交流モータ駆動装置
【課題】系統電源から供給されるピーク電力量を抑制することが可能で、かつ、回生動作時の電力を系統電源へ回生するピーク電力量やインバータで消費される電力量を有効に抑制できる交流モータ駆動装置を提供する。
【解決手段】交流モータ5の力行動作時のピーク電力を抑制するために蓄電デバイス61を放電させる電流指令値を生成する力行時電力補償部633と、交流モータ5の回生動作時のピーク電力を抑制するために蓄電デバイス61を充電させる電流指令値を生成する回生時電力補償部634と、力行時電力補償部633と回生時電力補償部634とが共にピーク電力を抑制していない場合に、蓄電デバイス61を予め定められた電圧値に安定化するために蓄電デバイス61を充放電する電流指令値を生成する補充電制御部635とを備えている。
【解決手段】交流モータ5の力行動作時のピーク電力を抑制するために蓄電デバイス61を放電させる電流指令値を生成する力行時電力補償部633と、交流モータ5の回生動作時のピーク電力を抑制するために蓄電デバイス61を充電させる電流指令値を生成する回生時電力補償部634と、力行時電力補償部633と回生時電力補償部634とが共にピーク電力を抑制していない場合に、蓄電デバイス61を予め定められた電圧値に安定化するために蓄電デバイス61を充放電する電流指令値を生成する補充電制御部635とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイスに蓄えられたエネルギーを交流モータの力行動作時に使用することによって交流モータ駆動装置のピーク電力を抑制すると共に、交流モータの回生動作時に回生エネルギーを蓄電デバイスに充電することによって交流モータから系統電源へ回生する電力や熱によって消費される電力のピークを抑制する交流モータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発電所や工場内の変電設備から供給される系統電源の交流電力から直流電力に変換するコンバータと、直流電力から系統電源の交流電力とは異なった交流電力に変換するインバータと、前記コンバータと前記インバータとの間の直流母線に並列に接続された蓄電デバイスを含む蓄電回路を用いて、力行動作時のエネルギーを補助する交流モータ駆動装置の技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許4339916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
背景技術で開示された特許文献1記載の技術では、蓄電デバイスに蓄えられたエネルギーを交流モータの力行動作時に使用することによって交流モータ駆動装置のピーク電力を抑制することは可能であるものの、交流モータの回生動作開始時から蓄電デバイスに回生エネルギーを充電し、蓄電デバイスの充電能力を越えた場合には、回生エネルギーの電力量に因らず余剰の回生エネルギーは系統電源へ回生されたり、コンバータ内で熱エネルギーに変換されて無駄に消費されてしまう。
【0005】
一般に回生動作開始時には大きな電力が急峻に回生されるため蓄電デバイスに対する蓄電回路を構成するリアクトル等の部品の電流規格を大きくしなければならず、その結果、装置が大型化し、使用資源が増加するなどの問題があった。加えて、従来技術には回生動作開始時の大きな電力の急峻な回生に対する処理の方法に関する技術的開示がなされて問題もあった。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、系統電源から供給されるピーク電力量の抑制のみならず、交流モータの回生動作時のピーク電力量の抑制をも図ることができ、装置の大型化を来すことなく系統電源へ回生するピーク電力量やコンバータで消費される電力量を有効に削減できる交流モータ駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するために交流モータを駆動するに際し、交流系統電力を直流電力に変換するコンバータと、このコンバータで得られる直流電力を上記交流モータに適した電圧や周波数の交流電力に変換して上記交流モータに供給するインバータと、このインバータに並列接続されて、上記交流モータの力行動作時には内部に備えた蓄電デバイスの放電動作により力行電力の一部を補助し、かつ、上記交流モータの回生動作時には上記蓄電デバイスの充電動作により回生電力の一部を充電する蓄電回路と、を備えた交流モータ駆動装置において、次の構成を採用している。
【0008】
上記蓄電回路は、予め設定した第1の閾値よりも大きい力行電力が上記交流モータで使用される場合には、上記コンバータの出力側の直流電力の電圧値と電流値とに基づき上記蓄電デバイスを放電させる電流指令値を生成する力行時電力補償部と、予め設定した第2の閾値より絶対値が大きい回生電力が上記交流モータから回生される場合には、コンバータの出力側の直流電力の電圧値と電流値とに基づき上記蓄電デバイスを充電させる電流指令値を生成する回生時電力補償部と、予め設定した第3の閾値と第4の閾値との範囲内で上記コンバータの出力側の直流電力の電圧値と電流値と上記蓄電デバイスの両端電圧値と入出力電流値とに基づき上記蓄電デバイスの両端電圧値を予め定められた電圧値にするために上記蓄電デバイスを充放電させる電流指令値を生成する補充電制御部と、を備えている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、系統電源から供給されるピーク電力量を抑制するのみならず、交流モータの回生動作時のピーク電力量の抑制を図ることができ、また、回生動作開始時の急峻な電力回生の生起に対してもピーク電力が生じるのを抑制することができる。これにより、装置の大型化を来すことなく系統電源へ回生するピーク電力量やコンバータで消費される電力量を有効に削減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態1に係る交流モータ駆動装置の全体を示すブロック図である。
【図2】同交流モータ駆動装置を構成する蓄電回路のブロック図である。
【図3】図2の蓄電回路を構成するチョッパ回路の一例を示す回路図である。
【図4】図2の蓄電回路を構成する充放電制御回路を示すブロック図である。
【図5】図4の充放電制御回路を構成する力行時電力補償部のブロック図である。
【図6】図4の充放電制御回路を構成する回生時電力補償部のブロック図である。
【図7】図4の充放電制御回路を構成する補充電制御部のブロック図である。
【図8】図4の充放電制御回路を構成する加算部のブロック図である。
【図9】図4の充放電制御回路を構成する電圧指令値生成部のブロック図である。
【図10】図4の充放電制御回路を構成する制御信号生成部のブロック図である。
【図11】図10の制御信号生成部を構成するデッドタイム生成部の一例を説明するブロック図である。
【図12】本発明の実施の形態1に係る交流モータ駆動装置の動作説明に供する波形図である。
【図13】本発明の実施の形態2に係る交流モータ駆動装置における蓄電回路を構成する充放電制御回路を示すブロック図である。
【図14】図13の充放電制御回路を構成する加算部のブロック図である。
【図15】図14の加算部を構成する小指令値判定部の一例を説明するブロック図である。
【図16】図13の充放電制御回路を構成する電圧指令値生成部のブロック図である。
【図17】図13の充放電制御回路を構成する制御信号生成部のブロック図である。
【図18】本発明の実施の形態3に係る交流モータ駆動装置における蓄電回路を構成する充放電制御回路を示すブロック図である。
【図19】図18の充放電制御回路を構成する制御信号生成部のブロック図である。
【図20】図19の制御信号生成部を構成する正規化部の一例を説明するブロック図である。
【図21】本発明の実施の形態4に係る交流モータ駆動装置における蓄電回路のブロック図である。
【図22】図21の蓄電回路を構成するチョッパ回路の一例を示す回路図である。
【図23】図21の蓄電回路を構成する充放電制御回路のブロック図である。
【図24】図23の充放電制御回路を構成する電圧指令値生成部のブロック図である。
【図25】図23の充放電制御回路を構成する制御信号生成部のブロック図である。
【図26】本発明の実施の形態5に係る交流モータ駆動装置における蓄電回路を構成する充放電制御回路のブロック図である。
【図27】図26の充放電制御回路を構成する加算部のブロック図である。
【図28】図27の加算部を構成するゲート信号生成部の一例を説明するブロック図である。
【図29】図26の充放電制御回路を構成する制御信号生成部で生成される制御信号に対してデッドタイムを付与するデッドタイム生成部のブロック図である。
【図30】図6の回生時電力補償部を構成するIcap2*生成部のブロック図である。
【図31】図30のIcap2*生成部の構成を備えた回生時電力補償部における回生動作時の動作を説明する波形図である。
【図32】本発明の実施の形態6に係る交流モータ駆動装置における蓄電回路を構成する充放電制御回路の回生時電力補償部の部分を示すブロック図である。
【図33】図32の回生時電力補償部を構成するIcap2*生成部のブロック図である。
【図34】図33のIcap2*生成部の構成を備えた回生時電力補償部における回生動作時の動作を説明する波形図である。
【図35】本発明の実施の形態6に係る交流モータ駆動装置における蓄電回路を構成する充放電制御回路の回生時電力補償部に設けたIcap3*生成部の動作を説明する波形図である。
【図36】図35において、回生開始時における一部分を時間軸方向に拡大して示す波形図である。
【図37】本発明の実施の形態9に係る交流モータ駆動装置の全体を示すブロック図である。
【図38】図37の同交流モータ駆動装置を構成する蓄電回路のブロック図である。
【図39】図37の蓄電回路を構成する充放電制御回路の充放電制御動作の説明に供するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1の交流モータ駆動装置の全体を示すブロック図である。
発電所や工場内の変電設備から供給される交流の系統電源1の交流電力は、コンバータ2によって直流電力に変換され、直流母線3に出力される。直流母線3によって供給される直流電力は、インバータ4によって後述する交流モータ5に適した交流電力に変換される。インバータ4が出力する交流電力の電圧や周波数は系統電源1の交流電力の電圧や周波数と必ずしも一致するものではない。交流モータ5は、インバータ4から供給される交流電力により駆動され、加工や運搬、移動、運動などの目的に応じた動作を行う。一方、直流母線3には蓄電回路6がインバータ4と並列に接続され、蓄電回路6には直流母線電圧値Vdcとコンバータ2の出力電流値である直流母線電流値Idcとが共に入力される。
【0012】
蓄電回路6は、上記交流モータ5の力行動作時には後述の蓄電デバイス61の放電動作により力行電力の一部を補助し、かつ、交流モータ5の回生動作時には蓄電デバイス61の充電動作により回生電力の一部を蓄電することで、交流モータの力行動作時と回生動作時のピーク電力を共に抑制するために設けられたものである。そして、蓄電回路6は、図2に示すように、蓄電デバイス61、チョッパ回路62、およびチョッパ回路62を制御するための充放電制御回路63を主体に構成されている。
【0013】
蓄電デバイス61は、例えば電解コンデンサまたは電気二重層(EDLC)もしくは蓄電池などで構成される。そして、蓄電デバイス61の高圧側端子はチョッパ回路62を構成する後述のリアクトル623に接続され、低圧側端子は低圧側直流母線3bに接続されている。また、チョッパ回路62は、ここでは降圧双方向型のチョッパ回路であって、一方を直流母線3(3a,3b)に、他方を蓄電デバイス61に接続されている。
【0014】
また、充放電制御回路63は、直流母線電圧値Vdc、直流母線電流値Idc、蓄電デバイス61の両端電圧値Vcap、および蓄電デバイス61の充放電電流値Icapをいずれも検出して入力し、これらの値に基づいてチョッパ回路62内の後述するスイッチング素子621、622を「通(ON)」状態あるいは「断(OFF)」状態に制御する制御信号SWP、SWNを生成してチョッパ回路62へ出力する。
【0015】
チョッパ回路62の一例を図3に示す。このチョッパ回路62は、高圧側直流母線3aに接続され、充放電制御回路63から出力される制御信号SWPにより「通」状態と「断」状態とが制御されるスイッチング素子621と、低圧側直流母線3bに接続され、充放電制御回路63から出力される制御信号SWNにより「通」状態と「断」状態とが制御されるスイッチング素子622と、一方の端子がスイッチング素子621とスイッチング素子622との接続点に接続され、他方の端子が蓄電デバイス61の高圧側端子に接続させるリアクトル623とから構成される。なお、各スイッチング素子621、622は、例えばIGBTやトランジスタとそのトランジスタに逆並列に接続されるダイオードなどで形成される。
【0016】
なお、上記の制御信号SWP、SWNは、直流母線3の短絡を防ぐために設定されたデッドタイムを除いては、それぞれが制御するスイッチング素子621、622の「通」状態と「断」状態とが互いに反転するように制御する信号で、デッドタイムの期間では、制御信号SWP、SWNとはいずれも、制御対象のスイッチング素子621、622を「断」状態して直流母線3の短絡を防止する。そして、一方の制御信号SWPが他方の制御信号SWNよりも「通」状態の比率が高い場合には蓄電デバイス61への充電が、その逆の場合には蓄電デバイス61からの放電が実行される。なお、チョッパ回路62の動作の詳細に関しては、本発明の主要部分ではないので、説明を省略する。
【0017】
充放電制御回路63は、チョッパ回路62内の各スイッチング素子621、622に与える制御信号SWP、SWNによって蓄電デバイス61の充放電を制御するものである。この充放電制御回路63は、図4に示すように、2つの乗算部631、632、力行時電力補償部633、回生時電力補償部634、補充電制御部635、加算部636、電圧指令値生成部637、および制御信号生成部638を備えている。
【0018】
一方の乗算部631は、直流母線電圧値Vdcと直流母線電流値Idcとの積を計算してコンバータ2の出力側の電力Pcnvを生成する。この電力Pcnvは、力行時電力補償部633、回生時電力補償部634、および補充電制御部635にそれぞれ出力される。また、他方の乗算部632は、蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapと充放電電流値Icapとの積を計算して蓄電デバイス61の入出力電力Pcapとして、補充電制御部635に出力される。
【0019】
ここで、説明の便宜上、上記の直流母線電流値Idcはコンバータ2から流れ出る方向を正にとり、また、蓄電デバイス61の充放電電流値Icapは蓄電デバイス61に充電する方向を正とする。このようにそれぞれの電流の向きを定義することにより、コンバータ2の出力側の電力Pcnvは、インバータ4が電力を消費する場合が正で、インバータ4から電力が回生される場合が負で表わされ、また、蓄電デバイス61の入出力電力Pcapは、蓄電デバイス61に充電する電力が正に、蓄電デバイス61から放電する電力が負で表わされる。
【0020】
力行時電力補償部633は、後述のように、交流モータ5の力行時において上記のコンバータ2の出力側の電力Pcnvが予め設定された第1の閾値である力行時電力補償閾値LPUより大きい場合に蓄電デバイス61を放電させるための電流指令値Icap1*を生成するものである。
【0021】
すなわち、この力行時電力補償部633は、図5に示すように、交流モータ駆動装置の力行動作時にコンバータ2の出力側の電力Pcnvを制限する力行時電力補償閾値LPUが予め格納されている。ここで力行時電力補償閾値LPUは正の値とする。そして、この力行時電力補償部633は、電力Pcnvと力行時電力補償閾値LPUとを比較して、電力Pcnvが力行時電力補償閾値LPUを越えた場合には、電力Pcnvが力行時電力補償閾値LPUを越えた場合の電力差E1に応じて、蓄電デバイス61から放電させる電流の指令値Icap1*をIcap1*生成部6331で生成して、加算部636に出力する。電力差E1を下記の(式1)で表わすように計算すると、電力Pcnvが力行時電力補償閾値LPUを越えた場合には電力差E1は正の値になる。一方、電力Pcnvが力行時電力補償閾値LPUを越えない場合には、電力差E1は負の値となる。このE1に応じてIcap1*生成部6331は蓄電デバイス61を放電させる電流の量を指令する電流指令値Icap1*を生成するが、Icap1*が正の値になる場合には電流指令値Icap1*の出力を「0」になるように制御する。したがって、加算部636へ出力される電流指令値Icap1*は、常に負の値あるいは「0」の値となる。なお、Icap1*生成部6331は、一般にはPI制御が用いられるがPID制御でも、P制御でも、I制御でも本実施の形態の実現には支障はない。
【0022】
E1=Pcnv−LPU (式1)
【0023】
回生時電力補償部634は、後述のように、交流モータ5の回生時においてその回生電力であるコンバータ2の出力側電力Pcnvが予め設定された第2の閾値である回生時電力補償閾値LPLを越えた場合に蓄電デバイス61を充電させるための電流指令値Icap2*を生成するものである。
【0024】
すなわち、この回生時電力補償部634は、図6に示すように、交流モータ駆動装置の回生動作時にコンバータ2の出力側の電力Pcnvを制限する回生時電力補償閾値LPLが予め格納されている。ここでLPLは負の値とする。そして、この回生時電力補償部634は、電力Pcnvと回生時電力補償閾値LPLとを比較して、電力Pcnvが回生時電力補償閾値LPLを下回ったときの電力差E2に応じて、蓄電デバイス61を充電させる電流の指令値Icap2*をIcap2*生成部6341で生成し加算部636に出力する。
【0025】
ここで、電力Pcnvと回生時電力補償閾値LPLとは共に負の値であるため、電力Pcnvが回生時電力補償閾値LPLを下回るとは、電力Pcnvの絶対値である|Pcnv|が回生時電力補償閾値LPLの絶対値である|LPL|より大きくなることを意味する。電力差E2を下記の(式2)で表わすように計算すると、電力Pcnvが回生時電力補償閾値LPLを下回る場合には電力差E2は負の値になる。一方、電力Pcnvが回生時電力補償閾値LPLを上回った場合には、電力差E2は正の値となる。このE2に応じてIcap2*生成部6341は蓄電デバイス61を充電させる電流の量を指令する電流指令値Icap2*を生成するが、Icap2*が負の値になる場合には電流指令値Icap2*の出力を「0」になるように制御する。したがって、加算部636へ出力される電流指令値Icap2*は、常に正の値あるいは「0」の値となる。なお、Icap2*生成部6341は、一般にはPI制御が用いられるが、PID制御でも、P制御でも、I制御でも本実施の形態の実現には支障はない。
【0026】
E2=Pcnv−LPL (式2)
【0027】
補充電制御部635は、後述の(式4)に示すように、コンバータ2の出力側の電力Pcnvと蓄電デバイス61の入出力電力Pcapとの差、すなわちインバータ4と交流モータ5の負荷Ploadが、予め設定された第3の閾値で、正の値である力行時補充電制御部動作閾値LSUと、予め設定された第4の閾値で、負の値である回生時補充電制御部動作閾値LSLとの範囲内にあるときに、蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapが予め設定された希望電圧値VcapTHに保たれるように、蓄電デバイス61を充放電させる電流指令値Icap3*を生成するものである。
【0028】
すなわち、補充電制御部635は、図7に示すように、本発明の交流モータ駆動装置使用者が、蓄電デバイス61の両端電圧Vcapを保持して置きたいと希望する希望電圧値VcapTHが予め格納されている。希望電圧値VcapTHは、交流モータ駆動装置の使用開始時や一連の動作終了時に蓄電デバイス61の両端電圧Vcapの復帰する基準となる電圧、即ち、蓄電デバイス61の基準充電量を制御する電圧値である。そして、この補充電制御部635は、蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapと上記の希望電圧値VcapTHとを比較し、その電圧差E3に応じて蓄電デバイス61を充放電させる電流量を指令する電流指令値Icap3*をIcap3*生成部6351で生成して、加算部636に出力する。
【0029】
今、電圧差E3が下記の(式3)で計算される場合を例に取り、電圧差E3と電流指令値Icap3*との関係を説明する。
電圧差E3が正の場合には、蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapが希望電圧値VcapTHより大きいことを意味しているため、蓄電デバイス61の放電のための負の値の電流指令値Icap3*を生成し、蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapを低下させるようにする。逆に、電圧差E3が負の場合には、蓄電デバイス61の充電のための正の値の電流指令値Icap3*を生成し、蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapを上昇させるようにする。なお、Icap3*生成部6351には、一般にはPI制御が用いられるが、PID制御でも、P制御でも、I制御でも本実施の形態の実現には支障はない。
【0030】
E3=Vcap−VcapTH (式3)
【0031】
Pload=Pcnv−Pcap (式4)
【0032】
前述のようにPloadは、インバータ4と交流モータ5の負荷を表わすことになる。負荷Ploadが正の場合には交流モータ駆動装置は力行動作中であり、逆に負荷Ploadが負の場合には交流モータ駆動装置は回生動作中である。
【0033】
補充電制御部635には、予め定められた正の値である力行時補充電制御部動作閾値LSUと、予め定められた負の値である回生時補充電制御部動作閾値LSLとが格納されており、Icap3*生成部6351は、電流指令値Icap3*に対して0<Pload<LSUの場合には下記の(式5)で示す制限を、また、LSL<Pload<0の場合には下記の(式6)で示す制限を、その他の場合、すなわちPload>LSUまたはPload<LSLの場合には下記の(式7)で示す制限を設定する。
【0034】
0<Icap3*<(LSU−Pload)/Vcap (式5)
(LSL−Pload)/Vcap<Icap3*<0 (式6)
Icap3*=0 (式7)
【0035】
ここで、LPU>LSUかつLPL<LSLと設定すると、補充電制御部635は、力行時電力補償部633と回生時電力補償部634が動作していない時に動作するように制御することが可能になる。すなわち、補充電制御部635のIcap3*生成部6351は、前述の(式4)で得られる負荷Ploadが力行時補充電制御部動作閾値LSUと回生時補充電制御部動作閾値LSLとの範囲内にあるとき(LSL<Pload<LSU)に、前述の(式3)で与えられる電圧差E3の値に応じた電流指令値Icap3*を生成する。
【0036】
なお、負荷Ploadが力行時電力補償閾値LPUと力行時補充電制御部動作閾値LSUとの間にあるとき(LSU<Pload<LPU)、あるいは回生時電力補償閾値LPLと回生時補充電制御部動作閾値LSLとの間にあるとき(LPL<Pload<LSL)には、充放電制御回路63からはいずれの電流指令値Icap1*、Icap2*、Icap3*も出力されず不感帯となる。これは交流モータ5の力行時と回生時のピーク電力抑制を確実に行えるようにするための処置である。
【0037】
加算部636は、図8に示すように、力行時電力補償部633の出力である電流指令値Icap1*と回生時電力補償部634の出力である電流指令値Icap2*と補充電制御部635の出力である電流指令値Icap3*とを加算して統合電流指令値Icap*を生成する。
【0038】
電圧指令値生成部637は、図9に示すように、加算部636の出力である統合電流指令値Icap*と蓄電デバイス61の充放電電流値Icapとを比較して、その電流差E4を計算する。そして、この電流差E4に応じて、Vcap*生成部6371で、蓄電デバイス61を充放電させて蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapの到達値を指令する電圧指令値Vcap*を生成し、これを次段の制御信号生成部638に出力する。
【0039】
上記の電流差E4を下記の(式8)で表わすように計算する時、Vcap*生成部6371では、電流差E4が正の場合には電流差E4の値に応じて蓄電デバイス61が充電されるように電圧指令値Vcap*を増加させるように出力し、逆に、電流差E4が負の場合には電流差E4の値に応じて蓄電デバイス61が放電されるように電圧指令値Vcap*を減少させるように出力する。なお、Vcap*生成部6371には、一般にはPI制御が用いられるが、PID制御でも、P制御でも、I制御でも本実施の形態の実現には支障はない。
【0040】
E4=Icap*−Icap (式8)
【0041】
制御信号生成部638は、図10に示すように、正規化部6381、三角波生成部6382、比較器6383、およびデッドタイム生成部6384から構成されており、デッドタイム生成部6384には、直流母線3の短絡を防ぐべくチョッパ回路62内のスイッチング素子621、622を同時に「断」状態にする時間幅を規定するデッドタイムTdが予め設定されている。
【0042】
正規化部6381は、電圧指令値生成部637の出力である電圧指令値Vcap*を入力し、これを正規化した正規化信号Nolを出力する。この場合、本発明の交流モータ駆動装置が力行動作時でもなく回生動作時でもない無負荷の場合にはこの正規化信号Nolは「0」になる。なお、正規化部6381は、例えば交流モータ駆動装置が無負荷の場合で、かつチョッパ回路62が充放電動作をしない時の直流母線電圧値をVcap0とする場合、次の(式9)で表わすように構成することもできる。
【0043】
Nol=Vcap*−Vcap0 (式9)
【0044】
三角波生成部6382は、直流成分が「0」の三角波信号Triを出力する。比較器6383は、Nol≧Triの場合には状態「1」の、またNol<Triの場合には状態「0」である信号PWMを出力する。
【0045】
デッドタイム生成部6384では、信号PWMが「1」の状態から「0」の状態へ移行する場合、および、信号PWMが「0」の状態から「1」の状態へ移行する場合にそれぞれ制御信号SWPとSWNとが共に「断」状態になるようにデッドタイムTdを付与して出力する。
【0046】
デッドタイム生成部6384の一例を図11に示す。
図11において、63841と63842とは入力の立ち上がりエッジに対して時間幅Tdだけのパルスを出力するワンショットマルチバイブレータ素子であり、63843と63844とは2入力AND素子、63845〜63847はNOT素子である。信号PWMは、ワンショットマルチバイブレータ素子63841と2入力AND素子63843とNOT素子63845にそれぞれ入力される。ワンショットマルチバイブレータ素子63841は、信号PWMの立ち上がりエッジから時間幅TdだけのパルスP1Pを出力してNOT素子63846に入力する。NOT素子63846は、パルスP1Pを反転させたパルスP1Cを出力し、2入力AND素子63843のもう1つの入力端に入力する。従って、AND素子63843は、信号PWMの「1」の状態に対して、その立ち上がりから時間幅Tdだけ「1」の状態が短い制御信号SWPを出力する。一方、信号PWMの反転信号であるNOT素子63845の出力は、ワンショットマルチバイブレータ素子63842と2入力AND素子63844とにそれぞれ入力される。ワンショットマルチバイブレータ素子63842は、信号PWMの反転信号の立ち上がりエッジ、すなわち、信号PWMの立下りエッジから時間幅TdだけのパルスP2Pを出力し、NOT素子63847に入力する。NOT素子63847は、パルスP2Pを反転させたパルスP2Cを出力し、2入力AND素子63844のもう1つの入力端に入力する。従って、AND素子63844は、信号PWMの「0」の状態に対して立下りから時間幅Tdだけ短い期間が「1」の状態となる制御信号SWNを出力する。このように、信号PWMの変化点に対して常に時間幅Tdだけ「0」の状態にするデッドタイムTdが付与された制御信号SWP、SWNが生成される。
【0047】
次に、この実施の形態1における交流モータ駆動装置の動作について、図12を参照して説明する。
【0048】
ここでは、一例としてプレス加工や切削加工などの工作機械に使用される交流モータ5の駆動制御を行う場合を想定する。この場合は、交流モータ5の駆動/停止が頻繁に繰り返されるため、交流モータ駆動装置は力行動作状態と回生動作状態とが繰り返し生じる。このため、負荷Ploadは、時間経過に伴い、図12(a)の実線で示すように変化する。また、力行時電力補償部633に格納される力行時電力補償閾値LPUと回生時電力補償部634に格納される回生時電力補償閾値LPLとをそれぞれ図12(a)に一点鎖線で示す。さらに、補充電制御部635に格納される力行時補充電制御部動作閾値LSUと回生時補充電制御部動作閾値LSLとを図12(a)に二点鎖線で示す。
【0049】
このような場合、力行時電力補償部633でのコンバータ2の出力側の電力Pcnvと力行時電力補償閾値LPUとの電力差E1は負荷Ploadが力行時電力補償閾値LPUを越えた場合(図12(a)の時刻T3〜時刻T4の期間)には図12(b)に示すように正の値になるが、本発明による蓄電デバイス61からの放電動作によりコンバータ2の出力側の電力Pcnvは抑制されるため電力差E1の振幅は小さく、一方、他の場合(図12(a)の時刻T0〜時刻T3と時刻T4〜時刻T9の期間)の電力差E1は負の値になる。
この電力差E1に対して、力行時電力補償部633内のIcap1*生成部6331は、図12(c)に示すように、図12(a)の時刻T0〜時刻T3の期間は「0」で、時刻T3〜時刻T4の期間は負の値となり、時刻T4以降急速に増加して「0」になるとそれ以降は「0」を継続する電流指令値Icap1*を出力する。
【0050】
同様に、回生時電力補償部634でのコンバータ2の出力側の電力Pcnvと回生時電力補償閾値LPLとの電力差E2は負荷Ploadが回生時電力補償閾値LPLより回生量が多くなった場合(図12(a)の時刻T5〜時刻T6の期間)には図12(d)に示すように負の値になるが、本発明による蓄電デバイス61への充電動作によりコンバータ2の出力側の電力Pcnvは抑制されるため電力差E2の振幅は小さく、一方、他の場合(図12(a)の時刻T0〜時刻T5と時刻T6〜時刻T9の期間)の電力差E2は正の値になる。この電力差E2に対して、回生時電力補償部634内のIcap2*生成部6341は、図12(e)に示すように、図12(a)の時刻T0〜時刻T5の期間は「0」で、時刻T5〜時刻T6の期間は正の値となるが、回生電力量の減少により次第に減少して「0」になるとそれ以降は「0」を継続する電流指令値Icap2*を出力する。
【0051】
補充電制御部635は、負荷Ploadが回生時補充電制御部動作閾値LSL以上でかつ力行時補充電制御部動作閾値LSU以下の場合(図12(a)の時刻T0〜時刻T2と時刻T4〜時刻T5と時刻T7〜時刻T9の期間)に、蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapと希望電圧値VcapTHとの電圧差E3に基づいて電流指令値Icap3*を出力するが、補充電制御部635内のIcap3*生成部6351は、図12(a)の時刻T0〜時刻T2の期間は電圧差E3が「0」のため電流指令値Icap3*に「0」を出力し、図12(a)の時刻T4〜時刻T5の期間は電流指令値Icap1*により蓄電デバイス61は放電動作を行ったため蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapは図12(h)に示すように低下しているので電圧差E3は正の値となり電流指令値Icap3*に正の値を出力し、図12(a)の時刻T7以降で電流指令値Icap2*により蓄電デバイス61は充電動作をおこなったため蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapは図12(h)に示すようにVcapTHを越えて上昇しているので電圧差E3は負の値となり電流指令値Icap3*に負の値を蓄電デバイス61の両端電圧値VcapがVcapTHになるまで出力し、その後は「0」を出力する。
図12の(c)、(e)、(f)から判るように、加算部636の出力である統合電流指令値Icap*は、図12(g)に示すようになる。この統合電流指令値Icap*に基づいて電圧指令値生成部637で電圧指令値Vcap*が生成されるので、蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapは、図12(h)に示すように制御される。この両端電圧値Vcapの変動に応じた蓄電デバイス61の充放電により、コンバータ2の出力側の電力Pcnvは、図12(j)に示すように、上限が力行時電力補償閾値LPUを、下限が回生時電力補償閾値LPLをそれぞれ越えないように抑制される。
【0052】
交流モータ駆動装置をこの実施の形態1のように構成することにより、系統電源1から供給されるピーク電力量を力行時電力補償閾値LPUに抑制することが可能になるだけでなく、回生動作時の電力を系統電源1へ回生するピーク電力量やインバータ4で消費される電力量を回生時電力補償閾値LPLに抑制することが可能になる。このように、系統電源へ回生するピーク電力量やコンバータ2で消費される電力量を抑制することができるため、小型で軽量の小さい定格(仕様)のコンバータ2を使用することが可能となり、装置全体を小さくすることができる。
【0053】
実施の形態2.
本発明の交流モータ駆動装置において、安定した制御を可能にする実施例を説明する。なお、この実施の形態2において、実施の形態1と同一または同等の機能を有するブロックや回路もしくは素子については同一の番号付与することとする。
【0054】
この実施の形態2では、図13に示すように、加算部636から出力される無効化信号Disableがあり、この無効化信号Disableが電圧指令値生成部637と制御信号生成部638に出力されることと、蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapが電圧指令値生成部637にも入力されることとが、実施の形態1とは異なっている。以下に異なっている部分について図を用いて説明する。
【0055】
まず、加算部636においては、実施の形態1で説明した統合電流指令値Icap*を生成する機能に加えて、図14に示すように、統合電流指令値Icap*の値が小さいかどうかを判断するための閾値IΔと、安定性を確保する時間幅TΔとが格納され、閾値IΔと統合電流指令値Icap*とを比較して統合電流指令値Icap*が下記の(式10)の範囲にあって小さい値であることを示す無効化信号Disableを生成する小指令値判定部6361と、統合電流指令値Icap*の値が小さい場合であると無効化信号Disableが判断した場合に統合電流指令値Icap*を強制的に「0」に設定するスイッチ6362とが具備される。ただし、ここでは説明の都合上閾値IΔは正の値とする。IΔは、例えば、チョッパ回路62内のリアクトル623の飽和電流値の1/50や1/100などの値に設定することができる。
【0056】
−IΔ<Icap*<IΔ (式10)
【0057】
小指令値判定部6361の一例を図15に示す。小指令値判定部6361では、3つの電流指令値Icap1*、Icap2*、Icap3*の和である統合電流指令値Icap*が、比較器63611の「−」の端子と比較器63612の「+」の端子に入力される。閾値IΔは、比較器63611の「+」の端子と反転器63613とに入力される。反転器63613は閾値IΔを入力として−IΔの値を比較器63612の「−」端子に出力する。比較器63611は、統合電流指令値Icap*が閾値IΔ未満の場合に「1」の状態となる信号D1を2入力AND素子63614の一方の入力端に出力する。比較器63612は、統合電流指令値Icap1*が閾値−IΔより大きい場合に「1」の状態となる信号D2を2入力AND素子63614の他方の入力端に出力する。したがって、2入力AND素子63614の出力信号D3は、上記の(式10)が成立する場合に「1」の状態となり、ワンショットマルチバイブレータ素子63615と2入力AND素子63617に出力される。ワンショットマルチバイブレータ素子63615では、信号D3の立ち上がりエッジから時間幅TΔの期間だけ「1」の状態となるパルスをNOT素子63616に出力する。NOT素子63616の出力は2入力AND素子63617のもう一方の入力端子に出力され、チャタリングを防止するために時間幅TΔの期間にわたって統合電流指令値Icap*の値が小さい場合と判断する無効化信号Disableが生成される。
【0058】
電圧指令値生成部637では、図16に示すように、Vcap*生成部6371に蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapと加算部636からの無効化信号Disableが入力される。Vcap*生成部6371は、無効化信号Disableによって統合電流指令値Icap*の値が小さいと判定した場合には、電圧指令値Vcap*を蓄電デバイス61の両端電圧Vcapに置換するように制御する。この制御により、統合電流指令値Icap*の値が小さくないと判定した場合には、電圧指令値Vcap*は過去の経緯に関係なく、両端電圧値Vcapから蓄電デバイス61の充放電の制御を再開する。
【0059】
制御信号生成部638では、図17に示すように、無効化信号Disableがデッドタイム生成部6384に入力され、無効化信号Disableが統合電流指令値Icap*の値が小さいことを表わす場合には、デッドタイム生成部6384から出力されるべき制御信号SWP、SWNを共に「断」状態になるように強制的にマスキングする。つまり、統合電流指令値Icap*の値が小さく、無効化信号Disableが出力されるときには、時間幅TΔの期間にわたって制御信号SWP、SWNが「断」状態になってチョッパ回路62の動作が停止され、蓄電デバイス61の充放電が行われない。
その他の構成については実施の形態1と同様であるから、ここでは詳しい説明は省略する。
【0060】
この実施の形態2のように構成することにより、力行時のピーク電力量や回生時のピーク電力量を抑制することが可能になると共に、交流モータ駆動装置が力行動作状態や回生動作状態でなくて定常状態になっているにも係わらず、外乱や電流リップルにより、定常状態を脱してしまうことを防ぐことが可能になる。また、定常状態から逸脱した場合でも過去の制御状態に拠らずに、必ず定常状態から蓄電デバイス61の充放電制御を再開させることをも可能になる。
【0061】
実施の形態3.
前述の実施の形態1では充放電制御回路63の制御信号生成部638において、電圧指令値Vcap*から制御信号SWP、SWNを生成しているが、この実施の形態3では、さらに直流母線電圧値Vdcをも用いる場合について説明する。なお、この実施の形態3では、前記の実施の形態1あるいは実施の形態2のいずれに対しても適用が可能であるが、説明の簡便性に着目して、実施の形態1に適用した場合で説明する。また、この実施の形態3において、実施の形態1と同一または同等の機能を有するブロックや回路もしくは素子については同一の番号を付与することとする。
【0062】
この実施の形態3における充放電制御回路63のブロック図を図18に示す。
この実施の形態3の特徴として直流母線電圧値Vdcは、乗算部631の外に制御信号生成部638にも入力される。
本発明の交流モータ駆動装置のチョッパ回路62が、図3に示したような降圧双方向チョッパ回路の場合、負荷Ploadが無負荷、即ち「0」の状態で、かつ蓄電デバイス61に対する充放電がない状態では、下記の(式11)の関係が成立する。
【0063】
2・Vcap=Vdc (式11)
【0064】
そこで、この実施の形態3では、図19に示すように、制御信号生成部638内の正規化部6381に電圧指令値Vcap*と直流母線電圧値Vdcとを入力する。その正規化部6381においては、図20に示すように、除算器63811で、Vcap*/Vdcを演算し、その結果を乗算器63812で2倍にし、減算器63813によって乗算器63812の出力値から数値「1」を減じて正規化信号Nolを得る方法である。
【0065】
このように正規化部6381を構成することにより、無負荷時でかつ蓄電デバイス61の充放電が無い場合には電圧指令値Vcap*は両端電圧値Vcapとなるので、上記の(式11)の関係から正規化信号Nolは「0」となり、また、電圧指令値Vcap*によって蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapを直流母線電圧値Vdcの1/2より高い値に制御したい場合には正の値の正規化信号Nolが、逆に、電圧指令値Vcap*によって蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapを直流母線電圧値Vdcの1/2より低い値に制御したい場合には負の値の正規化信号Nolがそれぞれ出力される。
なお、その他の構成については実施の形態1と同様であるから、ここでは詳しい説明は省略する。
【0066】
交流モータ駆動装置をこの実施の形態3のように構成することにより、力行時のピーク電力量や回生時のピーク電力量を抑制することが可能になると共に、電圧指令値Vcap*をその時その時の蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapに対する増減で指令することにより、応答性の速い蓄電デバイス61の充放電制御が可能になる。
【0067】
実施の形態4.
前記の実施の形態1乃至実施の形態3は、チョッパ回路62が単相の場合について説明したが、本発明に係る交流モータ駆動装置におけるチョッパ回路62は、このような単相に限定されるものでないため、ここでは一例として、説明の簡便性に着目して、実施の形態1に適用した場合で、チョッパ回路62が3相の場合について説明する。なお、この実施の形態4において、実施の形態1と同一または同等の機能を有するブロックや回路もしくは素子については同一の番号付与することとする。
【0068】
この実施の形態4の蓄電回路6は、図21に示すように、3相の降圧双方向型のチョッパ回路62を備え、各チョッパ回路62の出力端a、出力端b、出力端cの電流値をそれぞれ検出して、電流値IcapA、IcapB、IcapCとして充放電制御回路63に出力する。各電流値IcapA、IcapB、IcapCを検出した後の3つの出力端a、b、cは、蓄電デバイス61の高圧側端子に接続される。また、充放電制御回路63から出力される各制御信号SWPa、SWNa、SWPb、SWNb、SWPc、SWNcはいずれもチョッパ回路62に与えられる。
【0069】
チョッパ回路62は、図22に示すように、高圧側直流母線3aと低圧側直流母線3bとの間に、制御信号SWPa、SWNaによって制御される上下2つのスイッチング素子621a、622aが、また制御信号SWPb、SWNbによって制御される上下2つのスイッチング素子621b、622bが、さらに制御信号SWPc、SWNcによって制御される上下2つのスイッチング素子621c、622cが、それぞれ並列に接続されている。上下のスイッチング素子621a、622aの接続点にはリアクトル623aの一方の端子が、また上下のスイッチング素子621b、622bの接続点にはリアクトル623bの一方の端子が、さらに上下のスイッチング素子621c、622cの接続点にはリアクトル623cの一方の端子が、それぞれ接続されている。各リアクトル623a、623b、623cの他方の端子は、それぞれ出力端a、出力端b、出力端cとしてチョッパ回路62の外へ引き出されて蓄電デバイス61の高圧側端子に共通に接続される。
【0070】
充放電制御回路63においては、図23に示すように、入力された各電流値IcapA、IcapB、IcapCが電圧指令値生成部637に入力されると共に、加算部639によって3つの電流値の和が計算される。そして、加算部639の出力は、乗算部632で蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapを乗じて、蓄電デバイス61の入出力電力Pcapが算出され、補充電制御部635に出力される。なお、補充電制御部635の構成および動作は、前記実施の形態1と基本的に同一のため、ここでは詳しい説明は省略する。
【0071】
電圧指令値生成部637は、図24に示すように、加算部636で得られる統合電流指令値Icap*に1/3を乗じた電流指令値IcapA*を各加算部6372a、6372b、6372cの一方の入力端に入力する。加算部6372aは、電流指令値IcapA*から電流値IcapAを減じた電流差E4aを計算して、VcapA*生成部6371aへ出力する。同様に、加算部6372bは、電流指令値IcapA*から電流値IcapBを減じた電流差E4bを計算して、VcapB*生成部6371bへ出力する。さらに、加算部6372cは、電流指令値IcapA*から電流値IcapCを減じた電流差E4cを計算して、VcapC*生成部6371cへ出力する。そして、VcapA*生成部6371a、VcapB*生成部6371b、およびVcapC*生成部6371cは、前記実施の形態1で説明したVcap*生成部6371と同じ制御により、蓄電デバイス61に対する各電圧指令値VcapA*、VcapB*、VcapC*をそれぞれ生成して、次段の制御信号生成部638へ出力する。
【0072】
制御信号生成部638は、図25に示すように、電圧指令値VcapA*が正規化部6381aに、電圧指令値VcapB*が正規化部6381bに、電圧指令値VcapC*が正規化部6381cにそれぞれ入力される。各正規化部6381a、6381b、6381cは、それぞれ前記実施の形態1で説明した正規化部6381と同一の動作を行い、正規化信号NolA、NolB、NolCをそれぞれ出力する。
比較器6383aは、前記実施の形態1で説明した場合と同様に、正規化信号NolAと三角波生成部6382aから出力される三角波信号TriAとを比較して、NolA≧TriAの場合に状態「1」であり、NolA<TriAの場合に状態「0」である信号PWMaをデッドタイム生成部6384aに出力する。
同様に、比較器6383bは、正規化信号NolBと三角波生成部6382bから出力される三角波信号TriBとを比較して、信号PWMbをデッドタイム生成部6384bに出力する。但し、この三角波信号TriBは、先の三角波信号TriAに対して、位相が周期の1/3、即ち、120°遅れていることが異なるだけで振幅と周波数は同一である。
同様に、比較器6383cは、正規化信号NolCと三角波生成部6382cから出力される三角波信号TriCとを比較して、信号PWMcをデッドタイム生成部6384cに出力する。但し、この三角波信号TriCは、先の三角波信号TriAに対して、位相が周期の2/3、即ち、240°遅れていることが異なるだけで振幅と周波数は同一である。
【0073】
デッドタイム生成部6384aは、信号PWMaと時間幅Tdとを入力として、前記実施の形態1で説明したデッドタイム生成部6384と同一の動作をして制御信号SWPa、SWNaを出力する。同様に、デッドタイム生成部6384bは、信号PWMbと時間幅Tdとを入力として、制御信号SWPb、SWNbを出力する。デッドタイム生成部6384cは、信号PWMcと時間幅Tdとを入力として、制御信号SWPc、SWNcを出力する。
【0074】
交流モータ駆動装置をこの実施の形態4のように構成することにより、力行時のピーク電力量や回生時のピーク電力量を抑制することが可能になると共に、実施の形態1ないし実施の形態3の場合に比べてチョッパ回路62の各リアクトル623a、623b、623cの1個あたりに流れる電流が1/3に減少すると共に、比較する各三角波信号TriA、TriB、TriCの位相がそれぞれ1/3ずつ異なっていることから、各リアクトル623a、623b、623cのリップル電流が小さくなり、交流モータ駆動装置の制御において、誤差を小さくすることが可能になると共に、ノイズの発生が小さくなるため、ノイズ対策用の付加装置の小型化あるいは省略を可能にする。また、各リアクトル623a、623b、623c1個あたりの大きさ(体積)を小さくし、装置の小型化を図ることができ、装置価格の低廉化が可能になる。
【0075】
実施の形態5.
前記の実施の形態1乃至実施の形態4では、蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapを昇圧する場合あるいは降圧する場合には、SWPやSWNなどの全ての制御信号が常にスイッチング素子621、622を「通」状態と「断」状態とを繰り返すように制御している。
【0076】
これに対して、この実施の形態5では、力行時の蓄電デバイス61の放電と、回生時の蓄電デバイス61の充電とを、チョッパ回路62を構成する両スイッチング素子621(621a〜621c)、622(622a〜622c)の片方のみを「通」状態と「断」状態とを繰り返すように制御することで実現するようにしたものである。
【0077】
なお、この実施の形態5では、チョッパ回路62のスイッチング素子621、622の「断」状態を実現する無効化信号Disableとの制御の関係を明らかにするため、実施の形態2の別形態として説明するが、実施の形態1、3、4の別形態として、この実施の形態5を採用しても問題は無い。また、この実施の形態5において、実施の形態2と同一または同等の機能を有するブロックや回路もしくは素子については同一の番号付与することとする。
【0078】
この実施の形態5における充放電制御回路63のブロック図を図26に示す。
この実施の形態5の充放電制御回路63では、加算部636から制御信号生成部638に対して2つの信号EnableP、EnableNが出力されることが、実施の形態2の場合と異なる。この実施の形態5の加算部636は、図14に示した実施の形態2の加算部636の構成と比較すると、図27に示すように、3つの電流指令値Icap1*、Icap2*、Icap3*の和である統合電流指令値Icap*と予め定められた閾値IEとを入力して2つの信号EnableP、EnableNを出力するゲート信号生成部6363が新たに追加されている。説明の都合上、閾値IEは正の値としておく。
【0079】
そして、このゲート信号生成部6363は、図28に示すように、統合電流指令値Icap*が一方の比較器63631の「+」端子と他方の比較器63632の「−」端子とに入力される。閾値IEは一方の比較器63631の「−」端子と反転器63633に入力される。反転器63633は閾値IEの符号を変えた値−IEを他方の比較器63632の「+」端子に出力する。一方の比較器63631は、統合電流指令値Icap*が閾値IE以上の場合に「1」の状態になる信号EbablePを出力する。比較器63632では、統合電流指令値Icap*が閾値−IE以下の場合に「1」の状態になる信号EbableNを生成し、制御信号生成部638に出力する。
【0080】
この実施の形態5における制御信号生成部638の全体構成は、図17に示したものと基本的に同じであるが、実施の形態2と異なる点は、デッドタイム生成部6384に対して、新たに2つの信号EnableP、EnableNが入力されていることである。
【0081】
デッドタイム生成部6384では、図29に示すように、実施の形態1〜4で説明した制御信号SWPに対して、一方の許可信号EnablePと無効化信号DisableをNOT素子63848で反転した信号DisableCとの両信号で、3入力AND素子63849を用いてゲートした新しい制御信号SWPを生成する。すなわち、統合電流指令値Icap*が前述の(式10)の範囲から外れた大きな値を有して無効化信号Disableが「0」の状態で、かつ許可信号EnablePが「1」のときに、一方の制御信号SWPが出力される。
同様に、実施の形態1〜4で説明した制御信号SWNに対して、他方の許可信号EnableNと信号DisableCとの両信号で、3入力AND素子63850を用いてゲートした新しい制御信号SWNを生成する。すなわち、統合電流指令値Icap*が前述の(式10)の範囲から外れた大きな値を有して無効化信号Disableが「0」の状態で、かつ許可信号EnableNが「1」のときに、他方の制御信号SWNが出力される。
【0082】
これにより、回生時に蓄電デバイス61を充電する場合には、一方の制御信号SWPにより高圧側直流母線3aに接続されるスイッチング素子621のみが「通」状態と「断」状態とを繰り返すように制御され、他方の制御信号SWNにより低圧側直流母線3bに接続されるスイッチング素子622は常に「断」状態に制御される。これに対して、力行時に蓄電デバイス61を放電する場合には、一方の制御信号SWPにより高圧側直流母線3aに接続されるスイッチング素子621が常に「断」状態に制御され、他方の制御信号SWNにより低圧側直流母線3bに接続されるスイッチング素子622のみが「通」状態と「断」状態とを繰り返すように制御される。
【0083】
なお、実施の形態4にこの実施の形態5を適用する場合、即ち、チョッパ回路62が3相の場合には、一方の許可信号EnablePが制御信号SWPa、SWPb、SWPcそれぞれをゲートし、他方の許可信号EnableNが制御信号SWNa、SWNb、SWNcそれぞれをゲートすることとなる。チョッパ回路62が単相もしくは3相以外の場合でもこの実施の形態5の構成が援用されることは明らかである。
その他の構成および動作は実施の形態2の場合と同様であるから、ここでは詳しい説明は省略する。
【0084】
交流モータ駆動装置をこの実施の形態5のように構成することにより、力行時のピーク電力量や回生時のピーク電力量を抑制することが可能になると共に、チョッパ回路62内のスイッチング素子621、622の「通」状態から「断」状態への移行時間と「断」状態から「通」状態への移行時間との差に関わらず直流母線3の短絡を回避することをも可能にする。また、高圧側直流母線3aに接続されているチョッパ回路62内のスイッチング素子621と低圧側直流母線3bに接続されているチョッパ回路62内のスイッチング素子622のいずれかが「断」状態を継続するため、ノイズの発生を小さくでき、ノイズ対策用の付加装置の小型化あるいは省略をも可能にする。
【0085】
また、前述の閾値IΔと閾値IEが同一の値である場合には、小指令値判定部6361内の比較器63611の出力であるD1を反転した信号を一方の許可信号EnablePに、そして、小指令値判定部6361内の比較器63612の出力であるD2を反転した信号を他方の許可信号EnableNにして、ゲート信号生成部6363を省略する方法もある。このように構成することにより、回路規模を小さくして装置価格の低廉化も可能である。
【0086】
実施の形態6.
この実施の形態6の特徴は、回生動作開始時に大きな電力が回生される際、回生時電力補償部634において生成される電流指令値Icap2*がPI制御などで実現されるIcap2*生成部6341の積分要因によって徐々にしか変化できないことを改良し、コンバータ2の出力側の電力Pcnvに急峻な回生電力ピークが発生する現象に対して有効に対応できるようにしたものである。
【0087】
一般に、離散系のPI制御においては、入力e(it)に対して時刻kTにおける出力y(kT)は、比例ゲインをKp、積分時間をTi、離散系の周期をDとした場合、(式12)で表わすことができる。
【0088】
【数1】
【0089】
先の実施の形態1における回生時電力補償部634(図6参照)を構成するIcap2*生成部6341をPI制御で実現した場合の詳細を図30に示す。
このIcap2*生成部6341は、上記の(式12)に従ってPI制御を行うもので、比例ゲイン乗算器63411が、電力差E2をKp倍した信号E2pを積分ゲイン乗算器63412と加算器63415にそれぞれ出力し、積分ゲイン乗算器63412は、その信号E2pに(D/Ti)倍した信号E2iを加算器63414に出力する。加算器63414は、この信号E2iと後述する遅延回路63413の出力である信号E2dとを加算した信号E2qを生成して、遅延回路63413と加算器63415に出力する。遅延回路63413は、信号E2qを時間Dだけ遅延させた信号E2dを生成する。加算器63415は、両信号E2p、E2qの和を計算して電流指令値Icap2*として出力する。
【0090】
ところで、交流モータ駆動装置における回生動作は、作業終了後の交流モータ5の停止や支持、加圧の開放、あるいは作業の中断などにより、図31(a)に示すように、回生動作開始時に大きな電力が回生される場合が多い。今、回生時電力補償閾値LPLが、図31(a)に一点鎖線で示す電力量であるとすると、蓄電デバイス61に充電させたい希望充電電力量は、図31(b)で示すようになる。この希望充電電力量が確保されれば、前述の(式2)で定義される電力差E2は、図31(c)に示すように、負の部分が小さい値で継続する。
【0091】
しかし、回生時電力補償部634内のIcap2*生成部6341が上記の図30に示したようなPI制御を行うように構成されていると、電流指令値Icap2*は、図31(d)に示すように、回生動作開始時(時刻T5)から徐々に大きくなり、希望充電電力量が確保された時点(時刻T’、図示せず)以降のある時点から減少し、希望充電電力量が無くなった時点(時刻T6)以降で「0」に戻って電力補償動作を終了する。電流指令値Icap2*が徐々に大きくなっていく期間(時刻T’〜T6の間)において、実際に蓄電デバイス61に充電される電力量は、図31(e)に示すように、希望充電電力量に達しない。このため、図31(f)に斜線で示すように、回生時電力補償閾値LPLを越えた大きな回生電力量が、コンバータ2へ回生されて、系統電源1に戻されたり、コンバータ2内で熱エネルギーに変換されて開放される。つまり、回生電力が蓄電デバイス61へ充電されず無駄が生じる。
【0092】
そこで、この実施の形態6では、回生時電力補償部634において、回生動作開始時の回生電力量を抑制できるようにしている。すなわち、この実施の形態6における回生時電力補償部634は、図32に示すように、実施の形態1における回生時電力補償部634(図6参照)の構成と比較したとき、比較器6342が付加されており、この比較器6342の「+」端子に回生時電力補償閾値LPLを入力し、「−」端子にコンバータ2の出力側の電力Pcnvを入力している。従って、回生時にこの電力Pcnvが回生時電力補償閾値LPLを越えた場合、即ち、電力Pcnvの値が負の値である回生時電力補償閾値LPLよりも小さくなった場合に「1」の状態となる判別信号sが出力される。そして、この判別信号sは次段のIcap2*生成部6341に出力される。
【0093】
次に、この実施の形態6におけるIcap2*生成部6341の構成を図33に示す。 ここに、Icap2*生成部6341を構成する比例ゲイン乗算器63411、積分ゲイン乗算器63412、遅延回路63413、加算器63414、および加算器63415は、それぞれ図30の同一符号のものと機能が同一である。
【0094】
比例ゲイン乗算器63411から出力される信号E2pは、積分ゲイン乗算器63412と加算器63415にそれぞれ与えられる。積分ゲイン乗算器63412から出力される信号E2iは、加算器63414に出力される。加算器63414は、信号E2iと遅延回路63413の出力である信号E2dとを加算した信号E2qを生成してリミッタ63417に出力する。リミッタ63417は、この入力された信号E2qが「0」未満の場合には「0」を出力し、入力された信号E2qが予め定められた閾値Icap_maxより大きい場合にはIcap_maxの値を出力し、信号E2qが「0」以上で閾値Icap_max以下の場合には入力された信号E2qの値をそのまま出力する。
なお、この場合の閾値Icap_maxは、チョッパ回路62のリアクトル623の許容電流量以下の値に設定する。また、実施の形態4に示したように、多重化されたチョッパ回路の場合には、この閾値Icap_maxはチョッパ回路62内の各リアクトルの許容電流量をそれぞれ加算した値以下に設定する。このように、振幅制限を施されたリミッタ63417の出力を信号E2rとする。この信号E2rは、スイッチ63416の一方の入力端に出力される。スイッチ63416は、前述の比較器6342から出力された判別信号sの状態により、2つの入力を切り替えて片方の入力のみを信号E2sとして出力する。スイッチ63416の他方の入力端には、予め定められた回生時電流指令値積分成分初期値Icap2iが入力されている。
スイッチ63416は、前述の判別信号sが「0」の状態の場合には、信号E2rを出力し、逆に、判別信号sが「1」の状態の場合には回生時電流指令値積分成分初期値Icap2iを出力する。スイッチ63416の出力である信号E2sは、遅延回路63413と加算器63415とにそれぞれ出力される。遅延回路63413は、入力された信号E2sを所定時間Dだけ遅延させた信号E2dを生成する。加算器63415は、信号E2pと信号E2sとの和を計算して、信号E2tとしてリミッタ63418に出力する。リミッタ63418は、リミッタ63417と同一の機能を有し、入力された信号E2tを電流指令値Icap2*として出力する。
【0095】
次に、図33に示したIcap2*生成部6341の動作について、図34を用いて説明する。なお、図34(a)、(b)、(c)は、図31(a)、(b)、(c)とそれぞれ同じ波形であるため、ここでは説明は省略する。
【0096】
回生動作開始時点である図34の時刻T5では、コンバータ2の出力側の電力Pcnvの値が回生時電力補償閾値LPLよりも小さくなるので、図34(d)に示すように判別信号sが「0」の状態から「1」の状態になる。このため、図33のスイッチ63416から出力される信号E2sは、回生時電流指令値積分成分初期値Icap2iを出力する。この回生時電流指令値積分成分初期値Icap2iが出力される信号E2sは、加算器63415において、比例ゲイン乗算器63411から出力される信号E2pと加算され、リミッタ63418を経て、電流指令値Icap2*として出力される。また、回生時電流指令値積分成分初期値Icap2iが出力される信号E2sは、図33の遅延回路63413を経て加算器63414に入力され、積分ゲイン乗算器63412から出力される信号E2iと加算される。
【0097】
回生時電流指令値積分成分初期値Icap2iを各リミッタ63417、63418に対して予め規定された閾値Icap_maxに近い値に設定することにより、時刻T5で、直ちに回生時電流指令値積分成分初期値Icap2iに変化した電流指令値Icap2*に拠り、実際に蓄電デバイス61に充電される電力量は、図34(f)で示すように、時刻T5で急速に大きくなり、充分な回生電力の量を確保することができる。この動作により、回生時電力補償閾値LPLを越えた回生電力量は、図34(g)に示すように、著しく抑制することが可能になる。
【0098】
こうして、蓄電デバイス61へ充分な回生電力量が確保されると、コンバータ2の出力側の電力Pcnvは、回生時電力補償閾値LPLより大きな値(絶対値の比較では小さい値)となるため、図34(d)に示すように判別信号sは「1」の状態から「0」の状態に復帰し、図33に記載のスイッチ63416は入力E2rを選択して出力する。すると、図34(e)に示す電流指令値Icap2*により、電力Pcnvは、回生時電力補償閾値LPLより小さな値(絶対値の比較では大きな値)となるため、再び判別信号sは「0」の状態から「1」の状態になる。
【0099】
このように、負荷Ploadが回生時電力補償閾値LPLを越える期間中(図34(a)の時刻T5〜時刻T6の間)は、図33に示すスイッチ63416は「1」の状態と「0」の状態を繰り返しながら、電力Pcnvのピーク電力を抑制し続け、負荷Ploadが回生時電力補償閾値LPLを越えなくなると、判別信号sは「0」の状態を継続して、回生動作を終了する。
【0100】
交流モータ駆動装置をこの実施の形態6のように構成することにより、力行時のピーク電力量や回生時のピーク電力量を抑制することが可能になると共に、回生動作開始時における急峻な回生電力量の変化に対しても、コンバータ2への回生電力量を回生時電力補償閾値LPL以下に抑制することが可能になり、回生時電力補償閾値LPLを越えた大きな回生電力量が、コンバータ2へ回生されて、系統電源1に戻されたり、コンバータ2内で熱エネルギーに変換されて開放されるなど、回生電力が蓄電デバイス61へ充電されず無駄が生じるのを無くすことができる。
【0101】
実施の形態7.
コンバータ2の出力側には、蓄電デバイス61よりも静電容量が小さいながらも、直流母線電圧値Vdcを安定させるための平滑コンデンサが存在する(図示せず)。交流モータ駆動装置が力行動作も回生動作も行わない時、即ち、無負荷の状態での直流母線電圧値をここでは特にVdc0と表わすこととする。蓄電デバイス61の充放電処理があったとしても、制御の遅れや蓄電デバイス61の応答性の影響により、交流モータ駆動装置が力行動作の場合の直流母線電圧値VdcはVdc0より低い値に保持され、交流モータ駆動装置が回生動作の場合の直流母線電圧値VdcはVdc0よりも高い値に保持される。
【0102】
コンバータ2には、自己の回路保護上の観点から、予め所定の閾値VΔが設定されており、交流モータ駆動装置の回生動作中に、直流母線電圧値VdcがVdc0+VΔに達した場合、コンバータ2は回生電力を系統電源1に戻したり、コンバータ2に内蔵された抵抗で熱エネルギーに変換して開放する。したがって、回生時に直流母線電圧値VdcがVdc0+VΔに押し上げる時刻迄に蓄電デバイス61の充電動作が開始されなければ、回生電力が無駄にコンバータ2に回生されてしまう。しかし、前述のように、コンバータ2の平滑コンデンサの静電容量は小さいために、直流母線電圧値Vdcは比較的短時間の内にVdc0+VΔに達する可能性がある。
【0103】
そこで、この実施の形態7では、交流モータ駆動装置の回生動作の直前(すなわち、E1≦0またはE2≧0の場合)に、補充電制御部635の出力である電流指令値Icap3*により、蓄電デバイス61を充電状態にすることにより、直流母線電圧値Vdcを強制的にVdc0より低い値に保持し、交流モータ駆動装置の回生動作開始時の直流母線電圧値VdcがVdc0+VΔに達するまでの時間を長くすることによって、回生動作開始時のピーク電力の抑制を確実に実現するようにしたものである。以下、この実施の形態7の具体例について説明する。
【0104】
補充電制御部635で算出される負荷Pload(=Pcnv−Pcap)が、図35(a)に実線で示す場合を例として説明する。なお、図35(a)は図12(a)と同一である。今、図35(a)において、波形の始まる時刻をT0とし、力行動作開始時刻をT1、負荷Ploadが力行時補充電制御部動作閾値LSUを越える時刻をT2、負荷Ploadが力行時電力補償閾値LPUを越える時刻をT3、力行動作終了時刻をT4とする。また、回生動作開始時刻をT5とする。補充電制御部635が動作する期間は、図35において、時刻T0〜時刻T2の間と時刻T4〜時刻T5の間である。
【0105】
次に、補充電制御部635内のIcap3*生成部6351において、電圧差E3に対するゲインが大きい場合とゲインが小さい場合について、それぞれ区別して動作を説明する。
【0106】
まず、ゲインが大きい場合について、図35(b)、(c)、(d)を用いて説明する。
【0107】
力行動作時において、蓄電デバイス61が放電するのは時刻T4〜時刻T5の期間であるため、時刻T0〜時刻T3までの期間では蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapは変化しない。よって、蓄電デバイス61の電圧安定化のために充放電制御をするための電流指令値Icap3*は、時刻T0〜時刻T3の期間は、「0」を出力したままである。また、実施の形態1で説明したように、Icap3*生成部6351は、負荷Ploadが力行時補充電制御部動作閾値LSUと回生時補充電制御部動作閾値LSLとの間にあるときだけ電流指令値Icap3*を出力するので、時刻T2〜時刻T4の期間では「0」の出力のままである。よって、電流指令値Icap3*は、時刻T0〜時刻T4の期間は、「0」の出力のままである。一方、時刻T1〜時刻T3の期間は、蓄電デバイス61からの放電がなく、コンバータ2による系統電源1からの供給電力量が遅れる。このため、図35(d)に示すように、直流母線電圧値Vdcは下降を続ける。そして、時刻T3〜時刻T4の期間では、力行時電力補償部633から電流指令値Icap1*が出力されることから、図35(c)に示すように、蓄電デバイス61は放電により、その両端電圧値Vcapを降下させながら、図35(d)に示すように、直流母線電圧値Vdcを一定に保持しようとする。時刻T4で力行動作が終了すると、Icap3*生成部6351が動作し始め、図35(b)に示すように、正の値の電流指令値Icap3*を出力するため、系統電源1からの電力で蓄電デバイス61の充電を開始する。このとき、Icap3*生成部6351のゲインは大きいので、電流指令値Icap3*は大きな値(Icap3*a)を出力し、急速に蓄電デバイス61を充電する。蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapは充電処理により、図35(c)に示すように上昇し、両端電圧値Vcapは時刻TAで希望電圧値VcapTHまで回復する。時刻T4〜時刻TAの期間、直流母線電圧値Vdcは、力行動作時ほどではないが、Vcap0より低い値で推移する。蓄電デバイス61の両端電圧Vcapが希望電圧値VcapTHまで回復すると、Icap3*生成部6351は動作を止めて、電流指令値Icap3*は再び「0」になり、直流母線電圧値VdcもVdc0に復帰して、回生動作開始時刻T5の到来を待つ。回生動作開始時刻T5になると、制御の遅れや蓄電デバイス61の応答性の影響により、直流母線電圧値VdcはVdc0から直ちに上昇してVdc0+VΔに達する。回生動作開始時刻T5における動作の詳細については、後述する。
【0108】
次に、補充電制御部635内のIcap3*生成部6351において、電圧差E3に対するゲインが小さい場合について、図35(e)、(f)、(g)を用いて説明する。
【0109】
時刻T0〜時刻T4の期間中は、前述のIcap3*生成部6351のゲインが大きい場合の説明と同じ理由で、電流指令値Icap3*は「0」のままである。また、同様に時刻T0〜時刻T4の期間中は、図35(f)、(g)に示すように、蓄電デバイス61の両端電圧Vcapも直流母線電圧値Vdcも、前述のIcap3*生成部6351のゲインが大きい場合と同じ波形となる。
しかし、時刻T4で力行動作が終了してIcap3*生成部6351が動作し始めると、補充電制御部635は正の値の電流指令値Icap3*を出力して、蓄電デバイス61の充電を開始するが、このとき、Icap3*生成部6351のゲインが小さいので、図35(e)に示すように、電流指令値Icap3*は小さな値(Icap3*b)しか出力せず、図35(f)に示すように、蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapは少しづつにしか上昇せず、回生動作開始時刻T5までに希望電圧値VcapTHには回復しない。時刻T4〜時刻T5の期間中、常に蓄電デバイス61への充電状態が継続するため、直流母線電圧値VdcはVdc0より低い値を持続して、回生動作開始時刻T5を迎える。回生動作開始時刻T5になると、制御の遅れや蓄電デバイス61の応答性の影響により、直流母線電圧値Vdcは直ちに上昇するが、上昇開始電圧値がVdc0より低い電圧値であることから、直流母線電圧値VdcがVdc0+VΔに達するまで、少し時間がかかる。
【0110】
次に、回生動作開始時刻T5において直流母線電圧値VdcがVdc0に復帰しない場合(図35(g)の場合)、即ち、Icap3*生成部6351のゲインが小さい場合の方が、回生動作開始時刻T5において直流母線電圧値VdcがVdc0に復帰する場合(図35(d)の場合)、即ち、Icap3*生成部6351のゲインが大きい場合よりも、回生電力のピーク電力を抑制できることを図36を用いて説明する。
【0111】
図36は、図35の回生動作開始時刻T5付近の波形を時間軸方向に拡大した図である。
図36(a)に示すように、負荷Ploadの回生時のピーク値(図35(a)参照)をPload_min(<0)とする。また、蓄電デバイス61の充電制御用の電流指令値Icap2*は、図36(b)に示すように、制御の遅延により時刻T52から上昇を始め、時刻T54で定常値になったとする。図36(c)と(d)とは、それぞれ回生動作開始時刻T5において直流母線電圧値VdcがVdc0に復帰している場合の直流母線電圧Vdcとコンバータ2の出力側の電力Pcnvの振る舞いをそれぞれ表わし、図36(e)と(f)とは、それぞれ回生動作開始時刻T5において直流母線電圧値VdcがVdc0に復帰していない場合の直流母線電圧Vdcとコンバータ2の出力側の電力Pcnvの振る舞いをそれぞれ表わす。
【0112】
回生動作開始時刻T5において直流母線電圧値VdcがVdc0に復帰している場合、回生電力は平滑コンデンサに流入し、直流母線電圧値VdcがVdc0から上昇するため、直流母線電圧値VdcがVdc0+VΔに達する時刻T51は、図36(c)に示すように、未だ蓄電デバイス61の充電制御用の電流指令値Icap2*が出力されない期間(時刻T5〜時刻T52の間)に到来する。直流母線電圧値VdcがVdc0+VΔになった後、コンバータ2は電力を回生し始めるため、図36(d)に示すように時刻T51から電力Pcnvは回生を開始される。しかし、時刻T51〜時刻T52の期間は、電流指令値Icap2*が未だ蓄電デバイス61に充電を指示していないため、図36(d)に示すように、交流モータ5からの回生電力が全てコンバータ2に供給されることになり、コンバータ2の出力側の電力Pcnvはピーク値Pload_minまで達する。時刻T52以降は、電流指令値Icap2*の充電指示にしたがって蓄電デバイス61の充電が開始されるため、コンバータ2に供給される電力量が減少し、電力Pcnvは時刻T54で回生時電力補償閾値LPLに落ち着く。
【0113】
これに対して、回生動作開始時刻T5において直流母線電圧値VdcがVdc0に復帰しない場合、回生電力は平滑コンデンサに流入して直流母線電圧値Vdcを上昇させるも、直流母線電圧値VdcがVdc0より低い電圧値から上昇するため、直流母線電圧値VdcがVdc0+VΔに達する時刻T53は、図36(e)に示すように、時刻T52と時刻T54との間、すなわち蓄電デバイス61の充電制御用の電流指令値Icap2*の出力が既に開始された後になる。コンバータ2は、直流母線電圧値VdcがVdc0+VΔになった後に電力を回生し始めるため、図36(f)に示すように、時刻T53から電力Pcnvは回生を開始する。しかし、時刻T53では電流指令値Icap2*は既に蓄電デバイス61に充電を指示しているため、電力PcnvはPload_minに達することなく、電流指令値Icap2*の充電指示にしたがって、時刻T54で回生時電力補償閾値LPLに落ち着く。
【0114】
したがって、図36(e)と(f)とに示したような動作が実行されるように、Icap3*生成部6351のゲインを適切な値に設定することにより、回生動作開始時のピーク電力の抑制を確実に実現させることができる。
このように、交流モータ駆動装置をこの実施の形態7のように構成することにより、力行時のピーク電力量や回生時のピーク電力量を抑制することが可能になると共に、回生動作開始時のピーク電力の抑制を確実に実現させることが可能になる。
【0115】
実施の形態8.
上記の実施の形態1〜7において説明した力行時電力補償閾値LPU、回生時電力補償閾値LPL、希望電圧値VcapTH、力行時補充電制御部動作閾値LSU、回生時補充電制御部動作閾値LSL、デッドタイムTd、さらにはIΔ、IE、VΔ、TΔ、電流指令値の最大値に相当するIcap_max、回生時電流指令値積分成分初期値Icap2i、またIcap1*生成部6331、Icap2*生成部6341、Icap3*生成部6351、Vcap*生成部6371の各ゲインに関する値などは、交流モータ5の負荷電力量や蓄電デバイス61の静電容量や内部抵抗およびリアクトル623のインダクタンスや飽和電流量などによって定めるべき値であり、これらの値は交流モータ駆動装置の使用環境に応じて適切な値に設定すべきものであるので、予め一義的に決めるのではなく、それらの値の一部あるいは全部は、ボタンやスイッチあるいはシリアル通信を介して、交流モータ駆動装置の使用者がその都度設定するようにすることが好ましい。
【0116】
実施の形態9.
上記の各実施の形態1〜8における充放電制御回路63は、全てハードウエアで実現する場合について説明した。充放電制御回路63は、入力として直流母線電圧値Vdc、コンバータ2の出力側の直流母線電流値Idc、蓄電デバイス61の両端電圧値Vcap、および蓄電デバイス61の充放電電流値Icapに対して、スイッチング素子621(621a〜621c)、622(622a〜622c)を「通」状態と「断」状態との2つの状態に制御する制御信号SWP(SWPa〜SWPc)、SWN(SWNa〜SWNc)を出力する機能であるので、充放電制御回路63の一部または全部をソフトウエアで実現することもできる。ここでは、実施の形態1に適用した場合について説明する。なお、実施の形態1と同一または同等の機能を有するブロックについては同一の番号を付与することとする。
【0117】
充放電制御回路63の全部をソフトウエアで構成する場合の交流モータ駆動装置のブロック図を図37に、蓄電回路6のブロック図を図38に示す。
【0118】
図37において、アナログ/ディジタル変換器(A/D変換器)7は、直流母線電圧値Vdcをディジタル値に変換して蓄電回路6に出力し、A/D変換器8はコンバータ2の出力側の直流母線電流値Idcをディジタル値に変換して蓄電回路6に出力する。図37の他の部分は、実施の形態1(図1)と同じである。
【0119】
また、図38において、A/D変換器64は、蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapをディジタル値に変換して充放電制御回路63に出力し、A/D変換器65は蓄電デバイス61の充放電電流値Icapをディジタル値に変換して充放電制御回路63に出力する。また、各制御信号SWP、SWNは、各ドライバ66、67において、チョッパ回路62内のスイッチング素子621、622を駆動できる電圧振幅と電流量に変換してチョッパ回路62に出力する。図38の他の部分は、実施の形態(図2)と同じである。
【0120】
次に、充放電制御回路63の全部をソフトウエアで構成した場合の手順について、図39を用いて説明する。
【0121】
先ず、ステップS10で、負荷電力量や蓄電デバイス61の静電容量や内部抵抗あるいは、チョッパ回路62内のリアクトル623のインダクタンスや飽和電流量などによって定まる、実施の形態8で説明した閾値や電流指令値生成用のゲイン、電圧指令値生成用のゲインに関する値を入力して、レジスタ等の記憶素子に格納する。
次に、ステップS11において、図37に示すディジタル化された直流母線電圧値Vdcとディジタル化されたコンバータ2の出力側の直流母線電流値Idcとを入力し、ステップS12においてコンバータ2の出力側の電力Pcnv(=Vdc×Idc)を算出する。
ステップS13において、その電力Pcnvを力行時電力補償閾値LPUや回生時電力補償閾値LPLと比較する。電力Pcnvが力行時電力補償閾値LPUより大きい場合には、後述するステップS14の処理に移行する。これに対して、ステップS13で電力Pcnvが回生時電力補償閾値LPLより小さい場合には、後述するステップS15の処理に移行する。また、ステップS13において、電力量Pcnvが回生時電力補償閾値LPL以上で力行時電力補償閾値LPU以下の場合には、後述するステップS16の処理に移行する。
ステップS14では、前述の実施の形態1〜7に記載の力行時電力補償部633と同様の処理を実行し、蓄電デバイス61の放電制御用の電流指令値Icap1*を算出して、後述するステップS20に移行する。ステップS15では、前述の実施の形態1〜7に記載の回生時電力補償部634と同様の処理を実行し、充電制御用の電流指令値Icap2*を算出して、後述するステップS20に移行する。
ステップS16では、図38に示すディジタル化された蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapと入出力電流Icapとを入力し、ステップS17において、入出力電力Pcap(=Vcap×Icap)を算出し、この入出力電力PcapとステップS11で算出した電力Pcnvとから負荷Pload(=Pcnv−Pcap)を算出して、ステップS18に移行する。
ステップS18では、負荷量Ploadが回生時補充電制御部動作閾値LSLより大きく力行時補充電制御部動作閾値LSUより小さい場合には、後述するステップS19に移行し、その他の場合には前述のステップS11に戻る。
ステップS19では、前述の実施の形態1〜7に記載の補充電制御部635と同様の処理を実行して蓄電デバイス61の電流指令値Icap3*を算出して、後述するステップS20に移行する。
ステップS20では、ステップS14で算出した電流指令値Icap1*と、ステップS15で算出した電流指令値Icap2*と、ステップS19で算出した電流指令値Icap3*とから、前述の実施の形態1〜7に記載の加算部636と同様の処理を実行して統合電流指令値Icap*を生成する。また、ステップS20では、必要に応じて、前述の実施の形態2または実施の形態5に記載の無効化信号Disableや許可信号EnableP、EnableNをも生成して、ステップS21に移行する。
ステップS21では、前述の実施の形態1〜7に記載の電圧指令値生成部637と同様の処理を実行して電圧指令値Vcap*を算出して、後述するステップS22に移行する。
ステップS22では、前述の実施の形態1〜6に記載の制御信号生成部638と同様の処理を実行して各制御信号SWP、SWNとを生成して、図38に示すドライバ66、67にそれぞれ出力し、次のステップS23に移行する。
ステップS23では、交流モータ駆動装置の一連の動作が終了したか否かを判断し、終了していなければ前述のステップS11に戻り、終了していれば、そのまま交流モータ駆動回路の動作を終了する。
【符号の説明】
【0122】
1 系統電源、2 コンバータ、3 直流母線、4 インバータ、5 交流モータ、
6 蓄電回路、61 蓄電デバイス、62 チョッパ回路、63 充放電制御回路、
633 力行時電力補償部、634 回生時電力補償部、635 補充電制御部、
637 電圧指令値生成部、638 制御信号生成部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイスに蓄えられたエネルギーを交流モータの力行動作時に使用することによって交流モータ駆動装置のピーク電力を抑制すると共に、交流モータの回生動作時に回生エネルギーを蓄電デバイスに充電することによって交流モータから系統電源へ回生する電力や熱によって消費される電力のピークを抑制する交流モータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発電所や工場内の変電設備から供給される系統電源の交流電力から直流電力に変換するコンバータと、直流電力から系統電源の交流電力とは異なった交流電力に変換するインバータと、前記コンバータと前記インバータとの間の直流母線に並列に接続された蓄電デバイスを含む蓄電回路を用いて、力行動作時のエネルギーを補助する交流モータ駆動装置の技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許4339916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
背景技術で開示された特許文献1記載の技術では、蓄電デバイスに蓄えられたエネルギーを交流モータの力行動作時に使用することによって交流モータ駆動装置のピーク電力を抑制することは可能であるものの、交流モータの回生動作開始時から蓄電デバイスに回生エネルギーを充電し、蓄電デバイスの充電能力を越えた場合には、回生エネルギーの電力量に因らず余剰の回生エネルギーは系統電源へ回生されたり、コンバータ内で熱エネルギーに変換されて無駄に消費されてしまう。
【0005】
一般に回生動作開始時には大きな電力が急峻に回生されるため蓄電デバイスに対する蓄電回路を構成するリアクトル等の部品の電流規格を大きくしなければならず、その結果、装置が大型化し、使用資源が増加するなどの問題があった。加えて、従来技術には回生動作開始時の大きな電力の急峻な回生に対する処理の方法に関する技術的開示がなされて問題もあった。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、系統電源から供給されるピーク電力量の抑制のみならず、交流モータの回生動作時のピーク電力量の抑制をも図ることができ、装置の大型化を来すことなく系統電源へ回生するピーク電力量やコンバータで消費される電力量を有効に削減できる交流モータ駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するために交流モータを駆動するに際し、交流系統電力を直流電力に変換するコンバータと、このコンバータで得られる直流電力を上記交流モータに適した電圧や周波数の交流電力に変換して上記交流モータに供給するインバータと、このインバータに並列接続されて、上記交流モータの力行動作時には内部に備えた蓄電デバイスの放電動作により力行電力の一部を補助し、かつ、上記交流モータの回生動作時には上記蓄電デバイスの充電動作により回生電力の一部を充電する蓄電回路と、を備えた交流モータ駆動装置において、次の構成を採用している。
【0008】
上記蓄電回路は、予め設定した第1の閾値よりも大きい力行電力が上記交流モータで使用される場合には、上記コンバータの出力側の直流電力の電圧値と電流値とに基づき上記蓄電デバイスを放電させる電流指令値を生成する力行時電力補償部と、予め設定した第2の閾値より絶対値が大きい回生電力が上記交流モータから回生される場合には、コンバータの出力側の直流電力の電圧値と電流値とに基づき上記蓄電デバイスを充電させる電流指令値を生成する回生時電力補償部と、予め設定した第3の閾値と第4の閾値との範囲内で上記コンバータの出力側の直流電力の電圧値と電流値と上記蓄電デバイスの両端電圧値と入出力電流値とに基づき上記蓄電デバイスの両端電圧値を予め定められた電圧値にするために上記蓄電デバイスを充放電させる電流指令値を生成する補充電制御部と、を備えている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、系統電源から供給されるピーク電力量を抑制するのみならず、交流モータの回生動作時のピーク電力量の抑制を図ることができ、また、回生動作開始時の急峻な電力回生の生起に対してもピーク電力が生じるのを抑制することができる。これにより、装置の大型化を来すことなく系統電源へ回生するピーク電力量やコンバータで消費される電力量を有効に削減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態1に係る交流モータ駆動装置の全体を示すブロック図である。
【図2】同交流モータ駆動装置を構成する蓄電回路のブロック図である。
【図3】図2の蓄電回路を構成するチョッパ回路の一例を示す回路図である。
【図4】図2の蓄電回路を構成する充放電制御回路を示すブロック図である。
【図5】図4の充放電制御回路を構成する力行時電力補償部のブロック図である。
【図6】図4の充放電制御回路を構成する回生時電力補償部のブロック図である。
【図7】図4の充放電制御回路を構成する補充電制御部のブロック図である。
【図8】図4の充放電制御回路を構成する加算部のブロック図である。
【図9】図4の充放電制御回路を構成する電圧指令値生成部のブロック図である。
【図10】図4の充放電制御回路を構成する制御信号生成部のブロック図である。
【図11】図10の制御信号生成部を構成するデッドタイム生成部の一例を説明するブロック図である。
【図12】本発明の実施の形態1に係る交流モータ駆動装置の動作説明に供する波形図である。
【図13】本発明の実施の形態2に係る交流モータ駆動装置における蓄電回路を構成する充放電制御回路を示すブロック図である。
【図14】図13の充放電制御回路を構成する加算部のブロック図である。
【図15】図14の加算部を構成する小指令値判定部の一例を説明するブロック図である。
【図16】図13の充放電制御回路を構成する電圧指令値生成部のブロック図である。
【図17】図13の充放電制御回路を構成する制御信号生成部のブロック図である。
【図18】本発明の実施の形態3に係る交流モータ駆動装置における蓄電回路を構成する充放電制御回路を示すブロック図である。
【図19】図18の充放電制御回路を構成する制御信号生成部のブロック図である。
【図20】図19の制御信号生成部を構成する正規化部の一例を説明するブロック図である。
【図21】本発明の実施の形態4に係る交流モータ駆動装置における蓄電回路のブロック図である。
【図22】図21の蓄電回路を構成するチョッパ回路の一例を示す回路図である。
【図23】図21の蓄電回路を構成する充放電制御回路のブロック図である。
【図24】図23の充放電制御回路を構成する電圧指令値生成部のブロック図である。
【図25】図23の充放電制御回路を構成する制御信号生成部のブロック図である。
【図26】本発明の実施の形態5に係る交流モータ駆動装置における蓄電回路を構成する充放電制御回路のブロック図である。
【図27】図26の充放電制御回路を構成する加算部のブロック図である。
【図28】図27の加算部を構成するゲート信号生成部の一例を説明するブロック図である。
【図29】図26の充放電制御回路を構成する制御信号生成部で生成される制御信号に対してデッドタイムを付与するデッドタイム生成部のブロック図である。
【図30】図6の回生時電力補償部を構成するIcap2*生成部のブロック図である。
【図31】図30のIcap2*生成部の構成を備えた回生時電力補償部における回生動作時の動作を説明する波形図である。
【図32】本発明の実施の形態6に係る交流モータ駆動装置における蓄電回路を構成する充放電制御回路の回生時電力補償部の部分を示すブロック図である。
【図33】図32の回生時電力補償部を構成するIcap2*生成部のブロック図である。
【図34】図33のIcap2*生成部の構成を備えた回生時電力補償部における回生動作時の動作を説明する波形図である。
【図35】本発明の実施の形態6に係る交流モータ駆動装置における蓄電回路を構成する充放電制御回路の回生時電力補償部に設けたIcap3*生成部の動作を説明する波形図である。
【図36】図35において、回生開始時における一部分を時間軸方向に拡大して示す波形図である。
【図37】本発明の実施の形態9に係る交流モータ駆動装置の全体を示すブロック図である。
【図38】図37の同交流モータ駆動装置を構成する蓄電回路のブロック図である。
【図39】図37の蓄電回路を構成する充放電制御回路の充放電制御動作の説明に供するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1の交流モータ駆動装置の全体を示すブロック図である。
発電所や工場内の変電設備から供給される交流の系統電源1の交流電力は、コンバータ2によって直流電力に変換され、直流母線3に出力される。直流母線3によって供給される直流電力は、インバータ4によって後述する交流モータ5に適した交流電力に変換される。インバータ4が出力する交流電力の電圧や周波数は系統電源1の交流電力の電圧や周波数と必ずしも一致するものではない。交流モータ5は、インバータ4から供給される交流電力により駆動され、加工や運搬、移動、運動などの目的に応じた動作を行う。一方、直流母線3には蓄電回路6がインバータ4と並列に接続され、蓄電回路6には直流母線電圧値Vdcとコンバータ2の出力電流値である直流母線電流値Idcとが共に入力される。
【0012】
蓄電回路6は、上記交流モータ5の力行動作時には後述の蓄電デバイス61の放電動作により力行電力の一部を補助し、かつ、交流モータ5の回生動作時には蓄電デバイス61の充電動作により回生電力の一部を蓄電することで、交流モータの力行動作時と回生動作時のピーク電力を共に抑制するために設けられたものである。そして、蓄電回路6は、図2に示すように、蓄電デバイス61、チョッパ回路62、およびチョッパ回路62を制御するための充放電制御回路63を主体に構成されている。
【0013】
蓄電デバイス61は、例えば電解コンデンサまたは電気二重層(EDLC)もしくは蓄電池などで構成される。そして、蓄電デバイス61の高圧側端子はチョッパ回路62を構成する後述のリアクトル623に接続され、低圧側端子は低圧側直流母線3bに接続されている。また、チョッパ回路62は、ここでは降圧双方向型のチョッパ回路であって、一方を直流母線3(3a,3b)に、他方を蓄電デバイス61に接続されている。
【0014】
また、充放電制御回路63は、直流母線電圧値Vdc、直流母線電流値Idc、蓄電デバイス61の両端電圧値Vcap、および蓄電デバイス61の充放電電流値Icapをいずれも検出して入力し、これらの値に基づいてチョッパ回路62内の後述するスイッチング素子621、622を「通(ON)」状態あるいは「断(OFF)」状態に制御する制御信号SWP、SWNを生成してチョッパ回路62へ出力する。
【0015】
チョッパ回路62の一例を図3に示す。このチョッパ回路62は、高圧側直流母線3aに接続され、充放電制御回路63から出力される制御信号SWPにより「通」状態と「断」状態とが制御されるスイッチング素子621と、低圧側直流母線3bに接続され、充放電制御回路63から出力される制御信号SWNにより「通」状態と「断」状態とが制御されるスイッチング素子622と、一方の端子がスイッチング素子621とスイッチング素子622との接続点に接続され、他方の端子が蓄電デバイス61の高圧側端子に接続させるリアクトル623とから構成される。なお、各スイッチング素子621、622は、例えばIGBTやトランジスタとそのトランジスタに逆並列に接続されるダイオードなどで形成される。
【0016】
なお、上記の制御信号SWP、SWNは、直流母線3の短絡を防ぐために設定されたデッドタイムを除いては、それぞれが制御するスイッチング素子621、622の「通」状態と「断」状態とが互いに反転するように制御する信号で、デッドタイムの期間では、制御信号SWP、SWNとはいずれも、制御対象のスイッチング素子621、622を「断」状態して直流母線3の短絡を防止する。そして、一方の制御信号SWPが他方の制御信号SWNよりも「通」状態の比率が高い場合には蓄電デバイス61への充電が、その逆の場合には蓄電デバイス61からの放電が実行される。なお、チョッパ回路62の動作の詳細に関しては、本発明の主要部分ではないので、説明を省略する。
【0017】
充放電制御回路63は、チョッパ回路62内の各スイッチング素子621、622に与える制御信号SWP、SWNによって蓄電デバイス61の充放電を制御するものである。この充放電制御回路63は、図4に示すように、2つの乗算部631、632、力行時電力補償部633、回生時電力補償部634、補充電制御部635、加算部636、電圧指令値生成部637、および制御信号生成部638を備えている。
【0018】
一方の乗算部631は、直流母線電圧値Vdcと直流母線電流値Idcとの積を計算してコンバータ2の出力側の電力Pcnvを生成する。この電力Pcnvは、力行時電力補償部633、回生時電力補償部634、および補充電制御部635にそれぞれ出力される。また、他方の乗算部632は、蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapと充放電電流値Icapとの積を計算して蓄電デバイス61の入出力電力Pcapとして、補充電制御部635に出力される。
【0019】
ここで、説明の便宜上、上記の直流母線電流値Idcはコンバータ2から流れ出る方向を正にとり、また、蓄電デバイス61の充放電電流値Icapは蓄電デバイス61に充電する方向を正とする。このようにそれぞれの電流の向きを定義することにより、コンバータ2の出力側の電力Pcnvは、インバータ4が電力を消費する場合が正で、インバータ4から電力が回生される場合が負で表わされ、また、蓄電デバイス61の入出力電力Pcapは、蓄電デバイス61に充電する電力が正に、蓄電デバイス61から放電する電力が負で表わされる。
【0020】
力行時電力補償部633は、後述のように、交流モータ5の力行時において上記のコンバータ2の出力側の電力Pcnvが予め設定された第1の閾値である力行時電力補償閾値LPUより大きい場合に蓄電デバイス61を放電させるための電流指令値Icap1*を生成するものである。
【0021】
すなわち、この力行時電力補償部633は、図5に示すように、交流モータ駆動装置の力行動作時にコンバータ2の出力側の電力Pcnvを制限する力行時電力補償閾値LPUが予め格納されている。ここで力行時電力補償閾値LPUは正の値とする。そして、この力行時電力補償部633は、電力Pcnvと力行時電力補償閾値LPUとを比較して、電力Pcnvが力行時電力補償閾値LPUを越えた場合には、電力Pcnvが力行時電力補償閾値LPUを越えた場合の電力差E1に応じて、蓄電デバイス61から放電させる電流の指令値Icap1*をIcap1*生成部6331で生成して、加算部636に出力する。電力差E1を下記の(式1)で表わすように計算すると、電力Pcnvが力行時電力補償閾値LPUを越えた場合には電力差E1は正の値になる。一方、電力Pcnvが力行時電力補償閾値LPUを越えない場合には、電力差E1は負の値となる。このE1に応じてIcap1*生成部6331は蓄電デバイス61を放電させる電流の量を指令する電流指令値Icap1*を生成するが、Icap1*が正の値になる場合には電流指令値Icap1*の出力を「0」になるように制御する。したがって、加算部636へ出力される電流指令値Icap1*は、常に負の値あるいは「0」の値となる。なお、Icap1*生成部6331は、一般にはPI制御が用いられるがPID制御でも、P制御でも、I制御でも本実施の形態の実現には支障はない。
【0022】
E1=Pcnv−LPU (式1)
【0023】
回生時電力補償部634は、後述のように、交流モータ5の回生時においてその回生電力であるコンバータ2の出力側電力Pcnvが予め設定された第2の閾値である回生時電力補償閾値LPLを越えた場合に蓄電デバイス61を充電させるための電流指令値Icap2*を生成するものである。
【0024】
すなわち、この回生時電力補償部634は、図6に示すように、交流モータ駆動装置の回生動作時にコンバータ2の出力側の電力Pcnvを制限する回生時電力補償閾値LPLが予め格納されている。ここでLPLは負の値とする。そして、この回生時電力補償部634は、電力Pcnvと回生時電力補償閾値LPLとを比較して、電力Pcnvが回生時電力補償閾値LPLを下回ったときの電力差E2に応じて、蓄電デバイス61を充電させる電流の指令値Icap2*をIcap2*生成部6341で生成し加算部636に出力する。
【0025】
ここで、電力Pcnvと回生時電力補償閾値LPLとは共に負の値であるため、電力Pcnvが回生時電力補償閾値LPLを下回るとは、電力Pcnvの絶対値である|Pcnv|が回生時電力補償閾値LPLの絶対値である|LPL|より大きくなることを意味する。電力差E2を下記の(式2)で表わすように計算すると、電力Pcnvが回生時電力補償閾値LPLを下回る場合には電力差E2は負の値になる。一方、電力Pcnvが回生時電力補償閾値LPLを上回った場合には、電力差E2は正の値となる。このE2に応じてIcap2*生成部6341は蓄電デバイス61を充電させる電流の量を指令する電流指令値Icap2*を生成するが、Icap2*が負の値になる場合には電流指令値Icap2*の出力を「0」になるように制御する。したがって、加算部636へ出力される電流指令値Icap2*は、常に正の値あるいは「0」の値となる。なお、Icap2*生成部6341は、一般にはPI制御が用いられるが、PID制御でも、P制御でも、I制御でも本実施の形態の実現には支障はない。
【0026】
E2=Pcnv−LPL (式2)
【0027】
補充電制御部635は、後述の(式4)に示すように、コンバータ2の出力側の電力Pcnvと蓄電デバイス61の入出力電力Pcapとの差、すなわちインバータ4と交流モータ5の負荷Ploadが、予め設定された第3の閾値で、正の値である力行時補充電制御部動作閾値LSUと、予め設定された第4の閾値で、負の値である回生時補充電制御部動作閾値LSLとの範囲内にあるときに、蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapが予め設定された希望電圧値VcapTHに保たれるように、蓄電デバイス61を充放電させる電流指令値Icap3*を生成するものである。
【0028】
すなわち、補充電制御部635は、図7に示すように、本発明の交流モータ駆動装置使用者が、蓄電デバイス61の両端電圧Vcapを保持して置きたいと希望する希望電圧値VcapTHが予め格納されている。希望電圧値VcapTHは、交流モータ駆動装置の使用開始時や一連の動作終了時に蓄電デバイス61の両端電圧Vcapの復帰する基準となる電圧、即ち、蓄電デバイス61の基準充電量を制御する電圧値である。そして、この補充電制御部635は、蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapと上記の希望電圧値VcapTHとを比較し、その電圧差E3に応じて蓄電デバイス61を充放電させる電流量を指令する電流指令値Icap3*をIcap3*生成部6351で生成して、加算部636に出力する。
【0029】
今、電圧差E3が下記の(式3)で計算される場合を例に取り、電圧差E3と電流指令値Icap3*との関係を説明する。
電圧差E3が正の場合には、蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapが希望電圧値VcapTHより大きいことを意味しているため、蓄電デバイス61の放電のための負の値の電流指令値Icap3*を生成し、蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapを低下させるようにする。逆に、電圧差E3が負の場合には、蓄電デバイス61の充電のための正の値の電流指令値Icap3*を生成し、蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapを上昇させるようにする。なお、Icap3*生成部6351には、一般にはPI制御が用いられるが、PID制御でも、P制御でも、I制御でも本実施の形態の実現には支障はない。
【0030】
E3=Vcap−VcapTH (式3)
【0031】
Pload=Pcnv−Pcap (式4)
【0032】
前述のようにPloadは、インバータ4と交流モータ5の負荷を表わすことになる。負荷Ploadが正の場合には交流モータ駆動装置は力行動作中であり、逆に負荷Ploadが負の場合には交流モータ駆動装置は回生動作中である。
【0033】
補充電制御部635には、予め定められた正の値である力行時補充電制御部動作閾値LSUと、予め定められた負の値である回生時補充電制御部動作閾値LSLとが格納されており、Icap3*生成部6351は、電流指令値Icap3*に対して0<Pload<LSUの場合には下記の(式5)で示す制限を、また、LSL<Pload<0の場合には下記の(式6)で示す制限を、その他の場合、すなわちPload>LSUまたはPload<LSLの場合には下記の(式7)で示す制限を設定する。
【0034】
0<Icap3*<(LSU−Pload)/Vcap (式5)
(LSL−Pload)/Vcap<Icap3*<0 (式6)
Icap3*=0 (式7)
【0035】
ここで、LPU>LSUかつLPL<LSLと設定すると、補充電制御部635は、力行時電力補償部633と回生時電力補償部634が動作していない時に動作するように制御することが可能になる。すなわち、補充電制御部635のIcap3*生成部6351は、前述の(式4)で得られる負荷Ploadが力行時補充電制御部動作閾値LSUと回生時補充電制御部動作閾値LSLとの範囲内にあるとき(LSL<Pload<LSU)に、前述の(式3)で与えられる電圧差E3の値に応じた電流指令値Icap3*を生成する。
【0036】
なお、負荷Ploadが力行時電力補償閾値LPUと力行時補充電制御部動作閾値LSUとの間にあるとき(LSU<Pload<LPU)、あるいは回生時電力補償閾値LPLと回生時補充電制御部動作閾値LSLとの間にあるとき(LPL<Pload<LSL)には、充放電制御回路63からはいずれの電流指令値Icap1*、Icap2*、Icap3*も出力されず不感帯となる。これは交流モータ5の力行時と回生時のピーク電力抑制を確実に行えるようにするための処置である。
【0037】
加算部636は、図8に示すように、力行時電力補償部633の出力である電流指令値Icap1*と回生時電力補償部634の出力である電流指令値Icap2*と補充電制御部635の出力である電流指令値Icap3*とを加算して統合電流指令値Icap*を生成する。
【0038】
電圧指令値生成部637は、図9に示すように、加算部636の出力である統合電流指令値Icap*と蓄電デバイス61の充放電電流値Icapとを比較して、その電流差E4を計算する。そして、この電流差E4に応じて、Vcap*生成部6371で、蓄電デバイス61を充放電させて蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapの到達値を指令する電圧指令値Vcap*を生成し、これを次段の制御信号生成部638に出力する。
【0039】
上記の電流差E4を下記の(式8)で表わすように計算する時、Vcap*生成部6371では、電流差E4が正の場合には電流差E4の値に応じて蓄電デバイス61が充電されるように電圧指令値Vcap*を増加させるように出力し、逆に、電流差E4が負の場合には電流差E4の値に応じて蓄電デバイス61が放電されるように電圧指令値Vcap*を減少させるように出力する。なお、Vcap*生成部6371には、一般にはPI制御が用いられるが、PID制御でも、P制御でも、I制御でも本実施の形態の実現には支障はない。
【0040】
E4=Icap*−Icap (式8)
【0041】
制御信号生成部638は、図10に示すように、正規化部6381、三角波生成部6382、比較器6383、およびデッドタイム生成部6384から構成されており、デッドタイム生成部6384には、直流母線3の短絡を防ぐべくチョッパ回路62内のスイッチング素子621、622を同時に「断」状態にする時間幅を規定するデッドタイムTdが予め設定されている。
【0042】
正規化部6381は、電圧指令値生成部637の出力である電圧指令値Vcap*を入力し、これを正規化した正規化信号Nolを出力する。この場合、本発明の交流モータ駆動装置が力行動作時でもなく回生動作時でもない無負荷の場合にはこの正規化信号Nolは「0」になる。なお、正規化部6381は、例えば交流モータ駆動装置が無負荷の場合で、かつチョッパ回路62が充放電動作をしない時の直流母線電圧値をVcap0とする場合、次の(式9)で表わすように構成することもできる。
【0043】
Nol=Vcap*−Vcap0 (式9)
【0044】
三角波生成部6382は、直流成分が「0」の三角波信号Triを出力する。比較器6383は、Nol≧Triの場合には状態「1」の、またNol<Triの場合には状態「0」である信号PWMを出力する。
【0045】
デッドタイム生成部6384では、信号PWMが「1」の状態から「0」の状態へ移行する場合、および、信号PWMが「0」の状態から「1」の状態へ移行する場合にそれぞれ制御信号SWPとSWNとが共に「断」状態になるようにデッドタイムTdを付与して出力する。
【0046】
デッドタイム生成部6384の一例を図11に示す。
図11において、63841と63842とは入力の立ち上がりエッジに対して時間幅Tdだけのパルスを出力するワンショットマルチバイブレータ素子であり、63843と63844とは2入力AND素子、63845〜63847はNOT素子である。信号PWMは、ワンショットマルチバイブレータ素子63841と2入力AND素子63843とNOT素子63845にそれぞれ入力される。ワンショットマルチバイブレータ素子63841は、信号PWMの立ち上がりエッジから時間幅TdだけのパルスP1Pを出力してNOT素子63846に入力する。NOT素子63846は、パルスP1Pを反転させたパルスP1Cを出力し、2入力AND素子63843のもう1つの入力端に入力する。従って、AND素子63843は、信号PWMの「1」の状態に対して、その立ち上がりから時間幅Tdだけ「1」の状態が短い制御信号SWPを出力する。一方、信号PWMの反転信号であるNOT素子63845の出力は、ワンショットマルチバイブレータ素子63842と2入力AND素子63844とにそれぞれ入力される。ワンショットマルチバイブレータ素子63842は、信号PWMの反転信号の立ち上がりエッジ、すなわち、信号PWMの立下りエッジから時間幅TdだけのパルスP2Pを出力し、NOT素子63847に入力する。NOT素子63847は、パルスP2Pを反転させたパルスP2Cを出力し、2入力AND素子63844のもう1つの入力端に入力する。従って、AND素子63844は、信号PWMの「0」の状態に対して立下りから時間幅Tdだけ短い期間が「1」の状態となる制御信号SWNを出力する。このように、信号PWMの変化点に対して常に時間幅Tdだけ「0」の状態にするデッドタイムTdが付与された制御信号SWP、SWNが生成される。
【0047】
次に、この実施の形態1における交流モータ駆動装置の動作について、図12を参照して説明する。
【0048】
ここでは、一例としてプレス加工や切削加工などの工作機械に使用される交流モータ5の駆動制御を行う場合を想定する。この場合は、交流モータ5の駆動/停止が頻繁に繰り返されるため、交流モータ駆動装置は力行動作状態と回生動作状態とが繰り返し生じる。このため、負荷Ploadは、時間経過に伴い、図12(a)の実線で示すように変化する。また、力行時電力補償部633に格納される力行時電力補償閾値LPUと回生時電力補償部634に格納される回生時電力補償閾値LPLとをそれぞれ図12(a)に一点鎖線で示す。さらに、補充電制御部635に格納される力行時補充電制御部動作閾値LSUと回生時補充電制御部動作閾値LSLとを図12(a)に二点鎖線で示す。
【0049】
このような場合、力行時電力補償部633でのコンバータ2の出力側の電力Pcnvと力行時電力補償閾値LPUとの電力差E1は負荷Ploadが力行時電力補償閾値LPUを越えた場合(図12(a)の時刻T3〜時刻T4の期間)には図12(b)に示すように正の値になるが、本発明による蓄電デバイス61からの放電動作によりコンバータ2の出力側の電力Pcnvは抑制されるため電力差E1の振幅は小さく、一方、他の場合(図12(a)の時刻T0〜時刻T3と時刻T4〜時刻T9の期間)の電力差E1は負の値になる。
この電力差E1に対して、力行時電力補償部633内のIcap1*生成部6331は、図12(c)に示すように、図12(a)の時刻T0〜時刻T3の期間は「0」で、時刻T3〜時刻T4の期間は負の値となり、時刻T4以降急速に増加して「0」になるとそれ以降は「0」を継続する電流指令値Icap1*を出力する。
【0050】
同様に、回生時電力補償部634でのコンバータ2の出力側の電力Pcnvと回生時電力補償閾値LPLとの電力差E2は負荷Ploadが回生時電力補償閾値LPLより回生量が多くなった場合(図12(a)の時刻T5〜時刻T6の期間)には図12(d)に示すように負の値になるが、本発明による蓄電デバイス61への充電動作によりコンバータ2の出力側の電力Pcnvは抑制されるため電力差E2の振幅は小さく、一方、他の場合(図12(a)の時刻T0〜時刻T5と時刻T6〜時刻T9の期間)の電力差E2は正の値になる。この電力差E2に対して、回生時電力補償部634内のIcap2*生成部6341は、図12(e)に示すように、図12(a)の時刻T0〜時刻T5の期間は「0」で、時刻T5〜時刻T6の期間は正の値となるが、回生電力量の減少により次第に減少して「0」になるとそれ以降は「0」を継続する電流指令値Icap2*を出力する。
【0051】
補充電制御部635は、負荷Ploadが回生時補充電制御部動作閾値LSL以上でかつ力行時補充電制御部動作閾値LSU以下の場合(図12(a)の時刻T0〜時刻T2と時刻T4〜時刻T5と時刻T7〜時刻T9の期間)に、蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapと希望電圧値VcapTHとの電圧差E3に基づいて電流指令値Icap3*を出力するが、補充電制御部635内のIcap3*生成部6351は、図12(a)の時刻T0〜時刻T2の期間は電圧差E3が「0」のため電流指令値Icap3*に「0」を出力し、図12(a)の時刻T4〜時刻T5の期間は電流指令値Icap1*により蓄電デバイス61は放電動作を行ったため蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapは図12(h)に示すように低下しているので電圧差E3は正の値となり電流指令値Icap3*に正の値を出力し、図12(a)の時刻T7以降で電流指令値Icap2*により蓄電デバイス61は充電動作をおこなったため蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapは図12(h)に示すようにVcapTHを越えて上昇しているので電圧差E3は負の値となり電流指令値Icap3*に負の値を蓄電デバイス61の両端電圧値VcapがVcapTHになるまで出力し、その後は「0」を出力する。
図12の(c)、(e)、(f)から判るように、加算部636の出力である統合電流指令値Icap*は、図12(g)に示すようになる。この統合電流指令値Icap*に基づいて電圧指令値生成部637で電圧指令値Vcap*が生成されるので、蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapは、図12(h)に示すように制御される。この両端電圧値Vcapの変動に応じた蓄電デバイス61の充放電により、コンバータ2の出力側の電力Pcnvは、図12(j)に示すように、上限が力行時電力補償閾値LPUを、下限が回生時電力補償閾値LPLをそれぞれ越えないように抑制される。
【0052】
交流モータ駆動装置をこの実施の形態1のように構成することにより、系統電源1から供給されるピーク電力量を力行時電力補償閾値LPUに抑制することが可能になるだけでなく、回生動作時の電力を系統電源1へ回生するピーク電力量やインバータ4で消費される電力量を回生時電力補償閾値LPLに抑制することが可能になる。このように、系統電源へ回生するピーク電力量やコンバータ2で消費される電力量を抑制することができるため、小型で軽量の小さい定格(仕様)のコンバータ2を使用することが可能となり、装置全体を小さくすることができる。
【0053】
実施の形態2.
本発明の交流モータ駆動装置において、安定した制御を可能にする実施例を説明する。なお、この実施の形態2において、実施の形態1と同一または同等の機能を有するブロックや回路もしくは素子については同一の番号付与することとする。
【0054】
この実施の形態2では、図13に示すように、加算部636から出力される無効化信号Disableがあり、この無効化信号Disableが電圧指令値生成部637と制御信号生成部638に出力されることと、蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapが電圧指令値生成部637にも入力されることとが、実施の形態1とは異なっている。以下に異なっている部分について図を用いて説明する。
【0055】
まず、加算部636においては、実施の形態1で説明した統合電流指令値Icap*を生成する機能に加えて、図14に示すように、統合電流指令値Icap*の値が小さいかどうかを判断するための閾値IΔと、安定性を確保する時間幅TΔとが格納され、閾値IΔと統合電流指令値Icap*とを比較して統合電流指令値Icap*が下記の(式10)の範囲にあって小さい値であることを示す無効化信号Disableを生成する小指令値判定部6361と、統合電流指令値Icap*の値が小さい場合であると無効化信号Disableが判断した場合に統合電流指令値Icap*を強制的に「0」に設定するスイッチ6362とが具備される。ただし、ここでは説明の都合上閾値IΔは正の値とする。IΔは、例えば、チョッパ回路62内のリアクトル623の飽和電流値の1/50や1/100などの値に設定することができる。
【0056】
−IΔ<Icap*<IΔ (式10)
【0057】
小指令値判定部6361の一例を図15に示す。小指令値判定部6361では、3つの電流指令値Icap1*、Icap2*、Icap3*の和である統合電流指令値Icap*が、比較器63611の「−」の端子と比較器63612の「+」の端子に入力される。閾値IΔは、比較器63611の「+」の端子と反転器63613とに入力される。反転器63613は閾値IΔを入力として−IΔの値を比較器63612の「−」端子に出力する。比較器63611は、統合電流指令値Icap*が閾値IΔ未満の場合に「1」の状態となる信号D1を2入力AND素子63614の一方の入力端に出力する。比較器63612は、統合電流指令値Icap1*が閾値−IΔより大きい場合に「1」の状態となる信号D2を2入力AND素子63614の他方の入力端に出力する。したがって、2入力AND素子63614の出力信号D3は、上記の(式10)が成立する場合に「1」の状態となり、ワンショットマルチバイブレータ素子63615と2入力AND素子63617に出力される。ワンショットマルチバイブレータ素子63615では、信号D3の立ち上がりエッジから時間幅TΔの期間だけ「1」の状態となるパルスをNOT素子63616に出力する。NOT素子63616の出力は2入力AND素子63617のもう一方の入力端子に出力され、チャタリングを防止するために時間幅TΔの期間にわたって統合電流指令値Icap*の値が小さい場合と判断する無効化信号Disableが生成される。
【0058】
電圧指令値生成部637では、図16に示すように、Vcap*生成部6371に蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapと加算部636からの無効化信号Disableが入力される。Vcap*生成部6371は、無効化信号Disableによって統合電流指令値Icap*の値が小さいと判定した場合には、電圧指令値Vcap*を蓄電デバイス61の両端電圧Vcapに置換するように制御する。この制御により、統合電流指令値Icap*の値が小さくないと判定した場合には、電圧指令値Vcap*は過去の経緯に関係なく、両端電圧値Vcapから蓄電デバイス61の充放電の制御を再開する。
【0059】
制御信号生成部638では、図17に示すように、無効化信号Disableがデッドタイム生成部6384に入力され、無効化信号Disableが統合電流指令値Icap*の値が小さいことを表わす場合には、デッドタイム生成部6384から出力されるべき制御信号SWP、SWNを共に「断」状態になるように強制的にマスキングする。つまり、統合電流指令値Icap*の値が小さく、無効化信号Disableが出力されるときには、時間幅TΔの期間にわたって制御信号SWP、SWNが「断」状態になってチョッパ回路62の動作が停止され、蓄電デバイス61の充放電が行われない。
その他の構成については実施の形態1と同様であるから、ここでは詳しい説明は省略する。
【0060】
この実施の形態2のように構成することにより、力行時のピーク電力量や回生時のピーク電力量を抑制することが可能になると共に、交流モータ駆動装置が力行動作状態や回生動作状態でなくて定常状態になっているにも係わらず、外乱や電流リップルにより、定常状態を脱してしまうことを防ぐことが可能になる。また、定常状態から逸脱した場合でも過去の制御状態に拠らずに、必ず定常状態から蓄電デバイス61の充放電制御を再開させることをも可能になる。
【0061】
実施の形態3.
前述の実施の形態1では充放電制御回路63の制御信号生成部638において、電圧指令値Vcap*から制御信号SWP、SWNを生成しているが、この実施の形態3では、さらに直流母線電圧値Vdcをも用いる場合について説明する。なお、この実施の形態3では、前記の実施の形態1あるいは実施の形態2のいずれに対しても適用が可能であるが、説明の簡便性に着目して、実施の形態1に適用した場合で説明する。また、この実施の形態3において、実施の形態1と同一または同等の機能を有するブロックや回路もしくは素子については同一の番号を付与することとする。
【0062】
この実施の形態3における充放電制御回路63のブロック図を図18に示す。
この実施の形態3の特徴として直流母線電圧値Vdcは、乗算部631の外に制御信号生成部638にも入力される。
本発明の交流モータ駆動装置のチョッパ回路62が、図3に示したような降圧双方向チョッパ回路の場合、負荷Ploadが無負荷、即ち「0」の状態で、かつ蓄電デバイス61に対する充放電がない状態では、下記の(式11)の関係が成立する。
【0063】
2・Vcap=Vdc (式11)
【0064】
そこで、この実施の形態3では、図19に示すように、制御信号生成部638内の正規化部6381に電圧指令値Vcap*と直流母線電圧値Vdcとを入力する。その正規化部6381においては、図20に示すように、除算器63811で、Vcap*/Vdcを演算し、その結果を乗算器63812で2倍にし、減算器63813によって乗算器63812の出力値から数値「1」を減じて正規化信号Nolを得る方法である。
【0065】
このように正規化部6381を構成することにより、無負荷時でかつ蓄電デバイス61の充放電が無い場合には電圧指令値Vcap*は両端電圧値Vcapとなるので、上記の(式11)の関係から正規化信号Nolは「0」となり、また、電圧指令値Vcap*によって蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapを直流母線電圧値Vdcの1/2より高い値に制御したい場合には正の値の正規化信号Nolが、逆に、電圧指令値Vcap*によって蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapを直流母線電圧値Vdcの1/2より低い値に制御したい場合には負の値の正規化信号Nolがそれぞれ出力される。
なお、その他の構成については実施の形態1と同様であるから、ここでは詳しい説明は省略する。
【0066】
交流モータ駆動装置をこの実施の形態3のように構成することにより、力行時のピーク電力量や回生時のピーク電力量を抑制することが可能になると共に、電圧指令値Vcap*をその時その時の蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapに対する増減で指令することにより、応答性の速い蓄電デバイス61の充放電制御が可能になる。
【0067】
実施の形態4.
前記の実施の形態1乃至実施の形態3は、チョッパ回路62が単相の場合について説明したが、本発明に係る交流モータ駆動装置におけるチョッパ回路62は、このような単相に限定されるものでないため、ここでは一例として、説明の簡便性に着目して、実施の形態1に適用した場合で、チョッパ回路62が3相の場合について説明する。なお、この実施の形態4において、実施の形態1と同一または同等の機能を有するブロックや回路もしくは素子については同一の番号付与することとする。
【0068】
この実施の形態4の蓄電回路6は、図21に示すように、3相の降圧双方向型のチョッパ回路62を備え、各チョッパ回路62の出力端a、出力端b、出力端cの電流値をそれぞれ検出して、電流値IcapA、IcapB、IcapCとして充放電制御回路63に出力する。各電流値IcapA、IcapB、IcapCを検出した後の3つの出力端a、b、cは、蓄電デバイス61の高圧側端子に接続される。また、充放電制御回路63から出力される各制御信号SWPa、SWNa、SWPb、SWNb、SWPc、SWNcはいずれもチョッパ回路62に与えられる。
【0069】
チョッパ回路62は、図22に示すように、高圧側直流母線3aと低圧側直流母線3bとの間に、制御信号SWPa、SWNaによって制御される上下2つのスイッチング素子621a、622aが、また制御信号SWPb、SWNbによって制御される上下2つのスイッチング素子621b、622bが、さらに制御信号SWPc、SWNcによって制御される上下2つのスイッチング素子621c、622cが、それぞれ並列に接続されている。上下のスイッチング素子621a、622aの接続点にはリアクトル623aの一方の端子が、また上下のスイッチング素子621b、622bの接続点にはリアクトル623bの一方の端子が、さらに上下のスイッチング素子621c、622cの接続点にはリアクトル623cの一方の端子が、それぞれ接続されている。各リアクトル623a、623b、623cの他方の端子は、それぞれ出力端a、出力端b、出力端cとしてチョッパ回路62の外へ引き出されて蓄電デバイス61の高圧側端子に共通に接続される。
【0070】
充放電制御回路63においては、図23に示すように、入力された各電流値IcapA、IcapB、IcapCが電圧指令値生成部637に入力されると共に、加算部639によって3つの電流値の和が計算される。そして、加算部639の出力は、乗算部632で蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapを乗じて、蓄電デバイス61の入出力電力Pcapが算出され、補充電制御部635に出力される。なお、補充電制御部635の構成および動作は、前記実施の形態1と基本的に同一のため、ここでは詳しい説明は省略する。
【0071】
電圧指令値生成部637は、図24に示すように、加算部636で得られる統合電流指令値Icap*に1/3を乗じた電流指令値IcapA*を各加算部6372a、6372b、6372cの一方の入力端に入力する。加算部6372aは、電流指令値IcapA*から電流値IcapAを減じた電流差E4aを計算して、VcapA*生成部6371aへ出力する。同様に、加算部6372bは、電流指令値IcapA*から電流値IcapBを減じた電流差E4bを計算して、VcapB*生成部6371bへ出力する。さらに、加算部6372cは、電流指令値IcapA*から電流値IcapCを減じた電流差E4cを計算して、VcapC*生成部6371cへ出力する。そして、VcapA*生成部6371a、VcapB*生成部6371b、およびVcapC*生成部6371cは、前記実施の形態1で説明したVcap*生成部6371と同じ制御により、蓄電デバイス61に対する各電圧指令値VcapA*、VcapB*、VcapC*をそれぞれ生成して、次段の制御信号生成部638へ出力する。
【0072】
制御信号生成部638は、図25に示すように、電圧指令値VcapA*が正規化部6381aに、電圧指令値VcapB*が正規化部6381bに、電圧指令値VcapC*が正規化部6381cにそれぞれ入力される。各正規化部6381a、6381b、6381cは、それぞれ前記実施の形態1で説明した正規化部6381と同一の動作を行い、正規化信号NolA、NolB、NolCをそれぞれ出力する。
比較器6383aは、前記実施の形態1で説明した場合と同様に、正規化信号NolAと三角波生成部6382aから出力される三角波信号TriAとを比較して、NolA≧TriAの場合に状態「1」であり、NolA<TriAの場合に状態「0」である信号PWMaをデッドタイム生成部6384aに出力する。
同様に、比較器6383bは、正規化信号NolBと三角波生成部6382bから出力される三角波信号TriBとを比較して、信号PWMbをデッドタイム生成部6384bに出力する。但し、この三角波信号TriBは、先の三角波信号TriAに対して、位相が周期の1/3、即ち、120°遅れていることが異なるだけで振幅と周波数は同一である。
同様に、比較器6383cは、正規化信号NolCと三角波生成部6382cから出力される三角波信号TriCとを比較して、信号PWMcをデッドタイム生成部6384cに出力する。但し、この三角波信号TriCは、先の三角波信号TriAに対して、位相が周期の2/3、即ち、240°遅れていることが異なるだけで振幅と周波数は同一である。
【0073】
デッドタイム生成部6384aは、信号PWMaと時間幅Tdとを入力として、前記実施の形態1で説明したデッドタイム生成部6384と同一の動作をして制御信号SWPa、SWNaを出力する。同様に、デッドタイム生成部6384bは、信号PWMbと時間幅Tdとを入力として、制御信号SWPb、SWNbを出力する。デッドタイム生成部6384cは、信号PWMcと時間幅Tdとを入力として、制御信号SWPc、SWNcを出力する。
【0074】
交流モータ駆動装置をこの実施の形態4のように構成することにより、力行時のピーク電力量や回生時のピーク電力量を抑制することが可能になると共に、実施の形態1ないし実施の形態3の場合に比べてチョッパ回路62の各リアクトル623a、623b、623cの1個あたりに流れる電流が1/3に減少すると共に、比較する各三角波信号TriA、TriB、TriCの位相がそれぞれ1/3ずつ異なっていることから、各リアクトル623a、623b、623cのリップル電流が小さくなり、交流モータ駆動装置の制御において、誤差を小さくすることが可能になると共に、ノイズの発生が小さくなるため、ノイズ対策用の付加装置の小型化あるいは省略を可能にする。また、各リアクトル623a、623b、623c1個あたりの大きさ(体積)を小さくし、装置の小型化を図ることができ、装置価格の低廉化が可能になる。
【0075】
実施の形態5.
前記の実施の形態1乃至実施の形態4では、蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapを昇圧する場合あるいは降圧する場合には、SWPやSWNなどの全ての制御信号が常にスイッチング素子621、622を「通」状態と「断」状態とを繰り返すように制御している。
【0076】
これに対して、この実施の形態5では、力行時の蓄電デバイス61の放電と、回生時の蓄電デバイス61の充電とを、チョッパ回路62を構成する両スイッチング素子621(621a〜621c)、622(622a〜622c)の片方のみを「通」状態と「断」状態とを繰り返すように制御することで実現するようにしたものである。
【0077】
なお、この実施の形態5では、チョッパ回路62のスイッチング素子621、622の「断」状態を実現する無効化信号Disableとの制御の関係を明らかにするため、実施の形態2の別形態として説明するが、実施の形態1、3、4の別形態として、この実施の形態5を採用しても問題は無い。また、この実施の形態5において、実施の形態2と同一または同等の機能を有するブロックや回路もしくは素子については同一の番号付与することとする。
【0078】
この実施の形態5における充放電制御回路63のブロック図を図26に示す。
この実施の形態5の充放電制御回路63では、加算部636から制御信号生成部638に対して2つの信号EnableP、EnableNが出力されることが、実施の形態2の場合と異なる。この実施の形態5の加算部636は、図14に示した実施の形態2の加算部636の構成と比較すると、図27に示すように、3つの電流指令値Icap1*、Icap2*、Icap3*の和である統合電流指令値Icap*と予め定められた閾値IEとを入力して2つの信号EnableP、EnableNを出力するゲート信号生成部6363が新たに追加されている。説明の都合上、閾値IEは正の値としておく。
【0079】
そして、このゲート信号生成部6363は、図28に示すように、統合電流指令値Icap*が一方の比較器63631の「+」端子と他方の比較器63632の「−」端子とに入力される。閾値IEは一方の比較器63631の「−」端子と反転器63633に入力される。反転器63633は閾値IEの符号を変えた値−IEを他方の比較器63632の「+」端子に出力する。一方の比較器63631は、統合電流指令値Icap*が閾値IE以上の場合に「1」の状態になる信号EbablePを出力する。比較器63632では、統合電流指令値Icap*が閾値−IE以下の場合に「1」の状態になる信号EbableNを生成し、制御信号生成部638に出力する。
【0080】
この実施の形態5における制御信号生成部638の全体構成は、図17に示したものと基本的に同じであるが、実施の形態2と異なる点は、デッドタイム生成部6384に対して、新たに2つの信号EnableP、EnableNが入力されていることである。
【0081】
デッドタイム生成部6384では、図29に示すように、実施の形態1〜4で説明した制御信号SWPに対して、一方の許可信号EnablePと無効化信号DisableをNOT素子63848で反転した信号DisableCとの両信号で、3入力AND素子63849を用いてゲートした新しい制御信号SWPを生成する。すなわち、統合電流指令値Icap*が前述の(式10)の範囲から外れた大きな値を有して無効化信号Disableが「0」の状態で、かつ許可信号EnablePが「1」のときに、一方の制御信号SWPが出力される。
同様に、実施の形態1〜4で説明した制御信号SWNに対して、他方の許可信号EnableNと信号DisableCとの両信号で、3入力AND素子63850を用いてゲートした新しい制御信号SWNを生成する。すなわち、統合電流指令値Icap*が前述の(式10)の範囲から外れた大きな値を有して無効化信号Disableが「0」の状態で、かつ許可信号EnableNが「1」のときに、他方の制御信号SWNが出力される。
【0082】
これにより、回生時に蓄電デバイス61を充電する場合には、一方の制御信号SWPにより高圧側直流母線3aに接続されるスイッチング素子621のみが「通」状態と「断」状態とを繰り返すように制御され、他方の制御信号SWNにより低圧側直流母線3bに接続されるスイッチング素子622は常に「断」状態に制御される。これに対して、力行時に蓄電デバイス61を放電する場合には、一方の制御信号SWPにより高圧側直流母線3aに接続されるスイッチング素子621が常に「断」状態に制御され、他方の制御信号SWNにより低圧側直流母線3bに接続されるスイッチング素子622のみが「通」状態と「断」状態とを繰り返すように制御される。
【0083】
なお、実施の形態4にこの実施の形態5を適用する場合、即ち、チョッパ回路62が3相の場合には、一方の許可信号EnablePが制御信号SWPa、SWPb、SWPcそれぞれをゲートし、他方の許可信号EnableNが制御信号SWNa、SWNb、SWNcそれぞれをゲートすることとなる。チョッパ回路62が単相もしくは3相以外の場合でもこの実施の形態5の構成が援用されることは明らかである。
その他の構成および動作は実施の形態2の場合と同様であるから、ここでは詳しい説明は省略する。
【0084】
交流モータ駆動装置をこの実施の形態5のように構成することにより、力行時のピーク電力量や回生時のピーク電力量を抑制することが可能になると共に、チョッパ回路62内のスイッチング素子621、622の「通」状態から「断」状態への移行時間と「断」状態から「通」状態への移行時間との差に関わらず直流母線3の短絡を回避することをも可能にする。また、高圧側直流母線3aに接続されているチョッパ回路62内のスイッチング素子621と低圧側直流母線3bに接続されているチョッパ回路62内のスイッチング素子622のいずれかが「断」状態を継続するため、ノイズの発生を小さくでき、ノイズ対策用の付加装置の小型化あるいは省略をも可能にする。
【0085】
また、前述の閾値IΔと閾値IEが同一の値である場合には、小指令値判定部6361内の比較器63611の出力であるD1を反転した信号を一方の許可信号EnablePに、そして、小指令値判定部6361内の比較器63612の出力であるD2を反転した信号を他方の許可信号EnableNにして、ゲート信号生成部6363を省略する方法もある。このように構成することにより、回路規模を小さくして装置価格の低廉化も可能である。
【0086】
実施の形態6.
この実施の形態6の特徴は、回生動作開始時に大きな電力が回生される際、回生時電力補償部634において生成される電流指令値Icap2*がPI制御などで実現されるIcap2*生成部6341の積分要因によって徐々にしか変化できないことを改良し、コンバータ2の出力側の電力Pcnvに急峻な回生電力ピークが発生する現象に対して有効に対応できるようにしたものである。
【0087】
一般に、離散系のPI制御においては、入力e(it)に対して時刻kTにおける出力y(kT)は、比例ゲインをKp、積分時間をTi、離散系の周期をDとした場合、(式12)で表わすことができる。
【0088】
【数1】
【0089】
先の実施の形態1における回生時電力補償部634(図6参照)を構成するIcap2*生成部6341をPI制御で実現した場合の詳細を図30に示す。
このIcap2*生成部6341は、上記の(式12)に従ってPI制御を行うもので、比例ゲイン乗算器63411が、電力差E2をKp倍した信号E2pを積分ゲイン乗算器63412と加算器63415にそれぞれ出力し、積分ゲイン乗算器63412は、その信号E2pに(D/Ti)倍した信号E2iを加算器63414に出力する。加算器63414は、この信号E2iと後述する遅延回路63413の出力である信号E2dとを加算した信号E2qを生成して、遅延回路63413と加算器63415に出力する。遅延回路63413は、信号E2qを時間Dだけ遅延させた信号E2dを生成する。加算器63415は、両信号E2p、E2qの和を計算して電流指令値Icap2*として出力する。
【0090】
ところで、交流モータ駆動装置における回生動作は、作業終了後の交流モータ5の停止や支持、加圧の開放、あるいは作業の中断などにより、図31(a)に示すように、回生動作開始時に大きな電力が回生される場合が多い。今、回生時電力補償閾値LPLが、図31(a)に一点鎖線で示す電力量であるとすると、蓄電デバイス61に充電させたい希望充電電力量は、図31(b)で示すようになる。この希望充電電力量が確保されれば、前述の(式2)で定義される電力差E2は、図31(c)に示すように、負の部分が小さい値で継続する。
【0091】
しかし、回生時電力補償部634内のIcap2*生成部6341が上記の図30に示したようなPI制御を行うように構成されていると、電流指令値Icap2*は、図31(d)に示すように、回生動作開始時(時刻T5)から徐々に大きくなり、希望充電電力量が確保された時点(時刻T’、図示せず)以降のある時点から減少し、希望充電電力量が無くなった時点(時刻T6)以降で「0」に戻って電力補償動作を終了する。電流指令値Icap2*が徐々に大きくなっていく期間(時刻T’〜T6の間)において、実際に蓄電デバイス61に充電される電力量は、図31(e)に示すように、希望充電電力量に達しない。このため、図31(f)に斜線で示すように、回生時電力補償閾値LPLを越えた大きな回生電力量が、コンバータ2へ回生されて、系統電源1に戻されたり、コンバータ2内で熱エネルギーに変換されて開放される。つまり、回生電力が蓄電デバイス61へ充電されず無駄が生じる。
【0092】
そこで、この実施の形態6では、回生時電力補償部634において、回生動作開始時の回生電力量を抑制できるようにしている。すなわち、この実施の形態6における回生時電力補償部634は、図32に示すように、実施の形態1における回生時電力補償部634(図6参照)の構成と比較したとき、比較器6342が付加されており、この比較器6342の「+」端子に回生時電力補償閾値LPLを入力し、「−」端子にコンバータ2の出力側の電力Pcnvを入力している。従って、回生時にこの電力Pcnvが回生時電力補償閾値LPLを越えた場合、即ち、電力Pcnvの値が負の値である回生時電力補償閾値LPLよりも小さくなった場合に「1」の状態となる判別信号sが出力される。そして、この判別信号sは次段のIcap2*生成部6341に出力される。
【0093】
次に、この実施の形態6におけるIcap2*生成部6341の構成を図33に示す。 ここに、Icap2*生成部6341を構成する比例ゲイン乗算器63411、積分ゲイン乗算器63412、遅延回路63413、加算器63414、および加算器63415は、それぞれ図30の同一符号のものと機能が同一である。
【0094】
比例ゲイン乗算器63411から出力される信号E2pは、積分ゲイン乗算器63412と加算器63415にそれぞれ与えられる。積分ゲイン乗算器63412から出力される信号E2iは、加算器63414に出力される。加算器63414は、信号E2iと遅延回路63413の出力である信号E2dとを加算した信号E2qを生成してリミッタ63417に出力する。リミッタ63417は、この入力された信号E2qが「0」未満の場合には「0」を出力し、入力された信号E2qが予め定められた閾値Icap_maxより大きい場合にはIcap_maxの値を出力し、信号E2qが「0」以上で閾値Icap_max以下の場合には入力された信号E2qの値をそのまま出力する。
なお、この場合の閾値Icap_maxは、チョッパ回路62のリアクトル623の許容電流量以下の値に設定する。また、実施の形態4に示したように、多重化されたチョッパ回路の場合には、この閾値Icap_maxはチョッパ回路62内の各リアクトルの許容電流量をそれぞれ加算した値以下に設定する。このように、振幅制限を施されたリミッタ63417の出力を信号E2rとする。この信号E2rは、スイッチ63416の一方の入力端に出力される。スイッチ63416は、前述の比較器6342から出力された判別信号sの状態により、2つの入力を切り替えて片方の入力のみを信号E2sとして出力する。スイッチ63416の他方の入力端には、予め定められた回生時電流指令値積分成分初期値Icap2iが入力されている。
スイッチ63416は、前述の判別信号sが「0」の状態の場合には、信号E2rを出力し、逆に、判別信号sが「1」の状態の場合には回生時電流指令値積分成分初期値Icap2iを出力する。スイッチ63416の出力である信号E2sは、遅延回路63413と加算器63415とにそれぞれ出力される。遅延回路63413は、入力された信号E2sを所定時間Dだけ遅延させた信号E2dを生成する。加算器63415は、信号E2pと信号E2sとの和を計算して、信号E2tとしてリミッタ63418に出力する。リミッタ63418は、リミッタ63417と同一の機能を有し、入力された信号E2tを電流指令値Icap2*として出力する。
【0095】
次に、図33に示したIcap2*生成部6341の動作について、図34を用いて説明する。なお、図34(a)、(b)、(c)は、図31(a)、(b)、(c)とそれぞれ同じ波形であるため、ここでは説明は省略する。
【0096】
回生動作開始時点である図34の時刻T5では、コンバータ2の出力側の電力Pcnvの値が回生時電力補償閾値LPLよりも小さくなるので、図34(d)に示すように判別信号sが「0」の状態から「1」の状態になる。このため、図33のスイッチ63416から出力される信号E2sは、回生時電流指令値積分成分初期値Icap2iを出力する。この回生時電流指令値積分成分初期値Icap2iが出力される信号E2sは、加算器63415において、比例ゲイン乗算器63411から出力される信号E2pと加算され、リミッタ63418を経て、電流指令値Icap2*として出力される。また、回生時電流指令値積分成分初期値Icap2iが出力される信号E2sは、図33の遅延回路63413を経て加算器63414に入力され、積分ゲイン乗算器63412から出力される信号E2iと加算される。
【0097】
回生時電流指令値積分成分初期値Icap2iを各リミッタ63417、63418に対して予め規定された閾値Icap_maxに近い値に設定することにより、時刻T5で、直ちに回生時電流指令値積分成分初期値Icap2iに変化した電流指令値Icap2*に拠り、実際に蓄電デバイス61に充電される電力量は、図34(f)で示すように、時刻T5で急速に大きくなり、充分な回生電力の量を確保することができる。この動作により、回生時電力補償閾値LPLを越えた回生電力量は、図34(g)に示すように、著しく抑制することが可能になる。
【0098】
こうして、蓄電デバイス61へ充分な回生電力量が確保されると、コンバータ2の出力側の電力Pcnvは、回生時電力補償閾値LPLより大きな値(絶対値の比較では小さい値)となるため、図34(d)に示すように判別信号sは「1」の状態から「0」の状態に復帰し、図33に記載のスイッチ63416は入力E2rを選択して出力する。すると、図34(e)に示す電流指令値Icap2*により、電力Pcnvは、回生時電力補償閾値LPLより小さな値(絶対値の比較では大きな値)となるため、再び判別信号sは「0」の状態から「1」の状態になる。
【0099】
このように、負荷Ploadが回生時電力補償閾値LPLを越える期間中(図34(a)の時刻T5〜時刻T6の間)は、図33に示すスイッチ63416は「1」の状態と「0」の状態を繰り返しながら、電力Pcnvのピーク電力を抑制し続け、負荷Ploadが回生時電力補償閾値LPLを越えなくなると、判別信号sは「0」の状態を継続して、回生動作を終了する。
【0100】
交流モータ駆動装置をこの実施の形態6のように構成することにより、力行時のピーク電力量や回生時のピーク電力量を抑制することが可能になると共に、回生動作開始時における急峻な回生電力量の変化に対しても、コンバータ2への回生電力量を回生時電力補償閾値LPL以下に抑制することが可能になり、回生時電力補償閾値LPLを越えた大きな回生電力量が、コンバータ2へ回生されて、系統電源1に戻されたり、コンバータ2内で熱エネルギーに変換されて開放されるなど、回生電力が蓄電デバイス61へ充電されず無駄が生じるのを無くすことができる。
【0101】
実施の形態7.
コンバータ2の出力側には、蓄電デバイス61よりも静電容量が小さいながらも、直流母線電圧値Vdcを安定させるための平滑コンデンサが存在する(図示せず)。交流モータ駆動装置が力行動作も回生動作も行わない時、即ち、無負荷の状態での直流母線電圧値をここでは特にVdc0と表わすこととする。蓄電デバイス61の充放電処理があったとしても、制御の遅れや蓄電デバイス61の応答性の影響により、交流モータ駆動装置が力行動作の場合の直流母線電圧値VdcはVdc0より低い値に保持され、交流モータ駆動装置が回生動作の場合の直流母線電圧値VdcはVdc0よりも高い値に保持される。
【0102】
コンバータ2には、自己の回路保護上の観点から、予め所定の閾値VΔが設定されており、交流モータ駆動装置の回生動作中に、直流母線電圧値VdcがVdc0+VΔに達した場合、コンバータ2は回生電力を系統電源1に戻したり、コンバータ2に内蔵された抵抗で熱エネルギーに変換して開放する。したがって、回生時に直流母線電圧値VdcがVdc0+VΔに押し上げる時刻迄に蓄電デバイス61の充電動作が開始されなければ、回生電力が無駄にコンバータ2に回生されてしまう。しかし、前述のように、コンバータ2の平滑コンデンサの静電容量は小さいために、直流母線電圧値Vdcは比較的短時間の内にVdc0+VΔに達する可能性がある。
【0103】
そこで、この実施の形態7では、交流モータ駆動装置の回生動作の直前(すなわち、E1≦0またはE2≧0の場合)に、補充電制御部635の出力である電流指令値Icap3*により、蓄電デバイス61を充電状態にすることにより、直流母線電圧値Vdcを強制的にVdc0より低い値に保持し、交流モータ駆動装置の回生動作開始時の直流母線電圧値VdcがVdc0+VΔに達するまでの時間を長くすることによって、回生動作開始時のピーク電力の抑制を確実に実現するようにしたものである。以下、この実施の形態7の具体例について説明する。
【0104】
補充電制御部635で算出される負荷Pload(=Pcnv−Pcap)が、図35(a)に実線で示す場合を例として説明する。なお、図35(a)は図12(a)と同一である。今、図35(a)において、波形の始まる時刻をT0とし、力行動作開始時刻をT1、負荷Ploadが力行時補充電制御部動作閾値LSUを越える時刻をT2、負荷Ploadが力行時電力補償閾値LPUを越える時刻をT3、力行動作終了時刻をT4とする。また、回生動作開始時刻をT5とする。補充電制御部635が動作する期間は、図35において、時刻T0〜時刻T2の間と時刻T4〜時刻T5の間である。
【0105】
次に、補充電制御部635内のIcap3*生成部6351において、電圧差E3に対するゲインが大きい場合とゲインが小さい場合について、それぞれ区別して動作を説明する。
【0106】
まず、ゲインが大きい場合について、図35(b)、(c)、(d)を用いて説明する。
【0107】
力行動作時において、蓄電デバイス61が放電するのは時刻T4〜時刻T5の期間であるため、時刻T0〜時刻T3までの期間では蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapは変化しない。よって、蓄電デバイス61の電圧安定化のために充放電制御をするための電流指令値Icap3*は、時刻T0〜時刻T3の期間は、「0」を出力したままである。また、実施の形態1で説明したように、Icap3*生成部6351は、負荷Ploadが力行時補充電制御部動作閾値LSUと回生時補充電制御部動作閾値LSLとの間にあるときだけ電流指令値Icap3*を出力するので、時刻T2〜時刻T4の期間では「0」の出力のままである。よって、電流指令値Icap3*は、時刻T0〜時刻T4の期間は、「0」の出力のままである。一方、時刻T1〜時刻T3の期間は、蓄電デバイス61からの放電がなく、コンバータ2による系統電源1からの供給電力量が遅れる。このため、図35(d)に示すように、直流母線電圧値Vdcは下降を続ける。そして、時刻T3〜時刻T4の期間では、力行時電力補償部633から電流指令値Icap1*が出力されることから、図35(c)に示すように、蓄電デバイス61は放電により、その両端電圧値Vcapを降下させながら、図35(d)に示すように、直流母線電圧値Vdcを一定に保持しようとする。時刻T4で力行動作が終了すると、Icap3*生成部6351が動作し始め、図35(b)に示すように、正の値の電流指令値Icap3*を出力するため、系統電源1からの電力で蓄電デバイス61の充電を開始する。このとき、Icap3*生成部6351のゲインは大きいので、電流指令値Icap3*は大きな値(Icap3*a)を出力し、急速に蓄電デバイス61を充電する。蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapは充電処理により、図35(c)に示すように上昇し、両端電圧値Vcapは時刻TAで希望電圧値VcapTHまで回復する。時刻T4〜時刻TAの期間、直流母線電圧値Vdcは、力行動作時ほどではないが、Vcap0より低い値で推移する。蓄電デバイス61の両端電圧Vcapが希望電圧値VcapTHまで回復すると、Icap3*生成部6351は動作を止めて、電流指令値Icap3*は再び「0」になり、直流母線電圧値VdcもVdc0に復帰して、回生動作開始時刻T5の到来を待つ。回生動作開始時刻T5になると、制御の遅れや蓄電デバイス61の応答性の影響により、直流母線電圧値VdcはVdc0から直ちに上昇してVdc0+VΔに達する。回生動作開始時刻T5における動作の詳細については、後述する。
【0108】
次に、補充電制御部635内のIcap3*生成部6351において、電圧差E3に対するゲインが小さい場合について、図35(e)、(f)、(g)を用いて説明する。
【0109】
時刻T0〜時刻T4の期間中は、前述のIcap3*生成部6351のゲインが大きい場合の説明と同じ理由で、電流指令値Icap3*は「0」のままである。また、同様に時刻T0〜時刻T4の期間中は、図35(f)、(g)に示すように、蓄電デバイス61の両端電圧Vcapも直流母線電圧値Vdcも、前述のIcap3*生成部6351のゲインが大きい場合と同じ波形となる。
しかし、時刻T4で力行動作が終了してIcap3*生成部6351が動作し始めると、補充電制御部635は正の値の電流指令値Icap3*を出力して、蓄電デバイス61の充電を開始するが、このとき、Icap3*生成部6351のゲインが小さいので、図35(e)に示すように、電流指令値Icap3*は小さな値(Icap3*b)しか出力せず、図35(f)に示すように、蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapは少しづつにしか上昇せず、回生動作開始時刻T5までに希望電圧値VcapTHには回復しない。時刻T4〜時刻T5の期間中、常に蓄電デバイス61への充電状態が継続するため、直流母線電圧値VdcはVdc0より低い値を持続して、回生動作開始時刻T5を迎える。回生動作開始時刻T5になると、制御の遅れや蓄電デバイス61の応答性の影響により、直流母線電圧値Vdcは直ちに上昇するが、上昇開始電圧値がVdc0より低い電圧値であることから、直流母線電圧値VdcがVdc0+VΔに達するまで、少し時間がかかる。
【0110】
次に、回生動作開始時刻T5において直流母線電圧値VdcがVdc0に復帰しない場合(図35(g)の場合)、即ち、Icap3*生成部6351のゲインが小さい場合の方が、回生動作開始時刻T5において直流母線電圧値VdcがVdc0に復帰する場合(図35(d)の場合)、即ち、Icap3*生成部6351のゲインが大きい場合よりも、回生電力のピーク電力を抑制できることを図36を用いて説明する。
【0111】
図36は、図35の回生動作開始時刻T5付近の波形を時間軸方向に拡大した図である。
図36(a)に示すように、負荷Ploadの回生時のピーク値(図35(a)参照)をPload_min(<0)とする。また、蓄電デバイス61の充電制御用の電流指令値Icap2*は、図36(b)に示すように、制御の遅延により時刻T52から上昇を始め、時刻T54で定常値になったとする。図36(c)と(d)とは、それぞれ回生動作開始時刻T5において直流母線電圧値VdcがVdc0に復帰している場合の直流母線電圧Vdcとコンバータ2の出力側の電力Pcnvの振る舞いをそれぞれ表わし、図36(e)と(f)とは、それぞれ回生動作開始時刻T5において直流母線電圧値VdcがVdc0に復帰していない場合の直流母線電圧Vdcとコンバータ2の出力側の電力Pcnvの振る舞いをそれぞれ表わす。
【0112】
回生動作開始時刻T5において直流母線電圧値VdcがVdc0に復帰している場合、回生電力は平滑コンデンサに流入し、直流母線電圧値VdcがVdc0から上昇するため、直流母線電圧値VdcがVdc0+VΔに達する時刻T51は、図36(c)に示すように、未だ蓄電デバイス61の充電制御用の電流指令値Icap2*が出力されない期間(時刻T5〜時刻T52の間)に到来する。直流母線電圧値VdcがVdc0+VΔになった後、コンバータ2は電力を回生し始めるため、図36(d)に示すように時刻T51から電力Pcnvは回生を開始される。しかし、時刻T51〜時刻T52の期間は、電流指令値Icap2*が未だ蓄電デバイス61に充電を指示していないため、図36(d)に示すように、交流モータ5からの回生電力が全てコンバータ2に供給されることになり、コンバータ2の出力側の電力Pcnvはピーク値Pload_minまで達する。時刻T52以降は、電流指令値Icap2*の充電指示にしたがって蓄電デバイス61の充電が開始されるため、コンバータ2に供給される電力量が減少し、電力Pcnvは時刻T54で回生時電力補償閾値LPLに落ち着く。
【0113】
これに対して、回生動作開始時刻T5において直流母線電圧値VdcがVdc0に復帰しない場合、回生電力は平滑コンデンサに流入して直流母線電圧値Vdcを上昇させるも、直流母線電圧値VdcがVdc0より低い電圧値から上昇するため、直流母線電圧値VdcがVdc0+VΔに達する時刻T53は、図36(e)に示すように、時刻T52と時刻T54との間、すなわち蓄電デバイス61の充電制御用の電流指令値Icap2*の出力が既に開始された後になる。コンバータ2は、直流母線電圧値VdcがVdc0+VΔになった後に電力を回生し始めるため、図36(f)に示すように、時刻T53から電力Pcnvは回生を開始する。しかし、時刻T53では電流指令値Icap2*は既に蓄電デバイス61に充電を指示しているため、電力PcnvはPload_minに達することなく、電流指令値Icap2*の充電指示にしたがって、時刻T54で回生時電力補償閾値LPLに落ち着く。
【0114】
したがって、図36(e)と(f)とに示したような動作が実行されるように、Icap3*生成部6351のゲインを適切な値に設定することにより、回生動作開始時のピーク電力の抑制を確実に実現させることができる。
このように、交流モータ駆動装置をこの実施の形態7のように構成することにより、力行時のピーク電力量や回生時のピーク電力量を抑制することが可能になると共に、回生動作開始時のピーク電力の抑制を確実に実現させることが可能になる。
【0115】
実施の形態8.
上記の実施の形態1〜7において説明した力行時電力補償閾値LPU、回生時電力補償閾値LPL、希望電圧値VcapTH、力行時補充電制御部動作閾値LSU、回生時補充電制御部動作閾値LSL、デッドタイムTd、さらにはIΔ、IE、VΔ、TΔ、電流指令値の最大値に相当するIcap_max、回生時電流指令値積分成分初期値Icap2i、またIcap1*生成部6331、Icap2*生成部6341、Icap3*生成部6351、Vcap*生成部6371の各ゲインに関する値などは、交流モータ5の負荷電力量や蓄電デバイス61の静電容量や内部抵抗およびリアクトル623のインダクタンスや飽和電流量などによって定めるべき値であり、これらの値は交流モータ駆動装置の使用環境に応じて適切な値に設定すべきものであるので、予め一義的に決めるのではなく、それらの値の一部あるいは全部は、ボタンやスイッチあるいはシリアル通信を介して、交流モータ駆動装置の使用者がその都度設定するようにすることが好ましい。
【0116】
実施の形態9.
上記の各実施の形態1〜8における充放電制御回路63は、全てハードウエアで実現する場合について説明した。充放電制御回路63は、入力として直流母線電圧値Vdc、コンバータ2の出力側の直流母線電流値Idc、蓄電デバイス61の両端電圧値Vcap、および蓄電デバイス61の充放電電流値Icapに対して、スイッチング素子621(621a〜621c)、622(622a〜622c)を「通」状態と「断」状態との2つの状態に制御する制御信号SWP(SWPa〜SWPc)、SWN(SWNa〜SWNc)を出力する機能であるので、充放電制御回路63の一部または全部をソフトウエアで実現することもできる。ここでは、実施の形態1に適用した場合について説明する。なお、実施の形態1と同一または同等の機能を有するブロックについては同一の番号を付与することとする。
【0117】
充放電制御回路63の全部をソフトウエアで構成する場合の交流モータ駆動装置のブロック図を図37に、蓄電回路6のブロック図を図38に示す。
【0118】
図37において、アナログ/ディジタル変換器(A/D変換器)7は、直流母線電圧値Vdcをディジタル値に変換して蓄電回路6に出力し、A/D変換器8はコンバータ2の出力側の直流母線電流値Idcをディジタル値に変換して蓄電回路6に出力する。図37の他の部分は、実施の形態1(図1)と同じである。
【0119】
また、図38において、A/D変換器64は、蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapをディジタル値に変換して充放電制御回路63に出力し、A/D変換器65は蓄電デバイス61の充放電電流値Icapをディジタル値に変換して充放電制御回路63に出力する。また、各制御信号SWP、SWNは、各ドライバ66、67において、チョッパ回路62内のスイッチング素子621、622を駆動できる電圧振幅と電流量に変換してチョッパ回路62に出力する。図38の他の部分は、実施の形態(図2)と同じである。
【0120】
次に、充放電制御回路63の全部をソフトウエアで構成した場合の手順について、図39を用いて説明する。
【0121】
先ず、ステップS10で、負荷電力量や蓄電デバイス61の静電容量や内部抵抗あるいは、チョッパ回路62内のリアクトル623のインダクタンスや飽和電流量などによって定まる、実施の形態8で説明した閾値や電流指令値生成用のゲイン、電圧指令値生成用のゲインに関する値を入力して、レジスタ等の記憶素子に格納する。
次に、ステップS11において、図37に示すディジタル化された直流母線電圧値Vdcとディジタル化されたコンバータ2の出力側の直流母線電流値Idcとを入力し、ステップS12においてコンバータ2の出力側の電力Pcnv(=Vdc×Idc)を算出する。
ステップS13において、その電力Pcnvを力行時電力補償閾値LPUや回生時電力補償閾値LPLと比較する。電力Pcnvが力行時電力補償閾値LPUより大きい場合には、後述するステップS14の処理に移行する。これに対して、ステップS13で電力Pcnvが回生時電力補償閾値LPLより小さい場合には、後述するステップS15の処理に移行する。また、ステップS13において、電力量Pcnvが回生時電力補償閾値LPL以上で力行時電力補償閾値LPU以下の場合には、後述するステップS16の処理に移行する。
ステップS14では、前述の実施の形態1〜7に記載の力行時電力補償部633と同様の処理を実行し、蓄電デバイス61の放電制御用の電流指令値Icap1*を算出して、後述するステップS20に移行する。ステップS15では、前述の実施の形態1〜7に記載の回生時電力補償部634と同様の処理を実行し、充電制御用の電流指令値Icap2*を算出して、後述するステップS20に移行する。
ステップS16では、図38に示すディジタル化された蓄電デバイス61の両端電圧値Vcapと入出力電流Icapとを入力し、ステップS17において、入出力電力Pcap(=Vcap×Icap)を算出し、この入出力電力PcapとステップS11で算出した電力Pcnvとから負荷Pload(=Pcnv−Pcap)を算出して、ステップS18に移行する。
ステップS18では、負荷量Ploadが回生時補充電制御部動作閾値LSLより大きく力行時補充電制御部動作閾値LSUより小さい場合には、後述するステップS19に移行し、その他の場合には前述のステップS11に戻る。
ステップS19では、前述の実施の形態1〜7に記載の補充電制御部635と同様の処理を実行して蓄電デバイス61の電流指令値Icap3*を算出して、後述するステップS20に移行する。
ステップS20では、ステップS14で算出した電流指令値Icap1*と、ステップS15で算出した電流指令値Icap2*と、ステップS19で算出した電流指令値Icap3*とから、前述の実施の形態1〜7に記載の加算部636と同様の処理を実行して統合電流指令値Icap*を生成する。また、ステップS20では、必要に応じて、前述の実施の形態2または実施の形態5に記載の無効化信号Disableや許可信号EnableP、EnableNをも生成して、ステップS21に移行する。
ステップS21では、前述の実施の形態1〜7に記載の電圧指令値生成部637と同様の処理を実行して電圧指令値Vcap*を算出して、後述するステップS22に移行する。
ステップS22では、前述の実施の形態1〜6に記載の制御信号生成部638と同様の処理を実行して各制御信号SWP、SWNとを生成して、図38に示すドライバ66、67にそれぞれ出力し、次のステップS23に移行する。
ステップS23では、交流モータ駆動装置の一連の動作が終了したか否かを判断し、終了していなければ前述のステップS11に戻り、終了していれば、そのまま交流モータ駆動回路の動作を終了する。
【符号の説明】
【0122】
1 系統電源、2 コンバータ、3 直流母線、4 インバータ、5 交流モータ、
6 蓄電回路、61 蓄電デバイス、62 チョッパ回路、63 充放電制御回路、
633 力行時電力補償部、634 回生時電力補償部、635 補充電制御部、
637 電圧指令値生成部、638 制御信号生成部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流系統電力を直流電力に変換するコンバータと、上記コンバータで得られる直流電力を交流モータに適した電圧や周波数の交流電力に変換して上記交流モータに供給するインバータと、上記インバータに並列接続されて上記交流モータの力行動作時には内部に備えた蓄電デバイスの放電動作により力行電力の一部を補助し、かつ、上記交流モータの回生動作時には上記蓄電デバイスの充電動作により回生電力の一部を蓄電する蓄電回路と、を備えた交流モータ駆動装置において、
上記蓄電回路は、
予め設定した第1の閾値よりも大きい力行電力が上記交流モータで使用される場合には、上記コンバータの出力側の直流電力の電圧値と電流値とに基づき上記蓄電デバイスを放電させる電流指令値を生成する力行時電力補償部と、
予め設定した第2の閾値より絶対値が大きい回生電力が上記交流モータから回生される場合には、コンバータの出力側の直流電力の電圧値と電流値とに基づき上記蓄電デバイスを充電させる電流指令値を生成する回生時電力補償部と、
予め設定した第3の閾値と第4の閾値との範囲内で上記コンバータの出力側の直流電力の電圧値と電流値と上記蓄電デバイスの両端電圧値と入出力電流値とに基づき上記蓄電デバイスの両端電圧値を予め定められた電圧値にするために上記蓄電デバイスを充放電させる電流指令値を生成する補充電制御部と、
を含む交流モータ駆動装置。
【請求項2】
上記回生時電力補償部は、回生動作開始時には上記電流指令値として予め設定された「0」でない初期値を使用する請求項1に記載の交流モータ駆動装置。
【請求項3】
上記補充電制御部は、回生動作開始直前に上記蓄電デバイスを充電動作状態になるように制御するものである請求項1または請求項2に記載の交流モータ駆動装置。
【請求項4】
上記蓄電回路を構成する上記力行時電力補償手段、上記回生時電力補償手段、および上記補充電制御手段の一部もしくは全部がソフトウエアで構成されている請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の交流モータ駆動装置。
【請求項1】
交流系統電力を直流電力に変換するコンバータと、上記コンバータで得られる直流電力を交流モータに適した電圧や周波数の交流電力に変換して上記交流モータに供給するインバータと、上記インバータに並列接続されて上記交流モータの力行動作時には内部に備えた蓄電デバイスの放電動作により力行電力の一部を補助し、かつ、上記交流モータの回生動作時には上記蓄電デバイスの充電動作により回生電力の一部を蓄電する蓄電回路と、を備えた交流モータ駆動装置において、
上記蓄電回路は、
予め設定した第1の閾値よりも大きい力行電力が上記交流モータで使用される場合には、上記コンバータの出力側の直流電力の電圧値と電流値とに基づき上記蓄電デバイスを放電させる電流指令値を生成する力行時電力補償部と、
予め設定した第2の閾値より絶対値が大きい回生電力が上記交流モータから回生される場合には、コンバータの出力側の直流電力の電圧値と電流値とに基づき上記蓄電デバイスを充電させる電流指令値を生成する回生時電力補償部と、
予め設定した第3の閾値と第4の閾値との範囲内で上記コンバータの出力側の直流電力の電圧値と電流値と上記蓄電デバイスの両端電圧値と入出力電流値とに基づき上記蓄電デバイスの両端電圧値を予め定められた電圧値にするために上記蓄電デバイスを充放電させる電流指令値を生成する補充電制御部と、
を含む交流モータ駆動装置。
【請求項2】
上記回生時電力補償部は、回生動作開始時には上記電流指令値として予め設定された「0」でない初期値を使用する請求項1に記載の交流モータ駆動装置。
【請求項3】
上記補充電制御部は、回生動作開始直前に上記蓄電デバイスを充電動作状態になるように制御するものである請求項1または請求項2に記載の交流モータ駆動装置。
【請求項4】
上記蓄電回路を構成する上記力行時電力補償手段、上記回生時電力補償手段、および上記補充電制御手段の一部もしくは全部がソフトウエアで構成されている請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の交流モータ駆動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【公開番号】特開2012−239252(P2012−239252A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105056(P2011−105056)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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