説明

二酸化炭素の固定化方法

【課題】 排熱を伴う排ガス中の二酸化炭素の固定化を、廃コンクリートの再生砂を用いて早期に実現できることを目的とする。
【解決手段】 廃コンクリートを破砕して得た再生砂4を屋内集積し、集積した状態で表面に散水して撹拌し、所定層厚の再生砂4全体を、含水率を10〜15%程度の湿潤状態とする。この湿潤状態の再生砂4に、集積場の下方に配管された排気ガス供給系統を通じて、排熱を伴う排気ガスを供給して前記再生砂4を乾燥する。以後、水分供給・再生砂撹拌と排ガス供給とからなる交互工程を繰り返すことで、再生砂4中に、排気ガス中の二酸化炭素を固定化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二酸化炭素の固定化方法に係り、特に二酸化炭素を含む燃焼排気ガスの排熱を利用して、鉄筋コンクリート建物等を解体した際に発生した廃材コンクリートから再生された砕石中に、前記燃焼排気ガス中の二酸化炭素を固定化するようにした二酸化炭素の固定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化ガスの代表とされている二酸化炭素の排出量を削減するための一技術分野として、二酸化炭素の固定化技術が種々提案されている。
【0003】
たとえば、ゼオライトの有するカチオン交換性を利用して、コンクリート再生材料中に含まれるアルカリ土類イオンと、炭酸イオンとの反応を促進し、安定したアルカリ土類炭酸塩(たとえばCaCO3)等を生成して、二酸化炭素の固定化を図る技術が提案されている(非特許文献1)。
【0004】
また、他の研究報告レベルの先行技術として、廃セメント微粉末のスラリー中に二酸化炭素ガスを吹き込み、水中にセメント成分中のカルシウム成分を抽出後、炭酸カルシウムとして取り出す技術が開示されている(非特許文献2)。
【0005】
他方の見地から、工業プロセスで発生した排ガス(燃焼排気ガス)中の二酸化炭素(CO2)を工業的に除去する方法に利用するCO2吸収材として、スラグやコンクリートを利用する提案されている(特許文献1)
【非特許文献1】財団法人建設経済研究所(RICE)化学研究グループ,“ゼオライトの有する交換性Caイオンを利用したCO2固定化・有効利用技術の開発”,[online],2002年,[平成19年4月25日]<URL:http://www.rite.or.jp/Japanese/kenki/koubo/seika/gaiyou/7eoraito.htm>
【非特許文献2】飯塚淳他3名,「廃コンクリートを用いた新規な二酸化炭素固定プロセス」,化学工学論文集,化学工学論文集,第28巻,第5号(2002年刊行)
【特許文献1】特開2006−75717公報参照。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、非特許文献1に開示された技術では、廃コンクリート中に含有するアルカリ土類イオンを取り出し、天然鉱物であるゼオライトと有するイオン交換性を利用して、水溶液加圧容器内で二酸化炭素の固定化を図ることが前提となっている。そのための加圧、撹拌作業が可能なプラントを必要とする上、排ガスとしての二酸化炭素の導入経路を設ける必要がある。これに対して、非特許文献2に開示されたプロセスでは、ゼオライト等のイオン交換性材料を用いる必要がないが、排ガスとして回収された二酸化炭素を加圧して高圧雰囲気を形成し、その状況下で廃コンクリート中のカルシウム分をカルシウムイオンとして抽出し、さらに水溶液相のみを取り出し、大気圧まで減圧して炭酸カルシウムを得る。このため、装置として高圧力調整が可能なプラントを要する。
【0007】
特許文献1に開示された発明は、本来、鉄鋼製造プロセスでの適用を想定したCO2の除去方法であるため、鉄鋼製造時に発生する各種スラグを主材料として、それにコンクリート等を混合し、所定の湿度を保持した湿空雰囲気の湿空養生下に置くことで、材料に水和膨張を発生させてCO2を固定化することを企図している。また、特許文献1に開示された発明は、これらの材料を湿潤化することで、CO2吸収の効果が高められる点を特徴としている。この点で、本出願の発明者らと、一部、共通の技術的特徴を見出している。
【0008】
本出願の発明者らは、既に、上述の湿潤状態に加え、これらの材料を乾燥状態におく乾湿状態の繰り返し環境下において、CO2吸収が大きく促進されるとの知見を得ている。その知見を踏まえ、本発明の目的は上述した従来の技術では、長期の材料暴露が必要であったという問題点を解消し、排熱を伴う燃焼排気ガスとの接触により、所定の乾湿状態の繰り返し環境の促進を図り、廃コンクリートから再生された砂に、排気ガス中の二酸化炭素を固定化させるようにした、二酸化炭素の固定化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[CO2の固定化のための促進プロセス]
発明者等は、二酸化炭素の固定化において、固定化材料としての廃コンクリートからの再生材料を、通常の通風乾燥状態に置くよりも、乾燥状態と湿潤状態とを交互に発生させるようにすることで、炭酸塩化させるプロセスを早めることができ、その実現のためには、材料を集積保管する際の、材料の乾湿状態の繰り返し条件を適切に設定することの重要性を認識している。
【0010】
また、排熱を伴う排気ガスでは排熱からの熱供給により、湿潤状態にある材料の乾燥促進を実現することができる。そこで、乾湿状態の繰り返しの促進に排熱を利用することにより、従来の大気中の二酸化炭素の固定化に比べて、排気ガス中の二酸化炭素の固定化の方が高い効果を上げることが確認された。本発明は、排熱を伴う排ガス中の二酸化炭素の固定化を、廃コンクリートの再生材料等を用いて早期に実現できるという促進プロセスの考え方に基づいている。
【0011】
本発明は、上述の知見に基づき、廃コンクリートを破砕して得た材料を集積し、水分供給して撹拌することで湿潤状態とし、該湿潤状態の材料に、排熱を伴う排気ガスを供給し、前記材料を乾燥させ、再度水分供給・材料撹拌と排ガス供給とからなる交互工程を繰り返すことで、前記材料中に前記排気ガス中の二酸化炭素を取り込み固定化させることを特徴とする。
【0012】
前記材料は、再生砂とすることが好ましい。
【0013】
前記材料を集積した状態で表面に散水して撹拌し、所定層厚の材料を湿潤状態とすることが工程上、好ましい。
【0014】
前記湿潤状態の材料の含水率を10〜15%にすることが好ましい。
【0015】
前記材料は、二酸化炭素を固定化した後に再生砂として用いることが好ましい。
【0016】
前記材料は、六価クロム溶出抑制処理工程を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、排熱を伴う燃焼排気ガス中の二酸化炭素を、早期に廃コンクリートから得られた再生砂中に固定化することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明による二酸化炭素の固定化方法の実施するための最良の形態として、以下の実施例について添付図面を参照して説明する。
【実施例】
【0019】
[再生砂による二酸化炭素の固定化]
本発明では、二酸化炭素の固定化材料として再生砂を用いた。この再生砂は建築物等を破砕して発生した廃コンクリートを、さらにクラッシャ設備で破砕したもので、本実施例では、粒度調整された再生砂を使用した。各種再生砂のうち、好適な再生砂として、比表面積が大きく、セメント水和物の含有量の多いRC10−0(呼び名)を用いて二酸化炭素の固定化を行なうこととした。
【0020】
図1各図は、再生砂の二酸化炭素固定化を行うための材料集積場1の一例を示した模式図である。図1(a)に示したように、材料集積場1は、降雨による影響を避ける屋根2が架設され、かつ固定化材料4(本実施例ではRC10−0)を平面状に撒き出して所定高さに集積した状態で、粒状体からなる固定化材料の暴露面積を大きく確保できるような、所定の平面積を有する固定化材集積エリア3を有する屋内施設からなる。天井部には、固定化材集積エリア3に合わせて散水管を縦横に配管した散水施設5が設けられている。これにより、集積した固定化材料4の表面に満遍なくシャワー散水が行えるようになっている。
一方、固定化材集積エリア3の下方にはエリア3と同面積のピットが構築されている。このピット6内には所定間隔をあけて中間柱7が立設され、中間柱7に支持されるように、所定の目合いのエクスパンドメタル製のグレーチング(すのこ)床面8が、ピット6を覆うように敷設されている。そしてこのグレーチング床面8上に、固定化材料4としての再生砂が堆積されるようになっている。さらにピット6内には、図1(b)に示した平面図のように、複数本の排気ガス配管10が建物の入口から出口方向に沿って、並列して配管されている。各配管10の上面には、ガス噴出孔11が所定ピッチをあけて形成され、図1(a)に模式的に示した排ガス供給系統15からブロア16を介して所定圧で供給された排ガスが、同図に示したように、上向きにエキスパンドメタル床面8に向けて噴出できるようになっている。
【0021】
なお、本実施例では、材料4の撹拌、堆積、及び材料4の出荷側への移動のために、材料4上をクローラ走行可能な搬土重機(図示せず)が配備されているが、材料処理工程を定常的に行う施設であれば、材料4の集積範囲をレール等にガイドされて走行可能な撹拌、搬送装置を定置することも可能である。
【0022】
ここで、材料集積場1への二酸化炭素を含む排ガスの供給経路および材料集積場1内における配管例について説明する。図1に示したように、本実施例では、この材料集積場1外に設置された燃焼施設20から排出された燃焼排気ガスは、まず公知のバグフィルタ等の微粒子捕集部材21を通過させ、窒素酸化物(NOx)、硫化物(SOx)を除去する。そして二酸化炭素を含む排気ガスを材料集積場1の固定化材集積エリア3下のピット6内に敷設された配管10に送気する。その際、供給系統15の経路上に、公知のブロア16を設置し、各配管10に供給する排ガスが噴出孔11から、所定圧力で上方のエキスパンドメタル床面8に向けて噴出させることで、堆積状態の砕石4間の噛み合いの空隙を上方に向けて通過できるようにすることが好ましい。
【0023】
以下、固定化材料4としての再生砂を用いた二酸化炭素の固定化工程について、図1各図,図2を参照して説明する。再生砂(以下、単に材料4と記す。)は、ダンプトラック等で集積場1内に搬入されるが、図1(a)に示したように、撒き出された後に所定厚さに敷きならされ、天井部に設置された散水施設5により、材料4の表面に満遍なく散水し、さらに所定層厚を掘り返すような撹拌を行い、堆積した内部も湿潤状態となるようにする。このときの材料の管理含水率としては、散水時の含水率として10%程度を想定している。材料集積場1内において、所定厚の部分を、堆積材料上を走行可能は搬土重機あるいは、定置式の搬土装置を用いて撹拌して堆積した材料4内を均質な湿潤状態とする。そして、湿潤状態にある材料4の下方のピット6側から、配管10を通じて所定の噴出圧で排ガスを供給する。すると、二酸化炭素を含み、乾燥状態にある排ガスが堆積状態にある材料4の空隙を通過する。その時の排ガスの温度は100℃以下であるが、できるだけ高温であることが好ましい。これにより、堆積した内部にわたって湿潤状態にある材料4の乾燥を促進することができる。なお、排ガス供給系統15を通過する排熱温度を制御するために、系統15内に図示しない温度調整装置を設けることで、適温の排気ガスを湿潤状態の材料4に送気することが好ましい。
【0024】
そして、ある程度の時間、排ガスを送気することで堆積した内部にわたり、材料4全体が乾燥したことを確認する。排ガス供給を停止し、再度散水〜材料撹拌を行い、堆積した材料4全体の湿潤化を図る。そして、上記工程を繰り返すように、排ガスを湿潤状態の材料4にピット6側から満遍なく供給することにより、再度乾燥させる。このようにして排ガスの排熱を用いて乾湿状態を促進して行う方法を、2〜3日間で30回程度行う。この乾湿状態の繰り返し工程において、湿潤状態を作る撹拌時に、材料4を材料集積場1内の搬出側に移動させ、その一部をエリア4外に取り出すとともに、順次新しい材料4を、材料集積エリア3に投入して堆積させることで、連続的に材料4の供給を行うことが好ましい。
【0025】
なお、上述の乾湿の工程の繰り返し回数程度(30回)の促進化で達成される二酸化炭素固定化量は、出願人がすでに提案している、大気中の二酸化炭素の固定化のために、堆積された材料の湿潤状態と乾燥状態とを繰り返す工程を約2〜3ヶ月程度継続して材料暴露させる方法によって固定化できる二酸化炭素量に匹敵することが確認できた。
【0026】
また、所定の二酸化炭素量の固定化を行った後の材料4は、安定化が図られた後、材料集積場1から搬出され、材料4の当初の用途である再生砂として再調製することで、埋め戻し材としての所定の用途に利用することができる。なお、この材料4が、曝気状態で使用される場合、あるいは当初からCr(VI)溶出量が土壌環境基準を上回っていることが判明している場合には、材料集積場1に搬入された後に、還元剤などとの混和によりCr(VI)溶出抑制対策を施すのがよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の二酸化炭素の固定化工程を実施可能な材料集積場の一例を示した説明図。
【図2】再生砂による二酸化炭素の固定化工程を示したフローチャート。
【符号の説明】
【0028】
1 材料集積場
2 屋根
3 材料集積エリア
4 固定化材料(再生砂)
5 散水施設
6 ピット
8 グレーチング床面
10 排ガス配管
15 排ガス供給系統
16 微粒子捕集部材(バグフィルタ))
20 燃焼装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃コンクリートを破砕して得た材料を集積し、水分供給して撹拌することで湿潤状態とし、該湿潤状態の材料に、排熱を伴う排気ガスを供給して前記材料を乾燥させ、再度水分供給・材料撹拌と排ガス供給とからなる交互工程を繰り返すことで、前記材料中に前記排気ガス中の二酸化炭素を固定化させることを特徴とする二酸化炭素の固定化方法。
【請求項2】
前記材料は、再生砂であることを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項3】
前記材料を集積した状態で表面に散水して撹拌し、所定層厚の材料全体を湿潤状態とする請求項1または請求項2に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項4】
前記湿潤状態の材料の含水率を10〜15%にしたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項5】
前記材料は、二酸化炭素を固定化した後に再生砂として用いられることを特徴とする請求項2に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項6】
前記材料は、六価クロム溶出抑制処理工程を含むことを特徴とする請求項2に記載の二酸化炭素の固定化方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−90198(P2009−90198A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−262456(P2007−262456)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】