説明

交流電圧判定装置及び方法

【課題】交流電圧の健全性を容易に判定することができ、ひいては負荷電流を流すことなく電圧の欠相や相順誤結線を容易に検出することである。
【解決手段】交流電圧を所定のサンプリング周期でサンプリングして交流電圧の時系列データを求めて時系列データ保存部12に保存し、電圧データ抽出部13は時系列データのうち位相差がπ/2ずれた2つの電圧データを取り出し、取り出した2つの電圧データのうち絶対値が大きい方を選択する。比較部14は選択した絶対値が大きい電圧データの絶対値と交流電圧の実効値とを比較し、判定部15は選択した電圧データの絶対値が交流電圧の実効値より小さいときは交流電圧は電圧不足であると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受電設備や電気機器等に供給される交流電圧の健全性を判定する交流電圧判定装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス機器のデリケート化に伴い、電力品質が技術的課題として重要性を増してきている。電力品質の基礎技術の一つに電圧測定がある。例えば、電気機器に供給される電圧に欠相が生じている場合や3相交流電圧の相順が正しくない場合には、電気機器が正常に動作しなくなるので、電圧を測定して電圧の健全性を確認するようにしている。
【0003】
一般に、電圧の欠相検出は主に実効値を求めて、その実効値に基づき欠相が発生しているか否かを判定している。一方、誤結線検出は、単相三線式の場合には2つの100V系の電圧値であるか否かで結線が正常であるか否かを判定し、三相系の場合には2つの相の実効値や位相を計算してこれらを基に結線が正常であるか否かを判定している。
【0004】
例えば、電圧測定時に電圧信号が未入力状態の欠相状態を調べるためには、電圧実効値Vを演算し、その値Vが閾値以下の場合を欠相とする。いま、電圧瞬時値v(t)が(1)式で示される正弦波である場合を考える。なお、(1)式においてωは角周波数、θは初期位相である。
【数1】

【0005】
(1)式で示される電圧瞬時値v(t)をMサンプリング/サイクルで等間隔に離散化した場合には、電圧実効値Vは(2)式で示される。
【数2】

【0006】
そして、(2)式で得られた電圧実効値Vと予め定めた閾値とを比較し、電圧実効値Vが予め定めた閾値以下の場合に欠相と判断するようにしている。
【0007】
欠相検知装置として、既存の電流検出手段および演算処理手段を利用して、欠相検知手段をソフトウェアで構築することで、低コストで容易に且つ確実に欠相の発生を検知することができるようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1のものでは、三相交流電源から電力供給を受ける三相負荷の三相のうちの二相の電流を電流検出器で検出し、電流検出器の検出信号から得られた電流波形から、電流実効値、電流最大値、および、他方相がゼロクロスするタイミングでのゼロクロス時電流値を検出し、これらの検出値を比較して欠相を検出する。
【特許文献1】特開2005−227073号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、電圧実効値に基づき欠相が発生しているか否かを判定するものでは、(2)式に示すように、自乗積和演算が必要となり演算時間を要する。また、特許文献1のものは、電流実効値、電流最大値、及び他方相がゼロクロスするタイミングでのゼロクロス時電流値に基づいて欠相を検出するようにしているので、三相負荷に負荷電流を流さなければ欠相を検出することができない。従って、欠相が生じている三相負荷に対して負荷電流を流した状態となるので、三相負荷に悪影響を与えることになる。
【0009】
本発明の目的は、交流電圧の健全性を容易に判定することができ、ひいては負荷電流を流すことなく電圧の欠相や相順誤結線を容易に検出できる交流電圧判定装置及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明に係わる交流電圧判定装置は、交流電圧を所定のサンプリング周期でサンプリングして交流電圧の時系列データを求める入力部と、前記入力部で得られた時系列データを更新保存する時系列データ保存部と、前記時系列データ保存部に保存された時系列データから位相差がπ/2ずれた2つの電圧データを取り出し絶対値が大きい方を選択して抽出する電圧データ抽出部と、前記電圧データ抽出部で抽出した電圧データの絶対値と前記交流電圧の実効値とを比較する比較部と、前記電圧データの絶対値が前記交流電圧の実効値より小さいときは前記交流電圧は電圧不足であると判定する判定部とを備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項2の発明に係わる交流電圧判定装置は、交流電圧を所定のサンプリング周期でサンプリングして交流電圧の時系列データを求める入力部と、前記入力部で得られた時系列データを更新保存する時系列データ保存部と、前記時系列データ保存部に保存された時系列データから位相差がπ/2ずれた2つの電圧データを取り出し絶対値が大きい方を選択して抽出する電圧データ抽出部と、前記電圧データ抽出部で抽出した電圧データの絶対値と前記交流電圧の振幅値とを比較する比較部と、前記電圧データの絶対値が前記交流電圧の振幅値より大きいときは前記交流電圧は電圧過大であると判定する判定部とを備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明に係わる交流電圧判定装置は、3相交流電圧を所定のサンプリング周期でサンプリングして3相の交流電圧の時系列データを求める入力部と、前記入力部で得られた時系列データを更新保存する時系列データ保存部と、前記時系列データ保存部に保存されたいずれか1相の時系列データからその1相の交流電圧の零点を求める零点検出部と、前記零点検出部で検出された1相の交流電圧の零点における時間微分値の正負の極性を求める零点極性判定部と、前記零点検出部で求められた1相の交流電圧の零点における他の2相の電圧値の正負の極性を求める他相極性判定部と、前記零点極性判定部で判定された前記零点における時間微分値の正負の極性及び前記他相極性判定部で判定された前記零点における他の2相の電圧値の正負の極性に基づいてその1相の交流電圧と他の2相の交流電圧との位相関係を判定する位相判定部とを備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項4の発明に係わる交流電圧判定装置は、請求項3の発明において、前記入力部は、3相交流電圧の1サイクルでサンプリング数が2(m:正の整数)となるサンプリング周期で3相交流電圧をサンプリングし、前記零点検出部は、逐次二分法を用いて1相の交流電圧の零点を特定することを特徴とする。
【0014】
請求項5の発明に係わる交流電圧判定装置は、請求項3の発明において、前記零点極性判定部は、逐次二分法の出発電圧値の正負の極性と1相の交流電圧の零点の時間微分値の正負の極性とが逆である性質を利用して、出発電圧値の正負の極性により前記時間微分値の正負を判定することを特徴とする。
【0015】
請求項6の発明に係わる交流電圧判定方法は、交流電圧を所定のサンプリング周期でサンプリングして交流電圧の時系列データを求め、得られた時系列データのうち位相差がπ/2ずれた2つの電圧データを取り出し、取り出した2つの電圧データのうち絶対値が大きい方を選択し、選択した絶対値が大きい電圧データの絶対値と前記交流電圧の実効値とを比較し、選択した電圧データの絶対値が前記交流電圧の実効値より小さいときは前記交流電圧は電圧不足であると判定することを特徴とする。
【0016】
請求項7の発明に係わる交流電圧判定方法は、交流電圧を所定のサンプリング周期でサンプリングして交流電圧の時系列データを求め、得られた時系列データのうち位相差がπ/2ずれた2つの電圧データを取り出し、取り出した2つの電圧データのうち絶対値が大きい方を選択し、選択した絶対値が大きい電圧データの絶対値と前記交流電圧の振幅値とを比較し、選択した電圧データの絶対値が前記交流電圧の振幅値より大きいときは前記交流電圧は電圧過大であると判定することを特徴とする。
【0017】
請求項8の発明に係わる交流電圧判定方法は、3相交流電圧を所定のサンプリング周期でサンプリングして3相の交流電圧の時系列データを求め、3相の交流電圧のうちいずれか1相の交流電圧の零点における時間微分値の正負の極性を求め、その1相の交流電圧の零点における他の2相の電圧値の正負の極性を求め、前記零点における時間微分値の正負の極性及び前記零点における他の2相の電圧値の正負の極性に基づいてその1相の交流電圧と他の2相の交流電圧との位相関係を判定することを特徴とする。
【0018】
請求項9の発明に係わる交流電圧判定方法は、請求項8の発明において、所定のサンプリング周期は3相交流電圧の1サイクルでサンプリング数が2(m:正の整数)となるサンプリング周期とし、1相の交流電圧の零点は逐次二分法を用いて特定することを特徴とする。
【0019】
請求項10の発明に係わる交流電圧判定方法は、請求項8の発明において、1相の交流電圧の零点における時間微分値の正負の極性は、逐次二分法の出発電圧値の正負の極性と零点の時間微分値の正負の極性とが逆である性質を利用して、出発電圧値の正負の極性により前記時間微分値の正負を判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、位相差がπ/2ずれた2つの電圧データの絶対値と、交流電圧の実効値または振幅値とを比較して、交流電圧の不足または過大を判定するので、電圧の健全性の判定のための演算を簡素化できる。また、電圧の健全性の判定により、欠相や誤結線の判定もできるので、負荷電流を流すことなく電圧の欠相や相順誤結線を容易に検出できる。
【0021】
一方、3相の交流電圧のうちのいずれか1相の交流電圧の零点における時間微分値の正負の極性、及びその1相の交流電圧の零点における他の2相の電圧値の正負の極性に基づいて、その1相の交流電圧と他の2相の交流電圧との位相関係を判定するので、位相判定のための演算を簡素化できる。また、電圧の正負の極性に基づいて位相関係を判定するので、負荷電流を流すことなく交流電圧の誤結線も容易に検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(第1の実施の形態)
図1は本発明の第1の実施の形態に係わる交流電圧判定装置のブロック構成図である。交流電圧v(t)は入力部11に入力され、入力部11では、交流電圧v(t)を所定のサンプリング周期でサンプリングして交流電圧v(t)の時系列データを求める。入力部11で得られた時系列データは時系列データ保存部12に所定個数分だけ順次更新記憶される。
【0023】
電圧データ抽出部13は、時系列データ保存部12に保存された時系列データから位相差がπ/2ずれた2つの電圧データを取り出し、絶対値が大きい方を選択して抽出する。例えば、時点t1の時系列データv(t1)とπ/2ずれた時点(t1+π/2ω)の時系列データv(t1+π/2ω)の絶対値のうち大きい方をVaとして選択する。
【0024】
[数3]
Va=max{|v(t1)|,|v(t1+π/2ω)|} …(3)
電圧データ抽出部13で抽出した電圧データの絶対値Vaは比較部14に入力され、交流電圧v(t)の実効値Vとが比較される。比較部14での比較結果は判定部15に入力され、判定部15において交流電圧の不足か否かが判定される。判定部15では、電圧データの絶対値Vaが交流電圧の実効値Vより小さいときは交流電圧v(t)は電圧不足であると判定する。そして、判定部15での判定結果は出力部16に出力される。
【0025】
ここで、判定部15において、時点t1の時系列データv(t1)とπ/2ずれた時点(t1+π/2ω)の時系列データv(t1+π/2ω)の絶対値のうち大きい方の絶対値Vaが交流電圧の実効値Vより小さいときに、交流電圧v(t)が電圧不足であると判定する理由について説明する。図2は判定部15での判定基準の説明図である。位相差がπ/2ずれた2つの電圧データの絶対値の一方は、交流電圧v(t)が健全である場合には、必ずその実効値V以上であり振幅値√2V以下となる。
【0026】
いま、交流電圧v(t)がv(t)=√2Vsinωtであるとする。この場合、図2(a)に示すように、一方の電圧データの位相がπ/4のときは他方の電圧データの位相はπ/4からπ/2だけずれた3π/4であり、このときの双方の電圧データの絶対値は実効値Vに等しく、位相がπ/4の電圧データ及び位相が3π/4の電圧データがともにVaとなり、その電圧データVaは実効値V以上である。
【0027】
また、図2(b)に示すように、一方の電圧データの位相が2π/3のときは他方の電圧データの位相は2π/3からπ/2だけずれた7π/6であり、このとき、位相が2π/3の電圧データの絶対値は√2V/√3であり、位相が7π/6の電圧データの絶対値は√2V/2である。従って、位相が2π/3の電圧データがVaとなり、その電圧値Vaは実効値Vより大きい。
【0028】
同様に、図2(c)に示すように、一方の電圧データの位相がπのときは他方の電圧データの位相はπからπ/2だけずれた3π/2であり、このとき、位相がπの電圧データの絶対値は0であり、位相が3π/2の電圧データの絶対値は√2Vである。従って、位相が3π/2の電圧データがVaとなり、その電圧値Vaは実効値Vより大きい。なお、位相が3π/2の電圧データVaは振幅値√2Vである。
【0029】
このように、交流電圧v(t)が健全である場合には、位相差がπ/2ずれた2つの電圧データの絶対値の一方は、必ずその実効値V以上であり振幅値√2V以下となる。そこで、判定部15では絶対値が大きい電圧データの絶対値Vaが交流電圧の実効値Vより小さいときは交流電圧v(t)は電圧不足であると判定する。
【0030】
以上の説明では、比較部14において、電圧データ抽出部13で抽出した電圧データの絶対値Vaと、交流電圧v(t)の実効値Vとを比較するようにしたが、交流電圧v(t)の振幅値√2Vと比較するようにしてもよい。この場合、判定部15では、比較部14での比較の結果により、電圧データの絶対値Vaが交流電圧の振幅値√2Vより大きいか否かを判定し、電圧データの絶対値Vaが交流電圧の振幅値√2Vより大きいときは交流電圧v(t)は電圧過大であると判定する。
【0031】
前述したように、交流電圧v(t)が健全である場合には、位相差がπ/2ずれた2つの電圧データの絶対値の一方は、必ずその実効値V以上であり振幅値√2V以下となることから、位相差がπ/2ずれた2つの電圧データの絶対値の一方が振幅値√2Vを超えるときは、判定部15は交流電圧v(t)は電圧過大であると判定する。
【0032】
また、以上の説明では、電圧データVaと実効値Vまたは振幅値√2Vと直接的に比較するようにしたが、交流電圧v(t)の波形歪み誤差を考慮に入れて誤差余裕値を持たせるようにしてもよい。例えば、電圧データVaと実効値Vとの比較においてVa<(1−β)V (β=0.1)を満たすときに電圧不足と判定し、電圧データVaと振幅値√2Vとの比較においてVa>(1+β)√2V を満たすときに電圧過大であると判定するようにしてもよい。
【0033】
次に、本発明の第1の実施の形態に係わる交流電圧判定装置を欠相検出や誤結線検出に用いる場合について説明する。図3は交流単相三線式の配線図である。交流単相三線式は、2本の電圧線17r、17bと1本の中性線18から構成され、例えば、電圧線17rと中性線18との間、中性線18と電圧線17bとの間に単相100Vの電圧が印加され、電圧線17rと電圧線17bとの間には単相の200Vが印加されている。
【0034】
このような交流単相三線式の電圧線17rのr端子、中性線18のw端子、電圧線17bのb端子が誤りなく接続されているか否かを確認するには、電圧線17rのr端子と中性線18のw端子との間の電圧、中性線18のw端子と電圧線17bのb端子との間の電圧、電圧線17rとr端子と電圧線17bのb端子との間の電圧を測定することになる。
【0035】
いま、電圧線17rと中性線18との間の電圧をvrw、中性線18と電圧線17bとの間の電圧をvwbとする。まず、電圧線17rと中性線18との間の電圧vrwの健全性を確認するためには、電圧線17rのr端子と中性線18のw端子との間の電圧を本発明の第1の実施の形態に係わる交流電圧判定装置に入力する。すなわち、位相差がπ/2ずれた2つの電圧データを取り出し、2つの電圧データのうち絶対値が大きい方を選択して交流電圧の実効値とを比較し、その電圧データの絶対値が交流電圧の実効値(例えば100V)より小さいときは、電圧線17rと中性線18との間は欠相であると判定する。一方、その電圧データの絶対値が交流電圧の振幅値(例えば√2・100V)より大きいときは、電圧線17rと中性線18との間は誤結線であると判定する。
【0036】
同様に、中性線18と電圧線17bとの間の電圧vwbの健全性を確認するためには、中性線18のw端子と電圧線17bのb端子との間の電圧を本発明の第1の実施の形態に係わる交流電圧判定装置に入力する。すなわち、位相差がπ/2ずれた2つの電圧データを取り出し、2つの電圧データのうち絶対値が大きい方を選択して交流電圧の実効値とを比較し、その電圧データの絶対値が交流電圧の実効値(例えば100V)より小さいときは、中性線18と電圧線17bとの間は欠相であると判定する。一方、その電圧データの絶対値が交流電圧の振幅値(例えば√2・100V)より大きいときは、中性線18と電圧線17bとの間は誤結線であると判定する。
【0037】
第1の実施の形態によれば、交流電圧を所定のサンプリング周期でサンプリングして得られた交流電圧の時系列データのうち、位相差がπ/2ずれた2つの電圧データのうち絶対値が大きい方を選択し、選択した絶対値が大きい電圧データの絶対値と交流電圧の実効値または振幅値とを比較して、交流電圧の不足または過大を判定するので、電圧の健全性の判定のための演算を簡素化できる。また、電圧の健全性の判定により欠相か誤結線かの判定もできるので、負荷電流を流すことなく電圧の欠相や相順誤結線を容易に検出できる。
【0038】
(第2の実施の形態)
図4は本発明の第2の実施の形態に係わる交流電圧判定装置のブロック構成図である。この第2の実施の形態は、3相交流電圧の位相関係を判定するようにしたものである。3相交流電圧vuv(t)、vvw(t)、vwu(t)は入力部11に入力され、入力部11では3相交流電圧vuv(t)、vvw(t)、vwu(t)を所定のサンプリング周期でサンプリングしてぞれぞれ時系列データを求める。入力部11で得られた時系列データは時系列データ保存部12に所定個数分だけ順次更新記憶される。
【0039】
零点検出部19は、時系列データ保存部12に保存された3相交流電圧の時系列データのうちのいずれか1相の時系列データから、その1相の交流電圧の零点を求める。零点検出部19で求められた1相の交流電圧の零点は、零点極性判定部20及び他相電圧データ抽出部21に出力される。
【0040】
零点極性判定部20は、零点検出部19で求められた1相の交流電圧の零点を入力すると、その零点における時間微分値を求め、零点での時間微分値の正負の極性を求める。つまり、その1相の瞬時値が零点を通過するにあたり正から負方向に変化するのか、負から正方向に変化するのかを求める。
【0041】
一方、他相電圧データ抽出部21は、零点検出部19で求められた1相の交流電圧の零点を入力すると、その1相の交流電圧の零点における残りの他の2相の電圧値を時系列データ保存部12から抽出し、抽出した電圧値を他相極性判定部22に出力する。他相極性判定部22は、抽出した電圧値の極性を求める。つまり、1相の交流電圧の零点における残りの他の2相の電圧値の正負の極性を求める。
【0042】
位相判定部23は、零点極性判定部20で求められた1相の交流電圧の零点での時間微分値の正負の極性、及び他相極性判定部22で求められた1相の交流電圧の零点における残りの他の2相の電圧値の正負の極性に基づいて、3相交流電圧vuv(t)、vvw(t)、vwu(t)の位相関係を判定する。位相判定部23での判定結果は出力部16に出力される。
【0043】
次に、零点検出部19での零点検出の仕方について説明する。図5は、零点検出部19で演算される逐次二分法による1相の交流電圧の零点検出の説明図である。まず、零点検出部19は、時系列データ保存部12から零点検出の対象となる1相の電圧の時系列データのうち1つの電圧データf(k)を出発電圧データとして取り込む。そして、出発電圧データf(k)から所定の時間間隔Δtをおいた電圧データf(k+i)を取り込み、これらの2つの電圧データf(k)、f(k+i)の乗算値f(k)・f(k+i)を求めて、その極性を判定する。乗算値f(k)・f(k+i)の極性が負であるときは、時間間隔Δtの範囲のいずれかに零点が存在することになる。乗算値f(k)・f(k+i)の極性が正であるときは、乗算値f(k)・f(k+i)の極性が負となるまで、出発電圧データf(k)からの所定の時間間隔Δtの幅を拡げる。つまり、iの値を大きくする。いま、乗算値f(k)・f(k+i)の極性は、図5に示すように負であるとする。
【0044】
次に、乗算値f(k)・f(k+i)の極性が負であり時間間隔Δtの範囲のいずれかに零点が存在することから、出発電圧データf(k)はそのままにしておき、その出発電圧データf(k)から所定の時間間隔Δtの1/2の時間間隔Δt/2における電圧データf(k+i/2)を取り込む。そして、2つの電圧データf(k)、f(k+i/2)の乗算値f(k)・f(k+i/2)を求めて、その極性を判定する。図5では、電圧データf(k)は負、電圧データf(k+i/2)は正であるから、乗算値f(k)・f(k+i/2)の極性は負である。乗算値f(k)・f(k+i/2)の極性が負であるときは時間間隔Δt/2の範囲のいずれかに零点が存在することになる。これにより、零点の探査範囲が1/2に狭められる。
【0045】
次に、乗算値f(k)・f(k+i/2)の極性が負であり時間間隔Δt/2の範囲のいずれかに零点が存在することから、出発電圧データf(k)はそのままにしておき、その出発電圧データf(k)から時間間隔Δt/2のさらに1/2である時間間隔Δt/4における電圧データf(k+i/4)を取り込む。そして、2つの電圧データf(k)、f(k+i/4)の乗算値f(k)・f(k+i/4)を求めて、その極性を判定する。図5では、2つの電圧データf(k)、f(k+i/4)はともに負であるから、乗算値f(k)・f(k+i/4)の極性は正となる。乗算値f(k)・f(k+i/4)の極性が正であるときは時間間隔Δt/4の範囲には零点が存在しないことになる。
【0046】
そこで、出発電圧データf(k)から時間間隔Δt/4における電圧データf(k+i/4)を新たな出発電圧データとし、新たな電圧データf(k+i/4)から時間間隔Δt/4をさらに1/2とした時間間隔Δt/8における電圧データf(k+3i/4)を取り込む。
【0047】
そして、2つの電圧データf(k)、f(k+3i/4)の乗算値f(k)・f(k+3i/4)を求めて、その極性を判定する。図5では、電圧データf(k)は負、電圧データf(k+3i/4)は正であるから、乗算値f(k)・f(k+3i/4)の極性は負であり、時間間隔Δt/2の範囲のいずれかに零点が存在することになる。以下、同様に、零点の探査範囲を(1/2)に狭めていく。
【0048】
このように、零点検出部19での零点検出として逐次二分法を採用することから、3相交流電流のサンプリング数は、3相交流電圧の1サイクルで2(m:正の整数)となるサンプリング周期で3相交流電圧をサンプリングすると好都合である。
【0049】
零点検出部19で1相の交流電圧の零点が求められると、零点極性判定部20は、その零点における時間微分値を求め、零点での時間微分値の正負の極性を求める。零点における時間微分値は、例えば、零点の探査範囲が最小となったときの2つの電圧データの差分をそのときの時間間隔で除算して求めることができる。
【0050】
ここで、逐次二分法による場合には、交流電圧の零点の時間微分値の極性は、出発電圧データf(k)の極性とは逆となる。これは、出発電圧データf(k)と所定の時間間隔Δtをおいた電圧データf(k+i)との極性が異なるときに、時間間隔Δtの範囲のいずれかに零点が存在することになるからである。図5では出発電圧データf(k)が負であることから時間微分値の極性は正となる。
【0051】
この逐次二分法の出発電圧データf(k)の正負の極性と、1相の交流電圧の零点の時間微分値の正負の極性とが逆である性質を利用して、出発電圧データf(k)の正負の極性により時間微分値の正負を求めることも可能である。
【0052】
出発電圧データf(k)の正負の極性により時間微分値の正負を求める場合には、零点の探査範囲が最小となったときの2つの電圧データの差分をそのときの時間間隔で除算して求める場合に比較して、零点近傍のノイズの影響を受けずに零点の時間微分値の極性を求めることができるので精度が向上する。
【0053】
次に、位相判定部23での位相判定の仕方について説明する。図6は位相判定部23で演算される3相交流電圧vuv(t)、vvw(t)、vwu(t)の位相判定の説明図である。
【0054】
いま、零点を求める交流電圧はvuv(t)であるとし、その1相の交流電圧vuv(t)が時点t1で零点となったとする。零点における時間微分値dvuv(t)/dtの極性は、図6では負である。一方、1相の交流電圧vuv(t)の零点における他の2相の電圧値の正負の極性について検討する。1相の交流電圧vuv(t)より2π/3遅れの交流電圧vvw(t)については、1相の交流電圧vuv(t)の零点(時点t1)における電圧値は正である。一方、1相の交流電圧vuv(t)より2π/3進みの交流電圧vwu(t)については、1相の交流電圧vuv(t)の零点(時点t1)における電圧値は負である。つまり、1相の交流電圧vuv(t)の零点における時間微分値dvuv(t)/dtの極性と、他の1相の電圧値の極性とが異なる極性であるときは、他の1相は2π/3遅れ位相であり、同じ極性であるときは2π/3の進み位相である。
【0055】
そこで、1相の交流電圧vuv(t)の零点における時間微分値dvuv(t)/dtと、零点における他の2相の電圧値の正負の極性を判定すれば、1相の交流電圧vuv(t)に対して2π/3遅れの交流電圧であるか、2π/3進みの交流電圧であるかが判定できる。例えば、{dvuv(t)/dt}・vvw(t)が負であるときは交流電圧vvw(t)は交流電圧vuv(t)に対して位相が2π/3遅れであり、逆に、{dvuv(t)/dt}・vvw(t)が正であるときは交流電圧vvw(t)は交流電圧vuv(t)に対して位相が2π/3進みである。
【0056】
次に、本発明の第2の実施の形態に係わる交流電圧判定装置を3相交流電圧の誤結線検出に用いる場合について説明する。3相交流電圧vuv(t)、vvw(t)、vwu(t)の相順は、u、v、wのときが正しい相順である。交流電圧vuv(t)と交流電圧vvw(t)とが正しい相順の場合には、交流電圧vvw(t)が交流電圧vuv(t)より2π/3遅れである。
【0057】
そこで、交流電圧vuv(t)と交流電圧vvw(t)との相順が正しいかどうかを判定するには、前述のように、交流電圧vuv(t)の零点における時間微分値dvuv(t)/dtの極性を求め、交流電圧vuv(t)の零点における交流電圧vvw(t)の電圧値の極性を求め、これらの極性が異なる極性であるか否かを判定する。すなわち、{dvuv(t)/dt}・vvw(t)<0であるか否かを判定する。{dvuv(t)/dt}・vvw(t)<0が成立するときは、交流電圧vvw(t)は交流電圧vuv(t)より2π/3遅れ位相であり、正しい相順であると判定できる。図7は交流電圧vuv(t)と交流電圧vvw(t)とが正しい相順である場合を示している。
【0058】
一方、{dvuv(t)/dt}・vvw(t)<0が成立しないときは、交流電圧vuv(t)の零点における時間微分値dvuv(t)/dtの極性と、交流電圧vuv(t)の零点における交流電圧vvw(t)の電圧値の極性とが同じ極性であり、交流電圧vvw(t)は交流電圧vuv(t)より2π/3進み位相である。従って、相順が正しくないので誤結線であると判定できる。図8は交流電圧vuv(t)と交流電圧vvw(t)との相順が正しくない場合を示している。
【0059】
第2の実施の形態によれば、3相の交流電圧のうちいずれか1相の交流電圧の零点における時間微分値の正負の極性と、その1相の交流電圧の零点における他の2相の電圧値の正負の極性とから、1相の交流電圧と他の2相の交流電圧との位相関係を判定するので、簡単な演算で3相交流電圧の位相を判定できる。また、電圧の正負の極性に基づいて位相関係を判定するので、負荷電流を流すことなく交流電圧の相順の誤結線も容易に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係わる交流電圧判定装置のブロック構成図。
【図2】本発明の第1の実施の形態における判定部での判定基準の説明図。
【図3】交流単相三線式の配線図。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係わる交流電圧判定装置のブロック構成図。
【図5】本発明の第2の実施の形態における零点検出部で演算される最小二分法による1相の交流電圧の零点検出の説明図。
【図6】本発明の第2の実施の形態における位相判定部で演算される3相交流電圧vuv(t)、vvw(t)、vwu(t)の位相判定の説明図。
【図7】3相交流電圧の交流電圧vuv(t)と交流電圧vvw(t)とが正しい相順である場合の波形図。
【図8】3相交流電圧の交流電圧vuv(t)と交流電圧vvw(t)との相順が正しくない場合の波形図。
【符号の説明】
【0061】
11…入力部、12…時系列データ保存部、13…電圧データ抽出部、14…比較部、15…判定部、16…出力部、17…電圧線、18…中性線、19…零点検出部、20…零点極性判定部、21…他相電圧データ抽出部、22…他相極性判定部、23…位相判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電圧を所定のサンプリング周期でサンプリングして交流電圧の時系列データを求める入力部と、前記入力部で得られた時系列データを更新保存する時系列データ保存部と、前記時系列データ保存部に保存された時系列データから位相差がπ/2ずれた2つの電圧データを取り出し絶対値が大きい方を選択して抽出する電圧データ抽出部と、前記電圧データ抽出部で抽出した電圧データの絶対値と前記交流電圧の実効値とを比較する比較部と、前記電圧データの絶対値が前記交流電圧の実効値より小さいときは前記交流電圧は電圧不足であると判定する判定部とを備えたことを特徴とする交流電圧判定装置。
【請求項2】
交流電圧を所定のサンプリング周期でサンプリングして交流電圧の時系列データを求める入力部と、前記入力部で得られた時系列データを更新保存する時系列データ保存部と、前記時系列データ保存部に保存された時系列データから位相差がπ/2ずれた2つの電圧データを取り出し絶対値が大きい方を選択して抽出する電圧データ抽出部と、前記電圧データ抽出部で抽出した電圧データの絶対値と前記交流電圧の振幅値とを比較する比較部と、前記電圧データの絶対値が前記交流電圧の振幅値より大きいときは前記交流電圧は電圧過大であると判定する判定部とを備えたことを特徴とする交流電圧判定装置。
【請求項3】
3相交流電圧を所定のサンプリング周期でサンプリングして3相の交流電圧の時系列データを求める入力部と、前記入力部で得られた時系列データを更新保存する時系列データ保存部と、前記時系列データ保存部に保存されたいずれか1相の時系列データからその1相の交流電圧の零点を求める零点検出部と、前記零点検出部で検出された1相の交流電圧の零点における時間微分値の正負の極性を求める零点極性判定部と、前記零点検出部で求められた1相の交流電圧の零点における他の2相の電圧値の正負の極性を求める他相極性判定部と、前記零点極性判定部で判定された前記零点における時間微分値の正負の極性及び前記他相極性判定部で判定された前記零点における他の2相の電圧値の正負の極性に基づいてその1相の交流電圧と他の2相の交流電圧との位相関係を判定する位相判定部とを備えたことを特徴とする交流電圧判定装置。
【請求項4】
前記入力部は、3相交流電圧の1サイクルでサンプリング数が2(m:正の整数)となるサンプリング周期で3相交流電圧をサンプリングし、前記零点検出部は、逐次二分法を用いて1相の交流電圧の零点を特定することを特徴とする請求項3記載の交流電圧判定装置。
【請求項5】
前記零点極性判定部は、逐次二分法の出発電圧値の正負の極性と1相の交流電圧の零点の時間微分値の正負の極性とが逆である性質を利用して、出発電圧値の正負の極性により前記時間微分値の正負を判定することを特徴とする請求項3記載の交流電圧判定装置。
【請求項6】
交流電圧を所定のサンプリング周期でサンプリングして交流電圧の時系列データを求め、得られた時系列データのうち位相差がπ/2ずれた2つの電圧データを取り出し、取り出した2つの電圧データのうち絶対値が大きい方を選択し、選択した絶対値が大きい電圧データの絶対値と前記交流電圧の実効値とを比較し、選択した電圧データの絶対値が前記交流電圧の実効値より小さいときは前記交流電圧は電圧不足であると判定することを特徴とする交流電圧判定方法。
【請求項7】
交流電圧を所定のサンプリング周期でサンプリングして交流電圧の時系列データを求め、得られた時系列データのうち位相差がπ/2ずれた2つの電圧データを取り出し、取り出した2つの電圧データのうち絶対値が大きい方を選択し、選択した絶対値が大きい電圧データの絶対値と前記交流電圧の振幅値とを比較し、選択した電圧データの絶対値が前記交流電圧の振幅値より大きいときは前記交流電圧は電圧過大であると判定することを特徴とする交流電圧判定方法。
【請求項8】
3相交流電圧を所定のサンプリング周期でサンプリングして3相の交流電圧の時系列データを求め、3相の交流電圧のうちいずれか1相の交流電圧の零点における時間微分値の正負の極性を求め、その1相の交流電圧の零点における他の2相の電圧値の正負の極性を求め、前記零点における時間微分値の正負の極性及び前記零点における他の2相の電圧値の正負の極性に基づいてその1相の交流電圧と他の2相の交流電圧との位相関係を判定することを特徴とする交流電圧判定方法。
【請求項9】
所定のサンプリング周期は3相交流電圧の1サイクルでサンプリング数が2(m:正の整数)となるサンプリング周期とし、1相の交流電圧の零点は逐次二分法を用いて特定することを特徴とする請求項8記載の交流電圧判定方法。
【請求項10】
1相の交流電圧の零点における時間微分値の正負の極性は、逐次二分法の出発電圧値の正負の極性と零点の時間微分値の正負の極性とが逆である性質を利用して、出発電圧値の正負の極性により前記時間微分値の正負を判定することを特徴とする請求項8記載の交流電圧判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−45963(P2008−45963A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−220859(P2006−220859)
【出願日】平成18年8月14日(2006.8.14)
【出願人】(504193837)国立大学法人室蘭工業大学 (70)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】