交通信号制御装置及びコンピュータプログラム
【課題】 暴走車両の速度抑制をより確実に行える交通信号制御装置を提供する。
【解決手段】 本発明は、特定地点の交差点Jiを対象としてその交通信号機1の信号灯色を個別に切り替えるミクロ制御を実行する制御手段401Bを備えた交通信号制御装置に関する。制御手段401Bは、走行を抑止させたい対象車両5Aがその下流側の交差点Jiに到着するタイミングで当該交差点Jiを通行可能か否かを判定する第1判定と、この第1判定が肯定的である場合に当該交差点Jiでの対象車両5Aが流入する道路における青時間を短縮可能か否かを判定する第2判定とを行う。また、制御手段401Bは、交差点Jiにおける第2判定の判定結果が否定的である場合に、対象車両5Aが走行する方向を基準としたときの当該交差点Jiの下流側の次の交差点Jkについて、第1判定と第2判定を実行する。
【解決手段】 本発明は、特定地点の交差点Jiを対象としてその交通信号機1の信号灯色を個別に切り替えるミクロ制御を実行する制御手段401Bを備えた交通信号制御装置に関する。制御手段401Bは、走行を抑止させたい対象車両5Aがその下流側の交差点Jiに到着するタイミングで当該交差点Jiを通行可能か否かを判定する第1判定と、この第1判定が肯定的である場合に当該交差点Jiでの対象車両5Aが流入する道路における青時間を短縮可能か否かを判定する第2判定とを行う。また、制御手段401Bは、交差点Jiにおける第2判定の判定結果が否定的である場合に、対象車両5Aが走行する方向を基準としたときの当該交差点Jiの下流側の次の交差点Jkについて、第1判定と第2判定を実行する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定地点の交差点を対象としてその交通信号機の信号灯色を個別に切り替えるミクロ制御を実行する交通信号制御装置と、その制御を当該装置に実行させるためのコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
交通信号機に対する信号制御方式を、信号制御パラメータ(スプリット、サイクル長及びオフセット等)の設定方式の視点で大別すると、時間帯に応じて信号制御パラメータを設定する定周期制御と、交通状況に応じて信号制御パラメータを設定する交通感応制御の2種類がある。
このうち、後者の交通感応制御は、端末の交通信号制御機ごとに行う端末感応制御と、路線系統制御或いは面制御される複数の交差点を対象に信号制御パラメータを変化させる中央感応制御に分類される。
【0003】
一方、暴走車両に対する速度抑制を目的とした端末感応制御の1つとして、一定速度以上の暴走車両を車両感知器で検出した場合に、その下流側の交通信号機での青時間の短縮又は赤時間の延長を行い、暴走車両を赤信号で停止させる高速感応制御がある(非特許文献1の74〜76頁参照)。
この高速感応制御によれば、暴走車両が検出されると、その下流側の交差点で暴走車両を赤信号で停止する可能性が高まり、暴走車両の走行速度を抑制することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「改訂 交通信号の手引き」 編集・発行 社団法人 交通工学研究会(16〜18頁、74〜76頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記高速感応制御では、暴走車両の発生地点の直ぐ下流側にある交差点のみで実行されるため、暴走車両がこの交差点を通過してしまうと、それ以後は暴走車両を交通信号機によって速度抑制する手立てがない。
本発明は、このような実情に鑑み、暴走車両の速度抑制をより確実に行える交通信号制御装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 本発明の交通信号制御装置は、特定地点の交差点を対象としてその交通信号機の信号灯色を個別に切り替えるミクロ制御を実行する制御手段を備えた交通信号制御装置であって、前記制御手段は、走行を抑止させたい対象車両がその下流側の前記交差点に到着するタイミングで当該交差点を通行可能か否かを判定する第1判定と、この第1判定が肯定的である場合に当該交差点での前記対象車両が流入する道路における青時間を短縮可能か否かを判定する第2判定とを行い、前記交差点における前記第2判定の判定結果が否定的である場合に、前記対象車両が走行する方向を基準としたときの当該交差点の下流側の次の前記交差点について、前記第1判定と前記第2判定を実行することを特徴とする。
【0007】
本発明の交通信号制御装置によれば、上記制御手段が、交差点における第2判定の判定結果が否定的である場合でも、対象車両が走行する方向を基準としたときの当該交差点の下流側の次の交差点について第1判定と第2判定を実行するので、暴走車両の発生地点の直ぐ下流側の交差点でしか青時間の短縮等を実行しない従来の高速感応制御の場合に比べて、暴走車両の速度抑制をより確実に行うことができる。
【0008】
(2) 本発明の交通信号制御装置において、青時間短縮方式の場合の前記第2判定は、具体的には、前記交差点についての現時点から赤開始時刻までの時間が予め設定された最大青短縮時間以下である場合に、当該交差点での青時間の短縮が可能と判定するものである。
この場合、当該交差点における対象車両が走行する方向の青時間の短縮秒数を、現時点から赤開始時刻までの時間に所定の余裕時間を加えた値にすることにより、青短縮によって対象車両を当該交差点で停止させることができる。なお、上記余裕時間とは、車両が余裕をもって停止線前で停止できるように、交差点の手前で赤表示に遭遇するように設定されたものである。
【0009】
(3) また、本発明の交通信号制御装置において、第1判定が肯定的である場合の第2判定は、当該交差点での対象車両が流入する道路における「青時間を短縮可能」かではなく、当該交差点での対象車両が流入する道路における「赤時間を延長可能」か否かを判定するものであってもよい。
この場合においても、対象車両が走行する方向を基準としたときの当該交差点の下流側の次の交差点について第1判定と第2判定を実行すれば、暴走車両の発生地点の直ぐ下流側の交差点でしか青時間の短縮を実行しない従来の高速感応制御の場合に比べて、暴走車両の速度抑制をより確実に行うことができる。
【0010】
(4) 本発明の交通信号制御装置において、赤時間延長方式の場合の前記第2判定は、具体的には、前記交差点についての青開始時刻に予め設定された最大赤延長時間を加えた時刻が、前記対象車両が当該交差点に到達する予測時刻よりも遅い場合に、当該交差点での赤時間の延長が可能と判定するものである。
この場合、当該交差点における対象車両が走行する方向の赤時間の延長秒数を、予め設定された上記最大赤延長時間の値にすることにより、赤延長によって対象車両を当該交差点で停止させることができる。
【0011】
(5)(6) 本発明のコンピュータプログラムは、本発明の交通信号制御装置によるミクロ制御をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、本発明の交通信号制御装置と同様の作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0012】
以上の通り、本発明によれば、交差点における第2判定の判定結果が否定的である場合でも、当該交差点の下流側の次の交差点について第1判定と第2判定を実行するので、暴走車両の速度抑制をより確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】交通信号制御システムの概要を示す全体構成図である。
【図2】交通信号機の構成を示すための道路平面図である。
【図3】中央装置の内部構成を示す機能ブロック図である。
【図4】交通信号制御機の内部構成を示す機能ブロック図である。
【図5】第1段階の抑止制御のイメージ図である。
【図6】第2段階の抑止制御のイメージ図である。
【図7】第3段間の抑止制御のイメージ図である。
【図8】制御エリアの設定状態を示す道路地図である。
【図9】制御エリアと対象交差点との関係を示す道路線形図である。
【図10】重要交差点に対するスプリット制御を示すものであり、(a)は重要交差点の道路線形図、(b)はスプリット制御の内容を示す表である。
【図11】一般交差点に対するスプリット制御を示すものであり、(a)は一般交差点の概略構成図、(b)はスプリット制御の内容を示す表である。
【図12】通常オフセットの場合の走行軌跡の一例を示す時間距離グラフである。
【図13】逆優先オフセットの場合の走行軌跡の一例を示す時間距離グラフである。
【図14】サイクル長制御の内容を示す道路線形図である。
【図15】全赤制御の内容を示す表である。
【図16】各制御種別の特徴を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の実施形態を説明する。
〔システムの全体構成〕
図1は、本発明を採用した交通信号制御システムの全体構成を示している。また、図2は、同システムの交通信号機1の構成を示すための道路平面図である。
図1及び図2に示すように、本実施形態の交通信号制御システムは、交通信号機1、車両感知器等よりなる路側センサ3、中央装置4、車両5、VICS(Vehicle Information and Communication System:「VICS」は登録商標)センター9などを含む。
【0015】
図1及び図2において、符号S1〜S3で示される各種の信号又は情報のうち、S1は中央装置4が生成する、交通信号機1の信号灯色の切り替えタイミングを制御するための信号制御指令である。
また、S2はVICSセンター9が生成するVICS情報である。このVICS情報S2には、渋滞情報、リンク旅行時間、事故・故障車・工事情報、速度規制・車線規制情報、駐車場の位置、駐車場・サービスエリア・パーキングエリアの満車・空車情報などが含まれている。
【0016】
更に、S3は路側センサ3が計測した路側計測情報(例えば、車両5の通過台数)である。
なお、以下において、道路を走行する車両5のうち、符号5Aは、法定速度を超過して走行する暴走車両や、犯人が搭乗する逃走車両及び盗難車両といった、警察が取り締まり又は逮捕のために走行を抑止させたい対象車両を表し、符号5Bは、警察車両を表すものとする(図5〜図7参照)。
【0017】
図1に示す交通信号制御システムにおいて、各交通信号機1は、複数の交差点Ji(i=1〜12)のそれぞれに設置され、電話回線等の通信回線6を介してルータ7に接続されている。
このルータ7は交通管制センター内の中央装置4に接続され、中央装置4は自装置の管轄エリアに含まれる、各交差点Jiの交通信号制御機1aとLAN(Local Area Network)を構成している。
【0018】
従って、中央装置4は各交通信号制御機1aと双方向通信が可能であり、各交通信号機1は他の交通信号機1とも双方向通信が可能である。なお、中央装置4は、交通管制センターではなく道路上に設置してもよい。
また、図1では、図示を簡略化するために、各交差点Jiに信号灯器1bが1つだけ描写されているが、実際の交差点Jiには、例えば図2に示すように、互いに交差する道路の上り下り用として4つの信号灯器1bが設置されている。
【0019】
路側センサ3は、例えば、直下を通行する車両5を超音波感知する車両感知器や、インダクタンス変化で車両5を感知するループコイル、或いは、カメラの画像を画像処理して交通量や車両速度を計測する画像感知器等よりなり、交差点Jiに流入する車両台数や車両速度を計測する目的で、管轄エリア内の一部の道路に設置されている。
この路側センサ3は、対応する交差点Jiの上流側に設置されており、通信回線8を介して交通信号制御機1aと繋がっている。路側センサ3が検出した路側計測情報S4は、交通信号制御機1aで中継され、通信回線6を介して中央装置4に送信される。
【0020】
〔中央装置〕
図3は、中央装置4の内部構成を示す機能ブロック図である。
図3に示すように、中央装置4は、制御部401、表示部402、通信部403、記憶部404及び操作部405を含んでいる。
中央装置4の制御部401は、ワークステーション(WS)やパーソナルコンピュータ(PC)等よりなり、交通信号制御機1aや路側センサ3等からの各種の計測情報の収集・処理(演算)・記録、信号制御及び情報提供を統括的に行う。制御部401は、内部バスを介して上記ハードウェア各部と繋がっており、これら各部の動作も制御する。
【0021】
本実施形態の制御部401は、マクロ制御部401Aと、ミクロ制御部401Bと、エリア設定部401Cと備えている。
なお、本明細書において、「マクロ制御」とは、エリア全体の所定時間(例えば、1分、2.5分及び5分等)ごとの累積交通量等に基づいて、各交通信号機1についての最適な信号制御パラメータを決定する制御手法のことをいう。
また、「ミクロ制御」とは、車両感知情報によって交通状況の変化を検出し、これにほぼリアルタイムに即応して下流側の交通信号機1の信号灯色を切り替える制御手法のことをいう。このため、ミクロ制御の制御周期は1秒以下である。
【0022】
マクロ制御部401Aは、自身のネットワークに属する交差点Jiの交通信号機1に対して、同一道路上の交通信号機1群を調整する系統制御や、この系統制御を道路網に拡張した広域制御(面制御)を行う。
また、本実施形態のマクロ制御部401Aは、路側計測情報S3に基づく交通状況に応じて、スプリット、サイクル長及びオフセット等の信号制御パラメータを自動的に更新するプログラム形成制御(MODERATO制御)を実行可能である。
【0023】
上記MODERATO制御では、近飽和の交通状態に対応するために、負荷率という交通指標を用いて、各交通信号機1に最適な信号制御パラメータがサイクルごとに自動生成されるようになっている。
例えば、スプリット制御の場合には、各交差点Jiについて、現示ごとの各流入路の負荷率の最大値を求め、現示負荷率の比で正規化されたスプリットを配分する負荷率比配分方式が採用される。上記負荷率ρは、車両の流入流量Q(台/時)、待ち行列台数E(台/時)及び飽和交通流率s(台/時)を用いて、ρ=(Q+E)/s で定義される。
【0024】
また、MODERATO制御では、隣接するサブエリア(重要交差点を含む複数の交差点よりなる、サイクル長制御の制御単位)を、交通状況に応じて結合又は分割するサイクル長制御が行われる。
このサブエリアの結合判定には、サブエリアごとの共通のサイクル長を求め、隣接するサブエリアのサイクル長の算出結果の差が予め設定された閾値よりも小さい場合に、これらのサブエリアを1つのサブエリア構成として結合し、サイクル長が大きい方のサイクル長で制御されるようになっている。
【0025】
なお、サブエリアごとのサイクル長は、例えばWebsterの実験式を拡張した次式を用いて、交差点負荷率ρに基づいて直接計算される。
サイクル長C=(a1×L+a2)/(1−a3×ρ)
ただし、Lは当該交差点の損失時間であり、a1〜a3は所定の係数である。
【0026】
更に、MODERATO制御では、同一サブエリア内の各路線について、サイクル長、スプリット及び往復方向別交通量(需要率)を用いて所定の交通シミュレーションを行うことにより、遅れや停止回数を最小化するオフセットを自動生成する機能(TRANSYT)が備わっている。
また、本実施形態のマクロ制御部401Aは、交差点Jiの特定の流入路に対する交通量を強制的に変更してオフセットを自動生成することにより、その特定方向に対して高い系統効果を与える優先オフセットを実行可能である。
【0027】
一方、ミクロ制御部401Bは、特定地点の交差点Jiを対象としてその交通信号機1の信号灯色を個別に切り替えるミクロ制御を実行可能である。本実施形態のミクロ制御部401Bは、対象車両5Aの走行を抑止させるための抑止制御として、「高速感応制御」と「全赤制御」とを実行可能である。
また、本実施形態では、マクロ制御部401Aも、対象車両5Aの走行を抑止させるための抑止制御を実行可能であり、この場合の抑止制御は、複数の交差点Jiについて、対象車両がそれらの交差点Jiにおいて赤信号に遭遇し易くなるように、信号制御パラメータを変化させるものである。
【0028】
具体的には、本実施形態の制御部401は、マクロ制御部401Aによる抑止制御は、対象車両5Aの走行方向に対応する流入路のスプリットを低下させる「スプリット制御」、対象車両が交差点Jiごとに赤信号で停止するようにオフセットを変更する「オフセット制御」、及び、これらの制御を前提として行われる「サイクル長制御」よりなるが、かかる抑止制御の詳細については後述する。
【0029】
また、制御部401のエリア設定部401Cは、対象車両5Aが走行する可能性がある制御エリアCAを設定するものであり、マクロ制御部401Aは、予め設定された当該制御エリアCAに含まれる交差点Jiについて、上記のスプリット制御やオフセット制御等の抑止制御を実行する。なお、この制御エリアCAの設定方法についても、後述する。
【0030】
中央装置4の通信部403は、通信回線6を介してLAN側と接続された通信インタフェースであり、所定時間ごとに信号灯器1bの灯色切り替えタイミングに関する信号制御指令S1と、VICSセンター9から取得した渋滞情報等を含むVICS情報S2とを各交通信号制御機1aに送信している。
信号制御指令S1は、信号制御パラメータの演算周期(例えば、1.0〜2.5分)ごとに送信され、VICS情報S2は例えば5分ごとに送信される。
【0031】
なお、中央装置4から送信されたVICS情報S2は、図示しない光ビーコンや電波ビーコン等により、車両5の車載装置(図示せず)に送られる。
また、中央装置4の通信部403は、各交通信号制御機1aから、路側センサ3が検出した路側計測情報S3をほぼリアルタイム(例えば、0.1〜1.0秒周期)で受信している。
【0032】
中央装置4の記憶部404は、ハードディスクや半導体メモリ等から構成されており、前記マクロ制御(MODERATO制御)やミクロ制御を行う制御プログラムと、この制御に用いる交通指標の演算プログラム等を記憶している。
また、記憶部404は、制御部401が生成した信号制御指令S1と、VICSセンター9から取得したVICS情報S2と、LAN側から取得した路側計測情報S3とを一時的に記憶する。
【0033】
記憶部205は、道路地図データも記憶している。この道路地図データには、各交差点JiのID番号と交差点位置とを対応付けた交差点データが含まれている。
また、道路地図データには、リンクIDと、リンクの始点・終点・補間点(道路が折れ曲がる地点に対応)それぞれの位置と、リンクの始点に接続するリンクのリンクIDと、リンクの終点に接続するリンクのリンクIDと、最適経路の特定に使用するリンクコストとを対応付けたリンクデータも含まれている。
【0034】
上記リンクコストは、例えば、リンクとその終点に接続するリンクの組み合わせの数だけ用意されており、リンクの始点に進入してから当該リンクの終点を退出し、次に接続するリンクの始点に進入するまでに要する時間が設定されている。
すなわち、リンクコストには、リンクの始点から終点までを走行するのに要するコスト(時間)と、リンクの終点から次のリンクの始点までを走行するのに要するコスト(時間)、つまり、交差点を通過するのに要するコストが含まれている。
【0035】
中央装置4の表示部402は、自身が管理する管轄エリアの道路地図と、この道路地図上のすべての交通信号機1や光ビーコン11等の位置が表示された表示画面により構成され、中央装置4のオペレータに渋滞や事故等の交通状況を報知するものである。
中央装置4の操作部405は、キーボードやマウス等の入力インタフェースよりなり、この操作部405によって中央装置4のオペレータが上記表示部402に対する表示切り替え操作等を行えるようになっている。
【0036】
〔交通信号機〕
次に、図2及び図4を参照して、交通信号機1の構成を説明する。なお、図2では、交通量の多い主道路RM1,RM2と交通量の少ない従道路RS1,RS2とが合流した交差点Jiを例示している。
図2に示すように、交通信号機1は、主道路RM1,RM2及び従道路RS1,RS2のそれぞれに設置された4つの信号灯器1bと、この信号灯器1bと通信回線8を介して接続された交通信号制御機1aとを備えている。
【0037】
交通信号制御機1aは、中央装置4から信号制御指令S1を受信し、当該信号制御指令S1に基づいて、各信号灯器1bの青、黄、赤及び右折矢等の各信号灯の点灯、消灯及び点滅を制御する。
図4は、上記交通信号制御機1aの内部構成を示す機能ブロック図である。
図4に示すように、交通信号制御機1aは、制御部101、灯器駆動部102、通信部103及び記憶部104を含んでいる。
【0038】
交通信号制御機1aの制御部101は、1又は複数のマイクロコンピュータから構成され、制御部101には、内部バスを介して灯器駆動部102、通信部103及び記憶部104が接続されており、制御部101はこれらのハードウェア各部の動作を制御する。
制御部101は、中央装置4がMODERATO制御を行った結果の出力である信号制御指令S1に従って各信号灯器1bを駆動し、その指令S1に基づく所定のタイミングで各信号灯器1bの信号灯色を切り替える。
【0039】
灯器駆動部102は、半導体リレー(図示せず)を備え、上記制御部101から入力された信号制御指令S1に基づいて、複数の信号灯器1bの青色灯、黄色灯、赤色灯それぞれに対応して各色の信号灯に供給される交流電圧(AC100V)又は直流電圧をオン/オフする。
【0040】
交通信号制御機1aの通信部103は、中央装置4、路側センサ3及び光ビーコン(図示せず)との間で有線通信を行う通信インタフェースである。
通信部103は、中央装置4から信号制御指令S1及びVICS情報S2を受信し、信号制御指令S1については自装置の制御部101に送り、VICS情報S2については光ビーコンに転送する。また、通信部103は、路側センサ3及び光ビーコンから路側計測情報S3を受信し、この路側計測情報S3については中央装置4に転送する。
【0041】
交通信号制御機1aの記憶部104は、ハードディスクや半導体メモリ等から構成されており、信号制御指令S1に基づいて信号灯色の切り替え制御を行うプログラムを記憶しているとともに、通信部103が中央装置4から受信した各種情報(信号制御指令S1やVICS情報S2等)を一時的に記憶する。
【0042】
〔中央装置による抑止制御の概要〕
図5〜図7は、中央装置4の制御部401が実行する、対象車両5Aの走行を抑止するための抑止制御の概要を示すイメージ図である。以下、この図5〜図7を参照しつつ、抑止制御の概要を説明する。
なお、図5〜図7において、ハッチング付きの○は当該制御を実行する交差点(制御交差点)Jiを示し、符号CAは、プログラム形成制御(マクロ制御)による抑止制御を実行する制御エリアCAを示している。
【0043】
図5に示すように、まず、中央装置4の制御部401(ミクロ制御部401A)は、抑止制御の第1段階として、対象車両5Aの前方(下流側)にある交差点を制御対象として高速感応制御を行い、対象車両5Aの逃走を遅らせる。
次に、中央装置4の制御部401(マクロ制御部401A)は、図6に示すように、抑止制御の第2段階として、所定の制御エリアCAに含まれる制御交差点に対して、対象車両5Aがそれらの制御交差点において赤信号に遭遇し易くなるように制御パラメータを変化させる抑止制御を行う。
【0044】
更に、中央装置4の制御部401(ミクロ制御部401B)は、図7に示すように、抑止制御の第3段階として、対象車両5Aの走行方向に対応する流入路の全赤時間を継続する全赤制御を実行し、一般車両5を交えて対象車両5Aを停止させる。
この全赤制御では、対象車両5Aだけでなく一般車両5の走行も確実に抑止され、一般車両5の走行に与える影響が大きい。そこで、第1及び第2段階の抑止制御によって対象車両5Aの存在範囲がほぼ確実であり、警察車両5Bが到着して包囲網を形成できた時点で行われる。
【0045】
以下、第1段階から第3段階の抑止制御の各内容を、それぞれ詳述する。
なお、本実施形態では、抑止制御を実行する際のトリガー(入力情報)となる、対象車両5Aの走行位置(絶対位置でもリンク番号でもよい。)、走行速度及び走行方向については、現場からの通報情報やこれに対応する路側計測情報(車両速度)S3に基づいて、中央装置4のオペレータが操作部405を通じて制御部401に入力するものとする。もっとも、走行速度については、オペレータが入力するのではなく、中央装置4の記憶部404に記憶させた所定の設定値を用いても良い。
【0046】
〔第1段階の抑止制御(高速感応制御)〕
第1段階の抑止制御では、まず、ミクロ制御部401Bが、対象車両5Aがその下流側の制御交差点Jiに到着するタイミングで、当該交差点Jiを通行可能か否かを判定する第1判定を行う。
この第1判定は、対象車両5Aの走行位置と走行速度とから、対象車両5Aが対象交差点Jiに到達する予測時刻を算出し、算出した到達時刻における流入路の信号現示に基づいて、すなわち、その流入路の信号灯色が通行可能を示す信号灯色であるか否かに基づいて行われる。なお、この場合の通行可能を示す信号灯色とは、「青」及び「青矢」のことである。
【0047】
上記第1判定の判定結果が否定的である場合には、特に青時間の短縮処理を行わなくても、対象車両5Aが下流側の交差点Jiで停止する筈であるから、ミクロ制御部401Bは高速感応制御を実行しない。
一方、上記第1判定が肯定的である場合には、その制御交差点Jiでの青時間が短縮可能か否か、或いは、赤時間が延長可能か否かを判定する第2判定を行う。
【0048】
青時間短縮方式の場合の第2判定は、具体的には、当該交差点Jiについての到達する予測時刻から赤開始時刻までの時間が予め設定された最大青短縮時間以下である場合に、当該制御交差点での青時間の短縮が可能と判定するものである。
なお、上記「最大青短縮時間」とは、青時間短縮方式による高速感応制御を行う場合において、信号階梯における「PG」未満の範囲で青時間を最大限に短縮可能なものとして予め定められた時間のことである。
【0049】
上記第2判定の判定結果が肯定的である場合には、ミクロ制御部401Bは、第2判定の判定対象となった制御交差点Jiにおいて、当該交差点Jiにおける対象車両5Aが走行する方向の青時間の短縮秒数を、到達する予測時刻から赤開始時刻までの時間に所定の余裕時間αを加えた値にすることにより、青時間(具体的には、信号階梯における「PG」の時間)を短縮し、対象車両5Aを当該制御交差点Jiにおいて停止させる。
なお、上記余裕時間αとは、車両が余裕をもって停止線前で停止できるように、交差点Jiの手前で赤表示に遭遇するように予め設定された時間である。
【0050】
また、赤時間延長方式の場合の第2判定は、具体的には、制御交差点Jiについての青開始時刻に予め設定された最大赤延長時間を加えた時刻が、対象車両5Aが当該交差点Jiに到達する予測時刻よりも遅い場合に、制御交差点Jiの青時間の延長が可能と判定するものである。
なお、上記「最大赤延長時間」とは、赤時間延長方式による高速感応制御を行う場合において、信号階梯における上限秒数(信号制御指令が無い場合に、信号機自身で次の階梯に進む秒数。フェールセーフのために設定されている。)未満の範囲で赤時間を最大限に延長可能なものとして予め定められた時間のことである。
【0051】
上記第2判定の判定結果が肯定的である場合には、ミクロ制御部401Bは、第2判定の判定対象となった制御交差点Jiにおいて、当該交差点Jiにおける対象車両5Aが走行する方向の赤時間の延長秒数を、予め設定された上記最大赤延長時間の値にすることにより、赤時間を延長し、対象車両5Aを当該制御交差点Jiにおいて停止させる。
【0052】
一方、上記第2判定の判定結果が否定的である場合には、ミクロ制御部401Bは、対象車両5Aが走行する方向を基準とした場合の当該第2判定を行った制御交差点Jiの下流側にある次の制御交差点Jk(k≠i)についても、上記の第1判定と第2判定を実行する。
【0053】
そして、ミクロ制御部401Bは、次の制御交差点Jkについての第2判定の判定結果が肯定的である場合には、当該次の制御交差点Jkにおいて所定時間だけ前述の青時間の縮又は赤時間の延長を行い、第2判定の判定結果が否定的である場合には、対象車両5Aが走行する方向を基準とした場合の当該第2判定を行った制御交差点Jkの下流側にある更に次の制御交差点Jl(l≠k)について、上記の第1判定と第2判定を実行する。
なお、第1及び第2判定を繰り返す制御交差点の個数は特に限定されないが、本実施形態では第2段階の抑止制御を行うので、制御交差点の個数を3つに限定している。
【0054】
このように、本実施形態の中央装置(交通信号制御装置)4によれば、ミクロ制御部401Bが、対象車両5Aの下流側にある制御交差点Ji,Jkにおける第2判定の判定結果が否定的である場合でも、当該制御交差点Ji,Jkの下流側の次の交差点Jk,Jlについて第1判定と第2判定を実行するので、対象車両5Aの発生地点の直ぐ下流側の交差点でしか青時間の短縮等を実行しない従来の高速感応制御の場合に比べて、対象車両5Aの走行をより確実に抑止することができる。
【0055】
〔第2段階の抑止制御(プログラム形成制御)〕
第2段階の抑止制御では、まず、エリア設定部401Cが当該抑止制御を実行すべき制御エリアCAを設定し、マクロ制御部401Aが、設定された制御エリアCAに含まれる制御交差点に対して、対象車両5Aがそれらの制御交差点において赤信号に遭遇し易くなるように信号制御パラメータを変化させる抑止制御を実行する。
以下、エリア設定部401Cにおける制御エリアCAの設定方法と、マクロ制御部401Aによる抑止制御の内容について説明する。
【0056】
〔制御エリアの設定方法〕
図8は、制御エリアCAの設定状態を示す道路地図である。
図8(a)〜図8(d)のうち、図8(a)は、対象車両5Aの現在の走行位置のみが特定された場合の制御エリアCAを示し、図8(b)は、走行位置に加えて走行方向と走行速度が特定された場合の制御エリアCAを示している。
【0057】
オペレータによる入力情報が対象車両5Aの走行位置のみの場合には、エリア設定部401Cは、図8(a)に示すように、その走行位置を中心とした所定の上限半径と下限半径を有する、ドーナツ状の制御エリアCAを設定する。
一方、オペレータによる入力情報に、対象車両5Aの走行位置に加えて、走行方向と走行速度が含まれている場合には、エリア設定部401Cは、図8(b)及び図8(c)に示すように、エリア角度θを絞った扇形状の制御エリアCAを設定する。
【0058】
上記エリア角度θは、対象車両5Aの走行軌跡数や走行速度に応じて、自動又は手動で設定可能であり、多数の走行軌跡が得られたために逃走経路がほぼ特定できる場合には、図8(d)に示すように、エリア角度θ=0として制御エリアCAを逃走経路と一致させることもできる。なお、初動捜査の段階で、対象車両5Aの目的地が判明している場合にも、制御エリアCAをその逃走経路と一致させることができる。
このように、本実施形態のエリア設定部401Cは、対象車両5Aの走行位置、走行方向及び走行速度に基づいて、制御エリアCAの範囲を可変に設定可能になっている。
【0059】
また、エリア設定部401Cは、対象車両5Aの走行位置からリンク旅行時間等による推定旅行時間の累計が所定時間(例えば、10分)に到達するまでの距離を、制御エリアCAの外周縁(図8に示す外周半径R)として設定する。
この外周縁Rの設定は、オペレータが手動で入力してもよいし、制御種別ごとにエリア設定部401Cが自動生成することにしてもよい。
【0060】
一方、エリア設定部401Cは、対象車両5Aの走行位置から抑止制御の制御遅れ時間の間に対象車両5Aが到達可能な距離を、制御エリアCAの内周縁(図8に示す内周半径r)として設定する。
その理由は、対象車両5Aの走行位置から上記内周縁rの位置より近い範囲の交差点については、マクロ制御部401Aによる信号制御パラメータの変更が間に合わないので、その範囲を制御エリアCAに含める意味がないからである。
【0061】
従って、上記内周縁rの設定は、エリア設定部401Cが自動生成するものであり、図16に例示するように、例えば推定旅行時間から算出される区間平均速度に基づいて、制御種別ごとに個別に自動生成される。
図16に示す例では、スプリット制御の場合には、制御遅れに伴う平均逃走距離が833mとされ、オフセット制御及びサイクル長制御の場合には、その平均逃走距離が5197mとされているが、その平均逃走距離(内周縁r)の算出根拠は次の通りである。
【0062】
なお、図16に示す例では、サイクル長C=140秒、推定旅行時間から求めた区間平均速度v=30km/h(=8.33m/s)、スプリット制御の制御周期=1分、サイクル及びオフセット制御の制御周期=5分としている。
また、制御周期内での受付時間をa、制御受付時点からの追従時間をb、サイクル長内での受付時間をcとする。
【0063】
この場合、スプリット制御では、受付時間aの平均値σa=60秒/2=30秒であり、追従時間b=0であり、受付時間cの平均値=140秒/2=70秒となる。
従って、スプリット制御の場合における、対象車両5Aが検出されてから制御発動までの総遅れ時間dの平均値σdは、30+0+70=100秒となるので、内周縁r=v×100秒=8.33×100=833mとなる。
【0064】
一方、サイクル及びオフセット制御では、受付時間aの平均値σa=300秒/2=150秒であり、追従時間b=平均追従回数(4回)×140=560秒であり、受付時間c=0となる。
従って、サイクル及びオフセット制御の場合における、対象車両5Aが検出されてから制御発動までの総遅れ時間dの平均値σdは、150+560+0=710秒となるので、内周縁r=v×710秒=8.33×710=5917mとなる。
【0065】
もっとも、上記算出方法は、あくまでも総遅れ時間dの平均値σdに基づいて内周縁rを算出した場合であり、内周縁rの大きさは、制御周期内におけるジョブの受付タイミング(対象車両5Aの検出タイミング)によって変動し得る。
このように、本実施形態のエリア設定部401Cは、スプリット制御、オフセット制御及びサイクル長制御の制御種別ごとに、制御エリアCAの内周縁rの大きさを設定することができる。
【0066】
なお、エリア設定部401Cにおいて、各リンクの旅行時間を用いて、100秒(スプリット制御の場合)、710秒(サイクル及びオフセット制御の場合)の間に車両5が到達する地点を求め、その地点を制御エリアCAの内周縁rとしてもよい。また、この場合には、内周縁rが厳密な円弧にはならないが、内周縁rの形状は多角形その他の円弧以外の形状であってもよい。
【0067】
図9は、制御エリアCAと対象交差点との関係を示す道路線形図である。
図9に示すように、制御エリアCA(図9では半円の場合を例示)が特定されると、マクロ制御部401Aは、記憶部404に格納されたリンクデータに基づいて、対象車両5Aの現在位置から制御エリアCAに到達し得る逃走ルートを探索する。
そして、マクロ制御部401Aは、上記の逃走ルートに含まれる制御交差点について、対象車両5Aが赤信号に遭遇し易くするためのスプリット制御、オフセット制御及びサイクル長制御を実行する。
【0068】
なお、マクロ制御部401Aによる抑止制御の実行は、スプリット制御及びオフセット制御については単独実行であっても良いが、サイクル長制御については単独実行されることがなく、スプリット制御又はオフセット制御若しくはこれらの双方と同時実行される。
その理由は、本実施形態のサイクル長制御は、後述の通りサイクル長を通常よりも大きく設定するものであるが、これを単独実行すると却って対象車両5Aが通行し易くなり、後述のスプリット制御やオフセット制御と共に行って初めて、対象車両5Aに対する走行抑止効果が向上するからである。
【0069】
〔走行抑止のためのスプリット制御〕
図10及び図11は、マクロ制御部401Aが実行可能な走行抑止のためのスプリット制御を示す図である。このうち、図10は重要交差点に対するスプリット制御を示し、図11は一般交差点に対するスプリット制御を示している。
ここで、重要交差点とは、普段から負荷率が大きくボトルネックになることが多い交差点のことをいい、一般に、幹線・準幹線道路相互の交差点がこれに該当する。従って、重要交差点の場合には、通常、すべての流入路に車両感知器等の路側センサ3が設けられており、すべての流入路について交通需要が計測可能となっている。
【0070】
これに対して、一般交差点とは、重要交差点に比べて従道路の交通需要が少なく、例えば単に横断歩行者の青時間を確保すればよいような交差点のことをいう。
従って、一般交差点の場合には、通常、主道路側の流入路だけに車両感知器等の路側センサ3が設けられ、従道路側には路側センサ3がなく、一部の流入路の交通需要が計測可能となっている。
【0071】
〔重要交差点の場合〕
図10に示すように、スプリット制御の対象交差点が重要交差点である場合、マクロ制御部401Aは、まず、逃走ルートから制御対象とすべき重要交差点に流入するリンクを検索し、対象流入路を決定する。
その後、マクロ制御部401Aは、対象流入路の渋滞長を制御発動の条件とする。すなわち、マクロ制御部401Aは、その渋滞長が所定の閾値以下の場合に、後述のようにスプリットを変更し、その渋滞長が同閾値を超える場合には、通常制御(本実施形態ではMODERATO制御)を継続し、スプリット変更を行わない。
【0072】
その理由は、重要交差点での渋滞長が始めから大きい場合には、スプリット変更による抑止制御を行わなくても、対象車両5Aが当該重要交差点に到達したときに停止する可能性が高いからである。
そして、走行抑止のために重要交差点のスプリットを変更する場合、マクロ制御部401Aは、対象車両5Aの走行方向に対応する流入路の交通需要を、当該流入路の交通容量で除した値よりも小さい値に、当該スプリットを設定する。
【0073】
例えば、3現示の重要交差点を例示する図10において、主道路1φ、右折2φ及び従道路3φの通常スプリットが、それぞれ50%、20%及び30%に設定されているものとする。また、対象車両5Aが主道路を走行中であるとする。
この場合、マクロ制御部401Aは、主道路1φと右折2φのスプリットを、その時点の交通量(台/H)を交通容量で割った値に、1未満の係数(図例では、0.8)を掛けた値に変更する。
【0074】
ここで、スプリット制御の対象交差点が重要交差点である場合に、上記1未満の係数を掛けてスプリットを絞ることにより、対象車両5Aの逃走ルート上にある流入路のスプリットを、当該流入路の交通需要を当該ルートの交通容量で除した値よりも小さい値にしているのは、次のa)〜c)の理由による。
a) 流入路のスプリットを、上記1未満の係数を掛けた小さい値に設定すれば、交通量の多寡に拘わらず当該流入路に渋滞を発生させることができる。
b) 対象車両5Aの流入路以外の方向の流入路の交通便益を最大化できる。
【0075】
c) 重要交差点は普段から渋滞していることが多いので、スプリットが小さく成ることによって渋滞が多くなっても、普段よりその交差点を走行している一般車両5にも気付かれにくく、混乱が生じにくい。
また、本実施形態では、マクロ制御部401Aが、対象流入路の渋滞長に基づいて重要交差点への流入路のスプリットを変更するか否かを決定するので、その変更によって想定外の渋滞長が当該流入路に発生したような場合には、元のスプリットに復元できるという利点もある。
なお、上記1未満の係数は、走行抑止用の係数として重要交差点ごとに予め設定しておいてもよいし、オペレータの入力によって人為的に変更できるようにしてもよい。
【0076】
〔一般交差点の場合〕
図11に示すように、スプリット制御の対象交差点が一般交差点である場合、マクロ制御部401Aは、まず、リンクデータに含まれるリンクの中から、逃走ルートに対応する制御用のリンクを検索し、そのリンクを通過する場合の一般交差点の現示を求める。
その後、上記リンクに所属するオフセット情報から、当該一般交差点に最低限必要なスプリットを算出する。
【0077】
例えば、2現示の一般交差点を例示する図11において、主道路1φ及び従道路2φの通常スプリットが、それぞれ70%及び30%に設定されているものとする。また、対象車両5Aが主道路を走行中であるとする。
この場合、マクロ制御部401Aは、主道路1φと従道路2φのスプリットを、その時点の交通量(台/H)を交通容量で割った値に変更する。すなわち、係数=1.0となっている。
【0078】
このように、一般交差点の場合に係数を1に設定することにより、対象車両5Aの逃走ルート上にある流入路のスプリットを、当該流入路の交通需要を当該流入路の交通容量で除した値に設定し、その値よりも小さい値に設定していないのは、一般交差点への流入路のような通常は混雑しない道路で混雑が生じると、普段その道路を走行している一般車両5に混乱が生じるおそれがあるからである。
この点、上記交通量(台/H)を交通容量で除した値は、一般交差点を渋滞させないぎりぎりのスプリットであるから、一般交差点のスプリットをその程度の値に絞っても、一般車両5にとってもそれほど迷惑にはならないと考えられる。
【0079】
〔走行抑止のためのオフセット制御〕
前記した通り、本実施形態のマクロ制御部401Aは、交差点Jiへの流入交通量に基づいてオフセットを自動生成する機能(例えば、TRANSYT)を有している。
そこで、本実施形態のマクロ制御部401Aは、制御エリアCAに含まれる制御交差点について、対象車両5Aの走行方向の車両台数を実際の車両台数よりも少なく見積もってオフセットを自動生成することにより、対象車両5Aの走行方向と逆方向の流入路の通行を優先する、いわゆる「逆優先オフセット制御」を実行する。
【0080】
この場合、対象車両5Aの走行方向の車両台数を実際よりも少なく見積もるので、逆方向の系統効果が相対的に優先され、結果的に、対象車両5Aの走行方向の系統効果が悪化することになる。
すなわち、オフセット制御において、上り下りの両方向の交通に対してほぼ同等の系統効果を与えるようにオフセットを設定する方式を「平等オフセット」というが、上り下りの方向別の交通需要に差がある場合等に、いずれか一方向に対して優先的に高い系統効果を与えるようにオフセットを設定する方式を「優先オフセット方式」という。
【0081】
また、優先オフセット方式において、一方向のみの系統効果を最大にして、対向方向の系統効果を完全に無視する方式を「完全優先オフセット方式」という。
優先オフセット方式では、優先的に高い系統効果が与えられる方向の対向方向については、逆に系統効果が悪化し、その対向方向を走行する車両が交差点ごとに赤信号で停止する可能性が高くなる。
従って、対象車両5Aの走行方向と逆方向の流入路を優先する優先オフセット(逆優先オフセット)を適用すれば、結果的に、対象車両5Aが交差点ごとに赤信号で停止する可能性が高いオフセットが設定されることになる。
【0082】
また、本実施形態のマクロ制御部401Aでは、対象車両5Aの走行方向の車両台数をゼロに設定して、オフセットを自動生成することができる。
この場合、逆方向の系統効果が最大になり、対象車両5Aの走行方向の系統効果を完全に無視する完全逆優先オフセット(一方通行)となるので、オフセットの自動生成による対象車両5Aの走行抑止効果を最大限に向上できる。
【0083】
図12は、通常オフセット(平等オフセット)の場合の走行軌跡の一例を示す時間距離グラフであり、図13は、上記逆優先オフセットの場合の走行軌跡の一例を示す時間距離グラフである。
これらの時間距離グラフは、ある道路区間の複数の交差点について、所定のオフセット自動生成ロジックに基づいて交通シミュレーションを行った結果であり、図13は、主道路の上り方向の交通量をゼロに設定する完全逆優先オフセットを行った結果である。
【0084】
この図12と図13を対比すれば明らかな通り、対象車両5Aの走行方向に対応する流入路と逆方向の流入路に対して優先的なオフセットに変更すれば、対象車両5Aが交差点ごとに赤信号で停止する可能性が高くなり、対象車両5Aの走行を抑止するための抑止制御に応用することができる。
また、逆優先オフセットの場合には、対象車両5Aの走行方向と逆方向の流入路の交通便益(円滑化)が高まるので、対象車両5Aの走行抑止に役立つということに加えて、警察車両5Bが逆方向から対象車両5Aに早く辿り着きやすくなるとともに、制御エリアCA全体の交通便益は損なわれないという付加的効果もある。
【0085】
〔走行抑止のためのサイクル長制御〕
図14は、サイクル長制御の内容を示す道路線形図である。
図14において、符号SA1〜SA6は、サイクル長制御の最小単位となるサブエリア(サブエリア単位)を示しており、図14の例では、4つのサブエリアSA2,SA3,SA4、SA6が制御エリアCAと重複しており、サブエリアSA1,SA5が制御エリアCAの範囲外であるとする。
【0086】
また、各サブエリアSA1〜SA6におけるサイクル長Cの変動範囲と、現時点の運用サイクル長Cは、図14の表に示す通りであるとし、サブエリアの結合条件となる閾値は±20秒であるとする。
ここで、本実施形態では、制御エリアCA内の制御交差点について対象車両5Aの流入路のスプリットを絞ったり、対象車両5Aの走行方向に対する逆方向優先オフセットを設定したりして、その走行抑止を行っているが、これと同時にサイクル長Cを長く設定すると、対象車両5Aが当該流入路において赤信号に遭遇する確率がより増大し、対象車両5Aに対する走行抑止効果が向上すると考えられる。
【0087】
そこで、本実施形態のマクロ制御部401Aは、走行抑止のためのスプリット制御やオフセット制御と同時に、制御エリアCA内の各サブエリアのサイクル長Cがなるべく大きくなるようなサイクル長制御を実行し、対象車両5Aに対する走行抑止効果をより確実にする。
具体的には、マクロ制御部401Aは、制御エリアCAに含まれる複数の制御交差点を含むサブエリアSA2,SA3,SA4,SA6単位のサイクル長Cを、当該各単位で許容されるサイクル長Cの最大値に変更し、新たなサブエリア構成とする。
【0088】
すなわち、図14に示す例で言うと、各サブエリアSA2,SA3,SA4,SA6の現状サイクル長Cを最大値Cmax に引き上げた上でそれらの結合条件を判定し、新たなサブエリア構成を編成する。
SA2:現状 90秒→最大値120秒
SA3:現状100秒→最大値110秒
SA4:現状110秒→最大値110秒
SA6:現状120秒→最大値130秒
【0089】
この場合、上記サブエリアSA2,SA3,SA4,SA6の引き上げ後のサイクル長Cはすべて閾値の範囲内にあるので、これらは1つの新たなサブエリアとして結合する。
また、サブエリアSA5については、制御エリアCA外であるため、サイクル長Cの引き上げが行われないが、現状のサイクル長が130秒(閾値内)であるため、隣接するサブエリアSA6と結合する。
【0090】
他方、サブエリアSA1については、制御エリアCA外であるため、サイクル長Cの引き上げが行われず、現状のサイクル長が80秒(閾値外)であるため、隣接するサブエリアSA5,SA6と結合しない。
以上から、図14に示す例では、サブエリアSA1以外の5つのサブエリアSA2〜SA6が1つのサブエリア構成となる。
【0091】
〔第3段階の抑止制御(全赤制御)〕
第3段階の抑止制御は、第1及び第2段階の抑止制御によって対象車両5Aの存在範囲がほぼ確実となり、警察車両5Bが到着して包囲網を形成できた時点で行われる。
すなわち、例えば図7に示すように、対象車両5Aが存在するリンクに警察車両5Bが到着すると、中央装置4のオペレータはリンクを挟む上下流側の各交差点を、全赤制御の制御対象に設定する。
【0092】
すると、中央装置4のミクロ制御部401Bは、図15に示すように、当該交差点における早い方の全赤時間(AR)の階梯を継続させる全赤制御を実行する。この実行指令を受けた交通信号機1は、主道路と従道路の階梯を全赤ARに保持し、当該交通信号機1の信号灯色がすべて全赤となる。
これにより、対象車両5Aが一般車両5とともにリンク内で停止し、対象車両5Aを確実に捕捉できるようになる。
【0093】
なお、上記全赤制御を発動するトリガーとしては、警察車両5Bからの通報だけでなく、画像感知器が撮影した対象車両5Aのリアルタイム映像によって行ってもよい。
もっとも、交通信号機1が全赤になった場合には、警察官による誘導で一般車両5と対象車両5Aを分離することになるので、警察車両5Bの現地到着が確実になった時点で全赤制御を発動することが好ましい。
【0094】
また、図16の表に示すように、全赤制御の制御実行までに対象車両5Aが到達可能な平均逃走距離は、例えば1167mである。この距離は、サイクル長(=140秒)に平均速度(30km/h=8.33m/s)を掛けて算出したものである。
【0095】
〔その他の変形例〕
上記実施形態は例示であって本発明の権利範囲を制限するものではない。本発明の権利範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の構成と均等の範囲内のすべての変更が本発明に含まれる。
例えば、上記実施形態では、第2段階の抑止制御(マクロ制御)において、スプリット制御、オフセット制御及びサイクル長制御のすべてを実行しているが、スプリット制御又はオフセット制御のいずれか一方のみを実行することにしてもよい。
【0096】
また、上記実施形態では、第1段階から第3段階に分けて抑止制御を実行しているが、第1段階の抑止制御(高速感応制御)のみを実行することにしてもよい。
更に、本発明は、中央装置4が広域制御を行う場合に限らず、LANに含まれる複数の交通信号機1が、中央装置4による制御とは別個のグループ単位での系統制御又は広域制御を行う場合にも適用することができる。
【符号の説明】
【0097】
1 交通信号機
1a 交通信号制御機
1b 信号灯器
3 路側センサ
4 中央装置(交通信号制御装置)
401 制御部(制御手段)
401A マクロ制御部
401B ミクロ制御部
401C エリア設定部
402 表示部
403 通信部
404 記憶部
405 操作部
5 車両
Ji 交差点
S1 信号制御指令
S2 VICS情報
S3 路側計測情報
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定地点の交差点を対象としてその交通信号機の信号灯色を個別に切り替えるミクロ制御を実行する交通信号制御装置と、その制御を当該装置に実行させるためのコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
交通信号機に対する信号制御方式を、信号制御パラメータ(スプリット、サイクル長及びオフセット等)の設定方式の視点で大別すると、時間帯に応じて信号制御パラメータを設定する定周期制御と、交通状況に応じて信号制御パラメータを設定する交通感応制御の2種類がある。
このうち、後者の交通感応制御は、端末の交通信号制御機ごとに行う端末感応制御と、路線系統制御或いは面制御される複数の交差点を対象に信号制御パラメータを変化させる中央感応制御に分類される。
【0003】
一方、暴走車両に対する速度抑制を目的とした端末感応制御の1つとして、一定速度以上の暴走車両を車両感知器で検出した場合に、その下流側の交通信号機での青時間の短縮又は赤時間の延長を行い、暴走車両を赤信号で停止させる高速感応制御がある(非特許文献1の74〜76頁参照)。
この高速感応制御によれば、暴走車両が検出されると、その下流側の交差点で暴走車両を赤信号で停止する可能性が高まり、暴走車両の走行速度を抑制することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「改訂 交通信号の手引き」 編集・発行 社団法人 交通工学研究会(16〜18頁、74〜76頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記高速感応制御では、暴走車両の発生地点の直ぐ下流側にある交差点のみで実行されるため、暴走車両がこの交差点を通過してしまうと、それ以後は暴走車両を交通信号機によって速度抑制する手立てがない。
本発明は、このような実情に鑑み、暴走車両の速度抑制をより確実に行える交通信号制御装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 本発明の交通信号制御装置は、特定地点の交差点を対象としてその交通信号機の信号灯色を個別に切り替えるミクロ制御を実行する制御手段を備えた交通信号制御装置であって、前記制御手段は、走行を抑止させたい対象車両がその下流側の前記交差点に到着するタイミングで当該交差点を通行可能か否かを判定する第1判定と、この第1判定が肯定的である場合に当該交差点での前記対象車両が流入する道路における青時間を短縮可能か否かを判定する第2判定とを行い、前記交差点における前記第2判定の判定結果が否定的である場合に、前記対象車両が走行する方向を基準としたときの当該交差点の下流側の次の前記交差点について、前記第1判定と前記第2判定を実行することを特徴とする。
【0007】
本発明の交通信号制御装置によれば、上記制御手段が、交差点における第2判定の判定結果が否定的である場合でも、対象車両が走行する方向を基準としたときの当該交差点の下流側の次の交差点について第1判定と第2判定を実行するので、暴走車両の発生地点の直ぐ下流側の交差点でしか青時間の短縮等を実行しない従来の高速感応制御の場合に比べて、暴走車両の速度抑制をより確実に行うことができる。
【0008】
(2) 本発明の交通信号制御装置において、青時間短縮方式の場合の前記第2判定は、具体的には、前記交差点についての現時点から赤開始時刻までの時間が予め設定された最大青短縮時間以下である場合に、当該交差点での青時間の短縮が可能と判定するものである。
この場合、当該交差点における対象車両が走行する方向の青時間の短縮秒数を、現時点から赤開始時刻までの時間に所定の余裕時間を加えた値にすることにより、青短縮によって対象車両を当該交差点で停止させることができる。なお、上記余裕時間とは、車両が余裕をもって停止線前で停止できるように、交差点の手前で赤表示に遭遇するように設定されたものである。
【0009】
(3) また、本発明の交通信号制御装置において、第1判定が肯定的である場合の第2判定は、当該交差点での対象車両が流入する道路における「青時間を短縮可能」かではなく、当該交差点での対象車両が流入する道路における「赤時間を延長可能」か否かを判定するものであってもよい。
この場合においても、対象車両が走行する方向を基準としたときの当該交差点の下流側の次の交差点について第1判定と第2判定を実行すれば、暴走車両の発生地点の直ぐ下流側の交差点でしか青時間の短縮を実行しない従来の高速感応制御の場合に比べて、暴走車両の速度抑制をより確実に行うことができる。
【0010】
(4) 本発明の交通信号制御装置において、赤時間延長方式の場合の前記第2判定は、具体的には、前記交差点についての青開始時刻に予め設定された最大赤延長時間を加えた時刻が、前記対象車両が当該交差点に到達する予測時刻よりも遅い場合に、当該交差点での赤時間の延長が可能と判定するものである。
この場合、当該交差点における対象車両が走行する方向の赤時間の延長秒数を、予め設定された上記最大赤延長時間の値にすることにより、赤延長によって対象車両を当該交差点で停止させることができる。
【0011】
(5)(6) 本発明のコンピュータプログラムは、本発明の交通信号制御装置によるミクロ制御をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、本発明の交通信号制御装置と同様の作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0012】
以上の通り、本発明によれば、交差点における第2判定の判定結果が否定的である場合でも、当該交差点の下流側の次の交差点について第1判定と第2判定を実行するので、暴走車両の速度抑制をより確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】交通信号制御システムの概要を示す全体構成図である。
【図2】交通信号機の構成を示すための道路平面図である。
【図3】中央装置の内部構成を示す機能ブロック図である。
【図4】交通信号制御機の内部構成を示す機能ブロック図である。
【図5】第1段階の抑止制御のイメージ図である。
【図6】第2段階の抑止制御のイメージ図である。
【図7】第3段間の抑止制御のイメージ図である。
【図8】制御エリアの設定状態を示す道路地図である。
【図9】制御エリアと対象交差点との関係を示す道路線形図である。
【図10】重要交差点に対するスプリット制御を示すものであり、(a)は重要交差点の道路線形図、(b)はスプリット制御の内容を示す表である。
【図11】一般交差点に対するスプリット制御を示すものであり、(a)は一般交差点の概略構成図、(b)はスプリット制御の内容を示す表である。
【図12】通常オフセットの場合の走行軌跡の一例を示す時間距離グラフである。
【図13】逆優先オフセットの場合の走行軌跡の一例を示す時間距離グラフである。
【図14】サイクル長制御の内容を示す道路線形図である。
【図15】全赤制御の内容を示す表である。
【図16】各制御種別の特徴を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の実施形態を説明する。
〔システムの全体構成〕
図1は、本発明を採用した交通信号制御システムの全体構成を示している。また、図2は、同システムの交通信号機1の構成を示すための道路平面図である。
図1及び図2に示すように、本実施形態の交通信号制御システムは、交通信号機1、車両感知器等よりなる路側センサ3、中央装置4、車両5、VICS(Vehicle Information and Communication System:「VICS」は登録商標)センター9などを含む。
【0015】
図1及び図2において、符号S1〜S3で示される各種の信号又は情報のうち、S1は中央装置4が生成する、交通信号機1の信号灯色の切り替えタイミングを制御するための信号制御指令である。
また、S2はVICSセンター9が生成するVICS情報である。このVICS情報S2には、渋滞情報、リンク旅行時間、事故・故障車・工事情報、速度規制・車線規制情報、駐車場の位置、駐車場・サービスエリア・パーキングエリアの満車・空車情報などが含まれている。
【0016】
更に、S3は路側センサ3が計測した路側計測情報(例えば、車両5の通過台数)である。
なお、以下において、道路を走行する車両5のうち、符号5Aは、法定速度を超過して走行する暴走車両や、犯人が搭乗する逃走車両及び盗難車両といった、警察が取り締まり又は逮捕のために走行を抑止させたい対象車両を表し、符号5Bは、警察車両を表すものとする(図5〜図7参照)。
【0017】
図1に示す交通信号制御システムにおいて、各交通信号機1は、複数の交差点Ji(i=1〜12)のそれぞれに設置され、電話回線等の通信回線6を介してルータ7に接続されている。
このルータ7は交通管制センター内の中央装置4に接続され、中央装置4は自装置の管轄エリアに含まれる、各交差点Jiの交通信号制御機1aとLAN(Local Area Network)を構成している。
【0018】
従って、中央装置4は各交通信号制御機1aと双方向通信が可能であり、各交通信号機1は他の交通信号機1とも双方向通信が可能である。なお、中央装置4は、交通管制センターではなく道路上に設置してもよい。
また、図1では、図示を簡略化するために、各交差点Jiに信号灯器1bが1つだけ描写されているが、実際の交差点Jiには、例えば図2に示すように、互いに交差する道路の上り下り用として4つの信号灯器1bが設置されている。
【0019】
路側センサ3は、例えば、直下を通行する車両5を超音波感知する車両感知器や、インダクタンス変化で車両5を感知するループコイル、或いは、カメラの画像を画像処理して交通量や車両速度を計測する画像感知器等よりなり、交差点Jiに流入する車両台数や車両速度を計測する目的で、管轄エリア内の一部の道路に設置されている。
この路側センサ3は、対応する交差点Jiの上流側に設置されており、通信回線8を介して交通信号制御機1aと繋がっている。路側センサ3が検出した路側計測情報S4は、交通信号制御機1aで中継され、通信回線6を介して中央装置4に送信される。
【0020】
〔中央装置〕
図3は、中央装置4の内部構成を示す機能ブロック図である。
図3に示すように、中央装置4は、制御部401、表示部402、通信部403、記憶部404及び操作部405を含んでいる。
中央装置4の制御部401は、ワークステーション(WS)やパーソナルコンピュータ(PC)等よりなり、交通信号制御機1aや路側センサ3等からの各種の計測情報の収集・処理(演算)・記録、信号制御及び情報提供を統括的に行う。制御部401は、内部バスを介して上記ハードウェア各部と繋がっており、これら各部の動作も制御する。
【0021】
本実施形態の制御部401は、マクロ制御部401Aと、ミクロ制御部401Bと、エリア設定部401Cと備えている。
なお、本明細書において、「マクロ制御」とは、エリア全体の所定時間(例えば、1分、2.5分及び5分等)ごとの累積交通量等に基づいて、各交通信号機1についての最適な信号制御パラメータを決定する制御手法のことをいう。
また、「ミクロ制御」とは、車両感知情報によって交通状況の変化を検出し、これにほぼリアルタイムに即応して下流側の交通信号機1の信号灯色を切り替える制御手法のことをいう。このため、ミクロ制御の制御周期は1秒以下である。
【0022】
マクロ制御部401Aは、自身のネットワークに属する交差点Jiの交通信号機1に対して、同一道路上の交通信号機1群を調整する系統制御や、この系統制御を道路網に拡張した広域制御(面制御)を行う。
また、本実施形態のマクロ制御部401Aは、路側計測情報S3に基づく交通状況に応じて、スプリット、サイクル長及びオフセット等の信号制御パラメータを自動的に更新するプログラム形成制御(MODERATO制御)を実行可能である。
【0023】
上記MODERATO制御では、近飽和の交通状態に対応するために、負荷率という交通指標を用いて、各交通信号機1に最適な信号制御パラメータがサイクルごとに自動生成されるようになっている。
例えば、スプリット制御の場合には、各交差点Jiについて、現示ごとの各流入路の負荷率の最大値を求め、現示負荷率の比で正規化されたスプリットを配分する負荷率比配分方式が採用される。上記負荷率ρは、車両の流入流量Q(台/時)、待ち行列台数E(台/時)及び飽和交通流率s(台/時)を用いて、ρ=(Q+E)/s で定義される。
【0024】
また、MODERATO制御では、隣接するサブエリア(重要交差点を含む複数の交差点よりなる、サイクル長制御の制御単位)を、交通状況に応じて結合又は分割するサイクル長制御が行われる。
このサブエリアの結合判定には、サブエリアごとの共通のサイクル長を求め、隣接するサブエリアのサイクル長の算出結果の差が予め設定された閾値よりも小さい場合に、これらのサブエリアを1つのサブエリア構成として結合し、サイクル長が大きい方のサイクル長で制御されるようになっている。
【0025】
なお、サブエリアごとのサイクル長は、例えばWebsterの実験式を拡張した次式を用いて、交差点負荷率ρに基づいて直接計算される。
サイクル長C=(a1×L+a2)/(1−a3×ρ)
ただし、Lは当該交差点の損失時間であり、a1〜a3は所定の係数である。
【0026】
更に、MODERATO制御では、同一サブエリア内の各路線について、サイクル長、スプリット及び往復方向別交通量(需要率)を用いて所定の交通シミュレーションを行うことにより、遅れや停止回数を最小化するオフセットを自動生成する機能(TRANSYT)が備わっている。
また、本実施形態のマクロ制御部401Aは、交差点Jiの特定の流入路に対する交通量を強制的に変更してオフセットを自動生成することにより、その特定方向に対して高い系統効果を与える優先オフセットを実行可能である。
【0027】
一方、ミクロ制御部401Bは、特定地点の交差点Jiを対象としてその交通信号機1の信号灯色を個別に切り替えるミクロ制御を実行可能である。本実施形態のミクロ制御部401Bは、対象車両5Aの走行を抑止させるための抑止制御として、「高速感応制御」と「全赤制御」とを実行可能である。
また、本実施形態では、マクロ制御部401Aも、対象車両5Aの走行を抑止させるための抑止制御を実行可能であり、この場合の抑止制御は、複数の交差点Jiについて、対象車両がそれらの交差点Jiにおいて赤信号に遭遇し易くなるように、信号制御パラメータを変化させるものである。
【0028】
具体的には、本実施形態の制御部401は、マクロ制御部401Aによる抑止制御は、対象車両5Aの走行方向に対応する流入路のスプリットを低下させる「スプリット制御」、対象車両が交差点Jiごとに赤信号で停止するようにオフセットを変更する「オフセット制御」、及び、これらの制御を前提として行われる「サイクル長制御」よりなるが、かかる抑止制御の詳細については後述する。
【0029】
また、制御部401のエリア設定部401Cは、対象車両5Aが走行する可能性がある制御エリアCAを設定するものであり、マクロ制御部401Aは、予め設定された当該制御エリアCAに含まれる交差点Jiについて、上記のスプリット制御やオフセット制御等の抑止制御を実行する。なお、この制御エリアCAの設定方法についても、後述する。
【0030】
中央装置4の通信部403は、通信回線6を介してLAN側と接続された通信インタフェースであり、所定時間ごとに信号灯器1bの灯色切り替えタイミングに関する信号制御指令S1と、VICSセンター9から取得した渋滞情報等を含むVICS情報S2とを各交通信号制御機1aに送信している。
信号制御指令S1は、信号制御パラメータの演算周期(例えば、1.0〜2.5分)ごとに送信され、VICS情報S2は例えば5分ごとに送信される。
【0031】
なお、中央装置4から送信されたVICS情報S2は、図示しない光ビーコンや電波ビーコン等により、車両5の車載装置(図示せず)に送られる。
また、中央装置4の通信部403は、各交通信号制御機1aから、路側センサ3が検出した路側計測情報S3をほぼリアルタイム(例えば、0.1〜1.0秒周期)で受信している。
【0032】
中央装置4の記憶部404は、ハードディスクや半導体メモリ等から構成されており、前記マクロ制御(MODERATO制御)やミクロ制御を行う制御プログラムと、この制御に用いる交通指標の演算プログラム等を記憶している。
また、記憶部404は、制御部401が生成した信号制御指令S1と、VICSセンター9から取得したVICS情報S2と、LAN側から取得した路側計測情報S3とを一時的に記憶する。
【0033】
記憶部205は、道路地図データも記憶している。この道路地図データには、各交差点JiのID番号と交差点位置とを対応付けた交差点データが含まれている。
また、道路地図データには、リンクIDと、リンクの始点・終点・補間点(道路が折れ曲がる地点に対応)それぞれの位置と、リンクの始点に接続するリンクのリンクIDと、リンクの終点に接続するリンクのリンクIDと、最適経路の特定に使用するリンクコストとを対応付けたリンクデータも含まれている。
【0034】
上記リンクコストは、例えば、リンクとその終点に接続するリンクの組み合わせの数だけ用意されており、リンクの始点に進入してから当該リンクの終点を退出し、次に接続するリンクの始点に進入するまでに要する時間が設定されている。
すなわち、リンクコストには、リンクの始点から終点までを走行するのに要するコスト(時間)と、リンクの終点から次のリンクの始点までを走行するのに要するコスト(時間)、つまり、交差点を通過するのに要するコストが含まれている。
【0035】
中央装置4の表示部402は、自身が管理する管轄エリアの道路地図と、この道路地図上のすべての交通信号機1や光ビーコン11等の位置が表示された表示画面により構成され、中央装置4のオペレータに渋滞や事故等の交通状況を報知するものである。
中央装置4の操作部405は、キーボードやマウス等の入力インタフェースよりなり、この操作部405によって中央装置4のオペレータが上記表示部402に対する表示切り替え操作等を行えるようになっている。
【0036】
〔交通信号機〕
次に、図2及び図4を参照して、交通信号機1の構成を説明する。なお、図2では、交通量の多い主道路RM1,RM2と交通量の少ない従道路RS1,RS2とが合流した交差点Jiを例示している。
図2に示すように、交通信号機1は、主道路RM1,RM2及び従道路RS1,RS2のそれぞれに設置された4つの信号灯器1bと、この信号灯器1bと通信回線8を介して接続された交通信号制御機1aとを備えている。
【0037】
交通信号制御機1aは、中央装置4から信号制御指令S1を受信し、当該信号制御指令S1に基づいて、各信号灯器1bの青、黄、赤及び右折矢等の各信号灯の点灯、消灯及び点滅を制御する。
図4は、上記交通信号制御機1aの内部構成を示す機能ブロック図である。
図4に示すように、交通信号制御機1aは、制御部101、灯器駆動部102、通信部103及び記憶部104を含んでいる。
【0038】
交通信号制御機1aの制御部101は、1又は複数のマイクロコンピュータから構成され、制御部101には、内部バスを介して灯器駆動部102、通信部103及び記憶部104が接続されており、制御部101はこれらのハードウェア各部の動作を制御する。
制御部101は、中央装置4がMODERATO制御を行った結果の出力である信号制御指令S1に従って各信号灯器1bを駆動し、その指令S1に基づく所定のタイミングで各信号灯器1bの信号灯色を切り替える。
【0039】
灯器駆動部102は、半導体リレー(図示せず)を備え、上記制御部101から入力された信号制御指令S1に基づいて、複数の信号灯器1bの青色灯、黄色灯、赤色灯それぞれに対応して各色の信号灯に供給される交流電圧(AC100V)又は直流電圧をオン/オフする。
【0040】
交通信号制御機1aの通信部103は、中央装置4、路側センサ3及び光ビーコン(図示せず)との間で有線通信を行う通信インタフェースである。
通信部103は、中央装置4から信号制御指令S1及びVICS情報S2を受信し、信号制御指令S1については自装置の制御部101に送り、VICS情報S2については光ビーコンに転送する。また、通信部103は、路側センサ3及び光ビーコンから路側計測情報S3を受信し、この路側計測情報S3については中央装置4に転送する。
【0041】
交通信号制御機1aの記憶部104は、ハードディスクや半導体メモリ等から構成されており、信号制御指令S1に基づいて信号灯色の切り替え制御を行うプログラムを記憶しているとともに、通信部103が中央装置4から受信した各種情報(信号制御指令S1やVICS情報S2等)を一時的に記憶する。
【0042】
〔中央装置による抑止制御の概要〕
図5〜図7は、中央装置4の制御部401が実行する、対象車両5Aの走行を抑止するための抑止制御の概要を示すイメージ図である。以下、この図5〜図7を参照しつつ、抑止制御の概要を説明する。
なお、図5〜図7において、ハッチング付きの○は当該制御を実行する交差点(制御交差点)Jiを示し、符号CAは、プログラム形成制御(マクロ制御)による抑止制御を実行する制御エリアCAを示している。
【0043】
図5に示すように、まず、中央装置4の制御部401(ミクロ制御部401A)は、抑止制御の第1段階として、対象車両5Aの前方(下流側)にある交差点を制御対象として高速感応制御を行い、対象車両5Aの逃走を遅らせる。
次に、中央装置4の制御部401(マクロ制御部401A)は、図6に示すように、抑止制御の第2段階として、所定の制御エリアCAに含まれる制御交差点に対して、対象車両5Aがそれらの制御交差点において赤信号に遭遇し易くなるように制御パラメータを変化させる抑止制御を行う。
【0044】
更に、中央装置4の制御部401(ミクロ制御部401B)は、図7に示すように、抑止制御の第3段階として、対象車両5Aの走行方向に対応する流入路の全赤時間を継続する全赤制御を実行し、一般車両5を交えて対象車両5Aを停止させる。
この全赤制御では、対象車両5Aだけでなく一般車両5の走行も確実に抑止され、一般車両5の走行に与える影響が大きい。そこで、第1及び第2段階の抑止制御によって対象車両5Aの存在範囲がほぼ確実であり、警察車両5Bが到着して包囲網を形成できた時点で行われる。
【0045】
以下、第1段階から第3段階の抑止制御の各内容を、それぞれ詳述する。
なお、本実施形態では、抑止制御を実行する際のトリガー(入力情報)となる、対象車両5Aの走行位置(絶対位置でもリンク番号でもよい。)、走行速度及び走行方向については、現場からの通報情報やこれに対応する路側計測情報(車両速度)S3に基づいて、中央装置4のオペレータが操作部405を通じて制御部401に入力するものとする。もっとも、走行速度については、オペレータが入力するのではなく、中央装置4の記憶部404に記憶させた所定の設定値を用いても良い。
【0046】
〔第1段階の抑止制御(高速感応制御)〕
第1段階の抑止制御では、まず、ミクロ制御部401Bが、対象車両5Aがその下流側の制御交差点Jiに到着するタイミングで、当該交差点Jiを通行可能か否かを判定する第1判定を行う。
この第1判定は、対象車両5Aの走行位置と走行速度とから、対象車両5Aが対象交差点Jiに到達する予測時刻を算出し、算出した到達時刻における流入路の信号現示に基づいて、すなわち、その流入路の信号灯色が通行可能を示す信号灯色であるか否かに基づいて行われる。なお、この場合の通行可能を示す信号灯色とは、「青」及び「青矢」のことである。
【0047】
上記第1判定の判定結果が否定的である場合には、特に青時間の短縮処理を行わなくても、対象車両5Aが下流側の交差点Jiで停止する筈であるから、ミクロ制御部401Bは高速感応制御を実行しない。
一方、上記第1判定が肯定的である場合には、その制御交差点Jiでの青時間が短縮可能か否か、或いは、赤時間が延長可能か否かを判定する第2判定を行う。
【0048】
青時間短縮方式の場合の第2判定は、具体的には、当該交差点Jiについての到達する予測時刻から赤開始時刻までの時間が予め設定された最大青短縮時間以下である場合に、当該制御交差点での青時間の短縮が可能と判定するものである。
なお、上記「最大青短縮時間」とは、青時間短縮方式による高速感応制御を行う場合において、信号階梯における「PG」未満の範囲で青時間を最大限に短縮可能なものとして予め定められた時間のことである。
【0049】
上記第2判定の判定結果が肯定的である場合には、ミクロ制御部401Bは、第2判定の判定対象となった制御交差点Jiにおいて、当該交差点Jiにおける対象車両5Aが走行する方向の青時間の短縮秒数を、到達する予測時刻から赤開始時刻までの時間に所定の余裕時間αを加えた値にすることにより、青時間(具体的には、信号階梯における「PG」の時間)を短縮し、対象車両5Aを当該制御交差点Jiにおいて停止させる。
なお、上記余裕時間αとは、車両が余裕をもって停止線前で停止できるように、交差点Jiの手前で赤表示に遭遇するように予め設定された時間である。
【0050】
また、赤時間延長方式の場合の第2判定は、具体的には、制御交差点Jiについての青開始時刻に予め設定された最大赤延長時間を加えた時刻が、対象車両5Aが当該交差点Jiに到達する予測時刻よりも遅い場合に、制御交差点Jiの青時間の延長が可能と判定するものである。
なお、上記「最大赤延長時間」とは、赤時間延長方式による高速感応制御を行う場合において、信号階梯における上限秒数(信号制御指令が無い場合に、信号機自身で次の階梯に進む秒数。フェールセーフのために設定されている。)未満の範囲で赤時間を最大限に延長可能なものとして予め定められた時間のことである。
【0051】
上記第2判定の判定結果が肯定的である場合には、ミクロ制御部401Bは、第2判定の判定対象となった制御交差点Jiにおいて、当該交差点Jiにおける対象車両5Aが走行する方向の赤時間の延長秒数を、予め設定された上記最大赤延長時間の値にすることにより、赤時間を延長し、対象車両5Aを当該制御交差点Jiにおいて停止させる。
【0052】
一方、上記第2判定の判定結果が否定的である場合には、ミクロ制御部401Bは、対象車両5Aが走行する方向を基準とした場合の当該第2判定を行った制御交差点Jiの下流側にある次の制御交差点Jk(k≠i)についても、上記の第1判定と第2判定を実行する。
【0053】
そして、ミクロ制御部401Bは、次の制御交差点Jkについての第2判定の判定結果が肯定的である場合には、当該次の制御交差点Jkにおいて所定時間だけ前述の青時間の縮又は赤時間の延長を行い、第2判定の判定結果が否定的である場合には、対象車両5Aが走行する方向を基準とした場合の当該第2判定を行った制御交差点Jkの下流側にある更に次の制御交差点Jl(l≠k)について、上記の第1判定と第2判定を実行する。
なお、第1及び第2判定を繰り返す制御交差点の個数は特に限定されないが、本実施形態では第2段階の抑止制御を行うので、制御交差点の個数を3つに限定している。
【0054】
このように、本実施形態の中央装置(交通信号制御装置)4によれば、ミクロ制御部401Bが、対象車両5Aの下流側にある制御交差点Ji,Jkにおける第2判定の判定結果が否定的である場合でも、当該制御交差点Ji,Jkの下流側の次の交差点Jk,Jlについて第1判定と第2判定を実行するので、対象車両5Aの発生地点の直ぐ下流側の交差点でしか青時間の短縮等を実行しない従来の高速感応制御の場合に比べて、対象車両5Aの走行をより確実に抑止することができる。
【0055】
〔第2段階の抑止制御(プログラム形成制御)〕
第2段階の抑止制御では、まず、エリア設定部401Cが当該抑止制御を実行すべき制御エリアCAを設定し、マクロ制御部401Aが、設定された制御エリアCAに含まれる制御交差点に対して、対象車両5Aがそれらの制御交差点において赤信号に遭遇し易くなるように信号制御パラメータを変化させる抑止制御を実行する。
以下、エリア設定部401Cにおける制御エリアCAの設定方法と、マクロ制御部401Aによる抑止制御の内容について説明する。
【0056】
〔制御エリアの設定方法〕
図8は、制御エリアCAの設定状態を示す道路地図である。
図8(a)〜図8(d)のうち、図8(a)は、対象車両5Aの現在の走行位置のみが特定された場合の制御エリアCAを示し、図8(b)は、走行位置に加えて走行方向と走行速度が特定された場合の制御エリアCAを示している。
【0057】
オペレータによる入力情報が対象車両5Aの走行位置のみの場合には、エリア設定部401Cは、図8(a)に示すように、その走行位置を中心とした所定の上限半径と下限半径を有する、ドーナツ状の制御エリアCAを設定する。
一方、オペレータによる入力情報に、対象車両5Aの走行位置に加えて、走行方向と走行速度が含まれている場合には、エリア設定部401Cは、図8(b)及び図8(c)に示すように、エリア角度θを絞った扇形状の制御エリアCAを設定する。
【0058】
上記エリア角度θは、対象車両5Aの走行軌跡数や走行速度に応じて、自動又は手動で設定可能であり、多数の走行軌跡が得られたために逃走経路がほぼ特定できる場合には、図8(d)に示すように、エリア角度θ=0として制御エリアCAを逃走経路と一致させることもできる。なお、初動捜査の段階で、対象車両5Aの目的地が判明している場合にも、制御エリアCAをその逃走経路と一致させることができる。
このように、本実施形態のエリア設定部401Cは、対象車両5Aの走行位置、走行方向及び走行速度に基づいて、制御エリアCAの範囲を可変に設定可能になっている。
【0059】
また、エリア設定部401Cは、対象車両5Aの走行位置からリンク旅行時間等による推定旅行時間の累計が所定時間(例えば、10分)に到達するまでの距離を、制御エリアCAの外周縁(図8に示す外周半径R)として設定する。
この外周縁Rの設定は、オペレータが手動で入力してもよいし、制御種別ごとにエリア設定部401Cが自動生成することにしてもよい。
【0060】
一方、エリア設定部401Cは、対象車両5Aの走行位置から抑止制御の制御遅れ時間の間に対象車両5Aが到達可能な距離を、制御エリアCAの内周縁(図8に示す内周半径r)として設定する。
その理由は、対象車両5Aの走行位置から上記内周縁rの位置より近い範囲の交差点については、マクロ制御部401Aによる信号制御パラメータの変更が間に合わないので、その範囲を制御エリアCAに含める意味がないからである。
【0061】
従って、上記内周縁rの設定は、エリア設定部401Cが自動生成するものであり、図16に例示するように、例えば推定旅行時間から算出される区間平均速度に基づいて、制御種別ごとに個別に自動生成される。
図16に示す例では、スプリット制御の場合には、制御遅れに伴う平均逃走距離が833mとされ、オフセット制御及びサイクル長制御の場合には、その平均逃走距離が5197mとされているが、その平均逃走距離(内周縁r)の算出根拠は次の通りである。
【0062】
なお、図16に示す例では、サイクル長C=140秒、推定旅行時間から求めた区間平均速度v=30km/h(=8.33m/s)、スプリット制御の制御周期=1分、サイクル及びオフセット制御の制御周期=5分としている。
また、制御周期内での受付時間をa、制御受付時点からの追従時間をb、サイクル長内での受付時間をcとする。
【0063】
この場合、スプリット制御では、受付時間aの平均値σa=60秒/2=30秒であり、追従時間b=0であり、受付時間cの平均値=140秒/2=70秒となる。
従って、スプリット制御の場合における、対象車両5Aが検出されてから制御発動までの総遅れ時間dの平均値σdは、30+0+70=100秒となるので、内周縁r=v×100秒=8.33×100=833mとなる。
【0064】
一方、サイクル及びオフセット制御では、受付時間aの平均値σa=300秒/2=150秒であり、追従時間b=平均追従回数(4回)×140=560秒であり、受付時間c=0となる。
従って、サイクル及びオフセット制御の場合における、対象車両5Aが検出されてから制御発動までの総遅れ時間dの平均値σdは、150+560+0=710秒となるので、内周縁r=v×710秒=8.33×710=5917mとなる。
【0065】
もっとも、上記算出方法は、あくまでも総遅れ時間dの平均値σdに基づいて内周縁rを算出した場合であり、内周縁rの大きさは、制御周期内におけるジョブの受付タイミング(対象車両5Aの検出タイミング)によって変動し得る。
このように、本実施形態のエリア設定部401Cは、スプリット制御、オフセット制御及びサイクル長制御の制御種別ごとに、制御エリアCAの内周縁rの大きさを設定することができる。
【0066】
なお、エリア設定部401Cにおいて、各リンクの旅行時間を用いて、100秒(スプリット制御の場合)、710秒(サイクル及びオフセット制御の場合)の間に車両5が到達する地点を求め、その地点を制御エリアCAの内周縁rとしてもよい。また、この場合には、内周縁rが厳密な円弧にはならないが、内周縁rの形状は多角形その他の円弧以外の形状であってもよい。
【0067】
図9は、制御エリアCAと対象交差点との関係を示す道路線形図である。
図9に示すように、制御エリアCA(図9では半円の場合を例示)が特定されると、マクロ制御部401Aは、記憶部404に格納されたリンクデータに基づいて、対象車両5Aの現在位置から制御エリアCAに到達し得る逃走ルートを探索する。
そして、マクロ制御部401Aは、上記の逃走ルートに含まれる制御交差点について、対象車両5Aが赤信号に遭遇し易くするためのスプリット制御、オフセット制御及びサイクル長制御を実行する。
【0068】
なお、マクロ制御部401Aによる抑止制御の実行は、スプリット制御及びオフセット制御については単独実行であっても良いが、サイクル長制御については単独実行されることがなく、スプリット制御又はオフセット制御若しくはこれらの双方と同時実行される。
その理由は、本実施形態のサイクル長制御は、後述の通りサイクル長を通常よりも大きく設定するものであるが、これを単独実行すると却って対象車両5Aが通行し易くなり、後述のスプリット制御やオフセット制御と共に行って初めて、対象車両5Aに対する走行抑止効果が向上するからである。
【0069】
〔走行抑止のためのスプリット制御〕
図10及び図11は、マクロ制御部401Aが実行可能な走行抑止のためのスプリット制御を示す図である。このうち、図10は重要交差点に対するスプリット制御を示し、図11は一般交差点に対するスプリット制御を示している。
ここで、重要交差点とは、普段から負荷率が大きくボトルネックになることが多い交差点のことをいい、一般に、幹線・準幹線道路相互の交差点がこれに該当する。従って、重要交差点の場合には、通常、すべての流入路に車両感知器等の路側センサ3が設けられており、すべての流入路について交通需要が計測可能となっている。
【0070】
これに対して、一般交差点とは、重要交差点に比べて従道路の交通需要が少なく、例えば単に横断歩行者の青時間を確保すればよいような交差点のことをいう。
従って、一般交差点の場合には、通常、主道路側の流入路だけに車両感知器等の路側センサ3が設けられ、従道路側には路側センサ3がなく、一部の流入路の交通需要が計測可能となっている。
【0071】
〔重要交差点の場合〕
図10に示すように、スプリット制御の対象交差点が重要交差点である場合、マクロ制御部401Aは、まず、逃走ルートから制御対象とすべき重要交差点に流入するリンクを検索し、対象流入路を決定する。
その後、マクロ制御部401Aは、対象流入路の渋滞長を制御発動の条件とする。すなわち、マクロ制御部401Aは、その渋滞長が所定の閾値以下の場合に、後述のようにスプリットを変更し、その渋滞長が同閾値を超える場合には、通常制御(本実施形態ではMODERATO制御)を継続し、スプリット変更を行わない。
【0072】
その理由は、重要交差点での渋滞長が始めから大きい場合には、スプリット変更による抑止制御を行わなくても、対象車両5Aが当該重要交差点に到達したときに停止する可能性が高いからである。
そして、走行抑止のために重要交差点のスプリットを変更する場合、マクロ制御部401Aは、対象車両5Aの走行方向に対応する流入路の交通需要を、当該流入路の交通容量で除した値よりも小さい値に、当該スプリットを設定する。
【0073】
例えば、3現示の重要交差点を例示する図10において、主道路1φ、右折2φ及び従道路3φの通常スプリットが、それぞれ50%、20%及び30%に設定されているものとする。また、対象車両5Aが主道路を走行中であるとする。
この場合、マクロ制御部401Aは、主道路1φと右折2φのスプリットを、その時点の交通量(台/H)を交通容量で割った値に、1未満の係数(図例では、0.8)を掛けた値に変更する。
【0074】
ここで、スプリット制御の対象交差点が重要交差点である場合に、上記1未満の係数を掛けてスプリットを絞ることにより、対象車両5Aの逃走ルート上にある流入路のスプリットを、当該流入路の交通需要を当該ルートの交通容量で除した値よりも小さい値にしているのは、次のa)〜c)の理由による。
a) 流入路のスプリットを、上記1未満の係数を掛けた小さい値に設定すれば、交通量の多寡に拘わらず当該流入路に渋滞を発生させることができる。
b) 対象車両5Aの流入路以外の方向の流入路の交通便益を最大化できる。
【0075】
c) 重要交差点は普段から渋滞していることが多いので、スプリットが小さく成ることによって渋滞が多くなっても、普段よりその交差点を走行している一般車両5にも気付かれにくく、混乱が生じにくい。
また、本実施形態では、マクロ制御部401Aが、対象流入路の渋滞長に基づいて重要交差点への流入路のスプリットを変更するか否かを決定するので、その変更によって想定外の渋滞長が当該流入路に発生したような場合には、元のスプリットに復元できるという利点もある。
なお、上記1未満の係数は、走行抑止用の係数として重要交差点ごとに予め設定しておいてもよいし、オペレータの入力によって人為的に変更できるようにしてもよい。
【0076】
〔一般交差点の場合〕
図11に示すように、スプリット制御の対象交差点が一般交差点である場合、マクロ制御部401Aは、まず、リンクデータに含まれるリンクの中から、逃走ルートに対応する制御用のリンクを検索し、そのリンクを通過する場合の一般交差点の現示を求める。
その後、上記リンクに所属するオフセット情報から、当該一般交差点に最低限必要なスプリットを算出する。
【0077】
例えば、2現示の一般交差点を例示する図11において、主道路1φ及び従道路2φの通常スプリットが、それぞれ70%及び30%に設定されているものとする。また、対象車両5Aが主道路を走行中であるとする。
この場合、マクロ制御部401Aは、主道路1φと従道路2φのスプリットを、その時点の交通量(台/H)を交通容量で割った値に変更する。すなわち、係数=1.0となっている。
【0078】
このように、一般交差点の場合に係数を1に設定することにより、対象車両5Aの逃走ルート上にある流入路のスプリットを、当該流入路の交通需要を当該流入路の交通容量で除した値に設定し、その値よりも小さい値に設定していないのは、一般交差点への流入路のような通常は混雑しない道路で混雑が生じると、普段その道路を走行している一般車両5に混乱が生じるおそれがあるからである。
この点、上記交通量(台/H)を交通容量で除した値は、一般交差点を渋滞させないぎりぎりのスプリットであるから、一般交差点のスプリットをその程度の値に絞っても、一般車両5にとってもそれほど迷惑にはならないと考えられる。
【0079】
〔走行抑止のためのオフセット制御〕
前記した通り、本実施形態のマクロ制御部401Aは、交差点Jiへの流入交通量に基づいてオフセットを自動生成する機能(例えば、TRANSYT)を有している。
そこで、本実施形態のマクロ制御部401Aは、制御エリアCAに含まれる制御交差点について、対象車両5Aの走行方向の車両台数を実際の車両台数よりも少なく見積もってオフセットを自動生成することにより、対象車両5Aの走行方向と逆方向の流入路の通行を優先する、いわゆる「逆優先オフセット制御」を実行する。
【0080】
この場合、対象車両5Aの走行方向の車両台数を実際よりも少なく見積もるので、逆方向の系統効果が相対的に優先され、結果的に、対象車両5Aの走行方向の系統効果が悪化することになる。
すなわち、オフセット制御において、上り下りの両方向の交通に対してほぼ同等の系統効果を与えるようにオフセットを設定する方式を「平等オフセット」というが、上り下りの方向別の交通需要に差がある場合等に、いずれか一方向に対して優先的に高い系統効果を与えるようにオフセットを設定する方式を「優先オフセット方式」という。
【0081】
また、優先オフセット方式において、一方向のみの系統効果を最大にして、対向方向の系統効果を完全に無視する方式を「完全優先オフセット方式」という。
優先オフセット方式では、優先的に高い系統効果が与えられる方向の対向方向については、逆に系統効果が悪化し、その対向方向を走行する車両が交差点ごとに赤信号で停止する可能性が高くなる。
従って、対象車両5Aの走行方向と逆方向の流入路を優先する優先オフセット(逆優先オフセット)を適用すれば、結果的に、対象車両5Aが交差点ごとに赤信号で停止する可能性が高いオフセットが設定されることになる。
【0082】
また、本実施形態のマクロ制御部401Aでは、対象車両5Aの走行方向の車両台数をゼロに設定して、オフセットを自動生成することができる。
この場合、逆方向の系統効果が最大になり、対象車両5Aの走行方向の系統効果を完全に無視する完全逆優先オフセット(一方通行)となるので、オフセットの自動生成による対象車両5Aの走行抑止効果を最大限に向上できる。
【0083】
図12は、通常オフセット(平等オフセット)の場合の走行軌跡の一例を示す時間距離グラフであり、図13は、上記逆優先オフセットの場合の走行軌跡の一例を示す時間距離グラフである。
これらの時間距離グラフは、ある道路区間の複数の交差点について、所定のオフセット自動生成ロジックに基づいて交通シミュレーションを行った結果であり、図13は、主道路の上り方向の交通量をゼロに設定する完全逆優先オフセットを行った結果である。
【0084】
この図12と図13を対比すれば明らかな通り、対象車両5Aの走行方向に対応する流入路と逆方向の流入路に対して優先的なオフセットに変更すれば、対象車両5Aが交差点ごとに赤信号で停止する可能性が高くなり、対象車両5Aの走行を抑止するための抑止制御に応用することができる。
また、逆優先オフセットの場合には、対象車両5Aの走行方向と逆方向の流入路の交通便益(円滑化)が高まるので、対象車両5Aの走行抑止に役立つということに加えて、警察車両5Bが逆方向から対象車両5Aに早く辿り着きやすくなるとともに、制御エリアCA全体の交通便益は損なわれないという付加的効果もある。
【0085】
〔走行抑止のためのサイクル長制御〕
図14は、サイクル長制御の内容を示す道路線形図である。
図14において、符号SA1〜SA6は、サイクル長制御の最小単位となるサブエリア(サブエリア単位)を示しており、図14の例では、4つのサブエリアSA2,SA3,SA4、SA6が制御エリアCAと重複しており、サブエリアSA1,SA5が制御エリアCAの範囲外であるとする。
【0086】
また、各サブエリアSA1〜SA6におけるサイクル長Cの変動範囲と、現時点の運用サイクル長Cは、図14の表に示す通りであるとし、サブエリアの結合条件となる閾値は±20秒であるとする。
ここで、本実施形態では、制御エリアCA内の制御交差点について対象車両5Aの流入路のスプリットを絞ったり、対象車両5Aの走行方向に対する逆方向優先オフセットを設定したりして、その走行抑止を行っているが、これと同時にサイクル長Cを長く設定すると、対象車両5Aが当該流入路において赤信号に遭遇する確率がより増大し、対象車両5Aに対する走行抑止効果が向上すると考えられる。
【0087】
そこで、本実施形態のマクロ制御部401Aは、走行抑止のためのスプリット制御やオフセット制御と同時に、制御エリアCA内の各サブエリアのサイクル長Cがなるべく大きくなるようなサイクル長制御を実行し、対象車両5Aに対する走行抑止効果をより確実にする。
具体的には、マクロ制御部401Aは、制御エリアCAに含まれる複数の制御交差点を含むサブエリアSA2,SA3,SA4,SA6単位のサイクル長Cを、当該各単位で許容されるサイクル長Cの最大値に変更し、新たなサブエリア構成とする。
【0088】
すなわち、図14に示す例で言うと、各サブエリアSA2,SA3,SA4,SA6の現状サイクル長Cを最大値Cmax に引き上げた上でそれらの結合条件を判定し、新たなサブエリア構成を編成する。
SA2:現状 90秒→最大値120秒
SA3:現状100秒→最大値110秒
SA4:現状110秒→最大値110秒
SA6:現状120秒→最大値130秒
【0089】
この場合、上記サブエリアSA2,SA3,SA4,SA6の引き上げ後のサイクル長Cはすべて閾値の範囲内にあるので、これらは1つの新たなサブエリアとして結合する。
また、サブエリアSA5については、制御エリアCA外であるため、サイクル長Cの引き上げが行われないが、現状のサイクル長が130秒(閾値内)であるため、隣接するサブエリアSA6と結合する。
【0090】
他方、サブエリアSA1については、制御エリアCA外であるため、サイクル長Cの引き上げが行われず、現状のサイクル長が80秒(閾値外)であるため、隣接するサブエリアSA5,SA6と結合しない。
以上から、図14に示す例では、サブエリアSA1以外の5つのサブエリアSA2〜SA6が1つのサブエリア構成となる。
【0091】
〔第3段階の抑止制御(全赤制御)〕
第3段階の抑止制御は、第1及び第2段階の抑止制御によって対象車両5Aの存在範囲がほぼ確実となり、警察車両5Bが到着して包囲網を形成できた時点で行われる。
すなわち、例えば図7に示すように、対象車両5Aが存在するリンクに警察車両5Bが到着すると、中央装置4のオペレータはリンクを挟む上下流側の各交差点を、全赤制御の制御対象に設定する。
【0092】
すると、中央装置4のミクロ制御部401Bは、図15に示すように、当該交差点における早い方の全赤時間(AR)の階梯を継続させる全赤制御を実行する。この実行指令を受けた交通信号機1は、主道路と従道路の階梯を全赤ARに保持し、当該交通信号機1の信号灯色がすべて全赤となる。
これにより、対象車両5Aが一般車両5とともにリンク内で停止し、対象車両5Aを確実に捕捉できるようになる。
【0093】
なお、上記全赤制御を発動するトリガーとしては、警察車両5Bからの通報だけでなく、画像感知器が撮影した対象車両5Aのリアルタイム映像によって行ってもよい。
もっとも、交通信号機1が全赤になった場合には、警察官による誘導で一般車両5と対象車両5Aを分離することになるので、警察車両5Bの現地到着が確実になった時点で全赤制御を発動することが好ましい。
【0094】
また、図16の表に示すように、全赤制御の制御実行までに対象車両5Aが到達可能な平均逃走距離は、例えば1167mである。この距離は、サイクル長(=140秒)に平均速度(30km/h=8.33m/s)を掛けて算出したものである。
【0095】
〔その他の変形例〕
上記実施形態は例示であって本発明の権利範囲を制限するものではない。本発明の権利範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の構成と均等の範囲内のすべての変更が本発明に含まれる。
例えば、上記実施形態では、第2段階の抑止制御(マクロ制御)において、スプリット制御、オフセット制御及びサイクル長制御のすべてを実行しているが、スプリット制御又はオフセット制御のいずれか一方のみを実行することにしてもよい。
【0096】
また、上記実施形態では、第1段階から第3段階に分けて抑止制御を実行しているが、第1段階の抑止制御(高速感応制御)のみを実行することにしてもよい。
更に、本発明は、中央装置4が広域制御を行う場合に限らず、LANに含まれる複数の交通信号機1が、中央装置4による制御とは別個のグループ単位での系統制御又は広域制御を行う場合にも適用することができる。
【符号の説明】
【0097】
1 交通信号機
1a 交通信号制御機
1b 信号灯器
3 路側センサ
4 中央装置(交通信号制御装置)
401 制御部(制御手段)
401A マクロ制御部
401B ミクロ制御部
401C エリア設定部
402 表示部
403 通信部
404 記憶部
405 操作部
5 車両
Ji 交差点
S1 信号制御指令
S2 VICS情報
S3 路側計測情報
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定地点の交差点を対象としてその交通信号機の信号灯色を個別に切り替えるミクロ制御を実行する制御手段を備えた交通信号制御装置であって、
前記制御手段は、走行を抑止させたい対象車両がその下流側の前記交差点に到着するタイミングで当該交差点を通行可能か否かを判定する第1判定と、この第1判定が肯定的である場合に当該交差点での前記対象車両が流入する道路における青時間を短縮可能か否かを判定する第2判定とを行い、
前記交差点における前記第2判定の判定結果が否定的である場合に、前記対象車両が走行する方向を基準としたときの当該交差点の下流側の次の前記交差点について、前記第1判定と前記第2判定を実行することを特徴とする交通信号制御装置。
【請求項2】
前記第2判定は、前記交差点についての現時点から赤開始時刻までの時間が予め設定された最大青短縮時間以下である場合に、当該交差点での青時間の短縮が可能と判定するものである請求項1に記載の交通信号制御装置。
【請求項3】
特定地点の交差点を対象としてその交通信号機の信号灯色を個別に切り替えるミクロ制御を実行する制御手段を備えた交通信号制御装置であって、
前記制御手段は、走行を抑止させたい対象車両がその下流側の前記交差点に到着するタイミングで当該交差点を通行可能か否かを判定する第1判定と、この第1判定が肯定的である場合に当該交差点での前記対象車両が流入する道路における赤時間を延長可能か否かを判定する第2判定とを行い、
前記交差点における前記第2判定の判定結果が否定的である場合に、前記対象車両が走行する方向を基準としたときの当該交差点の下流側の次の前記交差点について、前記第1判定と前記第2判定を実行することを特徴とする交通信号制御装置。
【請求項4】
前記第2判定は、前記交差点についての青開始時刻に予め設定された最大赤延長時間を加えた時刻が、前記対象車両が当該交差点に到達する予測時刻よりも遅い場合に、当該交差点での赤時間の延長が可能と判定するものである請求項3に記載の交通信号制御装置。
【請求項5】
特定地点の交差点を対象としてその交通信号機の信号灯色を個別に切り替えるミクロ制御を交通信号制御装置に実行させるためのコンピュータプログラムであって、
走行を抑止させたい対象車両がその下流側の前記交差点に到着するタイミングで当該交差点を通行可能か否かを判定する第1判定と、この第1判定が肯定的である場合に当該交差点での前記対象車両が流入する道路における青時間を短縮可能か否かを判定する第2判定とを行うステップと、
前記交差点における前記第2判定の判定結果が否定的である場合に、前記対象車両が走行する方向を基準としたときの当該交差点の下流側の次の前記交差点について、前記第1判定と前記第2判定を実行するステップと、
を含むことを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項6】
特定地点の交差点を対象としてその交通信号機の信号灯色を個別に切り替えるミクロ制御を交通信号制御装置に実行させるためのコンピュータプログラムであって、
走行を抑止させたい対象車両がその下流側の前記交差点に到着するタイミングで当該交差点を通行可能か否かを判定する第1判定と、この第1判定が肯定的である場合に当該交差点での前記対象車両が流入する道路における赤時間を延長可能か否かを判定する第2判定とを行うステップと、
前記交差点における前記第2判定の判定結果が否定的である場合に、前記対象車両が走行する方向を基準としたときの当該交差点の下流側の次の前記交差点について、前記第1判定と前記第2判定を実行するステップと、
を含むことを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項1】
特定地点の交差点を対象としてその交通信号機の信号灯色を個別に切り替えるミクロ制御を実行する制御手段を備えた交通信号制御装置であって、
前記制御手段は、走行を抑止させたい対象車両がその下流側の前記交差点に到着するタイミングで当該交差点を通行可能か否かを判定する第1判定と、この第1判定が肯定的である場合に当該交差点での前記対象車両が流入する道路における青時間を短縮可能か否かを判定する第2判定とを行い、
前記交差点における前記第2判定の判定結果が否定的である場合に、前記対象車両が走行する方向を基準としたときの当該交差点の下流側の次の前記交差点について、前記第1判定と前記第2判定を実行することを特徴とする交通信号制御装置。
【請求項2】
前記第2判定は、前記交差点についての現時点から赤開始時刻までの時間が予め設定された最大青短縮時間以下である場合に、当該交差点での青時間の短縮が可能と判定するものである請求項1に記載の交通信号制御装置。
【請求項3】
特定地点の交差点を対象としてその交通信号機の信号灯色を個別に切り替えるミクロ制御を実行する制御手段を備えた交通信号制御装置であって、
前記制御手段は、走行を抑止させたい対象車両がその下流側の前記交差点に到着するタイミングで当該交差点を通行可能か否かを判定する第1判定と、この第1判定が肯定的である場合に当該交差点での前記対象車両が流入する道路における赤時間を延長可能か否かを判定する第2判定とを行い、
前記交差点における前記第2判定の判定結果が否定的である場合に、前記対象車両が走行する方向を基準としたときの当該交差点の下流側の次の前記交差点について、前記第1判定と前記第2判定を実行することを特徴とする交通信号制御装置。
【請求項4】
前記第2判定は、前記交差点についての青開始時刻に予め設定された最大赤延長時間を加えた時刻が、前記対象車両が当該交差点に到達する予測時刻よりも遅い場合に、当該交差点での赤時間の延長が可能と判定するものである請求項3に記載の交通信号制御装置。
【請求項5】
特定地点の交差点を対象としてその交通信号機の信号灯色を個別に切り替えるミクロ制御を交通信号制御装置に実行させるためのコンピュータプログラムであって、
走行を抑止させたい対象車両がその下流側の前記交差点に到着するタイミングで当該交差点を通行可能か否かを判定する第1判定と、この第1判定が肯定的である場合に当該交差点での前記対象車両が流入する道路における青時間を短縮可能か否かを判定する第2判定とを行うステップと、
前記交差点における前記第2判定の判定結果が否定的である場合に、前記対象車両が走行する方向を基準としたときの当該交差点の下流側の次の前記交差点について、前記第1判定と前記第2判定を実行するステップと、
を含むことを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項6】
特定地点の交差点を対象としてその交通信号機の信号灯色を個別に切り替えるミクロ制御を交通信号制御装置に実行させるためのコンピュータプログラムであって、
走行を抑止させたい対象車両がその下流側の前記交差点に到着するタイミングで当該交差点を通行可能か否かを判定する第1判定と、この第1判定が肯定的である場合に当該交差点での前記対象車両が流入する道路における赤時間を延長可能か否かを判定する第2判定とを行うステップと、
前記交差点における前記第2判定の判定結果が否定的である場合に、前記対象車両が走行する方向を基準としたときの当該交差点の下流側の次の前記交差点について、前記第1判定と前記第2判定を実行するステップと、
を含むことを特徴とするコンピュータプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図14】
【図15】
【図16】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図14】
【図15】
【図16】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−96143(P2011−96143A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−251424(P2009−251424)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
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