説明

二次電池用電極、その製造方法及び二次電池

【課題】生産性が高く、高出力かつ安全性の高い二次電池及びその製造方法を提供する。
【解決手段】負電極又は正電極の上に、イオン液体、電解質及び表面修飾されたセルロースを有する多孔質膜からなるセパレーターが形成されている。セパレーターは形成時にイオン液体及び支持電解質を含有させているため、事前に電解質になじんだ状態の多孔質膜を形成することができ、電解質がセパレーターに浸透する時間を短縮することができる。またこの形成方法により、多孔質膜に保持された電解質中のイオンの移動がスムーズになり、イオン伝導度が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用電極、その製造方法及び二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池に代表される二次電池は、携帯機器等の電子機器の駆動電源として盛んに用いられている。これらの二次電池を、電気自動車用や電力貯蔵用等の用途に用いることが提案され、大型化に向けての開発がなされている。大型の二次電池は、その用途やエネルギー貯蔵量の大きさから、安全性の確保が重要となる。安全性を向上させる技術の1つは、電解質に不燃性のイオン液体を含有させることであり、イオン液体を用いた二次電池が提案されて(例えば、特許文献1〜3参照)いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−147391号公報
【特許文献2】特開2009−081048号公報
【特許文献3】特開2009−231245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1〜3に記載の二次電池は、電極とセパレータを外装体に挿入した後、粘度の高いイオン液体を含む電解質を注入することにより、製造している。この方法により製造された二次電池は、二次電池全体へ電解質が浸透するのに時間を要するため、性能が安定し出荷するまでの期間を要するという課題を有している。特に大型の二次電池を、この方法により製造しようとすると、この課題はさらに顕著に表れることになる。
【0005】
また、イオン液体を電解質に用いた二次電池に特有の課題として、イオン液体を用いた電解質はイオン伝導度が小さく、高容量の二次電池を得ることが難しいという課題もある。
【0006】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、生産性が高く、高出力かつ安全性の高い二次電池及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等が上記の課題に基づいて誠意検討した結果、二次電池において電解質の浸透が遅く、作製された二次電池の速やかな安定化を妨げている部材が、セパレータであることを見出した。そこで、イオン液体に対して親和性の高いセパレータを電極上に作製し、さらにこのセパレータにイオン液体を含む電解質を保持させることにより、上記の課題を解決できることを見出して本発明を成すに至った。
【0008】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成することができる。
【0009】
1.負電極又は正電極の上に、イオン液体、電解質及びセルロースを有する多孔質膜が形成されていることを特徴とする二次電池用電極。
【0010】
2.前記セルロースが表面修飾されていることを特徴とする前記1に記載の二次電池用電極。
【0011】
3.前記1または2に記載の二次電池用電極と、イオン液体、電解質及びセルロースを含有する電解質組成物とを有することを特徴とする二次電池。
【0012】
4.前記電解質組成物が無機微粒子を含有していることを特徴とする前記3に記載の二次電池。
【0013】
5.負電極又は正電極の上に、イオン液体、電解質及びセルロースを有する多孔質膜前駆体を塗布する工程、及び、前記塗布された多孔質膜前駆体を、多孔質膜に変換する工程を有することを特徴とする二次電池用電極の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
上記の構成の二次電池用電極、及び該電極を用いた二次電池により、生産性が高く、高出力かつ安全性の高い二次電池提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0016】
本発明の二次電池用電極は、電極板上に、イオン液体、支持電解質塩及びセルロースを有する多孔質膜が形成されていることを特徴とする。上記の構成とすることで、生産性が高い二次電池用電極を提供することができた。また、本発明の二次電池用電極を用いることにより、高出力、安全性の高い二次電池を提供することができた。
【0017】
本発明の二次電池用電極に形成される多孔質膜は、イオン液体、支持電解質塩及びセルロースを含有するスラリー状の多孔質膜前駆体を、電極板に塗布する工程、及びこの多孔質膜前駆体を多孔質膜に変換する工程を有することにより形成することができる。電極の活物質層を塗布により形成する場合は、本発明の多孔質膜と同時に形成することも可能であり、その場合は活物質層と多孔質膜の密着性が向上するため、より好ましい。
【0018】
以下に、本発明に係る多孔質膜の構成要素及び製造法について詳細に述べるが、本発明に係る多孔質膜は以下の記載に限定されるものではない。
【0019】
[多孔質膜]
本発明に係る多孔質膜はイオン液体、支持電解質塩及びセルロースを含有している。多孔質膜形成時にセルロースのみで多孔質膜を形成するのではなく、二次電池の電解質として用いられるイオン液体と支持電解質塩をさらに含有させて多孔質膜を形成することにより、事前に電解質になじんだ状態の多孔質膜を形成することができる。これにより、電解質がセパレータフィルム内に浸透する時間を短縮することができ、二次電池用電極の生産性を向上させることができる。これは特に、粘度が高いイオン液体を電解質に有する二次電池の作製を行う場合には、非常に有用である。
【0020】
また、本発明の二次電池用電極を用いた二次電池は高い出力特性を有することができた。この理由は定かではないが、多孔質膜前駆体のスラリーを塗布した塗布膜が、イオン液体や電解質などの不揮発性の成分を有しているため、多孔質膜への変換時に多孔質前駆体により多くの微細孔を保持したまま、多孔質膜を形成できると推測される。これらの空隙によって、多孔質膜に保持された電解質中のイオンの移動がスムーズになり、イオン伝導度が向上したのだと推測される。
【0021】
(イオン液体)
本発明で用いることのできるイオン液体は、塩化ナトリウムなどの通常の塩に比べ、非常に低い融点を有しているものであれば特に制限はない。本発明で用いられるイオン液体の融点は、80℃以下であることが好ましく、より好ましくは60℃以下、さらに好ましくは30℃以下のいわゆる常温溶融塩である。本発明で好ましく用いることのできるイオン液体としては、アルキルアンモニウム塩、ピロリジニウム塩、ピペリジニウム塩、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩などが挙げられる。特に好ましくは、下記一般式(1)で表されるイミダゾリウム塩が挙げられる。
【0022】
【化1】

【0023】
上記一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、置換基を有していても良い炭素数1〜20の炭化水素基を示し、R、R及びRは、それぞれ独立に、水酸基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、エーテル基、もしくはアルデヒド基を有していてもよい炭素数1〜10の炭化水素基又は水素原子を示し、Xは一価のアニオンを表し、具体的には塩素、臭素、ヨウ素、BF、BF、PF,NO、CFCO、CFSO、(FSO、(CFSO、(CFSO、(CSO、AlCl、AlClなどが挙げられる。
【0024】
一般式(1)で示される化合物の具体例としては、例えば、1−イソプロピル−2,3−ジメチルイミダゾリウムビストリフルオロメタンスルホニル塩、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムビストリフルオロメタンスルホニル塩、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムビストリフルオロメタンスルホニル塩、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムビストリフルオロメタンスルホニル塩、1−オクチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムビストリフルオロメタンスルホニル塩、及び、上記ビストリフルオロメタンスルホニルアニオン部分をそれぞれビスフルオロスルホニルアニオンにした塩等が挙げられ、中でもイオン導電率の点で1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムビスフルオロスルホニル塩が好ましく用いることができる。
【0025】
(支持電解質塩)
本発明で用いることのできる支持電解質塩は、支持電解質塩を溶媒に溶解させたときに、その溶液が電気伝導性を有するようになる塩であれば、特に制限はない。本発明に係る二次電池においては、有機溶媒に溶解し、電気伝導性を有する塩であることが特に好ましい。このような塩に特に制限はないが、周期律表I族又はII族の金属イオンをカチオンとして有する塩が挙げられ、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩が特に好ましく用いられる。
【0026】
本発明で用いることのできる支持電解質塩のアニオンとしては、ハロゲン化物イオン(I、Cl、Br等)、SCN、BF、PF、ClO、SbF、(FSO、(CFSO、(CFCFSO、Ph、(C、(CFSO、CFCOO、CFSO、CSO等が挙げられる。これらのアニオンの中でも、SCN、BF、PF、ClO、SbF、(FSO、(CFSO、(CFCFSO、(CFSO、CFSOがより好ましい。
【0027】
本発明で好ましく用いることのできる電解質塩としては、LiCFSO、LiPF、LiClO、LiI、LiBF、LiCFCO、LiSCN、LiN(SOCF、LiN(SOF)、NaI、NaCFSO、NaClO、NaBF、NaAsF、KCFSO、KSCN、KPF、KClO、KAsFなどが挙げられる。更に好ましくはLiCFSO、LiPF、LiPF(C(2k+1)(6−n)(n=1〜5、k=1〜8の整数)、LiClO、LiI、LiBF、LiCFCO、LiSCN、LiN(SOCF及びLiN(SOF)等のリチウム塩が挙げられ、最も好ましくは、LiPF、LiBF、LiPF(C(2k+1)(6−n)、LiN(SOCF及びLiN(SOから選ばれるリチウム塩である。これらの電解質塩は一種または二種以上を混合してもよいが、少なくとも一種は、上述したイオン液体と同じアニオンを用いるのが好ましい。
【0028】
多孔質膜前駆体のスラリー中の電解質の配合量は、10質量%〜80質量%が好ましく、特に20質量%〜70質量%が好ましい。
【0029】
(セルロース)
本発明で用いることのできるセルロースは、有機溶媒に溶解もしくは懸濁でき、多孔質膜を形成できる程度の大きさであれば特に制限はない。そのようなセルロースとして植物、海洋生物、あるいは微生物(セルロース産生菌)等によって産生されたものを用いることができる。また、上述したセルロースを原料としたセルロース誘導体も好ましく用いることができ、そのような誘導体として、エステル誘導体、エーテル誘導体及びシラン誘導体が挙げられる。
【0030】
このようなセルロース誘導体を用いることで、セルロースと電解質との親和性を向上すると考えられ、電解質がセパレータフィルム内に浸透する時間をより短縮することができるため、生産性がより向上するため好ましい。また、シラン等の難燃性の誘導体を導入することにより多孔質膜の耐熱性をより向上させたり、反応性基を誘導体として導入し、多孔質膜を形成後に架橋することにより、より機械強度を向上させることも可能である。
【0031】
本発明で用いることのできるエステル誘導体としては、硝酸エステル、リン酸エステル、キサントゲン酸エステル、亜硝酸エステル、硝酸エステル、硫酸エステル、ギ酸エステル、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、酪酸エステル、酢酸プロピオン酸エステル、酢酸酪酸エステル、トリフルオロ酢酸エステル、安息香酸エステル、アルキルケテンダイマーエステル、アルケニル無水コハク酸エステルを有するエステル誘導体が挙げられる。
【0032】
本発明で用いることのできるエーテル誘導体としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、iso−プロピルセルロース、ブチルセルロース、iso−ブチルセルロース、tert−ブチルセルロース、ペンチルセルロース、ヘキシルセルロース、ヘプチルセルロース、オクチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、シアノエチルセルロース、ジエチルアミノエチルエチルセルロース、トリメチルアンモノイルヒドロキシプロピルセルロースが挙げられる。
【0033】
本発明で用いることのできるシランを有するセルロース誘導体は、公知のシランカップリング剤を導入することにより得ることができる。反応性基を有するシランカップリング剤によって置換し、セルロース誘導体とすることがより好ましい。そのようなセルロース誘導体は、ビニル基を末端に有するシランカップリング剤、エポキシ基を末端に有するシランカップリング剤又はメルカプト基を末端に有するシランカップリング剤により置換することができる。
【0034】
本発明で用いることのできるビニル基を末端に有するシランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランが挙げられ、エポキシ基を末端に有するシランカップリング剤としては、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられ、メルカプト基を末端に有するシランカップリング剤としてはメルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0035】
原料セルロースをセルロース誘導体にする方法は公知の方法に従って行うことができる。例えば、原料セルロースを水、あるいは適当な溶媒に溶解又は分散した後、これに化学修飾剤を添加して適当な反応条件下で反応させればよい。この場合、上述した化学修飾剤のほかに、必要に応じて反応触媒を添加することができ、例えば、ピリジンやN,N−ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、水酸化ナトリウム等の塩基性触媒や酢酸、硫酸、過塩素酸等の酸性触媒を用いることができるが、反応速度や重合度の低下を防止するため、ピリジン等の塩基性触媒を用いることが好ましい。反応温度としては、セルロースの黄変や重合度の低下等の変質を抑制し、反応速度を確保する観点で、40〜100℃程度が好ましい。反応時間については用いる修飾剤や処理条件により適宜選定すればよい。
【0036】
上述したセルロース誘導体以外にもフッ素、塩素、臭素、ヨウ素などを導入したハロゲン誘導体、ウロン酸等の酸化物誘導体、イソシアナート誘導体、アミン誘導体、チオール誘導体、高分子によりグラフトしたセルロース誘導体等も好ましく用いることができる。
【0037】
本発明で用いることのできるセルロース、またはセルロース誘導体の重量平均分子量は、10,000〜2,000,000の範囲にあることが好ましく、特に、10,000〜100,000の範囲にあることがより好ましい。多孔質膜前駆体のスラリー中のセルロースの配合量は溶液全体に対して5質量%〜50質量%が好ましく、特に10質量%〜40質量%が好ましい。
【0038】
(有機溶媒)
本発明に係るイオン液体、支持電解質塩及びセルロースからなるスラリー状の多孔質膜前駆体は粘度が高いため、有機溶媒によって粘度を塗布可能な程度に調整したうえで多孔質膜前駆体の塗布膜を形成することが好ましい。本発明に用いることのできる有機溶媒は、イオン液体、支持電解質塩及びセルロースが溶解ないし懸濁することができれば、特に制限はない。
【0039】
本発明においては、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシドとホルムアルデヒド、N,N−ジメチルホルムアミドとホルムアルデヒド、N,N−ジメチルアセトアミドとホルムアルデヒド、ジメチルスルホキシドとクロラール、N,N−ジメチルホルムアミドとクロラール、N,N−ジメチルアセトアミドとクロラール、ジメチルスルホキシドとクロラールとピリジン、N,N−ジメチルホルムアミドとクロラールとピリジン、N,N−ジメチルアセトアミドとクロラールとピリジン、ジメチルスルホキシドとクロラールとトリエチルアミン、N,N−ジメチルホルムアミドとクロラールとトリエチルアミン、N,N−ジメチルアセトアミドとクロラールとトリエチルアミン、ジメチルスルホキシドと無水亜硫酸とジエチルアミン、N,N−ジメチルホルムアミドと無水亜硫酸とジエチルアミン、ジメチルスルホキシドと無水亜硫酸とトリエチルアミン、N,N−ジメチルホルムアミドと無水亜硫酸とトリエチルアミン、ジメチルスルホキシドと無水亜硫酸とピペリジン、N,N−ジメチルホルムアミドと無水亜硫酸とピペリジン、ジメチルスルホキシドと無水亜硫酸とイソアミルアミン、N,N−ジメチルホルムアミドと無水亜硫酸とイソアミルアミン、ジメチルスルホキシドとN、N,N−ジメチルホルムアミドとN、ジメチルスルホキシドとNOCl、N,N−ジメチルホルムアミドとNOCl、ジメチルスルホキシドとNOSOH、N,N−ジメチルホルムアミドとNOSOH、N,N−ジメチルアセトアミドと塩化リチウム、N−メチル−2−ピロリドンと塩化リチウム、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンと塩化リチウム、N,N−ジメチルアセトアミドと臭化リチウム、N−メチル−2−ピロリドンと臭化リチウム、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンと臭化リチウム、トリフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸とクロロホルム、トリフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸と酢酸、N−メチルモルフォリン−N−オキシド含水塩、N−メチルモルフォリン−N−オキシド含水塩とジメチルスルホキシド、N−アルキルピリジウムハロゲン類等の有機溶媒又は溶液から選ばれる1種又は2種以上の混合物を好ましく使用することができる。
【0040】
これらの中で、イオン液体、支持電解質塩及びセルロースに対する溶解性または懸濁性が良好であり、均一な多孔質膜前駆体の塗膜形成することが容易であることから、N−メチル−2−ピロリドンを有機溶媒として用いることが特に好ましい。
【0041】
有機溶媒はイオン液体、支持電解質塩及びセルロースからなる多孔質膜前駆体スラリー全体を100質量%とした際に、30質量%〜80質量%の範囲内になるように加えることが好ましく、特に40質量%〜70質量%の範囲内とすることが好ましい。
【0042】
(多孔質膜の製造方法)
本発明に係る多孔質膜は、イオン液体、支持電解質塩及びセルロースを含有するスラリー状の懸濁液を電極上に塗布することにより多孔質膜前駆体を形成し、多孔質膜へと変換することにより得ることができる。また、本発明に係る多孔質膜は、正電極、負電極のいずれにも形成することができる。現在の二次電池は、負電極が正電極よりやや大きい構成であるため、負電極に多孔質膜を形成することが好ましく、より好ましくは両方の電極に多孔質膜を形成することである。
【0043】
本発明で用いることのできるスラリー状の懸濁液の調製方法に特に制限はなく、懸濁液の物理的、化学的性質を考慮して公知の分散方法から適切な手法を選択すればよい。例えば、懸濁液の粘度が高い場合は、攪拌時の泡の混入を防止するために、真空脱泡しながら攪拌することが好ましい。
【0044】
本発明で用いることのできるスラリー状の懸濁液の塗布方法には特に制限はなく、従来公知の塗布方法を用いて、多孔質膜前駆体の塗膜を形成すればよい。好ましく用いることができる塗布方法としては、ドクターブレードコート、ダイコート、グラビアコート、マイクログラビアコート、ロールコートなどが挙げられる。
【0045】
塗布する塗膜の厚さは、特に制限はなく、作製された多孔質膜が十分な機械的強度を有し、かつ、二次電池の電極として用いた際に良好なイオン伝導性を有していればよい。好ましい多孔質膜の厚みとしては、2μm〜40μmの範囲内にあることであり、より好ましくは4μm〜30μmである。上記の範囲内に入るように多孔質膜を形成することで、十分な機械的強度を有し、かつ、良好なイオン伝導性を有する電極を形成することができる。
【0046】
本発明で用いることのできる多孔質膜前駆体を多孔質膜に変換する手段には、多孔質膜前駆体が多孔質としての強度を有するようになる変換方法であれば、特に制限はない。本発明で好ましく用いることのできる変換方法としては、多孔質膜前駆体の乾燥または硬化などが挙げられる。本発明で用いることのできる多孔質膜前駆体の乾燥方法は、温風、赤外線、マイクロ波等いずれも好ましく用いることができる。乾燥温度としてはスラリー状懸濁液に用いられる溶媒の種類にもよるが、60℃以上、200℃以下が好ましい。
【0047】
発明で用いることのできる多孔質膜前駆体の硬化方法は、特に反応性置換基を導入したセルロース誘導体を用いて、多孔質膜前駆体を形成した際に有効な手法である。多孔質膜前駆体を硬化させる方法としては、導入した反応性置換基の性質によって適宜選択することができ、紫外線照射、赤外線照射、熱硬化による重合反応等により行うことができる。紫外線照射、赤外線照射、熱硬化の場合には、必要に応じて重合開始剤を加えることが好ましい。また、多孔質膜前駆体を硬化させる際には、上述した乾燥方法と併用して多孔質膜を形成しても良い。
【0048】
本発明に係る多孔質膜は上述した構成要素及び製造方法により形成可能であるが、無機微粒子をさらに含有させることも可能である。無機微粒子をさらに含有させた多孔質膜は膜としての物性がさらに向上するため好ましく用いることができる。
【0049】
(無機微粒子)
本発明に係る多孔質膜はさらに無機微粒子を含有することで、電解質との親和性が向上し、より高い出力や生産性向上が出来るので好ましい。また、無機微粒子がセルロースと絡み合うことで、機械的強度や耐熱性等の物性向上効果が得られる。本発明で用いることのできる無機微粒子に特に制限はなく、酸化鉄、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化アンチモン、クレー、酸化スズ、酸化タングステン、酸化チタン、リン酸アルミニウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化アルミニウムや、これらの複合酸化物が好ましく使用できる。
【0050】
無機微粒子の体積平均粒径は、0.005〜5.0μmであることが好ましく、更には0.01〜1.0μmであることが好ましい。
【0051】
体積平均粒径は、各粒子を同体積の球に換算した時の直径(球換算粒径)の体積平均値であり、この値は電子顕微鏡写真から評価することができる。即ち、電池組成物または粒子紛体の透過型電子顕微鏡写真を撮影し、一定の視野範囲にある粒子を200個以上測定して各粒子の球換算粒径を求め、その平均値を求めることにより得られた値である。
【0052】
無機微粒子の含有量は、セルロース100質量%に対して、0質量%以上、100質量%以下が好ましい。更に好ましくは10質量%以上、70質量%以下である。
【0053】
(電極)
本発明に係る電極は、集電体上に正極活物質を設けた正電極、及び集電体上に負極活物質を設けた負電極からなる。正電極又は負電極に、本発明に係る多孔質膜前駆体のスラリーを塗布し、多孔質膜へと変換することにより、本発明の二次電池用電極を形成することができる。以下に、本発明に係る電極の構成要素及び製造方法について詳細に述べるが、本発明の二次電池は以下の記載に限定されるものではない。
【0054】
(集電体)
本発明に係る電極に用いられる集電体としては、本発明の電極を用いた二次電池において化学的に安定な電子伝導体が用いられるであれば特に制限はない。正極の本発明で好ましく用いることのできる正電極用集電体としては、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタンなどの金属板などの他に、アルミニウムやステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタンあるいは銀を処理させた含有または被覆させた合金もの、を好ましく用いることができる。その中でも、アルミニウム、及びアルミニウム合金がより好ましく用いることができる。
【0055】
負極電極の用集電体としては、銅、ステンレス鋼、ニッケル、チタンが好ましく、銅あるいは及び銅合金がより好ましい。
【0056】
前記集電体の形状としては、通常フィルムシート状のものが使用されるが、多孔質体、発泡体、繊維群の成形体なども用いることができる。前記集電体の厚みとしては、特に限定されないが、1〜500μmが好ましい。また、集電体表面は、表面処理により凹凸を付けることも好ましい。
【0057】
(正電極活物質)
本発明に係る電極に用いられる正極活物質としては、無機系活物質、有機系活物質又は両者の複合体のいずれも用いることができる。無機系活物質、又は無機系活物質と有機系活物質の複合体を用いることで、電池のエネルギー密度が大きくなるため、特に好ましく用いることができる。
【0058】
本発明で好ましく用いることの出来る無機系活物質としては、金属酸化物、複酸化物、リン酸物、ケイ酸物、ホウ酸物が挙げられる。
【0059】
本発明において正極活物質として用いることのできる金属酸化物、複酸化物としては、Li0.3MnO、LiMn12、V、LiCoO、LiMn、LiNiO、LiFePOLiCo1/3Ni1/3Mn1/3、Li1.2(Fe0.5Mn0.50.8、Li1.2(Fe0.4Mn0.4Ti0.20.8、Li1+x(Ni0.5Mn0.51−x、LiNi0.5Mn1.5、LiMnO、Li0.76Mn0.51Ti0.49、LiNi0.8Co0.15Al0.05、Fe、が挙げられる。これらの化学式中、xは0〜1の範囲である。
【0060】
本発明において正極活物質として用いることのできるリン酸物、ケイ酸物、ホウ酸物としては、LiFePO、LiCoPO、LiMnPO、LiMPOF(M=Fe,Mn)、LiMn0.875Fe0.125PO、LiFeSiO、Li2−xMSi1−x(M=Fe,Mn)、LiMBO(M=Fe,Mn)などがあげられる。なお、これらの化学式中、xは0〜1の範囲である。さらに、FeF、LiFeF、LiTiFなどの金属フッ化物、LiFeS、TiS、MoS、FeS等の金属硫化物、及びこれらの化合物とリチウムの複合酸化物も正極活物質として用いることができる。
【0061】
本発明で好ましく用いることの出来る有機系活物質としては、導電性高分子、硫黄系正極材料、有機ラジカル化合物が挙げられる。
【0062】
本発明において正極活物質として用いることのできる導電性高分子としては、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリパラフェニレンが挙げられる。有機ジスルフィド化合物、有機イオウ化合物DMcT(2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール)、ベンゾキノン化合物PDBM(ポリ2,5−ジヒドロキシ−1,4−ベンゾキノン−3,6−メチレン)、カーボンジスルフィド、活性硫黄等の硫黄系正極材料、有機ラジカル化合物等が用いられる。
【0063】
また、正極活物質の表面は、無機酸化物によって被覆されていることが電池の寿命を延ばす点で好ましい。無機酸化物を被覆する方法としては、正極活物質の表面にコーティングする方法が好ましく、コーティングする方法としては、ハイブリタイザーなどの表面改質装置を用いてコーティングする方法などが挙げられる。表面被覆に用いることのできる無機酸化物としては、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、アルミナ、ジルコニア、酸化チタンの酸化物、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸鉛、γ−LiAlO、LiTiO等が挙げられ、特に酸化ケイ素によって被覆することが好ましい。
【0064】
(負電極活物質)
本発明の二次電池用電極に用いられる負極活物質は、特に制限は無く公知の負極活物質が利用できる。本発明の二次電池に好ましく用いることのできる負極活物質としては、黒鉛やスズ合金と結着剤の混合物、シリコン薄膜、リチウム箔が挙げられる。
【0065】
黒鉛やスズ合金と結着剤の負極活物質は、黒鉛やスズ合金などの粉末とスチレンブタジエンゴムやポリフッ化ビニリデンなどの結着剤と混合したにペーストを乾燥させることにより得ることができる。シリコン薄膜の負極活物質は、集電体上にシリコン薄膜を物理蒸着(スパッタリング法や真空蒸着法など)することにより得ることができる。厚さに特に制限はないが、3〜5μm程度であることが好ましい。リチウム箔の負極活物質は、集電体に厚さ10〜30μmのリチウム箔を貼合させたものを用いることができる。高容量化が可能であり、電極合材を必須としないことから、シリコン系薄膜負極やリチウム金属負極からなる負極活物質を用いることが好ましい。
【0066】
(電極添加剤)
本発明の二次電池用電極に用いることのできる電極合剤は、導電剤および結着剤を含有している。その他の材料として、フィラー、リチウム塩、非プロトン性有機溶媒等が添加されていても良い。
【0067】
本発明で用いることのできる導電剤は、構成された二次電池において、化学変化を起こさない電子伝導性材料であれば、特に制限はない。本発明で好ましく用いることのできる導電剤としては、天然黒鉛、人工黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維や金属粉、金属繊維あるいはポリフェニレン誘導体などから選ばれる1種の導電性材料、または2種以上の混合物があげられる。その中でも、黒鉛とアセチレンブラックの混合物を用いることが特に好ましい。
【0068】
導電剤の添加量としては、1〜50質量%が好ましく、2〜30質量%がより好ましい。カーボンや黒鉛の場合は、2〜15質量%が特に好ましい。
【0069】
本発明で用いることのできる結着剤は、構成された二次電池において、化学変化を起こさない材料であれば特に制限はない。このような結着剤としては、多糖類、熱可塑性樹脂およびゴム弾性を有するポリマーなどが挙げられ例えば、でんぷん、カルボキシメチルセルロース、セルロース、ジアセチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルフェノール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、ポリヒドロキシ(メタ)アクリレート、スチレン−マレイン酸共重合体等の水溶性ポリマー、ポリビニルクロリド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフロロエチレン−ヘキサフロロプロピレン共重合体、ビニリデンフロライド−テトラフロロエチレン−ヘキサフロロプロピレン共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、ポリビニルアセタール樹脂、メチルメタアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等の(メタ)アクリル酸エステルを含有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−アクリロニトリル共重合体、ビニルアセテート等のビニルエステルを含有するポリビニルエステル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリブタジエン、ネオプレンゴム、フッ素ゴム、ポリエチレンオキシド、ポリエステルポリウレタン樹脂、ポリエーテルポリウレタン樹脂、ポリカーボネートポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等のエマルジョン(ラテックス)あるいはサスペンジョンがあげられる。これらの結着剤の中でも、ポリアクリル酸エステル系のラテックス、カルボキシメチルセルロース、ポリテトラフロロエチレン、ポリフッ化ビニリデンがより好ましい。本発明で用いることのできる結着剤は、一種単独または二種以上を混合して用いることができる。結着剤の添加量が少ないと、電極合剤の保持力・凝集力が弱くなる。多すぎると電極体積が増加し、電極単位体積あるいは単位質量あたりの容量が減少する。このような理由で、結着剤の添加量は1〜30質量%が好ましく、2〜10質量%がより好ましい。
【0070】
本発明で用いることのできるフィラーは、本発明の二次電池において、化学変化を起こさない繊維状材料であれば、何でも用いることができる。通常、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのオレフィン系ポリマー、ガラス、炭素などの繊維が用いられる。フィラーの添加量は特に限定されないが、0〜30質量%が好ましい。
【0071】
(二次電池用電極の作製方法)
本発明の二次電池は、シート型、角型、シリンダー型などいずれの形状にも適用でき、本発明に係る二次電池用電極の形状も用いられる二次電池の形状に合わせて、最適な形状を選択することができる。本発明の二次電池用電極に係る正極活物質層及び負極活物質層は、集電体の上に設けられる。正極活物質層及び負極活物質層は、集電体の片面に設けても、両面に設けても良く、両面に設けた電極を用いることがより好ましい。
【0072】
正極板に対する負極板の大きさの割合に特に制限はない。好ましい正極板の面積は、負極板の面積1に対し、0.9〜1.1が好ましく、0.95〜1.0が特に好ましい。集電体上に形成される正極活物質と負極活物質との含有量比は、化合物種類や合剤処方により異なり、最も性能が良くなるように適宜設定することができる。
【0073】
また、活物質層が活物質及び電極合材の混合物により形成する場合には、この混合物を塗布し、必要により乾燥、圧縮することにより形成する。活物質と電極合材の混合物の塗布は集電体に塗布することができれば、特に制限はない。本発明において利用可能な塗布方法としては、リバースロール法、ダイレクトロール法、ブレード法、ナイフ法、エクストルージョン法、カーテン法、グラビア法、バー法、ディップ法およびスクイーズ法が挙げられる。その中でも、ブレード法、ナイフ法およびエクストルージョン法が好ましい。また、塗布速度は、0.1〜100m/分で行われることが好ましい。この際、混合物の溶液物性、乾燥性に合わせて、上記塗布方法を選定することにより、良好な塗布層の表面状態を得ることができる。混合物の塗布は、片面ずつ逐時でも、両面同時に行ってもよい。
【0074】
さらに、混合物の塗布は、連続でも間欠でもストライプでもよい。活物質層の厚み、長さおよび巾は、電池の形状や大きさにより適宜決められる。好ましい活物質層の厚みは、乾燥後の片面膜厚が1〜2000μmの範囲にあることが好ましい。
【0075】
塗布により形成された活物質層の乾燥および脱水方法としては特に制限はなく、熱風、真空、赤外線、遠赤外線、電子線および低湿風を、単独あるいは組み合わせた方法を用いることできる。乾燥温度は80〜350℃が好ましく、100〜250℃がより好ましい。また、形成された活物質層は圧着して、密着性及び活物質層の密度を高めることが好ましい。活物質層の圧着方法は、一般に採用されている方法を用いることができるが、特にカレンダープレス法が好ましい。プレス圧は特に限定されないが、20〜300MPaが好ましい。カレンダープレス法のプレス速度としては、0.1〜50m/分が好ましく、プレス時の温度は室温〜200℃が好ましい。
【0076】
上述した二次電池用電極の製造方法は、二次電池以外、例えば、一次電池やキャパシタの製造にも用いることができる。
【0077】
(二次電池及び製造方法)
本発明の二次電池は、正電極、負電極及び電解質を有し、正電極又は負電極の少なくとも一方は本発明の二次電池用電極であることを特徴とする。本発明でいう電解質は、電解質溶媒、イオン液体又はこれらの混合溶媒に、電解質塩が溶解している溶液のことを指す。また、本発明の二次電池の形状としては、シート型、角型、円筒(シリンダー)型などいずれの形にも適用できる。
【0078】
本発明の二次電池は、少なくとも一方が本発明の方法により作製された多孔質膜を有する電極と、他方の電極を重ね合わせた後に、作製したい二次電池の形状に合わせて巻回または積層し、外装体内に封入することで二次電池を製造する。電解質は、外装体を封止するまでに注液すればよく、電極を外装内に挿入した後でも、電極を重ね合わせる前でも良い。電解質の粘度が低い場合には、電極を外装内に挿入した後に注液することが好ましく、電解質の粘度が高い場合には、電極を重ね合わせる前に電解質を塗布することが好ましい。
【0079】
電極を積層することにより二次電池を作製する場合は、積層後にアルミラミネートフィルム等で作製した外装体に入れ、両面からダブルロールラミネータ等を用いて加熱ロールで圧着することにより作製することが好ましい。この方法により作製された二次電池は、電極同士が密着した状態になるため、出力特性及び放熱性に優れた二次電池となるため好ましい。圧着の際の加熱温度としては50℃〜200℃の範囲で圧着することが好ましく、この範囲内にすることで、電極同士の密着性を高め、かつ電解質や多孔質膜が分解しない程度の温度で圧着することができる。
【0080】
以下に、本発明の二次電池の構成要素について詳細に述べるが、本発明の二次電池は以下の記載に限定されるものではない。
【0081】
(電解液溶媒)
本発明においては、イオン液体と電解質塩により電解質を調製することが好ましいが、電解質の粘性、イオン伝導度等を考慮して安全性を過度に減少させない範囲内で、電解液溶媒を用いることができる。沸点が十分に高く、安全性の高い電解液溶媒を用いる場合には、電解質溶媒のみで電解質を調製してもかまわない。
【0082】
本発明の二次電池に用いられる電解液溶媒は、電解質塩を溶解し、電解質となりうる溶媒であれば特に制限はない。本発明で好ましく用いることのできる電解質溶液としては、カーボネート化合物、複素環化合物、エーテル化合物、鎖状エーテル類、ニトリル化合物、エステル類、非プロトン極性物質などが挙げられる。
【0083】
本発明で用いることのできるカーボネート化合物としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートが挙げられる。
【0084】
本発明で用いることのできる複素環化合物としては、3−メチル−2−オキサゾリジノンなどが挙げられる。
【0085】
本発明で用いることのできるエーテル化合物としては、ジオキサン、ジエチルエーテルが挙げられる。
【0086】
本発明で用いることのできる鎖状エーテル類としては、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテルが挙げられる。
【0087】
本発明で用いることのできるニトリル化合物としては、アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルが挙げられる。
【0088】
本発明で用いることのできるエステル類としては、カルボン酸エステル、リン酸エステル、ホスホン酸エステルが挙げられる。
【0089】
本発明で用いることのできる非プロトン極性物質としては、ジメチルスルフォキシド、スルフォランが挙げられる。また、これらの電解液溶媒は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0090】
これらの電解液溶媒でも、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、3−メチル−2−オキサゾリジノン、アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルが特に好しく用いることができる。
【0091】
溶媒としては、耐揮発性による耐久性向上の観点から、常圧(1気圧)における沸点が200℃以上のものが好ましく、250℃以上のものがより好ましく、270℃以上のものが更に好ましい。
【0092】
(電解質塩・イオン液体)
本発明の二次電池に用いられる電解質塩及びイオン液体は、多孔質膜に用いることのできる電解質塩及びイオン液体で記載されたものを用いることができる。本発明の二次電池を作製する際に多孔質膜の作製で用いられた電解質塩及びイオン液体と、電解質に用いられる電解質塩及びイオン液体は異なっていても良いが、多孔質膜の作製で用いられた電解質塩及びイオン液体と同一のものを用いて、電解質を作製することが好ましい。
【0093】
本発明の二次電池において、電解質中の支持電解質塩の存在量は、5〜40質量%とすることが好ましく、特に、10〜30質量%の範囲になるように調整することが好ましい。
【0094】
[二次電池の用途]
本発明の二次電池の用途は、特に限定されない。一例としては、電子機器としては、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、コードレスフォン子機、ページャー、ハンディーターミナル、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、電気シェーバー、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、メモリーカードなどに用いることができる。その他民生用として、自動車、電動車両、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、ロードコンディショナー、時計、ストロボ、カメラ、医療機器(ペースメーカー、補聴器、肩もみ機など)などが挙げられる。更に、各種軍需用、宇宙用として用いることができる。また、太陽電池と組み合わせることもできる。
【実施例】
【0095】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって、何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0096】
(セルロース誘導体の作製)
以下の方法に従ってセルロース誘導体C−1〜C−5を作製した。
【0097】
(セルロース誘導体C−1の作製)
無水酢酸/ピリジン(モル比1/1)溶液500部に、結晶性セルロース(セオラスUF−702、旭化成株式会社製)10部を添加して分散させ、室温で3時間攪拌した。次にこの分散液を濾過し、500部の水で3回水洗した後、200部のエタノールで2回洗浄した。さらに、500部の水で2回水洗を行った後、70℃にて減圧乾燥させ、セルロース誘導体C−1を作製した。
【0098】
(セルロース誘導体C−2の作製)
化学修飾剤を無水メタクリル酸/ピリジン(モル比1/1)溶液に替えた以外は、セルロース誘導体C−1と同様に処理してセルロース誘導体C−2を作製した。
【0099】
(セルロース誘導体C−3の作製)
エタノール:水が4:l(質量比)の混合溶媒に3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤;信越化学工業株式会社製)を滴下し、このシランカップリング剤濃度を100mmo1/Lとしたシランカップリング剤溶液を調製した。この調製したシランカップリング剤溶液100部にセオラスUF−702を1質量部添加して室温で2時間攪拌した後、セルロースを濾取し、ソックスレー抽出器を用いて一晩エタノール洗浄した。洗浄後、70℃で減圧乾燥させて、セルロース誘導体C−3を作製した。
【0100】
(セルロース誘導体C−4の作製)
化学修飾剤を、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤;信越化学工業株式会社製)に替えた以外はセルロース誘導体C−3と同様に処理してセルロース誘導体C−4を作製した。
【0101】
(セルロース誘導体C−5の作製)
化学修飾剤を、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤;信越化学工業株式会社製)に替えた以外はセルロース誘導体C−3と同様に処理してセルロース誘導体C−5を作製した。
【0102】
(電解質の調製)
以下の方法に従って電解質E−1〜E−4を調製した。
【0103】
(電解質E−1の調製)
酸素濃度10ppm以下、露点−60℃以下の乾燥空気で満たされたドライブース内にて、60部の1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに10部のLiN(SOCFを混合して電解質E−1を調製した。
【0104】
(電解質E−2の調製)
イオン液体を1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミドに変更した以外は上記と同様にして電解質E−2を調製した。
【0105】
(電解質E−3の調製)
イオン液体を1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムテトラフルオロボーレート、支持電解質塩をLiBFに変更した以外は電解質E−1の調製と同様にして、電解質E−3を調製した。
【0106】
(電解質E−4の調製)
電解質E−1に、さらに、ビニレンカーボネートを10質量%混合して電解質E−4を調製した。
【0107】
(多孔質膜前駆体の調製)
以下の方法に従って、多孔質膜前駆体S1〜S13を調製した。
【0108】
(多孔質膜前駆体S−1の調製)
酸素濃度10ppm以下、露点−60℃以下の乾燥空気で満たされたドライブース内にて、100部のN−メチル−2−ピロリドンと50部の電解質E−1の混合溶液に、20部の結晶性セルロース(セオラスUF−702、旭化成社製)を添加して、多孔質膜前駆体S−1を調製した。
【0109】
(多孔質膜前駆体S−4の調製)
調製した多孔質膜前駆体S−1に、10部の酸化アルミニウム(平均粒径:0.1μm)を加え、多孔質膜前駆体S−4を調製した。
【0110】
さらに、表1記載の電解質、電解質溶液及びセルロースを用いた以外は同様の方法で、多孔質膜前駆体S−2、S−3、S−5〜S−13を調製した。表1中の「結晶性セルロース」とは、誘導体化の処理を行っていない結晶性セルロースのことを指す。
【0111】
【表1】

【0112】
(電極の作製)
以下の方法に従って、正電極及び負電極を作製した。
【0113】
(正電極の作製)
90部のリン酸鉄リチウム(LiFePO)と、6部のグラファイト粉末を混合した粉末に、4部のポリフッ化ビニリデン共重合体とN−メチルピロリドンとを加え、スラリーを調製した。このスラリーを、厚さ20μmのアルミニウム箔の両面に、200μmの厚さとなるように塗布した。この正電極前駆体を、130℃で5分間温風乾燥後、ロールプレスすることにより正電極を作製した。
【0114】
(負電極の作製)
96部のグラファイト、4部のポリフッ化ビニリデン共重合体及びN−メチルピロリドンを混合し、スラリーを調製した。このスラリーを、厚さ15μmの銅箔の両面に200μmの厚さとなるように塗布した。この負電極前駆体を130℃で5分間温風乾燥後、ロールプレスすることにより負電極を作製した。
【0115】
(二次電池の製造)
二次電池の製造は、酸素濃度10ppm以下、露点−60℃以下の乾燥空気で満たされたドライブース内で行った。また、二次電池の製造に用いたすべての材料は、ドライブース内に持ち込む前に、十分な脱気及び乾燥を行ったうえで、ドライブース内に導入した。
【0116】
(二次電池セル1の製造)
負電極上の両面に多孔質膜前駆体S−1を、乾燥後の厚みが20μmになるようにダイコータにて塗布した後に、130℃で乾燥し、多孔質膜を形成し、負電極の二次電池用電極を得た。続いて、正電極、負電極それぞれの未塗布部に電流端子(タブ)を超音波溶接した後に、正電極を負電極上に重ね、巻回機にて巻回してから円筒缶に入れた。この円筒缶に電解質E−1を少量注入後、封口して二次電池セル1を製造した。
【0117】
(二次電池セル2の製造)
負電極上、正電極上の両方に多孔質膜前駆体S−1を乾燥後の厚みがそれぞれ10μmになるように塗布して、負電極及び正電極の二次電池用電極とした以外は製造例1と同様にして二次電池セル2を得た。
【0118】
多孔質膜前駆体をS−2〜S−13に変えた以外は、二次電池セル1の製造と同様にして、二次電池セル3〜14を製造した。
【0119】
(二次電池セル15の製造)
正電極、負電極の未塗布部それぞれに電流端子(タブ)を超音波溶接してから負電極、ポリエチレン製セパレータ(20μm厚)、正電極、ポリエチレン製セパレータ(20μm厚)をこの順番に積層した。この積層体を巻回機にて巻回して円筒缶に入れ、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)が体積比率3:7の混合溶媒にLiPFが1mol/Lの濃度で溶解された電解質E−5を注液後、封口して二次電池セル15を製造した。
【0120】
(二次電池セル16の製造)
電解液をE−1に変更する以外は二次電池セル15の製造と同様にして、二次電池セル16を製造した。
【0121】
(二次電池セル17の製造)
二次電池セル16の製造において、ポリエチレン製セパレータ(20μm厚)を、酸化アルミニウム(平均粒径:0.01μm)含有のセルロース製セパレータ(20μm厚)に変更した以外は同様の方法で、二次電池セル17を製造した。
【0122】
(二次電池セル18の製造)
二次電池セル1の製造において、多孔質膜前駆体S−1の代わりに、150部のN−メチル−2−ピロリドンに20部のセオラスUF−702を混合した溶液によって負電極上に多孔質膜S−14を形成した。その後は、二次電池セル1の製造と同様の方法で、二次電池セル18を得た。
【0123】
(容量安定化までの期間の評価)
得られた二次電池セル1〜18を23℃の環境で保管し、理論容量に対して80%以上の容量の放電が可能になるまでの期間を測定した。
【0124】
(安全性の評価:内部短絡試験)
得られた二次電池セルを4.0Vまで充電し、直径2mm、長さ10cmの釘を用いて、釘刺し試験を行い、発火の有無を調べた。
【0125】
(出力特性の評価)
得られた二次電池セルを23℃の環境下において、電圧2.0V〜4.0Vの範囲で、それぞれ理論容量に対して12分間で充放電が終わるレートの電流(5C)で充放電を行い、0.2Cで充放電を行った時の容量保持率について以下のランクで評価した。
【0126】
◎:95%以上の容量を保持
○:90%以上、95%未満の容量を保持
△:80%以上、90%未満の容量を保持
×:80%未満の容量を保持
評価結果を表2に示す。
【0127】
【表2】

【0128】
本発明の方法により製造された二次電池セルは、従来の方法により製造された二次電池セルより明らかに良好な結果が得られた。これにより、本発明により、高出力、安全で生産性が高く、製造後から出荷までの期間を短縮することのできる二次電池が得られることは明白である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負電極又は正電極の上に、イオン液体、電解質及びセルロースを有する多孔質膜が形成されていることを特徴とする二次電池用電極。
【請求項2】
前記セルロースが表面修飾されていることを特徴とする請求項1に記載の二次電池用電極。
【請求項3】
請求項1または2に記載の二次電池用電極と、イオン液体、電解質及びセルロースを含有する電解質組成物とを有することを特徴とする二次電池。
【請求項4】
前記電解質組成物が無機微粒子を含有していることを特徴とする請求項3に記載の二次電池。
【請求項5】
負電極又は正電極の上に、イオン液体、電解質及びセルロースを有する多孔質膜前駆体を塗布する工程、及び、前記塗布された多孔質膜前駆体を、多孔質膜に変換する工程を有することを特徴とする二次電池用電極の製造方法。

【公開番号】特開2011−228114(P2011−228114A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96700(P2010−96700)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】