説明

人工水晶の製造方法

【課題】
本発明の目的は、水熱合成法によって製造される人工水晶の製造方法において、製造される人工水晶のインクルージョン密度を減少させる人工水晶の製造方法を提供することである。
【解決手段】
上記の目的を達成する為に本発明は、水熱合成法により製造される人工水晶の製造方法において、オートクレーブ内の任意の位置に表面の粗い多数の直方体の無機物を、先の直方体の無機物の主面の法線ベクトルが重力と垂直となるように設置し、また、直方体の無機物が鉄系の金属より成ることを特徴として課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水熱合成法によって製造される人工水晶の製造方法において、製造される人工水晶のインクルージョンを減少させる人工水晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業用人工水晶は、オートクレーブと呼ばれる圧力容器を使用した水熱合成法により製造される。この水熱合成法においては、前記のオートクレーブと呼ばれる耐圧容器内に高温部と低温部が設けてあり、それぞれの領域に温度差をつけることによって高温部で溶解した水晶原料が低温部で過飽和溶液になり、オートクレーブ内に吊り下げられた水晶の種結晶上に結晶を析出させることを利用したひとつの結晶の育成方法である。
【0003】
この人工水晶の製造に必要となる圧力容器内の高圧力は、アルカリ溶液をオートクレーブ容積の70〜85%ほどに充填して、温度を加えることで得られる。通常の人工水晶の製造温度は約350〜360℃で、その圧力容器内の製造圧力は900〜1500Kg/cmである。また、先のアルカリ溶液には、NaOHあるいはNa2COが広く用いられており、そのアルカリ溶液の濃度は約1規定である。
【0004】
人工水晶のなかでも、光学用の人工水晶においては、近年特にインクルージョン密度を小さくするといった品質向上が重要視されている。このインクルージョンは、育成溶液であるアルカリ溶液にオートクレーブの金属成分が溶出することによって生成されるアクマイト、エメリューサイトなどの副生成鉱物である。これらはオートクレーブ内部の炉壁に堆積し、その炉壁から剥がれ落ちたものがオートクレーブ内部の対流に乗って浮遊して、人工水晶に取り込まれ固相インクルージョンと成る。
【0005】
一方で、アクマイトはオートクレーブからの金属の溶出を抑える安定な保護被膜でもある。オートクレーブの最初の運転時に、安定なアクマイトを内壁に形成すれば、オートクレーブを高温・高圧・アルカリ溶液の育成環境から保護し、また金属の溶出を抑えることができる。
【0006】
従って、従来のインクルージョン密度を低減する対策は、ひとつにオートクレーブの最初の運転時に安定なアクマイト層を内壁に形成させること。また、加えて、オートクレーブの運転回数が増えるにつれ内壁の副生成鉱物である鉱物は厚く堆積してくるので、その堆積層を物理的に剥がしてオートクレーブ外へと除去することが人工水晶のインクルージョン密度の低減対策であった。
【0007】
【特許文献1】特公昭57−49520号公報
【特許文献2】特開2001−19584号公報
【特許文献3】特公昭55−51800号公報
【0008】
なお、出願人は前記した先行技術文献情報で特定される先行技術文献以外には、本発明に関連する先行技術文献を、本件出願時までに発見するに至らなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来においては、実際にオートクレーブから溶出する金属量を制御するのは困難であった。金属が溶出しないように、Pt,Au,Agなどの貴金属でオートクレーブの容器をつくり、その容器を用いて人工水晶を製造する手段が一般的に知られているが、工業用人工水晶の製造に使用されるオートクレーブは大型であるので、前記の貴金属を使用した場合、非常に高価なものになってしまい工業的では無いといった問題があった。
【0010】
また、オートクレーブ内部の炉壁に堆積した副生成鉱物を、物理的にオートクレーブ外へ除去する方法は、その除去作業に余分な時間とコストが掛かってしまうと言った問題があった。
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するために成されたものであり、従ってその目的は、水熱合成法により製造される人工水晶の製造方法において、製造される人工水晶のインクルージョン密度を減少させる人工水晶の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
水熱合成法により製造される人工水晶の製造方法において、オートクレーブ内の任意の位置に表面の粗い多数の直方体の無機物を、該直方体の無機物の主面の法線ベクトルが重力と垂直となるように設置することを特徴とする。
【0013】
また、直方体の無機物が鉄系の金属より成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、水熱合成法によりオートクレーブを使用した人工水晶の製造において、従来の方法に比べて著しくオートクレーブ内部の対流を妨げること無く、インクルージョン密度の小さい人工水晶を安定して、かつその製造コストを抑えて製造することが出来る。
【0015】
また、本発明により、人工水晶の製造歩留まりを著しく良くすることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の一形態について説明する。なお、各図においての同一の符号は同じ対象を示すものとする。
【実施例1】
【0017】
本発明者らは、オートクレーブ内部に多数の表面の粗い直方体の無機物を、その直方体の無機物の物質の主面の法線ベクトルが重力と垂直になるように設置して人工水晶の製造を行った。そして観察により、オートクレーブ内部の対流に乗って浮遊している異物であるアクマイト、エメリューサイトなどの副生成鉱物が、先のオートクレーブの内部に設置された直方体の無機物表面の粗い面に、効果的に吸着されることを明らかにした。
【0018】
従って、オートクレーブの内部の任意の位置に表面の粗い直方体の無機物を設置することで、炉壁から剥がれ落ちてオートクレーブ内部の対流に乗って浮遊する副生成鉱物をその粗い直方体の無機物の表面上に吸着させるように着地させ、堆積させて捕獲することによりオートクレーブ内部に浮遊する副生成鉱物の量を減らし、その結果として人工水晶のインクルージョンを著しく減少させることが出来ることが判った。
【0019】
ここで、先の表面の粗い直方体の無機物の表面上に副生成鉱物が効果的に吸着されていることを以下に示す。この発見に至った実験で用いた直方体の無機物の試験片は、オートクレーブと同じ材質のCr-Mo鋼のブロックである。このブロックを、通常の人工水晶の製造を行なった工業用大型オートクレーブ内部に、水晶の種結晶と同様に直方体の無機物の主面の法線ベクトルが重力と垂直になるように設置した。この実験に用いられた直方体の無機物の表面の粗さは、図3に示されるように、主面4面のうち、向かい合う2面がRa=12.5、残りの2面がRa=50である。
【0020】
図4はその結果であり、直方体の無機物の試験片の主面に効果的に副生成鉱物が付着していることが判る。また、直方体の無機物の試験片の主面への副生成鉱物の付着量は表面が粗いRa=50の方が多いことが示されている。これらの観察された副生成鉱物では、そのほとんどがエメリューサイトであり、これらの副生成鉱物が人工水晶中に取り込まれている寸法より大分大きいことから、試験片から溶出した金属により生成されたものではなく、オートクレーブ内部の対流に乗ってきて付着したものが人工水晶とともに成長したもの、若しくは、先の対流に乗り成長したものが直方体の無機物の試験片の主面へ付着したものと考えられる。
【0021】
直方体の無機物の試験片に付着した副生成鉱物は、試験片という副生成鉱物の着地場所がなければ、先の対流に乗ってオートクレーブ内を浮遊後に結晶中に取り込まれたであろうし、また炉内壁に付着したのであれば、オートクレーブ内壁の保護被膜を厚くし、その剥離を進行させる原因となったであろうことが推測される。従って、オートクレーブ内部に表面の粗い直方体の無機物を設置することで、オートクレーブの炉壁から剥がれ落ちて対流に乗って浮遊する副生成鉱物の絶対量を減らすことが出来、つまりは人工水晶のインクルージョン密度を減少することが出来る。
【0022】
本発見に至った実験で用いた試験片は、それぞれを区別するため、サンプル番号が彫ってあり、番号を彫ってある窪み部分の内面は、試験片の主面より粗く、大きく窪んでいるが、ここには図5に示されるように図4のRa=50の主面上のものよりもはるかに大きな異物が大量に堆積していた。
【0023】
この結果は、異物を堆積させることを目的にしてオートクレーブ内部に設置する試験片の表面の状態は、その表面を機械研磨で粗くする以外に、例えば試験片の表面に筋を入れる、または凹みを刻むなどの方法をとっても同様の効果を奏することを示す。
【0024】
副生成鉱物の捕獲には、直方体の無機物の試験片で用いたブロックに限らず、板状、若しくは球状でも構わず、この場合も本発明の技術的範囲に含まれることは言うまでも無い。しかしながら、人工水晶の育成を妨げないために、また、オートクレーブ内部の対流を妨げないようにし、同時にオートクレーブ内部において無駄な空間を占めることが無いようにする為には、種結晶の形状と同様にブロックの形状は板状が好ましい。また、その材質は、金属の溶出ができるだけ少ないものを選ぶことが好ましい。
【0025】
図4は試験片を一度人工水晶の育成炉内に入れてその表面を剥離することの無い厚みの保護被膜で覆い、その後に再度育成炉に入れ一通り通常の人工水晶の製造を行った後に取り出した試験片の表面写真である。図4に示されているように、副生成鉱物がその表面によく付着していることがわかる。この場合、試験片の表面は保護被膜に覆われているので、試験片からの金属の溶出は抑えられ、また保護被膜によって表面に凹凸が生じているので、前記のように機械的に粗くした場合と同じ効果を奏していることが判る。
【0026】
インクルージョン密度の低減には、前記の特許文献にある特公昭57−49520号公報や、特開2001−19584号公報に開示の技術等があるが、これらのいずれも異無機物板をオートクレーブ内に設けることによりオートクレーブ内部の対流に乗って浮遊する副生成鉱物を人工水晶から遮蔽してインクルージョン密度を減らすものであり、本発明のように浮遊する副生成鉱物を捕獲して、その結果として、浮遊する副生成鉱物の全体量を減らすといった人工水晶の製造方法では無い。
【0027】
また、同じく前記の特許文献にある昭55−51800号公報には副生成鉱物であるアクマイト捕獲のために捕獲板を設けたという記載があるが、この内容は先の特公昭57−49520号公報に開示の技術と類似のものであり、捕獲板の位置は容器の内部の水晶の上方とされていることから、本発明とは異なるものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の人工水晶の製造方法を示す概略のオートクレーブとその内部の模式図である。
【図2】本発明の人工水晶の製造方法でオートクレーブの内部に設置される直方体の無機物のひとつの主面の形状を示す概略の模式図である。ギザギザの形状と、窪みを持たせた形状の場合の2例が示されている。
【図3】本発明を見出した実験に使用した試験片(ブロック状)の概略の模式図である。
【図4】試験片を一度人工水晶の育成炉内に入れてその表面を剥離することの無い厚みの保護被膜で覆い、その後に再度育成炉に入れ一通り通常の人工水晶の製造を行った後に取り出した試験片の表面拡大写真である。粗さRaが異なる(a)と(b)のふたつの試験片の表面拡大写真を示す。
【図5】本発見に至った実験で用いた試験片における、それぞれの試験片を区別するために表面に彫られたサンプル番号部の窪み部分の内面に大きな異物が大量に堆積している様子を示すその表面拡大写真である。
【図6】試験片を一度人工水晶の育成炉内に入れて、その表面を剥離すること無い厚みの保護被膜で覆い、その後に再度育成炉に入れ一通りの通常の人工水晶の製造工程を行った後に取り出した試験片の表面拡大写真である。
【符号の説明】
【0029】
1 人工水晶
2 オートクレーブ
3 直方体の無機物
4 直方体の無機物の主面
5 副生成鉱物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水熱合成法により製造される人工水晶の製造方法において、オートクレーブ内の任意の位置に表面の粗い多数の直方体の無機物を、該直方体の無機物の主面の法線ベクトルが重力と垂直となるように設置する人工水晶の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の直方体の無機物が鉄系の金属より成ることを特徴とする人工水晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−69827(P2006−69827A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−253655(P2004−253655)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000104722)京セラキンセキ株式会社 (870)
【Fターム(参考)】