説明

亜酸化ホウ素複合材料

本発明は、亜酸化ホウ素と二次相を含む亜酸化ホウ素複合材料であって、二次相が金、銀及び銅並びにこれらの金属の1種以上を基礎とするか又は含有する合金の群から選択される金属を含有する亜酸化ホウ素複合材料を提供する。さらに、金属又は合金は、該材料中に約20体積%未満、好ましくは約6体積%未満の量で存在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
本発明は、亜酸化ホウ素複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドの硬度値に迫るか又はそれを超えさえする硬度値を有する合成超硬質材料の開発は、材料科学者の大きな興味を引いている。70〜100GPaのビッカース(Vickers)硬度を考えると、ダイヤモンドが最も硬い既知材料であり、次いで立方晶窒化ホウ素(Hv約60GPa)及び亜酸化ホウ素(本明細書ではB6Oとも呼ぶ)である。B6O単結晶については、0.49N及び0.98Nの負荷でそれぞれ53GPa及び45GPaの硬度値が測定され、立方晶窒化ホウ素の当該硬度値と同様である。
B6Oは不定比性でもあり得ることが知られており、すなわちB6O1-x (式中、xは0〜0.3の範囲である)として存在する。B6Oという用語には、このような不定比性形態も含まれる。これらの材料の強い共有結合及び短い原子間結合距離が、それらの例外的な物理的及び化学的特性、例えば大きい硬度、低い質量密度、高い熱伝導性、高い化学的不活性及び優れた耐摩耗性に寄与している。産業上の利用可能性としては、砥石車、研磨材及び切削工具での使用が挙げられる。
【0003】
亜酸化ホウ素を製造するためにいくつかの技術が利用されており、例えば適切な高圧及び高温条件下で元素ホウ素を酸化ホウ素(B2O3)と反応させる手順が含まれる。米国特許第3,660,031号では、亜酸化ホウ素の他の製造方法、例えば酸化ホウ素(B2O3)をマグネシウムで還元するか、又は酸化亜鉛を元素ホウ素で還元することによる方法に言及している。しかしながら、これらの既知の各手順には、産業における該材料の実用性を遅らせる欠点がある。例えば、B2O3のマグネシウムによる還元は、亜酸化物内でマグネシウムの固溶体及びホウ化マグネシウム混入物を生成し、一方で酸化マグネシウムのホウ素による還元は相対的に低い収率の亜酸化ホウ素を生成するだけであり、非常に非効率的である。
WO2007/029102は、アルミニウム化合物で作られたB6O複合物を開示しており、これは粒界にホウ酸アルミニウム相をもたらした。29.3GPaの硬度に相当する約3.5 MPa.m0.5の破壊靱性が得られた。該複合物に存在するアルミニウム相は、結果として生じる複合物の破壊靱性を高め得るが、柔らかく、複合物の硬度全体には寄与しない。
WO2008/132676は、亜酸化ホウ素と二次相を含み、該二次相がホウ化ジルコニウム、ホウ化ハフニウム、ホウ化タングステン、ホウ化モリブデン等のホウ化物を含有する、亜酸化ホウ素複合材料について記載している。
WO2008/132674は、亜酸化ホウ素と二次相を含み、該二次相が少なくとも2種の金属酸化物(両方ともホウ素含有酸化物でない)の混合物を含有する、亜酸化ホウ素複合材料について記載している。
WO2008/132672は、亜酸化ホウ素と二次相を含み、該二次相が希土類金属酸化物を含有する、亜酸化ホウ素複合材料について記載している。
米国特許第5,456,735号は、亜酸化ホウ素複合材料を含む研磨工具で表面を薄く削ることによって、表面から材料を除去する方法を開示している。該亜酸化ホウ素複合材料は、マトリックス(一実施形態では銅基合金であり得る)内に亜酸化ホウ素粒子を含む。銅基合金は少なくとも25体積%の量で存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
増強された機械的特性、特に増強された破壊靱性を有する亜酸化ホウ素材料(B6O)が要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の概要)
本発明により、亜酸化ホウ素と二次相を含む亜酸化ホウ素複合材料であって、二次相が、金、銀及び銅並びにこれらの金属の1種以上を基礎とするか又は含有する合金の群から選択される金属を含有し、かつ金属又は合金が、該材料中に約20体積%未満、好ましくは約6体積%未満の量で存在する、亜酸化ホウ素複合材料が提供される。
二次相中の金属の存在が、基板に複合材料をより容易にろう付けできるようにし得る。
技術上周知のいずれの適切なろう付け合金を用いても、ろう付けを達成し得る。適切なろう付け合金の例は、Cu/Ag/Ti合金である。
二次相は、本質的に金属からなり得る。すなわち、いずれの他の元素又は化合物も痕跡量又は微量でのみ存在するであろう。
二次相は、複合材料の特性を改善又は増強する他の元素又は化合物を含有してよい。一部の実施形態では、例えばチタン、バナジウム、ニッケル、鉄、コバルト又はクロム等のホウ化物形成剤が二次相に存在し得る。これらの全ての元素は、複合材料の製造中に形成されるホウ化物をもたらす強力なホウ化物形成剤である。特定の理論に縛られることを望むものではないが、ホウ化物の形成が金属のB6O相へのぬれ性及び結合性を改善し、結果として複合材料により強い延性架橋の形成をもたらし得る。他の元素又は化合物がホウ化物形成剤又はホウ化物である場合、該元素又は化合物は50質量%未満の量で二次相内に存在してよい。
【0006】
亜酸化ホウ素は粒子状又は顆粒状亜酸化ホウ素であり得る。亜酸化ホウ素粒子又は顆粒自体の平均粒径は、好ましくは微細であり、100nm〜100μm、好ましくは100nm〜10μmの範囲であり得る。
例えば、亜酸化ホウ素源を製粉に供することによって、微粒子状の亜酸化ホウ素を生成することができる。製粉が鉄又はコバルト含有製粉媒体の存在下で行われる場合、焼結される材料中に鉄及び/又はコバルトが導入されることがある。鉄を含まない材料のためには、破砕粉体を塩酸で洗浄するか、又は製粉をアルミナポットと製粉ボールで行うことができる。温水又はアルコール中で破砕粉体を洗浄して、いずれの過剰なB2O3又はH3BO3をも除去するのが有利であることが分かった。
本発明の複合材料は、一般的に粒子又は顆粒の形態の亜酸化ホウ素と、結合した密着形態の二次相とを含む。二次相は亜酸化ホウ素の間に均一に分散し得る。
【0007】
亜酸化ホウ素粒子又は顆粒源を供給し;この亜酸化ホウ素源を、金属又は焼結条件下で金属を生成する化合物と接触させて反応塊を作り出し;この反応塊を焼結させて亜酸化ホウ素複合材料を生成することによって、本発明の複合材料を製造することができる。
本発明の実施形態では、金属又は合金が反応塊中に金属形態で存在することがあり、また一部の実施形態では、焼結中に金属に変換される塩又は酸化物の形態で金属が存在し得る。金属形態、塩又は酸化物の金属又は合金を亜酸化ホウ素と混合してよく、或いは亜酸化ホウ素上の被覆物として供給してよい。
反応塊中の金属又は合金は何らかのホウ素を含んでよい。ホウ素は溶融金属に可溶であり、かつ金属と亜酸化ホウ素の相互作用を減じる効果をも有する。
焼結は好ましくは200MPa未満の圧力及び1950℃以下の温度で行われる。ホットプレス(hot pressing)(HP)、ガス圧焼結、熱間静水圧プレス(hot isostatic pressing)(HIP)又は放電プラズマ焼結(spark plasma sintering)(SIS)等の低圧焼結法が好ましい。SPS法は、非常に速い加熱と短い等温保持時間、特に50〜400K/分の加熱速度と5分以下の等温保持時間を特徴とする。ホットプレス法は、10〜20K/分の加熱速度と約15〜25分、典型的に20分の等温保持時間を特徴とする。
【0008】
焼結工程前に、亜酸化ホウ素を二次相の生成に必要な成分と混合してよい。或いは焼結前に亜酸化ホウ素を二次相成分で被覆してよい。
本発明の一形態では、多孔性の焼結亜酸化ホウ素材料に金属又は合金を染み込ませる。多孔性の焼結亜酸化ホウ素材料は、例えば、亜酸化ホウ素粒子又は顆粒を圧縮するか或いはアルゴン等の不活性ガス内でホウ素とB2O3を高温、例えば1350℃で焼結させることによって生成し得る。亜酸化ホウ素材料がホウ化物を含有すべき場合、二酸化チタンとホウ素の混合物を焼結させて亜酸化ホウ素とホウ化チタンの二次相とを生成することができる。
【0009】
本発明の複合材料は切削用途及び摩耗部品で使用し得る。二次相中の金属の存在が、複合材料を超硬合金基板のような基板に容易にろう付けできるようにする。本複合材料をグリット(grit)形態に粉砕してグリット用途で使用してもよい。さらに、本複合材料を防御手段用途、例えば弾道防御手段、特に身体防護服で使用し得る。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(発明の実施形態な説明)
ここで、以下の実施例により本発明を説明する。
(実施例)
平均粒径d50=2.23μmのB6O出発紛体を、アルミナボールを備えた磨砕ミルを用いてエタノール溶媒中で6時間2wt%のAg2Oと混合した。アルミナボールの摩耗は0.8wt%だった。
この製粉混合物をロータリーエバポレーターを用いて乾燥させた後、黒鉛箔を備えた黒鉛ダイスを用いて高速放電プラズマ焼結を行った。黒鉛箔をBN懸濁液で被覆して黒鉛との相互作用を阻止した。製粉混合物をアルゴン雰囲気下、50K/分の加熱速度、1900℃の温度、及び50MPaの圧力で5分間 SPS法を利用して焼結させた。
非伝導性hBN裏打ち又は被覆を用いたので、紛体を通り抜ける電流によって特徴づけられる緻密化は、SPS法より高速ホットプレスの方が高かった。
亜酸化ホウ素を含む完全に緻密化した複合材料が生成され、その中に二次相が均一に分散していた。サンプルの断面を研磨してからビッカース圧子で硬度と破壊靱性を調べた。硬度は0.4kgの負荷で約37±0.7GPaであり、破壊靱性は約4.6MPa.m0.5であることが分かった。
XRD解析はAg2Oが金属銀に変換されることを示した。
Al2O3 (製粉ボールの摩耗)は、いくらかの追加の粒界相:Al20B4O36をもたらす。
上記同一条件下で、スチールボールでB6O紛体を製粉し、次にAgNO3溶液から銀を沈殿させてAl不純物のない高密度サンプルを生成した。このサンプルは、上記複合材料と同様の特徴を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜酸化ホウ素と二次相を含む亜酸化ホウ素複合材料であって、前記二次相が、金、銀及び銅並びにこれらの金属の1種以上を基礎とするか又は含有する合金から選択される金属を含有し、かつ前記金属又は合金が、前記材料中に約20体積%未満の量で存在する、亜酸化ホウ素複合材料。
【請求項2】
前記二次相が、本質的に前記金属又は合金から成る、請求項1に記載の亜酸化ホウ素複合材料。
【請求項3】
前記二次相が、他の元素又は化合物を含む、請求項1に記載の亜酸化ホウ素複合材料。
【請求項4】
前記他の元素又は化合物が、ホウ化物形成剤又はそのホウ化物である、請求項3に記載の亜酸化ホウ素複合材料。
【請求項5】
前記ホウ化物形成剤が、チタン、バナジウム、ニッケル、鉄、コバルト及びクロムから選択される、請求項4に記載の亜酸化ホウ素複合材料。
【請求項6】
前記金属又は合金が、前記材料中に6体積%未満の量で存在する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の亜酸化ホウ素複合材料。
【請求項7】
実質的に本明細書で実施例を参照して記述される通りの亜酸化ホウ素複合材料。

【公表番号】特表2012−533690(P2012−533690A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−521145(P2012−521145)
【出願日】平成22年7月21日(2010.7.21)
【国際出願番号】PCT/IB2010/053324
【国際公開番号】WO2011/010288
【国際公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(512016711)エレメント シックス アブレイシヴズ ソシエテ アノニム (4)
【Fターム(参考)】