説明

二峰性ポリエチレンプロセス及び生成物

減少した長鎖分岐を有し、それらの向上した耐SCG及び耐RCP性の結果としてパイプ樹脂用途において用いるのに好適な二峰性ポリエチレン樹脂が提供される。本発明の改良された樹脂は、チーグラー・ナッタ触媒系を用い、両方の反応器内にアルコキシシラン変性剤を存在させる2反応器カスケードスラリー重合法で製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、それらをパイプの製造のために非常に有用にする改良された特性を有する二峰性ポリエチレン樹脂(bimodal polyethylene resins)、及びそれらの製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、カスケードスラリープロセスで製造される、より低分子量でより高密度の成分及びより高分子量でより低密度の成分を含む、減少した長鎖分岐を有する二峰性ポリエチレン樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンパイプの使用が急速に成長しているのに伴って、それから製造されるパイプの改良された特性、主として耐用年数、則ち長期間耐久性を延ばす向上した耐応力亀裂性を有する新規なポリエチレン(PE)樹脂の開発の重要性が増大している。
【0003】
対応力亀裂性は、幾つかの異なる方法で測定することができる。ASTM−D1693にしたがって、通常は10%又は100%のいずれかのIgepal(登録商標)溶液を用いて測定される耐環境応力亀裂性(ESCR)が広範囲に用いられているが、これはパイプ樹脂に関する長期間耐久性の好適な予測指標ではない。
【0004】
パイプ樹脂の長期間の予測性能に関して通常用いられる方法は、ISO−9080及びISO−1167に示されるような円周(フープ)応力試験である。外挿手順を用いることにより、与えられた応力及び温度における耐用年数、及びPE樹脂に割り当てられる最小必要強度等級を予測することができる。
【0005】
フープ応力試験は圧力等級及び長期間静圧強度の良好な測定手段であるが、現場での経験では、パイプの破損は、しばしば低速亀裂成長及び/又は重負荷による突然の衝撃によって引き起こされる破損の結果であることが示されている。その結果、耐低速亀裂成長(SCG)性及び高速亀裂伝播(RCP)の試験が開発され、PEパイプ樹脂の性能を識別するために用いられている。耐SCG性は、所謂PENT(ペンシルバニアノッチ付き引張)試験を用いて測定される。後者の試験は、ペンシルバニア大学のBrown教授によって小規模実験室試験として開発されたもので、現在はASTM−F1473−94として採用されている。RCPは、押出パイプに関してはISO−13477又はISO−13478の手順にしたがって、或いはより小さい規模ではシャルピー衝撃試験(ASTM−F2231−02)を用いて測定される。
【0006】
相対的により高分子量及びより低分子量の成分を含み、二峰性(BM)の分子量分布(MWD)を有するPE樹脂組成物が、パイプ用途のために用いられている。種々の直列反応器重合プロセスを用いて製造されるかかる樹脂は、異なる分子量のPE種の寄与の結果として、強度、剛性、耐応力亀裂性、及び加工性の許容できるバランスを有する。二峰性樹脂及びプロセスの総括的な議論に関しては、J. Scheirsら, TRIP, vol.4, No.12, pp.409〜415, 1996年12月、及びA. Razavi, Hydrocarbon Engineering, pp.99〜102, 2004年9月の論文を参照。
【0007】
EP−1201713A1においては、0.928g/cm以下の密度及び0.6g/10分未満のハイロードメルトインデックス(HLMI)の高分子量PE、並びに少なくとも0.969g/cmの密度及び100g/10分より大きいMIを有するより低分子量のPEのブレンドを含むPEパイプ樹脂が記載されている。好ましくは、多重反応器内において、メタロセン触媒を用いて、0.951g/cmより大きい密度及び1〜100g/100分のHLMIを有する樹脂ブレンドが製造される。
【0008】
米国特許6,252,017においては、第1及び第2の反応器内において、クロムベースの触媒系を用いてエチレンを共重合する方法が記載されている。樹脂は向上した耐亀裂性を有するが、単峰性のMWDを有する。
【0009】
米国特許6,566,450においては、第1の反応器内においてメタロセン触媒を用いて第1のPEを製造し、かかる第1のPEをより低分子量でより高密度の第2のPEと配合して多峰性PE樹脂を製造する方法が記載されている。第1及び第2のPEを製造するために異なる触媒を用いることができる。
【0010】
米国特許6,770,341においては、チーグラー・ナッタ触媒を用いる2つの逐次工程で行う重合から得られる、≧0.948g/cmの全密度及び≦0.2g/10分のMFI190/5を有する二峰性PE成形樹脂が開示されている。
【0011】
また、米国特許6,878,784においても、チーグラー・ナッタ触媒を用いて少なくとも2つの工程で(共)重合することによって製造される多峰性PEが開示されている。低いMWのホモポリマーフラクション及び高いMWのコポリマーフラクションを含む樹脂は、0.930〜0.965g/cmの密度、及び0.2〜1.2g/10分のMFRを有する。
【0012】
米国特許7,034,092は、第1及び第2のスラリーループ反応器内でBM−PE樹脂を製造する方法に関する。メタロセン及びチーグラー・ナッタ触媒を用い、好ましい運転モードにおいては、第1の反応器内で相対的に高MWのコポリマーを製造し、第2の反応器内で相対的に低MWのホモポリマーを製造する。
【0013】
米国特許6,946,521、7,037,977、及び7,129,296においては、線状の低密度成分及び高密度成分を含むBM−PE樹脂、並びにその製造方法が記載されている。好ましくは、樹脂組成物は直列の反応器内においてメタロセン触媒を用いて製造し、最終樹脂生成物は、0.949g/cm以上の密度及び1〜100g/10分の範囲のHLMIを有する。
【0014】
米国特許6,787,608及び7,129,296においては、低分子量(LMW)のホモポリマー及び高分子量(HMW)のコポリマーを含み、一方又は両方の成分が特定のMWD及び他の特性を有するBM−PE樹脂が記載されている。
【0015】
米国特許7,193,017においては、より高い重量平均MWを有するPE成分及びより低い重量平均MWを有するPE成分を含み、より低い重量平均MWに対するより高い重量平均MWの比が30以上である、0.940g/cm以上の密度を有するBM−PE組成物が開示されている。
【0016】
米国特許7,230,054においては、相対的に高密度のLMW−PE成分及び相対的に低密度のHMW−PE成分を含み、高密度成分の流動多分散度が最終樹脂生成物及びより低密度の成分のものよりも高い、向上した耐環境応力亀裂性を有する樹脂が開示されている。この樹脂は、直列又は並列に配列された2つの反応器を用い、チーグラー・ナッタ、シングルサイト、又は後期遷移金属触媒、或いはこれらの変性型を用いるプロセスなどの種々の方法によって製造することができる。より狭い多分散度でより低密度の成分を製造するためには、シラン変性チーグラー・ナッタ触媒を用いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】EP−1201713A1
【特許文献2】米国特許6,252,017
【特許文献3】米国特許6,566,450
【特許文献4】米国特許6,770,341
【特許文献5】米国特許6,878,784
【特許文献6】米国特許7,034,092
【特許文献7】米国特許6,946,521
【特許文献8】米国特許7,037,977
【特許文献9】米国特許7,129,296
【特許文献10】米国特許6,787,608
【特許文献11】米国特許7,129,296
【特許文献12】米国特許7,193,017
【特許文献13】米国特許7,230,054
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】J. Scheirs, TRIP, vol.4, No.12, pp.409〜415, 1996年12月
【非特許文献2】A. Razavi, Hydrocarbon Engineering, pp.99〜102, 2004年9月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
パイプ用途のために好適な改良された特性のバランスを有する樹脂に関する継続的な必要性が産業界におい存在する。特に、向上した耐SCG及び耐RCP性を有する二峰性の樹脂、並びにチーグラー・ナッタ触媒を用いてかかる樹脂を製造する方法に関する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、減少した長鎖分岐を有する二峰性の高密度PE樹脂、及びそれらを製造するための多段階重合方法に関する。より詳しくは、本方法は、第1の反応器内において、コモノマーの不存在又は実質的な不存在下、高活性固体遷移金属含有触媒、有機アルミニウム共触媒、水素、及び式:R4−ySi(OR(式中、yは2又は3であり、Rはアルキル又はシクロアルキル基である)のアルコキシシランの存在下でエチレンを重合して第1のポリマーを製造し;該第1のポリマーを含む第1の反応器からの重合体を処理して実質的に全ての水素を除去して、第2の反応器に移し;第2の反応器にエチレン、C4〜8−α−オレフィンコモノマー、及び水素を加え、重合を継続して第1のポリマーのものよりも相対的により低密度でより高分子量の第2のポリマーを製造して、第1のポリマーと第2のポリマーとの重量比が65:35〜40:60である二峰性ポリエチレン樹脂を得る;ことを含む。本発明の非常に有用な態様においては、第1のポリマーと第2のポリマーとの重量比は60:40〜45:55であり、用いるアルコキシシランはシクロヘキシルメチルジメトキシシランであり、α−オレフィンコモノマーはブテン−1である。
【0021】
本発明方法によって製造される減少した長鎖分岐を有する二峰性ポリエチレン樹脂は、0.945〜0.956g/cmの密度、2〜20g/10分のHLMI、及び0.001〜0.5のtrefBRインデックスを有する。本発明方法によって得られる特に有用な二峰性パイプ樹脂は、0.946〜0.955g/cmの密度、3〜16g/10分のHLMI、0.01〜0.2のtrefBRインデックスを有し、0.964〜0.975g/cmの密度及び50〜400g/10分のMIを有する第1の低分子量で高密度のポリエチレン成分、並びに第2のより高分子量でより低密度のエチレン−ブテン−1コポリマー成分を含む。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の二峰性PE樹脂は、第1のPE成分及び第2のPEとして、ここで特定する2種類の比較的狭いMWDのPE成分を含む。一般論として、互いに相対的に、第1のPE成分はより低MWでより高密度の樹脂であり、第2のPE成分はより高MWでより低密度の樹脂である。二峰性樹脂組成物は、減少した長鎖分岐(LCB)を有し、その結果として向上した耐SCG及び耐RCP性を有しており、このためにこれらはパイプ用途のために非常に有用である。
【0023】
本発明の二峰性ポリエチレンパイプ樹脂は、第1の重合区域内において第1のPE樹脂を製造し、第2の重合区域内において第2のPE樹脂を製造する2段階カスケード重合プロセスを用いて製造する。2段階カスケードプロセスとは、2つの重合反応器が直列に接続され、第1の反応器内で製造される樹脂を第2の反応器中に供給し、第2のPE樹脂の形成中に存在させることを意味する。その結果、BM−PE樹脂生成物は第1及び第2のPE樹脂成分の密な混合物(intimate mixture)である。かかる2段階プロセスは公知であり、米国特許4,357,448(その詳細は参照として本明細書中に包含する)に記載されている。重合は好ましくは不活性炭化水素希釈剤中でのスラリープロセスとして行うが、気相プロセス、或いはスラリープロセスと気相プロセスとの組み合わせを用いることができる。
【0024】
ここで用いる第1の反応器、第1の重合区域、又は第1の反応区域という用語は、第1の相対的に低分子量で高密度のポリエチレン(LMW−HDPE)樹脂を製造する段階を指し、第2の反応器、第2の重合区域、又は第2の反応区域という用語は、エチレンをコモノマーと共重合して第2の相対的に高分子量でより低密度のポリエチレン(HMW−PE)樹脂成分を形成する段階を指す。第1の反応器内で形成されるポリエチレンは好ましくはホモポリマーであるが、プロセス中に、通常はプロセスの終了時に回収され、低レベルの未反応/未回収のコモノマーを含む炭化水素を第1の反応器に再循環する商業的な運転のような特定の運転条件下においては、第1の反応器内において少量のコモノマーをエチレンと共に存在させることができる。
【0025】
重合は、好ましくはスラリープロセスで、則ち、不活性炭化水素媒体/希釈剤中において、通常のチーグラータイプの触媒系を用いて行う。必須ではないが、更なる触媒及び/又は共触媒を第2の反応器に加えることが望ましい可能性があり、これらは第1の反応器内で用いるものと同じか又は異なっていてよい。好ましい運転モードにおいては、重合のために用いる触媒及び共触媒の全てを第1の反応器に充填し、更なる触媒及び/又は共触媒を加えることなく第2の反応器に移送する。
【0026】
本方法のために用いることができる不活性炭化水素としては、ヘキサン、イソヘキサン、ヘプタン、イソブタン、及びこれらの混合物のような飽和脂肪族炭化水素が挙げられる。ヘキサンが特に有用な希釈剤である。触媒及び共触媒は、通常は重合媒体として用いられるものと同じ炭化水素中に分散して反応器中に計量投入する。
【0027】
用いる触媒系は、固体遷移金属含有触媒成分、及び有機アルミニウム共触媒成分を含む。触媒成分は、アルミニウムアルコキシド、アルミニウムアルコキシハライド、或いはアルミニウム化合物と水とを反応させることによって得られる反応生成物の存在下又は不存在下において、チタン又はバナジウムハロゲン含有化合物を、塩化マグネシウム担体、又はグリニャール試薬を式:
【0028】
【化1】

【0029】
(式中、Rは、単価有機基としてのアルキル、アリール、アラルキル、アルコキシ、又はアリールオキシを表し;aは、0、1、又は2であり;bは、1、2、又は3であり;a+b≦3である)
を有するヒドロポリシロキサン、或いは有機基及びヒドロキシル基を含むケイ素化合物と反応させることによって得られる生成物と反応させることによって得られる。
【0030】
有機アルミニウム共触媒は、一般式:
AlR3−n
(式中、RはC〜C炭化水素基であり;Xはハロゲン又はアルコキシ基であり;nは、1、2、又は3である)に対応し、例えば、トリエチルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、ジブチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、ジエチルアルミニウムヒドリド、ジエチルアルミニウムエトキシドなどが挙げられる。トリエチルアルミニウム(TEAL)が特に有用な共触媒である。
【0031】
本発明方法のために特に有用な上記のタイプの高活性チーグラー・ナッタ触媒系は公知であり、米国特許4,223,118、4,357,448、及び4,464,518(これらの内容は参照として本明細書中に包含する)に詳細に記載されている。
【0032】
減少したLCB及びそれに関係する改良された特性を有する本発明の二峰性PE樹脂を得るためには、重合のためにアルコキシシラン変性剤を用いる。本発明のために有用なアルコキシシランは、一般式:
4−ySi(OR
(式中、yは2又は3であり;それぞれのRは独立してC〜Cアルキル又はシクロアルキル基である)
に対応する。好ましくは、アルコキシシラン変性剤は、モノアルキルトリアルコキシシラン又はジアルキルジアルコキシシランである。更により好ましくは、Rは、メチル、エチル、シクロペンチル、又はシクロヘキシル基、或いはこれらの組み合わせである。この後者のタイプの非常に有用なアルコキシシランとしては、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン(CMDS)及びメチルトリエトキシシラン(MTEOS)、並びにこれらの混合物が挙げられる。本発明の1つの特に有用な態様においては、アルコキシシラン変性剤はシクロヘキシルメチルジメトキシシランである。
【0033】
本発明の目的のために、アルコキシシラン変性剤を、触媒及び共触媒と共に第1の反応器内に導入して第2の反応器に移送する。必須ではないが、第2の反応器に更なるシラン変性剤を加えることができる。第2の反応器に更なるシラン変性剤を加える場合には、これは、LMW−HDPE成分を形成するために第1の反応器内で用いるアルコキシシランと同じであっても又は異なっていてもよい。
【0034】
両方の重合反応器内にシラン変性剤を存在させることにより、両方の樹脂成分及び最終生成物のLCB特性に良好な影響が与えられる。更に、両方の樹脂成分のMWDは望ましくは狭く、第2の反応器内においてより均一なコモノマーの導入が達成される。
【0035】
より具体的には、本発明のスラリープロセスのために、且つ減少したLCB及び対応して向上した耐SCG及び耐RCP性を有するBM−PE樹脂を製造するためには、0.964g/cm以上の密度及び50〜400g/10分の範囲のMIを有するLMW−HDPE成分が形成されるように、エチレンを第1の反応器内でコモノマーの不存在下又は実質的な不存在下において重合する。第1の反応器内で製造されるポリマーの目標密度及びMIは、より通常的にはそれぞれ0.964〜0.975g/cm及び100〜300g/10分の範囲である。LMW−HDPE成分が0.966〜0.975g/cmの範囲の密度及び150〜250g/10分のMIを有する場合に、特に有用なBM−PE樹脂が得られる。ここで示す密度は、ASTM−D1505にしたがって測定されるものである。MIは、ASTM−D1238にしたがって、190℃において2.16kgの負荷を用いて測定する。
【0036】
重合の経過中に第1の反応器内で製造される樹脂の密度及びMIを監視して、目標値を達成するように条件を保持、則ち必要に応じて制御及び調節する。しかしながら、一般に第1の反応区域内の温度は、75〜85℃、より好ましくは78〜82℃の範囲である。触媒濃度は0.00005〜0.001モル−Ti/L、より好ましくは0.0001〜0.0003モル−Ti/Lの範囲である。共触媒は、一般に触媒1モルあたり10〜100モルの量で用いる。シラン変性剤は、第1の反応器に供給する全不活性炭化水素希釈剤を基準として約5〜20ppm、より好ましくは10〜17ppmで存在させる。分子量を制御するために水素を用いる。用いる水素の量は目標のMIによって変化するが、蒸気空間内のエチレンに対する水素のモル比は、通常は2〜7、より好ましくは3〜5.5の範囲である。
【0037】
重合体、則ちLMW−HDPEポリマーを含む第1の反応器からの重合混合物は、次に第2の反応器に供給して、ここでLMW−HDPEポリマー粒子の存在下でエチレン及びC4〜8−α−オレフィンを共重合してHMW−PEコポリマーを形成して、最終の二峰性ポリエチレン樹脂生成物を製造する。重合体を第1の反応器から第2の反応器に導入する前に、揮発性物質の一部を除去する。より高分子量でより低メルトインデックスのコポリマーを形成するために第2の反応器内で必要な水素の濃度は第1の反応器内で用いるものよりも実質的に低いので、この工程で実質的に全ての水素を除去する。しかしながら、当業者であれば、未反応のエチレン及び若干の炭化水素希釈剤も水素と共に除去される可能性があることを認識するであろう。重合を継続し、第2の反応器内での共重合を進行させて、最終BM生成物が65:35〜40:60のLMW−HDPEとHMW−PEとの組成比(CR)を有するようにする。高度に耐SCG及び耐RCP性のBMパイプ樹脂を製造するための本発明の非常に有用な態様においては、CRは60:40〜45:55(LMW−HDPE:HMW−PE)である。ここで示すCR比は重量基準のものである。
【0038】
第2の反応器内での反応器条件は、第1の反応器内で用いるものと異なる。温度は、通常は68〜80℃、より好ましくは70〜79℃に保持する。第2の反応器内での触媒、共触媒、及びシラン変性剤のレベルは、第1の反応器内で用いる濃度を基準として、且つ共重合中に場合によって用いる添加を行うかどうかに基づいて変化させる。
【0039】
コモノマーを更なるエチレンと共に第2の反応器中に導入する。有用なコモノマーとしては、C4〜8−α−オレフィン、特にブテン−1、ヘキセン−1、及びオクテン−1が挙げられる。特に有用なBM−PEパイプ樹脂は、LMW−PE樹脂がエチレンとブテン−1とのコポリマーである場合に得られる。
【0040】
第1の反応器内で製造されるLMW−HDPE樹脂は、容易にサンプリングし、密度及びMIを監視して第1の反応器内での反応器条件を制御することができるが、第2の反応器内で製造されるHMW−PEコポリマーは、LMW−HDPE粒子との密な混合物で形成されるので、独立した別個の生成物として入手することはできない。したがって、規定したブレンド基準を用いてHMW−PEコポリマーの密度及びHLMIを計算することは可能であるが、最終樹脂生成物の密度及びHLMIを監視し、必要な場合には第2の反応区域内の条件を制御及び調節して最終樹脂生成物に関する目標値を達成することがより好都合である。
【0041】
したがって、最終BM−PE樹脂生成物の目標の密度及びHLMIに基づいて、第2の反応器内の蒸気空間中のエチレンに対する水素及び蒸気空間中のエチレンに対するコモノマーのモル比を保持する。一般に、これらの比は両方とも0.05〜0.09の範囲である。
【0042】
上記に記載の2段階カスケードスラリー重合プロセスにしたがって、シラン変性チーグラー・ナッタ触媒を用いて製造され、上記に規定する限界値内のHMW−PE成分に対するLMW−HDPE成分のCR比を有する二峰性PE樹脂は、0.945〜0.956g/cm、より好ましくは0946〜0.955g/cmの範囲の密度を有する。HLMIは、通常は2〜20g/10分、より好ましくは3〜16g/10分の範囲である。BM−PE樹脂がエチレン−ブテン−1コポリマー樹脂である特に有用な態様においては、密度は好ましくは0.947〜0.954g/cmの範囲であり、HLMIは4〜14g/10分である。HLMI(時にはMI20とも呼ぶ)は、ASTM−D1238にしたがって、190℃において21.6kgの負荷を用いて測定する。
【0043】
本発明のBM−PE樹脂は、従来技術の方法によって製造されるBM樹脂と比べて大きく減少したLCBを有することを更に特徴とする。この特徴が樹脂の物理特性及び流動特性と組み合わさって、樹脂が向上した耐SCG及び耐RCP性を有する押出パイプの製造に非常に好適なものになる。LCBは、trefBRと呼ばれる分岐指数を用いて定量化される。trefBRは、3種類のオンライン検出器、具体的には赤外(IR)、差圧粘度計(DP)、及び光散乱(LS)を含む温度上昇溶出分別(TREF)の能力と組み合わせたゲル透過クロマトグラフィー(GPC)の3D−GPC−TREFシステムを用いて得られるパラメーターから計算される。用いる装置及び方法は、W. Yauら, Polymer, 42 (2001), 8947-8958及びW. Yau, Macromol. Symp., (2007) 257:29-45(その詳細は参照として本明細書中に包含する)による論文に記載されている。
【0044】
trefBRインデックスは、等式:
【0045】
【化2】

【0046】
(式中、K及びαは、ポリエチレンに関するマーク・ホウインクパラメーターで、それぞれ0.00374及び0.73であり;MWはLSで測定した重量平均分子量であり;[η]は固有粘度である)を用いて計算する。計算されたtrefBR値は、バルク試料における平均LCBレベルを表す。低いtrefBR値は低いレベルのLCBを示す。本発明方法によって製造される改良されたSCG及びRCP特性を有するBM−PE樹脂のtrefBR値は、0.001〜0.5、より好ましくは0.01〜0.2の範囲である。ここで報告するtrefBR値は、85℃より高い温度においてカラムから溶出したポリマーに関してトリクロロベンゼンを用いて測定した。
【0047】
本発明方法にしたがって製造され、上記に記載の特徴を有するBM樹脂は、それを向上した耐SGP及びRGP性を有するパイプの製造のために非常に有用にする微細構造を有する。更に、成分樹脂の流動特性により、それは最終樹脂生成物の加工性を保持しながらより高い密度を達成することができる。
【実施例】
【0048】
以下の実施例によって本発明をより完全に説明する。しかしながら、当業者であれば発明の精神及び特許請求の範囲内の多くの変更を認識するであろう。
以下の全ての実施例においては、LMW−HDPEとHMW−PEの密な混合物である第2の反応器から回収される二峰性PEを乾燥し、得られた粉末を仕上げ操作に送り、ここで2000ppmのCa/Znステアレート及び3200ppmのヒンダードフェノール/ホスファイト安定剤を配合し、ペレット化した。仕上げ/ペレット化樹脂を用いて、最終生成物に関して報告する特性を得た。
【0049】
実施例1:
エチレン、ヘキサン、高活性チタン触媒スラリー、TEAL共触媒、シラン変性剤、及び水素を第1の重合反応器中に連続的に供給して、低分子量で高密度のポリエチレン(LMW−HDPE)樹脂を調製した。用いたシラン変性剤はCMDSであった。触媒は、米国特許4,464,518の実施例にしたがって調製し、ヘキサンを用いて所望のチタン濃度に希釈した。シラン変性剤及びTEALもヘキサン溶液として供給した。第1の反応器において用いた供給速度及び重合条件を表1に示す。また、製造されたLMW−HDPEのMI及び密度も表1に示す。
【0050】
第1の反応器からの反応混合物の一部をフラッシュドラムに連続的に移し、ここで水素、未反応のエチレン、及び若干のヘキサンを除去した。次に、ヘキサン中のLMW−HDPE、残留触媒、残留共触媒、及び残留CMDSを含むフラッシュドラムから回収されたヘキサンスラリーを第2の反応器に移し、そこに新しいヘキサン、エチレン、及び水素を、ブテン−1コモノマーと共に加えた。より高分子量でより低密度のポリエチレン(HMW−PE)コポリマー成分を製造するために第2の反応器において用いた共重合条件を表2に示す。第2の反応器には、更なる触媒、共触媒、又はシラン変性剤は加えなかった。
【0051】
最終の二峰性PE樹脂生成物の組成比、HLMI、密度、及びtrefBRインデックスを表3に報告する
また、BM−PE樹脂生成物の流動特性は、周波数の関数として複素粘度を用いて流動多分散度(通常は「ER」と呼ばれる)を測定することによって評価した。流動性の測定は、動的流動性データを周波数掃引モードで測定するASTM−4440−95aにしたがって行った。Rheometrics ARES流動計を用い、190℃、平行プレートモードで、窒素下において運転して試料の酸化を最小にした。平行プレート形状中のギャップは通常は1.2〜1.4mmであり、プレート直径は50mmであり、歪み振幅は10%であった。周波数は0.0251〜398.1rad/秒の範囲であった。
【0052】
ERは、Shroffら, J. Applied Polymer Sci. 57 (1995), 1605の方法によって測定した。而して、貯蔵弾性率(G’)及び損失弾性率(G”)を測定し、9つの最も低い周波数の点(周波数10あたり5つの点)を用いてlogG’対logG”への最小二乗回帰によって一次式に合致させた。次に、G”=5,000ダイン/cmの値において
ER=(1.781×10−3)×G’
からERを計算した。温度、プレート直径、及び周波数範囲は、流動計の分解能内において、最も低いG”値が5,000ダイン/cmに近接するか又はこれ未満となるように選択した。BM−PE樹脂のERは1.70であった。
【0053】
更に、ERを、LMW−HDPE成分に関しては上記の方法を用いて測定し、HMW−PE成分に関しては米国特許7,230,054の手順にしたがって計算した。それぞれの成分に関するER値は、0.80及び0.60であった。本発明方法によって得られた最終BM−PE樹脂のERが、個々の樹脂成分のいずれのものよりも非常に高いという事実は予期できないものであり、これは、シラン変性剤を場合によって用いてより高分子量でより低密度の成分のみを製造する従来技術の方法(例えば、米国特許7,230,054に記載の方法)に対して、本発明方法(シラン変性剤を両方の反応器内に存在させる)によって達成される著しく異なる結果を示す。
【0054】
比較例2:
本発明方法によって達成される大きく異なる結果を示すために、シラン変性剤を用いないで実施例1を繰り返した。この比較実験は、実施例1において与えられたものに可能な限り近接したHLMI及び密度を有する最終樹脂生成物を目標とした。第1及び第2の反応器において用いた供給速度及び重合条件、並びに製造されたLMW−HDPE成分及び最終生成物の特性を、表1、2、及び3に報告する。
【0055】
対照のBM樹脂及び実施例1の本発明のBM樹脂に関して得られたtrefBR値の比較から、同等のMI及び密度でブレンドした対照の二峰性ブレンドを用いて得られる著しく異なるLCB特性が明らかである。異なるtrefBR値によって示される対照及び本発明のBM樹脂の異なる微細構造、並びにSCG及びRCP特性に対する得られる効果を、物理的試験によって示す。
【0056】
樹脂の試験:
減少したLCBを有する実施例1の本発明のBM−PE樹脂、及び比較例2の対照のBM−PE樹脂から製造された試料の耐SCG及び耐RCP性の比較から、本発明の生成物を用いて達成された大きく改良された性能が明らかである。耐SCG及び耐RCP性を評価するために、本発明及び対照のBM樹脂から試験片を調製し、所謂PENT試験(ASTM−F1473−94)及びシャルピー衝撃試験ASTM−F2231−02を用いて試験した。試験結果は次の通りであった。
【0057】
【表1−1】

【0058】
上記のデータは、減少したLCBを有する本発明のパイプ樹脂を用いて得られた耐SCG及び耐RCP性の大きい予期しなかった向上を明らかに示している。
パイプの押出:
加工性を示すために、実施例1の樹脂を内径1”のパイプに押出した。押出ラインは、24:1のL/Dを有し、4つの加熱区域を有する2.5インチ単軸押出機から構成されていた。スクリュー速度は23rpmであり、ライン速度は4ft/分であった。4つの加熱区域及びダイにおける温度は、それぞれ410°F、410°F、410°F、400°F、及び380°Fであった。ヘッド圧は1610psiであり、押出物の溶融温度は368°Fであった。押出されたパイプは、平滑な表面及び均一な壁厚を有していた。パイプの平均壁厚は124.25ミルであった。
【0059】
【表1−2】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
実施例3及び4:
最終樹脂生成物において0.953g/cmの密度及び5.7g/10分のHLMIを目標としてプロセス条件を変化させた他は、実施例1の基本手順にしたがって2種類のBM樹脂を調製した。触媒、共触媒、及びシラン変性剤は、実施例1に関して用いたものと同じであったが、実施例4の組成比は異なっていた。実施例3及び4に関して第1の反応器内で製造されたLMW−HDPE成分のMI及び密度は、それぞれ、202g/10分及び0.9714g/cm、並びに215g/10分及び0.9717g/cmであった。
【0063】
製造されたBM−PE樹脂に関するHLMI、密度、及びtrefBRは次の通りであった。
【0064】
【表4】

【0065】
いずれの樹脂も良好な加工性を示し、パイプに容易に押出可能であった。実施例3及び4の樹脂に関して得られたシャルピー衝撃値は、それぞれ50.6及び50.3kJ/mであった。
【0066】
実施例5:
用いたシラン変性剤がメチルトリエトキシシランであった他は実施例1の手順にしたがって、LMW−HDPE(MI=237g/10分;密度=0.9717g/cm)及びHMW−PEの樹脂成分(CR=52:48)を含む二峰性PE樹脂を調製した。目標の最終生成物HLMI及び密度は、それぞれ5.7g/10分及び0.953g/cmであった。得られた樹脂の特性は次の通りであった。
【0067】
【表5】

【0068】
BM樹脂から製造された試験片は、42.7kJ/mのシャルピー衝撃値を有していた。
実施例6:
第2の反応器内においてコモノマーとしてオクテン−1を用いた他は実施例1の手順を繰り返した。0.953g/cmの密度及び5.7g/10分のHLMIを有する最終生成物を目標として条件を保持した。減少したLCBを有し、LMW−HDPE及びHMW−PEの樹脂成分を48:52の組成比で含む得られたBM−PE樹脂生成物は、以下の特性を有していた。
【0069】
【表6】

【0070】
BM樹脂は59.9kJ/mのシャルピー衝撃値を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)第1の反応器内において、コモノマーの不存在又は実質的な不存在下、高活性固体遷移金属含有触媒、有機アルミニウム共触媒、水素、及びアルコキシシランの存在下においてエチレンを重合して、第1のポリマーを含む重合体を製造し;
(b)重合体から実質的に全ての水素を除去して、第2の反応器に移し;そして
(c)第2の反応器にエチレン、C4〜8−α−オレフィンコモノマー、及び水素を加え、重合を継続して、第1のポリマー、及び第1のポリマーよりも相対的に低い密度及び高い分子量の第2のポリマーを含む二峰性ポリエチレン生成物を製造する;
ことを含む、二峰性ポリエチレン樹脂の製造方法。
【請求項2】
第1のポリマーと第2のポリマーとの重量比が65:35〜40:60である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アルコキシシランが、式:R4−ySi(OR(式中、yは2又は3であり、Rは独立してアルキル又はシクロアルキル基である)を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
アルコキシシランが、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、及びメチルトリエトキシシラン、並びにこれらの混合物からなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
α−オレフィンコモノマーが、ブテン−1、ヘキセン−1、及びオクテン−1、並びにこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
重合を不活性炭化水素中で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
アルコキシシランがシクロヘキシルメチルジメトキシシランであり、α−オレフィンコモノマーがブテン−1である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
第1のポリマーと第2のポリマーとの重量比が60:40〜45:55である、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
第1の反応器内の条件を、0.964g/cm以上の密度及び50〜400g/10分の範囲のMIを有する第1のポリマーが形成されるように保持し、第2の反応器内の条件を、0.946〜0.955g/cmの最終二峰性生成物密度及び3〜16g/10分の最終二峰性生成物HLMIが与えられるように保持する、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
重合を不活性炭化水素中で行い、アルコキシシランがシクロヘキシルメチルジメトキシシランであり、α−オレフィンコモノマーがブテン−1である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法によって製造される、第1の低分子量で高密度のポリエチレン成分及び第2のより高分子量でより低密度のポリエチレン成分を含み、0.945〜0.956g/cmの密度、2〜20g/10分のHLMI、及び0.001〜0.5のtrefBRインデックスを有する二峰性ポリエチレン樹脂。
【請求項12】
第1のポリエチレン成分と第2のポリエチレン成分との重量比が60:40〜45:55である、請求項11に記載の二峰性ポリエチレン樹脂。
【請求項13】
第1のポリエチレン成分が0.964〜0.975g/cmの密度及び100〜300g/10分のMIを有する、請求項11に記載の二峰性ポリエチレン樹脂。
【請求項14】
0.947〜0.954の密度、4〜14g/10分のHLMI、及び0.01〜0.2のtrefBRインデックスを有する、請求項13に記載の二峰性ポリエチレン樹脂。
【請求項15】
第2のポリエチレン成分がエチレンとブテン−1とのコポリマーである、請求項14に記載の二峰性樹脂。
【請求項16】
請求項10に記載の方法によって製造される、0.966〜0.975g/cmの密度及び150〜250g/10分のMIを有する第1の低分子量で高密度のポリエチレン成分、及び第2のより高分子量でより低密度のエチレン−ブテン−1コポリマー成分を含み、0.947〜0.954g/cmの密度、4〜14g/10分のHLMI、及び0.01〜0.2のtrefBRインデックスを有する二峰性ポリエチレン樹脂。
【請求項17】
請求項11に記載の樹脂を含む押出パイプ。

【公表番号】特表2011−522923(P2011−522923A)
【公表日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512444(P2011−512444)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【国際出願番号】PCT/US2009/002720
【国際公開番号】WO2009/148487
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(510320575)イクイスター・ケミカルズ・エルピー (1)
【Fターム(参考)】