説明

亜鉛添加リン化ガリウム単結晶成長用融液の生成方法

【課題】液体封止引き上げ法(LEC法)によるZn添加GaP単結晶の製造において、Znの蒸発による揮散を防止して、Zn添加GaP単結晶成長用融液におけるZn量のばらつきを抑制する手段を提供する。
【解決手段】ルツボ3内部の底面11を球状凹面とし、リン化ガリウム多結晶原料のうち少なくとも一部をルツボ3に嵌入できる形状および大きさの一体固形物12aとし、ルツボ3内部の底面11と一体固形物12aの底面13との間に閉鎖空間16を形成し、閉鎖空間16内にZn原料15を配置し、かつ、GaP多結晶原料12a、12bの上に、封止剤であるB2317を載置した状態で、これらを加熱融解させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体封止引き上げ法によって亜鉛添加リン化ガリウム単結晶を製造するために用いる成長用融液の生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
可視光領域の光を発する発光ダイオード(LED)を製造するための基板には、リン化ガリウム(GaP)単結晶が用いられる。このGaP単結晶は、液体封止引き上げ法(LEC法)によって製造される。
【0003】
図3は、LEC法によるGaP単結晶製造装置の概略断面図である。該製造装置は、100気圧程度の高圧にも耐えられる圧力容器(1)を備えており、通常、GaP単結晶の製造は、圧力容器(1)内で、50気圧の窒素(N2)やアルゴン(Ar2)といった不活性ガス雰囲気下で行われる。圧力容器(1)内の中心部には、サセプタ(2)内に載置したルツボ(3)が配置されている。
【0004】
ルツボ(3)の中には、リン(P)とガリウム(Ga)とを反応させて作製したGaP多結晶原料と、製造後のGaP単結晶中でn型またはp型の電気特性を発現する働きをする不純物原料とが投入されるとともに、GaP多結晶原料の融解時のPの揮発分解を防止するための封止剤として、酸化ホウ素(B23)が投入されている。ルツボ(3)の周囲には、このルツボ(3)を囲むように、加熱用の黒鉛ヒータ(4)が配置されている。ルツボ(3)の上方には、種結晶(5)が取り付けられた上部シャフト(6)が配置されている。
【0005】
GaP単結晶を製造する際には、まず、黒鉛ヒータ(4)に通電して、ルツボ(3)の中のGaP多結晶原料を融点以上にまで昇温させ、融解させる。なお、GaPの融点は1465℃であり、融点付近でのPの分解圧は約35気圧と非常に高い。このため、昇温の際には、融点450℃のB23が先に融解し、GaP多結晶原料を覆い、その後にGaP多結晶原料が融解するために、Pの解離は防止される。
【0006】
GaP多結晶原料の融解後、上部シャフト(6)を降下させ、種結晶(5)をルツボ(3)の中のB23融液層(7)の下方に位置するGaP融液(8)に浸漬させた後に、温度を下げ、ルツボ(3)を回転させ、かつ、種結晶(5)を回転させながら引き上げて、GaP単結晶(9)を育成する。
【0007】
ところで、以上に述べたGaP単結晶の製造において、該GaP単結晶にn型の導電性を付与する場合には、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、ケイ素(Si)を、p型の導電性を付与する場合には、亜鉛(Zn)を、それぞれ不純物原料として使用する。
【0008】
これらのうち、S、Se、Te、Znは解離圧が高く、GaP多結晶原料を融解するための昇温過程において一部が蒸発し、圧力容器(1)内に揮散してしまい、生成されたGaP融液(8)中の不純物量にばらつきが生じる。この結果、育成されたGaP単結晶(9)中の不純物量にもばらつきが生じ、該GaP単結晶(9)の導電性がばらつくため、歩留りが悪くなる。
【0009】
ただし、S、Se、Teは、Gaと化合物(硫化ガリウム、セレン化ガリウム、テルル化ガリウム)を形成し、該化合物が化学的に安定である。このため、S、Se、Te単体の代わりに、該化合物を不純物原料として使用することにより、S、Se、Teの揮散防止を図ることができる。
【0010】
一方、Znは、Pと化合物(リン化亜鉛)を形成するが、該化合物が化学的に不安定である。このため、Zn単体の代わりに該化合物を不純物原料として使用しても、Znの揮散防止を図ることができない。
【0011】
この場合に、B23融液でZnを覆うことにより、Zn蒸気の発生を防止することが考えられるが、Znの融点が419.5℃と低く、B23が融解する前にZnが融解し、B23やGaP多結晶原料の隙間空間を通じてZnが揮散してしまうため、該手段は実現できない。
【0012】
これに対して、特許文献1には、単結晶成長用融液の生成方法において、予めZnを固溶した多結晶原料をルツボに投入し、これを加熱し融解させることで、Znの揮散を防止することが記載されている。しかしながら、この場合、Znを固溶した多結晶原料の作製時にZnが揮散し、Znの固溶量がばらつくといった問題が生じる。さらには、Znの偏析により、多結晶原料の部位によってZn濃度が異なるために、全量を分析しないと正確なZnの固溶量が把握できないといった問題が生じる。
【0013】
また、特許文献2には、GaにZnを完全に溶解した後、砒素(As)蒸気と反応させることで、Zn添加砒化ガリウム(GaAs)融液を生成する方法が記載されている。この方法において、該GaAs融液表面に、B23融液で覆われていない開口部を設けることで、該GaAs融液中のZn濃度を調節可能とすることも記載されている。一方、特許文献3には、GaとAsを原料としてGaAs融液を生成する方法が記載されている。
【0014】
これら特許文献2および3に記載された成長用融液の生成方法を組み合わせることにより、Ga、As、およびZnを原料として、Znの揮散を抑えながらGaAs融液を生成することが可能となる。
【0015】
かかる方法をGaP融液の生成に適用すれば、Znの揮散を抑えながら該GaP融液を生成することが可能になると考えられる。しかしながら、実際には、GaAsの場合と異なり、Pの解離圧が高いため、GaとPを原料として使用した場合には、B23融液で覆われていない開口部を設けた場合、Pの飛散が激しく、融液中のP組成が不足してしまい、単結晶育成の歩留りが低下するといった問題が発生するため、実用的ではない。
【0016】
また、特許文献4には、不純物材料であるZnを液状のGaで被包して、ルツボの底部に配置し、その後にGaAs多結晶材料をルツボ内に配置し、原料融解工程において、液状のGaにZnを溶解した後、GaAs多結晶原料を融解させることで、Znの揮散を抑えながらZn添加GaAs融液を生成する方法が記載されている。この方法は、GaP融液の生成にも適用可能である。この場合、ルツボ内での原料融解工程において、まず、Gaが融点29.8℃で融解し、周囲にあるZnと反応して液状のGa中にZnが溶解する。その後、多結晶原料が融解して単結晶成長用融液を生成する。
【0017】
しかしながら、この方法では液状のGaにZnを完全に溶解する前に、GaがZnの周囲から移動してしまい、Znを覆いきれずに、Znが揮散してしまうという問題がある。このため、液状のGaの移動を制限する工夫が必要となる。また、これを制限し得たとしても、Gaの融液からZnが揮散することを抑えるためには、Znを完全に覆うことが必要であり、多結晶材料とは別に、相当程度の量のGaが必要となる。例えば、特許文献4の実施例では、不純物材料であるZn2As3:700mgに対してGa:20gを使用している。したがって、この方法では、単結晶成長用融液中のGa組成がずれないように、予めGa量を減じて作製された多結晶原料を準備しなければならないという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平1−320299号公報
【特許文献2】特開平1−225731号公報
【特許文献3】特公昭60−6918号公報
【特許文献4】特開平4−46097号公報
【特許文献5】特開平9−40422号公報
【特許文献6】特開平9−40498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、LEC法によってGaP単結晶を製造するために用いる成長用融液の生成方法において、GaP多結晶原料を融解するための昇温過程で、不純物原料であるZnの蒸発による圧力容器内への揮散を抑制する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、液体封止引き上げ法によって亜鉛(Zn)添加リン化ガリウム(GaP)単結晶を製造するために用いるZn添加GaP単結晶成長用融液の生成方法に係る。
【0021】
特に、本発明では、ルツボ内部で、該ルツボ内部の底面とGaP多結晶原料との間に閉鎖空間を形成するとともに、該閉鎖空間内にZn原料を配置し、かつ、前記GaP多結晶原料の上に酸化ホウ素(B23)を載置した状態で、これらのGaP多結晶原料とZn原料とB23とを加熱し融解させることを特徴とする。
【0022】
前記GaP多結晶原料のうちの少なくとも一部を、前記ルツボに嵌入できる形状および大きさを有する一体固形物とし、該一体固形物の底面と前記ルツボ内部の底面との間に前記閉鎖空間を形成することが好ましい。
【0023】
この場合、前記ルツボ内部の底面を球状凹面として、前記一体固形物の底面を円形の平面とし、該一体固形物の底面の外周縁を前記ルツボ内部の底面に全周にわたり当接させることにより、これら両底面同士の間に前記閉鎖空間を形成することが好ましい。
【0024】
また、前記Zn原料として粉末状のZn原料を用い、該粉末状のZn原料を、前記一体固形物の底面に付着させて保持することが好ましい。
【0025】
さらに、前記B23の配置箇所が、前記Zn原料の配置箇所よりも高温になるように加熱することが好ましい。
【0026】
なお、必要に応じて、前記ルツボ内部の底部にガリウム(Ga)粒子を載置して、これを加熱し融解させてもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の亜鉛添加リン化ガリウム単結晶成長用融液の生成方法によれば、生成したGaP融液中のZn量のばらつきを抑えられるため、該GaP融液を用いて育成したGaP単結晶中のZn濃度のばらつきも抑えられる。したがって、所要の電気特性を持たせたGaP単結晶を製造する際の歩留まりを向上させることができる。
【0028】
本発明では、かかる効果を得るために、GaP多結晶原料とは別に、単体のGaを用いる必要はない。したがって、単結晶成長用融液中のGa組成がずれないように、予めGa量を調整してGaP多結晶原料を準備する工程を省略できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1による原料融解前のルツボ内の原料配置を示す概略断面図である。
【図2】比較例1による原料融解前のルツボ内の原料配置を示す概略断面図である。
【図3】LEC法によるGaP単結晶製造装置の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、原料にガリウム(Ga)を単体で用いることなく、リン化ガリウム(GaP)多結晶原料と亜鉛(Zn)原料とからGaP融液を生成した場合でも、融解前のGaP多結晶原料とZn原料との配置の仕方によっては、GaP多結晶原料を融解するための昇温過程において、Znの揮散を抑えることができるとの知見を得て、本発明を完成させるに至ったものである。
【0031】
すなわち、ルツボ内壁に粉末Zn原料を付着させた場合と、GaP多結晶原料の底面に粉末Zn原料を付着させた場合とについて、それぞれGaP融液の生成を行い、生成したGaP融液中のZn量を比較したところ、GaP多結晶原料の底面に粉末Zn原料を付着させた場合の方が、GaP融液中のZn量が多くなるとの結果が得られた。これは、活性の高いZn融液がGaP多結晶原料と反応してGaP中に取り込まれ、これによってZnの活量が低下し、Znの再蒸発が防止されたためであると考えられる。
【0032】
このことから、Znの揮散を防止するためには、GaP多結晶原料にZn融液もしくはZn蒸気を効率よく反応させることが有効であり、GaP単結晶成長用融液の生成工程における材料の配置が重要であるとの知見が得られたのである。
【0033】
本発明の特徴は、ルツボ内部で、該ルツボ内部の底面とGaP多結晶原料との間に閉鎖空間を形成するとともに、該閉鎖空間内にZn原料を配置し、かつ、前記GaP多結晶原料の上にB23を載置した状態で、これらのGaP多結晶原料とZn原料とB23とを加熱し融解させることにある。
【0034】
かかる構成により、原料の加熱融解工程において、Znの融点以上の温度になると、Zn融液がルツボ下方に溜まる。そして、先に溶融したZn融液がGaP多結晶原料と接触し、またはZnから揮散するZn蒸気がGaP多結晶原料と接触して、ZnがGaP多結晶原料中に効率的に取り込まれる。Zn蒸気がルツボと接触した場合にも、付着後に再度Zn蒸気となるが、Znは閉塞空間内においてZn蒸気として存在するか、GaP多結晶原料に取り込まれるかのどちらかとなる。
【0035】
また、ルツボ内部の底面とGaP多結晶原料との間に形成された狭い閉鎖空間では、わずかのZn量の揮散で、その温度で定まる飽和蒸気圧に達し、それ以上の揮散が抑制されることになる。
【0036】
さらに、ルツボ底面とGaP多結晶原料との間(上記閉鎖空間の周囲を仕切る部分)に僅かな隙間がある場合でも、B23の融点以上になると、B23が融解して、かかる僅かな隙間を埋めるため、Znの揮散を抑える効果はさらに高まることになる。
【0037】
このように、原料の加熱溶融工程においては、Znは閉鎖空間に留まるため、ルツボが設置された圧力容器内へのZnの揮散が抑制される。
【0038】
本発明のZn添加GaP単結晶成長用融液の生成方法は、上記の通り、GaP多結晶原料と、Zn原料と、封止剤であるB23の配置を工夫したものであり、図3に示すような従来と同様のLEC法によるGaP単結晶製造装置を用いることができる。
【0039】
ルツボ底面とGaP多結晶原料との間に閉鎖空間を設ける手段については、該GaP多結晶原料のうちの少なくとも一部を、前記ルツボに嵌入できる形状および大きさを有する一体固形物とし、該一体固形物の底面と前記ルツボ内部の底面との間に前記閉鎖空間を形成すればよい。
【0040】
一体固形物が、ルツボの底面の直上において、該ルツボの断面の全部ないしはほとんどを覆うように載置されることにより、一体固形物の外周縁とルツボの内周面ないしは底面との間の一部に僅かに隙間が形成される可能性はあるが、一体固形物の底面とルツボの内部の底面との間に閉鎖空間を容易に形成できる。
【0041】
この場合、前記ルツボ内部の底面を球状凹面(半球面状)として、前記一体固形物の底面を円形の平面(略平面を含む)とし、該一体固形物の底面の外周縁を前記ルツボ内部の底面に全周にわたり当接させることにより、これら両底面同士の間にほとんど隙間なく、密封性の良好な閉鎖空間を形成することが可能となる。なお、一体固形物の外周縁は、R面取り状の凸曲面とすることが好ましい。また、この場合には、一体固形物の形状および大きさは、ルツボ内に緩く嵌入できる程度で十分である。
【0042】
かかる一体固形物は、(1)不定形のGaP多結晶原料に研削などの機械加工を施して作製することもできるし、(2)特許文献5および6に記載されているように、ルツボを用いてGaP多結晶原料を生成することによって作製することもできるし、(3)不定形のGaP多結晶を所定の形状のルツボ内で再溶解させた後、凝固させることによって作製することもできる。
【0043】
上記(2)(3)の方法で一体固形物を作製する場合には、溶解時の表面張力の働きで、この表面の外周縁が凸曲面となる。このため、この表面を上記一体固形物の底面として使用すれば、この表面の外周縁の形状である凸曲面を、上記一体固形物の底面の外周縁に設けるべきR面取り状の凸曲面として利用できる。
【0044】
ただし、閉鎖空間を形成する手段はこれに限られず、例えば、一体固形物の底面の一部、好ましくは中央部に凹部を形成し、当該凹部内にZn粉末原料を配置することにより、ルツボの底面の形状に限られずに、閉鎖空間を形成することが可能である。
【0045】
なお、ルツボの円筒状内側面を下方に緩やかに狭まる円錐面とし、一体固形物の下部外周縁を該円錐面に密着させて閉鎖空間を形成させてもよい。
【0046】
また、本発明においては、ルツボ内へのZn原料の投入位置は、黒鉛ヒータから遠いルツボ中心部であることが好ましい。Zn原料を使用する場合には、これを上記一体固形物の底面の中央部に付着させることで、ルツボ中心部に配置でき、さらにルツボの底面から離間させることで、黒鉛ヒータからの熱が伝わりにくくすることができる。この場合、接着剤を用いずに付着させることが好ましいことから、Zn原料として粉末状のものを用いるとよい。かかる粉末状のZn原料の粒径は、Zn原料自体が上記一体固形物の底面に安定して付着し、ルツボ内部の底面に落下しない大きさであればよい。
【0047】
ルツボ内部の半径方向の温度は均一ではなく、黒鉛ヒータに近い外径側ほど高いため、B23をルツボの内周壁面に接するように配置し、Znを黒鉛ヒータから一番遠いルツボの中心部に配置すると、Zn蒸気の発生を抑えながらB23融液で覆うことができ、Zn揮散の抑制に繋がる。
【0048】
ルツボ内部の軸方向温度分布に関しては、B23の位置で温度が最も高くなり、B23がZn粉末より早く溶融するよう、ヒータに対するルツボの高さを調整することが好ましい。これにより、B23は上記閉鎖空間から漏れた僅かなZn蒸気をも封止できる。
【0049】
なお、閉鎖空間内で、ルツボ内部の底面にGa粒子を別途載置してもよい。かかるGa粒子は、生成される成長溶融液中のGa組成を調整するためのものである。これにより、成長用融液の組成をGaリッチとして、単結晶化率を向上させることが可能となる。
【0050】
本発明に用いるGaP単結晶製造装置において、ルツボは公知の材料からなるもののいずれを用いることもできる。例えば、石英製のルツボやp−BN(Pyloritic Boron Nitride)製のルツボを用いることができる。石英製のルツボの場合、GaP単結晶育成中に、GaP融液中へ石英成分であるSiが混入し、育成後のGaP単結晶中にもSiが存在することになるが、育成条件が同一であればSi混入量も一定となるため、Si混入量に応じてZn量を調整することにより、電気特性の制御は可能である。よって、コストを優先させる場合には、安価な石英製のルツボを用いることが好ましい。
【実施例】
【0051】
[実施例]
(融解前の原料の配置)
図3に示したのと同様のGaP単結晶製造装置(英国ケンブリッジインスツルメント社製CI351型成長装置)を用い、図1に示すように、ルツボ(3)内に融解前の原料を配置した。
【0052】
ルツボとして、内周面が直径105mmの円筒面(10)であり、かつ、内部の底面(11)が球状凹面である、石英製のルツボ(3)を用いた。また、GaP多結晶材料として、底面(13)が円形の平面であり、かつ、この底面(13)の外周縁がR面取り状の凸曲面(14)となるように旋削加工した、外径が約100mmで、重量が1000g以上である、短円柱状のGaP多結晶原料(12a)と、重量調整用の小塊状のGaP多結晶原料(12b)とを準備した。短円柱状のGaP多結晶原料(12a)が本発明の一体固形物に相当する。
【0053】
次に、GaP多結晶原料(12a)の底面(13)を上に向けて、この底面(13)の中央付近に、粒径が75μm以下で純度が99.999%以上の粉末Zn原料(15)を150g付着させた。
【0054】
GaP多結晶原料(12a)の底面(13)を下に向け直した状態で、GaP多結晶原料(12a)をルツボ(3)内にゆっくりと装入し、GaP多結晶原料(12a)の底面(13)の外周縁である凸曲面(14)を、ルツボ(3)の底面(11)の外周寄り部分の全周に接触させた。これにより、GaP多結晶原料(12a)の底面(13)とルツボの底面(11)との間に閉鎖空間(16)を形成するとともに、この閉鎖空間(16)内に粉末Zn原料(15)を配置した状態にした。
【0055】
その後、ルツボ(3)内のGaP多結晶原料の合計重量が1500gとなるように、重量調整用のGaP多結晶原料(12b)を、短円柱状のGaP多結晶原料(12a)の上に載置した。
【0056】
最後に、ルツボ(3)内に250gのB23(17)を、該ルツボ(3)の内周面である円筒面(10)に接するようにして、GaP多結晶原料(12a、12b)の上に載置した。
【0057】
(GaP単結晶成長用融液の生成)
GaP単結晶製造装置を構成する圧力容器(1)内の中心部に、上記原料入りのルツボ(3)を、該ルツボ(3)の形状に合わせたサセプタ(2)内に載置した状態で配置した。
【0058】
そして、圧力容器(1)内を真空にした後、50気圧の高圧窒素ガス雰囲気下で黒鉛ヒータ(4)に通電し、GaPの融点である1465℃まで昇温してGaP多結晶原料(12a、12b)を融解させることで、GaP融液(8)を生成した。
【0059】
(GaP単結晶の製造)
その後、上部シャフト(6)を降下させ、(100)方位の種結晶(5)をルツボ(3)内のB23融液層(7)の下方に位置するGaP融液(8)に浸漬させた後に、温度を下げ、ルツボ(3)を回転させ、かつ、種結晶(5)を回転させながら引き上げて、直径55mm、長さ100mmのGaP単結晶を育成した。
【0060】
ここまでの作業工程を繰り返し10回行うことにより、合計10本のGaP単結晶(単結晶1〜10)を製造した。
【0061】
(検査)
これら10本のGaP単結晶(単結晶1〜10)をすべて、固化率が0.1の箇所でウェハ状に切断し、ウェハ中央部のキャリア濃度を測定した。以下、比較例も含み、キャリア濃度の測定は、株式会社東陽テクニカ製ホール効果・比抵抗測定装置を用い、暗所にて常温・常圧の条件下で行った。測定結果を表1に示す。
【0062】
なお、固化率とは、原料投入量に対する結晶固化量の割合であり、上記の固化率0.1の箇所とは、原料投入量の1割が固化した段階での結晶下端の位置を意味する。実施例の場合には固化量が150gに相当する結晶肩部の位置であり、結晶の直胴部の開始部分に相当する。
【0063】
[比較例]
まず、図2に示すように、ルツボ(3)内に融解前の原料を配置したことを除いて、実施例と同様に、GaP単結晶の製造を行った。具体的には、GaP多結晶原料として一体固形物を用いず、ルツボ(3)内の下部に150mgの粉末Zn原料(15)を入れた後、GaP多結晶原料の合計重量が1450gとなるように、それぞれが任意の形状および大きさを有する複数個のGaP多結晶原料(12c)を、ルツボ(3)内になるべく隙間がないように配置し、その上にB23(17)を、該ルツボ(3)の内周面である円筒面(10)に接するように載置した。
【0064】
実施例と同様に、合計10本のGaP単結晶(単結晶11〜20)を製造して、同様にキャリア濃度の検査を行った。測定結果を表1に示す。

【表1】

【0065】
[評価]
以上の結果を見れば分かるように、実施例では、比較例と比較して、キャリア濃度の平均値が1.2×1017atoms/cm3と大幅に大きくなっている。すなわち、比較例においては、Zn原料のうちGaP多結晶原料と未反応の部分が蒸気となり、GaP多結晶原料の隙間空間を通じて、圧力容器内に揮散してしまったのに対して、本発明により、原料融解時のZnの揮散が大幅に抑えられることが理解される。
【0066】
また、実施例では、比較例と比較して、キャリア濃度の標準偏差が約1/3程度と大幅に小さくなっている。すなわち、比較例においては、GaP多結晶原料の形状の差異によって、揮散量に偏りが生じたと考えられるが、本発明により、複数のGaP単結晶間の導電性のばらつきが大幅に抑えられており、歩留まりを良好にできることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の単結晶成長用融液の生成方法は、LEC法によるZn添加GaAs単結晶の製造方法に用いる、Zn添加GaAs単結晶成長用融液や、LEC法によるZn添加リン化インジウム(InP)単結晶の製造方法に用いる、Zn添加InP単結晶成長用融液の生成方法として適用することができ、この場合にも原料融解時のZnの揮散抑制効果を発揮できる。
【符号の説明】
【0068】
1 圧力容器
2 サセプタ
3 ルツボ
4 黒鉛ヒータ
5 種結晶
6 上部シャフト
7 B23融液層
8 GaP融液
9 GaP単結晶
10 円筒面
11 部分球状凹面
12a、12b、12c GaP多結晶原料
13 底面
14 凸曲面
15 粉末Zn原料
16 閉鎖空間
17 B23

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体封止引き上げ法によって亜鉛添加リン化ガリウム単結晶を製造するために用いる亜鉛添加リン化ガリウム単結晶成長用融液の生成方法であって、ルツボ内部で、該ルツボ内部の底面とリン化ガリウム多結晶原料との間に閉鎖空間を形成するとともに、該閉鎖空間内に亜鉛原料を配置し、かつ、前記リン化ガリウム多結晶原料の上に酸化ホウ素を載置した状態で、これらのリン化ガリウム多結晶原料と亜鉛原料と酸化ホウ素とを加熱し融解させることを特徴とする、亜鉛添加リン化ガリウム単結晶成長用融液の生成方法。
【請求項2】
前記リン化ガリウム多結晶原料のうちの少なくとも一部が、前記ルツボに嵌入できる形状および大きさを有する一体固形物になっており、該一体固形物の底面と前記ルツボ内部の底面との間に前記閉鎖空間を形成することを特徴とする、請求項1に記載の亜鉛添加リン化ガリウム単結晶成長用融液の生成方法。
【請求項3】
前記ルツボ内部の底面が球状凹面になっており、前記一体固形物の底面が円形の平面になっているとともに、該一体固形物の底面の外周縁を前記ルツボ内部の底面に全周にわたり当接させることにより、これら両底面同士の間に前記閉鎖空間を形成することを特徴とする、請求項2に記載の亜鉛添加リン化ガリウム単結晶成長用融液の生成方法。
【請求項4】
前記亜鉛原料が粉末状になっており、該粉末状の亜鉛原料を、前記一体固形物の底面に付着させて保持することを特徴とする、請求項2または3に記載の亜鉛添加リン化ガリウム単結晶成長用融液の生成方法。
【請求項5】
前記酸化ホウ素の配置箇所が、前記亜鉛原料の配置箇所よりも高温になるように加熱することを特徴とする、請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載の亜鉛添加リン化ガリウム単結晶成長用融液の生成方法。
【請求項6】
前記ルツボ内部の底部にガリウム粒子を載置して、これを加熱し融解させることを特徴とする、請求項1〜5のうちのいずれか1項に記載の亜鉛添加リン化ガリウム単結晶成長用融液の生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−42539(P2011−42539A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192689(P2009−192689)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】