説明

交流電源を用いた電気化学反応による化学物質製造方法

【課題】
電気化学反応において、溶液の電気抵抗を下げるため作用極と対極の電極間距離を近づけていくと、支持電解質と反応したと考えられる副生成物が生じることが明らかになった。本発明は、このような副反応が起こらずに、収率がよい化学物質の製造方法を見いだすことを目的とする。
【解決手段】
作用極と対極が流路に沿って備えられた電気化学反応装置において、交流電流を流して電気化学反応を実施することによる化学物質の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電流を用いた電気化学反応による化学物質の製造方法に関する。さらに詳しくは、化学、生化学、農業、林業、医療、食品工業、製薬工業、環境保全、などの分野、とりわけ、化学合成、化学分析および生化学用反応装置として有用な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電極間距離を短くした電気化学反応装置は、溶液抵抗が低下するので電力消費量の低下や、支持電解質の低減が期待できるため、いわゆるマイクロリアクターの分野で、近年盛んに研究されるようになった。マイクロリアクターとは、微小な流路を有する装置であり、化学反応、微小分析、薬品の開発、ゲノム・DNA解析ツールなどに利用されている。マイクロリアクターは、従来の反応器に比べ装置全体が小さいため熱交換効率が極めて高く、温度制御が精密に行なえるという特徴がある。従って、発熱が大きく暴走や爆発の危険性のある反応や、精密な温度制御を必要とする反応や、急激な加熱や冷却を必要とする反応でも、マイクロリアクターを利用すれば容易に精密制御が可能という利点がある。また、微小な流路に分岐を設け複数の相溶する液体あるいは気体を混合した場合、拡散距離が短いため瞬時に混合させることが可能である。そのため、より理想に近い混合比率での混合が可能で、好ましくない副反応を抑制することができる。また、微小空間の中で反応を行なうため、流体の単位体積あたりの界面、例えば、非水溶性溶剤と水との液・液界面や、液体と器壁との固・液界面の面積が、非常に大きくなる。それ故、界面を介した物質移動や、不均一触媒との接触面積が大きくなるため、反応を効率よく行なうことが出来る。さらに、リアクターの容積が微小であるので、反応に用いる試料(反応試薬、サンプルなど)の量およびコストを抑えることができ、生成物の分析能力の限界まで反応スケールを小さくすることができるため、廃棄物を抑制し、環境への負荷を低減させることができる。
【0003】
マイクロリアクターを用いた物質生産では、従来までのように反応器の大きさを大きくするスケールアップではなく、マイクロリアクターを多数並列させて生産する、いわゆるナンバリングアップを行なうことが検討されている。従来のスケールアップでは、実験室のフラスコで開発された物質を大量生産するためには、数リットルの小試験、数百リットルの中試験を行なった後、数立米規模の実機プラントの設計が行なわれる手順を踏んでおり、多大のコスト・労力・時間を労しており、また、スケールアップにより収率が悪化することも珍しくない。一方、マイクロリアクターにおけるナンバリングアップでは、同一のマイクロリアクターを多数並列して生産するため、増産が容易であり、同様の品質の製品を作ることができると考えられている。
【0004】
電気化学反応用マイクロリアクターは、分析用途には数多くの報告がある(例えば、特許文献1〜3参照)。特に、特開平5−223772号公報は、平面内で間隙を隔てて相対する微小バンド電極あるいはお互いに噛み合った櫛形微小電極を用いた、高感度電器化学検出用微小電極セルが報告されている。ところが、マイクロリアクターを化学物質生産用途に用いた例は非常に少ない(例えば、特許文献4〜6参照)。しかも、特開2003−172736号公報は、実質的にはDNAのPCR反応や電気泳動を目的にしており、化学物質生産を目的にしたものではない。また、米国特許6607655号公報では、マイクロリアクターを使って化学物質生産の例が示されているが、電極間にスリットの開いた絶縁性フィルムを挟み込んで、二つの電極とスリットで形成された空間に反応液を注入し、電気化学反応を実施する仕組みとなっている。また、特開2004−66169号公報では、熱硬化樹脂成型品を炭化焼成した炭素材料からなる微小空間内で電気化学反応を実施するマイクロ化学デバイスが報告されている。しかしながら、いずれも直流電源を用いた検討を行なっているのみで、交流電源についての記載はない。
【特許文献1】特開平5−223772号公報
【特許文献2】特開2004−239781号公報
【特許文献3】特開2003−4752号公報
【特許文献4】特開2003−172736号公報
【特許文献5】米国特許第6607655号公報
【特許文献6】特開2004−66169号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電気化学反応は、陽極では酸化反応が、陰極では還元反応が生じ、それぞれ生成物が異なる。一般に、電気化学反応では、陽極と陰極の生成物の混合を避けるため直流電源が用いられる。ところが、溶液の電気抵抗を下げるため作用極と対極の電極間距離を近づけていくと、支持電解質と反応したと考えられる副生成物が生じることが明らかになった。本発明は、このような副反応が起こらずに、収率がよい化学物質の製造方法を見いだすことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち、本発明は、作用極と対極が流路に沿って備えられた電気化学反応装置を用いて、電極間に交流電流を流して電気化学反応を行なうことを特徴とする化学物質の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の電気化学反応方法を用いることで、副反応が生じにくくなり、電気化学反応の収率を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明に用いる電気化学反応装置は、流路に沿って作用極と対極を備えている。本発明において、その作用極と対極の間隔は、1000μm以下が好ましく、500μm以下がさらに好ましい。電極間距離が大きくなりすぎると、反応液の電気抵抗が高まり、消費電力が大きくなる問題が生じる場合がある。
【0010】
本発明で用いる電極の形状は、特に限定されない。また、本発明で用いる電極の配置も、特に限定されない。
【0011】
本発明において用いられる電気化学反応装置の電極設置形態は、特に限定されないが、流路の壁面に設置してもよく、電極の間に絶縁性スペーサーを挟んで設置しても良い。
【0012】
本発明で用いる電極の作成方法は特に限定されない。好ましい方法として、電極形状にくり貫いた薄板のマスクを被せたり、フォトレジストを使ったりしてから、金属を蒸着やスパッタリング技術を用いて電極とする方法が挙げられる。薄膜電極を用いる場合は、流路壁の一部に設けてもよく、流路の周囲に取り巻くように設けてもよく、またそれが二重らせん状につながっていても良い。また、電極となる導電性材料からなるフィルムと、絶縁性材料からなるフィルムを交互に重ね合わせたものに、重ね合わせ方向に貫通孔を開け流路とし、流路の進行方向に対し電極フィルムと絶縁フィルムが交互に来るようにしたものを利用しても良い。
【0013】
本発明で用いるマイクロリアクターの電極素材は、通電すれば特に限定されない。例えば、パラジウム、プラチナ、ロジウム、イリジウム、ニッケル、金、タングステン、ニオブ、カドニウム、マンガン、タリウム、鉛、水銀などの金属や、グラッシーカーボン、分光分析級黒鉛、熱分解黒鉛、炭素クロスなどの炭素素材やそれらの粉末をキシレンワックス、エポキシ樹脂、シリコーンゴム、ヌジョールなどに分散させたものなどを使用することができる。また、上記金属を蒸着やスパッタを用いて付着させる際には、基板との付着性を向上させるために、下地としてクロムやチタンなどの薄膜を付着させても良い。また、炭素は、金属電極の表面に炭素粉末を接着性のある素材に分散させたペーストを塗布しても良く、同様に金属電極の表面に炭化水素化合物を塗布し、減圧下で熱分解させて熱分解黒鉛としても良い。
【0014】
本発明で用いるマイクロリアクターの電極表面には、金属めっきなどの手法を施し、電極表面を広げる工夫をしても良く、特に触媒活性の高い白金黒やパラジウム黒などを付着させても良い。
【0015】
本発明の電気化学反応においては、電極間に交流電流を流すことが必要である。この理由については明らかにされていないが、直流電流を用いた場合には、電極間距離が短くなると電位勾配が高くなり、電荷を帯びた分子が電極に強く引き寄せられ反応するようになるためと推測される。一定周期で極が入れ替わる交流を用いた場合、予期せぬ副反応は生じなくなり、目的物の収率が向上するのである。
【0016】
電極間に交流電流を流すためには、交流電源を用いることが好ましい。また、交流電流の周波数は特に限定されないが、1Hzから100kHzが好ましく、10Hzから2kHzがさらに好ましい。この範囲の周波数を用いることで、無効電流が増大しない条件で交流電流を用いる効果を得ることが可能となる。
【0017】
本発明で用いる電気化学反応装置を作製するのに用いる材料は特に限定されない。ガラス、石英、ポリイミド、フッ素樹脂、アクリルなどの絶縁性材料が好ましい。また、シリコンや金属など導電性材料であっても表面を絶縁化処理したものであれば使用することが出来る。
【0018】
本発明で用いる電気化学反応装置の作成方法としては、例えば絶縁性基板上に電極を設け、その上に絶縁性の基板にエッチングや機械加工などによって溝を形成した板を被せ接着させる方法が挙げられる。ここで、流路の形状は特に限定されず、直線状でも曲線状でも構わない。接着方法は特に限定されないが、熱圧着、熱融着など加熱による方法や、反応に影響しない範囲で接着剤を使用しても良い。
【0019】
上述の方法の例として、ガラスや熱可塑性樹脂などの絶縁性基板上に蒸着やスパッタ技術を使って一対以上の電極を設けた後、エッチングや機械加工を用いて溝を形成した絶縁性基板で蓋をして、熱融着して接着させたものを使用しても良い。
【0020】
また、ガラスなどの絶縁性基板上に厚膜レジスト(例えば、SU-8 MicroChem社製)を使って溝を形成し、その溝の中に蒸着やスパッタ技術を使って一対以上の電極を設けた後、ガラスなどの絶縁性基板で蓋をして、レジストを使って接着したものを使用しても良い。
【0021】
また、表面を酸化させて絶縁性を高めたシリコン基板にエッチング技術を用いて溝を形成し、その溝の中に蒸着やスパッタ技術を使って一対以上の電極を設けた後、ガラスなどの絶縁性基板で蓋をして、陽極接合により接合させたものを使用しても良い。
【0022】
本発明で用いる電気化学反応装置の流路は、フォトリソグラフィー技術を用いて形成するのが好ましい。フォトリソグラフィー技術は、容易に微細な加工が可能である上に、二次元的には自由に設計が可能であり、また、量産化技術も確立されているので、安価に電気化学反応装置を供給することが可能であるなどメリットが多い。
【0023】
本発明で用いる電気化学反応装置の流路の長さは特に限定されず、反応液濃度、反応液流量、電流密度、電流効率などを考慮し適宜設計して良い。
【0024】
本発明で使用する電気化学反応装置には、温度制御機器が備わっていても良い。ここで言う、温度制御機器とは、加熱や冷却機能を持ち所定の温度に制御することのできる装置であれば特に限定されないが、熱媒や冷媒を流す管や、電熱ヒーターや、ペルチェ素子などを挙げることができる。熱制御機器は、反応流路に近い場所に設置した方が、温度応答が素早いので好ましい。
【0025】
本発明で行なう電気化学反応は、特に限定されない。電気化学反応は、酸化反応と還元反応に大別される。特に有機化合物の電気化学反応においては、官能基変換型、付加型、挿入型、置換型、交換型、脱離型、二量化型、交差二量化型、環化型、多量化型、開裂型、金属化型、不斉合成型、などの反応型が挙げられるが、いずれも特に限定されない。より具体的な反応例としては、炭素−炭素多重結合の還元、芳香環の還元、炭素−ハロゲン結合の還元、アルデヒドおよびケトンの還元、カルボン酸とその誘導体の還元、ケトンまたはカルボン酸と共益しているオレフィンの還元二量化反応、ニトロ基の還元、窒素−窒素一重結合の還元、窒素−窒素二重結合の還元、炭素−窒素一重結合の還元、炭素−窒素二重結合の還元、炭素−窒素三重結合の還元、脱炭酸を伴うカルボン酸の酸化、アルデヒドからカルボン酸への酸化、芳香族化合物の酸化、オレフィン類の酸化、アミンおよびヒドラジンの酸化、スルフィド類の酸化、チオ尿素誘導体の酸化、チオカルボニル誘導体の酸化、有機金属化合物またはカルバニオンの酸化などが挙げられるが、いずれも特に限定されない。また、有機電気化学反応は、多種多様のイオン種やラジカル種と呼ばれる活性中間種が発生するが、これら活性中間種を経由する反応、例えばカチオン種に対するメトキシ化、アセトキシ化、シアノ化などの求核置換反応に使用しても良い。
【0026】
また、電気化学反応は、反応基質と電極との間の電子授受により基質の酸化・還元を行なう直接法と、メディエーターと呼ばれる電子移動担体を用いる間接法とに大別されるが、いずれにも特に限定されない。同様に、本発明で用いられる反応基質も、有機化合物、無機化合物に限らず、特に限定されない。
【0027】
本発明で行なう還元二量化反応の反応基質は、特に限定されない。例えば、マレイン酸、コハク酸、ジメチルマレイン酸、ジメチルコハク酸、アクリロニトリル等の炭素−炭素二重結合を有する化合物や、ケトン類やアルデヒド類など炭素−酸素二重結合を有する化合物などが挙げられる。これらの反応基質は、同一種類同士で反応させても良く、また、異種間で反応させても良い。
【0028】
本発明で行なうメトキシ化反応の反応基質は、特に限定されない。
【0029】
本発明で用いることのできる溶剤は、プロトンを供給できる溶剤であれば、特に限定されない。例えば、水、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、1,2−エタンジオール、酢酸、塩酸などが使用できる。これらは単一溶剤で用いても良く、混合溶剤として用いても良い。混合する溶剤としては、上述した溶剤でも良く、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、プロピレンカーボネート、ジメチルスルホキシド、ホルムアミド、2−ピロリドン、ピリジン、テトラメチルウレア、エチレンジアミン、ニトロメタン、ニトロベンゼン、ヘキサン、ジクロロメタン、クロロホルムなどを用いることができる。
【0030】
本発明では支持電解質を用いても良い。その種類や使用量は、反応溶液に溶解し導電性を持たせることができれば特に限定されない。支持電解質は溶媒中でイオンとして働くので、イオン化しやすいアニオンとカチオンで組み合わされた塩である。カチオンとしては、Li、Na、K、Rb、Csなどのアルカリ金属イオンや、アンモニウムイオン、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラ(n−プロピル)アンモニウムイオン、テトラ(i−プロピル)アンモニウムイオン、テトラ(n−ブチル)アンモニウムイオン、テトラ(n−ヘキシル)アンモニウムイオンなどの第4級アルキルアンモニウムなどが挙げられる。アニオンとしては、Cl、Br、Iなどのハロゲンイオンや、酢酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、過塩素酸イオン、BF、PF、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ビス(1,1,2,2,3,3,3−ヘプタフルオロ−1−プロパンスルホニル)イミド、ビス(1,1,2,2,3,3,4,4,4−ノナフルオロ−1−ブタンスルホニル)イミド、各種スルホン酸イオンなどが挙げられる。
【0031】
本発明で用いる電気化学反応装置の流路の入口は、外部より流路内に流体を導入するための供給装置と接続されていても良く、流路内に小型のポンプを内蔵させても良い。外部より電気化学反応装置に流体を導入するための供給手段は、特に限定されるものではないが、例えば、種々のポンプや、圧送する方法、重力差を利用する方法、高圧に圧縮された容器から供給する方法、などを用いることができる。ポンプとして具体例を示すとすれば、1)シリンダー内の流体をピストンで押し込めるシリンジポンプ、2)ピストンポンプ、ダイヤフラムポンプといったピストンやプランジャーなどの往復運動を利用して圧力を高める往復式ポンプ、3)ギアポンプやペリスタポンプといった歯車やローラーを回転し、流体を空隙に閉じ込めて押し動かして輸送する回転式ポンプ、4)ボリュートポンプや、デフューザポンプといった、流体を回転羽根で回転しその遠心力によって圧力を高める遠心式ポンプや、その他一般的に知られているポンプなどが挙げられる。
【0032】
本発明で使用する電気化学反応装置の流路の水力相当直径は、1μm以上2000μm以下が好ましく、10μm以上1000μm以下がさらに好ましく、20μm以上500μm以下がとりわけ好ましい。電気化学反応装置の流路の水力相当直径が1μm以下では、圧力損失が甚だ大きくなると共に、処理量も著しく少なくなるため好ましくなく、2000μm以上では温度制御が困難になるため副生成物が増加するので好ましくない。ここで言う水力相当直径とは、(流路断面積×4÷濡れ辺長)で表すことができる。
【0033】
本発明に用いる反応液の前処理方法や後処理方法は、特に限定されないが、本発明で使用する電気化学反応装置と同様の水力相当直径の流路を使って、行なっても良い。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0035】
なお、以下の実施例、比較例において、選択率は消費された原料に対する目的物に転換された原料のモル%である。
【0036】
(実施例1)
マイクロリアクターは、2枚のアクリル板に電極と溝をそれぞれ設けたものを、接着して作った。具体的には、以下の手順で作成した。
1)一方のアクリル板を機械加工し、図1に示した形状の溝を形成した。溝の寸法は、幅900μm、深さ200μm、電極にかかる長さは100mmであった。溝の両端に外部から送液するための貫通孔を空けた。
2)もう一方のアクリル板に、図2に示した電極形状をくり貫いたマスクを被せて、クロムを1000Å蒸着してから、金を2000Å蒸着し電極を設けた。流路に掛かる電極の寸法は幅300μm、長さ10mm、各電極の間隙は300μmであった。
3)上記の2枚のアクリル板を重ね合わせ密着し、115℃に設定したイナートオーブンに1時間入れ、熱圧着により接合させマイクロリアクターを完成させた。マイクロリアクターの概略平面図を図3に示した。
【0037】
電気化学反応装置の流路の注入口から反応液(マレイン酸ジメチル:5wt%,酢酸ナトリウム:2wt%/メタノール)を、シリンジポンプを用いて合計10μL/minの流量で送液した。電気化学反応装置は、ペルチェ素子の上に載せ、15℃に温度制御した。交流電源を使い、周波数10Hz、振幅3.5Vの交流電流を印加して、吐出したサンプルをガスクロマトグラフィーで定量分析した。マレイン酸ジメチルの転換率は29.8%であり、二量体であるテトラブチルブタンカルボン酸は生成せず、メトキシ化されたメトキシコハク酸ジメチルの選択率(消費されたマレイン酸ジメチルに対するメトキシコハク酸ジメチルのモル%)は80.3%であった。
【0038】
(実施例2)
交流電流の振幅を5.0Vに変更した以外は実施例1と同様にして実験したところ、マレイン酸ジメチルの転換率は38.8%であり、テトラブチルブタンカルボン酸の選択率は6.6%、メトキシコハク酸ジメチルの選択率は61.9%であった。
【0039】
(実施例3)
交流電流の周波数を100Hzに、振幅を10Vに変更した以外は実施例1と同様にして実験したところ、マレイン酸ジメチルの転換率は62.8%であり、テトラブチルブタンカルボン酸の選択率は12.6%、メトキシコハク酸ジメチルの選択率は38.8%であった。
【0040】
(実施例4)
交流電流の周波数を1kHzに、振幅を10Vに変更した以外は実施例1と同様にして実験したところ、マレイン酸ジメチルの転換率は44.8%であり、テトラブチルブタンカルボン酸の選択率は11.1%、メトキシコハク酸ジメチルの選択率は54.2%であった。
【0041】
(実施例5)
交流電流の周波数を10kHzに、振幅を10Vに変更した以外は実施例1と同様にして実験したところ、マレイン酸ジメチルの転換率は29.8%であり、テトラブチルブタンカルボン酸は生成せず、メトキシコハク酸ジメチルの選択率は80.0%であった。
【0042】
(実施例6)
反応液を、マレイン酸ジメチル:20 wt%,酢酸ナトリウム:2wt%/メタノールに変更し、交流電流の周波数を100Hzに、振幅を10Vに変更した以外は実施例1と同様にして実験したところ、マレイン酸ジメチルの転換率は83.3%であり、テトラブチルブタンカルボン酸の選択率は14.4%、メトキシコハク酸ジメチルの選択率は49.0%であった。
【0043】
(実施例7)
交流電流の周波数を1.2kHzに、振幅を30Vに変更した以外は実施例6と同様にして実験したところ、マレイン酸ジメチルの転換率は50.2%であり、テトラブチルブタンカルボン酸は生成せず、メトキシコハク酸ジメチルの選択率は79.4%であった。
【0044】
(比較例1)
直流電源を用いて3.9Vの定電圧条件に変更した以外は実施例1と同様にして実験したところ、マレイン酸ジメチルの転換率は51.7%であり、テトラブチルブタンカルボン酸の選択率は1.7%、メトキシコハク酸ジメチルの選択率は8.8%であった。これより、メトキシコハク酸ジメチルの選択率が、実施例と比較して低下することが分かった。
【0045】
(比較例2)
反応液を、マレイン酸ジメチル:20 wt%,酢酸ナトリウム:2wt%/メタノールに変更し、直流電源を用いて3.9Vの定電圧条件直流電流に変更した以外は実施例1と同様にして実験したところ、マレイン酸ジメチルの転換率は77.3%であり、テトラブチルブタンカルボン酸の選択率は1.3%、メトキシコハク酸ジメチルの選択率は20.8%であった。これより、メトキシコハク酸ジメチルの選択率が、実施例と比較して低下することが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施形態に係るマイクロリアクターの流路部分の概略平面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るマイクロリアクターの電極部分の概略平面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るマイクロリアクターの概略平面図である。
【符号の説明】
【0047】
1.電極部流路
2.電極部から注入口および吐出口までの流路
3.注入口および吐出口



【特許請求の範囲】
【請求項1】
作用極と対極が流路に沿って備えられた電気化学反応装置を用いて、電極間に交流電流を流して電気化学反応を行なうことを特徴とする化学物質の製造方法。
【請求項2】
電気化学反応が、メトキシ化反応であることを特徴とする、請求項1記載の化学物質の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−39737(P2007−39737A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−224958(P2005−224958)
【出願日】平成17年8月3日(2005.8.3)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】