説明

人工股関節

【課題】脱臼の発生を抑制することができる人工股関節を提供する。
【解決手段】骨盤の寛骨臼102に装着可能であって凹状の内壁8を有するライナー7と、大腿骨104に装着可能なステム11と、内壁8に摺動する骨頭12と、ステム11と骨頭12とを連結する頚部13とを備える。内壁8の外縁9に対応して頚部13に凹部14を設けたから、頚部13と内壁8が衝突する際、頚部13の凹部14によりステム11の回動範囲が広くなり、脱臼し難くなる。また、内壁8の外縁9に凹部14に嵌合する嵌合部15を設けたから、頚部13と内壁8が衝突する際、頚部13の凹部14が内壁8の嵌合部15に嵌り、頚部13が内壁8から回旋して脱臼することが抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工股関節に関する。
【背景技術】
【0002】
図4に示すように、人工股関節101は、骨盤の寛骨臼102に取り付ける寛骨臼コンポーネント103と、大腿骨104側の大腿骨コンポーネント105からなる(例えば特許文献1〜6)。人工股関節の構造は多種にわたるが、多くのものでは、寛骨臼コンポーネント103のカップ106は、寛骨臼102に固定する金属シェル107Aとその内部に設置するライナー107から構成され、大腿骨コンポーネント105はステム108と骨頭109から構成され、この骨頭109はステム108から延び出る頚部110に固定される。関節運動は、骨頭109がライナー107の内面と摺動運動をすることで行われる。
【0003】
図5に示すように、通常の屈曲運動が可能なのは、頚部110がライナー107と衝突するまでの範囲であり、衝突した状態で(図6)さらに屈曲すると骨頭109はライナー107から離れ(図7)、さらに回転が加わると、骨頭109が外れて脱臼する(図8)。
【0004】
脱臼が起き易い動作は、和式トイレなどにおける蹲踞(図9)や正座(図10)である。これらの動作中は図6〜図8の状態となる可能性があり、捻り動作が加わると、前記図8のように脱臼する虞がある。
【0005】
人工股関節を使用する人は、上述したような動作を避けるように指導されるが、うっかり忘れて脱臼し、病院に搬送される例が後を絶たない。このため人工股関節においては脱臼し難いことが大切な課題である。
【0006】
この課題に対する従来の技術は、(1)骨頭109の径と頚部110の径の比を大きくすることで可動域を大きくしたもの(図11)や、(2)ライナー107への入口部の径を骨頭109の径より小さくし、スナップボタンのように骨頭を拘束するもの(図12)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−136470号公報
【特許文献2】特開2005−278876号公報
【特許文献3】特開2004−230175号公報
【特許文献4】特開2004−65873号公報
【特許文献5】特表2009−514614号公報
【特許文献6】特表2002−521127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記(1)の骨頭径と頚部径の比を大きくして可動範囲を大きくする技術では、比を大きくするには、骨頭径を大きくするか、頚部径を小さくすればよい。しかし、日本人は体型が小さいため、骨頭径を欧米人並みに大きくすることはない。その理由は、骨頭径を大きくすると、組み合わせるライナーが薄くなり、耐用性が損なわれるからである。
【0009】
次に、上記(2)のスナップボタンのように骨頭を拘束する技術では、可動域が狭くなること、可動域を超えて屈曲することで拘束機構が破壊される虞があること、という2つの欠点がある。
【0010】
そこで、本発明は上記した問題点に鑑み、脱臼の発生を抑制することができる人工股関節を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、骨盤の寛骨臼に装着可能であって凹状の内壁を有するカップと、大腿骨に装着可能なステムと、前記カップの内壁に摺動する骨頭と、前記ステムと前記骨頭とを連結する頚部とを備えた人工股関節において、前記カップの外縁に対応して前記頚部に凹部を設けたことを特徴とする。
【0012】
また、請求項2に係る発明は、前記カップの外縁に前記凹部に嵌合する嵌合部を設けたことを特徴とする。
【0013】
また、請求項3に係る発明は、前記凹部は前記カップの外周縁に係合する係合部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の構成によれば、頚部とカップが衝突する際、頚部の凹部によりステムの可動範囲が広くなり、脱臼し難くなる。
【0015】
また、請求項2の構成によれば、頚部とカップが衝突する際、頚部の凹部がカップの嵌合部に嵌り、頚部がカップから回旋して脱臼することが抑制される。
【0016】
また、請求項3の構成によれば、頚部の凹部がカップの嵌合部に嵌ると共に、凹部の係合部がカップの外周縁に係合することにより、脱臼の発生がより抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例1を示す断面図である。
【図2】本発明の実施例2を示す斜視図である。
【図3】同上、断面図である。
【図4】従来例を示す人工股関節の使用状態の斜視図である。
【図5】同上、人工股関節の可動域を説明する説明図である。
【図6】同上、頸部がライナーに衝突した状態の説明図である。
【図7】同上、骨頭がライナーから離れた状態の説明図である。
【図8】同上、脱臼状態の説明図である。
【図9】同上、蹲踞状態を示す説明図である。
【図10】同上、正座状態の説明図である。
【図11】同上、人工股関節の説明図であり、図11(A)より図11(B)は骨頭径と頸部径の比が大きいものを示す。
【図12】同上、ライナーが骨頭を拘束する人工股関節の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明における好適な実施の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を限定するものではない。また、以下に説明される構成の全てが、本発明の必須要件であるとは限らない。各実施例では、従来とは異なる人工股関節を採用することにより、従来にない人工股関節が得られ、その人工股関節を夫々記述する。
【実施例1】
【0019】
以下、本発明の実施例について添付図面を参照して説明する。図1は本発明の実施例1を示す。尚、上記図4と同一部分に同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0020】
図1に示すように、人工股関節1は、寛骨臼102(図4)に固定される寛骨臼コンポーネント3と、大腿骨104(図4)の近位端に固定される大腿骨コンポーネント5とから構成されている。
【0021】
前記寛骨臼コンポーネント3のカップ6は、寛骨臼102に固定する金属シェル7Aとその内部に設置するライナー7から構成され、前記ライナー7の内壁8に摺動面8Sが形成され、この摺動面8Sは球面状をなす。尚、前記ライナー7は合成樹脂などからなる。
【0022】
前記大腿骨コンポーネント5は、ステム11と、骨頭12と、これらステム11と骨頭12とを連結する頚部13とを有し、この頚部13は前記ステム11の端部より細く、前記骨頭12を前記ライナー7に嵌め込んで摺動させることにより、股関節として機能する。
【0023】
前記大腿骨コンポーネント5の頚部13に、前記ライナー7の外縁9に対応して凹部14を設け、この凹部14には凹状湾曲面14Aが形成されている。尚、外縁9は、内壁8の開口部の周囲に位置する。また、前記ライナー7の前記外縁9には、前記凹部14と対応した堤状の嵌合部15を設け、この嵌合部15には凸状湾曲面15Aが形成されており、この凸状湾曲面15Aは前記凹状湾曲面14Aとほぼ同形である。また、摺動面8Sの底部に対して、嵌合部15の内壁8の高さhは他の部分の内壁8の高さHより低く(h<H)、この他の部分の内壁8の高さHに対して、嵌合部15の高さh1(凸状湾曲面15Aの頂点)が同一か低く形成されている(H=>h1)。
【0024】
前記嵌合部15は、前記外縁9の全周でなくてもよく、この例では部分的に設けている。また、前記頚部13の凹部14と前記外縁9の嵌合部15は、生活慣習上、頚部13とライナー7の衝突が起き易い位置に設ける。
【0025】
そして、頚部13とライナー7が衝突すると、頚部13の凹部14がライナー7の嵌合部15に嵌り、頚部13がライナー7から回旋して脱臼することが抑制される。
【0026】
このように頚部13に凹部14がある場合、より深い屈曲まで可能であり、衝突しても凹部14がライナー7の外縁9と整合することで滑りや回旋を抑制する。
【0027】
骨頭12がライナー7の内壁8から浮き上がるだけでは脱臼は起こらず、外周方向への移動が加わる必要がある。これに対して、本発明は、凹部14と嵌合部15の嵌合により、前記外周方向への移動が抑制されるため、脱臼を抑制することができる。
【0028】
また、従来の製品の可動域を減少させることがない。さらに、凹部14と嵌合部15とを設定することにより、人工股関節1を使用する人の生活動作に合わせた設定を行うことができる。
【0029】
このように本実施例では、骨盤の寛骨臼102に装着可能であって凹状の内壁8を有するカップ6と、大腿骨104に装着可能なステム11と、カップ6の内壁8に摺動する骨頭12と、ステム11と骨頭12とを連結する頚部13とを備えた人工股関節1において、カップ6のライナー7の外縁9に対応して頚部13に凹部14を設けたから、頚部13とカップ6が衝突する際、頚部13の凹部14によりステム11の回動範囲が広くなり、脱臼し難くなる。
【0030】
また、このように本実施例では、カップ6の外縁9に凹部14に嵌合する嵌合部15を設けたから、頚部13とカップ6が衝突する際、頚部13の凹部14がカップ6の嵌合部15に嵌り、頚部13がカップ6から回旋して脱臼することが抑制される。
【実施例2】
【0031】
図2〜3は本発明の実施例2を示し、上記実施例1と同一部分に同一符号を付し、その詳細な説明を省略して詳述すると、この例では、凹部14が、外縁9の幅に対応して形成されており、該凹部14のステム11側に、前記カップ6の外周縁6Gに間隔をおいて対向するようにして係合する係合部16が形成されている。また、実施例2における人工股関節1では、外縁9に嵌る凹部14が頚部13に設けられていることから、大腿骨コンポーネント5を可動させた際、当該凹部14の凹み分だけ外縁9が当たり難くなるので、その分だけステム11の可動範囲を広げることができ、従来よりも脱臼が起こり難くなる。
【0032】
さらに、このように凹部14が外縁9の全体に外嵌するようにして遊嵌するため、脱臼がより起こり難くなる。尚、この例では、金属シェル7Aの外周縁6Gがカップ6の外周縁である。
【0033】
このように本実施例では、凹部14はカップ6の外周縁6Gに係合する係合部16を有するから、頚部13の凹部14がカップ6の外縁9に嵌ると共に、凹部14の係合部16がカップ6の外周縁6Gに係合することにより、脱臼の発生がより抑制される。
【0034】
また、実施例上の効果として、上述した実施例1のような嵌合部15(図1)を、ライナー7の外縁9に形成する必要がないため、ライナー7の構造が簡易なものとなる。
【0035】
尚、本発明は、本実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば、本発明は金属シェルのないカップに適用可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0036】
1 人工股関節
2 寛骨臼
3 寛骨臼コンポーネント
4 大腿骨
5 大腿骨コンポーネント
6 カップ
7A 金属シェル
7 ライナー
9 外縁
11 ステム
12 骨頭
13 頚部
14 凹部
15 嵌合部
16 係合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨盤の寛骨臼に装着可能であって凹状の内壁を有するカップと、大腿骨に装着可能なステムと、前記カップの内壁に摺動する骨頭と、前記ステムと前記骨頭とを連結する頚部とを備えた人工股関節において、前記カップの外縁に対応して前記頚部に凹部を設けたことを特徴とする人工股関節。
【請求項2】
前記カップの外縁に前記凹部に嵌合する嵌合部を設けたことを特徴とする請求項1記載の人工股関節。
【請求項3】
前記凹部は前記カップの外周縁に係合する係合部を有することを特徴とする請求項2記載の人工股関節。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−239895(P2011−239895A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−113600(P2010−113600)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(592212814)
【Fターム(参考)】