説明

二次電池用電極、二次電池、および二次電池用電極の製造方法

【課題】活物質層が厚い場合にも、活物質層が集電体から剥離するのを抑制することが可能な二次電池用電極、二次電池用電極を備える二次電池、および二次電池用電極の製造方法を提供する。
【解決手段】正極11は、集電体と、集電体上に設けられた活物質層112とを備える。活物質層112は、複数の領域112aに区分されており、領域112aは、所定の面積以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集電体上に設けられた活物質層を備える二次電池用電極、二次電池用電極を備える二次電池、および二次電池用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、集電体と、集電体上に設けられた活物質層とを備えた電極が知られている(たとえば、特許文献1および特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1には、エキスパンデッドメタル(集電体)と、エキスパンデッドメタルに設けられた正極合剤(活物質層)とを備えた電極が開示されている。この電極は渦巻状に捲回されており、正極合剤には捲回方向と直交する方向に延びる亀裂が形成されている。
【0004】
特許文献2には、正極端子板(集電体)と、正極端子板に設けられた正極合剤ペーストとを備えた正極が開示されている。この正極合剤ペーストは、表面温度100℃〜200℃の範囲で乾燥されることにより、表面の中央部にひび割れによる切れ込みが形成されている。
【0005】
ここで、近年、二次電池の大容量化・低コスト化が求められている。そこで、二次電池の大容量化・低コスト化を図るために活物質層を厚膜化することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭59−180974号公報
【特許文献2】特開平3−84855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、活物質層を厚膜化した場合には、乾燥時に活物質層が集電体から剥離することにより、内部短絡の可能性が高くなり、電池の劣化が促進されるという問題点がある。なお、特許文献1および特許文献2の構造でも、活物質層を厚膜化した場合には、活物質層が集電体から剥離するという問題点がある。
【0008】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、活物質層が厚い場合にも、活物質層が集電体から剥離するのを抑制することが可能な二次電池用電極、二次電池用電極を備える二次電池、および二次電池用電極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る二次電池用電極は、集電体と、前記集電体上に設けられた活物質層とを備える二次電池用電極であって、前記活物質層は、複数の領域に区分されており、各領域は、所定の面積以下であることを特徴とする。
【0010】
このように構成することによって、活物質層が複数の領域に区分されることにより、活物質層が厚い場合にも、スラリーの乾燥時の収縮によるひずみを分散することができるので、活物質層が集電体から剥離するのを抑制することができる。
【0011】
また、本発明に係る二次電池用電極では、前記所定の面積は、100mm2であることを特徴とする。
【0012】
このように構成することにより、スラリーの乾燥時の収縮によるひずみを確実に分散することができる。
【0013】
また、本発明に係る二次電池用電極では、前記活物質層の厚みは、100μm〜400μmであることを特徴とする。
【0014】
このように構成することにより、二次電池用電極が設けられる二次電池の大容量化を図ることができる。
【0015】
また、本発明に係る二次電池用電極では、前記活物質層に含まれる活物質の二次粒子は、メジアン径が0.5μm〜10μmであることを特徴とする。なお、メジアン径とは、レーザー回折・散乱法により測定した体積基準の累積粒度分布の50%を示す粒子径である。
【0016】
このように構成することにより、二次粒子径の大きさがスラリーの乾燥時の挙動に与える影響が大きいと考えられることから、スラリーの乾燥時の挙動を一定の範囲にすることができる。
【0017】
また、本発明に係る二次電池用電極では、前記活物質層には、水系バインダが含まれていることを特徴とする。なお、水系バインダとは、水または水と混合可能なアルコールを溶媒とするバインダである。
【0018】
このように構成することにより、有機溶媒系のバインダを用いる場合に比べて、環境負荷を低減することができる。
【0019】
また、本発明に係る二次電池用電極では、前記活物質層の各領域は、分離されていることを特徴とする。
【0020】
このように構成することにより、スラリーの乾燥時の収縮によるひずみを完全に分散することができる。
【0021】
また、本発明に係る二次電池用電極では、前記活物質層の各領域は、連結されていることを特徴とする。
【0022】
このように構成することにより、活物質層を容易に区分することができる。
【0023】
また、本発明に係る二次電池は、正極と、前記正極に対向する負極と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、前記正極と前記負極との間に充填された電解液と、前記正極、前記負極、前記セパレータ、および前記電解液を被覆して封止する外装材とを備える二次電池であって、前記正極および前記負極のうちの少なくともいずれか一方は、上記のいずれか一つに記載の二次電池用電極であることを特徴とする。
【0024】
このように構成することによって、活物質層が厚い場合にも、活物質層が集電体から剥離するのを抑制することが可能な二次電池用電極を備える二次電池を得ることができる。
【0025】
また、本発明に係る二次電池用電極の製造方法は、集電体と、前記集電体上に設けられた活物質層とを備える二次電池用電極の製造方法であって、活物質を含むスラリーを調製する工程と、前記スラリーを前記集電体に塗工する工程と、前記集電体に塗工された前記スラリーを乾燥させる工程と、前記スラリーを乾燥させる工程において、前記スラリーに型を押し当てることにより、所定の面積以下である複数の領域に区分された活物質層を形成する工程とを備えることを特徴とする。
【0026】
このように構成することによって、活物質層が厚い場合にも、活物質層が集電体から剥離するのを抑制することが可能な二次電池用電極を得ることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る二次電池用電極、二次電池用電極を備える二次電池、および二次電池用電極の製造方法によれば、活物質層が厚い場合にも、活物質層が集電体から剥離するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1A】本発明の実施の形態に係る二次電池の概略構成を模式的に示す斜視図である。
【図1B】図1Aの矢符B−Bでの二次電池の内部構造を厚さ方向で拡大して示す拡大断面図である。
【図2】図1Bに示した二次電池の正極および負極を部分的に拡大して示した断面図である。
【図3A】図2に示した正極の活物質層を示した平面図である。
【図3B】図2に示した負極の活物質層を示した平面図である。
【図4A】実施の形態に係る二次電池の正極の製造方法について説明する図であり、集電体の表面上にスラリーが塗工された状態を示した断面図である。
【図4B】実施の形態に係る二次電池の正極の製造方法について説明する図であり、溝を形成する型を示した平面図である。
【図4C】実施の形態に係る二次電池の正極の製造方法について説明する図であり、集電体に塗工されたスラリーに型を押し当てる前の状態を示した断面図である。
【図4D】実施の形態に係る二次電池の正極の製造方法について説明する図であり、集電体に塗工されたスラリーに型が押し当てられた状態を示した断面図である。
【図4E】実施の形態に係る二次電池の正極の製造方法について説明する図であり、集電体の表面上に活物質層が形成された状態を示した断面図である。
【図5】実施の形態に係る二次電池の正極の効果を確認するために行った実験結果を示した一覧表である。
【図6】本実施の形態の変形例1に係る正極の活物質層を示した平面図である。
【図7】本実施の形態の変形例2に係る正極の活物質層を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0030】
図1Aおよび図1Bを参照して、実施の形態に係る二次電池10について説明する。
【0031】
図1Aは、本発明の実施の形態に係る二次電池10の概略構成を模式的に示す斜視図である。
【0032】
図1Bは、図1Aの矢符B−Bでの二次電池10の内部構造を厚さ方向で拡大して示す拡大断面図である。なお、断面でのハッチングは、図面の見易さを考慮して省略してある。
【0033】
実施の形態に係る二次電池10は、正極11と、正極11に対向する負極12と、正極11と負極12との間に配置されたセパレータ13と、正極11と負極12との間に充填された電解液17と、正極11、負極12、セパレータ13、および電解液17を被覆して封止する外装材15とを備える。正極11は正極端子11tに、負極12は負極端子12tに、それぞれ適宜の接続部材(例えば、正極はAl製板、ワイヤ等、負極はCuもしくはNi製板、ワイヤ等)を介して接続されている。
【0034】
以下、実施の形態に係る二次電池10の具体的な内部構成、構成材料の詳細について、項目分け(<セパレータ13について><正極端子11t、負極端子12tについて><電解液17について><外装材15について>)をして記載する。なお、実施の形態に係る二次電池10は、例えば、リチウムイオン二次電池として形成される。したがって、以下ではリチウムイオン二次電池に適用される材料を中心として説明する。また、正極11および負極12については、後で詳細に説明する。
【0035】
<セパレータ13について>
実施の形態に係るセパレータ13には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等のオレフィン系樹脂からなる微多孔フィルムを単一で、あるいは複合して用いることができ、必要に応じて不織布等の安価なセパレータを用いることも可能である。
【0036】
セパレータ13の厚みは5〜100μm程度が適当であり、10〜30μm程度がより好ましい。厚みが5μmより薄くなるとセパレータ13の機械的強度が不足し、電池の内部短絡の原因となるので好ましくなく、100μmより厚くなると正極負極間の距離が長くなり、電池の内部抵抗が高くなるので好ましくない。
【0037】
セパレータ13の空隙率は30〜90%程度が適当であり、40〜80%程度がより好ましい。空隙率が30%より低いと、電解液の含有量が減り電池の内部抵抗が高くなるので好ましくなく、90%より高いと、正極と負極が物理的な接触を起こしてしまい、二次電池10の内部短絡の原因となるので好ましくない。
【0038】
ここで、セパレータ13の厚みおよび空隙率は、マイクロメーターで厚さを、電子天秤で重量を測定してセパレータの密度を算出し、その樹脂の真密度との比率から算定して求めた値である。
【0039】
<正極端子11t、負極端子12tについて>
リード板(正極端子11t、負極端子12t)は、正極11、負極12の電極端子として機能するものであり、材料としては導電性を有していれば特に限定されず、集電体を形成した材料を用いることができ、特に、正極端子11tには集電体111(図2参照)と同じ材料を用い、負極端子12tには集電体121(図2参照)の導電膜と同じ材料を用いることが好ましい。例えば、正極端子11tにはAl板、負極端子12tにはCu板もしくはNi板が好適に使用できる。
【0040】
正極端子11t、負極端子12tは、同一極性の複数の集電体111、121の全てに対して面接触した状態で取り付けられる大きさおよび形状に形成され、厚みとしては50〜300μm程度が適当であり、80〜200μm程度がより好ましい。
【0041】
<電解液17について>
電解液17としては、リチウムイオン二次電池の公知の材料が適用される。以下、リチウムイオン二次電池の電解液17について具体的に説明する。電解液17としてはリチウム塩を含む非水電解液が適用される。
【0042】
リチウムイオン二次電池で使用されるリチウム塩としては、ホウフッ化リチウム(LiBF4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、トリフルオロ酢酸リチウム(LiCF3COO)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホン)イミド(LiN(CF3SO22)等のリチウム塩が挙げられ、これらを単独もしくは、これらの2種以上を混合して用いることができる。非水電解質の塩濃度は、0.5〜3mol/Lが好適である。
【0043】
また、非水電解液の代わりに電解液をポリマーマトリックス中に保持したゲル電解質等も用いることが可能である。ポリマーマトリックスとしては、ポリエチレンオキシドとポリプロピレンオキシドの共重合体を基本構造とし、末端に多官能アクリレートを有する化合物を架橋したものが好適である。これは、物理架橋ゲルに比べて強固な架橋構造を有するため、ゲルからの非水電解液の染み出し等が少なく、電池の信頼性が高くなるからである。
【0044】
非水電解液用溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート類と、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート類、γ−ブチロラクトン(以下、GBLと略称することがある)、γ−バレロラクトン等のラクトン類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等のフラン類、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジオキサン等のエーテル類、ジメチルスルホキシド、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、ギ酸メチル、酢酸メチル等が挙げられ、これらを単独もしくは、これらの2種以上を混合して用いることができる。特に、負極活物質として黒鉛系材料を使用する場合は、エチレンカーボネート(EC)が含まれていることが好ましい。
【0045】
また、安全性向上のためにイオン性液体を用いることも可能である。さらに、正極11、負極12の表面に良好な皮膜を形成させるためや、充放電の安定性を向上するために、ビニレンカーボネート(VC)やシクロヘキシルベンゼン(CHB)等の添加剤を添加することも可能である。
【0046】
<外装材15について>
外装材15には、一般的な電池に用いられる外装材を適用できる。外装材15は、たとえば、熱融着可能なアルミラミネートや透明の樹脂フィルムであってもよいし、金属(たとえば、鉄、ステンレススチール、アルミニウム等)製の缶であってもよい。
【0047】
図2、図3Aおよび図3Bを参照して、実施の形態に係る二次電池10の正極11および負極12について説明する。
【0048】
図2は、図1Bに示した二次電池10の正極11および負極12を部分的に拡大して示した断面図である。なお、断面でのハッチングは、図面の見易さを考慮して省略してある。
【0049】
図3Aは、図2に示した正極11の活物質層112を示した平面図であり、図3Bは、図2に示した負極12の活物質層122を示した平面図である。
【0050】
正極11は、集電体111と、集電体111上に設けられた活物質層112とを含む二次電池用電極である。なお、活物質層112は、集電体111の両面(上面および下面)に設けられている。
【0051】
集電体111には、リチウムイオン二次電池の公知の材料が適用される。集電体111には、例えば、SUS(Steel−Use−Stainless:JIS規格)、アルミニウム等の導電性金属の箔や薄板を適用することができる。なお、集電体111の表面は、平坦であってもよいし、凹凸が形成されていてもよい。
【0052】
活物質層112の厚みは、20μm〜500μmであり、好ましくは、100μm〜400μmである。このように活物質層112の厚膜化を図ることにより、二次電池10の大容量化、コスト低減を図ることができる。活物質層112は、複数の領域112aに区分されている。領域112aは、平面的に見て、正方形であり、マトリクス状に配置されている。なお、領域112aが平面的に見て長方形であってもよい。領域112aは、所定の面積(100mm2)以下である。そして、各領域112aの間には、溝(亀裂)112b(図3A参照)が形成されている。溝112b(図2参照)は、集電体111の表面まで到達するように形成されており、各領域112aが分離されている。このように各領域112aが分離されていることにより、スラリーの乾燥時の収縮によるひずみを完全に分散することができる。活物質層112の各領域112aは集電体111の表面から突出する突状(島状)部を有し、突状部の表面(上面)の面積が所定の面積(100mm2)以下である。溝112bの幅は、50μm(たとえば、5μm〜40μm)以下であることが好ましい。これにより、溝112bによる電極特性への影響(サイクル特性の低下など)を抑制することができる。
【0053】
活物質層112には、活物質の他に、導電材、水系バインダ(結着材)、増粘材、フィラー、分散材、イオン導電材、圧力増強材などが含まれていてもよい。活物質層112が水系バインダを含むことによって、有機溶媒系のバインダを用いる場合に比べて、環境負荷を低減することができる。
【0054】
リチウムイオン二次電池の場合、正極11の活物質層112の活物質としては、リチウムを含有した酸化物を用いることができる。すなわち、活物質としては、例えばチタン、モリブデン、銅、ニオブ、バナジウム、マンガン、クロム、ニッケル、鉄、コバルトもしくはリン等とリチウムの複合酸化物、硫化物またはセレン化物等が好ましく、具体的には、LiMnO2、LiMn24、LiNiO2、LiCoO2、LiCrO2、LiFeO2、LiVO2およびLiMPO4(MはCo、Ni、Mn、Feから選ばれる少なくとも1種以上の元素)のうちの1つ以上を単独または複数種組み合わせて用いることができる。ここで、活物質の二次粒子は、メジアン径が0.5μm〜10μmであることが好ましい。なお、メジアン径は、レーザー回折・散乱法により測定した体積基準の累積粒度分布の50%を示す粒子径である。このように構成することにより、二次粒子径の大きさがスラリーの乾燥時の挙動に与える影響が大きいと考えられることから、スラリーの乾燥時の挙動を一定の範囲にすることができる。
【0055】
導電材は、一般的に電池材料として用いられ、かつ構成された電池において化学変化を起こさない電子伝導性材料であればよい。すなわち、導電材としては、例えば天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛等)、人工黒鉛等のグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類、気相成長黒鉛繊維(VGCF)、炭素繊維、金属繊維等の導電性繊維類、銅、ニッケル、アルミニウム、銀等の金属粉類、酸化亜鉛、チタン酸カリウム等の導電性ウィスカー類、酸化チタン等の導電性金属酸化物、あるいはポリフェニレン誘導体等の有機導電性材料などを単独で、またはこれらの混合物を用いることができる。これらの導電材のなかで、アセチレンブラック、VGCF、グラファイトとアセチレンブラックの併用が特に好ましい。
【0056】
水系バインダは、一般的に電池材料として用いられるものであればよい。すなわち、水系バインダとしては、多糖類、熱可塑性樹脂およびゴム弾性を有するポリマーのうちの一種、またはこれらの混合物を用いることができる。具体的には、水系バインダとしては、でんぷん、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ジアセチルセルロース、ポリビニルクロリド、ポリビニルピロリドン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ弗化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム、ポリブタジエン、フッ素ゴムおよびポリエチレンオキシドを挙げることができる。なお、水系バインダとは、水または水と混合可能なアルコールを溶媒とするバインダである。
【0057】
増粘材としては、たとえば、でんぷん、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ジアセチルセルロース、ポリビニルクロリドなどが挙げられる。
【0058】
フィラーは、一般的に電池材料として用いられ、かつ構成された電池において化学変化を起こさない繊維状材料であればよい。すなわち、フィラーとしては、例えばポリプロピレン、ポリエチレン等のオレフィン系ポリマー、ガラス、炭素等の繊維を用いることができる。
【0059】
イオン導電材としては、無機および有機の固体電解質として一般的に知られている、例えばポリエチレンオキサイド誘導体あるいは該誘導体を含むポリマー、ポリプロピレンオキサイド誘導体、該誘導体を含むポリマー、リン酸エステルポリマー等を用いることができる。
【0060】
圧力増強材は、電池の内圧を上げる化合物であり、炭酸塩が代表例である。
【0061】
負極12は、集電体121と、集電体121上に設けられた活物質層122とを含む二次電池用電極である。なお、活物質層122は、集電体121の両面に設けられている。また、重なるように配置される正極11および負極12(図1B参照)の最外側の負極12については、集電体121の一方の面(正極11が対向配置される面)のみに活物質層122が設けられていてもよい。
【0062】
集電体121には、リチウムイオン二次電池の公知の材料が適用される。集電体121には、例えば、銅のような金属の箔を適用することができる。なお、集電体121の表面は、平坦であってもよいし、凹凸が形成されていてもよい。
【0063】
活物質層122の厚みは、20μm〜500μmであり、好ましくは、100μm〜400μmである。このように活物質層122の厚膜化を図ることにより、二次電池10の大容量化、コスト低減を図ることができる。活物質層122は、複数の領域122aに区分されている。領域122aは、平面的に見て、正方形であり、マトリクス状に配置されている。なお、領域122aが平面的に見て長方形であってもよい。領域122aは、所定の面積(100mm2)以下である。そして、各領域122aの間には、溝(亀裂)122b(図3B参照)が形成されている。溝122b(図2参照)は、集電体121の表面まで到達するように形成されており、各領域122aが分離されている。このように各領域122aが分離されていることにより、スラリーの乾燥時の収縮によるひずみを完全に分散することができる。活物質層122の各領域122aは集電体121の表面から突出する突状(島状)部を有し、突状部の表面(上面)の面積が所定の面積(100mm2)以下である。溝122bの幅は、50μm(たとえば、5μm〜40μm)以下であることが好ましい。これにより、溝122bによる電極特性への影響(サイクル特性の低下など)を抑制することができる。
【0064】
活物質層122には、活物質の他に、導電材、水系バインダ(結着材)、増粘材、フィラー、分散材、イオン導電材、圧力増強材などが含まれていてもよい。活物質層122が水系バインダを含むことによって、有機溶媒系のバインダを用いる場合に比べて、環境負荷を低減することができる。なお、導電材、水系バインダ、増粘材、フィラー、分散材、イオン導電材、圧力増強材については、正極11の活物質層112と同様であるので、説明を省略する。
【0065】
リチウムイオン二次電池の場合、負極12の活物質層122の活物質としては、天然黒鉛、人造黒鉛、高結晶黒鉛等の黒鉛系物質、非晶質炭素系物質、Nb25およびLiTiO4等の金属酸化物のうち少なくとも1つ以上を単独または複数種組み合わせて用いることができる。ここで、活物質の二次粒子は、メジアン径が0.5μm〜10μmであることが好ましい。このように構成することにより、二次粒子径の大きさがスラリーの乾燥時の挙動に与える影響が大きいと考えられることから、スラリーの乾燥時の挙動を一定の範囲にすることができる。
【0066】
図4A〜図4Eを参照して、実施の形態に係る二次電池10の正極11の製造方法について説明する。なお、負極12の製造方法については、正極11の場合と略同様であるため、説明を省略する。また、説明を簡略化するために、集電体111の一方の面のみに活物質層112を形成する場合について説明する。
【0067】
図4Aは、集電体111の表面上にスラリー50が塗工された状態を示した断面図である。図4Bは、溝を形成する型60を示した平面図である。図4Cは、集電体111に塗工されたスラリー50に型60を押し当てる前の状態を示した断面図である。図4Dは、集電体111に塗工されたスラリー50に型60が押し当てられた状態を示した断面図である。図4Eは、集電体111の表面上に活物質層112が形成された状態を示した断面図である。
【0068】
まず、活物質を含むスラリー50を調製する。このスラリー50には、導電材、水系バインダ、増粘材、フィラー、分散材、イオン導電材、圧力増強材などが添加されていてもよい。そして、活物質を含むスラリー50を集電体111(図4A参照)に塗工する。その後、集電体111に塗工されたスラリー50を乾燥させる。
【0069】
そして、スラリー50の乾燥途中に、型60(図4B参照)を用いてスラリー50に溝を形成する。型60には、平面的に見て正方形の開口部60aがマトリクス状に形成されている。
【0070】
そして、集電体111に塗工されたスラリー50の上方から下方向Z(図4C参照)に型60を移動させることにより、型60がスラリー50に押し当てられる。これにより、スラリー50が型60により押し分けられ、図4Dに示すように、型60が集電体111と当接するまで移動する。その後、型60がスラリー50から抜き取られる。
【0071】
その後、乾燥・プレスされることにより、図4Eに示すように、集電体111の表面上に、複数の領域112aに区分された活物質層112が形成される。なお、領域112aは、所定の面積(100mm2)以下に形成されている。
【0072】
次に、図5を参照して、上記した実施の形態による二次電池10の正極11の効果を確認するために行った実験について説明する。
【0073】
図5は、実施の形態に係る二次電池10の正極11の効果を確認するために行った実験結果を示した一覧表である。
【0074】
この実験では、まず、活物質としてのリン酸鉄リチウム(LiFePO4)と、導電材としてのアセチレンブラックと、水系バインダとしてのスチレンブタジエンゴムと、増粘材としてのカルボキシメチルセルロースとを重量比で、100:9:6.2:3.5の割合で混合することにより、スラリーを作製した。なお、リン酸鉄リチウムは、二次粒子のメジアン径が0.5μmであった。
【0075】
そして、厚みが20μmであり、面積が20000mm2(100mm×200mm)であるアルミニウム箔上に作製したスラリーを塗工した。ここで、アルミニウム箔上に塗工されるスラリー(活物質層)の厚みを50μm、100μm、200μm、300μm、400μmとする5種類の試料を作製した。
【0076】
そして、この5種類の試料について、スラリーの乾燥途中にスラリーに溝を形成しない試料、つまり、活物質層を区分しない試料を作製した。また、5種類の試料について、スラリーの乾燥途中に、一辺の長さが2mmの開口部を有する型でスラリーに溝を形成することにより、活物質層を面積が4mm2(2mm×2mm)である領域に区分した試料を作製した。また、5種類の試料について、スラリーの乾燥途中に、一辺の長さが5mmの開口部を有する型でスラリーに溝を形成することにより、活物質層を面積が25mm2(5mm×5mm)である領域に区分した試料を作製した。また、5種類の試料について、スラリーの乾燥途中に、一辺の長さが10mmの開口部を有する型でスラリーに溝を形成することにより、活物質層を面積が100mm2(10mm×10mm)である領域に区分した試料を作製した。また、5種類の試料について、スラリーの乾燥途中に、一辺の長さが15mmの開口部を有する型でスラリーに溝を形成することにより、活物質層を面積が225mm2(15mm×15mm)である領域に区分した試料を作製した。
【0077】
なお、溝の幅は、電極特性を考慮すれば、極力小さくすることが望ましい。しかし、型の加工性・強度を考慮して、型の板厚(幅)を45μm〜55μm程度として溝を形成した。また、型は、SUS304で形成した。その結果、溝の幅は、5μm〜40μm程度となった。
【0078】
つまり、上記した25種類の試料を作製した。そして、各試料について、集電体から活物質層の剥離の有無を調べ、その結果を図5に示した。
【0079】
図5に示すように、活物質層を区分しない場合において、活物質層の厚みが50μmの場合には、活物質層が集電体から剥離しなかった。その一方、活物質層を区分しない場合において、活物質層の厚みが100μm、200μm、300μmおよび400μmの場合には、活物質層が集電体から剥離した。これは、活物質層の厚みが50μmよりも大きくなると、乾燥時の収縮によるひずみが大きくなるためであると考えられる。
【0080】
そして、活物質層が面積を4mm2とする領域に区分された場合において、活物質層の厚みが50μm、100μm、200μm、300μmおよび400μmの場合には、活物質層が集電体から剥離しなかった。また、活物質層が面積を25mm2とする領域に区分された場合において、活物質層の厚みが50μm、100μm、200μm、300μmおよび400μmの場合には、活物質層が集電体から剥離しなかった。また、活物質層が面積を100mm2とする領域に区分された場合において、活物質層の厚みが50μm、100μm、200μm、300μmおよび400μmの場合には、活物質層が集電体から剥離しなかった。これは、活物質層が面積を4mm2、25mm2または100mm2とする領域に区分されることにより、活物質層の厚みが50μmよりも大きい場合にも、乾燥時の収縮によるひずみを分散することができるためであると考えられる。
【0081】
また、活物質層が面積を225mm2とする領域に区分された場合において、活物質層の厚みが50μmの場合には、活物質層が集電体から剥離しなかった。その一方、活物質層が面積を225mm2とする領域に区分された場合において、活物質層の厚みが100μm、200μm、300μmおよび400μmの場合には、活物質層が集電体から剥離した。これは、各領域の面積が100mm2よりも大きくなると、乾燥時の収縮によるひずみを分散することができず、活物質層を区分しない場合と同様に、乾燥時の収縮によるひずみが大きくなるためであると考えられる。
【0082】
なお、負極12についても、上記した正極11の効果と同様の効果が得られるものと考えられる。
【0083】
上記のように、二次電池用電極としての正極11は、集電体111と、集電体111上に設けられた活物質層112とを備え、活物質層112は、複数の領域112aに区分されており、領域112aは、所定の面積以下である。
【0084】
このように構成することによって、活物質層112が複数の領域112aに区分されることにより、活物質層112が厚い場合にも、スラリー50の乾燥時の収縮によるひずみを分散することができるので、活物質層112が集電体111から剥離するのを抑制することができる。
【0085】
また、二次電池用電極としての負極12は、集電体121と、集電体121上に設けられた活物質層122とを備え、活物質層122は、複数の領域122aに区分されており、領域122aは、所定の面積以下である。
【0086】
このように構成することによって、活物質層122が複数の領域122aに区分されることにより、活物質層122が厚い場合にも、スラリーの乾燥時の収縮によるひずみを分散することができるので、活物質層122が集電体121から剥離するのを抑制することができる。
【0087】
図6を参照して、本実施の形態の変形例1に係る正極11の活物質層70について説明する。
【0088】
図6は、本実施の形態の変形例1に係る正極11(図2参照)の活物質層70を示した平面図である。
【0089】
活物質層70の表面には、溝72が形成されている。活物質層70は、平面的に見て大きさおよび形状が異なる複数の領域71に区分されている。領域71は、所定の面積(100mm2)以下である。つまり、活物質層の区分される領域の平面的な形状は、正方形以外であってもよいし、複数の領域の面積が異なっていてもよい。なお、負極12についても同様である。
【0090】
図7を参照して、本実施の形態の変形例2に係る正極11の活物質層80について説明する。
【0091】
図7は、本実施の形態の変形例2に係る正極11(図2参照)の活物質層80を示した断面図である。
【0092】
活物質層80は、複数の領域81に区分されている。領域81は、所定の面積(100mm2)以下である。各領域80の間には、溝(亀裂)82が形成されている。溝82は、集電体111の表面まで到達しないように形成されており、各領域81が集電体111の表面上で連結されている。なお、溝82の深さは、5μm以上である。各領域81が連結されていることにより、活物質層80を容易に区分することができる。
【0093】
本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではない。たとえば、本実施の形態では、正極11の活物質層112が区分され、負極12の活物質層122が区分される例を示したが、これに限らず、正極の活物質層および負極の活物質層のうちのいずれか一方のみが区分されるようにしてもよい。
【0094】
また、本実施の形態では、スラリーの乾燥途中に、型をスラリーに押し当てることにより、溝を形成する例を示したが、これに限らず、スラリーの乾燥条件、固形分濃度、水系バインダの種類および量などを調整することにより、スラリーの乾燥時に溝を形成するようにしてもよい。
【0095】
また、本実施の形態では、結着材として水系バインダを用いる例を示したが、これに限らず、結着材として有機溶媒系のバインダを用いてもよい。
【符号の説明】
【0096】
10 二次電池
11 正極(二次電池用電極)
12 負極(二次電池用電極)
13 セパレータ
15 外装材
17 電解液
50 スラリー
60 型
70 活物質層
71 領域
72 溝
80 活物質層
81 領域
82 溝
111 集電体
112 活物質層
112a 領域
112b 溝
121 集電体
122 活物質層
122a 領域
122b 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、
前記集電体上に設けられた活物質層とを備える二次電池用電極であって、
前記活物質層は、複数の領域に区分されており、
各領域は、所定の面積以下であること
を特徴とする二次電池用電極。
【請求項2】
請求項1に記載の二次電池用電極であって、
前記所定の面積は、100mm2であること
を特徴とする二次電池用電極。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の二次電池用電極であって、
前記活物質層の厚みは、100μm〜400μmであること
を特徴とする二次電池用電極。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一つに記載の二次電池用電極であって、
前記活物質層に含まれる活物質の二次粒子は、メジアン径が0.5μm〜10μmであること
を特徴とする二次電池用電極。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一つに記載の二次電池用電極であって、
前記活物質層には、水系バインダが含まれていること
を特徴とする二次電池用電極。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一つに記載の二次電池用電極であって、
前記活物質層の各領域は、分離されていること
を特徴とする二次電池用電極。
【請求項7】
請求項1から請求項5までのいずれか一つに記載の二次電池用電極であって、
前記活物質層の各領域は、連結されていること
を特徴とする二次電池用電極。
【請求項8】
正極と、
前記正極に対向する負極と、
前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、
前記正極と前記負極との間に充填された電解液と、
前記正極、前記負極、前記セパレータ、および前記電解液を被覆して封止する外装材とを備える二次電池であって、
前記正極および前記負極のうちの少なくともいずれか一方は、請求項1から請求項7までのいずれか一つに記載の二次電池用電極であること
を特徴とする二次電池。
【請求項9】
集電体と、前記集電体上に設けられた活物質層とを備える二次電池用電極の製造方法であって、
活物質を含むスラリーを調製する工程と、
前記スラリーを前記集電体に塗工する工程と、
前記集電体に塗工された前記スラリーを乾燥させる工程と、
前記スラリーを乾燥させる工程において、前記スラリーに型を押し当てることにより、所定の面積以下である複数の領域に区分された活物質層を形成する工程とを備えること
を特徴とする二次電池用電極の製造方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−113870(P2012−113870A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260210(P2010−260210)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】