説明

二峰性細孔径分布を有する触媒及びその使用

【課題】本発明は,オレフィンから酸化オレフィンへのエポキシ化用触媒に関する。
【解決手段】異なる平均細孔径と異なる最も集中した細孔径を有する少なくとも2つの細孔径分布を有する担体と,触媒効果量の銀,助触媒量のレニウム及び助触媒量の1種以上のアルカリ金属を更に含み,前記少なくとも2つの細孔径分布は,細孔径の範囲が約0.01μm〜約50μmであることを特徴とする触媒。また,本発明は,上記触媒を使用したオレフィンから酸化オレフィンへの酸化プロセスにも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,概してオレフィンから酸化オレフィンへのエポキシ化に有用な触媒に関し,特に,担体設計の改良により選択性が向上した該触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィンのエポキシ化用の改良された触媒の生成に対する関心は尽きない。特に関心を集めているのは,エチレン用高選択性エポキシ化触媒である。通常,これらの触媒は,α−アルミナなどの多孔性耐熱担体を含み,その表面に,触媒量の銀と,エポキシ化プロセスにおける高選択化に役立つ少なくとも1つの助触媒(促進剤)を有する。銀触媒用助触媒としてアルカリ金属及び遷移金属を使用することは,気相内でのエチレンの部分的酸化による酸化エチレン生成において周知である。米国特許第4,010,115号,米国特許第4,012,425号,米国特許第4,123,385号,米国特許第4,066,575号,米国特許第4,039,561号,及び米国特許第4,350,616号に触媒の例が開示されている。米国特許第4,761,394号及び米国特許第4,766,105号で検討されるように,このような高選択性触媒は,銀の他に,レニウム,モリブデン,タングステン又は硝酸形成性化合物又は亜硝酸形成性化合物などの選択性増進助触媒を含んでいる。米国特許第3,962,136号及び米国特許第4,010,115号に記載されるように,触媒は,更にアルカリ金属のような元素を含んでもよい。
【0003】
ここ20年以上,レニウムは,多孔性耐熱担体により担持されアルカリ金属を助触媒とする銀系触媒の選択性を向上するために有効であるとして記載されていた。先行技術の参考文献として,米国特許第4,761,394号及び米国特許第4,833,261号がある。硫黄,モリブデン,タングステン又はクロムを使用するアルカリ金属とレニウムを助触媒とする銀系触媒の更なる改良が,米国特許第4,766,105号,米国特許第4,820,675号及び米国特許第4,808,738号に開示されている。欧州特許第1074301 B1及び国際公開第2002/051547号では,C〜C16の炭化水素を脱水素化するため二峰性細孔径分布を有する酸化アルミニウム,酸化チタン及び/又は酸化ケイ素,少なくとも1つの第1又は第2主族の元素,第3亜族の元素及び第8亜族の元素を含む触媒を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
銀系エポキシ化用担持触媒の化学組成物の他に,最終的な触媒及び担体の物理的特性も,触媒開発にとって不可欠な部分となっている。一般に,銀系の触媒担体は,特徴的な細孔容積と細孔径分布を示す。更に,表面積と水分吸収は,かかる触媒担体における周知の特性である。最終的な触媒の物理的特性とその特性が触媒性能に及ぼす影響が,特に触媒がレニウムを助触媒とする場合には,従来考えられていたものより更に複雑であることが現在までにわかっている。表面積,細孔容積及び細孔径分布に加え,細孔径分布のパターン,特に異なるモードの数と特定の性質が,触媒選択性に著しいプラスの影響を与えることが現在までにわかっている。
【0005】
多峰性(例えば,二峰性)細孔径分布を有する固形の担体上に銀,レニウム及び助触媒を固着した場合に高い触媒選択性を得られることが偶然発見されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様において,本発明は,それぞれ異なる平均細孔径と異なる最も集中した(maximum concentration)細孔径を有する,少なくとも2つの細孔径分布(即ち,少なくとも2つの細孔分布モード)を有する触媒担体(即ち,担体)を含むオレフィンのエポキシ化触媒に関する。前記少なくとも2つの細孔径分布は,細孔径の範囲が約0.01μm〜約50μmであることが好ましい。更に,触媒は,触媒効果量(catalytically effective amount)の銀,助触媒量(promoting amount)のレニウム及び助触媒量の1種以上のアルカリ金属を含む。
【0007】
一実施形態においては,担体の細孔径分布のうち少なくとも1つは,細孔径の範囲が約0.01μm〜約5μmである。
【0008】
別の実施形態においては,担体の細孔径分布のうち少なくとも1つは,細孔径の範囲が約5μm〜約30μmである。
【0009】
別の実施形態においては,少なくとも2つの担体の細孔径分布は,細孔径の範囲が約0.01μm〜約5μmである。
【0010】
更に別の実施形態においては,少なくとも2つの担体の細孔径分布は,細孔径の範囲が約5μm〜約30μmである。
【0011】
また別の実施形態においては,細孔径分布のうち少なくとも1つの細孔径の範囲が約0.01μm〜約5μmであり,細孔径分布のうち少なくとも1つの細孔径の範囲が約5μm〜約30μmである。また,細孔径分布のうち少なくとも1つは平均細孔径が約0.01μm〜約5μm(例えば,5μm以下)であり,細孔径分布のうち少なくとも1つは平均細孔径が約5μm(例えば,5μm以上)〜約30μmである。
【0012】
特定の実施形態においては,担体は,第1の細孔モードと第2の細孔モードからなる二峰性細孔径分布を有する。第1の細孔モードが約0.01μm〜約5μmの範囲の平均細孔直径を有し,第2の細孔モードが約5μm〜約30μmの範囲の平均細孔径を有することが好ましい。
【0013】
また,本発明は,オレフィンから酸化オレフィンへの酸化プロセスを提供し,前記プロセスは,上記の触媒の存在下で,固定床管型反応器内でオレフィン(例えば,エチレン)を酸素分子で気相酸化することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は,単峰性及び二峰性細孔径分布のグラフを示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明で用いる担体は,多孔性であり,好適な細孔構造を提供する多数の耐熱性固体担体の中から選択することができる。アルミナはオレフィンのエポキシ化用触媒担体として有用であることが周知であり,好適な担体である。アルミナ担体は,様々な不純物や添加物を含んでもよく,触媒作用的エポキシ化反応に影響してもしなくてもよい。好適なアルミナ担体の製造方法においては,高純度酸化アルミニウム,好ましくはα−アルミナが,一時性バインダや維持性バインダと十分に混合される。燃焼材として知られる一時性バインダは,分解する際に担体の細孔構造を変化させる中程度から高分子量の熱分解性有機化合物である。維持性バインダは,通常,溶融温度がアルミナ以下であり,最終的な担体に機械的強度を付与する粘土状無機物である。十分に乾燥混合した後,十分な水及び/又は他の適切な液体を加え,塊をペースト状の物質に形成する。その後,触媒担体の粒子は,押出などの従来の手段によりペーストから形成される。その後,粒子を乾燥し,引き続き高温で焼成する。
【0016】
担体は,α−アルミナ,炭,軽石,マグネシア,ジルコニア,チタニア,珪藻土,酸性白土,炭化ケイ素,シリカ,炭化ケイ素,粘土類,人工ゼオライト,天然ゼオライト,二酸化ケイ素及び/又は二酸化チタン,セラミック類及びその組み合わせなどの材料を含んでもよい。好適な担体は,非常に高純度のα−アルミナ,即ち,少なくとも95重量%の純度,更に好ましくは少なくとも98重量%のα−アルミナからなる。残部は,シリカ,アルカリ金属酸化物(例えば,酸化ナトリウム)及び微量のその他の金属含有又は金属非含有添加剤又は不純物などの,α−アルミナ以外の無機酸化物を含んでもよい。
【0017】
本発明で使用される固形担体(担体)は,多峰性細孔径分布(即ち,異なる細孔径範囲であって,各範囲は異なる最も集中した細孔径を有する)を有している。多峰性細孔径分布は少なくとも二峰性であり,三峰性,四峰性又はそれより多峰性であってもよい。多峰性細孔径分布は,細孔径に少なくとも2つの分布(モード)が存在し,各細孔径分布が他の細孔径分布と重複し又は重複せず,各細孔径分布がそれぞれ特有の細孔径(細孔直径)範囲とピーク濃度(通常,ピーク細孔容積として表わされる)を有することを特徴とする。各細孔径分布は,単一の平均細孔径(平均細孔直径)値により特徴付けることができる。よって,細孔径分布の平均細孔径値は,示された平均細孔径値となる細孔径の範囲に必然的に相当する。
【0018】
担体は,あらゆる適切な細孔直径の分布を有することができる。ここで使われる「細孔直径」とは,「細孔径」と同じ意味で使われる。各範囲における細孔直径は,一般的には少なくとも約0.01ミクロン(0.01μm),更に一般的には少なくとも約0.1μmである。異なる実施形態においては,細孔直径は,少なくとも約0.2μm,又は0.3μm,又は0.4μm,又は0.5μm,又は0.6μm,又は0.7μm,又は0.8μm,又は0.9μm,又は1.0μm,又は1.5μm,又は2.0μmであってもよい。通常,細孔直径は,約50μm,40μm,30μm,20μm又は10μm以下である。特定の実施形態においては,細孔直径は,約9μm,又は8μm,又は7μm,又は6μm,又は5μm,又は4μm,又は3μm又は2.5μm以下である。前述の最小及び最大の例示値から得られる範囲は,いずれも本明細書においても適切である。異なる実施形態において,細孔の各形態における適切な細孔直径範囲は,細孔の各形態の範囲が異なり,最も集中した細孔径がそれぞれの範囲で異なる限り,例えば,0.01〜50μm,1〜50μm,2〜50μm,5〜50μm,10〜50μm,20〜50μm,30〜50μm,0.01〜40μm,1〜40μm,2〜40μm,5〜40μm,10〜40μm,20〜40μm,30〜40μm,0.01〜30μm,0.05〜30μm,0.1〜30μm,0.5〜30μm,1〜30μm,2〜30μm,3〜30μm,4〜30μm,5〜30μm,10〜30μm,15〜30μm,20〜30μm,0.01〜10μm,0.05〜10μm,0.1〜10μm, 0.5〜10μm,1〜10μm,2〜10μm,3〜10μm,4〜10μm,5〜10μm,6〜10μm,7〜10μm,8〜10μm,9〜10μm,0.01〜8μm,0.05〜8μm,0.1〜8μm,0.5〜8μm,1〜8μm,1.5〜8μm,2〜8μm,2.5〜8μm,3〜8μm,4〜8μm,5〜8μm,6〜8μm,7〜8μm,0.01〜6μm,0.05〜6μm,0.1〜6μm,0.5〜6μm,1〜6μm,1.5〜6μm,2〜6μm,2.5〜6μm,3〜6μm,4〜6μm,5〜6μm,0.01〜5μm,0.05〜5μm,0.1〜5μm,0.5〜5μm,1〜5μm,1.5〜5μm,2〜5μm,2.5〜5μm,3〜5μm,3.5〜5μm,4〜5μm,0.01〜4μm,0.05〜4μm,0.1〜4μm,0.5〜4μm,1〜4μm,1.5〜4μm,2〜4μm,2.5〜4μm,3〜4μm,3.5〜4μm,0.01〜3μm,0.05〜3μm,0.1〜3μm,0.5〜3μm,1〜3μm,1.5〜3μm,2〜3μm,2.5〜3μm,0.01〜2μm,0.05〜2μm,0.1〜2μm,0.5〜2μm,1〜2μm及び1.5〜2μmから個別に選択することができる。
【0019】
第1の細孔モード及び第2の細孔モードは,異なる平均細孔径(即ち,異なる平均細孔直径)を有する。好ましくは,少なくとも1つの細孔モードの平均細孔直径は,約0.01μm〜約5μmの範囲内である。より好ましくは,平均細孔直径が異なる限りにおいて,第1及び第2の細孔モードの両方の平均細孔直径は,約0.01μm〜約5μmの範囲内である。例えば,第1及び第2の細孔モードの少なくとも1つの平均細孔径は,約0.01μm,0.02μm,0.03μm,0.04μm,0.05μm,0.06μm,0.07μm,0.08μm,0.09μm,0.1μm,0.2μm,0.3μm,0.4μm,0.5μm,0.6μm,0.7μm,0.8μm,0.9μm,1.0μm,1.1μm,1.2μm,1.3μm,1.4μm,1.5μm,1.6μm,1.7μm,1.8μm,1.9μm,2.0μm,2.1μm,2.2μm,2.3μm,2.4μm,2.5μm,2.6μm,2.7μm,2.8μm,2.9μm,3.0μm,3.1μm,3.2μm,3.3μm,3.4μm,3.5μm,3.6μm,3.7μm,3.8μm,3.9μm,4.0μm,4.1μm,4.2μm,4.3μm,4.4μm,4.5μm,4.6μm,4.7μm,4.8μm,4.9μm又は5.0μmであってもよい。各細孔モードの平均細孔径が異なる限りにおいて,2つ以上の細孔モードは,上記平均細孔径のいずれかから個別に選択することができる。上記の値のいずれか2つから得られる範囲はいずれも,本明細書で予期されるものである。
【0020】
別の実施形態においては,少なくとも1つの細孔モードが,5μm以上約30μm以下の平均細孔直径を有することで特徴付けられる。例えば,異なる実施形態においては,少なくとも1つの細孔モード平均細孔直径を,5μm以上約25mm以下,又は5μm以上約20mm以下,又は5μm以上約15mm以下,又は5μm以上約10mm以下,又は約6μm以上約30μm以下,又は約7μm以上約30μm以下,又は約8μm以上約30μm以下,又は約10μm以上約30μm以下,又は約10μm以上約25μm以下,又は約10μm以上約20μm以下,又は約15μm以上約30μm以下とすることができる。一実施形態においては,1つの細孔モードの平均細孔直径が約0.01μm〜約5μmの範囲内(又は,この範囲内又はそこから得られる小範囲内の上記の具体的例示値のいずれか)である一方で,細孔の別の形態の平均細孔直径が,5μm以上約30μm以下の又は小範囲のいずれかである。別の実施形態においては,少なくとも2つの細孔モードは5μm以上約30μm以下の平均細孔直径を有する。
【0021】
第1の実施形態においては,第1の細孔モードは総細孔容積の多くとも約50%であり,第2の細孔モードは総細孔容積の少なくとも約50%である。第2の実施形態においては,第1又は第2の細孔モードは総細孔容積の多くとも約45%であり,別の細孔モードは総細孔容積の少なくとも約55%である。第3の実施形態においては,第1又は第2の細孔モードは総細孔容積の多くとも約40%であり,別の細孔モードは総細孔容積の少なくとも約60%である。第4の実施形態においては,第1又は第2の細孔モードは総細孔容積の多くとも約35%であり,別の細孔モードは総細孔容積の少なくとも約65%である。第5の実施形態においては,第1又は第2の細孔モードは総細孔容積の多くとも約30%であり,別の細孔モードは総細孔容積の少なくとも約70%である。異なる二峰性細孔分布を反映した多数の別の実施形態が,本発明の範囲内において可能である。いかなる理論にも拘束されたくはないが,記載された二峰性又は多峰性細孔径分布を備えた触媒は,反応室が拡散チャネルにより分離されたタイプの細孔構造を有すると思われる。本明細書に記載する細孔容積及び細孔径分布は,あらゆる適切な方法で測定することができるが,例えば,Drake and Ritter, Ind. Eng. Chem. Anal. Ed., 17, 787 (1945)に記載された従来の水銀ポロシメーター法により得ることがより好ましい。
【0022】
第1の細孔モードの平均細孔直径と第2の細孔モードの平均細孔直径の間に少なくとも約0.1μmの差があること(即ち,「平均細孔直径の差」)が好ましい。異なる実施形態において,平均細孔径の差は,少なくとも,例えば,0.2μm,又は0.3μm,又は0.4μm,又は0.5μm,又は0.6μm,又は0.7μm,又は0.8μm,又は0.9μm,又は1.0μm,又は1.2μm,又は1.4μm,又は1.5μm,1.6μm,又は1.8μm,又は2.0μm,又は2.5μm,又は3μm,又は4μm,又は5μm,又は6μm,又は7μm,又は8μm,又は9μm又は10μm,及び約15,20又は30μm以下とすることができる。
【0023】
好適な一実施形態において,固形担体の表面は,第1及び第2の細孔モードからなる二峰性細孔径分布を有する。第1の細孔モードの平均細孔直径が約0.01μm〜約5μmの範囲にあることが好ましい。第1の細孔モードの平均直径が約0.1μm〜約4μmの範囲にあることが更に好ましい。第2の細孔モードの平均細孔直径は,第1の細孔モードとは異なる。第2の細孔モードの平均細孔直径が約5μm〜約30μmの範囲にあることが好ましい。第2の細孔モードの平均細孔直径が約5μm〜約20μmの範囲にあることが更に好ましい。一実施形態においては,第1の細孔モードは総細孔容積の多くとも約50%である。別の実施形態においては,第1の細孔モードは総細孔容積の多くとも約45%であり,第2の細孔モードは総細孔容積の少なくとも約55%である。別の実施形態においては,第1の細孔モードは総細孔容積の多くとも約40%であり,第2の細孔モードは総細孔容積の少なくとも約60%である。発明の範囲を限定するものではないが,記載された二峰性細孔径分布を備えた触媒は,拡散チャネルにより分離された反応室を有する有利な細孔構造を提供するものと考えられる。100℃での不可逆的アンモニア吸着により決定される担体の表面酸性度は,担体1グラムあたり約2マイクロモル未満であることが多く,好ましくは担体1グラムあたり約1.5マイクロモル未満であり,更に好ましくは担体1グラムあたり約0.05〜1.0マイクロモルである。図1は,単峰性と二峰性細孔径分布のグラフを示す。
【0024】
担体は,多くとも20m/gのBET表面積を有することが好ましく,多くとも10m/gがより好ましく,多くとも5m/gが更に好ましく,多くとも1m/gが更に好ましい。BET表面積が0.4〜4.0m/gの範囲にあることがより好ましく,約0.5〜約1.5m/gが更に好ましく,約0.5m/g〜約1m/gが最も好ましい。担体は,表面積が約1m/g未満のアルミナからなることが好ましい。本明細書に記載のBET表面積はあらゆる適切な方法で測定することができるが,Brunauer, S., et al., J. Am. Chem. Soc., 60, 309−16 (1938) に記載された方法により得ることがより好ましい。水銀圧入法で測定した適切な細孔容積は,約0.2ml/g〜約0.8ml/gの範囲,好ましくは約0.25ml/g〜約0.60ml/gとなることが予測される。最終的な触媒の吸水値は,一般的には約0.2cc/g〜約0.8cc/gの範囲にあり,好ましくは約0.25cc/g〜約0.6cc/gである。
【0025】
本発明の担体は,あらゆる適切な形状又は形態とすることができる。例えば,担体は,好ましくは固定床反応器での使用に適した寸法の粒状,チャンク,ペレット,リング状,球状,三穴状,ワゴン車輪状,十字分割された中空円筒などの形状とすることができる。担体粒子は,一般的に約3mm〜約12mmの範囲,より一般的には約5mm〜約10mmの範囲の等価直径を有し,通常は触媒が設置される管型反応器の内径に適合している。当分野で周知のように,「等価直径」という用語は,不規則な形状の物体と同一の体積を有する球体の直径を単位として物体の寸法を表わすことにより,不規則な形状の物体の寸法を表わすために使われる。
【0026】
一般的に,本発明の適切な触媒担体は,アルミナなどの耐熱材料,水及び他の適切な液体,完全燃焼材又は適切な細孔率調整剤及びバインダを混合することにより生成することができる。完全燃焼材としては,セルロース,例えばメチルセルロース,エチルセルロース及びカルボキシエチルセルロースなどの置換セルロース類,例えばステアリン酸メチル又はエチルなどの有機ステアリン酸エステルなどのステアリン酸類,ワックス類,粒状ポリオレフィン類,特にポリエチレン及びポリプロピレン,クルミ殻粉などの,担体の生成に使用される焼成温度で分解可能なものが挙げられる。完全燃焼材は,担体の細孔率を改良するために使用される。最終的な担体を生成するため,完全燃焼材は原則的に焼成中に完全に除去される。本発明の担体は,結晶シリカ化合物の形成を実質的に防止するのに十分な量のシリカなどのバインダとアルカリ金属化合物を含んで形成されるのが好ましい。適切なバインダとして,粘土状無機物が挙げられる。特に便利なバインダ材料は,ベーマイト,アンモニア安定化シリカゾル及び可溶性ナトリウム塩の混合物である。
【0027】
ペーストは,担体の粉の原材料と水又は別の適切な液体を混合することで形成され,通常ペーストは,所望の形状に押出成形又はモールド成形され,その後,約1200℃〜約1600℃の温度で焼成又はか焼して,担体を形成する。粒子が押出成形で形成される場合,押出助剤も含むことが望ましい。必要な押出助剤の量は,使用される設備に関する多数の要因によって決定される。しかし,これらの事項は,セラミック材料を押出成形する分野の当業者にとって,十分に一般的知識である。焼成後,水溶性残留物を除去するために担体を洗浄することが好ましい。洗浄は,最も一般的には水で行われるが,他の溶剤あるいは水溶性/非水溶性溶液での洗浄もまた有効である。二峰性の事前分布を有する適切な担体は,Saint−Gobain Norpro社,ノリタケ社及びSued Chemie社,CeramTec社により市販されている。
【0028】
エチレンから酸化エチレンへの酸化用触媒を生成するため,上記特性を持つ担体の表面に触媒効果量の銀を設ける。触媒は,担体上に銀前駆体化合物を沈着するのに十分な適切な溶剤に溶解させた銀化合物,錯体又は塩に,担体を含浸することにより生成される。銀水溶液の使用が好ましい。含浸後,余分な溶液が含浸担体から除去され,含浸担体は,本分野で知られるように,溶剤を蒸発させ,銀又は銀化合物を担体上に沈着させるため,加熱される。
【0029】
本発明により生成される好適な触媒は,担体を含む触媒の総重量に対して,金属として表わされる銀を約45重量%以下含む。銀は,多孔性耐熱担体の表面上と細孔全体に沈着される。金属として表わされる銀の含有量は,触媒の総重量に対して約1%〜約40%が好ましいが,約8%〜約35%の銀含有量が更に好ましい。担体上に沈着された又は担体上に存在する銀の量は,触媒効果量の銀,即ち,酸化エチレンを生成するためのエチレンと酸素の反応を経済的に触媒する量である。本明細書で使用される用語「触媒効果量の銀」とは,エチレンと酸素から酸化エチレンに測定可能な変換率を提供する銀の量を言う。銀前駆体である有用な銀含有化合物としては,シュウ酸銀,硝酸銀,酸化銀,炭酸銀,カルボン酸銀,クエン酸銀,フタル酸銀,乳酸銀,プロピオン酸銀,酪酸銀及び高脂肪酸塩と,その組み合わせが挙げられるが,他を排除するものではない。
【0030】
また,銀の沈着の前,同時又は後に,担体上には,レニウム含有化合物又はレニウム含有錯体であってもよい助触媒量のレニウム化合物が沈着される。レニウム助触媒は,レニウム金属として表わされる担体を含む全触媒の重量に対して約0.001重量%〜約1重量%の量で存在してもよく,好ましくは約0.005重量%〜約0.5重量%であり,更に好ましくは約0.01重量%〜約0.1重量%である。
【0031】
また,銀及びレニウムの沈着の前,同時又は後に,担体上には,助触媒量のアルカリ金属又は2つ以上のアルカリ金属の混合物と,任意の助触媒量のIIA族アルカリ土類金属成分又は2つ以上のIIA族アルカリ土類金属成分の混合物及び/又は遷移金属成分又は2つ以上の遷移金属成分の混合物が沈着され,その全ては,適切な溶剤に溶解した金属イオン,金属化合物,金属錯体及び/又は金属塩の形である。担体は,同時又は別のプロセスで,様々な触媒助触媒に含浸することができる。本発明の銀,担体,アルカリ金属助触媒,レニウム成分及び任意の追加助触媒の特定の組み合わせは,銀と担体と助触媒無し又は1つのみの同じ組み合わせで,1以上の触媒特性を向上させる。
【0032】
本明細書で使用される触媒の特定の成分の「助触媒量」(促進量)という用語は,その成分を含まない触媒と比較した場合に,触媒の触媒性能を向上させるために効果的に作用する成分量を言う。使用される正確な濃度は,もちろん,その他の要因のうち,所望の銀含有量,担体の性質,液体の粘度及び含浸溶液に助触媒を送るために使用される特定の化合物の溶解性によって決定される。触媒特性の例として,とりわけ,操作性(耐暴走性),選択性,活性,変換率,安定性及び収率が挙げられる。1以上の個々の触媒特性は「助触媒量」により改善されても,他の触媒特性が改善される場合又は改善されない場合があり,また更には低下する場合があることは,当業者によって理解されるだろう。更に,異なる触媒特性が異なる処理条件により改善されることも理解される。例えば,ある一連の処理条件で選択性が改善される触媒は,選択性よりは活性において向上が見られる異なる一連の条件で処理されてもよい。エポキシ化プロセスにおいては,他の触媒特性を犠牲にしても特定の触媒特性の利点が得られるよう,意図的に処理条件を変更することが望ましい。好適な処理条件は,その他の要因のうち,原料コスト,エネルギーコスト,副生成物除去コスト等により決定される。
【0033】
適切なアルカリ金属助触媒は,リチウム,ナトリウム,カリウム,ルビジウム,セシウム又はその組み合わせから選ぶことができるが,セシウムが好ましく,セシウムと他のアルカリ金属の組み合わせが特に好ましい。担体上に沈着又は存在するアルカリ金属の量が助触媒量である。好適には,その量の範囲は,金属として測定された場合の触媒の全重量に対して約10ppm〜約3000ppmであり,更に好ましくは約15ppm〜約2000ppmであり,更により好ましくは約20ppm〜約1500ppmであり,特に好ましいのは約50ppm〜約1000ppmである。
【0034】
適切なアルカリ土類金属助触媒は,元素周期表のIIA族の元素からなり,ベリリウム,マグネシウム,カルシウム,ストロンチウム及びバリウム又はその組み合わせであってもよい。適切な遷移金属助触媒は,元素周期表のIVA,VA,VIA,VIIA及びVIIIA族の元素又はその組み合わせから成ってもよい。遷移金属が元素周期表のIVA,VA又はVIA族から選ばれた元素からなるのが最も好ましい。存在してもよい好適な遷移金属としては,モリブデン,タングステン,クロム,チタン,ハフニウム,ジルコニウム,バナジウム,タンタル,ニオブ又はその組み合わせが挙げられる。
【0035】
担体上に沈着されるアルカリ土類金属助触媒及び/又は遷移金属助触媒の量が,助触媒量である。通常,遷移金属助触媒は,金属として表わされる全触媒の約0.1マイクロモル/g〜約10マイクロモル/gの量で存在してもよく,好ましくは約0.2マイクロモル/g〜約5マイクロモル/gであり,更に好ましくは約0.5マイクロモル/g〜約4マイクロモル/gである。触媒は,助触媒量の1種以上の硫黄化合物,1種以上のリン化合物,1種以上のホウ素化合物,1種以上のハロゲン含有化合物又はその組み合わせを更に含んでもよい。
【0036】
担体を含浸するために使用される銀溶液は,本分野で知られるような任意の溶剤又は錯化/可溶化剤を含んでもよい。多種多様な溶剤又は錯化/可溶化剤は,含浸媒体中で所望の濃度になるよう銀を可溶化するために使用してもよい。有用な錯化/可溶化剤としては,アミン類,アンモニア,シュウ酸,乳酸及びその組み合わせが挙げられる。アミン類としては,炭素原子1〜5のアルキレンジアミンが挙げられる。好適な一実施形態においては,溶液は,シュウ酸銀及びエチレンジアミンの水溶液からなる。錯化/可溶化剤は,含浸溶液中に銀1モル当たり約0.1〜約5.0モルの量で存在してもよく,好ましくは約0.2〜約4.0モル,更に好ましくは銀1モル当たり約0.3〜約3.0モルである。
【0037】
溶剤が使用される場合は,有機溶剤でも水でもよく,極性であっても略又は完全に非極性であってもよい。一般に溶液は,溶液成分を可溶化するために十分な溶媒和力を有するべきである。同時に,溶媒和助触媒への不適切な影響又は相互作用を避けるよう溶剤を選ぶことが好ましい。有機溶剤の例として,アルコールでは特にアルカノール類,グリコールでは特にアルキルグリコール類,ケトン類,アルデヒド類,アミン類,テトラヒドロフラン,ニトロベンゼン,ニトロトルエン,グリム類では特にグリム,ジグリム及びテトラグリムなどが挙げられるが,これに限定されない。1分子あたり炭素原子1〜約8の有機系溶剤が好ましい。このような混合溶剤が本明細書で所望する機能を果たす限り,幾つかの有機溶剤の混合物又は水と1種以上の有機溶剤の混合物を用いてもよい。
【0038】
含浸溶液中の銀の濃度は,通常約0.1重量%から使用される特定の溶剤/可溶化剤の組み合わせが溶解可能な最大限までの範囲にある。通常,0.5%〜約45重量%の銀を含む溶液の使用が非常に適しており,5〜35重量%の銀の濃度が好ましい。
【0039】
選択された担体の含浸は,例えば,過剰溶液含浸法,初期湿潤含浸法,スプレー・コーティングなどの,いずれかの従来の方法で行われる。通常,担体の材料は,十分な量の溶液が担体に吸収されるまで,銀含有溶液に接触させて留置される。多孔性担体を含浸するために使用される銀含有溶液の量は,担体の細孔充填の必要分以下であることが好ましい。1回の含浸又は一連の含浸は,中間乾燥の有無にかかわらず、溶液中の銀成分の濃度に部分的に応じて使用されてもよい。含浸プロセスは,米国特許第4,761,394号,米国特許第4,766,105号,米国特許第4,908,343号,米国特許第5,057,481号,米国特許第5,187,140号,米国特許第5,102,848号,米国特許第5,011,807号,米国特許第5,099,041号及び米国特許第5,407,888号に記載されている。様々な助触媒の前沈着,共沈着及び後沈着といった公知の先行技術のプロセスを用いることができる。
【0040】
銀含有化合物,即ち,銀前駆体,レニウム成分,アルカリ金属成分及び任意の他の助触媒に担体を含浸した後,含浸担体は,銀含有化合物を活性銀種に変換し,含浸担体から揮発性成分を除去して触媒前駆体とするために十分な時間で焼成される。焼成は,0.5〜35バールの範囲の圧力で,好ましくは段階的に,約200℃〜約600℃,好ましくは約200℃〜約500℃,更に好ましくは約200℃〜約450℃の範囲の温度で,含浸担体を加熱することにより行うことができる。一般に,温度が高いほど,必要な加熱時間は短い。本分野においては,広範囲の加熱時間が示唆されてきており,例えば,米国特許第3,563,914号は300秒未満の加熱処理を示唆し,米国特許第3,702,259号は,通常約0.5〜約8時間の継続時間であるところ,100℃〜375℃の温度で2〜8時間の加熱を開示している。しかし,実質的に全ての含有銀が活性銀種に変換されるように,加熱時間と温度が相関することのみが重要である。この目的のためには,連続的又は段階的加熱が使用できる。
【0041】
焼成の際,含浸担体を,不活性ガス又は不活性ガスと約10ppm〜21体積%の酸素含有酸化成分との混合物からなるガス雰囲気に晒してもよい。本発明の目的において,不活性ガスは,焼成のために選択された条件下では実質的に触媒又は触媒前駆体と反応しないガスとして定義される。非限定的な例として,窒素,アルゴン,クリプトン,ヘリウム及びその組み合わせが挙げられるが,窒素の不活性ガスが好ましい。酸素含有酸化成分の非限定的な例として,酸素分子(O),CO,NO,NO,NO,N,N又はN,又は,焼成条件下でNO,NO,NO,N,N又はNを形成することができる物質,又はその組み合わせが挙げられ,任意でSO,SO,亜リン酸トリメチル又はその組み合わせを含む。これらのうち,酸素分子が好適な実施形態であり,OとNO又はNOの組み合わせが別の好適な実施形態である。一実施形態においては,雰囲気中には,約10ppm〜約1体積%の酸素含有酸化成分が含まれている。別の好適な実施形態においては,雰囲気中には,約50ppm〜約500ppmの酸素含有酸化成分が含まれる。
【0042】
別の実施形態においては,上記のように焼成された含浸担体は,その後任意で,酸素と蒸気の組み合わせからなる雰囲気であって,オレフィンがほぼ存在しないか,好ましくはオレフィンが全く存在しない雰囲気と接触させてもよい。通常,雰囲気は,約2%〜約15%の体積比の蒸気,好ましくは約2%〜約10%の体積比の蒸気,更に好ましくは約2%〜約8%の体積比の蒸気を含んでいる。通常,雰囲気は,約0.5%〜約30%の体積比の酸素,好ましくは約1%〜約21%の体積比の酸素,更に好ましくは約5%〜約21%の体積比の酸素を含んでいる。残りのガス雰囲気は,不活性ガスであもよい。不活性ガスの非限定的な例として,窒素,アルゴン,クリプトン,ヘリウム及びその組み合わせが挙げられるが,窒素の不活性ガスが好ましい。通常,約200℃かそれ以上の温度で接触が行われる。一実施形態においては約200℃〜約350℃の温度で,接触が行われる。別の実施形態においては,約230℃〜約300℃の温度で接触が行われる。別の実施形態においては,約250℃〜約280℃の温度で接触が行われる。別の実施形態においては,約260℃〜約280℃の温度で接触が行われる。通常は,約0.15時間かそれ以上の時間の接触が行われる。一実施形態においては,約0.5時間〜約200時間の接触が行われる。別の実施形態においては,約3時間〜約24時間の接触が行われる。別の実施形態においては,約5時間〜約15時間の接触が行われる。
【0043】
酸化エチレンの生成
エポキシ化プロセスは,本発明により生成される触媒の存在下で,酸素含有ガスとオレフィン,好ましくはエチレンを連続的に接触させることにより行うことができる。酸素は,ほぼ純粋な分子形態又は空気などの混合物として反応のために供給されてもよい。反応体として使用する酸素分子は,慣用の供給源から得ることができる。反応体供給混合物は,約0.5%〜約45%のエチレンと約3%〜約15%の酸素を含んでもよく,残りは二酸化炭素,水,不活性ガス類,他の炭化水素類及び有機ハロゲン化合物などの1種以上の反応改質剤といった物質を含む比較的不活性な材料からなる。不活性ガスの非限定的な例としては,窒素,アルゴン,ヘリウム及びその混合物が挙げられる。他の炭化水素類の非限定的な例として,メタン,エタン,プロパン及びその混合物が挙げられる。二酸化炭素と水は,エポキシ化プロセスの副生成物であり,かつ,供給ガス中の一般的な不純物である。どちらも触媒に悪影響を与えるため,これらの成分の濃度は通常最小限に維持される。反応減速材の非限定的な例としては,C〜Cのハロゲン化炭化水素などの有機ハロゲン化合物が挙げられる。反応減速材としては,塩化メチル,塩化エチル,二塩化エチレン,二臭化エチレン,塩化ビニル又はその混合物が好ましい。最も好適な反応減速材は,塩化エチルと二塩化エチレンである。
【0044】
エチレンのエポキシ化プロセスの通常の方法は,本発明の触媒の存在下の固定床管型反応器内におけるエチレンと酸素分子の気相酸化法を含む。従来市販の固定床エチレン酸化反応器は,通常,外径およそ0.7〜2.7インチ,内径0.5〜2.5インチ及び長さ15〜45フィートで触媒が充填された複数の平行な細長い管(適切な外殻構造内)の形状を有する。通常のエチレンのエポキシ化プロセスの処理条件には,約180℃〜約330℃,好ましくは約200℃〜約325℃,更に好ましくは約225℃〜約270℃の範囲の温度が含まれている。処理圧力は,質量速度と所望の生産性により,約1気圧から約30気圧まで変化してもよい。本発明の範囲においては,高圧を用いてもよい。商業規模の反応器内での滞留時間は,通常およそ約0.1〜5秒である。本触媒は,これらの範囲の条件で処理される場合,このプロセスには効果的である。
【0045】
生成された酸化エチレンは,従来の方法を用いて反応生成物から分離され,再生される。本発明においては,エチレンのエポキシ化プロセスはガスのリサイクルを含んでもよく,酸化エチレン生成物と副生成物を十分に又は部分的に除去した後,ほぼ全ての反応器排水が反応器入口から再び入る。リサイクルモードでは,反応器へ吸気されるガス中の二酸化炭素濃度は,例えば,約0.3〜約6体積%であってもよい。
【0046】
本発明の触媒が,エチレンと酸素分子から酸化エチレンへの酸化に特に選択的であることを示してきた。本発明の触媒の存在下でそのような酸化反応を行う条件には,先行技術に記載されたものが広く含まれる。これには適切な温度,圧力,滞留時間,希釈材,緩和剤及びリサイクル操作が当てはまり,酸化エチレンの収率を増大させるべく異なる反応器にて順次に行う変換も当てはまる。エチレン酸化反応での本発明の触媒の使用は,効果的であることが知られるもののうち特定の条件の使用に限定されるものではない。
【0047】
現在市販されているエチレン酸化反応器ユニットの使用に適切な条件は,当業者にはよく知られている。
【0048】
以下の非限定的な実施例を用いて,本発明を説明する。
【実施例】
【0049】
酸化アルミニウム
以下のアルミナが,触媒の生成に使用された。異なる種類のアルミナ担体が,Saint−Gobain Norpro社,ノリタケ社,Sued Chemie社及び/又はCeramTec社により市販されている。

【表1】

【0050】
(a)Brunauer,Emmet及びTellerの方法により測定
【0051】
(b)マイクロメトリックス社製オートポアIV9500を用いた44.550psia以下の水銀圧入のデータ(接触角140度,水銀の表面張力0.480N/m)
【0052】
触媒の生成
銀溶液
高純度酸化銀(Ames Goldsmith社)834gを,約2,800gの脱イオン水中の脱水シュウ酸(アメリカ化学協会認定試薬,フィッシャー)442gの撹拌溶液に加えた。水和銀シュウ酸塩の沈殿物が,混合物上に形成された。0.5時間撹拌を続けた。そして,沈殿物をフィルタで集め,脱イオン水で洗浄した。沈殿物が50.5重量%の銀を含有していたことを,分析が示している。次に,213.9gのシュウ酸銀沈殿物を,77.2gのエチレンジアミン(99+%,Aldrich社)と60.3gの脱イオン水との混合物に溶解した。試薬をゆっくりと混合し,溶液を冷却して,溶液の温度を40℃以下に保った。濾過の後の溶液は,およそ30重量%の銀を含んでおり,比重が1.52g/mLであった。
【0053】
実施例1:触媒B
150gのアルミナ担体Aをフラスコ内に設置し,含浸前におよそ0.1torr以下排気した。上記銀溶液に,水酸化セシウム,過レニウム酸及び硫酸アンモニウムの水溶液を加え,米国特許第4,766,105号の実施例5〜10に記載の触媒組成を生成した。十分に混合した後,圧力を概ね0.1torrに保ちながら真空排気したフラスコ内へ促進された銀溶液を吸引し,担体を覆った。細孔内への溶液の完全な浸透を早め,約5分後に真空を開放して環境気圧に戻した。その後,余分な含浸溶液を含浸担体から排水した。湿式触媒の焼成は,移動ベルトか焼炉で行った。このユニット内では,湿式触媒はステンレス鋼ベルト上に載せられ多段加熱炉を通って運ばれる。加熱炉の全ての区間は予熱した超高純度の窒素で連続的に浄化されており,触媒が1つの区間から次へと進むにつれ,徐々に温度を上げられる。熱は加熱炉の壁及び予熱した窒素から放出される。
【0054】
この実施例1においては,湿式触媒は周囲温度で加熱炉内に入っている。その後温度を,触媒が加熱区間を通過するにつれ最大限の約450℃まで徐々に上昇させた。最後の(冷却)区間では,この時点で活性化されている触媒の温度を,周囲雰囲気にさらされる前に,100℃未満まで直ちに下げた。加熱炉内での総滞留時間は,およそ45分であった。アルミナ担体Aの二峰性細孔径分布を表Iに示している。
【0055】
実施例2:触媒B
触媒Aの生成に続き,アルミナ担体Bを用いて触媒Bを生成した。アルミナ担体Bの二峰性細孔径分布を表Iに示している。
【0056】
実施例3:触媒C(比較例)
実施例1の作業手順に続き,アルミナ担体Cを用いて触媒Cを生成した。アルミナ担体Cの単峰性細孔径分布を表Iに示している。また,同じアルミナを使って,銀及びセシウムのみを含む触媒を3つ生成した。
【0057】
実施例4:触媒D
150gのアルミナ担体Aをフラスコ内に設置し,含浸前におよそ0.1torrまで排気した。実施例1〜3同様に,上記銀溶液に水酸化セシウムの水溶液を加え,触媒の全重量及びセシウムの量に対し銀が14.1重量%の触媒を生成した。十分に混合した後,圧力を概ね0.1torrに保ちながら真空排気したフラスコ内へセシウムで促進された銀溶液を吸引し,担体を覆った。細孔内への溶液の完全な浸透を早め,約5分後に真空を開放して環境気圧に戻した。その後,余分な含浸溶液を含浸担体から排水した。湿式触媒の焼成は,移動ベルトか焼炉で行った。このユニット内では,湿式触媒はステンレス鋼ベルト上に載せられ多段加熱炉を通って運ばれる。加熱炉の全ての区間は予熱した超高純度の窒素で連続的に浄化されており,触媒が1つの区間から次へと進むにつれ,徐々に温度を上げられる。熱は加熱炉の壁及び予熱した窒素から放出される。この実施例4においては,湿式触媒は周囲温度で加熱炉内に入っている。その後温度を,触媒が加熱区間を通過するにつれ最大限の約450℃まで徐々に上昇させた。最後の(冷却)区間では,この時点で活性化されている温度を,周囲雰囲気にさらされる前に,100℃未満まで直ちに下げた。加熱炉内での総滞留時間は,およそ45分であった。
【0058】
実施例5:触媒E
触媒Dの生成に続き,アルミナ担体Bを用いて触媒Eを生成した。
【0059】
触媒の試験
試験を行うため,加熱された銅ブロックにはめ込まれた固定床ステンレス鋼管型反応器(内径およそ1インチ)内に触媒を充填した。触媒充填物は4gの粉砕触媒(粒径1.0〜1.4mm)とそれに混ぜ合わせた8.6gの不活性物質とからなり,注入ガス流はそれぞれ12375h−1と0.75Nl/分の気体時空間速度に調節された。供給ガス組成は体積%で,エチレンが15%,酸素が7%,二酸化酸素が5%,塩化エチルが1.7ppmv,残りが窒素であった。反応圧力は19.4atmに保たれた。反応器排水は,およそ1時間の間隔で,質量分析法により分析した。実施例1〜3において,比較的一定した酸化エチレン生成を維持するよう温度を調節した。最高の選択性が観察されるまで,触媒をこの条件下においた。結果を,以下の表IIに記載している。実施例4及び5において,比較的一定した酸化エチレン生成を維持するよう温度を調節した。最高の選択性が観察されるまで,触媒をこの条件下においた。結果を,以下の表IIIに記載している。
【表2】

【0060】
(a)マイクロメトリックス社製オートポアIV9500を用いた44.550psiaまでの水銀圧入のデータ(接触角140度,水銀の表面張力0.480N/m)
【0061】
(b)Brunauer,Emmet及びTellerの方法により測定
a.*触媒の全細孔容積のパーセント
【0062】
100%になるまで残りの部分の細孔容積は,第2の形態よりも大きい細孔である。
【表3】

【表4】

【0063】
細孔率は,水銀ポロシメーター法により測定される。Drake and Ritter, ”Ind. Eng. Chem. anal. Ed.,” 17, 787(1945)参照。細孔及び細孔直径分布は,表面積及び外見上の多孔度測定から判断される。BET法,J. Am. Chem. Soc. 60, 3098-16 (1938)参照。
【0064】
本発明を,好適な実施形態を参照して明らかにし,説明してきたが,本発明の精神と範囲とから逸脱することなしに種々の変更及び改良がなされてもよいことは,当業者に容易に理解されるであろう。従って,請求項は,開示された実施形態,検討してきたそれらの代替案及びありとあらゆる均等物をカバーするように解釈されることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ異なる平均細孔径と異なる最も集中した細孔径を有する,少なくとも2つの細孔径分布を有する担体と,触媒効果量の銀,助触媒量のレニウム及び助触媒量の1種以上のアルカリ金属を更に含み,前記少なくとも2つの細孔径分布は細孔径の範囲が約0.01μm〜約50μmであることを特徴とするオレフィンから酸化オレフィンへのエポキシ化用触媒。
【請求項2】
前記細孔径分布のうち少なくとも1つは,細孔径の範囲が約0.01μm〜約5μmであることを特徴とする請求項1記載の触媒。
【請求項3】
前記細孔径分布のうち少なくとも1つは,細孔径の範囲が約5μm〜約30μmであることを特徴とする請求項1記載の触媒。
【請求項4】
前記少なくとも2つの細孔径分布は,細孔径の範囲が約0.01μm〜約5μmであることを特徴とする請求項1記載の触媒。
【請求項5】
前記少なくとも2つの細孔径分布は,細孔径の範囲が約5μm〜約30μmであることを特徴とする請求項1記載の触媒。
【請求項6】
前記細孔径分布のうち少なくとも1つは細孔径の範囲が約0.01μm〜約5μmであり,前記細孔径分布のうち少なくとも1つは細孔径の範囲が約5μm〜約30μmであることを特徴とする請求項1記載の触媒。
【請求項7】
第1の細孔モードは,多くても全細孔容積の50%であり,第2の細孔モードは,少なくとも全細孔容積の50%であることを特徴とする請求項1記載の触媒。
【請求項8】
第1の細孔モードは,多くても全細孔容積の40%であり,第2の細孔モードは,少なくとも全細孔容積の60%であることを特徴とする請求項1記載の触媒。
【請求項9】
前記担体は,アルミナ,炭,軽石,マグネシア,ジルコニア,チタニア,珪藻土,酸性白土,炭化ケイ素,シリカ,二酸化ケイ素,マグネシア,粘土類,人工ゼオライト,天然ゼオライト,セラミック類又はその組み合わせからなることを特徴とする請求項1記載の触媒。
【請求項10】
前記担体がアルミナからなることを特徴とする請求項1記載の触媒。
【請求項11】
前記担体は,表面積が約1m/g未満のアルミナからなることを特徴とする請求項1記載の触媒。
【請求項12】
1種以上のIIA族金属,1種以上の遷移金属,硫黄,フッ化物,リン,ホウ素及びその組み合わせのみからなる群から選択された,助触媒量の1種以上の助触媒を更に含む請求項1記載の触媒。
【請求項13】
前記IIA族金属は,ベリリウム,マグネシウム,カルシウム,ストロンチウム,バリウム及びその組み合わせから選択されることを特徴とする請求項12記載の触媒。
【請求項14】
前記遷移金属は,元素周期表のIVA,VA,VIA,VIIA及びVIIIA族の元素又はその組み合わせから選ばれることを特徴とする請求項12記載の触媒。
【請求項15】
前記遷移金属は,モリブデン,タングステン,クロム,チタン,ハフニウム,ジルコニウム,バナジウム,トリウム,タンタル,ニオブ及びその組み合わせから選択されることを特徴とする請求項12記載の触媒。
【請求項16】
前記遷移金属は,モリブデン,タングステン又はその組み合わせであることを特徴とする請求項12記載の触媒。
【請求項17】
前記担体の表面上に,助触媒量のガリウム,ゲルマニウム,硫黄,リン,ホウ素,ハロゲン又はその組み合わせを更に含む請求項1記載の触媒。
【請求項18】
前記アルカリ金属は,リチウム,ナトリウム,カリウム,ルビジウム,セシウム及びその組み合わせから選ばれることを特徴とする請求項1記載の触媒。
【請求項19】
前記アルカリ金属は,セシウムであることを特徴とする請求項1記載の触媒。
【請求項20】
請求項1記載の触媒の存在下で固定床管型反応器内においてオレフィンを酸素分子で気相酸化する工程を含むオレフィンから酸化オレフィンへの酸化プロセス。
【請求項21】
請求項12記載のプロセスで生成された触媒の存在下で固定床管型反応器内においてオレフィンを酸素分子で気相酸化する工程を含むオレフィンから酸化オレフィンへの酸化プロセス。
【請求項22】
請求項1記載の触媒の存在下で固定床管型反応器内においてエチレンを酸素分子で気相酸化する工程を含むエチレンから酸化エチレンへの酸化プロセス。
【請求項23】
請求項12記載のプロセスで生成された触媒の存在下で固定床管型反応器内においてエチレンを酸素分子で気相酸化する工程を含むエチレンから酸化エチレンへの酸化プロセス。

【図1】
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【公表番号】特表2012−516234(P2012−516234A)
【公表日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−547990(P2011−547990)
【出願日】平成22年1月5日(2010.1.5)
【国際出願番号】PCT/US2010/020070
【国際公開番号】WO2010/088006
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(591105890)サイエンティフィック・デザイン・カンパニー・インコーポレーテッド (9)
【氏名又は名称原語表記】SCIENTIFIC DESIGN COMPANY INCORPORATED
【Fターム(参考)】