説明

交通システム

【課題】 車両の走行方向を正確に判別することのできる交通システムを提供する。
【解決手段】 車両10に搭載された車載装置5は、時々刻々測位し、測位位置と測位時刻とを関連付けた走行軌跡である時系列情報(軌跡情報)を蓄積し、道路R上に設置された路上通信装置2の路車間通信領域Q1又はQ2を通過する際に、当該軌跡情報を路上通信装置2に送信する。路上処理装置3は路上通信装置2から前記軌跡情報を受信し、軌跡情報に基づいて車両10の走行方位を算出し、記憶部に記憶している道路Rの方位と比較する。路上処理装置3は、両者が略一致すると判定した場合には、車両10は道路R上を交差点Iに向かって走行する車両であると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路上を走行する車両の走行方向を判定する交通システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車載装置との間で路車間通信をすることで、車載装置の保持する情報を取得すると共に、車載装置に対して交通情報等を提供することができる光ビーコンが普及している。この光ビーコンを用いたアプリケーションシステムとして、救急車や消防車のような緊急車両を円滑に走行させることを目的とした緊急車両走行支援システムが実用化されている。
【0003】
緊急車両走行支援システムでは、緊急車両が頻繁に通過する道路上に光ビーコン等の路上通信装置を設置しておき、当該路上通信装置との路車間通信により緊急車両が当該路上通信装置設置地点を通過したことを認識し、緊急車両がこれから通過することが予想される交差点における信号機の表示を動的に変更して、緊急車両が円滑に当該交差点を通行できるように支援する(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2001−184592号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光ビーコンを利用した緊急車両走行支援システムでは、緊急車両が光ビーコンの設置地点よりも下流側にある交差点に接近中であることを、その光ビーコンと緊急車両との路車間通信によって認識するように構成されている。
【0006】
具体的には、交差点への流入車線上にのみ光ビーコンのビーコンヘッドを設置し、その車線上を走行する緊急車両との路車間通信により、緊急車両が前記ビーコンヘッドの設置車線を通過したことが認識されるようになっており、緊急車両の走行方向を直接的に認識するわけではない。
【0007】
前記ビーコンヘッドは、通常、直下の車線上を走行する車両とのみ路車間通信を行うが、稀に隣接車線を走行している車両との間で路車間通信が行われるケースがある。例えば、隣接車線を走行する車両と大型車両等が併走している場合、その隣接車線走行車両の発した近赤外光(アップリンク光)が併走大型車両の側面に反射して、前記ビーコンヘッドに到達するケースがある。
【0008】
その隣接車線の車両走行方向が前記ビーコンヘッドの設置された車線とは逆である場合、交差点から遠ざかる方向に走行する緊急車両と前記ビーコンヘッドとの間で路車間通信が行われることになり、緊急車両が交差点に接近していないにも関わらず、当該交差点の信号機の表示を動的に変更してしまうことがあった。
【0009】
また、緊急車両の場合、現場に急行するために反対車線側を逆走するケースもある。逆走する緊急車両と光ビーコンが路車間通信した場合にも、当該交差点の信号機の表示を動的に変更してしまう。
【0010】
つまり、単に1台の光ビーコンと路車間通信したことのみをもって緊急車両が交差点に接近したと判断する方法を用いると、緊急車両が交差点から遠ざかる方向に走行しているにも関わらず、交差点に接近していると誤認識してしまうケースがあり、適切な交通信号制御が行われない場合があった。
【0011】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、車両の走行方向を正確に認識することのできる交通システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第一発明に係る交通システムは、道路上を移動する車両の異なる時点での位置情報を取得する取得手段と、前記取得した位置情報に基づいて前記車両の移動方位を算出する算出手段と、前記算出した移動方位と前記道路の方位とに基づいて前記車両が前記道路における車両の進行方向に沿って移動しているか否かを判定する判定手段とを備えることを特徴とする(請求項1)。
【0013】
この発明によれば、異なる時点の位置情報に基づいて、確実に車両の走行方向を判定することができる。例えば、前記位置情報から車両の走行方位を算出し、その走行方位と道路の方位を比較して、両者が略一致すると判定した場合には、前記車両の走行方向は、前記道路における車両の進行方向と同じであると判定することができる。従って、例えば特定の地点に接近する車両が存在するか否かに応じて動作を切り替える必要のある緊急車両支援システムや地点感応式の交通信号制御システム等を運用する場合に、正確な動作を行うことが可能になる。
【0014】
また、前記交通システムは、前記車両が緊急車両であることを識別可能な車両識別情報を取得する第二取得手段と、前記取得した車両識別情報に基づいて前記車両が緊急車両であるか否かを判定する第二判定手段と、前記道路における車両の進行方向の下流側に存在する交差点に設置された信号灯器を制御する交通信号制御手段とをさらに備え、前記交通信号制御手段は、前記判定手段が前記車両が前記道路における車両の進行方向に沿って移動していると判定し、かつ、前記第二判定手段が前記車両が緊急車両であると判定した場合に、前記車両の前記交差点への接近に応じて前記信号灯器を制御するための信号制御パラメータを決定することが好ましい(請求項2)。
【0015】
この発明によれば、異なる時点の位置情報に基づいて、確実に車両の走行方向を判定した上で、当該車両が緊急車両であれば、その交差点における信号制御パラメータ(例えば、信号灯器の点灯時間)を動的に決定することができるようになる。例えば、現在赤信号を表示しているのであれば、可能な限り早く赤信号を打ち切って、緊急車両が青信号で通過できるようにし、一方、現在青信号を表示しているのであれば、可能な限りその青信号を継続して緊急車両の走行を支援することが可能になる。なお、下流側に存在する交差点は、下流側に存在する直近の交差点に限られない。
【0016】
また、前記交通システムは、前記取得した位置情報に基づいて前記車両の走行速度を算出する走行速度算出手段をさらに備え、前記交通信号制御手段は、前記取得した前記車両の走行速度に基づいて、前記車両に対して表示する前記信号制御パラメータを決定することが好ましい(請求項3)。
【0017】
異なる時点の位置情報の時刻差と位置間の距離に基づいて緊急車両の走行速度を取得することが可能になるから、当該走行速度に応じて、緊急車両が交差点に進入するタイミングを正確に予測した上で、きめの細かい交通信号制御を実施することが可能になる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明の交通システムによれば、車両の走行方向を正確に判定することができるため、例えば、緊急車両走行支援システム等のように車両の走行方向に応じて動作するシステムを正確に運用することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
実施の形態1:
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明に係る交通システムの概要を示す模式図であり、交通信号機1、路上通信装置2、路上処理装置3、中央装置4、車両10、及びこの車両10に搭載される車載装置5を含むものである。道路Rは車線1〜4を有しており、車線1と車線2は交差点Iに向かう方向、車線3と車線4は交差点Iから遠ざかる方向を進行方向とする。
【0020】
道路Rには、車線1上に通信部2b1および車線2上に通信部2b2を設け、路車間通信を制御する通信制御装置2aを備える路上通信装置2が設置されている。この路上通信装置2は、道路R上の所定の路車間通信領域Q1及びQ2(図1において斜線で示す範囲)において、車両10に搭載された車載装置5との間で通信データを送受信する機能を備えている。
【0021】
ここで、路上通信装置2としては、例えば光ビーコン、電波ビーコンやDSRCなど、無線で路車間通信を実現できる装置であればどのようなものを用いても良いが、路車間通信領域Q1とQ2がお互いに重複しないようにするためには、光ビーコンのような狭域通信を行う路上通信装置を用いることが望ましい。
【0022】
路車間通信領域Q1及びQ2において、路上通信装置2から車両10に対して送信される前記通信データには、進行方向の道路状況に関する情報が含まれており、例えば、どの道路が渋滞しているかに関する渋滞情報や、ある地点までの旅行時間に関する旅行時間情報などが含まれる。なお、これらの情報は、交通管制センターに設置された中央装置4から通信回線を通じて送られ、予め路上通信装置2の記憶部に格納されている。
【0023】
一方、車載装置5が路上通信装置2に対して送信するアップリンク情報には、車両10を識別するための車両ID情報や後述する軌跡情報などが含まれている。
【0024】
また、路上通信装置2は、それぞれ路上処理装置3と接続されている。この路上処理装置3は、路上通信装置2が車載装置5から受信した前記アップリンク情報を取得する機能を備えている。
【0025】
なお、路上処理装置3は、通信制御装置2aと同一の筐体内に納められていても良いし、通信制御装置2aに路上処理装置3と同一の機能を備えさせておく構成でも良い。また、路上処理装置3は、近傍に設置される他の路上装置(例えば交通信号制御機1a)と同一の筐体内に納めるようにしても良い。
【0026】
そして、交差点Iには信号灯器1bとこれを制御する交通信号制御機1aとを備える交通信号機1が設置されている。道路Rを交差点Iに向かって走行する車両10は、信号灯器1bが赤信号であれば交差点Iの手前で停止し、青信号であれば交差点Iを通過することができる。
【0027】
図2は車載装置5の構成の一例を示すブロック図である。車載装置5は、全体の処理を制御する制御部501、通信部502、測位部503、操作部504、表示部505、音声出力部506、記憶部507などを備えている。
【0028】
通信部502は、路上通信装置2との間で通信を行う通信機能を備え、車載装置5を搭載した車両10が路車間通信領域Q1又はQ2を通過する際に、半導体メモリ又はハードディスク等で構成された記憶部507に記憶された所定の情報(例えば、車両ID、軌跡情報など)をアップリンク情報として路上通信装置2へ送信する。
【0029】
測位部503は、車両の位置を時々刻々(例えば、0.5秒、1秒等の経過の都度、5m、10m等の移動の都度など)測位し(測位位置を求め)、測位位置と測位時刻とを関連付けた走行軌跡である時系列情報(軌跡情報)として記憶部507に記憶する。
【0030】
GPS5031は、複数のGPS衛星から電波を受信し、車両の位置を測位する。なお、GPS5031に加えて、DGPS(ディファレンシャルGPS)を搭載することもできる。DGPSは、予め位置が分かっている基準局から発信されるFM放送又は中波を受信し、GPS5031で求めた測位位置のずれを補正することができ、車両の位置の精度を向上させることができる。
【0031】
距離センサ5032は、車両が走行した走行距離を計測する。計測結果は、制御部501へ出力されるとともに記憶部507に記憶される。
【0032】
方位センサ5033は、角速度センサ又は角加速度センサ(相対方位センサ)、2次元又は3次元の地磁気センサ(絶対方位センサ)などを備え、車両の走行方位を計測する。計測結果は、制御部501へ出力されるとともに記憶部507に記憶される。
【0033】
操作部504は、各種操作ボタンを備え、車両の搭乗者と車載装置5とのユーザインタフェースとして機能する。例えば、操作部504は、運転者の操作により車載装置5に備えられた機能の動作開始又は動作停止の操作を受け付ける。
【0034】
表示部505は、例えば、液晶表示パネルであって、車載装置5で処理した処理結果などを表示する。
【0035】
音声出力部506は、車載装置5で処理した処理結果などを運転者へ通知するために、通知内容を音声又は音響で出力する。
【0036】
図3は路上通信装置2の通信制御装置2aの構成の一例を示すブロック図である。通信号制御装置2aは全体の処理を制御する制御部201、送受信部202、記憶部203、路車間通信部204、ダウンリンク情報作成部205などを備えている。
【0037】
通信制御装置2aは路上処理装置3と接続されており、路上処理装置3と情報をやりとりする。送受信部202は、路上処理装置3との間でデータを送受信する機能を有し、中央装置4から路上処理装置3経由で送られる前記渋滞情報等を受け取る。受け取った情報は、記憶部203に格納される。
【0038】
路車間通信部204は、常時、通信領域Q1及びQ2に対してダウンリンク情報を送信し続けている。このダウンリンク情報は、車載装置5に対して通信領域Q1又はQ2に進入したことを知らせ、車載装置5からのアップリンク情報の送信を促すことを主な目的として送信しており、基本的な情報のみが含まれている。
【0039】
通信領域Q1又はQ2に進入した車両10の車載装置5は、前記ダウンリンク情報の受信に応じて、当該車両10の車両ID、軌跡情報を含むアップリンク情報を路上通信装置2に対して送信する。なお、車両10が緊急車両の場合には、このアップリンク情報内に車両10が緊急車両であることを示す情報が格納されている。そして、受信したアップリンク情報は送受信部202によって路上処理装置3に送信される。
【0040】
路車間通信部204は、前記アップリンク情報を受信したら、当該アップリンク情報受信に応じてダウンリンクの切替を実行し、車載装置5に対して、車載装置5の走行する車線を通知する車線通知情報、前記渋滞情報や旅行時間情報などを含む切替実行後のダウンリンク情報の送信を開始する。当該切替実行後のダウンリンク情報の送信は、概ね250ms程度の間のみ行われる。
【0041】
図1のように車両10が車線2を走行している場合、車両10の車載装置5と通信部2b2が路車間通信を行うから、通信部2b2が車載装置5からアップリンク情報を受信する。通信制御装置2aはいずれの通信部で受信したアップリンク情報であるかによって、当該アップリンク情報を送信した車両の走行車線を把握するようになっており、受信した当該アップリンク情報に含まれる車両IDと車線2とを対応付けた車線通知情報を作成して車載装置5に対して送信する。そして、その車線通知情報を受信した車載装置5は、自己の車両IDを基に自身の走行車線が車線2であると認識することができる。
【0042】
ここでは、同一方向に進行する車線の車線数を2つとしているが、1つでも良いし3つ以上であっても良い。また、車両10がどの車線を走行していても、路上通信装置2は上述と同じ動作を実行することができる。
【0043】
図4は路上処理装置3の構成の一例を示すブロック図である。路上処理装置3は全体の処理を制御する制御部301、路上装置通信部302、中央装置通信部303、記憶部304、アップリンク情報判定部305などを備える。
【0044】
路上処理装置3は通信回線を通じて中央装置4と情報をやりとりする。中央装置通信部303は、中央装置4との間でデータを送受信する機能を有し、中央装置4の送信する渋滞情報等を受け取って記憶部304に記憶する。また、路上通信装置2が車両から受信するアップリンク情報等を中央装置4宛に送信する。なお、各装置との通信においては、通信回線を通じて機器同士を直接接続して通信しても良いし、ルータ等のような通信機器を介して通信しても良い。
【0045】
路上装置通信部302は、路上通信装置2との間で情報をやりとりする。路上通信装置2に対しては、中央装置4から受信し記憶部304に格納してある渋滞情報等を送信する。また、路上通信装置2から送られてくるアップリンク情報を受け取り、記憶部304に格納する。
【0046】
アップリンク情報判定部305は、このアップリンク情報に含まれる軌跡情報に基づいて車両10の走行方向を判定する。すなわち、アップリンク情報判定部305は、軌跡情報に含まれる直近の2組の測位位置及び測位時刻から車両10の走行方位を算出し、これと記憶部304に記憶している車線1又は車線2の方位とを比較する。車両10の走行方位と当該車両10が走行している車線2の方位との差が所定値(例えば、45度)以下であれば、車両10の走行方位と車両2の方位とが略一致すると判定し、車両10は道路R上を交差点Iに向かって走行する車両であると判定する(すなわち、車両10は道路Rにおける車両の進行方位に沿って走行する車両であると判定する)。
【0047】
図5は車線2の方位と車両10の走行方位との比較を説明するための説明図である。図5において、矢印Aは車線2の方位を示しており、北向きを0度として時計回りに0度以上360度未満の値で表すと、270度となっている。また、図5において、6つの黒丸印は車両10の軌跡情報を示しており、それぞれ測位位置と測位時刻のペア((X1,Y1),T1)、((X2,Y2),T2)、((X3,Y3),T3)、((X4,Y4),T4)、((X5,Y5),T5)、(X6,Y6,T6)から構成されている。X1〜X6は測位位置の経度、Y1〜Y6は測位位置の緯度を示しており、T1〜T6は測位時刻を示している。T1が最も新しく、T2、T3、T4、T5、T6の順に古くなっている。軌跡情報に含まれる直近の2組の測位位置及び測位時刻は((X1,Y1),T1)、((X2,Y2),T2)であるから、これらから車両10の走行方位を算出すると、図5における矢印Bのようになり、北向きを0度として0度以上360度未満の値で表すと、273度となる。車両10の走行方位と車線2の方位との差は3度であるから、アップリンク情報判定部305は、車両10の走行方位と車線2の方位とが略一致すると判定する。
【0048】
なお、アップリンク情報判定部305は、軌跡情報に含まれる直近の2組の測位位置及び測位時刻から車両10の走行方位を算出する構成に限られず、軌跡情報に含まれる任意の2組の測位位置及び測位時刻(例えば、図5の((X1,Y1),T1)と((X3,Y3),T3))から車両10の走行方位を算出しても良いし、軌跡情報に含まれる任意の2組の測位位置及び測位時刻から求めた車両10の走行方位と他の任意の2組の測位位置及び測位時刻から求めた車両10の走行方位とを平均(例えば、((X1,Y1),T1)、((X2,Y2),T2)から求めた車両10の走行方位と((X2,Y2),T2)、((X3,Y3),T3)から求めた車両10の走行方位とを平均)して車両10の走行方位としても良い。
【0049】
中央装置通信部303は、アップリンク情報判定部305が道路R上を交差点Iに向かって走行する車両であると判定した車両10からのアップリンク情報のみを、中央装置4宛に送信する。
【0050】
なお、中央装置通信部303は、道路R上を交差点Iに向かって走行する緊急車両からのアップリンク情報に限り、中央装置4宛に送信する構成であっても良いし、緊急車両からのアップリンク情報のみについて車両の走行方向を判断するようにし、その判断結果に応じてアップリンク情報を中央装置4宛に送信し、緊急車両以外からのアップリンク情報は無条件で中央装置4宛に送信する構成であっても良い。
【0051】
以上のように、路上処理装置3は、路上通信装置2が受信したアップリンク情報に含まれる軌跡情報に基づいて、当該アップリンク情報を送信した車両10の走行方向を正確に判定することができ、その判定結果に応じて中央装置4にアップリンク情報を送信できるようになる。
【0052】
なお、路上処理装置3は、アップリンク情報に含まれる軌跡情報から車両10の走行速度を算出することができるため、その走行速度を前記アップリンク情報と共に中央装置4や交通信号機1に送信しても良い。なお、車両10の走行速度は、例えば、軌跡情報に含まれる直近の2組(又は任意の2組)の測位位置及び測位時刻を用い、これらの測位位置間の距離と測位時刻の差に基づいて算出することができる。
【0053】
図6は中央装置4の構成の一例を示すブロック図である。中央装置4は、全体の処理を制御する制御部401、通信部402、信号制御指令作成部403、交通状況取得部404、緊急車両情報作成部405、記憶部406などを備える。
【0054】
通信部402は、通信回線を通じて路上に設置された各種装置と情報交換を行うための通信機能を備えるものである。通信部402は、路上処理装置3から受信したアップリンク情報等を受け取って記憶部406に記憶することや、路上通信装置2に記憶させるべき渋滞情報等を路上処理装置3宛に送信することができる。
【0055】
緊急車両情報作成部405は、路上処理装置3から、交差点Iに向かって走行する車両10のアップリンク情報を受信したら、そのアップリンク情報を送信した車両10が緊急車両であるか否かを、当該情報に含まれる緊急車両であることを示す情報に基づいて判断し、当該車両10が緊急車両と判断される場合には交差点Iに設置された交通信号制御機1aに対して、緊急車両が接近した旨を通知する緊急車両接近情報を送信する。
【0056】
なお、路上処理装置3から前記緊急車両の走行速度も受信できている場合には、当該走行速度も緊急車両接近情報と共に交通信号制御機1aに対して送信することができる。
【0057】
緊急車両情報作成部405は、前記緊急車両接近情報を送信した後、前記緊急車両が交差点Iを通過し終えたことが分かった時点で緊急車両通過情報を作成し、その緊急車両通過情報を通信部402を介して交通信号制御機1aに送信する。
【0058】
なお、緊急車両が交差点Iを通過し終えたか否かは、例えば、交差点Iを通過後に走行しうる複数の道路上に設置された光ビーコン等の路上通信装置(図示せず)のうちのいずれかの路上通信装置から、前記緊急車両が通過した旨の情報を受信すること等により把握することができる。
【0059】
なお、路上処理装置3と中央装置4がそれぞれ有する機能を各装置に配置する方法は、ここに記載したケースに限られない。例えば、路上処理装置3のアップリンク情報判定部305によって実現される車両の走行方向判定機能を中央装置4に持たせても良い。この場合、路上処理装置3は、路上通信装置2から受信するアップリンク情報を無条件で即座に中央装置4に送信すれば良く、中央装置4はそれぞれの路上通信装置2が設置されている道路の各車線の方向を記憶部406に記憶しておけば良い。また、路上処理装置3と中央装置4の双方が有する機能を全て備えた中央装置を置き、その中央装置と路上通信装置2がそれぞれ通信する構成であっても良い。
【0060】
通信部402は、交通信号制御機1aを含む複数の交通信号制御機との間で情報を交換するための通信機能をも有しており、後述する信号制御指令情報を随時交通信号制御機に送信し、各交通信号制御機の動作に関する指示を与える。
【0061】
交通状況取得部404は、道路上に設置された1又は複数の車両感知器(図示せず)から送信されてくる感知器情報を収集し、記憶部406に交通情報データベースとして蓄積する。そして、これらの感知器情報に基づいて車両感知器の設置された道路やその周辺における交通状況を把握する。この場合、交通状況の把握は例えば5分毎や交通信号機のサイクル時間毎等の周期で行われる。前記交通状況の把握に当たっては、各道路における交通量、占有時間、平均走行速度、車群の待ち行列長等の指標が用いられる。
【0062】
例えば、ある交差点では主道路側と従道路側の交通量の比率が大幅に変動したことや、別の交差点では流入交通量が交差点の飽和交通流率を上回り飽和状態に達していること等の状況を把握する。
【0063】
信号制御指令作成部403は、前記交通状況に基づいて、各交差点の現示に割り当てる青時間、サイクル長やオフセット等を決定し、これらを含む信号制御指令情報を作成する。前記青時間の割当ての決定に当たっては、例えば、交差点における流入路ごとの飽和度や負荷率を算出し、それらの比率に応じて割当てを決定する方法が考えられる。
【0064】
当該信号制御指令情報を受信した各交通信号制御機は、その信号制御指令情報に基づいて信号制御プランを決定する。
【0065】
また、前記信号制御指令情報においては、各交通信号制御機に右折感応制御やジレンマ感応制御等の地点感応制御を実行させるかどうかに関する情報も含まれている。この場合、交通信号制御機1aには、緊急車両の接近に応じて緊急車両を優先的に通過させるFAST制御機能が備えられているから、交通信号制御機1aに送信する信号制御指令情報では、当該FAST制御の実行可否が指定される。
【0066】
なお、中央装置4は、複数台のコンピュータ装置の組み合わせによって実現されていても良く、例えば、路上通信装置2と通信する機能を備えたコンピュータ装置(情報提供装置)と交通信号制御機と通信するコンピュータ装置(信号制御装置)をそれぞれ設け、必要に応じてこれらのコンピュータ装置間でデータをやりとりするようにしても良い。
【0067】
図7は交通信号機1の交通信号制御機1aの構成の一例を示すブロック図である。交通信号制御機1aは、全体の処理を制御する制御部101、信号制御プラン作成部102、中央装置通信部103、FAST制御部104、信号灯器制御部105、記憶部106などを備える。
【0068】
交通信号制御機1aは、通信回線を通じて中央装置4と情報をやりとりしており、中央装置通信部103は、中央装置4の送信する信号制御指令情報を受け取る機能を備える。
【0069】
信号制御プラン作成部102は、受信した信号制御指令情報に基づいて1サイクルの開始直前に当該サイクルの信号制御プランを作成して記憶部106に信号制御プランテーブルとして格納する。
【0070】
信号灯器制御部105は作成された当該信号制御プランに従って信号灯器1bを制御する。
【0071】
FAST制御部104は、受信した信号制御指令情報においてFAST制御を許可されている場合には、中央装置通信部103が中央装置4から緊急車両接近情報を受信したら、その時点で現在の信号灯器1bの表示状態を確認し、緊急車両が安全に交差点を通過できるように信号制御プランを動的に変更する機能を有する。
【0072】
具体的には、例えば、緊急車両接近情報受信時の信号灯器1bが青信号を表示しているのであれば、当該青信号を可能な限り延長するように、前記信号制御プランに格納された当該青信号の秒数を増大させる。
【0073】
一方、例えば、緊急車両接近情報受信時の信号灯器1bが赤信号を表示しているのであれば、当該赤信号を可能な限り短縮するように、前記信号制御プランに格納された当該赤信号の秒数を減少させる。
【0074】
なお、FAST制御部104が信号制御プランを変更した後、中央装置4から緊急車両通過情報を受信したら、FAST制御部104は、変動させた青信号又は赤信号の秒数を再び変更する。
【0075】
例えば、青信号の秒数を増大させ、当初よりも長く青信号を表示したのであれば、緊急車両通過を確認できた時点(緊急車両通過情報を受信した時点)で当該青信号の打ち切るようにする。また赤信号の表示秒数を当初よりも短縮していた場合、緊急車両通過を確認できた時点(緊急車両通過情報を受信した時点)で依然として赤信号表示中であれば、当該赤信号の秒数を当初の秒数に戻し、交差側に表示する青信号の時間を当初の信号制御プラン通りに確保する。
【0076】
なお、前記緊急車両の走行速度を取得できている場合には、路上通信装置2の路車間通信領域Q1又はQ2から交差点Iまでの距離と前記走行速度とから、緊急車両が安全に交差点Iを通過し終えることが可能な程度に、必要な範囲で青信号の延長等をすることができる。そうすることで、緊急車両通過情報を受信しなくても、緊急車両の走行支援を適切に行うことが可能になる。
【0077】
このように、緊急車両の接近に応じて当該緊急車両の通過を支援すると共に、緊急車両が通過した後はすかさず当初のプラン通りの信号制御に復帰するように信号灯器1bを制御する機能を備えることで、緊急車両の通過による交通流への影響を極力小さくすることができるようになる。
【0078】
なお、本発明における路上処理装置3や交通信号制御機1a等の各種装置は、一の筐体内に納められていても良いし、複数の筐体の組み合わせによって実現されても良い。また、これらは、それぞれ1つのコンピュータ装置によって実現されていても良いし、複数のコンピュータ装置を組み合わせて実現されていても良い。
【0079】
なお、上述の実施形態では、路上処理装置3が緊急車両の走行方向を判定した上で、その判定結果に基づいて、中央装置4が交通信号制御機1aに対して緊急車両接近情報を送信する構成であったが、これに限定されるものではなく、路上処理装置3と交通信号制御機1aが直接通信可能であれば、路上処理装置3が緊急車両接近情報を作成して交通信号制御機1aに送信する構成であっても良い。
【0080】
また、上述の実施形態では、車両の走行方向を判別して緊急車両の走行支援を行う方法について説明したが、路上処理装置3等によって実現される車両の走行方向判別機能は、その他さまざまなアプリケーションシステムに応用可能である。例えば、道路の上り方向と下り方向を区分する中央線の位置が時間帯によって変動するシステムにおいては、時間帯に応じてある車線における車両の進行方向が変化することになるが、当該車線上を走行する車両から取得した軌跡情報に基づいて当該車両の走行方向を判別することで、中央線の位置が変化しているにも関わらずそのことに気が付かずに逆送する車両に対して警告を発することができるようになる。
【0081】
また、上述の実施形態のようにアップリンク情報に含まれる軌跡情報に基づいて車両の走行速度を取得することで、信号機が青から黄信号に変化するタイミングにおいて、高速走行中の車両のドライバがジレンマ状態に陥ることを回避するように交通信号を制御するいわゆるジレンマ感応制御等を実施することも可能である。また、軌跡情報に基づいて車両の加速度を取得するようにしても良く、取得した当該加速度を用いてより一層正確に交差点Iへの到着時刻を予測して、当該予測結果に基づいて緊急車両走行支援システムを実現しても良い。
【0082】
実施の形態2:
上述の実施形態では、車載装置5が複数の測位位置及び測位時刻を時系列に軌跡情報として蓄積し、車載装置5が路上通信装置2の路車間通信領域Q1又はQ2を通過する際に当該軌跡情報を路上通信装置2に送信する構成であったが、これに限定されるものではない。車載装置5が測位位置及び測位時刻を測位の都度、路上通信装置2に送信する構成であっても良い。
【0083】
図8は、本発明の実施の形態2に係る交通システムの概要を示す模式図である。路上通信装置2は、UHF帯若しくはVHF帯などの無線LAN等の中域通信機能を備える通信装置である。なお、路上通信装置2は、携帯電話、PHS、多重FM放送若しくはインターネット通信などの広域通信機能を備える通信装置であっても良い。
【0084】
路上通信装置2は、道路R上を走行する全ての車両10と通信可能である。車載装置5は、時々刻々(例えば、0.5秒、1秒等の経過の都度、5m、10m等の移動の都度など)測位し(測位位置を求め)、測位位置と測位時刻とを関連付けた位置情報を当該車両10の車両IDの情報とともに路上通信装置2に送信する。路上通信装置2は車載装置5から車両IDと位置情報を受信すると、路上処理装置3に送信する。
【0085】
路上処理装置3は、路上通信装置2から受信した車両IDと位置情報を車両IDごとに分類して、位置情報を時系列に並べ替え、軌跡情報として記憶部304に蓄積する。路上処理装置3は、記憶部304に道路Rの各車線の方位を記憶部304に記憶している。路上処理装置3は、実施の形態1と同様に、軌跡情報から車両10の走行方位を算出し、その走行方位と道路Rの各車線の方位とを比較し、車両10が交差点Iに向かって走行する車両であるか、あるいは交差点Iから遠ざかる方向に走行する車両であるかを判定する。
【0086】
例えば、記憶部304に記憶されている道路Rの車線1、車線2、車線3、車線4の方位がそれぞれ270度、270度、90度、90度(北向きを0度として時計回りに0度以上360度未満の値で表したとする)であるとする。算出した車両10の走行方位が273度である場合、車線1、車線2の方位との差は3度であり、所定値(例えば、45度)以下であるから、車両10は車線1又は車線2を走行する車両であり、交差点Iに向かって走行する車両であると判定する。一方、算出した車両10の走行方位が95度である場合、車線3、車線4の方位との差は5度であり、所定値(例えば、45度)以下であるから、車両10は車線3又は車線4を走行する車両であり、交差点Iを遠ざかる方向に走行する車両であると判定する。
【0087】
路上処理装置3は、道路R上を交差点Iに向かって走行する車両であると判定した車両10の車両ID及び軌跡情報のみを、中央装置4宛に送信する。
【0088】
以上のように、路上処理装置3は、路上通信装置2が受信した位置情報を時系列に並べ替えた軌跡情報に基づいて、当該位置情報を送信した車両10の走行方向を正確に判定することができ、その判定結果に応じて中央装置4に軌跡情報を送信できるようになる。
【0089】
開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明に係る交通システムの概要を示す模式図である。
【図2】車載装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図3】路上通信装置の通信制御装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図4】路上処理装置3の構成の一例を示すブロック図である。
【図5】車線の方位と車両の走行方位との比較を説明するための説明図である。
【図6】中央装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図7】交通信号機の交通信号制御機の構成の一例を示すブロック図である。
【図8】本発明の実施形態2に係る交通システムの概要を示す模式図である。
【符号の説明】
【0091】
1 交通信号機
1a 交通信号制御機
1b 信号灯器
101 制御部
102 信号制御プラン作成部
103 中央装置通信部
104 FAST制御部
105 信号灯器制御部
106 記憶部
2 路上通信装置
2a 通信制御装置
2b、2b1、2b2 通信部
201 制御部
202 送受信部
203 記憶部
204 路車間通信部
205 アップリンク情報作成部
3 路上処理装置
301 制御部
302 路上装置通信部
303 中央装置通信部
304 記憶部
305 ダウンリンク情報判定部
4 中央装置
401 記憶部
402 通信部
403 信号制御指令作成部
404 交通状況取得部
405 緊急車両情報作成部
406 記憶部
5 車載装置
501 制御部
502 通信部
503 測位部
5031 GPS
5032 距離センサ
5032 方位センサ
504 操作部
505 表示部
506 音声出力部
507 記憶部
10 車両
I 交差点
Q1、Q2 路車間通信領域
R 道路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路上を移動する車両の異なる時点での位置情報を取得する取得手段と、
前記取得した位置情報に基づいて前記車両の移動方位を算出する算出手段と、
前記算出した移動方位と前記道路の方位とに基づいて前記車両が前記道路における車両の進行方向に沿って移動しているか否かを判定する判定手段とを備えること
を特徴とする交通システム。
【請求項2】
前記交通システムは、
前記車両が緊急車両であることを識別可能な車両識別情報を取得する第二取得手段と、
前記取得した車両識別情報に基づいて前記車両が緊急車両であるか否かを判定する第二判定手段と、
前記道路における車両の進行方向の下流側に存在する交差点に設置された信号灯器を制御する交通信号制御手段とをさらに備え、
前記交通信号制御手段は、
前記判定手段が前記車両が前記道路における車両の進行方向に沿って移動していると判定し、かつ、前記第二判定手段が前記車両が緊急車両であると判定した場合に、前記車両の前記交差点への接近に応じて前記信号灯器を制御するための信号制御パラメータを決定すること
を特徴とする請求項1に記載の交通システム。
【請求項3】
前記交通システムは、
前記取得した位置情報に基づいて前記車両の走行速度を算出する走行速度算出手段をさらに備え、
前記交通信号制御手段は、
前記取得した前記車両の走行速度に基づいて、前記車両に対して表示する前記信号制御パラメータを決定すること
を特徴とする請求項2に記載の交通システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−265795(P2009−265795A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−112217(P2008−112217)
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】