説明

二枚貝の冷凍前処理方法及び前処理用電極

【課題】品質を保持したままハマグリ,アサリ,赤貝,カキ等の二枚貝を凍結保存するための冷凍前処理方法及びその前処理に用いる前処理用電極を提供する。
【解決手段】この発明の二枚貝の冷凍前処理方法は、高電圧を印加した電極1,1間に冷凍前のハマグリ,アサリ,赤貝カキ等の二枚貝Sを挟持し冷凍後の加熱調理時の開口率を向上させるものである。印加電圧は直流又は交流又は任意のパルス電圧を利用し、その電圧は|5〜30|kVである。
また上記方法を実施するための電極は、高電圧印加装置に接続され互いに対向し合う一対の平板状の極板2,2を設けている。そして該極板2,2の各対向面に絶縁性部材よりなる絶縁カバー4を取付け、該絶縁カバー4を介して二枚貝Sを挟持し、絶縁カバー4の中央部又は外周側に放電空間6を形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、品質を保持したままハマグリ,アサリ,赤貝,カキ等の二枚貝を凍結保存するための冷凍前処理方法及びその前処理に用いる前処理用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
食材の品質や鮮度を維持するために様々な冷蔵・冷凍技術が開発され、冷凍技術は種々な食材を長期間保存させることから普及してきた。技術的には食材の品質を維持させるためのブロック凍結やIQF(Individual Quick Frozen=個別急速冷凍)といった急速冷凍法の利用率の増加、また凍結時に電圧処理や電場処理といった特殊な処理を取り入れた凍結方法の開発も行われている。さらに、冷凍の前処理として冷凍変性防止剤や食材の水分含量の調整技術が導入され、肉,魚,野菜,加工食品といった食品では高い品質を維持したまま冷凍が可能な冷凍技術が確立しつつある。
【0003】
また二枚貝のうち赤貝やサルボウの身肉と殻を分離するための方法として、蒸煮の前処理として30〜80℃程度の低温湯の中に20〜80秒間浸すものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
さらに高鮮度の凍結生野菜を製造するために、冷凍庫内の閉空間において静磁場および変動磁場の作用下で所定の温度まで生野菜を急速冷却した後、その温度で瞬時に冷凍するものが公知である(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
【特許文献1】特開平9−98713号公報
【特許文献2】特開2004−81133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、貝類,特に二枚貝を冷凍処理したものは、現行の冷凍技術では調理時に殻が開かない状態となる開口不良を起こすことが多く、商品価値がなくなる二枚貝が多いという問題があった。
【0007】
また冷凍二枚貝の製品としては完全にボイルしたものを凍結するものが多いが、ボイルする工程で旨みの殆どが抜けてしまい、また水分を多量に含んだ状態で凍結されるため冷凍変性を起こしやすく、軟体部(身肉)の食感が極端に低下するという問題があった。その他の前処理としては、殻の半分を取り除いた状態(ハーフシェル)や殻の開閉に携わる前・後閉殻筋(貝柱)を個々に切る冷凍方法がとられている。しかし、この方法は全て手作業で行われているのが現状であり、処理能力の低さとコスト高が問題であった。
【0008】
さらに上記特許文献1による方法では、品質を保持したままでの処理方法ではなく、低温湯処理によりタンパク質が変性し、その変性後の二枚貝を凍結処理したとしても上述のように冷凍変性を起こし食感が低下するほか、旨味成分が抜けるという問題があった。
【0009】
その他、上記特許文献2による方法では、生野菜に対しては有効であるものの、二枚貝に適用した場合は、前・後閉殻筋(貝柱)に対して十分な電圧の印加が行われないので、冷凍処理後解凍又は調理した際に開口しないという問題があった。
【0010】
この発明は、これらの課題を解決又は改善し、鮮度を保持したまま二枚貝を凍結保存するための冷凍前処理方法及びその前処理に用いる前処理用電極を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明の二枚貝の冷凍前処理方法は、第1に、高電圧を印加した電極1,1間に冷凍前の二枚貝Sを介在させることにより、冷凍後の加熱調理時の開口率を向上させることを特徴としている。
【0012】
第2に、電極1,1間に二枚貝Sを挟持することを特徴としている。
【0013】
第3に、電極1として各電極1の対向面に絶縁性の部材よりなる絶縁カバー4を貼着したものを用い、二枚貝を挟持することを特徴としている。
【0014】
第4に、電極1,1間において該電極1,1に対して相対的に移動通過する保持手段に二枚貝Sを保持させて二枚貝Sに高電圧を印加することを特徴としている。
【0015】
第5に、印加電圧が交流,直流又はパルス電圧であることを特徴としている。
【0016】
第6に、印加電圧が|5〜30|kVであることを特徴としている。
【0017】
また二枚貝の冷凍前処理用電極は、第1に、高電圧印加装置に接続され互いに対向し合う一対の平板状の極板2,2の各対向面に絶縁性部材よりなる絶縁カバー4を取付け、該絶縁カバー4を介して二枚貝Sを挟持する構造としたことを特徴としている。
【0018】
第2に、各絶縁カバー4の中央部に放電空間6を設けてなることを特徴としている。
【0019】
第3に、絶縁カバー4を極板2の中央位置に設け、絶縁カバー4の外周側に放電空間6を設けてなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
以上のように構成される本発明の二枚貝の冷凍前処理方法によれば、前・後閉殻筋(貝柱)に十分な通電が可能であるので、冷凍処理後、調理をする際の開口率を上げることができる。
【0021】
また上記前処理方法によれば、ボイル等の熱処理に比して身肉に与える影響を少なくし、さらに凍結処理後の冷凍変性を抑え、旨み成分を閉じ込めたままの状態で出荷することができる。
【0022】
さらに上記方法を実施するための電極は、電極と二枚貝との間に絶縁カバーを設けることによって、二枚貝を確実容易に把持(挟持)することができるほか、放電スペースを設けることによって該放電スペース内で気中放電が生じ、殻表面に電位が移り、等価的に二枚貝へ高電圧を印加することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。本発明においては、ハマグリ,アサリ,赤貝等の二枚貝の冷凍前処理として高電圧を印加し、通常の冷凍庫に入れて緩慢冷凍処理を行う。そして冷凍状態を保ったまま問屋や小売店を介して流通し、消費者の手元に届けられ、解凍して又は凍結状態で調理に用いる。
【0024】
図1に示すように、二枚貝Sは通電部3を介して電圧印加装置(図示しない)に接続された2枚のプレート状の極板2,2間に挟持された状態で高電圧が印加される。図1に示す電極1は二枚貝Sの殻外部に水分が少ない場合に使用される基本的な電極であり、この場合は同図(A),(B)に示すように殻幅方向又は殻長方向の両端に電極を配置し高電圧を印加するものとした。極板2はステンレス,真鍮,アルミニウム等の金属素材その他の導電性材料が使用可能であり、耐食性を有するものが望ましい。
【0025】
通電は極板2,2と二枚貝Sの殻外部を十分に接触させ、通電条件は±5〜30kV(高電圧),電流は数mA,通電時間は数分以内とした。
【0026】
次に上記方法による高電圧印加処理を行った場合の効果の判定につき説明すると、発明者等は上記通電処理後の凍結済み二枚貝をボイルし、目視により殻の開口度の判定を行った。
【0027】
図1(A)に示すように一対の電極間にハマグリを配置し、前処理として交流電圧で±10kV,直流電圧で−20kV〜+10kV,通電時間10秒又は30秒の条件で高電圧を印加した。各条件で処理した後、−4℃の冷凍庫に入れ凍結した。なお無処理のハマグリについても同様に冷凍庫に入れ凍結したものを対照とした。印加処理の効果については、凍結したハマグリをボイルし、殻の開口を調べるためにボイルテストを行った。その結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
表1に示すように、無処理の冷凍ハマグリはボイルしても開口しないが、印加処理した冷凍ハマグリの開口率が高く、特に−5kVで30秒間あるいは−10kV,−15kVで10秒間通電した冷凍ハマグリは開口率が最も高く、100%の開口率であり、本発明の高電圧印加による冷凍前処理方法が有効であることが判明した。また上記結果より開口率を高めるには電圧の絶対値を一定量以上とし、これが低い場合は印加時間を長くすることが有効であり、交流電圧の場合も同様である。印加する電圧はパルス電圧でも有効である。
【0030】
開口のメカニズムとしては、二枚貝Sに高電圧を印加することによって前・後閉殻筋(貝柱)に電荷を保持させることができ、電荷を保持したまま冷凍され、その後の加熱調理(ボイル)によって、前・後閉殻筋(貝柱)が切断され、貝殻と貝柱が容易に引き離されるためだと考えられる。なお上記処理に用いる印加電圧は交流,直流のいずれでもよく、任意のパルス電圧の利用も可能である。
【0031】
上述したように電極1の極板2は、二枚貝Sの殻表面が乾燥状態のものに対しては、プレート状の導電性材料のもので足りるが、貝表面に水分が多い場合は貝殻自体が導電性となるため、例えば図2(A),(B)に示すような極板2の対向面にポリエチレン,ポリプロピレン製のスポンジ等からなる弾力性を備えた絶縁性材料を絶縁カバー4として用いることが望ましい。
【0032】
絶縁カバー4は1〜5mm程度の厚みで足り、導電性を有するエポキシ系又はウレタン系等の接着剤を用いることにより電極の効率的な放電機能を維持させる。そしてこのように絶縁性材料を用いる電極では、貝殻表面との間に障壁のない放電のための空間を形成するように電極中央に中空孔状の放電空間6が形成されている。絶縁カバー4が厚いとより高い印加電圧が要求されることになる。
【0033】
上記のように構成される電極によれば、高電圧印加対象となる二枚貝Sの殻の形状やサイズに多少のばらつきがあっても、その弾力により二枚貝Sを電極1,1間に確実に挟持できる。また放電空間6によって二枚貝Sの中心に対し局所的な高電圧の印加ができる。上記絶縁カバー4は必ずしも弾力性を備える必要はなく、例えばアクリルその他の絶縁性材料でも良い。
【0034】
図3は極板2の対向面の両端位置に絶縁カバー4を設けて図2のものに比してより広い放電空間を設けたものや、図4に示すように電極1の中心にのみ絶縁カバー4を設けてその外周に放電空間を形成したものも利用可能である。そして上記のような電極1の放電空間6において安定した気中放電(気体中の放電)が生じ、殻表面へ電位が移り等価的に二枚貝への電圧印加が可能となる。
【0035】
なお上記例ではいずれも二枚貝を直接電極1間に挟持する場合を示したが、大量の二枚貝を処理するさらに実用的な装置としては、電極間に誘電体を兼ねたベルトコンベア等の搬送(保持)手段を設け、この搬送手段に多量の二枚貝を載置して所定時間の高電圧印加を行う等の方法を採用することができる。この場合は印加電圧はより高くする必要があり、その電圧値は電極(極板)間の距離や誘電体の種類(誘電率)によって異なる。またこの場合の電極に対する移動は相対的なもので足りるから、電極側を移動させるものでも良い。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】冷凍前処理用電極による二枚貝の処理方法を示す側面図であり、(A)は殻幅方向に電極を配置したもの、(B)は殻長方向に電極を配置したものである。
【図2】(A)は本発明の2番目の冷凍前処理用電極の例による処理方法を示す側面図であり、(B)は前処理用電極に貼着された絶縁カバーの平面図である。
【図3】本発明の3番目の冷凍前処理用電極の例による処理方法を示す側面図である。
【図4】本発明の4番目の冷凍前処理用電極の例による処理方法を示す側面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 電極
2 極板
3 通電部
4 絶縁カバー
6 放電空間
S 二枚貝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電圧を印加した電極(1),(1)間に冷凍前の二枚貝(S)を介在させることにより、冷凍後の加熱調理時の開口率を向上させる二枚貝の冷凍前処理方法。
【請求項2】
電極(1),(1)間に二枚貝(S)を挟持する請求項1の二枚貝の冷凍前処理方法。
【請求項3】
電極(1)として各電極(1)の対向面に絶縁性の部材よりなる絶縁カバー(4)を貼着したものを用い、二枚貝を挟持する請求項2の二枚貝の冷凍前処理方法。
【請求項4】
電極(1),(1)間において該電極(1),(1)に対して相対的に移動通過する保持手段に二枚貝(S)を保持させて二枚貝(S)に高電圧を印加する請求項1の二枚貝の冷凍前処理方法。
【請求項5】
印加電圧が交流,直流又はパルス電圧である請求項1,2,3又は4の二枚貝の冷凍前処理方法。
【請求項6】
印加電圧が|5〜30|kVである請求項1,2,3,4又は5の二枚貝の冷凍前処理方法。
【請求項7】
高電圧印加装置に接続され互いに対向し合う一対の平板状の極板(2),(2)の各対向面に絶縁性部材よりなる絶縁カバー(4)を取付け、該絶縁カバー(4)を介して二枚貝(S)を挟持する構造とした二枚貝の冷凍前処理用電極。
【請求項8】
各絶縁カバー(4)の中央部に放電空間(6)を設けてなる請求項7の二枚貝の前処理用電極。
【請求項9】
絶縁カバー(4)を極板(2)の中央位置に設け、絶縁カバー(4)の外周側に放電空間(6)を設けてなる請求項7の二枚貝の冷凍前処理用電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−244275(P2007−244275A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−71635(P2006−71635)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【出願人】(597117466)株式会社海洋生物栽培センター (1)
【Fターム(参考)】