説明

乾燥用液体の気化装置

【課題】微細ミストの発生を抑制した乾燥用液体の気化を簡素で且つコンパクトな構成で実現することが可能な乾燥用液体の気化装置を提供する。
【解決手段】乾燥処理対象物の乾燥に用いるIPA12を気化させる気化装置1であって、IPA12を貯留する貯槽10と、IPA12を気化させる空間を有する気化容器20と、貯槽10内と気化容器20内とを接続し、毛細管現象により貯槽10内のIPA12を吸い上げて気化容器20内に供給する揚液体30と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体製造や液晶製造において、湿式洗浄された基板を乾燥させるために使用される乾燥用液体を気化させる気化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造や液晶製造において洗浄操作は、品質や歩留りに大きく影響する非常に重要な操作である。洗浄方式としては、乾式洗浄もあるが、生産効率の観点から湿式洗浄が多く使用されている。湿式洗浄では、種々の薬品でパーティクル、金属、有機物などを分解除去し、基板上に残った薬品を超純水で洗浄する。この洗浄後に、ウェハやガラスなどの基板上の水分を完全に除去するために、基板の乾燥を行う。
【0003】
乾燥工程においては、不純物の再付着防止とウォータマークの発生低減が非常に重要である。現在多く使用されている乾燥方法としては、IPA(イソプロピルアルコール)蒸気を使用したマランゴニ乾燥やロタゴニ乾燥がある。例えば、特許文献1の洗浄乾燥方法では、ウェハ引き上げの気液界面にIPA蒸気をノズルを介して吹き付けることで、マランゴニ流による純水の除去と、凹部に残留した純水とIPAとの置換を促進し、ウェハの乾燥を行っている。
【0004】
このようなIPA蒸気を利用した基板の乾燥においては、IPA溶液を気化させる必要があり、特許文献1の気化装置では、貯槽内でIPA溶液を加熱すると共にキャリアガスのバブリングを施すことで、IPAの気化を行っていた。
【特許文献1】特開平10−118586号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来の気化装置では、キャリアガスによりIPA溶液をバブリングしているため、IPA蒸気だけでなくIPAの微細ミストも発生してしまう。発生した微細ミストは、ノズルから吹出されるときにさらに粗大化したミストになる。従って、微細化したパターン内に残留する純水との置換が進まず、乾燥不良が生じるおそれがあった。これを防ぐため、発生した微細ミストを気化させようとしてノズル前段に加熱器を設けることも考えられるが、別途加熱器を設けることで装置が複雑化してしまう。
【0006】
また、上記した従来の気化装置では、IPA溶液を補充しようとすると、貯槽内のIPA溶液の温度が変動して蒸気圧が変動することで、供給されるIPA蒸気量が不安定化し、乾燥不良が生じるおそれもあった。これを防ぐため、IPA貯槽を大型化することも考えられるが、貯槽の大型化により装置全体が大型化してしまう。
【0007】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、微細ミストの発生を抑制した乾燥用液体の気化を簡素で且つコンパクトな構成で実現することが可能な乾燥用液体の気化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る乾燥用液体の気化装置は、乾燥処理対象物の乾燥に用いる乾燥用液体を気化させる気化装置であって、乾燥用液体を貯留する貯槽と、乾燥用液体を気化させる空間を有する気化容器と、貯槽内と気化容器内とを接続し、毛細管現象により貯槽内の乾燥用液体を吸い上げて気化容器内に供給する揚液体と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この気化装置は、揚液体により毛細管現象を利用して乾燥用液体を吸い上げて気化容器内に供給しているため、揚液体を構成する物質が占める分だけ単位表面積当たりの気液界面の割合が小さくなる。また、乾燥用液体のバブリングを無くすことができる。従って、単位表面積当たりの乾燥用液体の蒸発速度が小さくなり、その結果、乾燥用液体の蒸発に伴う微細ミストの発生を抑制することができる。また、微細ミストを気化させるための加熱器を設ける必要もないため、装置の簡素化を図ることができる。更に、乾燥用液体の補充の際の温度変動を抑制するために貯槽を大きくする必要もなく、装置をコンパクトにすることができる。
【0010】
気化装置は、気化容器内の空間と貯槽内の空間とを連通する連通ラインを備えることを特徴としてもよい。このようにすれば、気化容器内の空間と貯槽内の空間とを同一圧力に保つことができ、揚液体による毛細管現象を利用した乾燥用液体の吸い上げが容易になる。
【0011】
気化装置は、気化容器に設けられ、揚液体により吸い上げられた乾燥用液体を加熱する気化用加熱器を備えることを特徴としてもよい。このようにすれば、乾燥用液体の蒸気圧を調整して蒸気量を調整し易くなる。
【0012】
気化装置は、気化容器内にキャリアガスを供給するキャリアガス供給ラインと、キャリアガス供給ライン上に設けられキャリアガスを加熱するガス用加熱器と、を備えることを特徴としてもよい。このようにすれば、キャリアガスの温度を調整して乾燥用液体の蒸気量の変動を抑えることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、微細ミストの発生を抑制した乾燥用液体の気化を簡素で且つコンパクトな構成で実現することが可能な乾燥用液体の気化装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
図1は、本実施形態に係る乾燥用液体の気化装置の構成を示す図である。図1に示すように、気化装置1は、貯槽10、気化容器20、揚液体30、連通ライン40、気化用加熱器50、キャリアガス供給ライン60、及びガス用加熱器70を備えている。
【0016】
貯槽10は、密閉された容器であり、内部に乾燥用液体12を貯留する。乾燥用液体12としては、IPA(イソプロピルアルコール)、MA(メチルアルコール)、EA(エチルアルコール)などの、水に溶解し水より低沸点で水より表面張力や蒸発潜熱が小さい有機溶剤を用いることができる。本実施形態では、IPA12について説明する。
【0017】
気化容器20は、密閉された容器であり、内部にIPA12を気化させる空間を有する。気化容器20の底壁からは、貯槽10内に至る筒状の連通管22が延びており、両者を連通している。この連通管22の下端は、貯槽10内に貯留されたIPA12に浸っている。この気化容器20は、図示しない保温材により覆われている。
【0018】
揚液体30は、連通管22内に充填されており、貯槽10内と気化容器20内とを接続している。より詳細には、揚液体30は、下端が連通管22の下端まで至り、上端は気化容器20の底部で広がっている。この揚液体30は、毛細管現象により貯槽10内のIPA12を吸い上げて気化容器20内に供給する。揚液体30は、例えばガラスウール、ガラスファイバ、石英ウールなどの繊維体を束ねて構成されている。このときの繊維体のサイズは特に限定されるものではなく、例えば数μmから数十μmの径のものを好適に用いることができる。
【0019】
連通ライン40は、気化容器20内と貯槽10内とを同一の圧力に保つためのものであり、気化容器20内の上部空間と貯槽10内の上部空間とを連通している。この連通ライン40は保温材42により覆われている。
【0020】
気化用加熱器50は、揚液体30により吸い上げられたIPA12を加熱する。気化用加熱器50は、気化容器20の底部における外周面状に配設されている。この気化用加熱器50によりIPA12が所望温度(例えば70〜80℃)に加熱されることで所望の蒸気圧に調整され、IPA12の蒸気量が調整される。この気化用加熱器50は、検出した揚液体30の温度に基づいて、温度コントローラ52により制御される。
【0021】
キャリアガス供給ライン60は、気化容器20内にキャリアガスを供給する。キャリアガスとしては、Nガス(窒素ガス)やアルゴンガスなどの不活性ガスを用いることができる。本実施形態では、Nガスについて説明する。キャリアガス供給ライン60には流量調整装置62が設けられており、流量調整されたNガスを気化容器20内に供給してIPA蒸気と混合し、この混合ガスが搬送ライン80を介して圧送される。
【0022】
ガス用加熱器70は、キャリアガス供給ライン60の途中に設けられており、Nガスを加熱する。このガス用加熱器70により、Nガスの温度がIPA12の気化温度よりも少し高い温度に調整される。温度差としては、気化容器20内でIPA蒸気が再凝縮しない程度の温度差であれば好ましく、例えば1〜5℃程度である。このように温度調整することで、IPA12の蒸気量の変動を抑えることができる。このガス用加熱器70は、検出したNガスの温度に基づいて、温度コントローラ72により制御される。
【0023】
この気化容器20の上壁からは、IPA蒸気を噴出するノズル100と気化容器20とを連通する搬送ライン80が延びている。そして、搬送ライン80の途中には、Nガスを供給する補助ライン90が接続されている。この補助ライン90上には流量調整装置92が設けられており、流量調整されたNガスが搬送ライン80内に供給されることで、混合ガスの搬送が補助される。なお、搬送ライン80は、保温材82により覆われている。
【0024】
次に、上記した気化装置1の作用及び効果について説明する。
【0025】
この気化装置1では、まず貯槽10内にIPA12を貯留する。貯留に際しては、上部に空間を生じるように、且つ揚液体30の下端がIPA12に浸るように貯留量を調整する。
【0026】
揚液体30がIPA12に浸ると、毛細管現象によりIPA12が繊維間の隙間を通って吸い上げられ、気化容器20内にIPA12が至る。このとき、連通ライン40により気化容器20内と貯槽10内とが同一圧力に保たれているため、IPA12の吸い上げが容易になる。気化容器20内に至ったIPA12は、気化用加熱器50により所望温度に加熱され気化されて、IPA蒸気が生じる。
【0027】
一方で、キャリアガス供給ライン60を介してNガスを気化容器20内に供給する。Nガスを供給するに当たり、ガス用加熱器70によりIPA12の気化温度よりも少し高い温度にNガスを加熱する。
【0028】
気化容器20内に供給されたNガスは、気化容器20内でIPA蒸気と混合され、搬送ライン80からノズル100へ向かって圧送される。このとき、補助ライン90からもNガスが供給され、混合ガスの搬送が補助される。混合ガスの圧力は、例えば0.2〜0.5MPa程度とすると好ましい。そして、混合ガスがノズル100から噴射されることで、IPA蒸気が断熱膨張して冷却され、IPA液の微細ミストになり、ウェハや液晶ガラスなどの基板(乾燥処理対象物)の引き上げの気液界面に供給される。これにより、洗浄時に基板に残った純水の除去と、微細パターンの凹部に残留した純水とIPAとの置換が促進され、基板が乾燥される。
【0029】
以上詳述したように、本実施形態の気化装置1は、揚液体30により毛細管現象を利用してIPA12を吸い上げて気化容器20内に供給しているため、図2に示すように、揚液体30を構成する物質が占める分だけ単位表面積当たりの気液界面の割合が小さくなる。また、IPA12のバブリングを無くすことができる。従って、単位表面積当たりのIPA12の蒸発速度が小さくなり、その結果、IPA12の蒸発に伴う微細ミストの発生を抑制することができる。
【0030】
また、IPA12の微細ミストを気化させるための加熱器を搬送ライン80上に設ける必要もないため、装置の簡素化を図ることができる。
【0031】
更に、IPA12の補充の際の温度変動を抑制するために貯槽10を大きくする必要もなく、気化容器20も小さくて済むため、装置をコンパクトにすることができる。また、このように気化容器20を小さくすることで、無駄に消費されるIPA量を減らすことができる。
【0032】
また、気化容器20内の空間と貯槽10内の空間とを連通する連通ライン40を備えるため、気化容器20内の空間と貯槽10内の空間とを同一圧力に保つことができ、揚液体30による毛細管現象を利用したIPA12の吸い上げが容易になる。
【0033】
また、揚液体30により吸い上げられたIPA12を気化用加熱器50により加熱することができるため、IPA12の蒸気圧を調整して蒸気量を調整し易くなる。すなわち、ノズル100に供給されるIPA濃度は、流量調整装置62により調整されたNガス量と温度コントローラ72による温度制御により容易に調整することができ、この温度コントローラ72により気化用加熱器50を制御することで、IPA12の蒸気圧を調整して蒸気量を容易に調整できるのである。
【0034】
また、キャリアガス供給ライン60上にはNガスを加熱するガス用加熱器70が設けられ、NガスをIPA気化温度よりも少し高い温度まで加熱することができるため、気化容器20内でのIPA蒸気の再凝縮を防止することで、IPA12の蒸気量の変動を抑えることができる。
【0035】
また、気化容器20及び搬送ライン80は保温材82で覆われているため、IPA蒸気が再凝縮したミストがノズル100に圧送されることを防ぐことができる。また、連通管40は保温材42で覆われているため、IPA蒸気が再凝縮して貯槽10に戻るのを防ぐことができる。
【0036】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されることなく、種々の変形が可能である。例えば、上記した実施形態では、揚液体30を構成する物質として繊維体について説明したが、親液性表面を有する材料から形成され、径や充填密度を調整することにより毛細管現象を利用して乾燥用液体12を吸い上げることができる物質ならいずれのものから揚液体30を構成してもよい。例えば、細管の束から揚液体30を構成してもよいし、紐、スポンジ、砂、多孔質体、布など、乾燥用液体12が這い上がる流路としての連続した隙間を有する物質から揚液体30を構成してもよい。
【0037】
ただし、半導体製造や液晶製造における基板の乾燥においては、揚液体30はガラスウール、ガラスファイバ、石英ウールなどのガラス系材料から構成すると、金属の不純物を含まないため好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施形態に係る乾燥用液体の気化装置の構成を示す図である。
【図2】毛細管現象により揚液体によりIPAが吸い上げられた状態を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
1…気化装置、10…貯槽、12…IPA(乾燥用液体)、20…気化容器、30…揚液体、40…連通ライン、50…気化用加熱器、60…キャリアガス供給ライン、70…ガス用加熱器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥処理対象物の乾燥に用いる乾燥用液体を気化させる気化装置であって、
前記乾燥用液体を貯留する貯槽と、
前記乾燥用液体を気化させる空間を有する気化容器と、
前記貯槽内と前記気化容器内とを接続し、毛細管現象により該貯槽内の前記乾燥用液体を吸い上げて該気化容器内に供給する揚液体と、
を備えることを特徴とする乾燥用液体の気化装置。
【請求項2】
前記気化容器内の空間と前記貯槽内の空間とを連通する連通ラインを備えることを特徴とする請求項1に記載の乾燥用液体の気化装置。
【請求項3】
前記気化容器に設けられ、前記揚液体により吸い上げられた前記乾燥用液体を加熱する気化用加熱器を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の乾燥用液体の気化装置。
【請求項4】
前記気化容器内にキャリアガスを供給するキャリアガス供給ラインと、
前記キャリアガス供給ライン上に設けられ前記キャリアガスを加熱するガス用加熱器と、
を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の乾燥用液体の気化装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−300736(P2008−300736A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146994(P2007−146994)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】