説明

人工芝カーペットバッキング材用組成物及び人工芝カーペット

【課題】パイル糸を良好に保持することができるバッキング材、特に通常状態(常態)及び水浸処理状態においても良好なパイル糸保持力を有し、割れを生じ難いバッキング材を製造し得、かつ、良好な加工性を有する人工芝カーペットバッキング材用組成物を提供する。
【解決手段】(イ)ガラス転移温度(Tg)が−40〜10℃であるポリマーを含有するエマルジョンと、(ロ)エポキシ樹脂と、を含み、前記(イ)エマルジョン100質量部(固形分換算)に対して、(ロ)エポキシ樹脂を1〜30質量部を含む人工芝カーペットバッキング材用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工芝カーペットバッキング材用組成物及びこの組成物を用いた人工芝カーペットに関し、更に詳しくは、基布に配設されたパイル糸の保持力に優れたバッキング材を製造することができる人工芝カーペットバッキング材用組成物及びこの組成物を用いた人工芝カーペットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バッキング材は、繊維製品(例えば、カーペット)や人工芝の裏面に配設されて、基布からパイル糸が容易に抜けてしまうことを防止している。このバッキング材は、例えば、基布にパイル糸をタフティング(植設)した後、基布の裏面にバッキング材用の組成物を塗布し、乾燥して得られるものである。基布は、例えば、テープ状の熱可塑性樹脂を一軸延伸したフラットヤーン等を織成したものが知られており、パイル糸は、例えば、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド等を延伸したものが知られている。
【0003】
また、バッキング材、又はバッキング材を製造し得る組成物は、多くの研究開発が行われており、例えば、本出願人は特定のポリマーに特定の非ハロゲン系燐系難燃剤を添加したもの(例えば、特許文献1)、特定のポリマーに感熱ゲル化剤及び/又は架橋剤を添加したもの(例えば、特許文献2)を提案している。
【0004】
【特許文献1】特開2005−179642号公報
【特許文献2】特開2006−16729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されているバッキング材は、ハロゲン系難燃剤を使用しなくとも、難燃性を有し、加工適性に優れ、さらには耐熱性に優れるという利点があり、特許文献2に開示されているバッキング材は、塗工量の減少、乾燥時間の短縮、フクレの防止、層間接着強度の増加、さらには、通気性すなわち吸音性の向上について利点がある。
【0006】
一方、最近は、サッカーやラグビー等のスポーツの人気が高まり、各地の競技場ではこれらのスポーツが盛んに開催されている。これらのスポーツの開催機会が増えるにつれて、人工芝のライフサイクルが短くなり、張替え作業に手間がかかるということが問題になっている。この原因は、サッカーやラグビー等が芝の上で激しい運動をするスポーツであるため、バッキング材によってパイル糸を十分に保持することができず、パイル糸が比較的簡単に抜け出てしまうことが挙げられる。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、基布に配設されたパイル糸を良好に保持することができるバッキング材、特に通常状態(常態)及び水浸処理状態においても良好なパイル糸保持力を有し、割れを生じ難いバッキング材を製造し得、かつ、良好な加工性を有する人工芝カーペットバッキング材用組成物及びそれを用いた人工芝カーペットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、ポリマーを含有するエマルジョンに対し、所定量のエポキシ樹脂を含有させることによって、上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明によれば、以下に示す人工芝カーペットバッキング材用組成物及びそれを用いた人工芝カーペットが提供される。
【0010】
[1](イ)ガラス転移温度(Tg)が−40〜10℃であるポリマーを含有するエマルジョンと、(ロ)エポキシ樹脂と、を含み、前記(イ)エマルジョン100質量部(固形分換算)に対して、(ロ)エポキシ樹脂を1〜30質量部を含む人工芝カーペットバッキング材用組成物。
【0011】
[2] 前記ポリマーが、少なくとも一種の官能基で変性されたものである前記[1]に記載の人工芝カーペットバッキング材用組成物。
【0012】
[3] 前記(イ)ポリマーが、(A)スチレン・ブタジエン系共重合体、(B)α,β−不飽和ニトリル・共役ジエン系共重合体、及び(C)アクリル系重合体の群から選ばれた少なくとも一種である[1]又は[2]に記載の人工芝カーペットバッキング材用組成物。
【0013】
[4] 前記(A)スチレン・ブタジエン系共重合体が、(a3)カルボン酸基含有単量体に由来する構成単位を0.1〜10.0質量%含有するものである前記[3]に記載の人工芝カーペットバッキング材用組成物。
【0014】
[5] 前記(ロ)エポキシ樹脂は、水溶性の樹脂である前記[1]〜[4]のいずれかに記載の人工芝カーペットバッキング材用組成物。
【0015】
[6] 前記(ロ)エポキシ樹脂は、一分子中のエポキシ基の数が二以上である前記[1]〜[5]のいずれかに記載の人工芝カーペットバッキング材用組成物。
【0016】
[7] 基布、及び前記基布の一方の面に配設された多数のパイル糸を有する人工芝基布と、前記基布の他方の面に、前記[1]〜[6]のいずれかに記載の人工芝カーペットバッキング材用組成物が塗工されることにより形成されたバッキング材と、を備えた人工芝カーペット。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、パイル糸を良好に保持することができるバッキング材、特に通常状態(常態)及び水浸処理状態においても良好なパイル糸保持力を有し、割れを生じ難いバッキング材を製造し得、かつ、良好な加工性を有する人工芝カーペットバッキング材用組成物及びそれを用いた人工芝カーペットを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0019】
本発明の人工芝カーペットバッキング材用組成物(以下、「バッキング材用組成物」ともいう)は、(イ)ガラス転移温度(Tg)が−40〜10℃であるポリマーを含有するエマルジョン((イ)成分ともいう)と、(ロ)エポキシ樹脂((ロ)成分ともいう)と、を含み、前記(イ)エマルジョン100質量部(固形分換算)に対して、(ロ)エポキシ樹脂を1〜30質量部を含んでなるものである。
【0020】
(イ)エマルジョン:
(イ)エマルジョンは、ガラス転移温度(Tg)が−40〜10℃であるポリマーを含有し、このポリマーが液体の分散媒中に分散している乳濁液である。(イ)成分の分散媒としては、特に制限はないが、例えば、水、アルコール等が挙げられる。
【0021】
上記ポリマーとしては、(イ)成分の分散媒中に分散可能なものであれば特に制限はないが、例えば、天然ゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、スチレン・ブタジエン共重合ゴム、ブタジエン・イソプレン共重合ゴム、ブタジエン・スチレン・イソプレン共重合ゴム、アクリロニトリル・ブタジエン共重合ゴム、及びアクリルゴム等を挙げることができる。この中でも、(A)スチレン・ブタジエン系共重合体、(B)α,β−不飽和ニトリル・共役ジエン系共重合体、及び(C)アクリル系重合体の群から選ばれた少なくとも一種であることが好ましい。
【0022】
また、上記ポリマーは、ガラス転移温度(Tg)が−40〜10℃であることが必要である。好ましくは−30〜5℃であり、更に好ましくは、−20〜0℃である。ガラス転移温度(Tg)が−40℃未満であると、得られるバッキング材の抜糸強度が不足する傾向がある。一方、10℃超であると、バッキング面が割れる傾向がある。ガラス転移温度(Tg)は、示差熱熱量分析計(DSC)により、公知の方法で測定することができる。なお、ガラス転移温度(Tg)が−40〜10℃であるポリマーにおいて、「ガラス転移温度(Tg)」とは、(イ)成分に含まれるポリマーが一種のときは、そのポリマーのガラス転移温度のことをいうものとし、(イ)成分に含まれるポリマーが二種以上のときは、それらのポリマー全体のガラス転移温度のことをいうものとする。
【0023】
更に、上記ポリマーは、少なくとも一種の官能基で変性されたものであってもよい。官能基としては、例えば、カルボン酸基、N−メチロール基、グリジシル基、水酸基、スルホン酸基などを挙げることができる。この中でも、カルボン酸基が好ましい。上記ポリマーがカルボン酸基で変性されたものであることによって、(ロ)成分との反応性が良好になるという利点がある。上記ポリマーは、官能基を0.1〜10.0質量%含有することが好ましく、0.5〜5.0質量%含有することが更に好ましい。官能基の含有量は0.1質量%未満であると、得られるバッキング材の抜糸強度が不足する傾向がある。一方、10.0質量%超であると、コストアップとなり好ましくない。
【0024】
以下、上記ポリマーのうち、(A)スチレン・ブタジエン系共重合体、(B)α,β−不飽和ニトリル・共役ジエン系共重合体、及び(C)アクリル系重合体について具体的に説明する。
【0025】
(A)スチレン・ブタジエン系共重合体:
上記ポリマーは、(A)スチレン・ブタジエン系共重合体((A)成分ともいう)であることが好ましく、この(A)成分は、(a1)芳香族ビニル化合物単量体に由来する構成単位((a1)構成単位ともいう)と、(a2)脂肪族共役ジエン系単量体に由来する構成単位((a2)構成単位ともいう)を含有する共重合体である。
【0026】
(a1)構成単位:
芳香族ビニル化合物単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン等を挙げることができる。この中でも、スチレンが好ましい。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。なお、上記芳香族ビニル化合物単量体は、アミノ基、ヒドロキシル基等の官能基を有していてもよい。
【0027】
アミノ基を有する芳香族ビニル化合物単量体としては、N,N−ジメチル−p−アミノスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノスチレン、ジメチル(p−ビニルベンジル)アミン、ジエチル(p−ビニルベンジル)アミン、ジメチル(p−ビニルフェネチル)アミン、ジエチル(p−ビニルフェネチル)アミン、ジメチル(p−ビニルベンジルオキシメチル)アミン、ジメチル[2−(p−ビニルベンジルオキシ)エチル]アミン、ジエチル(p−ビニルベンジルオキシメチル)アミン、ジエチル[2−(p−ビニルベンジルオキシ)エチル]アミン、ジメチル(p−ビニルフェネチルオキシメチル)アミン、ジメチル[2−(p−ビニルフェネチルオキシ)エチル]アミン、ジエチル(p−ビニルフェネチルオキシメチル)アミン、ジエチル[2−(p−ビニルフェネチルオキシ)エチル]アミン、2−ビニルピリジン、3−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン等を挙げることができる。
【0028】
また、ヒドロキシル基を有する芳香族ビニル化合物単量体としては、o−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、p−ヒドロキシスチレン、o−ヒドロキシ−α−メチルスチレン、m−ヒドロキシ−α−メチルスチレン、p−ヒドロキシ−α−メチルスチレン、p−ビニルベンジルアルコール等を挙げることができる。
【0029】
(A)成分の(a1)構成単位の含有割合は、30〜70質量%であることが好ましく、40〜60質量%であることが更に好ましい。(a1)構成単位の含有割合が30質量%未満であると、水溶性組成物のバインダーとして充分な抜糸強度が得られなくなる傾向がある。一方、70質量%超であると、Tgが高く樹脂状となり折れやすく人工芝としての性能が低くなる傾向がある。
【0030】
(a2)構成単位:
脂肪族共役ジエン系単量体としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、クロロプレン等を挙げることができる。この中でも、1,3−ブタジエンが好ましい。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0031】
(A)成分の(a2)構成単位の含有割合は、30〜70質量%であることが好ましく、30〜60質量%であることが更に好ましく、35〜45質量%であることが特に好ましい。(a2)構成単位の含有割合が30質量%未満であると、Tgが高く樹脂状となり折れやすく人工芝としての性能が低くなる傾向がある。一方、70質量%超であると、水溶性組成物のバインダーとして充分な抜糸強度が得られなくなる傾向がある。但し、(a1)+(a2)=100質量%である。
【0032】
(a3)構成単位:
(A)成分は、少なくとも一種の官能基で変性されたものであることが好ましく、例えば、(A)成分中に(a3)カルボン酸基含有単量体に由来する構成単位((a3)構成単位ともいう)を更に含有するものであることが好ましい。カルボン酸基含有単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸(そのモノエステルを含む)等を挙げることができる。不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、テトラコン酸等の不飽和カルボン酸類;マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、フタル酸モノヒドロキシレンアクリレート、ヘキサヒドロフタル酸モノ−2−アクリロイルオキシエチル、ヘキサヒドロフタル酸モノ−2−メタクリロイルオキシエチル、フタル酸、こはく酸、アジピン酸等の非重合性多価カルボン酸とアリルアルコール、メタリルアルコール、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等のヒドロキシル基含有不飽和化合物とのモノエステル等の遊離カルボキシル基含有エステル類等を挙げることができる。これらは、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0033】
(A)成分の(a3)構成単位の含有割合は、0.1〜10.0質量%であることが好ましく、0.5〜5.0質量%であることが更に好ましい。(a3)構成単位の含有割合が0.1質量%未満であると、機械的安定性が充分でなく、さらに充分な抜糸強度が得られなくなる傾向がある。一方、10.0質量%超であると、得られたポリマーの粘度が高過ぎて実用に適さなくなる傾向がある。但し、(a1)+(a2)+(a3)=100質量%である。
【0034】
その他の単量体:
更に、(A)成分は、(a1)構成単位、(a2)構成単位、及び(a3)構成単位に加え、芳香族ビニル化合物単量体、脂肪族共役ジエン系単量体、及びカルボン酸基含有単量体と共重合可能なその他の単量体からなる構成単位を更に含有することもできる。その他の単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル単量体、(メタ)アクリロニトリル等のニトリル基含有単量体、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−エチロール(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジエチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド系単量体、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸塩等のスルホン酸基含有単量体、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、イソプロピレングリコールジアクリレート、テトラメチレングリコールジメタクリレート等の二官能単量体、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、3−ヒドロキシブチルメタクレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、3−ヒドロキシブチルアクリレート等の水酸基含有単量体、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のアルコシシラン基含有単量体を挙げることができる。その他の単量体からなる構成単位の含有割合は、0.1〜50質量%であることが好ましい。
【0035】
(A)成分の合成:
(A)成分は、例えば、ラジカル重合開始剤の存在下で各単量体を共重合することにより合成することができる。
【0036】
ラジカル重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、tert−ブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、パラメンタンヒドロパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物、過硫酸カリウム等の無機過酸化物、及びこれら過酸化物と硫酸第一鉄とを組み合わせたレドックス系触媒等を挙げることができる。これらのラジカル重合開始剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
ラジカル重合開始剤の使用量は、単量体の全量100質量部に対し、0.001〜2質量部とすることが好ましい。重合方法としては塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の公知の方法を採用することができる。なかでも乳化重合が特に好ましい。
【0038】
乳化重合に使用する乳化剤としては、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤等を挙げることができる。また、フッ素系の界面活性剤を使用することもできる。これらの乳化剤は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を併用することもできる。具体的には、アニオン系界面活性剤を好適に用いることができる。例えば、炭素数10以上の長鎖脂肪酸塩、ロジン酸塩等が好適に用いられる。より具体的には、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸のカリウム塩及び/又はナトリウム塩等を挙げることができる。
【0039】
重合反応を行うことによって得られる(A)成分の分子量を調節するために、連鎖移動剤を使用することもできる。この連鎖移動剤としては、tert−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン、四塩化炭素、チオグリコール類、ジテルペン、ターピノーレン、γ−テルピネン類等を使用することができる。
【0040】
各種単量体、乳化剤、ラジカル重合開始剤、及び連鎖移動剤等は、反応容器に全量を一括投入してから重合を開始してもよいし、反応継続中に連続的又は間欠的に追加・添加してもよい。重合反応は、酸素を除去した反応器を用いて行うことが好ましい。また、重合反応温度は、0〜100℃とすることが好ましく、0〜80℃とすることが更に好ましい。重合反応途中で、原料の添加法、温度、撹拌等の条件等を適宜変更してもよい。重合方式は、連続式であっても回分式であってもよい。重合反応時間は、0.01〜30時間程度とすればよい。所定の重合転化率に達した時点で、重合停止剤を添加する等によって重合反応を停止する。重合停止剤としては、ヒドロキシルアミン、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン等のアミン化合物、ヒドロキノン等のキノン化合物等を用いることができる。
【0041】
重合反応停止後、得られた乳化液を(イ)成分とすることができる。なお、必要に応じて水蒸気蒸留等の方法により未反応単量体を除去し、その後、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウム等の塩、又は塩酸、硝酸、硫酸等の酸を添加して共重合ゴムを凝固させる。次いで、水洗及び乾燥することにより、(A)成分を得ることができる。
【0042】
(B)α,β−不飽和ニトリル・共役ジエン系共重合体:
上記ポリマーは、(B)α,β−不飽和ニトリル・共役ジエン系共重合体((B)成分ともいう)であることが好ましく、α,β−不飽和ニトリル単量体に由来する構成単位((b1)構成単位ともいう)と、共役ジエン単量体に由来する構成単位((b2)構成単位ともいう)と含有する共重合体である。
【0043】
(b1)構成単位:
α,β−不飽和ニトリル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、α−フルオロアクリロニトリル等を挙げることができる。これらは、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0044】
(B)成分の(b1)構成単位の含有割合は、5〜60質量%であることが好ましく、15〜55質量%であることが更に好ましく、15〜50質量%であることが特に好ましい。(b1)構成単位の含有割合が5質量%未満であると、パイル糸との密着が悪くなる傾向がある。一方、含有割合が60質量%超であると、コストアップとなる傾向がある。
【0045】
(b2)構成単位:
共役ジエン単量体としては、1,3−ブタジエン、イソプレン(2−メチル−1,3−ブタジエン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、クロロプレン(2−クロロ−1,3−ブタジエン)等を挙げることができる。これらは、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0046】
(B)成分の(b2)構成単位の含有割合は、40〜95質量%であることが好ましく、45〜85質量%であることが更に好ましく、50〜85質量%であることが特に好ましい。(b2)構成単位の含有割合が40質量%未満であると、コストアップとなる傾向がある。一方、含有割合が95質量%超であると、パイル糸との密着が悪くなる傾向がある。
【0047】
(b3)構成単位:
(B)成分は、少なくとも一種の官能基で変性されたものであることが好ましく、例えば、(B)成分中にカルボン酸基含有単量体に由来する構成単位((b3)構成単位ともいう)を更に含有するものであることが好ましい。カルボン酸基含有単量体としては、上記(A)成分の「(a3)構成単位」で例示した化合物を挙げることができる。これらは、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0048】
その他の単量体:
なお、(B)成分は、上記(A)成分の「その他の単量体」で例示した化合物を挙げることができる。これらは、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0049】
例えば、(B)成分は、アクリロニトリルブタジエンゴムとすることができる。このアクリロニトリルブタジエンゴムは、(b1)構成単位を5〜60質量%、(b2)構成単位を40〜95質量%、及び(b3)構成単位を0〜15質量%(但し、(b1)+(b2)+(b3)=100質量%)含有することが好ましい。
【0050】
(B)成分の合成:
(B)成分は、例えば、上記各単量体をラジカル重合開始剤の存在下で共重合することにより合成することができる。この合成手順は、上記(A)成分の合成方法に従って行うことができる。
【0051】
(C)アクリル系重合体:
上記ポリマーは、(C)アクリル系重合体((C)成分ともいう)であることが好ましい。(C)成分は、アクリル系単量体を共重合させることによって得られる、例えば、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位((c1)構成単位ともいう)を含有する重合体であることが好ましい。
【0052】
(c1)構成単位:
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。この中でも、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレートが好ましく、メチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートが更に好ましい。
【0053】
(C)成分の(c1)構成単位の含有割合は、65〜99.8質量%であることが好ましく、65〜90質量%であることが更に好ましい。(c1)構成単位の含有割合が65質量%未満であると、バッキング面の割れが生じる傾向がある。一方、含有割合が99.8質量%超であると、重合安定性が悪くなる傾向がある。
【0054】
(c2)構成単位:
更に、(C)成分は、少なくとも一種の官能基で変性されたものであることが好ましく、例えば、(C)成分中に酸成分を有するビニル単量体に由来する構成単位((c2)構成単位ともいう)を含有するものであることが好ましい。酸成分を有するビニル単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等を挙げることができる。この中でも、アクリル酸、メタアクリル酸が好ましい。
【0055】
(C)成分の(c2)構成単位の含有割合は、0.2〜35質量%であることが好ましく、1〜25質量%であることが更に好ましい。(c2)構成単位の含有割合が0.2質量%未満であると、重合安定性が悪くなる傾向がある。一方、含有割合が35質量%超であると、得られる(イ)成分の粘度が高過ぎて実用に適さない場合がある。
【0056】
その他の単量体:
(C)成分は、(c1)構成単位、及び(c2)構成単位に加え、アクリル系単量体、酸成分を有するビニル単量体と共重合可能なその他の単量体に由来する構成単位ものを更に含有してもよい。その他の単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン等の芳香族ビニル化合物単量体、(メタ)アクリロニトリル等のニトリル基含有単量体、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−エチロール(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジエチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド系単量体、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸塩等のスルホン酸基含有単量体、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、イソプロピレングリコールジアクリレート、テトラメチレングリコールジメタクリレート等の二官能単量体、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、3−ヒドロキシブチルメタクレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、3−ヒドロキシブチルアクリレート等の水酸基含有単量体、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のアルコシシラン基含有単量体を挙げることができる。
【0057】
(C)成分の合成に際して、上記二官能単量体を架橋剤として用いることも可能である。これらの架橋剤は、15質量%以下用いることが好ましく、10質量%以下用いることが更に好ましい。なお、(C)成分は、架橋型であっても、非架橋型であってもよい。
【0058】
(C)成分の合成:
(C)成分は、例えば、上記各単量体をラジカル重合開始剤の存在下で共重合することにより合成することができる。この合成手順は、上記(A)成分の合成方法に従って行うことができる。
【0059】
(ロ)エポキシ樹脂:
本発明のバッキング材用組成物における(ロ)エポキシ樹脂は、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ジブロモネオペンチルグリコールジグリジシルエーテル、o−フタル酸ジグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリセロールポリグリシジルエーテル、その他、N,N,N,N−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、N,N,N,N−ペンタグリシジルジエチレントリアミン、N,N,N,N−テトラグリシジルエチレンジアミンを挙げることができる。この中でも、ジエチレングリコールジグリシルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ソルビトール系ポリグリシジルエーテルが好ましく、ソルビトール系ポリグリシジルエーテルが特に好ましい。なお、上記化合物を単独で、又は2種以上を混合して使用することもできる。
【0060】
上記(ロ)成分は、水溶性のものが好ましい。「水溶性」とは、水に溶ける性質を有することを意味する。(ロ)成分は、水溶性であることによってバッキング材の製造工程において作業が容易であるという利点がある。一方、(ロ)成分が水溶性でない場合には、乳化してから使用する必要があるため作業に手間がかかり、バッキング材の耐水性が低下する傾向がある。
【0061】
更に、(ロ)成分は、エポキシ基を二つ以上有するものであることが好ましく、3〜5つ有することが更に好ましい。エポキシ基が一つであると、十分に架橋構造が形成されない場合がある。
【0062】
上記(ロ)成分の市販品としては、例えば、ジエチレングリコールジグリシルエーテル(商品名:「SR−2EG」、阪本薬品工業社製)、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(商品名:「SR−8EG」又は「SR−8EGS」、阪本薬品工業社製)、ソルビトール系ポリグリシジルエーテル(商品名:「SR−SEP」、阪本薬品工業社製)等を挙げることができる。
【0063】
(ロ)エポキシ樹脂の配合割合:
本発明のバッキング材用組成物は、上記(イ)エマルジョン100質量部(固形分換算)に対し、上記(ロ)エポキシ樹脂を1〜30質量部を含有してなる必要があり、好ましくは、2〜28質量部であり、更に好ましくは、2〜25質量部である。1質量部未満であると、バッキング材の抜糸強度が不足する傾向にある。一方、30質量部超であると、可使時間が短くなり作業性が悪くなり、またバッキング材用組成物の粘度が増加するため加工性が悪くなる傾向にある。
【0064】
なお、本発明のバッキング材用組成物は、固形分濃度が、40〜85質量%であることが好ましく、更に好ましくは50〜75質量%である。固形分濃度が、40質量%未満であると、塗布後の乾燥時間がかかる傾向がある。一方、85質量%超であると、塗布ができなくなる傾向がある。また、本発明のバッキング材用組成物の粘度は、2,000〜30,000mPa・sであることが好ましく、更に好ましくは5,000〜25,000mPa・sである。粘度が2,000mPa・s未満であると、バッキング材用組成物が沈降する傾向がある。一方、30,000mPa・s超であると、浸透が悪くなるためパイル糸の保持力不足、バッキング材用組成物の加工性低下を生じる傾向がある。
【0065】
その他の組成物:
また、本発明のバッキング材用組成物には、必要に応じて各種の添加剤を配合することができる。例えば、フェノール系、有機ホスファイト系、チオエーテル系などの酸化防止剤;光安定剤;紫外線吸収剤;ビスアミド系、ワックス系、トリポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、有機金属塩系などの分散剤;アミド系、有機金属塩系、エステル系などの滑剤;含臭素有機系、リン酸系、三酸化アンチモン、水酸化マグネシウム、赤リンなどの難燃剤;有機顔料;無機顔料;金属イオン系などの無機、有機抗菌剤、安定剤、老化防止剤、防腐剤、架橋剤、増量剤、消泡剤、増粘剤などを添加することができる。
【0066】
架橋剤としては、たとえば、メラミン樹脂、ブロックイソシアネートなどを挙げることができる。この中でも、ブロックイソシアネートが好ましい。
【0067】
ブロックイソシアネートは、ポリイソシアネートに活性水素を有するブロック剤を付加させることによって得られ、加熱によりブロック剤が解離してイソシアネート基が発生し、上記カルボキシル基変性スチレン−ブタジエン共重合体中の官能基と反応し硬化するものである。
【0068】
このようなブロックイソシアネートは、特に限定されないが、例えば、ポリイソシアネート(類)としては、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族イソシアネート、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,2−シクロサキサンジイソシアネートなどの脂肪族環式イソシアネート、キシリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネートなどの芳香族イソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネートメチルなどの脂環族イソシアネート、これらのヌレート体などの多量体及び混合物等を挙げることができる。
【0069】
また、上記ブロック剤としては、例えば、ハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、フルフリルアルコール、アルキル基置換フルフリルアルコール、ベンジルアルコールなどの脂肪族、芳香族または複素環式アルコール、メチルエチルケトンオキシム、メチルイソブチルケトンオキシム、アセトンオキシム、シクロヘキサンオトキシムなどのオキシム類、その他にカプロラクタム等を挙げることができる。
【0070】
上記のポリイソシアネート(類)とブロック剤とを用いたブロックイソシアネートの中で好ましいものは、トリメチレンジイソシアネートにイソプロパノールをブロック剤として用いたものである。また更に、ブロック剤を解離させるための触媒を用いることができる。
【0071】
架橋剤の配合量は、(イ)成分(固形分換算)100質量部に対して、通常、0.5〜5質量部、好ましくは1〜3質量部である。配合量が0.5質量部未満であると、バッキング材の強度不足となる傾向がある。一方、5質量部超であると、コストアップ及び粘度が高くなり、機械的安定性またはケミカル安定性が悪く(バッキング材の不安定化)なる傾向がある。
【0072】
増量剤としては、また固形分濃度の増加や重量感を付与する目的で必要に応じて用いられる。このようなフィラーとしては、クレー、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、重炭酸カルシウム、珪藻土、グラファイト、アルミナ、酸化鉄、酸化チタン、シリカ、ゴム粉末、ガラスフレーク、ベントナイト、水酸化アルミニウムなどを挙げることができる。この中でも、炭酸カルシウム、重炭酸カルシウムが好ましい。
【0073】
上記増量剤の配合量は、上記(イ)成分100質量部(固形分換算)に対して、通常、0〜500質量部であることが好ましく、更に好ましくは、0〜450質量部、特に好ましくは、0〜400質量部である。500質量部を超えると、バッキング材が脆くなり抜糸強度不足となる傾向がある。
【0074】
分散剤は、本発明のバッキング用組成物において、充填剤の均一な分散と組成物粘度を保持するという役目を果たすものである。分散剤としては、トリポリリン酸塩、ピロリン酸塩などの無機系分散剤、ポリカルボン酸塩、ホルマリン縮合ナフタレンスルホン酸塩などの高分子分散剤などが挙げられ、好ましくは無機系分散剤である。
【0075】
分散剤の配合量は、(イ)成分(固形分換算)100質量部に対し、通常、0.3〜2質量部、好ましくは0.5〜1.5質量部である。0.3質量部未満であると、充填剤が均一に分散しない傾向がある。一方、2質量部超であると、粘度保持ができず、分離と充填剤の沈降現象が生起する傾向がある。
【0076】
消泡剤は、組成物の生産時における泡立ち防止、および加工時における泡立ち防止という役目を果たすものである。消泡剤としては、鉱物油ノニオン系界面活性剤、ポリジメチルシロキサンオイル、エチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド変性の、ジメチルシリコーン又はジメチルシリコーンエマルジョンなどのシリコン系消泡剤、鉱物油、アセチレンアルコールなどのアルコール系消泡剤などが挙げられる。
【0077】
消泡剤の配合量は、(イ)成分(固形分換算)100質量部に対し、通常、0.1〜1.5質量部、好ましくは0.3〜1.0質量部である。0.1質量部未満であると、充分な消泡効果が得られない傾向がある。一方、1.5質量部超であると、ハジキ現象が出て、加工製品の外観を悪くする傾向がある。
【0078】
バッキング材用組成物の製造方法:
本発明のバッキング材用組成物は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、上記ポリマーを含有する(イ)エマルジョン、及び必要に応じて増量剤等の添加剤をラインブレンダー、ニーダー、ブレンダー、万能混合撹拌機などの混合機により混合温度5〜40℃で混合し、混合物を調製する。次に、この混合物に(ロ)エポキシ樹脂を配合し、上記混合機により混合して本発明のバッキング材用組成物を得ることができる。
【0079】
人工芝の製造方法:
人工芝は、例えば、以下のように製造することができる。
まず、基布に多数のパイル糸を植設して人工芝基布を形成する。その後、基布の裏面に本発明のバッキング材用組成物を塗布する。上記バッキング材用組成物の塗布量は、100〜1,500g/m(乾燥重量)であることが好ましい。更に好ましくは、150〜1,300g/mである。塗布量が100g/m未満であると、得られるバッキング材の抜糸強度が不足する傾向がある。一方、1,500g/m超であると、塗布量が多くなり、バッキング材の乾燥不足となる傾向がある。塗布後、90〜150℃で加熱乾燥を行う。加熱温度が90℃未満では乾燥不足となる傾向がある。一方、150℃超であると、パイル糸が収縮する傾向がある。加熱時間は加熱温度にもよるが5〜40分であることが好ましい。なお、基材としては、ポリプロピレン(PP)、フェルトなどを原料とするものを用いることができ、パイル糸は、ポリエチレン、ナイロンなどを原料とするものを用いることができる。
【0080】
このようにして得られる人工芝は、激しい運動をするスポーツが行われる競技場等に用いることが有効である。
【実施例】
【0081】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。また、各種物性値の測定方法、及び諸特性の評価方法を以下に示す。
【0082】
[ガラス転移温度(Tg)]:
上記ポリマーを130℃で30分間加熱乾燥し、フィルムを作製した。示差走査熱量計(商品名「DSC−220C」、セイコー電子社製)を用いて、昇温速度15℃/分の条件で、この乾燥フィルムのガラス転移温度(Tg)を測定した。
【0083】
[固形分測定]:
ホットプレート法により算出した。試料1gをアルミ皿に取り160〜180℃で水分を気化させ気化前後の質量変化を測定した。
【0084】
[粘度測定]:
B型粘度計(型番「BM型」、東京計器社製)の4号ローターに、12rpmで25℃、1分間供した。
【0085】
[パイル糸抜糸力]:
オートグラフ(型番「AG500A」、島津製作所社製)を用いて、100mm/分の引張スピードで抜糸したときのパイル糸1本(単糸)当たりの抜糸に必要な力を測定した。パイル糸はパイル長が70mmのものを使用し、通常状態(常態)及び水浸24時間後の状態(水浸処理状態)の人工芝からそれぞれ、23℃、60%恒温室で抜糸し、抜糸力を測定した。なお、通常状態(常態)とは、湿度60%、温度23℃で少なくとも24時間放置した状態をいうものとし、水浸処理状態とは、人工芝における人工芝基布とバッキング材との部分を温度23℃の水中に、24時間浸した直後の状態をいうものとする。
【0086】
抜糸力の判定基準は、単糸の抜糸に必要な力が10N/本以上であった場合を合格とした。なお、「単糸」とは、複数の糸から構成されるパイル糸の、複数の糸のうちの一本をいう。
【0087】
[バッキング材の割れ]:
バッキング加工した人工芝を温度2℃に調整したインキュベーター(型番「MIR−253」、三洋電機社製)に、少なくとも24時間放置した。その後、インキュベーターより取り出し、この人工芝を折り曲げ、バッキング面の割れの有無を評価した。評価基準を以下に示す。
○:人工芝を折り曲げてもバッキング面が割れない。
×:人工芝を折り曲げるとバッキング面が割れる。
【0088】
[加工性]:
人工芝カーペットバッキング材用組成物の加工性は、このバッキング材用組成物の粘度(mPa・s)を上記[粘度測定]に準じて測定し、評価した。評価基準を以下に示す。
○:粘度30,000mPa・s以下
×:粘度30,000mPa・s超
【0089】
(実施例1)
人工芝カーペットバッキング材用組成物の調製:
まず、ポリプロピレンからなる基布に、ポリエチレンからなるパイル糸を植設した。次に、カルボキシ変性SBR(商品名「JSR0569」、JSR社製、Tg:−5℃、表中「S−1」と記す)を含有するエマルジョン(固形分換算)100部、増量剤として重炭酸カルシウム(商品名「LW4000」、清水工業社製)200部、界面活性剤として三洋化成社製の商品名「エレミノールHN100」0.6部、分散剤として重合リン酸塩(商品名「トリポリリン酸ソーダ」、米山化学社製)0.6部、消泡剤としてシリコン(商品名「KM−71」、信越化学工業社製)0.12部、増粘剤としてポリアクリル酸ソーダ(商品名「アロンA−20P」、東亜合成社製)0.5部を撹拌機(型番「LR500B」、ヤマト科学社製)によって常温で10分間、混合して混合物を得た。更に、塗布直前に(ロ)エポキシ樹脂としてソルビトール系ポリグリシジルエーテル(商品名「SR−SEP」、阪本薬品工業社製)2部を、上記混合物に配合して上記撹拌機によって常温で5分間混合し、バッキング材用組成物(固形分濃度68%、12,000mPa・s)を調製した。
【0090】
人工芝の製造:
上記基布の、上記パイル糸が伸びている面とは反対の面にWET1100g/mの割合で、上記人工芝カーペットバッキング材用組成物を塗布した。その後、110℃で40分間、加熱乾燥して人工芝を製造した。評価結果を表1に示す。
【0091】
【表1】

【0092】
【表2】

【0093】
(実施例2〜9、比較例1〜7)
表1、表2に示す配合処方とすること以外は、上述した実施例1と同様にして実施例2〜9、比較例1〜7の人工芝を作製し、各種評価を行った。評価結果を表1、表2に示す。なお、表1、表2中の、「S−2」は、JSR社製の商品名「JSR0548」(Tg:−49℃)、「S−3」は、JSR社製の商品名「JSR0597」(Tg:+28℃)を示すものとする。また、表1、表2中の「ガラス転移温度(Tg)」は「S−1」、「S−2」、「S−3」を各実施例の割合で含むポリマー全体のガラス転移温度(Tg)を示すものとする。
【0094】
表1、表2に示すように、実施例1〜9のバッキング材用組成物を用いて作製した人工芝は、比較例1〜7のバッキング材用組成物を用いて作製した人工芝に比べて、良好にパイル糸を保持できることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明のバッキング材用組成物は、パイル糸の良好な保持力を有するバッキング材を製造することができ、このバッキング材は、テニスコート用人工芝等に用いることができることはもちろんのこと、サッカーやラグビー等の激しい運動を行うスポーツが開催される競技場の人工芝等のバッキング材として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(イ)ガラス転移温度(Tg)が−40〜10℃であるポリマーを含有するエマルジョンと、
(ロ)エポキシ樹脂と、
を含み、
前記(イ)エマルジョン100質量部(固形分換算)に対して、(ロ)エポキシ樹脂を1〜30質量部を含む人工芝カーペットバッキング材用組成物。
【請求項2】
前記ポリマーが、少なくとも一種の官能基で変性されたものである請求項1に記載の人工芝カーペットバッキング材用組成物。
【請求項3】
前記(イ)ポリマーが、(A)スチレン・ブタジエン系共重合体、(B)α,β−不飽和ニトリル・共役ジエン系共重合体、及び(C)アクリル系重合体の群から選ばれた少なくとも一種である請求項1又は2に記載の人工芝カーペットバッキング材用組成物。
【請求項4】
前記(A)スチレン・ブタジエン系共重合体が、
(a3)カルボン酸基含有単量体に由来する構成単位を0.1〜10.0質量%含有するものである請求項3に記載の人工芝カーペットバッキング材用組成物。
【請求項5】
前記(ロ)エポキシ樹脂は、水溶性の樹脂である請求項1〜4のいずれか一項に記載の人工芝カーペットバッキング材用組成物。
【請求項6】
前記(ロ)エポキシ樹脂は、一分子中のエポキシ基の数が二以上である請求項1〜5のいずれか一項に記載の人工芝カーペットバッキング材用組成物。
【請求項7】
基布、及び前記基布の一方の面に配設された多数のパイル糸を有する人工芝基布と、
前記基布の他方の面に、請求項1〜6のいずれか一項に記載の人工芝カーペットバッキング材用組成物が塗工されることにより形成されたバッキング材と、
を備えた人工芝カーペット。

【公開番号】特開2007−269836(P2007−269836A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93704(P2006−93704)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000230397)株式会社イーテック (49)
【Fターム(参考)】