説明

人造大理石の製造方法

【課題】注型用金型を用いて樹脂成型品を製造する際に、成型品内部に気泡を残すことなく、成型歪みや反りが少ない人造大理石の製造方法を提供する。
【解決手段】熱硬化性樹脂に充填剤、内部離型剤、硬化剤、人造大理石柄を表現する柄材等の添加物を配合した樹脂組成物7を準備し、該樹脂組成物7を注型用金型1の注入口2から注入空間部4へ注入し、加熱硬化させて製造する人造大理石の製造方法において、上記注型用金型1の内面には、予め疎水性処理を施すことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家具や住宅設備の部材、建材として用いられる人造大理石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、熱硬化性樹脂に充填剤、内部離型剤、硬化剤、柄材等の添加物を配合した樹脂組成物を所望の注型用金型に注入し、加熱して硬化させることにより人造大理石の成型品を形成することが知られている。
人造大理石を製造するための原料となる熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、熱硬化型アクリル樹脂、エポキシ樹脂等が用いられ、人造大理石の成型品としては、洗面カウンター、キッチンカウンター、浴槽、洗面ボール等、家具や住宅設備の部材、建材として広く利用されている。
【0003】
図5(a)(b)は、上記のような従来の人造大理石の製造方法を示した断面図である。ここでは例として浴槽の成型工程を示しており、浴室に設置する状態とは天地逆の状態で成型される。
上型100aと下型100bとからなる金型100は、所望する浴槽の形に模られており、浴槽の厚みは、上型100aと下型100bとの間に介在させたガスケットGで調整される。
樹脂組成物700を充填すべき一番低い位置には注入口200が設けられ、浴槽の底面の中央部に該当し樹脂組成物700が充填される一番高い位置には、エアー抜き口300が設けられている。樹脂組成物700は、樹脂加圧注入装置600より樹脂注入用配管500を介して注入口200から金型100の注入空間部400内へと充填され、その注入圧力で金型100内のエアーをエアー抜き口300から排気しながら、金型100の下面部から上面部へと除々に充填されていく。
下記特許文献1には、上述と同様の製造方法により人造大理石の成型品を製造する製造方法が開示されている。
【特許文献1】特開2002−001740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の方法によると、樹脂組成物700を注入し、該樹脂組成物700が下面部から上面部(浴槽の底部に該当する)にまで達する最終段階において、いまだエアー抜き口300からエアーが排気しきれない間に、エアー抜き口端部300aに樹脂組成物700が到達してしまう場合がある。このような場合にエアー抜き口端部300a付近に残ったエアーが排気できず、エアー抜き口端部300aが樹脂組成物700で覆われてしまうと、樹脂組成物700の中に気泡Aができ、「エアー溜り」が生じ(図5(b)参照)、そのままの状態で加熱硬化され、成型品(すなわち製品)となってしまうという問題があった。特に、樹脂組成物700を金型100に注入する際の加圧度を上げる等して、注入スピードを上げた場合、注入空間部400のエアーの巻き込みが激しくなり、「エアー溜り」が多く発生し、良い成型品が得られなかった。
【0005】
また従来よりこのような成型品を成型する金型100としては、鋼材を切削加工してクロムメッキやニッケルメッキ処理を施した切削金型と呼ばれるものや、或いは、ニッケルやクロム、ニッケルコバルト等の電解浴槽(メッキ浴槽)の中で製作される電鋳金型と呼ばれるもの等が知られているが、いずれも金型100の内面、即ち樹脂組成物700の注入空間部400は金属面であるため、以下のような問題があった。
該注入空間部400を構成する金属面は、親水性の高い性質をもった面といえる一方、注入空間部400に注入充填される樹脂組成物700は、炭化水素成分で構成されるため、疎水性の高い性質をもったものである。よって、親水性でなる注入空間部400へ疎水性でなる樹脂組成物700を注入していくと、この二つの相反する性質が反発しあって、注入空間部400の濡れ性が極端に悪くなってしまう。このように注入空間部400の濡れ性が悪くなると、注入空間部400と樹脂組成物700との接触界面にエアーが発生しやすくなり、そのエアーを巻き込む形で樹脂組成物700が注入充填され、上述の場合と同様に「エアー溜り」が発生する要因のひとつとして、問題であった。
【0006】
このような「エアー溜り」の発生は、製造段階では、金型100内部で起こる現象なので、その状態を視認やその他の方法で確認することは困難で、加熱硬化工程が終わり、金型100から成型品を取り出す際に初めて判明するものである。また気泡Aが成型品の表面にでない場合には、「エアー溜り」の発生自体を確認する手立てがないというのが実情である。
しかしながら、「エアー溜り」が生じると、気泡Aがある付近は空隙であるから、加熱硬化する際に熱伝導率が低下してしまう。その結果、「エアー溜り」のない部分とある部分の間に硬化履歴の差が生じ、それが影響して、成型品の性能の低下、成型歪の発生による衝撃強度の低下、反りや寸法不良等の発生に繋がり、これがしばしば発生して大きな問題となっている。
以上のように、成型品の特性にも大きな影響を与え、外観的にも不良品となる「エアー溜り」現象の解消が切望されている状況にある。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、注型用金型を用いて樹脂成型品を製造する際において、エアー抜き口付近のエアー溜り現象を解消し、成型品の外観的欠陥や性能低下が少なく、成型歪みや反りが少ない人造大理石の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明に係る人造大理石の製造方法は、熱硬化性樹脂に充填剤、内部離型剤、硬化剤、人造大理石柄を表現する柄材等の添加物を配合した樹脂組成物を準備し、該樹脂組成物を注型用金型の注入口から注入空間部へ注入し、加熱硬化させて製造する人造大理石の製造方法において、上記注型用金型の内面には、予め疎水性処理を施すことを特徴とする。
【0009】
本発明において、請求項2のように、上記疎水性処理は、界面活性剤を塗布してなされる。ここで、疎水性処理は、界面活性剤を刷毛やスプレー、ウエス等で塗布して処理する。また請求項3のように、上記注型用金型への上記樹脂組成物の注入は、樹脂組成物に振動を与えながら行うことができる。更に請求項4のように、上記注型用金型への上記樹脂組成物の注入は、樹脂組成物に振動を与えながら行うと同時に、上記注入空間部に減圧をかけるようにすることができる。そして、請求項5のように、上記樹脂組成物の粘度は、50〜200000mPa・sとすることができる。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の人造大理石の製造方法によれば、注型用金型の内面には、予め疎水性処理を施しているので、樹脂組成物の疎水性の性質と一致させて、注型用金型の内面、すなわち、注入空間部を樹脂組成物で濡れ易くすることにより、接触界面でのエアーの発生や巻き込みを防ぎ、エアー溜りの発生を抑制することができる。よって、成型品の外観的欠陥、強度低下等の性能低下が少なく、成型歪みや反りが少ない成型品を製造することができ、浴槽の他、洗面カウンター、キッチンカウンター、洗面ボール、壁材、床材、家具の表面材等への商品化が容易となる。
【0011】
請求項2に記載の人造大理石の製造方法によれば、疎水性処理は、界面活性剤を塗布することによりなすことができる。界面活性剤は、親水性と疎水性との異なる2つの性質をもっているため、親水性の注型用金型の内面に界面活性剤を塗布すると界面活性剤の親水性部分が金型面側に配向して配列し、塗布した表面は疎水性の部分が配向して配列されるので、注型用金型の内面、すなわち、注入空間部の内面と樹脂組成物とが疎水性の性質で一致し、注入空間部の内面が樹脂組成物で濡れ易くすることにより、エアーの発生や巻き込みを防ぎ、エアー溜りの発生を効果的に抑制することができる。
【0012】
請求項3に記載の人造大理石の製造方法によれば、樹脂組成物に振動を与えながら注入を行うので、樹脂組成物内に包含された気泡や注入空間部へ注入する途中で包含された気泡を樹脂組成物内からぬくことができ、エアー抜き口にエアー残りが生じることがなく、エアー溜りの発生を防ぐことができる。
【0013】
請求項4に記載の人造大理石の製造方法によれば、樹脂組成物に振動を与えながら注入を行うと同時に、注入空間部に減圧をかけるようにしているので、振動によって樹脂組成物から遊離した気泡が減圧作用によって遂次排気され、より一層効果的にエアー溜りの発生を防ぐことができる。
【0014】
請求項5に記載の人造大理石の製造方法によれば、樹脂組成物の粘度は、50〜200000mPa・sとすることができる。
樹脂組成物の粘度を50mPa・sより小さくすると、注型用金型へ樹脂組成物を充填させた後、樹脂組成物の構成成分である樹脂と充填剤が、比重差によって分離してしまう傾向を示し、均一な成型品が得られなくなる。200000mPa・sより大きくすると、注型用金型への樹脂組成物の注入作業が困難となり、また注入空間部へ減圧をかけながら、注入作業を行うことにより、エアー溜りの発生を防ごうとしても、気泡を抜くことも困難な状況となってしまう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明の最良の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図1(a)乃至(c)は本発明の製造方法を示した断面図、図2(a)乃至(c)は本発明の別の実施形態の製造方法を示した断面図、図3(a)乃至(c)は本発明の別の実施形態の製造方法を示した断面図、図4は、本発明の製造方法によって製造される浴槽(成型品)を示す斜視図である。
【0016】
図中、1は上型1a、下型1bを組み合わせて構成される注型用金型、2は樹脂組成物7を注入する注入口、3はエアー抜き口、3aはエアー抜き口端部、4は注入空間部、5は樹脂注入用配管、6は注入される樹脂組成物7へ振動を与える加振装置、7は熱硬化性樹脂に充填剤、内部離型剤、硬化剤、人造大理石柄を表現する柄材等の添加物を配合した樹脂組成物、8は減圧ポンプを含む減圧装置、9は減圧用配管、Sは樹脂加圧注入装置、Gは浴槽Bの厚みを調整し、注入口2から注入された樹脂組成物7の漏れ出しやエアーの流入を防止するガスケット、Xは注型用金型1の内面に予め施された疎水性処理面、Bは成型品として製造される浴槽を一例として示している。
【0017】
本発明は、樹脂組成物7を樹脂加圧注入装置Sにより樹脂注入用配管5を介して、注入口2から注入空間部4内へと注入充填し、加熱硬化させて得られる人造大理石の製造方法において、金型1の内面に予め疎水性処理を施すことを特徴とするものである。
図1(a)に示すように、本発明の金型1の上型1a、下型1bの内面の少なくとも、樹脂組成物7が注入され充填される部分には、疎水性処理が施されている。この疎水性処理は、金型1内面に塗布して疎水性を示すものであれば種類を問わずに用いることができ、刷毛やスプレー、ウエス等により界面活性剤を塗布してなされる。
【0018】
樹脂組成物7を充填すべき一番低い位置には注入口2が設けられ、浴槽Bの底面の中央部に該当し樹脂組成物7が充填される一番高い位置には、エアー抜き口3が設けられている。樹脂組成物7は、樹脂加圧注入装置Sから樹脂注入用配管5を介して注入口2から金型1内へと充填され、その注入圧力で金型1内のエアーをエアー抜き口3から排気しながら、金型1の下面部から上面部へと除々に樹脂組成物7を充填していく。このとき、注入空間部4の内面には予め疎水性処理が施され、樹脂組成物7で濡れ易くなっているので、接触界面のエアーの発生や巻き込みを防ぐことができ、「エアー溜り」の発生を防ぐことができる。
【0019】
疎水性処理に用いられる界面活性剤は、分子構造の機能についてみると、親水基、疎水基といわれる性質の異なる二つの相反する部分を持ち、それらは適当にバランスして界面活性剤の分子を構成している。例えば親水基の親水性が疎水基の疎水性より大きければ界面活性剤は水に溶解し、小さければ水に溶けにくい等の性質を持ち、これは水溶性界面活性剤とよばれている。
この水溶性界面活性剤は、イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、またイオン性界面活性剤は、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤等に分類され、また水を油に置き換えて同様の性質を示す油溶性界面活性剤とよばれるものもある。
【0020】
さらに具体的には、界面活性剤の疎水性は、脂肪族炭化水素基、或いは芳香族炭化水素基、或いは脂肪族炭化水素基を側鎖とする芳香族炭化水素基に、エステル(−COO−)、エーテル(−O−)、アミド(−CONH−)、チオエーテル(−S−)、チオアミド(−SONH−)、スルホアミド(−SO2NH)、尿素結合(−NHCONH−)、ウレタン結合(−OCON=)等の結合基、アシル基(RCO−)、アルコキシル基(RO−)、複素環或いはいろいろな連結基等の1つ以上のものを導入した形のものや、炭化水素の水素を1部或いは全部をフッ素で置換した形のもの等がある。
界面活性剤は、親水性と疎水性との異なる2つの性質をもっているため、親水性の注型用金型1の内面に界面活性剤を塗布し、疎水性処理を予め施すと、界面活性剤の親水性部分が金型1面側に配向して配列し、塗布した表面は疎水性の部分が配向して配列されるので、注型用金型1の内面、すなわち、注入空間部4と樹脂組成物7とが疎水性の性質で一致することになり、注入空間部4を樹脂組成物7で濡れ易くすることにより、接触界面のエアーの発生や巻き込みを防ぎ、エアー溜りの発生を効果的に抑制することができる。
本発明では、上記界面活性剤の分類を特に限定するものではなく、上述の疎水性が付与できるものであれば、種類を問わず用いることができるものである。
【0021】
また本発明の製造方法においては、図2(a)乃至(c)に示すように、金型1の注入空間部4へ注入口2から樹脂組成物7を充填させるため、上述の樹脂加圧注入装置Sと注入口2とをつなぐ樹脂注入用配管5上に、注入空間部4へ注入される樹脂組成物7へ振動を与える加振装置6を備えたものとしてもよい。
樹脂組成物7は、樹脂加圧注入装置Sによる注入圧力と加振装置6による振動を受けながら、樹脂注入用配管5を介して注入口2から金型1の下面部から上面部へと除々に充填されていく。
このように、注入する樹脂組成物7に振動を与えることにより、樹脂組成物7内に包含された気泡或いは注入の途中で包含された気泡が樹脂組成物7内から抜け出、金型1内のエアーとともに、エアー抜き口3から遂次排気されるとともに、注入空間部4の内面は予め疎水性処理が施され、樹脂組成物7で濡れ易くなっているので、接触界面のエアーの発生や巻き込みを防ぐことができ、より一層効果的に「エアー溜り」の発生を防ぐことができる。更に上記疎水性処理及び、樹脂組成物7への加振により、従来と比べかなりの高速注入が可能となる。従来においては、注入速度を上げると(すなわち、注入時の加圧度をあげる)、注入空間部4のエアーの巻き込み現象が激しくなり、エアー溜りが多く発生して良い成型品を得ることが難しかったが、本発明によれば、これを解消することができるからである。
ここで樹脂組成物7に振動を与えるタイミングや加圧等の条件は、樹脂組成物の構成の種類や特性によって、適宜設定されるもので、特に限定するものではない。
【0022】
更に本発明の人造大理石の製造方法においては、図3(a)乃至(c)に示すように、上記実施態様に加えて、注入空間部4に減圧をかける減圧装置8を備えたものとしてもよい。
金型1の内面は、上記実施態様と同様に、予め界面活性剤が塗布された疎水性処理面Xとし、樹脂組成物7を注入する際には、上型1aのエアー抜き口3に減圧ポンプを含む減圧装置8を減圧用配管9を介して接続し、これを駆動させて注入空間部4を減圧状態に導きながら、樹脂組成物7の注入作業を行う。
この製造方法によれば、上述の効果に加えて、注入空間部4に減圧をかけることにより、金型1の下面部から上面部(浴槽の底部に該当する)にまで達する最終段階において、いまだエアー抜き口3からエアーが排気しきれない間に、エアー抜き口端部3aに樹脂組成物7が到達してしまう状況にならないため、エアー抜き口端部3a付近に生じるエアー残りを防ぐことができ、より一層効果的に「エアー溜り」の発生を防ぐことができる。また、金型1内面の疎水性処理及び樹脂組成物7への加圧、加振、減圧の相乗効果で、従来と比べかなりの高速注入が可能となる。従来においては、注入速度を上げると(すなわち、注入時の加圧度をあげる)、注入空間部4のエアーの巻き込み現象が激しくなり、エアー溜りが多く発生して良い成型品を得ることが難しかったが、本発明によれば、これを解消することができる。
【0023】
また注入空間部4に減圧をかけるタイミングは特に限定されるものではないが、金型1への樹脂組成物7の注入作業の途中から行うこととすれば、効果的に「エアー溜り」を防止することができる。すなわち、ガスケットG部分が注入された樹脂組成物7によって液封止された状態(図3(b)の状態)から減圧装置8を駆動させ、注入空間部4を減圧状態にすれば、ガスケットGの隙間からエアーが流入(漏れ)することがない状態となるので(エアーが流入すると減圧度が低下するばかりでなく、逆に注入した樹脂組成物7の中にエアーが混入し包含される結果となる)、エアー抜き口3付近のエアーが残留することなく、エアー抜き口3から難なく抜けやすい状態とできるからである。
図3の例の場合は、図3(b)に示すように、樹脂組成物7が注入空間部4へ充填された液面の高さをa乃至cで表すと、高さaからbまでの間は、ガスケットGの部分が液封止されていないので、減圧状態とはせず、樹脂組成物7を注入していく。そして高さbを超えるとガスケットG部分からエアーの流入がなくなるので、高さbから高さcに達するまでの間に減圧装置8を駆動させ、注入空間部4を減圧状態としてやればよい。
なお、上述の加振、減圧及び加圧の度合い、減圧をかけるタイミング等は、それぞれの金型1やその形状、注入空間部4の大きさや形状、樹脂組成物7の分散性や流動性等によっても変わるので、適宜それぞれの状況によって決定することができるものである。
【0024】
本発明の樹脂組成物7を構成する熱硬化性樹脂は、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、熱硬化型アクリル樹脂、エポキシ樹脂の内の1種類或いは2種類以上の混合物とすることができる。
不飽和ポリエステル樹脂は、無水マレイン酸のような不飽和二塩基酸及び無水フタル酸のような飽和二塩基酸とグリコール類とを縮合反応させて合成され、分子内に不飽和結合とエステル結合を有するものである。
また通常、この樹脂は架橋剤としてスチレンモノマー、アクリルモノマー等が配合されているものを用いることができるが、その形態を特に限定するものではない。
【0025】
ビニルエステル樹脂として、ビスフェノール型ビニルエステル樹脂或いはノボラック型ビニルエステル樹脂、又はその両方を混合して用いることができる。
ここでビスフェノール型ビニルエステル樹脂は、ビスフェノール型エポキシ樹脂と酸との付加反応物であって、いずれも両末端のみに反応性不飽和基を有するものである。
ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型、ビスフェノールAD型、ビスフェノールS型、ビスフェノールF型等の各種のものを用いることができる。また通常、このビニルエステル樹脂には架橋剤としてスチレンモノマー、アクリルモノマー等が配合されているものを用いることができるが、その形態を特に限定するものではない。
【0026】
熱硬化型アクリル樹脂としては、メチルメタアクリレートモノマー或いは、多官能のアクリルモノマー、或いはプレポリマー、或いはポリマーのそれぞれ2種以上の混合物で構成されたアクリルシロップと称されるものを用いることができるが、その形態を特に限定するものではない。
【0027】
また不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、熱硬化型アクリル樹脂の2種類以上の混合系とする場合は、樹脂それぞれの特性及び充填剤との相互作用等により目的とする製品品質に合った最適配合が求められるが、その配合量は特に限定されるものではない。
【0028】
エポキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、環状脂肪族型エポキシ樹脂、長鎖脂肪族型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂等に分類されるが、特に限定するものではなく、いずれも用いることができる。
【0029】
またエポキシ樹脂の硬化剤は、ジエチレントリアミンやトリエチレンテトラミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等のアミノ系、無水フタル酸、テトラ及びヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、無水ピロメリット酸、無水HET酸、ドデセニル無水コハク酸等の酸無水物系、ダイマー酸とポリアミンの縮合体として形成されるポリアミド系等に分類されるがこれらの種類を特に限定するものではない。
しかし、通常、常温〜中温硬化系ではアミノ系硬化剤を、高温系では硬化反応が緩やかで大型の成型品でも硬化歪みの少ない成型品が得られる酸無水物系硬化剤を選定し用いることが好ましい。
【0030】
本発明において、充填剤は、水酸化アルミニウム、シリカ、ガラスパウダー、炭酸カルシウムの内の1種類或いは2種類以上の混合物とし、充填剤の粒径は、1〜100μmとすることができる。
また充填剤の表面にあらかじめシランカップリング処理を施したものを用いると、その充填剤と樹脂組成物との密着性を向上でき、成型品の耐衝撃強度を向上させることができる。
さらに、本発明において充填剤の比率は、樹脂組成物7を構成する熱硬化性樹脂100重量部に対して、0.1〜400重量部とすることができる。
【0031】
樹脂組成物7には硬化剤が配合され、先述のエポキシ樹脂以外の樹脂系については、硬化剤として、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサエートやt−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサエート等を用いることができる。
この硬化剤の配合割合は、例えば、ビニルエステル樹脂の場合は、樹脂100重量部に対して0.5〜5重量部とするのが好ましい。
また樹脂組成物7には、上述の他に柄材、紫外線吸収剤、減粘剤、離型剤、ガラス繊維、着色剤等を配合することもできる。
【0032】
減粘剤としては、例えばBYK社製の「W996」を、離型剤としては、例えば中京油脂社製の商品名「セパール」を、ガラス繊維としては、例えば日本硝子社製の品番「RES03X−BM」を用いることができる。
また紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾエート系、サリレート系、シアノアクリレート系、シュウ酸アニリド系、ベンゾフェノン系等を用いることができる。
【0033】
本発明において樹脂組成物7の粘度は、50〜200000mPa・s以下とすることが望ましい。樹脂組成物7の粘度を50mPa・sより小さくすると、金型1へ樹脂組成物7を充填させた後、樹脂組成物7の構成成分である樹脂と充填剤が、比重差によって分離してしまう傾向を示し、均一な成型品が得られなくなる。200000mPa・sより大きくすると、金型1への樹脂組成物7の注入作業が困難となり、また注入空間部4へ減圧をかけながら、注入作業を行うことにより、エアー溜りの発生を防ごうとしても、気泡を抜くことも困難な状況となってしまう。
樹脂組成物7は、これらの配合物を所定の割合で配合し、攪拌機等により混合攪拌して配合調整し、これを20〜50Torr程度の減圧下で予め真空脱泡処理を行う。このように真空脱泡処理された樹脂組成物7を減圧状態から開放し、所定形状の金型1へ注入して、この金型1を50〜130℃の温度で50〜150分間加熱する。
加熱することにより、樹脂組成物7中の熱硬化性樹脂中の反応性不飽和基と、同じく樹脂組成物7中の重合性モノマーとの共重合反応、或いはエポキシ樹脂の場合は、樹脂組成物7と硬化剤との付加重合反応を進行させて硬化成型を行う。
【0034】
以上より、本発明の製造方法によれば、エアー溜りの発生を防ぐことができるので、浴槽Bの外観的欠陥、強度低下等の性能低下が少なく、成型歪みや反りが少ないものを製造することができ、上述の浴槽Bの他、洗面カウンター、キッチンカウンター、洗面ボール、壁材、床材、家具の表面材等への商品化が容易となる。
[実施例]
【0035】
以下、本発明を実施例によって詳述する。いずれも、図1で示すような注型用金型で浴槽(図4参照)を成型した例である。下記実施例より、熱硬化性樹脂や充填剤等を上記に記載したものとし、本発明の製造方法によれば、エアー溜りの問題が解消された良好な成型品を得ることができることがわかる。
【実施例1】
【0036】
熱硬化性樹脂として、不飽和ポリエステル樹脂(昭和高分子(株)製 リゴラックG−400)を用い、この樹脂100重量部に対し、充填剤として、水酸化アルミニウム(昭和電工(株)製 H−310 平均粒径20μm)と、炭酸カルシウム(ss−♯80 平均粒径2.6μm)を配合比75/25で混合したものを、95重量部配合した。
これに内部離型剤としてステアリン酸0.5重量部、黒色の柄材2.5重量部、茶色の柄材1.0重量部、グリーン色のトナー0.7重量部を添加し、更に硬化剤(日本油脂(株)製 パーキュアHO)を2.5重量部添加して、これを20Torrの減圧下で60分間真空脱泡処理し、人造大理石用樹脂組成物を得た。このときの樹脂組成物の粘度は1350mPa・sであった。
次に注型用金型1の内面に、界面活性剤(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー;商品名 エパン 785 第一工業製薬(株)製の10%イソプロピルアルコール溶液)をスプレーガンで均一に吹き付け、疎水性処理を施した。
そして浴槽金型の成型厚みが11mmになるようにガスケットを調整し、配合調整した樹脂組成物を注入口から注入し、その後、金型温度を除々に上昇させ105℃、100分を保持して、樹脂組成物を加熱硬化させて浴槽の成型品を得た。
【実施例2】
【0037】
熱硬化性樹脂として、ビニルエステル樹脂(武田薬品(株)製 プロミネートP−311)を用い、この樹脂100重量部に対し、充填剤として、水酸化アルミニウム(昭和電工(株)製 H−320 平均粒径10μm)を、150重量部配合した。
これに内部離型剤としてステアリン酸0.5重量部、黒色の柄材1.5重量部、茶色の柄材1.0重量部、ブルー色のトナー0.5重量部を添加し、更に硬化剤(日本油脂(株)製 パーキュアWO)を2.5重量部添加して、これを25Torrの減圧下で60分間真空脱泡処理し、人造大理石用樹脂組成物を得た。このときの樹脂組成物の粘度は3100mPa・sであった。
次に注型用金型1の内面に、界面活性剤(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー;商品名 エパン 680 第一工業製薬(株)製の15%イソプロピルアルコール溶液)をスプレーガンで均一に吹き付け、疎水性処理を施した。
そして浴槽金型の成型厚みが10mmになるようにガスケットを調整し、配合調整した樹脂組成物を注入口から注入し、その後、金型温度を除々に上昇させ105℃、90分を保持して、樹脂組成物を加熱硬化させて浴槽の成型品を得た。
【実施例3】
【0038】
熱硬化性樹脂として、アクリルシロップ樹脂(日本フェロー(株)製 AC−02)を用い、この樹脂100重量部に対し、充填剤として、シリカ(龍森(株)製 CRYSTALITE M−3K 平均粒径20μm)を、120重量部配合した。
これに内部離型剤としてステアリン酸0.6重量部、黒色の柄材2.0重量部、茶色の柄材1.0重量部、ピンク色のトナー1.5重量部を添加し、更に硬化剤(化薬アクゾ(株)製 パーカドックス16)を1.5重量部添加して、これを20Torrの減圧下で60分間真空脱泡処理し、人造大理石用樹脂組成物を得た。このときの樹脂組成物の粘度は2550mPa・sであった。
次に注型用金型1の内面に、界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテル;商品名 DKS NL70 第一工業製薬(株)製の20%イソプロピルアルコール溶液)をスプレーガンで均一に吹き付け、疎水性処理を施した。
加振装置を備えた浴槽金型で成型厚みが11mmになるようにガスケットを調整し、配合調整した樹脂組成物を注入口から注入し、加振装置を作動させながら、充填完了させた。その後、金型温度を除々に上昇させ103℃、100分を保持して、樹脂組成物を加熱硬化させて浴槽の成型品を得た。
【実施例4】
【0039】
熱硬化性樹脂として、ビニルエステル樹脂(昭和高分子(株)製 リポキシR−804)と不飽和ポリエステル樹脂(武田薬品(株)製 ポリマール5250)を80/20の配合比で混合し、この混合樹脂100重量部に対し、充填剤として、水酸化アルミニウム(昭和電工(株)製 H−320 平均粒径10μm)を、105重量部配合した。
これに内部離型剤としてステアリン酸1.0重量部、黒色の柄材2.5重量部、茶色の柄材1.5重量部、白色の柄材1.3重量部、ベージュ色のトナー0.7重量部を添加し、更に硬化剤(日本油脂(株)製 パーキュアWO)を3.0重量部添加して、これを20Torrの減圧下で60分間真空脱泡処理し、人造大理石用樹脂組成物を得た。このときの樹脂組成物の粘度は1720mPa・sであった。
次に注型用金型1の内面に、界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテル;商品名 DKS NL110 第一工業製薬(株)製の15%イソプロピルアルコール溶液)をスプレーガンで均一に吹き付け、疎水性処理を施した。
加振装置及び減圧装置を備えた浴槽金型で成型厚みが12mmになるようにガスケットを調整し、配合調整した樹脂組成物を注入口から加振装置を作動させながら注入する。注入を開始し、その途中(図3(b)の高さbに達した時点)で減圧装置を駆動させ、300Torrの減圧度を保持できるように制御操作して充填を完了させた。その後、金型温度を除々に上昇させ110℃、100分を保持して、樹脂組成物を加熱硬化させて浴槽の成型品を得た。
【実施例5】
【0040】
熱硬化性樹脂として、ビニルエステル樹脂(昭和高分子(株)製 リポキシR−804)とアクリルシロップ樹脂(三井化学(株)製 XE924−1)を85/15の配合比で混合し、この混合樹脂100重量部に対し、充填剤として、水酸化アルミニウム(昭和電工(株)製 H−320 平均粒径10μm)とガラスパウダー(日本フリット(株)製 GF−2−30A 平均粒径30μm)を90/10で混合したものを、85重量部配合した。
これに内部離型剤としてステアリン酸1.0重量部、黒色の柄材2.5重量部、茶色の柄材1.0重量部、白色の柄材1.0重量部、グレー色のトナー0.5重量部を添加し、更に硬化剤(日本油脂(株)製 パーキュアWO)を3.5重量部添加して、これを20Torrの減圧下で60分間真空脱泡処理し、人造大理石用樹脂組成物を得た。このときの樹脂組成物の粘度は1100mPa・sであった。
次に注型用金型1の内面に、界面活性剤(ポリオキシエチレン化フェニルエーテル;商品名 ノイゲン EA−189 第一工業製薬(株)製の15%イソプロピルアルコール溶液)をスプレーガンで均一に吹き付け、疎水性処理を施した。
加振装置及び減圧装置を備えた浴槽金型で成型厚みが11.5mmになるようにガスケットを調整し、配合調整した樹脂組成物を注入口から加振装置を作動させながら注入する。注入を開始し、その途中(図3(b)の高さbに達した時点)で減圧装置を駆動させ、150Torrの減圧度を保持できるように制御操作して充填を完了させた。その後、金型温度を除々に上昇させ110℃、110分を保持して、樹脂組成物を加熱硬化させて浴槽の成型品を得た。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】(a)乃至(c)は、本発明の製造方法を示した断面図である。
【図2】(a)乃至(c)は、本発明の製造方法の別の実施形態を示した図1と同様図である。
【図3】(a)乃至(c)は、本発明の製造方法の別の実施形態を示した図1と同様図である。
【図4】本発明の製造方法によって製造される成型品の一例(浴槽)を示す斜視図である。
【図5】(a)(b)は、従来の人造大理石の製造方法を示した断面図である。
【符号の説明】
【0042】
B 浴槽
X 疎水性処理面
1 (注型用)金型
1a 上型
1b 下型
2 注入口
3 エアー抜き口
4 注入空間部
6 加振装置
7 樹脂組成物
8 減圧装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂に充填剤、内部離型剤、硬化剤、人造大理石柄を表現する柄材等の添加物を配合した樹脂組成物を準備し、該樹脂組成物を注型用金型の注入口から注入空間部へ注入し、加熱硬化させて製造する人造大理石の製造方法において、
上記注型用金型の内面には、予め疎水性処理を施すことを特徴とする人造大理石の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の人造大理石の製造方法において、
上記疎水性処理は、界面活性剤を塗布してなされることを特徴とする人造大理石の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の人造大理石の製造方法において、
上記注型用金型への上記樹脂組成物の注入は、上記樹脂組成物に振動を与えながら行うことを特徴とする人造大理石の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の人造大理石の製造方法において、
上記注型用金型への上記樹脂組成物の注入は、樹脂組成物に振動を与えながら行うと同時に、上記注入空間部に減圧をかけるようにしていることを特徴とする人造大理石の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の人造大理石の製造方法において、
上記樹脂組成物の粘度が、50〜200000mPa・sであることを特徴とする人造大理石の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−83578(P2007−83578A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−275661(P2005−275661)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】