説明

二酸化炭素の運搬方法および運搬システム

【課題】中小規模の発電所や発電施設から発生する二酸化炭素含有排ガスを、安全に遠距離輸送して海底に貯留することができる、二酸化炭素の運搬方法および運搬システムを提供する。
【解決手段】二酸化炭素含有排ガスをアンモニア水溶液に接触させて、前記ガス中の二酸化炭素を重炭酸アンモニウムとして固定した後、重炭酸アンモニウムを分離回収し、得られた重炭酸アンモニウムをフレコン袋などに充填してCCS(Carbon Dioxide Capture and Storage)圧入ステーションに運搬する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素を固定化してCCS(Carbon Dioxide Capture and Storage:二酸化炭素分離回収・貯留)圧入ステーションに運搬する方法および運搬システムに関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素ガスによる地球温暖化の進行にともない、大気中の二酸化炭素を海洋中に固定して隔離する技術開発が行われている。二酸化炭素の海洋隔離は、溶解法と貯留法に大別することができる。
【0003】
溶解法としては、排ガス導入口から導入された二酸化炭素を含む排ガスと海水導入口から導入された海水とを気液接触させ、海水に二酸化炭素を溶解させることで、回収した二酸化炭素の液化を不要にできる方法などが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。しかし、特許文献1に記載された方法は、発電所などの二酸化炭素発生源が内陸の場合には適用することが難しい。
【0004】
貯留法としては、液体二酸化炭素貯留法、ハイドレート貯留法などが提案されている。液体二酸化炭素貯留法の代表的な例としては、二酸化炭素貯留海域まで二酸化炭素を船で移送し、水深3500mより深い海底の貯留地へパイプを通じて液体二酸化炭素を送る方法などが検討されている。また、ハイドレート貯留法は、二酸化炭素をクラスレート・ハイドレートと呼ばれる包接化合物にして海底に貯留する方法である。
【0005】
二酸化炭素の海洋隔離では、二酸化炭素をCCS圧入ステーションに運搬した後、二酸化炭素貯留海域まで二酸化炭素を専用輸送船あるいはパイプラインなどで移送する。しかし、海底貯留が可能な場所は限られている。遠方の火力発電所などで発生する二酸化炭素を海底貯留するためには、専用パイプラインが必要であるが、国内での遠距離のパイプラインの敷設は、コストや安全管理等を考慮すると課題が多い。
【0006】
そこで、二酸化炭素ガスを発電所などの発生源から分離して海底に貯留する技術も提案されている(例えば、特許文献2を参照)。特許文献2では、パイプラインや二酸化炭素専用輸送船を用いず、二酸化炭素を圧縮ガスや液体の状態で運搬することが提案されている。しかし、この方法は高圧ガス輸送であるため、やはりコストおよび安全管理面で課題がある。
【0007】
また、固体二酸化炭素ペレットを製造する方法も提案されている(例えば、特許文献3を参照)。しかし、この方法は、液体を急速に蒸発させて二酸化炭素の混合物をドライアイスの粒へと変え、この粒を圧縮してペレットにするため、エネルギー面で課題がある。
【0008】
更に、二酸化炭素をアルカリ性の水に吸収させて固定し、スラリーを運搬する方法もあるが、運搬コスト面で課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−029975号公報
【特許文献2】特開2004−125039号公報
【特許文献3】特表2005−507848号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、二酸化炭素を含有する排ガスを安全に遠距離輸送して海底に貯留することができる、二酸化炭素の運搬方法および運搬システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討を行い、(1)二酸化炭素含有排ガスをアンモニア水溶液と接触させて、二酸化炭素を重炭酸アンモニウムとして固定した後、生成した重炭酸アンモニウムを運搬すれば、固体状態で二酸化炭素を運搬できること、(2)重炭酸アンモニウムは熱分解して二酸化炭素を生成すること、(3)運搬した重炭酸アンモニウムの分解をCCS圧入ステーションで実施すれば、分解で生成した二酸化炭素を既設のパイプラインを利用して圧入できることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明は、二酸化炭素含有排ガスをアンモニア水溶液に接触させ、前記ガス中の二酸化炭素を重炭酸アンモニウムとして固定した後、該重炭酸アンモニウムを水と分離し、分離した重炭酸アンモニウムを容器に充填してCCS(Carbon Dioxide Capture and Storage)圧入ステーションに運搬することを特徴とする二酸化炭素の運搬方法を提供する。これにより、二酸化炭素を固体状態で固定化して運搬することができるので、汎用的な輸送方法で短距離、長距離を問わず任意の距離への輸送対応が可能となる。
【0013】
本発明の運搬方法においては、CCS圧入ステーションにおいて、重炭酸アンモニウムを加熱して分解させ、さらに、重炭酸アンモニウムを加熱して分解させた分解生成ガスから二酸化炭素を分離し、分離した二酸化炭素を圧縮機により加圧して液化した後、海底に圧入してもよい。重炭酸アンモニウムは、低温で容易に熱分解して二酸化炭素とアンモニアを生成するので、汎用的な輸送方法で短距離、長距離を問わず任意の距離への輸送対応と、海底貯留が可能となる。
【0014】
また本発明の運搬方法においては、前記分解生成ガスからアンモニア水を回収し、回収したアンモニア水を二酸化炭素含有排ガス発生場所に運搬し、二酸化炭素含有排ガスを重炭酸アンモニウムとして固定させるためのアンモニア水溶液として用いてもよい。これにより、二酸化炭素の固定化に必要なアンモニアを確保することが可能となる。
【0015】
さらに本発明は、下記(a)〜(e)の工程を採用することを特徴とする二酸化炭素の運搬システムを提供する。
(a)二酸化炭素含有排ガスをアンモニア水溶液に接触させ、前記ガス中の二酸化炭素を重炭酸アンモニウムとして固定した後、該重炭酸アンモニウムを水と分離する工程。
(b)分離した重炭酸アンモニウムを容器に充填してCCS(Carbon Dioxide Capture and Storage)圧入ステーションに運搬する工程。
(c)CCS圧入ステーションにおいて、運搬した重炭酸アンモニウムを加熱して分解させる工程。
(d)CCS圧入ステーションにおいて、重炭酸アンモニウムを加熱して分解させた分解生成ガスから二酸化炭素を分離する工程。
(e)CCS圧入ステーションにおいて、分離した二酸化炭素を圧縮機により加圧して液化した後、海底に圧入する工程。
【0016】
本発明の運搬システムにおいては、さらに、下記(f)の工程を採用してもよい。
(f)前記(d)工程における分解生成ガスからアンモニア水を回収し、回収したアンモニア水を二酸化炭素含有排ガス発生場所に運搬する工程。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る二酸化炭素の運搬方法によれば、食品と同様に運搬することができるため二酸化炭素を運搬する際の特段の安全管理は不要である。また、重炭酸アンモニウムを分解させ二酸化炭素を再放出させるための温度が比較的低温(58℃)であるため、エネルギーロスが少ない。
本発明に係る二酸化炭素の運搬システムによれば、海底貯留場所から離れた場所で発生した二酸化炭素を海洋隔離することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る二酸化炭素の運搬方法を説明する説明図である。
【図2】本発明に係る二酸化炭素の運搬システムを説明する説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1および図2に示すように、本発明に係る二酸化炭素の運搬方法および運搬システムにおいては、二酸化炭素含有排ガスをアンモニア水溶液に接触させて、前記ガス中の二酸化炭素を重炭酸アンモニウム(固体)として固定する(工程(a))。
重炭酸アンモニウムへの固定は、常法により、濃アンモニア水溶液を冷却しながら、二酸化炭素含有排ガスを圧縮機などで圧縮した圧縮ガスを過剰に吹き込み、生成する重炭酸アンモニウムを分離することにより、実施することができる。重炭酸アンモニウムの水に対する溶解度は17.4g/100g(20℃)である。
【0020】
【化1】

【0021】
また、重炭酸アンモニウムへの固定は、常圧もしくは低圧条件下(0.1〜0.6MPa)で行うことができるが、二酸化炭素を昇圧あるいは超臨界圧にしてアンモニア水溶液と接触させることにより、二酸化炭素の固定化速度を増大させてもよい。
【0022】
生成した重炭酸アンモニウムは、58℃(水溶液の場合は70℃)でアンモニアと二酸化炭素と水に分解する性質を有している。但し、重炭酸アンモニウムは36℃以上で分解が始まるため、生成した重炭酸アンモニウムの分離操作は30℃以下で行うことが好ましい。分離手段は特に限定されるものではなく、遠心分離機、真空分離機など公知の分離手段を用いれば良い。
【0023】
また、重炭酸アンモニウムへの固定および分離手段は、発電施設や発電システム(燃料電池など)設置場所で実施することが望ましいが、これに限定されない。
【0024】
次に、得られた重炭酸アンモニウムをフレコン袋、樹脂袋、紙袋などの容器に充填し、CCS圧入ステーションに運搬する(工程(b))。
重炭酸アンモニウムは食品添加物としても利用されているものであるため、二酸化炭素を高圧ガスの状態で運搬するのに比べて、安全管理が容易である。
【0025】
CCS圧入ステーションには、重炭酸アンモニウムを貯蔵するタンクと、ガス分離器を備えておく。CCS圧入ステーションにて重炭酸アンモニウムを積み下ろした後、フレコン袋や樹脂袋などを開封し、重炭酸アンモニウムをタンクなどに貯蔵する。重炭酸アンモニウムは、固体状態で貯蔵してもよく、加水して水溶液状態で貯蔵してもよい。
【0026】
その後、CCS圧入ステーションにおいて、タンクなどを熱交換器などで58℃以上に加熱して重炭酸アンモニウムを分解させる(工程(c))。
【0027】
重炭酸アンモニウムの分解反応による分解生成ガスは、二酸化炭素、アンモニアおよび水より主として構成される。この分解生成ガスから、ガス分離器を用いて二酸化炭素を分離する(工程(d))。
【0028】
次いで、分離した二酸化炭素を圧縮機により加圧して液化した後、海底に圧入する(工程(e))。二酸化炭素分離後は、残りの分解ガスを所定の温度(例えば40℃前後)に冷却した後、吸収塔の下部に導入する。冷却により水は一部凝縮する。吸収塔では塔頂からアンモニアを吸収した水(アンモニア水)が流下する。
【0029】
前記の分解生成ガスから回収したアンモニア水は、二酸化炭素含有排ガス発生場所に運搬する(工程(f))。これにより、二酸化炭素含有排ガスを重炭酸アンモニウムとして固定させるためのアンモニア水溶液として用いることができ、二酸化炭素の固定化に必要なアンモニア源を確保することができる。
【0030】
また、CCS圧入ステーションには、二酸化炭素ガスを貯蔵するタンクと、ガス圧縮機を備えておく。上記の分解生成ガスから分離した二酸化炭素は、ガス貯蔵タンクに貯蔵する。その後、タンクに貯蔵されている二酸化炭素ガスをガス圧縮機などにより常温で加圧して液化し、公知の手段により海底に圧入することにより、海底貯留が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明に係る二酸化炭素の運搬方法および運搬システムは、圧縮ガスにして運搬する既知の方法よりも運搬時の安全管理が不要であるため、中小規模の発電施設(バイオマス発電所など)や発電システム(燃料電池など)に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素含有排ガスをアンモニア水溶液に接触させ、前記ガス中の二酸化炭素を重炭酸アンモニウムとして固定した後、該重炭酸アンモニウムを水と分離し、分離した重炭酸アンモニウムを容器に充填してCCS(Carbon Dioxide Capture and Storage)圧入ステーションに運搬することを特徴とする二酸化炭素の運搬方法。
【請求項2】
CCS圧入ステーションにおいて、運搬した重炭酸アンモニウムを加熱して分解させることを特徴とする請求項1記載の二酸化炭素の運搬方法。
【請求項3】
CCS圧入ステーションにおいて、重炭酸アンモニウムを加熱して分解させた分解生成ガスから二酸化炭素を分離し、分離した二酸化炭素を圧縮機により加圧して液化した後、海底に圧入することを特徴とする、請求項2に記載の二酸化炭素の運搬方法。
【請求項4】
前記分解生成ガスからアンモニア水を回収し、回収したアンモニア水を二酸化炭素含有排ガス発生場所に運搬し、二酸化炭素含有排ガスを重炭酸アンモニウムとして固定させるためのアンモニア水溶液として用いることを特徴とする、請求項3に記載の二酸化炭素の運搬方法。
【請求項5】
下記(a)〜(e)の工程を採用することを特徴とする二酸化炭素の運搬システム。
(a)二酸化炭素含有排ガスをアンモニア水溶液に接触させ、前記ガス中の二酸化炭素を重炭酸アンモニウムとして固定した後、該重炭酸アンモニウムを水と分離する工程。
(b)分離した重炭酸アンモニウムを容器に充填してCCS(Carbon Dioxide Capture and Storage)圧入ステーションに運搬する工程。
(c)CCS圧入ステーションにおいて、運搬した重炭酸アンモニウムを加熱して分解させる工程。
(d)CCS圧入ステーションにおいて、重炭酸アンモニウムを加熱して分解させた分解生成ガスから二酸化炭素を分離する工程。
(e)CCS圧入ステーションにおいて、分離した二酸化炭素を圧縮機により加圧して液化した後、海底に圧入する工程。
【請求項6】
さらに、下記(f)の工程を採用することを特徴とする請求項5に記載の二酸化炭素の運搬システム。
(f)前記(d)工程における分解生成ガスからアンモニア水を回収し、回収したアンモニア水を二酸化炭素含有排ガス発生場所に運搬する工程。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−72012(P2012−72012A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217774(P2010−217774)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】