説明

交流電動機駆動回路及び電気車駆動回路

【課題】直流コンデンサや直流チョッパ回路内のリアクトルを不要とし、回路の小型化を図る。
【解決手段】交流発電機1の出力に電流形整流回路2を設け、整流回路2の出力に電圧形インバータ3を介して交流電動機4を接続するとともに、電圧形インバータ3の各出力端子に双方向スイッチ6の一方の端子をそれぞれ接続し、この各双方向スイッチ6のもう一方の端子を一括して蓄電池5の一方の端子に接続し、かつ直流電源5のもう一方の端子を電圧形インバータ3の直流入力端子の一方に接続することで、従来必要であった直流リンクの大きなコンデンサや、チョッパ回路のリアクトルを不要とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、交流発電機と、蓄電池やコンデンサを含む直流電源とを用いて交流電動機を駆動する交流電動機駆動回路、及びその駆動回路を用いた電気車駆動回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の回路として、図11のような回路が知られている(例えば特許文献1)。
図11は、第1の従来例を示す回路図で、交流発電機M2の三相出力をスイッチング素子とダイオードを逆並列接続した各アームをブリッジ接続した電圧形整流回路31によって直流に変換し、この直流をコンデンサ13によって平滑化している。また、平滑化された直流(接続点N1,N2)とバッテリB間に直流チョッパ回路12を設け、この間の電力の授受を行っている。さらに、上記直流からスイッチング素子(Q3~Q8)とダイオード(D3~D8)を逆並列接続した各アームを、ブリッジ接続した電圧形インバータ14によって交流電動機M1を駆動している。
【0003】
一方、交流発電機の出力をマトリックスコンバータにより直接交流に変換し、交流電動機へ給電する例として、図12のような回路も知られている(例えば特許文献2)。
図12は、第2の従来例を示す回路図で、マトリックスコンバータ38を用いて、電動発電機MG1,MG2間の電力変換を実現している。さらに、バッテリ12と電力のやりとりをするために、電圧形インバータ36と直流チョッパ回路32を設けている。
【0004】
ところで、図11では、直流を平滑化するためのコンデンサ13に大容量のものが必要になり、回路の小型化が難しい。また、直流チョッパ回路12内にリアクトルL1が必要であり、この点からも回路の大型化を招くという問題がある。
一方、図12でも、バッテリ12と電動発電機MG2との間に大きな直流コンデンサC2が必要で、小型化が困難である。また、直流チョッパ回路32内にリアクトルL1が必要であり、この点からも回路の大型化を招くという問題がある。
【0005】
また、電流形整流回路と電圧形インバータとの組み合わせは、例えば非特許文献1に開示されているように、インダイレクトマトリックスコンバータ(Indirect Matrix Converter)と呼ばれるものにおいて採用され、整流回路に電流形のものを使用することにより、図11に示すコンデンサ13のように大型の部品を省略できることが記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開平2004−112883号公報
【特許文献2】特開平2005−318731号公報
【非特許文献1】電気学会論文誌D,126巻9号,pp.1161~1170「直接形交流電力変換回路の技術動向」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、この発明の課題は、直流コンデンサや直流チョッパ回路内のリアクトルを不要とし、回路の小型化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するため、請求項1の発明では、交流発電機と、電力の供給と吸収が可能な直流電源とを備え、交流電動機を駆動する交流電動機駆動回路において、
前記交流発電機の出力に電流形整流回路を設け、この整流回路の出力に電圧形インバータを介して交流電動機を接続するとともに、前記電圧形インバータの各出力端子に双方向スイッチの一方の端子をそれぞれ接続し、この各双方向スイッチの他方の端子を一括して直流電源の一方の端子に接続し、かつ直流電源の他方の端子を前記電圧形インバータの直流入力端子の一方に接続したことを特徴とする。
【0009】
上記請求項1の発明においては、前記双方向スイッチの代わりにスイッチング素子と、これに逆並列に接続されたダイオードとを用いることができる(請求項2の発明)。これら請求項1または2の発明においては、前記電流形整流回路は双方向スイッチをブリッジ接続して構成し、交流入力側にはフィルタ回路を設けることができ(請求項3の発明)、または、前記電流形整流回路は逆阻止能力を持つ片方向スイッチをブリッジ接続して構成し、交流入力側にはフィルタ回路を設けることができる(請求項4の発明)。
前記交流発電機を内燃機関により駆動する、前記請求項1ないし4のいずれか1つの交流電動機駆動回路を用いて、電気車駆動回路とすることができる(請求項5の発明)。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、整流回路に電流形整流回路、インバータに電圧形インバータを用いた直接形変換回路を用いるようにしたので、直流リンクに大きなコンデンサを設けることなく、交流発電機と交流電動機間の電力変換を行うことができる。また、電圧形インバータの各出力端子に双方向スイッチの一方の端子を接続し、そのスイッチのもう一方の端子を直流電源の一方の端子に接続し、直流電源のもう一方の端子を電圧形インバータの一方の直流入力端子に接続する。これにより、双方向スイッチと電圧形インバータの上または下アームによって、直流電源を入力とし交流電動機を出力とする電圧形インバータを構成することができる。
【0011】
上記構成の整流回路を停止し、双方向スイッチによって電圧形インバータを構成しない上あるいは下アームのスイッチング素子を全てオフとした状態で、双方向スイッチを含む電圧形インバータを動作させることにより、直流電源と交流電動機との間で双方向の電力変換が可能になる。このように、交流発電機の出力電力からの電力供給と、直流電源からの電力供給を行うことができる変換回路が構成されているので、これらを時分割で切換えることにより、両方の電力を用いて交流電動機を駆動できる。また、整流回路を停止し双方向スイッチによって電圧形インバータを構成しない上あるいは下アームのスイッチング素子を全てオフするか、または双方向スイッチを全てオフ状態のままで動作させることにより、一方の出力電力のみで交流電動機を駆動することができる。
【0012】
さらに、交流電動機をブレーキ動作させる場合も同様に、交流電動機で発生する電力を交流発電機や直流電源の少なくとも一方に回生することができる。なお、この構成では直流リンクの大きなコンデンサばかりでなく、従来例のチョッパ回路に必要な大きなリアクトル(図11のリアクトルLI図12のリアクトルL)も不要で、駆動回路の低コスト化や小型軽量化を図ることが可能となる。
【0013】
上記構成において、直流電源の電圧が電流形整流回路の出力電圧よりも常に高い場合には、電流形整流回路から電力供給している期間を含む全期間において、双方向スイッチにかかる電圧は常に同じ極性のままであり、双方向スイッチをスイッチング素子と、これに逆並列に接続したダイオードに代えても、双方向スイッチを用いた場合と同様の動作が可能で、双方向スイッチを簡素化できる。
【0014】
電流形整流回路として、交流入力側にフィルタ回路を設け、その出力に双方向スイッチング素子をブリッジ接続した回路を用いることで、交流発電機へ電力を回生する場合がある用途では、簡単な回路構成で実現できる。このとき、電流が流れる経路の通過素子数が整流回路内で2個と少ないため、変換効率も良い。また、交流入力側にフィルタ回路を設け、その出力に逆阻止能力を持つ片方向スイッチング素子をブリッジ接続した回路を用いることで、交流発電機へ電力を回生しない用途では、回路構成をより簡素にできる。
【0015】
ハイブリッド自動車などの電気車駆動回路では、限られたスペースに回路を搭載する必要があるが、この発明の回路を用いることで大きなコンデンサやリアクトルが不要となるため、より大きな出力を出す回路が搭載可能となり、電気車の加減速性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1はこの発明の実施の形態を示す構成図である。
図示のように、この例では三相交流発電機1の出力に、電流形整流回路2を接続し、その出力に第1の電圧形インバータ3を設け、その出力で交流電動機4を可変速駆動している。また、第1の電圧形インバータ3の各出力端子に双方向スイッチ6の一方の端子を接続し、他方を蓄電池5の正端子に接続し、その負端子を第1の電圧形インバータ3の直流入力の負端子に接続している。なお、蓄電池5の代わりに、コンデンサあるいは双方向に電力変換が可能な直流チョッパ回路などのDC-DCコンバータを介して蓄電池やコンデンサを接続した直流電源を用いても良い。
【0017】
図1のような構成により、交流発電機1の交流出力と交流電動機4の交流入力との間の電力変換は、電流形整流回路2で一旦直流に変換した後、第1の電圧形インバータ3で交流に変換することにより実現している。また、図1において、一点鎖線で囲んだ部分は、3つの双方向スイッチ6と第1の電圧形インバータ3の3つの下側アーム(1つのアームは、スイッチング素子3aと逆並列接続されたダイオード3bとで構成されている)とによって構成した第2の電圧形インバータ31である。この第2の電圧形インバータ31は、蓄電池5を直流入力とし、その出力で交流電動機4を可変速駆動している
【0018】
したがって、交流電動機4には、交流発電機1から整流回路2を介して直流へ変換した電力を第1の電圧形インバータ3で再度変換した電力(第1の電力)と、蓄電池5から供給される電力を第2の電圧形インバータ31で変換した電力(第2の電力)を供給することができる。このとき、第1の電圧形インバータ3と第2の電圧形インバータ31とを時分割で切換えながら動作させれば、第1,第2の電力を交流電動機4に供給することができる。
また、整流回路2を停止し、電圧形インバータの上アームのスイッチング素子を3つともオフさせて、直流電源5から供給される電力を第2の電圧形インバータ31で変換した電力(第2の電力)のみで交流電動機4を可変速駆動することもできる。同様に、双方向スイッチ6を全てオフ状態のままで動作させることにより、交流発電機1から整流回路2を介して直流へ変換した電力を第1の電圧形インバータ3で再度変換した電力(第1の電力)のみで交流電動機4を駆動することも可能である。
【0019】
さらに、交流電動機4のブレーキ時も同様に、交流電動機4からの電力を、第1の電圧形インバータを整流器動作させ、さらに整流回路2をインバータ動作させて交流発電機1のみへ回生することができる。ほかにも第2の電圧形インバータを整流器動作させて蓄電池5のみへ回生するモード、もしくは交流発電機1と蓄電池5の両方へ回生するモード、の3つのモードで回生することができる。
なお、双方向スイッチ6は、例えば素子自体で逆阻止能力を持つスイッチング素子6aを用い、図2のように構成することができる。また、素子自体に逆阻止能力を持たないスイッチング素子6bを用いる場合は、ダイオード6cも用いて図3のように構成することができる。
【0020】
図4に、図1の第1の変形例を示す。
図示のように、双方向スイッチ6を蓄電池5の負端子に接続し、蓄電池5の正端子を第1の電圧形インバータ3の直流入力の正端子に接続した点が、図1と相違している。図4において、一点鎖線で囲んだ部分は、3つの双方向スイッチ6と第1の電圧形インバータ3の3つの上アームによって構成した第3の電圧形インバータ32である。この第3の電圧形インバータ32は、蓄電池5を直流入力とし、その出力で交流電動機4を可変速駆動している。これにより、図1と同様な回路動作が可能になる。
【0021】
図5に、図1の第2変形例を示す。
この回路は、図1の双方向スイッチ6をスイッチング素子6eと、これに逆並列接続されたダイオード6fに置き換えた外は、図1と全く同様である。蓄電池5の電圧が常に電流形整流回路2の出力電圧より大きい場合には、このスイッチ(6e+6f)に印加される電圧Vsw(極性は図5に示す矢印参照)は常に正である。このような場合は図1と同様な回路動作が可能となり、双方向スイッチ6を簡素化することができる。
【0022】
図6に、図4の変形例を示す。これは、図4の双方向スイッチ6をスイッチング素子6eと、これに逆並列接続されたダイオード6fに置き換えた外は、図4と全く同様である。蓄電池5の電圧が常に電流形整流回路2の出力電圧より大きい場合には、このスイッチ(6e+6f)に印加される電圧Vsw(極性は図6に示す矢印参照)は常に正である。このような場合は図4と同様な回路動作が可能となり、双方向スイッチ6を簡素化することができる。
【0023】
図7に、図1の第3変形例を示す。これは、図1の電流形整流回路2の交流入力にフィルタ回路2aを設けるとともに、双方向スイッチ2bをブリッジ接続した点が特徴である。なお、フィルタ回路2aとしては、例えば交流発電機1の内部インダクタンスを利用して図8に示すようにコンデンサ2aaをスター結線してLCフィルタを実現すれば良い。また、双方向スイッチ2bとしては、例えば双方向スイッチ6と同様に図2や図3の回路を用いて実現することができる。
【0024】
図9に、図7の変形例を示す。これは、図7の双方向スイッチ2bを逆阻止能力を持つ片方向スイッチ2cに置き換えたものである。ここでは、スイッチ2cとして、素子自体で逆阻止能力を持つものとしたが、これを逆阻止能力を持たないスイッチング素子とダイオードを直列接続してもので構成するようにしても良い。
【0025】
図10に図1の応用例を示す。これは、図1に内燃機関7を追加し、これを交流発電機1に機械的に結合する。また、交流電動機4の出力軸にギア8を介して車輪9に機械的に接続することで、電気車駆動回路としたものである。なお、内燃機関7は、図4〜7,9の回路にも適用できるのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の実施の形態を示す回路図
【図2】図1で用いられる双方向スイッチの第1の具体例を示す回路図
【図3】図1で用いられる双方向スイッチの第2の具体例を示す回路図
【図4】図1の第1変形例を示す回路図
【図5】図1の第2変形例を示す回路図
【図6】図4の変形例を示す回路図
【図7】図1の第3変形例を示す回路図
【図8】フィルタ回路の具体例を示す回路図
【図9】図7の双方向スイッチの具体例を示す回路図
【図10】図1の応用例を示す構成図
【図11】第1の従来例を示す回路図
【図12】第2の従来例を示す回路図
【符号の説明】
【0027】
1…交流発電機、2…電流形整流回路、2a…フィルタ回路、2aa…コンデンサ、2b,6…双方向スイッチ、2c,3a,6a,6e…片方向スイッチ(逆阻止能力を持つスイッチング素子)、3b,6c,6f…ダイオード、3…電圧形インバータ、4…交流電動機、5…蓄電池、7…内燃機関、8…ギア、9…車輪。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流発電機と、電力の供給と吸収が可能な直流電源とを備え、交流電動機を駆動する交流電動機駆動回路において、
前記交流発電機の出力に電流形整流回路を設け、この整流回路の出力に電圧形インバータを介して交流電動機を接続するとともに、前記電圧形インバータの各出力端子に双方向スイッチの一方の端子をそれぞれ接続し、この各双方向スイッチの他方の端子を一括して直流電源の一方の端子に接続し、かつ直流電源の他方の端子を前記電圧形インバータの直流入力端子の一方に接続したことを特徴とする交流電動機駆動回路。
【請求項2】
前記双方向スイッチの代わりにスイッチング素子と、これに逆並列に接続されたダイオードとを用いることを特徴とする請求項1に記載の交流電動機駆動回路。
【請求項3】
前記電流形整流回路は双方向スイッチをブリッジ接続して構成し、交流入力側にはフィルタ回路を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の交流電動機駆動回路。
【請求項4】
前記電流形整流回路は逆阻止能力を持つ片方向スイッチをブリッジ接続して構成し、交流入力側にはフィルタ回路を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の交流電動機駆動回路。
【請求項5】
前記交流発電機を内燃機関により駆動する、前記請求項1ないし4のいずれか1つの交流電動機駆動回路を用いた電気車駆動回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−278732(P2009−278732A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−126042(P2008−126042)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(503361248)富士電機デバイステクノロジー株式会社 (1,023)
【Fターム(参考)】