SDS)を添加した;紺青色の結晶を溶解するためにこの懸濁液を激しく混合し、37℃で一晩インキュベートした。570nmでの吸光度をMicroplate Reader 550(BioRad)を用いて測定した。
【0223】
細胞増殖アッセイ
NIH3T3細胞を150mm培養皿当たり3×106個で播いた。24時間後に、16μgのpcDNA3.1(+)-Myc/His(Invitrogen)を陰性対照として、pcDNA3.1(+)-A5657-Myc/His、pcDNA3.1(+)-B9769-Myc/His、pcDNA3.1(+)-C7965-Myc/HisまたはpcDNA3.1(+)-H-Ras-変異型-Myc/Hisを陽性対照として、それぞれFuGENE 6(Roche)を用いてNIH3T3細胞に一過性にトランスフェクトした。次に、トランスフェクションから24時間後にNIH3T3細胞を1ウェル当たり2×104個で再び播いた。MTTアッセイは再播種から1日、2日、4日、および6日後に以前の記載の通りに行った。
【0224】
ユビキチン結合分析
COS7細胞を1ウェル当たり5×105個で播いた。24時間後に、1μgのFLAG標識A5657および0.1μgのHA標識ユビキチン発現ベクター(Ub80a-HA)による同時トランスフェクションを、FuGENE6(Roche)を用いてCOS7細胞に行った。HA標識ユビキチン発現ベクターは、ImamuraらおよびEbisawaらに従って構築した(Imamura et al., Nature 389/6651, 622-6, 1997 「Smad6 inhibits signalling by the TGF-beta super family.」;Ebisawa et al., J Biol Chem. 20:276/16, 12477-80, 2001 「Smurf1 interacts with transforming growth factor-beta type I receptor through Smad7 and induces receptor degradation.」)。トランスフェクションから24時間後に細胞に5μMプロテアソーム阻害剤MG132または5μM DMSOを添加し、その6時間後に細胞を1.0%NP40バッファー(1.0% NP40、50mM Tris-HCl(pH 8.0)、150mM NaClおよび完全プロテアーゼ阻害剤カクテル)1ml中で溶解させた。この細胞溶解液を、マウスモノクローナル抗FLAG-M2抗体またはマウス抗HA抗体を結合させたアガロースによって免疫沈降させた。可溶化バッファーによる洗浄を6回行った後に、結合性タンパク質をFlag-M2またはHAペプチド(SIGMA)によって溶出させた。免疫沈降物を、ウサギ抗HAポリクローナル抗体またはウサギ抗Flagポリクローナル抗体を用いてウエスタンブロットにて分析した。試料バッファー中の可溶性タンパク質を12%SDS-ポリアクリルアミドゲルにローディングし、ニトロセルロース膜(Hybond ECLO)に転写した。0.05% Tween 20を含むTris緩衝生理食塩水(TBST)にBlockAce粉末(雪印、東京、日本)を溶解させたものによって膜をブロックし、各抗体とともに室温で1時間インキュベートした。続いてブロットをHRP結合二次抗体(Amersharm Biosciences)とハイブリダイズさせ、ECL法(Amersham Biosciences)を用いて検出した。
【0225】
結果
乳癌細胞で上方制御される遺伝子としてのA5657、B9769、およびC7965の同定
81例の乳癌患者からの癌細胞の遺伝子発現プロファイルを、23,040種のヒト遺伝子を提示したcDNAマイクロアレイを用いて解析したところ、乳癌細胞で通例的に上方制御されている102種の遺伝子が同定された。これらの上方制御される遺伝子の中から、ユビキチン結合酵素(Genbankアクセッション番号NM_014176)に類似したHSPC150タンパク質を指定する施設内コードA5657の遺伝子(SEQ ID NO:1)、仮説上のタンパク質BC016861(Genbankアクセッション番号NM_138770)を指定するB9769の遺伝子(SEQ ID NO:3)、および、ESTに対応するC7965の遺伝子(SEQ ID NO:5)を選択した。マイクロアレイ上での遺伝子A5657、B9769、およびC7965の発現は、正常乳管細胞と比較して、乳癌細胞のそれぞれ49例中38例、73例中30例、および49例中28例で有意に亢進していた。本発明者らが焦点としたこれらの上方制御される遺伝子の発現を確かめるために、乳癌細胞と正常ヒト組織(正常乳房細胞を含む)との間でのそれらの発現を比較するための半定量的RT-PCR分析を行った。第1に、A5657は、12例の臨床的な乳癌試料中9例(低分化型)で、正常乳管細胞および他のいくつかの正常組織と比較して発現の亢進が認められ、6種類の乳癌細胞株のすべてにおいても同様に過剰発現されることが見いだされた(図1a)。次に、B9769は、12例の臨床的な乳癌試料中6例(低分化型)で正常乳管細胞と比較して発現の亢進が認められ、20種類の乳癌細胞株中4種類で過剰発現されることが見いだされた(図1b)。最後に、C7965は、12例の臨床的な乳癌試料中7例(高分化型)で正常乳管細胞と比較して発現の亢進が認められ、20種類の乳癌細胞株中15種類で過剰発現されることが判明した(図1c)。
【0226】
これらの上方制御される遺伝子の発現パターンをさらに調べるために、ヒト多組織および乳癌細胞株を用い、A5657、B9769、およびC7965のcDNA断片をプローブとして用い、ノーザンブロット分析を行った(上記参照)。その結果、A5657は肺、肝臓、膵臓、および末梢血白血球を除いて偏在性に発現されており(図2a;上図)、しかも、乳癌細胞株のすべてで、他の正常組織、特に図2aの上図に示されているように強いシグナルをそれぞれ示した心臓および骨髄と比較しても驚くほど過剰発現されることが見いだされた(図2a;下図)。B9769は精巣および前立腺に限局して発現され(図2b、上図)、いくつかの乳癌細胞株では、他の正常組織、特に正常ヒト乳房と比較して過剰発現されることが見いだされた(図2b、下図)。ノーザンブロット分析を、多組織および乳癌細胞株を用い、エクソン2および3の内部にあるC7965断片をプローブとして用いて行った場合には、約1.35kbの転写物が観察された。この1.35kb転写物は、乳房組織を含む正常組織と比較して乳癌細胞株で特異的に発現され(図2c、下図)、精巣、骨格筋、および小腸では弱発現された(図2c、上図)。
【0227】
A5657、B9769、およびC7965のゲノム構造
A5657、B9769、およびC7965の全cDNA配列を得るために、乳癌細胞株およびT47Dから調製したcDNAを鋳型として用い、RT-PCRを行った。A5657は、ユビキチン結合酵素に類似したHSPC150タンパク質を指定する7つのエクソンからなり、ゲノム中では染色体1q32.1上に約10.3kbの範囲にわたって存在する。A5657の完全長cDNA配列は928ヌクレオチドを含んでいた。オープンリーディングフレーム(ORF)はエクソン2で始まり、エクソン7で終わる。最終的に、この転写物は197アミノ酸をコードする。
【0228】
B9769は8つのエクソンからなり、ゲノム中では染色体2q21.2上に約5.7kbの範囲にわたって存在する。B9769の完全長cDNA配列は1472ヌクレオチドを含んでいた。このORFはエクソン1で始まり、エクソン8で終わる。最終的に、この転写物は378アミノ酸をコードする。
【0229】
C7965転写物の5'末端をさらに単離するために、乳癌細胞株MCF7から調製したcDNAを鋳型として用いてcDNA末端迅速増幅(RACE)法を行った(材料および方法の項を参照)。8つのエクソンからなり、ノーザンブロットでは1.35kbに対応する1つの転写物が単離され(図2c、下図)、これはゲノム中では染色体9q上に約28.8kbの範囲にわたって存在していた。C7965の完全長cDNA配列は1315ヌクレオチドを含んでいた。C7965 cDNAのORFはエクソン1内部で始まり、エクソン8で終わる。最終的に、この転写物は288アミノ酸をコードする。
【0230】
A5657、B9769、およびC7965の細胞内局在
A5657、B9769、およびC7965の特性をさらに検討するために、これらの遺伝子産物の細胞内局在を哺乳動物細胞で調べた。まず、本発明者らが、A5657タンパク質を発現するプラスミド(pCAGGS-A5657-HA)をT47D細胞に一過性にトランスフェクトした場合には、免疫細胞化学染色により、トランスフェクトしたT47D細胞全体のうち約80%では外因性A5657が細胞質中に局在し、細胞の残りの約20%では核に局在することが判明した(図3a)。
【0231】
次に、B9769タンパク質を発現するプラスミド(pCAGGS-Flag-B9769-HA)をCOS7細胞に一過性にトランスフェクトした場合には、免疫細胞化学染色により、B9769タンパク質は、少数の細胞中(低密度)では中間径フィラメントとして細胞小器官中に局在しているが、多数の細胞中(高密度)では細胞質に局在することが判明し(図3b)、このことからB9769が細胞間相互作用に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。このタンパク質の局在性をさらに詳細に調べるために、他の細胞骨格タンパク質の局在性を免疫細胞化学染色によって比較した。その結果、B9769および他の細胞骨格タンパク質は、T47D細胞内の細胞小器官中にフィラメントとして共存していなかった(図3c)。
【0232】
最後に、C7965タンパク質を発現するプラスミド(pcDNA3.1(+)-C7965-Myc/His)をCOS7細胞に一過性にトランスフェクトした場合には、免疫細胞化学染色により、C7965タンパク質がCOS7細胞内の細胞小器官中に局在していることが判明した(図3d)。
【0233】
A5657、B9769、およびC7965の発現を低下させるように設計された低分子干渉RNA(siRNA)の増殖阻害作用
A5657、B9769、およびC7965の増殖促進上の役割を評価するために、A5657、B9769、およびC7965の過剰発現が示されている乳癌細胞株T47Dにおける内因性A5657、B9769、およびC7965の発現を、哺乳動物ベクターに基づくRNA干渉(RNAi)法(材料および方法の項を参照)によってノックダウンした(図4、5、および6)。A5657、B9769、およびC7965の発現レベルを半定量的RT-PCR実験によって調べた。図4、5、および6に示されているように、A5657(si2およびsi3)、B9769(si1およびsi2、si4)およびC7965(si1およびsi3)に対して特異的なsiRNAは、各遺伝子の発現を対照siRNA構築物(psiU6BX-EGFP)と比較して有意に抑制した。A5657、B9769、およびC7965に対して特異的なsiRNAによる細胞増殖阻害を確認するために、コロニー形成アッセイおよびMTTアッセイをそれぞれ行った。その結果、A5657(si2およびsi3)(図4b、c)、B9769(si1、およびsi2、si4)(図5b、c)およびC7965(si1およびsi3)(図6b、c)の構築物導入によってT47D細胞の増殖は抑制され、これは発現低下に関する上記の結果に一致した。それぞれの結果は3回の独立した実験によって確認された。このため、これらの所見は、A5657、B9769、およびC7965が乳癌の細胞増殖において重要な機能を有することを示唆している。
【0234】
NIH3T3細胞におけるA5657、B9769、およびC7965の一過性過剰発現の増殖促進作用
細胞増殖調節におけるA5657、B9769、およびC7965の役割についてさらに検討するために、A5657、B9769、C7965、H-ras変異体(陽性対照として)または擬似物(Mock)(陰性対照として)を発現するプラスミドのそれぞれをNIH3T3細胞に一過性にトランスフェクトし、その後にMTTアッセイを行った(図7)。トランスフェクションから6日後に、A5657(図7a)、B9769(図7b)、およびC7965(図7c)の過剰発現ならびにH-ras変異体の過剰発現は、対照プラスミド(擬似ベクター)をトランスフェクトしたNIH3T3細胞と比較して細胞増殖の有意な増大(3倍を上回る)をもたらし、このことから、A5657、B9769、およびC7965が細胞増殖に役割を果たす可能性が示唆された。これらの結果は2回の独立した実験によって確認された。
【0235】
ユビキチンと結合するA5657タンパク質
A5657の機能をさらに詳細に探るために、A5657を発現するプラスミドをトランスフェクトしたCOS7細胞からの全細胞溶解液を用いるウエスタンブロット分析を行った。その結果、予想される分子量を示すバンドに加えて、より移動性の遅いバンドが1本のみ余剰に観察され(図8;左図、全細胞溶解液中)、翻訳後修飾によって生じた可能性が示唆された。SMARTプログラムにより、A5657によってコードされる197アミノ酸がUBCcドメイン(ユビキチン結合酵素E2、触媒ドメイン相同体)(5〜152残基)を含むことが予想され、このことからA5657がE2ユビキチン酵素活性を有する可能性が示唆された。この余剰なバンドがモノユビキチン化によって生じたものか否かを調べるために、FLAG標識A5657およびHA標識ユビキチンを発現するように設計されたプラスミドDNA(それぞれA5657-FLAGおよびUB80a-HA)を、COS7細胞に同時トランスフェクトした。A5657を抗FLAG抗体を用いて免疫沈降させたところ、沈降物は抗HA抗体で検出可能であった。余剰な移動性の遅いバンドが1本観察され、このことからA5657がユビキチンと結合することが示された(図8)。さらに、免疫沈降を抗HA抗体を用いて行い、その後に抗FLAGを用いてウエスタンブロット分析を行ったところ、移動性の遅い余剰なバンドがこの場合も観察された(図8)。プロテアソーム阻害剤MG132による処理はこの結合に影響を及ぼさなかった。この所見は、A5657タンパク質がモノユビキチン化を介したE2ユビキチン酵素活性を有することを強く示唆する。
【0236】
考察
本明細書では、ゲノムワイドcDNAマイクロアレイを利用した乳癌の正確な発現プロファイルにより、正常ヒト組織と比較して乳癌細胞で有意に過剰発現される新規遺伝子A5657、B9769、およびC7965を単離した。
【0237】
これらのうち、A5657はUBCcドメイン(ユビキチン結合酵素E2、触媒ドメイン相同体)を含み、このため、ユビキチンと結合することができる。この所見は、A5657タンパク質がモノユビキチン化を介したE2ユビキチン酵素活性を有すること、およびそれゆえに乳癌発生に関与することを強く示唆する。
【0238】
B9769タンパク質は、免疫化学染色により、細胞質中に中間径フィラメントとして局在することが観察された。B9769タンパク質はさらに、低密度細胞集団の条件下では細胞小器官中に中間径フィラメントとして局在するが、高密度細胞集団の条件下では細胞質中に局在することが観察され、このことからB9769が細胞間相互作用に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
【0239】
本明細書で示したように、乳癌細胞をsiRNAで処理すると、3種類の標的遺伝子A5657、B9769、およびC7965のすべての発現が効果的に阻害され、このために乳癌細胞腫瘍の増殖が有意に抑制された。さらに、これらの遺伝子は、NIH3T3細胞で一過性に過剰発現させると細胞増殖を劇的に促進することがMTTアッセイで示された。これらの所見は、A5657、B9769、およびC7965が腫瘍細胞の成長増殖に重要な役割を果たしている可能性とともに、抗癌薬の開発のための有望な標的である可能性を示唆する。
【0240】
(表2)臨床組織学的情報



【0241】
産業上の利用可能性
レーザービームを用いた切除法(laser-capture dissection)とゲノム全体のcDNAマイクロアレイとの組み合わせによって得られた、本明細書に記載の乳癌の遺伝子発現解析によって、癌の予防および治療の標的となる特異的遺伝子が同定された。これらの発現差のある遺伝子サブセットの発現に基づいて、本発明は、乳癌を同定または検出するための分子診断マーカーを提供する。
【0242】
本明細書に記載の方法はまた、乳癌の予防、診断、および治療のさらなる分子標的の同定に有用である。本明細書において報告したデータは、乳癌の包括的な理解を増大させて、新規診断戦略の開発を促進し、治療薬および予防剤の分子標的を同定する手がかりを提供する。そのような情報は、乳房腫瘍形成のより深い理解に寄与し、乳癌を診断、治療、および究極的には予防するための新規戦略を開発するための指標を提供する。
【0243】
本明細書において引用した全ての特許、特許出願、および刊行物は、その全体が参照として本明細書に組み入れられる。さらに、特定の態様を参照して本発明を詳細に説明してきたが、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく様々な変更および改変を本発明に加えることができることは、当業者に明らかであると考えられる。
【0244】
さらに、本発明を、詳細に、その特定の態様に言及しながら説明してきたが、前記の記載は例示的および説明的な性質のものであって、本発明およびその好ましい態様を例示することを意図していることが理解されるであろう。当業者は、慣行的な実験により、発明の精神および範囲から逸脱することなく、さまざまな変更および修正をそれに加えうることを直ちに認識すると考えられる。したがって、本発明は以上の記載によって規定されるのではなく、添付の特許請求の範囲およびそれらの等価物によって規定されることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0245】
【図1】半定量的RT-PCRの結果を示す。乳癌患者からの腫瘍細胞(3T、31T、149T、175T、431T、453T、491T、554T、571T、709T、772T、および781T)、乳癌細胞株(HBC4、HBC5、HBL100、HCC1937、MCF7、MDA-MB-231、SKBR3、T47D、YMB1、BT-20、BT-474、BT-549、HCC1143、HCC1500、HCC1599、MDA-MB-157、MDA-MB-435S、MDA-MB-453、OCUB-F、およびZR-75-1)および正常ヒト組織における(a)A5657、(b)B9769、および(c)C7965の発現レベルを示す。Preは正常乳管細胞、MGは乳腺、LUNは肺、LIVは肝臓、HEAは心臓、KIDは腎臓、BMは骨髄を指す。
【図2】種々のヒト組織(上図)ならびに乳癌細胞株および正常なヒト生体臓器(下図)における(a)A5657、(b)B9769、および(c)C7965転写物のノーザンブロット分析の結果を示す。
【図3】T47D乳癌細胞における外因性(a)A5657、(b)B9769(上図;低密度の細胞、下図、高密度の細胞)および(d)C7965、ならびに対照擬似物の細胞内局在を示す。(c)部分は外因性B9769の細胞内局在を他の細胞骨格タンパク質と比較して示している。
【図4】乳癌細胞におけるA5657の発現を低下させるように設計した低分子干渉RNA(siRNA)の増殖阻害効果を示す。(a)部分は、乳癌細胞(T47D)における、siRNAをT47D細胞に導入した後の、ネオマイシンを含む選択培地中での培養28日時点でのA5657の内因性発現の抑制を示す、半定量的RT-PCRの結果を示している。GAPDHを内部対照として用いた。(b)部分は、T47D細胞におけるA5657のノックダウンによるコロニー数の減少を示す、MTTアッセイの結果を示している。(c)部分は、T47D細胞におけるA5657のノックダウンによるコロニー数の減少を示す、コロニー形成アッセイの結果を示している。
【図5】乳癌細胞におけるB9769の発現を低下させるように設計した低分子干渉RNA(siRNA)の増殖阻害効果を示す。(a)部分は、乳癌細胞(T47D)における、siRNAをT47D細胞に導入した後の、ネオマイシンを含む選択培地中での培養28日時点でのB9769の内因性発現の抑制を示す、半定量的RT-PCRの結果を示している。GAPDHを内部対照として用いた。(b)部分は、T47D細胞におけるB9769のノックダウンによるコロニー数の減少を示す、MTTアッセイの結果を示している。(c)部分は、T47D細胞におけるB9769のノックダウンによるコロニー数の減少を示す、コロニー形成アッセイの結果を示している。
【図6】乳癌細胞におけるC7965の発現を低下させるように設計した低分子干渉RNA(siRNA)の増殖阻害効果を示す。(a)部分は、乳癌細胞(T47D)における、siRNAをT47D細胞に導入した後の、ネオマイシンを含む選択培地中での培養28日時点でのC7965の内因性発現の抑制を示す、半定量的RT-PCRの結果を示している。GAPDHを内部対照として用いた。(b)部分は、T47D細胞におけるC7965のノックダウンによるコロニー数の減少を示す、MTTアッセイの結果を示している。(c)部分は、T47D細胞におけるC7965のノックダウンによるコロニー数の減少を示す、コロニー形成アッセイの結果を示している。
【図7】A5657、B9769、およびC7965の過剰発現が細胞増殖の速度を増加させることを示す。NIH3T3細胞を6ウェルプレートにプレーティングし、表記のようにA5657、B9769、およびC7965発現ベクターのそれぞれを一過性にトランスフェクトした。第1日、2日、4日、および6日の時点で細胞増殖に関するO.D.値をモニターするためにMTTアッセイを行った。バーは平均±S.E.(n=2)を示す。
【図8】A5657タンパク質のユビキチン化を示す。(A)部分は、インビボでのユビキチン化アッセイの結果を示している。細胞溶解液を抗Flagブロット法に直接供するか(左)、または抗HA抗体で免疫沈降させた後に抗Flagイムノブロット法を行った(右)。(B)部分は、抗HAブロット法に直接供した細胞溶解液(左)、または抗FLAG抗体で免疫沈降させた後に抗HAイムノブロット法を行った細胞溶解液(右)を示している。ユビキチンをFLAG-A5657と結合させた。ウエスタンブロット上の余剰のバンドにより、ユビキチン化されたA5657が示された。
【図1a】

【図1b】

【図1c】

【図2a】

【図2b】

【図2c】

【図3a】

【図3b】

【図3c】

【図3d】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者由来の生物学的試料におけるA5657、B9769、およびC7965からなる群より選択される乳癌関連遺伝子の発現のレベルを決定する段階を含む、対象における乳癌または乳癌を発症する素因を診断する方法であって、該試料の発現レベルが該遺伝子の正常対照レベルと比較して上昇していることにより、該対象が乳癌に罹患している、または乳癌を発症するリスクを有することが示される、方法。
【請求項2】
試料の発現レベルが正常対照レベルを少なくとも10%上回る、請求項1記載の方法。
【請求項3】
乳癌関連遺伝子がA5657であり、さらに、試料の発現レベルが正常対照レベルと比較して上昇していることにより、対象がIDCに罹患している、またはIDCを発症するリスクを有することが示される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
試料の発現レベルが正常対照レベルを少なくとも10%上回る、請求項3記載の方法。
【請求項5】
複数の乳癌関連遺伝子の発現レベルを決定する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
遺伝子発現レベルが、以下からなる群より選択される方法によって決定される、請求項1記載の方法:
(a)A5657、B9769、およびC7965からなる群より選択される乳癌関連遺伝子のmRNAの検出、
(b)A5657、B9769、およびC7965からなる群より選択される乳癌関連遺伝子によってコードされるタンパク質の検出、および
(c)A5657、B9769、およびC7965からなる群より選択される乳癌関連遺伝子によってコードされるタンパク質の生物学的活性の検出。
【請求項7】
検出がDNAアレイ上で行われる、請求項6記載の方法。
【請求項8】
患者由来の生物学的試料が乳房組織を含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
乳房組織が上皮細胞を含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
患者由来の生物学的試料が乳癌細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
患者由来の生物学的試料が乳癌細胞からの上皮細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
以下の段階を含む、乳癌を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法:
a)被験化合物を、A5657、B9769、およびC7965からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドに接触させる段階;
b)ポリペプチドと被験化合物との結合活性を検出する段階;および
c)ポリペプチドと結合する被験化合物を選択する段階。
【請求項13】
以下の段階を含む、乳癌を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法:
a)候補化合物を、A5657、B9769、およびC7965からなる群より選択される1つまたは複数のマーカー遺伝子を発現する細胞に接触させる段階;および
b)該1つまたは複数のマーカーの発現レベルを候補化合物の非存在下で検出される発現レベルと比較して低下させる候補化合物を選択する段階。
【請求項14】
細胞が乳癌細胞を含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
以下の段階を含む、乳癌を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法:
a)被験化合物を、A5657、B9769、およびC7965からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドに接触させる段階;
b)段階(a)のポリペプチドの生物学的活性を検出する段階;および
c)該ポリペプチドの生物学的活性を被験化合物の非存在下で検出される該ポリペプチドの生物学的活性と比較して抑制する被験化合物を選択する段階。
【請求項16】
以下の段階を含む、乳癌を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法:
a)候補化合物を、A5657、B9769、およびC7965からなる群より選択される1つまたは複数のマーカー遺伝子の転写調節領域とその転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子とを含むベクターが導入された細胞に接触させる段階;
b)該レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性を測定する段階;および
c)該レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性を候補化合物の非存在下で検出される発現レベルまたは活性と比較して低下させる候補化合物を選択する段階。
【請求項17】
乳癌がIDCであり、以下の段階を含む、請求項12記載の方法:
a)被験化合物を、A5657によってコードされるポリペプチドに接触させる段階;
b)ポリペプチドと被験化合物との結合活性を検出する段階;および
c)ポリペプチドと結合する被験化合物を選択する段階。
【請求項18】
乳癌がIDCであり、以下の段階を含む、請求項13記載の方法:
a)候補化合物を、A5657を発現する細胞に接触させる段階;および
b)A5657の発現レベルを候補化合物の非存在下で検出される発現レベルと比較して低下させる候補化合物を選択する段階。
【請求項19】
細胞がIDC細胞を含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】
乳癌がIDCであり、以下の段階を含む、請求項15記載の方法:
a)被験化合物を、A5657によってコードされるポリペプチドに接触させる段階;
b)段階(a)のポリペプチドの生物学的活性を検出する段階;および
c)該ポリペプチドの生物学的活性を被験化合物の非存在下で検出される該ポリペプチドの生物学的活性と比較して抑制する被験化合物を選択する段階。
【請求項21】
乳癌がIDCであり、以下の段階を含む、請求項16記載の方法:
a)候補化合物を、A5657の転写調節領域とその転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子とを含むベクターが導入された細胞に接触させる段階;
b)該レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性を測定する段階;および
c)該レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性を候補化合物の非存在下で検出される発現レベルまたは活性と比較して低下させる候補化合物を選択する段階。
【請求項22】
A5657、B9769、およびC7965からなる群より選択される2つもしくはそれ以上の核酸配列またはそれら核酸配列によってコードされるポリペプチドと結合する検出試薬を含むキット。
【請求項23】
A5657、B9769、およびC7965からなる群より選択される遺伝子に対応するコード配列に対して相補的なヌクレオチド配列を含むアンチセンス組成物を対象に投与する段階を含む、対象における乳癌を治療または予防する方法。
【請求項24】
A5657、B9769、およびC7965からなる群より選択される核酸配列の発現を低下させるsiRNA組成物を対象に投与する段階を含む、対象における乳癌を治療または予防する方法。
【請求項25】
siRNAが、SEQ ID NO:28、29、30、31、32、33、および34のヌクレオチド配列からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含むセンス鎖を含む、請求項24記載の方法。
【請求項26】
A5657、B9769、およびC7965からなる群より選択されるいずれか1つの遺伝子によってコードされるタンパク質と結合する抗体またはその免疫学的活性断片の薬学的有効量を対象に投与する段階を含む、対象における乳癌を治療または予防するための方法。
【請求項27】
A5657、B9769、およびC7965からなる群より選択される核酸によってコードされるポリペプチドもしくは該ポリペプチドの免疫学的活性断片、またはそのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むワクチンを対象に投与する段階を含む、対象における乳癌を治療または予防する方法。
【請求項28】
抗原提示細胞を、A5657、B9769、およびC7965からなる群より選択される遺伝子によってコードされるポリペプチドもしくはその免疫学的活性断片、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含むベクターに接触させる段階を含む、抗腫瘍免疫を誘導するための方法。
【請求項29】
抗原提示細胞を対象に投与する段階をさらに含む、請求項28記載の抗腫瘍免疫を誘導するための方法。
【請求項30】
請求項12〜21のいずれか一項記載の方法によって得られた化合物を投与する段階を含む、対象における乳癌を治療または予防するための方法。
【請求項31】
乳癌がIDCであり、アンチセンス組成物が、A5657に対応するコード配列に対して相補的なヌクレオチド配列を含む、請求項23記載の方法。
【請求項32】
乳癌がIDCであり、siRNA組成物がA5657の発現を低下させる、請求項24記載の方法。
【請求項33】
siRNAが、SEQ ID NO:28または29のヌクレオチド配列を含むセンス鎖を含む、請求項32記載の方法。
【請求項34】
乳癌がIDCであり、抗体またはその断片がA5657によってコードされるタンパク質と結合する、請求項26記載の方法。
【請求項35】
乳癌がIDCであり、ワクチンが、A5657によってコードされるポリペプチドもしくは該ポリペプチドの免疫学的活性断片、または該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、請求項27記載の方法。
【請求項36】
乳癌がIDCであり、化合物が請求項17〜21のいずれか一項記載の方法によって得られる、請求項30記載の方法。
【請求項37】
A5657、B9769、およびC7965からなる群より選択されるポリヌクレオチドに対するアンチセンスポリヌクレオチドまたは低分子干渉RNAの薬学的有効量を含む、乳癌を治療または予防するための組成物。
【請求項38】
siRNAが、SEQ ID NO:28、29、30、31、32、33、および34のヌクレオチド配列からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含むセンス鎖を含む、請求項37記載の組成物。
【請求項39】
A5657、B9769、およびC7965からなる群より選択される遺伝子によってコードされるタンパク質と結合する抗体またはその断片の薬学的有効量を含む、乳癌を治療または予防するための組成物。
【請求項40】
有効成分として請求項12〜16のいずれか一項記載の方法によって選択された化合物の薬学的有効量と、薬学的に許容される担体とを含む、乳癌を治療または予防するための組成物。
【請求項41】
乳癌がIDCであり、ポリヌクレオチドがA5657である、請求項37記載の組成物。
【請求項42】
siRNAが、SEQ ID NO:28または29のヌクレオチド配列を含むセンス鎖を含む、請求項41記載の組成物。
【請求項43】
乳癌がIDCであり、タンパク質がA5657によってコードされる、請求項39記載の組成物。
【請求項44】
乳癌がIDCであり、化合物が請求項17〜21のいずれか一項記載の方法によって選択される、請求項40記載の組成物。

【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−506424(P2007−506424A)
【公表日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−527766(P2006−527766)
【出願日】平成16年8月10日(2004.8.10)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011741
【国際公開番号】WO2005/029067
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(504445356)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (22)
【Fターム(参考)】