説明

人工骨膜

【課題】 比較的大きな骨欠損部に対しても、補填した培養骨が骨欠損部から漏れ出すことを抑えることができるとともに、必要細胞の行き来や血流からの栄養素供給を妨げることなく、骨欠損部を早期に修復する。
【解決手段】 生体吸収性の多孔質材料からなる膜状基材に、生体外で増殖した幹細胞または該幹細胞から分化させた骨芽細胞を播種してなる人工骨膜1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、人工骨膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、開頭手術等によって形成された骨欠損部を修復する場合に、その骨欠損部に、ブロック状または顆粒状のβリン酸三カルシウム(以下、β−TCPという。)多孔体からなる補填材を補填し、さらに、生体適合性を有する膜を被せて縫合し、骨欠損部内の補填材を、経時的に自家骨に置換させる技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2003−10310号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1の技術は、主として、頭蓋骨等に形成された比較的小さい骨欠損部に適用する技術であり、例えば、大腿骨の骨欠損部のように、比較的大きな骨欠損部に適用する場合には問題がある。すなわち、比較的大きな骨欠損部に補填材を補填して膜で覆う場合には、膜が広範にわたって骨欠損部を覆うため、必要細胞の行き来や血流からの栄養素供給が妨げられ、骨形成に悪影響が及ぶ不都合が考えられる。特に、大きな骨欠損部には、予め生体外において、骨補填材に間葉系幹細胞を付着させて培養し、骨芽細胞に分化させた状態の培養骨を用いるが、この培養骨おいても骨芽細胞の健全な成長が困難になる可能性がある。
【0004】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、比較的大きな骨欠損部に対しても、補填した培養骨が骨欠損部から漏れ出すことを抑えることができるとともに、必要細胞の行き来や血流からの栄養素供給を妨げることなく、骨欠損部を早期に修復することができる人工骨膜を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、この発明は、以下の手段を提供する。
本発明は、生体吸収性の多孔質材料からなる膜状基材に、生体外で増殖した幹細胞または該幹細胞から分化させた骨芽細胞を播種してなる人工骨膜を提供する。
本発明に係る人工骨膜により骨欠損部を覆うと、骨欠損部に補填した内容物、例えば、培養骨が骨欠損部から漏れ出ることを防止する一方、骨欠損部内への軟組織の混入を防止して、骨組織の成長促進を図ることができる。膜状基材が生体吸収性の多孔質材料により構成されているので、気孔を通して必要細胞の行き来や血流からの栄養素供給を行って、骨欠損部内に補填されている培養骨等による骨欠損部の修復を促進することができる。さらに、生体吸収性の材料により構成されているので、骨欠損部の修復とともに人工骨膜自体も骨化させることができる。この場合に、幹細胞または骨芽細胞が播種されているので、人工骨膜自体の骨化も迅速に行われることになる。
【0006】
上記発明においては、生体吸収性の多孔質材料が、リン酸カルシウムと、コラーゲン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸およびポリグリコール酸の共重合体、ポリビニルアルコール、アルギン酸、キチン、キトサン、キチンまたはキトサンの誘導体、ポリペプチド、ポリアミノ酸、または、これらの2以上の組合せとの複合材料からなることが好ましい。
生体吸収性の多孔質材料をこれらの材料により構成することで、人工骨膜に柔軟性を持たせて、種々の形態の骨欠損部に適合させるように変形して、骨欠損部を覆うことができる。
【0007】
また、上記発明においては、幹細胞が、骨膜由来の幹細胞、滑膜由来の幹細胞、骨髄由来の幹細胞、海綿骨由来の幹細胞、脂肪由来の幹細胞、臍帯血由来の幹細胞、胎盤由来の幹細胞、胚性幹細胞のいずれかからなることが好ましい。
これらの幹細胞または幹細胞を分化させた骨芽細胞を播種することで、人工骨膜自体の骨化を促進し、骨欠損部の早期修復を図ることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、膜状基材を生体吸収性の多孔質材料により構成することで、気孔を通した必要細胞の行き来や血流からの栄養素供給を行うことができる。また、播種されている幹細胞または幹細胞から分化させた骨芽細胞の作用により、骨欠損部を覆う人工骨膜側からも骨化を促進することができ、骨欠損部内に補填されている培養骨等による骨欠損部の修復を迅速に行うことができる。その結果、患部を早期に治癒して、患者にかかる負担を低減することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の一実施形態に係る人工骨膜について、以下に説明する。
本実施形態に係る人工骨膜は、生体吸収性の多孔質材料からなる膜状基材に、幹細胞または幹細胞から分化させた骨芽細胞を播種して構成されている。
【0010】
膜状基材は、例えば、βリン酸三カルシウム(β−TCP)多孔体と、コラーゲン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸およびポリグリコール酸の共重合体、ポリビニルアルコール、アルギン酸、キチン、キトサン、キチンまたはキトサンの誘導体、ポリペプチド、ポリアミノ酸、または、これらの2以上の組合せとの複合材料により構成されている。
膜状基材は、厚さ約100〜500μmの膜状に形成され、平均孔径約20〜100μmの多数の気孔を備える多孔質材料により構成されている。
【0011】
また、幹細胞としては、骨膜由来の幹細胞、滑膜由来の幹細胞、骨髄由来の幹細胞、海
綿骨由来の幹細胞、脂肪由来の幹細胞、臍帯血由来の幹細胞、胎盤由来の幹細胞、胚性幹細胞のいずれかが選択される。
【0012】
これらの幹細胞は、患者から採取した骨髄液を遠心分離して得られたものを、所定の培地、例えば、FBS(Fetal Bovine Serum:ウシ胎児血清)を含むMEM(Minimal Essential
Medium:最小必須培地)培地にて増殖させたものである。これらの幹細胞をそのまま、あるいは、その間葉系幹細胞をβ−TCPおよびデキサメタゾンやβグリセロフォスフェートのような分化誘導因子やビタミンCのような栄養剤が混合された培地内において骨芽細胞に分化させた後に上述した膜状基質に播種することにより本実施形態に係る人工骨膜が製造される。
【0013】
このように構成された人工骨膜の作用について、図1を参照して、以下に説明する。
本実施形態に係る人工骨膜1は、β−TCP多孔体と生体吸収性の有機材料とから構成されているので、複数の気孔を有する多孔質状に形成されているとともに、柔軟性を有し、種々の骨欠損部Aの開口部の形態に合わせて湾曲させ、骨欠損部Aの開口部を完全に覆う形状に形成することができる。
【0014】
そして、例えば、別途、骨欠損部Aの形状に合わせたブロック状あるいは顆粒状のβ−TCP多孔体に骨髄液から培養した幹細胞を播種し、上記と同様の分化誘導因子等の作用によって骨芽細胞に分化させた培養骨2を、図1(a)に示されるように、骨欠損部Aに補填した状態で、同図(b)に示されるように、その開口部を塞ぐように本実施形態の人工骨膜1を被せる。あるいは、骨欠損部Aが比較的浅い場合には、β−TCP多孔体のみあるいは、何も補填することなく本実施形態に係る人工骨膜1を被せてもよい。
【0015】
骨欠損部Aに被せた人工骨膜1は、シアノアクリレート系接着剤、ゼラチン−アルデヒド系接着剤、さらに最適なフィブリン糊等の生体適合性の接着剤により接着し、あるいは、周囲の骨膜組織に縫合することにより固定する。
これにより、骨欠損部Aが人工骨膜1によって覆われるので、骨欠損部A内の培養骨2が骨欠損部Aから流出することが防止される。また、周囲の筋肉組織等の軟組織が、骨欠損部A内に入り込まないように人工骨膜1によって阻止されるので、骨欠損部A内における骨形成作用が軟組織によって阻害されることを防止できる。したがって、骨欠損部A内における骨形成が安定して行われることになる。
【0016】
また、本実施形態に係る人工骨膜1は、多孔質材料により構成されており、平均孔径約20〜100μmの多数の気孔が厚さ方向に貫通形成されている。したがって、その気孔を通して、図1(c)に示されるように、周囲の血流から骨欠損部A内への栄養素Bの供給や老廃物Cの排出が行われ、骨欠損部A内の培養骨2等の骨化が促進されることになる。
【0017】
さらに、本実施形態に係る人工骨膜1は、膜状基材に幹細胞または骨芽細胞が播種されているので、図1(d)に矢印で示すように、骨欠損部Aの内側のみならず人工骨膜1側からも骨形成作用を促進することができ、さらに早期に骨欠損部Aの修復を図ることが可能となる。
そして、本実施形態の人工骨膜1は、β−TCP多孔体と生体吸収性の材料により構成されているので、図1(e)に示されるように、最終的に生体に吸収されて、完全に自家骨化することができる。
【0018】
このように、本実施形態に係る人工骨膜1は、気孔を通して必要細胞の行き来や栄養素供給、老廃物の廃棄を行うことができるので、比較的大きな骨欠損部Aを覆うように適用されても、骨欠損部A内における骨形成作用を阻害することがなく、また、自らの有する幹細胞または骨芽細胞によって人工骨膜1側からも骨形成作用を促進して、患部を早期に治癒することができるという利点がある。
さらに、比較的小さな欠損の場合、骨欠損部に培養骨を補填しなくてもよく、人工骨膜で骨欠損部を覆うことにより、骨欠損部を修復することが可能になる。
【0019】
図2は、本実施形態に係る人工骨膜1を大腿骨Xの骨欠損部Aに適用した例を示している。大腿骨Xの骨欠損部Aに培養骨2を補填した状態で、人工骨膜1を巻き付けることにより、骨欠損部Aを完全に被覆することができる。人工骨膜1により取り囲まれた骨欠損部A内においては、大腿骨Xと接触している部位においては大腿骨X側から骨形成が行われるとともに、人工骨膜1に接触している部分においても、人工骨膜1側から骨形成作用が促進されることになる。人工骨膜1の気孔を介して、外部の血流からの栄養素の供給や骨欠損部内の細胞からの老廃物の排出等が行われるので、図2に示されるような大きな骨欠損部においても、健全な骨形成作用を生じさせて、早期に骨欠損部を修復することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る人工骨膜による骨欠損部の修復について説明する図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る人工骨膜を大腿骨の骨欠損部に適用した場合について説明する図である。
【符号の説明】
【0021】
1 人工骨膜
2 培養骨
A 骨欠損部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体吸収性の多孔質材料からなる膜状基材に、生体外で増殖した幹細胞または該幹細胞から分化させた骨芽細胞を播種してなる人工骨膜。
【請求項2】
生体吸収性の多孔質材料が、リン酸カルシウムと、コラーゲン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸およびポリグリコール酸の共重合体、ポリビニルアルコール、アルギン酸、キチン、キトサン、キチンまたはキトサンの誘導体、ポリペプチド、ポリアミノ酸、または、これらの2以上の組合せとの複合材料からなる請求項1に記載の人工骨膜。
【請求項3】
幹細胞が、骨膜由来の幹細胞、滑膜由来の幹細胞、骨髄由来の幹細胞、海綿骨由来の幹細胞、脂肪由来の幹細胞、臍帯血由来の幹細胞、胎盤由来の幹細胞、胚性幹細胞のいずれかからなる請求項1または請求項2に記載の人工骨膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−109979(P2006−109979A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−298768(P2004−298768)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】