説明

二次電池

【課題】電流遮断機構を適切に作動させることができる二次電池を提供する。
【解決手段】本発明に係る二次電池は、正極10及び負極を備える電極体と、電極体を収容する電池ケースと、電池ケースの内部に配置されたマイクロカプセル62と、マイクロカプセル62に内包され、電池ケース内の温度が上昇した場合にガスを発生させるガス発生材64と、電池ケースの内圧がガス発生材64からのガス発生により上昇した場合に作動する電流遮断機構と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二次電池に関し、特に電流遮断機構を備えた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウム二次電池、ニッケル水素電池その他の二次電池(蓄電池)は、車両搭載用電源、或いはパソコンおよび携帯端末の電源として重要性が高まっている。特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウム二次電池は、車両搭載用高出力電源として好ましく用いられている。このようなリチウム二次電池の典型的な構造の一つとして、電極体及び電解質が収容された電池ケースを密閉して成る密閉構造のリチウム二次電池(密閉型電池)が挙げられる。この種に二次電池に関する従来技術としては特許文献1及び2が開示されている。
【0003】
ところで、この種のリチウム二次電池を充電処理する際、電池に通常以上の電流が供給されて過充電となることがあり得る。かかる過充電の進行を停止するために、電池内部のガス圧力(電池ケースの内圧)が所定値以上になると充電電流を遮断する電流遮断機構を備えた電池が提案されている。一般に、電池が過充電状態になると、電解液の非水溶媒等が電気分解されてガス及び熱が発生する。上記電流遮断機構は、このガスを検知して電池の充電経路を切断することで、それ以上の過充電を防止し得るようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−257479号公報
【特許文献2】特開2004−119132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、電解液の非水溶媒よりも酸化電位の低い化合物(例えばシクロヘキシルベンゼン)を、該電解液に添加物として加えることが提案されている。かかる添加物は、電池が過充電なると、正極において速やかに酸化分解されてガスを発生する。この発生したガスで電池の内圧上昇を生みだすことにより、電流遮断機構をより早く作動させることができる。しかし、シクロヘキシルベンゼン(CHB)等の添加物は、過充電時には有効な内圧上昇を生んで電流遮断機構を早く作動させることができたとしても、正常時には電池の抵抗成分として働くため、電池性能が低下する(典型的には電気抵抗が増大する)要因になっていた。本発明は上記課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る二次電池(以下、単に「電池」ともいう。)は、正極及び負極を備える電極体と、上記電極体を収容する電池ケースとを備える。この二次電池は、上記電池ケースの内部に配置されたマイクロカプセルと、上記マイクロカプセルに内包され、上記電池ケース内の温度が上昇した場合にガスを発生させるガス発生材と、上記電池ケースの内圧が上記ガス発生材からのガス発生により上昇した場合に作動する電流遮断機構とを備える。
【0007】
ここで、本明細書において「マイクロカプセル」とは、内包物を皮膜により被覆した直径がマイクロメートルオーダー(即ち直径が1μm〜1000μm)又はそれ以下のサイズ(即ち直径が1μm以下であるナノオーダー)の微小な粒子であり、該マイクロカプセルの内部には種々の物質(液体、固体)を内包することができる。
【0008】
本発明によると、電池の内圧上昇により作動する電流遮断機構を備えた二次電池において、電池ケース内にマイクロカプセルを配置し、かつ該マイクロカプセル内に温度が上昇したときにガスを発生させるガス発生材を内包することにより、過充電時に電池温度が上昇したときに、マイクロカプセル内のガス発生材からガスが発生し、マイクロカプセルが破裂することで、電池ケースの内圧が一気に上昇する。これにより電流遮断機構を適切に作動させることができる。また、正常時(すなわち電池が通常の充放電範囲で使用されている間)には、ガス発生材がマイクロカプセルに内包されているので、ガス発生材と他の電池構成材料(例えば電解液)との接触が避けられる。そのため、ガス発生材が他の電池構成材料と接触することによる影響(例えば出力特性の低下やサイクル劣化など)を回避することができる。即ち、本発明によれば、正常時の電池性能を良好に保ちつつ、過充電時に上記電流遮断機構を的確に作動させ得る二次電池を提供することができる。
【0009】
上記マイクロカプセルに内包されるガス発生材は、電池ケース内の温度が上昇したときに、ガスを発生し得るものであれば特に制限なく使用することができる。例えば、沸点が70℃以上の液体を好ましく採用し得る。この場合、電池温度が70℃以上に達すると、上記液体の気化によりマイクロカプセルが破裂し、電池ケースの内圧が一気に上昇する。これにより電流遮断機構を適切に作動させることができる。さらに、上記液体が気化するときに周囲から熱を奪うので、電池の高温部分を冷却する効果もある。かかる液体は難燃性または不燃性の液体であることが好ましい。上記液体の例として、例えばフッ素系液体が挙げられる。ここでフッ素系液体とは、構成元素としてフッ素(F)を含む溶剤(典型的には有機溶剤)を指す。フッ素系液体としては、例えば、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン(沸点82.5℃)、1,1,2,2,3,4,4−オクタフルオロシクロペンタン(沸点79℃)等、が例示される。かかる液体は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。ここに開示される技術に好ましく使用し得るフッ素系液体の市販品として、日本ゼオン株式会社製の「ゼオローラH(登録商標)」シリーズが例示される。
【0010】
上記マイクロカプセルに内包されるガス発生材は上記液体に限らず固形物であってもよい。例えば、ガス分子を吸着した吸着材を好ましく採用し得る。上記吸着材の例として、例えばゼオライトが挙げられる。ガス分子を吸着した吸着材をマイクロカプセル材質で被覆し、電池ケース内の温度が上昇したときに吸着材からガス分子が脱着することで、ガスが発生するように構成してもよい。この場合、該マイクロカプセルを電池ケース内の所定位置に配置する操作(工程)のときにマイクロカプセルが破壊されにくくなるというメリットがある。
【0011】
ここで開示される二次電池のある好適な一態様において、上記マイクロカプセルには、上記ガス発生材とともに過充電抑制剤(過充電時に過充電電流の抵抗体として作用する物質)が内包されている。このように過充電抑制剤をガス発生材とともにマイクロカプセルに内包することによって、過充電時にマイクロカプセルが破裂したときに、過充電抑制剤によって過充電電流が流れるのを抑制することができる。また、正常時には、過充電抑制剤がマイクロカプセル内に内包されているので、過充電抑制剤と他の電池構成材料(例えば電解液)との接触が避けられる。そのため、過充電抑制剤が他の電池構成材料と接触することによる悪影響(例えば出力特性の低下やサイクル劣化など)を回避することができる。
【0012】
上記マイクロカプセルに内包される過充電抑制剤としては、過充電時に充電電流の抵抗体として作用するものであれば特に制限なく使用することができる。例えば、電解液の分解電位よりも酸化電位が低い化合物を好ましく採用し得る。上記化合物の好適例として、アルキルベンゼン誘導体、シクロアルキルベンゼン誘導体などが挙げられる。アルキルベンゼン誘導体としては、クメン、1,3−ジイソプロピルベンゼン、1,4−ジイソプロピルベンゼン、1−メチルプロピルベンゼン、1,3−ビス(1−メチルプロピル)ベンゼン、1,4−ビス(1−メチルプロピル)ベンゼン等、が例示される。また、シクロアルキルベンゼン誘導体としては、シクロヘキシルベンゼン(CHB)、シクロペンチルベンゼン等、が例示される。かかる化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。上記化合物は、電池が過充電になると、正極(典型的には正極活物質の表面)において速やかに酸化分解されて活物質表面に高抵抗の皮膜(重合物)を生成する。この皮膜は充電電流の抵抗体として作用する。なお、上記化合物は、上記の酸化分解反応によりガスを発生する。すなわち、上記化合物は、酸化分解によりガスを発生させるガス発生材としても機能する。そのため、前述したガス発生材からガスが発生することと合せて、電池ケース内により多くのガスを効率よく発生して電流遮断機構を的確に作動させることができる。
【0013】
ここで開示される二次電池のある好適な一態様において、上記正極は、正極集電体と正極活物質層とを備え、上記マイクロカプセルの少なくとも一部は、上記正極活物質層に保持されている。上述したCHB等の過充電抑制剤の酸化分解反応は主として正極活物質表面で起こることから、上記マイクロカプセルが上述した過充電抑制剤化合物を含む場合、該マイクロカプセルを正極活物質層に保持させた態様を好ましく採用することができる。
【0014】
ここで開示される二次電池のある好適な一態様において、上記電極体は、正極及び負極間を隔離するセパレータを備え、上記マイクロカプセルは、上記セパレータに保持されている。上記マイクロカプセルがセパレータに保持された構成を採用することにより、塗工、乾燥時の破裂を防ぐことができるというメリットがある。即ち、マイクロカプセルを正極活物質層に保持する場合は、正極活物質層形成用ペーストにマイクロカプセルを添加し、かかる正極活物質層形成用ペーストを正極集電体に塗布して乾燥させる必要があるが、その際、マイクロカプセルが破裂する可能性がある。これに対し、マイクロカプセルをセパレータに保持する場合は、セパレータ上にマイクロカプセルを散布してセパレータ孔内に入れるだけでよく、上記のような塗工、乾燥時の破裂を防ぐことができる。
【0015】
ここで開示される二次電池のある好適な一態様において、上記電極体は、シート状の上記正極とシート状の上記負極とが積層されて捲回されてなる捲回電極体であり、上記マイクロカプセルは、上記捲回電極体の捲回中心部に配置されている。捲回電極体の捲回中心部は、周囲の部分(例えば捲回電極体の外周部)に比べて熱が籠りやすいので温度が上昇しやすい。そのため、上記捲回電極体の捲回中心部にマイクロカプセルを配置することにより、電池の高温部分をより効果的に冷却することができる。
【0016】
ここで開示される二次電池のある好適な一態様において、上記電極体の正極及び負極には、それぞれ正極端子及び負極端子が電気的に接続されている。上記電流遮断機構は、上記正極及び負極の少なくとも一方の電極端子から上記電極体に至る導電経路を構成する導通部材を含み、上記ガス発生材からのガス発生により上記電池ケースの内圧が上昇した場合に上記導通部材が変形して上記導電経路を切断するように構成されている。このような導通部材の変形を伴う導電経路の切断により、充電電流を適切に遮断することができる。
【0017】
ここで開示されるいずれかの二次電池は、電池特性に悪影響を及ぼすことなく、過充電時に電流遮断機構を確実に作動できることから、車両に搭載される二次電池として適した性能を備える。したがって本発明によると、ここに開示される二次電池を備える車両が提供される。特に、該二次電池を動力源(典型的には、ハイブリッド車両または電気車両の動力源)として備える車両(例えば自動車)が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池の構造の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池の捲回電極体を示す模式図である。
【図3】図2中のIII−III断面を示す模式図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る捲回電極体の要部断面を示す模式図である。
【図5】(a)〜(c)は、本発明の一実施形態に係る捲回電極体の要部断面を示す模式図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る捲回電極体の要部断面を示す模式図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る捲回電極体の構造を示す図であり、(a)側面図、及び(b)正面図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る電池を搭載した車両を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明による実施の形態を説明する。なお、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。また、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、正極活物質や負極活物質の構成および製法、セパレータや電解質の構成および製法、電池その他の電池の構築に係る一般的技術等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。
【0020】
特に限定することを意図したものではないが、以下では扁平に捲回された電極体(捲回電極体)と非水電解液とを扁平な箱型(直方体形状)の容器に収容した形態のリチウム二次電池を例として本発明を詳細に説明する。また、以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略または簡略化することがある。
【0021】
<第1の実施形態>
本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池の概略構成を図1〜3に示す。図1は、リチウム二次電池100を示している。このリチウム二次電池100は、図1に示すように、捲回電極体80と電池ケース50とを備えている。また、図2は、捲回電極体80を示す図である。図3は、図2中のIII−III断面を示している。
【0022】
このリチウム二次電池100は、長尺状の正極シート10と長尺状の負極シート20とが長尺状のセパレータシート40A、40Bを介して扁平に捲回された形態の電極体(捲回電極体)80が、図示しない非水電解液とともに、該捲回電極体80を収容し得る形状(扁平な箱型)の電池ケース50に収容された構成を有する。
【0023】
電池ケース50は、上端が開放された扁平な直方体状のケース本体52と、その開口部を塞ぐ蓋体54とを備える。電池ケース50を構成する材質としては、アルミニウム、スチール等の金属材料が好ましく用いられる(本実施形態ではアルミニウム)。あるいは、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリイミド樹脂等の樹脂材料を成形してなる電池ケース50であってもよい。電池ケース50の上面(すなわち蓋体54)には、捲回電極体80の正極と電気的に接続する正極端子70と、該電極体80の負極20と電気的に接続する負極端子72とが設けられている。
【0024】
電池ケース50の内部には、電池ケースの内圧上昇により作動する電流遮断機構30が設けられている。電流遮断機構30は、電池ケース50の内圧が後述するガス発生材からのガス発生により上昇した場合に、少なくとも一方の電極端子から電極体80に至る導電経路を切断することで充電電流を遮断し得るように構成されている。この実施形態では、電流遮断機構30は、蓋体54に固定した正極端子70と電極体80との間に設けられ、電池ケース50の内圧が上昇した場合に正極端子70から電極体80に至る導電経路を切断するように構成されている。
【0025】
上記電流遮断機構30は、例えば導通部材32、34を含み得る。この実施形態では、導通部材32、34は、第一部材32と第二部材34とを備えている。そして、電池ケース50の内圧が上昇した場合に第一部材32および第二部材34の少なくとも一方(ここでは第一部材32)が変形して他方から離隔することにより上記導電経路を切断するように構成されている。この実施形態では、第一部材32は変形金属板32であり、第二部材34は上記変形金属板32に接合された接続金属板34である。変形金属板(第一部材)32は、中央部分が下方へ湾曲したアーチ形状を有し、その周縁部分が集電リード端子35を介して正極端子70の下面と接続されている。また、変形金属板32の湾曲部分33の先端が接続金属板34の上面と接合されている。接続金属板34の下面(裏面)には正極集電板74が接合され、かかる正極集電板74が電極体80の正極シート10に接続されている。このようにして、正極端子70から電極体80に至る導電経路が形成されている。
【0026】
また、電流遮断機構30は、プラスチック等により形成された絶縁ケース38を備えている。絶縁ケース38は、変形金属板32を囲むように設けられ、変形金属板32の上面を気密に密閉している。この気密に密閉された湾曲部分33の上面には、電池ケース50の内圧が作用しない。また、絶縁ケース38は、変形金属板32の湾曲部分33を嵌入する開口部を有しており、該開口部から湾曲部分33の下面を電池ケース50の内部に露出させている。この電池ケース50の内部に露出した湾曲部分33の下面には、電池ケース50の内圧が作用する。
【0027】
かかる構成の電流遮断機構30において、電池ケース50の内圧が高まると、該内圧が変形金属板32の湾曲部分33の下面に作用し、下方へ湾曲した湾曲部分33が上方へ押し上げられる。この湾曲部分33の上方への押し上げ力は、電池ケース50の内圧が上昇するに従い増大する。そして、電池ケース50の内圧が設定圧力を超えると、湾曲部分33が上下反転し、上方へ湾曲するように変形する。かかる湾曲部分33の変形によって、変形金属板32と接続金属板34との接合点36が切断される。このことにより、正極端子70から電極体80に至る導電経路が切断され、充電電流が遮断されるようになっている。なお、この実施形態では、内圧上昇時に変形する導通部材32、34が、第一部材32と第二部材34とに分けて構成されている場合を例示したが、これに限定されない。例えば、導通部材が1つの部材であってもよい。また、電流遮断機構30は正極端子70側に限らず、負極端子72側に設けてもよい。また、電流遮断機構30は、上述した変形金属板32の変形を伴う機械的な切断に限定されない。例えば、電池ケース50の内圧をセンサで検知し、該センサで検知した内圧が設定圧力を超えると充電電流を遮断するような外部回路を電流遮断機構として設けることもできる。
【0028】
電池ケース50の内部には、扁平形状の捲回電極体80が図示しない非水電解液とともに収容される。本実施形態に係る捲回電極体80は、後述のようにマイクロカプセルが保持された正極シートを用いて構築されている点を除いては通常のリチウム二次電池の捲回電極体と同様であり、図2に示すように、捲回電極体80を組み立てる前段階において長尺状(帯状)のシート構造(シート状電極体)82を有している。
【0029】
正極シート10は、長尺状の金属箔からなる正極集電体(以下「正極集電箔」と称する)12の両面に、正極活物質を含む正極活物質層14が保持された構造を有している。ただし、正極活物質層14は正極シート10の幅方向の端辺に沿う一方の側縁(図では左側の側縁部分)には付着されず、正極集電体12を一定の幅にて露出させた正極活物質層非形成部16が形成されている。
【0030】
負極シート20も正極シート10と同様に、長尺シート状の箔状の負極集電体(以下「負極集電箔」と称する)22の両面に負極活物質を含む負極活物質層24が保持された構造を有している。ただし、負極活物質層24は負極シート20の幅方向の端辺に沿う一方の側縁(図では右側の側縁部分)には付着されず、負極集電体22を一定の幅にて露出させた負極活物質層非形成部26が形成されている。
【0031】
捲回電極体80を作製するに際しては、正極シート10と負極シート20とがセパレータシート40A、40Bを介して積層される。このとき、正極シート10の正極活物質層非形成部分16と負極シート20の負極活物質層非形成部分26とがセパレータシート4040A、40Bの幅方向の両側からそれぞれはみ出すように、正極シート10と負極シート20とを幅方向にややずらして重ね合わせる。このとうに重ね合わせた積層体を捲回し、次いで得られた捲回体を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって扁平状の捲回電極体80が作製され得る。このようにシートの積層物(シート状電極体)を捲回した後に扁平に押しつぶす態様に代えて、例えば上記積層物を当初から扁平な形状(略長円状、楕円形等)に捲回してもよい。
【0032】
捲回電極体80の捲回軸方向における中央部分には、捲回コア部分82(即ち正極シート10の正極活物質層14と負極シート20の負極活物質層24とセパレータシート40A、40Bとが密に積層された部分)が形成される。また、捲回電極体80の捲回軸方向の両端部では、正極シート10および負極シート20の電極活物質層非形成部分16、26の一部がそれぞれ捲回コア部分82から外方にはみ出ている。かかる正極側はみ出し部分84および負極側はみ出し部分86には、正極リード端子74および負極リード端子76がそれぞれ付設されており、上述の正極端子70および負極端子72とそれぞれ電気的に接続される。
【0033】
かかる捲回電極体80を構成する構成要素は、正極シート10を除いて、従来のリチウム二次電池の捲回電極体と同様でよく、特に制限はない。例えば、負極シート20は、長尺状の負極集電体22の上にリチウム二次電池用負極活物質を主成分とする負極活物質層24が付与されて形成され得る。負極集電体22には銅箔その他の負極に適する金属箔が好適に使用される。負極活物質は従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。好適例として、グラファイトカーボン、アモルファスカーボン等の炭素系材料、リチウム含有遷移金属酸化物や遷移金属窒化物等が挙げられる。
【0034】
正極シート10は、長尺状の正極集電体12の上にリチウム二次電池用正極活物質を主成分とする正極活物質層14が付与されて形成され得る。正極集電体12にはアルミニウム箔その他の正極に適する金属箔が好適に使用される。
【0035】
正極活物質としては、従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。ここに開示される技術の好ましい適用対象として、リチウムニッケル酸化物(例えばLiNiO)、リチウムコバルト酸化物(例えばLiCoO)、リチウムマンガン酸化物(例えばLiMn)等の、リチウムと遷移金属元素とを構成金属元素として含む酸化物(リチウム遷移金属酸化物)を主成分とする正極活物質が挙げられる。中でも、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(例えばLiNi1/3Co1/3Mn1/3)を主成分とする正極活物質(典型的には、実質的にリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物からなる正極活物質)への適用が好ましい。
【0036】
ここで、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物とは、Li,Ni,Co及びMnのみを構成金属元素とする酸化物のほか、Li,Ni,Co及びMn以外に他の少なくとも一種の金属元素(すなわち、Li,Ni,Co及びMn以外の遷移金属元素および/または典型金属元素)を含む酸化物をも包含する意味である。かかる金属元素は、例えば、Al,Cr,Fe,V,Mg,Ti,Zr,Nb,Mo,W,Cu,Zn,Ga,In,Sn,LaおよびCeからなる群から選択される一種または二種以上の元素であり得る。リチウムニッケル酸化物、リチウムコバルト酸化物、及びリチウムマンガン酸化物についても同様である。
【0037】
このようなリチウム遷移金属酸化物(典型的には粒子状)としては、例えば、従来公知の方法で調製されるリチウム遷移金属酸化物粉末をそのまま使用することができる。例えば、平均粒径が凡そ1μm〜25μmの範囲にある二次粒子によって実質的に構成されたリチウム遷移金属酸化物粉末を正極活物質として好ましく用いることができる。
【0038】
正極活物質層14は、正極活物質のほか、一般的なリチウム二次電池において正極活物質層の構成成分として使用され得る一種または二種以上の材料を必要に応じて含有することができる。そのような材料の例として、導電材が挙げられる。該導電材としてはカーボン粉末やカーボンファイバー等のカーボン材料が好ましく用いられる。あるいは、ニッケル粉末等の導電性金属粉末等を用いてもよい。その他、正極活物質層の成分として使用され得る材料としては、正極活物質の結着剤(バインダ)として機能し得る各種のポリマー材料が挙げられる。
【0039】
特に限定するものではないが、正極活物質層全体に占める正極活物質の割合は凡そ50質量%以上(典型的には50〜95質量%)であることが好ましく、凡そ75〜90質量%であることが好ましい。また、導電材を含む組成の正極活物質層では、該正極活物質層に占める導電材の割合を例えば3〜25質量%とすることができ、凡そ3〜15質量%であることが好ましい。また、正極活物質および導電材以外の正極活物質層形成成分(例えばポリマー材料)を含有する場合は、それら任意成分の合計含有割合を凡そ7質量%以下とすることが好ましく、凡そ5質量%以下(例えば凡そ1〜5質量%)とすることが好ましい。
【0040】
上記正極活物質層14の形成方法としては、正極活物質(典型的には粒状)その他の正極活物質層形成成分を適当な溶媒(例えば、N−メチルピロリドン(NMP)等の非水溶媒)に分散した正極活物質層形成用ペーストを、正極集電体12の片面または両面(ここでは両面)に帯状に塗布して乾燥させる方法を好ましく採用することができる。正極活物質層形成用ペーストの乾燥後、適当なプレス処理(例えば、ロールプレス法、平板プレス法等の従来公知の各種プレス方法を採用することができる。)を施すことによって、正極活物質層14の厚みや密度を調整することができる。
【0041】
正負極シート10、20間に配置されるセパレータシート40A、40Bとしては、捲回電極体を備える一般的なリチウム二次電池のセパレータと同様の各種多孔質シートを用いることができる。好適例として、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂から成る多孔質樹脂シート(フィルム、不織布等)が挙げられる。かかる多孔質樹脂シートは、単層構造であってもよく、二層以上の複数構造(例えば、PP層の両面にPE層が積層された三層構造)であってもよい。特に限定されるものではないが、セパレータ基材として用いられる好ましい多孔質シート(典型的には多孔質樹脂シート)の性状として、平均孔径が0.001μm〜30μm程度であり、厚みが5μm〜100μm(より好ましくは10μm〜30μm)程度である多孔質樹脂シートが例示される。該多孔質シートの気効率(空隙率)は、例えば凡そ20〜90体積%(好ましくは30〜80体積%)程度であり得る。
【0042】
続いて、図4を加えて、本実施形態に係る正極シート10について詳細に説明する。図4は、本実施形態に係る捲回電極体80の捲回軸に沿う断面の一部を拡大して示す模式的断面図であって、正極集電体12およびその一方の側に形成された正極活物質層14と、その正極活物質層14に対向するセパレータシート40Aとを示したものである。
【0043】
本実施形態に係るリチウム二次電池では、電池ケースに収容される電極体80を構成する正極シート10として、ケース内の温度が上昇した場合にガスを発生するガス発生材64を内包したマイクロカプセル62が正極活物質層14に保持されたものを使用する。
【0044】
かかる正極活物質層14に保持されるマイクロカプセル62は、内包物を外殻により被覆した直径がマイクロメートルオーダー(即ち直径が1μm〜1000μm)又はそれ以下のサイズ(即ち直径が1μm以下であるナノオーダー)の微小な粒子である。外殻を構成し得る材料として、アクリル鎖、オレフィン鎖、メチレン鎖、パラフィン鎖等を含む構造のポリマーが例示される。このような外殻を備えたマイクロカプセルおよびその製法自体は従来公知のものを適用することができる。例えば、マイクロカプセルの内包物を溶媒(例えば水)に添加してミキサーにて攪拌・乳化した後、外郭材料を投入し、その後、攪拌しながら冷却し、吸引濾過、乾燥工程を経てマイクロカプセルとすることができる。
【0045】
上記マイクロカプセルには、電池ケース内の温度が上昇した場合にガスを発生するガス発生材が内包されている。ガス発生材としては、電池ケース内の温度が上昇したときに、ガスを発生し得るものであれば特に制限なく使用することができる。例えば、沸点が70℃以上の液体を好ましく採用し得る。上記液体の例として、例えばフッ素系液体が挙げられる。ここでフッ素系液体とは、構成元素としてフッ素(F)を含む溶剤(典型的には有機溶剤)を指す。フッ素系液体としては、例えば、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン(沸点82.5℃)、1,1,2,2,3,4,4−オクタフルオロシクロペンタン(沸点79℃)等、が例示される。かかる液体は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。ここに開示される技術に好ましく使用し得るフッ素系液体の市販品として、日本ゼオン株式会社製の「ゼオローラH(登録商標)」シリーズが例示される。
【0046】
上記マイクロカプセルに内包されるガス発生材は上記液体に限らず固形物であってもよい。例えば、ガスを吸着した吸着材を好ましく採用し得る。上記吸着材の例として、例えばゼオライトが挙げられる。ガスを吸着した吸着材をマイクロカプセル材質で被覆し、電池ケース内の温度が上昇したときに吸着材からガスが脱着することで、ガスが発生するように構成してもよい。この場合、該マイクロカプセルを電池ケース内の所定位置に配置する操作(工程)のときにマイクロカプセルが破壊されにくくなるというメリットがある。
【0047】
マイクロカプセルの形状(外形)は特に制限されない。ガス発生材(例えばフッ素系液体)を内包する体積効率、強度、製造容易性等の観点から、通常は、略球形のマイクロカプセルを好ましく使用し得る。また、マイクロカプセルのサイズ(粒径)は、正極活物質層14の厚みと同程度またはより小さいことが好ましい。例えば、平均粒径が凡そ10μm以下のマイクロカプセルの使用が好ましく、より好ましくは凡そ5μm以下であり、凡そ1μm以下であってもよい。マイクロカプセルの粒径が大きすぎると、該カプセルが邪魔になって電極体の構成要素に局部的な応力が加わりやすくなることがある。一方、マイクロカプセルの粒径が小さすぎると、使用量の割に内包されるガス発生材の量が少なくなって非効率であるため、通常は、平均粒径が凡そ0.05μm以上(例えば0.1μm以上)のマイクロカプセルを用いることが好ましい。なお、マイクロカプセルの平均粒径は当該分野で公知の方法、例えばレーザ回折散乱法に基づく測定、或いは電子顕微鏡観察によって求めることができる。
【0048】
本実施形態に係るリチウム二次電池は、このようなマイクロカプセル62が正極活物質層14に保持された正極シート10を備える。例えば図4に示すように、正極シート10の好ましい構成例として、正極活物質層14の内部にマイクロカプセル62が埋め込まれることで該カプセルが正極シートに保持された構成が挙げられる。この場合、マイクロカプセル62は正極活物質層に埋め込まれているので、該カプセル62が正極シート10から脱落したり、重力や加速度によって正極シートの面方向に変位したりする事象を抑制することができる。このような正極活物質層に埋め込まれたマイクロカプセル62は、例えば、上述した正極活物質層形成用ペーストにマイクロカプセル62を添加することにより作製することができる。かかる正極活物質層形成用ペーストを正極集電体12に塗布して乾燥させることにより、マイクロカプセル62を含む正極活物質層14が形成される。この場合、上記乾燥温度は40℃以下(好ましくは室温)であることが好ましい。
【0049】
正極シート10の他の好ましい構成例として、正極活物質層の細孔内にマイクロカプセルに入りこむことで該カプセルが正極シートに保持された構成が挙げられる。正極シート10は、例えば、二次粒子によって実質的に構成された正極活物質粒子18を有しており、該正極活物質粒子18同士は図示しない結着剤により相互に固着されている。また、正極活物質層14は、該正極活物質層内に非水電解液を浸透させる空間(細孔)15を有しており、該空間(細孔)15は、例えば、相互に固着された正極活物質粒子18間の空隙等により形成され得る。かかる空間(細孔)15にマイクロカプセル62が入りこむことで該カプセルが正極シートに保持された構成を実現することができる。かかる構成によると、電解液とマイクロカプセル62とを十分によく接触させることができる。この場合、マイクロカプセルの粒径は、正極活物質層の細孔径と同程度が、該細孔径よりも小さいことが好ましい。
【0050】
かかる構成の正極シート10を備えた捲回電極体80をケース本体52に収容し、そのケース本体52内に適当な非水電解液を配置(注液)する。ケース本体52内に上記捲回電極体80と共に収容される非水電解液としては、従来のリチウム二次電池に用いられる非水電解液と同様のものを特に限定なく使用することができる。かかる非水電解液は、典型的には、適当な非水溶媒に支持塩を含有させた組成を有する。上記非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)等を用いることができる。また、上記支持塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiAsF、LiCFSO等のリチウム塩を好ましく用いることができる。例えば、ECとEMCとDMCとを3:4:3の体積比で含む混合溶媒に支持塩としてのLiPFを約1mol/リットルの濃度で含有させた非水電解液を好ましく用いることができる。
【0051】
上記非水電解液を捲回電極体80とともにケース本体52に収容し、ケース本体52の開口部を蓋体54との溶接等により封止することにより、本実施形態に係るリチウム二次電池100の構築(組み立て)が完成する。なお、ケース本体52の封止プロセスや電解液の配置(注液)プロセスは、従来のリチウム二次電池の製造で行われている手法と同様にして行うことができる。その後、該電池のコンディショニング(初期充放電)を行う。必要に応じてガス抜きや品質検査等の工程を行ってもよい。
【0052】
本実施形態に係るリチウム二次電池100の機能につき、図5(a)〜(c)を参照しつつ説明する。図5(a)に示すように、正極集電体12上に正極活物質層14を有する正極シート10を備え、正極シート10の正極活物質層14には、マイクロカプセル62が保持されている。マイクロカプセル62には、電池ケース内の温度が上昇したときにガスを発生するガス発生材(ここでは沸点70℃以上の液体)64が内包されている。
【0053】
かかる構成の電池において、正常時(すなわち電池が通常の充放電範囲で使用されている間)には、図5(a)に示すように、ガス発生材64がマイクロカプセル62に内包されているので、ガス発生材64と他の電池構成材料(例えば電解液)との接触が避けられる。そのため、ガス発生材が他の電池構成材料と接触することによる悪影響(例えば出力特性の低下やサイクル劣化など)を回避することができる。また、かかる構成の電池において電池に過充電が生じると、図5(b)に示すように、電池ケース内の温度が上昇し、マイクロカプセル62に内包されたガス発生材64が気化する。ガス発生材64が気化するときに周囲から熱を奪うので、電池の高温部分を冷却することができる。そして、図5(c)に示すように、マイクロカプセル62の外殻が内圧上昇に耐えきれずに破裂すると、ガス発生材64から生じたガス(この例では気化したガス)が電池ケース内に放出され、電池ケースの内圧が一気に上昇する。これにより電流遮断機構30(図1)を適切に作動させることができる。したがって、本実施形態の構成によると、正常時の電池性能を良好に保ちつつ、過充電時にガスを有効に発生して電流遮断機構を的確に作動させ得るリチウム二次電池が実現され得る。
【0054】
なお、マイクロカプセル62には、ガス発生材64の他に、過充電時に過充電電流の抵抗体として作用する物質(過充電抑制剤)を必要に応じて内包させることができる。過充電抑制剤としては、過充電時に過充電電流の抵抗体として作用するものであれば特に制限なく使用することができる。例えば、電解液の分解電位よりも酸化電位が低い化合物を好ましく採用し得る。上記化合物の好適例として、アルキルベンゼン誘導体、シクロアルキルベンゼン誘導体などの芳香族化合物が挙げられる。アルキルベンゼン誘導体としては、クメン、1,3−ジイソプロピルベンゼン、1,4−ジイソプロピルベンゼン、1−メチルプロピルベンゼン、1,3−ビス(1−メチルプロピル)ベンゼン、1,4−ビス(1−メチルプロピル)ベンゼン等、が例示される。また、シクロアルキルベンゼン誘導体としては、シクロヘキシルベンゼン(CHB)、シクロペンチルベンゼン等、が例示される。かかる化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。上記化合物は、電池が過充電になると、正極(典型的には正極活物質の表面)において速やかに酸化分解されて活物質表面に高抵抗の皮膜(重合物)を生成する。この皮膜は過充電電流の抵抗体として作用する。なお、上記化合物は、上記の酸化分解反応によりガスを発生する。すなわち、上記化合物は、酸化分解によりガスを発生させる第2のガス発生材としても機能する。そのため、前述したガス発生材(気化によりガスを発生する第1のガス発生材、例えばフッ素系液体)からガスが発生することと合せて、電池ケース内により多くのガスを効率よく発生させることができる。
【0055】
上記化合物(過充電抑制剤)は、マイクロカプセル62に内包する態様だけでなく、電解液に直接添加混合することもできる。ただし、上記化合物を電解液に直接添加混合すると、該化合物が抵抗成分として働くため、電池性能が低下する要因になり得る。本構成によると、上記化合物の一部をマイクロカプセル62に内包することにより、上記化合物全部を電解液に添加混合する場合に比べて、同程度の過充電抑制剤効果を保ちつつ、電池性能の低下を抑制することができる。
【0056】
上記実施形態では、ガス発生材内包マイクロカプセル62を保持した正極シートを用いることにより電池ケース内にカプセルが配置された構成のリチウム二次電池100について説明したが、電池ケース内にマイクロカプセルを配置する態様はこれに限定されない。例えば、上述した正極シートと同様にして、マイクロカプセルが保持された負極シートを作製することができる。あるいは、正極シートおよび/または負極シートとセパレータシートとの間にマイクロカプセルが挟まれた構成の電極体としてもよい。かかる構成の電極体は、例えば、正極シートの上にマイクロカプセルを散布し、その上にセパレータシートを積層することにより、正極シートとセパレータシートとの間にマイクロカプセルを配置することができる。これらの態様のうち、上述した過充電抑制剤による酸化分解反応は主として正極活物質表面で起こることから、上記実施形態の如くマイクロカプセルを正極シートに保持させた態様を好ましく採用することができる。
【0057】
続いて、以下に、本発明に係る別の実施形態を示す。なお、上述したように、既述の第1の実施形態と同一構成部分については同一の符号を付してその構成の説明を省略する。
【0058】
<第2の実施形態>
まず、図6を参照しつつ本発明に係る第2の実施形態について説明する。この実施形態では、図6に示すように、マイクロカプセル62がセパレータ40に保持されている点において、上述した第1の実施形態とは相違する。すなわち、本実施形態に係るリチウム二次電池では、正極シートおよび負極シートと重ね合わせて電極体80を構成するセパレータシート40として、ガス発生材64を内包するマイクロカプセル62がセパレータ基材に保持されたものを使用する。かかる構成によると、塗工、乾燥時の破裂を防ぐことができるというメリットがある。即ち、第1の実施形態のように、マイクロカプセルを正極活物質層に保持する場合は、正極活物質層形成用ペーストにマイクロカプセルを添加し、かかる正極活物質層形成用ペーストを正極集電体に塗布して乾燥させる必要があるが、その際、マイクロカプセルが破裂する可能性がある。これに対し、マイクロカプセルをセパレータに保持する場合は、セパレータ上にマイクロカプセルを散布してセパレータ孔内に入れるだけでよく、上記のような塗工、乾燥時の破裂を防ぐことができる。電極体を構成する2枚のセパレータシートのうち1枚にのみマイクロカプセルを保持させてもよく、2枚ともに保持させてもよい。
【0059】
上記セパレータ基材としては、前述したとおり、捲回電極体を備えるリチウム二次電池のセパレータと同様の各種多孔質シートを用いることができる。好適例として、ポリエチレン(PP)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂から成る多孔質樹脂シート(フィルム、不織布等)が挙げられる。かかる多孔質樹脂シートは、単層構造であってもよく、二層以上の複数構造(例えば、PP層の両面にPE層が積層された三層構造)であってもよい。特に限定されるものではないが、セパレータ基材として用いられる好ましい多孔質シート(典型的には多孔質樹脂シート)の性状として、平均孔径が0.001μm〜30μm程度であり、厚みが5μm〜100μm(より好ましくは10μm〜30μm)程度である多孔質樹脂シートが例示される。該多孔質シートの気効率(空隙率)は、例えば凡そ20〜90体積%(好ましくは30〜80体積%)程度であり得る。
【0060】
本実施形態に係るリチウム二次電池は、このようなセパレータ基材にマイクロカプセル62が保持されたセパレータシート40を備える。例えば、セパレータシート40の好ましい構成例として、セパレータ基材として多孔質シート(単層でも複層でもよい。)を用い、該多孔質シートの細孔にマイクロカプセル62が引っ掛かることで該カプセルがセパレータシートに保持された構成が挙げられる。例えば、多孔質シートを弾性的に引き伸ばした状態(細孔を広げた状態)で該シートにマイクロカプセルを供給し(例えばシート上にマイクロカプセルを散布し)、次いで上記引き伸ばしを解除して多孔質シートを元の形状に収縮させることにより、該シートの細孔にマイクロカプセル62が保持された構成を簡単に実現することができる。この場合、マイクロカプセルの粒径は、セパレータシートを構成する多孔質シートの細孔径と同程度か、該細孔径よりも大きいことが好ましい。このことによって、接着や融着等の手段を特に用いなくても、セパレータシートからマイクロカプセルが脱落する事象を適切に防止することができる。
【0061】
正極シート10の他の好ましい構成例として、PP層の両面に第1PE層および第2PE層が積層された三層構造の多孔質樹脂シートからなるセパレータ基材を備え、該樹脂シートの層間にマイクロカプセル62が挟み込まれたセパレータシート40を好ましく使用することができる。かかる構成によると、マイクロカプセル62はセパレータの内部に配置(内臓)されているので、該カプセル62が正極シートから脱落したり、重力や加速度によって正極シートの面方向に変位したりする事象を抑制することができる。
【0062】
<第3の実施形態>
図7(a)及び(b)を参照しつつ本発明に係る第3の実施形態について説明する。この実施形態では、図7(a)及び(b)に示すように、マイクロカプセル62が捲回電極体80の捲回中心部85に配置されている点において、上述した第1及び第2の実施形態とは相違する。すなわち、本実施形態に係るリチウム二次電池では、正極シート10と負極シート20とをセパレータシート40A、40Bを間に挟んで積層し、このシート状電極体(積層体)を巻き取ることにより捲回電極体80を形成する。この捲回電極体80の捲回中心部85にマイクロカプセル62が配置されている。かかる構成によると、温度上昇時に熱が籠りやすい捲回電極体80の径方向中心部付近にマイクロカプセルが配置されるので、電池の高温部分をより効果的に冷却することができる。
【0063】
上記捲回電極体80の捲回中心部85へのマイクロカプセル62の配置は、例えば多孔質のシート状物体(以下、多孔質シートという)66にマイクロカプセル62を保持させた後、該多孔質シート66を捲回電極体80の捲回中心部85に配置することにより行われる。好ましい構成例として、多孔質シート66の細孔にマイクロカプセル62が引っ掛かることで該カプセルが保持された構成が挙げられる。例えば、多孔質シート66を弾性的に引き伸ばした状態(細孔を広げた状態)で該多孔質シート66にマイクロカプセル62を供給し(例えば多孔質シート66上にマイクロカプセル62を散布し)、次いで上記引き伸ばしを解除して多孔質シート66を元の形状に収縮させることにより、該多孔質シート66の細孔にマイクロカプセル62が保持された構成を簡単に実現することができる。かかるマイクロカプセル62が保持された多孔質シート66を捲回電極体80の捲回中心部85に挿入することにより、マイクロカプセル62を捲回電極体80の捲回中心部85に配置することができる。この場合、マイクロカプセルの粒径は、多孔質シートの細孔径と同程度か、該細孔径よりも大きいことが好ましい。このことによって、接着や融着等の手段を特に用いなくても、多孔質シートからマイクロカプセルが脱落する事象を適切に防止することができる。
【0064】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。
【0065】
(実施例1)
<マイクロカプセル>
マイクロカプセルに内包されるガス発生材(添加剤)として、フッ素系不活性液体(日本ゼオン株式会社製のゼオローラH(沸点83℃))を使用した。このフッ素系液体を水中に投入し、ミキサーにて攪拌・乳化した後、外殻材料としてのパラフィンワックスを溶融状態で投入した。その後、攪拌しながら冷却し、吸引濾過、乾燥工程を経て、上記フッ素系液体が外殻で被覆されたガス発生材内包マイクロカプセル(レーザ回折散乱法に基づく平均粒径10μm)を得た。このガス発生材内包マイクロカプセルを電池ケース内に配置して、試験用リチウム二次電池を作製した。試験用リチウム二次電池の作製は、以下のようにして行った。
【0066】
<正極シート>
本例では、ガス発生材内包マイクロカプセル62が正極シート10に保持された構成のリチウム二次電池100を作製した。具体的には、正極活物質としてのLiNi1/3Co1/3Mn1/3粉末と、アセチレンブラック(導電材)と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、これらの材料の質量比が87:10:3となり且つ固形分濃度が約50質量%となるようにN−メチルピロリドン(NMP)と混合して、正極活物質層形成用ペーストを調製した。この正極活物質層形成用ペーストにガス発生材内包マイクロカプセル62を添加した後、長尺状のアルミニウム箔(正極集電体12)に塗布し自然乾燥させることにより、正極集電体12の両面にガス発生材内包マイクロカプセル62を含む正極活物質層14が設けられた正極シート10を作製した。正極活物質層用ペーストの塗布量は、両面合わせて約10mg/cm(固形分基準)となるように調節した。
【0067】
<負極シート>
負極活物質としてのグラファイト粉末と、スチレンブタジエンゴム(SBR)と、カルボキシメチルセルロース(CMC)とを、これらの材料の質量比が98:1:1となるように水に分散させて負極活物質層形成用ペーストを調製した。この負極活物質層形成用ペーストを長尺状の銅箔(負極集電体22)の両面に塗布して乾燥することにより、負極集電体22の両面に負極活物質層24が設けられた負極シート20を作製した。
【0068】
<リチウム二次電池>
正極シート10及び負極シート20を2枚のセパレータシート(多孔質ポリエチレン製の単層構造のものを使用した。)40を介して捲回し、この捲回体を側面方向から押しつぶすことによって扁平状の捲回電極体80を作製した。このようにして得られた捲回電極体80を非水電解液とともに箱型の電池ケース50に収容し、電池ケース50の開口部を気密に封口した。非水電解液としてはECとEMCとDMCとを3:4:3の体積比で含む混合溶媒に支持塩としてのLiPFを約1mol/リットルの濃度で含有させた非水電解液を使用した。正極端子70と捲回電極体80との間には、図1に示す電流遮断機構30を設置した。このようにしてリチウム二次電池100を組み立てた。その後、常法により初期充放電処理(コンディショニング)を行って、試験用のリチウム二次電池を得た。
【0069】
(実施例2)
マイクロカプセル62に内包されるガス発生材(添加剤)として、フッ素系液体に加えてCHBを用いたこと、および、該マイクロカプセルをセパレータシート40A,40Bに保持させたこと以外は実施例1と同様にして試験用リチウム二次電池を作製した。
【0070】
(実施例3)
捲回電極体80の捲回中心部85にガス発生材内包マイクロカプセルを配置したこと以外は実施例1と同様にして試験用リチウム二次電池を作製した。
【0071】
(比較例1)
実施例1と同量のフッ素系不活性液体を、マイクロカプセル62に内包させずに電解液中に添加してリチウム二次電池100を作製した。
【0072】
(比較例2)
実施例2と同量のフッ素系液体及びCHBを、マイクロカプセル62に内包させずに電解液中に添加してリチウム二次電池100を作製した。
【0073】
(比較例3)
実施例3と同量のフッ素系液体を、マイクロカプセル62に内包させずに電解液中に添加してリチウム二次電池100を作製した。
【0074】
<IV抵抗試験>
実施例1〜3及び比較例1〜3に係るリチウム二次電池のそれぞれに対し、室温(約25℃)環境雰囲気下において、定電流定電圧(CC−CV)充電によって各電池をSOC(State of Charge)60%の充電状態に調整した。その後、25℃にて、10Cの電流値で10秒間の放電を行い、放電開始から10秒後の電圧降下量からIV抵抗を算出した。その結果を表1に示す。
【0075】
<過充電試験>
さらに、実施例1〜3及び比較例1〜3に係るリチウム二次電池を別途用意し、それぞれの電池に対し、過充電試験を行った。過充電試験は、室温(約25℃)環境雰囲気下において、3Cの電流値にて10Vに達するまで充電した。そして、電流遮断機構30の作動を調べた。結果を表1に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
表1から明らかなように、ガス発生材をマイクロカプセルに内包させた実施例1〜3に係る電池では、上記過充電試験において、10Vに到達する前に電流遮断機構が作動して充電電流が遮断されたので、ここで過充電試験を終了した。すなわち、これらの電池では、過充電の進行に伴い、ガス発生材から放出されたガスにより、電池ケースの内圧が上昇し、電流遮断機構が作動した。また、これら実施例1〜3に係る電池のIV抵抗値は、1200mΩ以下という低い値を達成できた。
一方、ガス発生材(フッ素系液体)が電解液中に添加された比較例1、3に係る電池は、上記過充電試験において、電流遮断機構が作動することなく電圧が10Vに到達したので、ここで過充電試験を終了した。該過充電試験終了直後の比較例1、3に係る電池の温度は、実施例1〜3に係る電池の電流遮断機構作動直後に比べて高くなっていた。また、
フッ素系液体に加えてCHBが電解液中に添加された比較例2に係る電池では、酸化分解によりCHBからもガスが発生したため、上記過充電試験において10Vに到達する前に電流遮断機構が作動したものの、IV抵抗値は実施例1〜3に係る電池に比べて大きく低下した。以上の結果から、ガス発生材をマイクロカプセルに内包させることにより、通常時(すなわち電池が通常の充放電範囲で使用されている間)の電池性能を良好に維持しつつ、過充電時にガスを有効に発生し得るリチウム二次電池を実現できることが確認できた。
【0078】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。
例えば、上記の実施形態は、二次電池の典型例として、リチウム二次電池について説明したが、この形態の二次電池に限定されない。例えば、リチウムイオン以外の金属イオン(例えばナトリウムイオン)を電荷担体とする二次電池や、リチウムイオンキャパシタ等の電気二重層キャパシタ(物理電池)であってもよい。
本発明に係る電池100は、上記のとおり良好な電池性能を示すことから、特に自動車等の車両に搭載されるモーター(電動機)用電源として好適に使用し得る。したがって本発明は、図8に模式的に示すように、かかるリチウム二次電池100(典型的には複数直列接続してなる組電池)を電源として備える車両(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車のような電動機を備える自動車)1を提供する。
【符号の説明】
【0079】
1 車両
10 正極シート
12 正極集電体
14 正極活物質層
16 正極活物質層非形成部分
18 正極活物質粒子
20 負極シート
22 負極集電体
24 負極活物質層
26 負極活物質層非形成部分
30 電流遮断機構
32 変形金属板(導通部材;第一部材)
34 接続金属板(導通部材;第二部材)
40A、40B セパレータシート
50 電池ケース
52 ケース本体
54 蓋体
62 マイクロカプセル
64 ガス発生材
70 正極端子
72 負極端子
74 正極リード端子
76 負極リード端子
80 捲回電極体
82 捲回コア部分
85 捲回中心部
100 電池


【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極及び負極を備える電極体と、
前記電極体を収容する電池ケースと
を備えた二次電池であって、
前記電池ケースの内部に配置されたマイクロカプセルと、
前記マイクロカプセルに内包され、前記電池ケース内の温度が上昇した場合にガスを発生させるガス発生材と、
前記電池ケースの内圧が前記ガス発生材からのガス発生により上昇した場合に作動する電流遮断機構と
を備える、二次電池。
【請求項2】
前記ガス発生材は、フッ素系液体である、請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記ガス発生材は、沸点70℃以上の液体である、請求項1または2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記マイクロカプセルには、過充電抑制剤が内包されている、請求項1〜3の何れか一つに記載の二次電池。
【請求項5】
前記過充電抑制剤は、アルキルベンゼン誘導体及び/又はシクロアルキルベンゼン誘導体である、請求項4に記載の二次電池。
【請求項6】
前記正極は、正極集電体と正極活物質層とを備え、
前記マイクロカプセルの少なくとも一部は、前記正極活物質層に保持されている、請求項1〜5の何れか一つに記載の二次電池。
【請求項7】
前記電極体は、正極及び負極間を隔離するセパレータを備え、
前記マイクロカプセルの少なくとも一部は、前記セパレータに保持されている、請求項1〜6の何れか一つに記載の二次電池。
【請求項8】
前記電極体は、シート状の前記正極とシート状の前記負極とが積層されて捲回されてなる捲回電極体であり、
前記マイクロカプセルの少なくとも一部は、前記捲回電極体の捲回中心部に配置されている、請求項1〜7の何れか一つに記載の二次電池。
【請求項9】
前記電極体の正極及び負極には、それぞれ正極端子及び負極端子が電気的に接続されており、
前記電流遮断機構は、前記正極及び負極の少なくとも一方の電極端子から前記電極体に至る導電経路を構成する導通部材を含み、前記ガス発生材からのガス発生により前記電池ケースの内圧が上昇した場合に前記導通部材が変形して前記導電経路を切断するように構成されている、請求項1〜8の何れか一つに記載の二次電池。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−4305(P2013−4305A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134192(P2011−134192)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】