説明

二重管およびその製造方法

【課題】
螺旋状の凹凸部が設けられた内管と内管に嵌合された外管との間に螺旋状の熱交換通路が構成され熱交換器として使用される二重管について、熱交換通路の外部への開放を閉鎖するためのシール加工を容易にする。
【解決手段】
拡径処理によって螺旋状の凹凸部11が形成された内管1に外管2が嵌合されて内管1,外管2の間に熱交換の一方の流体が流通する熱交換通路5が構成され、外管2の両端部で熱交換通路5の外部への開放を閉鎖するシール加工が施されている。内管1の外管2の両端部に対面する位置に外管2の内周面に当接される環状の閉鎖用凸部12が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、螺旋状の凹凸部が設けられた内管と内管に嵌合された外管との間に螺旋状の熱交換通路が構成され熱交換器として使用される二重管に係る技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
最近、自動車の空調機の熱交換系等では、小型で熱交換効率の高い熱交換器として、内管,外管の間の螺旋状の熱交換通路に熱交換の一方の流体を流通させるように構成された二重管が多用されている。二重管は、内管に螺旋状の凹凸部を形成することによって熱交換通路が構成される。内管の凹凸部の形成については、内管となる直状の素管を螺旋状に部分的に径を拡大させる拡径処理の手段が採用されている。この拡径処理は、内管となる直状の素管を螺旋状に部分的に径を縮小させる縮径処理の手段よりも安価,容易に実施することができるという利点がある。
【0003】
従来、二重管の内管の凹凸部の拡径処理による形成技術としては、例えば、特許文献1に記載のものが知られている。
【0004】
特許文献1には、内管となる直状の素管を凹凸溝が形成された金型にセットするとともに、素管の内部に圧力流体が供給されるノズルを挿入して、圧力流体の加圧によって素管を金型の凹凸溝に沿って変形させる技術が記載されている。金型の凹凸溝は、凸部が内管の凹凸部の凹部(素管の外径)に対応し、凹部が内管の凹凸部の凸部(素管の拡径部)に対応する。ノズルは、圧力流体のシール性を確保するために、素管の拡径範囲を超える長さの両側の位置の外周に環状に刻設された取付溝にOリング等の環状のパッキンが取付けられている。
【0005】
特許文献1に係る技術は、螺旋状ではない凹凸部が形成される合成樹脂製の内管(素管)を対象とするものであるが、金型の凹凸溝の変更や圧力流体の圧力調整等によって、熱交換器の素材として多用されているアルミニウム系の金属製の内管に螺旋状の凹凸部を形成する場合にも適用が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−31579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の二重管では、内管,外管の間に形成された螺旋状の熱交換通路の外部への開放を閉鎖するために、内管,外管を外管の両端部でろう付けやカシメによってシールすることが必要になるが、内管の径(素管の径)と外管の径とに内管の凹凸部の凸部に相当する大きな差が存在するため、シール加工が面倒であるという問題点がある。
【0008】
本発明は、このような問題点を考慮してなされたもので、内管,外管の間に形成された螺旋状の熱交換通路の外部への開放を閉鎖するためのシール加工が容易な二重管と、この二重管を製造するに好適な二重管の製造方法とを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の課題を解決するため、本発明に係る二重管は、特許請求の範囲の請求項1,2に記載の手段を採用する。
【0010】
即ち、請求項1では、拡径処理によって螺旋状の凹凸部が形成された内管に外管が嵌合されて内管,外管の間に熱交換の一方の流体が流通する熱交換通路が構成され、外管の両端部で熱交換通路の外部への開放を閉鎖するシール加工が施された二重管において、内管の外管の両端部に対面する位置に外管の内周面に当接される環状の閉鎖用凸部が形成されていることを特徴とする。
【0011】
この手段では、内管の閉鎖用凸部が外管の内周面に当接されて内管,外管の径の差を埋めることで、内管の閉鎖用凸部が外管の両端部における仮のシール構造やシール加工の基礎構造として機能する。
【0012】
また、請求項2では、請求項1の二重管において、内管の閉鎖用凸部は軸方向に少しの間隔を介して少なくとも2個設けられていることを特徴とする。
【0013】
この手段では、内管の2個の閉鎖用凸部の間に間隔が設けられることで、閉鎖用凸部の間に環状のパッキンを確実に装着することが可能になる。
【0014】
前述の課題を解決するため、本発明に係る二重管の製造方法は、特許請求の範囲の請求項3,4に記載の手段を採用する。
【0015】
即ち、請求項3では、内管となる直状の素管を螺旋状の凹凸溝が形成された金型にセットするとともに、素管の内部に圧力流体が供給されるノズルを挿入して、圧力流体の加圧によって素管を金型の凹凸溝に沿って変形させ、拡径処理によって螺旋状の凹凸部が形成された内管に嵌合された外管との間に熱交換の一方の流体が流通する熱交換通路を構成する二重管の製造方法において、金型の内管が外管の両端部に対面することになる位置に環状の凹溝を形成しておき、圧力流体の加圧によって素管を金型の凹溝に沿って変形させ、拡径処理によって環状の閉鎖用凸部が形成された内管に嵌合された外管の両端部の内周面に内管の環状の閉鎖用凸部を当接させることを特徴とする。
【0016】
この手段では、内管の螺旋状の凹凸部の形成と同じ手段である圧力流体の拡径処理によって、外管の内周面に当接されて内管,外管の径の差を埋めて外管の両端部における仮のシール構造やシール加工の基礎構造として機能する内管の閉鎖用凸部が形成される。
【0017】
すなわち、請求項4では、請求項3の二重管の製造方法において、内管の凹凸部,閉鎖用凸部は共通のノズルによる共通の圧力流体によって同時に形成されることを特徴とする。
【0018】
この手段では、内管の凹凸部,閉鎖用凸部が同時に形成される。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る二重管は、内管の閉鎖用凸部が外管の内周面に当接されて内管,外管の径の差を埋めることで、内管の閉鎖用凸部が外管の両端部における仮のシール構造やシール加工の基礎構造として機能するため、内管の閉鎖用凸部を利用してろう付けやカシメのシールを実施することができ、内管,外管の間に形成された螺旋状の熱交換通路の外部への開放を閉鎖するためのシール加工が容易になる効果がある。
【0020】
また、請求項2として、内管の2個の閉鎖用凸部の間に間隔が設けられることで、閉鎖用凸部の間に環状のパッキンを確実に装着することが可能になるため、カシメによるシール加工を実施した場合のシール性が高くなる効果がある。
【0021】
さらに、本発明に係る二重管の製造方法は、内管の螺旋状の凹凸部の形成と同じ手段である圧力流体の拡径処理によって、外管の内周面に当接されて内管,外管の径の差を埋めて外管の両端部における仮のシール構造やシール加工の基礎構造として機能する内管の閉鎖用凸部が形成されるため、追加的な設備,加工を必要とせず、二重管を安価,容易に製造することができる効果がある。
【0022】
さらに、請求項4として、内管の凹凸部,閉鎖用凸部が同時に形成されるため、量産に適する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】発明に係る二重管およびその製造方法を実施するための形態の第1例の製造の断面図であり、(A)〜(C)の順に製造工程が示されている。
【図2】図1(A)の拡大された側面図である。
【図3】図1(C)に続く製造の最終工程の要部の拡大断面図であり、(A),(B)に異なるシール加工が示されている。
【図4】発明に係る二重管およびその製造方法を実施するための形態の第2例の製造の断面図である。
【図5】発明に係る二重管およびその製造方法を実施するための形態の第3例の製造の断面図であり、(A),(B)の順に製造工程が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る二重管およびその製造方法を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
図1〜図3は、本発明に係る二重管およびその製造方法を実施するための形態の第1例を示すものである。
【0026】
第1例では、アルミニウム系の金属材からなる内管1,外管2をろう付けでシールするに好適なものを示してある。
【0027】
第1例を二重管の製造例に基づいて説明する。
【0028】
この製造例は、基本的に特許文献1に係る技術を利用したものである。
【0029】
まず、図1(A)に示すように、内管1となる直状の素管1Aを金型3にセットし、素管1Aの内部に圧力流体Pが供給されるノズル4を挿入する。
【0030】
金型3は、素管1Aの外径に相当する断面円形の本体溝31が軸方向に貫通され、本体溝31の軸方向の中央部に本体溝31からさらに堀込まれた螺旋状の凹凸溝32が設けられ、本体溝31の軸方向の両端部に凹凸溝32と少しの間隔を介して本体溝31からさらに堀込まれた環状の凹溝33がそれぞれ設けられている。凹凸溝32,凹溝33の本体溝31を含めた深さ(径)は、外管2の内径に相当するように設定されている。なお、凹凸溝32は、凸部が本体溝31をそのまま利用し凹部のみが堀込まれている。また、凹溝33は、外管2の両端部付近に位置するように設定されている。さらに、この金型3は、図2に示すように、軸中心から放射状に4つのパーティングライン34が設けられ、放射方向に4つのパーツで開閉されるようになっている。
【0031】
ノズル4、外径が素管1Aの内径よりも少し小さな耐圧性を有する金属棒で形成され、先端部41が挿入の際に素管1Aを損傷しないように半球形に形成され、外周面の先端部41から少し後端部42に寄った位置と先端部41から長く後端部42に寄った位置とにOリング等の環状のパッキン43が取付けられる環状の取付溝44がそれぞれ刻設され、後端部42から中心の軸方向に圧力流体Pが供給される圧力流体供給路45が配設され、外周面の取付溝44の間に圧力流体供給路45に連通され圧力流体Pが吐出される吐出口46が開口されている。両取付溝44(パッキン43)の間隔は、金型3の凹溝33の間隔よりも長く設定されている。
【0032】
図1(A)に示した状態では、型閉めされた金型3に保持された素管1Aに対して挿入されたノズル4の両取付溝44(パッキン43)が金型3の凹凸溝32,凹溝33の軸方向の外側に配置されている。
【0033】
次に、図1(B)に示すように、ノズル4の後端部からオイル等の圧力流体Pを供給する。
【0034】
この結果、ノズル4の圧力流体供給路44を介して吐出口46から吐出された圧力流体Pが素管1Aの内周面とノズル4の外周面とノズル4のパッキン43とで囲まれた空間に充満され、素管1Aが金型3の凹凸溝32,凹溝33に沿うように変形される。即ち、素管1Aの一部が拡径処理され、金型3の凹凸溝32に対応した螺旋状の凹凸部11と金型3の凹溝33に対応した環状の閉鎖用凸部12とが形成された内管1が形成される。
【0035】
次に、ノズル4を内管1から引抜いて金型3を型開きする。このとき、金型3が放射方向に4つのパーツで開閉されるため、内管1の螺旋状の凹凸部11が金型3の抜け阻害することがない。なお、必要に応じて金型3の型開きの前後に圧力流体Pを排出するか、後述の外管2との嵌合の前の内管1の洗浄を利用して圧力流体Pを排出させる。
【0036】
次に、図1(C)に示すように、外管2の内部に内管1を嵌合させる。
【0037】
この結果、内管1の凹凸部11,閉鎖用凸部12が外管2の内周面に当接される。従って、内管1,外管の間では、内管1の凹凸部11の部分において熱交換の一方の流体が流通される螺旋状の熱交換通路5が形成され、内管1の閉鎖用凸部12の部分である外管2の両端部において熱交換通路5の両端部が仮シールされる格好となる。
【0038】
この後、図3(A)に示すように、環状に形成されたろう材6を内管1に嵌合させて外管2の端部に当接させると、内管1の閉鎖用凸部12がろう材6の受座となってろう材6を安定的に保持することができる。
【0039】
そこで、図3(B)に示すように、ろう材6を加熱溶融させると、ろう材6が周囲へ流れることなく内管1の閉鎖用凸部12と外管2とを確実に接着する。
【0040】
第1例によると、内管1の径と外管2の径とに大きな差が存在していても、内管1,外管2の間に形成された螺旋状の熱交換通路5の外部への開放を閉鎖するためのろう付けによるシール加工を容易に実施することができる。なお、このために、内管1に閉鎖用凸部12を備えることになるが、内管1の凹凸部11と共通の拡径処理で同時に形成されるため、二重管を安価,容易に製造することができるとともに、量産にも適することになる。
【0041】
図4は、本発明に係る二重管およびその製造方法を実施するための形態の第2例を示すものである。
【0042】
第2例は、第1例のノズル4の構造を変更している。
【0043】
第2例のノズル4は、取付溝44(パッキン43)を金型3の金型3の凹凸溝32,凹溝33を別個に囲むように増設するとともに、拡囲みに対応して圧力流体Pが吐出される吐出口46をそれぞれ開口してある。
【0044】
第2例によると、金型3の金型3の凹凸溝32,凹溝33に対応して素管1Aに圧力流体Pを確実に作用させ、内管1の凹凸部11,閉鎖用凸部12を正確,高速に形成することが可能になる。
【0045】
図5は、本発明に係る二重管およびその製造方法を実施するための形態の第3例を示すものである。
【0046】
第3例は、内管1の閉鎖用凸部12を軸方向に少しの間隔を介して2個設けてある。
【0047】
第3例では、図3(A)に示すように、内管1を外管2に嵌合させる際に閉鎖用凸部12にOリング等の環状のパッキン7を装着する。内管1の両閉鎖用凸部12の間に装着されたパッキン7は、確実に保持され簡単に離脱することはない。そして、図3(B)に示すように、外管2の端部をカシメることになる。
【0048】
第3例によると、内管1の径と外管2の径とに大きな差が存在していても、内管1,外管2の間に形成された螺旋状の熱交換通路5の外部への開放を閉鎖するためのカシメによるシール加工を容易に実施することができる。なお、このために、内管1に閉鎖用凸部12を2個ずつ備えることになるが、内管1の凹凸部11と共通の拡径処理で同時に形成されるため、二重管を安価,容易に製造することができるとともに、量産にも適することになる。
【0049】
以上、図示した各例の外に、第3例の内管1の鎖用凸部12を3個以上形成してパッキン7を2個以上設けることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係る二重管およびその製造方法は、アルミニウム系の金属材以外の材質の内管,外管からなる二重管にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 内管
1A 素管
11 凹凸部
12 閉鎖用凸部
2 外管
3 金型
31 本体溝
32 凹凸溝
33 凹溝
4 ノズル
5 熱交換通路
P 圧力流体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡径処理によって螺旋状の凹凸部が形成された内管に外管が嵌合されて内管,外管の間に熱交換の一方の流体が流通する熱交換通路が構成され、外管の両端部で熱交換通路の外部への開放を閉鎖するシール加工が施された二重管において、内管の外管の両端部に対面する位置に外管の内周面に当接される環状の閉鎖用凸部が形成されていることを特徴とする二重管。
【請求項2】
請求項1の二重管において、内管の閉鎖用凸部は軸方向に少しの間隔を介して少なくとも2個設けられていることを特徴とする二重管。
【請求項3】
内管となる直状の素管を螺旋状の凹凸溝が形成された金型にセットするとともに、素管の内部に圧力流体が供給されるノズルを挿入して、圧力流体の加圧によって素管を金型の凹凸溝に沿って変形させ、拡径処理によって螺旋状の凹凸部が形成された内管に嵌合された外管との間に熱交換の一方の流体が流通する熱交換通路を構成する二重管の製造方法において、金型の内管が外管の両端部に対面することになる位置に環状の凹溝を形成しておき、圧力流体の加圧によって素管を金型の凹溝に沿って変形させ、拡径処理によって環状の閉鎖用凸部が形成された内管に嵌合された外管の両端部の内周面に内管の環状の閉鎖用凸部を当接させることを特徴とする二重管の製造方法。
【請求項4】
請求項3の二重管の製造方法において、内管の凹凸部,閉鎖用凸部は共通のノズルによる共通の圧力流体によって同時に形成されることを特徴とする二重管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−29219(P2013−29219A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163920(P2011−163920)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(596024013)株式会社渡辺製作所 (4)
【Fターム(参考)】