説明

予濃縮器および検出装置

IMS装置は、IMS検出器(1)に供給される全てのガスが予濃縮器(20)内を流れるように、IMS検出器(1)の流入口(2)に接続した予濃縮器(20)を有する。予濃縮器は、その内面(25)にシリコーンゴム層(24)が露出している金属管(21)を有する。電気抵抗加熱素子(22)はシリコーンゴム層(24)の下側に延在し、電源(23)に接続する。これにより、シリコーンゴム層は、周期的に加熱され、層が吸着した物質を脱着し、それらをより高濃度でIMS検出器(1)に流れるよう放出することができる。シリコーンゴム(24)は、空気の存在下における脱着段階において、劣化することなく作動することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予濃縮器内を流れる空気から物質を吸収するよう構成した予濃縮器に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン移動度分光計(IMS)のように、ガスおよび蒸気内に極低濃度で存在する化学物質を信頼性高く検出することは、極めて困難である。この困難を克服するために、ガスまたは蒸気をある形態の濃縮器に通すことによって、ガスまたは蒸気内の化学物質を濃縮することができることは知られており、この濃縮器は、関心のある化学物質を吸収つまり吸着し、信頼性のある検出を可能にするのに十分な量を収集した時にまとめて放出することができるよう構成する。代表的には、化学物質は、濃縮器に熱または放射線を加えることによって放出される。特許文献1は、濃縮パウダーを用いて、そして濃縮した化学物質を放出するのに熱を利用する濃縮器が記載されている。特許文献2は、空気内の爆発性蒸気を吸収するために特殊なガスクロマトグラフ材料を用い、つぎに赤外線を使用し、また搬送ガスとして水素を供給することによって脱着する。
【特許文献1】米国特許第4698071号明細書
【特許文献2】米国特許第5551278号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、空気中で用いることができる、代替的な予濃縮器および方法を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の一態様によれば、上述の予濃縮器が提供し、この予濃縮器は、予濃縮器内を流れる空気から物質を吸着するよう構成した、シリコーンゴム材料の層を内面に有する管状部材と、検出のために前記物質を脱着するように空気存在下でシリコーンゴム材料を熱するヒーターとを備えることを特徴とする。
【0005】
シリコーンゴムの層は、管状部材の内側における被覆とする。ヒーターは、望ましくは、管状部材の内面でシリコーンゴムの層の下側における電気抵抗加熱素子を有するものとする。管状部材は、望ましくは金属製とする。
【0006】
本発明の他の態様によれば、検出のためにガスをユニットに供給する流入口を有する検出器を含む検出装置を提供し、この検出装置は、ガスが予濃縮器を経て検出器に送られるように流入口に接続した、本発明の上記の特徴による予濃縮器を有することを特徴とする。
【0007】
本発明のさらに他の態様によれば、検出器、試料空気を供給する流入口、検出装置に供給された空気が管を通って検出器に流れるように流入口と一直線上に接続した管を備える検出装置を提供し、管は、管を通して流れる空気から物質を吸着するためのシリコーンゴムの内面と、さらに、管を流れる空気内に、吸着した物質を高濃度で周期的に放出して検出器に送るために、シリコーンゴムを加熱するヒーターとを有することを特徴とする。
【0008】
検出器は、イオン移動度分光計を有するものとすることができる。検出器は、望ましくは、化学兵器物質の形態としての物質を検出するよう構成する。シリコーンゴムの層は、管の内面における被覆とする。ヒーターは、望ましくは、管の内面においてシリコーンゴムの下側で、電気抵抗加熱素子を有するものとする。管は、望ましくは金属製とする。
【0009】
本発明の第4の態様によれば、空気内の低濃度の物質を検出する方法を提供し、この方法は、物質が表面に吸着されるよう内面がシリコーンゴムである管を経て検出器に空気を流すステップと、物質の濃度を検出器によって検出されるのに十分なレベルまで増加させるために、管を流れる空気中に物質を脱着するようシリコーンゴムを加熱するステップとを有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の構成により、高価で有害な材料を必要とせず、高いレベルの予濃縮を得ることができる。シリコンーンゴムは、脱着段階中に予濃縮器をフラッシュ洗浄する特別なガスを必要としていた従来の予濃縮器と比べて、劣化することなく空気雰囲気内で完全に動作することができる。空気を使用することにより、特別なガスのキャニスタを設ける必要性を回避し、これにより、検出装置を小形、可搬式にすることが容易になり、使い捨て部材を補充する必要なく、長期間動作させることができ、ランニングコストを低減することができる。
【0011】
脱着に使用するヒーターは、管の内側における電気抵抗加熱素子である必要はない。他の技術を使用してシリコーンゴム層の温度を上昇させることができ、例えば放射線または熱流体源を使用することができる。能動的手段を使用して管を冷却することができ、例えばファン、熱交換器、電子的冷却デバイス等を使用することができる。
【0012】
本発明は、イオン移動度分光器に限定されるものではなく、他の検出デバイスに使用することができる。管の壁自体にシリコーンゴムを支持することはとくに有利であり、これは、すなわち、急速熱サイクルが可能となるからである。しかし、シリコーンゴムは、加熱管内の他のサブストレート、例えばメッシュに支持することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
予濃縮器を備える検出装置、および本発明による検出方法の実施例を、添付の図面につき説明する。
【0014】
本装置は、試料空気をセルに供給する流入口2を一方の端部に有するIMSセル1の形式とした、普通の検出器を有する。IMSセル1は、IMS流入口に一直線上に接続したガスクロマトグラフ(図示せず)を設けることができる。セル1は、コロナ放電ポイント4、およびドリフト領域6の流入端部に電子シャッタまたはゲート5を備えるような、従来の電離領域3を有する。ドリフト領域6は、その長さに沿って互いに離して配置した電極7を有し、これら電極7により、電離領域に沿ってイオンを引き寄せるように電界を印加する。電離領域6の遠位端にあるコレクタ板8は、電離領域に沿って進むイオンを収集する。プロセッサ9は、イオンがコレクタ板8に達するとき、コレクタ板8の電荷の変化を検出する。プロセッサ9は、さらに、シャッタ5の開放を制御し、電離領域6に沿って、異なるイオンの飛翔時間のスペクトルを生成する。プロセッサ9は、とくに、空気中の化学兵器物質の存在を検出し、インジケータ10にこのような物質の存在を警告または表示するよう構成する。ポンプ11は、流入口2から空気を引き込み、イオンの流れとは逆方向に電離領域6に沿って空気を循環させる。空気は、分子ふるいパック12によって通常の方法で乾燥、および清浄化される。
【0015】
本発明装置は、さらに、全ての流入空気がIMSセル1に達する前に予濃縮器20内を流れるよう、IMSセル1の流入口2に接続する予濃縮器20を有する。予濃縮器は、例えば金属製とした円筒形の管21を有し、管の内面に支持した電気抵抗加熱素子22を設ける。加熱素子22は、様々な形態とすることができ、例えば管21の内面に接着し、ほぼ全域に延在させた、細い抵抗ワイヤもしくは抵抗トラック、または抵抗材料の薄い層とすることができる。加熱素子22の両端を電源23に接続し、これにより、電圧が加熱素子の両端に加わって発熱する。電源23は、プロセッサ9からの制御によりスイッチがオン・オフする。予濃縮器20は、さらに、ダウ・コーニング(Dow Corning)社製のシラスティックのようなシリコーンゴム材料の内側層24を有し、このシラスティックは、ヒュームド・シリカで補強したジメチルおよびメチルビニルシロキサン共重合体を有する。内側層24は、望ましくは1mm以下の比較的薄い被覆とし、管21の内面全体および加熱素子22をカバーする。したがって、管に沿って流れる気流にさらされる管21の内面25は、シリコーンゴム材料24によって得られる。シリコーンゴム面を被覆によって得るのは必須ではない。なぜなら層は、例えば管に挿入し接着する、予め形成されたシリコーンスリーブのような、別の方法で得られるからである。管21に沿って流れる空気がシリコーンゴム面25に接触する度合いは、管内の流れの性質、すなわち管の直径および長さに依存する。シリコーンゴム面25への接触は、(まっすぐである必要はなく、例えば、よりコンパクトな構成にするためコイル状にすることができる)管の長さを増大する、またはその直径を減少する、または乱気流を増やすために何らかの形状の流れ変更体を導入することによって、増加することができる。代案として、本発明装置は、流れ抵抗を増やすことなくシリコーンゴムの有効表面積を増やすために、互いに並列接続した数本の管を設けることができる。
【0016】
動作中、IMSセル1に供給される全ての空気は、シリコーン被覆した管21を通過する。シリコーンゴム24は、空気中のあらゆる化学兵器物質を吸着する。その結果、初期的にはIMSセルは無反応状態をもたらす。プロセッサ9は、予濃縮器20内のヒーター22を動作させ、管21のシリコーンゴムの内面24を加熱するよう、周期的に電源23のスイッチをオンにする。これは、空気が管21内を流れ続ける間ずっと行う。加熱素子22の性質は、非常に迅速な加熱を可能にし、その結果シリコーンの層24の温度は、相応して迅速に上昇する。内面、つまりシリコーンゴム24の露出面25における温度上昇速度は、その厚さに依存する。次に、これによりシリコーンゴムの層24内に吸着された化学物質は迅速に脱着される。その結果、これらの化学物質の分子は管内の空気の流れに迅速に放出され、そこで周囲空気内のあらゆる化学物質と混合する。したがって、これら化学物質は、周囲空気内に存在するときより十分に高い濃度で、そしてIMSセルが確実に検出するのに十分に高いレベルでIMSセル1に流れる。
【0017】
つぎに、プロセッサ9は電源23をオフにする。ヒーター22は、その容積が比較的小さいことと、管21自体の熱伝導率が高いことにより、急速に冷える。シリコーンゴムの層24の厚さが小さいこと、および管21内を通過する空気の流れは、シリコーンの層が急速に冷えるのを助ける。この結果、空気内の化学物質は、次の加熱冷却サイクルのために、層によって即座に再び吸着される。プロセッサ9は、このサイクルにおける吸着期間および脱着期間の長さを変化するように構成することができ、このことは、IMSセル1によって行われる分析結果に基づくようにすることができる。例えば、もしある期間の吸着サイクルのあと検出される化学物質がなければ、プロセッサ9は、無反応の原因が、化学物質は存在しているが極低レベルであることであるかどうかを調べるために、このサイクルを長くするよう構成することができる。無反応がある場合、望ましくは、プロセッサ9は、(化学物質が危険なレベルで存在するときに検出するのに十分であるように選択した)多くの比較的短い吸着サイクルを組み合わせ、また無反応である場合には、比較的長い吸着サイクルを周期的に導入することができる。このようにして、化学物質が危険なレベルで存在するとき、迅速な反応が与えられ、さらに、化学物質が比較的低いレベルで存在するときに事前通知が与えられうる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明装置を線図的に示す。
【図2】予濃縮器の縦断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予濃縮器(20)内を流れる空気から物質を吸着するよう構成した予濃縮器(20)において、管状部材(21)内を流れる空気から物質を吸着するよう内面にシリコーンゴム材料の層(24)を有する該管状部材(21)と、および検出のために物質を脱着するよう空気の存在下でシリコーンゴム材料(24)を加熱するヒーター(22,23)とを備えたことを特徴とする予濃縮器。
【請求項2】
請求項1に記載の予濃縮器(20)において、シリコーンゴムの層(24)を管状部材(21)の内側における被覆としたことを特徴とする前予縮器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の予濃縮器(20)において、ヒーターは、管状部材(21)の内面でシリコーンゴムの層(24)の下側における電気抵抗加熱素子(22)を有するものとしたことを特徴とする予濃縮器。
【請求項4】
請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の予濃縮器(20)において、管状部材(21)を金属製としたことを特徴とする予濃縮器。
【請求項5】
検出用ユニットに気体を供給する流入口(2)を有する検出器(1)を有する検出装置において、気体が予濃縮器(20)を経て検出器(1)に通過するよう流入口に接続した、請求項1〜4のうちいずれか一項に記載の予濃縮器(20)を有することを特徴とする検出装置。
【請求項6】
検出器(1)、試料となる空気を装置に供給する流入口(2)、検出装置に供給される空気が管(21)を通って検出器(1)に流れるよう前記流入口(2)に一直線上に接続した管(21)を備える検出装置において、前記管(21)は、管(21)内に流れる空気から物質を吸着するためのシリコーンゴムの内面(24)と、管(21)を流れる空気内に、吸着した物質をより高濃度で周期的に放出して前記検出器(1)に送るために、前記シリコーンゴムを加熱するよう構成したヒーター(22,23)とを有することを特徴とする検出装置。
【請求項7】
請求項5または6に記載の検出装置において、前記検出器は、イオン移動度分光計(1)を有するものとしたことを特徴とする検出装置。
【請求項8】
請求項5〜7のうちいずれか一項に記載の検出装置において、前記検出器(1)は、化学兵器物質の形態としての物質を検出するよう構成したことを特徴とする検出装置。
【請求項9】
請求項6〜8のうちいずれか一項に記載の検出装置において、シリコーンゴムの層(24)は、管(21)の内面における被覆としたことを特徴とする検出装置。
【請求項10】
請求項6〜9のうちいずれか一項に記載の検出装置において、前記ヒーターは、管(21)の内面においてシリコーンゴム(24)の下側で電気抵抗加熱素子(22)を有するものとしたことを特徴とする検出装置。
【請求項11】
請求項6〜10のうちいずれか一項に記載の検出装置において、前記管(21)を金属製としたことを特徴とする検出装置。
【請求項12】
物質が内面(25)に吸着されるようにシリコーンゴム(24)の内面(25)を有する管(21)を経て検出器(1)に空気を流すステップと、物質の濃度を検出器(1)によって検出するのに十分なレベルにまで増加させるために、前記管(21)を流れる空気中に周期的に物質を脱着するようシリコーンゴム(24)を加熱するステップとを有する空気中の低濃度の物質を検出する方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−531698(P2009−531698A)
【公表日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−502202(P2009−502202)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【国際出願番号】PCT/GB2007/001098
【国際公開番号】WO2007/113486
【国際公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(507235789)スミスズ ディテクション−ワトフォード リミテッド (25)
【Fターム(参考)】