説明

亜鉛メッキ鋼管を配管した設備の配管系からのフラッシング排水の処理方法

【課題】亜鉛メッキ鋼管を配管した設備の配管系からのフラッシング排水中の亜鉛の濃度を容易に推定して、それに基づいて凝結剤及び凝集剤の投入量を適切に制御する。
【解決手段】亜鉛メッキ鋼管を配管した設備の配管系からのフラッシング排水をpH調整槽11、凝結槽21、凝集槽31で順次処理した後、沈殿槽41で凝集物を沈殿させて分離除去し、上澄み水を処理水として排出管45から排出する。排出管45に設けた濁度計Bの測定結果に基づいて、凝結槽21、凝集槽31に投入する凝結剤、凝集剤の量を制御する。フラッシング排水の濁度と亜鉛濃度との間には相関があるので、連続して適切な凝結剤、凝集剤の量を直ちに調整することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛メッキ鋼管を配管した設備の配管系からのフラッシング排水中の亜鉛を除去するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フラッシングとは、空調設備、給水・給湯設備、プラント、その他配管システム等の試運転前に、配管の接続、切断、溶接作業などによって生じた鉄粉、切削油、酸化亜鉛、接合材料等を、配管系から除去することを目的として、配管内に流体を流して清浄することであり、その方法としては、
(1)配管に水を張りそのまま抜く方法
(2)水を張った後に循環させてから抜く方法
(3)少量の水を吸引等により流速を高くして配管中に流通させてから抜く方法
がある。
【0003】
これらのいずれの方法で配管をフラッシングしても、亜鉛メッキ鋼管を配管した設備の配管系からのフラッシング排水中には高濃度の亜鉛、製造時及びネジ加工時に使用する油、微量の重金属が含まれている。このような亜鉛メッキ鋼管を配管した設備の配管系からのフラッシング排水を場外へ排出する場合、排水規制値以上になる主成分は亜鉛であり、油分(ノルマルヘキサン抽出物質として検出される)、他の重金属もまれに規制値以上になる。
【0004】
排水規制値以上の亜鉛、油分、重金属が含まれているフラッシング排水は、そのままでは排出できないため、一般的には希釈処理をしたのち敷地外に排出しており、現状では、亜鉛除去処理を行った上で排出している例は極めてまれである。そのため、亜鉛メッキ鋼管を配管した設備の配管系からのフラッシング排水中の亜鉛を除去する直接の従来既存の技術は見当たらない(非特許文献1)。
【0005】
この点に関し、一般的な亜鉛含有排水の処理方法自体は、従来から下記のような技術が提案されている。すなわち、亜鉛含有排水に対して、まずアルカリ化処理した後、無機凝結剤を添加し、その後高分子凝集剤を添加して沈殿槽で汚泥を分離し、場合によってはろ過をした後、処理水のpHを排水処理基準まで中和して、排水する方法である(特許文献1、2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭58−19498号公報
【特許文献2】特開平11−188208号公報
【特許文献3】特開平11−290865号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】社団法人 空気調和・衛生工学会 施工保全委員会 「施工保全情報と空調配管システム信頼性向上に関する調査研究」平成21年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これら従来技術は、いずれも凝結剤を定量供給するものであり、流入濃度に変化がある場合は、一番濃厚な排水が流入する事を想定し、それに相応した凝結剤、凝集剤量を添加する必要がある。
【0009】
すなわち、凝結剤、凝集剤を適正量供給するためには、亜鉛濃度を直接測定し、その濃度に比例して適正量の凝結剤を添加すればよいが、現状では、現場にて連続的に排水中の亜鉛濃度を簡易に測定する方法がないのが実情である。JISにおける亜鉛の分析方法には、フレーム原子吸光法、電気加熱原子吸光法、ICP発光分光分析法、ICP質量分析法があるが、これらはいずれも分析装置が高価な上、連続分析には適していない。また簡易な分析方法として、比色法があるが、やはり連続して分析ができない。
【0010】
そのため従来既存の技術の下では、凝結剤を定量供給するしかなく、その結果、仮に途中で亜鉛濃度が希薄な排水が流入しても、過剰な凝結剤を投入することになり、本来必要な凝結剤量よりも多くの凝結剤を投入するため、発生汚泥量も多くなっていた。亜鉛の凝集物は沈降性が悪いため、凝結剤及び凝集剤の添加量は安全を見て多めに入れる事が多く、さらに発生汚泥量が多くなっていた。
【0011】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、亜鉛メッキ鋼管を配管した設備の配管系からのフラッシング排水中の亜鉛の濃度を容易に推定でき、それに基づいて凝結剤及び凝集剤の添加量を適切に制御することで、前記した問題の解決を図ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は種々の施設から排出されるフラッシング排水を様々な項目について分析し、亜鉛濃度と相関のある項目を見つけ、それにより亜鉛濃度を容易にかつ連続して推定できることを新たに知見した。すなわち、亜鉛メッキ鋼管を配管した設備の配管系からのフラッシング排水中の亜鉛濃度と濁度との間に相関があることを見出した。
【0013】
図1は、その結果を示している。亜鉛濃度の測定には、バリアン社製ICP発光分光分析装置 720−ES型を用い、濁度の測定には、HACH製濁度色度計 2100ANを用いて各々分析)した。この図1の結果によれば、フラッシング排水の原水、処理後の処理水にかかわらず、濁度と亜鉛メッキ鋼管からなる配管系のフラッシング排水中の亜鉛濃度とは、比例関係にあり、約0.99の相関関係があることが判明した。
【0014】
しかもフラッシング方法が異なる場合においても、亜鉛濃度と濁度には相関があったことも確認された。したがって、あらかじめ濁度と亜鉛濃度を測定してその相関を知っておくことで、処理原水あるいは処理後の処理水の濁度から亜鉛濃度を速やかにかつ連続して求めることができる。
【0015】
また亜鉛メッキ鋼管からなる配管系からのフラッシング排水の成分割合は、どの設備でも常にほぼ均一であることから、亜鉛濃度と濁度の相関があると考えられ、これは他の亜鉛含有排水と異なり、亜鉛メッキ鋼管の配管系のフラッシング排水特有のものと考えられる。たとえばフラッシング排水と異なり、メッキ工場、亜鉛精錬工場等から排出される亜鉛含有排水は、製造工場によりその組成が様々であるとともに、排出口では様々な工程で発生した排水が混合するため、亜鉛濃度と濁度との相関が日々異なると共に、亜鉛以外の物質が濁度に影響を与える事も多く、亜鉛濃度と濁度に相関が見られない事が多い。
【0016】
かかる知見に基づき、本発明は、亜鉛メッキ鋼管を配管した設備の配管系からのフラッシング排水を処理する方法であって、前記フラッシング排水のpHを調整する工程と、当該調整後の水を無機凝結剤で凝結させる工程と、その後高分子凝集剤で凝集させて亜鉛を含む凝集物を分離除去する工程と、を有し、前記フラッシング排水(処理原水)または前記分離除去した後の処理水の濁度を測定し、当該測定結果に基づいて、前記無機凝結剤及び高分子凝集剤の投入量を調整することを特徴としている。
【0017】
凝集物を分離除去する工程では、後述の沈殿槽での沈殿凝集の他に、フィルタを用いてろ過するようにしてもよい。
【0018】
前記分離除去を、凝集物を沈殿槽に沈殿させることによって行なう場合、当該沈殿した凝集物を無機凝結剤で凝結させる工程の前段側に戻す工程をさらに有し、前記濁度の測定結果に基づいて、前記戻す凝集物の量及び/又は処理するフラッシング排水の量を調整するようにしてもよい。
【0019】
前記測定結果が所定値以上になった場合に、処理水をシステム外に排出せず再処理したり、希釈した後に排出したり、フィルタでろ過した後に排出するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、亜鉛メッキ鋼管を配管した設備の配管系からのフラッシング排水を処理するにあたり、凝結剤及び凝集剤の添加量を適切に制御することができ、また予め濁度と亜鉛濃度との関係を調べておくことで排水、処理水中の亜鉛の濃度を容易に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】フラッシング排水の濁度と亜鉛濃度との相関を示すグラフである。
【図2】実施の形態を実施するためのシステムの系統の概略を模式的に示した説明図である。
【図3】処理水量と亜鉛濃度との関係を示すグラフである。
【図4】流入水濁度に基づく、凝結剤量および返送汚泥量の制御例を示すグラフである。
【図5】処理水量と亜鉛濃度との関係を沈殿物の返送の有無について示したグラフである。
【図6】流入水濁度に基づく、凝結剤量および返送汚泥量の他の制御例を示すグラフである。
【図7】他の実施の形態を実施するための他のシステムの系統の概略を模式的に示した説明図である。
【図8】懸濁物質濃度と亜鉛濃度との関係を、フラッシング排水(原水)と処理水について各々示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図2は、実施の形態にかかるフラッシング排水の処理方法を実施するための処理システムの系統の概略を示しており、溶融亜鉛メッキ鋼管等、亜鉛メッキ鋼管を配管した設備の配管系からのフラッシング排水は、流入管1から、流入ポンプ2によってシステム内に流入する。
【0023】
そして最初にpH調整槽11において、フラッシング排水に対してpH調整がなされる。pH調整は、pH調整剤供給源(図示せず)から、ポンプ12によって、pH調整槽11内にpH調整剤が供給され、pH調整槽11内に設けられた攪拌装置13によって、攪拌される。pH調整剤の投入量は、pH調整槽11内に設けられたpH計測装置14によるpH値に基づいて制御され、たとえばpHが8.5〜11.0となるように、ポンプ12の動作が制御される。pH調整剤(アルカリ)としては水酸化ナトリウム(NaOH)、消石灰(Ca(OH))、ソーダ灰(NaCO)等の公知のアルカリ薬剤が使用できる。
【0024】
pH調整槽11内でpH調整された後の排水は、凝結槽21において凝結処理に付される。凝結槽21には、無機凝結剤供給源(図示せず)から、ポンプ22によって無機凝結剤が供給され、凝結槽21内に設けられた攪拌装置23によって、攪拌される。凝結剤としては、鉄系凝結剤が好ましく、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、塩化第二鉄、塩化コッパラス、ポリ塩化第二鉄、ポリ硫酸鉄、鉄−シリカ無機高分子凝集剤のいずれか、または組み合わせて使用すればよい。また鉄系凝結剤に対して凝結性能は劣るがPAC(ポリ塩化アルミニウム)、硫酸バンド(硫酸アルミニウム)等のアルミ系凝結剤でも良い。
【0025】
凝結槽21において凝結処理された排水は、凝集槽31において凝集処理に付される。凝集槽31には、高分子凝集剤供給源(図示せず)から、ポンプ32によって高分子凝集剤が供給され、凝集槽31内に設けられた攪拌装置33によって、攪拌される。高分子凝集剤としてはアニオン系凝集剤が好ましい。また、凝結剤と併せて、活性珪酸、粉末活性炭、ベントナイト、アルギン酸ナトリウム等の公知の凝集助剤を加えても良いが、本発明の方法に従えば、凝結剤・凝集剤のみで排水基準値以下まで処理する事が可能であるため、その必要性は低い。
【0026】
そして凝集槽31において凝集処理された後の排水は、沈殿槽41へ移送される。沈殿槽41において沈殿した沈殿物(汚泥)は、ポンプ42によって戻し管43を通じて、pH調整槽11の前段側に戻すことが可能になっている。戻し管43には、排出管44が分岐接続されている。戻し管43、排出管44には、各々バルブ43a、44aが設けられている。また沈殿槽41の上澄み水は、配管45を通じて、システム下流側のpH調整槽51へと送られる。配管45には、流出バルブ45aが設けられている。
【0027】
pH調整槽51では、pH調整剤供給源(図示せず)から、ポンプ52によって、pH調整槽51内にpH調整剤(酸)が供給され、pH調整槽51内に設けられた攪拌装置53によって、攪拌される。pH調整剤の投入量は、pH調整槽51内に設けられたpH計測装置54によるpH値に基づいて制御され、たとえばpHが5.8〜8.6となるように、ポンプ52の動作が制御される。pH調整剤(酸)としては一般的に用いられている硫酸HSO、塩酸HCl、炭酸CO等の公知の酸が使用できる。
【0028】
配管45には、沈殿槽41の排水(上澄み水)、すなわち凝集処理後の処理水を、流入管1に戻すための返送管46が分岐接続されており、返送ポンプ47によって、pH調整槽11の前段側に、配管45からの処理水を戻すことが可能になっている。返送管46には、返送バルブ46aが設けられている。これによって処理水を再処理することができる。
【0029】
そしてこの図2のシステム例では、流入管1における返送管46との接続点下流側であって、戻し管43との接続点上流側に、濁度計Aが設けられ、また沈殿槽41の排水(上澄み水)の出口側、すなわち配管45の沈殿槽41側に、濁度計Bが設けられている。
【0030】
各濁度計A、Bの測定結果は、制御装置Zへと出力され、制御装置Zでは、予め求めてあった濁度−亜鉛濃度の相関に基づき、流入ポンプ2、ポンプ22、32、42、バルブ43a、44a、流出バルブ45a、返送バルブ46a、返送ポンプ47等の制御を行なう。
【0031】
かかるシステムによれば、流入管1から流入するフラッシング排水の濁度を濁度計Aで連続計測し、凝結槽21に投入する凝結剤の量、および凝集槽31に投入する凝集剤の量を即座に調整することができる。たとえば、フラッシング排水の濁度が高い、すなわち亜鉛濃度が高い場合は凝結剤量を増やし、低い場合は凝結剤量を減らす制御を行うことができ、それによって凝結剤を無駄に投入することを防止することができる。
【0032】
また、沈殿槽41からの処理水(上澄み水)の濁度を濁度計Bで連続計測し、濁度が一定値以上になった場合、流入ポンプ2の停止、流出バルブ45aの閉止、返送バルブ46aの開放、返送ポンプ47の動作ONという一連の動作を行うことも可能である。その結果、排出水亜鉛濃度は0.5mg/L以下となり、一定に処理することができた。その結果を図3の表に示す。
【0033】
ところで、凝集沈殿法では、水に溶解していない浮遊物質が凝集物の核となるため、浮遊物質が多いほど凝集沈殿しやすくなる。この点に関し、図2のシステムにおいては、濁度計Aで測定したフラッシング排水の濁度に基づいてポンプ42を制御して、沈殿槽41から戻し管43を通じての沈殿物(汚泥)の返送量を制御することができる。この沈殿物(汚泥)の返送量制御によって返送した沈殿物が凝集のための核となって、安定した凝集沈殿が可能となる。また、特にフラッシング排水の亜鉛濃度が薄い場合には、凝集物が少なく凝集沈殿がしにくくなってしまう。濁度計Aによって測定される流入フラッシング排水の濁度が所定値より低い、すなわち亜鉛濃度が所定値より薄い場合には、ポンプ42を作動させて、沈殿槽41から戻し管43を通じてpH調整槽11の前段側に戻す沈殿物(汚泥)の量を、亜鉛濃度が薄いほど増加させるように制御することができる。
【0034】
図4は、上記した凝結剤の投入量制御及び沈殿物(汚泥)の返送量制御について、流入水濁度と凝結剤の投入量及び沈殿物(汚泥)返送量との関係を模式的に示したものである。図4に示すように、流入フラッシング排水の濁度が所定値以下の場合は、濁度が低いほど返送汚泥量を増やし、濁度が高いほど返送汚泥量を減らす制御を行った。濁度が所定値以上の場合は、濁度が低いほど返送汚泥量を減らし、濁度が高いほど返送汚泥量を増やす制御を行った。また、返送汚泥量には、後述のように、上限を設けてある。所定値としては、たとえばおよそ10〜30NTU(亜鉛濃度で3〜10mg/L相当)を例示できる。
【0035】
このような沈殿物の返送量制御を実施することで、流入フラッシング排水の亜鉛濃度が薄く、その結果、添加凝結剤が少ない場合においても、排出水亜鉛濃度は0.5mg/L以下で一定に処理することができた。なお流入フラッシング排水の亜鉛濃度が薄いときにこの返送量制御を行わない場合、添加凝結剤が少なくなっているので、十分な亜鉛除去が行われなかった。その結果を図5の表に示す。
【0036】
このような例では、フラッシング排水の濁度を濁度計Aで測定する事で、必要とされる沈殿物(汚泥)返送量が求められるので、返送量を可変制御することができる。したがって処理の状態により、沈殿槽41の沈殿物を流入フラッシング排水と混合しなくても亜鉛を除去することが可能な場合には、沈殿槽41の沈殿物を、流入フラッシング排水へ混合するためのポンプ42を稼動させなくてもよく、その分ポンプ42の動力を節約できる。
【0037】
なお、返送量が多くなって、沈殿槽41への流入水量が多くなりすぎると、沈殿槽41の負荷が上昇し、沈殿物(汚泥)の沈降性が悪化して汚泥が流出するため、戻し管43を通じての返送量には上限を設けることがよい。
【0038】
またフラッシング排水の濁度が低い、すなわち亜鉛濃度が薄い場合は、凝集物の核となる浮遊物質が少ないので、前述した制御(亜鉛濃度が薄い場合には凝結剤量を減らす)の通りに凝結剤を減らすと凝集性が悪化するが、沈殿物(汚泥)の返送量を増やす事で凝集性が良好になる。このようにすると、凝結剤が少ないまま、凝集性を向上させる制御をすることで、汚泥発生量を減らす事もできる。
【0039】
なお、流入フラッシング排水の亜鉛濃度が薄い場合にも安定した凝集沈殿を行うための他の制御方法として、図6に示したように、流入フラッシング排水の濁度が所定値以下の場合に、沈殿物(汚泥)の返送量を増やさず凝結剤を一定量投入するようにしてもよい。なお図4、図6に示したのは、凝結剤量と返送汚泥量の制御例であったが、凝集剤量についても凝結剤量と同様である。
【0040】
次に他の例について説明する。図7は、他の実施の形態にかかるフラッシング排水の処理方法を実施するための処理システムの系統の概略を示しており、この例は、基本的には図2に示したシステムに対して、pH調整槽51の後段側に、処理水の希釈系、及びフィルタ除去系を設けたものである。すなわち、図7のシステムでは、pH調整槽51からの処理水をそのまま系外に排出するのではなく、pH調整槽51に接続された排出管61に対して、希釈系分岐配管62を接続し、この希釈系分岐配管62に対して希釈水供給源(図示せず)から、ポンプ63によって希釈水、たとえば水を供給することが可能になっている。一方、フィルタ除去系については、排出管61に対してフィルタ除去系配管64を接続し、このフィルタ除去系配管64にフィルタ65を設け、ポンプ66によって排出管61からの処理水をフィルタ65に送水し、フィルタ65によって汚染物質を除去した後、系外に排出することが可能になっている。
【0041】
このような希釈系、フィルタ除去系による処理水の処理は、制御装置Zによってなされる。すなわち、排出管61に設けた濁度計Cの測定結果に基づいて、そのまま系外への排出を可能にするバルブ61aの開閉、希釈系による処理を行なうためのバルブ62a、ポンプ63、フィルタ除去系による処理を行なうためのバルブ64a、ポンプ66の制御が行なわれる。
【0042】
そして図7のシステム例では、pH調整槽11、凝結槽21、凝集槽31、沈殿槽41、pH調整槽51をバイパスして、フラッシング排水を、直接pH調整槽51の下流側へと送水するバイパス管69が配管されている。バイパス管69のバルブ69aの開閉制御も濁度計Aの測定結果に基づいて、制御装置Zで行なわれる。
【0043】
かかる構成を有するシステムによれば、たとえば濁度計Cによる測定結果(濁度に基づく亜鉛濃度)が、所定値以下であれば、バルブ61a開放、バルブ62a、64a閉止という制御により、pH調整槽51からの処理水は、排出管61からそのまま系外に排出される。
【0044】
そして濁度計Cによる測定結果が所定値を超えている場合、それが所定値を大きく超えないとき、たとえば所定の基準値(亜鉛濃度)が2mg/Lで測定値が2.5mg/Lだった場合には、さらに処理を実行するよりも希釈水によって希釈して排出した方がコスト的に有利な場合がある。この場合には、バルブ61a閉止、バルブ62a開放、64a閉止という制御により、pH調整槽51からの処理水は、希釈系配管62で希釈された後、系外に排出される。
【0045】
また同様に、濁度計Cによる測定結果が所定値を超えている場合、それが所定値を大きく超えないときには、バルブ61a閉止、バルブ62a閉止、64a開放という制御により、pH調整槽51からの処理水は、フィルタ除去系配管64のフィルタ65で汚染物が除去された後、系外に排出される。所定値としては、たとえば、あらかじめフィルタろ過試験を実施し、ろ過前の亜鉛濃度とろ過後の亜鉛濃度の相関を測定し、当該測定結果から求めることができる。例えば、基準値が2mg−Zn/Lの場合、フィルタ処理前の亜鉛濃度が5mg/Lでありフィルタ処理後の亜鉛濃度2mg/Lであるならば、所定値は5mg−Zn/Lとなる。実際には、安全をみて若干低めの値、たとえば4mg−Zn/L程度に設定される。
【0046】
処理水をフィルタ65でろ過することで、微細な粒子が除去され、処理水亜鉛濃度を下げる事ができる。しかし、この微細な粒子はフィルタに目詰まりし易いため、処理水全量をろ過することは、フィルタの交換、保守等に要する費用がかさむ。よって処理水の亜鉛濃度が高い場合のみろ過することが、最も経済的である。今までは処理水亜鉛濃度を連続的に測定することができなかったが、本発明によれば、濁度を測定する事で処理水亜鉛濃度を容易に推定できるため、このような経済的な制御方法が可能となる。
【0047】
フラッシング排水を凝集法で処理した水中の粒子状物質の粒径は1〜10μm程度が一番多いため、フィルタ65のろ過材としては、ろ過径0.1〜10μm程度の公知のろ過材を用いる事ができる。ろ過材としてはカートリッジフィルタの使用が最も安価で簡便である。
【0048】
さらにまた濁度計Aで測定したフラッシング排水の亜鉛濃度が所定の基準値を大きく超えていないときには、上記と同様にして、希釈系、フィルタ除去系で処理した後、系外に排出することができる。もちろん濁度計Aで測定したフラッシング排水の亜鉛濃度が所定の基準値以下であれば、そのまま排出管61を通じて系外に排出される。なお、希釈系、フィルタ除去系の何れか一方を有したシステムであってもよい。
【0049】
このように本発明では、フラッシング排水や処理水の濁度に基づいて、排水中、処理水中の亜鉛濃度を即座に、かつ連続して推定することができるので、以上のようなシステムにおいて採用したように、濃度に応じた好適な処理を実施することが可能である。
【0050】
なお、フラッシング排水と異なり、メッキ工場、亜鉛精錬工場等から排出される亜鉛含有排水は、製造工場によりその組成が様々であるとともに、排出口では様々な工程で発生した排水が混合するため、亜鉛濃度と濁度との相関が日々異なると共に、亜鉛以外の物質が濁度に影響を与える事も多く、亜鉛濃度と濁度に相関が見られない事が多い。
【0051】
また、特開2002−28663号公報(以下、「参考技術」という)においては、処理水の懸濁物質濃度を測定し、それにより凝結剤量を制御する事が開示されている。しかしながら本発明者が様々な場所から排出されたフラッシング排水を分析した結果、フラッシング排水では懸濁物質量と亜鉛濃度に相関が無く、これと同様の制御を用いる事はできないことが判明した。図8は、その結果を示しており、懸濁物質濃度と亜鉛濃度とは、直接関係がない。したがって、参考技術に記載された技術をもってしては、本発明のように、濁度に基づいて即座にかつ連続的にフラッシング排水中の亜鉛濃度を知ることは不可能であり、またそのことについて格別有益な情報は、参考技術には見られない。また通常は、亜鉛濃度と濁度との間には、相関関係はないとされている。これは、水に溶解している亜鉛と溶解していない亜鉛の双方が亜鉛濃度に寄与するが、濁度に影響を及ぼすのは、溶解していない亜鉛のみであるから、フラッシング排水に固有の相関だと推察される。
【0052】
既述したように、亜鉛メッキ鋼管からのフラッシング排水の濁度と亜鉛濃度との間に相関があることは、発明者らによって初めて発見されたものであり、本発明は、当該発見に基づいて、新たに構築されたものである。またこの種の設備に使用される溶融亜鉛メッキ鋼管は、JISで規定されているため、いずれのメーカへの製品でも、材質や製造方法はほぼ同じであり、また同様の施工方法によって施工されている。発明者らは、かかる点にも着目し、凡そどの設備においても、亜鉛メッキ鋼管のフラッシング排水の成分割合はほぼ同一であることから、本発明を発明するに至っている。
【0053】
本発明によれば、フラッシング排水中の亜鉛の他に、油分や、鉛等の重金属も同時に安定的に除去することができる。またフラッシング排水を本システムで処理した後に、再度配管系に戻すことが可能なように(即ち、図2のシステムにおいてはpH調整槽51の下流側の配管を、図7のシステムにおいては排出管61を配管系に接続して、配管系と本システムとの間でフラッシング排水が循環できるように)配管系と本発明のシステムを接続し、例えば配管系と本発明のシステムとを通して水を数回循環させて充分に処理した後、本システムを配管系から外し、配管系内に戻した処理水をそのまま空調用の水として使用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、亜鉛メッキ鋼管を配管した設備の配管系からのフラッシング排水の処理に有用である。
【符号の説明】
【0055】
1 流入管
2 流入ポンプ
11、51 pH調整槽
12、22、32、52 ポンプ
13、23、33 攪拌装置
21 凝結槽
31 凝集槽
41 沈殿槽
43 戻し管
45、61 排出管
46 返送管
47 返送ポンプ
62 希釈系配管
64 フィルタ除去系配管
65 フィルタ
69 バイパス管
A、B、C 濁度計
Z 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛メッキ鋼管を配管した設備の配管系からのフラッシング排水を処理する方法であって、
前記フラッシング排水のpHを調整する工程と、
当該調整後の水を無機凝結剤で凝結させる工程と、
その後高分子凝集剤で凝集させて亜鉛を含む凝集物を分離除去する工程と、を有し、
前記フラッシング排水または前記分離除去した後の処理水の濁度を測定し、当該測定結果に基づいて、前記無機凝結剤及び高分子凝集剤の投入量を調整することを特徴とする、亜鉛メッキ鋼管を配管した設備の配管系からのフラッシング排水の処理方法。
【請求項2】
前記分離除去は、凝集物を沈殿槽に沈殿させることによって行なわれ、当該沈殿した凝集物を無機凝結剤で凝結させる工程の前段側に戻す工程をさらに有し、
前記濁度の測定結果に基づいて、前記戻す凝集物の量及び/又は処理するフラッシング排水の量を調整することを特徴とする、請求項1に記載のフラッシング排水の処理方法。
【請求項3】
前記測定結果が所定値以上になった場合に、処理水をシステム外に排出せず再処理することを特徴とする、請求項1又は2に記載のフラッシング排水の処理方法。
【請求項4】
前記測定結果が所定値以上になった場合に、処理水をシステム外にそのまま排出せず、希釈した後に排出することを特徴とする、請求項1又は2に記載のフラッシング排水の処理方法。
【請求項5】
前記測定結果が所定値以上になった場合に、処理水をシステム外にそのまま排出せず、フィルタでろ過した後に排出することを特徴とする、請求項1又は2に記載のフラッシング排水の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−34987(P2013−34987A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−155706(P2012−155706)
【出願日】平成24年7月11日(2012.7.11)
【出願人】(000169499)高砂熱学工業株式会社 (287)
【Fターム(参考)】