説明

乳酸オリゴマーおよびその成形体

【課題】十分な乳酸放出量を確保しつつ、多様な成形方法に適用可能な固体状の乳酸オリゴマーを提供すること。
【解決手段】少なくとも90モル%以上のL−乳酸単位を含み、重量平均分子量が2,500〜50,000の範囲で、融点が150〜175℃の範囲にある乳酸オリゴマーからなり、このオリゴマーは、直径(長径)が1μm〜10mmの範囲にある粉末状もしくはフレーク状の固体であることを特徴とする乳酸オリゴマー。乳酸オリゴマーとしては、ポリ乳酸組成物の加水分解処理によって生成されたものが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸を効率的に放出する乳酸オリゴマーおよびその成形体に関する。具体的には、抗菌作用を有する乳酸を効率的に放出する固体状の乳酸オリゴマーとその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境問題に対する意識の高まりから、実質的に炭酸ガスを放出しない再生可能なバイオマス由来の材料の開発が活発に展開されてきている。とりわけ、多糖類から発酵および化学合成手法によって製造されるポリ乳酸は、化石資源由来の汎用ポリマーの代替が期待されている。さらにこのポリ乳酸は、加水分解性材料として知られており、加水分解によって遊離する乳酸には、抗微生物作用があることが知られている。人が膚で触れたり食品として摂取してきて安全性が高いと考えられる天然抗菌剤として、その利用展開が望まれている。
【0003】
乳酸の抗菌性については、一般細菌に対しては抗菌性を示すものの真菌に対しては抗菌性が低いことが知られている(非特許文献1)。その一方で、光学純度が高く高品質のポリ乳酸には、乳酸と違ってカビ(真菌)抵抗性があることが知られている(非特許文献2)。また、抗菌性製品として、高分子量のポリ乳酸をそのまま繊維や網、ロープなどに成形し、表面からの乳酸を徐放させる技術が開示されている(特許文献1〜3)が、後述する実施例でも述べるように、一般的に高分子量のポリ乳酸からの乳酸放出量は極めて小さく、抗菌性能の発現には限界がある。特許文献4には、ポリ乳酸基材の表面を中性もしくはアルカリ性のコート液で処理する方法が開示されている。この方法は、表面積が小さく乳酸放出量の小さなフィルム状成形体には有効であるが、表面積の大きい粉末状や繊維上の成形体には極めて手間のかかる方法である。
【0004】
抗菌性を高めるためには乳酸を高濃度に放出する必要があり、そのためにはポリ乳酸の分子量が小さいことが望まれる。その一方で、成形体を形成し、これを維持するためには、ある特定の分子量以上であることが不可欠である。このような抗菌性と成形体維持特性を両立させるために、従来、幾つかの方法が提案されてきた。特許文献5では、高分子量のポリ乳酸に、10量体までのラクチドおよび乳酸オリゴマーを5〜30重量%含有させる抗菌組成物からなる食品包装材料が開示されている。しかし、包装材料の表面積は小さいため乳酸の表面からの放出量は制限され、食品との直接接触による乳酸の拡散を必要としている。
【0005】
特許文献6では、オリゴマー成分を0.01〜10重量%含有する防菌防黴性繊維が提案されている。また、特許文献7〜9には、乳酸、ラクチド、およびその他のオリゴ乳酸を0.01〜1.0重量%含有する繊維状成形体が開示されている。しかし、10重量%以下の乳酸オリゴマーが高分子量ポリ乳酸中に分散した繊維状構造体では、乳酸の放出量がポリ乳酸マトリックス中の拡散性によって制限されるばかりでなく、乳酸放出量そのものの絶対値が小さいため、その抗菌性に限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−303464号公報
【特許文献2】特開2001−301842号公報
【特許文献3】特開2005−273082号公報
【特許文献4】特開2008−63697号公報
【特許文献5】特開平7−258526号公報
【特許文献6】特開2000−328422号公報
【特許文献7】特開2000−248465号公報
【特許文献8】特開2000−248452号公報
【特許文献9】特開2000−239969号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】皮革科学、Vol.47、No.4、2002年、219-230頁
【非特許文献2】防菌防黴、Vol.29、No.3、2001年、153-159頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、十分な乳酸放出量を確保しつつ、多様な成形方法に適用可能な固体状の乳酸オリゴマーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明の一つの態様は、少なくとも90モル%以上のL−乳酸単位を含み、重量平均分子量が2,500〜50,000の範囲で、融点が150〜175℃の範囲にある乳酸オリゴマーからなり、該オリゴマーは、直径が1μm〜10mmの範囲にある粉末状もしくはフレーク状の固体であることを特徴とする乳酸オリゴマーである。
【0010】
乳酸オリゴマーとしては、ポリ乳酸組成物(ポリ乳酸を含む樹脂組成物とその成形品を含む)の加水分解処理によって生成されたものが好ましい。また、乳酸オリゴマーが、直径が1μm〜1mmの範囲にある粉末状固体であるものが好ましい。更に、水中での乳酸の溶出速度が1g/L・g−基質・24h以上である乳酸オリゴマーが好ましい。
【0011】
上記目的を達成するための本発明の他の態様は、前記のいずれかの乳酸オリゴマー30〜90重量%と、直径が1μm〜10mmの範囲にある粉末状もしくは破片状のバイオマス70〜10重量%の組成物を溶融ブレンドして得られる成形体である。ここで、バイオマスとは、再生可能資源由来の材料を意味し、好ましくは、植物性バイオマスを意味する。
【発明の効果】
【0012】
本発明における乳酸オリゴマーは、後述する実施例にも例示した通り、ポリ乳酸とは段違いの乳酸放出性能を有している。その一方で、溶融成形可能な固体であり、さまざまな共存物質との間で各種抗菌性成形体を形成可能である。
【0013】
より具体的には、本発明によれば、(a)粉末〜フレーク状固体のオリゴマーであるため、高い乳酸放出性能を維持できる。(b)豊富な末端水酸基やカルボン酸基により、さまざまな共存物質との間で複合成形体を形成することができる。(c)粉末〜フレーク状固体であるため、同様に粉末〜フレーク状固体であるバイオマスとの混合・溶融成形が容易である。(d)乳酸オリゴマー中の光学純度が高いため、150℃以上の融点を持った結晶領域が形成され、成形体の形状維持と耐熱性が確保できる。以上の特性によって、高い乳酸放出量を維持しつつ、溶融成形性に優れた材料および成形体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】粉末状木粉と粉末状乳酸オリゴマー(6:4重量比、190℃、1hで溶融成形)の純水浸漬に伴う水のpH変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一つの態様は、少なくとも90モル%以上のL−乳酸単位を含み、重量平均分子量が2,500〜50,000の範囲で、融点が150〜175℃の範囲にある乳酸オリゴマーからなり、該オリゴマーは、直径が1μm〜10mmの範囲にある粉末状もしくはフレーク状の固体であることを特徴とする乳酸オリゴマーである。以下、各要件について詳細に説明する。
【0016】
本発明において、乳酸オリゴマーとは、乳酸エステル構造を基本ユニットとするオリゴマーであり、特にL−乳酸エステル構造ユニットが全ユニットの90モル%以上、好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは98モル%以上のポリマーである。L−乳酸エステル構造ユニット以外の成分としては、D−乳酸エステルユニット、ラクチドと共重合可能なラクトン類、環状エーテル類、環状アミド類、環状酸無水物類などに由来する共重合成分ユニットが存在することが可能である。好適に用いられる共重合成分としては、カプロラクトン、バレロラクトン、β−ブチロラクトン、バラジオキサノンなどのラクトン類;エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、フェニルグリシジルエーテル、オキセタン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類;ε−カプロラクタムなどの環状アミド類;琥珀酸無水物、アジピン酸無水物などの環状酸無水物類などである。
【0017】
更に、開始剤成分として、ポリ乳酸又はその誘導体中に共存しうるユニットとして、アルコール類、グリコール類、グリセロール類、その他の多価アルコール類、カルボン酸類、および多価カルボン酸類、フェノール類などが用いられる。好適に用いられる開始剤成分を具体的に例示すれば、エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、グリセリン、オクチル酸、乳酸、グリコール酸などである。
【0018】
本発明の乳酸オリゴマーは、重量平均分子量(Mw)が2,500〜50,000の範囲であり、5,000〜30,000であることがより好ましい。また、数平均分子量(Mn)でいうと、1,000〜25,000であり、2,000〜15,000であることがより好ましい。かかる範囲の場合、乳酸の放出特性と成形性とのバランスの取れた物性が得られる。ここで重量平均分子量は、個々の分子にその分子量を掛けて加重平均をとった値であり、材料の機械的強度に反映する。一方で、数平均分子量は単純な1分子あたりの平均値であり、低分子量の成分、即ち、乳酸の放出量に反映する。重量平均分子量が50,000を超えた場合、機械的強度が十分に高いため、粉末もしくはフレーク状に破砕することが難しく、一般には、溶融後にペレット化されて使用される。一方、重量平均分子量が2,500、あるいは数平均分子量が1,000を下回ると、結晶化が難しくなるばかりでなく、ガラス転移温度も低下して固体状態を維持しがたくなるため、取り扱いが容易ではなくなる場合がある。なお、重量平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC(GPC))や光散乱といった方法により判定することができ、数平均分子量は、GPC(SEC)、末端基滴定、蒸気圧オスモメトリー及び浸透圧法などの公知の方法により測定することができる。
【0019】
本発明の乳酸オリゴマーは、固体状態を維持し成形体を形成するために、結晶性が有効に作用している。重合体を構成するユニットが高い光学純度を有している場合、即ち、L−乳酸エステルユニットが90モル%以上を占めている場合、重合体の結晶化は容易であるが、90モル%を下回ると結晶化が難しくなる場合がある。L−乳酸エステルユニットは、加熱やアルカリ金属の作用により容易に光学異性体であるD−乳酸エステルユニットに変換される。これはラセミ化といわれる異性化反応である。ラセミ化の程度を確認する方法として、核磁気共鳴スペクトル法(NMR法)、光学異性体分割カラムを装着したガスクロマトグラフィー法(GC法)及び高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)、熱分解−ガスクロマトグラフィー−質量分析法(熱分解−GC/MS法)などが挙げられる。これらNMR法、GC法、HPLC法、及び熱分解−GC/MS法などについては従来公知の方法・条件が適用可能である。
【0020】
本発明の乳酸オリゴマーは、高分子量のポリ乳酸が約175℃の融点と65℃のガラス転移温度を有しているのに対して、分子量低下とともにその結晶性および熱転移温度が減少する。とりわけ、重量平均分子量が1万を下回ると融点およびガラス転移温度が急激な減少傾向を示し、重量平均分子量5,000で融点が約165℃、分子量2,500で約150〜155℃となり、さらに分子量が低下すると、明確な融点を消失する場合が多い。したがって、安定な溶融成型性を維持するためには、少なくとも重量平均分子量で2,500以上、融点で150℃以上を保持することが必要である。
【0021】
本発明の乳酸オリゴマーは、その形状が、直径1μm〜10mmの範囲にある粉末状もしくはフレーク状固体である。ここで直径とは、粉末又はフレークの長径と短径の平均を意味する。この微細な形状がその表面積を増大させ、表面からの乳酸溶出を助長する。このような微細な形状は、本発明の乳酸オリゴマーの重量平均分子量が2,500〜50,000の範囲にあるという条件によって、より効果的に発現する特性である。一般的に高分子量のポリ乳酸は、その靭性によって破砕され難く、強い破砕力を用いて直径数cmのフラフやフレークに変換される。しかしながら、本発明において、重量平均分子量が50,000以下の乳酸オリゴマーでは、結晶領域周辺の非晶領域に分子末端が偏在し、わずかな破砕力によって容易に破砕されることを見出した。従って、高いL−乳酸単位を有し結晶性の本発明の乳酸オリゴマーは、容易に微細な形状にまで破砕され、一般の高分子量ポリ乳酸では調製が極めて難しい直径1μm〜1mmの範囲の粉末状個体の形態も調製可能である。ただし、直径が1μmを下回る形態では、その後の溶融成型での取り扱いが難しくなるため、あまり実用的ではない。また、直径が10mmを超える場合、例えば、成型機を用いた成型操作の際に、ホッパーに投入後、スクリューへの噛み込みが難しいため、好ましくない場合がある。長径が20mmを超えアスペクト比が大きい乳酸オリゴマーの場合も、同様にスクリューへの噛み込みが難しい。
【0022】
本発明の乳酸オリゴマーの製造は、従来公知の方法がいずれも適用可能であるが、より好適に用いられる方法としては、高分子量ポリ乳酸を水蒸気を用いて加水分解することによって製造する方法が好適に利用される。この方法を具体的に例示すれば、まず、重量平均分子量5万以上の高分子量ポリ乳酸を加熱水蒸気反応器に入れて、減圧及び/又は気相置換したのち、水蒸気を導入する。ガス状である水蒸気はいかなる狭い空間にも拡散していくことができるため、より効果的にポリ乳酸分子の間隙中に水蒸気が拡散し、速やかに加水分解が進行する。水蒸気により置換された後の前記容器内の温度は、100〜140℃、水蒸気圧は、0.10〜0.37MPaであることが好ましく、この段階における加熱水蒸気雰囲気中での加水分解を効果的に行うことができる。本加熱水蒸気分解により製造される乳酸オリゴマーの分子量は、加熱水蒸気分解の温度と時間により適宜制御することが可能である。一般的は、30分から200分の加熱時間で実施される。
【0023】
上記の100〜140℃の温度範囲での加熱水蒸気処理により、高分子量ポリ乳酸中に存在した結晶相をそのまま維持したまま、非晶領域の加水分解を選択的に行うことができ、結果として、直径が10mm以下の粉末状もしくはフレーク状の乳酸オリゴマーを容易に製造することができる。この粉末もしくはフレーク状の乳酸オリゴマーは、結晶相を保持しているため、分子量分布が異常に大きくなる場合がある。結晶相に基づく高分子量成分と、非晶相に基づく低分子量成分が共存し、サイズ排除クロマトグラフィー法による分子量分布曲線は多峰性となる場合が多い。このような多峰性の高分子をワンポットで調整することは通常非常に難しく、異なる分子量を持った成分を溶融ブレンドすることによって調製することもできるが、非常に手間のかかる方法である。このような分子量分布の広い多峰性の乳酸オリゴマーは、その内部に溶融成形後に形状保持に寄与する高分子量成分と、乳酸放出性能に優れた低分子量成分とを双方含んでいるため、本発明の乳酸オリゴマーの分子構造としては最も好ましい態様の一つである。
【0024】
本発明の乳酸オリゴマーの特徴は、優れた乳酸の放出特性にある。乳酸の放出速度は、その環境に強く依存し、水中のpHやイオン強度によって著しく変化する。従来、ポリ乳酸は生体内吸収性材料として手術用縫合糸や骨接合材として永らく用いられてきたために、その乳酸放出特性は、一般に、37℃、pH7.4のリン酸緩衝液中で測定されてきた。しかしながら、広く一般的用途にポリ乳酸を利用する場合、用途に応じた溶出特性の評価方法が選択される。例えば、純水中や酸性、アルカリ性溶液中、あるいは非水溶剤中での溶出挙動が要求される場合がある。本発明の乳酸オリゴマーの溶出は、より基本的な条件として25℃の水中において特性づけると、後述する実施例で示すようにその溶出速度が1g/L・g−基質・24h以上、より好ましくは3g/L・g−基質・24h以上として規定される。溶出速度が1g/L・g−基質・24hを下回った場合、乳酸オリゴマーおよびその成形体の抗菌性および表面の防汚性能が不十分となる場合がある。
【0025】
本発明の乳酸オリゴマーの溶出速度は、分子量が50,000を超えるポリ乳酸、例えば、後述する比較例3に示した重量平均分子量156,000のポリ乳酸の同条件での溶出速度約0g/L・g−基質・24hと比較すると、著しく改良された溶出特性が明らかである。この優れた溶出特性は、本発明の乳酸オリゴマーの形状の寄与も大きい。微細な粉末状もしくはフレーク状の形態は、フィルム状に比較してその表面積が著しく大きく、表面からの溶出拡散性を効果的に促進する。
【0026】
本発明のもう一つの態様は、前記の乳酸オリゴマー30〜90重量%と、直径が1μm〜10mmの範囲にある粉末状もしくは破片状のバイオマス70〜10重量%の組成物を溶融ブレンドして得られる成形体である。本発明において、粉末もしくは破片状のバイオマスとは、再生可能資源由来の材料であれば特に制限されないが、植物性バイオマスが賦存量や均一性、および乳酸オリゴマーとの親和性の点で好ましく用いられる。具体的に植物性バイオマスを例示すると、木粉、竹粉、竹炭などの木本類バイオマス;ケナフ、麻などの草本類バイオマス;および昆布、ワカメ、ホンダワラなどの海性バイオマス類である。これらの中でも、木粉、竹粉等の木本類バイオマスが入手の容易さや均一性などの点で最も好適に用いられる。
【0027】
本発明で用いられる粉末もしくは破片状のバイオマスの形状は、直径が1μm〜10mmの範囲にあることが要求される。この形状範囲にある材料は、乳酸オリゴマーとの粉末混合やそれにつづく溶融混合が容易である。一般に、類似した比重であれば、その形状が同一であるほど、均一な混合が可能であるため、1μm〜1mmの範囲の粉末状の乳酸オリゴマーに対しては、同様に1μm〜1mmの範囲の粉末状バイオマスが利用しやすい。一方、1mm〜10mmのフレーク状の乳酸オリゴマーに対しては、同様に1mm〜10mmの破片状のバイオマスがより好適に利用される。
【0028】
本発明の乳酸オリゴマーとバイオマスとの混合比は、目的とする成形体の強度や靭性、透水性、さらにはバイオマス度に応じて種々選択されるべきものであるが、成形性および成形体の形状保持特性を勘案すると、バイオマス:乳酸オリゴマー=7:3〜1:9の範囲の重量比で溶融ブレンドしてなる成形体が利用できる。乳酸オリゴマーの組成が3割を下回ると、バイオマスの粉体同士を繋ぎとめる役割の乳酸オリゴマーが不足し、脆い成形体となる場合がある。一方、乳酸オリゴマーの組成が9割を超えると、乳酸オリゴマー単独の成形体と何ら変わらず、透水性や比重軽減などのバイオマスの機能や性能が十分に発揮されない。
【0029】
本発明の乳酸オリゴマーとバイオマスとは溶融ブレンド法によって複合化される。溶融ブレンド法としては、一般に公知の方法が何ら制限なく利用可能であるが、溶融しないバイオマスと溶融して低粘度の流動体に変化する乳酸オリゴマーとの特性を考えたとき、押出成形、圧縮成形、カレンダー成型、および射出成型方法が好適に用いられる。乳酸オリゴマーの組成比が多い場合、低粘度で流動するため、射出成型が好ましく、一方、バイオマスの組成比が多い場合、押出成形や圧縮成形がより好適に用いられる。溶融成形する際には、乳酸オリゴマーを溶融する必要があり、乳酸オリゴマーの融点〜(融点+30℃)の温度範囲で選択される。ただし、乳酸オリゴマーの融点以下であっても、融点を示さない成分がガラス転移温度以上で融着することが可能であるため、とりわけ、圧縮成形の場合には、ガラス転移温度〜(融点+30℃)の温度範囲でも成型が可能である。
【0030】
本発明の成形体に共存可能な添加剤としては、加水分解抑制剤、結晶化促進剤、滑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤などである。これらの添加剤は、本発明の成形体の実用物性に顕著な影響を及ぼさない範囲で添加可能であり、通常、乳酸オリゴマー100重量部に対して5重量部以下、好ましくは3重量部以下で使用される。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらの実施例は何ら本発明の範囲を制限するものではない。
【0032】
[実施例1〜6]
[加熱水蒸気処理によるフレーク状乳酸オリゴマーの製造]
ポリ乳酸成型品3種(形状:バイオマスカップ、卵パック、皿)を準備した。各々の分子量は以下の通りである。
バイオマスカップ:Mn91,000、Mw200,000
卵パック:Mn88,000、Mw196,000
皿:Mn104,000、Mw175,000
【0033】
これらをそれぞれ別々にポリプロピレン製コンテナに入れ、オートクレーブ(三浦プロテック製、高圧蒸気滅菌機Zクレーブ、内容積1.22m)中で、室温(25℃)下、0.005MPaまで減圧して空気を排出した。そして空気の代わりに、表1に示した温度でそれぞれ水蒸気を導入した。この操作をさらに2回繰り返して系内の空気を排除した。最終の水蒸気圧は表1に内圧として示した通りであった。次に、この水蒸気雰囲気下、表1に示した条件でそれぞれ加熱水蒸気処理(加水分解処理)を行った。
【0034】
水蒸気処理後、再び0.005MPaまで減圧して水蒸気を排出し、代わりに乾燥空気を導入し気相置換を行った。その後、約10℃/分の速度で冷却し、処理済み成型品を回収した。この加熱水蒸気処理済み成型品を、手による圧迫試験を行った結果、いずれの成形体も容易に崩壊し、直径が10mm以下のフレーク状固体の本発明の乳酸オリゴマーが製造された。
【0035】
【表1】

【0036】
また、上記加熱水蒸気処理に伴う各フレーク状生成物の重量平均分子量を、サイズ排除クロマトグラフィーで、また、融点を、示差操作熱量計(DSC)によって測定し、その結果を表2に示した。これらの結果から、ポリ乳酸成型品の加熱水蒸気処理によって本発明の乳酸オリゴマーが製造されたことが分かる。
【0037】
【表2】

【0038】
[実施例7〜13、比較例1〜2]
[加熱水蒸気処理による粉末状乳酸オリゴマーの製造]
ペレット状のL−乳酸ポリマー(レイシア、三井化学株式会社製、Mn40,000、Mw78,400)を、オートクレーブ(トミー社製、モデルSS−325、内容量55L)中に入れ、120℃の水蒸気(0.202MPa)により加水分解処理を行った。表3に示した所定時間の処理の後、水蒸気を排出し、サンプルを取り出して真空乾燥器中に移し、0.005MPaまで減圧して処理された乳酸ポリマー中の水蒸気/水分を排出した。
【0039】
回収した各水蒸気処理時間の異なる処理済ペレットを、粉砕機(TESCOM社製、TML1000 フードミル)を用いて25000rpmで、25℃、30〜45秒間粉砕し、粉末状の乳酸オリゴマーを得た。該粉末状乳酸オリゴマーの粒径は、キーエンス社製顕微鏡VH−5000を用いて測定した。また、該粉末状乳酸オリゴマーの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)は、クロロホルムに溶解して、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)(GPC-8220、東ソー(株)製、カラム・TSKgel・Super・HM-H、検出器UV-8220及びRI-8220)を用いて測定した。分析した結果を表3に併記した。これらの結果から、ポリ乳酸ペレットの加熱水蒸気処理によって、本発明の乳酸オリゴマーが製造された。
【0040】
【表3】

【0041】
[実施例14〜15、比較例3]
[乳酸の溶出速度]
フレーク状の乳酸オリゴマー2種(Mw22,000と5,200、直径1〜10mm)各10gを、300mL容量の三角フラスコ中にとり、これに純水200mLを加えた。これを回転培養機中、25℃、100rpmで攪拌した。一定時間ごとに三角フラスコ中より10mLずつ、上澄みを取り、島津製作所製HPLC LC−10A(カラム:三菱化学製CRS10W、溶離液:2mM硫酸銅溶液、測定温度:30℃)を用いて有機酸の溶出量の測定を行った。測定した乳酸の溶出量を表4に示した。
【0042】
比較として、ポリ乳酸(Mn89,000、Mw156,000)10gを、上記実施例と同様にして行い、乳酸の溶出量を測定した。測定した結果を表4に併記した。これらの結果から、ポリ乳酸に比べて、本発明の乳酸オリゴマーからの乳酸溶出量が極めて多いことが明らかである。
【0043】
【表4】

【0044】
[実施例16〜22、比較例4〜5]
[乳酸オリゴマーとバイオマス粉末からの溶融成形体]
粒径が1〜500μmの粉末状乳酸オリゴマー(Mn2,100、Mw8,900)と、粒径が10〜500μmの木粉とを表5に示した所定の重量比で混合し、これを二つのアルミ製カップの間に圧縮充填した。これをオーブン中、所定の温度(174〜200℃)で所定時間加熱し溶融成形を行った。加熱後、サンプルを取り出し、十分に冷却した後、アルミカップの間の成形体を取り出した。成形体は、木粉:乳酸オリゴマー=7:3〜9:1(重量比)の範囲で良好に成形された。しかし、木粉:乳酸オリゴマー=8:2では、成形体の強度は不十分で容易に崩壊した。また、木粉:乳酸オリゴマー=9:1では、成形体は得られなかった。
【0045】
【表5】

【0046】
[実施例23]
[乳酸オリゴマーとバイオマス溶融成形体からの乳酸溶出]
実施例21で作成したバイオマスと乳酸オリゴマー(6:4重量比)成型体(190℃、1h)を、1Lの純水(pH6.85)を入れたビーカー中に鉄製の錘を付けて浸漬した。21℃で水を磁気攪拌しながら、水のpHと、成形体の膨潤特性を確認した。その結果、pHは時間とともに酸性側に移動し、17時間後、pHは4.3以下となった。その結果を図1に示した。この酸性側への移行は、乳酸の溶出によるものである。一方、成形体の形状は、24時間後でも変化がなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも90モル%以上のL−乳酸単位を含み、重量平均分子量が2,500〜50,000の範囲で、融点が150〜175℃の範囲にある乳酸オリゴマーからなり、該オリゴマーは、直径が1μm〜10mmの範囲にある粉末状もしくはフレーク状の固体であることを特徴とする乳酸オリゴマー。
【請求項2】
乳酸オリゴマーが、ポリ乳酸組成物の加水分解処理によって生成されたものであることを特徴とする請求項1記載の乳酸オリゴマー。
【請求項3】
乳酸オリゴマーが、直径が1μm〜1mmの範囲にある粉末状固体であることを特徴とする請求項1又は2記載の乳酸オリゴマー。
【請求項4】
水中での乳酸の溶出速度が1g/L・g−基質・24h以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の乳酸オリゴマー。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の乳酸オリゴマー30〜90重量%と、直径が1μm〜10mmの範囲にある粉末状もしくは破片状のバイオマス70〜10重量%の組成物を溶融ブレンドして得られる成形体。


【図1】
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【公開番号】特開2011−105817(P2011−105817A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260523(P2009−260523)
【出願日】平成21年11月14日(2009.11.14)
【出願人】(802000031)財団法人北九州産業学術推進機構 (187)
【Fターム(参考)】