二次電池およびその製造方法、ならびに負極、正極および電解質
【課題】サイクル特性を向上させることが可能な二次電池を提供する。
【解決手段】正極21および負極22と共に電解液を備え、正極21と負極22との間に設けられたセパレータ23に電解液が含浸されている。負極22は、負極集電体22Aに設けられた負極活物質層22B上に、フッ素樹脂を含む負極被膜22Cを有している。このフッ素樹脂は、2種類の繰り返し単位(−O−CF2 −CF2 −および−O−CF2 −)を有するパーフルオロエーテル結合を母体とし、その両末端にカルボン酸金属塩基を有する化合物である。負極22の化学的安定性が向上するため、充放電時に、負極22においてリチウムイオンが吸蔵および放出されやすくなると共に、電解液の分解反応が抑制される。
【解決手段】正極21および負極22と共に電解液を備え、正極21と負極22との間に設けられたセパレータ23に電解液が含浸されている。負極22は、負極集電体22Aに設けられた負極活物質層22B上に、フッ素樹脂を含む負極被膜22Cを有している。このフッ素樹脂は、2種類の繰り返し単位(−O−CF2 −CF2 −および−O−CF2 −)を有するパーフルオロエーテル結合を母体とし、その両末端にカルボン酸金属塩基を有する化合物である。負極22の化学的安定性が向上するため、充放電時に、負極22においてリチウムイオンが吸蔵および放出されやすくなると共に、電解液の分解反応が抑制される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極および負極と共に電解質を備えた二次電池、その製造方法、ならびに二次電池などの電気化学デバイスに用いられる負極、正極および電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、携帯電話あるいはノートパソコンなどのポータブル電子機器が広く普及しており、その小型化、軽量化および長寿命化が強く求められている。これに伴い、電源として、電池、特に軽量で高エネルギー密度を得ることが可能な二次電池の開発が進められている。
【0003】
中でも、充放電反応にリチウムイオンの吸蔵および放出を利用する二次電池(いわゆるリチウムイオン二次電池)は、鉛電池およびニッケルカドミウム電池よりも高いエネルギー密度が得られるため、広く実用化されている。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、正極および負極と共に、電解質を備えている。正極は、正極集電体上に、正極活物質を含む正極活物質層を有している。負極は、負極集電体上に、負極活物質を含む負極活物質層を有している。電解質は、溶媒と、それに溶解された電解質塩とを含んでいる。
【0005】
負極活物質としては、黒鉛などの炭素材料が広く用いられている。炭素材料ではリチウムイオンの吸蔵および放出時における結晶構造の変化が非常に少ないため、電池容量などが安定して得られるからである。
【0006】
また、最近では、ポータブル電子機器の高性能化および多機能化に伴い、電池容量のさらなる向上が求められていることから、炭素材料に代えて、ケイ素あるいはスズなどの高容量材料を用いることが検討されている。ケイ素の理論容量(4199mAh/g)あるいはスズの理論容量(994mAh/g)は黒鉛の理論容量(372mAh/g)よりも格段に大きいため、電池容量の大幅な向上を期待できるからである。
【0007】
ところが、リチウムイオン二次電池では、充放電時にリチウムイオンを吸蔵した負極活物質が高活性になるため、電解質が分解されやすくなると共に、リチウムイオンの一部が不活性化しやすくなる。これにより、充放電を繰り返すと放電容量が低下しやすくなるため、十分なサイクル特性を得ることが困難である。この問題は、特に、負極活物質として高容量材料を用いた場合に顕著となる。
【0008】
そこで、サイクル特性などの電池特性を改善するために、さまざまな工夫がなされている。具体的には、電解質中にパーフルオロポリエーテルを含有させる技術(例えば、特許文献1,2参照。)や、負極の表面にパーフルオロポリエーテルを含む被膜を形成する技術(例えば、特許文献3参照。)が提案されている。また、フッ化ビニリデンのホモポリマーあるいはコポリマーなどの高分子材料により負極の表面を被覆する技術(例えば、特許文献4参照。)や、負極活物質中にポリフッ化ビニリデンなどを含有させる技術(例えば、特許文献5参照。)も提案されている。
【特許文献1】特開2002−305023号公報
【特許文献2】特開2006−269374号公報
【特許文献3】特開2004−265609号公報
【特許文献4】特表2006−517719号公報
【特許文献5】特開2007−095563号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、ポータブル電子機器は益々高性能化および多機能化しており、その消費電力は増大する傾向にあるため、リチウムイオン二次電池の充放電が頻繁に繰り返され、そのサイクル特性が低下しやすい状況にある。このため、サイクル特性に関して、より一層の向上が望まれている。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、サイクル特性を向上させることが可能な二次電池およびその製造方法、ならびに負極、正極および電解質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の二次電池は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な正極活物質を含む正極と、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質を含む負極と、溶媒および電解質塩を含む電解質とを備え、正極、負極および電解質のうちの少なくとも1つが式(1)および式(2)で表されるフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含むものである。また、本発明の二次電池の製造方法は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な正極活物質を含む正極、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質を含む負極、ならびに溶媒および電解質塩を含む電解質のうちの少なくとも1つに、式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含有させるようにしたものである。
【0012】
【化1】
(X1およびX2のうちの少なくとも一方はカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基である。hおよびkは比率を表し、h+k=1である。)
【0013】
【化2】
(X3はカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基である。)
【0014】
本発明の負極は、負極集電体上に負極活物質層が形成されたのち、その負極活物質層上に形成された負極被膜を有し、負極活物質層が電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質を含み、負極被膜が式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含むものである。
【0015】
本発明の正極は、正極集電体上に正極活物質層が形成されたのち、その正極活物質層上に形成された正極被膜を有し、正極活物質層が電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な正極活物質を含み、正極被膜が式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含むものである。
【0016】
本発明の電解質は、溶媒と、電解質塩と、式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種とを含むものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の負極、正極あるいは電解質によれば、式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含むようにしたので、それらの化学的安定性が向上する。これにより、電極反応時に、負極あるいは正極において電極反応物質が吸蔵および放出されやすくなると共に、電解質の分解反応が抑制される。よって、本発明の二次電池あるいはその製造方法によれば、サイクル特性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
本発明の一実施の形態に係る二次電池は、正極および負極と共に、電解質を備えている。正極は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な正極活物質を含んでおり、負極は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質を含んでいる。また、電解質は、溶媒と、それに溶解された電解質塩とを含んでいる。特に、正極、負極および電解質のうちの少なくとも1つは、式(1)あるいは式(2)で表されるフッ素樹脂のうちの少なくとも1種(以下、単に「フッ素樹脂」ともいう。)を含んでいる。
【0020】
【化3】
(X1およびX2のうちの少なくとも一方はカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基である。hおよびkは比率を表し、h+k=1である。)
【0021】
【化4】
(X3はカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基である。)
【0022】
正極がフッ素樹脂を含む場合には、例えば、フッ素樹脂が被膜として正極中に導入される。具体的には、例えば、正極が正極集電体上に正極活物質層を有する場合には、フッ素樹脂を含む正極被膜が正極活物質層上に設けられる。
【0023】
負極がフッ素樹脂を含む場合には、例えば、上記した正極の場合と同様に、フッ素樹脂が被膜として負極中に導入される。具体的には、例えば、負極が負極集電体上に負極活物質層を有する場合には、フッ素樹脂を含む負極被膜が負極活物質層上に設けられる。
【0024】
この他、例えば、フッ素樹脂が粒子被覆膜として正極あるいは負極中に導入されてもよい。具体的には、例えば、正極活物質あるいは負極活物質が複数の粒子状である場合には、フッ素樹脂を含む粒子被覆膜が正極活物質あるいは負極活物質の表面を被覆するように設けられてもよい。
【0025】
電解質がフッ素樹脂を含む場合には、例えば、フッ素樹脂が添加剤として電解質中に導入される。具体的には、例えば、フッ素樹脂が電解質の溶媒中に溶解あるいは分散される。この場合には、フッ素樹脂の全部が溶解していてもよいし、その一部だけが溶解していてもよい。
【0026】
正極、負極および電解質のうちの少なくとも1つがフッ素樹脂を含んでいるのは、そのフッ素樹脂を含む対象の化学的安定性が向上するからである。詳細には、正極あるいは負極がフッ素樹脂を含む場合には、そのフッ素樹脂を含む被膜等が保護膜として機能するため、正極あるいは負極が化学的に安定化する。これにより、充放電時に、正極あるいは負極正極において電極反応物質が吸蔵および放出されやすくなると共に、電解質の分解反応が抑制される。一方、電解質がフッ素樹脂を含む場合には、そのフッ素樹脂が安定化剤として機能するため、電解質が化学的に安定化する。これにより、充放電時において電解質の分解反応が抑制される。
【0027】
正極、負極および電解質のうちの少なくとも1つがフッ素樹脂を含んでいることから、そのフッ素樹脂を含んでいる対象は、正極、負極あるいは電解質のうちのいずれか1つだけでもよいし、それらのうちの任意の2つの組み合わせでもよいし、それらの全てであってもよい。
【0028】
正極、負極および電解質のうち、フッ素樹脂を含む対象の数は、多いほど好ましい。より高い効果が得られるからである。なお、正極、負極および電解質のうちのいずれか1つだけがフッ素樹脂を含む場合には、そのフッ素樹脂を含む対象は、電解質、正極および負極の順に好ましい。電解質よりも電極(正極,負極)において高い効果が得られると共に、電極の中では正極よりも負極において高い効果が得られるからである。また、正極、負極および電解質のうちのいずれか2つがフッ素樹脂を含む場合には、そのフッ素樹脂を含む対象は、正極および負極であることが好ましい。電解質よりも電極において高い効果が得られるからである。
【0029】
式(1)に示したフッ素樹脂は、2種類の繰り返し単位(−O−CF2 −CF2 −および−O−CF2 −)を有するパーフルオロエーテル結合を母体とし、その少なくとも一方の末端にX1,X2としてカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基を有する化合物である。また、式(2)に示したフッ素樹脂は、繰り返し単位を有しないパーフルオロエーテル結合を母体とし、その一末端にX3としてカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基を有する化合物である。なお、カルボン酸金属塩基とは、−C(=O)−OM(Mは金属元素)で表される基であり、スルホン酸金属塩基とは、−S(=O)2 −OMで表される基である。
【0030】
式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂において、金属塩基の種類は、特に限定されないが、中でも、アルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩であることが好ましく、アルカリ金属塩であることがより好ましい。より高い効果が得られるからである。なお、本発明における「アルカリ土類金属」とは、ベリリウム(Be)およびマグネシウム(Mg)を含み、すなわち長周期型周期表における2族元素を意味する。具体的には、2族元素とは、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)およびラジウム(Ra)である。この長周期型周期表とは、IUPAC(国際純正・応用化学連合)が提唱する無機化学命名法改訂版により表されるものである。
【0031】
また、金属塩基の種類は、例えば、電極反応物質と同種類の金属塩基であることが好ましい。具体的には、例えば、電極反応物質がリチウムイオンである場合には、金属塩基はリチウム塩であることが好ましい。より高い効果が得られるからである。
【0032】
式(1)に示したフッ素樹脂において、X1およびX2がいずれもカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基である場合には、X1およびX2の双方がカルボン酸金属塩基であってもよいし、双方がスルホン酸金属塩基であってもよいし、それぞれカルボン酸金属塩基およびスルホン酸金属塩基であってもよい。もちろん、X1およびX2の双方がカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基である場合には、それらの種類(金属元素の種類)が同一であってもよいし、異なってもよい。中でも、X1およびX2は、いずれもカルボン酸金属塩基であることが好ましい。より高い効果が得られるからである。
【0033】
X1あるいはX2のいずれか一方だけがカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基である場合には、他方はどのような基であってもよい。この場合における他方の基としては、例えば、トリフルオロメチル基(−CF3 )などのパーフルオロアルキル基が挙げられる。
【0034】
なお、式(1)に示したフッ素樹脂の分子量(例えば数平均分子量)は、特に限定されず、分散用の溶媒に対する分散性(あるいは溶解性)などの条件に応じて任意に設定可能である。また、hおよびkの比率(h:k)は、特に限定されないが、例えば、h>kであることが好ましい。より高い効果が得られるからである。
【0035】
式(2)に示したフッ素樹脂において、X3は、カルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基のいずれであってもよいが、中でも、カルボン酸金属塩基であることが好ましい。より高い効果が得られるからである。
【0036】
式(1)に示したフッ素樹脂の具体例としては、式(1−1)〜式(1−6)で表される化合物が挙げられる。中でも、X1およびX2が同一である式(1−1)あるいは式(1−2)に示した化合物が好ましく、X1およびX2がカルボン酸金属塩基である式(1−1)に示した化合物がより好ましい。
【0037】
【化5】
【0038】
式(2)に示したフッ素樹脂の具体例としては、式(2−1)〜式(2−4)で表される構造を化合物が挙げられる。中でも、式(2−1)あるいは式(2−2)に示した化合物が好ましく、X3がカルボン酸金属塩基である式(2−1)に示した化合物がより好ましい。
【0039】
【化6】
【0040】
なお、フッ素樹脂の有無およびその化学的構造については、例えば、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)などを用いて、正極、負極あるいは電解質中における元素の種類および結合状態を分析することにより特定可能である。
【0041】
この二次電池は、フッ素樹脂を含むように正極、負極および電解質のうちの少なくとも1つを形成あるいは調製することにより製造される。
【0042】
具体的には、正極あるいは負極がフッ素樹脂を含む場合には、例えば、フッ素樹脂を含む溶液を用いる。すなわち、正極がフッ素樹脂を含む場合には、例えば、フッ素樹脂を含む溶液中に正極活物質層を浸漬させたり、あるいはフッ素樹脂を含む溶液を正極活物質層の表面に塗布することにより、そのフッ素樹脂を含む正極被膜を形成する。また、負極がフッ素樹脂を含む場合には、例えば、上記した正極と同様の手順により、フッ素樹脂を含む溶液中に負極活物質層を浸漬させたり、あるいはフッ素樹脂を含む溶液を負極活物質層の表面に塗布することにより、そのフッ素樹脂を含む負極被膜を形成する。これらの場合には、フッ素樹脂がカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基を含んでおり、いわゆる水溶性であることから、そのフッ素樹脂を分散させる溶媒としては、水などを用いることができる。このため、分散溶媒のコストが安くて済むと共に、排気用の施設などが不要である。
【0043】
電解質がフッ素樹脂を含む場合には、溶媒中にフッ素樹脂を溶解あるいは分散させたのち、その溶媒中に電解質塩を溶解させる。
【0044】
この二次電池およびその製造方法によれば、正極、負極および電解質のうちの少なくとも1つが式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含んでいるので、そのフッ素樹脂を含んでいる対象の化学的安定性が向上する。したがって、サイクル特性を向上させることができる。
【0045】
この場合には、正極および負極を形成するために、フッ素樹脂を含む溶液を用いれば、減圧環境などの特殊な環境条件を要する方法を用いる場合と比較して、そのフッ素樹脂を含む正極あるいは負極を安定かつ容易に作製することができる。
【0046】
特に、フッ素樹脂が式(1−1)あるいは式(2−1)に示した化合物であれば、優れたサイクル特性を得ることができる。
【0047】
次に、本実施の形態に係る二次電池の詳細について、具体例を挙げて説明する。
【0048】
ここで説明する二次電池は、例えば、負極の容量が電極反応物質であるリチウムイオンの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池である。
【0049】
(第1の二次電池)
図1および図2は第1の二次電池の断面構成を表しており、図2では図1に示した巻回電極体20の一部を拡大して示している。この第1の二次電池では、例えば、正極21、負極22および電解質のうち、負極22がフッ素樹脂を含んでいる。
【0050】
この二次電池は、主に、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、セパレータ23を介して正極21と負極22とが積層および巻回された巻回電極体20と、一対の絶縁板12,13とが収納されたものである。この円柱状の電池缶11を用いた電池構造は、円筒型と呼ばれている。
【0051】
電池缶11は、例えば、一端部が閉鎖されると共に他端部が開放された中空構造を有しており、鉄、アルミニウムあるいはそれらの合金などの金属材料により構成されている。なお、電池缶11が鉄により構成される場合には、例えば、ニッケルなどの鍍金が施されてもよい。一対の絶縁板12,13は、巻回電極体20を上下から挟み、その巻回周面に対して垂直に延在するように配置されている。
【0052】
電池缶11の開放端部には、電池蓋14と、その内側に設けられた安全弁機構15および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient:PTC素子)16とが、ガスケット17を介してかしめられることにより取り付けられている。これにより、電池缶11の内部は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の金属材料により構成されている。安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されている。この安全弁機構15では、内部短絡、あるいは外部からの加熱などに起因して内圧が一定以上となった場合に、ディスク板15Aが反転して電池蓋14と巻回電極体20との間の電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子16は、温度の上昇に応じて抵抗が増大することにより、電流を制限して大電流に起因する異常な発熱を防止するものである。ガスケット17は、例えば、絶縁材料により構成されており、その表面には、例えば、アスファルトが塗布されている。
【0053】
巻回電極体20の巻回中心には、例えば、センターピン24が挿入されている。この巻回電極体20では、アルミニウムなどの金属材料により構成された正極リード25が正極21に接続されていると共に、ニッケルなどの金属材料により構成された負極リード26が負極22に接続されている。正極リード25は、安全弁機構15に溶接などされて電池蓋14と電気的に接続されており、負極リード26は、電池缶11に溶接などされて電気的に接続されている。
【0054】
正極21は、例えば、一対の面を有する正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bが設けられたものである。ただし、正極活物質層21Bは、正極集電体21Aの片面だけに設けられていてもよい。
【0055】
正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム、ニッケルあるいはステンレス(SUS)などの金属材料により構成されている。
【0056】
正極活物質層21Bは、正極活物質として、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な正極材料のいずれか1種あるいは2種以上を含んでおり、必要に応じて正極結着剤あるいは正極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0057】
リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、リチウム含有化合物が好ましい。高いエネルギー密度が得られるからである。このリチウム含有化合物としては、例えば、リチウムと遷移金属元素とを構成元素として有する複合酸化物や、リチウムと遷移金属元素とを構成元素として有するリン酸化合物などが挙げられる。中でも、遷移金属元素としてコバルト、ニッケル、マンガンおよび鉄のうちの少なくとも1種を有するものが好ましい。より高い電圧が得られるからである。その化学式は、例えば、Lix M1O2 あるいはLiy M2PO4 で表される。式中、M1およびM2は、1種類以上の遷移金属元素を表す。xおよびyの値は、充放電状態により異なり、通常、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10である。
【0058】
リチウムと遷移金属元素とを有する複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(Lix CoO2 )、リチウムニッケル複合酸化物(Lix NiO2 )、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(Lix Ni1-z Coz O2 (z<1))、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(Lix Ni(1-v-w) Cov Mnw O2 (v+w<1))、あるいはスピネル型構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2 O4 )などが挙げられる。中でも、コバルトを有する複合酸化物が好ましい。高い電池容量が得られると共に、優れたサイクル特性も得られるからである。また、リチウムコバルト複合酸化物としては、コバルトの一部をアルミニウムおよびマグネシウム(Mg)に置き換えた複合酸化物(LiCo(1-j-k) Alj Mgk O2 (0<j<0.1、0<k<0.1))などが挙げられる。さらに、リチウムと遷移金属元素とを有するリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO4 )あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe1-u Mnu PO4 (u<1))などが挙げられる。
【0059】
この他、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムあるいは二酸化マンガンなどの酸化物や、二硫化チタンあるいは硫化モリブデンなどの二硫化物や、セレン化ニオブなどのカルコゲン化物や、硫黄、ポリアニリンあるいはポリチオフェンなどの導電性高分子も挙げられる。
【0060】
もちろん、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な正極材料は、上記以外のものであってもよい。また、一連の正極材料は、任意の組み合わせで2種類以上混合されてもよい。
【0061】
正極導電剤としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックあるいはケチェンブラックなどの炭素材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種類が混合されてもよい。なお、正極導電剤は、導電性を有する材料であれば、金属材料あるいは導電性高分子などであってもよい。
【0062】
正極結着剤としては、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムあるいはエチレンプロピレンジエンなどの合成ゴムや、ポリフッ化ビニリデンなどの高分子材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
【0063】
負極22は、例えば、一対の面を有する負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bよび負極被膜22Cがこの順に設けられたものである。ただし、負極活物質層22Bは、負極集電体22Aの片面だけに設けられていてもよい。このことは、負極被膜22Cについても同様である。
【0064】
負極集電体22Aは、良好な電気化学的安定性、電気伝導性および機械的強度を有する材料により構成されていることが好ましい。このような材料としては、例えば、銅、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料が挙げられ、中でも、銅が好ましい。高い電気伝導性が得られるからである。
【0065】
特に、負極集電体22Aを構成する材料は、電極反応物質であるリチウムイオンと金属間化合物を形成しない金属元素のいずれか1種あるいは2種以上を構成元素として有していることが好ましい。リチウムイオンと金属間化合物を形成すると、充放電時において負極活物質層22Bの膨張および収縮に伴う応力の影響を受けやすいため、集電性が低下する可能性があると共に、負極活物質層22Bが負極集電体22Aから剥離する可能性もあるからである。このような金属元素としては、例えば、銅、ニッケル、チタン(Ti)、鉄あるいはクロム(Cr)などが挙げられる。
【0066】
また、負極集電体22Aを構成する材料は、負極活物質層22Bと合金化する金属元素のいずれか1種あるいは2種以上を構成元素として有していることが好ましい。負極集電体22Aと負極活物質層22Bとの間の密着性が向上するため、その負極活物質層22Bが負極集電体22Aから剥離しにくくなるからである。リチウムイオンと金属間化合物を形成せず、しかも負極活物質層22Bと合金化する金属元素としては、例えば、銅、ニッケルあるいは鉄などが挙げられる。これらの金属元素は、物理的強度および導電性の観点からも好ましい。
【0067】
なお、負極集電体22Aは、単層構造を有していてもよいし、多層構造を有していてもよい。負極集電体22Aが多層構造を有する場合には、例えば、負極活物質層22Bと隣接する層がそれと合金化する材料により構成され、隣接しない層が他の材料により構成されることが好ましい。
【0068】
負極集電体22Aの表面は、粗面化されていることが好ましい。いわゆるアンカー効果により、負極集電体22Aと負極活物質層22Bとの間の密着性が向上するからである。この場合には、少なくとも負極活物質層22Bと対向する領域において、負極集電体22Aの表面が粗面化されていればよい。粗面化の方法としては、例えば、電解処理により微粒子を形成する方法などが挙げられる。この電解処理とは、電解槽中において電解法を用いて負極集電体22Aの表面に微粒子を形成することにより、その表面に凹凸を設ける方法である。電解処理を使用して作製された銅箔は、一般的に「電解銅箔」と呼ばれている。
【0069】
負極活物質層22Bは、負極活物質として、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極材料のいずれか1種類あるいは2種類以上を含んでおり、必要に応じて負極導電剤あるいは負極結着剤などの他の材料を含んでいてもよい。なお、負極導電剤および負極結着剤に関する詳細は、例えば、それぞれ正極導電剤および正極結着剤について説明した場合と同様である。
【0070】
負極材料としては、例えば、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能であると共に金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として有する材料が挙げられる。高いエネルギー密度が得られるからである。このような材料は、金属元素あるいは半金属元素の単体でも合金でも化合物でもよく、それらの1種類あるいは2種類以上の相を少なくとも一部に有するようなものでもよい。なお、本発明における「合金」には、2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種類以上の金属元素と1種類以上の半金属元素とを含むものも含まれる。また、「合金」は、非金属元素を含んでいてもよい。この組織としては、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物、あるいはそれらのうちの2種類以上が共存するものがある。
【0071】
上記した金属元素あるいは半金属元素としては、例えば、リチウムと合金を形成することが可能な金属元素あるいは半金属元素が挙げられる。具体的には、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、アルミニウム、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、銀(Ag)、亜鉛、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、パラジウム(Pd)あるいは白金(Pt)などである。中でも、ケイ素およびスズのうちの少なくとも一方が好ましく、ケイ素がより好ましい。リチウムイオンを吸蔵および放出する能力が大きいため、高いエネルギー密度が得られるからである。
【0072】
ケイ素およびスズのうちの少なくとも一方を有する材料としては、例えば、ケイ素の単体、合金あるいは化合物や、スズの単体、合金あるいは化合物や、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有する材料が挙げられる。
【0073】
ケイ素の単体を有する材料としては、例えば、ケイ素の単体を主体として有する材料が挙げられる。このような材料を含む負極活物質層22Bは、例えば、ケイ素単体層の間にケイ素以外の他の構成元素と酸素とが存在する構造を有している。この負極活物質層22Bにおけるケイ素および酸素の合計の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、特にケイ素単体の含有量が50質量%以上であることが好ましい。ケイ素以外の他の構成元素としては、例えば、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、インジウム、銀、マグネシウム、アルミニウム、ゲルマニウム、スズ、ビスマスあるいはアンチモン(Sb)などが挙げられる。ケイ素の単体を主体として有する材料を含む負極活物質層22Bは、例えば、ケイ素と他の構成元素とを共蒸着することにより形成される。
【0074】
ケイ素の合金としては、例えば、ケイ素以外の他の構成元素として、スズ、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモン(Sb)およびクロムのうちの少なくとも1種の金属元素を有するものが挙げられる。ケイ素の化合物としては、例えば、ケイ素以外の他の構成元素として、酸素(O)あるいは炭素(C)などの非金属元素を有するものや、ケイ素の合金について説明した金属元素を有するものなどが挙げられる。ケイ素の合金あるいは化合物の一例としては、SiB4 、SiB6 、Mg2 Si、Ni2 Si、TiSi2 、MoSi2 、CoSi2 、NiSi2 、CaSi2 、CrSi2 、Cu5 Si、FeSi2 、MnSi2 、NbSi2 、TaSi2 、VSi2 、WSi2 、ZnSi2 、SiC、Si3 N4 、Si2 N2 O、SiOv (0<v≦2)、あるいはLiSiOなどが挙げられる。
【0075】
スズの合金としては、例えば、スズ以外の他の構成元素として、ケイ素、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンおよびクロムのうちの少なくとも1種の金属元素を有するものが挙げられる。スズの化合物としては、例えば、スズ以外の他の構成元素として、酸素あるいは炭素などの非金属元素を有するものや、スズの合金について説明した金属元素を有するものなどが挙げられる。スズの合金または化合物の一例としては、SnOw (0<w≦2)、SnSiO3 、LiSnO、あるいはMg2 Snなどが挙げられる。
【0076】
特に、ケイ素およびスズのうちの少なくとも一方を有する材料としては、例えば、スズを第1の構成元素とし、それに加えて第2および第3の構成元素を有するものが好ましい。第2の構成元素は、コバルト、鉄、マグネシウム、チタン、バナジウム(V)、クロム、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ジルコニウム、ニオブ(Nb)、モリブデン、銀、インジウム、セリウム(Ce)、ハフニウム、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ビスマスおよびケイ素のうちの少なくとも1種である。第3の構成元素は、ホウ素、炭素、アルミニウムおよびリン(P)のうちの少なくとも1種である。第2および第3の構成元素を有することにより、サイクル特性が向上するからである。
【0077】
中でも、スズ、コバルトおよび炭素を構成元素として有すると共に、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下、スズおよびコバルトの合計に対するコバルトの割合(Co/(Sn+Co))が30質量%以上70質量%以下であるSnCoC含有材料が好ましい。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。
【0078】
このSnCoC含有材料は、必要に応じて、さらに他の構成元素を有していてもよい。他の構成元素としては、例えば、ケイ素、鉄、ニッケル、クロム、インジウム、ニオブ、ゲルマニウム、チタン、モリブデン、アルミニウム、リン、ガリウムあるいはビスマスなどが好ましく、それらの2種類以上であってもよい。より高い効果が得られるからである。
【0079】
なお、SnCoC含有材料は、スズ、コバルトおよび炭素を有する相を含んでおり、その相は、低結晶性あるいは非晶質の構造を有していることが好ましい。この相は、リチウムイオンと反応可能な反応相であり、その相のX線回折により得られる回折ピークの半値幅は、特定X線としてCuKα線を用い、挿引速度を1°/minとした場合に、回折角2θで1.0°以上であることが好ましい。リチウムイオンがより円滑に吸蔵および放出されると共に、電解質との反応性が低減されるからである。
【0080】
X線回折により得られた回折ピークがリチウムイオンと反応可能な反応相に対応するものであるか否かは、リチウムイオンとの電気化学的反応の前後におけるX線回折チャートを比較することにより容易に判断することができる。例えば、リチウムイオンとの電気化学的反応の前後において回折ピークの位置が変化すれば、リチウムイオンと反応可能な反応相に対応するものである。この場合には、例えば、低結晶性あるいは非晶質の反応相の回折ピークが2θ=20°〜50°の間に見られる。この低結晶性あるいは非晶質の反応相は、例えば、上記した各構成元素を有しており、主に、炭素により低結晶化あるいは非晶質化しているものと考えられる。
【0081】
なお、SnCoC含有材料は、低結晶性あるいは非晶質の相に加えて、各構成元素の単体または一部を有する相を含んでいる場合もある。
【0082】
特に、SnCoC含有材料では、構成元素である炭素の少なくとも一部が、他の構成元素である金属元素あるいは半金属元素と結合していることが好ましい。スズなどの凝集あるいは結晶化が抑制されるからである。
【0083】
元素の結合状態を調べる測定方法としては、例えば、XPSが挙げられる。このXPSは、軟X線(市販の装置ではAl−Kα線あるいはMg−Kα線を用いる)を試料表面に照射し、その試料表面から飛び出してくる光電子の運動エネルギーを測定することにより、試料表面から数nmの領域における元素の組成や結合状態を調べる方法である。
【0084】
元素の内殻軌道電子の束縛エネルギーは、第1近似的には、元素上の電荷密度と相関して変化する。例えば、炭素元素の電荷密度が、その近傍に存在する元素との相互作用により減少した場合には、2p電子などの外殻電子が減少しているため、炭素元素の1s電子は殻から強い束縛力を受けることになる。すなわち、元素の電荷密度が減少すると、束縛エネルギーは高くなる。XPSでは、束縛エネルギーが高くなると、ピークは高いエネルギー領域にシフトするようになっている。
【0085】
XPSでは、金原子の4f軌道(Au4f)のピークが84.0eVに得られるようにエネルギー較正された場合において、炭素の1s軌道(C1s)のピークは、グラファイトであれば284.5eVに現れ、表面汚染炭素であれば284.8eVに現れる。これに対して、炭素元素の電荷密度が高くなる場合、例えば、炭素よりも陽性な元素と結合している場合には、C1sのピークは、284.5eVよりも低い領域に現れる。すなわち、SnCoC含有材料に含まれる炭素の少なくとも一部が他の構成元素である金属元素あるいは半金属元素などと結合している場合には、SnCoC含有材料について得られるC1sの合成波のピークは284.5eVよりも低い領域に現れる。
【0086】
なお、試料表面が表面汚染炭素で覆われている場合には、例えば、XPS装置に付属しているアルゴンイオン銃を用いて試料表面を軽くスパッタすることが好ましい。また、例えば、測定対象のSnCoC含有材料が二次電池の負極中に存在する場合には、二次電池を解体して負極を取り出したのち、炭酸ジメチルなどの揮発性溶媒で洗浄するとよい。負極の表面に存在する揮発性の低い溶媒および電解質塩を除去するためである。これらのサンプリング作業は、不活性雰囲気下において行われることが望ましい。
【0087】
また、XPS測定では、スペクトルのエネルギー軸を補正するために、例えば、C1sのピークを用いる。通常、物質表面には表面汚染炭素が存在しているため、表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとし、それをエネルギー基準とする。なお、XPS測定において、C1sのピークの波形は、表面汚染炭素のピークとSnCoC含有材料中の炭素のピークとを含んだ形として得られるため、例えば、市販のソフトウエアを用いて解析することにより、表面汚染炭素のピークとSnCoC含有材料中の炭素のピークとを分離する。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
【0088】
このSnCoC含有材料は、例えば、各構成元素の原料を混合した混合物を電気炉、高周波誘導炉あるいはアーク溶解炉などで溶解させたのちに凝固させることにより形成可能である。また、ガスアトマイズあるいは水アトマイズなどの各種アトマイズ法や、各種ロール法や、メカニカルアロイング法あるいはメカニカルミリング法などのメカノケミカル反応を利用した方法などを用いてもよく、中でも、メカノケミカル反応を利用した方法が好ましい。SnCoC含有材料が低結晶性あるいは非晶質の構造になりやすいからである。メカノケミカル反応を利用した方法では、例えば、遊星ボールミル装置あるいはアトライタなどの製造装置を用いることができる。
【0089】
原料には、各構成元素の単体を混合して用いてもよいが、炭素以外の構成元素の一部については合金を用いることが好ましい。合金に炭素を加え、メカニカルアロイング法を利用した方法で合成することにより、低結晶化あるいは非晶質の構造が得られやすいと共に、反応時間が短縮されるからである。なお、原料の形態は、粉体であってもよいし、塊状であってもよい。
【0090】
なお、ケイ素およびスズのうちの少なくとも一方を有する材料としては、上記したSnCoC含有材料の他に、スズ、コバルト、鉄および炭素を構成元素として有するSnCoFeC含有材料も好ましい。このSnCoFeC含有材料の組成は、任意に設定可能である。例えば、鉄の含有量を少なめに設定する場合の組成としては、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下、鉄の含有量が0.3質量%以上5.9質量%以下、スズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合(Co/(Sn+Co))が30質量%以上70質量%以下であることが好ましい。また、例えば、鉄の含有量を多めに設定する場合の組成としては、炭素の含有量が11.9質量%以上29.7質量%以下、スズとコバルトと鉄との合計に対するコバルトと鉄との合計の割合((Co+Fe)/(Sn+Co+Fe))が26.4質量%以上48.5質量%以下、コバルトと鉄との合計に対するコバルトの割合(Co/(Co+Fe))が9.9質量%以上79.5質量%以下であることが好ましい。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。このSnCoFeC含有材料の結晶性、元素の結合状態の測定方法、および形成方法などについては、SnCoC含有材料について説明した場合と同様である。
【0091】
また、負極材料としては、例えば、炭素材料が挙げられる。この炭素材料とは、例えば、易黒鉛化性炭素、(002)面の面間隔が0.37nm以上の難黒鉛化性炭素、あるいは(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛などである。より具体的には、熱分解炭素類、コークス類、黒鉛類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維、活性炭あるいはカーボンブラック類などがある。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスあるいは石油コークスなどが含まれる。黒鉛類には、天然黒鉛、あるいは球状炭素微粒子(MCMB:meso-carbon micro beads )などの人造黒鉛が含まれる。有機高分子化合物焼成体とは、フェノール樹脂あるいはフラン樹脂などを適当な温度で焼成することにより炭素化したものである。炭素材料は、リチウムイオンの吸蔵および放出に伴う結晶構造の変化が非常に少ないため、高いエネルギー密度が得られると共に、導電剤としても機能するので好ましい。なお、炭素材料の形状は、繊維状、球状、粒状あるいは鱗片状のいずれであってもよい。
【0092】
さらに、負極材料としては、例えば、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な金属酸化物あるいは高分子化合物なども挙げられる。金属酸化物は、例えば、酸化鉄、酸化ルテニウムあるいは酸化モリブデンなどである。高分子化合物は、例えば、ポリアセチレン、ポリアニリンあるいはポリピロールなどである。
【0093】
もちろん、負極材料は、上記以外のものであってもよい。また、一連の負極材料は、任意の組み合わせで2種類以上混合されてもよい。
【0094】
負極活物質層22Bは、例えば、気相法、液相法、溶射法、塗布法あるいは焼成法、またはそれらの2種以上の方法により形成されている。この場合には、負極集電体22Aと負極活物質層22Bとが界面の少なくとも一部において合金化していることが好ましい。詳細には、両者の界面において、負極集電体22Aの構成元素が負極活物質層22Bに拡散していてもよいし、負極活物質層22Bの構成元素が負極集電体22Aに拡散していてもよいし、それらの構成元素が互いに拡散しあっていてもよい。充放電時における負極活物質層22Bの膨張および収縮に起因する破壊が抑制されると共に、負極集電体22Aと負極活物質層22Bとの間の電子伝導性が向上するからである。
【0095】
気相法としては、例えば、物理堆積法あるいは化学堆積法、具体的には真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、熱化学気相成長(Chemical Vapor Deposition :CVD)法あるいはプラズマ化学気相成長法などが挙げられる。液相法としては、電解鍍金あるいは無電解鍍金などの公知の手法を用いることができる。塗布法とは、例えば、粒子状の負極活物質を結着剤などと混合したのち、溶剤に分散させて塗布する方法である。焼成法とは、例えば、塗布法を用いて塗布したのち、結着剤などの融点よりも高い温度で熱処理する方法である。焼成法に関しても公知の手法が利用可能であり、例えば、雰囲気焼成法、反応焼成法あるいはホットプレス焼成法などが挙げられる。
【0096】
この負極活物質層22Bに含まれている負極活物質は、例えば、複数の粒子状である。すなわち、負極活物質層22Bは、複数の粒子状の負極活物質(以下、単に「負極活物質粒子」という。)を有しており、その負極活物質粒子は、例えば、上記した気相法などにより形成されている。ただし、負極活物質粒子は、気相法以外の方法により形成されていてもよい。
【0097】
負極活物質粒子が気相法などの堆積法により形成される場合には、その負極活物質粒子が単一の堆積工程により形成された単層構造を有していてもよいし、複数回の堆積工程により形成された多層構造を有していてもよい。ただし、堆積時に高熱を伴う蒸着法などを用いて負極活物質粒子を形成する場合には、その負極活物質粒子が多層構造を有していることが好ましい。負極材料の堆積工程を複数回に分割して行う(負極材料を順次薄く形成して堆積させる)ことにより、その堆積工程を1回で行う場合と比較して負極集電体2が高熱に晒される時間が短くなるため、熱的ダメージを受けにくくなるからである。
【0098】
この負極活物質粒子は、例えば、負極集電体22Aの表面から負極活物質層22Bの厚さ方向に成長しており、その根元において負極集電体22Aに連結されていることが好ましい。充放電時において負極活物質層22Bの膨張および収縮が抑制されるからである。この場合には、負極活物質粒子が気相法などにより形成されており、上記したように、負極集電体22Aとの界面の少なくとも一部において合金化していることが好ましい。詳細には、両者の界面において、負極集電体22Aの構成元素が負極活物質粒子に拡散していてもよいし、負極活物質粒子の構成元素が負極集電体22Aに拡散していてもよいし、両者の構成元素が互いに拡散しあっていてもよい。
【0099】
特に、負極活物質層22Bは、必要に応じて、負極活物質粒子の表面(酸化物含有膜を設けないとしたならば電解質と接することになる領域)を被覆する酸化物含有膜を有していることが好ましい。酸化物含有膜が保護膜として機能することにより、負極22の化学的安定性が向上するため、充放電時において電解質の分解反応が抑制されるからである。なお、酸化物含有膜は、負極活物質粒子の表面の全部を被覆していてもよいし、一部だけを被覆していてもよく、中でも、全部を被覆していることが好ましい。電解質の分解反応がより抑制されるからである。
【0100】
この酸化物含有膜は、例えば、ケイ素の酸化物、ゲルマニウムの酸化物およびスズの酸化物のうちの少なくとも1種を含んでおり、中でも、ケイ素の酸化物を含んでいることが好ましい。負極活物質粒子の表面を全体に渡って容易に被覆しやすいと共に、優れた保護機能が得られるからである。もちろん、酸化物含有膜は、上記したケイ素の酸化物等以外の他の酸化物を含んでいてもよい。
【0101】
また、酸化物含有膜は、例えば、気相法あるいは液相法により形成されており、中でも、液相法により形成されていることが好ましい。負極活物質粒子の表面を広い範囲に渡って容易に被覆しやすいからである。液相法としては、液相析出法、ゾルゲル法、塗布法あるいはディップコーティング法などが挙げられ、中でも、液相析出法、ゾルゲル法あるいはディップコーティング法が好ましく、液相析出法がより好ましい。より高い効果が得られるからである。なお、酸化物含有膜は、上記した一連の形成方法のうち、単独の方法により形成されていてもよいし、2種類以上の方法により形成されていてもよい。
【0102】
また、負極活物質層22Bは、必要に応じて、負極活物質層22B内の空隙(隙間)に、リチウムイオンと合金化しない金属材料を有していることが好ましい。金属材料を介して複数の負極活物質粒子が結着されると共に、上記した隙間に金属材料が存在することにより負極活物質層22Bの膨張および収縮が抑制されるからである。
【0103】
この金属材料は、例えば、リチウムイオンと合金化しない金属元素を構成元素として有している。このような金属元素としては、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛および銅のうちの少なくとも1種が挙げられる。上記した隙間に金属材料が容易に入り込みやすいと共に、優れた結着性が得られるからである。もちろん、金属材料は、上記した鉄等以外の他の金属元素を有していてもよい。ただし、ここで言う「金属材料」とは、単体に限らず、合金や金属化合物までも含む広い概念である。
【0104】
また、金属材料は、例えば、気相法あるいは液相法により形成されており、中でも、液相法により形成されていることが好ましい。負極活物質層22B内の隙間に金属材料が入り込みやすいからである。液相法としては、例えば、電解鍍金法あるいは無電解鍍金法などが挙げられ、中でも、電解鍍金法が好ましい。上記した隙間に金属材料がより入り込みやすいと共に、その形成時間が短くて済むからである。なお、金属材料は、上記した一連の形成方法のうち、単独の方法により形成されていてもよいし、2種類以上の方法により形成されていてもよい。
【0105】
さらに、金属材料は、結晶性を有していることが好ましい。結晶性を有していない(非晶質である)場合と比較して、負極22全体の抵抗が低下すると共に、負極22においてリチウムイオンが吸蔵および放出されやすくなるからである。また、初期充電時においてリチウムイオンが均一に吸蔵および放出されることにより、負極22に局所的な応力がかかりにくくなるため、しわの発生が抑制されるからである。
【0106】
なお、負極活物質層22Bは、上記した酸化物含有膜あるいは金属材料のいずれか一方だけを有していてもよいし、双方を有していてもよい。ただし、より高い効果を得るためには、双方を有していることが好ましい。また、いずれか一方だけを有する場合において、より高い効果を得るためには、酸化物含有膜を有していることが好ましい。なお、酸化物含有膜および金属材料の双方を有する場合には、どちらを先に形成してもよいが、より高い効果を得るためには、酸化物含有膜を先に形成することが好ましい。
【0107】
ここで、図3〜図6を参照して、負極の詳細な構成について説明する。
【0108】
まず、負極活物質層22Bが複数の負極活物質粒子と共に酸化物含有膜を有する場合について説明する。図3は本発明の負極の断面構成を模式的に表しており、図4は参考例の負極の断面構成を模式的に表している。なお、図3および図4では、負極活物質粒子が単層構造を有している場合を示している。
【0109】
本発明の負極では、図3に示したように、例えば、蒸着法などの気相法を用いて負極集電体22A上に負極材料が堆積されると、その負極集電体22A上に複数の負極活物質粒子221が形成される。この場合には、負極集電体22Aの表面が粗面化され、その表面に複数の突起部(例えば電解処理により形成された微粒子)が存在すると、負極活物質粒子221が上記した突起部ごとに厚さ方向に成長するため、複数の負極活物質粒子221が負極集電体22A上において配列されると共に根元において負極集電体22Aの表面に連結される。こののち、例えば、液相析出法などの液相法を用いて負極活物質粒子221の表面に酸化物含有膜222が形成されると、その酸化物含有膜222は負極活物質粒子221の表面をほぼ全体に渡って被覆し、特に、負極活物質粒子221の頭頂部から根元に至る広い範囲を被覆する。この酸化物含有膜222による広範囲な被覆状態は、その酸化物含有膜222が液相法により形成された場合に見られる特徴である。すなわち、液相法を用いて酸化物含有膜222を形成すると、その被覆作用が負極活物質粒子221の頭頂部だけでなく根元まで広く及ぶため、その根元まで酸化物含有膜222により被覆される。
【0110】
これに対して、参考例の負極では、図4に示したように、例えば、気相法を用いて複数の負極活物質粒子221が形成されたのち、同様に気相法を用いて酸化物含有膜223が形成されると、その酸化物含有膜223は負極活物質粒子221の頭頂部だけを被覆する。この酸化物含有膜223による狭範囲な被覆状態は、その酸化物含有膜223が気相法により形成された場合に見られる特徴である。すなわち、気相法を用いて酸化物含有膜223を形成すると、その被覆作用が負極活物質粒子221の頭頂部に及ぶものの根元まで及ばないため、その根元までは酸化物含有膜223により被覆されない。
【0111】
なお、図3では、気相法を用いて負極活物質層22Bが形成される場合について説明したが、塗布法あるいは焼結法などの他の方法を用いて負極活物質層22Bが形成される場合においても同様に、複数の負極活物質粒子221の表面をほぼ全体に渡って被覆するように酸化物含有膜222が形成される。
【0112】
次に、負極活物質層22Bが複数の負極活物質粒子と共にリチウムイオンと合金化しない金属材料を有する場合について説明する。図5は負極の断面構成を拡大して表しており、(A)は走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope:SEM)写真(二次電子像)、(B)は(A)に示したSEM像の模式絵である。なお、図5では、複数の負極活物質粒子が粒子内に多層構造を有している場合を示している。
【0113】
負極活物質粒子221が多層構造を有する場合には、複数の負極活物質粒子221の配列構造、多層構造および表面構造に起因して、負極活物質層22B中に複数の隙間224が生じている。この隙間224は、主に、発生原因に応じて分類された2種類の隙間224A,224Bを含んでいる。隙間224Aは、隣り合う負極活物質粒子221間に生じるものであり、隙間224Bは、負極活物質粒子221内の各階層間に生じるものである。
【0114】
なお、負極活物質粒子221の露出面(最表面)には、空隙225が生じる場合がある。この空隙225は、負極活物質粒子221の表面にひげ状の微細な突起部(図示せず)が生じることに伴い、その突起部間に生じるものである。この空隙225は、負極活物質粒子221の露出面において、全体に渡って生じる場合もあれば、一部だけに生じる場合もある。ただし、上記したひげ状の突起部は、負極材料の堆積時ごとにその表面に生じるため、空隙225は、負極活物質粒子221の露出面だけでなく、各階層間にも生じる場合がある。
【0115】
図6は負極の他の断面構成を表しており、図5に対応している。負極活物質層22Bは、隙間224A,224Bに、リチウムイオンと合金化しない金属材料226を有している。この場合には、隙間224A,224Bのうちのいずれか一方だけに金属材料226を有していてもよいが、双方に金属材料226を有していることが好ましい。より高い効果が得られるからである。
【0116】
この金属材料226は、隣り合う負極活物質粒子221間の隙間224Aに入り込んでいる。詳細には、気相法などにより負極活物質粒子221が形成される場合には、上記したように、負極集電体22Aの表面に存在する突起部ごとに負極活物質粒子221が成長するため、隣り合う負極活物質粒子221間に隙間224Aが生じる。この隙間224Aは、負極活物質層22Bの結着性を低下させる原因となるため、その結着性を高めるために、隙間224Aに金属材料226が埋め込まれている。この場合には、隙間224Aの一部でも埋め込まれていればよいが、その埋め込み量が多いほど好ましい。負極活物質層22Bの結着性がより向上するからである。金属材料226の埋め込み量は、20%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましい。
【0117】
また、金属材料226は、負極活物質粒子221内の隙間224Bに入り込んでいる。詳細には、負極活物質粒子221が多層構造を有する場合には、各階層間に隙間224Bが生じる。この隙間224Bは、上記した隙間224Aと同様に、負極活物質層22Bの結着性を低下させる原因となるため、その結着性を高めるために、上記した隙間224Bに金属材料226が埋め込まれている。この場合には、隙間224Bの一部でも埋め込まれていればよいが、その埋め込み量が多いほど好ましい。負極活物質層22Bの結着性がより向上するからである。
【0118】
なお、負極活物質層22Bは、負極活物質粒子221の露出面(最表面)に生じるひげ状の微細な突起部(図示せず)が負極の性能に悪影響を及ぼすことを抑制するために、空隙225に金属材料226を有していてもよい。詳細には、気相法などにより負極活物質粒子221が形成される場合には、その表面にひげ状の微細な突起部が生じるため、その突起部間に空隙225が生じる。この空隙225は、負極活物質粒子221の表面積を増加させると共に、その表面に形成される不可逆性の被膜の量も増加させるため、充放電反応の進行度を低下させる原因となる可能性がある。したがって、充放電反応の進行度の低下を抑制するために、空隙225に金属材料226が埋め込まれている。この場合には、空隙225の一部でも埋め込まれていればよいが、その埋め込み量が多いほど好ましい。充放電反応の進行度の低下がより抑えられるからである。図6において、負極活物質粒子221の露出面に金属材料226が点在していることは、その点在箇所に上記した微細な突起部が存在していること表している。もちろん、金属材料226は、必ずしも負極活物質粒子221の表面に点在していなければならないわけではなく、その表面全体を被覆していてもよい。
【0119】
特に、隙間224Bに入り込んだ金属材料226は、各階層における空隙225を埋め込む機能も果たしている。詳細には、負極材料が複数回に渡って堆積される場合には、その堆積時ごとに上記した微細な突起部が生じる。このため、金属材料226は、各階層における隙間224Bに埋め込まれているだけでなく、各階層における空隙225にも埋め込まれている。
【0120】
なお、図5および図6では、負極活物質粒子221が多層構造を有しており、負極活物質層22B中に隙間224A,224Bの双方が存在している場合について説明したため、負極活物質層22Bが隙間224A,224Bに金属材料226を有している。これに対して、負極活物質粒子221が単層構造を有しており、負極活物質層22B中に隙間224Aだけが存在する場合には、負極活物質層22Bが隙間224Aだけに金属材料226を有することになる。もちろん、空隙225は両者の場合において生じるため、いずれの場合においても空隙225に金属材料226を有することとなる。
【0121】
負極被膜22Cは、負極集電体22A上に負極活物質層22Bが形成されたのち、その負極活物質層22B上に形成されたものである。この負極被膜22Cは、上記したように、式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含んでいる。負極22の化学的安定性が向上するからである。これにより、充放電時に、負極22においてリチウムイオンが効率よく吸蔵および放出されると共に、電解質の分解反応が抑制されるため、サイクル特性が向上する。
【0122】
この負極被膜22Cは、負極活物質層22Bの全面を覆うように設けられていてもよいし、その表面の一部を覆うように設けられていてもよい。この場合には、負極被膜22Cの一部が負極活物質層22Bの内部に入り込んでいてもよい。
【0123】
負極被膜22Cを形成する方法としては、例えば、塗布法、浸漬法、ディップコーティング法あるいはスプレー法などの液相法や、蒸着法、スパッタ法あるいはCVD法などの気相法が挙げられる。これらの方法については、単独で用いてもよいし、2種以上の方法を併用してもよい。中でも、例えば、液相法では、フッ素樹脂を含む溶液を用いて負極被膜22Cを形成することが好ましい。具体的には、例えば、浸漬法では、フッ素樹脂を含む溶液中に負極活物質層22Bを浸漬させたのち、引き上げて乾燥させる。また、塗布法では、フッ素樹脂を含む溶液を負極活物質層22Bの表面に塗布したのち、乾燥させる。高い化学的安定性を有する良好な負極被膜22Bが容易に形成されるからである。フッ素樹脂を溶解させる溶媒としては、上記したように、例えば、水などの極性の高い溶媒が挙げられる。
【0124】
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離し、両極の接触に起因する電流の短絡を防止しながらリチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ23は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどの合成樹脂からなる多孔質膜や、セラミックからなる多孔質膜などにより構成されており、これらの2種以上の多孔質膜が積層されたものであってもよい。
【0125】
このセパレータ23には、液状の電解質である電解液が含浸されている。この電解液は、溶媒と、それに溶解された電解質塩とを含んでいる。
【0126】
溶媒は、例えば、有機溶剤などの非水溶媒の1種あるいは2種以上を含んでいる。以下で説明する一連の溶媒は、任意に組み合わされてもよい。
【0127】
非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチル、トリメチル酢酸エチル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、燐酸トリメチル、あるいはジメチルスルホキシドなどが挙げられる。中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種が好ましい。この場合には、炭酸エチレンあるいは炭酸プロピレンなどの高粘度(高誘電率)溶媒(例えば比誘電率ε≧30)と炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルあるいは炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒(例えば粘度≦1mPa・s)との組み合わせがより好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するからである。
【0128】
特に、溶媒は、式(3)で表されるハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステルおよび式(4)で表されるハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種を含んでいることが好ましい。充放電時において負極22の表面に安定な保護膜が形成されるため、電解質の分解反応が抑制されるからである。
【0129】
【化7】
(R11〜R16は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
【0130】
【化8】
(R17〜R20は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
【0131】
式(3)中のR11〜R16は、同一でもよいし、異なってもよい。すなわち、R11〜R16の種類については、上記した一連の基の範囲内において個別に設定可能である。式(4)中のR17〜R20についても、同様である。
【0132】
ハロゲンの種類は、特に限定されないが、中でも、フッ素、塩素あるいは臭素が好ましく、フッ素がより好ましい。高い効果が得られるからである。他のハロゲンと比較して、高い効果が得られるからである。
【0133】
ただし、ハロゲンの数は、1つよりも2つが好ましく、さらに3つ以上であってもよい。保護膜を形成する能力が高くなり、より強固で安定な保護膜が形成されるため、電解液の分解反応がより抑制されるからである。
【0134】
式(3)に示したハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステルとしては、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ビス(フルオロメチル)あるいは炭酸ジフルオロメチルメチルなどが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
【0135】
式(4)に示したハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステルとしては、例えば、下記の式(4−1)〜式(4−21)で表される一連の化合物が挙げられる。すなわち、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、テトラフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−クロロ−5−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,5−ジクロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、テトラクロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,5−ビストリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,5−ジフルオロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジフルオロ−5−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−エチル−5,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−フルオロ−5−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−メチル−5−トリフルオロ−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−フルオロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、5−(1,1−ジフルオロエチル)−4,4−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,5−ジクロロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−エチル−5−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−エチル−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−エチル−4,5,5−トリフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−フルオロ−4−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オンなどである。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
【0136】
【化9】
【0137】
【化10】
【0138】
中でも、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンあるいは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンが好ましく、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンがより好ましい。特に、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンとしては、シス異性体よりもトランス異性体が好ましい。容易に入手可能であると共に、高い効果が得られるからである。
【0139】
また、溶媒は、式(5)〜式(7)で表される不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種を含んでいることが好ましい。充放電時において負極22の表面に安定な保護膜が形成されるため、電解質の分解反応が抑制されるからである。
【0140】
【化11】
(R21およびR22は水素基あるいはアルキル基である。)
【0141】
【化12】
(R23〜R26は水素基、アルキル基、ビニル基あるいはアリル基であり、それらのうちの少なくとも1つはビニル基あるいはアリル基である。)
【0142】
【化13】
(R27はアルキレン基である。)
【0143】
式(5)に示した不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸ビニレン系化合物である。この炭酸ビニレン系化合物としては、例えば、炭酸ビニレン(1,3−ジオキソール−2−オン)、炭酸メチルビニレン(4−メチル−1,3−ジオキソール−2−オン)、炭酸エチルビニレン(4−エチル−1,3−ジオキソール−2−オン)、4,5−ジメチル−1,3−ジオキソール−2−オン、4,5−ジエチル−1,3−ジオキソール−2−オン、4−フルオロ−1,3−ジオキソール−2−オン、あるいは4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソール−2−オンなどが挙げられ、中でも、炭酸ビニレンが好ましい。容易に入手可能であると共に、高い効果が得られるからである。
【0144】
式(6)に示した不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸ビニルエチレン系化合物である。炭酸ビニルエチレン系化合物としては、例えば、炭酸ビニルエチレン(4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン)、4−メチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−エチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−n−プロピル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、5−メチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは4,5−ジビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられ、中でも、炭酸ビニルエチレンが好ましい。容易に入手可能であると共に、高い効果が得られるからである。もちろん、R23〜R26としては、全てがビニル基でもよいし、全てがアリル基でもよいし、ビニル基とアリル基とが混在していてもよい。
【0145】
式(7)に示した不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸メチレンエチレン系化合物である。炭酸メチレンエチレン系化合物としては、4−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジメチル−5−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは4,4−ジエチル−5−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられる。この炭酸メチレンエチレン系化合物としては、1つのメチレン基を有するもの(式(7)に示した化合物)の他、2つのメチレン基を有するものであってもよい。
【0146】
なお、不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルとしては、式(5)〜式(7)に示したものの他、ベンゼン環を有する炭酸カテコール(カテコールカーボネート)などであってもよい。
【0147】
また、溶媒は、スルトン(環状スルホン酸エステル)を含んでいることが好ましい。電解質の化学的安定性がより向上するからである。スルトンとしては、例えば、プロパンスルトンあるいはプロペンスルトンなどが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。溶媒中におけるスルトンの含有量は、例えば、0.5重量%以上5重量%以下である。
【0148】
さらに、溶媒は、酸無水物を含んでいることが好ましい。電解液の化学的安定性がより向上するからである。酸無水物としては、例えば、無水コハク酸、無水グルタル酸あるいは無水マレイン酸などのカルボン酸無水物や、無水エタンジスルホン酸あるいは無水プロパンジスルホン酸などのジスルホン酸無水物や、無水スルホ安息香酸、無水スルホプロピオン酸あるいは無水スルホ酪酸などのカルボン酸とスルホン酸との無水物などが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種類が混合されてもよい。溶媒中における酸無水物の含有量は、例えば、0.5重量%以上5重量%以下である。
【0149】
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種類あるいは2種類以上を含有している。以下で説明する一連の電解質塩は、任意に組み合わせてもよい。
【0150】
リチウム塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム、六フッ化ヒ酸リチウム、テトラフェニルホウ酸リチウム(LiB(C6 H5 )4 )、メタンスルホン酸リチウム(LiCH3 SO3 )、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3 SO3 )、テトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl4 )、六フッ化ケイ酸二リチウム(Li2 SiF6 )、塩化リチウム(LiCl)、あるいは臭化リチウム(LiBr)などが挙げられる。
【0151】
中でも、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムおよび六フッ化ヒ酸リチウムのうちの少なくとも1種が好ましく、六フッ化リン酸リチウムがより好ましい。内部抵抗が低下するため、より高い効果が得られるからである。
【0152】
特に、電解質塩は、式(8)〜式(10)で表される化合物のうちの少なくとも1種を含んでいることが好ましい。より高い効果が得られるからである。なお、式(8)のR31およびR33は、同一でもよいし、異なってもよい。このことは、式(9)中のR41〜R43および式(10)中のR51およびR52についても同様である。
【0153】
【化14】
(X31は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素、またはアルミニウムである。M31は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。R31はハロゲン基である。Y31は−(O=)C−R32−C(=O)−、−(O=)C−C(R33)2 −あるいは−(O=)C−C(=O)−である。ただし、R32はアルキレン基、ハロゲン化アルキレン基、アリーレン基あるいはハロゲン化アリーレン基である。R33はアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基あるいはハロゲン化アリール基である。なお、a3は1〜4の整数であり、b3は0、2あるいは4であり、c3、d3、m3およびn3は1〜3の整数である。)
【0154】
【化15】
(X41は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素である。M41は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。Y41は−(O=)C−(C(R41)2 )b4−C(=O)−、−(R43)2 C−(C(R42)2 )c4−C(=O)−、−(R43)2 C−(C(R42)2 )c4−C(R43)2 −、−(R43)2 C−(C(R42)2 )c4−S(=O)2 −、−(O=)2 S−(C(R42)2 )d4−S(=O)2 −あるいは−(O=)C−(C(R42)2 )d4−S(=O)2 −である。ただし、R41およびR43は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それぞれのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R42は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a4、e4およびn4は1あるいは2であり、b4およびd4は1〜4の整数であり、c4は0〜4の整数であり、f4およびm4は1〜3の整数である。)
【0155】
【化16】
(X51は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素である。M51は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。Rfはフッ素化アルキル基あるいはフッ素化アリール基であり、いずれの炭素数も1〜10である。Y51は−(O=)C−(C(R51)2 )d5−C(=O)−、−(R52)2 C−(C(R51)2 )d5−C(=O)−、−(R52)2 C−(C(R51)2 )d5−C(R52)2 −、−(R52)2 C−(C(R51)2 )d5−S(=O)2 −、−(O=)2 S−(C(R51)2 )e5−S(=O)2 −あるいは−(O=)C−(C(R51)2 )e5−S(=O)2 −である。ただし、R51は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R52は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、そのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a5、f5およびn5は1あるいは2であり、b5、c5およびe5は1〜4の整数であり、d5は0〜4の整数であり、g5およびm5は1〜3の整数である。)
【0156】
なお、1族元素とは、水素、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびフランシウムである。2族元素とは、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよびラジウムである。13族元素とは、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウムおよびタリウムである。14族元素とは、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、スズおよび鉛である。15族元素とは、窒素、リン、ヒ素、アンチモンおよびビスマスである。
【0157】
式(8)に示した化合物としては、例えば、式(8−1)〜式(8−6)で表される化合物などが挙げられる。式(9)に示した化合物としては、例えば、式(9−1)〜(9−8)で表される化合物などが挙げられる。式(10)に示した化合物としては、例えば、式(10−1)で表される化合物などが挙げられる。なお、式(8)〜式(10)に示した構造を有する化合物であれば、上記した化合物に限定されないことは言うまでもない。
【0158】
【化17】
【0159】
【化18】
【0160】
【化19】
【0161】
また、電解質塩は、式(11)〜式(13)で表される化合物のうちの少なくとも1種を含んでいることが好ましい。より高い効果が得られるからである。なお、式(11)中のmおよびnは、同一でもよいし、異なってもよい。このことは、式(13)中のp、qおよびrについても同様である。
【0162】
【化20】
(mおよびnは1以上の整数である。)
【0163】
【化21】
(R61は炭素数が2以上4以下の直鎖状あるいは分岐状のパーフルオロアルキレン基である。)
【0164】
【化22】
(p、qおよびrは1以上の整数である。)
【0165】
式(11)に示した鎖状の化合物としては、例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )2 )、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(C2 F5 SO2 )2 )、(トリフルオロメタンスルホニル)(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C2 F5 SO2 ))、(トリフルオロメタンスルホニル)(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C3 F7 SO2 ))、あるいは(トリフルオロメタンスルホニル)(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C4 F9 SO2 ))などが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
【0166】
式(12)に示した環状の化合物としては、例えば、式(12−1)〜式(12−4)で表される一連の化合物が挙げられる。すなわち、1,2−パーフルオロエタンジスルホニルイミドリチウム、1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミドリチウム、1,3−パーフルオロブタンジスルホニルイミドリチウム、あるいは1,4−パーフルオロブタンジスルホニルイミドリチウムなどである。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
【0167】
【化23】
【0168】
式(13)に示した鎖状の化合物としては、例えば、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド(LiC(CF3 SO2 )3 )などが挙げられる。
【0169】
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.3mol/kg以上3.0mol/kg以下であることが好ましい。この範囲外では、イオン伝導性が極端に低下する可能性があるからである。
【0170】
この二次電池では、充電時において、例えば、正極21からリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された電解液を介して負極22に吸蔵される。一方、放電時において、例えば、負極22からリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された電解液を介して正極21に吸蔵される。
【0171】
この二次電池は、例えば、以下の手順により製造される。
【0172】
まず、正極21を作製する。最初に、正極活物質と、正極結着剤と、正極導電剤とを混合して正極合剤としたのち、有機溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとする。続いて、ドクタブレードあるいはバーコータなどを用いて正極集電体21Aの両面に正極合剤スラリーを均一に塗布したのち、有機溶剤を揮発させて乾燥させることにより、正極活物質層21Bを形成する。最後に、必要に応じて加熱しながら、ロールプレス機などを用いて正極活物質層21Bを圧縮成型する。この場合には、圧縮成型を複数回に渡って繰り返してもよい。
【0173】
次に、負極22を作製する。最初に、電解銅箔などからなる負極集電体22Aを準備したのち、蒸着法などの気相法を用いて負極集電体22Aの両面に負極材料を堆積させることにより、複数の負極活物質粒子を形成する。続いて、必要に応じて、液相析出法などの液相法を用いて酸化物含有膜を形成し、あるいは電解鍍金法などの液相法を用いて金属材料を形成し、または双方を形成することにより、負極活物質層22Bを形成する。最後に、フッ素樹脂を含む溶液中に、負極活物質層22Bが形成された負極集電体22Aを浸漬させたのち、引き上げて乾燥させることにより、そのフッ素樹脂を含む負極被膜22Cを負極活物質層22B上に形成する。この負極被膜22Cを形成する場合には、上記した溶液を負極活物質層22Bの表面に塗布して乾燥させるようにしてもよい。
【0174】
二次電池の組み立ては、以下のようにして行う。最初に、正極21に正極リード25を溶接などして取り付けると共に、負極22に負極リード26を溶接などして取り付ける。続いて、セパレータ23を介して正極21と負極22とを積層および巻回させて巻回電極体20を作製する。続いて、巻回電極体20の巻回中心にセンターピン24を挿入する。続いて、一対の絶縁板12,13で挟みながら巻回電極体20を電池缶11の内部に収納すると共に、正極リード25の先端部を安全弁機構25に溶接し、負極リード26の先端部を電池缶11に溶接する。続いて、電池缶11の内部に電解質を注入してセパレータ23に含浸させる。最後に、電池缶11の開口端部に、ガスケット37を介して電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子16をかしめることにより固定する。これにより、図1〜図6に示した二次電池が完成する。
【0175】
この第1の二次電池およびその製造方法によれば、負極活物質層22B上に、式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含む負極被膜22Cが設けられているので、その負極22の化学的安定性が向上する。これにより、充放電時に、負極22においてリチウムイオンが吸蔵および放出されやすくなると共に、電解質の分解反応が抑制される。したがって、サイクル特性を向上させることができる。
【0176】
この場合には、上記したフッ素樹脂を含む溶液を用いて負極被膜22Cを形成し、具体的には浸積処理あるいは塗布処理などの簡単な処理を用いれば、減圧環境などの特殊な環境条件を要する方法を用いる場合と比較して、良好な負極被膜22Cを安定かつ簡単に作製することができる。
【0177】
特に、負極22が負極活物質として高容量材料を含む場合においてサイクル特性が向上するため、負極活物質として炭素材料などを含む場合よりも高い効果を得ることができる。
【0178】
また、電解質の溶媒が、式(3)に示したハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステルおよび式(4)に示したハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種や、式(5)〜式(7)に示した不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種や、スルトンや、酸無水物を含んでいれば、より高い効果を得ることができる。
【0179】
また、電解質の電解質塩が、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムおよび六フッ化ヒ酸リチウムのうちの少なくとも1種や、式(8)〜式(10)に示した化合物のうちの少なくとも1種や、式(11)〜式(13)に示した化合物のうちの少なくも1種を含んでいれば、より高い効果を得ることができる。
【0180】
なお、上記では、二次電池の電池構造が円筒型である場合について説明したが、必ずしもこれに限られず、その電池構造は円筒型以外であってもよい。
【0181】
図7は他の第1の二次電池の分解斜視構成を表しており、図8は図7に示した巻回電極体30のVIII−VIII線に沿った断面を拡大して表し、図9は図8に示した巻回電極体30の一部を拡大して表している。
【0182】
この二次電池は、例えば、上記した第1の二次電池と同様にリチウムイオン二次電池であり、主に、フィルム状の外装部材40の内部に、正極リード31および負極リード32が取り付けられた巻回電極体30が収納されたものである。このフィルム状の外装部材40を用いた電池構造は、ラミネートフィルム型と呼ばれている。
【0183】
正極リード31および負極リード32は、例えば、外装部材40の内部から外部に向かって同一方向に導出されている。正極リード31は、例えば、アルミニウムなどの金属材料により構成されており、負極リード32は、例えば、銅、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料により構成されている。これらの金属材料は、例えば、薄板状あるいは網目状になっている。
【0184】
外装部材40は、例えば、ナイロンフィルム、アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムがこの順に貼り合わされたアルミラミネートフィルムにより構成されている。この外装部材40は、例えば、ポリエチレンフィルムが巻回電極体30と対向するように、2枚の矩形型のアルミラミネートフィルムの外縁部同士が融着あるいは接着剤により互いに接着された構造を有している。
【0185】
外装部材40と正極リード31および負極リード32との間には、外気の侵入を防止するために密着フィルム41が挿入されている。この密着フィルム41は、正極リード31および負極リード32に対して密着性を有する材料により構成されている。このような材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂が挙げられる。
【0186】
なお、外装部材40は、上記したアルミラミネートフィルムに代えて、他の積層構造を有するラミネートフィルムにより構成されていてもよいし、ポリプロピレンなどの高分子フィルムあるいは金属フィルムにより構成されていてもよい。
【0187】
巻回電極体30は、セパレータ35および電解質層36を介して正極33と負極34とが積層および巻回されたものであり、その最外周部は、例えば、保護テープ37により保護されている。
【0188】
正極33は、例えば、一対の面を有する正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bが設けられたものである。負極34は、例えば、一対の面を有する負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bおよび負極被膜34Cがこの順に設けられたものである。正極集電体33A、正極活物質層33B、負極集電体34A、負極活物質層34B、負極被膜34Cおよびセパレータ35の構成は、それぞれ上記した第1の二次電池における正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22A、負極活物質層22B、負極被膜22Cおよびセパレータ23の構成と同様である。
【0189】
電解質層36は、電解液と、それを保持する高分子化合物とを含んでおり、いわゆるゲル状の電解質である。ゲル状の電解質は、高いイオン伝導率(例えば、室温で1mS/cm以上)が得られると共に漏液が防止されるので好ましい。
【0190】
高分子化合物としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンとポリヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレン、あるいはポリカーボネートなどが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。中でも、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレンあるいはポリエチレンオキサイドが好ましい。電気化学的に安定だからである。
【0191】
電解液の組成は、上記した第1の二次電池における電解液の組成と同様である。ただし、この場合の溶媒とは、液状の溶媒だけでなく、電解質塩を解離させることが可能なイオン伝導性を有するものまで含む広い概念である。したがって、イオン伝導性を有する高分子化合物を用いる場合には、その高分子化合物も溶媒に含まれる。
【0192】
なお、電解液を高分子化合物に保持させたゲル状の電解質層36に代えて、電解液をそのまま用いてもよい。この場合には、電解液がセパレータ35に含浸される。
【0193】
ゲル状の電解質層36を備えた二次電池は、例えば、以下の3種類の方法により製造される。
【0194】
第1の製造方法では、最初に、例えば、上記した第1の二次電池における正極21および負極22と同様の手順により、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bを形成して正極33を作製すると共に、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bおよび負極被膜34Cをこの順に形成して負極34を作製する。続いて、電解液と、高分子化合物と、溶剤とを含む前駆溶液を調製し、正極33および負極34に塗布したのち、溶剤を揮発させることにより、ゲル状の電解質層36を形成する。続いて、正極集電体33Aに正極リード31を溶接などして取り付けると共に、負極集電体34Aに負極リード32を溶接などして取り付ける。続いて、電解質層36が形成された正極33と負極34とをセパレータ35を介して積層させてから長手方向に巻回し、その最外周部に保護テープ37を接着させることにより、巻回電極体30を作製する。最後に、例えば、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回電極体30を挟み込んだのち、その外装部材40の外縁部同士を熱融着などで接着させることにより、巻回電極体30を封入する。この際、正極リード31および負極リード32と外装部材40との間に、密着フィルム41を挿入する。これにより、図7〜図9に示したラミネートフィルム型の二次電池が完成する。
【0195】
第2の製造方法では、最初に、正極33に正極リード31を取り付けると共に負極34に負極リード32を取り付けたのち、セパレータ35を介して正極33と負極34とを積層および巻回させると共に、その最外周部に保護テープ37を接着させることにより、巻回電極体30の前駆体である巻回体を作製する。続いて、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部を熱融着などで接着させることにより、袋状の外装部材40の内部に巻回体を収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を調製し、袋状の外装部材40の内部に注入したのち、外装部材40の開口部を熱融着などで密封する。最後に、モノマーを熱重合させて高分子化合物とすることにより、ゲル状の電解質層36を形成する。これにより、二次電池が完成する。
【0196】
第3の製造方法では、最初に、高分子化合物が両面に塗布されたセパレータ35を用いることを除き、上記した第2の製造方法と同様に、巻回体を形成して袋状の外装部材40の内部に収納する。このセパレータ35に塗布する高分子化合物としては、例えば、フッ化ビニリデンを成分とする重合体、すなわち単独重合体、共重合体あるいは多元共重合体などが挙げられる。具体的には、ポリフッ化ビニリデンや、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンを成分とする二元系共重合体や、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびクロロトリフルオロエチレンを成分とする三元系共重合体などである。なお、高分子化合物は、上記したフッ化ビニリデンを成分とする重合体と共に、他の1種あるいは2種以上の高分子化合物を含んでいてもよい。続いて、電解液を調製して外装部材40の内部に注入したのち、その外装部材40の開口部を熱融着などで密封する。最後に、外装部材40に加重をかけながら加熱し、高分子化合物を介してセパレータ35を正極33および負極34に密着させる。これにより、電解液が高分子化合物に含浸し、その高分子化合物がゲル化することにより電解質層36が形成されるため、二次電池が完成する。
【0197】
この第3の製造方法では、第1の製造方法と比較して、二次電池の膨れが抑制される。また、第3の製造方法では、第2の製造方法と比較して、高分子化合物の原料であるモノマーや重合開始剤などが電解質層36中にほとんど残らず、しかも高分子化合物の形成工程が良好に制御されるため、正極33、負極34およびセパレータ35と電解質層36との間において十分な密着性が得られる。
【0198】
この他の第1の二次電池およびその製造方法によれば、負極活物質層34B上に、式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含む負極被膜34Cが設けられているので、上記した第1の二次電池と同様の作用により、サイクル特性を向上させることができる。この二次電池およびその製造方法に関する他の効果は、上記した第1の二次電池およびその製造方法について説明した場合と同様である。
【0199】
(第2の二次電池)
図10は第2の二次電池の構成を表しており、図2に対応する断面構成を示している。この第2の二次電池は、例えば、負極22に代えて正極21が式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含んでいることを除き、上記した第1の二次電池と同様の構成を有している。
【0200】
正極21は、例えば、正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bおよび正極被膜21Cがこの順に設けられたものである。ただし、正極被膜21Cは、正極集電体21Aの片面側だけに設けられていてもよい。
【0201】
この正極被膜21Cの構成は、上記した第1の二次電池における負極被膜22Cの構成と同様である。すなわち、正極被膜21Cは、正極集電体21A上に正極活物質層21Bが形成されたのち、その正極活物質層21B上に形成されたものであり、式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含んでいる。正極21の化学的安定性が向上するからである。これにより、充放電時に、正極21においてリチウムイオンが効率よく吸蔵および放出されると共に、電解質の分解反応が抑制される。
【0202】
負極22は、例えば、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bが設けられたものである。
【0203】
この二次電池は、正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bおよび正極被膜21Cをこの順に形成して正極21を作製すると共に、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bを形成して負極22を作製することを除き、上記した第1の二次電池と同様の手順により製造される。
【0204】
この第2の二次電池およびその製造方法によれば、正極活物質層21B上に、式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含む正極被膜21Cが設けられているので、その正極21の化学的安定性が向上する。したがって、サイクル特性を向上させることができる。この二次電池およびその製造方法に関する他の効果は、上記した第1の二次電池およびその製造方法について説明した場合と同様である。
【0205】
なお、上記では、二次電池の電池構造が円筒型である場合について説明したが、必ずしもこれに限られず、その電池構造は円筒型以外であってもよい。
【0206】
図11は他の第2の二次電池の構成を表しており、図9に対応する断面構成を示している。この二次電池は、例えば、負極34に代えて正極33が式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含んでいることを除き、上記した他の第1の二次電池と同様の構成を有している。
【0207】
正極33は、上記した第2の二次電池における正極21と同様の構成を有しており、例えば、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bおよび正極被膜33Cがこの順に設けられたものである。負極22は、上記した第2の二次電池における負極22と同様の構成を有しており、例えば、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bが設けられたものである。
【0208】
この二次電池は、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bおよび正極被膜33Cをこの順に形成して正極33を作製すると共に、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bを形成して負極34を作製することを除き、上記した他の第1の二次電池と同様の手順により製造される。
【0209】
この他の第2の二次電池およびその製造方法によれば、正極活物質層33B上に、式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含む正極被膜33Cが設けられているので、上記した第2の二次電池と同様の作用により、サイクル特性を向上させることができる。この二次電池およびその製造方法に関する他の効果は、上記した第2の二次電池およびその製造方法について説明した場合と同様である。
【0210】
(第3の二次電池)
図12は第3の二次電池の構成を表しており、図2に対応する断面構成を示している。この第3の二次電池は、例えば、負極22に代えて電解質が式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含んでいることを除き、上記した第1の二次電池と同様の構成を有している。
【0211】
正極21は、例えば、正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bが設けられたものである。負極22は、例えば、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bが設けられたものである。
【0212】
電解質は、溶媒および電解質塩と共に、式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含んでおり、そのフッ素樹脂は、溶媒中に溶解あるいは分散されている。
【0213】
この二次電池は、正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bを形成して正極21を作製し、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bを形成して負極22を作製すると共に、上記したフッ素樹脂が分散された溶媒に電解質塩を溶解させて電解質を調製することを除き、上記した第1の二次電池と同様の手順により製造される。
【0214】
この第3の二次電池およびその製造方法によれば、電解質が式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含んでいるので、その電解質の化学的安定性が向上する。これにより、充放電時において、電解質の分解反応が抑制される。したがってサイクル特性を向上させることができる。この二次電池およびその製造方法に関する他の効果は、上記した第1の二次電池およびその製造方法について説明した場合と同様である。
【0215】
なお、上記では、二次電池の電池構造が円筒型である場合について説明したが、必ずしもこれに限られず、その電池構造は円筒型以外であってもよい。
【0216】
図13は他の第3の二次電池の構成を表しており、図9に対応する断面構成を示している。この二次電池は、例えば、負極34に代えて電解質(電解質層36)が式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含んでいることを除き、上記した他の第1の二次電池と同様の構成を有している。
【0217】
正極33は、上記した第3の二次電池における正極21と同様の構成を有しており、例えば、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bが設けられたものである。負極34は、上記した第3の二次電池における負極22と同様の構成を有しており、例えば、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bが設けられたものである。
【0218】
電解質は、上記した第3の二次電池における電解質と同様の組成を有しており、例えば、溶媒、電解質塩および高分子化合物と共に、式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含んでいる。
【0219】
この二次電池は、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bを形成して正極33を作製し、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bを形成して負極34を作製すると共に、フッ素樹脂が分散された溶媒に電解質塩を溶解させて電解液を調製することを除き、上記した他の第1の二次電池と同様の手順により製造される。
【0220】
この他の第3の二次電池およびその製造方法によれば、電解質が式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含んでいるので、上記した第3の二次電池と同様の作用により、サイクル特性を向上させることができる。この二次電池およびその製造方法に関する他の効果は、上記した第3の二次電池およびその製造方法について説明した場合と同様である。
【0221】
なお、上記した第1〜第3の二次電池では、正極21、負極22あるいは電解質のいずれかがフッ素樹脂を含むようにしたが、必ずしもこれに限られず、そのフッ素樹脂を含む正極21、負極22あるいは電解質を2種類以上組み合わせてもよい。このことは、上記した他の第1〜第3の二次電池についても同様である。
【0222】
また、上記した第1〜第3の二次電池では、正極21、負極22および電解質のうちの少なくとも1種がフッ素樹脂を含むようにしたが、必ずしもこれに限られず、それら以外の他の構成要素がフッ素樹脂を含むようにしてもよい。このような他の構成要素としては、例えば、セパレータ23などが挙げられる。セパレータ23がフッ素樹脂を含む場合には、例えば、正極21および負極22がフッ素樹脂を含む場合と同様に、フッ素樹脂が被膜としてセパレータ23中に導入される。具体的には、例えば、セパレータ23の両面に、フッ素樹脂を含む被膜が設けられる。このことは、上記した他の第1〜第3の二次電池についても同様である。
【実施例】
【0223】
本発明の実施例について詳細に説明する。
【0224】
(実験例1−1〜1−3)
以下の手順により、図7および図8に示したラミネートフィルム型の二次電池を製造した。この場合には、負極34の容量がリチウムイオンの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池となるようにした。
【0225】
まず、正極33を作製した。最初に、炭酸リチウム(Li2 CO3 )と炭酸コバルト(CoCO3 )とを0.5:1のモル比で混合したのち、空気中において900℃×5時間の条件で焼成してリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2 )を得た。続いて、正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物91質量部と、正極導電剤としてグラファイト6質量部と、正極結着剤としてポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合して正極合剤としたのち、N−メチル−2−ピロリドンに分散させてペースト状の正極合剤スラリーとした。最後に、バーコータを用いて、帯状のアルミニウム箔(厚さ=12μm)からなる正極集電体33Aの両面に正極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機を用いて圧縮成型することにより、正極活物質層33Bを形成した。
【0226】
次に、負極34を作製した。最初に、偏向式電子ビーム蒸着源による電子ビーム蒸着法を用いて、電解銅箔からなる負極集電体34A(厚さ=18μm,表面の十点平均粗さRz=3.5μm)の両面に負極活物質としてケイ素を堆積させることにより、複数の粒子状の負極活物質を含む負極活物質層34Bを形成した。この場合には、蒸着源として純度99%のケイ素を用いると共に、堆積速度を10nm/秒、負極活物質の層数を1層(厚さ=7.5μm)とした。また、チャンバ内に連続的に酸素ガスおよび必要に応じて水蒸気を導入することにより、負極活物質中における酸素含有量を3原子数%とした。最後に、フッ素樹脂が水に分散された3重量%の水溶液中に、負極活物質層34Bが形成された負極集電体34Aを30秒間浸漬させたのち、引き上げて乾燥させることにより、そのフッ素樹脂を含む負極被膜34Cを負極活物質層34B上に形成した。この場合には、フッ素樹脂として、式(1−1)に示した化合物(数平均分子量=2000あるいは1500)、あるいは式(2−1)に示した化合物を用いた。
【0227】
フッ素樹脂として用いた各化合物の合成手順は、以下の通りである。
【0228】
式(1−1)に示した化合物(数平均分子量=2000)を合成する場合には、最初に、ソルベイ ソレクシス株式会社製のパーフルオロポリエーテル(FLUOROLINK C)20gに水100cm3 を加えたのち、攪拌しながら炭酸リチウム0.74gを少量ずつ加えた。この際、初期はパーフルオロポリエーテルが水に溶解せずに不均一な溶液であったが、時間の経過にしたがってパーフルオロポリエーテルが水に溶解して均一な溶液(水溶液)となった。続いて、水溶液を一晩攪拌したのち、濾過して不溶物を取り除いた。最後に、濾液を濃縮することにより、パーフルオロポリエーテルの両末端にカルボン酸リチウム塩基が導入された化合物17gを得た。
【0229】
式(1−1)に示した化合物(数平均分子量=1500)を合成する場合には、最初に、ソルベイ ソレクシス株式会社製のパーフルオロポリエーテル(FLUOROLINK C10)30gに水100mlを加えたのち、攪拌しながら炭酸リチウム1.5gを少量ずつ加えた。この際、上記したFLUOROLINK Cを用いた場合と同様に、時間の経過にしたがって均一な溶液(水溶液)になった。続いて、水溶液を一晩攪拌したのち、濾過して不溶物を取り除いた。最後に、濾液を濃縮することにより、パーフルオロポリエーテルの両末端にカルボン酸リチウム塩基が導入された化合物24gを得た。
【0230】
式(2−1)に示した化合物を合成する場合には、最初に、2,5−ビス(トリフルオロメチル)−3,6−ジオキサウンデカフルオロノナノイルフロリド9.7gに水100mlを加えたのち、攪拌しながら炭酸リチウム0.72gを少量ずつ加えた。続いて、水溶液を一晩攪拌したのち、濾過して不溶物を取り除いた。最後に、濾液を濃縮することにより、パーフルオロポリエーテルの一末端にカルボン酸リチウム塩基が導入された化合物7.2gを得た。
【0231】
次に、溶媒として炭酸エチレン(EC)と炭酸ジエチル(DEC)とを混合したのち、電解質塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )を溶解させることにより、液状の電解質である電解液を調製した。この場合には、溶媒の組成(EC:DEC)を重量比で50:50とし、電解質塩の含有量を溶媒に対して1mol/kgとした。
【0232】
次に、正極33および負極34と共に電解液を用いることにより、二次電池を組み立てた。最初に、正極集電体33Aの一端にアルミニウム製の正極リード31を溶接すると共に、負極集電体34Aの一端にニッケル製の負極リード32を溶接した。続いて、正極33と、セパレータ35(厚さ=23μm)と、負極34と、セパレータ35とをこの順に積層してから長手方向に巻回させたのち、粘着テープからなる保護テープ37を用いて巻き終わり部分を固定することにより、巻回電極体50の前駆体である巻回体を形成した。この場合には、セパレータ35として、多孔性ポリプロピレンを主成分とするフィルムにより多孔性ポリエチレンを主成分とするフィルムが挟まれた3層構造品を用いた。続いて、外装部材40の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺を除く外縁部同士を熱融着することにより、袋状の外装部材40の内部に巻回体を収納した。この場合には、外装部材40として、外側から、ナイロンフィルム(厚さ=30μm)と、アルミニウム箔(厚さ=40μm)と、無延伸ポリプロピレンフィルム(厚さ=30μm)とが積層された3層構造のラミネートフィルム(総厚=100μm)を用いた。続いて、外装部材40の開口部から電解液を注入してセパレータ35に含浸させることにより、巻回電極体30を作製した。最後に、真空雰囲気中において外装部材40の開口部を熱融着して封止することにより、ラミネートフィルム型の二次電池が完成した。
【0233】
(実験例1−4)
フッ素樹脂の含有場所を正極33に変更したことを除き、実験例1−1と同様の手順を経た。正極33を作製する場合には、正極集電体33A上に正極活物質層34Bを形成したのち、負極被膜34Cと同様の形成手順により、正極活物質層34B上に正極被膜34Cを形成した。
【0234】
(実験例1−5,1−6)
フッ素樹脂の含有場所を電解液に変更したことを除き、実験例1−1,1−3と同様の手順を経た。電解液を調製する場合には、溶媒に電解質塩を溶解させる前に、その溶媒中にフッ素樹脂を分散させた。この場合には、電解液中におけるフッ素樹脂の含有量を1重量%とした。
【0235】
(実験例1−7)
フッ素樹脂の含有場所を正極33および負極34に変更したことを除き、実験例1−1,1−4と同様の手順を経た。
【0236】
(実験例1−8)
フッ素樹脂を用いず、すなわち負極34、正極33あるいは電解液のどこにもフッ素樹脂を含有させなかったことを除き、実験例1−1〜1−3と同様の手順を経た。
【0237】
これらの実験例1−1〜1−8の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表1に示した結果が得られた。
【0238】
サイクル特性を調べる際には、最初に、電池状態を安定化させるために、23℃の雰囲気中において1サイクル充放電させた。続いて、同雰囲気中において1サイクル充放電させることにより、2サイクル目の放電容量を測定した。続いて、同雰囲気中において99サイクル充放電させることにより、101サイクル目の放電容量を測定した。最後に、放電容量維持率(%)=(101サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100を算出した。この際、充電条件としては、3mA/cm2 の定電流密度で電池電圧が4.2Vに到達するまで充電したのち、さらに4.2Vの定電圧で電流密度が0.3mA/cm2 に到達するまで充電した。また、放電条件としては、3mA/cm2 の定電流密度で電池電圧が2.5Vに到達するまで放電した。なお、上記したサイクル特性を調べる際の手順および条件は、以降の一連の実験例についても同様である。
【0239】
【表1】
【0240】
表1に示したように、負極活物質としてケイ素を用いると共に気相法(電子ビーム蒸着法)を用いて負極活物質層(負極活物質の層数=1層)を形成した場合には、正極33、負極34あるいは電解液がフッ素樹脂を含む実験例1−1〜1−7において、それを含まない実験例1−8よりも放電容量維持率が高くなった。
【0241】
この場合には、フッ素樹脂の含有場所に着目すると、その含有場所が電解質、正極33および負極34である順に放電容量維持率が高くなった。また、フッ素樹脂の含有場所の数に着目すると、その含有場所の数が1つである場合よりも複数である場合において放電容量維持率が高くなった。
【0242】
これらのことから、本発明の二次電池では、正極33、負極34あるいは電解質が式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含むことにより、サイクル特性が向上することが確認された。この場合には、フッ素樹脂の含有場所は電解質、正極33および負極34の順に好ましいと共に、フッ素樹脂の含有場所の数は1つよりも複数であることが好ましいことも確認された。
【0243】
(実験例2−1〜2−5)
負極活物質の層数を6層に変更したことを除き、実験例1−1〜1−3,1−5,1−8と同様の手順を経た。負極活物質層34Bを形成する場合には、蒸着源に対して負極集電体34Aを100nm/秒の堆積速度で往復移動させながらケイ素を順次堆積させることにより、そのケイ素を積層させた。
【0244】
これらの実験例2−1〜2−5の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表2に示した結果が得られた。
【0245】
【表2】
【0246】
表2に示したように、負極活物質としてケイ素を用いると共に気相法(電子ビーム蒸着法)を用いて負極活物質層34B(負極活物質の層数=6層)を形成した場合においても、表1と同様の結果が得られた。すなわち、負極34あるいは電解液がフッ素樹脂を含む実験例2−1〜2−4では、それを含まない実験例2−5よりも放電容量維持率が高くなった。
【0247】
このことから、本発明の二次電池では、負極活物質の層数を変更した場合においても、サイクル特性が向上することが確認された。
【0248】
(実験例3−1〜3−5)
負極活物質層34Bの形成方法を焼結法に変更したことを除き、実験例1−1〜1−3,1−5,1−8と同様の手順を経た。負極活物質層34Bを形成する場合には、最初に、負極活物質としてケイ素粉末(メジアン径=6μm)90質量部と、負極結着剤としてポリフッ化ビニリデン10質量部とを混合して負極合剤としたのち、N−メチル−2−ピロリドンに分散させてペースト状の負極合剤スラリーとした。続いて、負極集電体34Aの両面に負極合剤スラリーを均一に塗布したのち、ロールプレス機を用いて圧縮成型した。最後に、真空雰囲気中において220℃×12時間の条件で加熱した。
【0249】
これらの実験例3−1〜3−5の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表3に示した結果が得られた。
【0250】
【表3】
【0251】
表3に示したように、負極活物質としてケイ素を用いると共に焼結法を用いて負極活物質層34Bを形成した場合においても、表1と同様の結果が得られた。すなわち、負極34あるいは電解液がフッ素樹脂を含む実験例3−1〜3−4では、それを含まない実験例3−5よりも放電容量維持率が高くなった。
【0252】
このことから、本発明の二次電池では、負極活物質層34Bの形成方法を変更した場合においても、サイクル特性が向上することが確認された。
【0253】
(実験例4−1〜4−5)
負極活物質をスズコバルト合金(SnCo)に変更すると共に、負極活物質層34Bの形成方法を塗布法に変更したことを除き、実験例1−1〜1−3,1−5,1−8と同様の手順を経た。負極活物質層34Bを形成する場合には、最初に、ガスアトマイズ法を用いて粉末状のスズコバルト合金(原子数比はSn:Co=80:20)を形成したのち、メジアン径が15μmになるまで粉砕分級した。続いて、負極活物質としてスズコバルト合金粉末75質量部と、負極導電剤として鱗片状黒鉛20質量部と、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース5質量部とを混合して負極合剤としたのち、純水に分散させてペースト状の負極合剤スラリーとした。最後に、負極集電体34Aの両面に負極合剤スラリーを均一に塗布したのち、ロールプレス機を用いて圧縮成型した。なお、FIB(focused ion beam)法を用いて完成後の負極34の断面を露出させたのち、オージェ電子分光法(Auger Electron Spectroscopy :AES)を用いて分析したところ、負極集電体34Aと負極活物質層34Bとが界面のうちの少なくとも一部において合金化していることが確認された。
【0254】
これらの実験例4−1〜4−5の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表4に示した結果が得られた。
【0255】
【表4】
【0256】
表4に示したように、負極活物質としてスズコバルト合金を用いると共に塗布法を用いて負極活物質層34Bを形成した場合においても、表1と同様の結果が得られた。すなわち、負極34あるいは電解液がフッ素樹脂を含む実験例4−1〜4−4では、それを含まない実験例4−5よりも放電容量維持率が高くなった。
【0257】
このことから、本発明の二次電池では、負極活物質の種類および負極活物質層34Bの形成方法を変更した場合においても、サイクル特性が向上することが確認された。
【0258】
(実験例5−1〜5−5)
負極活物質をMCMBに変更すると共に、負極活物質層34Bの形成方法を塗布法に変更したことを除き、実験例1−1〜1−3,1−5,1−8と同様の手順を経た。負極活物質層34Bを形成する場合には、最初に、負極活物質としてMCMB(メジアン径=25μm)87質量部と、負極導電剤として人造黒鉛3質量部と、負極結着剤としてポリフッ化ビニリデン10質量部とを混合して負極合剤としたのち、N−メチル−2−ピロリドンに分散させてペースト状の負極合剤スラリーとした。こののち、負極集電体34Aの両面に負極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させてから、ロールプレス機を用いて圧縮成型した。
【0259】
これらの実験例5−1〜5−5の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表5に示した結果が得られた。
【0260】
【表5】
【0261】
表5に示したように、負極活物質としてMCMBを用いると共に塗布法を用いて負極活物質層34Bを形成した場合においても、表1と同様の結果が得られた。すなわち、負極34あるいは電解液がフッ素樹脂を含む実験例5−1〜5−4では、それを含まない実験例5−5よりも放電容量維持率が高くなった。
【0262】
このことから、本発明の二次電池では、負極活物質の種類および負極活物質層34Bの形成方法を変更した場合においても、サイクル特性が向上することが確認された。
【0263】
(実験例6−1〜6−12)
電解液の組成を表6に示したように変更したことを除き、実験例2−1,2−5と同様の手順を経た。この際、溶媒としては、ECおよびDECの他に、炭酸プロピレン(PC)や、式(4)に示したハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステルである4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)あるいは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(DFEC)や、式(5)に示した不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルである炭酸ビニレン(VC)や、スルトンであるプロペンスルトン(PRS)や、酸無水物である無水スルホプロピオン酸(SPAH)を用いた。また、電解質塩としては、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )や、式(8)に示した化合物である式(8−1)あるいは式(8−6)に示した化合物や、式(12)に示した化合物である式(12−2)に示した化合物を用いた。なお、上記したLiBF4 等を電解質塩として加える場合には、LiPF6 の含有量を溶媒に対して0.9mol/kg、LiBF4 等の含有量を溶媒に対して0.1mol/kgとした。また、上記したPRSおよびSPAHを溶媒として加える場合には、それらの溶媒中における含有量を1重量%とした。
【0264】
これらの実験例6−1〜6−12の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表6に示した結果が得られた。
【0265】
【表6】
【0266】
表6に示したように、電解液の組成を変更した場合においても、表1と同様の結果が得られた。すなわち、負極34がフッ素樹脂を含む実験例6−1〜6−11では、それを含まない実験例6−12よりも放電容量維持率が高くなった。
【0267】
この場合には、溶媒としてFEC等を加え、あるいは電解質塩としてLiBF4 等を加えた場合において、それらを加えなかった場合よりも放電容量維持率が高くなった。
【0268】
これらのことから、本発明の二次電池では、電解質の組成、すなわち溶媒および電解質塩の種類を変更した場合においても、サイクル特性が向上することが確認された。この場合には、溶媒としてFEC等あるいは電解質塩としてLiBF4 等を加えれば、特性がより向上することも確認された。
【0269】
(実験例7−1〜7−4)
負極活物質層34Bを形成する場合に、複数の粒子状の負極活物質を形成したのち、表7に示したように、酸化物含有膜および金属材料をこの順に形成したことを除き、実施例2−1〜2−4と同様の手順を経た。酸化物含有膜を形成する場合には、液相析出法を用いて負極活物質の表面にケイ素の酸化物(SiO2 )を析出させた。この場合には、ケイフッ化水素酸にアニオン補足剤としてホウ素を溶解させた溶液中に、負極活物質が形成された負極集電体34Aを3時間浸積し、その負極活物質の表面にケイ素の酸化物を析出させたのち、水洗して減圧乾燥した。また、金属材料を形成する場合には、電解鍍金法を用いて、鍍金浴にエアーを供給しながらニッケル(Ni)の鍍金膜を成長させた。この場合には、鍍金液として日本高純度化学株式会社製のニッケル鍍金液を用いると共に、電流密度を2A/dm2 〜10A/dm2 、鍍金速度を10nm/秒とした。
【0270】
これらの実験例7−1〜7−4の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表7に示した結果が得られた。
【0271】
【表7】
【0272】
表7に示したように、酸化物含有膜および金属材料を形成した場合においても、表1と同様の結果が得られた。すなわち、負極34あるいは電解液がフッ素樹脂を含む実験例7−1〜7−4では、それを含まない実験例2−5よりも放電容量維持率が高くなった。
【0273】
この場合には、酸化物含有膜および金属材料の有無に着目すると、酸化物含有膜および金属材料を形成した場合において、それらを形成しなかった場合よりも放電容量維持率が高くなった。
【0274】
これらのことから、本発明の二次電池では、酸化物含有膜および金属材料を形成した場合においても、サイクル特性が向上することが確認された。この場合には、酸化物含有膜および金属材料を形成すれば、特性がより向上することも確認された。
【0275】
なお、上記した表1〜表7では、式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂として、式(1−1)等に示した化合物を用いた場合の結果だけを示しており、それ例外の他の化合物(例えば、式(1−2)に示した化合物など)を用いた場合の結果を示していない。しかしながら、式(1−2)に示した化合物等は、式(1−1)等に示した化合物と同様の機能を果たすことから、他の化合物を用いたり、一連の化合物を複数種類混合した場合においても、同様の結果が得られる。
【0276】
式(1)に示したラジカル捕捉化合物について上記したことは、式(3)に示したハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステル、式(4)に示したハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステル、式(5)〜式(7)に示した不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステル、あるいは式(8)〜式(13)に示した化合物についても、同様である。すなわち、上記した式(3)に示したハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステル等に該当する化合物を溶媒あるいは電解質塩として用いれば、その化合物が表1〜表7において実際に用いられていない化合物であったとしても、表1〜表7において実際に用いられている化合物を用いた場合と同様の結果が得られる。
【0277】
上記した表1〜表7の結果から明らかなように、本願発明の二次電池では、正極、負極および電解質のうちの少なくとも1つが式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含むことにより、負極活物質の種類や、負極活物質層の形成方法や、電解質の組成や、酸化物含有膜および金属材料の有無などに依存せずに、サイクル特性を向上させることができる。この場合には、特に、負極がフッ素樹脂を含むようにすれば、特性をより向上させることができる。
【0278】
しかも、負極活物質として、MCMBなどの炭素材料を用いた場合よりも、ケイ素やスズコバルト合金などの高容量材料を用いた場合において、放電容量維持率の増加率が大きくなったことから、後者の場合において、より高い効果を得ることができる。この結果は、負極活物質として高容量材料を用いると、炭素材料を用いる場合よりも電解質が分解しやすくなるため、電解質の分解抑制効果が際立って発揮されたものと考えられる。
【0279】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記した実施の形態および実施例において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、本発明の負極、正極あるいは電解質の使用用途は、必ずしも二次電池に限らず、二次電池以外の他の電気化学デバイスであっても良い。他の用途としては、例えば、キャパシタなどが挙げられる。
【0280】
また、上記した実施の形態および実施例では、二次電池の種類として、負極の容量がリチウムイオンの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。本発明の二次電池は、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極材料の充電容量を正極の充電容量よりも小さくすることにより、負極の容量がリチウムイオンの吸蔵および放出に伴う容量とリチウムの析出および溶解に伴う容量とを含み、かつ、それらの容量の和により表される二次電池についても同様に適用可能である。
【0281】
また、上記した実施の形態および実施例では、本発明の二次電池の電解質として、電解液や、電解液を高分子化合物に保持させたゲル状電解質を用いる場合について説明したが、他の種類の電解質を用いるようにしてもよい。他の電解質としては、例えば、イオン伝導性セラミックス、イオン伝導性ガラスあるいはイオン性結晶などのイオン伝導性無機化合物と電解液とを混合したものや、他の無機化合物と電解液とを混合したものや、これらの無機化合物とゲル状電解質とを混合したものや、電解質塩とイオン伝導性の高分子化合物とを混合した固体電解質などが挙げられる。
【0282】
また、上記した実施の形態および実施例では、電池構造が円筒型あるいはラミネートフィルム型である場合、ならびに電池素子が巻回構造を有する場合を例に挙げて説明したが、本発明の電池は、角型、コイン型あるいはボタン型などの他の電池構造を有する場合や、電池素子が積層構造などの他の構造を有する場合についても同様に適用可能である。
【0283】
また、上記した実施の形態および実施例では、電極反応物質としてリチウムを用いる場合について説明したが、ナトリウム(Na)あるいはカリウム(K)などの他の1A族元素や、マグネシウム(Mg)あるいはカルシウム(Ca)などの2A族元素や、アルミニウムなどの他の軽金属を用いてもよい。本発明の効果は、電極反応物質の種類に依存せずに得られるはずであるため、その電極反応物質の種類を変更しても、同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0284】
【図1】本発明の一実施の形態に係る二次電池(第1の二次電池)の構成を表す断面図である。
【図2】図1に示した巻回電極体の一部を拡大して表す断面図である。
【図3】図2に示した負極の構成を拡大して表す断面図である。
【図4】参考例の負極の構成を表す断面図である。
【図5】図2に示した負極の断面構造を表すSEM写真およびその模式図である。
【図6】図2に示した負極の他の断面構造を表すSEM写真およびその模式図である。
【図7】本発明の一実施の形態に係る二次電池(他の第1の二次電池)の構成を表す断面図である。
【図8】図7に示した巻回電極体のVIII−VIII線に沿った断面図である。
【図9】図8に示した巻回電極体の一部を拡大して表す断面図である。
【図10】本発明の一実施の形態に係る二次電池(第2の二次電池)の構成を表す断面図である。
【図11】本発明の一実施の形態に係る二次電池(他の第2の二次電池)の構成を表す断面図である。
【図12】本発明の一実施の形態に係る二次電池(第3の二次電池)の構成を表す断面図である。
【図13】本発明の一実施の形態に係る二次電池(他の第3の二次電池)の構成を表す断面図である。
【符号の説明】
【0285】
11…電池缶、12,13…絶縁板、14…電池蓋、15…安全弁機構、15A…ディスク板、16…熱感抵抗素子、17…ガスケット、20,30…巻回電極体、21,33…正極、21A,33A…正極集電体、21B,33B…正極活物質層、21C,33C…正極被膜、22,34…負極、22A,34A…負極集電体、22B,34B…負極活物質層、22C,34C…負極被膜、23,35…セパレータ、24…センターピン、25,31…正極リード、26,32…負極リード、36…電解質層、37…保護テープ、40…外装部材、41…密着フィルム、221…負極活物質粒子、222…酸化物含有膜、224(224A,224B)…隙間、225…空隙、226…金属材料。
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極および負極と共に電解質を備えた二次電池、その製造方法、ならびに二次電池などの電気化学デバイスに用いられる負極、正極および電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、携帯電話あるいはノートパソコンなどのポータブル電子機器が広く普及しており、その小型化、軽量化および長寿命化が強く求められている。これに伴い、電源として、電池、特に軽量で高エネルギー密度を得ることが可能な二次電池の開発が進められている。
【0003】
中でも、充放電反応にリチウムイオンの吸蔵および放出を利用する二次電池(いわゆるリチウムイオン二次電池)は、鉛電池およびニッケルカドミウム電池よりも高いエネルギー密度が得られるため、広く実用化されている。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、正極および負極と共に、電解質を備えている。正極は、正極集電体上に、正極活物質を含む正極活物質層を有している。負極は、負極集電体上に、負極活物質を含む負極活物質層を有している。電解質は、溶媒と、それに溶解された電解質塩とを含んでいる。
【0005】
負極活物質としては、黒鉛などの炭素材料が広く用いられている。炭素材料ではリチウムイオンの吸蔵および放出時における結晶構造の変化が非常に少ないため、電池容量などが安定して得られるからである。
【0006】
また、最近では、ポータブル電子機器の高性能化および多機能化に伴い、電池容量のさらなる向上が求められていることから、炭素材料に代えて、ケイ素あるいはスズなどの高容量材料を用いることが検討されている。ケイ素の理論容量(4199mAh/g)あるいはスズの理論容量(994mAh/g)は黒鉛の理論容量(372mAh/g)よりも格段に大きいため、電池容量の大幅な向上を期待できるからである。
【0007】
ところが、リチウムイオン二次電池では、充放電時にリチウムイオンを吸蔵した負極活物質が高活性になるため、電解質が分解されやすくなると共に、リチウムイオンの一部が不活性化しやすくなる。これにより、充放電を繰り返すと放電容量が低下しやすくなるため、十分なサイクル特性を得ることが困難である。この問題は、特に、負極活物質として高容量材料を用いた場合に顕著となる。
【0008】
そこで、サイクル特性などの電池特性を改善するために、さまざまな工夫がなされている。具体的には、電解質中にパーフルオロポリエーテルを含有させる技術(例えば、特許文献1,2参照。)や、負極の表面にパーフルオロポリエーテルを含む被膜を形成する技術(例えば、特許文献3参照。)が提案されている。また、フッ化ビニリデンのホモポリマーあるいはコポリマーなどの高分子材料により負極の表面を被覆する技術(例えば、特許文献4参照。)や、負極活物質中にポリフッ化ビニリデンなどを含有させる技術(例えば、特許文献5参照。)も提案されている。
【特許文献1】特開2002−305023号公報
【特許文献2】特開2006−269374号公報
【特許文献3】特開2004−265609号公報
【特許文献4】特表2006−517719号公報
【特許文献5】特開2007−095563号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、ポータブル電子機器は益々高性能化および多機能化しており、その消費電力は増大する傾向にあるため、リチウムイオン二次電池の充放電が頻繁に繰り返され、そのサイクル特性が低下しやすい状況にある。このため、サイクル特性に関して、より一層の向上が望まれている。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、サイクル特性を向上させることが可能な二次電池およびその製造方法、ならびに負極、正極および電解質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の二次電池は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な正極活物質を含む正極と、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質を含む負極と、溶媒および電解質塩を含む電解質とを備え、正極、負極および電解質のうちの少なくとも1つが式(1)および式(2)で表されるフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含むものである。また、本発明の二次電池の製造方法は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な正極活物質を含む正極、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質を含む負極、ならびに溶媒および電解質塩を含む電解質のうちの少なくとも1つに、式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含有させるようにしたものである。
【0012】
【化1】
(X1およびX2のうちの少なくとも一方はカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基である。hおよびkは比率を表し、h+k=1である。)
【0013】
【化2】
(X3はカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基である。)
【0014】
本発明の負極は、負極集電体上に負極活物質層が形成されたのち、その負極活物質層上に形成された負極被膜を有し、負極活物質層が電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質を含み、負極被膜が式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含むものである。
【0015】
本発明の正極は、正極集電体上に正極活物質層が形成されたのち、その正極活物質層上に形成された正極被膜を有し、正極活物質層が電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な正極活物質を含み、正極被膜が式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含むものである。
【0016】
本発明の電解質は、溶媒と、電解質塩と、式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種とを含むものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の負極、正極あるいは電解質によれば、式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含むようにしたので、それらの化学的安定性が向上する。これにより、電極反応時に、負極あるいは正極において電極反応物質が吸蔵および放出されやすくなると共に、電解質の分解反応が抑制される。よって、本発明の二次電池あるいはその製造方法によれば、サイクル特性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
本発明の一実施の形態に係る二次電池は、正極および負極と共に、電解質を備えている。正極は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な正極活物質を含んでおり、負極は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質を含んでいる。また、電解質は、溶媒と、それに溶解された電解質塩とを含んでいる。特に、正極、負極および電解質のうちの少なくとも1つは、式(1)あるいは式(2)で表されるフッ素樹脂のうちの少なくとも1種(以下、単に「フッ素樹脂」ともいう。)を含んでいる。
【0020】
【化3】
(X1およびX2のうちの少なくとも一方はカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基である。hおよびkは比率を表し、h+k=1である。)
【0021】
【化4】
(X3はカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基である。)
【0022】
正極がフッ素樹脂を含む場合には、例えば、フッ素樹脂が被膜として正極中に導入される。具体的には、例えば、正極が正極集電体上に正極活物質層を有する場合には、フッ素樹脂を含む正極被膜が正極活物質層上に設けられる。
【0023】
負極がフッ素樹脂を含む場合には、例えば、上記した正極の場合と同様に、フッ素樹脂が被膜として負極中に導入される。具体的には、例えば、負極が負極集電体上に負極活物質層を有する場合には、フッ素樹脂を含む負極被膜が負極活物質層上に設けられる。
【0024】
この他、例えば、フッ素樹脂が粒子被覆膜として正極あるいは負極中に導入されてもよい。具体的には、例えば、正極活物質あるいは負極活物質が複数の粒子状である場合には、フッ素樹脂を含む粒子被覆膜が正極活物質あるいは負極活物質の表面を被覆するように設けられてもよい。
【0025】
電解質がフッ素樹脂を含む場合には、例えば、フッ素樹脂が添加剤として電解質中に導入される。具体的には、例えば、フッ素樹脂が電解質の溶媒中に溶解あるいは分散される。この場合には、フッ素樹脂の全部が溶解していてもよいし、その一部だけが溶解していてもよい。
【0026】
正極、負極および電解質のうちの少なくとも1つがフッ素樹脂を含んでいるのは、そのフッ素樹脂を含む対象の化学的安定性が向上するからである。詳細には、正極あるいは負極がフッ素樹脂を含む場合には、そのフッ素樹脂を含む被膜等が保護膜として機能するため、正極あるいは負極が化学的に安定化する。これにより、充放電時に、正極あるいは負極正極において電極反応物質が吸蔵および放出されやすくなると共に、電解質の分解反応が抑制される。一方、電解質がフッ素樹脂を含む場合には、そのフッ素樹脂が安定化剤として機能するため、電解質が化学的に安定化する。これにより、充放電時において電解質の分解反応が抑制される。
【0027】
正極、負極および電解質のうちの少なくとも1つがフッ素樹脂を含んでいることから、そのフッ素樹脂を含んでいる対象は、正極、負極あるいは電解質のうちのいずれか1つだけでもよいし、それらのうちの任意の2つの組み合わせでもよいし、それらの全てであってもよい。
【0028】
正極、負極および電解質のうち、フッ素樹脂を含む対象の数は、多いほど好ましい。より高い効果が得られるからである。なお、正極、負極および電解質のうちのいずれか1つだけがフッ素樹脂を含む場合には、そのフッ素樹脂を含む対象は、電解質、正極および負極の順に好ましい。電解質よりも電極(正極,負極)において高い効果が得られると共に、電極の中では正極よりも負極において高い効果が得られるからである。また、正極、負極および電解質のうちのいずれか2つがフッ素樹脂を含む場合には、そのフッ素樹脂を含む対象は、正極および負極であることが好ましい。電解質よりも電極において高い効果が得られるからである。
【0029】
式(1)に示したフッ素樹脂は、2種類の繰り返し単位(−O−CF2 −CF2 −および−O−CF2 −)を有するパーフルオロエーテル結合を母体とし、その少なくとも一方の末端にX1,X2としてカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基を有する化合物である。また、式(2)に示したフッ素樹脂は、繰り返し単位を有しないパーフルオロエーテル結合を母体とし、その一末端にX3としてカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基を有する化合物である。なお、カルボン酸金属塩基とは、−C(=O)−OM(Mは金属元素)で表される基であり、スルホン酸金属塩基とは、−S(=O)2 −OMで表される基である。
【0030】
式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂において、金属塩基の種類は、特に限定されないが、中でも、アルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩であることが好ましく、アルカリ金属塩であることがより好ましい。より高い効果が得られるからである。なお、本発明における「アルカリ土類金属」とは、ベリリウム(Be)およびマグネシウム(Mg)を含み、すなわち長周期型周期表における2族元素を意味する。具体的には、2族元素とは、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)およびラジウム(Ra)である。この長周期型周期表とは、IUPAC(国際純正・応用化学連合)が提唱する無機化学命名法改訂版により表されるものである。
【0031】
また、金属塩基の種類は、例えば、電極反応物質と同種類の金属塩基であることが好ましい。具体的には、例えば、電極反応物質がリチウムイオンである場合には、金属塩基はリチウム塩であることが好ましい。より高い効果が得られるからである。
【0032】
式(1)に示したフッ素樹脂において、X1およびX2がいずれもカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基である場合には、X1およびX2の双方がカルボン酸金属塩基であってもよいし、双方がスルホン酸金属塩基であってもよいし、それぞれカルボン酸金属塩基およびスルホン酸金属塩基であってもよい。もちろん、X1およびX2の双方がカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基である場合には、それらの種類(金属元素の種類)が同一であってもよいし、異なってもよい。中でも、X1およびX2は、いずれもカルボン酸金属塩基であることが好ましい。より高い効果が得られるからである。
【0033】
X1あるいはX2のいずれか一方だけがカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基である場合には、他方はどのような基であってもよい。この場合における他方の基としては、例えば、トリフルオロメチル基(−CF3 )などのパーフルオロアルキル基が挙げられる。
【0034】
なお、式(1)に示したフッ素樹脂の分子量(例えば数平均分子量)は、特に限定されず、分散用の溶媒に対する分散性(あるいは溶解性)などの条件に応じて任意に設定可能である。また、hおよびkの比率(h:k)は、特に限定されないが、例えば、h>kであることが好ましい。より高い効果が得られるからである。
【0035】
式(2)に示したフッ素樹脂において、X3は、カルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基のいずれであってもよいが、中でも、カルボン酸金属塩基であることが好ましい。より高い効果が得られるからである。
【0036】
式(1)に示したフッ素樹脂の具体例としては、式(1−1)〜式(1−6)で表される化合物が挙げられる。中でも、X1およびX2が同一である式(1−1)あるいは式(1−2)に示した化合物が好ましく、X1およびX2がカルボン酸金属塩基である式(1−1)に示した化合物がより好ましい。
【0037】
【化5】
【0038】
式(2)に示したフッ素樹脂の具体例としては、式(2−1)〜式(2−4)で表される構造を化合物が挙げられる。中でも、式(2−1)あるいは式(2−2)に示した化合物が好ましく、X3がカルボン酸金属塩基である式(2−1)に示した化合物がより好ましい。
【0039】
【化6】
【0040】
なお、フッ素樹脂の有無およびその化学的構造については、例えば、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)などを用いて、正極、負極あるいは電解質中における元素の種類および結合状態を分析することにより特定可能である。
【0041】
この二次電池は、フッ素樹脂を含むように正極、負極および電解質のうちの少なくとも1つを形成あるいは調製することにより製造される。
【0042】
具体的には、正極あるいは負極がフッ素樹脂を含む場合には、例えば、フッ素樹脂を含む溶液を用いる。すなわち、正極がフッ素樹脂を含む場合には、例えば、フッ素樹脂を含む溶液中に正極活物質層を浸漬させたり、あるいはフッ素樹脂を含む溶液を正極活物質層の表面に塗布することにより、そのフッ素樹脂を含む正極被膜を形成する。また、負極がフッ素樹脂を含む場合には、例えば、上記した正極と同様の手順により、フッ素樹脂を含む溶液中に負極活物質層を浸漬させたり、あるいはフッ素樹脂を含む溶液を負極活物質層の表面に塗布することにより、そのフッ素樹脂を含む負極被膜を形成する。これらの場合には、フッ素樹脂がカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基を含んでおり、いわゆる水溶性であることから、そのフッ素樹脂を分散させる溶媒としては、水などを用いることができる。このため、分散溶媒のコストが安くて済むと共に、排気用の施設などが不要である。
【0043】
電解質がフッ素樹脂を含む場合には、溶媒中にフッ素樹脂を溶解あるいは分散させたのち、その溶媒中に電解質塩を溶解させる。
【0044】
この二次電池およびその製造方法によれば、正極、負極および電解質のうちの少なくとも1つが式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含んでいるので、そのフッ素樹脂を含んでいる対象の化学的安定性が向上する。したがって、サイクル特性を向上させることができる。
【0045】
この場合には、正極および負極を形成するために、フッ素樹脂を含む溶液を用いれば、減圧環境などの特殊な環境条件を要する方法を用いる場合と比較して、そのフッ素樹脂を含む正極あるいは負極を安定かつ容易に作製することができる。
【0046】
特に、フッ素樹脂が式(1−1)あるいは式(2−1)に示した化合物であれば、優れたサイクル特性を得ることができる。
【0047】
次に、本実施の形態に係る二次電池の詳細について、具体例を挙げて説明する。
【0048】
ここで説明する二次電池は、例えば、負極の容量が電極反応物質であるリチウムイオンの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池である。
【0049】
(第1の二次電池)
図1および図2は第1の二次電池の断面構成を表しており、図2では図1に示した巻回電極体20の一部を拡大して示している。この第1の二次電池では、例えば、正極21、負極22および電解質のうち、負極22がフッ素樹脂を含んでいる。
【0050】
この二次電池は、主に、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、セパレータ23を介して正極21と負極22とが積層および巻回された巻回電極体20と、一対の絶縁板12,13とが収納されたものである。この円柱状の電池缶11を用いた電池構造は、円筒型と呼ばれている。
【0051】
電池缶11は、例えば、一端部が閉鎖されると共に他端部が開放された中空構造を有しており、鉄、アルミニウムあるいはそれらの合金などの金属材料により構成されている。なお、電池缶11が鉄により構成される場合には、例えば、ニッケルなどの鍍金が施されてもよい。一対の絶縁板12,13は、巻回電極体20を上下から挟み、その巻回周面に対して垂直に延在するように配置されている。
【0052】
電池缶11の開放端部には、電池蓋14と、その内側に設けられた安全弁機構15および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient:PTC素子)16とが、ガスケット17を介してかしめられることにより取り付けられている。これにより、電池缶11の内部は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の金属材料により構成されている。安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されている。この安全弁機構15では、内部短絡、あるいは外部からの加熱などに起因して内圧が一定以上となった場合に、ディスク板15Aが反転して電池蓋14と巻回電極体20との間の電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子16は、温度の上昇に応じて抵抗が増大することにより、電流を制限して大電流に起因する異常な発熱を防止するものである。ガスケット17は、例えば、絶縁材料により構成されており、その表面には、例えば、アスファルトが塗布されている。
【0053】
巻回電極体20の巻回中心には、例えば、センターピン24が挿入されている。この巻回電極体20では、アルミニウムなどの金属材料により構成された正極リード25が正極21に接続されていると共に、ニッケルなどの金属材料により構成された負極リード26が負極22に接続されている。正極リード25は、安全弁機構15に溶接などされて電池蓋14と電気的に接続されており、負極リード26は、電池缶11に溶接などされて電気的に接続されている。
【0054】
正極21は、例えば、一対の面を有する正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bが設けられたものである。ただし、正極活物質層21Bは、正極集電体21Aの片面だけに設けられていてもよい。
【0055】
正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム、ニッケルあるいはステンレス(SUS)などの金属材料により構成されている。
【0056】
正極活物質層21Bは、正極活物質として、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な正極材料のいずれか1種あるいは2種以上を含んでおり、必要に応じて正極結着剤あるいは正極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0057】
リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、リチウム含有化合物が好ましい。高いエネルギー密度が得られるからである。このリチウム含有化合物としては、例えば、リチウムと遷移金属元素とを構成元素として有する複合酸化物や、リチウムと遷移金属元素とを構成元素として有するリン酸化合物などが挙げられる。中でも、遷移金属元素としてコバルト、ニッケル、マンガンおよび鉄のうちの少なくとも1種を有するものが好ましい。より高い電圧が得られるからである。その化学式は、例えば、Lix M1O2 あるいはLiy M2PO4 で表される。式中、M1およびM2は、1種類以上の遷移金属元素を表す。xおよびyの値は、充放電状態により異なり、通常、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10である。
【0058】
リチウムと遷移金属元素とを有する複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(Lix CoO2 )、リチウムニッケル複合酸化物(Lix NiO2 )、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(Lix Ni1-z Coz O2 (z<1))、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(Lix Ni(1-v-w) Cov Mnw O2 (v+w<1))、あるいはスピネル型構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2 O4 )などが挙げられる。中でも、コバルトを有する複合酸化物が好ましい。高い電池容量が得られると共に、優れたサイクル特性も得られるからである。また、リチウムコバルト複合酸化物としては、コバルトの一部をアルミニウムおよびマグネシウム(Mg)に置き換えた複合酸化物(LiCo(1-j-k) Alj Mgk O2 (0<j<0.1、0<k<0.1))などが挙げられる。さらに、リチウムと遷移金属元素とを有するリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO4 )あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe1-u Mnu PO4 (u<1))などが挙げられる。
【0059】
この他、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムあるいは二酸化マンガンなどの酸化物や、二硫化チタンあるいは硫化モリブデンなどの二硫化物や、セレン化ニオブなどのカルコゲン化物や、硫黄、ポリアニリンあるいはポリチオフェンなどの導電性高分子も挙げられる。
【0060】
もちろん、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な正極材料は、上記以外のものであってもよい。また、一連の正極材料は、任意の組み合わせで2種類以上混合されてもよい。
【0061】
正極導電剤としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックあるいはケチェンブラックなどの炭素材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種類が混合されてもよい。なお、正極導電剤は、導電性を有する材料であれば、金属材料あるいは導電性高分子などであってもよい。
【0062】
正極結着剤としては、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムあるいはエチレンプロピレンジエンなどの合成ゴムや、ポリフッ化ビニリデンなどの高分子材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
【0063】
負極22は、例えば、一対の面を有する負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bよび負極被膜22Cがこの順に設けられたものである。ただし、負極活物質層22Bは、負極集電体22Aの片面だけに設けられていてもよい。このことは、負極被膜22Cについても同様である。
【0064】
負極集電体22Aは、良好な電気化学的安定性、電気伝導性および機械的強度を有する材料により構成されていることが好ましい。このような材料としては、例えば、銅、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料が挙げられ、中でも、銅が好ましい。高い電気伝導性が得られるからである。
【0065】
特に、負極集電体22Aを構成する材料は、電極反応物質であるリチウムイオンと金属間化合物を形成しない金属元素のいずれか1種あるいは2種以上を構成元素として有していることが好ましい。リチウムイオンと金属間化合物を形成すると、充放電時において負極活物質層22Bの膨張および収縮に伴う応力の影響を受けやすいため、集電性が低下する可能性があると共に、負極活物質層22Bが負極集電体22Aから剥離する可能性もあるからである。このような金属元素としては、例えば、銅、ニッケル、チタン(Ti)、鉄あるいはクロム(Cr)などが挙げられる。
【0066】
また、負極集電体22Aを構成する材料は、負極活物質層22Bと合金化する金属元素のいずれか1種あるいは2種以上を構成元素として有していることが好ましい。負極集電体22Aと負極活物質層22Bとの間の密着性が向上するため、その負極活物質層22Bが負極集電体22Aから剥離しにくくなるからである。リチウムイオンと金属間化合物を形成せず、しかも負極活物質層22Bと合金化する金属元素としては、例えば、銅、ニッケルあるいは鉄などが挙げられる。これらの金属元素は、物理的強度および導電性の観点からも好ましい。
【0067】
なお、負極集電体22Aは、単層構造を有していてもよいし、多層構造を有していてもよい。負極集電体22Aが多層構造を有する場合には、例えば、負極活物質層22Bと隣接する層がそれと合金化する材料により構成され、隣接しない層が他の材料により構成されることが好ましい。
【0068】
負極集電体22Aの表面は、粗面化されていることが好ましい。いわゆるアンカー効果により、負極集電体22Aと負極活物質層22Bとの間の密着性が向上するからである。この場合には、少なくとも負極活物質層22Bと対向する領域において、負極集電体22Aの表面が粗面化されていればよい。粗面化の方法としては、例えば、電解処理により微粒子を形成する方法などが挙げられる。この電解処理とは、電解槽中において電解法を用いて負極集電体22Aの表面に微粒子を形成することにより、その表面に凹凸を設ける方法である。電解処理を使用して作製された銅箔は、一般的に「電解銅箔」と呼ばれている。
【0069】
負極活物質層22Bは、負極活物質として、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極材料のいずれか1種類あるいは2種類以上を含んでおり、必要に応じて負極導電剤あるいは負極結着剤などの他の材料を含んでいてもよい。なお、負極導電剤および負極結着剤に関する詳細は、例えば、それぞれ正極導電剤および正極結着剤について説明した場合と同様である。
【0070】
負極材料としては、例えば、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能であると共に金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として有する材料が挙げられる。高いエネルギー密度が得られるからである。このような材料は、金属元素あるいは半金属元素の単体でも合金でも化合物でもよく、それらの1種類あるいは2種類以上の相を少なくとも一部に有するようなものでもよい。なお、本発明における「合金」には、2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種類以上の金属元素と1種類以上の半金属元素とを含むものも含まれる。また、「合金」は、非金属元素を含んでいてもよい。この組織としては、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物、あるいはそれらのうちの2種類以上が共存するものがある。
【0071】
上記した金属元素あるいは半金属元素としては、例えば、リチウムと合金を形成することが可能な金属元素あるいは半金属元素が挙げられる。具体的には、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、アルミニウム、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、銀(Ag)、亜鉛、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、パラジウム(Pd)あるいは白金(Pt)などである。中でも、ケイ素およびスズのうちの少なくとも一方が好ましく、ケイ素がより好ましい。リチウムイオンを吸蔵および放出する能力が大きいため、高いエネルギー密度が得られるからである。
【0072】
ケイ素およびスズのうちの少なくとも一方を有する材料としては、例えば、ケイ素の単体、合金あるいは化合物や、スズの単体、合金あるいは化合物や、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有する材料が挙げられる。
【0073】
ケイ素の単体を有する材料としては、例えば、ケイ素の単体を主体として有する材料が挙げられる。このような材料を含む負極活物質層22Bは、例えば、ケイ素単体層の間にケイ素以外の他の構成元素と酸素とが存在する構造を有している。この負極活物質層22Bにおけるケイ素および酸素の合計の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、特にケイ素単体の含有量が50質量%以上であることが好ましい。ケイ素以外の他の構成元素としては、例えば、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、インジウム、銀、マグネシウム、アルミニウム、ゲルマニウム、スズ、ビスマスあるいはアンチモン(Sb)などが挙げられる。ケイ素の単体を主体として有する材料を含む負極活物質層22Bは、例えば、ケイ素と他の構成元素とを共蒸着することにより形成される。
【0074】
ケイ素の合金としては、例えば、ケイ素以外の他の構成元素として、スズ、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモン(Sb)およびクロムのうちの少なくとも1種の金属元素を有するものが挙げられる。ケイ素の化合物としては、例えば、ケイ素以外の他の構成元素として、酸素(O)あるいは炭素(C)などの非金属元素を有するものや、ケイ素の合金について説明した金属元素を有するものなどが挙げられる。ケイ素の合金あるいは化合物の一例としては、SiB4 、SiB6 、Mg2 Si、Ni2 Si、TiSi2 、MoSi2 、CoSi2 、NiSi2 、CaSi2 、CrSi2 、Cu5 Si、FeSi2 、MnSi2 、NbSi2 、TaSi2 、VSi2 、WSi2 、ZnSi2 、SiC、Si3 N4 、Si2 N2 O、SiOv (0<v≦2)、あるいはLiSiOなどが挙げられる。
【0075】
スズの合金としては、例えば、スズ以外の他の構成元素として、ケイ素、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンおよびクロムのうちの少なくとも1種の金属元素を有するものが挙げられる。スズの化合物としては、例えば、スズ以外の他の構成元素として、酸素あるいは炭素などの非金属元素を有するものや、スズの合金について説明した金属元素を有するものなどが挙げられる。スズの合金または化合物の一例としては、SnOw (0<w≦2)、SnSiO3 、LiSnO、あるいはMg2 Snなどが挙げられる。
【0076】
特に、ケイ素およびスズのうちの少なくとも一方を有する材料としては、例えば、スズを第1の構成元素とし、それに加えて第2および第3の構成元素を有するものが好ましい。第2の構成元素は、コバルト、鉄、マグネシウム、チタン、バナジウム(V)、クロム、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ジルコニウム、ニオブ(Nb)、モリブデン、銀、インジウム、セリウム(Ce)、ハフニウム、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ビスマスおよびケイ素のうちの少なくとも1種である。第3の構成元素は、ホウ素、炭素、アルミニウムおよびリン(P)のうちの少なくとも1種である。第2および第3の構成元素を有することにより、サイクル特性が向上するからである。
【0077】
中でも、スズ、コバルトおよび炭素を構成元素として有すると共に、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下、スズおよびコバルトの合計に対するコバルトの割合(Co/(Sn+Co))が30質量%以上70質量%以下であるSnCoC含有材料が好ましい。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。
【0078】
このSnCoC含有材料は、必要に応じて、さらに他の構成元素を有していてもよい。他の構成元素としては、例えば、ケイ素、鉄、ニッケル、クロム、インジウム、ニオブ、ゲルマニウム、チタン、モリブデン、アルミニウム、リン、ガリウムあるいはビスマスなどが好ましく、それらの2種類以上であってもよい。より高い効果が得られるからである。
【0079】
なお、SnCoC含有材料は、スズ、コバルトおよび炭素を有する相を含んでおり、その相は、低結晶性あるいは非晶質の構造を有していることが好ましい。この相は、リチウムイオンと反応可能な反応相であり、その相のX線回折により得られる回折ピークの半値幅は、特定X線としてCuKα線を用い、挿引速度を1°/minとした場合に、回折角2θで1.0°以上であることが好ましい。リチウムイオンがより円滑に吸蔵および放出されると共に、電解質との反応性が低減されるからである。
【0080】
X線回折により得られた回折ピークがリチウムイオンと反応可能な反応相に対応するものであるか否かは、リチウムイオンとの電気化学的反応の前後におけるX線回折チャートを比較することにより容易に判断することができる。例えば、リチウムイオンとの電気化学的反応の前後において回折ピークの位置が変化すれば、リチウムイオンと反応可能な反応相に対応するものである。この場合には、例えば、低結晶性あるいは非晶質の反応相の回折ピークが2θ=20°〜50°の間に見られる。この低結晶性あるいは非晶質の反応相は、例えば、上記した各構成元素を有しており、主に、炭素により低結晶化あるいは非晶質化しているものと考えられる。
【0081】
なお、SnCoC含有材料は、低結晶性あるいは非晶質の相に加えて、各構成元素の単体または一部を有する相を含んでいる場合もある。
【0082】
特に、SnCoC含有材料では、構成元素である炭素の少なくとも一部が、他の構成元素である金属元素あるいは半金属元素と結合していることが好ましい。スズなどの凝集あるいは結晶化が抑制されるからである。
【0083】
元素の結合状態を調べる測定方法としては、例えば、XPSが挙げられる。このXPSは、軟X線(市販の装置ではAl−Kα線あるいはMg−Kα線を用いる)を試料表面に照射し、その試料表面から飛び出してくる光電子の運動エネルギーを測定することにより、試料表面から数nmの領域における元素の組成や結合状態を調べる方法である。
【0084】
元素の内殻軌道電子の束縛エネルギーは、第1近似的には、元素上の電荷密度と相関して変化する。例えば、炭素元素の電荷密度が、その近傍に存在する元素との相互作用により減少した場合には、2p電子などの外殻電子が減少しているため、炭素元素の1s電子は殻から強い束縛力を受けることになる。すなわち、元素の電荷密度が減少すると、束縛エネルギーは高くなる。XPSでは、束縛エネルギーが高くなると、ピークは高いエネルギー領域にシフトするようになっている。
【0085】
XPSでは、金原子の4f軌道(Au4f)のピークが84.0eVに得られるようにエネルギー較正された場合において、炭素の1s軌道(C1s)のピークは、グラファイトであれば284.5eVに現れ、表面汚染炭素であれば284.8eVに現れる。これに対して、炭素元素の電荷密度が高くなる場合、例えば、炭素よりも陽性な元素と結合している場合には、C1sのピークは、284.5eVよりも低い領域に現れる。すなわち、SnCoC含有材料に含まれる炭素の少なくとも一部が他の構成元素である金属元素あるいは半金属元素などと結合している場合には、SnCoC含有材料について得られるC1sの合成波のピークは284.5eVよりも低い領域に現れる。
【0086】
なお、試料表面が表面汚染炭素で覆われている場合には、例えば、XPS装置に付属しているアルゴンイオン銃を用いて試料表面を軽くスパッタすることが好ましい。また、例えば、測定対象のSnCoC含有材料が二次電池の負極中に存在する場合には、二次電池を解体して負極を取り出したのち、炭酸ジメチルなどの揮発性溶媒で洗浄するとよい。負極の表面に存在する揮発性の低い溶媒および電解質塩を除去するためである。これらのサンプリング作業は、不活性雰囲気下において行われることが望ましい。
【0087】
また、XPS測定では、スペクトルのエネルギー軸を補正するために、例えば、C1sのピークを用いる。通常、物質表面には表面汚染炭素が存在しているため、表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとし、それをエネルギー基準とする。なお、XPS測定において、C1sのピークの波形は、表面汚染炭素のピークとSnCoC含有材料中の炭素のピークとを含んだ形として得られるため、例えば、市販のソフトウエアを用いて解析することにより、表面汚染炭素のピークとSnCoC含有材料中の炭素のピークとを分離する。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
【0088】
このSnCoC含有材料は、例えば、各構成元素の原料を混合した混合物を電気炉、高周波誘導炉あるいはアーク溶解炉などで溶解させたのちに凝固させることにより形成可能である。また、ガスアトマイズあるいは水アトマイズなどの各種アトマイズ法や、各種ロール法や、メカニカルアロイング法あるいはメカニカルミリング法などのメカノケミカル反応を利用した方法などを用いてもよく、中でも、メカノケミカル反応を利用した方法が好ましい。SnCoC含有材料が低結晶性あるいは非晶質の構造になりやすいからである。メカノケミカル反応を利用した方法では、例えば、遊星ボールミル装置あるいはアトライタなどの製造装置を用いることができる。
【0089】
原料には、各構成元素の単体を混合して用いてもよいが、炭素以外の構成元素の一部については合金を用いることが好ましい。合金に炭素を加え、メカニカルアロイング法を利用した方法で合成することにより、低結晶化あるいは非晶質の構造が得られやすいと共に、反応時間が短縮されるからである。なお、原料の形態は、粉体であってもよいし、塊状であってもよい。
【0090】
なお、ケイ素およびスズのうちの少なくとも一方を有する材料としては、上記したSnCoC含有材料の他に、スズ、コバルト、鉄および炭素を構成元素として有するSnCoFeC含有材料も好ましい。このSnCoFeC含有材料の組成は、任意に設定可能である。例えば、鉄の含有量を少なめに設定する場合の組成としては、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下、鉄の含有量が0.3質量%以上5.9質量%以下、スズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合(Co/(Sn+Co))が30質量%以上70質量%以下であることが好ましい。また、例えば、鉄の含有量を多めに設定する場合の組成としては、炭素の含有量が11.9質量%以上29.7質量%以下、スズとコバルトと鉄との合計に対するコバルトと鉄との合計の割合((Co+Fe)/(Sn+Co+Fe))が26.4質量%以上48.5質量%以下、コバルトと鉄との合計に対するコバルトの割合(Co/(Co+Fe))が9.9質量%以上79.5質量%以下であることが好ましい。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。このSnCoFeC含有材料の結晶性、元素の結合状態の測定方法、および形成方法などについては、SnCoC含有材料について説明した場合と同様である。
【0091】
また、負極材料としては、例えば、炭素材料が挙げられる。この炭素材料とは、例えば、易黒鉛化性炭素、(002)面の面間隔が0.37nm以上の難黒鉛化性炭素、あるいは(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛などである。より具体的には、熱分解炭素類、コークス類、黒鉛類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維、活性炭あるいはカーボンブラック類などがある。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスあるいは石油コークスなどが含まれる。黒鉛類には、天然黒鉛、あるいは球状炭素微粒子(MCMB:meso-carbon micro beads )などの人造黒鉛が含まれる。有機高分子化合物焼成体とは、フェノール樹脂あるいはフラン樹脂などを適当な温度で焼成することにより炭素化したものである。炭素材料は、リチウムイオンの吸蔵および放出に伴う結晶構造の変化が非常に少ないため、高いエネルギー密度が得られると共に、導電剤としても機能するので好ましい。なお、炭素材料の形状は、繊維状、球状、粒状あるいは鱗片状のいずれであってもよい。
【0092】
さらに、負極材料としては、例えば、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な金属酸化物あるいは高分子化合物なども挙げられる。金属酸化物は、例えば、酸化鉄、酸化ルテニウムあるいは酸化モリブデンなどである。高分子化合物は、例えば、ポリアセチレン、ポリアニリンあるいはポリピロールなどである。
【0093】
もちろん、負極材料は、上記以外のものであってもよい。また、一連の負極材料は、任意の組み合わせで2種類以上混合されてもよい。
【0094】
負極活物質層22Bは、例えば、気相法、液相法、溶射法、塗布法あるいは焼成法、またはそれらの2種以上の方法により形成されている。この場合には、負極集電体22Aと負極活物質層22Bとが界面の少なくとも一部において合金化していることが好ましい。詳細には、両者の界面において、負極集電体22Aの構成元素が負極活物質層22Bに拡散していてもよいし、負極活物質層22Bの構成元素が負極集電体22Aに拡散していてもよいし、それらの構成元素が互いに拡散しあっていてもよい。充放電時における負極活物質層22Bの膨張および収縮に起因する破壊が抑制されると共に、負極集電体22Aと負極活物質層22Bとの間の電子伝導性が向上するからである。
【0095】
気相法としては、例えば、物理堆積法あるいは化学堆積法、具体的には真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、熱化学気相成長(Chemical Vapor Deposition :CVD)法あるいはプラズマ化学気相成長法などが挙げられる。液相法としては、電解鍍金あるいは無電解鍍金などの公知の手法を用いることができる。塗布法とは、例えば、粒子状の負極活物質を結着剤などと混合したのち、溶剤に分散させて塗布する方法である。焼成法とは、例えば、塗布法を用いて塗布したのち、結着剤などの融点よりも高い温度で熱処理する方法である。焼成法に関しても公知の手法が利用可能であり、例えば、雰囲気焼成法、反応焼成法あるいはホットプレス焼成法などが挙げられる。
【0096】
この負極活物質層22Bに含まれている負極活物質は、例えば、複数の粒子状である。すなわち、負極活物質層22Bは、複数の粒子状の負極活物質(以下、単に「負極活物質粒子」という。)を有しており、その負極活物質粒子は、例えば、上記した気相法などにより形成されている。ただし、負極活物質粒子は、気相法以外の方法により形成されていてもよい。
【0097】
負極活物質粒子が気相法などの堆積法により形成される場合には、その負極活物質粒子が単一の堆積工程により形成された単層構造を有していてもよいし、複数回の堆積工程により形成された多層構造を有していてもよい。ただし、堆積時に高熱を伴う蒸着法などを用いて負極活物質粒子を形成する場合には、その負極活物質粒子が多層構造を有していることが好ましい。負極材料の堆積工程を複数回に分割して行う(負極材料を順次薄く形成して堆積させる)ことにより、その堆積工程を1回で行う場合と比較して負極集電体2が高熱に晒される時間が短くなるため、熱的ダメージを受けにくくなるからである。
【0098】
この負極活物質粒子は、例えば、負極集電体22Aの表面から負極活物質層22Bの厚さ方向に成長しており、その根元において負極集電体22Aに連結されていることが好ましい。充放電時において負極活物質層22Bの膨張および収縮が抑制されるからである。この場合には、負極活物質粒子が気相法などにより形成されており、上記したように、負極集電体22Aとの界面の少なくとも一部において合金化していることが好ましい。詳細には、両者の界面において、負極集電体22Aの構成元素が負極活物質粒子に拡散していてもよいし、負極活物質粒子の構成元素が負極集電体22Aに拡散していてもよいし、両者の構成元素が互いに拡散しあっていてもよい。
【0099】
特に、負極活物質層22Bは、必要に応じて、負極活物質粒子の表面(酸化物含有膜を設けないとしたならば電解質と接することになる領域)を被覆する酸化物含有膜を有していることが好ましい。酸化物含有膜が保護膜として機能することにより、負極22の化学的安定性が向上するため、充放電時において電解質の分解反応が抑制されるからである。なお、酸化物含有膜は、負極活物質粒子の表面の全部を被覆していてもよいし、一部だけを被覆していてもよく、中でも、全部を被覆していることが好ましい。電解質の分解反応がより抑制されるからである。
【0100】
この酸化物含有膜は、例えば、ケイ素の酸化物、ゲルマニウムの酸化物およびスズの酸化物のうちの少なくとも1種を含んでおり、中でも、ケイ素の酸化物を含んでいることが好ましい。負極活物質粒子の表面を全体に渡って容易に被覆しやすいと共に、優れた保護機能が得られるからである。もちろん、酸化物含有膜は、上記したケイ素の酸化物等以外の他の酸化物を含んでいてもよい。
【0101】
また、酸化物含有膜は、例えば、気相法あるいは液相法により形成されており、中でも、液相法により形成されていることが好ましい。負極活物質粒子の表面を広い範囲に渡って容易に被覆しやすいからである。液相法としては、液相析出法、ゾルゲル法、塗布法あるいはディップコーティング法などが挙げられ、中でも、液相析出法、ゾルゲル法あるいはディップコーティング法が好ましく、液相析出法がより好ましい。より高い効果が得られるからである。なお、酸化物含有膜は、上記した一連の形成方法のうち、単独の方法により形成されていてもよいし、2種類以上の方法により形成されていてもよい。
【0102】
また、負極活物質層22Bは、必要に応じて、負極活物質層22B内の空隙(隙間)に、リチウムイオンと合金化しない金属材料を有していることが好ましい。金属材料を介して複数の負極活物質粒子が結着されると共に、上記した隙間に金属材料が存在することにより負極活物質層22Bの膨張および収縮が抑制されるからである。
【0103】
この金属材料は、例えば、リチウムイオンと合金化しない金属元素を構成元素として有している。このような金属元素としては、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛および銅のうちの少なくとも1種が挙げられる。上記した隙間に金属材料が容易に入り込みやすいと共に、優れた結着性が得られるからである。もちろん、金属材料は、上記した鉄等以外の他の金属元素を有していてもよい。ただし、ここで言う「金属材料」とは、単体に限らず、合金や金属化合物までも含む広い概念である。
【0104】
また、金属材料は、例えば、気相法あるいは液相法により形成されており、中でも、液相法により形成されていることが好ましい。負極活物質層22B内の隙間に金属材料が入り込みやすいからである。液相法としては、例えば、電解鍍金法あるいは無電解鍍金法などが挙げられ、中でも、電解鍍金法が好ましい。上記した隙間に金属材料がより入り込みやすいと共に、その形成時間が短くて済むからである。なお、金属材料は、上記した一連の形成方法のうち、単独の方法により形成されていてもよいし、2種類以上の方法により形成されていてもよい。
【0105】
さらに、金属材料は、結晶性を有していることが好ましい。結晶性を有していない(非晶質である)場合と比較して、負極22全体の抵抗が低下すると共に、負極22においてリチウムイオンが吸蔵および放出されやすくなるからである。また、初期充電時においてリチウムイオンが均一に吸蔵および放出されることにより、負極22に局所的な応力がかかりにくくなるため、しわの発生が抑制されるからである。
【0106】
なお、負極活物質層22Bは、上記した酸化物含有膜あるいは金属材料のいずれか一方だけを有していてもよいし、双方を有していてもよい。ただし、より高い効果を得るためには、双方を有していることが好ましい。また、いずれか一方だけを有する場合において、より高い効果を得るためには、酸化物含有膜を有していることが好ましい。なお、酸化物含有膜および金属材料の双方を有する場合には、どちらを先に形成してもよいが、より高い効果を得るためには、酸化物含有膜を先に形成することが好ましい。
【0107】
ここで、図3〜図6を参照して、負極の詳細な構成について説明する。
【0108】
まず、負極活物質層22Bが複数の負極活物質粒子と共に酸化物含有膜を有する場合について説明する。図3は本発明の負極の断面構成を模式的に表しており、図4は参考例の負極の断面構成を模式的に表している。なお、図3および図4では、負極活物質粒子が単層構造を有している場合を示している。
【0109】
本発明の負極では、図3に示したように、例えば、蒸着法などの気相法を用いて負極集電体22A上に負極材料が堆積されると、その負極集電体22A上に複数の負極活物質粒子221が形成される。この場合には、負極集電体22Aの表面が粗面化され、その表面に複数の突起部(例えば電解処理により形成された微粒子)が存在すると、負極活物質粒子221が上記した突起部ごとに厚さ方向に成長するため、複数の負極活物質粒子221が負極集電体22A上において配列されると共に根元において負極集電体22Aの表面に連結される。こののち、例えば、液相析出法などの液相法を用いて負極活物質粒子221の表面に酸化物含有膜222が形成されると、その酸化物含有膜222は負極活物質粒子221の表面をほぼ全体に渡って被覆し、特に、負極活物質粒子221の頭頂部から根元に至る広い範囲を被覆する。この酸化物含有膜222による広範囲な被覆状態は、その酸化物含有膜222が液相法により形成された場合に見られる特徴である。すなわち、液相法を用いて酸化物含有膜222を形成すると、その被覆作用が負極活物質粒子221の頭頂部だけでなく根元まで広く及ぶため、その根元まで酸化物含有膜222により被覆される。
【0110】
これに対して、参考例の負極では、図4に示したように、例えば、気相法を用いて複数の負極活物質粒子221が形成されたのち、同様に気相法を用いて酸化物含有膜223が形成されると、その酸化物含有膜223は負極活物質粒子221の頭頂部だけを被覆する。この酸化物含有膜223による狭範囲な被覆状態は、その酸化物含有膜223が気相法により形成された場合に見られる特徴である。すなわち、気相法を用いて酸化物含有膜223を形成すると、その被覆作用が負極活物質粒子221の頭頂部に及ぶものの根元まで及ばないため、その根元までは酸化物含有膜223により被覆されない。
【0111】
なお、図3では、気相法を用いて負極活物質層22Bが形成される場合について説明したが、塗布法あるいは焼結法などの他の方法を用いて負極活物質層22Bが形成される場合においても同様に、複数の負極活物質粒子221の表面をほぼ全体に渡って被覆するように酸化物含有膜222が形成される。
【0112】
次に、負極活物質層22Bが複数の負極活物質粒子と共にリチウムイオンと合金化しない金属材料を有する場合について説明する。図5は負極の断面構成を拡大して表しており、(A)は走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope:SEM)写真(二次電子像)、(B)は(A)に示したSEM像の模式絵である。なお、図5では、複数の負極活物質粒子が粒子内に多層構造を有している場合を示している。
【0113】
負極活物質粒子221が多層構造を有する場合には、複数の負極活物質粒子221の配列構造、多層構造および表面構造に起因して、負極活物質層22B中に複数の隙間224が生じている。この隙間224は、主に、発生原因に応じて分類された2種類の隙間224A,224Bを含んでいる。隙間224Aは、隣り合う負極活物質粒子221間に生じるものであり、隙間224Bは、負極活物質粒子221内の各階層間に生じるものである。
【0114】
なお、負極活物質粒子221の露出面(最表面)には、空隙225が生じる場合がある。この空隙225は、負極活物質粒子221の表面にひげ状の微細な突起部(図示せず)が生じることに伴い、その突起部間に生じるものである。この空隙225は、負極活物質粒子221の露出面において、全体に渡って生じる場合もあれば、一部だけに生じる場合もある。ただし、上記したひげ状の突起部は、負極材料の堆積時ごとにその表面に生じるため、空隙225は、負極活物質粒子221の露出面だけでなく、各階層間にも生じる場合がある。
【0115】
図6は負極の他の断面構成を表しており、図5に対応している。負極活物質層22Bは、隙間224A,224Bに、リチウムイオンと合金化しない金属材料226を有している。この場合には、隙間224A,224Bのうちのいずれか一方だけに金属材料226を有していてもよいが、双方に金属材料226を有していることが好ましい。より高い効果が得られるからである。
【0116】
この金属材料226は、隣り合う負極活物質粒子221間の隙間224Aに入り込んでいる。詳細には、気相法などにより負極活物質粒子221が形成される場合には、上記したように、負極集電体22Aの表面に存在する突起部ごとに負極活物質粒子221が成長するため、隣り合う負極活物質粒子221間に隙間224Aが生じる。この隙間224Aは、負極活物質層22Bの結着性を低下させる原因となるため、その結着性を高めるために、隙間224Aに金属材料226が埋め込まれている。この場合には、隙間224Aの一部でも埋め込まれていればよいが、その埋め込み量が多いほど好ましい。負極活物質層22Bの結着性がより向上するからである。金属材料226の埋め込み量は、20%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましい。
【0117】
また、金属材料226は、負極活物質粒子221内の隙間224Bに入り込んでいる。詳細には、負極活物質粒子221が多層構造を有する場合には、各階層間に隙間224Bが生じる。この隙間224Bは、上記した隙間224Aと同様に、負極活物質層22Bの結着性を低下させる原因となるため、その結着性を高めるために、上記した隙間224Bに金属材料226が埋め込まれている。この場合には、隙間224Bの一部でも埋め込まれていればよいが、その埋め込み量が多いほど好ましい。負極活物質層22Bの結着性がより向上するからである。
【0118】
なお、負極活物質層22Bは、負極活物質粒子221の露出面(最表面)に生じるひげ状の微細な突起部(図示せず)が負極の性能に悪影響を及ぼすことを抑制するために、空隙225に金属材料226を有していてもよい。詳細には、気相法などにより負極活物質粒子221が形成される場合には、その表面にひげ状の微細な突起部が生じるため、その突起部間に空隙225が生じる。この空隙225は、負極活物質粒子221の表面積を増加させると共に、その表面に形成される不可逆性の被膜の量も増加させるため、充放電反応の進行度を低下させる原因となる可能性がある。したがって、充放電反応の進行度の低下を抑制するために、空隙225に金属材料226が埋め込まれている。この場合には、空隙225の一部でも埋め込まれていればよいが、その埋め込み量が多いほど好ましい。充放電反応の進行度の低下がより抑えられるからである。図6において、負極活物質粒子221の露出面に金属材料226が点在していることは、その点在箇所に上記した微細な突起部が存在していること表している。もちろん、金属材料226は、必ずしも負極活物質粒子221の表面に点在していなければならないわけではなく、その表面全体を被覆していてもよい。
【0119】
特に、隙間224Bに入り込んだ金属材料226は、各階層における空隙225を埋め込む機能も果たしている。詳細には、負極材料が複数回に渡って堆積される場合には、その堆積時ごとに上記した微細な突起部が生じる。このため、金属材料226は、各階層における隙間224Bに埋め込まれているだけでなく、各階層における空隙225にも埋め込まれている。
【0120】
なお、図5および図6では、負極活物質粒子221が多層構造を有しており、負極活物質層22B中に隙間224A,224Bの双方が存在している場合について説明したため、負極活物質層22Bが隙間224A,224Bに金属材料226を有している。これに対して、負極活物質粒子221が単層構造を有しており、負極活物質層22B中に隙間224Aだけが存在する場合には、負極活物質層22Bが隙間224Aだけに金属材料226を有することになる。もちろん、空隙225は両者の場合において生じるため、いずれの場合においても空隙225に金属材料226を有することとなる。
【0121】
負極被膜22Cは、負極集電体22A上に負極活物質層22Bが形成されたのち、その負極活物質層22B上に形成されたものである。この負極被膜22Cは、上記したように、式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含んでいる。負極22の化学的安定性が向上するからである。これにより、充放電時に、負極22においてリチウムイオンが効率よく吸蔵および放出されると共に、電解質の分解反応が抑制されるため、サイクル特性が向上する。
【0122】
この負極被膜22Cは、負極活物質層22Bの全面を覆うように設けられていてもよいし、その表面の一部を覆うように設けられていてもよい。この場合には、負極被膜22Cの一部が負極活物質層22Bの内部に入り込んでいてもよい。
【0123】
負極被膜22Cを形成する方法としては、例えば、塗布法、浸漬法、ディップコーティング法あるいはスプレー法などの液相法や、蒸着法、スパッタ法あるいはCVD法などの気相法が挙げられる。これらの方法については、単独で用いてもよいし、2種以上の方法を併用してもよい。中でも、例えば、液相法では、フッ素樹脂を含む溶液を用いて負極被膜22Cを形成することが好ましい。具体的には、例えば、浸漬法では、フッ素樹脂を含む溶液中に負極活物質層22Bを浸漬させたのち、引き上げて乾燥させる。また、塗布法では、フッ素樹脂を含む溶液を負極活物質層22Bの表面に塗布したのち、乾燥させる。高い化学的安定性を有する良好な負極被膜22Bが容易に形成されるからである。フッ素樹脂を溶解させる溶媒としては、上記したように、例えば、水などの極性の高い溶媒が挙げられる。
【0124】
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離し、両極の接触に起因する電流の短絡を防止しながらリチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ23は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどの合成樹脂からなる多孔質膜や、セラミックからなる多孔質膜などにより構成されており、これらの2種以上の多孔質膜が積層されたものであってもよい。
【0125】
このセパレータ23には、液状の電解質である電解液が含浸されている。この電解液は、溶媒と、それに溶解された電解質塩とを含んでいる。
【0126】
溶媒は、例えば、有機溶剤などの非水溶媒の1種あるいは2種以上を含んでいる。以下で説明する一連の溶媒は、任意に組み合わされてもよい。
【0127】
非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチル、トリメチル酢酸エチル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、燐酸トリメチル、あるいはジメチルスルホキシドなどが挙げられる。中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種が好ましい。この場合には、炭酸エチレンあるいは炭酸プロピレンなどの高粘度(高誘電率)溶媒(例えば比誘電率ε≧30)と炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルあるいは炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒(例えば粘度≦1mPa・s)との組み合わせがより好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するからである。
【0128】
特に、溶媒は、式(3)で表されるハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステルおよび式(4)で表されるハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種を含んでいることが好ましい。充放電時において負極22の表面に安定な保護膜が形成されるため、電解質の分解反応が抑制されるからである。
【0129】
【化7】
(R11〜R16は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
【0130】
【化8】
(R17〜R20は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
【0131】
式(3)中のR11〜R16は、同一でもよいし、異なってもよい。すなわち、R11〜R16の種類については、上記した一連の基の範囲内において個別に設定可能である。式(4)中のR17〜R20についても、同様である。
【0132】
ハロゲンの種類は、特に限定されないが、中でも、フッ素、塩素あるいは臭素が好ましく、フッ素がより好ましい。高い効果が得られるからである。他のハロゲンと比較して、高い効果が得られるからである。
【0133】
ただし、ハロゲンの数は、1つよりも2つが好ましく、さらに3つ以上であってもよい。保護膜を形成する能力が高くなり、より強固で安定な保護膜が形成されるため、電解液の分解反応がより抑制されるからである。
【0134】
式(3)に示したハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステルとしては、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ビス(フルオロメチル)あるいは炭酸ジフルオロメチルメチルなどが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
【0135】
式(4)に示したハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステルとしては、例えば、下記の式(4−1)〜式(4−21)で表される一連の化合物が挙げられる。すなわち、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、テトラフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−クロロ−5−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,5−ジクロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、テトラクロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,5−ビストリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,5−ジフルオロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジフルオロ−5−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−エチル−5,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−フルオロ−5−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−メチル−5−トリフルオロ−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−フルオロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、5−(1,1−ジフルオロエチル)−4,4−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,5−ジクロロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−エチル−5−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−エチル−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−エチル−4,5,5−トリフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−フルオロ−4−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オンなどである。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
【0136】
【化9】
【0137】
【化10】
【0138】
中でも、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンあるいは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンが好ましく、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンがより好ましい。特に、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンとしては、シス異性体よりもトランス異性体が好ましい。容易に入手可能であると共に、高い効果が得られるからである。
【0139】
また、溶媒は、式(5)〜式(7)で表される不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種を含んでいることが好ましい。充放電時において負極22の表面に安定な保護膜が形成されるため、電解質の分解反応が抑制されるからである。
【0140】
【化11】
(R21およびR22は水素基あるいはアルキル基である。)
【0141】
【化12】
(R23〜R26は水素基、アルキル基、ビニル基あるいはアリル基であり、それらのうちの少なくとも1つはビニル基あるいはアリル基である。)
【0142】
【化13】
(R27はアルキレン基である。)
【0143】
式(5)に示した不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸ビニレン系化合物である。この炭酸ビニレン系化合物としては、例えば、炭酸ビニレン(1,3−ジオキソール−2−オン)、炭酸メチルビニレン(4−メチル−1,3−ジオキソール−2−オン)、炭酸エチルビニレン(4−エチル−1,3−ジオキソール−2−オン)、4,5−ジメチル−1,3−ジオキソール−2−オン、4,5−ジエチル−1,3−ジオキソール−2−オン、4−フルオロ−1,3−ジオキソール−2−オン、あるいは4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソール−2−オンなどが挙げられ、中でも、炭酸ビニレンが好ましい。容易に入手可能であると共に、高い効果が得られるからである。
【0144】
式(6)に示した不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸ビニルエチレン系化合物である。炭酸ビニルエチレン系化合物としては、例えば、炭酸ビニルエチレン(4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン)、4−メチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−エチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−n−プロピル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、5−メチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは4,5−ジビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられ、中でも、炭酸ビニルエチレンが好ましい。容易に入手可能であると共に、高い効果が得られるからである。もちろん、R23〜R26としては、全てがビニル基でもよいし、全てがアリル基でもよいし、ビニル基とアリル基とが混在していてもよい。
【0145】
式(7)に示した不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸メチレンエチレン系化合物である。炭酸メチレンエチレン系化合物としては、4−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジメチル−5−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは4,4−ジエチル−5−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられる。この炭酸メチレンエチレン系化合物としては、1つのメチレン基を有するもの(式(7)に示した化合物)の他、2つのメチレン基を有するものであってもよい。
【0146】
なお、不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルとしては、式(5)〜式(7)に示したものの他、ベンゼン環を有する炭酸カテコール(カテコールカーボネート)などであってもよい。
【0147】
また、溶媒は、スルトン(環状スルホン酸エステル)を含んでいることが好ましい。電解質の化学的安定性がより向上するからである。スルトンとしては、例えば、プロパンスルトンあるいはプロペンスルトンなどが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。溶媒中におけるスルトンの含有量は、例えば、0.5重量%以上5重量%以下である。
【0148】
さらに、溶媒は、酸無水物を含んでいることが好ましい。電解液の化学的安定性がより向上するからである。酸無水物としては、例えば、無水コハク酸、無水グルタル酸あるいは無水マレイン酸などのカルボン酸無水物や、無水エタンジスルホン酸あるいは無水プロパンジスルホン酸などのジスルホン酸無水物や、無水スルホ安息香酸、無水スルホプロピオン酸あるいは無水スルホ酪酸などのカルボン酸とスルホン酸との無水物などが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種類が混合されてもよい。溶媒中における酸無水物の含有量は、例えば、0.5重量%以上5重量%以下である。
【0149】
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種類あるいは2種類以上を含有している。以下で説明する一連の電解質塩は、任意に組み合わせてもよい。
【0150】
リチウム塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム、六フッ化ヒ酸リチウム、テトラフェニルホウ酸リチウム(LiB(C6 H5 )4 )、メタンスルホン酸リチウム(LiCH3 SO3 )、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3 SO3 )、テトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl4 )、六フッ化ケイ酸二リチウム(Li2 SiF6 )、塩化リチウム(LiCl)、あるいは臭化リチウム(LiBr)などが挙げられる。
【0151】
中でも、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムおよび六フッ化ヒ酸リチウムのうちの少なくとも1種が好ましく、六フッ化リン酸リチウムがより好ましい。内部抵抗が低下するため、より高い効果が得られるからである。
【0152】
特に、電解質塩は、式(8)〜式(10)で表される化合物のうちの少なくとも1種を含んでいることが好ましい。より高い効果が得られるからである。なお、式(8)のR31およびR33は、同一でもよいし、異なってもよい。このことは、式(9)中のR41〜R43および式(10)中のR51およびR52についても同様である。
【0153】
【化14】
(X31は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素、またはアルミニウムである。M31は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。R31はハロゲン基である。Y31は−(O=)C−R32−C(=O)−、−(O=)C−C(R33)2 −あるいは−(O=)C−C(=O)−である。ただし、R32はアルキレン基、ハロゲン化アルキレン基、アリーレン基あるいはハロゲン化アリーレン基である。R33はアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基あるいはハロゲン化アリール基である。なお、a3は1〜4の整数であり、b3は0、2あるいは4であり、c3、d3、m3およびn3は1〜3の整数である。)
【0154】
【化15】
(X41は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素である。M41は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。Y41は−(O=)C−(C(R41)2 )b4−C(=O)−、−(R43)2 C−(C(R42)2 )c4−C(=O)−、−(R43)2 C−(C(R42)2 )c4−C(R43)2 −、−(R43)2 C−(C(R42)2 )c4−S(=O)2 −、−(O=)2 S−(C(R42)2 )d4−S(=O)2 −あるいは−(O=)C−(C(R42)2 )d4−S(=O)2 −である。ただし、R41およびR43は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それぞれのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R42は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a4、e4およびn4は1あるいは2であり、b4およびd4は1〜4の整数であり、c4は0〜4の整数であり、f4およびm4は1〜3の整数である。)
【0155】
【化16】
(X51は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素である。M51は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。Rfはフッ素化アルキル基あるいはフッ素化アリール基であり、いずれの炭素数も1〜10である。Y51は−(O=)C−(C(R51)2 )d5−C(=O)−、−(R52)2 C−(C(R51)2 )d5−C(=O)−、−(R52)2 C−(C(R51)2 )d5−C(R52)2 −、−(R52)2 C−(C(R51)2 )d5−S(=O)2 −、−(O=)2 S−(C(R51)2 )e5−S(=O)2 −あるいは−(O=)C−(C(R51)2 )e5−S(=O)2 −である。ただし、R51は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R52は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、そのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a5、f5およびn5は1あるいは2であり、b5、c5およびe5は1〜4の整数であり、d5は0〜4の整数であり、g5およびm5は1〜3の整数である。)
【0156】
なお、1族元素とは、水素、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびフランシウムである。2族元素とは、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよびラジウムである。13族元素とは、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウムおよびタリウムである。14族元素とは、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、スズおよび鉛である。15族元素とは、窒素、リン、ヒ素、アンチモンおよびビスマスである。
【0157】
式(8)に示した化合物としては、例えば、式(8−1)〜式(8−6)で表される化合物などが挙げられる。式(9)に示した化合物としては、例えば、式(9−1)〜(9−8)で表される化合物などが挙げられる。式(10)に示した化合物としては、例えば、式(10−1)で表される化合物などが挙げられる。なお、式(8)〜式(10)に示した構造を有する化合物であれば、上記した化合物に限定されないことは言うまでもない。
【0158】
【化17】
【0159】
【化18】
【0160】
【化19】
【0161】
また、電解質塩は、式(11)〜式(13)で表される化合物のうちの少なくとも1種を含んでいることが好ましい。より高い効果が得られるからである。なお、式(11)中のmおよびnは、同一でもよいし、異なってもよい。このことは、式(13)中のp、qおよびrについても同様である。
【0162】
【化20】
(mおよびnは1以上の整数である。)
【0163】
【化21】
(R61は炭素数が2以上4以下の直鎖状あるいは分岐状のパーフルオロアルキレン基である。)
【0164】
【化22】
(p、qおよびrは1以上の整数である。)
【0165】
式(11)に示した鎖状の化合物としては、例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )2 )、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(C2 F5 SO2 )2 )、(トリフルオロメタンスルホニル)(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C2 F5 SO2 ))、(トリフルオロメタンスルホニル)(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C3 F7 SO2 ))、あるいは(トリフルオロメタンスルホニル)(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C4 F9 SO2 ))などが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
【0166】
式(12)に示した環状の化合物としては、例えば、式(12−1)〜式(12−4)で表される一連の化合物が挙げられる。すなわち、1,2−パーフルオロエタンジスルホニルイミドリチウム、1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミドリチウム、1,3−パーフルオロブタンジスルホニルイミドリチウム、あるいは1,4−パーフルオロブタンジスルホニルイミドリチウムなどである。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
【0167】
【化23】
【0168】
式(13)に示した鎖状の化合物としては、例えば、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド(LiC(CF3 SO2 )3 )などが挙げられる。
【0169】
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.3mol/kg以上3.0mol/kg以下であることが好ましい。この範囲外では、イオン伝導性が極端に低下する可能性があるからである。
【0170】
この二次電池では、充電時において、例えば、正極21からリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された電解液を介して負極22に吸蔵される。一方、放電時において、例えば、負極22からリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された電解液を介して正極21に吸蔵される。
【0171】
この二次電池は、例えば、以下の手順により製造される。
【0172】
まず、正極21を作製する。最初に、正極活物質と、正極結着剤と、正極導電剤とを混合して正極合剤としたのち、有機溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとする。続いて、ドクタブレードあるいはバーコータなどを用いて正極集電体21Aの両面に正極合剤スラリーを均一に塗布したのち、有機溶剤を揮発させて乾燥させることにより、正極活物質層21Bを形成する。最後に、必要に応じて加熱しながら、ロールプレス機などを用いて正極活物質層21Bを圧縮成型する。この場合には、圧縮成型を複数回に渡って繰り返してもよい。
【0173】
次に、負極22を作製する。最初に、電解銅箔などからなる負極集電体22Aを準備したのち、蒸着法などの気相法を用いて負極集電体22Aの両面に負極材料を堆積させることにより、複数の負極活物質粒子を形成する。続いて、必要に応じて、液相析出法などの液相法を用いて酸化物含有膜を形成し、あるいは電解鍍金法などの液相法を用いて金属材料を形成し、または双方を形成することにより、負極活物質層22Bを形成する。最後に、フッ素樹脂を含む溶液中に、負極活物質層22Bが形成された負極集電体22Aを浸漬させたのち、引き上げて乾燥させることにより、そのフッ素樹脂を含む負極被膜22Cを負極活物質層22B上に形成する。この負極被膜22Cを形成する場合には、上記した溶液を負極活物質層22Bの表面に塗布して乾燥させるようにしてもよい。
【0174】
二次電池の組み立ては、以下のようにして行う。最初に、正極21に正極リード25を溶接などして取り付けると共に、負極22に負極リード26を溶接などして取り付ける。続いて、セパレータ23を介して正極21と負極22とを積層および巻回させて巻回電極体20を作製する。続いて、巻回電極体20の巻回中心にセンターピン24を挿入する。続いて、一対の絶縁板12,13で挟みながら巻回電極体20を電池缶11の内部に収納すると共に、正極リード25の先端部を安全弁機構25に溶接し、負極リード26の先端部を電池缶11に溶接する。続いて、電池缶11の内部に電解質を注入してセパレータ23に含浸させる。最後に、電池缶11の開口端部に、ガスケット37を介して電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子16をかしめることにより固定する。これにより、図1〜図6に示した二次電池が完成する。
【0175】
この第1の二次電池およびその製造方法によれば、負極活物質層22B上に、式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含む負極被膜22Cが設けられているので、その負極22の化学的安定性が向上する。これにより、充放電時に、負極22においてリチウムイオンが吸蔵および放出されやすくなると共に、電解質の分解反応が抑制される。したがって、サイクル特性を向上させることができる。
【0176】
この場合には、上記したフッ素樹脂を含む溶液を用いて負極被膜22Cを形成し、具体的には浸積処理あるいは塗布処理などの簡単な処理を用いれば、減圧環境などの特殊な環境条件を要する方法を用いる場合と比較して、良好な負極被膜22Cを安定かつ簡単に作製することができる。
【0177】
特に、負極22が負極活物質として高容量材料を含む場合においてサイクル特性が向上するため、負極活物質として炭素材料などを含む場合よりも高い効果を得ることができる。
【0178】
また、電解質の溶媒が、式(3)に示したハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステルおよび式(4)に示したハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種や、式(5)〜式(7)に示した不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種や、スルトンや、酸無水物を含んでいれば、より高い効果を得ることができる。
【0179】
また、電解質の電解質塩が、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムおよび六フッ化ヒ酸リチウムのうちの少なくとも1種や、式(8)〜式(10)に示した化合物のうちの少なくとも1種や、式(11)〜式(13)に示した化合物のうちの少なくも1種を含んでいれば、より高い効果を得ることができる。
【0180】
なお、上記では、二次電池の電池構造が円筒型である場合について説明したが、必ずしもこれに限られず、その電池構造は円筒型以外であってもよい。
【0181】
図7は他の第1の二次電池の分解斜視構成を表しており、図8は図7に示した巻回電極体30のVIII−VIII線に沿った断面を拡大して表し、図9は図8に示した巻回電極体30の一部を拡大して表している。
【0182】
この二次電池は、例えば、上記した第1の二次電池と同様にリチウムイオン二次電池であり、主に、フィルム状の外装部材40の内部に、正極リード31および負極リード32が取り付けられた巻回電極体30が収納されたものである。このフィルム状の外装部材40を用いた電池構造は、ラミネートフィルム型と呼ばれている。
【0183】
正極リード31および負極リード32は、例えば、外装部材40の内部から外部に向かって同一方向に導出されている。正極リード31は、例えば、アルミニウムなどの金属材料により構成されており、負極リード32は、例えば、銅、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料により構成されている。これらの金属材料は、例えば、薄板状あるいは網目状になっている。
【0184】
外装部材40は、例えば、ナイロンフィルム、アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムがこの順に貼り合わされたアルミラミネートフィルムにより構成されている。この外装部材40は、例えば、ポリエチレンフィルムが巻回電極体30と対向するように、2枚の矩形型のアルミラミネートフィルムの外縁部同士が融着あるいは接着剤により互いに接着された構造を有している。
【0185】
外装部材40と正極リード31および負極リード32との間には、外気の侵入を防止するために密着フィルム41が挿入されている。この密着フィルム41は、正極リード31および負極リード32に対して密着性を有する材料により構成されている。このような材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂が挙げられる。
【0186】
なお、外装部材40は、上記したアルミラミネートフィルムに代えて、他の積層構造を有するラミネートフィルムにより構成されていてもよいし、ポリプロピレンなどの高分子フィルムあるいは金属フィルムにより構成されていてもよい。
【0187】
巻回電極体30は、セパレータ35および電解質層36を介して正極33と負極34とが積層および巻回されたものであり、その最外周部は、例えば、保護テープ37により保護されている。
【0188】
正極33は、例えば、一対の面を有する正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bが設けられたものである。負極34は、例えば、一対の面を有する負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bおよび負極被膜34Cがこの順に設けられたものである。正極集電体33A、正極活物質層33B、負極集電体34A、負極活物質層34B、負極被膜34Cおよびセパレータ35の構成は、それぞれ上記した第1の二次電池における正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22A、負極活物質層22B、負極被膜22Cおよびセパレータ23の構成と同様である。
【0189】
電解質層36は、電解液と、それを保持する高分子化合物とを含んでおり、いわゆるゲル状の電解質である。ゲル状の電解質は、高いイオン伝導率(例えば、室温で1mS/cm以上)が得られると共に漏液が防止されるので好ましい。
【0190】
高分子化合物としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンとポリヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレン、あるいはポリカーボネートなどが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。中でも、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレンあるいはポリエチレンオキサイドが好ましい。電気化学的に安定だからである。
【0191】
電解液の組成は、上記した第1の二次電池における電解液の組成と同様である。ただし、この場合の溶媒とは、液状の溶媒だけでなく、電解質塩を解離させることが可能なイオン伝導性を有するものまで含む広い概念である。したがって、イオン伝導性を有する高分子化合物を用いる場合には、その高分子化合物も溶媒に含まれる。
【0192】
なお、電解液を高分子化合物に保持させたゲル状の電解質層36に代えて、電解液をそのまま用いてもよい。この場合には、電解液がセパレータ35に含浸される。
【0193】
ゲル状の電解質層36を備えた二次電池は、例えば、以下の3種類の方法により製造される。
【0194】
第1の製造方法では、最初に、例えば、上記した第1の二次電池における正極21および負極22と同様の手順により、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bを形成して正極33を作製すると共に、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bおよび負極被膜34Cをこの順に形成して負極34を作製する。続いて、電解液と、高分子化合物と、溶剤とを含む前駆溶液を調製し、正極33および負極34に塗布したのち、溶剤を揮発させることにより、ゲル状の電解質層36を形成する。続いて、正極集電体33Aに正極リード31を溶接などして取り付けると共に、負極集電体34Aに負極リード32を溶接などして取り付ける。続いて、電解質層36が形成された正極33と負極34とをセパレータ35を介して積層させてから長手方向に巻回し、その最外周部に保護テープ37を接着させることにより、巻回電極体30を作製する。最後に、例えば、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回電極体30を挟み込んだのち、その外装部材40の外縁部同士を熱融着などで接着させることにより、巻回電極体30を封入する。この際、正極リード31および負極リード32と外装部材40との間に、密着フィルム41を挿入する。これにより、図7〜図9に示したラミネートフィルム型の二次電池が完成する。
【0195】
第2の製造方法では、最初に、正極33に正極リード31を取り付けると共に負極34に負極リード32を取り付けたのち、セパレータ35を介して正極33と負極34とを積層および巻回させると共に、その最外周部に保護テープ37を接着させることにより、巻回電極体30の前駆体である巻回体を作製する。続いて、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部を熱融着などで接着させることにより、袋状の外装部材40の内部に巻回体を収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を調製し、袋状の外装部材40の内部に注入したのち、外装部材40の開口部を熱融着などで密封する。最後に、モノマーを熱重合させて高分子化合物とすることにより、ゲル状の電解質層36を形成する。これにより、二次電池が完成する。
【0196】
第3の製造方法では、最初に、高分子化合物が両面に塗布されたセパレータ35を用いることを除き、上記した第2の製造方法と同様に、巻回体を形成して袋状の外装部材40の内部に収納する。このセパレータ35に塗布する高分子化合物としては、例えば、フッ化ビニリデンを成分とする重合体、すなわち単独重合体、共重合体あるいは多元共重合体などが挙げられる。具体的には、ポリフッ化ビニリデンや、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンを成分とする二元系共重合体や、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびクロロトリフルオロエチレンを成分とする三元系共重合体などである。なお、高分子化合物は、上記したフッ化ビニリデンを成分とする重合体と共に、他の1種あるいは2種以上の高分子化合物を含んでいてもよい。続いて、電解液を調製して外装部材40の内部に注入したのち、その外装部材40の開口部を熱融着などで密封する。最後に、外装部材40に加重をかけながら加熱し、高分子化合物を介してセパレータ35を正極33および負極34に密着させる。これにより、電解液が高分子化合物に含浸し、その高分子化合物がゲル化することにより電解質層36が形成されるため、二次電池が完成する。
【0197】
この第3の製造方法では、第1の製造方法と比較して、二次電池の膨れが抑制される。また、第3の製造方法では、第2の製造方法と比較して、高分子化合物の原料であるモノマーや重合開始剤などが電解質層36中にほとんど残らず、しかも高分子化合物の形成工程が良好に制御されるため、正極33、負極34およびセパレータ35と電解質層36との間において十分な密着性が得られる。
【0198】
この他の第1の二次電池およびその製造方法によれば、負極活物質層34B上に、式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含む負極被膜34Cが設けられているので、上記した第1の二次電池と同様の作用により、サイクル特性を向上させることができる。この二次電池およびその製造方法に関する他の効果は、上記した第1の二次電池およびその製造方法について説明した場合と同様である。
【0199】
(第2の二次電池)
図10は第2の二次電池の構成を表しており、図2に対応する断面構成を示している。この第2の二次電池は、例えば、負極22に代えて正極21が式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含んでいることを除き、上記した第1の二次電池と同様の構成を有している。
【0200】
正極21は、例えば、正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bおよび正極被膜21Cがこの順に設けられたものである。ただし、正極被膜21Cは、正極集電体21Aの片面側だけに設けられていてもよい。
【0201】
この正極被膜21Cの構成は、上記した第1の二次電池における負極被膜22Cの構成と同様である。すなわち、正極被膜21Cは、正極集電体21A上に正極活物質層21Bが形成されたのち、その正極活物質層21B上に形成されたものであり、式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含んでいる。正極21の化学的安定性が向上するからである。これにより、充放電時に、正極21においてリチウムイオンが効率よく吸蔵および放出されると共に、電解質の分解反応が抑制される。
【0202】
負極22は、例えば、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bが設けられたものである。
【0203】
この二次電池は、正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bおよび正極被膜21Cをこの順に形成して正極21を作製すると共に、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bを形成して負極22を作製することを除き、上記した第1の二次電池と同様の手順により製造される。
【0204】
この第2の二次電池およびその製造方法によれば、正極活物質層21B上に、式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含む正極被膜21Cが設けられているので、その正極21の化学的安定性が向上する。したがって、サイクル特性を向上させることができる。この二次電池およびその製造方法に関する他の効果は、上記した第1の二次電池およびその製造方法について説明した場合と同様である。
【0205】
なお、上記では、二次電池の電池構造が円筒型である場合について説明したが、必ずしもこれに限られず、その電池構造は円筒型以外であってもよい。
【0206】
図11は他の第2の二次電池の構成を表しており、図9に対応する断面構成を示している。この二次電池は、例えば、負極34に代えて正極33が式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含んでいることを除き、上記した他の第1の二次電池と同様の構成を有している。
【0207】
正極33は、上記した第2の二次電池における正極21と同様の構成を有しており、例えば、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bおよび正極被膜33Cがこの順に設けられたものである。負極22は、上記した第2の二次電池における負極22と同様の構成を有しており、例えば、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bが設けられたものである。
【0208】
この二次電池は、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bおよび正極被膜33Cをこの順に形成して正極33を作製すると共に、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bを形成して負極34を作製することを除き、上記した他の第1の二次電池と同様の手順により製造される。
【0209】
この他の第2の二次電池およびその製造方法によれば、正極活物質層33B上に、式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含む正極被膜33Cが設けられているので、上記した第2の二次電池と同様の作用により、サイクル特性を向上させることができる。この二次電池およびその製造方法に関する他の効果は、上記した第2の二次電池およびその製造方法について説明した場合と同様である。
【0210】
(第3の二次電池)
図12は第3の二次電池の構成を表しており、図2に対応する断面構成を示している。この第3の二次電池は、例えば、負極22に代えて電解質が式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含んでいることを除き、上記した第1の二次電池と同様の構成を有している。
【0211】
正極21は、例えば、正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bが設けられたものである。負極22は、例えば、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bが設けられたものである。
【0212】
電解質は、溶媒および電解質塩と共に、式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含んでおり、そのフッ素樹脂は、溶媒中に溶解あるいは分散されている。
【0213】
この二次電池は、正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bを形成して正極21を作製し、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bを形成して負極22を作製すると共に、上記したフッ素樹脂が分散された溶媒に電解質塩を溶解させて電解質を調製することを除き、上記した第1の二次電池と同様の手順により製造される。
【0214】
この第3の二次電池およびその製造方法によれば、電解質が式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含んでいるので、その電解質の化学的安定性が向上する。これにより、充放電時において、電解質の分解反応が抑制される。したがってサイクル特性を向上させることができる。この二次電池およびその製造方法に関する他の効果は、上記した第1の二次電池およびその製造方法について説明した場合と同様である。
【0215】
なお、上記では、二次電池の電池構造が円筒型である場合について説明したが、必ずしもこれに限られず、その電池構造は円筒型以外であってもよい。
【0216】
図13は他の第3の二次電池の構成を表しており、図9に対応する断面構成を示している。この二次電池は、例えば、負極34に代えて電解質(電解質層36)が式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含んでいることを除き、上記した他の第1の二次電池と同様の構成を有している。
【0217】
正極33は、上記した第3の二次電池における正極21と同様の構成を有しており、例えば、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bが設けられたものである。負極34は、上記した第3の二次電池における負極22と同様の構成を有しており、例えば、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bが設けられたものである。
【0218】
電解質は、上記した第3の二次電池における電解質と同様の組成を有しており、例えば、溶媒、電解質塩および高分子化合物と共に、式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含んでいる。
【0219】
この二次電池は、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bを形成して正極33を作製し、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bを形成して負極34を作製すると共に、フッ素樹脂が分散された溶媒に電解質塩を溶解させて電解液を調製することを除き、上記した他の第1の二次電池と同様の手順により製造される。
【0220】
この他の第3の二次電池およびその製造方法によれば、電解質が式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含んでいるので、上記した第3の二次電池と同様の作用により、サイクル特性を向上させることができる。この二次電池およびその製造方法に関する他の効果は、上記した第3の二次電池およびその製造方法について説明した場合と同様である。
【0221】
なお、上記した第1〜第3の二次電池では、正極21、負極22あるいは電解質のいずれかがフッ素樹脂を含むようにしたが、必ずしもこれに限られず、そのフッ素樹脂を含む正極21、負極22あるいは電解質を2種類以上組み合わせてもよい。このことは、上記した他の第1〜第3の二次電池についても同様である。
【0222】
また、上記した第1〜第3の二次電池では、正極21、負極22および電解質のうちの少なくとも1種がフッ素樹脂を含むようにしたが、必ずしもこれに限られず、それら以外の他の構成要素がフッ素樹脂を含むようにしてもよい。このような他の構成要素としては、例えば、セパレータ23などが挙げられる。セパレータ23がフッ素樹脂を含む場合には、例えば、正極21および負極22がフッ素樹脂を含む場合と同様に、フッ素樹脂が被膜としてセパレータ23中に導入される。具体的には、例えば、セパレータ23の両面に、フッ素樹脂を含む被膜が設けられる。このことは、上記した他の第1〜第3の二次電池についても同様である。
【実施例】
【0223】
本発明の実施例について詳細に説明する。
【0224】
(実験例1−1〜1−3)
以下の手順により、図7および図8に示したラミネートフィルム型の二次電池を製造した。この場合には、負極34の容量がリチウムイオンの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池となるようにした。
【0225】
まず、正極33を作製した。最初に、炭酸リチウム(Li2 CO3 )と炭酸コバルト(CoCO3 )とを0.5:1のモル比で混合したのち、空気中において900℃×5時間の条件で焼成してリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2 )を得た。続いて、正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物91質量部と、正極導電剤としてグラファイト6質量部と、正極結着剤としてポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合して正極合剤としたのち、N−メチル−2−ピロリドンに分散させてペースト状の正極合剤スラリーとした。最後に、バーコータを用いて、帯状のアルミニウム箔(厚さ=12μm)からなる正極集電体33Aの両面に正極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機を用いて圧縮成型することにより、正極活物質層33Bを形成した。
【0226】
次に、負極34を作製した。最初に、偏向式電子ビーム蒸着源による電子ビーム蒸着法を用いて、電解銅箔からなる負極集電体34A(厚さ=18μm,表面の十点平均粗さRz=3.5μm)の両面に負極活物質としてケイ素を堆積させることにより、複数の粒子状の負極活物質を含む負極活物質層34Bを形成した。この場合には、蒸着源として純度99%のケイ素を用いると共に、堆積速度を10nm/秒、負極活物質の層数を1層(厚さ=7.5μm)とした。また、チャンバ内に連続的に酸素ガスおよび必要に応じて水蒸気を導入することにより、負極活物質中における酸素含有量を3原子数%とした。最後に、フッ素樹脂が水に分散された3重量%の水溶液中に、負極活物質層34Bが形成された負極集電体34Aを30秒間浸漬させたのち、引き上げて乾燥させることにより、そのフッ素樹脂を含む負極被膜34Cを負極活物質層34B上に形成した。この場合には、フッ素樹脂として、式(1−1)に示した化合物(数平均分子量=2000あるいは1500)、あるいは式(2−1)に示した化合物を用いた。
【0227】
フッ素樹脂として用いた各化合物の合成手順は、以下の通りである。
【0228】
式(1−1)に示した化合物(数平均分子量=2000)を合成する場合には、最初に、ソルベイ ソレクシス株式会社製のパーフルオロポリエーテル(FLUOROLINK C)20gに水100cm3 を加えたのち、攪拌しながら炭酸リチウム0.74gを少量ずつ加えた。この際、初期はパーフルオロポリエーテルが水に溶解せずに不均一な溶液であったが、時間の経過にしたがってパーフルオロポリエーテルが水に溶解して均一な溶液(水溶液)となった。続いて、水溶液を一晩攪拌したのち、濾過して不溶物を取り除いた。最後に、濾液を濃縮することにより、パーフルオロポリエーテルの両末端にカルボン酸リチウム塩基が導入された化合物17gを得た。
【0229】
式(1−1)に示した化合物(数平均分子量=1500)を合成する場合には、最初に、ソルベイ ソレクシス株式会社製のパーフルオロポリエーテル(FLUOROLINK C10)30gに水100mlを加えたのち、攪拌しながら炭酸リチウム1.5gを少量ずつ加えた。この際、上記したFLUOROLINK Cを用いた場合と同様に、時間の経過にしたがって均一な溶液(水溶液)になった。続いて、水溶液を一晩攪拌したのち、濾過して不溶物を取り除いた。最後に、濾液を濃縮することにより、パーフルオロポリエーテルの両末端にカルボン酸リチウム塩基が導入された化合物24gを得た。
【0230】
式(2−1)に示した化合物を合成する場合には、最初に、2,5−ビス(トリフルオロメチル)−3,6−ジオキサウンデカフルオロノナノイルフロリド9.7gに水100mlを加えたのち、攪拌しながら炭酸リチウム0.72gを少量ずつ加えた。続いて、水溶液を一晩攪拌したのち、濾過して不溶物を取り除いた。最後に、濾液を濃縮することにより、パーフルオロポリエーテルの一末端にカルボン酸リチウム塩基が導入された化合物7.2gを得た。
【0231】
次に、溶媒として炭酸エチレン(EC)と炭酸ジエチル(DEC)とを混合したのち、電解質塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )を溶解させることにより、液状の電解質である電解液を調製した。この場合には、溶媒の組成(EC:DEC)を重量比で50:50とし、電解質塩の含有量を溶媒に対して1mol/kgとした。
【0232】
次に、正極33および負極34と共に電解液を用いることにより、二次電池を組み立てた。最初に、正極集電体33Aの一端にアルミニウム製の正極リード31を溶接すると共に、負極集電体34Aの一端にニッケル製の負極リード32を溶接した。続いて、正極33と、セパレータ35(厚さ=23μm)と、負極34と、セパレータ35とをこの順に積層してから長手方向に巻回させたのち、粘着テープからなる保護テープ37を用いて巻き終わり部分を固定することにより、巻回電極体50の前駆体である巻回体を形成した。この場合には、セパレータ35として、多孔性ポリプロピレンを主成分とするフィルムにより多孔性ポリエチレンを主成分とするフィルムが挟まれた3層構造品を用いた。続いて、外装部材40の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺を除く外縁部同士を熱融着することにより、袋状の外装部材40の内部に巻回体を収納した。この場合には、外装部材40として、外側から、ナイロンフィルム(厚さ=30μm)と、アルミニウム箔(厚さ=40μm)と、無延伸ポリプロピレンフィルム(厚さ=30μm)とが積層された3層構造のラミネートフィルム(総厚=100μm)を用いた。続いて、外装部材40の開口部から電解液を注入してセパレータ35に含浸させることにより、巻回電極体30を作製した。最後に、真空雰囲気中において外装部材40の開口部を熱融着して封止することにより、ラミネートフィルム型の二次電池が完成した。
【0233】
(実験例1−4)
フッ素樹脂の含有場所を正極33に変更したことを除き、実験例1−1と同様の手順を経た。正極33を作製する場合には、正極集電体33A上に正極活物質層34Bを形成したのち、負極被膜34Cと同様の形成手順により、正極活物質層34B上に正極被膜34Cを形成した。
【0234】
(実験例1−5,1−6)
フッ素樹脂の含有場所を電解液に変更したことを除き、実験例1−1,1−3と同様の手順を経た。電解液を調製する場合には、溶媒に電解質塩を溶解させる前に、その溶媒中にフッ素樹脂を分散させた。この場合には、電解液中におけるフッ素樹脂の含有量を1重量%とした。
【0235】
(実験例1−7)
フッ素樹脂の含有場所を正極33および負極34に変更したことを除き、実験例1−1,1−4と同様の手順を経た。
【0236】
(実験例1−8)
フッ素樹脂を用いず、すなわち負極34、正極33あるいは電解液のどこにもフッ素樹脂を含有させなかったことを除き、実験例1−1〜1−3と同様の手順を経た。
【0237】
これらの実験例1−1〜1−8の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表1に示した結果が得られた。
【0238】
サイクル特性を調べる際には、最初に、電池状態を安定化させるために、23℃の雰囲気中において1サイクル充放電させた。続いて、同雰囲気中において1サイクル充放電させることにより、2サイクル目の放電容量を測定した。続いて、同雰囲気中において99サイクル充放電させることにより、101サイクル目の放電容量を測定した。最後に、放電容量維持率(%)=(101サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100を算出した。この際、充電条件としては、3mA/cm2 の定電流密度で電池電圧が4.2Vに到達するまで充電したのち、さらに4.2Vの定電圧で電流密度が0.3mA/cm2 に到達するまで充電した。また、放電条件としては、3mA/cm2 の定電流密度で電池電圧が2.5Vに到達するまで放電した。なお、上記したサイクル特性を調べる際の手順および条件は、以降の一連の実験例についても同様である。
【0239】
【表1】
【0240】
表1に示したように、負極活物質としてケイ素を用いると共に気相法(電子ビーム蒸着法)を用いて負極活物質層(負極活物質の層数=1層)を形成した場合には、正極33、負極34あるいは電解液がフッ素樹脂を含む実験例1−1〜1−7において、それを含まない実験例1−8よりも放電容量維持率が高くなった。
【0241】
この場合には、フッ素樹脂の含有場所に着目すると、その含有場所が電解質、正極33および負極34である順に放電容量維持率が高くなった。また、フッ素樹脂の含有場所の数に着目すると、その含有場所の数が1つである場合よりも複数である場合において放電容量維持率が高くなった。
【0242】
これらのことから、本発明の二次電池では、正極33、負極34あるいは電解質が式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含むことにより、サイクル特性が向上することが確認された。この場合には、フッ素樹脂の含有場所は電解質、正極33および負極34の順に好ましいと共に、フッ素樹脂の含有場所の数は1つよりも複数であることが好ましいことも確認された。
【0243】
(実験例2−1〜2−5)
負極活物質の層数を6層に変更したことを除き、実験例1−1〜1−3,1−5,1−8と同様の手順を経た。負極活物質層34Bを形成する場合には、蒸着源に対して負極集電体34Aを100nm/秒の堆積速度で往復移動させながらケイ素を順次堆積させることにより、そのケイ素を積層させた。
【0244】
これらの実験例2−1〜2−5の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表2に示した結果が得られた。
【0245】
【表2】
【0246】
表2に示したように、負極活物質としてケイ素を用いると共に気相法(電子ビーム蒸着法)を用いて負極活物質層34B(負極活物質の層数=6層)を形成した場合においても、表1と同様の結果が得られた。すなわち、負極34あるいは電解液がフッ素樹脂を含む実験例2−1〜2−4では、それを含まない実験例2−5よりも放電容量維持率が高くなった。
【0247】
このことから、本発明の二次電池では、負極活物質の層数を変更した場合においても、サイクル特性が向上することが確認された。
【0248】
(実験例3−1〜3−5)
負極活物質層34Bの形成方法を焼結法に変更したことを除き、実験例1−1〜1−3,1−5,1−8と同様の手順を経た。負極活物質層34Bを形成する場合には、最初に、負極活物質としてケイ素粉末(メジアン径=6μm)90質量部と、負極結着剤としてポリフッ化ビニリデン10質量部とを混合して負極合剤としたのち、N−メチル−2−ピロリドンに分散させてペースト状の負極合剤スラリーとした。続いて、負極集電体34Aの両面に負極合剤スラリーを均一に塗布したのち、ロールプレス機を用いて圧縮成型した。最後に、真空雰囲気中において220℃×12時間の条件で加熱した。
【0249】
これらの実験例3−1〜3−5の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表3に示した結果が得られた。
【0250】
【表3】
【0251】
表3に示したように、負極活物質としてケイ素を用いると共に焼結法を用いて負極活物質層34Bを形成した場合においても、表1と同様の結果が得られた。すなわち、負極34あるいは電解液がフッ素樹脂を含む実験例3−1〜3−4では、それを含まない実験例3−5よりも放電容量維持率が高くなった。
【0252】
このことから、本発明の二次電池では、負極活物質層34Bの形成方法を変更した場合においても、サイクル特性が向上することが確認された。
【0253】
(実験例4−1〜4−5)
負極活物質をスズコバルト合金(SnCo)に変更すると共に、負極活物質層34Bの形成方法を塗布法に変更したことを除き、実験例1−1〜1−3,1−5,1−8と同様の手順を経た。負極活物質層34Bを形成する場合には、最初に、ガスアトマイズ法を用いて粉末状のスズコバルト合金(原子数比はSn:Co=80:20)を形成したのち、メジアン径が15μmになるまで粉砕分級した。続いて、負極活物質としてスズコバルト合金粉末75質量部と、負極導電剤として鱗片状黒鉛20質量部と、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース5質量部とを混合して負極合剤としたのち、純水に分散させてペースト状の負極合剤スラリーとした。最後に、負極集電体34Aの両面に負極合剤スラリーを均一に塗布したのち、ロールプレス機を用いて圧縮成型した。なお、FIB(focused ion beam)法を用いて完成後の負極34の断面を露出させたのち、オージェ電子分光法(Auger Electron Spectroscopy :AES)を用いて分析したところ、負極集電体34Aと負極活物質層34Bとが界面のうちの少なくとも一部において合金化していることが確認された。
【0254】
これらの実験例4−1〜4−5の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表4に示した結果が得られた。
【0255】
【表4】
【0256】
表4に示したように、負極活物質としてスズコバルト合金を用いると共に塗布法を用いて負極活物質層34Bを形成した場合においても、表1と同様の結果が得られた。すなわち、負極34あるいは電解液がフッ素樹脂を含む実験例4−1〜4−4では、それを含まない実験例4−5よりも放電容量維持率が高くなった。
【0257】
このことから、本発明の二次電池では、負極活物質の種類および負極活物質層34Bの形成方法を変更した場合においても、サイクル特性が向上することが確認された。
【0258】
(実験例5−1〜5−5)
負極活物質をMCMBに変更すると共に、負極活物質層34Bの形成方法を塗布法に変更したことを除き、実験例1−1〜1−3,1−5,1−8と同様の手順を経た。負極活物質層34Bを形成する場合には、最初に、負極活物質としてMCMB(メジアン径=25μm)87質量部と、負極導電剤として人造黒鉛3質量部と、負極結着剤としてポリフッ化ビニリデン10質量部とを混合して負極合剤としたのち、N−メチル−2−ピロリドンに分散させてペースト状の負極合剤スラリーとした。こののち、負極集電体34Aの両面に負極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させてから、ロールプレス機を用いて圧縮成型した。
【0259】
これらの実験例5−1〜5−5の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表5に示した結果が得られた。
【0260】
【表5】
【0261】
表5に示したように、負極活物質としてMCMBを用いると共に塗布法を用いて負極活物質層34Bを形成した場合においても、表1と同様の結果が得られた。すなわち、負極34あるいは電解液がフッ素樹脂を含む実験例5−1〜5−4では、それを含まない実験例5−5よりも放電容量維持率が高くなった。
【0262】
このことから、本発明の二次電池では、負極活物質の種類および負極活物質層34Bの形成方法を変更した場合においても、サイクル特性が向上することが確認された。
【0263】
(実験例6−1〜6−12)
電解液の組成を表6に示したように変更したことを除き、実験例2−1,2−5と同様の手順を経た。この際、溶媒としては、ECおよびDECの他に、炭酸プロピレン(PC)や、式(4)に示したハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステルである4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)あるいは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(DFEC)や、式(5)に示した不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルである炭酸ビニレン(VC)や、スルトンであるプロペンスルトン(PRS)や、酸無水物である無水スルホプロピオン酸(SPAH)を用いた。また、電解質塩としては、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )や、式(8)に示した化合物である式(8−1)あるいは式(8−6)に示した化合物や、式(12)に示した化合物である式(12−2)に示した化合物を用いた。なお、上記したLiBF4 等を電解質塩として加える場合には、LiPF6 の含有量を溶媒に対して0.9mol/kg、LiBF4 等の含有量を溶媒に対して0.1mol/kgとした。また、上記したPRSおよびSPAHを溶媒として加える場合には、それらの溶媒中における含有量を1重量%とした。
【0264】
これらの実験例6−1〜6−12の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表6に示した結果が得られた。
【0265】
【表6】
【0266】
表6に示したように、電解液の組成を変更した場合においても、表1と同様の結果が得られた。すなわち、負極34がフッ素樹脂を含む実験例6−1〜6−11では、それを含まない実験例6−12よりも放電容量維持率が高くなった。
【0267】
この場合には、溶媒としてFEC等を加え、あるいは電解質塩としてLiBF4 等を加えた場合において、それらを加えなかった場合よりも放電容量維持率が高くなった。
【0268】
これらのことから、本発明の二次電池では、電解質の組成、すなわち溶媒および電解質塩の種類を変更した場合においても、サイクル特性が向上することが確認された。この場合には、溶媒としてFEC等あるいは電解質塩としてLiBF4 等を加えれば、特性がより向上することも確認された。
【0269】
(実験例7−1〜7−4)
負極活物質層34Bを形成する場合に、複数の粒子状の負極活物質を形成したのち、表7に示したように、酸化物含有膜および金属材料をこの順に形成したことを除き、実施例2−1〜2−4と同様の手順を経た。酸化物含有膜を形成する場合には、液相析出法を用いて負極活物質の表面にケイ素の酸化物(SiO2 )を析出させた。この場合には、ケイフッ化水素酸にアニオン補足剤としてホウ素を溶解させた溶液中に、負極活物質が形成された負極集電体34Aを3時間浸積し、その負極活物質の表面にケイ素の酸化物を析出させたのち、水洗して減圧乾燥した。また、金属材料を形成する場合には、電解鍍金法を用いて、鍍金浴にエアーを供給しながらニッケル(Ni)の鍍金膜を成長させた。この場合には、鍍金液として日本高純度化学株式会社製のニッケル鍍金液を用いると共に、電流密度を2A/dm2 〜10A/dm2 、鍍金速度を10nm/秒とした。
【0270】
これらの実験例7−1〜7−4の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表7に示した結果が得られた。
【0271】
【表7】
【0272】
表7に示したように、酸化物含有膜および金属材料を形成した場合においても、表1と同様の結果が得られた。すなわち、負極34あるいは電解液がフッ素樹脂を含む実験例7−1〜7−4では、それを含まない実験例2−5よりも放電容量維持率が高くなった。
【0273】
この場合には、酸化物含有膜および金属材料の有無に着目すると、酸化物含有膜および金属材料を形成した場合において、それらを形成しなかった場合よりも放電容量維持率が高くなった。
【0274】
これらのことから、本発明の二次電池では、酸化物含有膜および金属材料を形成した場合においても、サイクル特性が向上することが確認された。この場合には、酸化物含有膜および金属材料を形成すれば、特性がより向上することも確認された。
【0275】
なお、上記した表1〜表7では、式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂として、式(1−1)等に示した化合物を用いた場合の結果だけを示しており、それ例外の他の化合物(例えば、式(1−2)に示した化合物など)を用いた場合の結果を示していない。しかしながら、式(1−2)に示した化合物等は、式(1−1)等に示した化合物と同様の機能を果たすことから、他の化合物を用いたり、一連の化合物を複数種類混合した場合においても、同様の結果が得られる。
【0276】
式(1)に示したラジカル捕捉化合物について上記したことは、式(3)に示したハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステル、式(4)に示したハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステル、式(5)〜式(7)に示した不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステル、あるいは式(8)〜式(13)に示した化合物についても、同様である。すなわち、上記した式(3)に示したハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステル等に該当する化合物を溶媒あるいは電解質塩として用いれば、その化合物が表1〜表7において実際に用いられていない化合物であったとしても、表1〜表7において実際に用いられている化合物を用いた場合と同様の結果が得られる。
【0277】
上記した表1〜表7の結果から明らかなように、本願発明の二次電池では、正極、負極および電解質のうちの少なくとも1つが式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含むことにより、負極活物質の種類や、負極活物質層の形成方法や、電解質の組成や、酸化物含有膜および金属材料の有無などに依存せずに、サイクル特性を向上させることができる。この場合には、特に、負極がフッ素樹脂を含むようにすれば、特性をより向上させることができる。
【0278】
しかも、負極活物質として、MCMBなどの炭素材料を用いた場合よりも、ケイ素やスズコバルト合金などの高容量材料を用いた場合において、放電容量維持率の増加率が大きくなったことから、後者の場合において、より高い効果を得ることができる。この結果は、負極活物質として高容量材料を用いると、炭素材料を用いる場合よりも電解質が分解しやすくなるため、電解質の分解抑制効果が際立って発揮されたものと考えられる。
【0279】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記した実施の形態および実施例において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、本発明の負極、正極あるいは電解質の使用用途は、必ずしも二次電池に限らず、二次電池以外の他の電気化学デバイスであっても良い。他の用途としては、例えば、キャパシタなどが挙げられる。
【0280】
また、上記した実施の形態および実施例では、二次電池の種類として、負極の容量がリチウムイオンの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。本発明の二次電池は、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極材料の充電容量を正極の充電容量よりも小さくすることにより、負極の容量がリチウムイオンの吸蔵および放出に伴う容量とリチウムの析出および溶解に伴う容量とを含み、かつ、それらの容量の和により表される二次電池についても同様に適用可能である。
【0281】
また、上記した実施の形態および実施例では、本発明の二次電池の電解質として、電解液や、電解液を高分子化合物に保持させたゲル状電解質を用いる場合について説明したが、他の種類の電解質を用いるようにしてもよい。他の電解質としては、例えば、イオン伝導性セラミックス、イオン伝導性ガラスあるいはイオン性結晶などのイオン伝導性無機化合物と電解液とを混合したものや、他の無機化合物と電解液とを混合したものや、これらの無機化合物とゲル状電解質とを混合したものや、電解質塩とイオン伝導性の高分子化合物とを混合した固体電解質などが挙げられる。
【0282】
また、上記した実施の形態および実施例では、電池構造が円筒型あるいはラミネートフィルム型である場合、ならびに電池素子が巻回構造を有する場合を例に挙げて説明したが、本発明の電池は、角型、コイン型あるいはボタン型などの他の電池構造を有する場合や、電池素子が積層構造などの他の構造を有する場合についても同様に適用可能である。
【0283】
また、上記した実施の形態および実施例では、電極反応物質としてリチウムを用いる場合について説明したが、ナトリウム(Na)あるいはカリウム(K)などの他の1A族元素や、マグネシウム(Mg)あるいはカルシウム(Ca)などの2A族元素や、アルミニウムなどの他の軽金属を用いてもよい。本発明の効果は、電極反応物質の種類に依存せずに得られるはずであるため、その電極反応物質の種類を変更しても、同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0284】
【図1】本発明の一実施の形態に係る二次電池(第1の二次電池)の構成を表す断面図である。
【図2】図1に示した巻回電極体の一部を拡大して表す断面図である。
【図3】図2に示した負極の構成を拡大して表す断面図である。
【図4】参考例の負極の構成を表す断面図である。
【図5】図2に示した負極の断面構造を表すSEM写真およびその模式図である。
【図6】図2に示した負極の他の断面構造を表すSEM写真およびその模式図である。
【図7】本発明の一実施の形態に係る二次電池(他の第1の二次電池)の構成を表す断面図である。
【図8】図7に示した巻回電極体のVIII−VIII線に沿った断面図である。
【図9】図8に示した巻回電極体の一部を拡大して表す断面図である。
【図10】本発明の一実施の形態に係る二次電池(第2の二次電池)の構成を表す断面図である。
【図11】本発明の一実施の形態に係る二次電池(他の第2の二次電池)の構成を表す断面図である。
【図12】本発明の一実施の形態に係る二次電池(第3の二次電池)の構成を表す断面図である。
【図13】本発明の一実施の形態に係る二次電池(他の第3の二次電池)の構成を表す断面図である。
【符号の説明】
【0285】
11…電池缶、12,13…絶縁板、14…電池蓋、15…安全弁機構、15A…ディスク板、16…熱感抵抗素子、17…ガスケット、20,30…巻回電極体、21,33…正極、21A,33A…正極集電体、21B,33B…正極活物質層、21C,33C…正極被膜、22,34…負極、22A,34A…負極集電体、22B,34B…負極活物質層、22C,34C…負極被膜、23,35…セパレータ、24…センターピン、25,31…正極リード、26,32…負極リード、36…電解質層、37…保護テープ、40…外装部材、41…密着フィルム、221…負極活物質粒子、222…酸化物含有膜、224(224A,224B)…隙間、225…空隙、226…金属材料。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な正極活物質を含む正極と、前記電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質を含む負極と、溶媒および電解質塩を含む電解質と、を備え、
前記正極、前記負極および前記電解質のうちの少なくとも1つは、式(1)および式(2)で表されるフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含む
二次電池。
【化1】
(X1およびX2のうちの少なくとも一方はカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基である。hおよびkは比率を表し、h+k=1である。)
【化2】
(X3はカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基である。)
【請求項2】
前記金属塩基は、アルカリ金属塩基あるいはアルカリ土類金属塩基である請求項1記載の二次電池。
【請求項3】
前記式(1)中のX1およびX2は、いずれもカルボン酸金属塩基であり、前記式(2)中のX3は、カルボン酸金属塩基である請求項1記載の二次電池。
【請求項4】
前記電極反応物質は、リチウムイオンであり、前記金属塩基は、リチウム塩基である請求項1記載の二次電池。
【請求項5】
前記式(1)に示したフッ素樹脂は、式(1−1)〜式(1−6)で表される化合物であり、前記式(2)に示したフッ素樹脂は、式(2−1)〜式(2−4)で表される化合物である請求項1記載の二次電池。
【化3】
【化4】
【請求項6】
前記式(1)に示したフッ素樹脂は、前記式(1−1)に示した化合物であり、前記式(2)に示したフッ素樹脂は、前記式(2−1)に示した化合物である請求項5記載の二次電池。
【請求項7】
前記負極は、負極集電体上に負極活物質層が形成されたのち、その負極活物質層上に形成された負極被膜を有し、前記負極被膜は、前記式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含む請求項1記載の二次電池。
【請求項8】
前記負極活物質は、複数の粒子状であり、前記負極活物質層は、前記負極活物質の表面を被覆する酸化物含有膜を含み、前記酸化物含有膜は、ケイ素(Si)の酸化物、ゲルマニウム(Ge)の酸化物、およびスズ(Sn)の酸化物のうちの少なくとも1種を含む請求項7記載の二次電池。
【請求項9】
前記負極活物質は、複数の粒子状であり、前記負極活物質層は、その内部の隙間に、前記電極反応物質と合金化しない金属材料を含み、前記金属材料は、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)および銅(Cu)のうちの少なくとも1種を含む請求項7記載の二次電池。
【請求項10】
前記負極活物質は、ケイ素およびスズのうちの少なくとも一方を構成元素として有する請求項1記載の二次電池。
【請求項11】
前記正極は、正極集電体上に正極活物質層が形成されたのち、その正極活物質層上に形成された正極被膜を有し、前記正極被膜は、前記式(1)およびは式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含む請求項1記載の二次電池。
【請求項12】
前記電解質は、前記式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含む請求項1記載の二次電池。
【請求項13】
前記溶媒は、式(3)で表されるハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステル、式(4)で表されるハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステル、式(5)〜式(7)で表される不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステル、スルトン、および酸無水物のうちの少なくとも1種を含む請求項1記載の二次電池。
【化5】
(R11〜R16は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
【化6】
(R17〜R20は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
【化7】
(R21およびR22は水素基あるいはアルキル基である。)
【化8】
(R23〜R26は水素基、アルキル基、ビニル基あるいはアリル基であり、それらのうちの少なくとも1つはビニル基あるいはアリル基である。)
【化9】
(R27はアルキレン基である。)
【請求項14】
前記電解質塩は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、過塩素酸リチウム(LiClO4 )、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6 )、式(8)〜式(10)で表される化合物、および式(11)〜式(13)で表される化合物のうちの少なくとも1種を含む請求項1記載の二次電池。
【化10】
(X31は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素、またはアルミニウム(Al)である。M31は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。R31はハロゲン基である。Y31は−(O=)C−R32−C(=O)−、−(O=)C−C(R33)2 −あるいは−(O=)C−C(=O)−である。ただし、R32はアルキレン基、ハロゲン化アルキレン基、アリーレン基あるいはハロゲン化アリーレン基である。R33はアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基あるいはハロゲン化アリール基である。なお、a3は1〜4の整数であり、b3は0、2あるいは4であり、c3、d3、m3およびn3は1〜3の整数である。)
【化11】
(X41は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素である。M41は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。Y41は−(O=)C−(C(R41)2 )b4−C(=O)−、−(R43)2 C−(C(R42)2 )c4−C(=O)−、−(R43)2 C−(C(R42)2 )c4−C(R43)2 −、−(R43)2 C−(C(R42)2 )c4−S(=O)2 −、−(O=)2 S−(C(R42)2 )d4−S(=O)2 −あるいは−(O=)C−(C(R42)2 )d4−S(=O)2 −である。ただし、R41およびR43は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それぞれのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R42は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a4、e4およびn4は1あるいは2であり、b4およびd4は1〜4の整数であり、c4は0〜4の整数であり、f4およびm4は1〜3の整数である。)
【化12】
(X51は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素である。M51は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。Rfはフッ素化アルキル基あるいはフッ素化アリール基であり、いずれの炭素数も1〜10である。Y51は−(O=)C−(C(R51)2 )d5−C(=O)−、−(R52)2 C−(C(R51)2 )d5−C(=O)−、−(R52)2 C−(C(R51)2 )d5−C(R52)2 −、−(R52)2 C−(C(R51)2 )d5−S(=O)2 −、−(O=)2 S−(C(R51)2 )e5−S(=O)2 −あるいは−(O=)C−(C(R51)2 )e5−S(=O)2 −である。ただし、R51は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R52は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、そのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a5、f5およびn5は1あるいは2であり、b5、c5およびe5は1〜4の整数であり、d5は0〜4の整数であり、g5およびm5は1〜3の整数である。)
【化13】
(mおよびnは1以上の整数である。)
【化14】
(R61は炭素数2以上4以下の直鎖状あるいは分岐状のパーフルオロアルキレン基である。)
【化15】
(p、qおよびrは1以上の整数である。)
【請求項15】
電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な正極活物質を含む正極、前記電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質を含む負極、ならびに溶媒および電解質塩を含む電解質、のうちの少なくとも1つに、式(1)および式(2)で表されるフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含有させる二次電池の製造方法。
【化16】
(X1およびX2のうちの少なくとも一方はカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基である。hおよびkは比率を表し、h+k=1である。)
【化17】
(X3はカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基である。)
【請求項16】
負極集電体上に負極活物質層が形成されたのち、その負極活物質層上に形成された負極被膜を有し、
前記負極活物質層は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質を含み、
前記負極被膜は、式(1)および式(2)で表されるフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含む
負極。
【化18】
(X1およびX2のうちの少なくとも一方はカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基である。hおよびkは比率を表し、h+k=1である。)
【化19】
(X3はカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基である。)
【請求項17】
正極集電体上に正極活物質層が形成されたのち、その正極活物質層上に形成された正極被膜を有し、
前記正極活物質層は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な正極活物質を含み、
前記正極被膜は、式(1)および式(2)で表されるフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含む
正極。
【化20】
(X1およびX2のうちの少なくとも一方はカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基である。hおよびkは比率を表し、h+k=1である。)
【化21】
(X3はカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基である。)
【請求項18】
溶媒と、電解質塩と、式(1)および式(2)で表されるフッ素樹脂のうちの少なくとも1種と、を含む電解質。
【化22】
(X1およびX2のうちの少なくとも一方はカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基である。hおよびkは比率を表し、h+k=1である。)
【化23】
(X3はカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基である。)
【請求項1】
電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な正極活物質を含む正極と、前記電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質を含む負極と、溶媒および電解質塩を含む電解質と、を備え、
前記正極、前記負極および前記電解質のうちの少なくとも1つは、式(1)および式(2)で表されるフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含む
二次電池。
【化1】
(X1およびX2のうちの少なくとも一方はカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基である。hおよびkは比率を表し、h+k=1である。)
【化2】
(X3はカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基である。)
【請求項2】
前記金属塩基は、アルカリ金属塩基あるいはアルカリ土類金属塩基である請求項1記載の二次電池。
【請求項3】
前記式(1)中のX1およびX2は、いずれもカルボン酸金属塩基であり、前記式(2)中のX3は、カルボン酸金属塩基である請求項1記載の二次電池。
【請求項4】
前記電極反応物質は、リチウムイオンであり、前記金属塩基は、リチウム塩基である請求項1記載の二次電池。
【請求項5】
前記式(1)に示したフッ素樹脂は、式(1−1)〜式(1−6)で表される化合物であり、前記式(2)に示したフッ素樹脂は、式(2−1)〜式(2−4)で表される化合物である請求項1記載の二次電池。
【化3】
【化4】
【請求項6】
前記式(1)に示したフッ素樹脂は、前記式(1−1)に示した化合物であり、前記式(2)に示したフッ素樹脂は、前記式(2−1)に示した化合物である請求項5記載の二次電池。
【請求項7】
前記負極は、負極集電体上に負極活物質層が形成されたのち、その負極活物質層上に形成された負極被膜を有し、前記負極被膜は、前記式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含む請求項1記載の二次電池。
【請求項8】
前記負極活物質は、複数の粒子状であり、前記負極活物質層は、前記負極活物質の表面を被覆する酸化物含有膜を含み、前記酸化物含有膜は、ケイ素(Si)の酸化物、ゲルマニウム(Ge)の酸化物、およびスズ(Sn)の酸化物のうちの少なくとも1種を含む請求項7記載の二次電池。
【請求項9】
前記負極活物質は、複数の粒子状であり、前記負極活物質層は、その内部の隙間に、前記電極反応物質と合金化しない金属材料を含み、前記金属材料は、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)および銅(Cu)のうちの少なくとも1種を含む請求項7記載の二次電池。
【請求項10】
前記負極活物質は、ケイ素およびスズのうちの少なくとも一方を構成元素として有する請求項1記載の二次電池。
【請求項11】
前記正極は、正極集電体上に正極活物質層が形成されたのち、その正極活物質層上に形成された正極被膜を有し、前記正極被膜は、前記式(1)およびは式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含む請求項1記載の二次電池。
【請求項12】
前記電解質は、前記式(1)および式(2)に示したフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含む請求項1記載の二次電池。
【請求項13】
前記溶媒は、式(3)で表されるハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステル、式(4)で表されるハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステル、式(5)〜式(7)で表される不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステル、スルトン、および酸無水物のうちの少なくとも1種を含む請求項1記載の二次電池。
【化5】
(R11〜R16は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
【化6】
(R17〜R20は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
【化7】
(R21およびR22は水素基あるいはアルキル基である。)
【化8】
(R23〜R26は水素基、アルキル基、ビニル基あるいはアリル基であり、それらのうちの少なくとも1つはビニル基あるいはアリル基である。)
【化9】
(R27はアルキレン基である。)
【請求項14】
前記電解質塩は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、過塩素酸リチウム(LiClO4 )、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6 )、式(8)〜式(10)で表される化合物、および式(11)〜式(13)で表される化合物のうちの少なくとも1種を含む請求項1記載の二次電池。
【化10】
(X31は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素、またはアルミニウム(Al)である。M31は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。R31はハロゲン基である。Y31は−(O=)C−R32−C(=O)−、−(O=)C−C(R33)2 −あるいは−(O=)C−C(=O)−である。ただし、R32はアルキレン基、ハロゲン化アルキレン基、アリーレン基あるいはハロゲン化アリーレン基である。R33はアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基あるいはハロゲン化アリール基である。なお、a3は1〜4の整数であり、b3は0、2あるいは4であり、c3、d3、m3およびn3は1〜3の整数である。)
【化11】
(X41は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素である。M41は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。Y41は−(O=)C−(C(R41)2 )b4−C(=O)−、−(R43)2 C−(C(R42)2 )c4−C(=O)−、−(R43)2 C−(C(R42)2 )c4−C(R43)2 −、−(R43)2 C−(C(R42)2 )c4−S(=O)2 −、−(O=)2 S−(C(R42)2 )d4−S(=O)2 −あるいは−(O=)C−(C(R42)2 )d4−S(=O)2 −である。ただし、R41およびR43は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それぞれのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R42は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a4、e4およびn4は1あるいは2であり、b4およびd4は1〜4の整数であり、c4は0〜4の整数であり、f4およびm4は1〜3の整数である。)
【化12】
(X51は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素である。M51は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。Rfはフッ素化アルキル基あるいはフッ素化アリール基であり、いずれの炭素数も1〜10である。Y51は−(O=)C−(C(R51)2 )d5−C(=O)−、−(R52)2 C−(C(R51)2 )d5−C(=O)−、−(R52)2 C−(C(R51)2 )d5−C(R52)2 −、−(R52)2 C−(C(R51)2 )d5−S(=O)2 −、−(O=)2 S−(C(R51)2 )e5−S(=O)2 −あるいは−(O=)C−(C(R51)2 )e5−S(=O)2 −である。ただし、R51は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R52は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、そのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a5、f5およびn5は1あるいは2であり、b5、c5およびe5は1〜4の整数であり、d5は0〜4の整数であり、g5およびm5は1〜3の整数である。)
【化13】
(mおよびnは1以上の整数である。)
【化14】
(R61は炭素数2以上4以下の直鎖状あるいは分岐状のパーフルオロアルキレン基である。)
【化15】
(p、qおよびrは1以上の整数である。)
【請求項15】
電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な正極活物質を含む正極、前記電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質を含む負極、ならびに溶媒および電解質塩を含む電解質、のうちの少なくとも1つに、式(1)および式(2)で表されるフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含有させる二次電池の製造方法。
【化16】
(X1およびX2のうちの少なくとも一方はカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基である。hおよびkは比率を表し、h+k=1である。)
【化17】
(X3はカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基である。)
【請求項16】
負極集電体上に負極活物質層が形成されたのち、その負極活物質層上に形成された負極被膜を有し、
前記負極活物質層は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極活物質を含み、
前記負極被膜は、式(1)および式(2)で表されるフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含む
負極。
【化18】
(X1およびX2のうちの少なくとも一方はカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基である。hおよびkは比率を表し、h+k=1である。)
【化19】
(X3はカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基である。)
【請求項17】
正極集電体上に正極活物質層が形成されたのち、その正極活物質層上に形成された正極被膜を有し、
前記正極活物質層は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な正極活物質を含み、
前記正極被膜は、式(1)および式(2)で表されるフッ素樹脂のうちの少なくとも1種を含む
正極。
【化20】
(X1およびX2のうちの少なくとも一方はカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基である。hおよびkは比率を表し、h+k=1である。)
【化21】
(X3はカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基である。)
【請求項18】
溶媒と、電解質塩と、式(1)および式(2)で表されるフッ素樹脂のうちの少なくとも1種と、を含む電解質。
【化22】
(X1およびX2のうちの少なくとも一方はカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基である。hおよびkは比率を表し、h+k=1である。)
【化23】
(X3はカルボン酸金属塩基あるいはスルホン酸金属塩基である。)
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−44958(P2010−44958A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−208366(P2008−208366)
【出願日】平成20年8月13日(2008.8.13)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月13日(2008.8.13)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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