説明

人工ピンを導入した酸化物超電導導体及びその製造方法

【課題】磁場下における臨界電流特性の向上とともに、無磁場下における臨界電流密度の低下を抑制し、良好な臨界電流特性を有する酸化物超電導導体とその簡便な製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る酸化物超電導導体1は、基体2と、該基体の一方の面上に形成された酸化物超電導層5とを備え、該酸化物超電導層はRE123系の超電導材料からなり、不純物を含まない第一超電導膜3と不純物を含む第二超電導膜4との積層体であって、前記積層体は、前記第一超電導膜と前記第二超電導膜との界面を少なくとも備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導電力ケーブル、超電導マグネット、超電導エネルギー貯蔵装置、超電導発電装置、医療用MRI装置、超電導電流リードなどへの応用開発が進められている、磁場下で高い臨界電流特性を示す酸化物超電導導体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RE123系超電導導体は、液体窒素温度(77K)でも良好な臨界電流特性を示す高温超電導導体として広く知られている。ここで、RE123系超電導導体とは、組成式「REBaCu」で表記され、「RE」がY、Gd、Smなどの希土類元素からなる超電導導体を意味する。
一般に、純粋なRE123系超電導材料を用い良好な結晶配向性を持つように成膜された超電導導体は、無磁場下で高臨界電流特性を示す。しかし、前記純粋なRE123系超電導導体は、高磁場下で臨界電流特性が急激に低下するという問題がある。
その解決策として、従来、超電導層内に磁束をピン止めするピンニングセンターを導入する試みがなされている。
【0003】
臨界電流密度を向上させる方法として、例えば特許文献1には、RE123系超電導層と強磁性金属層とを交互に複数層積層することにより、該強磁性金属層をピンニングセンターとして作用させる方法が知られている。
例えば特許文献2には、結晶粒がc軸配向された複数の酸化物超電導層の各層間に、異なる結晶配向を有する酸化物超電導部あるいは超電導性を発揮しない材料からなる不均質部を形成させることにより、磁場中においても臨界電流密度の高い酸化物超電導導体が得られることが記載されている。
また、例えば特許文献3には、異なる酸素分圧や温度条件において成膜することで積層欠陥の量が異なる複数の酸化物超電導層を積層することにより、厚膜化した際にも臨界電流特性が劣化せず、磁場中での臨界電流値が高い薄膜の形成が提案されている。
RE123溶融凝固バルク体においては、例えば特許文献4には、PtないしRhを添加し、かつBaCeOなど非超電導相をピンニングセンターとして導入することで臨界電流特性が向上することが記載されている。
しかしながら、本来超電導層の成膜の際には成膜条件の厳密な制御が必要であり、導入ガスの構成や酸素分圧、基板温度などの成膜条件を変化させて超電導積層体を成膜する方法では、最適成膜条件からずれることによって、臨界電流特性が大きく劣化したり不安定になるなどの問題がある。
【0004】
一方、ピンニングセンターを導入するためのより簡便な製造方法として、例えば非特許文献1、2では、パルスレーザ蒸着法を用い、ターゲットにBaZrOやYなどの不純物相をあらかじめ添加しておくことで、これらを超電導薄膜結晶中に微細に導入する試みが提案されている。この方法では、不純物相の種類によって超電導層内での結晶粒の形状が異なり、ピン止め力を制御することが可能である。
しかしながら、前記不純物相は、一般的にある一定量までは添加すればするほど磁場下における臨界電流特性が向上するが、無磁場下での特性は逆に低下する問題がある。
【特許文献1】特開昭63−318014号公報
【特許文献2】特開平4−154604号公報
【特許文献3】特開2005−116408号公報
【特許文献4】特開2006−62896号公報
【非特許文献1】2007年度春季低温工学予稿集、132P
【非特許文献2】2007年度春季低温工学予稿集、133P
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、磁場下における臨界電流特性を向上させるとともに、無磁場下における臨界電流密度の低下の抑制も図ることができ、ひいては良好な臨界電流特性を有する酸化物超電導導体を提供することを第一の目的とする。
また、本発明は、上述した良好な臨界電流特性を有する酸化物超電導導体を、再現性良く簡便に形成できる酸化物超電導導体の製造方法を提供することを第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明の請求項1に係る酸化物超電導導体は、基体と、該基体の一方の面上に形成された酸化物超電導層とを備え、該酸化物超電導層はRE123系の超電導材料からなり、不純物を含まない第一超電導膜と不純物を含む第二超電導膜との積層体であって、前記積層体は、前記第一超電導膜と前記第二超電導膜との界面を少なくとも備えることを特徴とする酸化物超電導導体。
【0007】
本発明の請求項2に係る酸化物超電導導体は、請求項1において、前記積層体は、前記第一超電導膜の上に前記第二超電導膜を重ねてなる構成を少なくとも含むことを特徴とする。
【0008】
本発明の請求項3に係る酸化物超電導導体は、請求項2において、前記積層体は、前記界面を複数備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項4に係る酸化物超電導導体の製造方法は、基体の一方の面上に、RE123系の超電導材料からなり、不純物を含まない第一超電導膜と不純物を含む第二超電導膜との積層体であり、前記第一超電導膜と前記第二超電導膜との界面を少なくとも備える酸化物超電導層を形成する製造方法であって、前記酸化物超電導層は全てパルスレーザ蒸着法により形成され、前記第一超電導膜用の母材としては不純物を含まないREBaCuターゲットを、前記第二超電導膜用の母材としては不純物相を混入させたREBaCuターゲットを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る酸化物超電導導体(請求項1)は、酸化物超電導層として、RE123系の超電導材料で不純物を含まない第一超電導膜と不純物を含む第二超電導膜との積層体であって、前記第一超電導膜と前記第二超電導膜との界面を少なくとも備える構造を用いることにより、第二超電導膜内の不純物相に加え、前記界面における格子不整合などによる結晶粒界もまたピンニングセンターとして機能するため、安定したピンニング効果が得られ、磁場下における臨界電流密度の向上が図れる。さらに、第一超電導膜の存在により無磁場下における臨界電流密度の低下の抑制も図れる。ゆえに、本発明は、良好な臨界電流特性を有する酸化物超電導導体の提供に寄与する。
【0011】
本発明に係る酸化物超電導導体の製造方法(請求項4)は、前記第一超電導膜と前記第二超電導膜との積層体である酸化物超電導層を、RE123系の同じ超電導材料であって、それぞれ不純物を含まないターゲットと不純物を含むターゲットを使用して、パルスレーザ蒸着法で形成することにより、最適成膜条件を外すことなく安定した成膜を行うことができる。ゆえに、本発明によれば、良好な臨界電流特性を有する酸化物超電導導体を、再現性良く簡便に形成できる製造方法が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の酸化物超電導導体の一実施形態を示す断面図である。本実施形態に係る酸化物超電導導体1は、基体2の一方の面上に、酸化物超電導積層体5が設けられた構造であり、該酸化物超電導積層体5は、同じRE123系の超電導材料からなり、不純物を含まない第一超電導膜3と不純物を含む第二超電導膜4から形成されている。
【0013】
前記基体2としては、一般に酸化物超電導導体1の基体として十分な機械的強度と耐熱性、耐酸化性を有する金属材料からなるテープ状基材、例えばハステロイなどが用いられる。または該テープ状基材表面に中間層を設けたものを基体2として用いてもよい。この基体2の長さ、幅、厚さは、製造する酸化物超電導導体1の用途などに応じて適宜設定することができる。
また、酸化物超電導積層体5は全てパルスレーザ蒸着法により形成され、前記第一超電導膜3用の母材としては不純物を含まないREBaCuターゲットを、前記第二超電導膜4用の母材としては不純物相として例えばZrOを混入させたREBaCuターゲットを用いる。
【0014】
一実施例として、前記酸化物超電導積層体5として、パルスレーザ蒸着法により前記第一超電導膜3と前記第二超電導膜4を様々な順序で三層積層したときの超電導薄膜の臨界電流特性を測定した。以下、実験に用いた構成を示す。
厚さ100μmのハステロイ製テープ基材の表面に、IBAD法により厚さ1μmのGdZrからなるIBAD中間層を成膜し、該IBAD中間層上に、パルスレーザ蒸着法によって厚さ1μmのCeO中間層を成膜し、該CeO中間層上にパルスレーザ蒸着法によってRE123系酸化物超電導層を成膜し、さらに該酸化物超電導層上に厚さ10μmのAgスパッタ層を成膜して酸化物超電導テープを作製した。
酸化物超電導層の成膜には、REBaCuターゲット、あるいは不純物相として2mol%のZrOを混入させたREBaCuターゲットを用い、温度820℃、圧力90Paのもとでエキシマレーザ光を照射して成膜、積層を行った。
【0015】
液体窒素温度下(77K)における臨界電流特性を測定し、3Tの磁場下における臨界電流密度Jcの磁場印加角度依存性を図2に、無磁場下における臨界電流Ic及び臨界電流密度Jcを図3に表す。
ここで、不純物を含まない第一超電導膜3をN層、不純物を含む第二超電導膜4をP層と表し、基体2表面からの積層順に並べて記号で表すこととする。例えば、基体2表面にN層を形成し、該N層表面にさらにN層を形成し、該N層の表面にP層を形成して三層の積層体を形成した場合の表記はNNPとする。
図2より、磁場下において、三層全て第二超電導膜4からなる構成の積層体PPPの方が、三層全て第一超電導膜3からなる構成の積層体NNNに比べ臨界電流密度Jcが2倍以上高い結果が得られ、不純物相を含むターゲットを使用するだけで簡便に人工ピンが導入されたことが分かる。しかし、図3に示すように、無磁場下においては積層体PPPの臨界電流密度Jcは低下している。
そこで、積層体NNNに対して三層のうち一層を第二超電導膜4に置き換えて混合積層した場合(積層体NNP、NPN、PNN)、図2、図3に示すように、臨界電流密度Jcを制御することができ、その積層構造によっては磁場下における臨界電流密度Jcの向上とともに、無磁場下における臨界電流密度Jcの低下の抑制も図れる。
【0016】
本発明の酸化物超電導導体1の構造によれば、第二超電導膜4内に存在する不純物相に加え、第一超電導膜3と第二超電導膜4との界面における格子不整合などによる結晶粒界もまたピンニングセンターとして機能することにより、安定したピンニング効果が得られ、磁場下における臨界電流密度の向上が図れる。さらに、第一超電導膜3の存在により無磁場下における臨界電流密度の低下の抑制も図ることができ、ひいては良好な臨界電流特性を有する酸化物超電導導体を得ることができる。
この際、第一超電導膜3と第二超電導膜4の膜厚、積層数はいかようにも可能である。
【0017】
さらに本発明の酸化物超電導導体1において、酸化物超電導積層体5は、第一超電導膜3の上に第二超電導膜4を重ねてなる構成を少なくとも含むことが好ましい。
図2、図3より、N層の上にP層を積層した構成を少なくとも含む積層体NPN、NNPは、積層体PNNに比べ良好な臨界電流特性が得られることがわかる。
【0018】
さらに、前記酸化物超電導積層体5は、第二超電導膜4が第一超電導膜3に挟まれた構造(NPN)であることが好ましい。これにより、第一超電導膜3と第二超電導膜4との界面の接触面積が増え、界面の格子結晶粒界によるピンニング効果が増大するため、より安定した構造となり、再現性良く高い臨界電流特性が維持できる。
【0019】
本実施形態に係る酸化物超電導導体の製造方法は、基体の一方の面上に酸化物超電導積層体5を形成する方法であって、全てパルスレーザ蒸着法を用い、不純物を含まないREBaCuターゲットと不純物相として例えばZrOを混入させたREBaCuターゲットを用いることを特徴とする。これにより、厳密な成膜条件を必要とする酸化物超電導薄膜の作製において、最適な成膜条件を維持しつつ、安定して良好な臨界電流特性を有する酸化物超電導導体を、再現性良く簡便に形成することができる。
【0020】
本発明の一実施例として、図4に示すような酸化物超電導テープなどの形状が挙げられる。ハステロイ製テープ基材11の表面に、IBAD法によって酸化物(例えば GdZr)からなるIBAD中間層12、該IBAD中間層12の表面にパルスレーザ蒸着法によって CeO中間層13、該 CeO中間層13の表面にパルスレーザ蒸着法によってRE123系の酸化物超電導層14、該酸化物超電導層14上にAgスパッタ層15がそれぞれ成膜され、Cuなどからなる安定化金属テープまたはNi−Crのような高抵抗テープ16とをハンダで貼り合わせた構造である。
本発明の酸化物超電導導体は、第一超電導膜3と第二超電導膜4との積層数や積層順序を変化させることにより、無磁場下乃至(または)磁場下での臨界電流特性を制御可能であり、さらにAgスパッタ層15の膜厚や、安定化金属テープまたは高抵抗テープ16の選定によって多様な超電導線材の作製が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は、基体上に形成された酸化物超電導層が、不純物を含まないRE123系の超電導膜と不純物を含むRE123系の超電導膜とを界面を有するように積層させることにより、効率良く人工的にピンニングセンターを導入し、磁場下における特性の向上とともに、無磁場下における特性の低下の抑制を図れる酸化物超電導導体及びその製造に利用することが可能であり、例えば、小型でハイパワーな磁場発生源として、超電導マグネットをはじめとする様々なデバイス等への応用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る一実施形態の酸化物超電導導体の一例を示す断面図。
【図2】酸化物超電導層の積層順と磁場下での臨界電流密度との関係を表すグラフ。
【図3】酸化物超電導層の積層順と無磁場下での臨界電流密度との関係を表すグラフ。
【図4】本発明に係る酸化物超電導テープの一実施形態を示す要部斜視図。
【符号の説明】
【0023】
1、10 酸化物超電導導体、2 基体、3 第一超電導膜、4 第二超電導膜、5 酸化物超電導層(積層体)、11 ハステロイ製テープ基材、12 IBAD中間層、13 CeO中間層、14 酸化物超電導層、15 Agスパッタ層、16 安定化金属テープまたは高抵抗テープ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、該基体の一方の面上に形成された酸化物超電導層とを備え、該酸化物超電導層はRE123系の超電導材料からなり、不純物を含まない第一超電導膜と不純物を含む第二超電導膜との積層体であって、
前記積層体は、前記第一超電導膜と前記第二超電導膜との界面を少なくとも備えることを特徴とする酸化物超電導導体。
【請求項2】
前記積層体は、前記第一超電導膜の上に前記第二超電導膜を重ねてなる構成を少なくとも含むことを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導導体。
【請求項3】
前記積層体は、前記界面を複数備えることを特徴とする請求項2に記載の酸化物超電導導体。
【請求項4】
基体の一方の面上に、RE123系の超電導材料からなり、不純物を含まない第一超電導膜と不純物を含む第二超電導膜との積層体であり、前記第一超電導膜と前記第二超電導膜との界面を少なくとも備える酸化物超電導層を形成する製造方法であって、
前記酸化物超電導層は全てパルスレーザ蒸着法により形成され、前記第一超電導膜用の母材としては不純物を含まないREBaCuターゲットを、前記第二超電導膜用の母材としては不純物相を混入させたREBaCuターゲットを用いることを特徴とする酸化物超電導導体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−283372(P2009−283372A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−135981(P2008−135981)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】