二次電池、負極、正極および電解質
【課題】サイクル特性を向上させることが可能な二次電池を提供する。
【解決手段】正極21および負極22と共に電解質を備え、正極21と負極22との間に設けられたセパレータ23に液状の電解質が含浸されている。負極22は、負極集電体22Aに設けられた負極活物質層22B上に被膜22Cを有している。この被膜22Cは、ニトリル基と共にスルホン酸リチウム塩基を有する化合物を含有している。負極22においてリチウムイオンが吸蔵および放出されやすくなると共に、電解液の分解が抑制される。
【解決手段】正極21および負極22と共に電解質を備え、正極21と負極22との間に設けられたセパレータ23に液状の電解質が含浸されている。負極22は、負極集電体22Aに設けられた負極活物質層22B上に被膜22Cを有している。この被膜22Cは、ニトリル基と共にスルホン酸リチウム塩基を有する化合物を含有している。負極22においてリチウムイオンが吸蔵および放出されやすくなると共に、電解液の分解が抑制される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極および負極と共に電解質を備えた二次電池、二次電池などの電気化学デバイスに用いられる負極、正極および電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、携帯電話あるいはノートパソコンなどのポータブル電子機器が広く普及しており、その小型化、軽量化および長寿命化が強く求められている。これに伴い、電源として、電池、特に軽量で高エネルギー密度を得ることが可能な二次電池の開発が進められている。
【0003】
中でも、充放電反応にリチウムイオン(Li+ )の吸蔵および放出を利用する二次電池(いわゆるリチウムイオン二次電池)は、鉛電池やニッケルカドミウム電池よりも高いエネルギー密度が得られるため、広く実用化されている。このリチウムイオン二次電池は、正極および負極と共に電解質を備えており、その負極は、負極集電体上に負極活物質層を有している。
【0004】
負極活物質層に含まれる負極活物質としては、黒鉛などの炭素材料が広く用いられている。また、最近では、ポータブル電子機器の高性能化および多機能化に伴って電池容量のさらなる向上が求められていることから、炭素材料に代えてケイ素やスズなどを用いることが検討されている。ケイ素の理論容量(4199mAh/g)やスズの理論容量(994mAh/g)は黒鉛の理論容量(372mAh/g)よりも格段に大きいため、電池容量の大幅な向上を期待できるからである。
【0005】
ところが、リチウムイオン二次電池では、充放電時にリチウムイオンを吸蔵した負極活物質が高活性になるため、電解質が分解されやすくなったり、リチウムの一部が不活性化しやすくなったりするという問題がある。これにより、十分なサイクル特性や膨れ特性などの電池特性を得ることが困難になる。この問題は、負極活物質として高容量材料を用いた場合に顕著となる。
【0006】
そこで、リチウムイオン二次電池の上記のような諸問題を解決するために、さまざまな検討がなされている。例えば、電解質に各種添加剤を含有させることにより、高温特性、保存特性あるいはサイクル特性などの電池特性を向上させる技術が提案されている。この添加剤としては、フェニルスルホン酸金属塩(例えば、特許文献1参照。)や、有機アルカリ金属ホウ素塩(例えば、特許文献2参照。)や、1,5−ナフタリン−ジスルホン酸ナトリウム(例えば、特許文献3参照)や、2−シアノエチルプロピオネートなどのシアノエチル基を含む化合物(例えば、特許文献4参照。)や、スルホニル基と不飽和結合とを有する化合物(例えば、特許文献5参照。)などが用いられている。また、過充電時の熱暴走を防ぐために電極(特に正極)の表面をアジポニトリルなどの脂肪族ニトリル化合物で被覆する技術(例えば、特許文献6参照。)や、電池容量の低下を防ぐために負極活物質として用いる炭素材料の表面をエタンジオールジリチウムなどのリチウムアルコキシド化合物で被覆する技術(例えば、特許文献7参照。)も提案されている。
【特許文献1】特開2002−056891号公報
【特許文献2】特開2000−268863号公報
【特許文献3】特開2001−357874号公報
【特許文献4】特開2000−243442号公報
【特許文献5】特開2007−273395号公報
【特許文献6】特表2007−519186号公報
【特許文献7】特開平08−138745号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述したように、種々の検討がなされているにもかかわらず、未だ十分なサイクル特性などの電池特性が得られていない。特に、最近では、ポータブル電子機器は益々高性能化および多機能化しており、その消費電力も増大する傾向にあるため、二次電池の充放電が繰り返され、そのサイクル特性が低下しやすい状況にある。これらのことから、二次電池のサイクル特性に関して、より一層の向上が望まれている。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、サイクル特性を向上させることが可能な二次電池、負極、正極および電解質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の二次電池は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な正極活物質を含む正極と、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質を含む負極と、溶媒および電解質塩を含む電解質とを備え、正極、負極および電解質のうちの少なくとも1つは、式(1)で表されるニトリル化合物を含むものである。
【0010】
【化1】
(R1は水素(H)、酸素(O)およびハロゲン元素からなる群より選択される元素と炭素(C)とにより構成された(a1+b1+c1)価の基であり、M1は金属元素である。a1、d1、f1およびe1は1以上の整数であり、b1およびc1は0以上の整数である。ただし、(b1+c1)≧1を満たす。)
【0011】
本発明の負極は、負極集電体に設けられた負極活物質層上に負極被膜を有し、負極活物質層は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質を含み、負極被膜は、式(1)で表されるニトリル化合物を含むものである。
【0012】
本発明の第1の正極は、正極集電体に設けられた正極活物質層上に正極被膜を有し、正極活物質層は、電極反応物質を吸蔵および放出することは可能な正極活物質を含み、正極被膜は、式(1)で表されるニトリル化合物を含むものである。また、本発明の第2の正極は、正極集電体上に、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な正極活物質を含む正極活物質層を有し、正極活物質は、複数の粒子状であり、正極活物質層は、正極活物質の表面を被覆する粒子被覆膜を含み、粒子被覆膜は、式(1)で表されるニトリル化合物を含むものである。
【0013】
本発明の電解質は、溶媒と、電解質塩と、式(1)に示したニトリル化合物とを含むものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の負極、第1の正極、第2の正極あるいは電解質によれば、負極、正極あるいは電解質が式(1)に示したニトリル化合物を含むようにしたので、それらの化学的安定性が向上する。これにより、充放電時に、負極あるいは正極に電極反応物質が吸蔵および放出されやすくなると共に、電解質の分解反応が抑制される。よって、本発明の二次電池によれば、サイクル特性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
本発明の一実施の形態に係る二次電池は、正極および負極と共に電解質を備えている。正極は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な正極活物質を含んでおり、負極は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質を含んでいる。また、電解質は、溶媒と、その溶媒に溶解された電解質塩とを含んでいる。これらの正極、負極および電解質の少なくとも1つは、式(1)で表されるニトリル化合物を含んでいる。この場合には、式(1)に示したニトリル化合物を1種類だけ含んでいてもよいし、2種類以上混合して含んでいてもよい。
【0017】
【化2】
(R1は水素、酸素およびハロゲン元素からなる群より選択される元素と炭素とにより構成された(a1+b1+c1)価の基であり、M1は金属元素である。a1、d1、f1およびe1は1以上の整数であり、b1およびc1は0以上の整数である。ただし、(b1+c1)≧1を満たす。)
【0018】
正極がニトリル化合物を含む場合には、そのニトリル化合物が被膜として正極中に導入される。具体的には、例えば、正極が正極集電体上に正極活物質層を有する場合、ニトリル化合物を含む正極被膜が正極活物質層上に設けられる。
【0019】
負極がニトリル化合物を含む場合には、上記した正極の場合と同様に、そのニトリル化合物が被膜として負極中に導入される。具体的には、例えば、負極が負極集電体上に負極活物質層を有する場合、ニトリル化合物を含む負極被膜が負極活物質層上に設けられる。
【0020】
この他、例えば、ニトリル化合物が粒子被覆膜として正極あるいは負極中に導入されてもよい。具体的には、例えば、正極活物質あるいは負極活物質が複数の粒子状である場合、ニトリル化合物を含む粒子被覆膜が正極活物質あるいは負極活物質の表面を被覆するように設けられてもよい。
【0021】
電解質がニトリル化合物を含む場合には、例えば、ニトリル化合物が添加剤として電解質中に導入される。具体的には、例えば、ニトリル化合物が電解質の溶媒中に溶解あるいは分散される。この場合には、ニトリル化合物の全てが溶解されていてもよいし、その一部だけが溶解していてもよい。
【0022】
正極、負極および電解質のうちの少なくとも1つが式(1)に示したニトリル化合物を含んでいるのは、そのニトリル化合物を含む対象の化学的安定性が向上するからである。詳細には、正極あるいは負極がニトリル化合物を含む場合には、そのニトリル化合物を含む被膜あるいは粒子被覆膜が保護膜として機能するため、正極あるいは負極が化学的に安定化する。これにより、充放電時に、正極あるいは負極において電極反応物質が吸蔵あるいは放出されやすくなると共に、電解質の分解反応が抑制される。一方、電解質がニトリル化合物を含む場合には、そのニトリル化合物が安定化剤として機能するため、電解質が化学的に安定化する。これにより電解質の分解反応が抑制される。
【0023】
正極、負極および電解質のうちの少なくとも1つがニトリル化合物を含んでいることから、そのニトリル化合物を含んでいる対象は、正極、負極および電解質のいずれか1つだけでもよいし、それらのうちの任意の2つの組み合わせでもよいし、それらの全てであってもよい。
【0024】
正極、負極および電解質のうち、ニトリル化合物を含む対象の数は、多いほど好ましい。より高い効果が得られるからである。なお、正極、負極および電解質のいずれか1つだけがニトリル化合物を含む場合には、そのニトリル化合物を含む対象は、電解質、正極および負極の順(電解質<正極<負極)に好ましい。電解質よりも電極(正極,負極)において高い効果が得られると共に、電極の中では正極よりも負極において高い効果が得られるからである。また、正極、負極および電解質のうちのいずれか2つがニトリル化合物を含む場合には、そのニトリル化合物を含む対象は、正極および負極であることが好ましい。電解質よりも電極において高い効果が得られるからである。
【0025】
式(1)に示したニトリル化合物は、1あるいは2以上のニトリル基(−C≡N)と共に、1あるいは2以上のスルホン酸イオン基(−SO3-)あるいはカルボン酸イオン基(−COO- )を有し金属塩を構成している。なお、式(1)中のa1、d1、f1およびe1は同一であってもよいし、異なっていてもよい。このことは、式(1)中のb1およびc1についても同様である。また、式(1)中のd1およびf1は、スルホン酸イオン基およびカルボン酸イオン基の数(b1,c1)や、金属元素(M1)の価数などによって決定される。
【0026】
式(1)中のR1は、水素、酸素およびハロゲン元素からなる群より選択される元素と炭素とにより構成されていれば、その全体構造は任意である。例えば、炭素を含むと共に、直鎖状骨格を有していてもよいし、分岐した鎖状骨格を有していてもよいし、環状骨格を有していてもよい。また、これらの骨格の構成元素として酸素を含んでいてもよいし、不飽和二重結合や三重結合(−C≡C−)を有していてもよい。もちろん、それらの骨格が混在していてもよい。このような骨格を構成する炭素の数は、1以上10以下であるのが好ましい。炭素数が10より多くなると、二次電池の内部抵抗を上昇させるおそれがあるからである。また、R1の骨格を構成する炭素には、ハロゲン元素が導入されていてもよい。その場合、ハロゲン元素の種類は、特に限定されないが、中でも、フッ素(F)、塩素(Cl)あるいは臭素(Br)が好ましく、特に、フッ素が好ましい。ヨウ素(I)よりも、高い効果が得られ、特にフッ素において高い効果が得られるからである。
【0027】
このようなR1としては、例えば、アルキレン基あるいはアルケニレン基などの鎖状炭化水素基や、エーテル結合(−O−)を有する鎖状有機基や、シクロヘキサン環、ベンゼン環あるいはナフタレン環などの環状構造を含む環状炭化水素基や、それらの基が有する水素の一部あるいは全部をハロゲン化した基などが挙げられる。中でも、直鎖状の炭化水素基、エーテル結合(−O−)を有する直鎖状有機基、またはベンゼン環あるいはナフタレン環を有する基が好ましい。その他の構造のR1を有するニトリル化合物よりも、容易に合成可能であると共に、高い効果が得られるからである。特に、骨格を構成する炭素は、隣り合う元素と単結合しているのが好ましく、直鎖状の飽和炭化水素基が好ましい。
【0028】
式(1)中のニトリル基は、R1に1以上導入されていれば、その数(a1)は任意である。また、式(1)中のスルホン酸イオン基およびカルボン酸イオン基は、R1に導入されていると共に、スルホン酸イオン基およびカルボン酸イオン基の数が合計(b1+c1)で1以上であれば任意である。例えば、R1にスルホン酸イオン基およびカルボン酸イオン基のいずれかが単独で1あるいは2以上導入されていてもよいし、スルホン酸イオン基およびカルボン酸イオン基が併せてR1に導入されていてもよい。この場合、スルホン酸イオン基が単独でR1に導入されているのが好ましい。容易に合成可能であると共に、高い効果が得られるからである。
【0029】
式(1)中のM1は、スルホン酸イオン基あるいはカルボン酸イオン基とイオン結合する金属元素であれば任意である。このため、ニトリル化合物がスルホン酸イオン基およびカルボン酸イオン基を複数有する場合には、M1は、1種であってもよいし、複数種であってもよい。M1としては、例えば、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)あるいはカリウム(K)などのアルカリ金属元素や、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)あるいはカルシウム(Ca)などのアルカリ土類金属元素や、遷移元素である長周期型周期表における3族元素〜11族元素や、亜鉛(Zn)などの長周期型周期表における12族元素や、アルミニウム(Al)あるいはガリウム(Ga)などの長周期型周期表における13族元素などが挙げられる。中でも、M1としては、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素のうちの少なくとも1種が好ましい。高い効果が得られるからである。特に、式(1)中のM1は、電極反応物質と同様の金属元素であるのが好ましい。具体的には、電極反応物質がリチウムイオンである場合には、M1はリチウムであることが好ましい。より高い効果が得られるからである。
【0030】
なお、本発明における「アルカリ土類金属」とは、ベリリウムおよびマグネシウムを含み、すなわち長周期型周期表における2族元素のことである。この長周期型周期表とは、IUPAC(国際純正・応用化学連合)が提唱する無機化学命名法改訂版により表されるものである。具体的には、2族元素とは、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよびラジウムである。また、3族元素〜13族元素についても長周期型周期表において示された元素である。これらのことは以降においても同様である。
【0031】
式(1)に示したニトリル化合物としては、例えば、式(1−1)〜式(1−68)で表される一連の化合物が挙げられる。すなわち、式(1−1)〜式(1−30)に示した化合物は、ニトリル基とスルホン酸イオン基とを有するリチウム塩である。より具体的には、式(1−1)〜式(1−9)に示した化合物は、R1として、鎖状炭化水素基であるアルキレン基(式(1−1)〜式(1−7))、鎖状炭化水素基のハロゲン化された基(式(1−8))あるいはエーテル結合を有する鎖状有機基(式(1−9))を有する化合物の一例であり、式(1−10)に示した化合物は、R1としてシクロヘキサン環を含む基を有する化合物の一例であり、式(1−11)〜式(1−22)に示した化合物は、R1としてベンゼン環を含む基を有する化合物の一例であり、式(1−23)〜式(1−30)に示した化合物は、R1としてナフタレン環を含む基を有する化合物の一例である。
【0032】
また、式(1−31)〜式(1−60)に示した化合物は、ニトリル基とカルボン酸イオン基とを有するリチウム塩である。より具体的には、式(1−31)〜式(1−39)に示した化合物は、R1として、鎖状炭化水素基であるアルキレン基(式(1−31)〜式(1−37))、鎖状炭化水素基のハロゲン化された基(式(1−38))あるいはエーテル結合を有する鎖状有機基(式(1−39))を有する化合物の一例であり、式(1−40)に示した化合物は、R1としてシクロヘキサン環を含む基を有する化合物の一例であり、式(1−41)〜式(1−52)に示した化合物は、R1としてベンゼン環を含む基を有する化合物の一例であり、式(1−53)〜式(1−60)に示した化合物は、R1としてナフタレン環を含む基を有する化合物の一例である。
【0033】
また、式(1−61)〜式(1−68)に示した化合物は、ニトリル基とスルホン酸イオン基およびカルボン酸イオン基とを有するリチウム塩、ニトリル基とスルホン酸イオン基あるいはカルボン酸イオン基とを有するナトリウム塩、マグネシウム塩またはアルミニウム塩である。
【0034】
【化3】
【0035】
【化4】
【0036】
【化5】
【0037】
【化6】
【0038】
【化7】
【0039】
【化8】
【0040】
【化9】
【0041】
式(1)に示したニトリル化合物としては、中でも、式(1−1)あるいは式(1−2)に示した化合物が好ましい。容易に合成可能であると共に、高い効果が得られるからである。なお、式(1)に示したニトリル化合物の具体例は、式(1)に示した構造を有していれば、式(1−1)〜式(1−68)に示した構造を有するものに限定されるものではない。
【0042】
この二次電池は、ニトリル化合物を含むように正極、負極および電解質のうちの少なくとも1つを形成あるいは調整することにより製造される。
【0043】
具体的には、正極あるいは負極がニトリル化合物を含む場合には、そのニトリル化合物を含む溶液を用いる。すなわち、正極がニトリル化合物を含む場合には、例えば、ニトリル化合物を含む溶液中に正極活物質層を浸漬させたり、あるいはニトリル化合物を含む溶液を正極活物質層の表面に塗布することにより、そのニトリル化合物を含む正極被膜を形成する。また、負極がニトリル化合物を含む場合には、例えば、上記した正極の場合と同様の手順により、ニトリル化合物を含む溶液中に負極活物質層を浸漬させたり、あるいはニトリル化合物を含む溶液を負極活物質層の表面に塗布することにより、そのニトリル化合物を含む負極被膜を形成する。これらの場合には、ニトリル化合物がカルボン酸イオン基あるいはスルホン酸イオン基を含んで金属塩を構成しており、いわゆる水溶性を有することから、そのニトリル化合物を分散あるいは溶解させる溶媒としては、水などを用いることができる。このため、分散あるいは溶解させる溶媒のコストが安くて済むと共に、排気用の施設などが不要である。
【0044】
電解質がニトリル化合物を含む場合には、例えば、溶媒中にニトリル化合物を溶解あるいは分散させたのち、その溶媒中に電解質塩を溶解させる。
【0045】
この二次電池およびその製造方法によれば、正極、負極および電解質のうちの少なくとも1つが式(1)に示したニトリル化合物を含むようにしたので、それを含まない場合や、式(1)に示したニトリル化合物に該当しない他の化合物(例えば、メタンスルホン酸リチウムやアセトニトリル)を含む場合と比較して、式(1)に示したニトリル化合物を含む正極、負極および電解質のうちの少なくとも1つの化学的安定性が向上する。このため、充放電をした際に、正極および負極と電解質とが反応しにくくなり、電解質の分解反応が抑制される。よって、サイクル特性を向上させることができる。
【0046】
この場合には、式(1)に示したニトリル化合物を含む溶液を用いて、そのニトリル化合物を含むように正極および負極のうちの少なくとも一方を形成すれば、減圧環境などの特殊な環境条件を要する方法を用いる場合と比較して、式(1)に示したニトリル化合物を含む正極および負極を形成することができる。
【0047】
特に、式(1)に示したニトリル化合物が式(1−1)あるいは式(1−2)に示した化合物であれば、より電解質の分解反応が抑制されるため、サイクル特性をより向上させることができる。
【0048】
次に、本実施の形態に係る二次電池について、具体例を挙げて詳細を説明する。
【0049】
ここで説明する二次電池は、例えば、負極の容量が電極反応物質であるリチウムイオンの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池である。
【0050】
(第1の二次電池)
図1および図2は第1の二次電池の断面構成を表しており、図2では図1に示した巻回電極体20の一部を拡大して示している。この第1の二次電池では、例えば、正極21、負極22および電解質のうち、負極22がニトリル化合物を含んでいる。
【0051】
この二次電池は、主に、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、セパレータ23を介して正極21と負極22とが積層および巻回された巻回電極体20と、一対の絶縁板12,13とが収納されたものである。この円柱状の電池缶11を用いた電池構造は、円筒型と呼ばれている。
【0052】
電池缶11は、例えば、一端部が閉鎖されると共に他端部が開放された中空構造を有しており、鉄、アルミニウムあるいはそれらの合金などの金属材料により構成されている。なお、電池缶11が鉄により構成される場合には、例えば、ニッケルなどの鍍金が施されてもよい。一対の絶縁板12,13は、巻回電極体20を上下から挟み、その巻回周面に対して垂直に延在するように配置されている。
【0053】
電池缶11の開放端部には、電池蓋14と、その内側に設けられた安全弁機構15および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient:PTC素子)16とが、ガスケット17を介してかしめられることにより取り付けられている。これにより、電池缶11の内部は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の金属材料により構成されている。安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されている。この安全弁機構15では、内部短絡、あるいは外部からの加熱などに起因して内圧が一定以上となった場合に、ディスク板15Aが反転して電池蓋14と巻回電極体20との間の電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子16は、温度の上昇に応じて抵抗が増大することにより、電流を制限して大電流に起因する異常な発熱を防止するものである。ガスケット17は、例えば、絶縁材料により構成されており、その表面にはアスファルトが塗布されている。
【0054】
巻回電極体20の巻回中心には、例えば、センターピン24が挿入されている。この巻回電極体20では、アルミニウムなどの金属材料により構成された正極リード25が正極21に接続されていると共に、ニッケルなどの金属材料により構成された負極リード26が負極22に接続されている。正極リード25は、安全弁機構15に溶接などされて電池蓋14と電気的に接続されており、負極リード26は、電池缶11に溶接などされて電気的に接続されている。
【0055】
正極21は、例えば、一対の面を有する正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bが設けられたものである。ただし、正極活物質層21Bは、正極集電体21Aの片面だけに設けられていてもよい。
【0056】
正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム、ニッケルあるいはステンレス(SUS)などの金属材料により構成されている。
【0057】
正極活物質層21Bは、正極活物質として、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な正極材料のいずれか1種あるいは2種以上を含んでおり、必要に応じて正極結着剤あるは正極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0058】
リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、リチウム含有化合物が好ましい。高いエネルギー密度が得られるからである。このリチウム含有化合物としては、例えば、リチウムと遷移金属元素とを構成元素として有する複合酸化物や、リチウムと遷移金属元素とを構成元素として有するリン酸化合物などが挙げられる。中でも、遷移金属元素としてコバルト、ニッケル、マンガンおよび鉄のうちの少なくとも1種を有するものが好ましい。より高い電圧が得られるからである。その化学式は、例えば、Lix M1O2 あるいはLiy M2PO4 で表される。式中、M1およびM2は、1種類以上の遷移金属元素を表す。xおよびyの値は、充放電状態により異なり、通常、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10である。
【0059】
リチウムと遷移金属元素とを有する複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(Lix CoO2 )、リチウムニッケル複合酸化物(Lix NiO2 )、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(Lix Ni1-z Coz O2 (z<1))、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(Lix Ni(1-v-w) Cov Mnw O2 (v+w<1))、あるいはスピネル型構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2 O4 )などが挙げられる。中でも、コバルトを有する複合酸化物が好ましい。高い電池容量が得られると共に、優れたサイクル特性も得られるからである。また、リチウムコバルト複合酸化物としては、コバルトの一部をアルミニウムおよびマグネシウム(Mg)に置き換えた複合酸化物(LiCo(1-j-k) Alj Mgk O2 (0<j<0.1、0<k<0.1))などが挙げられる。さらに、リチウムと遷移金属元素とを有するリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO4 )あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe1-u Mnu PO4 (u<1))などが挙げられる。
【0060】
この他、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムあるいは二酸化マンガンなどの酸化物や、二硫化チタンあるいは硫化モリブデンなどの二硫化物や、セレン化ニオブなどのカルコゲン化物や、硫黄、ポリアニリンあるいはポリチオフェンなどの導電性高分子も挙げられる。
【0061】
もちろん、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な正極材料は、上記以外のものであってもよい。また、一連の正極材料は、任意の組み合わせで2種類以上混合されてもよい。
【0062】
正極導電剤としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックあるいはケチェンブラックなどの炭素材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種類が混合されてもよい。なお、正極導電剤は、導電性を有する材料であれば、金属材料あるいは導電性高分子などであってもよい。
【0063】
正極結着剤としては、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムあるいはエチレンプロピレンジエンなどの合成ゴムや、ポリフッ化ビニリデンなどの高分子材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
【0064】
負極22は、例えば、一対の面を有する負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bよび負極被膜22Cがこの順に設けられたものである。ただし、負極活物質層22Bは、負極集電体22Aの片面だけに設けられていてもよい。このことは、負極被膜22Cについても同様である。
【0065】
負極集電体22Aは、例えば、銅、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料により構成されている。この負極集電体22Aの表面は、粗面化されているのが好ましい。いわゆるアンカー効果により負極集電体22Aと負極活物質層22Bとの間の密着性が向上するからである。この場合には、少なくとも負極活物質層22Bと対向する領域において、負極集電体22Aの表面が粗面化されていればよい。粗面化の方法としては、例えば、電解処理により微粒子を形成する方法などが挙げられる。この電解処理とは、電解槽中において電解法により負極集電体22Aの表面に微粒子を形成して凹凸を設ける方法である。このような電解処理により粗面化された銅箔を含め、電解処理が施された銅箔は、一般に「電解銅箔」と呼ばれている。
【0066】
負極活物質層22Bは、負極活物質として、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極材料のいずれか1種あるいは2種以上を含んでおり、必要に応じて、負極結着剤や負極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。なお、負極結着剤および負極導電剤に関する詳細は、例えば、正極21について説明した正極結着剤および正極導電剤の場合と同様である。
【0067】
リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能であると共に金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として有する材料が挙げられる。高いエネルギー密度が得られるからである。このような負極材料は、金属元素あるいは半金属元素の単体でも合金でも化合物でもよく、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有するようなものでもよい。
【0068】
なお、本発明における「合金」には、2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含むものも含まれる。また、「合金」は、非金属元素を含んでいてもよい。この組織には、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物、あるいはそれらのうちの2種以上が共存するものがある。
【0069】
上記した金属元素あるいは半金属元素としては、例えば、リチウムと合金を形成することが可能な金属元素あるいは半金属元素が挙げられる。具体的には、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、パラジウム(Pd)あるいは白金(Pt)などである。中でも、ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種が好ましく、ケイ素がより好ましい。リチウムイオンを吸蔵および放出する能力が大きいため、高いエネルギー密度が得られるからである。
【0070】
ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種を有する負極材料としては、例えば、ケイ素の単体、合金あるいは化合物や、スズの単体、合金あるいは化合物や、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有する材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
【0071】
ケイ素の単体を有する負極材料としては、例えば、ケイ素の単体を主体として有する材料が挙げられる。この負極材料を含む負極活物質層22Bは、例えば、ケイ素単体層の間にケイ素以外の第2の構成元素と酸素とが存在する構造を有している。この負極活物質層22Bにおけるケイ素および酸素の合計の含有量は、50質量%以上であるのが好ましく、特にケイ素単体の含有量が50質量%以上であるのが好ましい。ケイ素以外の第2の構成元素としては、例えば、チタン(Ti)、クロム、マンガン(Mn)、鉄、コバルト(Co)、ニッケル、銅、亜鉛、インジウム、銀、マグネシウム、アルミニウム、ゲルマニウム、スズ、ビスマスあるいはアンチモン(Sb)などが挙げられる。ケイ素の単体を主体として有する材料を含む負極活物質層22Bは、例えば、ケイ素と他の構成元素とを共蒸着することにより形成可能である。
【0072】
ケイ素の合金としては、例えば、ケイ素以外の第2の構成元素として、スズ、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンおよびクロムからなる群のうちの少なくとも1種を有するものが挙げられる。ケイ素の化合物としては、例えば、酸素あるいは炭素(C)を有するものが挙げられ、ケイ素に加えて、上記した第2の構成元素を有していてもよい。ケイ素の合金あるいは化合物の一例としては、SiB4 、SiB6 、Mg2 Si、Ni2 Si、TiSi2 、MoSi2 、CoSi2 、NiSi2 、CaSi2 、CrSi2 、Cu5 Si、FeSi2 、MnSi2 、NbSi2 、TaSi2 、VSi2 、WSi2 、ZnSi2 、SiC、Si3 N4 、Si2 N2 O、SiOv (0<v≦2)あるいはLiSiOなどが挙げられる。
【0073】
スズの合金としては、例えば、スズ以外の第2の構成元素として、ケイ素、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンおよびクロムからなる群のうちの少なくとも1種を有するものが挙げられる。スズの化合物としては、例えば、酸素あるいは炭素を有するものが挙げられ、スズに加えて、上記した第2の構成元素を有していてもよい。スズの合金あるいは化合物の一例としては、SnOw (0<w≦2)、SnSiO3 、LiSnOあるいはMg2 Snなどが挙げられる。
【0074】
特に、ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種を有する負極材料としては、例えば、スズを第1の構成元素とし、それに加えて第2および第3の構成元素を有するものが好ましい。第2の構成元素は、コバルト、鉄、マグネシウム、チタン、バナジウム(V)、クロム、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ジルコニウム、ニオブ(Nb)、モリブデン、銀、インジウム、セリウム(Ce)、ハフニウム、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ビスマスおよびケイ素からなる群のうちの少なくとも1種である。第3の構成元素は、ホウ素、炭素、アルミニウムおよびリン(P)からなる群のうちの少なくとも1種である。第2および第3の構成元素を有することにより、サイクル特性が向上するからである。
【0075】
中でも、スズ、コバルトおよび炭素を構成元素として有し、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下、スズおよびコバルトの合計に対するコバルトの割合(Co/(Sn+Co))が30質量%以上70質量%以下であるSnCoC含有材料が好ましい。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。
【0076】
このSnCoC含有材料は、必要に応じて、さらに他の構成元素を有していてもよい。他の構成元素としては、例えば、ケイ素、鉄、ニッケル、クロム、インジウム、ニオブ、ゲルマニウム、チタン、モリブデン、アルミニウム、リン、ガリウムあるいはビスマスなどが好ましく、それらの2種以上を有していてもよい。より高い効果が得られるからである。
【0077】
なお、SnCoC含有材料は、スズ、コバルトおよび炭素を含む相を有しており、その相は、低結晶性あるいは非晶質な相であるのが好ましい。この相は、リチウムイオンと反応可能な反応相であり、これによって優れたサイクル特性が得られるようになっている。この相のX線回折により得られる回折ピークの半値幅は、特定X線としてCuKα線を用い、挿引速度を1°/minとした場合に、回折角2θで1.0°以上であることが好ましい。リチウムイオンがより円滑に吸蔵および放出されると共に、電解質との反応性が低減されるからである。
【0078】
X線回折により得られた回折ピークがリチウムイオンと反応可能な反応相に対応するものであるか否かは、リチウムイオンとの電気化学的反応の前後におけるX線回折チャートを比較することにより容易に判断することができる。例えば、リチウムイオンとの電気化学的反応の前後において回折ピークの位置が変化すれば、リチウムイオンと反応可能な反応相に対応するものである。この場合には、例えば、低結晶性あるいは非晶質な反応相の回折ピークが2θ=20°〜50°の間に見られる。この低結晶性あるいは非晶質な反応相は、例えば、上記した各構成元素を含んでおり、主に、炭素により低結晶化あるいは非晶質化しているものと考えられる。
【0079】
なお、SnCoC含有材料は、低結晶性あるいは非晶質な相に加えて、各構成元素の単体または一部を含む相を有している場合もある。
【0080】
特に、SnCoC含有材料では、構成元素である炭素の少なくとも一部が、他の構成元素である金属元素あるいは半金属元素と結合しているのが好ましい。スズなどの凝集あるいは結晶化が抑制されるからである。
【0081】
元素の結合状態を調べる測定方法としては、例えばX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)が挙げられる。このXPSは、軟X線(市販の装置ではAl−Kα線か、Mg−Kα線を用いる)を試料表面に照射し、試料表面から飛び出してくる光電子の運動エネルギーを測定することにより、試料表面から数nmの領域の元素組成、および元素の結合状態を調べる方法である。
【0082】
元素の内殻軌道電子の束縛エネルギーは、第1近似的には、元素上の電荷密度と相関して変化する。例えば、炭素元素の電荷密度が近傍に存在する元素との相互作用により減少した場合には、2p電子などの外殻電子が減少しているので、炭素元素の1s電子は殻から強い束縛力を受けることになる。すなわち、元素の電荷密度が減少すると、束縛エネルギーは高くなる。XPSでは、束縛エネルギーが高くなると、高いエネルギー領域にピークはシフトするようになっている。
【0083】
XPSにおいて、炭素の1s軌道(C1s)のピークは、グラファイトであれば、金原子の4f軌道(Au4f)のピークが84.0eVに得られるようにエネルギー較正された装置において、284.5eVに現れる。また、表面汚染炭素であれば、284.8eVに現れる。これに対して、炭素元素の電荷密度が高くなる場合、例えば炭素よりも陽性な元素と結合している場合には、C1sのピークは、284.5eVよりも低い領域に現れる。すなわち、SnCoC含有材料に含まれる炭素の少なくとも一部が他の構成元素である金属元素または半金属元素などと結合している場合には、SnCoC含有材料について得られるC1sの合成波のピークが284.5eVよりも低い領域に現れる。
【0084】
なお、XPS測定を行う場合には、表面が表面汚染炭素で覆われている際に、XPS装置に付属のアルゴンイオン銃で表面を軽くスパッタするのが好ましい。また、測定対象のSnCoC含有材料が負極22中に存在する場合には、二次電池を解体して負極22を取り出したのち、炭酸ジメチルなどの揮発性溶媒で洗浄するとよい。負極22の表面に存在する揮発性の低い溶媒と電解質塩とを除去するためである。これらのサンプリングは、不活性雰囲気下で行うのが望ましい。
【0085】
また、XPS測定では、スペクトルのエネルギー軸の補正に、例えばC1sのピークを用いる。通常、物質表面には表面汚染炭素が存在しているので、表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとし、それをエネルギー基準とする。なお、XPS測定では、C1sのピークの波形は、表面汚染炭素のピークとSnCoC含有材料中の炭素のピークとを含んだ形として得られるので、例えば市販のソフトウエアを用いて解析することにより、表面汚染炭素のピークと、SnCoC含有材料中の炭素のピークとを分離する。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
【0086】
このSnCoC含有材料は、例えば、各構成元素の原料を混合した混合物を電気炉、高周波誘導炉あるいはアーク溶解炉などで溶解させたのち、凝固させることにより形成可能である。また、ガスアトマイズあるいは水アトマイズなどの各種アトマイズ法や、各種ロール法や、メカニカルアロイング法あるいはメカニカルミリング法などのメカノケミカル反応を利用した方法などを用いてもよい。中でも、メカノケミカル反応を利用した方法が好ましい。SnCoC含有材料が低結晶性あるいは非晶質な構造になるからである。メカノケミカル反応を利用した方法では、例えば、遊星ボールミル装置やアトライタなどの製造装置を用いることができる。
【0087】
原料には、各構成元素の単体を混合して用いてもよいが、炭素以外の構成元素の一部については合金を用いるのが好ましい。このような合金に炭素を加えてメカニカルアロイング法を利用した方法によって合成することにより、低結晶性あるいは非晶質な構造が得られ、反応時間も短縮されるからである。なお、原料の形態は、粉体であってもよいし、塊状であってもよい。
【0088】
このSnCoC含有材料の他、スズ、コバルト、鉄および炭素を構成元素として有するSnCoFeC含有材料も好ましい。このSnCoFeC含有材料の組成は、任意に設定可能である。例えば、鉄の含有量を少なめに設定する場合の組成としては、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下、鉄の含有量が0.3質量%以上5.9質量%以下、スズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合(Co/(Sn+Co))が30質量%以上70質量%以下であるのが好ましい。また、例えば、鉄の含有量を多めに設定する場合の組成としては、炭素の含有量が11.9質量%以上29.7質量%以下、スズとコバルトと鉄との合計に対するコバルトと鉄との合計の割合((Co+Fe)/(Sn+Co+Fe))が26.4質量%以上48.5質量%以下、コバルトと鉄との合計に対するコバルトの割合(Co/(Co+Fe))が9.9質量%以上79.5質量%以下であるのが好ましい。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。このSnCoFeC含有材料の結晶性、元素の結合状態の測定方法、および形成方法などについては、上記したSnCoC含有材料と同様である。
【0089】
リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極材料として、ケイ素の単体、合金あるいは化合物や、スズの単体、合金あるいは化合物や、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有する材料を用いた負極活物質層22Bは、例えば、気相法、液相法、溶射法、塗布法あるいは焼成法、またはそれらの2種以上の方法を用いて形成される。この場合には、負極集電体22Aと負極活物質層22Bとが界面の少なくとも一部において合金化しているのが好ましい。詳細には、両者の界面において、負極集電体22Aの構成元素が負極活物質層22Bに拡散していてもよいし、負極活物質層22Bの構成元素が負極集電体22Aに拡散していてもよいし、それらの構成元素が互いに拡散し合っていてもよい。充放電時における負極活物質層22Bの膨張および収縮に起因する破壊が抑制されると共に、負極集電体22Aと負極活物質層22Bとの間の電子伝導性が向上するからである。
【0090】
なお、気相法としては、例えば、物理堆積法あるいは化学堆積法、具体的には真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、熱化学気相成長(Chemical Vapor Deposition :CVD)法あるいはプラズマ化学気相成長法などが挙げられる。液相法としては、電解鍍金あるいは無電解鍍金などの公知の手法を用いることができる。塗布法とは、例えば、粒子状の負極活物質を結着剤などと混合したのち、溶剤に分散させて塗布する方法である。焼成法とは、例えば、塗布法により塗布したのち、結着剤などの融点よりも高い温度で熱処理する方法である。焼成法に関しても公知の手法が利用可能であり、例えば、雰囲気焼成法、反応焼成法あるいはホットプレス焼成法が挙げられる。
【0091】
上記した他、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、炭素材料が挙げられる。この炭素材料とは、例えば、易黒鉛化性炭素や、(002)面の面間隔が0.37nm以上の難黒鉛化性炭素や、(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛などである。より具体的には、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、活性炭あるいはカーボンブラック類などがある。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスあるいは石油コークスなどが含まれる。有機高分子化合物焼成体とは、フェノール樹脂やフラン樹脂などを適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。炭素材料は、リチウムイオンの吸蔵および放出に伴う結晶構造の変化が非常に少ないため、高いエネルギー密度が得られると共に優れたサイクル特性が得られ、さらに導電剤としても機能するので好ましい。なお、炭素材料の形状は、繊維状、球状、粒状あるいは鱗片状のいずれでもよい。
【0092】
また、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な金属酸化物あるいは高分子化合物なども挙げられる。金属酸化物とは、例えば、酸化鉄、酸化ルテニウムあるいは酸化モリブデンなどであり、高分子化合物とは、例えば、ポリアセチレン、ポリアニリンあるいはポリピロールなどである。
【0093】
もちろん、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極材料は、上記以外のものであってもよい。また、上記した一連の負極材料は、任意の組み合わせで2種以上混合されもよい。
【0094】
上記した負極材料からなる負極活物質は、複数の粒子状をなしている。すなわち、負極活物質層22Bは、複数の負極活物質粒子を有しており、その負極活物質粒子は、例えば、上記した気相法などにより形成されている。ただし、負極活物質粒子は、気相法以外の方法により形成されていてもよい。
【0095】
負極活物質粒子が気相法などの堆積法により形成される場合には、その負極活物質粒子が単一の堆積工程を経て形成された単層構造を有していてもよいし、複数回の堆積工程を経て形成された多層構造を有していてもよい。ただし、堆積時に高熱を伴う蒸着法などにより負極活物質粒子を形成する場合には、その負極活物質粒子が多層構造を有しているのが好ましい。負極材料の堆積工程を複数回に分割して行う(負極材料を順次薄く形成して堆積させる)ことにより、その堆積工程を1回で行う場合と比較して負極集電体22Aが高熱に晒される時間が短くなり、熱的ダメージを受けにくくなるからである。
【0096】
この負極活物質粒子は、例えば、負極集電体22Aの表面から負極活物質層22Bの厚さ方向に成長しており、その根元において負極集電体22Aに連結されている。この場合には、負極活物質粒子が気相法により形成されており、上記したように、負極集電体22Aとの界面の少なくとも一部において合金化しているのが好ましい。詳細には、両者の界面において、負極集電体22Aの構成元素が負極活物質粒子に拡散していてもよいし、負極活物質粒子の構成元素が負極集電体22Aに拡散していてもよいし、両者の構成元素が互いに拡散しあっていてもよい。
【0097】
特に、負極活物質層22Bは、必要に応じて、負極活物質粒子の表面(電解質と接する領域)を被覆する酸化物含有膜を有しているのが好ましい。酸化物含有膜が電解質に対する保護膜として機能し、充放電を繰り返しても電解質の分解反応が抑制されるため、サイクル特性が向上するからである。この酸化物含有膜は、負極活物質粒子の表面のうちの一部を被覆していてもよいし、全部を被覆していてもよい。
【0098】
この酸化物含有膜は、例えば、ケイ素、ゲルマニウムおよびスズからなる群のうちの少なくとも1種の酸化物を含有しており、中でも、ケイ素の酸化物を含有しているのが好ましい。負極活物質粒子の表面を全体に渡って容易に被覆しやすいと共に、優れた保護作用が得られるからである。もちろん、酸化物含有膜は、上記以外の他の酸化物を含有していてもよい。この酸化物含有膜は、例えば、気相法あるいは液相法により形成されており、中でも液相析出法、ゾルゲル法、塗布法あるいはディップコーティング法などの液相法が好ましく、液相析出法がより好ましい。負極活物質粒子の表面を広い範囲に渡って容易に被覆しやすいからである。
【0099】
また、負極活物質層22Bは、必要に応じて、負極活物質粒子の粒子間の隙間や粒子内の隙間に、リチウムと合金化しない金属材料を有しているのが好ましい。金属材料を介して複数の負極活物質粒子が結着されると共に、上記した隙間に金属材料が存在することで負極活物質層22Bの膨張および収縮が抑制されるため、サイクル特性が向上するからである。
【0100】
この金属材料は、例えば、リチウムと合金化しない金属元素を構成元素として有している。このような金属元素としては、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛および銅からなる群のうちの少なくとも1種が挙げられ、中でも、コバルトが好ましい。上記した隙間に金属材料が容易に入り込みやすいと共に、優れた結着作用が得られるからである。もちろん、金属材料は、上記以外の他の金属元素を有していてもよい。ただし、ここで言う「金属材料」とは、単体に限らず、合金や金属化合物まで含む広い概念である。この金属材料は、例えば、気相法あるいは液相法により形成されており、中でも電解鍍金法あるいは無電解鍍金法などの液相法が好ましく、電解鍍金法がより好ましい。上記した隙間に金属材料が入り込みやすくなると共に、その形成時間が短くて済むからである。
【0101】
なお、負極活物質層22Bは、上記した酸化物含有膜あるいは金属材料のいずれか一方だけを有していてもよいし、双方を有していてもよい。ただし、サイクル特性をより向上させるためには、双方を含んでいるのが好ましい。
【0102】
ここで、図3〜図6を参照して、負極22の詳細な構成について説明する。
【0103】
まず、負極活物質層22Bが複数の負極活物質粒子と共に酸化物含有膜を有する場合について説明する。図3は本発明の負極22の断面構造を模式的に表しており、図4は参考例の負極の断面構造を模式的に表している。図3および図4では、負極活物質粒子が単層構造を有している場合を示している。
【0104】
本発明の負極では、図3に示したように、例えば、蒸着法などの気相法により負極集電体22A上に負極材料が堆積されると、その負極集電体22A上に複数の負極活物質粒子221が形成される。この場合には、負極集電体22Aの表面が粗面化され、その表面に複数の突起部(例えば、電解処理により形成された微粒子)が存在すると、負極活物質粒子221が上記した突起部ごとに厚さ方向に成長するため、複数の負極活物質粒子221が負極集電体22A上において配列されると共に根元において負極集電体22Aの表面に連結される。こののち、例えば、液相析出法などの液相法により負極活物質粒子221の表面に酸化物含有膜222が形成されると、その酸化物含有膜222は負極活物質粒子221の表面をほぼ全体に渡って被覆し、特に、負極活物質粒子221の頭頂部から根元に至る広い範囲を被覆する。この酸化物含有膜222による広範囲な被覆状態は、その酸化物含有膜222が液相法により形成された場合に得られる特徴である。すなわち、液相法により酸化物含有膜222を形成すると、その被覆作用が負極活物質粒子221の頭頂部だけでなく根元まで広く及ぶため、その根元まで酸化物含有膜222により被覆される。
【0105】
これに対して、参考例の負極では、図4に示したように、例えば、気相法により複数の負極活物質粒子221が形成されたのち、同様に気相法により酸化物含有膜223が形成されると、その酸化物含有膜223は負極活物質粒子221の頭頂部だけを被覆する。この酸化物含有膜223による狭範囲な被覆状態は、その酸化物含有膜223が気相法により形成された場合に得られる特徴である。すなわち、気相法により酸化物含有膜223を形成すると、その被覆作用が負極活物質粒子221の頭頂部に及ぶものの根元まで及ばないため、その根元までは酸化物含有膜223により被覆されない。
【0106】
なお、図3では、気相法により負極活物質層22Bが形成される場合について説明したが、焼結法などにより負極活物質層22Bが形成される場合においても同様に、複数の負極活物質粒子の表面をほぼ全体に渡って被覆するように酸化物含有膜が形成される。
【0107】
次に、負極活物質層22Bが複数の負極活物質粒子と共にリチウムと合金化しない金属材料を有する場合について説明する。図5は負極22の断面構造を拡大して表しており、(A)は走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope:SEM)写真(二次電子像)、(B)は(A)に示したSEM像の模式絵である。図5では、複数の負極活物質粒子221が粒子内に多層構造を有している場合を示している。
【0108】
負極活物質粒子221が多層構造を有する場合には、その複数の負極活物質粒子221の配列構造、多層構造および表面構造に起因して、負極活物質層22B中に複数の隙間224が生じている。この隙間224は、主に、発生原因に応じて分類された2種類の隙間224A,224Bを含んでいる。隙間224Aは、隣り合う負極活物質粒子221間に生じるものであり、隙間224Bは、負極活物質粒子221内の各階層間に生じるものである。
【0109】
なお、負極活物質粒子221の露出面(最表面)には、空隙225が生じる場合がある。この空隙225は、負極活物質粒子221の表面にひげ状の微細な突起部(図示せず)が生じることに伴い、その突起部間に生じるものである。この空隙225は、負極活物質粒子221の露出面において、全体に渡って生じる場合もあれば、一部だけに生じる場合もある。ただし、上記したひげ状の突起部は、負極活物質粒子221の形成時ごとにその表面に生じるため、空隙225は、負極活物質粒子221の露出面だけでなく、各階層間にも生じる場合がある。
【0110】
図6は負極22の他の断面構造を表しており、図5に対応している。負極活物質層22Bは、隙間224A,224Bに、リチウムと合金化しない金属材料226を有している。この場合には、隙間224A,224Bのうちのいずれか一方だけに金属材料226を有していてもよいが、双方に金属材料226を有しているのが好ましい。より高い効果が得られるからである。
【0111】
この金属材料226は、隣り合う負極活物質粒子221間の隙間224Aに入り込んでいる。詳細には、気相法などにより負極活物質粒子221が形成される場合には、上記したように、負極集電体22Aの表面に存在する突起部ごとに負極活物質粒子221が成長するため、隣り合う負極活物質粒子221間に隙間224Aが生じる。この隙間224Aは、負極活物質層22Bの結着性を低下させる原因となるため、その結着性を高めるために、上記した隙間224Aに金属材料226が充填されている。この場合には、隙間224Aの一部でも充填されていればよいが、その充填量が多いほど好ましい。負極活物質層22Bの結着性がより向上するからである。金属材料226の充填量は、20%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましい。
【0112】
また、金属材料226は、負極活物質粒子221内の隙間224Bに入り込んでいる。詳細には、負極活物質粒子221が多層構造を有する場合には、各階層間に隙間224Bが生じる。この隙間224Bは、上記した隙間224Aと同様に、負極活物質層22Bの結着性を低下させる原因となるため、その結着性を高めるために、上記した隙間224Bに金属材料226が充填されている。この場合には、隙間224Bの一部でも充填されていればよいが、その充填量が多いほど好ましい。負極活物質層22Bの結着性がより向上するからである。
【0113】
なお、負極活物質層22Bは、最上層の負極活物質粒子221の露出面に生じるひげ状の微細な突起部(図示せず)が二次電池の性能に悪影響を及ぼすことを抑えるために、空隙225に金属材料226を有していてもよい。詳細には、気相法などにより負極活物質粒子221が形成される場合には、その表面にひげ状の微細な突起部が生じるため、その突起部間に空隙225が生じる。この空隙225は、負極活物質粒子221の表面積の増加を招き、その表面に形成される不可逆性の被膜の量も増加させるため、電極反応(充放電反応)の進行度を低下させる原因となる可能性がある。したがって、電極反応の進行度の低下を抑えるために、上記した空隙225に金属材料226が埋め込まれている。この場合には、空隙225の一部でも埋め込まれていればよいが、その埋め込む量が多いほど好ましい。電極反応の進行度の低下がより抑えられるからである。図6において、最上層の負極活物質粒子221の表面に金属材料226が点在していることは、その点在箇所に上記した微細な突起部が存在していることを表している。もちろん、金属材料226は、必ずしも負極活物質粒子221の表面に点在していなければならないわけではなく、その表面全体を被覆していてもよい。
【0114】
特に、隙間224Bに入り込んだ金属材料226は、各階層における空隙225を埋め込む機能も果たしている。詳細には、負極材料が複数回に渡って堆積される場合には、その堆積時ごとに負極活物質粒子221の表面に上記した微細な突起部が生じる。このことから、金属材料226は、各階層における隙間224Bに充填されているだけでなく、各階層における空隙225も埋め込んでいる。
【0115】
なお、図5および図6では、負極活物質粒子221が多層構造を有しており、負極活物質層22B中に隙間224A,224Bの双方が存在している場合について説明したため、負極活物質層22Bが隙間224A,224Bに金属材料226を有している。これに対して、負極活物質粒子221が単層構造を有しており、負極活物質層22B中に隙間224Aだけが存在する場合には、負極活物質層22Bが隙間224Aだけに金属材料226を有することとなる。もちろん、空隙225は両者の場合において生じるため、いずれの場合においても空隙225に金属材料226を有することとなる。
【0116】
負極被膜22Cは、負極集電体22A上に負極活物質層22Bが形成されたのち、その負極活物質層22B上に形成されたものであり、上記した式(1)に示したニトリル化合物のいずれか1種あるいは2種以上を含んでいる。この負極被膜22Cが負極活物質層22B上に設けられているのは、負極22の化学的安定性が向上し、それに伴って負極22に隣接する電解質(電解液)の化学的安定性も向上するからである。これにより、充放電時に、負極22においてリチウムイオンが効率よく吸蔵および放出されると共に、電解質の分解反応が抑制されるため、サイクル特性が向上する。
【0117】
この負極被膜22Cは、負極活物質層22Bの全面を覆うように設けられていてもよいし、その表面の一部を覆うように設けられていてもよい。この場合には、負極被膜22Cの一部が負極活物質層22Bの内部に入り込んでいてもよい。
【0118】
特に、負極被膜22Cは、上記した式(1)に示したニトリル化合物と共に、アルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩(式(1)に示したニトリル化合物に該当するものを除く)のいずれか1種あるいは2種以上を含んでいるのが好ましい。被膜抵抗が抑えられるため、サイクル特性がより向上するからである。
【0119】
このようなアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩としては、例えば、アルカリ金属元素あるいはアルカリ土類金属元素の炭酸塩、ハロゲン化物塩、ホウ酸塩、リン酸塩、スルホン酸塩、カルボン酸塩あるいはオキソカーボン酸塩などが挙げられる。具体的には、例えば、炭酸リチウム(Li2 CO3 )、フッ化リチウム(LiF)、四ホウ酸リチウム(Li2 B4 O7 )、メタホウ酸リチウム(LiBO2 )、ピロリン酸リチウム(Li4 P2 O7 )、トリポリリン酸リチウム(Li5 P3 O10)、オルトケイ酸リチウム(Li4 SiO4 )、メタケイ酸リチウム(Li2 SiO3 )、エタンジスルホン酸二リチウム、プロパンジスルホン酸二リチウム、スルホ酢酸二リチウム、スルホプロピオン酸二リチウム、スルホブタン酸二リチウム、スルホ安息香酸二リチウム、コハク酸二リチウム、スルホコハク酸三リチウム、スクエア酸二リチウム、エタンジスルホン酸マグネシウム、プロパンジスルホン酸マグネシウム、スルホ酢酸マグネシウム、スルホプロピオン酸マグネシウム、スルホブタン酸マグネシウム、スルホ安息香酸マグネシウム、コハク酸マグネシウム、二スルホコハク酸三マグネシウム、エタンジスルホン酸カルシウム、プロパンジスルホン酸カルシウム、スルホ酢酸カルシウム、スルホプロピオン酸カルシウム、スルホブタン酸カルシウム、スルホ安息香酸カルシウム、コハク酸カルシウム、あるいは二スルホコハク酸三カルシウムなどである。
【0120】
負極被膜22Cを形成する方法としては、例えば、塗布法、浸漬法あるいはディップコーティング法などの液相法や、蒸着法、スパッタ法あるいはCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)法などの気相法が挙げられる。これらの方法については、単独で用いてもよいし、2種以上の方法を併用してもよい。中でも、液相法として、式(1)に示したニトリル化合物を含む溶液を用いて負極被膜22Cを形成するのが好ましい。具体的には、例えば、浸漬法では、式(1)に示したニトリル化合物を含有する溶液中に、負極活物質層22Bが形成された負極集電体22Aを浸漬し、あるいは塗布法では、式(1)に示したニトリル化合物を含有する溶液を負極活物質層22Bの表面に塗布する。高い化学的安定性を有する良好な被膜22Bが容易に形成されるからである。式(1)に示したニトリル化合物を溶解させる溶媒としては、例えば、水などの極性の高い溶媒が挙げられる。
【0121】
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離し、両極の接触に起因する電流の短絡を防止しながらリチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ23は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどの合成樹脂からなる多孔質膜や、セラミックからなる多孔質膜などにより構成されており、これらの2種以上の多孔質膜が積層されたものであってもよい。
【0122】
このセパレータ23には、液状の電解質である電解液が含浸されている。この電解液は、溶媒と、それに溶解された電解質塩とを含んでいる。
【0123】
溶媒は、例えば、有機溶剤などの非水溶媒の1種あるいは2種以上を含んでいる。以下で説明する一連の溶媒は、任意に組み合わされてもよい。
【0124】
非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチル、トリメチル酢酸エチル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、燐酸トリメチル、あるいはジメチルスルホキシドなどが挙げられる。中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種が好ましい。この場合には、炭酸エチレンあるいは炭酸プロピレンなどの高粘度(高誘電率)溶媒(例えば比誘電率ε≧30)と炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルあるいは炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒(例えば粘度≦1mPa・s)との組み合わせがより好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するからである。
【0125】
この溶媒は、式(2)〜式(4)で表される不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルを含有しているのが好ましい。サイクル特性が向上するからである。これらは単独でも良いし、複数種が混合されてもよい。
【0126】
【化10】
(R11およびR12は水素基あるいはアルキル基である。)
【0127】
【化11】
(R13〜R16は水素基、アルキル基、ビニル基あるいはアリル基であり、それらのうちの少なくとも1つはビニル基あるいはアリル基である。)
【0128】
【化12】
(R17はアルキレン基である。)
【0129】
式(2)に示した不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸ビニレン系化合物である。この炭酸ビニレン系化合物としては、例えば、炭酸ビニレン(1,3−ジオキソール−2−オン)、炭酸メチルビニレン(4−メチル−1,3−ジオキソール−2−オン)、炭酸エチルビニレン(4−エチル−1,3−ジオキソール−2−オン)、4,5−ジメチル−1,3−ジオキソール−2−オン、4,5−ジエチル−1,3−ジオキソール−2−オン、4−フルオロ−1,3−ジオキソール−2−オン、あるいは4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソール−2−オンなどが挙げられ、中でも炭酸ビニレンが好ましい。容易に入手可能であると共に、高いサイクル特性が得られるからである。
【0130】
式(3)に示した不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸ビニルエチレン系化合物である。炭酸ビニルエチレン系化合物としては、例えば、炭酸ビニルエチレン(4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン)、4−メチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−エチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−n−プロピル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、5−メチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは4,5−ジビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられ、中でも炭酸ビニルエチレンが好ましい。容易に入手可能であると共に、高いサイクル特性が得られるからである。もちろん、R13〜R16としては、全てがビニル基でもよいし、全てがアリル基でもよいし、ビニル基とアリル基とが混在していてもよい。
【0131】
式(4)に示した不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸メチレンエチレン系化合物である。炭酸メチレンエチレン系化合物としては、4−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジメチル−5−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは4,4−ジエチル−5−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられる。この炭酸メチレンエチレン系化合物としては、1つのメチレン基を有するもの(式(4)に示した化合物)の他、2つのメチレン基を有するものであってもよい。
【0132】
なお、不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルとしては、式(2)〜式(4)に示したものの他、ベンゼン環を有する炭酸カテコール(カテコールカーボネート)などであってもよい。
【0133】
また、溶媒は、式(5)で表されるハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステルおよび式(6)で表されるハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種を含有しているのが好ましい。負極22の表面に安定な保護膜が形成されて電解液の分解反応が抑制されるため、サイクル特性が向上するからである。
【0134】
【化13】
(R21〜R26は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
【0135】
【化14】
(R27〜R30は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
【0136】
なお、式(5)中のR21〜R26は、同一でもよいし、異なってもよい。このことは、式(6)中のR27〜30についても同様である。ハロゲンの種類は、特に限定されないが、例えば、フッ素、塩素および臭素からなる群のうちの少なくとも1種が挙げられ、中でも、フッ素が好ましい。高い効果が得られるからである。もちろん、他のハロゲンであってもよい。
【0137】
ハロゲンの数は、1つよりも2つが好ましく、さらに3つ以上であってもよい。保護膜を形成する能力が高くなり、より強固で安定な保護膜が形成されるため、電解液の分解反応がより抑制されるからである。
【0138】
式(5)に示したハロゲンを有する鎖状炭酸エステルとしては、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ビス(フルオロメチル)あるいは炭酸ジフルオロメチルメチルなどが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
【0139】
式(6)に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルとしては、例えば、式(6−1)〜式(6−21)で表される一連の化合物が挙げられる。すなわち、式(6−1)の4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−2)の4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−3)の4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−4)のテトラフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−5)の4−クロロ−5−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−6)の4,5−ジクロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−7)のテトラクロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−8)の4,5−ビストリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−9)の4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−10)の4,5−ジフルオロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−11)の4,4−ジフルオロ−5−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−12)の4−エチル−5,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−13)の4−フルオロ−5−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−14)の4−メチル−5−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−15)の4−フルオロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−16)の5−(1,1−ジフルオロエチル)−4,4−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−17)の4,5−ジクロロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−18)の4−エチル−5−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−19)の4−エチル−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−20)の4−エチル−4,5,5−トリフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−21)の4−フルオロ−4−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オンなどである。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
【0140】
【化15】
【0141】
【化16】
【0142】
中でも、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンあるいは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンが好ましく、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンがより好ましい。特に、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンとしては、シス異性体よりもトランス異性体が好ましい。容易に入手可能であると共に、高い効果が得られるからである。
【0143】
また、溶媒は、スルトン(環状スルホン酸エステル)や酸無水物を含有しているのが好ましい。電解液の化学的安定性がより向上するからである。
【0144】
スルトンとしては、例えば、プロパンスルトンあるいはプロペンスルトンなどが挙げられ、中でも、プロペンスルトンが好ましい。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。溶媒中におけるスルトンの含有量は、例えば、0.5重量%以上5重量%以下である。
【0145】
酸無水物としては、例えば、無水コハク酸、無水グルタル酸あるいは無水マレイン酸などのカルボン酸無水物や、無水エタンジスルホン酸あるいは無水プロパンジスルホン酸などのジスルホン酸無水物や、無水スルホ安息香酸、無水スルホプロピオン酸あるいは無水スルホ酪酸などのカルボン酸とスルホン酸との無水物などが挙げられ、中でも、無水コハク酸あるいは無水スルホ安息香酸が好ましい。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。溶媒中における酸無水物の含有量は、例えば、0.5重量%以上5重量%以下である。
【0146】
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種類あるいは2種類以上を含有している。以下で説明する一連の電解質塩は、任意に組み合わせてもよい。
【0147】
リチウム塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム、六フッ化ヒ酸リチウム、テトラフェニルホウ酸リチウム(LiB(C6 H5 )4 )、メタンスルホン酸リチウム(LiCH3 SO3 )、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3 SO3 )、テトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl4 )、六フッ化ケイ酸二リチウム(Li2 SiF6 )、塩化リチウム(LiCl)、あるいは臭化リチウム(LiBr)などが挙げられる。
【0148】
中でも、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムおよび六フッ化ヒ酸リチウムからなる群のうちの少なくとも1種が好ましく、六フッ化リン酸リチウムがより好ましい。内部抵抗が低下するため、より高い効果が得られるからである。
【0149】
この電解質塩は、式(7)〜式(9)で表される化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有しているのが好ましい。上記した六フッ化リン酸リチウム等と一緒に用いられた場合に、より高い効果が得られるからである。なお、式(7)中のR33は、同一でもよいし、異なってもよい。このことは、式(8)中のR41〜R43および式(9)中のR51およびR52についても同様である。
【0150】
【化17】
(X31は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素、またはアルミニウム(Al)である。M31は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。R31はハロゲン基である。Y31は−(O=)C−R32−C(=O)−、−(O=)C−C(R33)2 −あるいは−(O=)C−C(=O)−である。ただし、R32はアルキレン基、ハロゲン化アルキレン基、アリーレン基あるいはハロゲン化アリーレン基である。R33はアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基あるいはハロゲン化アリール基である。なお、a3は1〜4の整数であり、b3は0、2あるいは4であり、c3、d3、m3およびn3は1〜3の整数である。)
【0151】
【化18】
(X41は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素である。M41は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。Y41は−(O=)C−(C(R41)2 )b4−C(=O)−、−(R43)2 C−(C(R42)2 )c4−C(=O)−、−(R43)2 C−(C(R42)2 )c4−C(R43)2 −、−(R43)2 C−(C(R42)2 )c4−S(=O)2 −、−(O=)2 S−(C(R42)2 )d4−S(=O)2 −あるいは−(O=)C−(C(R42)2 )d4−S(=O)2 −である。ただし、R41およびR43は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それぞれのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R42は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a4、e4およびn4は1あるいは2であり、b4およびd4は1〜4の整数であり、c4は0〜4の整数であり、f4およびm4は1〜3の整数である。)
【0152】
【化19】
(X51は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素である。M51は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。Rfはフッ素化アルキル基あるいはフッ素化アリール基であり、いずれの炭素数も1〜10である。Y51は−(O=)C−(C(R51)2 )d5−C(=O)−、−(R52)2 C−(C(R51)2 )d5−C(=O)−、−(R52)2 C−(C(R51)2 )d5−C(R52)2 −、−(R52)2 C−(C(R51)2 )d5−S(=O)2 −、−(O=)2 S−(C(R51)2 )e5−S(=O)2 −あるいは−(O=)C−(C(R51)2 )e5−S(=O)2 −である。ただし、R51は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R52は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、そのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a5、f5およびn5は1あるいは2であり、b5、c5およびe5は1〜4の整数であり、d5は0〜4の整数であり、g5およびm5は1〜3の整数である。)
【0153】
なお、長周期型周期表における、1族元素とは、水素、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびフランシウムである。13族元素とは、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウムおよびタリウムである。14族元素とは、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、スズおよび鉛である。15族元素とは、窒素、リン、ヒ素、アンチモンおよびビスマスである。
【0154】
式(7)に示した化合物としては、例えば、式(7−1)〜式(7−6)で表される化合物などが挙げられる。式(8)に示した化合物としては、例えば、式(8−1)〜式(8−8)で表される化合物などが挙げられる。式(9)に示した化合物としては、例えば、式(9−1)で表される化合物などが挙げられる。なお、式(7)〜式(9)に示した構造を有する化合物であれば、式(7−1)〜式(7−6)、式(8−1)〜式(8−8)、および式(9−1)に示した化合物に限定されないことは言うまでもない。
【0155】
【化20】
【0156】
【化21】
【0157】
【化22】
【0158】
また、電解質塩は、式(10)〜式(12)で表される化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有していてもよい。上記した六フッ化リン酸リチウム等と一緒に用いられた場合に、より高い効果が得られるからである。なお、式(10)中のmおよびnは、同一でもよいし、異なってもよい。このことは、式(12)中のp、qおよびrについても同様である。
【0159】
【化23】
(mおよびnは1以上の整数である。)
【0160】
【化24】
(R61は炭素数が2以上4以下の直鎖状あるいは分岐状のパーフルオロアルキレン基である。)
【0161】
【化25】
(p、qおよびrは1以上の整数である。)
【0162】
式(10)に示した鎖状の化合物としては、例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )2 )、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(C2 F5 SO2 )2 )、(トリフルオロメタンスルホニル)(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C2 F5 SO2 ))、(トリフルオロメタンスルホニル)(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C3 F7 SO2 ))、あるいは(トリフルオロメタンスルホニル)(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C4 F9 SO2 ))などが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
【0163】
式(11)に示した環状の化合物としては、例えば、式(11−1)〜式(11−4)で表される一連の化合物が挙げられる。すなわち、式(11−1)の1,2−パーフルオロエタンジスルホニルイミドリチウム、式(11−2)の1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミドリチウム、式(11−3)の1,3−パーフルオロブタンジスルホニルイミドリチウム、式(11−4)の1,4−パーフルオロブタンジスルホニルイミドリチウムなどである。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。中でも、1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミドリチウムが好ましい。高い効果が得られるからである。
【0164】
【化26】
【0165】
式(12)に示した鎖状の化合物としては、例えば、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド(LiC(CF3 SO2 )3 )などが挙げられる。
【0166】
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.3mol/kg以上3.0mol/kg以下であるのが好ましい。この範囲外では、イオン伝導性が極端に低下する可能性があるからである。
【0167】
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極21からリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された電解液を介して負極22に吸蔵される。一方、放電を行うと、例えば、負極22からリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された電解液を介して正極21に吸蔵される。
【0168】
この円筒型の二次電池は、例えば、以下の手順により製造される。
【0169】
まず、正極21を作製する。最初に、正極活物質と、正極結着剤と、正極導電剤とを混合して正極合剤としたのち、有機溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとする。続いて、ドクタブレードあるいはバーコータなどにより正極集電体21Aの両面に正極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させる。最後に、必要に応じて加熱しながらロールプレス機などにより塗膜を圧縮成型して正極活物質層21Bを形成する。この場合には、圧縮成型を複数回に渡って繰り返してもよい。
【0170】
次に、負極22を作製する。最初に、粗面化された電解銅箔などからなる負極集電体22Aを準備したのち、蒸着法などの気相法により負極集電体22Aの両面に負極材料を堆積させて、複数の負極活物質粒子を形成する。続いて、必要に応じて、液相析出法などの液相法により酸化物含有膜を形成し、あるいは電解鍍金法などの液相法により金属材料を形成して、負極活物質層22Bを形成する。続いて、上記した式(1)に示したニトリル化合物を含む溶液として、例えば、1重量%以上5重量%以下の濃度の水溶液を調製する。最後に、負極活物質層22Bが形成された負極集電体22Aを溶液中に数秒間浸漬してから引き上げ、室温で乾燥して負極被膜22Cを形成する。この負極被膜22Cを形成する場合には、上記した溶液を負極活物質層22Bの表面に塗布してから乾燥させるようにしてもよい。
【0171】
二次電池の組み立ては、以下のようにして行う。最初に、正極集電体21Aに正極リード25を溶接などして取り付けると共に、負極集電体22Aに負極リード26を溶接などして取り付ける。続いて、セパレータ23を介して正極21と負極22とを積層および巻回させて巻回電極体20を作製したのち、その巻回中心にセンターピン24を挿入する。続いて、一対の絶縁板12,13で挟みながら巻回電極体20を電池缶11の内部に収納すると共に、正極リード25の先端部を安全弁機構15に溶接し、負極リード26の先端部を電池缶11に溶接する。続いて、上記した電解液を電池缶11の内部に注入して、セパレータ23に含浸させる。最後に、電池缶11の開口端部に電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子16をガスケット17を介してかしめることにより、固定する。これにより、図1および図2に示した二次電池が完成する。
【0172】
この第1の二次電池およびその製造方法によれば、負極活物質層22B上に、式(1)に示したニトリル化合物を含む負極被膜22Cが設けられているので、その負極22の化学的安定性が向上する。これにより、充放電時に、負極22においてリチウムイオンが吸蔵および放出されやすくなると共に、電解質の分解反応が抑制されるため、サイクル特性を向上させることができる。
【0173】
この場合には、上記した式(1)に示したニトリル化合物を含む溶液を用いて負極被膜22Cを形成しており、具体的には浸漬処理あるいは塗布処理などの簡単な処理を用いているので、減圧環境などの特殊な環境条件を要する方法を用いる場合と比較して、良好な負極被膜22Cを安定かつ簡単に形成することができる。
【0174】
特に、負極22が高容量化に有利なケイ素等(リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能であると共に金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を有する材料)を含む場合にサイクル特性が向上するため、炭素材料などの他の負極材料を含む場合よりも高い効果を得ることができる。
【0175】
また、電解質の溶媒が、式(2)〜式(4)に示した不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種や、式(5)に示したハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステルおよび式(6)に示したハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種や、スルトンや、酸無水物を含んでいれば、より高い効果を得ることができる。
【0176】
また、電解質の電解質塩が、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムおよび六フッ化ヒ酸リチウムからなる群のうちの少なくとも1種や、式(7)〜式(9)に示した化合物からなる群のうちの少なくとも1種や、式(10)〜式(12)に示した化合物からなる群のうちの少なくも1種を含んでいれば、より高い効果を得ることができる。
【0177】
なお、上記では、二次電池の電池構造が円筒型である場合について説明したが、これに限定されるわけではなく、電池構造は円筒型以外であってもよい。
【0178】
図7は他の第1の二次電池の分解斜視構成を表しており、図8は図7に示した巻回電極体30のVIII−VIII線に沿った断面を拡大して表し、図9は図8に示した巻回電極体30の一部を拡大して表している。
【0179】
この二次電池は、例えば、上記した第1の二次電池と同様にリチウムイオン二次電池であり、主に、フィルム状の外装部材40の内部に、正極リード31および負極リード32が取り付けられた巻回電極体30が収納されたものである。このフィルム状の外装部材40を用いた電池構造は、ラミネートフィルム型と呼ばれている。
【0180】
正極リード31および負極リード32は、例えば、外装部材40の内部から外部に向かって同一方向に導出されている。正極リード31は、例えば、アルミニウムなどの金属材料により構成されており、負極リード32は、例えば、銅、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料により構成されている。これらの金属材料は、例えば、薄板状あるいは網目状になっている。
【0181】
外装部材40は、例えば、ナイロンフィルム、アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムがこの順に貼り合わされたアルミラミネートフィルムにより構成されている。この外装部材40は、例えば、ポリエチレンフィルムが巻回電極体30と対向するように、2枚の矩形型のアルミラミネートフィルムの外縁部同士が融着あるいは接着剤により互いに接着された構造を有している。
【0182】
外装部材40と正極リード31および負極リード32との間には、外気の侵入を防止するために密着フィルム41が挿入されている。この密着フィルム41は、正極リード31および負極リード32に対して密着性を有する材料により構成されている。このような材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂が挙げられる。
【0183】
なお、外装部材40は、上記したアルミラミネートフィルムに代えて、他の積層構造を有するラミネートフィルムにより構成されていてもよいし、ポリプロピレンなどの高分子フィルムあるいは金属フィルムにより構成されていてもよい。
【0184】
巻回電極体30は、セパレータ35および電解質層36を介して正極33と負極34とが積層されたのちに巻回されたものであり、その最外周部は保護テープ37により保護されている。
【0185】
正極33は、例えば、一対の面を有する正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bが設けられたものである。負極34は、例えば、一対の面を有する負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bおよび被膜34Cが設けられたものである。正極集電体33A、正極活物質層33B、負極集電体34A、負極活物質層34B、負極被膜34Cおよびセパレータ35の構成は、それぞれ上記した第1の二次電池における正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22A、負極活物質層22B、負極被膜22Cおよびセパレータ23の構成と同様である。
【0186】
電解質層36は、電解液と、それを保持する高分子化合物とを含んでおり、いわゆるゲル状の電解質である。ゲル状の電解質は、高いイオン伝導率(例えば、室温で1mS/cm以上)が得られると共に漏液が防止されるので好ましい。
【0187】
高分子化合物としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンとポリヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレン、あるいはポリカーボネートなどが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。中でも、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレンあるいはポリエチレンオキサイドが好ましい。電気化学的な安定性が高いからである。
【0188】
電解液の組成は、上記した第1の二次電池における電解液の組成と同様である。ただし、この場合の溶媒とは、液状の溶媒だけでなく、電解質塩を解離させることが可能なイオン伝導性を有するものまで含む広い概念である。したがって、イオン伝導性を有する高分子化合物を用いる場合には、その高分子化合物も溶媒に含まれる。
【0189】
なお、電解液を高分子化合物に保持させたゲル状の電解質層36に代えて、電解液をそのまま用いてもよい。この場合には、電解液がセパレータ35に含浸される。
【0190】
ゲル状の電解質層36を備えた二次電池は、例えば、以下の3種類の方法により製造される。
【0191】
第1の製造方法では、最初に、例えば、上記した第1の二次電池における正極21および負極22と同様の手順により、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bを形成して正極33を作製すると共に、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bおよび負極被膜34Cをこの順に形成して負極34を作製する。続いて、電解液と、高分子化合物と、溶剤とを含む前駆溶液を調製し、正極33および負極34に塗布したのち、溶剤を揮発させることにより、ゲル状の電解質層36を形成する。続いて、正極集電体33Aに正極リード31を溶接などして取り付けると共に、負極集電体34Aに負極リード32を溶接などして取り付ける。続いて、電解質層36が形成された正極33と負極34とをセパレータ35を介して積層させてから長手方向に巻回し、その最外周部に保護テープ37を接着させることにより、巻回電極体30を作製する。最後に、例えば、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回電極体30を挟み込んだのち、その外装部材40の外縁部同士を熱融着などで接着させることにより、巻回電極体30を封入する。この際、正極リード31および負極リード32と外装部材40との間に、密着フィルム41を挿入する。これにより、図7〜図9に示したラミネートフィルム型の二次電池が完成する。
【0192】
第2の製造方法では、最初に、正極33に正極リード31を取り付けると共に負極34に負極リード32を取り付けたのち、セパレータ35を介して正極33と負極34とを積層および巻回させると共に、その最外周部に保護テープ37を接着させることにより、巻回電極体30の前駆体である巻回体を作製する。続いて、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部を熱融着などで接着させることにより、袋状の外装部材40の内部に巻回体を収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を調製し、袋状の外装部材40の内部に注入したのち、外装部材40の開口部を熱融着などで密封する。最後に、モノマーを熱重合させて高分子化合物とすることにより、ゲル状の電解質層36を形成する。これにより、二次電池が完成する。
【0193】
第3の製造方法では、最初に、高分子化合物が両面に塗布されたセパレータ35を用いることを除き、上記した第2の製造方法と同様に、巻回体を形成して袋状の外装部材40の内部に収納する。このセパレータ35に塗布する高分子化合物としては、例えば、フッ化ビニリデンを成分とする重合体、すなわち単独重合体、共重合体あるいは多元共重合体などが挙げられる。具体的には、ポリフッ化ビニリデンや、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンを成分とする二元系共重合体や、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびクロロトリフルオロエチレンを成分とする三元系共重合体などである。なお、高分子化合物は、上記したフッ化ビニリデンを成分とする重合体と共に、他の1種あるいは2種以上の高分子化合物を含んでいてもよい。続いて、電解液を調製して外装部材40の内部に注入したのち、その外装部材40の開口部を熱融着などで密封する。最後に、外装部材40に加重をかけながら加熱し、高分子化合物を介してセパレータ35を正極33および負極34に密着させる。これにより、電解液が高分子化合物に含浸し、その高分子化合物がゲル化することにより電解質層36が形成されるため、二次電池が完成する。
【0194】
この第3の製造方法では、第1の製造方法と比較して、二次電池の膨れが抑制される。また、第3の製造方法では、第2の製造方法と比較して、高分子化合物の原料であるモノマーや重合開始剤などが電解質層36中にほとんど残らず、しかも高分子化合物の形成工程が良好に制御されるため、正極33、負極34およびセパレータ35と電解質層36との間において十分な密着性が得られる。
【0195】
他の第1の二次電池およびその製造方法によれば、負極活物質層34B上に、式(1)に示したニトリル化合物を含む負極被膜34Cが設けられているので、上記した第1の二次電池と同様の作用により、サイクル特性を向上させることができる。この二次電池およびその製造方法に関する他の効果は、上記した第1の二次電池およびその製造方法について説明した場合と同様である。
【0196】
図10はさらに他の第1の二次電池の断面構成を表している。この二次電池は、例えば、上記した第1の二次電池と同様にリチウムイオン二次電池であり、正極51を外装缶54に貼り付けると共に、負極52を外装カップ55に収容し、それらを電解液が含浸されたセパレータ53を介して積層したのちにガスケット56を介してかしめたものである。これらの外装缶54および外装カップ55を用いた電池構造は、コイン型と呼ばれている。
【0197】
正極51は、正極集電体51Aの一面に正極活物質層51Bが設けられたものである。負極52は、負極集電体52Aの一面に負極活物質層52Bおよび負極被膜52Cが設けられたものである。正極集電体51A,正極活物質層51B、負極集電体52A、負極活物質層52B、負極被膜52Cおよびセパレータ53の構成は、それぞれ上記した円筒型の二次電池における正極集電体21A,正極活物質層21B、負極集電体22A、負極活物質層22B、負極被膜22Cおよびセパレータ23の構成と同様である。また、セパレータ53に含浸された電解液の組成も、上記した第1の二次電池における電解液の組成と同様である。
【0198】
さらに他の第1の二次電池によれば、負極活物質層52B上に、式(1)に示したニトリル化合物を含む負極被膜52Cが設けられているので、上記した第1の二次電池と同様の作用により、サイクル特性を向上させることができる。この二次電池およびその製造方法に関する他の効果は、上記した第1の二次電池およびその製造方法について説明した場合と同様である。
【0199】
なお、上記では、負極活物質層上に設けられた負極被膜が式(1)に示したニトリル化合物を含む場合について説明したが、負極が式(1)に示したニトリル化合物を含んでいれば、そのニトリル化合物は負極中のどこに含まれていてもよい。例えば、負極活物質が複数の粒子状である場合、すなわち負極活物質粒子を有する場合には、負極活物質層上に負極被膜を形成する代わりに、式(1)示したニトリル化合物を含む粒子被覆膜が負極活物質粒子の表面を被覆するように設けられていてもよい。この場合、粒子被覆膜により、負極活物質粒子の全面が被覆されていてもよいし、その表面の一部が被覆されていてもよい。これによっても、負極の化学的安定性が向上するため、サイクル特性が向上する。このような負極も、式(1)に示したニトリル化合物を含む溶液を用いて製造することができる。具体的には、最初に、上記した負極材料からなる負極活物質粒子を式(1)示したニトリル化合物を含む溶液に分散させたのち、その負極活物質粒子を溶液中から引き上げて乾燥させることにより、負極活物質粒子の表面に式(1)に示したニトリル化合物を含む粒子被覆膜を形成する。続いて、この負極活物質粒子と、負極導電剤と、負極結着剤とを混合した負極合剤を溶剤に分散させることによりペースト状の負極合剤スラリーとし、それを負極集電体に塗布して乾燥させたのち、圧縮成型し負極活物質層を形成する。これにより、負極を製造することができる。
【0200】
(第2の二次電池)
図11は第2の二次電池の構成を表しており、図2に対応する断面構成を示している。この第2の二次電池は、例えば、負極22に代えて正極21が式(1)に示したニトリル化合物を含んでいることを除き、上記した第1の二次電池と同様の構成を有している。
【0201】
正極21は、例えば、正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bおよび正極被膜21Cがこの順に設けられたものである。ただし、正極被膜21Cは、正極集電体21Aの片面側だけに設けられていてもよい。
【0202】
正極被膜21Cは、正極集電体21A上に正極活物質層21Bが形成されたのち、その正極活物質層21B上に形成されたものである。この正極被膜21Cの構成は、上記した第1の二次電池における負極被膜22Cの構成と同様である。すなわち、正極被膜21Cは、式(1)に示したニトリル化合物を含んでいる。正極21の化学的安定性が向上するからである。これにより、充放電時に、正極21においてリチウムイオンが効率よく吸蔵および放出されると共に、電解質の分解反応が抑制されるため、サイクル特性が向上する。
【0203】
負極22は、例えば、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bが設けられたものである。
【0204】
この二次電池は、正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bおよび正極被膜21Cをこの順に形成して正極21を作製すると共に、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bを形成して負極22を作製することを除き、上記した第1の二次電池と同様の手順により製造される。
【0205】
この第2の二次電池およびその製造方法によれば、正極活物質層21B上に、式(1)に示したニトリル化合物を含む正極被膜21Cが設けられているので、その正極21の化学的安定性が向上する。したがって、サイクル特性を向上させることができる。この場合には、特に、負極22の抵抗成分が低くなるため、抵抗特性も向上させることができる。この二次電池およびその製造方法に関する他の効果は、上記した第1の二次電池およびその製造方法について説明した場合と同様である。
【0206】
なお、上記では、二次電池の電池構造が円筒型である場合について説明したが、必ずしもこれに限られず、その電池構造は円筒型以外であってもよい。
【0207】
図12は他の第2の二次電池の構成を表しており、図9に対応する断面構成を示している。この二次電池は、例えば、負極34に代えて正極33が式(1)に示したニトリル化合物を含んでいることを除き、上記した他の第1の二次電池と同様の構成を有している。
【0208】
正極33は、上記した第2の二次電池における正極21と同様の構成を有しており、例えば、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bおよび正極被膜33Cがこの順に設けられたものである。負極34は、上記した第2の二次電池における負極22と同様の構成を有しており、例えば、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bが設けられたものである。
【0209】
この二次電池は、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bおよび正極被膜33Cをこの順に形成して正極33を作製すると共に、負極集電体34Aの一面に負極活物質層34Bを形成して負極34を作製することを除き、上記した他の第1の二次電池と同様の手順により製造される。
【0210】
他の第2の二次電池およびその製造方法によれば、正極活物質層33B上に、式(1)に示したニトリル化合物を含む正極被膜33Cが設けられているので、上記した第2の二次電池と同様の作用により、サイクル特性を向上させることができる。この二次電池およびその製造方法に関する他の効果は、上記した第2の二次電池およびその製造方法について説明した場合と同様である。
【0211】
図13はさらに他の第2の二次電池の構成を表しており、図10に対応する断面構成を示している。この二次電池は、例えば、負極52に代えて正極51が式(1)に示したニトリル化合物を含んでいることを除き、上記したさらに他の第1の二次電池と同様の構成を有している。
【0212】
正極51は、上記した第2の二次電池における正極21と同様の構成を有しており、例えば、正極集電体51Aの一面に正極活物質層51Bおよび正極被膜51Cがこの順に設けられたものである。負極52は、上記した第2の二次電池における負極22と同様の構成を有しており、例えば、負極集電体52Aの一面に負極活物質層52Bが設けられたものである。
【0213】
この二次電池は、正極集電体51Aの一面に正極活物質層51Bおよび正極被膜51Cをこの順に形成して正極51を作製すると共に、負極集電体52Aの一面に負極活物質層52Bを形成して負極52を作製することを除き、上記したさらに他の第1の二次電池と同様の手順により製造される。
【0214】
さらに他の第2の二次電池およびその製造方法によれば、正極活物質層51B上に、式(1)に示したニトリル化合物を含む正極被膜51Cが設けられているので、上記した第2の二次電池と同様の作用により、サイクル特性を向上させることができる。この二次電池およびその製造方法に関する他の効果は、上記した第2の二次電池およびその製造方法について説明した場合と同様である。
【0215】
なお、上記では、式(1)に示したニトリル化合物を含む正極被膜が正極活物質層上に設けられる場合について説明したが、正極がニトリル化合物を含んでいれば、そのニトリル化合物は正極中のどこに含まれていてもよい。
【0216】
例えば、図14に示したように、正極活物質が複数の粒子状(正極活物質粒子211)である場合には、正極活物質層上に正極被膜を形成する代わりに、ニトリル化合物を含む粒子被覆膜212が正極活物質粒子211の表面を被覆するように設けられてもよい。この場合には、粒子被覆膜212により、正極活物質粒子211の表面の全部が被覆されていてもよいし、その表面の一部が被覆されていてもよい。この場合においても、正極の化学的安定性が向上するため、サイクル特性を向上させることができる。
【0217】
この粒子被覆膜212を含む正極は、例えば、以下の手順により、式(1)に示したニトリル化合物を含む溶液を用いて形成される。具体的には、最初に、式(1)に示したニトリル化合物を含む溶液に正極活物質粒子211を浸漬させる。そののち、その溶液中から引き上げて乾燥させることにより、そのニトリル化合物を含む粒子被覆膜212を正極活物質粒子211の表面に形成する。続いて、粒子被覆膜212が形成された正極活物質粒子211と、正極導電剤と、正極結着剤とを混合した正極合剤を溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとする。最後に、正極合剤スラリーを正極集電体に塗布して乾燥させたのち、圧縮成型することにより、正極活物質層を形成する。
【0218】
(第3の二次電池)
図15は第3の二次電池の構成を表しており、図2に対応する断面構成を示している。この第3の二次電池は、例えば、負極22に代えて電解質が式(1)に示したニトリル化合物を含んでいることを除き、上記した第1の二次電池と同様の構成を有している。
【0219】
正極21は、例えば、正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bが設けられたものである。負極22は、例えば、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bが設けられたものである。
【0220】
電解質は、溶媒および電解質塩と共に、式(1)に示したニトリル化合物を含んでおり、そのニトリル化合物は、溶媒中に溶解あるいは分散されている。
【0221】
この二次電池は、正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bを形成して正極21を作製し、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bを形成して負極22を作製すると共に、式(1)に示したニトリル化合物が分散された溶媒に電解質塩を溶解させて電解質を調製することを除き、上記した第1の二次電池と同様の手順により製造される。
【0222】
この第3の二次電池およびその製造方法によれば、電解質が式(1)に示したニトリル化合物を含んでいるので、その電解質の化学的安定性が向上する。これにより、充放電時において、電解質の分解反応が抑制される。したがって、サイクル特性を向上させることができる。この二次電池およびその製造方法に関する他の効果は、上記した第1の二次電池およびその製造方法について説明した場合と同様である。
【0223】
なお、上記では、二次電池の電池構造が円筒型である場合について説明したが、必ずしもこれに限られず、その電池構造は円筒型以外であってもよい。
【0224】
図16は他の第3の二次電池の構成を表しており、図9に対応する断面構成を示している。この二次電池は、例えば、負極34に代えて電解質が式(1)に示したニトリル化合物を含んでいることを除き、上記した他の第1の二次電池と同様の構成を有している。
【0225】
正極33は、上記した第3の二次電池における正極21と同様の構成を有しており、例えば、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bが設けられたものである。負極22は、上記した第3の二次電池における負極22と同様の構成を有しており、例えば、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bが設けられたものである。
【0226】
電解質は、上記した第3の二次電池における電解質と同様の組成を有しており、例えば、溶媒、電解質塩および高分子化合物と共に、式(1)に示したニトリル化合物を含んでいる。
【0227】
この二次電池は、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bを形成して正極33を作製し、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bを形成して負極34を作製すると共に、ニトリル化合物が分散あるいは溶解された溶媒に電解質塩を溶解させて電解液を調製することを除き、上記した他の第1の二次電池と同様の手順により製造される。
【0228】
他の第3の二次電池およびその製造方法によれば、電解質が式(1)に示したニトリル化合物を含んでいるので、上記した第3の二次電池と同様の作用により、サイクル特性を向上させることができる。この二次電池およびその製造方法に関する他の効果は、上記した第3の二次電池およびその製造方法について説明した場合と同様である。
【0229】
図17はさらに他の第3の二次電池の構成を表しており、図10に対応する断面構成を示している。この二次電池は、例えば、負極52に代えて電解質が式(1)に示したニトリル化合物を含んでいることを除き、上記したさらに他の第1の二次電池と同様の構成を有している。
【0230】
正極51は、上記した第3の二次電池における正極21と同様の構成を有しており、例えば、正極集電体51Aの両面に正極活物質層51Bが設けられたものである。負極52は、上記した第3の二次電池における負極22と同様の構成を有しており、例えば、負極集電体52Aの両面に負極活物質層52Bが設けられたものである。
【0231】
電解質は、上記した第3の二次電池における電解質と同様の組成を有しており、例えば、溶媒、電解質塩および高分子化合物と共に、式(1)に示したニトリル化合物を含んでいる。
【0232】
この二次電池は、正極集電体51Aの両面に正極活物質層51Bを形成して正極51を作製し、負極集電体52Aの両面に負極活物質層52Bを形成して負極52を作製すると共に、ニトリル化合物が分散された溶媒に電解質塩を溶解させて電解液を調製することを除き、上記したさらに他の第1の二次電池と同様の手順により製造される。
【0233】
さらに他の第3の二次電池およびその製造方法によれば、電解質が式(1)に示したニトリル化合物を含んでいるので、上記した第3の二次電池と同様の作用により、サイクル特性を向上させることができる。この二次電池およびその製造方法に関する他の効果は、上記した第3の二次電池およびその製造方法について説明した場合と同様である。
【0234】
なお、上記した第1〜第3の二次電池では、正極21、負極22あるいは電解質のいずれかが式(1)に示したニトリル化合物を含むようにしたが、必ずしもこれに限られず、そのニトリル化合物を含む正極21、負極22あるいは電解質を2種類以上組み合わせてもよい。このことは、上記した他の第1〜第3の二次電池、あるいは、さらに他の第1〜第3の二次電池についても同様である。
【0235】
また、上記した第1〜第3の二次電池では、正極21、負極22および電解質のうちの少なくとも1種が式(1)に示したニトリル化合物を含むようにしたが、必ずしもこれに限られず、それら以外の他の構成要素がニトリル化合物を含むようにしてもよい。このような他の構成要素としては、例えば、セパレータ23などが挙げられる。セパレータ23がニトリル化合物を含む場合には、例えば、正極21および負極22がニトリル化合物を含む場合と同様に、式(1)に示したニトリル化合物が被膜としてセパレータ23中に導入される。具体的には、例えば、セパレータ23の両面に、ニトリル化合物を含む被膜が設けられる。このことは、上記した他の第1〜第3の二次電池、あるいは、さらに他の第1〜第3の二次電池についても同様である。
【実施例】
【0236】
本発明の実施例について詳細に説明する。
【0237】
(実験例1−1〜1−11)
以下の手順により、図10に示したコイン型の二次電池を作製した。この際、負極52の容量がリチウムイオンの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池となるようにした。
【0238】
まず、正極51を作製した。最初に、炭酸リチウム(Li2 CO3 )と炭酸コバルト(CoCO3 )とを0.5:1のモル比で混合したのち、空気中において900℃で5時間焼成することにより、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2 )を得た。続いて、正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物91質量部と、導電剤としてグラファイト6質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合して正極合剤としたのち、N−メチル−2−ピロリドンに分散させることにより、ペースト状の正極合剤スラリーとした。続いて、バーコータにより帯状のアルミニウム箔からなる正極集電体51A(厚さ=12μm)に正極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機で圧縮成型することにより、正極活物質層51Bを形成した。最後に、正極活物質層51Bが形成された正極集電体51Aを直径15.5mmのペレットとなるように打ち抜いた。
【0239】
次に、負極52を作製した。最初に、粗面化された電解銅箔からなる負極集電体52A(厚さ=10μm)を準備したのち、電子ビーム蒸着法により負極集電体52Aに負極活物質としてケイ素を堆積させて複数の負極活物質粒子を形成することにより、負極活物質層52Bを形成した。この負極集電体52Aに形成する負極活物質層52Bの厚さは5μmとなるようにした。続いて、式(1)に示したニトリル化合物を含む溶液として、その3重量%水溶液を準備した。この場合には、実験例1−1〜1−10では式(1−1)に示した化合物の3重量%水溶液を用い、実験例1−11では式(1−2)に示した化合物の3重量%水溶液を用いた。続いて、負極活物質層52Bが形成された負極集電体52Aをその溶液中に数秒間浸漬させてから引き上げたのち、150℃の減圧環境中において乾燥させることにより、負極活物質層52B上に負極被膜52Cを形成した。最後に、負極被膜52Cおよび負極活物質層52Bが形成された負極集電体52Aを直径16mmのペレットとなるように打ち抜いた。
【0240】
次に、電解液を調整した。具体的には、表1に示した組成となるように、溶媒として炭酸エチレン(EC)、炭酸プロピレン(PC)、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(DFEC)、炭酸ビス(フルオロメチル)(DFDMC)および炭酸ビニレン(VC)のうちの少なくとも1種と、炭酸ジエチル(DEC)とを混合した溶媒に、電解質塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )を溶解させた。この際、電解液中における六フッ化リン酸リチウムの濃度を1mol/kgとした。
【0241】
最後に、正極51および負極52と共に電解液を用いて二次電池を組み立てた。最初に、正極51と負極52と微多孔性ポリプロピレンフィルムからなるセパレータ53とを正極活物質層51Bと負極活物質層52Bとがセパレータ53を介して対向するように積層したのち、外装缶54に収容した。こののち、電解液を注入し、ガスケット56を介して外装カップ55を被せてかしめることにより、コイン型の二次電池が完成した。
【0242】
(実験例1−12〜1−14)
負極被膜52Cを形成しなかったことを除き、実験例1−1,1−4,1−6と同様の手順を経た。
【0243】
(実験例1−15)
式(1−1)に示した化合物に代えて、メタンスルホン酸リチウム(CH3 SO3 Li)を用いたことを除き、実験例1−4と同様の手順を経た。
【0244】
これらの実験例1−1〜1−15の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表1に示した結果が得られた。
【0245】
サイクル特性を調べる際には、23℃の雰囲気中において2サイクル充放電させて放電容量を測定し、引き続き同雰囲気中においてサイクル数の合計が100サイクルとなるまで充放電させて放電容量を測定したのち、放電容量維持率(%)=(100サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100を算出した。この際、1サイクルの充放電条件としては、1mA/cm2 の定電流密度で電池電圧が4.2Vに達するまで充電し、さらに4.2Vの定電圧で電流密度が0.02mA/cm2 に達するまで充電したのち、1mA/cm2 の定電流密度で電池電圧が2.5Vに達するまで放電した。
【0246】
なお、上記したサイクル特性を調べる際の手順および条件は、以降の一連の実験例についても同様である。
【0247】
【表1】
【0248】
表1に示したように、負極活物質としてケイ素を用いると共に気相法(電子ビーム蒸着法)を用いて負極活物質層52Bを形成した場合には、式(1−1)あるいは式(1−2)に示した化合物を含む負極被膜52Cを形成した実験例1−1〜1−11では、それを形成しなかった実験例1−12〜1−14よりも放電容量維持率が高くなった。この結果は、充放電時に、負極被膜52Cを形成することにより、負極52においてリチウムイオンが吸蔵および放出されやすくなると共に、電解液が分解されにくくなることを表している。すなわち、負極被膜52Cを形成することにより、負極52の化学的安定性が向上したものと考えられる。
【0249】
詳細には、ニトリル化合物として式(1−1)に示した化合物を用いた実験例1−1〜1−10では、溶媒の組成に依存することなく、それを用いなかった実験例1−12〜1−14よりも放電容量維持率が高くなった。また、ニトリル化合物として式(1−2)に示した化合物を用いた実験例1−11では、それを用いなかった実験例1−12よりも放電容量維持率が高くなると共に、式(1−1)に示した化合物を用いた実験例1−1と同程度の放電容量維持率が得られた。
【0250】
この場合には、溶媒としてPC等を加えた実験例1−2〜1−10では、それを加えなかった実験例1−1よりも放電容量維持率が高くなった。詳細には、溶媒として、PCを加えることにより、放電容量維持率が高くなるが、VCやFEC、DFECあるいはDFDMCを加えることにより、さらに放電容量維持率が高くなる傾向を示した。中でも、FEC、DFECあるいはDFDMCを含むことにより、特に放電容量維持率が高くなり、その場合には、フッ素の数が1つよりも2つ有する溶媒(DFECあるいはDFDMC)を用いることにより、放電容量維持率がさらに高くなった。また、溶媒中におけるFEC等のフッ素を有する溶媒の含有量は、多くなるに従い、放電容量維持率が高くなる傾向を示した。このことは、VCを加えた場合においても同様であり、溶媒中における含有量が多くなるに従い、放電容量維持率が高くなる傾向を示した。
【0251】
また、ニトリル基を含まない化合物であるメタンスルホン酸リチウムを含む負極被膜を形成した実験例1−15では、放電容量維持率は、式(1−1)に示した化合物を含む負極被膜52Cを形成した実験例1−3よりも低くなったのはもちろんのこと、負極被膜を形成しなかった実験例1−13と同等となった。すなわち、スルホン酸イオン基あるいはカルボン酸イオン基とニトリル基とを併せて有する式(1)に示した構造が負極52の化学的安定性の向上に大きく寄与していることがわかる。
【0252】
これらのことから、本発明の二次電池では、負極活物質としてケイ素を用いると共に気相法(電子ビーム蒸着法)を用いて負極活物質層52Bを形成した場合に、式(1)に示したニトリル化合物を含む負極被膜52Cを負極活物質層52B上に設けることにより、サイクル特性が向上することが確認された。この場合には、電解液の溶媒として、式(5)に示したハロゲンを有する鎖状炭酸エステルおよび式(6)に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種や、式(2)〜式(4)に示した不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種を用いることにより、サイクル特性がより向上することも確認された。
【0253】
(実験例2−1〜2−7)
電解液の組成を表2に示した組成となるように変更したことを除き、実験例1−1、実験例1−3と同様の手順を経た。具体的には、実験例2−1〜2−3では、溶媒として、スルトンであるプロペンスルトン(PRS)、または酸無水物である無水コハク酸(SCAH)あるいは無水−2−スルホ安息香酸(SBAH)を加え、溶媒中におけるPRS等の含有量を1重量%とした。また、電解質塩として、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、式(7)に示した化合物として式(7−6)に示した化合物、式(8)に示した化合物として式(8−2)に示した化合物、あるいは式(11)に示した化合物として式(11−2)に示した化合物を加え、電解液中におけるLiPF6 の濃度を0.9mol/kg、LiBF4 等の濃度を0.1mol/kgとした。
【0254】
(実験例2−8)
負極被膜52Cを形成せずに、表2に示した組成となるように溶媒を混合したことを除き、実験例2−1と同様の手順を経た。
【0255】
これらの実験例2−1〜2−8の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表2に示した結果が得られた。
【0256】
【表2】
【0257】
表2に示したように、電解液にPRS等やLiBF4 等を加えた場合においても、表1の結果と同様の結果が得られた。すなわち、式(1−1)に示した化合物を含む負極被膜52Cを形成した実験例2−1〜2−7では、それを形成しなかった実験例1−12,1−13,2−8よりも放電容量維持率が高くなった。
【0258】
この場合には、PRS等やLiBF4 等を加えた実験例2−1〜2−7では、それを加えなかった実験例1−1,1−3よりも放電容量維持率が高くなった。その一方で、PRSを加えた実験例2−8では、それを含まない実験例1−12よりも放電容量維持率が低下した。
【0259】
これらのことから、本発明の二次電池では、負極52が負極活物質としてケイ素を用いると共に気相法(電子ビーム蒸着法)用いて負極活物質層52Bを形成した場合に、式(1)に示したニトリル化合物を含む負極被膜52Cを負極活物質層52B上に設けることにより、電解液の組成に依存することなく、サイクル特性が向上することが確認された。この場合には、電解液に溶媒としてスルトンあるいは酸無水物を加える、または、電解質塩として式(7)〜式(9)に示した化合物のうちの少なくとも1種、あるいは式(10)〜式(12)に示した化合物のうちの少なくとも1種を加えるようにすれば、サイクル特性がより向上することも確認された。
【0260】
(実験例3−1)
負極被膜52C中に、アルカリ土類金属塩であるスルホプロピオン酸マグネシウム(SPHMg)を含ませたことを除き、実験例1−3と同様の手順を経た。この負極被膜52Cを形成する場合には、式(1−1)に示した化合物を溶解させた3重量%水溶液に、SPHMgを3重量%となるように加えた溶液を用いた。
【0261】
(実験例3−2)
負極活物質層52Bを形成する場合に、複数の負極活物質粒子を形成したのち、液相析出法により負極活物質粒子の表面に酸化物含有膜としてケイ素の酸化物(SiO2 )を析出させたことを除き、実験例1−3と同様の手順を経た。この酸化物含有膜を形成する場合には、ケイフッ化水素酸にアニオン補足剤としてホウ素を溶解させた溶液中に、負極活物質粒子が形成された負極集電体52Aを3時間浸漬し、その負極活物質粒子の表面にケイ素の酸化物を析出させたのち、水洗して減圧乾燥した。
【0262】
(実験例3−3)
負極活物質層52Bを形成する場合に、複数の負極活物質粒子を形成したのち、電解鍍金法により金属材料としてコバルトの鍍金膜を成長させたことを除き、実験例1−3と同様の手順を経た。この金属材料を形成する場合には、鍍金浴にエアーを供給しながら通電して負極集電体52Aの表面にコバルトを堆積させた。この際、鍍金液として日本高純度化学株式会社製のコバルト鍍金液を用い、電流密度を2A/dm2 〜5A/dm2 とし、鍍金速度を10nm/秒とした。
【0263】
(実験例3−4)
負極活物質層52Bを形成する場合に、複数の負極活物質粒子を形成したのち、実験例3−2,3−3の手順により酸化物含有膜および金属材料をこの順に形成したことを除き、実験例1−3と同様の手順を経た。
【0264】
(実験例3−5〜3−7)
負極被膜52Cを形成しなかったことを除き、実験例3−2〜3−4と同様の手順を経た。
【0265】
これらの実験例3−1〜3−7の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表3に示した結果が得られた。
【0266】
【表3】
【0267】
表3に示したように、負極被膜52C中にアルカリ土類金属塩を含ませたり、その負極被膜52Cの形成前に酸化物含有膜や金属材料を形成した場合においても、表1の結果と同様の結果が得られた。すなわち、式(1−1)に示した化合物を含む負極被膜52Cを形成した実験例3−1〜3−4では、それを形成しなかった実験例1−13,3−5〜3−7よりも、放電容量維持率が高くなった。
【0268】
この場合には、負極被膜52C中にSPHMgを加えた実験例3−1では、それを加えなかった実験例1−3よりも放電容量維持率が高くなった。また、酸化物含有膜あるいは金属材料を形成した実験例3−2〜3−4では、それらを形成しなかった実験例1−3よりも放電容量維持率が高くなった。この場合、実験例3−2〜3−4の比較から、酸化物含有膜あるいは金属材料のいずれか一方だけを形成した場合よりも双方を形成した場合において放電容量維持率が高くなる傾向を示した。また、実験例3−1〜3−4では、負極被膜52C中にアルカリ土類金属塩等を含ませた場合よりも酸化物含有膜や金属材料を形成した場合において放電容量維持率が高くなった。
【0269】
これらのことから、本発明の二次電池では、負極52が負極活物質としてケイ素(電子ビーム蒸着法)を含む場合に、式(1)に示したニトリル化合物を含む負極被膜52Cを負極活物質層52B上に設けるようにしたことにより、負極活物質層52Bの構成あるいは負極被膜52Cの組成に依存することなく、サイクル特性が向上することが確認された。この場合には、負極被膜52C中にアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩を含ませたり、被膜52Cの形成前に酸化物含有膜あるいは金属材料を形成すれば、サイクル特性がより向上することも確認された。特に、アルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩よりも酸化物含有膜あるいは金属材料においてサイクル特性が高くなり、酸化物含有膜あるいは金属材料を用いる場合には、酸化物含有膜および金属材料のうちのいずれか一方よりも双方においてサイクル特性がより高くなることが確認された。
【0270】
(実験例4−1)
負極被膜52Cを形成する代わりに、正極活物質層51B上に正極被膜51Cを形成したことを除き、実験例1−1と同様の手順を経た。正極被膜51Cを形成する場合には、負極被膜52Cを形成する場合に用いた水溶液を準備し、正極活物質層51Bが形成された正極集電体51Aを水溶液中に数秒間浸漬させてから引き上げたのち、150℃の減圧環境中において乾燥させた。
【0271】
(実験例4−2)
負極被膜52Cに加えて、正極活物質層51B上に正極被膜51Cを形成したことを除き、実験例1−7と同様の手順を経た。正極被膜51Cの形成手順は、実験例4−1と同様である。
【0272】
(実験例4−3)
負極被膜52Cを形成する代わりに、電解液中に式(1−1)に示した化合物を飽和するまで溶解させたことを除き、実験例1−1と同様の手順を経た。
【0273】
(実験例4−4)
溶媒として、アセトニトリル(CH3 CN)を溶媒中における含有量が5重量%となるように加えたことを除き、実験例1−13と同様の手順を経た。
【0274】
これらの実験例4−1〜4−4の二次電池について、サイクル特性を調べたところ、表4に示した結果が得られた。
【0275】
【表4】
【0276】
表4に示したように、式(1−1)に示した化合物を含む正極被膜51Cを形成した実験例4−1では、それを形成しなかった実験例1−12よりも放電容量維持率が高くなった。また、式(1−1)に示した化合物を含む正極被膜51Cおよび負極被膜52Cを形成した実験例4−2では、負極被膜52Cだけを形成した実験例1−7よりも放電容量維持率が高くなった。さらに、式(1−1)に示した化合物を電解液に加えた実験例4−3では、それを加えなかった実験例1−12よりも放電容量維持率が高くなった。この場合には、実験例1−1,4−1,4−3の比較から、正極51、負極52および電解液のいずれか1つだけが式(1−1)に示した化合物を含む場合、電解液よりも電極(正極51,負極52)において放電容量維持率が高くなり、電極の中では正極51よりも負極52において放電容量維持率が高くなる傾向を示した。この結果は、正極51、負極52および電解液のうちのいずれか1つが式(1)に示したニトリル化合物を含むことにより、そのニトリル化合物を含むものの化学的安定性が向上し、電解液の分解抑制効果が得られることを表している。また、正極51、負極52および電解液のうちのいずれか2つが式(1)に示したニトリル化合物を含む場合には、両電極に式(1)に示したニトリル化合物を含ませることにより、それらのうちのいずれか1つが含む場合と比較して、より高い電解液の分解抑制効果が得られることを表している。
【0277】
また、スルホン酸イオン基およびカルボン酸イオン基を含まないニトリル化合物であるアセトニトリルを電解液に加えた実験例4−4では、放電容量維持率は、式(1−1)に示した化合物を含む負極被膜52Cを形成した実験例1−3よりも著しく低くなったのはもちろんのこと、ニトリル化合物を含まない実験例1−13よりも著しく低くなった。この結果は、式(1)に示したニトリル化合物がニトリル基とスルホン酸イオン基あるいはカルボン酸イオン基とを併せて有することにより、それを含有する構成要素の化学的安定性を向上させ、電解液分解抑制効果が発揮されることを表している。
【0278】
このことから、本発明の二次電池では、負極52が負極活物質としてケイ素を用いると共に気相法(電子ビーム蒸着法)を用いて負極活物質層52Bを形成した場合に、式(1)に示したニトリル化合物を正極被膜51Cを正極活物質層51B上に設けたり、あるいは式(1)に示したニトリル化合物を電解液に含ませることにより、サイクル特性が向上することが確認された。この場合には、式(1)に示した化合物を含む対象は、電解液よりも正極51のほうが高い効果が得られ、正極51よりも負極52のほうがより高い効果が得られることが確認された。特に、正極51および負極52の双方が式(1)に示したニトリル化合物を含むことにより、さらに高い効果が得られることが確認された。
【0279】
(実験例5−1〜5−14)
気相法(電子ビーム蒸着法)に代えて、焼結法を用いて負極活物質層52Bを厚さが10μmとなるように形成したことを除き、実験例1−1〜1−14と同様の手順を経た。焼結法により負極活物質層52Bを形成する際には、負極活物質としてケイ素(平均粒径=1μm)95質量部と、負極結着剤としてポリイミド5質量部とを混合した負極合剤をN−メチル−2−ピロリドンに分散させてペースト状の負極合剤スラリーとし、バーコータにより粗面化された電解銅箔(厚さ=18μm)からなる負極集電体52Aに均一に塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機により圧縮成型し、真空雰囲気中において400℃×12時間の条件で加熱した。この場合においても、負極52の充放電容量が正極51の充放電容量よりも大きくなるように正極活物質層51Bの厚さを調整することにより、満充電時において負極52にリチウム金属が析出しないようにした。
【0280】
これらの実験例5−1〜5−14の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表5に示した結果が得られた。
【0281】
【表5】
【0282】
表5に示したように、負極活物質としてケイ素を用いると共に焼結法を用いて負極活物質層52Bを形成した場合においても、表1の結果と同様の結果が得られた。すなわち、式(1−1)あるいは式(1−2)に示した化合物を含む負極被膜52Cを形成した実験例5−1〜5−11では、それを形成しなかった実験例5−12〜5−14よりも放電容量維持率が高くなった。また、溶媒としてPC等を加えた実験例5−2〜5−10では、それを加えなかった実験例5−1よりも放電容量維持率が高くなった。
【0283】
これらのことから、本発明の二次電池では、負極活物質としてケイ素を用いると共に焼結法を用いて負極活物質層52Bを形成した場合に、式(1)に示したニトリル化合物を含む負極被膜52Cを負極活物質層52B上に設けることにより、溶媒の組成や式(1)に示したニトリル化合物の種類に依存することなく、サイクル特性が向上することが確認された。
【0284】
(実験例6−1〜6−8)
実験例5−1〜5−14と同様に、焼結法を用いて負極活物質層52Bを形成したことを除き、実験例2−1〜2−8と同様の手順を経た。
【0285】
これらの実験例6−1〜6−8の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表6に示した結果が得られた。
【0286】
【表6】
【0287】
表6に示したように、焼結法を用いて負極活物質層52Bを形成した場合においても、表2の結果と同様の結果が得られた。すなわち、式(1−1)に示した化合物を含む負極被膜52Cを形成した実験例6−1〜6−7では、それを形成しなかった実験例5−12,5−13および6−8よりも、放電容量維持率が高くなった。この場合には、PRS等やLiBF4 等を加えた実験例6−1〜6−7では、それを加えなかった実験例5−1,5−3よりも放電容量維持率が高くなった。その一方で、PRSを加えた実験例6−8では、それを含まない実験例5−12と同等の放電容量維持率となった。
【0288】
これらのことから、本発明の二次電池では、負極活物質としてケイ素を用いると共に焼結法を用いて負極活物質層52Bを形成した場合に、式(1)に示したニトリル化合物を含む負極被膜52Cを負極活物質層52B上に設けることにより、電解液の組成に依存することなく、サイクル特性が向上することが確認された。
【0289】
(実験例7)
実験例5−1〜5−14と同様に焼結法を用いて負極活物質層52Bを形成したことを除き、実験例3−1と同様の手順を経た。
【0290】
この実験例7の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表7に示した結果が得られた。
【0291】
【表7】
【0292】
表7に示したように、焼結法を用いて負極活物質層52Bを形成した場合においても、表3に示した結果と同様の結果が得られた。すなわち、式(1−1)に示した化合物を含む負極被膜52Cを形成した場合には、負極被膜52C中にSPHMgを含ませた実験例7では、それを含ませなかった実験例5−3よりも放電容量維持率が高くなった。
【0293】
このことから、本発明の二次電池では、負極活物質としてケイ素を用いると共に焼結法を用いて負極活物質層52Bを形成した場合に、式(1)に示したニトリル化合物を含む負極被膜52Cを負極活物質層52B上に設けることにより、負極被膜52Cの組成に依存することなく、サイクル特性が向上し、その場合にはアルカリ金属塩等を負極被膜52Cに含ませることにより、サイクル特性がより向上することが確認された。
【0294】
(実験例8−1)
負極活物質としてケイ素に代えてSnCoC含有材料を用い、塗布法により負極活物質層52Bを形成すると共に、電解液における溶媒の組成を表8に示したように変更したことを除き、実験例1−1〜1−10と同様の手順を経た。
【0295】
負極活物質を準備する場合には、最初に、スズ粉末とコバルト粉末とを合金化してスズコバルト合金粉末としたのち、炭素粉末を加えて乾式混合した。続いて、伊藤製作所製の遊星ボールミルの反応容器中に、上記した混合物20gと、直径9mmの鋼玉約400gとをセットした。続いて、反応容器中をアルゴン(Ar)雰囲気に置換したのち、毎分250回転の回転速度による10分間の運転と10分間の休止とを運転時間の合計が50時間になるまで繰り返した。最後に、反応容器を室温まで冷却したのち、合成された負極活物質粉末を取り出し、280メッシュのふるいを通して粗粉を取り除いた。得られたSnCoC含有材料の組成を分析したところ、スズの含有量は48質量%、コバルトの含有量は23質量%、炭素の含有量は20質量%、スズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合(Co/(Sn+Co))は32質量%であった。SnCoC含有材料の組成を分析する場合には、炭素の含有量については炭素・硫黄分析装置を用いて測定し、スズおよびコバルトの含有量についてはICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)発光分析を用いて測定した。また、得られたSnCoC含有材料をX線回折分析したところ、回折角2θ=20°〜50°の間に、回折角2θが1.0°以上の広い半値幅を有する回折ピークが観察された。さらに、XPSによりSnCoC含有材料を分析したところ、図18に示したように、ピークP1が得られた。このピークP1を解析すると、表面汚染炭素のピークP2と、それよりも低エネルギー側にSnCoC含有材料中におけるC1sのピークP3とが得られた。このピークP3は、284.5eVよりも低い領域に得られた。すなわち、SnCoC含有材料中の炭素が他の元素と結合していることが確認された。
【0296】
負極活物質層52Bを形成する場合には、最初に、負極活物質としてSnCoC含有材料粉末80質量部と、負極導電剤としてグラファイト11質量部およびアセチレンブラック1質量部と、負極結着剤としてポリフッ化ビニリデン8質量部とを混合して負極合剤としたのち、N−メチル−2−ピロリドンに分散させてペースト状の負極合剤スラリーとした。続いて、電解銅箔からなる負極集電体52A(厚さ=10μm)の一面に負極合剤スラリーを均一に塗布したのち、乾燥させた。最後に、ロールプレス機を用いて圧縮成型した。この場合においても、負極52の充放電容量が正極51充放電容量よりも大きくなるように正極活物質層51Bの厚さを調整することにより、満充電時において負極52にリチウム金属が析出しないようにした。
【0297】
溶媒としては、EC、PCおよびFECと共に、炭酸ジメチル(DMC)を用いた。
【0298】
(実験例8−2)
負極被膜52Cを形成しなかったことを除き、実験例8−1と同様の手順を経た。
【0299】
これらの実験例8−1,8−2の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表8に示した結果が得られた。
【0300】
【表8】
【0301】
表8に示したように、負極活物質としてSnCoC含有材料を用いると共に塗布法を用いて負極活物質層52Bを形成した場合においても、表1の結果と同様の結果が得られた。すなわち、式(1−1)に示した化合物を含む負極被膜52Cを形成した実験例8−1では、それを形成しなかった実験例8−2よりも放電容量維持率が高くなった。
【0302】
このことから、本発明の二次電池では、負極活物質としてSnCoC含有材料を用いると共に塗布法を用いて負極活物質層52Bを形成した場合に、式(1)に示したニトリル化合物を含む負極被膜52Cを負極活物質層52B上に設けることにより、サイクル特性が向上することが確認された。
【0303】
(実験例9−1)
負極活物質としてSnCoC含有材料に代えて人造黒鉛を用いると共に塗布法を用いて負極活物質層52Bの厚さが70μmとなるように形成したことを除き、実験例8−1と同様の手順を経た。負極52を作製する場合には、負極活物質として人造黒鉛粉末97質量部と、負極結着剤としてポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合した負極合剤をN−メチル−2−ピロリドンに分散させてペースト状の負極合剤スラリーとした。続いて、バーコータにより銅箔(厚さ=15μm)からなる負極集電体52Aの両面に均一に塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機により圧縮成型し、負極活物質層52Bを形成した。続いて、界面活性剤としてパーフルオロブタンスルホン酸リチウムを0.5重量%の濃度になるように添加した式(1−1)に示した化合物の3重量%水溶液を調整した。最後に、この溶液中に、負極活物質層52Bが形成された負極集電体52Aを数秒間浸漬させてから引き上げたのち、150℃の減圧環境中において乾燥させ、負極活物質層52B上に負極被膜52Cを形成した。この場合においても、負極52の充放電容量が正極51の充放電容量よりも大きくなるように正極活物質層51Bの厚さを調整することにより、満充電時において負極52にリチウム金属が析出しないようにした。
【0304】
(実験例9−2)
負極被膜52Cを形成しなかったことを除き、実験例9−1と同様の手順を経た。
【0305】
これらの実験例9−1,9−2の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表9に示した結果が得られた。
【0306】
【表9】
【0307】
表9に示したように、負極活物質として人造黒鉛を用いると共に塗布法を用いて負極活物質層52Bを形成した場合においても、表1の結果と同様の結果が得られた。すなわち、式(1−1)に示した化合物を含む負極被膜52Cを形成した実験例9−1では、それを形成しなかった実験例9−2よりも放電容量維持率が高くなった。
【0308】
このことから、本発明の二次電池では、負極活物質として炭素材料を用いると共に塗布法を用いて負極活物質層52Bを形成した場合に、式(1)に示したニトリル化合物を含む負極被膜52Cを負極活物質層52B上に設けることにより、サイクル特性が向上することが確認された。
【0309】
(実験例10−1)
正極活物質としてLiCoO2 に代えてLiCo0.98Al0.01Mg0.01O2 を用いると共に、負極活物質層52B上に負極被膜52Cを形成する代わりに正極活物質層51B上に正極被膜51Cを形成したことを除き、実験例1−3と同様の手順を経た。正極被膜51Cの形成手順は、実験例4−1と同様である。
【0310】
(実験例10−2)
正極活物質層51B上に正極被膜51Cを形成する代わりに、粒子状の正極活物質(正極活物質粒子211)の表面に粒子被覆膜212を形成したことを除き、実験例10−1と同様の手順を経た。正極51を作製する場合には、最初に、正極活物質としてLiCo0.98Al0.01Mg0.01O2 100質量部と、式(1−1)に示した化合物1質量部とを100cm3 の純水中に投入し、1時間撹拌しながら混合した。続いて、エバポレータを用いて混合物から水分を除去したのち、オーブン中において120℃12時間乾燥させた。これにより、式(1−1)に示した化合物を含む粒子被覆膜212が正極活物質粒子211の表面を被覆するように形成された。続いて、粒子被覆膜212が形成された正極活物質粒子211(LiCo0.98Al0.01Mg0.01O2 )91質量部と、正極導電剤としてグラファイト6質量部と、正極結着剤としてポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合して正極合剤としたのち、N−メチル−2−ピロリドンに分散させてペースト状の正極合剤スラリーとした。続いて、バーコータを用いて帯状のアルミニウム箔からなる正極集電体51A(厚さ=12μm)の一面に正極合剤スラリーを均一に塗布したのち、乾燥させた。最後に、ロールプレス機を用いて圧縮成型することにより、正極活物質層51Bを形成した。
【0311】
(実験例10−3)
正極被膜51Cあるいは粒子被覆膜212を形成しなかったことを除き、実験例10−1,10−2と同様の手順を経た。
【0312】
これらの実験例10−1〜10−3の二次電池について、サイクル特性と共に、反応抵抗特性を調べたところ、表10に示した結果が得られた。
【0313】
反応抵抗特性を調べる際には、サイクル特性を調べる際の条件と同様にして100サイクル充放電させたのち、23℃の雰囲気中において、交流インピーダンス法により10-2Hz〜106 Hzの周波数帯における二次電池の複素インピーダンスを測定した。この複素インピーダンスを横軸がインピーダンスの実数部(Z’)に対して縦軸がその虚数部(Z”)としてコール・コール・プロットしたのち、抵抗成分(負極)の円弧を半円として近似して、その極大値である反応抵抗を求めた。
【0314】
【表10】
【0315】
表10に示したように、正極活物質としてLiCo0.98Al0.01Mg0.01O2 を用いると共に式(1−1)に示した化合物を含む正極被膜51Cあるいは粒子被覆膜212を形成した場合においても、表4と同様の結果が得られた。すなわち、式(1−1)に示した化合物を含む正極被膜51Cあるいは粒子被覆膜212を形成した実験例10−1,10−2では、それらを形成しなかった実験例10−3よりも放電容量維持率が高くなった。
【0316】
この場合には、正極被膜51Cを形成した実験例10−1において、粒子被覆膜212を形成した実験例10−2よりも放電容量維持率が高くなった。この結果は、放電容量維持率を高くするためには、粒子被覆膜212よりも正極被膜51Cが有利であることを表している。
【0317】
また、正極被膜51Cあるいは粒子被覆膜212を形成した実験例10−1,10−2では、それを形成しなかった実験例10−3よりも反応抵抗が低くなった。この結果は、負極52における抵抗成分の増加が抑制されたことを表している。すなわち、正極被膜51Cあるいは粒子被覆膜212を設けることにより、負極52に対する分解物の付着が抑制される。
【0318】
この場合には、実験例10−1において、実験例10−2よりも反応抵抗が高くなった。この結果は、反応抵抗を低くするためには、正極被膜51Cよりも粒子被覆膜212が有利であることを表している。
【0319】
これらのことから、本発明の二次電池では、式(1)に示したニトリル化合物を含む正極被膜51Cあるいは粒子被覆膜212を設けることにより、サイクル特性が向上すると共に、反応抵抗特性も向上することが確認された。
【0320】
なお、上記した表1〜表10では、式(1)に示したニトリル化合物として、式(1−1)等に示した化合物を用いた場合の結果だけを示しており、それ以外の他の化合物(例えば、式(1−3)に示した化合物など)を用いた場合の結果を示していない。しかしながら、式(1−3)等に示した化合物は、式(1−1)等に示した化合物と同様の機能を果たすことから、前者を用いたり、複数種の化合物を混合した場合においても、後者を用いた場合と同様の結果が得られる。
【0321】
式(1)に示したニトリル化合物について上記したことは、式(2)〜式(4)に示した不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステル、式(5)に示したハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステル、式(6)に示したハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステル、あるいは式(7)〜式(12)に示した化合物についても、同様である。すなわち、上記した式(2)に示した不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステル等に該当する化合物を溶媒あるいは電解質塩として用いれば、その化合物が表1〜表10において実際に用いられていない化合物であったとしても、表1〜表10において実際に用いられている化合物を用いた場合と同様の結果が得られる。
【0322】
上記した表1〜表10の結果から、本発明の二次電池では、正極、負極および電解質のうちの少なくとも1つが式(1)に示したニトリル化合物を含むことにより、電解質の組成や、負極活物質および正極活物質の種類や、正極活物質層および負極活物質層の形成方法などに依存せずに、サイクル特性を向上させることができる。この場合には、特に、負極が式(1)に示したニトリル化合物を含むようにすれば、特性をより向上させることができる。
【0323】
しかも、負極活物質として、人造黒鉛などの炭素材料を用いた場合よりも、ケイ素あるいはスズコバルト合金などの高容量材料を用いた場合において、放電容量維持率の増加率が大きくなった。すなわち、負極活物質として、ケイ素およびスズのうちの少なくとも一方を構成元素として有する材料を用いた場合において、より高い効果を得ることができる。この結果は、負極活物質として高容量材料を用いると、炭素材料を用いる場合よりも電解質が分解しやすくなるため、電解質の分解抑制効果が際立って発揮されたものと考えられる。
【0324】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記した実施の形態および実施例において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、本発明の負極、負極および電解質の使用用途は、必ずしも二次電池に限らず、二次電池以外の他の電気化学デバイスであっても良い。他の用途としては、例えば、キャパシタなどが挙げられる。
【0325】
また、上記した実施の形態および実施例では、二次電池の種類として、負極の容量がリチウムイオンの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。本発明の二次電池は、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極材料の充電容量を正極の充電容量よりも小さくすることにより、負極の容量がリチウムイオンの吸蔵および放出に伴う容量とリチウムの析出および溶解に伴う容量とを含み、かつ、それらの容量の和により表される二次電池についても、同様に適用可能である。
【0326】
また、上記した実施の形態および実施例では、本発明の二次電池の電解質として、電解液や、電解液を高分子化合物に保持させたゲル状電解質を用いる場合について説明したが、他の種類の電解質を用いるようにしてもよい。他の電解質としては、例えば、イオン伝導性セラミックス、イオン伝導性ガラスあるいはイオン性結晶などのイオン伝導性無機化合物と電解液とを混合したものや、他の無機化合物と電解液とを混合したものや、これらの無機化合物とゲル状電解質とを混合したものや、電解質塩とイオン伝導性の高分子化合物とを混合した固体電解質などが挙げられる。
【0327】
また、上記した実施の形態および実施例では、電池構造が円筒型、ラミネートフィルム型あるいはコイン型である場合、ならびに電池素子が巻回構造を有する場合を例に挙げて説明したが、本発明の二次電池は、角型およびボタン型などの他の電池構造を有する場合や、電池素子が積層構造などの他の構造を有する場合についても同様に適用可能である。
【0328】
また、上記した実施の形態および実施例では、電極反応物質としてリチウム(リチウムイオン)を用いる場合について説明したが、ナトリウムあるいはカリウムなどの他の1族元素や、マグネシウムあるいはカルシウムなどの2族元素や、アルミニウムなどの他の軽金属を用いてもよい。本発明の効果は、電極反応物質の種類に依存せずに得られるはずであるため、その電極反応物質の種類を変更した場合においても、同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0329】
【図1】本発明の一実施の形態に係る二次電池(第1の二次電池)の構成を表す断面図である。
【図2】図1に示した巻回電極体の一部を拡大して表す断面図である。
【図3】図2に示した負極の一部を拡大して表す断面図である。
【図4】図3に示した負極に対する参考例の負極を表す断面図である。
【図5】図2に示した負極の断面構造を表すSEM写真およびその模式図である。
【図6】図2に示した負極の他の断面構造を表すSEM写真およびその模式図である。
【図7】本発明の一実施の形態に係る二次電池(他の第1の二次電池)の変形例の構成を表す断面図である。
【図8】図7に示した巻回電極体のVIII−VIII線に沿った断面図である。
【図9】図8に示した巻回電極体の一部を拡大して表す断面図である。
【図10】本発明の一実施の形態に係る二次電池(さらに他の第1の二次電池)の他の変形例の構成を表す断面図である。
【図11】本発明の一実施の形態に係る二次電池(第2の二次電池)の主要部の構成を表す断面図である。
【図12】本発明の一実施の形態に係る二次電池(他の第2の二次電池)の変形例の構成を表す断面図である。
【図13】本発明の一実施の形態に係る二次電池(さらに他の第2の二次電池)の他の変形例の構成を表す断面図である。
【図14】本発明の一実施の形態に係る二次電池(第2の二次電池)の主要部の構成を表す断面図である。
【図15】本発明の一実施の形態に係る二次電池(第3の二次電池)の変形例の構成を表す断面図である。
【図16】本発明の一実施の形態に係る二次電池(他の第3の二次電池)の他の変形例の構成を表す断面図である。
【図17】本発明の一実施の形態に係る二次電池(さらに他の第3の二次電池)の他の変形例の構成を表す断面図である。
【図18】X線光電子分光法によるSnCoC含有材料の分析結果を表す図である。
【符号の説明】
【0330】
11…電池缶、12,13…絶縁板、14…電池蓋、15…安全弁機構、15A…ディスク板、16…熱感抵抗素子、17,56…ガスケット、20,30…巻回電極体、21,33,51…正極、21A,33A,51A…正極集電体、21B,33B,51B…正極活物質層、21C,33C,51C…正極被膜、22,34,52…負極、22A,34A,52A…負極集電体、22B,34B,52B…負極活物質層、22C,34C,52C…負極被膜、23,35,53…セパレータ、24…センターピン、25,31…正極リード、26,32…負極リード、36…電解質層、37…保護テープ、40…外装部材、41…密着フィルム、54…外装缶、55…外装カップ、211…正極活物質粒子、212…粒子被覆膜、221…負極活物質粒子、222…酸化物含有膜、224(224A,224B)…隙間、225…空隙、226…金属材料。
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極および負極と共に電解質を備えた二次電池、二次電池などの電気化学デバイスに用いられる負極、正極および電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、携帯電話あるいはノートパソコンなどのポータブル電子機器が広く普及しており、その小型化、軽量化および長寿命化が強く求められている。これに伴い、電源として、電池、特に軽量で高エネルギー密度を得ることが可能な二次電池の開発が進められている。
【0003】
中でも、充放電反応にリチウムイオン(Li+ )の吸蔵および放出を利用する二次電池(いわゆるリチウムイオン二次電池)は、鉛電池やニッケルカドミウム電池よりも高いエネルギー密度が得られるため、広く実用化されている。このリチウムイオン二次電池は、正極および負極と共に電解質を備えており、その負極は、負極集電体上に負極活物質層を有している。
【0004】
負極活物質層に含まれる負極活物質としては、黒鉛などの炭素材料が広く用いられている。また、最近では、ポータブル電子機器の高性能化および多機能化に伴って電池容量のさらなる向上が求められていることから、炭素材料に代えてケイ素やスズなどを用いることが検討されている。ケイ素の理論容量(4199mAh/g)やスズの理論容量(994mAh/g)は黒鉛の理論容量(372mAh/g)よりも格段に大きいため、電池容量の大幅な向上を期待できるからである。
【0005】
ところが、リチウムイオン二次電池では、充放電時にリチウムイオンを吸蔵した負極活物質が高活性になるため、電解質が分解されやすくなったり、リチウムの一部が不活性化しやすくなったりするという問題がある。これにより、十分なサイクル特性や膨れ特性などの電池特性を得ることが困難になる。この問題は、負極活物質として高容量材料を用いた場合に顕著となる。
【0006】
そこで、リチウムイオン二次電池の上記のような諸問題を解決するために、さまざまな検討がなされている。例えば、電解質に各種添加剤を含有させることにより、高温特性、保存特性あるいはサイクル特性などの電池特性を向上させる技術が提案されている。この添加剤としては、フェニルスルホン酸金属塩(例えば、特許文献1参照。)や、有機アルカリ金属ホウ素塩(例えば、特許文献2参照。)や、1,5−ナフタリン−ジスルホン酸ナトリウム(例えば、特許文献3参照)や、2−シアノエチルプロピオネートなどのシアノエチル基を含む化合物(例えば、特許文献4参照。)や、スルホニル基と不飽和結合とを有する化合物(例えば、特許文献5参照。)などが用いられている。また、過充電時の熱暴走を防ぐために電極(特に正極)の表面をアジポニトリルなどの脂肪族ニトリル化合物で被覆する技術(例えば、特許文献6参照。)や、電池容量の低下を防ぐために負極活物質として用いる炭素材料の表面をエタンジオールジリチウムなどのリチウムアルコキシド化合物で被覆する技術(例えば、特許文献7参照。)も提案されている。
【特許文献1】特開2002−056891号公報
【特許文献2】特開2000−268863号公報
【特許文献3】特開2001−357874号公報
【特許文献4】特開2000−243442号公報
【特許文献5】特開2007−273395号公報
【特許文献6】特表2007−519186号公報
【特許文献7】特開平08−138745号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述したように、種々の検討がなされているにもかかわらず、未だ十分なサイクル特性などの電池特性が得られていない。特に、最近では、ポータブル電子機器は益々高性能化および多機能化しており、その消費電力も増大する傾向にあるため、二次電池の充放電が繰り返され、そのサイクル特性が低下しやすい状況にある。これらのことから、二次電池のサイクル特性に関して、より一層の向上が望まれている。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、サイクル特性を向上させることが可能な二次電池、負極、正極および電解質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の二次電池は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な正極活物質を含む正極と、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質を含む負極と、溶媒および電解質塩を含む電解質とを備え、正極、負極および電解質のうちの少なくとも1つは、式(1)で表されるニトリル化合物を含むものである。
【0010】
【化1】
(R1は水素(H)、酸素(O)およびハロゲン元素からなる群より選択される元素と炭素(C)とにより構成された(a1+b1+c1)価の基であり、M1は金属元素である。a1、d1、f1およびe1は1以上の整数であり、b1およびc1は0以上の整数である。ただし、(b1+c1)≧1を満たす。)
【0011】
本発明の負極は、負極集電体に設けられた負極活物質層上に負極被膜を有し、負極活物質層は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質を含み、負極被膜は、式(1)で表されるニトリル化合物を含むものである。
【0012】
本発明の第1の正極は、正極集電体に設けられた正極活物質層上に正極被膜を有し、正極活物質層は、電極反応物質を吸蔵および放出することは可能な正極活物質を含み、正極被膜は、式(1)で表されるニトリル化合物を含むものである。また、本発明の第2の正極は、正極集電体上に、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な正極活物質を含む正極活物質層を有し、正極活物質は、複数の粒子状であり、正極活物質層は、正極活物質の表面を被覆する粒子被覆膜を含み、粒子被覆膜は、式(1)で表されるニトリル化合物を含むものである。
【0013】
本発明の電解質は、溶媒と、電解質塩と、式(1)に示したニトリル化合物とを含むものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の負極、第1の正極、第2の正極あるいは電解質によれば、負極、正極あるいは電解質が式(1)に示したニトリル化合物を含むようにしたので、それらの化学的安定性が向上する。これにより、充放電時に、負極あるいは正極に電極反応物質が吸蔵および放出されやすくなると共に、電解質の分解反応が抑制される。よって、本発明の二次電池によれば、サイクル特性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
本発明の一実施の形態に係る二次電池は、正極および負極と共に電解質を備えている。正極は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な正極活物質を含んでおり、負極は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質を含んでいる。また、電解質は、溶媒と、その溶媒に溶解された電解質塩とを含んでいる。これらの正極、負極および電解質の少なくとも1つは、式(1)で表されるニトリル化合物を含んでいる。この場合には、式(1)に示したニトリル化合物を1種類だけ含んでいてもよいし、2種類以上混合して含んでいてもよい。
【0017】
【化2】
(R1は水素、酸素およびハロゲン元素からなる群より選択される元素と炭素とにより構成された(a1+b1+c1)価の基であり、M1は金属元素である。a1、d1、f1およびe1は1以上の整数であり、b1およびc1は0以上の整数である。ただし、(b1+c1)≧1を満たす。)
【0018】
正極がニトリル化合物を含む場合には、そのニトリル化合物が被膜として正極中に導入される。具体的には、例えば、正極が正極集電体上に正極活物質層を有する場合、ニトリル化合物を含む正極被膜が正極活物質層上に設けられる。
【0019】
負極がニトリル化合物を含む場合には、上記した正極の場合と同様に、そのニトリル化合物が被膜として負極中に導入される。具体的には、例えば、負極が負極集電体上に負極活物質層を有する場合、ニトリル化合物を含む負極被膜が負極活物質層上に設けられる。
【0020】
この他、例えば、ニトリル化合物が粒子被覆膜として正極あるいは負極中に導入されてもよい。具体的には、例えば、正極活物質あるいは負極活物質が複数の粒子状である場合、ニトリル化合物を含む粒子被覆膜が正極活物質あるいは負極活物質の表面を被覆するように設けられてもよい。
【0021】
電解質がニトリル化合物を含む場合には、例えば、ニトリル化合物が添加剤として電解質中に導入される。具体的には、例えば、ニトリル化合物が電解質の溶媒中に溶解あるいは分散される。この場合には、ニトリル化合物の全てが溶解されていてもよいし、その一部だけが溶解していてもよい。
【0022】
正極、負極および電解質のうちの少なくとも1つが式(1)に示したニトリル化合物を含んでいるのは、そのニトリル化合物を含む対象の化学的安定性が向上するからである。詳細には、正極あるいは負極がニトリル化合物を含む場合には、そのニトリル化合物を含む被膜あるいは粒子被覆膜が保護膜として機能するため、正極あるいは負極が化学的に安定化する。これにより、充放電時に、正極あるいは負極において電極反応物質が吸蔵あるいは放出されやすくなると共に、電解質の分解反応が抑制される。一方、電解質がニトリル化合物を含む場合には、そのニトリル化合物が安定化剤として機能するため、電解質が化学的に安定化する。これにより電解質の分解反応が抑制される。
【0023】
正極、負極および電解質のうちの少なくとも1つがニトリル化合物を含んでいることから、そのニトリル化合物を含んでいる対象は、正極、負極および電解質のいずれか1つだけでもよいし、それらのうちの任意の2つの組み合わせでもよいし、それらの全てであってもよい。
【0024】
正極、負極および電解質のうち、ニトリル化合物を含む対象の数は、多いほど好ましい。より高い効果が得られるからである。なお、正極、負極および電解質のいずれか1つだけがニトリル化合物を含む場合には、そのニトリル化合物を含む対象は、電解質、正極および負極の順(電解質<正極<負極)に好ましい。電解質よりも電極(正極,負極)において高い効果が得られると共に、電極の中では正極よりも負極において高い効果が得られるからである。また、正極、負極および電解質のうちのいずれか2つがニトリル化合物を含む場合には、そのニトリル化合物を含む対象は、正極および負極であることが好ましい。電解質よりも電極において高い効果が得られるからである。
【0025】
式(1)に示したニトリル化合物は、1あるいは2以上のニトリル基(−C≡N)と共に、1あるいは2以上のスルホン酸イオン基(−SO3-)あるいはカルボン酸イオン基(−COO- )を有し金属塩を構成している。なお、式(1)中のa1、d1、f1およびe1は同一であってもよいし、異なっていてもよい。このことは、式(1)中のb1およびc1についても同様である。また、式(1)中のd1およびf1は、スルホン酸イオン基およびカルボン酸イオン基の数(b1,c1)や、金属元素(M1)の価数などによって決定される。
【0026】
式(1)中のR1は、水素、酸素およびハロゲン元素からなる群より選択される元素と炭素とにより構成されていれば、その全体構造は任意である。例えば、炭素を含むと共に、直鎖状骨格を有していてもよいし、分岐した鎖状骨格を有していてもよいし、環状骨格を有していてもよい。また、これらの骨格の構成元素として酸素を含んでいてもよいし、不飽和二重結合や三重結合(−C≡C−)を有していてもよい。もちろん、それらの骨格が混在していてもよい。このような骨格を構成する炭素の数は、1以上10以下であるのが好ましい。炭素数が10より多くなると、二次電池の内部抵抗を上昇させるおそれがあるからである。また、R1の骨格を構成する炭素には、ハロゲン元素が導入されていてもよい。その場合、ハロゲン元素の種類は、特に限定されないが、中でも、フッ素(F)、塩素(Cl)あるいは臭素(Br)が好ましく、特に、フッ素が好ましい。ヨウ素(I)よりも、高い効果が得られ、特にフッ素において高い効果が得られるからである。
【0027】
このようなR1としては、例えば、アルキレン基あるいはアルケニレン基などの鎖状炭化水素基や、エーテル結合(−O−)を有する鎖状有機基や、シクロヘキサン環、ベンゼン環あるいはナフタレン環などの環状構造を含む環状炭化水素基や、それらの基が有する水素の一部あるいは全部をハロゲン化した基などが挙げられる。中でも、直鎖状の炭化水素基、エーテル結合(−O−)を有する直鎖状有機基、またはベンゼン環あるいはナフタレン環を有する基が好ましい。その他の構造のR1を有するニトリル化合物よりも、容易に合成可能であると共に、高い効果が得られるからである。特に、骨格を構成する炭素は、隣り合う元素と単結合しているのが好ましく、直鎖状の飽和炭化水素基が好ましい。
【0028】
式(1)中のニトリル基は、R1に1以上導入されていれば、その数(a1)は任意である。また、式(1)中のスルホン酸イオン基およびカルボン酸イオン基は、R1に導入されていると共に、スルホン酸イオン基およびカルボン酸イオン基の数が合計(b1+c1)で1以上であれば任意である。例えば、R1にスルホン酸イオン基およびカルボン酸イオン基のいずれかが単独で1あるいは2以上導入されていてもよいし、スルホン酸イオン基およびカルボン酸イオン基が併せてR1に導入されていてもよい。この場合、スルホン酸イオン基が単独でR1に導入されているのが好ましい。容易に合成可能であると共に、高い効果が得られるからである。
【0029】
式(1)中のM1は、スルホン酸イオン基あるいはカルボン酸イオン基とイオン結合する金属元素であれば任意である。このため、ニトリル化合物がスルホン酸イオン基およびカルボン酸イオン基を複数有する場合には、M1は、1種であってもよいし、複数種であってもよい。M1としては、例えば、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)あるいはカリウム(K)などのアルカリ金属元素や、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)あるいはカルシウム(Ca)などのアルカリ土類金属元素や、遷移元素である長周期型周期表における3族元素〜11族元素や、亜鉛(Zn)などの長周期型周期表における12族元素や、アルミニウム(Al)あるいはガリウム(Ga)などの長周期型周期表における13族元素などが挙げられる。中でも、M1としては、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素のうちの少なくとも1種が好ましい。高い効果が得られるからである。特に、式(1)中のM1は、電極反応物質と同様の金属元素であるのが好ましい。具体的には、電極反応物質がリチウムイオンである場合には、M1はリチウムであることが好ましい。より高い効果が得られるからである。
【0030】
なお、本発明における「アルカリ土類金属」とは、ベリリウムおよびマグネシウムを含み、すなわち長周期型周期表における2族元素のことである。この長周期型周期表とは、IUPAC(国際純正・応用化学連合)が提唱する無機化学命名法改訂版により表されるものである。具体的には、2族元素とは、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよびラジウムである。また、3族元素〜13族元素についても長周期型周期表において示された元素である。これらのことは以降においても同様である。
【0031】
式(1)に示したニトリル化合物としては、例えば、式(1−1)〜式(1−68)で表される一連の化合物が挙げられる。すなわち、式(1−1)〜式(1−30)に示した化合物は、ニトリル基とスルホン酸イオン基とを有するリチウム塩である。より具体的には、式(1−1)〜式(1−9)に示した化合物は、R1として、鎖状炭化水素基であるアルキレン基(式(1−1)〜式(1−7))、鎖状炭化水素基のハロゲン化された基(式(1−8))あるいはエーテル結合を有する鎖状有機基(式(1−9))を有する化合物の一例であり、式(1−10)に示した化合物は、R1としてシクロヘキサン環を含む基を有する化合物の一例であり、式(1−11)〜式(1−22)に示した化合物は、R1としてベンゼン環を含む基を有する化合物の一例であり、式(1−23)〜式(1−30)に示した化合物は、R1としてナフタレン環を含む基を有する化合物の一例である。
【0032】
また、式(1−31)〜式(1−60)に示した化合物は、ニトリル基とカルボン酸イオン基とを有するリチウム塩である。より具体的には、式(1−31)〜式(1−39)に示した化合物は、R1として、鎖状炭化水素基であるアルキレン基(式(1−31)〜式(1−37))、鎖状炭化水素基のハロゲン化された基(式(1−38))あるいはエーテル結合を有する鎖状有機基(式(1−39))を有する化合物の一例であり、式(1−40)に示した化合物は、R1としてシクロヘキサン環を含む基を有する化合物の一例であり、式(1−41)〜式(1−52)に示した化合物は、R1としてベンゼン環を含む基を有する化合物の一例であり、式(1−53)〜式(1−60)に示した化合物は、R1としてナフタレン環を含む基を有する化合物の一例である。
【0033】
また、式(1−61)〜式(1−68)に示した化合物は、ニトリル基とスルホン酸イオン基およびカルボン酸イオン基とを有するリチウム塩、ニトリル基とスルホン酸イオン基あるいはカルボン酸イオン基とを有するナトリウム塩、マグネシウム塩またはアルミニウム塩である。
【0034】
【化3】
【0035】
【化4】
【0036】
【化5】
【0037】
【化6】
【0038】
【化7】
【0039】
【化8】
【0040】
【化9】
【0041】
式(1)に示したニトリル化合物としては、中でも、式(1−1)あるいは式(1−2)に示した化合物が好ましい。容易に合成可能であると共に、高い効果が得られるからである。なお、式(1)に示したニトリル化合物の具体例は、式(1)に示した構造を有していれば、式(1−1)〜式(1−68)に示した構造を有するものに限定されるものではない。
【0042】
この二次電池は、ニトリル化合物を含むように正極、負極および電解質のうちの少なくとも1つを形成あるいは調整することにより製造される。
【0043】
具体的には、正極あるいは負極がニトリル化合物を含む場合には、そのニトリル化合物を含む溶液を用いる。すなわち、正極がニトリル化合物を含む場合には、例えば、ニトリル化合物を含む溶液中に正極活物質層を浸漬させたり、あるいはニトリル化合物を含む溶液を正極活物質層の表面に塗布することにより、そのニトリル化合物を含む正極被膜を形成する。また、負極がニトリル化合物を含む場合には、例えば、上記した正極の場合と同様の手順により、ニトリル化合物を含む溶液中に負極活物質層を浸漬させたり、あるいはニトリル化合物を含む溶液を負極活物質層の表面に塗布することにより、そのニトリル化合物を含む負極被膜を形成する。これらの場合には、ニトリル化合物がカルボン酸イオン基あるいはスルホン酸イオン基を含んで金属塩を構成しており、いわゆる水溶性を有することから、そのニトリル化合物を分散あるいは溶解させる溶媒としては、水などを用いることができる。このため、分散あるいは溶解させる溶媒のコストが安くて済むと共に、排気用の施設などが不要である。
【0044】
電解質がニトリル化合物を含む場合には、例えば、溶媒中にニトリル化合物を溶解あるいは分散させたのち、その溶媒中に電解質塩を溶解させる。
【0045】
この二次電池およびその製造方法によれば、正極、負極および電解質のうちの少なくとも1つが式(1)に示したニトリル化合物を含むようにしたので、それを含まない場合や、式(1)に示したニトリル化合物に該当しない他の化合物(例えば、メタンスルホン酸リチウムやアセトニトリル)を含む場合と比較して、式(1)に示したニトリル化合物を含む正極、負極および電解質のうちの少なくとも1つの化学的安定性が向上する。このため、充放電をした際に、正極および負極と電解質とが反応しにくくなり、電解質の分解反応が抑制される。よって、サイクル特性を向上させることができる。
【0046】
この場合には、式(1)に示したニトリル化合物を含む溶液を用いて、そのニトリル化合物を含むように正極および負極のうちの少なくとも一方を形成すれば、減圧環境などの特殊な環境条件を要する方法を用いる場合と比較して、式(1)に示したニトリル化合物を含む正極および負極を形成することができる。
【0047】
特に、式(1)に示したニトリル化合物が式(1−1)あるいは式(1−2)に示した化合物であれば、より電解質の分解反応が抑制されるため、サイクル特性をより向上させることができる。
【0048】
次に、本実施の形態に係る二次電池について、具体例を挙げて詳細を説明する。
【0049】
ここで説明する二次電池は、例えば、負極の容量が電極反応物質であるリチウムイオンの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池である。
【0050】
(第1の二次電池)
図1および図2は第1の二次電池の断面構成を表しており、図2では図1に示した巻回電極体20の一部を拡大して示している。この第1の二次電池では、例えば、正極21、負極22および電解質のうち、負極22がニトリル化合物を含んでいる。
【0051】
この二次電池は、主に、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、セパレータ23を介して正極21と負極22とが積層および巻回された巻回電極体20と、一対の絶縁板12,13とが収納されたものである。この円柱状の電池缶11を用いた電池構造は、円筒型と呼ばれている。
【0052】
電池缶11は、例えば、一端部が閉鎖されると共に他端部が開放された中空構造を有しており、鉄、アルミニウムあるいはそれらの合金などの金属材料により構成されている。なお、電池缶11が鉄により構成される場合には、例えば、ニッケルなどの鍍金が施されてもよい。一対の絶縁板12,13は、巻回電極体20を上下から挟み、その巻回周面に対して垂直に延在するように配置されている。
【0053】
電池缶11の開放端部には、電池蓋14と、その内側に設けられた安全弁機構15および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient:PTC素子)16とが、ガスケット17を介してかしめられることにより取り付けられている。これにより、電池缶11の内部は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の金属材料により構成されている。安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されている。この安全弁機構15では、内部短絡、あるいは外部からの加熱などに起因して内圧が一定以上となった場合に、ディスク板15Aが反転して電池蓋14と巻回電極体20との間の電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子16は、温度の上昇に応じて抵抗が増大することにより、電流を制限して大電流に起因する異常な発熱を防止するものである。ガスケット17は、例えば、絶縁材料により構成されており、その表面にはアスファルトが塗布されている。
【0054】
巻回電極体20の巻回中心には、例えば、センターピン24が挿入されている。この巻回電極体20では、アルミニウムなどの金属材料により構成された正極リード25が正極21に接続されていると共に、ニッケルなどの金属材料により構成された負極リード26が負極22に接続されている。正極リード25は、安全弁機構15に溶接などされて電池蓋14と電気的に接続されており、負極リード26は、電池缶11に溶接などされて電気的に接続されている。
【0055】
正極21は、例えば、一対の面を有する正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bが設けられたものである。ただし、正極活物質層21Bは、正極集電体21Aの片面だけに設けられていてもよい。
【0056】
正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム、ニッケルあるいはステンレス(SUS)などの金属材料により構成されている。
【0057】
正極活物質層21Bは、正極活物質として、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な正極材料のいずれか1種あるいは2種以上を含んでおり、必要に応じて正極結着剤あるは正極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0058】
リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、リチウム含有化合物が好ましい。高いエネルギー密度が得られるからである。このリチウム含有化合物としては、例えば、リチウムと遷移金属元素とを構成元素として有する複合酸化物や、リチウムと遷移金属元素とを構成元素として有するリン酸化合物などが挙げられる。中でも、遷移金属元素としてコバルト、ニッケル、マンガンおよび鉄のうちの少なくとも1種を有するものが好ましい。より高い電圧が得られるからである。その化学式は、例えば、Lix M1O2 あるいはLiy M2PO4 で表される。式中、M1およびM2は、1種類以上の遷移金属元素を表す。xおよびyの値は、充放電状態により異なり、通常、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10である。
【0059】
リチウムと遷移金属元素とを有する複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(Lix CoO2 )、リチウムニッケル複合酸化物(Lix NiO2 )、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(Lix Ni1-z Coz O2 (z<1))、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(Lix Ni(1-v-w) Cov Mnw O2 (v+w<1))、あるいはスピネル型構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2 O4 )などが挙げられる。中でも、コバルトを有する複合酸化物が好ましい。高い電池容量が得られると共に、優れたサイクル特性も得られるからである。また、リチウムコバルト複合酸化物としては、コバルトの一部をアルミニウムおよびマグネシウム(Mg)に置き換えた複合酸化物(LiCo(1-j-k) Alj Mgk O2 (0<j<0.1、0<k<0.1))などが挙げられる。さらに、リチウムと遷移金属元素とを有するリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO4 )あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe1-u Mnu PO4 (u<1))などが挙げられる。
【0060】
この他、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムあるいは二酸化マンガンなどの酸化物や、二硫化チタンあるいは硫化モリブデンなどの二硫化物や、セレン化ニオブなどのカルコゲン化物や、硫黄、ポリアニリンあるいはポリチオフェンなどの導電性高分子も挙げられる。
【0061】
もちろん、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な正極材料は、上記以外のものであってもよい。また、一連の正極材料は、任意の組み合わせで2種類以上混合されてもよい。
【0062】
正極導電剤としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックあるいはケチェンブラックなどの炭素材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種類が混合されてもよい。なお、正極導電剤は、導電性を有する材料であれば、金属材料あるいは導電性高分子などであってもよい。
【0063】
正極結着剤としては、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムあるいはエチレンプロピレンジエンなどの合成ゴムや、ポリフッ化ビニリデンなどの高分子材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
【0064】
負極22は、例えば、一対の面を有する負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bよび負極被膜22Cがこの順に設けられたものである。ただし、負極活物質層22Bは、負極集電体22Aの片面だけに設けられていてもよい。このことは、負極被膜22Cについても同様である。
【0065】
負極集電体22Aは、例えば、銅、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料により構成されている。この負極集電体22Aの表面は、粗面化されているのが好ましい。いわゆるアンカー効果により負極集電体22Aと負極活物質層22Bとの間の密着性が向上するからである。この場合には、少なくとも負極活物質層22Bと対向する領域において、負極集電体22Aの表面が粗面化されていればよい。粗面化の方法としては、例えば、電解処理により微粒子を形成する方法などが挙げられる。この電解処理とは、電解槽中において電解法により負極集電体22Aの表面に微粒子を形成して凹凸を設ける方法である。このような電解処理により粗面化された銅箔を含め、電解処理が施された銅箔は、一般に「電解銅箔」と呼ばれている。
【0066】
負極活物質層22Bは、負極活物質として、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極材料のいずれか1種あるいは2種以上を含んでおり、必要に応じて、負極結着剤や負極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。なお、負極結着剤および負極導電剤に関する詳細は、例えば、正極21について説明した正極結着剤および正極導電剤の場合と同様である。
【0067】
リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能であると共に金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として有する材料が挙げられる。高いエネルギー密度が得られるからである。このような負極材料は、金属元素あるいは半金属元素の単体でも合金でも化合物でもよく、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有するようなものでもよい。
【0068】
なお、本発明における「合金」には、2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含むものも含まれる。また、「合金」は、非金属元素を含んでいてもよい。この組織には、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物、あるいはそれらのうちの2種以上が共存するものがある。
【0069】
上記した金属元素あるいは半金属元素としては、例えば、リチウムと合金を形成することが可能な金属元素あるいは半金属元素が挙げられる。具体的には、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、パラジウム(Pd)あるいは白金(Pt)などである。中でも、ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種が好ましく、ケイ素がより好ましい。リチウムイオンを吸蔵および放出する能力が大きいため、高いエネルギー密度が得られるからである。
【0070】
ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種を有する負極材料としては、例えば、ケイ素の単体、合金あるいは化合物や、スズの単体、合金あるいは化合物や、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有する材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
【0071】
ケイ素の単体を有する負極材料としては、例えば、ケイ素の単体を主体として有する材料が挙げられる。この負極材料を含む負極活物質層22Bは、例えば、ケイ素単体層の間にケイ素以外の第2の構成元素と酸素とが存在する構造を有している。この負極活物質層22Bにおけるケイ素および酸素の合計の含有量は、50質量%以上であるのが好ましく、特にケイ素単体の含有量が50質量%以上であるのが好ましい。ケイ素以外の第2の構成元素としては、例えば、チタン(Ti)、クロム、マンガン(Mn)、鉄、コバルト(Co)、ニッケル、銅、亜鉛、インジウム、銀、マグネシウム、アルミニウム、ゲルマニウム、スズ、ビスマスあるいはアンチモン(Sb)などが挙げられる。ケイ素の単体を主体として有する材料を含む負極活物質層22Bは、例えば、ケイ素と他の構成元素とを共蒸着することにより形成可能である。
【0072】
ケイ素の合金としては、例えば、ケイ素以外の第2の構成元素として、スズ、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンおよびクロムからなる群のうちの少なくとも1種を有するものが挙げられる。ケイ素の化合物としては、例えば、酸素あるいは炭素(C)を有するものが挙げられ、ケイ素に加えて、上記した第2の構成元素を有していてもよい。ケイ素の合金あるいは化合物の一例としては、SiB4 、SiB6 、Mg2 Si、Ni2 Si、TiSi2 、MoSi2 、CoSi2 、NiSi2 、CaSi2 、CrSi2 、Cu5 Si、FeSi2 、MnSi2 、NbSi2 、TaSi2 、VSi2 、WSi2 、ZnSi2 、SiC、Si3 N4 、Si2 N2 O、SiOv (0<v≦2)あるいはLiSiOなどが挙げられる。
【0073】
スズの合金としては、例えば、スズ以外の第2の構成元素として、ケイ素、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンおよびクロムからなる群のうちの少なくとも1種を有するものが挙げられる。スズの化合物としては、例えば、酸素あるいは炭素を有するものが挙げられ、スズに加えて、上記した第2の構成元素を有していてもよい。スズの合金あるいは化合物の一例としては、SnOw (0<w≦2)、SnSiO3 、LiSnOあるいはMg2 Snなどが挙げられる。
【0074】
特に、ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種を有する負極材料としては、例えば、スズを第1の構成元素とし、それに加えて第2および第3の構成元素を有するものが好ましい。第2の構成元素は、コバルト、鉄、マグネシウム、チタン、バナジウム(V)、クロム、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ジルコニウム、ニオブ(Nb)、モリブデン、銀、インジウム、セリウム(Ce)、ハフニウム、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ビスマスおよびケイ素からなる群のうちの少なくとも1種である。第3の構成元素は、ホウ素、炭素、アルミニウムおよびリン(P)からなる群のうちの少なくとも1種である。第2および第3の構成元素を有することにより、サイクル特性が向上するからである。
【0075】
中でも、スズ、コバルトおよび炭素を構成元素として有し、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下、スズおよびコバルトの合計に対するコバルトの割合(Co/(Sn+Co))が30質量%以上70質量%以下であるSnCoC含有材料が好ましい。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。
【0076】
このSnCoC含有材料は、必要に応じて、さらに他の構成元素を有していてもよい。他の構成元素としては、例えば、ケイ素、鉄、ニッケル、クロム、インジウム、ニオブ、ゲルマニウム、チタン、モリブデン、アルミニウム、リン、ガリウムあるいはビスマスなどが好ましく、それらの2種以上を有していてもよい。より高い効果が得られるからである。
【0077】
なお、SnCoC含有材料は、スズ、コバルトおよび炭素を含む相を有しており、その相は、低結晶性あるいは非晶質な相であるのが好ましい。この相は、リチウムイオンと反応可能な反応相であり、これによって優れたサイクル特性が得られるようになっている。この相のX線回折により得られる回折ピークの半値幅は、特定X線としてCuKα線を用い、挿引速度を1°/minとした場合に、回折角2θで1.0°以上であることが好ましい。リチウムイオンがより円滑に吸蔵および放出されると共に、電解質との反応性が低減されるからである。
【0078】
X線回折により得られた回折ピークがリチウムイオンと反応可能な反応相に対応するものであるか否かは、リチウムイオンとの電気化学的反応の前後におけるX線回折チャートを比較することにより容易に判断することができる。例えば、リチウムイオンとの電気化学的反応の前後において回折ピークの位置が変化すれば、リチウムイオンと反応可能な反応相に対応するものである。この場合には、例えば、低結晶性あるいは非晶質な反応相の回折ピークが2θ=20°〜50°の間に見られる。この低結晶性あるいは非晶質な反応相は、例えば、上記した各構成元素を含んでおり、主に、炭素により低結晶化あるいは非晶質化しているものと考えられる。
【0079】
なお、SnCoC含有材料は、低結晶性あるいは非晶質な相に加えて、各構成元素の単体または一部を含む相を有している場合もある。
【0080】
特に、SnCoC含有材料では、構成元素である炭素の少なくとも一部が、他の構成元素である金属元素あるいは半金属元素と結合しているのが好ましい。スズなどの凝集あるいは結晶化が抑制されるからである。
【0081】
元素の結合状態を調べる測定方法としては、例えばX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)が挙げられる。このXPSは、軟X線(市販の装置ではAl−Kα線か、Mg−Kα線を用いる)を試料表面に照射し、試料表面から飛び出してくる光電子の運動エネルギーを測定することにより、試料表面から数nmの領域の元素組成、および元素の結合状態を調べる方法である。
【0082】
元素の内殻軌道電子の束縛エネルギーは、第1近似的には、元素上の電荷密度と相関して変化する。例えば、炭素元素の電荷密度が近傍に存在する元素との相互作用により減少した場合には、2p電子などの外殻電子が減少しているので、炭素元素の1s電子は殻から強い束縛力を受けることになる。すなわち、元素の電荷密度が減少すると、束縛エネルギーは高くなる。XPSでは、束縛エネルギーが高くなると、高いエネルギー領域にピークはシフトするようになっている。
【0083】
XPSにおいて、炭素の1s軌道(C1s)のピークは、グラファイトであれば、金原子の4f軌道(Au4f)のピークが84.0eVに得られるようにエネルギー較正された装置において、284.5eVに現れる。また、表面汚染炭素であれば、284.8eVに現れる。これに対して、炭素元素の電荷密度が高くなる場合、例えば炭素よりも陽性な元素と結合している場合には、C1sのピークは、284.5eVよりも低い領域に現れる。すなわち、SnCoC含有材料に含まれる炭素の少なくとも一部が他の構成元素である金属元素または半金属元素などと結合している場合には、SnCoC含有材料について得られるC1sの合成波のピークが284.5eVよりも低い領域に現れる。
【0084】
なお、XPS測定を行う場合には、表面が表面汚染炭素で覆われている際に、XPS装置に付属のアルゴンイオン銃で表面を軽くスパッタするのが好ましい。また、測定対象のSnCoC含有材料が負極22中に存在する場合には、二次電池を解体して負極22を取り出したのち、炭酸ジメチルなどの揮発性溶媒で洗浄するとよい。負極22の表面に存在する揮発性の低い溶媒と電解質塩とを除去するためである。これらのサンプリングは、不活性雰囲気下で行うのが望ましい。
【0085】
また、XPS測定では、スペクトルのエネルギー軸の補正に、例えばC1sのピークを用いる。通常、物質表面には表面汚染炭素が存在しているので、表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとし、それをエネルギー基準とする。なお、XPS測定では、C1sのピークの波形は、表面汚染炭素のピークとSnCoC含有材料中の炭素のピークとを含んだ形として得られるので、例えば市販のソフトウエアを用いて解析することにより、表面汚染炭素のピークと、SnCoC含有材料中の炭素のピークとを分離する。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
【0086】
このSnCoC含有材料は、例えば、各構成元素の原料を混合した混合物を電気炉、高周波誘導炉あるいはアーク溶解炉などで溶解させたのち、凝固させることにより形成可能である。また、ガスアトマイズあるいは水アトマイズなどの各種アトマイズ法や、各種ロール法や、メカニカルアロイング法あるいはメカニカルミリング法などのメカノケミカル反応を利用した方法などを用いてもよい。中でも、メカノケミカル反応を利用した方法が好ましい。SnCoC含有材料が低結晶性あるいは非晶質な構造になるからである。メカノケミカル反応を利用した方法では、例えば、遊星ボールミル装置やアトライタなどの製造装置を用いることができる。
【0087】
原料には、各構成元素の単体を混合して用いてもよいが、炭素以外の構成元素の一部については合金を用いるのが好ましい。このような合金に炭素を加えてメカニカルアロイング法を利用した方法によって合成することにより、低結晶性あるいは非晶質な構造が得られ、反応時間も短縮されるからである。なお、原料の形態は、粉体であってもよいし、塊状であってもよい。
【0088】
このSnCoC含有材料の他、スズ、コバルト、鉄および炭素を構成元素として有するSnCoFeC含有材料も好ましい。このSnCoFeC含有材料の組成は、任意に設定可能である。例えば、鉄の含有量を少なめに設定する場合の組成としては、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下、鉄の含有量が0.3質量%以上5.9質量%以下、スズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合(Co/(Sn+Co))が30質量%以上70質量%以下であるのが好ましい。また、例えば、鉄の含有量を多めに設定する場合の組成としては、炭素の含有量が11.9質量%以上29.7質量%以下、スズとコバルトと鉄との合計に対するコバルトと鉄との合計の割合((Co+Fe)/(Sn+Co+Fe))が26.4質量%以上48.5質量%以下、コバルトと鉄との合計に対するコバルトの割合(Co/(Co+Fe))が9.9質量%以上79.5質量%以下であるのが好ましい。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。このSnCoFeC含有材料の結晶性、元素の結合状態の測定方法、および形成方法などについては、上記したSnCoC含有材料と同様である。
【0089】
リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極材料として、ケイ素の単体、合金あるいは化合物や、スズの単体、合金あるいは化合物や、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有する材料を用いた負極活物質層22Bは、例えば、気相法、液相法、溶射法、塗布法あるいは焼成法、またはそれらの2種以上の方法を用いて形成される。この場合には、負極集電体22Aと負極活物質層22Bとが界面の少なくとも一部において合金化しているのが好ましい。詳細には、両者の界面において、負極集電体22Aの構成元素が負極活物質層22Bに拡散していてもよいし、負極活物質層22Bの構成元素が負極集電体22Aに拡散していてもよいし、それらの構成元素が互いに拡散し合っていてもよい。充放電時における負極活物質層22Bの膨張および収縮に起因する破壊が抑制されると共に、負極集電体22Aと負極活物質層22Bとの間の電子伝導性が向上するからである。
【0090】
なお、気相法としては、例えば、物理堆積法あるいは化学堆積法、具体的には真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、熱化学気相成長(Chemical Vapor Deposition :CVD)法あるいはプラズマ化学気相成長法などが挙げられる。液相法としては、電解鍍金あるいは無電解鍍金などの公知の手法を用いることができる。塗布法とは、例えば、粒子状の負極活物質を結着剤などと混合したのち、溶剤に分散させて塗布する方法である。焼成法とは、例えば、塗布法により塗布したのち、結着剤などの融点よりも高い温度で熱処理する方法である。焼成法に関しても公知の手法が利用可能であり、例えば、雰囲気焼成法、反応焼成法あるいはホットプレス焼成法が挙げられる。
【0091】
上記した他、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、炭素材料が挙げられる。この炭素材料とは、例えば、易黒鉛化性炭素や、(002)面の面間隔が0.37nm以上の難黒鉛化性炭素や、(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛などである。より具体的には、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、活性炭あるいはカーボンブラック類などがある。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスあるいは石油コークスなどが含まれる。有機高分子化合物焼成体とは、フェノール樹脂やフラン樹脂などを適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。炭素材料は、リチウムイオンの吸蔵および放出に伴う結晶構造の変化が非常に少ないため、高いエネルギー密度が得られると共に優れたサイクル特性が得られ、さらに導電剤としても機能するので好ましい。なお、炭素材料の形状は、繊維状、球状、粒状あるいは鱗片状のいずれでもよい。
【0092】
また、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な金属酸化物あるいは高分子化合物なども挙げられる。金属酸化物とは、例えば、酸化鉄、酸化ルテニウムあるいは酸化モリブデンなどであり、高分子化合物とは、例えば、ポリアセチレン、ポリアニリンあるいはポリピロールなどである。
【0093】
もちろん、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極材料は、上記以外のものであってもよい。また、上記した一連の負極材料は、任意の組み合わせで2種以上混合されもよい。
【0094】
上記した負極材料からなる負極活物質は、複数の粒子状をなしている。すなわち、負極活物質層22Bは、複数の負極活物質粒子を有しており、その負極活物質粒子は、例えば、上記した気相法などにより形成されている。ただし、負極活物質粒子は、気相法以外の方法により形成されていてもよい。
【0095】
負極活物質粒子が気相法などの堆積法により形成される場合には、その負極活物質粒子が単一の堆積工程を経て形成された単層構造を有していてもよいし、複数回の堆積工程を経て形成された多層構造を有していてもよい。ただし、堆積時に高熱を伴う蒸着法などにより負極活物質粒子を形成する場合には、その負極活物質粒子が多層構造を有しているのが好ましい。負極材料の堆積工程を複数回に分割して行う(負極材料を順次薄く形成して堆積させる)ことにより、その堆積工程を1回で行う場合と比較して負極集電体22Aが高熱に晒される時間が短くなり、熱的ダメージを受けにくくなるからである。
【0096】
この負極活物質粒子は、例えば、負極集電体22Aの表面から負極活物質層22Bの厚さ方向に成長しており、その根元において負極集電体22Aに連結されている。この場合には、負極活物質粒子が気相法により形成されており、上記したように、負極集電体22Aとの界面の少なくとも一部において合金化しているのが好ましい。詳細には、両者の界面において、負極集電体22Aの構成元素が負極活物質粒子に拡散していてもよいし、負極活物質粒子の構成元素が負極集電体22Aに拡散していてもよいし、両者の構成元素が互いに拡散しあっていてもよい。
【0097】
特に、負極活物質層22Bは、必要に応じて、負極活物質粒子の表面(電解質と接する領域)を被覆する酸化物含有膜を有しているのが好ましい。酸化物含有膜が電解質に対する保護膜として機能し、充放電を繰り返しても電解質の分解反応が抑制されるため、サイクル特性が向上するからである。この酸化物含有膜は、負極活物質粒子の表面のうちの一部を被覆していてもよいし、全部を被覆していてもよい。
【0098】
この酸化物含有膜は、例えば、ケイ素、ゲルマニウムおよびスズからなる群のうちの少なくとも1種の酸化物を含有しており、中でも、ケイ素の酸化物を含有しているのが好ましい。負極活物質粒子の表面を全体に渡って容易に被覆しやすいと共に、優れた保護作用が得られるからである。もちろん、酸化物含有膜は、上記以外の他の酸化物を含有していてもよい。この酸化物含有膜は、例えば、気相法あるいは液相法により形成されており、中でも液相析出法、ゾルゲル法、塗布法あるいはディップコーティング法などの液相法が好ましく、液相析出法がより好ましい。負極活物質粒子の表面を広い範囲に渡って容易に被覆しやすいからである。
【0099】
また、負極活物質層22Bは、必要に応じて、負極活物質粒子の粒子間の隙間や粒子内の隙間に、リチウムと合金化しない金属材料を有しているのが好ましい。金属材料を介して複数の負極活物質粒子が結着されると共に、上記した隙間に金属材料が存在することで負極活物質層22Bの膨張および収縮が抑制されるため、サイクル特性が向上するからである。
【0100】
この金属材料は、例えば、リチウムと合金化しない金属元素を構成元素として有している。このような金属元素としては、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛および銅からなる群のうちの少なくとも1種が挙げられ、中でも、コバルトが好ましい。上記した隙間に金属材料が容易に入り込みやすいと共に、優れた結着作用が得られるからである。もちろん、金属材料は、上記以外の他の金属元素を有していてもよい。ただし、ここで言う「金属材料」とは、単体に限らず、合金や金属化合物まで含む広い概念である。この金属材料は、例えば、気相法あるいは液相法により形成されており、中でも電解鍍金法あるいは無電解鍍金法などの液相法が好ましく、電解鍍金法がより好ましい。上記した隙間に金属材料が入り込みやすくなると共に、その形成時間が短くて済むからである。
【0101】
なお、負極活物質層22Bは、上記した酸化物含有膜あるいは金属材料のいずれか一方だけを有していてもよいし、双方を有していてもよい。ただし、サイクル特性をより向上させるためには、双方を含んでいるのが好ましい。
【0102】
ここで、図3〜図6を参照して、負極22の詳細な構成について説明する。
【0103】
まず、負極活物質層22Bが複数の負極活物質粒子と共に酸化物含有膜を有する場合について説明する。図3は本発明の負極22の断面構造を模式的に表しており、図4は参考例の負極の断面構造を模式的に表している。図3および図4では、負極活物質粒子が単層構造を有している場合を示している。
【0104】
本発明の負極では、図3に示したように、例えば、蒸着法などの気相法により負極集電体22A上に負極材料が堆積されると、その負極集電体22A上に複数の負極活物質粒子221が形成される。この場合には、負極集電体22Aの表面が粗面化され、その表面に複数の突起部(例えば、電解処理により形成された微粒子)が存在すると、負極活物質粒子221が上記した突起部ごとに厚さ方向に成長するため、複数の負極活物質粒子221が負極集電体22A上において配列されると共に根元において負極集電体22Aの表面に連結される。こののち、例えば、液相析出法などの液相法により負極活物質粒子221の表面に酸化物含有膜222が形成されると、その酸化物含有膜222は負極活物質粒子221の表面をほぼ全体に渡って被覆し、特に、負極活物質粒子221の頭頂部から根元に至る広い範囲を被覆する。この酸化物含有膜222による広範囲な被覆状態は、その酸化物含有膜222が液相法により形成された場合に得られる特徴である。すなわち、液相法により酸化物含有膜222を形成すると、その被覆作用が負極活物質粒子221の頭頂部だけでなく根元まで広く及ぶため、その根元まで酸化物含有膜222により被覆される。
【0105】
これに対して、参考例の負極では、図4に示したように、例えば、気相法により複数の負極活物質粒子221が形成されたのち、同様に気相法により酸化物含有膜223が形成されると、その酸化物含有膜223は負極活物質粒子221の頭頂部だけを被覆する。この酸化物含有膜223による狭範囲な被覆状態は、その酸化物含有膜223が気相法により形成された場合に得られる特徴である。すなわち、気相法により酸化物含有膜223を形成すると、その被覆作用が負極活物質粒子221の頭頂部に及ぶものの根元まで及ばないため、その根元までは酸化物含有膜223により被覆されない。
【0106】
なお、図3では、気相法により負極活物質層22Bが形成される場合について説明したが、焼結法などにより負極活物質層22Bが形成される場合においても同様に、複数の負極活物質粒子の表面をほぼ全体に渡って被覆するように酸化物含有膜が形成される。
【0107】
次に、負極活物質層22Bが複数の負極活物質粒子と共にリチウムと合金化しない金属材料を有する場合について説明する。図5は負極22の断面構造を拡大して表しており、(A)は走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope:SEM)写真(二次電子像)、(B)は(A)に示したSEM像の模式絵である。図5では、複数の負極活物質粒子221が粒子内に多層構造を有している場合を示している。
【0108】
負極活物質粒子221が多層構造を有する場合には、その複数の負極活物質粒子221の配列構造、多層構造および表面構造に起因して、負極活物質層22B中に複数の隙間224が生じている。この隙間224は、主に、発生原因に応じて分類された2種類の隙間224A,224Bを含んでいる。隙間224Aは、隣り合う負極活物質粒子221間に生じるものであり、隙間224Bは、負極活物質粒子221内の各階層間に生じるものである。
【0109】
なお、負極活物質粒子221の露出面(最表面)には、空隙225が生じる場合がある。この空隙225は、負極活物質粒子221の表面にひげ状の微細な突起部(図示せず)が生じることに伴い、その突起部間に生じるものである。この空隙225は、負極活物質粒子221の露出面において、全体に渡って生じる場合もあれば、一部だけに生じる場合もある。ただし、上記したひげ状の突起部は、負極活物質粒子221の形成時ごとにその表面に生じるため、空隙225は、負極活物質粒子221の露出面だけでなく、各階層間にも生じる場合がある。
【0110】
図6は負極22の他の断面構造を表しており、図5に対応している。負極活物質層22Bは、隙間224A,224Bに、リチウムと合金化しない金属材料226を有している。この場合には、隙間224A,224Bのうちのいずれか一方だけに金属材料226を有していてもよいが、双方に金属材料226を有しているのが好ましい。より高い効果が得られるからである。
【0111】
この金属材料226は、隣り合う負極活物質粒子221間の隙間224Aに入り込んでいる。詳細には、気相法などにより負極活物質粒子221が形成される場合には、上記したように、負極集電体22Aの表面に存在する突起部ごとに負極活物質粒子221が成長するため、隣り合う負極活物質粒子221間に隙間224Aが生じる。この隙間224Aは、負極活物質層22Bの結着性を低下させる原因となるため、その結着性を高めるために、上記した隙間224Aに金属材料226が充填されている。この場合には、隙間224Aの一部でも充填されていればよいが、その充填量が多いほど好ましい。負極活物質層22Bの結着性がより向上するからである。金属材料226の充填量は、20%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましい。
【0112】
また、金属材料226は、負極活物質粒子221内の隙間224Bに入り込んでいる。詳細には、負極活物質粒子221が多層構造を有する場合には、各階層間に隙間224Bが生じる。この隙間224Bは、上記した隙間224Aと同様に、負極活物質層22Bの結着性を低下させる原因となるため、その結着性を高めるために、上記した隙間224Bに金属材料226が充填されている。この場合には、隙間224Bの一部でも充填されていればよいが、その充填量が多いほど好ましい。負極活物質層22Bの結着性がより向上するからである。
【0113】
なお、負極活物質層22Bは、最上層の負極活物質粒子221の露出面に生じるひげ状の微細な突起部(図示せず)が二次電池の性能に悪影響を及ぼすことを抑えるために、空隙225に金属材料226を有していてもよい。詳細には、気相法などにより負極活物質粒子221が形成される場合には、その表面にひげ状の微細な突起部が生じるため、その突起部間に空隙225が生じる。この空隙225は、負極活物質粒子221の表面積の増加を招き、その表面に形成される不可逆性の被膜の量も増加させるため、電極反応(充放電反応)の進行度を低下させる原因となる可能性がある。したがって、電極反応の進行度の低下を抑えるために、上記した空隙225に金属材料226が埋め込まれている。この場合には、空隙225の一部でも埋め込まれていればよいが、その埋め込む量が多いほど好ましい。電極反応の進行度の低下がより抑えられるからである。図6において、最上層の負極活物質粒子221の表面に金属材料226が点在していることは、その点在箇所に上記した微細な突起部が存在していることを表している。もちろん、金属材料226は、必ずしも負極活物質粒子221の表面に点在していなければならないわけではなく、その表面全体を被覆していてもよい。
【0114】
特に、隙間224Bに入り込んだ金属材料226は、各階層における空隙225を埋め込む機能も果たしている。詳細には、負極材料が複数回に渡って堆積される場合には、その堆積時ごとに負極活物質粒子221の表面に上記した微細な突起部が生じる。このことから、金属材料226は、各階層における隙間224Bに充填されているだけでなく、各階層における空隙225も埋め込んでいる。
【0115】
なお、図5および図6では、負極活物質粒子221が多層構造を有しており、負極活物質層22B中に隙間224A,224Bの双方が存在している場合について説明したため、負極活物質層22Bが隙間224A,224Bに金属材料226を有している。これに対して、負極活物質粒子221が単層構造を有しており、負極活物質層22B中に隙間224Aだけが存在する場合には、負極活物質層22Bが隙間224Aだけに金属材料226を有することとなる。もちろん、空隙225は両者の場合において生じるため、いずれの場合においても空隙225に金属材料226を有することとなる。
【0116】
負極被膜22Cは、負極集電体22A上に負極活物質層22Bが形成されたのち、その負極活物質層22B上に形成されたものであり、上記した式(1)に示したニトリル化合物のいずれか1種あるいは2種以上を含んでいる。この負極被膜22Cが負極活物質層22B上に設けられているのは、負極22の化学的安定性が向上し、それに伴って負極22に隣接する電解質(電解液)の化学的安定性も向上するからである。これにより、充放電時に、負極22においてリチウムイオンが効率よく吸蔵および放出されると共に、電解質の分解反応が抑制されるため、サイクル特性が向上する。
【0117】
この負極被膜22Cは、負極活物質層22Bの全面を覆うように設けられていてもよいし、その表面の一部を覆うように設けられていてもよい。この場合には、負極被膜22Cの一部が負極活物質層22Bの内部に入り込んでいてもよい。
【0118】
特に、負極被膜22Cは、上記した式(1)に示したニトリル化合物と共に、アルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩(式(1)に示したニトリル化合物に該当するものを除く)のいずれか1種あるいは2種以上を含んでいるのが好ましい。被膜抵抗が抑えられるため、サイクル特性がより向上するからである。
【0119】
このようなアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩としては、例えば、アルカリ金属元素あるいはアルカリ土類金属元素の炭酸塩、ハロゲン化物塩、ホウ酸塩、リン酸塩、スルホン酸塩、カルボン酸塩あるいはオキソカーボン酸塩などが挙げられる。具体的には、例えば、炭酸リチウム(Li2 CO3 )、フッ化リチウム(LiF)、四ホウ酸リチウム(Li2 B4 O7 )、メタホウ酸リチウム(LiBO2 )、ピロリン酸リチウム(Li4 P2 O7 )、トリポリリン酸リチウム(Li5 P3 O10)、オルトケイ酸リチウム(Li4 SiO4 )、メタケイ酸リチウム(Li2 SiO3 )、エタンジスルホン酸二リチウム、プロパンジスルホン酸二リチウム、スルホ酢酸二リチウム、スルホプロピオン酸二リチウム、スルホブタン酸二リチウム、スルホ安息香酸二リチウム、コハク酸二リチウム、スルホコハク酸三リチウム、スクエア酸二リチウム、エタンジスルホン酸マグネシウム、プロパンジスルホン酸マグネシウム、スルホ酢酸マグネシウム、スルホプロピオン酸マグネシウム、スルホブタン酸マグネシウム、スルホ安息香酸マグネシウム、コハク酸マグネシウム、二スルホコハク酸三マグネシウム、エタンジスルホン酸カルシウム、プロパンジスルホン酸カルシウム、スルホ酢酸カルシウム、スルホプロピオン酸カルシウム、スルホブタン酸カルシウム、スルホ安息香酸カルシウム、コハク酸カルシウム、あるいは二スルホコハク酸三カルシウムなどである。
【0120】
負極被膜22Cを形成する方法としては、例えば、塗布法、浸漬法あるいはディップコーティング法などの液相法や、蒸着法、スパッタ法あるいはCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)法などの気相法が挙げられる。これらの方法については、単独で用いてもよいし、2種以上の方法を併用してもよい。中でも、液相法として、式(1)に示したニトリル化合物を含む溶液を用いて負極被膜22Cを形成するのが好ましい。具体的には、例えば、浸漬法では、式(1)に示したニトリル化合物を含有する溶液中に、負極活物質層22Bが形成された負極集電体22Aを浸漬し、あるいは塗布法では、式(1)に示したニトリル化合物を含有する溶液を負極活物質層22Bの表面に塗布する。高い化学的安定性を有する良好な被膜22Bが容易に形成されるからである。式(1)に示したニトリル化合物を溶解させる溶媒としては、例えば、水などの極性の高い溶媒が挙げられる。
【0121】
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離し、両極の接触に起因する電流の短絡を防止しながらリチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ23は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどの合成樹脂からなる多孔質膜や、セラミックからなる多孔質膜などにより構成されており、これらの2種以上の多孔質膜が積層されたものであってもよい。
【0122】
このセパレータ23には、液状の電解質である電解液が含浸されている。この電解液は、溶媒と、それに溶解された電解質塩とを含んでいる。
【0123】
溶媒は、例えば、有機溶剤などの非水溶媒の1種あるいは2種以上を含んでいる。以下で説明する一連の溶媒は、任意に組み合わされてもよい。
【0124】
非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチル、トリメチル酢酸エチル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、燐酸トリメチル、あるいはジメチルスルホキシドなどが挙げられる。中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種が好ましい。この場合には、炭酸エチレンあるいは炭酸プロピレンなどの高粘度(高誘電率)溶媒(例えば比誘電率ε≧30)と炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルあるいは炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒(例えば粘度≦1mPa・s)との組み合わせがより好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するからである。
【0125】
この溶媒は、式(2)〜式(4)で表される不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルを含有しているのが好ましい。サイクル特性が向上するからである。これらは単独でも良いし、複数種が混合されてもよい。
【0126】
【化10】
(R11およびR12は水素基あるいはアルキル基である。)
【0127】
【化11】
(R13〜R16は水素基、アルキル基、ビニル基あるいはアリル基であり、それらのうちの少なくとも1つはビニル基あるいはアリル基である。)
【0128】
【化12】
(R17はアルキレン基である。)
【0129】
式(2)に示した不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸ビニレン系化合物である。この炭酸ビニレン系化合物としては、例えば、炭酸ビニレン(1,3−ジオキソール−2−オン)、炭酸メチルビニレン(4−メチル−1,3−ジオキソール−2−オン)、炭酸エチルビニレン(4−エチル−1,3−ジオキソール−2−オン)、4,5−ジメチル−1,3−ジオキソール−2−オン、4,5−ジエチル−1,3−ジオキソール−2−オン、4−フルオロ−1,3−ジオキソール−2−オン、あるいは4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソール−2−オンなどが挙げられ、中でも炭酸ビニレンが好ましい。容易に入手可能であると共に、高いサイクル特性が得られるからである。
【0130】
式(3)に示した不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸ビニルエチレン系化合物である。炭酸ビニルエチレン系化合物としては、例えば、炭酸ビニルエチレン(4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン)、4−メチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−エチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−n−プロピル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、5−メチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは4,5−ジビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられ、中でも炭酸ビニルエチレンが好ましい。容易に入手可能であると共に、高いサイクル特性が得られるからである。もちろん、R13〜R16としては、全てがビニル基でもよいし、全てがアリル基でもよいし、ビニル基とアリル基とが混在していてもよい。
【0131】
式(4)に示した不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸メチレンエチレン系化合物である。炭酸メチレンエチレン系化合物としては、4−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジメチル−5−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは4,4−ジエチル−5−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられる。この炭酸メチレンエチレン系化合物としては、1つのメチレン基を有するもの(式(4)に示した化合物)の他、2つのメチレン基を有するものであってもよい。
【0132】
なお、不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルとしては、式(2)〜式(4)に示したものの他、ベンゼン環を有する炭酸カテコール(カテコールカーボネート)などであってもよい。
【0133】
また、溶媒は、式(5)で表されるハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステルおよび式(6)で表されるハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種を含有しているのが好ましい。負極22の表面に安定な保護膜が形成されて電解液の分解反応が抑制されるため、サイクル特性が向上するからである。
【0134】
【化13】
(R21〜R26は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
【0135】
【化14】
(R27〜R30は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
【0136】
なお、式(5)中のR21〜R26は、同一でもよいし、異なってもよい。このことは、式(6)中のR27〜30についても同様である。ハロゲンの種類は、特に限定されないが、例えば、フッ素、塩素および臭素からなる群のうちの少なくとも1種が挙げられ、中でも、フッ素が好ましい。高い効果が得られるからである。もちろん、他のハロゲンであってもよい。
【0137】
ハロゲンの数は、1つよりも2つが好ましく、さらに3つ以上であってもよい。保護膜を形成する能力が高くなり、より強固で安定な保護膜が形成されるため、電解液の分解反応がより抑制されるからである。
【0138】
式(5)に示したハロゲンを有する鎖状炭酸エステルとしては、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ビス(フルオロメチル)あるいは炭酸ジフルオロメチルメチルなどが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
【0139】
式(6)に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルとしては、例えば、式(6−1)〜式(6−21)で表される一連の化合物が挙げられる。すなわち、式(6−1)の4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−2)の4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−3)の4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−4)のテトラフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−5)の4−クロロ−5−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−6)の4,5−ジクロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−7)のテトラクロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−8)の4,5−ビストリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−9)の4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−10)の4,5−ジフルオロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−11)の4,4−ジフルオロ−5−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−12)の4−エチル−5,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−13)の4−フルオロ−5−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−14)の4−メチル−5−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−15)の4−フルオロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−16)の5−(1,1−ジフルオロエチル)−4,4−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−17)の4,5−ジクロロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−18)の4−エチル−5−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−19)の4−エチル−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−20)の4−エチル−4,5,5−トリフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、式(6−21)の4−フルオロ−4−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オンなどである。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
【0140】
【化15】
【0141】
【化16】
【0142】
中でも、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンあるいは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンが好ましく、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンがより好ましい。特に、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンとしては、シス異性体よりもトランス異性体が好ましい。容易に入手可能であると共に、高い効果が得られるからである。
【0143】
また、溶媒は、スルトン(環状スルホン酸エステル)や酸無水物を含有しているのが好ましい。電解液の化学的安定性がより向上するからである。
【0144】
スルトンとしては、例えば、プロパンスルトンあるいはプロペンスルトンなどが挙げられ、中でも、プロペンスルトンが好ましい。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。溶媒中におけるスルトンの含有量は、例えば、0.5重量%以上5重量%以下である。
【0145】
酸無水物としては、例えば、無水コハク酸、無水グルタル酸あるいは無水マレイン酸などのカルボン酸無水物や、無水エタンジスルホン酸あるいは無水プロパンジスルホン酸などのジスルホン酸無水物や、無水スルホ安息香酸、無水スルホプロピオン酸あるいは無水スルホ酪酸などのカルボン酸とスルホン酸との無水物などが挙げられ、中でも、無水コハク酸あるいは無水スルホ安息香酸が好ましい。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。溶媒中における酸無水物の含有量は、例えば、0.5重量%以上5重量%以下である。
【0146】
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種類あるいは2種類以上を含有している。以下で説明する一連の電解質塩は、任意に組み合わせてもよい。
【0147】
リチウム塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム、六フッ化ヒ酸リチウム、テトラフェニルホウ酸リチウム(LiB(C6 H5 )4 )、メタンスルホン酸リチウム(LiCH3 SO3 )、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3 SO3 )、テトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl4 )、六フッ化ケイ酸二リチウム(Li2 SiF6 )、塩化リチウム(LiCl)、あるいは臭化リチウム(LiBr)などが挙げられる。
【0148】
中でも、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムおよび六フッ化ヒ酸リチウムからなる群のうちの少なくとも1種が好ましく、六フッ化リン酸リチウムがより好ましい。内部抵抗が低下するため、より高い効果が得られるからである。
【0149】
この電解質塩は、式(7)〜式(9)で表される化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有しているのが好ましい。上記した六フッ化リン酸リチウム等と一緒に用いられた場合に、より高い効果が得られるからである。なお、式(7)中のR33は、同一でもよいし、異なってもよい。このことは、式(8)中のR41〜R43および式(9)中のR51およびR52についても同様である。
【0150】
【化17】
(X31は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素、またはアルミニウム(Al)である。M31は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。R31はハロゲン基である。Y31は−(O=)C−R32−C(=O)−、−(O=)C−C(R33)2 −あるいは−(O=)C−C(=O)−である。ただし、R32はアルキレン基、ハロゲン化アルキレン基、アリーレン基あるいはハロゲン化アリーレン基である。R33はアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基あるいはハロゲン化アリール基である。なお、a3は1〜4の整数であり、b3は0、2あるいは4であり、c3、d3、m3およびn3は1〜3の整数である。)
【0151】
【化18】
(X41は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素である。M41は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。Y41は−(O=)C−(C(R41)2 )b4−C(=O)−、−(R43)2 C−(C(R42)2 )c4−C(=O)−、−(R43)2 C−(C(R42)2 )c4−C(R43)2 −、−(R43)2 C−(C(R42)2 )c4−S(=O)2 −、−(O=)2 S−(C(R42)2 )d4−S(=O)2 −あるいは−(O=)C−(C(R42)2 )d4−S(=O)2 −である。ただし、R41およびR43は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それぞれのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R42は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a4、e4およびn4は1あるいは2であり、b4およびd4は1〜4の整数であり、c4は0〜4の整数であり、f4およびm4は1〜3の整数である。)
【0152】
【化19】
(X51は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素である。M51は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。Rfはフッ素化アルキル基あるいはフッ素化アリール基であり、いずれの炭素数も1〜10である。Y51は−(O=)C−(C(R51)2 )d5−C(=O)−、−(R52)2 C−(C(R51)2 )d5−C(=O)−、−(R52)2 C−(C(R51)2 )d5−C(R52)2 −、−(R52)2 C−(C(R51)2 )d5−S(=O)2 −、−(O=)2 S−(C(R51)2 )e5−S(=O)2 −あるいは−(O=)C−(C(R51)2 )e5−S(=O)2 −である。ただし、R51は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R52は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、そのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a5、f5およびn5は1あるいは2であり、b5、c5およびe5は1〜4の整数であり、d5は0〜4の整数であり、g5およびm5は1〜3の整数である。)
【0153】
なお、長周期型周期表における、1族元素とは、水素、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびフランシウムである。13族元素とは、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウムおよびタリウムである。14族元素とは、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、スズおよび鉛である。15族元素とは、窒素、リン、ヒ素、アンチモンおよびビスマスである。
【0154】
式(7)に示した化合物としては、例えば、式(7−1)〜式(7−6)で表される化合物などが挙げられる。式(8)に示した化合物としては、例えば、式(8−1)〜式(8−8)で表される化合物などが挙げられる。式(9)に示した化合物としては、例えば、式(9−1)で表される化合物などが挙げられる。なお、式(7)〜式(9)に示した構造を有する化合物であれば、式(7−1)〜式(7−6)、式(8−1)〜式(8−8)、および式(9−1)に示した化合物に限定されないことは言うまでもない。
【0155】
【化20】
【0156】
【化21】
【0157】
【化22】
【0158】
また、電解質塩は、式(10)〜式(12)で表される化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有していてもよい。上記した六フッ化リン酸リチウム等と一緒に用いられた場合に、より高い効果が得られるからである。なお、式(10)中のmおよびnは、同一でもよいし、異なってもよい。このことは、式(12)中のp、qおよびrについても同様である。
【0159】
【化23】
(mおよびnは1以上の整数である。)
【0160】
【化24】
(R61は炭素数が2以上4以下の直鎖状あるいは分岐状のパーフルオロアルキレン基である。)
【0161】
【化25】
(p、qおよびrは1以上の整数である。)
【0162】
式(10)に示した鎖状の化合物としては、例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )2 )、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(C2 F5 SO2 )2 )、(トリフルオロメタンスルホニル)(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C2 F5 SO2 ))、(トリフルオロメタンスルホニル)(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C3 F7 SO2 ))、あるいは(トリフルオロメタンスルホニル)(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C4 F9 SO2 ))などが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
【0163】
式(11)に示した環状の化合物としては、例えば、式(11−1)〜式(11−4)で表される一連の化合物が挙げられる。すなわち、式(11−1)の1,2−パーフルオロエタンジスルホニルイミドリチウム、式(11−2)の1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミドリチウム、式(11−3)の1,3−パーフルオロブタンジスルホニルイミドリチウム、式(11−4)の1,4−パーフルオロブタンジスルホニルイミドリチウムなどである。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。中でも、1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミドリチウムが好ましい。高い効果が得られるからである。
【0164】
【化26】
【0165】
式(12)に示した鎖状の化合物としては、例えば、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド(LiC(CF3 SO2 )3 )などが挙げられる。
【0166】
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.3mol/kg以上3.0mol/kg以下であるのが好ましい。この範囲外では、イオン伝導性が極端に低下する可能性があるからである。
【0167】
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極21からリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された電解液を介して負極22に吸蔵される。一方、放電を行うと、例えば、負極22からリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された電解液を介して正極21に吸蔵される。
【0168】
この円筒型の二次電池は、例えば、以下の手順により製造される。
【0169】
まず、正極21を作製する。最初に、正極活物質と、正極結着剤と、正極導電剤とを混合して正極合剤としたのち、有機溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとする。続いて、ドクタブレードあるいはバーコータなどにより正極集電体21Aの両面に正極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させる。最後に、必要に応じて加熱しながらロールプレス機などにより塗膜を圧縮成型して正極活物質層21Bを形成する。この場合には、圧縮成型を複数回に渡って繰り返してもよい。
【0170】
次に、負極22を作製する。最初に、粗面化された電解銅箔などからなる負極集電体22Aを準備したのち、蒸着法などの気相法により負極集電体22Aの両面に負極材料を堆積させて、複数の負極活物質粒子を形成する。続いて、必要に応じて、液相析出法などの液相法により酸化物含有膜を形成し、あるいは電解鍍金法などの液相法により金属材料を形成して、負極活物質層22Bを形成する。続いて、上記した式(1)に示したニトリル化合物を含む溶液として、例えば、1重量%以上5重量%以下の濃度の水溶液を調製する。最後に、負極活物質層22Bが形成された負極集電体22Aを溶液中に数秒間浸漬してから引き上げ、室温で乾燥して負極被膜22Cを形成する。この負極被膜22Cを形成する場合には、上記した溶液を負極活物質層22Bの表面に塗布してから乾燥させるようにしてもよい。
【0171】
二次電池の組み立ては、以下のようにして行う。最初に、正極集電体21Aに正極リード25を溶接などして取り付けると共に、負極集電体22Aに負極リード26を溶接などして取り付ける。続いて、セパレータ23を介して正極21と負極22とを積層および巻回させて巻回電極体20を作製したのち、その巻回中心にセンターピン24を挿入する。続いて、一対の絶縁板12,13で挟みながら巻回電極体20を電池缶11の内部に収納すると共に、正極リード25の先端部を安全弁機構15に溶接し、負極リード26の先端部を電池缶11に溶接する。続いて、上記した電解液を電池缶11の内部に注入して、セパレータ23に含浸させる。最後に、電池缶11の開口端部に電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子16をガスケット17を介してかしめることにより、固定する。これにより、図1および図2に示した二次電池が完成する。
【0172】
この第1の二次電池およびその製造方法によれば、負極活物質層22B上に、式(1)に示したニトリル化合物を含む負極被膜22Cが設けられているので、その負極22の化学的安定性が向上する。これにより、充放電時に、負極22においてリチウムイオンが吸蔵および放出されやすくなると共に、電解質の分解反応が抑制されるため、サイクル特性を向上させることができる。
【0173】
この場合には、上記した式(1)に示したニトリル化合物を含む溶液を用いて負極被膜22Cを形成しており、具体的には浸漬処理あるいは塗布処理などの簡単な処理を用いているので、減圧環境などの特殊な環境条件を要する方法を用いる場合と比較して、良好な負極被膜22Cを安定かつ簡単に形成することができる。
【0174】
特に、負極22が高容量化に有利なケイ素等(リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能であると共に金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を有する材料)を含む場合にサイクル特性が向上するため、炭素材料などの他の負極材料を含む場合よりも高い効果を得ることができる。
【0175】
また、電解質の溶媒が、式(2)〜式(4)に示した不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種や、式(5)に示したハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステルおよび式(6)に示したハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種や、スルトンや、酸無水物を含んでいれば、より高い効果を得ることができる。
【0176】
また、電解質の電解質塩が、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムおよび六フッ化ヒ酸リチウムからなる群のうちの少なくとも1種や、式(7)〜式(9)に示した化合物からなる群のうちの少なくとも1種や、式(10)〜式(12)に示した化合物からなる群のうちの少なくも1種を含んでいれば、より高い効果を得ることができる。
【0177】
なお、上記では、二次電池の電池構造が円筒型である場合について説明したが、これに限定されるわけではなく、電池構造は円筒型以外であってもよい。
【0178】
図7は他の第1の二次電池の分解斜視構成を表しており、図8は図7に示した巻回電極体30のVIII−VIII線に沿った断面を拡大して表し、図9は図8に示した巻回電極体30の一部を拡大して表している。
【0179】
この二次電池は、例えば、上記した第1の二次電池と同様にリチウムイオン二次電池であり、主に、フィルム状の外装部材40の内部に、正極リード31および負極リード32が取り付けられた巻回電極体30が収納されたものである。このフィルム状の外装部材40を用いた電池構造は、ラミネートフィルム型と呼ばれている。
【0180】
正極リード31および負極リード32は、例えば、外装部材40の内部から外部に向かって同一方向に導出されている。正極リード31は、例えば、アルミニウムなどの金属材料により構成されており、負極リード32は、例えば、銅、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料により構成されている。これらの金属材料は、例えば、薄板状あるいは網目状になっている。
【0181】
外装部材40は、例えば、ナイロンフィルム、アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムがこの順に貼り合わされたアルミラミネートフィルムにより構成されている。この外装部材40は、例えば、ポリエチレンフィルムが巻回電極体30と対向するように、2枚の矩形型のアルミラミネートフィルムの外縁部同士が融着あるいは接着剤により互いに接着された構造を有している。
【0182】
外装部材40と正極リード31および負極リード32との間には、外気の侵入を防止するために密着フィルム41が挿入されている。この密着フィルム41は、正極リード31および負極リード32に対して密着性を有する材料により構成されている。このような材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂が挙げられる。
【0183】
なお、外装部材40は、上記したアルミラミネートフィルムに代えて、他の積層構造を有するラミネートフィルムにより構成されていてもよいし、ポリプロピレンなどの高分子フィルムあるいは金属フィルムにより構成されていてもよい。
【0184】
巻回電極体30は、セパレータ35および電解質層36を介して正極33と負極34とが積層されたのちに巻回されたものであり、その最外周部は保護テープ37により保護されている。
【0185】
正極33は、例えば、一対の面を有する正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bが設けられたものである。負極34は、例えば、一対の面を有する負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bおよび被膜34Cが設けられたものである。正極集電体33A、正極活物質層33B、負極集電体34A、負極活物質層34B、負極被膜34Cおよびセパレータ35の構成は、それぞれ上記した第1の二次電池における正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22A、負極活物質層22B、負極被膜22Cおよびセパレータ23の構成と同様である。
【0186】
電解質層36は、電解液と、それを保持する高分子化合物とを含んでおり、いわゆるゲル状の電解質である。ゲル状の電解質は、高いイオン伝導率(例えば、室温で1mS/cm以上)が得られると共に漏液が防止されるので好ましい。
【0187】
高分子化合物としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンとポリヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレン、あるいはポリカーボネートなどが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。中でも、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレンあるいはポリエチレンオキサイドが好ましい。電気化学的な安定性が高いからである。
【0188】
電解液の組成は、上記した第1の二次電池における電解液の組成と同様である。ただし、この場合の溶媒とは、液状の溶媒だけでなく、電解質塩を解離させることが可能なイオン伝導性を有するものまで含む広い概念である。したがって、イオン伝導性を有する高分子化合物を用いる場合には、その高分子化合物も溶媒に含まれる。
【0189】
なお、電解液を高分子化合物に保持させたゲル状の電解質層36に代えて、電解液をそのまま用いてもよい。この場合には、電解液がセパレータ35に含浸される。
【0190】
ゲル状の電解質層36を備えた二次電池は、例えば、以下の3種類の方法により製造される。
【0191】
第1の製造方法では、最初に、例えば、上記した第1の二次電池における正極21および負極22と同様の手順により、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bを形成して正極33を作製すると共に、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bおよび負極被膜34Cをこの順に形成して負極34を作製する。続いて、電解液と、高分子化合物と、溶剤とを含む前駆溶液を調製し、正極33および負極34に塗布したのち、溶剤を揮発させることにより、ゲル状の電解質層36を形成する。続いて、正極集電体33Aに正極リード31を溶接などして取り付けると共に、負極集電体34Aに負極リード32を溶接などして取り付ける。続いて、電解質層36が形成された正極33と負極34とをセパレータ35を介して積層させてから長手方向に巻回し、その最外周部に保護テープ37を接着させることにより、巻回電極体30を作製する。最後に、例えば、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回電極体30を挟み込んだのち、その外装部材40の外縁部同士を熱融着などで接着させることにより、巻回電極体30を封入する。この際、正極リード31および負極リード32と外装部材40との間に、密着フィルム41を挿入する。これにより、図7〜図9に示したラミネートフィルム型の二次電池が完成する。
【0192】
第2の製造方法では、最初に、正極33に正極リード31を取り付けると共に負極34に負極リード32を取り付けたのち、セパレータ35を介して正極33と負極34とを積層および巻回させると共に、その最外周部に保護テープ37を接着させることにより、巻回電極体30の前駆体である巻回体を作製する。続いて、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部を熱融着などで接着させることにより、袋状の外装部材40の内部に巻回体を収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を調製し、袋状の外装部材40の内部に注入したのち、外装部材40の開口部を熱融着などで密封する。最後に、モノマーを熱重合させて高分子化合物とすることにより、ゲル状の電解質層36を形成する。これにより、二次電池が完成する。
【0193】
第3の製造方法では、最初に、高分子化合物が両面に塗布されたセパレータ35を用いることを除き、上記した第2の製造方法と同様に、巻回体を形成して袋状の外装部材40の内部に収納する。このセパレータ35に塗布する高分子化合物としては、例えば、フッ化ビニリデンを成分とする重合体、すなわち単独重合体、共重合体あるいは多元共重合体などが挙げられる。具体的には、ポリフッ化ビニリデンや、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンを成分とする二元系共重合体や、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびクロロトリフルオロエチレンを成分とする三元系共重合体などである。なお、高分子化合物は、上記したフッ化ビニリデンを成分とする重合体と共に、他の1種あるいは2種以上の高分子化合物を含んでいてもよい。続いて、電解液を調製して外装部材40の内部に注入したのち、その外装部材40の開口部を熱融着などで密封する。最後に、外装部材40に加重をかけながら加熱し、高分子化合物を介してセパレータ35を正極33および負極34に密着させる。これにより、電解液が高分子化合物に含浸し、その高分子化合物がゲル化することにより電解質層36が形成されるため、二次電池が完成する。
【0194】
この第3の製造方法では、第1の製造方法と比較して、二次電池の膨れが抑制される。また、第3の製造方法では、第2の製造方法と比較して、高分子化合物の原料であるモノマーや重合開始剤などが電解質層36中にほとんど残らず、しかも高分子化合物の形成工程が良好に制御されるため、正極33、負極34およびセパレータ35と電解質層36との間において十分な密着性が得られる。
【0195】
他の第1の二次電池およびその製造方法によれば、負極活物質層34B上に、式(1)に示したニトリル化合物を含む負極被膜34Cが設けられているので、上記した第1の二次電池と同様の作用により、サイクル特性を向上させることができる。この二次電池およびその製造方法に関する他の効果は、上記した第1の二次電池およびその製造方法について説明した場合と同様である。
【0196】
図10はさらに他の第1の二次電池の断面構成を表している。この二次電池は、例えば、上記した第1の二次電池と同様にリチウムイオン二次電池であり、正極51を外装缶54に貼り付けると共に、負極52を外装カップ55に収容し、それらを電解液が含浸されたセパレータ53を介して積層したのちにガスケット56を介してかしめたものである。これらの外装缶54および外装カップ55を用いた電池構造は、コイン型と呼ばれている。
【0197】
正極51は、正極集電体51Aの一面に正極活物質層51Bが設けられたものである。負極52は、負極集電体52Aの一面に負極活物質層52Bおよび負極被膜52Cが設けられたものである。正極集電体51A,正極活物質層51B、負極集電体52A、負極活物質層52B、負極被膜52Cおよびセパレータ53の構成は、それぞれ上記した円筒型の二次電池における正極集電体21A,正極活物質層21B、負極集電体22A、負極活物質層22B、負極被膜22Cおよびセパレータ23の構成と同様である。また、セパレータ53に含浸された電解液の組成も、上記した第1の二次電池における電解液の組成と同様である。
【0198】
さらに他の第1の二次電池によれば、負極活物質層52B上に、式(1)に示したニトリル化合物を含む負極被膜52Cが設けられているので、上記した第1の二次電池と同様の作用により、サイクル特性を向上させることができる。この二次電池およびその製造方法に関する他の効果は、上記した第1の二次電池およびその製造方法について説明した場合と同様である。
【0199】
なお、上記では、負極活物質層上に設けられた負極被膜が式(1)に示したニトリル化合物を含む場合について説明したが、負極が式(1)に示したニトリル化合物を含んでいれば、そのニトリル化合物は負極中のどこに含まれていてもよい。例えば、負極活物質が複数の粒子状である場合、すなわち負極活物質粒子を有する場合には、負極活物質層上に負極被膜を形成する代わりに、式(1)示したニトリル化合物を含む粒子被覆膜が負極活物質粒子の表面を被覆するように設けられていてもよい。この場合、粒子被覆膜により、負極活物質粒子の全面が被覆されていてもよいし、その表面の一部が被覆されていてもよい。これによっても、負極の化学的安定性が向上するため、サイクル特性が向上する。このような負極も、式(1)に示したニトリル化合物を含む溶液を用いて製造することができる。具体的には、最初に、上記した負極材料からなる負極活物質粒子を式(1)示したニトリル化合物を含む溶液に分散させたのち、その負極活物質粒子を溶液中から引き上げて乾燥させることにより、負極活物質粒子の表面に式(1)に示したニトリル化合物を含む粒子被覆膜を形成する。続いて、この負極活物質粒子と、負極導電剤と、負極結着剤とを混合した負極合剤を溶剤に分散させることによりペースト状の負極合剤スラリーとし、それを負極集電体に塗布して乾燥させたのち、圧縮成型し負極活物質層を形成する。これにより、負極を製造することができる。
【0200】
(第2の二次電池)
図11は第2の二次電池の構成を表しており、図2に対応する断面構成を示している。この第2の二次電池は、例えば、負極22に代えて正極21が式(1)に示したニトリル化合物を含んでいることを除き、上記した第1の二次電池と同様の構成を有している。
【0201】
正極21は、例えば、正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bおよび正極被膜21Cがこの順に設けられたものである。ただし、正極被膜21Cは、正極集電体21Aの片面側だけに設けられていてもよい。
【0202】
正極被膜21Cは、正極集電体21A上に正極活物質層21Bが形成されたのち、その正極活物質層21B上に形成されたものである。この正極被膜21Cの構成は、上記した第1の二次電池における負極被膜22Cの構成と同様である。すなわち、正極被膜21Cは、式(1)に示したニトリル化合物を含んでいる。正極21の化学的安定性が向上するからである。これにより、充放電時に、正極21においてリチウムイオンが効率よく吸蔵および放出されると共に、電解質の分解反応が抑制されるため、サイクル特性が向上する。
【0203】
負極22は、例えば、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bが設けられたものである。
【0204】
この二次電池は、正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bおよび正極被膜21Cをこの順に形成して正極21を作製すると共に、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bを形成して負極22を作製することを除き、上記した第1の二次電池と同様の手順により製造される。
【0205】
この第2の二次電池およびその製造方法によれば、正極活物質層21B上に、式(1)に示したニトリル化合物を含む正極被膜21Cが設けられているので、その正極21の化学的安定性が向上する。したがって、サイクル特性を向上させることができる。この場合には、特に、負極22の抵抗成分が低くなるため、抵抗特性も向上させることができる。この二次電池およびその製造方法に関する他の効果は、上記した第1の二次電池およびその製造方法について説明した場合と同様である。
【0206】
なお、上記では、二次電池の電池構造が円筒型である場合について説明したが、必ずしもこれに限られず、その電池構造は円筒型以外であってもよい。
【0207】
図12は他の第2の二次電池の構成を表しており、図9に対応する断面構成を示している。この二次電池は、例えば、負極34に代えて正極33が式(1)に示したニトリル化合物を含んでいることを除き、上記した他の第1の二次電池と同様の構成を有している。
【0208】
正極33は、上記した第2の二次電池における正極21と同様の構成を有しており、例えば、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bおよび正極被膜33Cがこの順に設けられたものである。負極34は、上記した第2の二次電池における負極22と同様の構成を有しており、例えば、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bが設けられたものである。
【0209】
この二次電池は、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bおよび正極被膜33Cをこの順に形成して正極33を作製すると共に、負極集電体34Aの一面に負極活物質層34Bを形成して負極34を作製することを除き、上記した他の第1の二次電池と同様の手順により製造される。
【0210】
他の第2の二次電池およびその製造方法によれば、正極活物質層33B上に、式(1)に示したニトリル化合物を含む正極被膜33Cが設けられているので、上記した第2の二次電池と同様の作用により、サイクル特性を向上させることができる。この二次電池およびその製造方法に関する他の効果は、上記した第2の二次電池およびその製造方法について説明した場合と同様である。
【0211】
図13はさらに他の第2の二次電池の構成を表しており、図10に対応する断面構成を示している。この二次電池は、例えば、負極52に代えて正極51が式(1)に示したニトリル化合物を含んでいることを除き、上記したさらに他の第1の二次電池と同様の構成を有している。
【0212】
正極51は、上記した第2の二次電池における正極21と同様の構成を有しており、例えば、正極集電体51Aの一面に正極活物質層51Bおよび正極被膜51Cがこの順に設けられたものである。負極52は、上記した第2の二次電池における負極22と同様の構成を有しており、例えば、負極集電体52Aの一面に負極活物質層52Bが設けられたものである。
【0213】
この二次電池は、正極集電体51Aの一面に正極活物質層51Bおよび正極被膜51Cをこの順に形成して正極51を作製すると共に、負極集電体52Aの一面に負極活物質層52Bを形成して負極52を作製することを除き、上記したさらに他の第1の二次電池と同様の手順により製造される。
【0214】
さらに他の第2の二次電池およびその製造方法によれば、正極活物質層51B上に、式(1)に示したニトリル化合物を含む正極被膜51Cが設けられているので、上記した第2の二次電池と同様の作用により、サイクル特性を向上させることができる。この二次電池およびその製造方法に関する他の効果は、上記した第2の二次電池およびその製造方法について説明した場合と同様である。
【0215】
なお、上記では、式(1)に示したニトリル化合物を含む正極被膜が正極活物質層上に設けられる場合について説明したが、正極がニトリル化合物を含んでいれば、そのニトリル化合物は正極中のどこに含まれていてもよい。
【0216】
例えば、図14に示したように、正極活物質が複数の粒子状(正極活物質粒子211)である場合には、正極活物質層上に正極被膜を形成する代わりに、ニトリル化合物を含む粒子被覆膜212が正極活物質粒子211の表面を被覆するように設けられてもよい。この場合には、粒子被覆膜212により、正極活物質粒子211の表面の全部が被覆されていてもよいし、その表面の一部が被覆されていてもよい。この場合においても、正極の化学的安定性が向上するため、サイクル特性を向上させることができる。
【0217】
この粒子被覆膜212を含む正極は、例えば、以下の手順により、式(1)に示したニトリル化合物を含む溶液を用いて形成される。具体的には、最初に、式(1)に示したニトリル化合物を含む溶液に正極活物質粒子211を浸漬させる。そののち、その溶液中から引き上げて乾燥させることにより、そのニトリル化合物を含む粒子被覆膜212を正極活物質粒子211の表面に形成する。続いて、粒子被覆膜212が形成された正極活物質粒子211と、正極導電剤と、正極結着剤とを混合した正極合剤を溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとする。最後に、正極合剤スラリーを正極集電体に塗布して乾燥させたのち、圧縮成型することにより、正極活物質層を形成する。
【0218】
(第3の二次電池)
図15は第3の二次電池の構成を表しており、図2に対応する断面構成を示している。この第3の二次電池は、例えば、負極22に代えて電解質が式(1)に示したニトリル化合物を含んでいることを除き、上記した第1の二次電池と同様の構成を有している。
【0219】
正極21は、例えば、正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bが設けられたものである。負極22は、例えば、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bが設けられたものである。
【0220】
電解質は、溶媒および電解質塩と共に、式(1)に示したニトリル化合物を含んでおり、そのニトリル化合物は、溶媒中に溶解あるいは分散されている。
【0221】
この二次電池は、正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bを形成して正極21を作製し、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bを形成して負極22を作製すると共に、式(1)に示したニトリル化合物が分散された溶媒に電解質塩を溶解させて電解質を調製することを除き、上記した第1の二次電池と同様の手順により製造される。
【0222】
この第3の二次電池およびその製造方法によれば、電解質が式(1)に示したニトリル化合物を含んでいるので、その電解質の化学的安定性が向上する。これにより、充放電時において、電解質の分解反応が抑制される。したがって、サイクル特性を向上させることができる。この二次電池およびその製造方法に関する他の効果は、上記した第1の二次電池およびその製造方法について説明した場合と同様である。
【0223】
なお、上記では、二次電池の電池構造が円筒型である場合について説明したが、必ずしもこれに限られず、その電池構造は円筒型以外であってもよい。
【0224】
図16は他の第3の二次電池の構成を表しており、図9に対応する断面構成を示している。この二次電池は、例えば、負極34に代えて電解質が式(1)に示したニトリル化合物を含んでいることを除き、上記した他の第1の二次電池と同様の構成を有している。
【0225】
正極33は、上記した第3の二次電池における正極21と同様の構成を有しており、例えば、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bが設けられたものである。負極22は、上記した第3の二次電池における負極22と同様の構成を有しており、例えば、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bが設けられたものである。
【0226】
電解質は、上記した第3の二次電池における電解質と同様の組成を有しており、例えば、溶媒、電解質塩および高分子化合物と共に、式(1)に示したニトリル化合物を含んでいる。
【0227】
この二次電池は、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bを形成して正極33を作製し、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bを形成して負極34を作製すると共に、ニトリル化合物が分散あるいは溶解された溶媒に電解質塩を溶解させて電解液を調製することを除き、上記した他の第1の二次電池と同様の手順により製造される。
【0228】
他の第3の二次電池およびその製造方法によれば、電解質が式(1)に示したニトリル化合物を含んでいるので、上記した第3の二次電池と同様の作用により、サイクル特性を向上させることができる。この二次電池およびその製造方法に関する他の効果は、上記した第3の二次電池およびその製造方法について説明した場合と同様である。
【0229】
図17はさらに他の第3の二次電池の構成を表しており、図10に対応する断面構成を示している。この二次電池は、例えば、負極52に代えて電解質が式(1)に示したニトリル化合物を含んでいることを除き、上記したさらに他の第1の二次電池と同様の構成を有している。
【0230】
正極51は、上記した第3の二次電池における正極21と同様の構成を有しており、例えば、正極集電体51Aの両面に正極活物質層51Bが設けられたものである。負極52は、上記した第3の二次電池における負極22と同様の構成を有しており、例えば、負極集電体52Aの両面に負極活物質層52Bが設けられたものである。
【0231】
電解質は、上記した第3の二次電池における電解質と同様の組成を有しており、例えば、溶媒、電解質塩および高分子化合物と共に、式(1)に示したニトリル化合物を含んでいる。
【0232】
この二次電池は、正極集電体51Aの両面に正極活物質層51Bを形成して正極51を作製し、負極集電体52Aの両面に負極活物質層52Bを形成して負極52を作製すると共に、ニトリル化合物が分散された溶媒に電解質塩を溶解させて電解液を調製することを除き、上記したさらに他の第1の二次電池と同様の手順により製造される。
【0233】
さらに他の第3の二次電池およびその製造方法によれば、電解質が式(1)に示したニトリル化合物を含んでいるので、上記した第3の二次電池と同様の作用により、サイクル特性を向上させることができる。この二次電池およびその製造方法に関する他の効果は、上記した第3の二次電池およびその製造方法について説明した場合と同様である。
【0234】
なお、上記した第1〜第3の二次電池では、正極21、負極22あるいは電解質のいずれかが式(1)に示したニトリル化合物を含むようにしたが、必ずしもこれに限られず、そのニトリル化合物を含む正極21、負極22あるいは電解質を2種類以上組み合わせてもよい。このことは、上記した他の第1〜第3の二次電池、あるいは、さらに他の第1〜第3の二次電池についても同様である。
【0235】
また、上記した第1〜第3の二次電池では、正極21、負極22および電解質のうちの少なくとも1種が式(1)に示したニトリル化合物を含むようにしたが、必ずしもこれに限られず、それら以外の他の構成要素がニトリル化合物を含むようにしてもよい。このような他の構成要素としては、例えば、セパレータ23などが挙げられる。セパレータ23がニトリル化合物を含む場合には、例えば、正極21および負極22がニトリル化合物を含む場合と同様に、式(1)に示したニトリル化合物が被膜としてセパレータ23中に導入される。具体的には、例えば、セパレータ23の両面に、ニトリル化合物を含む被膜が設けられる。このことは、上記した他の第1〜第3の二次電池、あるいは、さらに他の第1〜第3の二次電池についても同様である。
【実施例】
【0236】
本発明の実施例について詳細に説明する。
【0237】
(実験例1−1〜1−11)
以下の手順により、図10に示したコイン型の二次電池を作製した。この際、負極52の容量がリチウムイオンの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池となるようにした。
【0238】
まず、正極51を作製した。最初に、炭酸リチウム(Li2 CO3 )と炭酸コバルト(CoCO3 )とを0.5:1のモル比で混合したのち、空気中において900℃で5時間焼成することにより、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2 )を得た。続いて、正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物91質量部と、導電剤としてグラファイト6質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合して正極合剤としたのち、N−メチル−2−ピロリドンに分散させることにより、ペースト状の正極合剤スラリーとした。続いて、バーコータにより帯状のアルミニウム箔からなる正極集電体51A(厚さ=12μm)に正極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機で圧縮成型することにより、正極活物質層51Bを形成した。最後に、正極活物質層51Bが形成された正極集電体51Aを直径15.5mmのペレットとなるように打ち抜いた。
【0239】
次に、負極52を作製した。最初に、粗面化された電解銅箔からなる負極集電体52A(厚さ=10μm)を準備したのち、電子ビーム蒸着法により負極集電体52Aに負極活物質としてケイ素を堆積させて複数の負極活物質粒子を形成することにより、負極活物質層52Bを形成した。この負極集電体52Aに形成する負極活物質層52Bの厚さは5μmとなるようにした。続いて、式(1)に示したニトリル化合物を含む溶液として、その3重量%水溶液を準備した。この場合には、実験例1−1〜1−10では式(1−1)に示した化合物の3重量%水溶液を用い、実験例1−11では式(1−2)に示した化合物の3重量%水溶液を用いた。続いて、負極活物質層52Bが形成された負極集電体52Aをその溶液中に数秒間浸漬させてから引き上げたのち、150℃の減圧環境中において乾燥させることにより、負極活物質層52B上に負極被膜52Cを形成した。最後に、負極被膜52Cおよび負極活物質層52Bが形成された負極集電体52Aを直径16mmのペレットとなるように打ち抜いた。
【0240】
次に、電解液を調整した。具体的には、表1に示した組成となるように、溶媒として炭酸エチレン(EC)、炭酸プロピレン(PC)、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(DFEC)、炭酸ビス(フルオロメチル)(DFDMC)および炭酸ビニレン(VC)のうちの少なくとも1種と、炭酸ジエチル(DEC)とを混合した溶媒に、電解質塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )を溶解させた。この際、電解液中における六フッ化リン酸リチウムの濃度を1mol/kgとした。
【0241】
最後に、正極51および負極52と共に電解液を用いて二次電池を組み立てた。最初に、正極51と負極52と微多孔性ポリプロピレンフィルムからなるセパレータ53とを正極活物質層51Bと負極活物質層52Bとがセパレータ53を介して対向するように積層したのち、外装缶54に収容した。こののち、電解液を注入し、ガスケット56を介して外装カップ55を被せてかしめることにより、コイン型の二次電池が完成した。
【0242】
(実験例1−12〜1−14)
負極被膜52Cを形成しなかったことを除き、実験例1−1,1−4,1−6と同様の手順を経た。
【0243】
(実験例1−15)
式(1−1)に示した化合物に代えて、メタンスルホン酸リチウム(CH3 SO3 Li)を用いたことを除き、実験例1−4と同様の手順を経た。
【0244】
これらの実験例1−1〜1−15の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表1に示した結果が得られた。
【0245】
サイクル特性を調べる際には、23℃の雰囲気中において2サイクル充放電させて放電容量を測定し、引き続き同雰囲気中においてサイクル数の合計が100サイクルとなるまで充放電させて放電容量を測定したのち、放電容量維持率(%)=(100サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100を算出した。この際、1サイクルの充放電条件としては、1mA/cm2 の定電流密度で電池電圧が4.2Vに達するまで充電し、さらに4.2Vの定電圧で電流密度が0.02mA/cm2 に達するまで充電したのち、1mA/cm2 の定電流密度で電池電圧が2.5Vに達するまで放電した。
【0246】
なお、上記したサイクル特性を調べる際の手順および条件は、以降の一連の実験例についても同様である。
【0247】
【表1】
【0248】
表1に示したように、負極活物質としてケイ素を用いると共に気相法(電子ビーム蒸着法)を用いて負極活物質層52Bを形成した場合には、式(1−1)あるいは式(1−2)に示した化合物を含む負極被膜52Cを形成した実験例1−1〜1−11では、それを形成しなかった実験例1−12〜1−14よりも放電容量維持率が高くなった。この結果は、充放電時に、負極被膜52Cを形成することにより、負極52においてリチウムイオンが吸蔵および放出されやすくなると共に、電解液が分解されにくくなることを表している。すなわち、負極被膜52Cを形成することにより、負極52の化学的安定性が向上したものと考えられる。
【0249】
詳細には、ニトリル化合物として式(1−1)に示した化合物を用いた実験例1−1〜1−10では、溶媒の組成に依存することなく、それを用いなかった実験例1−12〜1−14よりも放電容量維持率が高くなった。また、ニトリル化合物として式(1−2)に示した化合物を用いた実験例1−11では、それを用いなかった実験例1−12よりも放電容量維持率が高くなると共に、式(1−1)に示した化合物を用いた実験例1−1と同程度の放電容量維持率が得られた。
【0250】
この場合には、溶媒としてPC等を加えた実験例1−2〜1−10では、それを加えなかった実験例1−1よりも放電容量維持率が高くなった。詳細には、溶媒として、PCを加えることにより、放電容量維持率が高くなるが、VCやFEC、DFECあるいはDFDMCを加えることにより、さらに放電容量維持率が高くなる傾向を示した。中でも、FEC、DFECあるいはDFDMCを含むことにより、特に放電容量維持率が高くなり、その場合には、フッ素の数が1つよりも2つ有する溶媒(DFECあるいはDFDMC)を用いることにより、放電容量維持率がさらに高くなった。また、溶媒中におけるFEC等のフッ素を有する溶媒の含有量は、多くなるに従い、放電容量維持率が高くなる傾向を示した。このことは、VCを加えた場合においても同様であり、溶媒中における含有量が多くなるに従い、放電容量維持率が高くなる傾向を示した。
【0251】
また、ニトリル基を含まない化合物であるメタンスルホン酸リチウムを含む負極被膜を形成した実験例1−15では、放電容量維持率は、式(1−1)に示した化合物を含む負極被膜52Cを形成した実験例1−3よりも低くなったのはもちろんのこと、負極被膜を形成しなかった実験例1−13と同等となった。すなわち、スルホン酸イオン基あるいはカルボン酸イオン基とニトリル基とを併せて有する式(1)に示した構造が負極52の化学的安定性の向上に大きく寄与していることがわかる。
【0252】
これらのことから、本発明の二次電池では、負極活物質としてケイ素を用いると共に気相法(電子ビーム蒸着法)を用いて負極活物質層52Bを形成した場合に、式(1)に示したニトリル化合物を含む負極被膜52Cを負極活物質層52B上に設けることにより、サイクル特性が向上することが確認された。この場合には、電解液の溶媒として、式(5)に示したハロゲンを有する鎖状炭酸エステルおよび式(6)に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種や、式(2)〜式(4)に示した不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種を用いることにより、サイクル特性がより向上することも確認された。
【0253】
(実験例2−1〜2−7)
電解液の組成を表2に示した組成となるように変更したことを除き、実験例1−1、実験例1−3と同様の手順を経た。具体的には、実験例2−1〜2−3では、溶媒として、スルトンであるプロペンスルトン(PRS)、または酸無水物である無水コハク酸(SCAH)あるいは無水−2−スルホ安息香酸(SBAH)を加え、溶媒中におけるPRS等の含有量を1重量%とした。また、電解質塩として、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、式(7)に示した化合物として式(7−6)に示した化合物、式(8)に示した化合物として式(8−2)に示した化合物、あるいは式(11)に示した化合物として式(11−2)に示した化合物を加え、電解液中におけるLiPF6 の濃度を0.9mol/kg、LiBF4 等の濃度を0.1mol/kgとした。
【0254】
(実験例2−8)
負極被膜52Cを形成せずに、表2に示した組成となるように溶媒を混合したことを除き、実験例2−1と同様の手順を経た。
【0255】
これらの実験例2−1〜2−8の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表2に示した結果が得られた。
【0256】
【表2】
【0257】
表2に示したように、電解液にPRS等やLiBF4 等を加えた場合においても、表1の結果と同様の結果が得られた。すなわち、式(1−1)に示した化合物を含む負極被膜52Cを形成した実験例2−1〜2−7では、それを形成しなかった実験例1−12,1−13,2−8よりも放電容量維持率が高くなった。
【0258】
この場合には、PRS等やLiBF4 等を加えた実験例2−1〜2−7では、それを加えなかった実験例1−1,1−3よりも放電容量維持率が高くなった。その一方で、PRSを加えた実験例2−8では、それを含まない実験例1−12よりも放電容量維持率が低下した。
【0259】
これらのことから、本発明の二次電池では、負極52が負極活物質としてケイ素を用いると共に気相法(電子ビーム蒸着法)用いて負極活物質層52Bを形成した場合に、式(1)に示したニトリル化合物を含む負極被膜52Cを負極活物質層52B上に設けることにより、電解液の組成に依存することなく、サイクル特性が向上することが確認された。この場合には、電解液に溶媒としてスルトンあるいは酸無水物を加える、または、電解質塩として式(7)〜式(9)に示した化合物のうちの少なくとも1種、あるいは式(10)〜式(12)に示した化合物のうちの少なくとも1種を加えるようにすれば、サイクル特性がより向上することも確認された。
【0260】
(実験例3−1)
負極被膜52C中に、アルカリ土類金属塩であるスルホプロピオン酸マグネシウム(SPHMg)を含ませたことを除き、実験例1−3と同様の手順を経た。この負極被膜52Cを形成する場合には、式(1−1)に示した化合物を溶解させた3重量%水溶液に、SPHMgを3重量%となるように加えた溶液を用いた。
【0261】
(実験例3−2)
負極活物質層52Bを形成する場合に、複数の負極活物質粒子を形成したのち、液相析出法により負極活物質粒子の表面に酸化物含有膜としてケイ素の酸化物(SiO2 )を析出させたことを除き、実験例1−3と同様の手順を経た。この酸化物含有膜を形成する場合には、ケイフッ化水素酸にアニオン補足剤としてホウ素を溶解させた溶液中に、負極活物質粒子が形成された負極集電体52Aを3時間浸漬し、その負極活物質粒子の表面にケイ素の酸化物を析出させたのち、水洗して減圧乾燥した。
【0262】
(実験例3−3)
負極活物質層52Bを形成する場合に、複数の負極活物質粒子を形成したのち、電解鍍金法により金属材料としてコバルトの鍍金膜を成長させたことを除き、実験例1−3と同様の手順を経た。この金属材料を形成する場合には、鍍金浴にエアーを供給しながら通電して負極集電体52Aの表面にコバルトを堆積させた。この際、鍍金液として日本高純度化学株式会社製のコバルト鍍金液を用い、電流密度を2A/dm2 〜5A/dm2 とし、鍍金速度を10nm/秒とした。
【0263】
(実験例3−4)
負極活物質層52Bを形成する場合に、複数の負極活物質粒子を形成したのち、実験例3−2,3−3の手順により酸化物含有膜および金属材料をこの順に形成したことを除き、実験例1−3と同様の手順を経た。
【0264】
(実験例3−5〜3−7)
負極被膜52Cを形成しなかったことを除き、実験例3−2〜3−4と同様の手順を経た。
【0265】
これらの実験例3−1〜3−7の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表3に示した結果が得られた。
【0266】
【表3】
【0267】
表3に示したように、負極被膜52C中にアルカリ土類金属塩を含ませたり、その負極被膜52Cの形成前に酸化物含有膜や金属材料を形成した場合においても、表1の結果と同様の結果が得られた。すなわち、式(1−1)に示した化合物を含む負極被膜52Cを形成した実験例3−1〜3−4では、それを形成しなかった実験例1−13,3−5〜3−7よりも、放電容量維持率が高くなった。
【0268】
この場合には、負極被膜52C中にSPHMgを加えた実験例3−1では、それを加えなかった実験例1−3よりも放電容量維持率が高くなった。また、酸化物含有膜あるいは金属材料を形成した実験例3−2〜3−4では、それらを形成しなかった実験例1−3よりも放電容量維持率が高くなった。この場合、実験例3−2〜3−4の比較から、酸化物含有膜あるいは金属材料のいずれか一方だけを形成した場合よりも双方を形成した場合において放電容量維持率が高くなる傾向を示した。また、実験例3−1〜3−4では、負極被膜52C中にアルカリ土類金属塩等を含ませた場合よりも酸化物含有膜や金属材料を形成した場合において放電容量維持率が高くなった。
【0269】
これらのことから、本発明の二次電池では、負極52が負極活物質としてケイ素(電子ビーム蒸着法)を含む場合に、式(1)に示したニトリル化合物を含む負極被膜52Cを負極活物質層52B上に設けるようにしたことにより、負極活物質層52Bの構成あるいは負極被膜52Cの組成に依存することなく、サイクル特性が向上することが確認された。この場合には、負極被膜52C中にアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩を含ませたり、被膜52Cの形成前に酸化物含有膜あるいは金属材料を形成すれば、サイクル特性がより向上することも確認された。特に、アルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩よりも酸化物含有膜あるいは金属材料においてサイクル特性が高くなり、酸化物含有膜あるいは金属材料を用いる場合には、酸化物含有膜および金属材料のうちのいずれか一方よりも双方においてサイクル特性がより高くなることが確認された。
【0270】
(実験例4−1)
負極被膜52Cを形成する代わりに、正極活物質層51B上に正極被膜51Cを形成したことを除き、実験例1−1と同様の手順を経た。正極被膜51Cを形成する場合には、負極被膜52Cを形成する場合に用いた水溶液を準備し、正極活物質層51Bが形成された正極集電体51Aを水溶液中に数秒間浸漬させてから引き上げたのち、150℃の減圧環境中において乾燥させた。
【0271】
(実験例4−2)
負極被膜52Cに加えて、正極活物質層51B上に正極被膜51Cを形成したことを除き、実験例1−7と同様の手順を経た。正極被膜51Cの形成手順は、実験例4−1と同様である。
【0272】
(実験例4−3)
負極被膜52Cを形成する代わりに、電解液中に式(1−1)に示した化合物を飽和するまで溶解させたことを除き、実験例1−1と同様の手順を経た。
【0273】
(実験例4−4)
溶媒として、アセトニトリル(CH3 CN)を溶媒中における含有量が5重量%となるように加えたことを除き、実験例1−13と同様の手順を経た。
【0274】
これらの実験例4−1〜4−4の二次電池について、サイクル特性を調べたところ、表4に示した結果が得られた。
【0275】
【表4】
【0276】
表4に示したように、式(1−1)に示した化合物を含む正極被膜51Cを形成した実験例4−1では、それを形成しなかった実験例1−12よりも放電容量維持率が高くなった。また、式(1−1)に示した化合物を含む正極被膜51Cおよび負極被膜52Cを形成した実験例4−2では、負極被膜52Cだけを形成した実験例1−7よりも放電容量維持率が高くなった。さらに、式(1−1)に示した化合物を電解液に加えた実験例4−3では、それを加えなかった実験例1−12よりも放電容量維持率が高くなった。この場合には、実験例1−1,4−1,4−3の比較から、正極51、負極52および電解液のいずれか1つだけが式(1−1)に示した化合物を含む場合、電解液よりも電極(正極51,負極52)において放電容量維持率が高くなり、電極の中では正極51よりも負極52において放電容量維持率が高くなる傾向を示した。この結果は、正極51、負極52および電解液のうちのいずれか1つが式(1)に示したニトリル化合物を含むことにより、そのニトリル化合物を含むものの化学的安定性が向上し、電解液の分解抑制効果が得られることを表している。また、正極51、負極52および電解液のうちのいずれか2つが式(1)に示したニトリル化合物を含む場合には、両電極に式(1)に示したニトリル化合物を含ませることにより、それらのうちのいずれか1つが含む場合と比較して、より高い電解液の分解抑制効果が得られることを表している。
【0277】
また、スルホン酸イオン基およびカルボン酸イオン基を含まないニトリル化合物であるアセトニトリルを電解液に加えた実験例4−4では、放電容量維持率は、式(1−1)に示した化合物を含む負極被膜52Cを形成した実験例1−3よりも著しく低くなったのはもちろんのこと、ニトリル化合物を含まない実験例1−13よりも著しく低くなった。この結果は、式(1)に示したニトリル化合物がニトリル基とスルホン酸イオン基あるいはカルボン酸イオン基とを併せて有することにより、それを含有する構成要素の化学的安定性を向上させ、電解液分解抑制効果が発揮されることを表している。
【0278】
このことから、本発明の二次電池では、負極52が負極活物質としてケイ素を用いると共に気相法(電子ビーム蒸着法)を用いて負極活物質層52Bを形成した場合に、式(1)に示したニトリル化合物を正極被膜51Cを正極活物質層51B上に設けたり、あるいは式(1)に示したニトリル化合物を電解液に含ませることにより、サイクル特性が向上することが確認された。この場合には、式(1)に示した化合物を含む対象は、電解液よりも正極51のほうが高い効果が得られ、正極51よりも負極52のほうがより高い効果が得られることが確認された。特に、正極51および負極52の双方が式(1)に示したニトリル化合物を含むことにより、さらに高い効果が得られることが確認された。
【0279】
(実験例5−1〜5−14)
気相法(電子ビーム蒸着法)に代えて、焼結法を用いて負極活物質層52Bを厚さが10μmとなるように形成したことを除き、実験例1−1〜1−14と同様の手順を経た。焼結法により負極活物質層52Bを形成する際には、負極活物質としてケイ素(平均粒径=1μm)95質量部と、負極結着剤としてポリイミド5質量部とを混合した負極合剤をN−メチル−2−ピロリドンに分散させてペースト状の負極合剤スラリーとし、バーコータにより粗面化された電解銅箔(厚さ=18μm)からなる負極集電体52Aに均一に塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機により圧縮成型し、真空雰囲気中において400℃×12時間の条件で加熱した。この場合においても、負極52の充放電容量が正極51の充放電容量よりも大きくなるように正極活物質層51Bの厚さを調整することにより、満充電時において負極52にリチウム金属が析出しないようにした。
【0280】
これらの実験例5−1〜5−14の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表5に示した結果が得られた。
【0281】
【表5】
【0282】
表5に示したように、負極活物質としてケイ素を用いると共に焼結法を用いて負極活物質層52Bを形成した場合においても、表1の結果と同様の結果が得られた。すなわち、式(1−1)あるいは式(1−2)に示した化合物を含む負極被膜52Cを形成した実験例5−1〜5−11では、それを形成しなかった実験例5−12〜5−14よりも放電容量維持率が高くなった。また、溶媒としてPC等を加えた実験例5−2〜5−10では、それを加えなかった実験例5−1よりも放電容量維持率が高くなった。
【0283】
これらのことから、本発明の二次電池では、負極活物質としてケイ素を用いると共に焼結法を用いて負極活物質層52Bを形成した場合に、式(1)に示したニトリル化合物を含む負極被膜52Cを負極活物質層52B上に設けることにより、溶媒の組成や式(1)に示したニトリル化合物の種類に依存することなく、サイクル特性が向上することが確認された。
【0284】
(実験例6−1〜6−8)
実験例5−1〜5−14と同様に、焼結法を用いて負極活物質層52Bを形成したことを除き、実験例2−1〜2−8と同様の手順を経た。
【0285】
これらの実験例6−1〜6−8の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表6に示した結果が得られた。
【0286】
【表6】
【0287】
表6に示したように、焼結法を用いて負極活物質層52Bを形成した場合においても、表2の結果と同様の結果が得られた。すなわち、式(1−1)に示した化合物を含む負極被膜52Cを形成した実験例6−1〜6−7では、それを形成しなかった実験例5−12,5−13および6−8よりも、放電容量維持率が高くなった。この場合には、PRS等やLiBF4 等を加えた実験例6−1〜6−7では、それを加えなかった実験例5−1,5−3よりも放電容量維持率が高くなった。その一方で、PRSを加えた実験例6−8では、それを含まない実験例5−12と同等の放電容量維持率となった。
【0288】
これらのことから、本発明の二次電池では、負極活物質としてケイ素を用いると共に焼結法を用いて負極活物質層52Bを形成した場合に、式(1)に示したニトリル化合物を含む負極被膜52Cを負極活物質層52B上に設けることにより、電解液の組成に依存することなく、サイクル特性が向上することが確認された。
【0289】
(実験例7)
実験例5−1〜5−14と同様に焼結法を用いて負極活物質層52Bを形成したことを除き、実験例3−1と同様の手順を経た。
【0290】
この実験例7の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表7に示した結果が得られた。
【0291】
【表7】
【0292】
表7に示したように、焼結法を用いて負極活物質層52Bを形成した場合においても、表3に示した結果と同様の結果が得られた。すなわち、式(1−1)に示した化合物を含む負極被膜52Cを形成した場合には、負極被膜52C中にSPHMgを含ませた実験例7では、それを含ませなかった実験例5−3よりも放電容量維持率が高くなった。
【0293】
このことから、本発明の二次電池では、負極活物質としてケイ素を用いると共に焼結法を用いて負極活物質層52Bを形成した場合に、式(1)に示したニトリル化合物を含む負極被膜52Cを負極活物質層52B上に設けることにより、負極被膜52Cの組成に依存することなく、サイクル特性が向上し、その場合にはアルカリ金属塩等を負極被膜52Cに含ませることにより、サイクル特性がより向上することが確認された。
【0294】
(実験例8−1)
負極活物質としてケイ素に代えてSnCoC含有材料を用い、塗布法により負極活物質層52Bを形成すると共に、電解液における溶媒の組成を表8に示したように変更したことを除き、実験例1−1〜1−10と同様の手順を経た。
【0295】
負極活物質を準備する場合には、最初に、スズ粉末とコバルト粉末とを合金化してスズコバルト合金粉末としたのち、炭素粉末を加えて乾式混合した。続いて、伊藤製作所製の遊星ボールミルの反応容器中に、上記した混合物20gと、直径9mmの鋼玉約400gとをセットした。続いて、反応容器中をアルゴン(Ar)雰囲気に置換したのち、毎分250回転の回転速度による10分間の運転と10分間の休止とを運転時間の合計が50時間になるまで繰り返した。最後に、反応容器を室温まで冷却したのち、合成された負極活物質粉末を取り出し、280メッシュのふるいを通して粗粉を取り除いた。得られたSnCoC含有材料の組成を分析したところ、スズの含有量は48質量%、コバルトの含有量は23質量%、炭素の含有量は20質量%、スズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合(Co/(Sn+Co))は32質量%であった。SnCoC含有材料の組成を分析する場合には、炭素の含有量については炭素・硫黄分析装置を用いて測定し、スズおよびコバルトの含有量についてはICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)発光分析を用いて測定した。また、得られたSnCoC含有材料をX線回折分析したところ、回折角2θ=20°〜50°の間に、回折角2θが1.0°以上の広い半値幅を有する回折ピークが観察された。さらに、XPSによりSnCoC含有材料を分析したところ、図18に示したように、ピークP1が得られた。このピークP1を解析すると、表面汚染炭素のピークP2と、それよりも低エネルギー側にSnCoC含有材料中におけるC1sのピークP3とが得られた。このピークP3は、284.5eVよりも低い領域に得られた。すなわち、SnCoC含有材料中の炭素が他の元素と結合していることが確認された。
【0296】
負極活物質層52Bを形成する場合には、最初に、負極活物質としてSnCoC含有材料粉末80質量部と、負極導電剤としてグラファイト11質量部およびアセチレンブラック1質量部と、負極結着剤としてポリフッ化ビニリデン8質量部とを混合して負極合剤としたのち、N−メチル−2−ピロリドンに分散させてペースト状の負極合剤スラリーとした。続いて、電解銅箔からなる負極集電体52A(厚さ=10μm)の一面に負極合剤スラリーを均一に塗布したのち、乾燥させた。最後に、ロールプレス機を用いて圧縮成型した。この場合においても、負極52の充放電容量が正極51充放電容量よりも大きくなるように正極活物質層51Bの厚さを調整することにより、満充電時において負極52にリチウム金属が析出しないようにした。
【0297】
溶媒としては、EC、PCおよびFECと共に、炭酸ジメチル(DMC)を用いた。
【0298】
(実験例8−2)
負極被膜52Cを形成しなかったことを除き、実験例8−1と同様の手順を経た。
【0299】
これらの実験例8−1,8−2の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表8に示した結果が得られた。
【0300】
【表8】
【0301】
表8に示したように、負極活物質としてSnCoC含有材料を用いると共に塗布法を用いて負極活物質層52Bを形成した場合においても、表1の結果と同様の結果が得られた。すなわち、式(1−1)に示した化合物を含む負極被膜52Cを形成した実験例8−1では、それを形成しなかった実験例8−2よりも放電容量維持率が高くなった。
【0302】
このことから、本発明の二次電池では、負極活物質としてSnCoC含有材料を用いると共に塗布法を用いて負極活物質層52Bを形成した場合に、式(1)に示したニトリル化合物を含む負極被膜52Cを負極活物質層52B上に設けることにより、サイクル特性が向上することが確認された。
【0303】
(実験例9−1)
負極活物質としてSnCoC含有材料に代えて人造黒鉛を用いると共に塗布法を用いて負極活物質層52Bの厚さが70μmとなるように形成したことを除き、実験例8−1と同様の手順を経た。負極52を作製する場合には、負極活物質として人造黒鉛粉末97質量部と、負極結着剤としてポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合した負極合剤をN−メチル−2−ピロリドンに分散させてペースト状の負極合剤スラリーとした。続いて、バーコータにより銅箔(厚さ=15μm)からなる負極集電体52Aの両面に均一に塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機により圧縮成型し、負極活物質層52Bを形成した。続いて、界面活性剤としてパーフルオロブタンスルホン酸リチウムを0.5重量%の濃度になるように添加した式(1−1)に示した化合物の3重量%水溶液を調整した。最後に、この溶液中に、負極活物質層52Bが形成された負極集電体52Aを数秒間浸漬させてから引き上げたのち、150℃の減圧環境中において乾燥させ、負極活物質層52B上に負極被膜52Cを形成した。この場合においても、負極52の充放電容量が正極51の充放電容量よりも大きくなるように正極活物質層51Bの厚さを調整することにより、満充電時において負極52にリチウム金属が析出しないようにした。
【0304】
(実験例9−2)
負極被膜52Cを形成しなかったことを除き、実験例9−1と同様の手順を経た。
【0305】
これらの実験例9−1,9−2の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表9に示した結果が得られた。
【0306】
【表9】
【0307】
表9に示したように、負極活物質として人造黒鉛を用いると共に塗布法を用いて負極活物質層52Bを形成した場合においても、表1の結果と同様の結果が得られた。すなわち、式(1−1)に示した化合物を含む負極被膜52Cを形成した実験例9−1では、それを形成しなかった実験例9−2よりも放電容量維持率が高くなった。
【0308】
このことから、本発明の二次電池では、負極活物質として炭素材料を用いると共に塗布法を用いて負極活物質層52Bを形成した場合に、式(1)に示したニトリル化合物を含む負極被膜52Cを負極活物質層52B上に設けることにより、サイクル特性が向上することが確認された。
【0309】
(実験例10−1)
正極活物質としてLiCoO2 に代えてLiCo0.98Al0.01Mg0.01O2 を用いると共に、負極活物質層52B上に負極被膜52Cを形成する代わりに正極活物質層51B上に正極被膜51Cを形成したことを除き、実験例1−3と同様の手順を経た。正極被膜51Cの形成手順は、実験例4−1と同様である。
【0310】
(実験例10−2)
正極活物質層51B上に正極被膜51Cを形成する代わりに、粒子状の正極活物質(正極活物質粒子211)の表面に粒子被覆膜212を形成したことを除き、実験例10−1と同様の手順を経た。正極51を作製する場合には、最初に、正極活物質としてLiCo0.98Al0.01Mg0.01O2 100質量部と、式(1−1)に示した化合物1質量部とを100cm3 の純水中に投入し、1時間撹拌しながら混合した。続いて、エバポレータを用いて混合物から水分を除去したのち、オーブン中において120℃12時間乾燥させた。これにより、式(1−1)に示した化合物を含む粒子被覆膜212が正極活物質粒子211の表面を被覆するように形成された。続いて、粒子被覆膜212が形成された正極活物質粒子211(LiCo0.98Al0.01Mg0.01O2 )91質量部と、正極導電剤としてグラファイト6質量部と、正極結着剤としてポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合して正極合剤としたのち、N−メチル−2−ピロリドンに分散させてペースト状の正極合剤スラリーとした。続いて、バーコータを用いて帯状のアルミニウム箔からなる正極集電体51A(厚さ=12μm)の一面に正極合剤スラリーを均一に塗布したのち、乾燥させた。最後に、ロールプレス機を用いて圧縮成型することにより、正極活物質層51Bを形成した。
【0311】
(実験例10−3)
正極被膜51Cあるいは粒子被覆膜212を形成しなかったことを除き、実験例10−1,10−2と同様の手順を経た。
【0312】
これらの実験例10−1〜10−3の二次電池について、サイクル特性と共に、反応抵抗特性を調べたところ、表10に示した結果が得られた。
【0313】
反応抵抗特性を調べる際には、サイクル特性を調べる際の条件と同様にして100サイクル充放電させたのち、23℃の雰囲気中において、交流インピーダンス法により10-2Hz〜106 Hzの周波数帯における二次電池の複素インピーダンスを測定した。この複素インピーダンスを横軸がインピーダンスの実数部(Z’)に対して縦軸がその虚数部(Z”)としてコール・コール・プロットしたのち、抵抗成分(負極)の円弧を半円として近似して、その極大値である反応抵抗を求めた。
【0314】
【表10】
【0315】
表10に示したように、正極活物質としてLiCo0.98Al0.01Mg0.01O2 を用いると共に式(1−1)に示した化合物を含む正極被膜51Cあるいは粒子被覆膜212を形成した場合においても、表4と同様の結果が得られた。すなわち、式(1−1)に示した化合物を含む正極被膜51Cあるいは粒子被覆膜212を形成した実験例10−1,10−2では、それらを形成しなかった実験例10−3よりも放電容量維持率が高くなった。
【0316】
この場合には、正極被膜51Cを形成した実験例10−1において、粒子被覆膜212を形成した実験例10−2よりも放電容量維持率が高くなった。この結果は、放電容量維持率を高くするためには、粒子被覆膜212よりも正極被膜51Cが有利であることを表している。
【0317】
また、正極被膜51Cあるいは粒子被覆膜212を形成した実験例10−1,10−2では、それを形成しなかった実験例10−3よりも反応抵抗が低くなった。この結果は、負極52における抵抗成分の増加が抑制されたことを表している。すなわち、正極被膜51Cあるいは粒子被覆膜212を設けることにより、負極52に対する分解物の付着が抑制される。
【0318】
この場合には、実験例10−1において、実験例10−2よりも反応抵抗が高くなった。この結果は、反応抵抗を低くするためには、正極被膜51Cよりも粒子被覆膜212が有利であることを表している。
【0319】
これらのことから、本発明の二次電池では、式(1)に示したニトリル化合物を含む正極被膜51Cあるいは粒子被覆膜212を設けることにより、サイクル特性が向上すると共に、反応抵抗特性も向上することが確認された。
【0320】
なお、上記した表1〜表10では、式(1)に示したニトリル化合物として、式(1−1)等に示した化合物を用いた場合の結果だけを示しており、それ以外の他の化合物(例えば、式(1−3)に示した化合物など)を用いた場合の結果を示していない。しかしながら、式(1−3)等に示した化合物は、式(1−1)等に示した化合物と同様の機能を果たすことから、前者を用いたり、複数種の化合物を混合した場合においても、後者を用いた場合と同様の結果が得られる。
【0321】
式(1)に示したニトリル化合物について上記したことは、式(2)〜式(4)に示した不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステル、式(5)に示したハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステル、式(6)に示したハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステル、あるいは式(7)〜式(12)に示した化合物についても、同様である。すなわち、上記した式(2)に示した不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステル等に該当する化合物を溶媒あるいは電解質塩として用いれば、その化合物が表1〜表10において実際に用いられていない化合物であったとしても、表1〜表10において実際に用いられている化合物を用いた場合と同様の結果が得られる。
【0322】
上記した表1〜表10の結果から、本発明の二次電池では、正極、負極および電解質のうちの少なくとも1つが式(1)に示したニトリル化合物を含むことにより、電解質の組成や、負極活物質および正極活物質の種類や、正極活物質層および負極活物質層の形成方法などに依存せずに、サイクル特性を向上させることができる。この場合には、特に、負極が式(1)に示したニトリル化合物を含むようにすれば、特性をより向上させることができる。
【0323】
しかも、負極活物質として、人造黒鉛などの炭素材料を用いた場合よりも、ケイ素あるいはスズコバルト合金などの高容量材料を用いた場合において、放電容量維持率の増加率が大きくなった。すなわち、負極活物質として、ケイ素およびスズのうちの少なくとも一方を構成元素として有する材料を用いた場合において、より高い効果を得ることができる。この結果は、負極活物質として高容量材料を用いると、炭素材料を用いる場合よりも電解質が分解しやすくなるため、電解質の分解抑制効果が際立って発揮されたものと考えられる。
【0324】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記した実施の形態および実施例において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、本発明の負極、負極および電解質の使用用途は、必ずしも二次電池に限らず、二次電池以外の他の電気化学デバイスであっても良い。他の用途としては、例えば、キャパシタなどが挙げられる。
【0325】
また、上記した実施の形態および実施例では、二次電池の種類として、負極の容量がリチウムイオンの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。本発明の二次電池は、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極材料の充電容量を正極の充電容量よりも小さくすることにより、負極の容量がリチウムイオンの吸蔵および放出に伴う容量とリチウムの析出および溶解に伴う容量とを含み、かつ、それらの容量の和により表される二次電池についても、同様に適用可能である。
【0326】
また、上記した実施の形態および実施例では、本発明の二次電池の電解質として、電解液や、電解液を高分子化合物に保持させたゲル状電解質を用いる場合について説明したが、他の種類の電解質を用いるようにしてもよい。他の電解質としては、例えば、イオン伝導性セラミックス、イオン伝導性ガラスあるいはイオン性結晶などのイオン伝導性無機化合物と電解液とを混合したものや、他の無機化合物と電解液とを混合したものや、これらの無機化合物とゲル状電解質とを混合したものや、電解質塩とイオン伝導性の高分子化合物とを混合した固体電解質などが挙げられる。
【0327】
また、上記した実施の形態および実施例では、電池構造が円筒型、ラミネートフィルム型あるいはコイン型である場合、ならびに電池素子が巻回構造を有する場合を例に挙げて説明したが、本発明の二次電池は、角型およびボタン型などの他の電池構造を有する場合や、電池素子が積層構造などの他の構造を有する場合についても同様に適用可能である。
【0328】
また、上記した実施の形態および実施例では、電極反応物質としてリチウム(リチウムイオン)を用いる場合について説明したが、ナトリウムあるいはカリウムなどの他の1族元素や、マグネシウムあるいはカルシウムなどの2族元素や、アルミニウムなどの他の軽金属を用いてもよい。本発明の効果は、電極反応物質の種類に依存せずに得られるはずであるため、その電極反応物質の種類を変更した場合においても、同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0329】
【図1】本発明の一実施の形態に係る二次電池(第1の二次電池)の構成を表す断面図である。
【図2】図1に示した巻回電極体の一部を拡大して表す断面図である。
【図3】図2に示した負極の一部を拡大して表す断面図である。
【図4】図3に示した負極に対する参考例の負極を表す断面図である。
【図5】図2に示した負極の断面構造を表すSEM写真およびその模式図である。
【図6】図2に示した負極の他の断面構造を表すSEM写真およびその模式図である。
【図7】本発明の一実施の形態に係る二次電池(他の第1の二次電池)の変形例の構成を表す断面図である。
【図8】図7に示した巻回電極体のVIII−VIII線に沿った断面図である。
【図9】図8に示した巻回電極体の一部を拡大して表す断面図である。
【図10】本発明の一実施の形態に係る二次電池(さらに他の第1の二次電池)の他の変形例の構成を表す断面図である。
【図11】本発明の一実施の形態に係る二次電池(第2の二次電池)の主要部の構成を表す断面図である。
【図12】本発明の一実施の形態に係る二次電池(他の第2の二次電池)の変形例の構成を表す断面図である。
【図13】本発明の一実施の形態に係る二次電池(さらに他の第2の二次電池)の他の変形例の構成を表す断面図である。
【図14】本発明の一実施の形態に係る二次電池(第2の二次電池)の主要部の構成を表す断面図である。
【図15】本発明の一実施の形態に係る二次電池(第3の二次電池)の変形例の構成を表す断面図である。
【図16】本発明の一実施の形態に係る二次電池(他の第3の二次電池)の他の変形例の構成を表す断面図である。
【図17】本発明の一実施の形態に係る二次電池(さらに他の第3の二次電池)の他の変形例の構成を表す断面図である。
【図18】X線光電子分光法によるSnCoC含有材料の分析結果を表す図である。
【符号の説明】
【0330】
11…電池缶、12,13…絶縁板、14…電池蓋、15…安全弁機構、15A…ディスク板、16…熱感抵抗素子、17,56…ガスケット、20,30…巻回電極体、21,33,51…正極、21A,33A,51A…正極集電体、21B,33B,51B…正極活物質層、21C,33C,51C…正極被膜、22,34,52…負極、22A,34A,52A…負極集電体、22B,34B,52B…負極活物質層、22C,34C,52C…負極被膜、23,35,53…セパレータ、24…センターピン、25,31…正極リード、26,32…負極リード、36…電解質層、37…保護テープ、40…外装部材、41…密着フィルム、54…外装缶、55…外装カップ、211…正極活物質粒子、212…粒子被覆膜、221…負極活物質粒子、222…酸化物含有膜、224(224A,224B)…隙間、225…空隙、226…金属材料。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な正極活物質を含む正極と、前記電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質を含む負極と、溶媒および電解質塩を含む電解質と、を備え、
前記正極、前記負極および前記電解質のうちの少なくとも1つは、式(1)で表されるニトリル化合物を含む
二次電池。
【化1】
(R1は水素(H)、酸素(O)およびハロゲン元素からなる群より選択される元素と炭素(C)とにより構成された(a1+b1+c1)価の基であり、M1は金属元素である。a1、d1、f1およびe1は1以上の整数であり、b1およびc1は0以上の整数である。ただし、(b1+c1)≧1を満たす。)
【請求項2】
前記式(1)中のM1は、アルカリ金属元素あるいはアルカリ土類金属元素である請求項1記載の二次電池。
【請求項3】
前記式(1)中のR1を構成する炭素は、隣り合う元素と単結合している請求項1記載の二次電池。
【請求項4】
前記電極反応物質は、リチウムイオンであり、前記式(1)中のM1は、リチウム(Li)である請求項1記載の二次電池。
【請求項5】
前記式(1)に示したニトリル化合物は、式(1−1)〜式(1−68)で表される化合物である請求項1記載の二次電池。
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【請求項6】
前記式(1)に示したニトリル化合物は、前記式(1−1)あるいは前記式(1−2)に示した化合物である請求項1記載の二次電池。
【請求項7】
前記負極は、負極集電体に設けられた負極活物質層上に負極被膜を有し、前記負極被膜は、前記式(1)に示したニトリル化合物を含む請求項1記載の二次電池。
【請求項8】
前記負極被膜は、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩のうちの少なくとも1種(式(1)に示したニトリル化合物に該当するものを除く)を含む請求項7記載の二次電池。
【請求項9】
前記負極活物質は、複数の粒子状であり、前記負極活物質層は、前記負極活物質の表面を被覆する酸化物含有膜を含み、前記酸化物含有膜は、ケイ素(Si)の酸化物、ゲルマニウム(Ge)の酸化物、およびスズ(Sn)の酸化物のうちの少なくとも1種を含有する請求項7記載の二次電池。
【請求項10】
前記負極活物質は、複数の粒子状であり、前記負極活物質層は、その内部の隙間に、前記電極反応物質と合金化しない金属材料を含み、前記金属材料は、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)および銅(Cu)のうちの少なくとも1種を含有する請求項7記載の二次電池。
【請求項11】
前記負極活物質は、ケイ素およびスズのうちの少なくとも一方を構成元素として有する請求項1記載の二次電池。
【請求項12】
前記正極は、正極集電体に設けられた正極活物質層上に正極被膜を有し、前記正極被膜は、前記式(1)に示したニトリル化合物を含む請求項1記載の二次電池。
【請求項13】
前記正極は、正極集電体上に正極活物質層を有し、前記正極活物質は、複数の粒子状であり、前記正極活物質層は、前記正極活物質の表面を被覆する粒子被覆膜を含み、前記粒子被覆膜は、前記式(1)に示したニトリル化合物を含む請求項1記載の二次電池。
【請求項14】
前記電解質は、前記式(1)に示したニトリル化合物を含む請求項1記載の二次電池。
【請求項15】
前記溶媒は、式(2)〜式(4)で表される不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステル、式(5)で表されるハロゲンを有する鎖状炭酸エステル、式(6)で表されるハロゲンを有する環状炭酸エステル、スルトン、および酸無水物のうちの少なくとも1種を含有する請求項1記載の二次電池。
【化9】
(R11およびR12は水素基あるいはアルキル基である。)
【化10】
(R13〜R16は水素基、アルキル基、ビニル基あるいはアリル基であり、それらのうちの少なくとも1つはビニル基あるいはアリル基である。)
【化11】
(R17はアルキレン基である。)
【化12】
(R21〜R26は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
【化13】
(R27〜R30は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
【請求項16】
前記電解質塩は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、過塩素酸リチウム(LiClO4 )、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6 )、式(7)〜式(9)で表される化合物、および式(10)〜式(12)で表される化合物のうちの少なくとも1種を含有する請求項1記載の二次電池。
【化14】
(X31は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素、またはアルミニウム(Al)である。M31は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。R31はハロゲン基である。Y31は−(O=)C−R32−C(=O)−、−(O=)C−C(R33)2 −あるいは−(O=)C−C(=O)−である。ただし、R32はアルキレン基、ハロゲン化アルキレン基、アリーレン基あるいはハロゲン化アリーレン基である。R33はアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基あるいはハロゲン化アリール基である。なお、a3は1〜4の整数であり、b3は0、2あるいは4であり、c3、d3、m3およびn3は1〜3の整数である。)
【化15】
(X41は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素である。M41は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。Y41は−(O=)C−(C(R41)2 )b4−C(=O)−、−(R43)2 C−(C(R42)2 )c4−C(=O)−、−(R43)2 C−(C(R42)2 )c4−C(R43)2 −、−(R43)2 C−(C(R42)2 )c4−S(=O)2 −、−(O=)2 S−(C(R42)2 )d4−S(=O)2 −あるいは−(O=)C−(C(R42)2 )d4−S(=O)2 −である。ただし、R41およびR43は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それぞれのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R42は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a4、e4およびn4は1あるいは2であり、b4およびd4は1〜4の整数であり、c4は0〜4の整数であり、f4およびm4は1〜3の整数である。)
【化16】
(X51は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素である。M51は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。Rfはフッ素化アルキル基あるいはフッ素化アリール基であり、いずれの炭素数も1〜10である。Y51は−(O=)C−(C(R51)2 )d5−C(=O)−、−(R52)2 C−(C(R51)2 )d5−C(=O)−、−(R52)2 C−(C(R51)2 )d5−C(R52)2 −、−(R52)2 C−(C(R51)2 )d5−S(=O)2 −、−(O=)2 S−(C(R51)2 )e5−S(=O)2 −あるいは−(O=)C−(C(R51)2 )e5−S(=O)2 −である。ただし、R51は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R52は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、そのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a5、f5およびn5は1あるいは2であり、b5、c5およびe5は1〜4の整数であり、d5は0〜4の整数であり、g5およびm5は1〜3の整数である。)
【化17】
(mおよびnは1以上の整数である。)
【化18】
(R61は炭素数が2以上4以下の直鎖状あるいは分岐状のパーフルオロアルキレン基である。)
【化19】
(p、qおよびrは1以上の整数である。)
【請求項17】
負極集電体に設けられた負極活物質層上に負極被膜を有し、
前記負極活物質層は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質を含み、
前記負極被膜は、式(1)で表されるニトリル化合物を含む
負極。
【化20】
(R1は水素、酸素およびハロゲン元素からなる群より選択される元素と炭素とにより構成された(a1+b1+c1)価の基であり、M1は金属元素である。a1、d1、f1およびe1は1以上の整数であり、b1およびc1は0以上の整数である。ただし、(b1+c1)≧1を満たす。)
【請求項18】
正極集電体に設けられた正極活物質層上に正極被膜を有し、
前記正極活物質層は、電極反応物質を吸蔵および放出することは可能な正極活物質を含み、
前記正極被膜は、式(1)で表されるニトリル化合物を含む
正極。
【化21】
(R1は水素、酸素およびハロゲン元素からなる群より選択される元素と炭素とにより構成された(a1+b1+c1)価の基であり、M1は金属元素である。a1、d1、f1およびe1は1以上の整数であり、b1およびc1は0以上の整数である。ただし、(b1+c1)≧1を満たす。)
【請求項19】
正極集電体上に、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な正極活物質を含む正極活物質層を有し、
前記正極活物質は、複数の粒子状であり、
前記正極活物質層は、前記正極活物質の表面を被覆する粒子被覆膜を含み、
前記粒子被覆膜は、式(1)で表されるニトリル化合物を含む
正極。
【化22】
(R1は水素、酸素およびハロゲン元素からなる群より選択される元素と炭素とにより構成された(a1+b1+c1)価の基であり、M1は金属元素である。a1、d1、f1およびe1は1以上の整数であり、b1およびc1は0以上の整数である。ただし、(b1+c1)≧1を満たす。)
【請求項20】
溶媒と、電解質塩と、式(1)で表されるニトリル化合物と、を含む電解質。
【化23】
(R1は水素、酸素およびハロゲン元素からなる群より選択される元素と炭素とにより構成された(a1+b1+c1)価の基であり、M1は金属元素である。a1、d1、f1およびe1は1以上の整数であり、b1およびc1は0以上の整数である。ただし、(b1+c1)≧1を満たす。)
【請求項1】
電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な正極活物質を含む正極と、前記電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質を含む負極と、溶媒および電解質塩を含む電解質と、を備え、
前記正極、前記負極および前記電解質のうちの少なくとも1つは、式(1)で表されるニトリル化合物を含む
二次電池。
【化1】
(R1は水素(H)、酸素(O)およびハロゲン元素からなる群より選択される元素と炭素(C)とにより構成された(a1+b1+c1)価の基であり、M1は金属元素である。a1、d1、f1およびe1は1以上の整数であり、b1およびc1は0以上の整数である。ただし、(b1+c1)≧1を満たす。)
【請求項2】
前記式(1)中のM1は、アルカリ金属元素あるいはアルカリ土類金属元素である請求項1記載の二次電池。
【請求項3】
前記式(1)中のR1を構成する炭素は、隣り合う元素と単結合している請求項1記載の二次電池。
【請求項4】
前記電極反応物質は、リチウムイオンであり、前記式(1)中のM1は、リチウム(Li)である請求項1記載の二次電池。
【請求項5】
前記式(1)に示したニトリル化合物は、式(1−1)〜式(1−68)で表される化合物である請求項1記載の二次電池。
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【請求項6】
前記式(1)に示したニトリル化合物は、前記式(1−1)あるいは前記式(1−2)に示した化合物である請求項1記載の二次電池。
【請求項7】
前記負極は、負極集電体に設けられた負極活物質層上に負極被膜を有し、前記負極被膜は、前記式(1)に示したニトリル化合物を含む請求項1記載の二次電池。
【請求項8】
前記負極被膜は、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩のうちの少なくとも1種(式(1)に示したニトリル化合物に該当するものを除く)を含む請求項7記載の二次電池。
【請求項9】
前記負極活物質は、複数の粒子状であり、前記負極活物質層は、前記負極活物質の表面を被覆する酸化物含有膜を含み、前記酸化物含有膜は、ケイ素(Si)の酸化物、ゲルマニウム(Ge)の酸化物、およびスズ(Sn)の酸化物のうちの少なくとも1種を含有する請求項7記載の二次電池。
【請求項10】
前記負極活物質は、複数の粒子状であり、前記負極活物質層は、その内部の隙間に、前記電極反応物質と合金化しない金属材料を含み、前記金属材料は、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)および銅(Cu)のうちの少なくとも1種を含有する請求項7記載の二次電池。
【請求項11】
前記負極活物質は、ケイ素およびスズのうちの少なくとも一方を構成元素として有する請求項1記載の二次電池。
【請求項12】
前記正極は、正極集電体に設けられた正極活物質層上に正極被膜を有し、前記正極被膜は、前記式(1)に示したニトリル化合物を含む請求項1記載の二次電池。
【請求項13】
前記正極は、正極集電体上に正極活物質層を有し、前記正極活物質は、複数の粒子状であり、前記正極活物質層は、前記正極活物質の表面を被覆する粒子被覆膜を含み、前記粒子被覆膜は、前記式(1)に示したニトリル化合物を含む請求項1記載の二次電池。
【請求項14】
前記電解質は、前記式(1)に示したニトリル化合物を含む請求項1記載の二次電池。
【請求項15】
前記溶媒は、式(2)〜式(4)で表される不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステル、式(5)で表されるハロゲンを有する鎖状炭酸エステル、式(6)で表されるハロゲンを有する環状炭酸エステル、スルトン、および酸無水物のうちの少なくとも1種を含有する請求項1記載の二次電池。
【化9】
(R11およびR12は水素基あるいはアルキル基である。)
【化10】
(R13〜R16は水素基、アルキル基、ビニル基あるいはアリル基であり、それらのうちの少なくとも1つはビニル基あるいはアリル基である。)
【化11】
(R17はアルキレン基である。)
【化12】
(R21〜R26は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
【化13】
(R27〜R30は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
【請求項16】
前記電解質塩は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、過塩素酸リチウム(LiClO4 )、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6 )、式(7)〜式(9)で表される化合物、および式(10)〜式(12)で表される化合物のうちの少なくとも1種を含有する請求項1記載の二次電池。
【化14】
(X31は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素、またはアルミニウム(Al)である。M31は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。R31はハロゲン基である。Y31は−(O=)C−R32−C(=O)−、−(O=)C−C(R33)2 −あるいは−(O=)C−C(=O)−である。ただし、R32はアルキレン基、ハロゲン化アルキレン基、アリーレン基あるいはハロゲン化アリーレン基である。R33はアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基あるいはハロゲン化アリール基である。なお、a3は1〜4の整数であり、b3は0、2あるいは4であり、c3、d3、m3およびn3は1〜3の整数である。)
【化15】
(X41は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素である。M41は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。Y41は−(O=)C−(C(R41)2 )b4−C(=O)−、−(R43)2 C−(C(R42)2 )c4−C(=O)−、−(R43)2 C−(C(R42)2 )c4−C(R43)2 −、−(R43)2 C−(C(R42)2 )c4−S(=O)2 −、−(O=)2 S−(C(R42)2 )d4−S(=O)2 −あるいは−(O=)C−(C(R42)2 )d4−S(=O)2 −である。ただし、R41およびR43は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それぞれのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R42は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a4、e4およびn4は1あるいは2であり、b4およびd4は1〜4の整数であり、c4は0〜4の整数であり、f4およびm4は1〜3の整数である。)
【化16】
(X51は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素である。M51は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。Rfはフッ素化アルキル基あるいはフッ素化アリール基であり、いずれの炭素数も1〜10である。Y51は−(O=)C−(C(R51)2 )d5−C(=O)−、−(R52)2 C−(C(R51)2 )d5−C(=O)−、−(R52)2 C−(C(R51)2 )d5−C(R52)2 −、−(R52)2 C−(C(R51)2 )d5−S(=O)2 −、−(O=)2 S−(C(R51)2 )e5−S(=O)2 −あるいは−(O=)C−(C(R51)2 )e5−S(=O)2 −である。ただし、R51は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R52は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、そのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a5、f5およびn5は1あるいは2であり、b5、c5およびe5は1〜4の整数であり、d5は0〜4の整数であり、g5およびm5は1〜3の整数である。)
【化17】
(mおよびnは1以上の整数である。)
【化18】
(R61は炭素数が2以上4以下の直鎖状あるいは分岐状のパーフルオロアルキレン基である。)
【化19】
(p、qおよびrは1以上の整数である。)
【請求項17】
負極集電体に設けられた負極活物質層上に負極被膜を有し、
前記負極活物質層は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質を含み、
前記負極被膜は、式(1)で表されるニトリル化合物を含む
負極。
【化20】
(R1は水素、酸素およびハロゲン元素からなる群より選択される元素と炭素とにより構成された(a1+b1+c1)価の基であり、M1は金属元素である。a1、d1、f1およびe1は1以上の整数であり、b1およびc1は0以上の整数である。ただし、(b1+c1)≧1を満たす。)
【請求項18】
正極集電体に設けられた正極活物質層上に正極被膜を有し、
前記正極活物質層は、電極反応物質を吸蔵および放出することは可能な正極活物質を含み、
前記正極被膜は、式(1)で表されるニトリル化合物を含む
正極。
【化21】
(R1は水素、酸素およびハロゲン元素からなる群より選択される元素と炭素とにより構成された(a1+b1+c1)価の基であり、M1は金属元素である。a1、d1、f1およびe1は1以上の整数であり、b1およびc1は0以上の整数である。ただし、(b1+c1)≧1を満たす。)
【請求項19】
正極集電体上に、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な正極活物質を含む正極活物質層を有し、
前記正極活物質は、複数の粒子状であり、
前記正極活物質層は、前記正極活物質の表面を被覆する粒子被覆膜を含み、
前記粒子被覆膜は、式(1)で表されるニトリル化合物を含む
正極。
【化22】
(R1は水素、酸素およびハロゲン元素からなる群より選択される元素と炭素とにより構成された(a1+b1+c1)価の基であり、M1は金属元素である。a1、d1、f1およびe1は1以上の整数であり、b1およびc1は0以上の整数である。ただし、(b1+c1)≧1を満たす。)
【請求項20】
溶媒と、電解質塩と、式(1)で表されるニトリル化合物と、を含む電解質。
【化23】
(R1は水素、酸素およびハロゲン元素からなる群より選択される元素と炭素とにより構成された(a1+b1+c1)価の基であり、M1は金属元素である。a1、d1、f1およびe1は1以上の整数であり、b1およびc1は0以上の整数である。ただし、(b1+c1)≧1を満たす。)
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
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【図4】
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【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2010−49928(P2010−49928A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−212832(P2008−212832)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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